(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】水素供給システム、制御装置、及び水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/26 20060101AFI20250304BHJP
C01B 3/50 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C01B3/26
C01B3/50
(21)【出願番号】P 2020060427
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】清家 匡
(72)【発明者】
【氏名】壱岐 英
(72)【発明者】
【氏名】前田 征児
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227255(JP,A)
【文献】特開2017-100903(JP,A)
【文献】特開2016-040218(JP,A)
【文献】特開2017-081790(JP,A)
【文献】特開2018-052768(JP,A)
【文献】特開2006-257906(JP,A)
【文献】特開2004-307300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の供給を行う水素供給システムであって、
水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る脱水素反応部と、
前記脱水素反応部に対して反応不活性な流体を循環させる循環系と、
前記水素供給システムを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記脱水素反応部での前記水素含有ガスの生成を停止する場合、前記循環系にて前記反応不活性な流体を循環させ、
前記循環系は、前記脱水素反応により生成された脱水素生成物を循環させる、水素供給システム。
【請求項2】
水素の供給を行う水素供給システムであって、
水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る脱水素反応部と、
前記脱水素反応部に対して反応不活性な流体を循環させる循環系と、
前記水素供給システムを制御する制御部と、
前記原料を前記脱水素反応部へ供給するポンプと、前記水素含有ガスから前記脱水素反応により生成された脱水素生成物を分離する気液分離部と、前記脱水素生成物の排出と排出停止を切り替えるバルブ、を備え、
前記制御部は、前記脱水素反応部での前記水素含有ガスの生成を停止する場合、前記循環系にて前記反応不活性な流体を循環させ、
前記循環系は、前記気液分離部と前記バルブの間から、前記ポンプの上流側へ接続されるラインを含む、水素供給システム。
【請求項3】
水素の供給を行う水素供給システムを制御する制御装置であって、
水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る脱水素反応部での前記水素含有ガスの生成を停止する場合、前記脱水素反応部に対して反応不活性な流体を循環させるよう制御する制御部を備え、
前記反応不活性な流体は、前記脱水素反応により生成された脱水素生成物を含む、制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記水素含有ガスから前記脱水素反応により生成された脱水素生成物を分離する気液分離部の下流側への前記水素含有ガスの供給と供給停止を切り替える第1のバルブを制御する、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記脱水素生成物の排出と排出停止を切り替える第2のバルブを制御する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記原料の前記脱水素反応部への供給と供給停止を切り替える第3のバルブを制御する、請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記脱水素生成物の前記第3のバルブの下流側への供給と供給停止を切り替える第4のバルブを制御する、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、外部から供給される流体の前記脱水素反応部への供給と供給停止を切り替える第5のバルブを制御する、請求項3~7の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
水素の製造を行う水素製造方法であって、
水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る脱水素反応工程と、
前記脱水素反応部に対して反応不活性な流体を循環させる循環工程と、を備え、
前記脱水素反応工程での前記水素含有ガスの生成を停止する場合、前記循環工程において前記反応不活性な流体を循環させ、
