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特許7643890防曇性積層体の製造方法、防曇性積層体、及び液体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】防曇性積層体の製造方法、防曇性積層体、及び液体組成物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20250304BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20250304BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
B32B27/18 C
B05D5/00 G
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021032004
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022133116
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 誠
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002865(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217969(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217474(WO,A1)
【文献】特開平06-306324(JP,A)
【文献】特開2019-006891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、前記貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体を準備する準備工程と、
前記積層体の前記貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布する塗布工程と、
を含む、防曇性積層体の製造方法。
【請求項2】
前記積層体が、前記基材と、前記貯蔵層(A)と、前記貯蔵層(A)に接する緩衝層(B)と、をこの順の配置で含み、
前記緩衝層(B)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(b1)と、無機粒子(b2)と、を含有する、
請求項1に記載の防曇性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホメチルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、及びアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は請求項2に記載の防曇性積層体の製造方法。
【請求項4】
前記液体組成物が、研磨剤を含有しないか、又は、含有する場合には研磨剤の含有量が前記液体組成物の全量に対して10質量ppm以下である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の防曇性積層体の製造方法。
【請求項5】
前記ノニオン性界面活性剤(a3)が、ポリオキシアルキレン構造を含む化合物である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の防曇性積層体の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程が、前記積層体を準備することと、準備した前記積層体における前記貯蔵層(A)から前記ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部を放出させることと、を含み、
前記塗布工程は、前記ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部が放出された前記積層体の前記貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、前記液体組成物を塗布する工程である、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の防曇性積層体の製造方法。
【請求項7】
基材及び貯蔵層(AX)を含み、
前記貯蔵層(AX)が、エポキシ樹脂及び2つ以上の(メタ)アクリロイル基を含むモノマーを用いて形成されるアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、イオン性界面活性剤と、を含有する、
防曇性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防曇性積層体の製造方法、防曇性積層体、及び液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックなどの有機材料、及びガラスなどの無機材料から形成される基材の曇りに対する改善要求が高まってきている。
曇りの問題を解決する方法として、例えば特許文献1には、基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に防曇膜とを有する防曇性物品であって、前記防曇膜は、前記基体表面に順次積層された下地樹脂層と吸水性樹脂層とを有しており、前記吸水性樹脂層は、特定のポリエポキシド成分と、第1の硬化剤とを含む吸水性樹脂層形成用組成物を反応させて得られる第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水性樹脂層であり、前記下地樹脂層は、前記吸水性樹脂層より低い吸水性を有する下地樹脂層である防曇性物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/077686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、より簡便な方法で防曇性積層体を製造できる、防曇性積層体の製造方法が望まれている。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、簡便な方法で防曇性積層体を製造できる防曇性積層体の製造方法、簡便な方法で製造できる防曇性積層体、及び、簡便な方法で防曇性積層体を製造できる液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> 基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、前記貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体を準備する準備工程と、
前記積層体の前記貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布する塗布工程と、
を含む、防曇性積層体の製造方法。
<2> 前記積層体が、前記基材と、前記貯蔵層(A)と、前記貯蔵層(A)に接する緩衝層(B)と、をこの順の配置で含み、
前記緩衝層(B)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(b1)と、無機粒子(b2)と、を含有する、
<1>に記載の防曇性積層体の製造方法。
<3> 前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホメチルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、及びアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、
<1>又は<2>に記載の防曇性積層体の製造方法。
<4> 前記液体組成物が、研磨剤を含有しないか、又は、含有する場合には研磨剤の含有量が前記液体組成物の全量に対して10質量ppm以下である、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の防曇性積層体の製造方法。
<5> 前記ノニオン性界面活性剤(a3)が、ポリオキシアルキレン構造を含む化合物である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の防曇性積層体の製造方法。
<6> 前記準備工程が、前記積層体を準備することと、準備した前記積層体における前記貯蔵層(A)から前記ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部を放出させることと、を含み、
前記塗布工程は、前記ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部が放出された前記積層体の前記貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、前記液体組成物を塗布する工程である、
<1>~<5>のいずれか1つに記載の防曇性積層体の製造方法。
<7> 基材及び貯蔵層(AX)を含み、
前記貯蔵層(AX)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、イオン性界面活性剤と、を含有する、
防曇性積層体。
