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  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20250304BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20250304BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20250304BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20250304BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20250304BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250304BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250304BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250304BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250304BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250304BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20250304BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60W20/50 ZHV
B60W20/20
B60K6/52
B60K6/54
B60K6/442
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/16
B60L15/20 S
B60L3/00 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021102028
(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公開番号】P2023000932
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】奥野 誠也
(72)【発明者】
【氏名】西宇 正弘
(72)【発明者】
【氏名】力石 貴文
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-011137(JP,A)
【文献】特開2020-125843(JP,A)
【文献】特開2014-184880(JP,A)
【文献】特開2013-169917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20-6/547
B60W 10/00-20/50
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪の一方を駆動させる第1駆動装置と、前記前輪および前記後輪の他方を駆動させる第2駆動装置と、を備え、前記第1駆動装置は、内燃機関および第1回転電機の動力を前記前輪および前記後輪の一方に伝達可能に構成され、前記第2駆動装置は、第2回転電機の動力を前記前輪および前記後輪の他方に伝達可能に構成されるハイブリッド車両に適用され、走行中に所定の異常が検出されると、前記内燃機関から出力される動力を用いて前記第1回転電機による発電を行い、前記第1回転電機によって発電された電力だけでは前記第2駆動装置から出力される駆動量を実現することができない場合には、バッテリからの電力も前記第2回転電機に供給されることで、前記第2回転電機を駆動させる退避走行を実行するように構成されているハイブリッド車両の制御装置であって、
前記退避走行の実行中において、前記第1回転電機によって発電される発電電力の指令値と発電された発電電力との差分が増加するほど、前記第2駆動装置から出力される駆動量の上限値が小さくなるように設定し、前記上限値を超えないように前記第2駆動装置から出力される駆動量を制限する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリーズ走行を実行可能なハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前輪を内燃機関および第1回転電機によって駆動させ、後輪を第2回転電機によって駆動させるように構成されるハイブリッド車両が開示されている。また、特許文献1には、上記のように構成されるハイブリッド車両において、内燃機関の動力を用いて第1回転電機による発電を行い、発電された電力を用いて第2回転電機を駆動させて車両を走行させるシリーズ走行モードで走行中に所定の異常が判断されると、第1回転電機の発電量を制限することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-32829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリーズ走行モードで走行中であって、第1回転電機の発電量が制限されている期間に、ドライバの要求に応じた駆動力を出力するように第2回転電機を継続して制御した場合、バッテリの残量が急激に低下し、走行を継続することが困難になる虞がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、内燃機関の動力を用いて第1回転電機による発電を行い、発電された電力を用いて第2回転電機を駆動させて車両を走行させるシリーズ走行モードを実行可能なものにおいて、第1回転電機の発電による発電量が低下した場合であっても、バッテリの残量の急激な低下を抑制して長時