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特許7643913運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G08G1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021064311
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159864
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】新間 貴英
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-163781(JP,A)
【文献】特開2012-197069(JP,A)
【文献】特開2021-046160(JP,A)
【文献】特開2011-137443(JP,A)
【文献】特開2017-010213(JP,A)
【文献】特開2007-062494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0232813(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0007084(KR,A)
【文献】独国特許出願公開第102014209096(DE,A1)
【文献】特開2017-087803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象車両の運転状況を評価するための運転評価方法であって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を取得し、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲を決定し、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理し、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定し、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲を算出し、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う、
運転評価方法。
【請求項2】
評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を保持する第1の保存部と、
前記設定値に基づいてエンジン回転数の適正範囲を第1の適正範囲として算出する第1の算出部と、
不特定の複数の車両から少なくともタイヤ空気圧および走行距離を含むデータを取得して管理する第2の保存部と、
タイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を算出する補正値算出部と、
前記補正値により前記第1の適正範囲を補正して第2の適正範囲を決定する第2の算出部と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲との比較に基づいて運転評価を行う評価部と、
を備える運転評価システム。
【請求項3】
前記第2の算出部は、前記評価対象車両における貨物重量、及び道路勾配の少なくとも一方を前記第2の適正範囲に反映する、
請求項2に記載の運転評価システム。
【請求項4】
前記評価対象車両に搭載された車載器と、無線通信により複数の車両を管理可能な管理サーバとを備え、
前記管理サーバ上の前記評価部が前記第2の適正範囲に対するエンジン回転数の逸脱を検知した場合には、前記管理サーバから前記評価対象車両の車載器に対して評価結果を通知する、
請求項2又は請求項3に記載の運転評価システム。
【請求項5】
前記評価対象車両におけるタイヤ空気圧の変化の影響を監視してメンテナンス時期を通知する監視部を更に備える、
請求項4に記載の運転評価システム。
【請求項6】
評価対象車両の運転状況を評価するための所定のコンピュータが実行可能な運転評価プログラムであって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を取得する手順と、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲を決定する手順と、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理する手順と、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定する手順と、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲を算出する手順と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う手順と、