<8> 基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、前記貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体の前記貯蔵層(A)が配置されている側の表面に塗布される液体組成物であって、
イオン性界面活性剤を含有する液体組成物。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、簡便な方法で防曇性積層体を製造できる防曇性積層体の製造方法、簡便な方法で製造できる防曇性積層体、及び、簡便な方法で防曇性積層体を製造できる液体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0008】
〔防曇性積層体の製造方法〕
本開示の防曇性積層体の製造方法は、
基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体を準備する準備工程と、
積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布する塗布工程と、
を含む。
本開示の防曇性積層体の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0009】
本開示の防曇性積層体の製造方法によれば、簡便な方法により、防曇性積層体を製造できる。
かかる効果が奏される理由は、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布することにより、一旦、イオン性界面活性剤が貯蔵層(A)の内部に浸透し、浸透したイオン性界面活性剤が、徐々に表面に移動することにより、表面の防曇性(即ち、曇りを抑制する性能)が向上するためと考えられる。
ここで、イオン性界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤と比較して、貯蔵層(A)に付与された場合に、貯蔵層(A)の内部により浸透しやすいため、上記塗布工程で塗布する液体組成物中の界面活性剤として好適であると考えられる。
【0010】
ここで、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面とは、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の最表面層の表面を意味する。
例えば、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面とは、
貯蔵層(A)が積層体における最表面層である場合には貯蔵層(A)の表面を意味し、
貯蔵層(A)上に、積層体における最表面層としてその他の層(例えば後述の緩衝層(B))が存在する場合には、その他の層(例えば後述の緩衝層(B))の表面を意味する。
【0011】
本開示の防曇性積層体の製造方法は、準備工程及び塗布工程を含む限り特に限定はない。
例えば、本開示の防曇性積層体の製造方法は、
防曇性を有しない積層体に対し、塗布工程によって防曇性を付与する方法であってもよいし、
もともと防曇性を有する積層体の防曇性を、塗布工程によって更に向上させる方法であってもよいし、
防曇性が低下した積層体の防曇性を、塗布工程によって回復させる方法であってもよい。
【0012】
以下、本開示の防曇性積層体の製造方法の各工程について説明する。
【0013】
<準備工程>
準備工程は、基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体を準備する工程である。
【0014】
準備工程は、予め製造された上記積層体を単に準備するだけの工程であってもよいし、上記積層体を製造する工程であってもよい。
【0015】
また、準備工程は、
上記積層体を準備することと、
準備した上記積層体における貯蔵層(A)からノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部を放出させることと、
を含んでもよい。
この場合、ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部の放出によって低下した積層体の防曇性を、後述の塗布工程によって回復させることができる。
ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部を放出させる方法には特に制限はない。
ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部の放出は、例えば、
積層体を単に経時させること、
積層体における貯蔵層(A)が配置されている側の表面に水を接触させること、
等により、貯蔵層(A)からノニオン性界面活性剤(a3)が徐々に放出される(以下、徐放ともいう)ことによって実現され得る。
【0016】
(基材)
準備工程で準備する積層体は、基材を含む。
基材としては特に制限はない。
基材としては、例えば;
ガラス、シリカ、金属、金属酸化物等の無機材料からなる無機基材;
ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリカーボネート、ポリアリルカーボネート(例えば、アリルジグリコールカーボネート(ADC))、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセチルセルロース(TAC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂などを含むプラスチック基材;
紙基材;
パルプ基材;
不飽和ポリエステル樹脂と炭酸カルシウムなどの充填材とガラス繊維などを複合したSMC及びBMCなどの有機無機基材;
等が挙げられる。
さらに、上記した基材と塗料硬化物層とを含む積層型の基材も挙げられる。
上記の中でも、積層体における基材としては、プラスチック基材であることが好ましい。
プラスチック基材は、ポリチオウレタン、ポリカーボネート、及びポリアリルカーボネートのうちの少なくとも一つを含むことが好ましく、ポリチオウレタン及びポリカーボネートの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0017】
基材の形状としては、板形状、フィルム形状、レンズ形状等が挙げられる。
基材としては、レンズ形状のプラスチック基材(即ちプラスチックレンズ)が好ましい。
【0018】
また、基材の表面には、必要に応じて、基材の表面を活性化することを目的に、コロナ処理、オゾン処理、酸素ガスもしくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等による酸化処理、火炎処理等の、物理的又は化学的処理が施されていてもよい。
またこれらの処理に替えて、又はこれらの処理に加えて、プライマー処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理等が施されていてもよい。
【0019】
上記プライマー処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理に用いるコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂又はその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂等の樹脂をビヒクルの主成分とするコート剤を用いることができる。ここで用いられるコート剤は、本開示が属する分野において通常用いられる従来公知のものであってもよく、コート剤の塗布も、公知の塗装方法により行うことができる。基材へのコート剤の塗布量は、乾燥状態で、0.5μm~10μmであることが好ましい。
【0020】
(貯蔵層(A))
準備工程で準備する積層体は、貯蔵層(A)を含む。
貯蔵層(A)は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する。
【0021】
-樹脂(a1)-
貯蔵層(A)に含有される樹脂(a1)は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方であればよい。
貯蔵層(A)に含有される樹脂(a1)は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0022】
貯蔵層(A)の全質量に対する樹脂(a1)の含有量は、好ましくは30質量%~70質量%であり、より好ましくは40質量%~60質量%である。
ここで、貯蔵層(A)の全質量に対する樹脂(a1)の含有量は、実質的に、貯蔵層(A)を形成するための組成物(以下、「貯蔵層(A)形成用組成物」ともいう)の全固形分量(即ち、溶媒を除いた全量)に対する、樹脂(a1)を形成するためのモノマー(以下、「樹脂(a1)形成用モノマー」ともいう)の含有量に相当する。
樹脂(a1)形成用モノマーとしては、後述の多官能エポキシモノマー、後述の多官能(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。
【0023】
-エポキシ樹脂-
樹脂(a1)に含まれ得るエポキシ樹脂は、好ましくは、2つ以上のエポキシ基を含むモノマー(以下、多官能エポキシモノマーともいう)を用いて形成される。
多官能エポキシモノマーは、重合により、貯蔵層(A)の基本骨格となるネットワーク構造を形成する。貯蔵層(A)には、上記ネットワーク構造の隙間として、界面活性剤(即ち、ノニオン性界面活性剤(a3)及び/又は塗布工程で付与されるイオン性界面活性剤)が貯蔵される空間が形成される。