間の退避走行を可能にするハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)前輪および後輪の一方を駆動させる第1駆動装置と、前記前輪および前記後輪の他方を駆動させる第2駆動装置と、を備え、前記第1駆動装置は、内燃機関および第1回転電機の動力を前記前輪および前記後輪の一方に伝達可能に構成され、前記第2駆動装置は、第2回転電機の動力を前記前輪および前記後輪の他方に伝達可能に構成されるハイブリッド車両に適用され、走行中に所定の異常が検出されると、前記内燃機関から出力される動力を用いて前記第1回転電機による発電を行い、前記第1回転電機によって発電された電力だけでは前記第2駆動装置から出力される駆動量を実現することが実現できない場合には、バッテリからの電力も前記第2回転電機に供給されることで、前記第2回転電機を駆動させる退避走行を実行するように構成されているハイブリッド車両の制御装置であって、(b)前記退避走行の実行中において、前記第1回転電機によって発電される発電電力の指令値と発電された発電電力との差分が増加するほど、前記第2駆動装置から出力される駆動量の上限値が小さくなるように設定し、前記上限値を超えないように前記第2駆動装置から出力可能な駆動量を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、退避走行の実行中において、第1回転電機によって発電される発電電力の指令値と発電された発電電力との差分が増加するほど、前記第2駆動装置から出力される駆動量の上限値が小さくなるように設定し、前記上限値を超えないように第2駆動装置から出力可能な駆動量が制限されるため、第1回転電機によって発電される発電電力が低下した場合であっても、第2駆動装置から出力される駆動量が制限されることで、第2回転電機で消費される電力の消費量が低減される。その結果、退避走行中の電力の急激な消費が抑制され、長時間の退避走行が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用されるハイブリッド車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を説明する図である。
図2】発電電力の指令値と実際値との差分に基づいて駆動パワーの上限値を設定するときに使用される関係マップの一態様である。
図3】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、自動変速機等の異常が検知されたことで退避走行を実行するときの制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、更に好適な態様として、第1回転電機および第2回転電機に電力を授受する蓄電装置が備えられ、退避走行時において、第2回転電機には、第1回転電機によって発電された発電電力および前記蓄電装置からの電力が供給されるように構成されている。
【0010】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0011】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両10(以下、車両10)の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、前輪14の駆動力源であるエンジン12およびフロント回転電機FrMGと、後輪16の駆動力源であるリヤ回転電機RrMGと、を備えたハイブリッド車両である。車両10は、エンジン12と前輪14との間の動力伝達経路に設けられたフロントユニット18と、後輪16を駆動させるためのリヤユニット20と、を備えている。尚、フロントユニット18が本発明の前輪および後輪の一方を駆動させる第1駆動装置に対応し、リヤユニット20が本発明の前輪および後輪の他方を駆動させる第2駆動装置に対応している。
【0012】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置22が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0013】
フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。
【0014】
フロント回転電機FrMGは、フロントインバータ24(FrPCU)およびシステムメインリレー26(SMR)を介して、HEVバッテリ28に接続されている。フロント回転電機FrMGは、後述する電子制御装置100によってフロントインバータ24が制御されることにより、フロント回転電機FrMGの出力トルクであるFrMGトルクTmFrが制御される。FrMGトルクTmFrは、例えばフロント回転電機FrMGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側の正トルクは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。
【0015】
フロント回転電機FrMGは、エンジン12に代えて或いはエンジン12に加えて、フロントインバータ24およびシステムメインリレー26を介してHEVバッテリ28から供給される電力により走行用の動力を発生する。又、フロント回転電機FrMGは、エンジン12の動力や前輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。フロント回転電機FrMGの発電により発生させられた電力は、フロントインバータ24およびシステムメインリレー26を介してHEVバッテリ28に蓄電される。もしくは、フロント回転電機FrMGの発電により発生させられた電力がリヤ回転電機RrMGに供給され、リヤ回転電機RrMGが駆動させられる。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。又、前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0016】