を備える運転評価プログラム。
【請求項7】
前記運転評価の結果を報告データとして出力する、
請求項1に記載の運転評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトラックなどの車両で貨物を輸送する運輸業界においては、省燃費で車両を運転することが求められている。そのため、例えばデジタルタコグラフのように車両に搭載された車載器には、運転者に対して省燃費の運転を支援する機能の搭載が必要とされる。
【0003】
例えば、特許文献1には、運転者に燃費を向上させる操作を把握させ、燃費向上に適した操作を働きかけるための省燃費運転支援装置が開示されている。また、特許文献1においては、運転操作又は走行状態の抽出にエンジン回転数やタイヤ空気圧が含まれることや、タイヤ空気圧が低下している場合に「タイヤ空気圧を適正値にすると燃費が良くなる」とアドバイスすることが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、タイヤ空気圧の低下による燃費低下状況又はタイヤ寿命短縮状況を報知するための車載監視システムが開示されている。このタイヤ空気圧監視システムは、複数のタイヤが取り付けられている車両に設けられ、複数のタイヤの空気圧を監視する。また、タイヤの空気圧を検出する検出装置と、検出された空気圧の低下に応じた燃費低下状況又はタイヤ寿命短縮状況を確定するタイヤ空気圧監視装置と、確定された燃費低下状況又はタイヤ寿命短縮状況を表示する表示部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-163781号公報
【文献】特開2017-87803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されているように、タイヤ空気圧が低下すると車両の燃費が低下することが知られているので、運転者には、車両をメンテナンスする際にタイヤ空気圧を適正値に維持することが求められる。また、車両のメンテナンスを怠っているとタイヤ空気圧の低下が燃費低下に繋がる可能性があるので、運転者には、車両を定期的にメンテナンスすることも求められる。
【0007】
一方、省燃費運転を実現するためには、運転者が単位時間あたりのエンジン回転数[rpm]を適正な範囲内に維持するように気をつけながら運転することが必要になる。したがって、運転者の実際の運転状況が「適正な省燃費運転」の状態であるかどうかを評価する際には、運転中の車両におけるエンジン回転数が適正か否かを正しく識別することが重要になる。
【0008】
しかしながら、省燃費運転を実現するためのエンジン回転数の適正範囲は様々な条件により変化する。例えば、タイヤ空気圧、走行距離、車種、道路勾配、貨物重量などの諸条件の違いがエンジン回転数の適正範囲に影響を及ぼす。そのため、例えば事前に決めた適正範囲と運転中のエンジン回転数とを比較するだけでは正しい評価ができなかった。つまり、運転者が実際には省燃費運転を行っているにもかかわらず、その運転が省燃費運転ではないと誤って評価されたり、実際には省燃費運転の範囲を逸脱して運転しているにもかかわらず、その運転が省燃費運転であると誤って評価されてしまう状況があった。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両状態のばらつきの影響も含めて省燃費運転の状況をより正確に評価することが可能な運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラムは、下記(1)~(7)を特徴としている。
(1) 評価対象車両の運転状況を評価するための運転評価方法であって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を取得し、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲を決定し、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理し、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定し、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲を算出し、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う、
運転評価方法。
【0011】
(2) 評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を保持する第1の保存部と、
