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<図1>
  • 特許-ガラス板用緩衝材料およびガラス積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ガラス板用緩衝材料およびガラス積層体
(51)【国際特許分類】
   B65D 57/00 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
B65D57/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024124943
(22)【出願日】2024-07-31
【審査請求日】2024-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2023150259
(32)【優先日】2023-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391064120
【氏名又は名称】長良製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】小林 英生
(72)【発明者】
【氏名】恩田 紘希
(72)【発明者】
【氏名】松永 薫
(72)【発明者】
【氏名】家田 聖吾
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特公平03-053112(JP,B2)
【文献】国際公開第2022/148947(WO,A1)
【文献】国際公開第99/033757(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/180222(WO,A1)
【文献】特開平05-294664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 57/00
B65D 85/48
B65D 81/09-81/113
C03B 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、
前記緩衝材料はコーティング層が形成された球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、
前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれており、
前記コーティング層は、水溶性セルロースを含むガラス板用緩衝材料。
【請求項2】
ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、
前記緩衝材料は球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、
前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれているガラス板用緩衝材料。
【請求項3】
少なくとも2枚のガラス板がガラス板用緩衝材料を介して積層されたガラス積層体であって、
前記ガラス板用緩衝材料は、球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、
前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれているガラス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ねられたガラス板の間に介在させる緩衝材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板を運搬、保管、荷役する際には、複数枚重ね合わせた各ガラス板の間に緩衝材料を挿入し、ガラス板同士の接触による傷の発生、およびガラス板における青ヤケ・白ヤケと呼ばれるガラス表面の変質を防いでいる。この緩衝材料として粒子径が数十~数百μmの合成樹脂の粒子(ビーズ)からなる粉体(パウダー)を使用する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第10611546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の緩衝材料として利用される粉体が環境に与える影響が懸念される。例えば、当該粉体のガラス板表面への散布時にガラス板表面から当該粉体が落下する。ガラス板から落下した当該粉体は回収されるが、それが完全である保証はなく、環境に放出(例えば、洗浄水に混じり下水に流れる等)される虞がある。また、ガラス板の2次加工(裁断や製品化のための加工)時に当該粉体はガラス板表面から除去されるが、この際にも同様の虞がある。また、微量であるが、当該粉体を介して積層されたガラス板の製造工程における搬送時や輸送時にも当該粉体の飛散が生じる可能性がある。
【0005】
自然環境保護の観点から、合成樹脂の粉体が環境に放出されることは望ましくない。例えば、魚類、貝類、鳥類、動物への合成樹脂の粉体の蓄積による悪影響が懸念されている。
【0006】
他方において、ガラス板は、高度の表面性(平坦性、傷や汚れのなさ)が要求されており、重ねられたガラス板を輸送時に確実に保護するために、上記のガラス板間に保持される粉体にも高い機能性(強度や保持性)が求められている。
【0007】
このような背景において、本発明は、重ねられたガラス板の間に保持される緩衝材料として、自然環境への影響が抑えられ、かつガラス板を重ねて保持するために必要な機能を有するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、前記緩衝材料はコーティング層が形成された球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれており、前記コーティング層は、水溶性セルロースを含むガラス板用緩衝材料である。
【0009】
本発明は、ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、前記緩衝材料は球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれているガラス板用緩衝材料である。