リヤ回転電機RrMGは、リヤインバータ30(RrPCU)およびシステムメインリレー26(SMR)を介して、HEVバッテリ28に接続されている。リヤ回転電機RrMGは、後述する電子制御装置100によってリヤインバータ30が制御されることにより、リヤ回転電機RrMGの出力トルクであるRrMGトルクTmRrが制御される。RrMGトルクTmRrは、例えばリヤ回転電機RrMGの回転方向が前進走行時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側の正トルクは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。
【0017】
リヤ回転電機RrMGは、リヤインバータ30およびシステムメインリレー26を介してHEVバッテリ28から供給される電力、又は、フロント回転電機FrMGによって発電された電力、により走行用の動力を発生する。又、リヤ回転電機RrMGは、後輪16側から入力される被駆動力により発電を行う。リヤ回転電機RrMGの発電により発生させられた電力は、リヤインバータ30およびシステムメインリレー26を介してHEVバッテリ28に蓄電される。HEVバッテリ28は、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGに対して電力を授受する蓄電装置である。
【0018】
フロントユニット18は、エンジン12およびフロント回転電機FrMGの動力を前輪14に伝達可能に構成されている。フロントユニット18は、エンジン12、K0クラッチ34(K0)、入力クラッチ36(WSC)、および自動変速機38等を備えている。K0クラッチ34(K0)、入力クラッチ36(WSC)、および自動変速機38は、それぞれ車体に取り付けられる非回転部材であるケース32内に収容されている。K0クラッチ34は、エンジン12と前輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12とフロント回転電機FrMGとの間に設けられたクラッチである。入力クラッチ36は、エンジン12およびフロント回転電機FrMGと前輪14との間の動力伝達経路上におけるK0クラッチ34と自動変速機38との間に設けられたクラッチである。自動変速機38は、入力クラッチ36に接続されており、入力クラッチ36と前輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。又、フロントユニット18は、自動変速機38の出力回転部材40に連結されたデファレンシャル装置42(DIFF)、および、前輪14に連結された左右一対の前輪車軸44等を備えている。又、フロントユニット18は、エンジン12とK0クラッチ34との間を連結するエンジン連結軸46、K0クラッチ34と入力クラッチ36との間を連結する回転電機連結軸48、および自動変速機38の変速機入力軸50、を備えている。
【0019】
フロント回転電機FrMGは、ケース32内において、回転電機連結軸48に動力伝達可能に連結されている。フロント回転電機FrMGは、エンジン12と前輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ34と入力クラッチ36との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、フロント回転電機FrMGは、K0クラッチ34を介することなく、入力クラッチ36および自動変速機38に動力伝達可能に接続されている。
【0020】
自動変速機38は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数個の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路52から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0021】
自動変速機38は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機38は、後述する電子制御装置100によって、ドライバ(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸50の回転速度であり、自動変速機38の入力回転速度である。AT出力回転速度Noは、自動変速機38の出力回転部材40の回転速度であり、自動変速機38の出力回転速度である。
【0022】
K0クラッチ34は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される、湿式又は乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ34は、後述する電子制御装置100により係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ34は、油圧制御回路52から供給されるK0油圧PRk0によりK0クラッチ34のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0023】
入力クラッチ36は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される、湿式または乾式の摩擦係合装置である。入力クラッチ36は、後述する電子制御装置100により係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。入力クラッチ36は、油圧制御回路52から供給されるWSC油圧PRwscにより入力クラッチ36のトルク容量であるWSCトルクTwscが変化させられることで、制御状態が切り替えられる。
【0024】