前記設定値に基づいてエンジン回転数の適正範囲を第1の適正範囲として算出する第1の算出部と、
不特定の複数の車両から少なくともタイヤ空気圧および走行距離を含むデータを取得して管理する第2の保存部と、
タイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を算出する補正値算出部と、
前記補正値により前記第1の適正範囲を補正して第2の適正範囲を決定する第2の算出部と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲との比較に基づいて運転評価を行う評価部と、
を備える運転評価システム。
【0012】
(3) 前記第2の算出部は、前記評価対象車両における貨物重量、及び道路勾配の少なくとも一方を前記第2の適正範囲に反映する、
上記(2)に記載の運転評価システム。
【0013】
(4) 前記評価対象車両に搭載された車載器と、無線通信により複数の車両を管理可能な管理サーバとを備え、
前記管理サーバ上の前記評価部が前記第2の適正範囲に対するエンジン回転数の逸脱を検知した場合には、前記管理サーバから前記評価対象車両の車載器に対して評価結果を通知する、
上記(2)又は(3)に記載の運転評価システム。
【0014】
(5) 前記評価対象車両におけるタイヤ空気圧の変化の影響を監視してメンテナンス時期を通知する監視部を更に備える、
上記(4)に記載の運転評価システム。
【0015】
(6) 評価対象車両の運転状況を評価するための所定のコンピュータが実行可能な運転評価プログラムであって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値を取得する手順と、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲を決定する手順と、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理する手順と、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定する手順と、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲を算出する手順と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う手順と、
を備える運転評価プログラム。
【0016】
(7) 前記運転評価の結果を報告データとして出力する、上記(1)に記載の運転評価方法。
【0017】
上記(1)の構成の運転評価方法によれば、実績情報を利用することで複数の車両におけるタイヤ空気圧および走行距離の変化の傾向やそれがタイヤ空気圧の設定値に与える実際の影響を把握可能になる。この影響を考慮して決定した補正値により第1の適正範囲を補正することで、より正しい範囲として第2の適正範囲が決定される。したがって、タイヤ空気圧の変化も考慮して正しい運転評価を行うことができる。
【0018】
上記(2)の構成の運転評価システムによれば、第2の保存部が管理するデータを利用することで複数の車両におけるタイヤ空気圧および走行距離の変化の傾向やそれがタイヤ空気圧の設定値に与える実際の影響を把握可能になる。この影響を考慮して決定した補正値により第1の適正範囲を補正することで、より正しい範囲として第2の適正範囲が決定される。したがって、タイヤ空気圧の変化も考慮して正しい運転評価を行うことができる。
【0019】
上記(3)の構成の運転評価システムによれば、評価対象車両における貨物重量を第2の適正範囲に反映することで、貨物重量の影響を考慮した正しい評価が可能になり、評価対象車両における道路勾配を第2の適正範囲に反映することで、道路勾配の影響を考慮した正しい評価が可能になる。
【0020】
上記(4)の構成の運転評価システムによれば、管理サーバを利用することで複数の車両の状態を管理可能になり、省燃費運転の支援のために評価結果を管理サーバから評価対象車両の車載器に通知することができる。
【0021】
上記(5)の構成の運転評価システムによれば、監視部が、タイヤ空気圧の変化の影響を考慮して適切なメンテナンス時期を通知可能になる。
【0022】
上記(6)の構成の運転評価プログラムを例えば車載器やサーバのコンピュータで実行することにより、タイヤ空気圧の変化も考慮して正しい運転評価を行うことができる。すなわち、実績情報を利用することで複数の車両におけるタイヤ空気圧および走行距離の変化がタイヤ空気圧の設定値に与える実際の影響を把握可能になる。この影響を考慮して決定した補正値により第1の適正範囲を補正することで、より正しい範囲として第2の適正範囲が決定される。
【0023】