【0010】
本発明は、少なくとも2枚のガラス板がガラス板用緩衝材料を介して積層されたガラス積層体であって、前記ガラス板用緩衝材料は、球状の再生セルロース粒子を含んだ粉体であり、前記粉体には、前記球状の再生セルロース粒子の成分が50重量%以上含まれているガラス積層体である。
【発明の効果】
【0013】
セルロース粒子は、生分解性を有し、自然環境下において分解する。このため、自然環境への影響が抑えられる。また、セルロース粒子は、重ねられたガラス板の間に保持される緩衝材料に要求される特性を有する。このため、重ねられたガラス板の間に保持される緩衝材料として、自然環境への影響が抑えられ、かつガラス板を重ねて保持するために必要な特性を有する技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の概念図である。
図2】粒度分布を示すグラフである。
図3】帯電特性を示すグラフである。
図4】水分吸着性を調べる測定におけるサンプルの重量の変化を示すグラフである。
図5】セルロース粉体にアジピン酸粉体を添加した場合のガラスへの付着の状態を示す図面代用写真(A)、(B)、(C)である。
図6】ガラス瓶へのセルロース粒子の付着状態を示す図面代用写真(A)、(B)、(C)である。
図7】コーティング層で覆われたセルロース粒子の断面構造を示すイメージ図である。
図8】粒子のガラス板への付着性を測定する方法を示すイメージ図である。
図9】セルロース粒子のガラス板への付着性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(概要)
図1には、4枚のガラス板101,102,103,104を重ねた状態が示されている。重ねるガラス板の数は、限定されないが、ここでは一例として4枚の場合が示されている。ガラス板の用途は限定されないが、例えば、建築用、車両用、ディスプレイ用、太陽電池用のものが挙げられる。
【0016】
ガラス板101と102の間には、粉体層111が設けられ、ガラス板102と103の間には、粉体層112が設けられ、ガラス板103と104の間には、粉体層113が設けられている。粉体層111は、ガラス板101とガラス板102が直接接触しないようにする緩衝層として機能する。この機能は、粉体層112~113も同じである。また、粉体層111~113は、上下に隣接するガラス板が振動や衝撃で相対的に動かないように保持する機能、および振動や衝撃を吸収する機能を有する。
【0017】
粉体層111~113は、平均粒子径が10μm~400μm、好ましくは50μm~150μmあるいは100μm~200μmの球状セルロース(セルロース粒子)の粉体および添加物の粉体により構成されている。なお、「粒子」という語句は個々の粒のことを指す。
【0018】
粉体層111~113の厚みは、10μm~400μm、好ましくは50μm~150μmあるいは100μm~200μm程度である。ガラス板に挟まれた状態において、ガラス板の重みにより、セルロース粒子は変形し、セルロース粒子は最小で90%程の外径になる場合がある。このため粉体層111~113の厚みは、セルロース粒子の自由状態における最大の粒子径(外径)よりも小さな値となる場合がある。
【0019】
(粉体について)
図1の粉体層111~113は、球状のセルロース粒子と添加物により構成されている。本実施形態において利用するセルロース粒子は、球状の再生セルロースの粒子である。このセルロース粒子は、パルプを原料として以下の方法により製造される。基本的には、ビスコースを製造し、それを球状化することでセルロース粒子が得られる。
【0020】
以下、セルロース粒子の製造工程を簡単に説明する。まず、パルプをアルカリの液体(水酸化ナトリウム溶液)に漬け、アルカリセルロースを得る。次に、アルカリセルロースを圧搾し、更に細かく粉砕する。その後、この粉砕したものを老成させて重合度を均一化させる。これを二硫化炭素により溶解させ、水に溶かし、溶解液を作る。この溶解液のろ過、熟成、脱泡、更にろ過をしてビスコースを得る。このビスコースを噴霧法により球状化することで、外径が例えば100μm~200μmの球状のセルロース粒子を得る。粒子径の制御は、球状化工程の条件を制御することで行われる。球状化の方法としては、噴霧法以外に滴下法や相分離法がある。
【0021】
添加物は、セルロース粒子のガラス板への付着性を向上させ、またガラス板からのアルカリ成分の溶出時における粉体層のpHを調整するためのもので、例えば、有機酸(アジピン酸、コハク酸、クエン酸など)の粉体である。他の添加物としては、より小径なセルロース粒子(平均粒子径が5μm~50μm程度)、米粉、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)粒子等が挙げられる。有機酸以外の添加物も利用可能である。この点については後述する。
【0022】
粉体層111~113を構成する粉体は、主成分がセルロース粒子である。粉体層111~113を構成する粉体に占めるセルロース成分の割合は、50重量%以上が好ましい。
【0023】
(特徴)
セルロースは、植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分であり、生物分解性がある。また、セルロースは天然の物質であり、自然環境に放出しても自然環境への悪影響はない。更に、セルロース粒子は、重ねられたガラス板の間に保持される緩衝材料(例えば、図1の粉体層111~113)に必要とされる有意な特性を有する。以下、この点について説明する。
【0024】
(測定値)
各種の粉体について、(1)付着力、(2)帯電減衰性、(3)粉体―ガラス板間の摩擦特性、(4)粒子の強度、(5)水分吸着特性の測定を行った。対象は、本実施形態のセルロース粒子の粉体(サンプルA)、比較対象であるポリエチレン粒子の粉体(サンプルB)、同じく比較対象であるアクリル粒子の粉体(サンプルC)である。下記表1に各サンプルの物性を示す。なお、図2に付着力測定に用いた各サンプルの粒度分布を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
(1)付着力