K0クラッチ34の係合状態では、エンジン連結軸46および回転電機連結軸48を介して、エンジン12とフロント回転電機FrMGとが動力伝達可能に接続される。すなわち、K0クラッチ34は、係合されることにより、エンジン12とフロント回転電機FrMGとを動力伝達可能に接続する。一方、K0クラッチ34の解放状態では、エンジン12とフロント回転電機FrMGとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、K0クラッチ34は、解放されることにより、エンジン12とフロント回転電機FrMGとの間の連結を切り離す。つまり、K0クラッチ34は、係合されることによってエンジン12とフロント回転電機FrMGとを連結する一方で、解放されることによってエンジン12とフロント回転電機FrMGとの間の連結を切り離す断接用クラッチである。
【0025】
入力クラッチ36の係合状態では、回転電機連結軸48と変速機入力軸50とが接続される。このとき、フロント回転電機FrMGが、回転電機連結軸48、入力クラッチ36、変速機入力軸50、出力回転部材40、デファレンシャル装置42、および前輪車軸44を介して前輪14に動力伝達可能に接続される。又、K0クラッチ34および入力クラッチ36の係合状態では、フロント回転電機FrMGに加えて、エンジン12が、回転電機連結軸48、入力クラッチ36、変速機入力軸50、出力回転部材40、デファレンシャル装置42、および前輪車軸44を介して前輪14に動力伝達可能に接続される。一方で、入力クラッチ36の解放状態では、回転電機連結軸48と変速機入力軸50との間が遮断される。すなわち、入力クラッチ36は、係合されることによりエンジン12およびフロント回転電機FrMGと前輪14との間を接続する一方、解放されることによりエンジン12およびフロント回転電機FrMGと前輪14との間を切り離す断接用クラッチである。
【0026】
フロントユニット18において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ34および入力クラッチ36が係合されている場合に、エンジン連結軸46、回転電機連結軸48、変速機入力軸50、自動変速機38、出力回転部材40、デファレンシャル装置42、および前輪車軸44を順次経由して前輪14に伝達される。又、フロント回転電機FrMGから出力される動力は、入力クラッチ36が係合されている場合に、回転電機連結軸48、変速機入力軸50、自動変速機38、出力回転部材40、デファレンシャル装置42、および前輪車軸44を順次経由して前輪14に伝達される。
【0027】
一方、入力クラッチ36が解放されている場合、エンジン12およびフロント回転電機FrMGと前輪14との間の動力伝達経路が遮断され、エンジン12およびフロント回転電機FrMGの動力が前輪14に伝達されなくなる。又、K0クラッチ34が解放される一方で、入力クラッチ36が係合されている場合、フロント回転電機FrMGの動力が自動変速機38等を介して前輪14に伝達される一方で、エンジン12の動力が前輪14に伝達されなくなる。又、K0クラッチ34が係合される一方で、入力クラッチ36が解放されている場合、エンジン12およびフロント回転電機FrMGの動力が前輪14に伝達されないものの、エンジン12とフロント回転電機FrMGとが動力伝達可能に連結される。このとき、エンジン12の動力によってフロント回転電機FrMGで発電することができる。
【0028】
リヤユニット20は、リヤ回転電機RrMGの動力を後輪16に伝達可能に構成されている。リヤユニット20は、後述する電子制御装置100によって制御されるリヤインバータ30、リヤ回転電機RrMG、および左右の後輪16に連結されている左右一対の後輪車軸54等を備えている。リヤ回転電機RrMGは、直接または図示しない減速機等を介して左右一対の後輪車軸54に連結されている。従って、リヤ回転電機RrMGは、後輪車軸54等を介して後輪16に動力伝達可能に接続されることで、リヤ回転電機RrMGから出力される動力が、後輪車軸54等を介して後輪16に伝達される。
【0029】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60を備えている。MOP58は、例えば回転電機連結軸48に歯車等を介して動力伝達可能に接続されており、エンジン12およびフロント回転電機FrMGの少なくとも一方により回転駆動させられてフロントユニット18にて用いられる作動油を吐出する。EOP60は、図示しないポンプ用モータにより回転駆動させられて作動油を吐出する。MOP58およびEOP60が吐出した作動油は、油圧制御回路52に供給される。油圧制御回路52は、MOP58およびEOP60が吐出した作動油を元にして、各々調圧したCB油圧PRcb、K0油圧PRk0、WSC油圧PRwscなどを供給する。
【0030】
車両10は、更に、走行制御などに関連する車両10の制御装置を含む電子制御装置100(制御装置)を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、回転電機制御用、油圧制御用等の各ECUを含んで構成される。
【0031】
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、入力回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、FrMG回転速度センサ76、RrMG回転速度センサ78、アクセル開度センサ80、スロットル弁開度センサ82、ブレーキスイッチ84、バッテリセンサ86、油温センサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、自動変速機38の変速機入力軸50の回転速度であるAT入力回転速度Ni、自動変速機38の出力回転部材40の回転速度であり、車速Vに対応するAT出力回転速度No、フロント回転電機FrMGの回転速度であるFrMG回転速度NmFr、リヤ回転電機RrMGの回転速度であるRrMG回転速度NmRr、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、HEVバッテリ28のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路52内の作動油の温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0032】