【0024】
多官能エポキシモノマー分子量としては、100~2000であることが好ましく、150~1500であることがより好ましい。
【0025】
多官能エポキシモノマーは、1分子中における1つのエポキシ基あたりの分子量(以下、エポキシ当量ともいう)が200g/mol以上である多官能エポキシモノマー(AE1)を含むことが好ましい。
多官能エポキシモノマーが、多官能エポキシモノマー(AE1)を含むことで、層の形成に要する分子量を確保しつつ、架橋反応の反応点をより少なくすることができる。これにより、貯蔵層(A)が水分を容易に保持することができるので、積層体の防曇性をより向上させることができる。
多官能エポキシモノマー(AE1)のエポキシ当量は、300g/mol以上であることが好ましく、350g/mol以上であることがより好ましい。
【0026】
一方、多官能エポキシモノマー(AE1)は、エポキシ当量が500g/mol以下であることが好ましい。多官能エポキシモノマー(AE1)のエポキシ当量が500g/mol以下であることで、架橋反応をより良好に促進することができるため、耐擦傷性により優れる積層体を得ることができる。
多官能エポキシモノマー(AE1)のエポキシ当量は、450g/mol以下であることがより好ましい。
【0027】
多官能エポキシモノマー(AE1)は、2官能エポキシモノマーであることが好ましい。
【0028】
多官能エポキシモノマー(AE1)は、
アルカンジオール、アルカントリオール等のアルカンポリオール構造を含んでいてもよく、
ポリオキシアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコールなど)、アルカンポリオールにポリオキシアルキレンを付加してなる化合物などのオキシアルキレン構造を含んでいてもよい。
【0029】
上記の中でも、吸水性を向上させてより良好な防曇性を得る観点から、多官能エポキシモノマー(AE1)は、オキシアルキレン構造を含むことが好ましい。
【0030】
オキシアルキレン構造は、置換基として親水性基を有していてもよい。
オキシアルキレン構造が親水性基を有することで、積層体の吸水性を向上させることができる。
上記親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基等が挙げられる。
上記の中でも親水性基としては、水酸基が好ましく、ジオールがより好ましい。
多官能エポキシモノマー(AE1)としては、例えば、ポリオキシエチレン構造を含むジオールが挙げられる。
【0031】
多官能エポキシモノマー(AE1)は、芳香族環をさらに含んでいてもよく、脂環式化合物であってもよい。
芳香族環を含む多官能エポキシモノマー(AE1)の例としては、ビスフェノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
多官能エポキシモノマー(AE1)におけるリンカー部分(即ち、エポキシ基以外の部分)は、防曇性を向上する観点から、鎖状構造であることが好ましい。
【0032】
多官能エポキシモノマー(AE1)の分子量としては、300~2000であることが好ましく、300~1000であることがより好ましい。
【0033】
多官能エポキシモノマー(AE1)としては、市販品を用いてもよい。
市販品としては、デナコールEX-841(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0034】
多官能エポキシモノマーは、上記多官能エポキシモノマー(AE1)以外に、エポキシ当量が200g/mol未満である多官能エポキシモノマー(AE2)を含んでいてもよい。
これにより、架橋反応の反応点を増加させることができるため、架橋度を向上させることができる。その結果、積層体の耐擦傷性をより向上させることができる。
【0035】
多官能エポキシモノマー(AE2)は、以下の式(AE2-1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
式(AE2-1)中、Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、nは1~5の整数である。
式(AE2-1)中、nが2~5の整数である場合、複数存在するXは同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
式(AE2-1)中、Xである炭素数2~6のアルキレン基は、炭素数2又は3のアルキレン基であることが好ましい。
また、炭素数2~6のアルキレン基は、置換基を有してもよく、置換基を有していなくてもよい。置換基としては、親水性基(水酸基、カルボキシ基等)、グリシジルエーテル基、親水性基又はグリシジルエーテル基を有するアルキル基等が挙げられる。
【0039】
多官能エポキシモノマー(AE2)の分子量としては、100~2000であることが好ましく、150~1500であることがより好ましい。
【0040】
多官能エポキシモノマー(AE2)としては、市販品を用いてもよい。
市販品としては、デナコールEX-313、デナコールEX-521(以上、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0041】
樹脂(a1)におけるエポキシ樹脂の形成に用いられる多官能エポキシモノマーは、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0042】
樹脂(a1)としてエポキシ樹脂を含有する貯蔵層(A)を形成する場合、貯蔵層(A)形成用組成物に含有される全てのモノマーの合計量に対する、多官能エポキシモノマーの含有量は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0043】
樹脂(a1)としてエポキシ樹脂を含有する貯蔵層(A)を形成する場合、多官能エポキシモノマーの総含有量は、貯蔵層(A)形成用組成物の全固形分量(即ち、溶媒を除いた全量)に対し、30質量%~70質量%が好ましく、40質量%~60質量%がより好ましい。
【0044】
貯蔵層(A)形成用組成物が、多官能エポキシモノマー(AE1)及び多官能エポキシモノマー(AE2)を含有する場合、多官能エポキシモノマー(AE1)及び多官能エポキシモノマー(AE2)の合計質量に対する多官能エポキシモノマー(AE1)の割合は、5質量%~50質量%であることが好ましく、10質量%~40質量%であることが好ましい。
【0045】
貯蔵層(A)形成用組成物は、オキセタン環を含む多官能モノマーをさらに含んでいてもよい。
オキセタン環を含む多官能モノマーは、2つのオキセタン環を含むことが好ましい。
また、オキセタン環を含む多官能モノマーは、エーテル結合(オキセタン環のエーテル結合を除く。)を含むことが好ましい。
オキセタン環を含む多官能モノマーとしては、アロンオキセタンOXT-221(東亞合成社)等が挙げられる。
【0046】
-アクリル樹脂-
樹脂(a1)に含まれ得るアクリル樹脂は、好ましくは、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を含むモノマー(以下、多官能(メタ)アクリルモノマーともいう)を用いて形成される。
多官能(メタ)アクリルモノマーは、重合により、貯蔵層(A)の基本骨格となるネットワーク構造を形成する。貯蔵層(A)には、上記ネットワーク構造の隙間として、界面活性剤(即ち、ノニオン性界面活性剤(a3)及び/又は塗布工程で付与されるイオン性界面活性剤)が貯蔵される空間が形成される。
【0047】
本開示において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリルモノマーとは、アクリルモノマー又はメタクリルモノマーを意味する。
また、本開示におけるアクリル樹脂の概念には、アクリルモノマーの重合によって形成される樹脂だけでなく、メタクリルモノマーの重合によって形成される樹脂も包含される。
【0048】
多官能(メタ)アクリルモノマーは、好ましくは、2以上の(メタ)アクリロイル基と、これら2以上の(メタ)アクリロイル基を一分子内に固定するリンカー部分と、からなる。
多官能(メタ)アクリルモノマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸と、2以上の水酸基を有する多価アルコールと、のエステルである。
ここで、「2以上の水酸基を有する多価アルコール」としては、例えば;
アルカンジオール、アルカントリオールなどのアルカンポリオール;
ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、アルカンポリオールにポリアルキレングリコールを付加してなる化合物、等のポリオキシアルキレン構造を含む化合物;
等が挙げられる。
「2以上の水酸基を有する多価アルコール」は、芳香環及び/又は脂肪族環を含んでいてもよい。芳香族環を含む「2以上の水酸基を有する多価アルコール」の例としては、ビスフェノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0049】
「2以上の水酸基を有する多価アルコール」としては、ポリオキシアルキレン構造を含む化合物が好ましく、ポリオキシエチレン構造を含むジオールがより好ましい。
【0050】
多官能(メタ)アクリルモノマーの具体例として、下記式(AA1)又は下記式(AA2)で表される化合物が挙げられる。