上記(7)の構成の運転評価方法によれば、タイヤ空気圧の変化も考慮した正しい運転評価に基づく日報、月報、あるいは複数の運転者に対する評価結果のリストなどの報告データを生成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の運転評価方法、運転評価システム、及び運転評価プログラムによれば、車両状態のばらつきの影響も含めて省燃費運転の状況をより正確に評価することが可能になる。すなわち、実績情報を利用することで複数の車両におけるタイヤ空気圧および走行距離の変化の傾向やそれがタイヤ空気圧の設定値に与える実際の影響を把握可能になる。この影響を考慮して決定した補正値により第1の適正範囲を補正することで、より正しい範囲として第2の適正範囲が決定される。
【0025】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施形態に係る運転評価システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、図1の運転評価システムにおける主要部の機能上の構成を示すブロック図である。
図3図3は、各車両に搭載される車載器の動作の概要を示すフローチャートである。
図4図4は、サーバの動作例を示すフローチャートである。
図5図5は、空気圧/走行距離テーブルの構成例を示すブロック図である。
図6図6は、サーバにおけるメンテナンス監視の処理を示すフローチャートである。
図7図7は、経年数、空気圧値と適正エンジン回転値との関係を示すグラフである。
図8図8は、車両における積載量と、適正エンジン回転値と空気圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0028】
<運転評価システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る運転評価システム100の構成例を示すブロック図である。
【0029】
図1に示す運転評価システム100は、トラックなどの各車両10に搭載されているDTG(デジタルタコグラフ)車載器11と、サーバ20とを備えている。DTG車載器11は、輸送会社が管理している多数の車両のそれぞれに搭載されている。サーバ20は、例えば所定のデータセンタ内に設置されているか、あるいは輸送会社の事務所内に設置されている。
【0030】
車両10のDTG車載器11は、無線通信機能を搭載しており、アンテナ13を介して広域通信網35と無線接続することができる。また、サーバ20は、インターネット網30と接続されているので、多数の車両10のそれぞれのDTG車載器11とサーバ20との間で必要に応じて無線通信を行いデータ通信することができる。
【0031】
各車両10は、複数の車輪のそれぞれにタイヤの空気圧を検出する空気圧センサ12を備えている。複数の空気圧センサ12が検出したタイヤ空気圧の情報は、無線通信により同じ車両上のDTG車載器11に入力される。
【0032】
各車両10のDTG車載器11がサーバ20に送信する通信データ31には、一般的なデジタルタコグラフが収集するデータの他に、タイヤ空気圧の情報も含まれている。また、サーバ20が各車両10のDTG車載器11に送信する通信データ32には、省エネ運転の状況を表すアナウンスなどの情報が含まれている。
【0033】
<主要部の機能上の構成>
図2は、図1の運転評価システム100における主要部の機能上の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、DTG車載器11は、一般的なデジタルタコグラフの機能を有するともに、空気圧センサ12、重量センサ14、GPS(Global Positioning System)受信機15などと接続されている。なお、DTG車載器11自体がこれらのセンサ類と一体になっていてもよい。重量センサ14は、車両10に積載した貨物の重量を計測するために利用できる。GPS受信機15は、車両10の現在位置を検出するために利用される。また、車両10の現在位置と道路地図とに基づいて道路の勾配を把握することが可能である。また、道路の勾配については、例えば角速度センサ(ジャイロ)を用いて検出することも可能である。
【0034】
図2に示すサーバ20は、運転評価部22、諸元データベース(DB)23、送信部24、通知部25などを備えている。運転評価部22は、評価対象の車両10のエンジン回転数に基づいて省エネ運転の状況を評価する機能を備えている。省エネ運転の評価結果は、通知部25により評価対象の車両10に通知される。
【0035】
サーバ20の受信部21は、多数の車両10のそれぞれに搭載されたDTG車載器11から必要なデータを取得する。諸元データベース23は、各車両のDTG車載器11から取得したデータに基づいて生成された様々な情報を保持している。送信部24は、必要なデータを各車両10のDTG車載器11に送信することができる。
【0036】
<車載器の動作>