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置22、フロントインバータ24、リヤインバータ30、油圧制御回路52、システムメインリレー26など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、フロント回転電機FrMGを制御する為のFrMG制御指令信号SmFr、リヤ回転電機RrMGを制御する為のRrMG制御指令信号SmRr、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ34を制御する為のK0油圧制御指令信号Sko、入力クラッチ36を制御する為のWSC油圧制御指令信号Swsc、システムメインリレー26の断接状態を切り替える為のリレー切替指令信号Ssmrなど)が、それぞれ出力される。システムメインリレー26は、車両10の電源スイッチがオン状態に切り替えられるとリレー切替指令信号Ssmrによって接続状態に切り替えられ、HEVバッテリ28からの電力供給が可能になる。
【0033】
電子制御装置100は、車両10における各種走行制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部102、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部104、および変速制御手段すなわち変速制御部106を備えている。
【0034】
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部102aとしての機能と、フロントインバータ24を介してフロント回転電機FrMGの作動を制御するFr回転電機制御手段すなわちFr回転電機制御部102bとしての機能と、リヤインバータ30を介してリヤ回転電機RrMGの作動を制御するRr回転電機制御手段すなわちRr回転電機制御部102cとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、フロント回転電機FrMG、およびリヤ回転電機RrMGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0035】
ハイブリッド制御部102は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば前輪14および後輪16における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]、自動変速機38の出力回転部材40における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出において、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0036】
ハイブリッド制御部102は、伝達損失、補機負荷、自動変速機38の変速比γat、HEVバッテリ28の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seと、フロント回転電機FrMGを制御する為のFrMG制御指令信号SmFrと、リヤ回転電機RrMGを制御する為のRrMG制御指令信号SmRrと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。FrMG制御指令信号SmFrは、例えばそのときのFrMG回転速度NmFrにおけるFrMGトルクTmFrを出力するフロント回転電機FrMGの消費電力WmFrの指令値である。又、RrMG制御指令信号SmRrは、例えばそのときのRrMG回転速度NmRrにおけるRrMGトルクTmRrを出力するリヤ回転電機RrMGの消費電力WmRrの指令値である。
【0037】
HEVバッテリ28の充電可能電力Winは、HEVバッテリ28の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、HEVバッテリ28の入力制限を示している。HEVバッテリ28の放電可能電力Woutは、HEVバッテリ28の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、HEVバッテリ28の出力制限を示している。HEVバッテリ28の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbatおよびHEVバッテリ28の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置100により算出される。HEVバッテリ28の充電状態値SOCは、HEVバッテリ28の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置100により算出される。
【0038】
ハイブリッド制御部102は、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGの少なくとも一方の出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=BEV走行)モードとする。ハイブリッド制御部102は、BEV走行モードでは、K0クラッチ34の解放状態および入力クラッチ36の係合状態で、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGの少なくとも一方を駆動力源として走行するBEV(Battery Electric Vehicle)走行を行う。