多官能(メタ)アクリルモノマーは、下記式(AA1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0051】
【化2】
【0052】
式(AA1)中、nは、1~30の整数を示す。
式(AA2)中、l及びmは、l+mが2~40の整数となる数を示す。
【0053】
多官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、及び、2,2-ビス-[4-(アクリロキシ-ポリエトキシ)フェニル]-プロパンが挙げられる。
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
樹脂(a1)におけるアクリル樹脂の形成に用いられる多官能(メタ)アクリルモノマーは、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0055】
樹脂(a1)としてアクリル樹脂を含有する貯蔵層(A)を形成する場合、貯蔵層(A)形成用組成物に含有される全てのモノマーの合計量に対する、多官能(メタ)アクリルモノマーの含有量は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0056】
樹脂(a1)としてアクリル樹脂を含有する貯蔵層(A)を形成する場合、多官能(メタ)アクリルモノマーの総含有量は、貯蔵層(A)形成用組成物の全固形分量(即ち、溶媒を除いた全量)に対し、30質量%~70質量%が好ましく、40質量%~60質量%がより好ましい。
【0057】
-無機粒子(a2)-
貯蔵層(A)は、無機粒子(a2)を少なくとも1種含有する。
これにより、貯蔵層(A)の硬度及び強度に優れる。
無機粒子(a2)は、好ましくは、樹脂(a1)中のネットワーク構造に組み込まれる形で貯蔵層(A)の内部に存在し得る。
【0058】
無機粒子(a2)は、
官能基で修飾されていない無機粒子(a2-0)(以下、単に「無機粒子(a2-0)」ともいう。)であってもよく、
官能基で修飾された無機粒子(a2-1)(以下、単に「無機粒子(a2-1)」ともいう。)であってもよい。
【0059】
無機粒子(a2-0)は無修飾の無機粒子である。すなわち、無機粒子(a2-0)は、実質的に無機物質のみからなる粒子である。
上記「実質的に無機物質のみからなる粒子」とは、無機粒子(a2-0)における有機物質の含有量が厳密に0であることを意味するものではない。即ち、無機粒子(a2-0)中に、他の成分との反応性を示さない有機物質が、上記無機粒子(a2-0)を構成する無機物質が本来有している物性に影響を与えない程度に、微量に含まれていてもよい。
例えば、無機粒子(a2-0)は、製造工程に起因して不可避的に混入しうる微量の有機物質、大気中に静置することにより表面に不可避的に非特異吸着しうる大気由来の微量の有機物質等は、含んでいてもよい。
【0060】
無機粒子(a2-0)を構成する無機物質として、シリカ、ジルコニア、アルミナ、酸化スズ、酸化アンチモン、チタニアなどの金属酸化物、ナノダイヤモンド粒子等が挙げられる。
上記の中でも、樹脂(a1)への分散性、積層体の硬度、及び耐光性の観点から、無機粒子(a2-0)を構成する無機物質としては、シリカ及びジルコニアが好ましい。
【0061】
無機粒子(a2-0)の粒径は、5nm~50nmが好ましい。
無機粒子(a2-0)の粒径が5nm以上であることで、積層体の硬度を向上させることができる。また、分散性により優れる。
一方、無機粒子(a2-0)の粒径が50nm以下であることで、貯蔵層(A)の透明性を向上させることができる。
無機粒子(a2-0)の粒径は、10nm~30nmがより好ましい。
【0062】
無機粒子(a2-0)の粒径は、レーザー光による動的散乱法を行うことで測定する。
無機粒子(a2-0)は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0063】
上記無機粒子(a2-0)は、市販品として入手可能であり、例えば、日産化学社製のPGM-ST等が挙げられる。
【0064】
無機粒子(a2)は、官能基で修飾された無機粒子(a2-1)であってもよい。
無機粒子(a2-1)は、上記無機粒子(a2-0)を基礎粒子とし、上記基礎粒子の表面が官能基で修飾された粒子である。
官能基は、エポキシ基及び(メタ)アクリロイル基の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0065】
上記無機粒子(a2-1)は、市販品として入手可能であり、例えば、PGM-AC-2140Y、MEK-EC-2430Z(以上、日産化学社製)等が挙げられる。
【0066】
貯蔵層(A)の全質量に対する上記無機粒子(a2)の含有量は、好ましくは30質量%以上である。これにより、得られる積層体の耐擦傷性がより向上する。
上記同様の観点から、貯蔵層(A)の全質量に対する上記無機粒子(a2)の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
貯蔵層(A)の全質量に対する上記無機粒子(a2)の含有量の上限は特に制限はない。貯蔵層(A)の全質量に対する上記無機粒子(a2)の含有量は、例えば、70質量%以下としてもよく、60質量%以下としてもよい。
【0067】
ここで、貯蔵層(A)の全質量に対する無機粒子(a2)の含有量は、実質的に、貯蔵層(A)形成用組成物の全固形分量に対する無機粒子(a2)の含有量に相当する。
以下、貯蔵層(A)中の各成分、及び、緩衝層(B)中の各成分についても同様である。
【0068】
貯蔵層(A)形成用組成物において、樹脂(a1)形成用モノマーに対する無機粒子(a2)の割合は、好ましくは0.6~1.8であり、より好ましくは0.8~1.6である。
また、貯蔵層(A)において、樹脂(a1)に対する無機粒子(a2)の割合は、好ましくは0.6~1.8であり、より好ましくは0.8~1.6である。
【0069】
-ノニオン性界面活性剤(a3)-
貯蔵層(A)は、ノニオン性界面活性剤(a3)を少なくとも1種含有する。
ノニオン性界面活性剤(a3)は、貯蔵層(A)から徐放(即ち、徐々に放出)されて積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に移動し、積層体の防曇性を発揮させる成分である。
本開示の防曇性積層体の製造方法では、もとから貯蔵層(A)に含有されていたノニオン性界面活性剤(a3)の効果と、塗布工程で貯蔵層(A)中に付与されるイオン性界面活性剤による効果と、が相まって、防曇性により優れた防曇性積層体が得られる。
【0070】
ノニオン性界面活性剤(a3)は、イオン性界面活性剤と比較して、貯蔵層(A)を形成する際の樹脂(a1)形成用モノマーの重合に対する影響が少ないという利点を有する。
【0071】
前述のとおり、貯蔵層(A)中のノニオン性界面活性剤(a3)は、貯蔵層(A)から放出され得る。このため、塗布工程の時点で、貯蔵層(A)の形成直後と比較して、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量が低減されていてもよい。この場合においても、塗布工程でのイオン性界面活性剤の付与により、積層体の防曇性が回復され得る。
【0072】
積層体において、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量には特に制限はない。
貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量は、例えば、0質量%超10質量%以下であってもよく、0質量%超5質量%以下であってもよく、0質量%超3質量%以下であってもよく、0質量%超1質量%以下であってもよい。
貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量の下限は、例えば、0.1質量%であってもよく、0.3質量%であってもよい。
【0073】
また、前述したとおり、準備工程は、積層体を準備することと、(例えば、積層体を経時させることにより)準備した積層体における貯蔵層(A)からノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部を放出させることと、を含んでもよい。
この場合において、ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部が放出された段階(即ち、塗布工程に供される段階)における、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量は、0質量%超1質量%以下であってもよく、0質量%超0.5質量%以下であってもよい。
上記の場合において、ノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部が放出される前の段階における、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量は、0.1質量%~10質量%であってもよく、0.3質量%~10質量%であってもよく、1質量%~5質量%であってもよい。
【0074】
ノニオン性界面活性剤(a3)として、
好ましくは、ポリオキシアルキレン構造を含む化合物であり、
より好ましくは、炭化水素基とポリオキシアルキレン構造とを含む化合物である。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤(a3)としての、炭化水素基とポリオキシアルキレン構造とを含む化合物として、例えば;
ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル;
ポリオキシアルキレンモノアルケニルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;
これらの混合物;
等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)が挙げられる。
【0076】
ノニオン性界面活性剤(a3)としての、炭化水素基とポリオキシアルキレン構造とを含む化合物は、更に、アニオン性親水基を含んでいてもよい。
ノニオン性界面活性剤(a3)のうちアニオン性親水基を含む化合物の例として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、及び、これらの混合物などが挙げられる。
【0077】
ノニオン性界面活性剤(a3)としては、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、ノイゲン LP-100(第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル)等が挙げられる。
【0078】
-その他の成分-
貯蔵層(A)は、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、以下で説明する、貯蔵層(A)形成用組成物の成分を参照できる。
【0079】
(貯蔵層(A)形成用組成物及び貯蔵層(A)形成方法)
貯蔵層(A)形成用組成物は、前述の樹脂(a1)形成用モノマー(例えば、多官能エポキシモノマー、多官能(メタ)アクリルモノマー等)、前述の無機粒子(a2)、及び前述のノニオン性界面活性剤(a3)を含有することができる。
【0080】
積層体における貯蔵層(A)は、基材上に貯蔵層(A)形成用組成物を塗布し、塗布された貯蔵層(A)形成用組成物を硬化させることによって形成され得る。
基材上への貯蔵層(A)形成用組成物の塗布は、従来公知の方法により適宜行うことができる。塗布方法の例として、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、流し塗り法、刷毛塗り法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、キスコート法などが挙げられる。
また、貯蔵層(A)形成用組成物の塗布に先立ち、基材上に、その他の層(例えば、プライマー層、ハードコート層等)を形成してよい。この場合、基材のその他の層が形成された領域上に、貯蔵層(A)形成用組成物を塗布する。
また、基材の、貯蔵層(A)形成用組成物の塗布(その他の層を形成する場合にはその他の層の形成)が施される側の面に、予め、プラズマ処理、コロナ処理、ポリシング処理等の表面処理を施してもよい。
【0081】
基材上に塗布された貯蔵層(A)形成用組成物の硬化は、前述の樹脂(a1)形成用モノマーを重合させることによって行われる。
樹脂(a1)形成用モノマーの重合は、樹脂(a1)形成用モノマーが多官能エポキシモノマーを含む場合(即ち、樹脂(a1)がエポキシ樹脂を含む場合)、好ましくは少なくとも熱重合によって行う。
樹脂(a1)形成用モノマーの重合は、樹脂(a1)形成用モノマーが多官能(メタ)アクリルモノマーを含む場合(即ち、樹脂(a1)がアクリル樹脂を含む場合)、好ましくは少なくとも光重合によって行う。
【0082】
本開示において、「光重合」等における「光」との語は、紫外線、可視光線等の活性エネルギー線を意味する。
【0083】
熱重合は、例えば、基材上に塗布された貯蔵層(A)形成用組成物を、例えば室温~150℃の範囲で加熱することによって行う。この場合の加熱時間は適宜設定することができる。
光重合は、例えば、基材上に塗布された貯蔵層(A)形成用組成物に対し、活性エネルギー線を照射することによって行う。
活性エネルギー線としては、波長領域が0.0001nm~800nmの範囲である活性エネルギー線を用いることができる。
活性エネルギー線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線(UV)、可視光等が挙げられる。
【0084】
-重合開始剤-
貯蔵層(A)形成用組成物は、重合開始剤を少なくとも1種含有することが好ましい。
重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤の少なくとも一方が好ましい。

樹脂(a1)形成用モノマーが多官能エポキシモノマーを含む場合(即ち、樹脂(a1)がエポキシ樹脂を含む場合)、重合開始剤は、好ましくは少なくとも熱重合開始剤を含む。
樹脂(a1)形成用モノマーが多官能(メタ)アクリルモノマーを含む場合(即ち、樹脂(a1)がアクリル樹脂を含む場合)、重合開始剤は、好ましくは少なくとも光重合開始剤を含む。
【0085】
熱重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤が使用可能である。
例えば、ケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカボネート類、アルミニウムキレート剤、熱酸発生剤等が挙げられる。
上記の中でも熱重合開始剤としては、耐擦傷性が向上する観点から、アルミニウムキレート剤及び熱酸発生剤が好ましい。
アルミキレート剤としては、例えばアルミキレートA(W)(川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
熱酸発生剤としては、例えばサンエイドSI-60L(三新化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0086】
光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、光アニオン重合開始剤等が挙げられる。
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、Omnirad184(IGM Resins B.V.社製)が挙げられる。
光カチオン重合開始剤としては、例えば、サンアプロCP-210S(三洋化成)等が挙げられる。
【0087】
貯蔵層(A)形成用組成物の全固形分量に対する重合開始剤の含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.5質量%~5質量%である。
なお、形成される貯蔵層(A)の全質量に対する重合開始剤の含有量の好ましい範囲も同様である。
【0088】
-溶媒-
貯蔵層(A)形成用組成物は、溶媒を少なくとも1種含有していてもよい。
溶媒としては、特に限定されないが、例えば;
メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、2-エチル-ヘキサノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-n-プロポキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール(別名:プロピレングリコールモノメチルエーテル)、1-エトキシ-2-プロパノール(別名:プロピレングリコールモノエチルエーテル)、1-n-プロポキシ-2-プロパノール、1-イソプロポキシ-2-プロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;
アセトニトリル等のニトリル類;
酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル等のエステル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;
水;
等が挙げられる。
溶媒としては、アルコール類、ケトン類、又は、これらの混合溶媒が好ましい。
【0089】
(緩衝層(B))
準備工程で準備する積層体は、上記基材と、上記貯蔵層(A)と、上記貯蔵層(A)に接する緩衝層(B)と、をこの順の配置で含んでいてもよい。
ここで、緩衝層(B)は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(b1)と、無機粒子(b2)と、を含有する。
【0090】
緩衝層(B)に含有される成分は、ノニオン性界面活性剤を含有することに限定されないこと以外は、貯蔵層(A)に含有される成分と同様であり、好ましい態様(例えば、種類、含有量等)も同様である。
例えば、緩衝層(B)に含有される樹脂(b1)及び無機粒子(b2)の好ましい態様は、それぞれ、貯蔵層(A)に含有される樹脂(a1)及び無機粒子(a2)の好ましい態様と同様である。
【0091】
緩衝層(B)は、ノニオン性界面活性剤(b3)を含有してもよい。この場合、緩衝層(B)に含有されるノニオン性界面活性剤(b3)の好ましい態様は、貯蔵層(A)に含有されるノニオン性界面活性剤(a3)の好ましい態様と同様である。
緩衝層(B)は、ノニオン性界面活性剤(b3)を含有しないか、又は、含有する場合でも、緩衝層(B)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(b3)の含有量の割合が、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量の割合(特に、前述のノニオン性界面活性剤(a3)の含有量が低減される前の段階における、貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量の割合)よりも小さいことが好ましい。