前記循環工程において、前記脱水素反応により生成された脱水素生成物を循環させる、水素製造方法。
【請求項10】
前記水素含有ガスから前記脱水素反応により生成された前記脱水素生成物と気体の水素とを分離する気液分離部をさらに有し、
前記循環系は、
前記気液分離部によって水素含有ガスから分離された前記脱水素生成物を循環させる、
請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項11】
前記気液分離部は、前記水素含有ガスから前記脱水素生成物と気体の水素とを分離し、
前記反応不活性な流体は、
前記気液分離部によって前記水素含有ガスから分離された前記脱水素生成物である、
請求項2に記載の水素供給システム。
【請求項12】
前記反応不活性な流体は、
前記水素含有ガスを気体の水素と気液分離することにより生成された前記脱水素生成物である、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項13】
前記水素含有ガスから前記脱水素反応により生成された前記脱水素生成物と気体の水素とを分離する気液分離工程をさらに有し、
前記循環工程は、
前記気液分離工程によって水素含有ガスから分離された前記脱水素生成物を循環させる、
請求項9に記載の水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の供給を行う水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水素供給システムとして、例えば特許文献1に挙げるものが知られている。特許文献1の水素供給システムは、原料の芳香族炭化水素の水素化物を貯蔵するタンクと、当該タンクから供給された原料を脱水素反応させることによって水素を得る脱水素反応部と、脱水素反応部で得られた水素を気液分離する気液分離部と、気液分離された水素を精製する水素精製部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような水素供給システムでは、脱水素反応部での水素含有ガスの生成を停止した場合、次に水素含有ガスの生成を再開するときには、システムを起動させるための起動時間が必要となる。このような起動時間は短縮することが求められる。ここで、例えば水蒸気改質法などでは、システムを早期に起動させるために、改質器を燃料で加熱しながら(原料は投入しない)、不活性な窒素ガス又は製品水素ガスを改質器に投入して循環させて、スタンバイする場合がある。起動して水素製造を開始した時に、系内熱バランスが取れる最小の負荷で運転を行う場合は、原料を改質器に投入するスタンバイの方法が採用される。しかしながら、このような方法では、改質部での反応が進行してしまうことにより、原料や生成された水素のロスが生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、原料や生成した水素のロスを抑制しつつ、効率良くシステムを起動させることができる水素供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る水素供給システムは、水素の供給を行う水素供給システムであって、水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る脱水素反応部と、脱水素反応部に対して反応不活性な流体を循環させる循環系と、水素供給システムを制御する制御部と、を備え、制御部は、脱水素反応部での水素含有ガスの生成を停止する場合、循環系にて反応不活性な流体を循環させる。
【0007】
水素供給システムでは、脱水素反応部は、水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る。脱水素反応部は、触媒が加熱された状態で脱水素反応を行う。ここで、制御部は、脱水素反応部での水素含有ガスの生成を停止する場合、循環系にて反応不活性な流体を循環させる。この場合、脱水素反応部は、原料に代えて反応不活性な流体を通過させることで、脱水素反応を行うことなく、温度を維持しながら待機することができる。脱水素反応部が脱水素反応を行わないため、原料や水素のロスを抑制できる。また、脱水素反応の温度を維持しながら待機運転させておくことで、水素供給システムは、速やかに起動することができる。以上より、原料や生成した水素のロスを抑制しつつ、効率良くシステムを起動させることができる。
【0008】
循環系は、脱水素反応により生成された脱水素生成物を循環させてよい。この場合、脱水素反応部で生成した流体をそのまま待機時の循環用の流体として用いることができる。
【0009】