粒子が持つガラス板に付着する力である。付着力が大きい程、ガラスに強く付着する。付着力が小さいと、粒子が振動、衝撃、風等によってガラス板から離れる傾向が大となる。水平なガラス板上に粉体を保持させる場合、大きな付着力は要求されない。しかしながら、ガラス板が水平でない場合、粒子の付着状態を保持するためには、適切な付着力が要求される。特に、ガラス板を立てた状態でその表面(鉛直になった面)に粉体を保持させる場合、粉体が落下しない程度の付着力が必要とされる。
【0027】
付着力は、遠心法付着力測定装置(ナノシーズ社製NS―C100型)を用いて測定した。この測定では、基板(ガラス板)の表面にサンプルを付着させた後、基板を遠心分離機により100G~800Gのうちの6水準で遠心分離し、粒子の分離状態を画像で記録し、遠心分離前の初期粒子付着個数に対して回転後の粒子残留率を測定した。
【0028】
基板に対する粒子の付着力は、粒子に作用する遠心方向の分離力と同等で、F=(π/6)ρdrωにより算出した。ここで、ρは粒子の真密度、dは粒子径、rは遠心分離機の回転半径、ωは遠心分離機の回転角速度である。回転後の粒子残留率を横軸に、各回転部における粒子の分離力を縦軸にプロットし、指数近似曲線から平均付着力(50%の粒子が分離する分離力)を算出した。
【0029】
測定された付着力は、サンプルA:52.4nN、サンプルB:3656.4nN、サンプルC:10670.5nNである。セルロース粒子の粉体(サンプルA)は、合成樹脂粒子のサンプルに比較して付着力は小さい。
【0030】
(2)帯電減衰性
粒子が帯電する能力を示す。帯電減衰性が大きい場合、帯電した電荷が消滅し易く、帯電性が低いことを意味する。帯電減衰性が小さい場合、帯電した電荷が消滅し難く、帯電性が高いことを意味する。
【0031】
帯電減衰性は、静電気拡散率測定装置(ナノシーズ社製NS―D100型)を用いて測定した。測定条件は、チャージ時間は1秒、サンプリング周波数は1Hz、収録時間は600秒にて行った。センサーから粉体表面までの距離は1mmとし、サンプルをコロナ放電により帯電させ、+に帯電させた場合と-に帯電させた場合における表面電位の減衰を測定した。
【0032】
図3に粒子の表面電位の減衰特性を実測したグラフを示す。図3によれば、サンプルAは、サンプルBおよびサンプルCに比較して、帯電しても短時間で電荷が失われる。これは、セルロース粒子の粉体(サンプルA)は、合成樹脂粒子のサンプルおよびサンプルの粉体に比較して、帯電性が低いことを示している。
【0033】
(3)粉体-ガラス板間の摩擦特性
粉体層せん断試験を行い、各サンプルの粉体の粉体動摩擦角と圧縮率を測定した。これら物性データは、粉体の摩擦特性を示すパラメータである。これらの物性データの実測は、粉体層せん断力測定装置を用い、JIS規格(JIS-Z8835)に制定されている手法により行った。粉体層せん断力測定装置は、株式会社ナノシーズ社製の「粉体層せん断力測定装置NS-S500」を用いた。
【0034】
(3-1)粉体動摩擦角
粉体動摩擦角は、JIS-Z8835で定義され、粒子同士のせん断力に対する抵抗の程度を示す。
【0035】
図1の粉体層111~113には、隣接するガラス板同士をしっかりと保持する機能が求められる。積層されたガラス板を平行にずらそうとする力が働く場合、2枚のガラス板に接触した粉体層を平行にずらそうとする力が働く。粉体層摩擦角が大きい粉体は流動性が低く、上記の粉体層として用いた場合、上記の粉体層を平行にずらそうとする力に対する抗力が大きい。表2に粉体動摩擦角に関する測定結果を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2には、セルロース粒子の粉体(サンプルA)が、合成樹脂粒子のサンプルおよびサンプルの粉体に比較して、粉体動摩擦角が大きく、隣接するガラス板同士をしっかりと保持する機能が高いことが示されている。
【0038】
(3-2)圧縮率
圧縮率は、粉体の充填性を示す指標となる。表3に各サンプルの圧縮率を示す。粉体の初期充填が高いと、試験時の圧縮率が低くなり、粒子のガラス表面への接触率が高くなる。これは、粒子がガラス表面において均一にそして密に接触していることを示している。
【0039】
表3には、セルロース粒子の粉体(サンプルA)の初期充填が高い(より密に充填される)データが示されている。これは、セルロース粒子の粉体(サンプルA)が、合成樹脂粒子のサンプルBおよびサンプルCの粉体に比較して、ガラス表面において均一にそして密に接触している(言い換えると、粒子がガラス板の表面により隙間なく分布している)ことを示している。これは、本発明のガラス板用緩衝材として有意な特性である。また、この特性は、ガラス板表面における粒子間の隙間が少なく、散布時にガラス板の表面に接触できずに脱落する粒子(この粒子は無駄になる)が少ないことも示している。
【0040】
【表3】
【0041】
(4)粒子の強度
粒子の強度として変形強度を測定した。弾塑性または展延性材料では、破壊に至らず連続的に変形することが多い。そこで、変形の程度に着目し、粒子径の50%の圧縮変位をした際における加えた力を変形強度として測定した。
【0042】
測定は、10サンプルに対して微小粒子圧壊力測定装置(ナノシーズ社製 NS―A300型)を用いて行った。測定では、粒子を圧壊針で押し込み、この際の押し込み力の波形チャートを記録した。また、圧壊針の変位から圧縮量を測定した。
【0043】
変形強度は、σ10%=F10%/Aで定義される(JIS Z 8844)。ここで、σ10%は、粒子径の10%の圧縮変位に対する変形強度(Pa)である。F10%は、粒子径の10%の圧縮変位に対する試験力(N)である。Aは、圧縮前に計測した粒子の粒子径によって求めた相当円の面積(m)である。なお、粒子径は画像解析により計測した。ここでは、JIS基準よりもさらに強い変形強度σ50%を測定した。表4に粒子の強度に係る測定データを示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示されるように、サンプルA(セルロース粒子)は、高い粒子強度を示す。本発明のガラス板用緩衝材には、ガラス板間に挟まれた状態で圧力が加わるが、この圧力により粒子が割れないことが重要である。粒子の割れは、ガラス表面にダメージ(傷)を与える要因となる。この点において、高い粒子強度を有するサンプルA(セルロース粒子)は、本発明のガラス板用緩衝材料に適している。