図3は、各車両10に搭載されるDTG車載器11の動作の概要を示すフローチャートである。
DTG車載器11は、それ自身が備えているセンサ類や車両10側のセンサ類から出力される各種信号を例えば定期的に入力して処理することにより、記録すべき各種情報を取得する(S01)。
【0037】
具体的には、車速[km/h]のデータD1、エンジン回転数[rpm]のデータD2、現在位置(緯度/経度)のデータD3、車種のデータD4、貨物重量のデータD5、道路勾配のデータD6、角速度のデータD7、タイヤ空気圧D8、タイヤ空気圧基準値D8r、及び走行距離[km]のデータD9を取得する。
【0038】
データD1、D2、及びD9については、車両10から出力される信号を処理して得ることができる。現在位置のデータD3は、GPS受信機15の測位により取得できる。車種のデータD4は、自車両の種類に合わせた車種の情報を予めDTG車載器11に登録しておくことにより必要な時に取得できる。
【0039】
貨物重量のデータD5は、自車両への荷積み作業の前後において重量センサ14が検出した重量の変化として取得できる。道路勾配のデータD6は、例えば道路勾配を含む道路地図データ上で現在位置に基づいて取得できる。角速度のデータD7は、角速度センサが備わっている場合に必要に応じて取得できる。
【0040】
タイヤ空気圧D8は、空気圧センサ12の検出値として車輪毎にほぼリアルタイムで取得できる。タイヤ空気圧基準値D8rは、自車両の各車輪のタイヤを交換した場合や、各タイヤの空気圧を調整した場合に、その直後のリセット操作により空気圧センサ12が検出したタイヤ空気圧D8の基準値、すなわち設定値を表している。このタイヤ空気圧基準値D8rは、リセット操作により空気圧変更後の新しい値に更新され、空気圧基準値記憶部16に記憶される。したがって、現在のタイヤ空気圧基準値D8rは空気圧基準値記憶部16から取得できる。
【0041】
DTG車載器11は、S01で取得した各データD1~D9を例えば定期的に、無線通信によりサーバ20へ送信する(S02)。
DTG車載器11は、サーバ20から送信されたデータをS03で受信する。また、DTG車載器11はそれ自身の動作状態や、サーバ20から受信したデータに従って、表示処理や音声出力の処理を実施する(S04)。
【0042】
<サーバの動作例>
図4は、サーバ20の動作例を示すフローチャートである。図4に示した動作は、各車両10における省エネ運転の状況を自動的に評価して運転を支援する機能を実現する。図4の動作について以下に説明する。
【0043】
サーバ20は、各車両10のDTG車載器11から前述のデータD1~D9を例えば定期的に取得して複数車両実績DB23aに保存する。
サーバ20は、例えば定期的な処理として複数車両実績DB23a上に蓄積されているデータを処理することにより、省エネ運転の評価に利用可能な空気圧/走行距離テーブル23bを作成する(S12)。また、空気圧/走行距離テーブル23bの内容を逐次更新する。
【0044】
具体例については後述するが、空気圧/走行距離テーブル23bは、タイヤ空気圧および走行距離に関連付けた適切な補正値の一覧を保持するものであり、更に車種別、貨物重量別、道路勾配別にそれぞれ適合する独立したテーブルを有している。このようなテーブルは、複数車両実績DB23aを利用して作成できる。つまり、複数の車両における実績データに基づいて統計的に処理した結果を反映した補正値が空気圧/走行距離テーブル23bに保持される。
【0045】
サーバ20は、多数の車両10のそれぞれを順番に評価対象として選択し、選択した評価対象車両のそれぞれについてS13~S19の処理を実行する。
【0046】
サーバ20は、評価対象車両におけるタイヤ空気圧基準値D8rを複数車両実績DB23aから取得して、その値に基づいて評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲RE1を算出する(S13)。この適正範囲RE1は「適切な省エネ運転」とみなしうる範囲の限界を表す下限値及び上限値を含んでいる。
【0047】
サーバ20は、評価対象車両における車種、貨物重量、道路勾配の各データを複数車両実績DB23aから取得すると共に、これらのデータの条件に適合するテーブルを空気圧/走行距離テーブル23b上で選択し、更に評価対象車両における最新のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定する(S14)。
【0048】
サーバ20は、S14で決定した補正値を用いてS13の適正範囲RE1の下限値及び上限値を補正し、その補正結果をエンジン回転数の適正範囲RE2とする(S15)。
【0049】