循環系は、外部からの流体を循環させてよい。この場合、適切な量の流体を循環系で循環させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料や生成した水素のロスを抑制しつつ、効率良くシステムを起動させることができる水素供給システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る水素供給システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】通常運転状態における水素供給システムの動作の内容を示すブロック図である。
【
図3】待機状態における水素供給システムの動作の内容を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る水素供給システムの好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る水素供給システムの構成を示すブロック図である。水素供給システム100は、有機化合物(常温で液体)を原料とするものである。なお、水素精製の過程では、原料である有機化合物(常温で液体)を脱水素した、脱水素生成物(有機化合物(常温で液体))が除去される。原料の有機化合物として、例えば、有機ハイドライドが挙げられる。有機ハイドライドは、製油所で大量に生産されている水素を芳香族炭化水素と反応させた水素化物が好適な例である。また、有機ハイドライドは、芳香族の水素化化合物に限らず、2-プロパノール(水素とアセトンが生成される)の系もある。有機ハイドライドは、ガソリンなどと同様に液体燃料としてタンクローリーなどによって水素供給システム100へ輸送することができる。本実施形態では有機ハイドライドとして、メチルシクロヘキサン(以下、MCHと称する)を用いる。その他、有機ハイドライドとしてシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリンなど芳香物炭化水素の水素化物を適用することができる(なお、芳香族化合物は特に水素含有量の多い好適な例である)。水素供給システム100は、燃料電池自動車(FCV)や水素エンジン車に水素を供給することができる。なお、メタンを主成分とした天然ガスやプロパンを主成分としたLPG、あるいはガソリン、ナフサ、灯油、軽油といった液体炭化水素原料から水素を製造する場合にも適用可能である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る水素供給システム100は、液体移送ポンプ1、熱交換部2、脱水素反応部3、加熱部4、気液分離部6、圧縮部7、及び水素精製部8を備えている。このうち、液体移送ポンプ1、熱交換部2、及び脱水素反応部3は、水素含有ガスを製造する水素製造部10に属する。また、気液分離部6、圧縮部7、及び水素精製部8は、水素の純度を高める水素純度調整部11に属する。また、水素供給システム100は、ラインL1~L12を備えている。なお、本実施形態では、原料としてMCHを採用し、水素精製の過程で除去される脱水素生成物がトルエンである場合を例として説明する。なお、実際には、トルエンのみならず、未反応のMCHと少量の副生成物及び不純物も存在するが、本実施形態中では、トルエンに混じって当該トルエンと同じ挙動を示す。従って、以下の説明において、「トルエン」と称して説明するものには、未反応のMCHや副生成物も含むものとする。
【0015】
ラインL1~L12は、MCH、トルエン、水素含有ガス、オフガス、高純度水素、または加熱媒体が通過する流路である。ラインL1は、液体移送ポンプ1が図示されないMCHタンクからMCHをくみ上げるためのラインであり、液体移送ポンプ1とMCHタンクを接続する。ラインL2は、液体移送ポンプ1と脱水素反応部3とを接続する。ラインL3は、脱水素反応部3と気液分離部6とを接続する。ラインL4は、気液分離部6と図示されないトルエンタンクとを接続する。ラインL5は、気液分離部6と圧縮部7とを接続する。ラインL6は、圧縮部7と水素精製部8とを接続する。ラインL7は、水素精製部8とオフガスの供給先とを接続する。ラインL8は、水素精製部8と図示されない精製ガスの供給装置とを接続する。ラインL11,L12は、加熱部4と脱水素反応部3とを接続する。ラインL11,L12は、熱媒体を流通させる。
【0016】
液体移送ポンプ1は、原料となるMCHを脱水素反応部3へ供給する。なお、外部からタンクローリーなどで輸送されたMCHは、MCHタンクにて貯留される。MCHタンクに貯留されているMCHは、液体移送ポンプ1によってラインL1,L2を介して脱水素反応部3へ供給される。
【0017】
熱交換部2は、ラインL2を流通するMCHとラインL3を流通する水素含有ガスとの間で熱交換を行う。脱水素反応部3から出てきた水素含有ガスの方がMCHよりも高温である。従って、熱交換部2では、水素含有ガスの熱によってMCHが加熱される。これにより、MCHは、温度が上昇した状態で脱水素反応部3へ供給される。なお、MCHは、ラインL7を介して水素精製部8から供給されたオフガスと合わせて、脱水素反応部3へ供給される。
【0018】