これにより、貯蔵層(A)から緩衝層(B)へのノニオン性界面活性剤(a3)の移動がより促進されるので、積層体における防曇性がより向上する。
上記の観点から、比率〔緩衝層(B)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(b3)の含有量の割合/貯蔵層(A)の全質量に対するノニオン性界面活性剤(a3)の含有量の割合〕は、0/10~8/10であることが好ましく、0/10~5/10であることがより好ましく、0/10~3/10であることがさらに好ましい。
【0092】
また、緩衝層(B)の膜厚に対する貯蔵層(A)の膜厚の比は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.7以上であることがさらに好ましい。
上記比の上限は、15以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3.5以下であることがさらに好ましい。
【0093】
(その他の層)
積層体は、上記基材、上記貯蔵層(A)、及び上記緩衝層(B)に加えて、その他の層を更に含んでいてもよい。
その他の層としては、プライマー層、ハードコート層、粘着層などが挙げられる。
【0094】
<塗布工程>
塗布工程は、準備工程で準備した積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布する工程である。
かかる塗布工程により、積層体における上記表面からイオン性界面活性剤が浸透して貯蔵層(A)中に到達する。
貯蔵層(A)中に到達したイオン性界面活性剤は、経時により、もともと含有されていたノニオン性界面活性剤とともに徐放されることにより、積層体の表面における優れた防曇性が発揮される。
即ち、塗布工程により、防曇性に優れた防曇性積層体が得られる。
【0095】
液体組成物の塗布方法には特に制限はなく、例えば、前述した貯蔵層(A)形成用組成物を基材に塗布する場合の塗布方法の例を適宜参照できる。
【0096】
塗布工程において、液体組成物の塗布後は、イオン性界面活性剤を貯蔵層(A)に浸透させるために、ふき取らずに放置してもよい。放置時間は、例えば30秒以上、より好ましくは1分以上、更に好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上である。
【0097】
-液体組成物-
液体組成物は、イオン性界面活性剤を少なくとも1種含有する。
イオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であってもカチオン性界面活性剤であってもよいが、アニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
イオン性界面活性剤(詳細には、アニオン性界面活性剤)の具体例については、例えば、国際公開第2016/111035号の段落0018を参照できる。
【0098】
イオン性界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホメチルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、及びアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0099】
アルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、2-エチルヘキシル硫酸エステルナトリウム、ラウリル硫酸エステルナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)、等が挙げられる。
アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)等が挙げられる。
【0100】
液体組成物の全量に対するイオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは1質量%~40質量%であり、より好ましくは5質量%~35質量%であり、更に好ましくは10質量%~30質量%である。
【0101】
液体組成物は、溶媒として、水を含有することが好ましい。
液体組成物の全量に対する水の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0102】
液体組成物は、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
【0103】
液体組成物は、積層体の表面の傷付きをより抑制する観点から、研磨剤(例えば、アルミナ、シリカ等の無機フィラー)を含有しないか、又は、含有する場合には研磨剤の含有量が前記液体組成物の全量に対して10質量ppm以下であることが好ましい。
【0104】
〔防曇性積層体〕
本開示の防曇性積層体は、
基材及び貯蔵層(AX)を含み、
前記貯蔵層(AX)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、イオン性界面活性剤と、を含有する。
【0105】
本開示の防曇性積層体は、ノニオン性界面活性剤(a3)と、イオン性界面活性剤と、を含有する貯蔵層(AX)を含む。これにより、貯蔵層(AX)からノニオン性界面活性剤(a3)及びイオン性界面活性剤が徐放される効果が得られるので、防曇性に優れる。
【0106】
本開示の防曇性積層体における基材は、前述した準備工程で準備する積層体における基材と同様である。
本開示の防曇性積層体における貯蔵層(AX)は、必須成分としてイオン性界面活性剤が追加されていること以外は、前述した準備工程で準備する積層体における貯蔵層(A)と同様である。
本開示の防曇性積層体は、緩衝層(B)等、前述した準備工程で準備する積層体の特徴と同様の特徴を備えていてもよい。
【0107】
本開示の防曇性積層体は、好ましくは、前述した本開示の防曇性積層体の製造方法によって製造される。
この場合、準備工程で準備した積層体における貯蔵層(A)中に、塗布工程で、イオン性界面活性剤が付与される。これにより、貯蔵層(A)が貯蔵層(AX)に転化する。即ち、この場合、貯蔵層(A)に対してイオン性界面活性剤が付与された層が、貯蔵層(AX)である。
【0108】
〔液体組成物〕
本開示の液体組成物は、
基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に塗布される液体組成物であって、
イオン性界面活性剤を含有する。
【0109】
本開示の液体組成物が、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面に塗布されることにより、前述したとおり、積層体の上記表面の防曇性が向上する。
本開示の液体組成物については、前述した塗布工程で用いる液体組成物と同様であり、好ましい態様も同様である。
【実施例
【0110】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0111】
〔貯蔵層(A)形成用組成物A1~A6、並びに、緩衝層(B)形成用組成物B2及びB3の調製〕
下記表1及び下記表2に示す各成分と、希釈溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルと、を含む、貯蔵層(A)形成用組成物A1~A6、並びに、緩衝層(B)形成用組成物B2及びB3を、それぞれを調製した。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
表1及び表2における「-」は、該当する成分を含有しないことを意味する。
表1及び表2中、無機粒子の量は、無機粒子のゾル(即ち、シリカゾル)のうち、溶媒以外の成分(即ち、固形分)の量を表す。
【0115】
表1及び表2における各成分は以下の通りである。
・デナコールEX-841(ナガセケムテックス社製。エポキシ樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはポリエチレングリコールジグリシジルエーテル。エポキシ当量372。)
・デナコールEX-521(ナガセケムテックス社製。エポキシ樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはポリグリセロールポリグリシジルエーテル。エポキシ当量183。)
・デナコールEX-313(ナガセケムテックス社製。エポキシ樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはグリセロールポリグリシジルエーテル。エポキシ当量141。)
・NKエステルA-1000(新中村化学工業社製。アクリル樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはポリエチレングリコールジアクリレート)
・NKエステルA-BPE-30(新中村化学工業社製。アクリル樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート)
・エポキシエステル80MFA(共栄社化学社製。アクリル樹脂形成用の多官能モノマー。詳細にはエポライト80MF アクリル酸付加物)
【0116】
・非修飾シリカゾル(日産化学社製、PGM-ST、固形分量30質量%)