【0039】
一方で、ハイブリッド制御部102は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HEV走行)モードとする。ハイブリッド制御部102は、HEV走行モードでは、K0クラッチ34および入力クラッチ36の係合状態で、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行を行う。又、ハイブリッド制御部102は、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGの少なくとも一方の出力で要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、HEVバッテリ28の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してHEVバッテリ28を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部102は、要求駆動トルクTrdemや要求駆動パワーPrdem等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
【0040】
又、ハイブリッド制御部102は、車両10の走行状態に応じて、前輪14および後輪16の駆動力を分配し、適切な走行性能が得られるように制御する。ハイブリッド制御部102は、例えば車両発進時、加速時、滑りやすい低μ路の走行時などにおいては、前輪14の駆動に加えて後輪16を駆動させて車両10を走行させる、四輪駆動走行を実行する。このとき、ハイブリッド制御部102は、車両10の走行状態に基づいて適切な前後輪の駆動力配分比を算出し、前後輪の駆動力配分が算出された駆動力配分比となるように、エンジン12、フロント回転電機FrMG、およびリヤ回転電機RrMGの出力を制御する。例えば、HEV走行モードで走行中において、エンジン12の動力を駆動力として前輪14に伝達するとともに、エンジン12の動力の一部がフロント回転電機FrMGに伝達されることで、フロント回転電機FrMGによる発電が行われる。さらに、フロント回転電機FrMGで発電された発電電力WgFrがリヤ回転電機RrMGに供給されることで、リヤ回転電機RrMGが駆動されて車両10が走行させられる。
【0041】
又、ハイブリッド制御部102は、低車速領域や低負荷領域において、K0クラッチ34が係合される一方で入力クラッチ36が解放された状態で、エンジン12の動力を用いてフロント回転電機FrMGによる発電を行い、フロント回転電機FrMGで発電された発電電力WgFrによってリヤ回転電機RrMGを駆動させて走行する、シリーズ走行を実行することができる。このとき、入力クラッチ36が解放されているため、前輪14には駆動力が伝達されない。又、フロント回転電機FrMGで発電された発電電力WgFrが、リヤ回転電機RrMGおよびHEVバッテリ28にそれぞれ分配される。例えば、フロント回転電機FrMGによって発電された発電電力WgFrのうち、要求駆動パワーPrdemが実現されるだけの電力がリヤ回転電機RrMGに供給され、残りの電力がHEVバッテリ28に供給される。上述したような、エンジン12の動力が専らフロント回転電機FrMGの発電に使用され、発電された発電電力WgFrがリヤ回転電機RrMGに供給されて車両10が走行される走行態様をシリーズ走行モードと称する。
【0042】
また、ハイブリッド制御部102は、減速走行時には、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGの回生でエネルギを回収しつつ走行する、回生走行を実行する。
【0043】
クラッチ制御部104は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するHEV走行中には、K0クラッチ34および入力クラッチ36を係合させることで、エンジン12の動力を前輪14に動力伝達可能な状態に切り替える。又、クラッチ制御部104は、モータ走行時には、K0クラッチ34を解放する一方で入力クラッチ36を係合させることで、フロント回転電機FrMGおよびリヤ回転電機RrMGによる走行を可能な状態に切り替える。又、クラッチ制御部104は、減速走行時には、フロント回転電機FrMGによる回生が可能になるように、入力クラッチ36を係合させてフロント回転電機FrMGと前輪14との間を動力伝達可能な状態に切り替える。又、クラッチ制御部104は、シリーズ走行モードで走行時には、K0クラッチ34を係合させる一方で、入力クラッチ36を解放させることで、エンジン12の動力がフロント回転電機FrMGに伝達される一方で、前輪14への駆動力伝達が遮断される状態に切り替える。
【0044】
変速制御部106は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機38の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機38の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路52へ出力する。前記変速マップは、例えば車速Vおよび要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機38の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0045】