脱水素反応部3は、MCHを脱水素反応させることによって水素を得る機器である。すなわち、脱水素反応部3は、脱水素触媒を用いた脱水素反応によってMCHから水素を取り出す機器である。脱水素触媒は、特に制限されないが、例えば、白金触媒、パラジウム触媒及びニッケル触媒から選ばれる。これら触媒は、アルミナ、シリカ及びチタニア等の担体上に担持されていてもよい。有機ハイドライドの反応は可逆反応であり、反応条件(温度、圧力)によって反応の方向が変わる(化学平衡の制約を受ける)。一方、脱水素反応は、常に吸熱反応で分子数が増える反応である。従って、高温、低圧の条件が有利である。脱水素反応は吸熱反応であるため、脱水素反応部3は加熱部4からラインL11,L12を循環する熱媒体を介して熱を供給される。脱水素反応部3は、脱水素触媒中を流れるMCHと加熱部4からの熱媒体との間で熱交換可能な機構を有している。脱水素反応部3で取り出された水素含有ガスは、ラインL3を介して気液分離部6へ供給される。ラインL3の水素含有ガスは、液体であるトルエンを混合物として含んだ状態で、気液分離部6へ供給される。
【0019】
加熱部4は、熱媒体を加熱すると共に、当該熱媒体をラインL11を介して脱水素反応部3へ供給する。加熱後の熱媒体は、ラインL12を介して加熱部4に戻される。熱媒体は特に限定されないが、オイルなどが採用されてよい。なお、加熱部4は、脱水素反応部3を加熱することができるものであればどのようなものを採用してもよい。例えば、加熱部4は、脱水素反応部3を直接加熱するものであってもよく、例えばラインL2を加熱することによって脱水素反応部3に供給されるMCHを加熱してもよい。また、加熱部4は、脱水素反応部3と、脱水素反応部3へ供給されるMCHの両方を加熱してもよい。例えば、加熱部4としてバーナーやエンジンを採用することができる。
【0020】
気液分離部6は、水素含有ガスからトルエンを分離するタンクである。気液分離部6は、混合物としてトルエンを含む水素含有ガスを貯留することによって、気体である水素と液体であるトルエンとを気液分離する。また、気液分離部6に供給される水素含有ガスは、熱交換部2で冷却される。なお、気液分離部6は、冷熱源からの冷却媒体によって冷却されてよい。この場合、気液分離部6は、気液分離部6中の水素含有ガスと冷熱源からの冷却媒体との間で熱交換可能な機構を有している。気液分離部6で分離されたトルエンは、ラインL4を介して図示されないトルエンタンクへ供給される。気液分離部6で分離された水素含有ガスは、圧縮部7の圧力によりラインL5,L6を介して水素精製部8へ供給される。なお、水素含有ガスを冷やすと当該ガスの一部(トルエン)は液化し、気液分離部6によって、液化しないガス(水素)と分離することができる。ガスを低温とした方が、分離の効率は良くなり、圧力を上げると更に、トルエンの液化が進む。
【0021】
水素精製部8は、脱水素反応部3で得られると共に気液分離部6で気液分離された水素含有ガスから、脱水素生成物(本実施形態ではトルエン)を除去する。これによって、水素精製部8は、当該水素含有ガスを精製して高純度水素(精製ガス)を得る。得られた精製ガスは、ラインL8へ供給される。なお、水素精製部8で生じたオフガスは、ラインL7を介して脱水素反応部3へ供給される。
【0022】
水素精製部8は、採用する水素精製方法によって異なるが、具体的には、水素精製方法として膜分離を用いる場合には、水素分離膜を備える水素分離装置であり、PSA(Pressure swing adsorption)法又はTSA(Temperature swing adsorption)法を用いる場合には、不純物を吸着する吸着材を格納する吸着塔を複数備えた吸着除去装置である。
【0023】
水素精製部8が膜分離を用いる場合について説明する。この方法では、所定温度に加熱された膜に、圧縮部(不図示)によって所定圧力に加圧された水素含有ガスを透過させることによって、脱水素生成物を除去し、高純度の水素ガス(精製ガス)を得ることができる。膜を透過した透過ガスの圧力は、膜を透過する前の圧力と比べて低下する。一方、膜を透過しなかった非透過ガスの圧力は、膜を透過する前の所定圧力と略同一である。このとき、膜を透過しなかった非透過ガスが、水素精製部8のオフガスに該当する。
【0024】
水素精製部8に適用される膜の種類は特に限定されず、多孔質膜(分子流によって分離するもの、表面拡散流によって分離するもの、毛管凝縮作用によって分離するもの、分子ふるい作用によって分離するものなど)や、非多孔質膜を適用することができる。水素精製部8に適用される膜として、例えば、金属膜(PbAg系、PdCu系、Nb系など)、ゼオライト膜、無機膜(シリカ膜、カーボン膜など)、高分子膜(ポリイミド膜など)を採用することができる。
【0025】