【0046】
(5)水分吸着性
水分を吸着する能力を示す。水分吸着性の値が大きい程、水分を吸着する能力が大きい。水分吸着性は、サンプルを恒温恒湿槽において、40℃・75%RHの条件で12時間保持し、更に25℃・40%RHの条件で12時間保持し、その間のサンプル重量の変化を計測することで行った。
【0047】
図4は、サンプルの重量の変化を示すグラフである。図4に示すように、サンプルAは他のサンプルに比較して大きな重量変化を示す。これは、含まれる水分量の変化を示している。サンプルAの重量変化は、最初の高温高湿の環境でより多くの水分を含み、次の低温低湿の環境でその水分を放出していることを示している。この変化の程度は、サンプルBおよびサンプルCに比較して、サンプルAの方が極めて大きい。これは、サンプルBおよびサンプルCに比較して、サンプルAは、水分をより吸着し易いことを示している。この特性は、雰囲気の水分を吸収することにより、ガラス表面において、水分が関係する化学反応を低減させる効果が得られる点で好ましい。
【0048】
(総合評価)
積層したガラス板間に介在させる粉体層に要求される主要な特性は、(3)粉体-ガラス板間の摩擦特性(表2参照)、および(4)粒子の強度(表4参照)である。上述したように、セルロース粒子は、(3)と(4)の特性について、合成樹脂の粒子を上回る特性を有している。
【0049】
また、セルロース粒子は、合成樹脂の粒子に比較して、初期充填が高く、ガラス表面において均一にそして密に接触する。このため、均一性の高い緩衝層をガラス板の表面に形成することができ、また無駄になる粒子の発生を抑えることができる。
【0050】
(付着力の改善について)
ところで、ガラス板の梱包や取扱時に、ガラス板を立てた状態において、粉体を散布し、ガラス板を積層していく作業が行われる場合がある。この場合、使用される粉体に付着力が要求される。
【0051】
表1~表4のデータが得られたセルロース粒子は 摩擦性と強度の点でガラス板用緩衝材料して有望であるが、測定結果に示されるように、ガラス板に対する付着力が弱い。そこで添加物を加えることでセルロース粒子のガラス板に対する付着力を改善する。ここでは、平均粒子径が100μm~200μmのセルロース粒子の粉体に対して、有機酸(アジピン酸、コハク酸、クエン酸など)の粉体を混ぜることで粉体全体としてのガラス板への付着性を高める例を説明する。
【0052】
有機酸の粉体は、セルロース粒子よりも粒子径が小さい粒子を用いる。セルロース粒子に付着している状態の有機酸の粒子の好ましい粒子径は、0.1μm~50μm程度、さらに好ましくは5μm~15μm程度である。
【0053】
有機酸の添加量は、粉体層111~113を構成する粉体全体に対して0.1重量%~50重量%程度である。有機酸の粒子の粉体の配合量が適切な量を下回ると、付着力の改善効果が低下する。有機酸の粒子の粉体の配合量が過多になると、pHのバランスが崩れるという不都合が発生する場合がある。
【0054】
アジピン酸は、帯電性が高く、セルロース粒子のガラス板への付着力を高める効果が期待できる。図5は、表1のサンプルAのセルロース粒子と平均粒子径が10μm~30μmのアジピン酸粒子を混合した粉体のガラス瓶内側への付着の状態を示す図面代用写真である。図5(A)は、重量割合で(セルロース粒子:アジピン酸粒子=99:1)の場合であり、図5(B)は、重量割合で(セルロース粒子:アジピン酸粒子=95:5)の場合であり、図5(C)は、重量割合で(セルロース粒子:アジピン酸粒子=90:10)の場合である。図5(B)および(C)から明らかなように、セルロース粒子の粉体にアジピン酸粒子の粉体を添加することで、ガラス表面への付着性が向上することが判る。
【0055】
上記の結果から、セルロース粒子を主成分とする粉体に、アジピン酸粒子の粉体を5重量%以上、好ましくは10重量%以上(上限は50重量%)添加することで、セルロース粒子を主成分とする粉体のガラス表面への付着性が改善できることが結論される。
【0056】
有機酸は、ガラスヤケの抑制にも効果がある。ガラスヤケは、ガラスの表面に干渉縞が生じたり、白濁したりする現象である。前者を青ヤケ、後者を白ヤケという。青ヤケは、ガラス表面に接した水分にガラス中からアルカリ分(Na+やCa+)が溶出し、それによりガラス表面の表層でアルカリイオンが欠乏した不均一な層が形成され、この不均一な層に起因する光の干渉により、干渉縞が発生する現象である。白ヤケは、ガラス表面から微量に溶出するアルカリ分(Na+やCa+)が水分に溶け、その水分が蒸発していく過程で濃縮されたアルカリ溶液がガラス表面を侵食し、更にそれが空気中の酸性ガスと反応することで、炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムがガラス表面で析出することで生じる。
【0057】
有機酸は、酸性であるので、上記ガラスヤケが発生する過程におけるアルカリ化が抑制され、白ヤケの発生が抑制される。異なる種類の有機酸を混ぜて利用することもできる。
【0058】
ガラス板間の粉体層に含ませる添加物として、有機酸以外の添加物も利用可能である。有機酸以外の添加物としては、水溶性無機塩類が挙げられる。水溶性無機塩類は、セルロース粒子のガラス板に対する付着力を改善すると共に、ガラスヤケの発生を抑える作用効果がある。
【0059】
水溶性無機塩類は、ナトリウムやカリウムを含んだ水溶性の化合物である。水溶性無機塩類としては、Sodium sulfate(NaSO)、Sodium nitrate(NaNO)、Sodium carbonate(NaCO)、Sodium chloride(NaCl)、Potassium chloride(KCl)、Sodium hydroxide(NaOH)、Sodium tetraborate(Na10HO)、Sodium tripolyphosphate(Na10)等が挙げられる。これら水溶性無機塩類は、単独で用いてもよいし、複数を混ぜて用いてもよい。
【0060】