ところで、例えばHEV走行モードで走行中に、自動変速機38の故障など所定の異常が検出されると、ハイブリッド制御部102は、退避走行として、走行モードをHEV走行モードからシリーズ走行モードに切り替える。従って、エンジン12から出力される動力がフロント回転電機FrMGに伝達されてフロント回転電機FrMGによる発電が行われ、フロント回転電機FrMGによって発電された発電電力WgFrがリヤ回転電機RrMGに供給される。さらに、フロント回転電機FrMGによって発電された発電電力WgFrを用いてリヤ回転電機RrMGが駆動させられることで、リヤ回転電機RrMGの駆動による退避走行が実行される。このとき、リヤ回転電機RrMGには、要求駆動パワーPrdemが実現される電力が供給され、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFrだけでは要求駆動パワーPrdemを実現することができない場合には、ドライバによる要求駆動パワーPrdemを満たすためにHEVバッテリ28からも電力が供給される。すなわち、リヤ回転電機RrMGから出力される駆動パワーPRrは、下式(1)で示される。式(1)において、WgFrはフロント回転電機FrMGの発電電力を示し、Wbatは、HEVバッテリ28から放電される放電電力を示している。式(1)に示されるように、フロント回転電機FrMGの発電電力WgFrおよびHEVバッテリ28の放電電力Wbatの総和が、リヤ回転電機RrMGの駆動パワーPRrと等価となる。
PRr=WgFr+Wbat・・・(1)
【0046】
ここで、退避走行で走行中にエンジン12やフロント回転電機FrMGに異常が発生し、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFrが低下すると、要求駆動パワーPrdemを実現させるためにHEVバッテリ28から放出される放電電力Wbatが増加する。すなわち、式(1)において発電電力WgFrが低下すると、駆動パワーPRrを確保するためにHEVバッテリ28の放電電力Wbatを増加させる必要がある。その結果、HEVバッテリ28の充電量である充電状態値SOCの低下が速まり、車両10の退避走行を実行可能な時間が短くなる虞がある。これに対して、ハイブリッド制御部102は、退避走行の実行中において、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFr(発電量)に応じて、リヤユニット20から出力可能な駆動パワーPr(駆動量)を制限する。見方を替えれば、発電電力WgFrに応じて、リヤ回転電機RrMGから出力可能な駆動パワーPRrを制限する。その結果、HEVバッテリ28から放出される放電電力Wbatの急激な増加を抑制することができ、長時間の退避走行が可能になる。以下、走行中に所定の異常が検知されたことで退避走行が実行されるときの制御について説明する。
【0047】
ハイブリッド制御部102は、自動変速機38に備えられる係合装置CBへ供給されるCB油圧PRcbを制御するソレノイドに異常が発生し、前輪14に動力を伝達することが困難になるなどの所定の異常が検出されると、退避走行としてシリーズ走行モードへの切替を判断する。このとき、クラッチ制御部104は、現在の走行モードを判断し、現在の走行モードがシリーズ走行モード以外の走行モードである場合には、K0クラッチ34を係合状態とするとともに、入力クラッチ36を解放状態とすることで、走行モードをシリーズ走行モードに切り替える。尚、既にシリーズ走行モードで走行中の場合には、シリーズ走行モードが維持される。
【0048】
走行モードがシリーズ走行モードに切り替えられると、ハイブリッド制御部102は、フロント回転電機FrMGの発電電力WgFrの指令値WgFrdemと実際の発電電力WgFrとの差分ΔWgFr(=WgFrdem-WgFr)を算出し、差分ΔWgFrが予め設定されている判定閾値α以上であるか否かを判定する。判定閾値αは、フロント回転電機FrMGによる発電電力WgFrが低下することで、リヤユニット20から出力可能な駆動パワーPrを制限する必要があると判断される値に設定されている。見方を替えれば、判定閾値αは、リヤ回転電機RrMGから出力可能な駆動パワーPRrを制限する必要があると判断される値に設定されている。ハイブリッド制御部102は、差分ΔWgFrが判定閾値α以上になった場合には、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFrに応じて、リヤユニット20から出力可能な駆動パワーPrを制限する。
【0049】
ハイブリッド制御部102は、例えば発電電力WgFrの指令値WgFrdemと発電された発電電力WgFrとの差分ΔWgFr(=WgFrdem-WgFr)に基づいて決定される、リヤユニット20から出力可能な駆動パワーPrの上限値Prlimを設定し、駆動パワーPrが設定された上限値Prlimを超えないように駆動パワーPrを制限する。例えば、アクセル開度θaccおよび車速V等に基づいて決定される要求駆動パワーPrdemが上限値Prlimよりも大きい場合には、要求駆動パワーPrdemが上限値Prlimに補正(制限)される。従って、駆動パワーPrが上限値Prlimを超えないように制御されることで、リヤユニット20から出力可能な駆動パワーPrが制限される。
【0050】
上限値Prlimは、例えば図2に示すような関係マップに基づいて決定される。図2の関係マップに示すように、差分ΔWgFrが増加するほど上限値Prlimが小さくなるように設定されている。従って、フロント回転電機FrMGで発電される発電電力WgFrが低下するほど差分ΔWgFrが増加するため、発電電力WgFrが低下するほど上限値Prlimが小さくなる。その結果、差分ΔWgFrが増加するほど、すなわち発電電力WgFrが低下するほど駆動パワーPrの制限量が増加することとなる。
【0051】
ハイブリッド制御部102は、駆動パワーPrが上限値Prlimを超えない範囲でリヤ回転電機RrMGの駆動パワーPRrを算出する。次いで、ハイブリッド制御部102は、リヤ回転電機RrMGから算出された駆動パワーPRrが出力されるために必要なHEVバッテリ28からの放電電力Wbatを、式(1)等の関係から算出する。このとき、駆動パワーPrが上限値Prlimに制限されるに伴い、リヤ回転電機RrMGから出力される駆動パワーPRrが小さくなるため、HEVバッテリ28から放電される放電電力Wbatが(駆動パワーPrが制限されない場合に比べて)減少する。その結果、HEVバッテリ28の充電状態値SOCの急激な低下が抑制される。