水素精製部8の除去方法として、PSA法を採用する場合について説明する。PSA法で用いられる吸着材は、高圧下では水素含有ガスに含まれるトルエンを吸着し、低圧下では吸着したトルエンを脱着する性質を持つ。PSA法は、吸着材のこのような性質を利用するものである。すなわち、吸着塔内を高圧にすることにより、水素含有ガスに含まれるトルエンを吸着材に吸着させて除去し、高純度の水素ガス(精製ガス)を得る。吸着により吸着塔内の吸着材の吸着機能が低下した場合には、吸着塔内を低圧にすることにより、吸着材に吸着したトルエンを脱着し、併せて除去した精製ガスの一部を逆流させることにより当該脱着されたトルエンを吸着塔内から除去することで、吸着材の吸着機能を再生する(このとき、トルエンを吸着塔内から除去することで排出される少なくとも水素とトルエンを含む水素含有ガスが、水素精製部8からのオフガスに該当する)。
【0026】
水素精製部8の除去方法として、TSA法を採用する場合について説明する。TSA法で用いられる吸着材は、常温下では水素含有ガスに含まれるトルエンを吸着し、高温下では吸着したトルエンを脱着する性質を持つ。TSA法は、吸着材のこのような性質を利用するものである。すなわち、吸着塔内を常温にすることにより、水素含有ガスに含まれるトルエンを吸着材に吸着させて除去し、高純度の水素ガス(高純度水素)を得る。吸着により吸着塔内の吸着材の吸着機能が低下した場合には、吸着塔内を高温にすることにより、吸着材に吸着したトルエンを脱着し、併せて除去した高純度水素の一部を逆流させることにより当該脱着されたトルエンを吸着塔内から除去することで、吸着材の吸着機能を再生する(このとき、トルエンを吸着塔内から除去することで排出される少なくとも水素とトルエンを含む水素含有ガスが、水素精製部8からのオフガスに該当する)。
【0027】
続いて、上述した水素供給システム100の特徴的な部分について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、通常運転状態における水素供給システム100の動作の内容を示すブロック図である。
図3は、待機状態における水素供給システム100の動作の内容を示すブロック図である。
図2及び
図3に示すように、水素供給システム100は、循環系40と、制御部50と、を備える。
【0028】
循環系40は、脱水素反応部3に対して反応不活性な流体を循環させる系統である。反応不活性な流体とは、脱水素反応部3に供給しても、当該脱水素反応部3にて脱水素触媒との間でほぼ反応を起こさない流体である。循環系40は、ラインL4の中途位置からラインL1の中途位置まで延びるラインL20を備える。なお、ラインL4のうち、ラインL20との接続点よりも上流側を第1の部分L4aと称し、接続点よりも下流側を第2の部分L4bと称する。また、ラインL1のうち、ラインL20との接続点よりも上流側を第1の部分L1aと称し、接続点よりも下流側を第2の部分L1bと称する。このとき、循環系40は、ラインL20と、ラインL1の第2の部分L1bと、ラインL2と、ラインL3と、ラインL4の第1の部分L4aと、によって構成される。
【0029】
なお、ラインL2の第1の部分L1aにはバルブ21が設けられる。当該バルブ21は、開閉を切り替えることによって、原料の脱水素反応部3への供給と供給停止を切り替える。ラインL4の第2の部分L4bにはバルブ22が設けられる。当該バルブ22は、開閉を切り替えることによって、気液分離部6からのトルエンの排出と排出停止とを切り替える。また、ラインL5には、バルブ23が設けられる。当該バルブ23は、気液分離部6から下流側への水素含有ガスの供給と供給停止とを切り替える。ラインL20には、バルブ24が設けられる。当該バルブ24は、開閉を切り替えることによって、反応不活性な流体の脱水素反応部3への供給と供給停止を切り替える。
【0030】
循環系40は、脱水素反応により生成されたトルエン(脱水素生成物)を循環させる。すなわち、循環系40は、脱水素反応部3による脱水素反応が完了して、気液分離部6にて分離されたトルエンを循環させる。当該トルエンは、原料から脱水素反応で生成されたものであるため、再び脱水素反応部3に供給されても、脱水素反応部3では脱水素反応は起きない。なお、トルエンにわずかな原料が残存している場合は、当該原料が脱水素反応を起こすが、本明細書ではわずかな原料が残存しているトルエンも、反応不活性な流体として扱う。
【0031】
制御部50は、脱水素反応部3での水素含有ガスの生成を停止する場合、循環系40にて反応不活性な流体を循環させるように制御を行う。制御部50は、バルブ21,22,23,24と電気的に接続されている。制御部50は、バルブ21,22,23,24に対して開閉を切り替える信号を送信することで、水素供給システム100の流体の流れを制御する。
【0032】
具体的に、