水溶性無機塩類の導入方法としては、(1)水溶性無機塩類の粒子を用いる方法、(2)水溶性無機塩類を水に溶かし、それをセルロース粒子の表面にコーティングする方法、(3)両者を併用する方法が挙げられる。水溶性無機塩類をセルロース粒子の表面にコーティングする方法として、後述するスプレーコート法を用いることができる。この場合、セルロース粒子は、水溶性無機塩類を含んだコーティング層により覆われる。水溶性無機塩類の添加量は、粉体層111~113を構成する粉体全体に対して0.1重量%~50重量%程度である。
【0061】
ガラス板間の粉体層に水溶性無機塩類を含ませた場合、ガラス板間の水分やセルロール粒子から放出される水分に水溶性無機塩類からアルカリイオン(Na+等)が溶出し、それがガラス板表面を覆う。ガラス板内部からのガラス表面へのアルカリイオン(Na+等)の溶出は、ガラス板内部と外部のアルカリイオンの濃度差によって生じる。ガラス板間の粉体層に水溶性無機塩類を含ませた場合、上記の濃度差が是正されるので、ガラス板内部からガラス板表面へのアルカリイオンの溶出が抑えられる。更に、ガラス板表面付近のアルカリ欠乏部へ水溶性無機塩から溶出したアルカリ分が移動する為、ガラス板中のアルカリイオンの量が安定化され、空気中やセルロース粉体中の水素イオンとアルカリイオンの交換が抑制される。その結果、青ヤケの発生が抑えられる。
【0062】
また、アルカリイオンのガラス板表面への溶出が抑えられるので、当該溶出したアルカリイオンに起因するガラス表面における炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムの生成、つまり白ヤケも抑えられる。なお、粉体層に混ぜた水溶性無機塩類から溶出したアルカリイオンに起因する炭酸ナトリウム等の生成はあるが、これはガラス板表面において析出したアルカリイオンに起因するものでなく、水溶性無機塩類がガラス表面に残存しても、ガラス表面と水素結合し難い性質を持っている為、後の洗浄により除去し易い。
【0063】
複数の水溶性無機塩類を用いることも可能である。有機酸と水溶性無機塩類を併用する形態も可能である。この場合、水溶性無機塩類により、ガラス板内部から表面へのアルカリ成分の溶出が抑えられ、有機酸により、アルカリ成分に起因する炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムの生成が抑制される。ガラスヤケの発生を抑制するための添加物として、酢酸ナトリウムなどの水溶性有機塩の粒子を用いることもできる。これら水溶性有機塩類を存在させることで、ガラスヤケの発生が抑制される。これら添加物の添加量は、他の添加物と同じである。
【0064】
(実施形態1)
積層されたガラス板間に介在させる粉体層として、平均粒子径100μmのセルロース粒子が90重量%、平均粒子径10μm~30μmのアジピン酸粒子の粉体が10重量%のものを用いる。アジピン酸粒子は、配合に最適な外径が0.1~20μm程度であり、好ましい粒度分布は、4μm(x10)~80μm(x90)程度である。
【0065】
(実施形態2)
積層されたガラス板間に介在させる粉体層として、平均粒子径100μmのセルロース粒子が90重量%、平均粒子径10μm~30μmのコハク酸粒子が10重量%のものを用いる。
【0066】
(実施形態3)
積層されたガラス板間に介在させる粉体層として、平均粒子径100μmのセルロース粒子が90重量%、平均粒子径μm~50μmのクエン酸粒子が10重量%のものを用いる。
【0067】
(実施形態4)
セルロース粒子として、多孔質や繊維質なものを採用することもできる。また、セルロース粒子として、表面が平滑なもの、多孔質なもの、繊維質なものから選ばれた2種以上を混合して利用することも可能である。
【0068】
(実施形態5)
付着力を上げる添加物としては、セルロース粒子よりも帯電列が低電位側の材料の粒子が挙げられる。セルロース粒子は摩擦帯電において+に帯電し、ガラスも摩擦帯電において+に帯電する。これがガラスに対するセルロース粒子の付着力の低さの一因であると考えられる。
【0069】
セルロース粒子よりも帯電列が低電位側の材料の粒子としては、紙、木材の粒子が挙げられる。特に、帯電列が負の領域(摩擦帯電で負に帯電)のものが好ましい。帯電列が負の領域の粒子を採用することで、摩擦帯電においてセルロース粒子を主成分とする粉体がマイナスに帯電し、+帯電であるガラスに対するセルロース粒子の付着性が高まる。何らかの処理を行う、あるいは電荷制御材を用いることで、帯電特性を制御した粒子を添加物として用いる形態も可能である。
【0070】
(実施形態6)
本実施形態では、ガラス板に散布されたセルロース粒子の粉体をガラス板に付着させる工程において、セルロース粒子の粉体を第1の極性(正または負)に帯電させる。他方において、ガラス板の表面を、第2の極性(負または正)に帯電させる。そして、第2の極性に帯電したガラス板に第1の極性に帯電したセルロース粒子を散布し、付着させる。この際、正負の電荷の間でクーロン力の引力が作用し、ガラス板へのセルロース粒子が高い付着力で付着する。帯電は、正負のイオンを放電により発生させるイオン発生装置を用いて行う。
【0071】
図3に示すように、セルロース粒子の帯電時間は、40秒~60秒程持続するので、その間にガラス板の積層(第1のガラス板に第2のガラス板を重ねる作業)を行う。なお、ガラスの帯電特性は、セルロース粒子に比較して十分高いので、問題は生じない。本実施形態を他の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0072】
セルロース粒子のガラス板への付着力の発揮は、ガラス板を重ねる段階まででよい。ガラス板を重ねてしまえば、セルロース粒子が示す高い摩擦特性(表2参照)により、ガラス板間にセルロース粒子の層はしっかりと保持される。
【0073】
本実施形態において、後述する乾燥させたセルロース粒子を用いることもできる。乾燥させることで、セルロース粒子の帯電性が更に高くなり、ガラス板への静電気による付着性を更に高めることができる。なお、添加物については、他の実施形態と同じである。
【0074】
(実施形態7)
セルロース粒子にプラズマ処理を加えてもよい。プラズマ処理を加えることで、セルロース粒子表面を改質し、ガラス板への付着性を改善させる。
【0075】
(実施形態8)