・アクリル修飾シリカゾル (日産化学社製、PGM-AC-2140Y、固形分量30質量%)
・エポキシ修飾シリカゾル (日産化学社製、MEK-EC-2430Z、固形分量30質量%)
【0117】
・サンエイドSI-60L (三新化学工業社製、カチオン重合開始剤、固形分量32質量%)
・Omnirad 184 (IGM Resins B.V.社製。ラジカル重合開始剤。詳細には、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン)
【0118】
・ノイゲンLP-100 (第一工業製薬社製。ノニオン性界面活性剤。詳細には、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル)
【0119】
〔実施例1〕
<積層体の製造>
基材としてのレンズ基材(RAV 7AX、Shanghai Conant Optics社製、直径70mmのプラノーレンズ、材質はアリルジグリコールカーボネート(ADC);以下、「ADCレンズ」ともいう)上に、貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A1をディップコートで塗布し、塗布膜を得た。ディップコートは、PP製ビーカー内の組成物A1をコート液として用い、ADCレンズを10秒間コート液に浸漬した後、毎分350mmの速度で引上げることにより行った。
基材上に形成された上記塗布膜を、110℃、60分の加熱条件にて加熱して硬化させることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A1を形成した。
以上により、基材(本実施例1ではADCレンズ)と、貯蔵層(A)(本実施例1では貯蔵層A1)と、を含む積層体を得た。
【0120】
<イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布>
上記積層体における貯蔵層(A)の表面に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物としての、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)の25質量%水溶液(具体的には、第一工業製薬社製「ハイテノール325SM」)2gを付着させ、均一に塗布した。その後、この積層体を20分間、22℃の温度環境下にて放置し、貯蔵層(A)の表面に液体組成物を十分に馴染ませた。次に、貯蔵層(A)の表面の液体組成物を水道水で10秒間洗い流し、表面に残った液体組成物をエアーブローで吹き飛ばし、更にティッシュペーパーで拭き取った。
【0121】
<評価>
液体組成物をふき取った後の積層体を用い、以下の評価を実施した。
結果を表3に示す。
【0122】
(接触角)
積層体における貯蔵層(A)の表面における純水の接触角を、接触角計(DropMaster ModelDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。接触角としては、貯蔵層(A)の表面に純水が着滴してから21秒後の値を測定した。
接触角は、3か所での測定値の平均値として求めた。
接触角が小さい程、防曇性に優れることを意味する。
【0123】
(50℃蒸気防曇性)
ビーカー内に純水を入れ、50℃に加温した。
ビーカー内の純水の温度が50℃に達した後、上記ビーカーの上部に積層体を、貯蔵層(A)が下側(即ち、純水に対向する側)となる向きに載せた。
この状態で10分間保持しながら、積層体を上から目視して積層体の曇りの有無を確認した。
上記保持を開始してから積層体の曇りが確認されるまでの時間を、表3に記載した。
この時間が長いほど、防曇性に優れることを意味する。
表3における「>10分」は、上記保持を開始してから10分以内に、積層体の曇りが確認されなかったことを意味する。
【0124】
(防曇性回復回数)
液体組成物をふき取った後の積層体の貯蔵層(A)の表面を、純水の流水にて5秒間指で擦りながら洗浄し、次いでエアーブローによって上記表面を乾燥させた。
乾燥後の表面について、呼気を数秒吹きかけて、この表面に生じる曇りの有無を目視で確認し、曇りが生じた場合、最大24時間まで積層体を放置し、呼気により曇りが生じなくなる(即ち、防曇性が回復する)かどうかを調べた(以上の操作を、「呼気防曇性の評価」とする)。
呼気防曇性の評価において、最初の呼気の吹きかけの段階から曇りが無かった場合、及び、最初の呼気の吹きかけでは曇りがあったが24時間以内に防曇性が回復した場合には、再度、上記純水による洗浄及び上記乾燥を行った。
乾燥後、再度、上述の呼気防曇性の評価を実施した。
以上のサイクルを繰り返し実施し、積層体を24時間放置しても防曇性が回復しなくなった段階でサイクルを終了した。
サイクルを終了までの過程での水洗の回数を、防曇性回復回数とした。
防曇性回復回数が大きい程、防曇性(詳細には、防曇性の回復性)に優れることを意味する。
表3における「22回以上」は、水洗を22回行った後においても、最初の呼気の吹きかけの段階から曇りが無いか、又は、最初の呼気の吹きかけでは曇りがあったが24時間以内に防曇性が回復したことを意味する。
【0125】
〔実施例3〕
以下の点以外は、実施例1と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0126】
-実施例1からの相違点-
・貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A1に代えて、貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A2を用いることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A1に代えて、貯蔵層(A)としての貯蔵層A2を形成した(表3参照)。貯蔵層(A)形成用組成物による塗布膜の加熱条件を、80℃、20分に変更した。
・貯蔵層(A)上に、緩衝層(B)形成用組成物としての組成物B2をディップコートで塗布し、塗布膜を得た。ディップコートは、PP製ビーカー内の組成物B2をコート液として用い、基材を10秒間コート液に浸漬した後、毎分300mmの速度で引上げることにより行った。
貯蔵層(A)上に形成された緩衝層(B)形成用組成物による塗布膜を、110℃、60分の加熱条件にて加熱して硬化させることにより、緩衝層(B)としての緩衝層B2を形成した。
以上により、基材(本実施例3ではADCレンズ)と、貯蔵層(A)(本実施例3では貯蔵層A2)と、緩衝層(B)(本実施例3では緩衝層B2)と、をこの順の配置で含む積層体を得た。
・イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布、及び、各評価については、「貯蔵層(A)の表面」を、「緩衝層(B)の表面」に読み替えること以外は実施例1と同様にして行った。
【0127】
〔実施例5〕
以下の点以外は、実施例3と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0128】
-実施例3からの相違点-
・基材としてのADCレンズ(φ70mm)に代えて、基材としてのポリカーボネート(PC)板(長さ65mm×幅65mm×厚さ2mm)を用いた。
・貯蔵層(A)形成用組成物の塗布方法を、ディップコートからスピンコートに変更した。スピンコートは、まず、上記ポリカーボネート板を回転数500rpmで10秒回転させる間に、このポリカーボネート板上に、コート液としての貯蔵層形成用組成物(A-3)を付与して徐々に広げ、次いで、このポリカーボネート板を1000rpmで10秒間回転させてコート液を塗り広げることによって行った。
・貯蔵層(A)形成用組成物による塗布膜の硬化は、塗布膜を加熱することに代えて、塗布膜に対し、紫外線(UV)を照射することによって行った。
UVの照射は、UV照射装置としてアイグラフィクス社製UV照射装置UB012-0BMを使用し、1kwのUV光源から上記塗布膜に対しUVを5秒間照射することによって行った。この際、積算光量は、UV-Cで350mJ/cm、UV-Aで1300mJ/cmであった。
・緩衝層(B)形成用組成物の塗布方法を、ディップコートからスピンコートに変更した。スピンコートの条件は、貯蔵層(A)形成用組成物のスピンコートの条件と同様とした。
・緩衝層(B)形成用組成物による塗布膜の硬化は、塗布膜を加熱することに代えて、塗布膜に対し、紫外線(UV)を照射することによって行った。UV照射は、UV照射装置としてアイグラフィクス社製UV照射装置UB012-0BMを使用し、1kwのUV光源から上記緩衝層(B)形成用組成物による塗布膜に対しUVを10秒間照射することによって行った。
【0129】
〔実施例7〕
以下の点以外は、実施例1と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0130】
-実施例1からの相違点-
・貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A1に代えて、貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A5を用いることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A1に代えて、貯蔵層(A)としての貯蔵層A5を形成した(表3参照)。
【0131】
〔実施例2、4、6、及び8〕