図2に示すように、通常運転状態においては、制御部50は、ラインL1のバルブ21を開とし、ラインL4のバルブ22を開とし、ラインL5のバルブ23を開とし、ラインL20のバルブ24を閉とする。これにより、原料は、ラインL1の第1の部分L1aを流通し、ラインL1の第2の部分L1bを流通し、液体移送ポンプ1及びラインL2を介して、脱水素反応部3へ供給される(F1参照)。また、脱水素反応部3で生成された水素含有ガスは、ラインL3を流通し、気液分離部6へ供給される。気液分離部6で分離されたトルエンは、ラインL4を流通して排出される(F2参照)。気液分離部6でトルエンが分離された水素含有ガスは、ラインL5を介して下流側へ供給される(F3参照)。このとき、ラインL20のバルブ24が閉とされているため、トルエンは、ラインL20を流れず、脱水素反応部3へも供給されない。以上のように、脱水素反応部3で生成されたトルエンは、循環系40で循環することなく、気液分離部6から排出される。
【0033】
水素の供給を停止する場合は、脱水素反応部3での脱水素反応も停止する。この場合、再び水素の供給を開始するときに、速やかに脱水素反応部3での脱水素反応を再開できるように待機状態となる。当該待機状態においては、
図3に示すように、制御部50は、ラインL1のバルブ21を閉とし、ラインL4のバルブ22を閉とし、ラインL5のバルブ23を閉とし、ラインL20のバルブ24を開とする。これにより、ラインL1の第1の部分L1aからの原料は、バルブ21にて通過を規制される。また、気液分離部6で分離されたトルエンは、ラインL4の第2の部分L4bにおいてバルブ22にて通過を規制され、ラインL4の第1の部分L4aからラインL20を通過する(F5参照)。そして、トルエンは、ラインL20からラインL1の第2の部分L1bを通過して液体移送ポンプ1及びラインL2を介して脱水素反応部3へ供給される(F6参照)。トルエンは、加熱部4(
図1参照)からの熱媒体の影響により、加熱される。加熱された状態のトルエンは、脱水素反応部3では反応しないが、当該脱水素反応部3の脱水素触媒の温度低下は抑制した状態で通過する。脱水素反応部3を出たトルエンは、ラインL3、気液分離部6、及びラインL4の第1の部分L4aを流れ、循環系40を繰り返し循環する。
【0034】
そして、水素の供給が再開され、脱水素反応部3での脱水素反応を再開するときは、制御部50は、
図2に示す状態となるように、バルブ21,22,23,24の開閉を切り替える。このとき、脱水素反応部3の脱水素反応触媒の温度低下が待機時に抑制されていたため、速やかに脱水素反応を再開することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る水素供給システム100の作用・効果について説明する。
【0036】
まず、比較例に係る水素供給システムについて説明する。比較例に係る水素供給システムでは、待機状態においても、原料を脱水素反応部3へ供給して、脱水素触媒の温度低下を抑制する。しかしながら、比較例に係る水素供給システムでは、脱水素反応部3での反応が進行してしまうことにより、原料や生成された水素のロスが生じるという問題がある。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る水素供給システム100では、脱水素反応部3は、水素化物を含む原料を脱水素反応させることによって水素含有ガスを得る。脱水素反応部3は、触媒が加熱された状態で脱水素反応を行う。ここで、制御部50は、脱水素反応部3での水素含有ガスの生成を停止する場合、循環系40にて反応不活性な流体を循環させる。この場合、脱水素反応部3は、原料に代えて反応不活性な流体を通過させることで、脱水素反応を行うことなく、温度を維持しながら待機することができる。脱水素反応部3が脱水素反応を行わないため、原料や水素のロスを抑制できる。また、脱水素反応の温度を維持しながら待機運転させておくことで、水素供給システム100は、速やかに起動することができる。以上より、原料や生成した水素のロスを抑制しつつ、効率良くシステムを起動させることができる。
【0038】
循環系40は、脱水素反応により生成された脱水素生成物を循環させてよい。この場合、脱水素反応部3で生成した流体をそのまま待機時の循環用の流体として用いることができる。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。
【0040】
例えば、循環系40は、外部からの流体を循環させてよい。具体的には、
図1に示すように、ラインL1に接続されたラインL30から、外部からの反応不活性な流体を供給し、当該流体を循環系40で循環させてよい。この場合、適切な量の流体を循環系で循環させることができる。すなわち、上述の実施形態のように、脱水素生成物を循環させる場合、脱水素反応の停止時にライン中に存在している分の脱水素生成物を循環させるため、どの程度の量の流体を循環させることができるかを制御することが難しい。一方、外部から流体を供給する場合、循環量を容易に制御できる。
例えば上記実施形態では、水素供給システムとしてFVCのための水素ステーションを例示したが、例えば家庭用電源や非常用電源などの分散電源のための水素供給システムであってもよい。
【符号の説明】
【0041】
3…脱水素反応部、40…循環系、50…制御部、100…水素供給システム。