粉体層111~113を構成するセルロース粒子として乾燥させたものを利用する。ここでは、水分の含有率を1重量%以下にしたセルロース粒子を採用する。水分の含有率の下限は特に限定されないが、乾燥工程のコストや使用時の吸湿を考えると、0.01重量%程度が水分含有量の下限となる。セルロース粒子の水分含有量を下げることで、ガラス面への付着力が高くなる。
【0076】
この場合、乾燥させ、水分の含有率を1重量%以下としたセルロース粒子の粉体を利用する。乾燥させる方法は特に限定されないが、例えばセルロース粒子の粉体を加熱することで行われる。また、乾燥後のセルロース粒子は、乾燥状態が維持されるように密閉した状態で保管する。なお、添加物については、他の実施形態と同じである。
【0077】
乾燥させたセルロース粒子は、帯電性が高くなるので、乾燥させない場合に比較して、ガラス板への付着力が大きくなる。また、乾燥させたセルロース粒子は、水分の吸収能力が高いので、ガラスヤケを抑制する効果も得られる。前述したようにガラスヤケ(青ヤケおよび白ヤケ)は、ガラス表面に接触した水分にガラス中からアルカリ成分が溶出することで生じる。
【0078】
セルロース粒子は、図4およびそれに関連する説明において述べたように、高い吸湿性を有する。図4のデータは、事前に乾燥させたサンプルではなく、意図的に乾燥させた場合、更に高い吸湿性が得られる。このため、乾燥させたセルロース粒子は、その水分吸着性の高さから、ガラス板間において、水分吸着材(吸湿材)として機能する。
【0079】
よって、乾燥させたセルロース粒子をガラス板の間に介在させることで、対向するガラス板表面に接触する水分の存在が抑制され、ガラスヤケの発生が抑えられる。つまり、乾燥させたセルロース粒子は、(1)乾燥状態において帯電性が高くなるのでガラス面への付着力が高い、(2)水分の吸着作用に起因するガラスヤケ発生の抑制効果がある、という2重の優位性がある。
【0080】
以下、乾燥させることで得られる効果について説明する。表5は、表1のサンプルAのセルロース粒子の乾燥状態の違いよる帯電性を調べた結果である。この実験では、セルロース粒子は+極性に帯電させ、ガラス(ガラス瓶)を-極性に帯電させた。表1には、セルロース粒子の帯電量(nC)、重量(g)、比帯電量(nC/g)、水分含有量(重量%)の値が示されている。
【0081】
【表5】
【0082】
図6は、表5の(A:通常状態)におけるガラス瓶への付着状態を示す図面代用写真(A)、(B:乾燥状態)におけるガラス瓶への付着状態を示す図面代用写真(B)、(C:過湿状態)におけるガラス瓶への付着状態を示す図面代用写真(C)である。A:通常状態は、23℃、湿度50%の雰囲気に5.5時間放置したセルロース粒子の粉体である。B:乾燥状態は、105℃の雰囲気に5.5時間放置したセルロース粒子の粉体である。C:過湿状態は、23℃、湿度90%の雰囲気に5.5時間放置したセルロース粒子の粉体である。なお、一般的な環境では、セルロース粒子の水分含有量は、5重量%~15重量%程度となる(環境の温度と湿度に左右される)。
【0083】
表5および図6から、セルロース粒子を乾燥させることで、帯電性が上がり、ガラス表面への付着性が向上することが判る。特に、図6(B)からは、セルロース粒子を乾燥させることで、セルロース粒子のガラス表面への付着性が向上することが判る。
【0084】
(実施形態9)
添加物として、水溶性無機塩類の一つであるトリポリリン酸ナトリウム(Na10)を用いる。この場合、トリポリリン酸ナトリウムの結晶を粉砕し、粒子化した粉体(トリポリリン酸ナトリウムの粉体)を用いる。使用するトリポリリン酸ナトリウムの粉体の平均粒子径は10μm~30μmであり、その添加量は、粉体層全体に対して10重量%とする。
【0085】
(実施形態10)
(概要)
以下、セルロース粒子にコーティング層を設けることで、セルロース粒子のガラス板への付着性を改善した例を示す。図7は、コーティング層を設けたセルロース粒子の断面構造を示すイメージ図である。図7には、セルロース粒子201の表面がコーティング層202により覆われた状態が示されている。
【0086】
コーティング層202は、生分解性を有する材料により構成されている。生分解性を有する材料としては、水溶性高分子有機ポリマーが挙げられる。水溶性高分子有機ポリマーとしては、水溶性セルロースであるセルロースエーテル、非イオン性セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0087】
この例において、コーティング層202は、水溶性セルロールの水溶液をセルロース粒子201にコーティングすることで形成される。乾燥後におけるコーティング層202の厚みは、1μm~20μm、好ましくは2μm~10μm程度の範囲とする。
【0088】
コーティングの方法としては、(1)コーティング材料を含む水溶液にセルロース粒子の粉体を浸漬させ、その後に乾燥させることでコーティング層を形成する方法、(2)空気流にセルロース粒子を浮遊させて流動層を形成し、そこにコーティング材料を含む水溶液を噴霧することでセルロース粒子表面にコーティング材料を付着させると共に乾燥を行い、コーティング層を形成する方法(スプレーコート法)が挙げられる。
【0089】
スプレーコート法では、流動層を形成するための空気流の温度や風量、およびコーティング材料を含む水溶液の濃度や噴霧の条件を調整することで、コーティング層の厚みを制御できる。
【0090】
(実例)
図2に示すサンプルAのセルロース粒子を基材とし、コーティング層なしのセルロース粒子とコーティング層ありのセルロース粒子を用意した。コーティング層は、乾燥時の厚さが約4μmとなるように、水溶性セルロース(信越化学製「メトローズ」(登録商標))の水溶液をパウレック社製の流動層装置MP01を用いて上述したスプレーコート法により形成した。
【0091】
この場合、セルロース成分100%の粉体で構成されるガラス板用緩衝材料となる。実際には、不可避的に混入する水分等の不純物があるので、セルロース成分が90重量%以上で残部が不可避的不純物の成分の粉体で構成されるガラス板用緩衝材料となる。
【0092】
(ガラス板への付着性の評価)
上記のコーティング層ありのセルロース粒子、コーティング層なしのセルロース粒子、図1のサンプルCの粒子(アクリル粒子)に関して、図8に示す試験方法を用いて、ガラス板への付着性の評価を行った。
【0093】