サーバ20は、評価対象車両における最新のエンジン回転数のデータD2と、その適正範囲RE2とをS16で比較して範囲内か否かを識別する(S17)。そして、最新のエンジン回転数のデータD2が適正範囲RE2の範囲内であればS18を実行する。その場合は、例えば「省エネ運転が行えています」のメッセージなどを含む運転評価結果をサーバ20が評価対象車両のDTG車載器11に送信する。
【0050】
また、最新のエンジン回転数のデータD2が適正範囲RE2を逸脱している場合にはサーバ20がS19を実行する。その場合は、例えば「NG:運転内容を確認して下さい」のメッセージなどを含む運転評価結果をサーバ20が評価対象車両のDTG車載器11に送信する。
【0051】
<空気圧/走行距離テーブルの構成>
図5は、空気圧/走行距離テーブル23bの構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、この空気圧/走行距離テーブル23bは、条件適合テーブル26と、補正値一覧テーブル27とを備えている。補正値一覧テーブル27は、ほぼ同じ条件の車両におけるタイヤ空気圧および走行距離と適切な補正値との関係の一覧を表すテーブルを車両の条件毎に独立したテーブルとしてそれぞれ保持している。
【0052】
条件適合テーブル26は、評価対象車両の条件に合わせて適切なテーブルを補正値一覧テーブル27から選択するための適合関係を表すデータを保持し、車種選択部26a、貨物重量選択部26b、及び道路勾配選択部26cを有している。
【0053】
車種選択部26aは、評価対象車両の車種の条件に適合する特定のテーブルを補正値一覧テーブル27上で選択する。貨物重量選択部26bは、評価対象車両の貨物重量の条件に適合する特定のテーブルを補正値一覧テーブル27上で選択する。道路勾配選択部26cは、評価対象車両の道路勾配の条件に適合する特定のテーブルを補正値一覧テーブル27上で選択する。
【0054】
したがって、サーバ20の運転評価部22は、評価対象車両における車種の情報、貨物重量の情報、及び道路勾配の情報を空気圧/走行距離テーブル23bに与えることで、補正値一覧テーブル27上で適合する特定のテーブルを選択する事ができる。更に、評価対象車両におけるタイヤ空気圧基準値D8rと、走行距離のデータD9とを特定することで、選択したテーブルから必要な補正値を取得できる。
【0055】
<メンテナンス監視の処理>
図6は、サーバ20におけるメンテナンス監視の処理を示すフローチャートである。図6に示した処理は、監視対象の多数の車両10のそれぞれにおいて、整備不良の発生を防止するための適切なメンテナンス時期を通知するための機能を提供する。なお、図6に示した処理については、図4に示した処理と共に同じサーバ20上で実行することも可能であるが、それぞれ独立したサーバあるいは特別な監視端末上で実行してもよい。
【0056】
サーバ20が、図6に示したメンテナンス監視の処理を実行する場合を想定した動作について以下に説明する。
サーバ20は、監視対象の車両10における諸条件を表すデータD1~D9をS21で取得する。これらのデータは、図3のS02でDTG車載器11から送信される。
【0057】
サーバ20は、最初にタイヤ空気圧の変化の影響を考慮しない従来の一般的な計算式(第1の計算式)を利用して、監視対象の車両10における適正エンジン回転数NE1を算出する(S22)。この適正エンジン回転数NE1は、省燃費の条件を満たす最適なエンジン回転数を表すものであって、監視対象の車両10の車種、貨物重量、及び道路勾配の条件を考慮したものであるが、タイヤ空気圧は影響を及ぼさないことを想定している。
【0058】
続いて、サーバ20は、タイヤ空気圧の変化の影響を考慮した新しい計算式(第2の計算式)を利用して、監視対象の車両10における適正エンジン回転数NE2を算出する(S23)。この適正エンジン回転数NE2は、省燃費の条件を満たす最適なエンジン回転数を表すものであって、監視対象の車両10の車種、貨物重量、及び道路勾配の条件の他に、タイヤ空気圧D8の変化(D8r-D8)の影響も考慮している。
【0059】
サーバ20は、監視対象の車両10におけるタイヤ空気圧の変化に相当する差分ΔNEを次に示す式(1)により算出する(S24)。
ΔNE=NE1-NE2 ・・・ (1)
【0060】
サーバ20は、S24で算出した差分ΔNEと、メンテナンス時期を判定するための条件を表す閾値とをS25で比較する。そして、差分ΔNEがメンテナンス時期の条件を満たす状態になった場合には、サーバ20が次のS26で監視対象の車両10のDTG車載器11に対してメンテナンス時期の接近を通知する。
【0061】
<経年数、空気圧値と適正エンジン回転値との関係>
図7は、経年数、空気圧値と適正エンジン回転値との関係を示すグラフである。
図7に示す適正エンジン回転値71のように、車両の経年数に応じてタイヤの空気圧値が下がる傾向があり、正しい適正エンジン回転値も実際にはタイヤの空気圧値に依存する傾向がある。したがって、図6に示したS23で算出される適正エンジン回転数NE2のようにタイヤの空気圧値を反映した適正エンジン回転値71はより信頼できる適正値である。