【0052】
図3は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、自動変速機38等の異常が検知されたことで退避走行を実行するときの制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、異常の検知に伴って、退避走行としてシリーズ走行モードで走行される間に実行される。
【0053】
図3において、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するステップ(以下ステップを省略する)S10において、退避走行を実行するに当たって、現在の走行モードがシリーズ走行モードであるか否かが判定される。S10の判定が肯定される場合、S30に進む。S10の判定が否定される場合、クラッチ制御部104の制御機能に対応するS20において、走行モードがシリーズ走行モードに切り替えられる。具体的には、K0クラッチ34が係合されるとともに、入力クラッチ36が解放されることで、走行モードがシリーズ走行モードに切り替えられる。次いで、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するS30では、フロント回転電機FrMGの発電電力WgFrの指令値WgFrdemと実際の発電電力WgFrとの差分ΔWgFrが判定閾値α以上であるか否かに基づいて、フロント回転電機FrMGの発電量である発電電力WgFrが低下した状態であるか否かが判定される。S30の判定が否定される場合、S50に進む。S30の判定が肯定される場合、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するS40において、駆動パワーPrがフロント回転電機FrMGの発電電力WgFrに応じて制限される。例えば、発電電力WgFrの指令値WgFrdemと実際の発電電力WgFrとの差分ΔWgFrが算出され、この差分ΔWgFrに応じた駆動パワーPrの上限値Prlimが設定されることで、駆動パワーPrが制限される。ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するS50では、アクセル開度θacc等に基づいて設定される要求駆動パワーPrdemが上限値Prlimを超えた場合には、要求駆動パワーPrdemが上限値Prlimに制限され、制限された要求駆動パワーPrdemに基づいてリヤ回転電機RrMGの駆動パワーPRrが算出される。次いで、上述した式(1)に基づいてHEVバッテリ28から放電される放電電力Wbatが算出され、フロント回転電機FrMGの発電電力WgFrおよびHEVバッテリ28からの放電電力Wbatによってリヤ回転電機RrMGが駆動させられる。このように、フロント回転電機FrMGの発電電力WgFrが低下する場合には、差分ΔWgFrに応じて駆動パワーPrが制限されることで、リヤ回転電機RrMGの駆動パワーPRrについても制限されるため、HEVバッテリ28から放電される放電電力Wbatが、駆動パワーPRrが制限されない場合に比べて低減されることとなる。
【0054】
上述のように、本実施例によれば、退避走行であるシリーズ走行の実行中において、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFrに応じてリヤユニット20から出力可能な駆動パワーPrが制限されるため、フロント回転電機FrMGによって発電される発電電力WgFrが低下した場合であっても、リヤユニット20から出力される駆動パワーPrが制限されることで、リヤ回転電機RrMGで消費される電力の消費量が低減される。その結果、退避走行中の電力の急激な消費が抑制され、長時間の退避走行が可能になる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
例えば、前述の実施例では、ハイブリッド車両10は、エンジン12およびフロント回転電機FrMGによって前輪14が駆動され、リヤ回転電機RrMGによって後輪16が駆動されるように構成されるものであったが、エンジン12およびリヤ回転電機RrMGによって後輪16が駆動され、フロント回転電機FrMGによって前輪14が駆動されるように構成され、シリーズ走行時には、エンジン12の動力がリヤ回転電機RrMGに伝達されることでリヤ回転電機RrMGによる発電が行われ、リヤ回転電機RrMGによって発電された電力がフロント回転電機FrMGに供給されてフロント回転電機FrMGが駆動される(すなわち前輪14が駆動される)ように構成されるものであっても構わない。この場合には、エンジン12およびリヤ回転電機RrMGによって第1駆動装置が構成され、フロント回転電機FrMGによって第2駆動装置が構成されることとなる。
【0057】
また、前述の実施例では、回転電機連結軸48と変速機入力軸50との間に入力クラッチ36が介在されるものであったが、入力クラッチ36は必ずしも必要ではなく省略されて実施されても構わない。入力クラッチ36が省略される場合であっても、自動変速機38の係合装置CBの係合状態を制御して自動変速機38をニュートラル状態に切り替えることで、入力クラッチ36が解放された状態と実質的に同じ状態とすることができる。
【0058】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン(内燃機関)
14:前輪
16:後輪
18:フロントユニット(第1駆動装置)
20:リヤユニット(第2駆動装置)
100:電子制御装置(制御装置)
FrMG:フロント回転電機(第1回転電機)
RrMG:リヤ回転電機(第2回転電機)
図1
図2
図3