図8は、ガラス板への付着性を測定する方法を示すイメージ図である。図8に示す方法では、まず、水平にしたガラス板に粉体を散布し、このガラス板を垂直に立てた状態でハンマーにより衝撃を与える。この衝撃の前後におけるガラス板表面に付着した粉体の個数を画像解析により求め、(衝撃付与後の付着粒子の総面積)/(衝撃付与前の付着粒子の総面積)×100により、粉体残留率を算出する。粉体残留率は、衝撃によりガラス板表面から脱落しなかった粉体の割合となる。
【0094】
図9は、各粉体のガラス板に対する粉体残留率の測定結果である。横軸は、図8のハンマー角度である。ハンマー角度は、ガラス板に加わる衝撃加速度に対応する。ハンマー角度が大きくなる程、ガラス板に加わる衝撃加速度は大きくなる。本発明者らの知見によれば、目安であるが、ハンマー角度30°でガラス板に加わる衝撃加速度が100G、ハンマー角度45°でガラス板に加わる衝撃加速度が390G、ハンマー角度60°でガラス板に加わる衝撃加速度が680Gであった。図9から明らかなように、セルロース粒子を水溶性セルロースのコーティング層で覆うことで、ガラス板への付着性が大きく改善される。
【0095】
(コーティング層の他の例)
コーティング層を構成する材料としては、セルロースに加えて、有機酸(アジピン酸、コハク酸、クエン酸)、水溶性無機塩類(芒硝他)、酢酸ナトリウム(有機酸ナトリウム塩)、PLA(生分解性樹脂)等やこれら材料の複数を組み合わせたものが利用可能である。これらの材料のコーティング層を形成する方法としては、スプレーコート法が挙げられる。
【0096】
スプレーコート法は、コートする材料が水溶性であるか否かに関係なく利用できる。水溶性の材料であれば、当該材料の水溶液をスプレー溶液として用いる。非水溶性や難水溶性の材料の場合、当該材料の微粉末を分散させた液をスプレー液として用いる。この場合、微粉末粒子の粒径は、基材粒子の粒径の10%以下、好ましくは5%以下とする。この場合、基材粒子の表面に当該微粉末の粒子が多数まとわりついた状態のコーティング層が形成される。
【0097】
例えば、平均粒径150μmのセルロース粒子にアジピン酸のコーティング層を形成するとする。この場合、例えば平均粒径が1μmのアジピン酸の粒子を含んだ液をスプレー液としたスプレーコート法により所望の厚さのコーティング層を形成する。この場合、セルロース粒子の表面が層状に分布した多数のアジピン酸の微粒子によって覆われた状態となる。この層状分布した多数のアジピン酸の微粒子によりコーティング層が形成される。
【0098】
コーティング層として生分解性の材質を主成分として、添加物を加えても良い。添加物としては、水溶性無機塩類および/または有機酸が挙げられる。例えば、水溶性セルロースと水溶性無機塩類を含んだ水溶液をスプレー液としたスプレーコート法を用いてコーティング層を形成することが可能である、また、水溶性セルロースと有機酸の粒子を含んだ水溶液をスプレー液としたスプレーコート法を用いてコーティング層を形成することが可能である。コーティング層における生分解性の材質の割合は、50重量%以上とする。
【0099】
(実施形態11)
ガラス板用緩衝材料として、コーティング層を形成したセルロース粒子95重量%とアジピン酸粒子5重量%を混合した粉体を用いる。セルロース粒子は、図2に示すサンプルAのセルロース粒子を用いる。コーティング層は、乾燥時の厚さが約5μmとなるように、水溶性セルロース(信越化学製「メトローズ」(登録商標))の水溶液を用いて上述したスプレーコート法により形成する。アジピン酸の粒子は、平均粒径が10μm~30μmのものを用いる。また、上記粉体を105℃の雰囲気中で5時間乾燥させ、水分含有率を1重量%以下とする。
【0100】
(実施形態12)
コーティング層を水溶性セルロースとアジピン酸の微粉末により構成する。基材粒子は平均粒径が150μmのセルロース粒子を用いる。コーティング層は、スプレー液として水溶性セルロースの水溶液に平均粒径が1μmのアジピン酸を混合したものを用いたスプレーコート法により形成する。コーティング層の厚さは、約5μmとする。水溶性セルロースとアジピン酸の混合比は、乾燥時の重量割合で5:1とする。この例の場合、水溶性セルロースのコーティング層の中にアジピン酸の粒子が含まれた状態となる。
【0101】
(実施形態12)
コーティング層を有機酸の微粉末により構成する。この例では、コーティング層をアジピン酸の微粉末により構成する。基材粒子は平均粒径が150μmのセルロース粒子を用いる。コーティング層は、スプレーコート法を用い、スプレー液として平均粒径が1μmのアジピン酸を含んだものを用いる。コーティング層の厚さは、約5μmとする。この例の場合、球殻状に分布した多数のアジピン酸粒子によりコーティング層が形成される。
【0102】
(実施形態14)
セルロース粒子の表面を疎水化し、ガラス板への付着性を改善する。疎水化により、水分が吸着し難くなり帯電性が高くなる。これにより、ガラス板への付着性が向上する。ここでは、疎水化の方法として、セルロース粒子の表面をアルカリ処理し、その後に塩化シアヌルおよびステアリルアミンの含・洗浄処理を行う。
【0103】
以下、アルカリ処理の具体例を説明する。まず、セルロース粒子の表面活性化処理を行う。この処理では、セルロース粒子を酢酸ナトリウム水溶(0.5%、20℃)に浸漬し、その後余分なアルカリ溶液を除去する。次に、疎水化処理(表面固定化)を行う。この処理では、上記表面活性化処理を行ったセルロース粒子を塩化シアヌルベンゼン溶液(濃度5%、20℃)に浸漬し、その後流水とイオン洗浄水で洗浄し、乾燥させる。
【0104】
次に、ステアリルアミンをベンゼンに溶解し、濃度0.05mol/Lの溶液を調製し、30℃に調温し、そこに上記乾燥させたセルロース粒子を浸漬させる。その後乾燥させることで、アルカリ処理が施されたセルロース粒子を得る。
【0105】
疎水化を行う他の方法としては、フッ素プラズマ処理や炭化水素(例えばメタノール)の還元雰囲気中でのプラズマ処理が挙げられる。
【0106】
(その他)
例示した添加物は、複数を同時に利用することも可能である。添加物として、例示した以外の粉体を加えることも可能である。また、使用する粉体に各種の処理を行う形態も可能である。添加物を溶液としてセルロース粒子の表面をコーティングする形態も可能である。コーティングの方法としては、上述したスプレーコート法が挙げられる。粉体層111~113をセルロース成分100%の粉体で構成することも可能である。