以下の点以外は、実施例1、3、5、及び7の各々と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0132】
-実施例1、3、5、及び7の各々との相違点-
積層体の製造と、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布と、の間に、積層体に対し水浸漬処理を施す操作を追加した。
水浸漬処理は、積層体全体を水に3時間浸漬した後、取り出し、取り出した積層体の表面に残った水をエアーブローで吹き飛ばした後、ティッシュペーパーで水を拭き取ることによって行った。
【0133】
-水浸漬処理の前後での接触角-
実施例2、4、6、及び8、並びに、後述の実施例9~11では、上記水浸漬処理により、貯蔵層(A)中からノニオン性界面活性剤(a3)のほとんどが放出された。
実施例2、4、6、及び8、並びに、後述の実施例9~11において、水浸漬処理の前後において、上記「評価」の項目に示した接触角の測定方法と同様の方法により、積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面における純水の接触角を測定した。
その結果、いずれの実施例においても、水浸漬処理の前における純水の接触角は4°~12°であったが、水浸漬処理の後における純水の接触角は、15°以上であった。
以上の結果から、実施例2、4、6、及び8、並びに、後述の実施例9~11では、上記水浸漬処理により、貯蔵層(A)中からノニオン性界面活性剤(a3)の少なくとも一部が放出されたことが確認された。
【0134】
〔実施例9〕
以下の点以外は、実施例8と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0135】
-実施例8からの相違点-
・貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A5に代えて、貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A6を用いることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A5に代えて、貯蔵層(A)としての貯蔵層A6を形成した(表3参照)。
【0136】
〔実施例10〕
以下の点以外は、実施例2と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0137】
-実施例2からの相違点-
・「イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布」において、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物としての、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)(イオン性界面活性剤)の25質量%水溶液(第一工業製薬社製「ハイテノール325SM」)を、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)(イオン性界面活性剤)(富士フィルム和光純薬社製)の25質量%水溶液に変更した。
【0138】
〔実施例11〕
ADC基材を、以下のようにして製造したチオウレタン基材に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表3に示す。
【0139】
-チオウレタン基材の製造-
ジブチル錫ジクロリドを0.035質量部、STEPAN社製ZelecUNを0.1質量部、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物を50.6質量部、紫外線吸収剤としてBASF社製Viosob583を1.5質量部、有本化学工業社製PlastBlue8514を0.00005質量部仕込んで混合溶液を作製した。この混合溶液を25℃で1時間攪拌して完全に溶解させ、調合液を得た。その後、この調合液に、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを含むチオール組成物25.5質量部と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を含むチオール組成物23.9質量部と、を仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液(光学材料用重合性組成物)を得た。この光学材料用重合性組成物を600Paにて1時間脱泡を行い、次いで1μmPTFEフィルターにて濾過を行い、得られた濾液(即ち、濾過後の光学材料用重合性組成物)をガラスモールドに注入し、25℃から120℃まで、16時間かけて昇温した。昇温後、室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、直径81mmのチオウレタン樹脂基材を得た。
【0140】
実施例1~11の積層体における貯蔵層(A)の膜厚は、いずれも8.0μmであった。
実施例3~6の積層体における緩衝層(B)の膜厚は、いずれも3.0μmであった。
各層の膜厚の測定は、膜厚測定装置(ETA-ARC、OPTOTECH社製)を用いて行った。
【0141】
〔比較例1〕
以下の点以外は、実施例1と同様の操作を行った。
結果を表4に示す。
【0142】
-実施例1からの相違点-
・貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A1に代えて、SDC製ハードコート液MP-1179を用いることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A1に代えて、ハードコート層(HC)を形成した(表4参照)。塗布膜の加熱条件を、120℃、2時間に変更した。
以上により、基材(ADCレンズ)と、ハードコート層(HC)と、を含む積層体を得た。
・イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布、及び、各評価については、「貯蔵層(A)の表面」を、「ハードコート層の表面」に読み替えること以外は実施例1と同様にして行った。
【0143】
〔比較例2〕
以下の点以外は、比較例1と同様の操作を行った。
結果を表4に示す。
【0144】
-比較例1からの相違点-
比較例1におけるハードコート層上に、5層から成る反射防止層(AR)を真空蒸着法にて積層し、更にフッ素系の撥水コート層を蒸着することにより、基材(ADCレンズ)と、ハードコート層(HC)と、5層から成る反射防止層(AR)と、撥水コート層(RC)と、をこの順の配置で含む積層体を得た。
・イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布、及び、各評価については、「貯蔵層(A)の表面」を、「撥水コート層の表面」に読み替えること以外は実施例1と同様にして行った。
【0145】
〔比較例3〕
以下の点以外は、実施例1と同様の操作を行った。
結果を表4に示す。
【0146】
-実施例1からの相違点-
・貯蔵層(A)形成用組成物である組成物A1に代えて、ノニオン性界面活性剤が含有されていない比較用の組成物である組成物A4を用いることにより、貯蔵層(A)としての貯蔵層A1に代えて、ノニオン性界面活性剤が含有されていない比較用の層である貯蔵層A4を形成した(表4参照)。
【0147】
〔比較例4〕
以下の点以外は、実施例2と同様の操作を行った。
結果を表4に示す。
【0148】
-実施例2からの相違点-
・「イオン性界面活性剤を含有する液体組成物の塗布」において、イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)を、ノニオン性界面活性剤であるノイゲンLP-100(第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル)に変更した。
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
表3及び表4に示すように、
基材及び貯蔵層(A)を含む積層体であって、貯蔵層(A)が、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方である樹脂(a1)と、無機粒子(a2)と、ノニオン性界面活性剤(a3)と、を含有する積層体を準備する工程と、
積層体の貯蔵層(A)が配置されている側の表面(即ち、最上層が貯蔵層(A)である場合は貯蔵層(A)の表面であり、最上層が緩衝層(B)である場合は緩衝層(B)の表面)に、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布する工程と、
を含む、防曇性積層体の製造方法を実施した各実施例では、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物を塗布するという簡便な方法で、防曇性積層体を製造できた(即ち、積層体に対し防曇性を付与することができた)。
【0152】
各実施例に対し、貯蔵層(A)に変えて、ノニオン性界面活性剤を含有しない比較層を用いた比較例1~3では、液体組成物の塗布後の積層体の防曇性に劣っていた。
また、イオン性界面活性剤を含有する液体組成物に代えて、ノニオン性界面活性剤を含有する液体組成物を用いた比較例4も、各実施例に対し、液体組成物の塗布後の積層体の防曇性に劣っていた。