【0062】
一方、タイヤの空気圧値の変化とは無関係な計算式に基づいて図7に示す適正エンジン回転値72を算出した場合には、タイヤの空気圧値が一定値の場合と同様の数値が適正エンジン回転値72として算出される。そのため、経年数およびタイヤの空気圧値の変化分に応じて、2種類の適正エンジン回転値71、72の間に図7のような差分が発生する。
【0063】
したがって、2種類の適正エンジン回転値71、72の差分から、実際の車両の状態を反映した経年数やタイヤの空気圧値の変化分を推定することが可能である。
図6に示したメンテナンス管理の処理においては、図7における2種類の適正エンジン回転値71、72の差分に相当するΔNEを、図6のステップS24で算出している。また、S25でΔNEと閾値とを比較している。
【0064】
つまり、図6のS25では適正エンジン回転数NE1、NE2の差分ΔNEから推定される実際の車両における経年数やタイヤの空気圧値の変化分を評価して、メンテナンス時期が近づいたか否かを判定している。これにより、監視対象の車両における整備不良が発生しないように、適切な時期にサーバ20が車両10の運転者や管理者に対してメンテナンスの実行を促すように自動的に提言することができる。
【0065】
実際には、例えば10万km程度の過走行車両において、適正なエンジン回転数が数%程度上昇する傾向があることが判明している。このような変化を差分ΔNEとして検出することにより、図6の処理のように適切なメンテナンス時期の判定に役立てることができる。
【0066】
<積載量と、適正エンジン回転値と空気圧との関係>
図8は、車両における積載量と、適正エンジン回転値と空気圧との関係を示すグラフである。
図8に示した2つの適正エンジン回転値81、82は、それぞれ異なるタイヤ空気圧の状態における適正値の変化を表している。
【0067】
図8に示す2つの適正エンジン回転値81、82のように、省エネ運転のために適正とみなしうるエンジン回転値は積載量に応じて変化する傾向がある。また、タイヤ空気圧の変化により、2つの適正エンジン回転値81、82の間の差分のような影響が現れる。
【0068】
一方、図4に示した動作においては、車種の違い、貨物重量の違い、道路勾配の違いなどを反映した補正値をS14で算出すると共に、タイヤ空気圧の影響を考慮した補正値を用いて補正されたエンジン回転数の適正範囲RE2を算出している。したがって、図8に示したような状況も考慮してS17で省エネ運転を正しく評価することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る運転評価システム100のような運転評価方法を適用する場合には、多数の不特定車両から取得した実績データをデータ処理して適合する車両条件における適切な補正値をS14で取得できる。したがって、車両毎の状態のばらつきの影響を抑制すると共に、多数の車両における同じ種類毎の全体の傾向から、タイヤ空気圧の変化の影響も含めて省エネ運転を正しく評価することができる。
【0070】
また、図4に示すようにサーバ20が評価対象車両における貨物重量や道路勾配の状態を反映するようにS14で補正値を決定するので、貨物重量による適正範囲の変化や道路勾配による適正範囲の変化をエンジン回転数の適正範囲RE2に正しく反映できる。
【0071】
また、エンジン回転数が適正範囲RE2を逸脱した場合には、図14に示すようにサーバ20がS19で評価結果をDTG車載器11に通知するので、評価対象車両を運転している乗務員に対して省エネ運転のための注意を促すことができる。
【0072】
また、図6に示したメンテナンス監視を実施することにより、監視対象の車両における整備不良が発生しないように、適切な時期にサーバ20が車両10の運転者や管理者に対してメンテナンスの実行を促すように自動的に提言することができる。
なお、図3図4図6などに示した各処理手順は、予め用意したプログラムをDTG車載器11、サーバ20などに内蔵されるコンピュータで実行することにより実現できる。
【0073】
また、運転評価システム100は、車両10の運転者に対する評価結果を、日報や月報、あるいは複数の運転者に対する評価結果のリストなどの報告データとして出力するようにしてもよい。