【0107】
例示した添加物の一または複数の利用と、セルロース粒子に対する各種の処理(帯電、プラズマ処理、乾燥処理)やコーティング層の形成とを組み合わせることも可能である。異なる平均粒子径のセルロース粒子を混合して利用することもできる。例えば、平均粒径が100μmのセルロール粒子の粉体と、平均粒径が5μm~50μm(例えば10μm)のセルロール粒子の粉体とを混合したものをセルロース粒子の粉体として採用する。
【0108】
一つのコーティング層中に複数の材料を含有させる形態も可能である。コーティング層に含有させる材料の組み合わせは、本明細書中で開示した複数の材料の中から選ぶことができる。コーティング層を2層以上の多層に形成することも可能である。例えば、セルロース粒子を2層のコーティング層で覆うとする。この場合、1層目のコーティング層を水溶性セルロースの層とし、2層目のコーティング層を有機酸の層とする。
【0109】
本明細書で開示する技術によれば、自然環境への影響が抑えられ、かつガラス板を重ねて保持する状態に必要な要求を満たしたガラス積層体が得られる。
以下、本明細書中に開示される発明を記載する。本明細書中に開示される発明は、ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、前記緩衝材料はコーティング層が形成されたセルロース粒子を含んだ粉体であり、前記粉体にはセルロース成分が50重量%以上含まれているガラス板用緩衝材料である。また本明細書中に開示される発明は、ガラス板の間に介在させる緩衝材料であって、前記緩衝材料はセルロース粒子を含んだ粉体であり、前記粉体はセルロース成分が50重量%以上含まれている緩衝材料である。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は、ビスコースを粒状にしたものである態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記粉体には、前記セルロース粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径の有機酸の粒子が含まれている態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記有機酸は、アジピン酸、コハク酸、クエン酸から選ばれた1または複数である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は平均粒子径が10μm~200μmであり、前記有機酸の粒子は平均粒子径が5μm~50μmである態様が挙げられる。有機酸を水溶液に溶かし、当該水溶液をセルロース粒子にコーティングすることで、有機酸を前記粉体に含有させる形態も可能である。本明細書中に開示される発明において、前記粉体には、前記セルロース粒子の平均粒子径よりも平均粒子径が小さく、且つ、前記セルロース粒子よりも帯電列における位置が低電位の側にある材料の粒子が添加物として含まれている態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記添加物は、帯電列における位置がマイナスの領域にある材料の粒子である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は、水分含有量が1重量%以下である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記粉体には、水溶性無機塩類が含まれている態様が挙げられる。ここで、水溶性無機塩類は、Sodium sulfate(Na SO )、Sodium nitrate(NaNO )、Sodium carbonate(Na CO )、Sodium chloride(NaCl)、Potassium chloride(KCl)、Sodium hydroxide(NaOH)、Sodium tetraborate(Na 10H O)、Sodium tripolyphosphate(Na 10 )から選ばれた一または複数である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記粉体には、酢酸ナトリウムが含まれている態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は、生分解性を有するコーティング層により覆われている態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記コーティング層は、水溶性高分子有機ポリマーの層である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記コーティング層は、水溶性セルロースの層である態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は、水溶性無機塩類を含むコーティング層により覆われている態様が挙げられる。本明細書中に開示される発明において、前記セルロース粒子は、有機酸を含むコーティング層により覆われている態様が挙げられる。
【符号の説明】
【0110】
101…ガラス板、102…ガラス板、103…ガラス板、104…ガラス板、111…粉体層、112…粉体層、113…粉体層、201…セルロース粒子、202…コーティング層。

【要約】
【課題】重ねられたガラス板の間に保持される緩衝材料として、自然環境への影響が抑えられ、かつガラス板を重ねて保持するために必要な特性を有するものを得る。
【解決手段】ガラス板101と102の間に介在させる緩衝材料であって、前記緩衝材料は粉体層111であり、粉体層111はセルロース粒子を主成分とする。セルロース粒子は、ビスコースを粒状にしたものである。粉体には、前記セルロース粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径の有機酸の粒子が添加されている。有機酸は、アジピン酸、コハク酸、クエン酸から選ばれた1または複数である。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9