【0074】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る運転評価方法、運転評価システム、運転評価プログラム、及び報告データの特徴をそれぞれ以下[1]~[7]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 評価対象車両の運転状況を評価するための運転評価方法であって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値(タイヤ空気圧基準値D8r)を取得し(S11)、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲(適正範囲RE1)を決定し(S13)、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理し(複数車両実績DB23a)、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定し(S14)、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲(適正範囲RE2)を算出し、
前記評価対象車両のエンジン回転数(データD2)と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う(S16、S17)、
運転評価方法。
【0075】
[2] 評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値(タイヤ空気圧基準値D8r)を保持する第1の保存部(空気圧基準値記憶部16)と、
前記設定値に基づいてエンジン回転数の適正範囲を第1の適正範囲として算出する第1の算出部(S13)と、
不特定の複数の車両から少なくともタイヤ空気圧および走行距離を含むデータを取得して管理する第2の保存部(複数車両実績DB23a、空気圧/走行距離テーブル23b)と、
タイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を算出する補正値算出部(S14)と、
前記補正値により前記第1の適正範囲(適正範囲RE1)を補正して第2の適正範囲(適正範囲RE2)を決定する第2の算出部(S15)と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲との比較に基づいて運転評価を行う評価部(S16、S17)と、
を備える運転評価システム(100)。
【0076】
[3] 前記第2の算出部は、前記評価対象車両における貨物重量、及び道路勾配の少なくとも一方を前記第2の適正範囲に反映する、S14
上記[2]に記載の運転評価システム。
【0077】
[4] 前記評価対象車両に搭載された車載器(DTG車載器11)と、無線通信により複数の車両を管理可能な管理サーバ(サーバ20)とを備え、
前記管理サーバ上の前記評価部(運転評価部22)が前記第2の適正範囲に対するエンジン回転数の逸脱を検知した場合には、前記管理サーバから前記評価対象車両の車載器に対して評価結果を通知する(S17、S19)、
上記[2]又は[3]に記載の運転評価システム。
【0078】
[5] 前記評価対象車両におけるタイヤ空気圧の変化の影響を監視してメンテナンス時期を通知する監視部(サーバ20、S21~S26)を更に備える、
上記[4]に記載の運転評価システム。
【0079】
[6] 評価対象車両の運転状況を評価するための所定のコンピュータが実行可能な運転評価プログラムであって、
前記評価対象車両のタイヤ空気圧の設定値(タイヤ空気圧基準値D8r)を取得する手順(S01、S11)と、
前記設定値に基づいて、前記評価対象車両におけるエンジン回転数の適正範囲を表す第1の適正範囲を決定する手順(S13)と、
不特定の複数の車両から取得したタイヤ空気圧および走行距離を含む実績情報を管理する手順(S11、複数車両実績DB23a、空気圧/走行距離テーブル23b)と、
前記実績情報のタイヤ空気圧および走行距離に基づいて補正値を決定する手順(S14)と、
前記第1の適正範囲を前記補正値で補正して第2の適正範囲を算出する手順(S15)と、
前記評価対象車両のエンジン回転数と、前記第2の適正範囲とを比較した結果に応じて運転評価を行う手順(S16、S17)と、
を備える運転評価プログラム。
【0080】
[7] 上記[2]乃至[5]のいずれかに記載の運転評価システムによって生成された報告データ。
【符号の説明】
【0081】
10 車両
11 DTG車載器
12 空気圧センサ
13 アンテナ
14 重量センサ
15 GPS受信機
16 空気圧基準値記憶部
20 サーバ
21 受信部
22 運転評価部
23 諸元データベース
23a 複数車両実績DB
23b 空気圧/走行距離テーブル
24 送信部
25 通知部
26 条件適合テーブル
26a 車種選択部
26b 貨物重量選択部
26c 道路勾配選択部
27 補正値一覧テーブル
30 インターネット網
31,32 通信データ
35 広域通信網
71,72,81,82 適正エンジン回転値
100 運転評価システム
D8 タイヤ空気圧
D8r タイヤ空気圧基準値
RE1,RE2 適正範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8