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特許7643963コンクリート保護用水系コーティング剤及びコンクリート保護膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】コンクリート保護用水系コーティング剤及びコンクリート保護膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/63 20060101AFI20250304BHJP
   C09D 107/02 20060101ALI20250304BHJP
   C09D 109/04 20060101ALI20250304BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20250304BHJP
【FI】
C04B41/63
C09D107/02
C09D109/04
C09D7/43
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021117805
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013548
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕章
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-176482(JP,A)
【文献】特開平10-060318(JP,A)
【文献】特開2006-002102(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049565(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/029403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/63
C09D 107/02
C09D 109/04
C09D 7/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックス(A)と、
カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)と、
を含有し、下記条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす、コンクリート保護用水系コーティング剤。
(ア)樹脂固形分換算における前記天然ゴムラテックス(A)と前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.1~3
(イ)前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)のガラス転移温度が0℃以下
(ウ)前記コンクリート保護用水系コーティング剤を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atm以下
【請求項2】
さらに、チキソトロピック剤を含む、請求項1に記載のコンクリート保護用水系コーティング剤。
【請求項3】
前記チキソトロピック剤が、水系会合系シックナーである、請求項2に記載のコンクリート保護用水系コーティング剤。
【請求項4】
天然ゴムラテックス(A)と、
カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)と、
を含有し、下記条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす、コンクリート保護用水系コーティング剤をコンクリート表面に付与して塗膜を形成する付与工程を含む、コンクリート保護膜の形成方法。
(ア)樹脂固形分換算における前記天然ゴムラテックス(A)と前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.1~3
(イ)前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)のガラス転移温度が0℃以下
(ウ)前記コンクリート保護用水系コーティング剤を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atm以下
【請求項5】
前記乾燥塗膜の膜厚が、0.05mm~3mmである、請求項4に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項6】
前記コンクリート保護用水系コーティング剤が、さらに、チキソトロピック剤を含む、請求項4又は請求項5に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項7】
前記付与工程において、前記天然ゴムラテックス(A)及び前記カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)を含む混合液と、前記チキソトロピック剤と、を衝突混合させて、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を得る、請求項6に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項8】
前記チキソトロピック剤が、水系会合系シックナーである、請求項6又は請求項7に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項9】
前記付与工程において、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を前記コンクリート表面に塗布して、前記塗膜を形成する、請求項4~請求項8のいずれか一項に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項10】
前記付与工程において、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を前記コンクリート表面にスプレー噴射して、前記塗膜を形成する、請求項4~請求項8のいずれか一項に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項11】
前記付与工程において、基材上に設けられた前記コンクリート保護用水系コーティング剤を含む転写膜を前記コンクリート表面に転写して、前記塗膜を形成する、請求項4~請求項8のいずれか一項に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【請求項12】
さらに、前記付与工程において形成された前記塗膜を乾燥する乾燥工程を含む、請求項4~請求項11のいずれか一項に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート保護用水系コーティング剤及びコンクリート保護膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートはその施工時に、高品質化、高耐久化、ひび割れ防止などの観点からその表面に対し“養生”が行われている。コンクリートの養生は、セメントを十分に硬化させ所定の強度を付与するために、コンクリート中の水分を維持してセメントの水和に適切な温度を保つために行われる。
【0003】
コンクリートの養生にはビニール袋にいれて水の中に浸漬したり、水散布や浸水処理等が利用されており、例えば、保水層を有する養生シートなども用いられている。このようなコンクリートのひび割れの発生を防止する技術としては、例えば、脱型後、プラスチックフィルムなどの基材層を有する粘着テープをコンクリート表面に貼り付けて養生する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、養生シートを用いる以外の技術としては、水分散系ポリエステルを主成分とする皮膜養生剤を塗布したコンクリート製造方法(例えば、特許文献2参照)などが開発されている。さらに、養生方法以外にも、コンクリートの表面処理に関しては種々の技術が開発されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-255670号公報
【文献】特開2014-028729号公報
【文献】特開2010-084454号公報
【文献】特開2011-057802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
養生シートを用いた技術は容易に施工できるなど利点も多い。一方、養生シートは、コンクリートの表面に凹凸があると貼りづらく、また、風や乾燥ではがれてしまったり、鉄筋が出ているところは腐食するなど課題も多い。
また、水分散系の材料を用いたコンクリトート表面に皮膜を形成する技術については、材料の取り扱い性や安全性の観点から利点が多い。しかし、これら技術には、皮膜とコンクリートとの密着性や水蒸気バリア性など未だ改善の余地がある。
【0007】
上述の問題を解決すべく、本発明は、接着性及び水蒸気バリア性に優れた膜を形成可能なコンクリート保護用水系コーティング剤及びコンクリート保護膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
天然ゴムラテックス(A)と、
カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)と、
を含有し、下記条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす、コンクリート保護用水系コーティング剤。
(ア)樹脂固形分換算における前記天然ゴムラテックス(A)と前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.1~3
(イ)前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)のガラス転移温度が0℃以下
(ウ)前記コンクリート保護用水系コーティング剤を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atm以下
[2]
さらに、チキソトロピック剤を含む、前記[1]に記載のコンクリート保護用水系コーティング剤。
[3]
前記チキソトロピック剤が、水系会合系シックナーである、前記[2]に記載のコンクリート保護用水系コーティング剤。
[4]
天然ゴムラテックス(A)と、
カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)と、
を含有し、下記条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす、コンクリート保護用水系コーティング剤をコンクリート表面に付与して塗膜を形成する付与工程を含む、コンクリート保護膜の形成方法。
(ア)樹脂固形分換算における前記天然ゴムラテックス(A)と前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.1~3
(イ)前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)のガラス転移温度が0℃以下
(ウ)前記コンクリート保護用水系コーティング剤を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atm以下
[5]
前記乾燥塗膜の膜厚が、0.05mm~3mmである、前記[4]に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[6]
前記コンクリート保護用水系コーティング剤が、さらに、チキソトロピック剤を含む、前記[4]又は[5]に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[7]
前記付与工程において、前記天然ゴムラテックス(A)及び前記カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)を含む混合液と、前記チキソトロピック剤と、を衝突混合させて、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を得る、前記[6]に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[8]
前記チキソトロピック剤が、水系会合系シックナーである、前記[6]又は[7]に記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[9]
前記付与工程において、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を前記コンクリート表面に塗布して、前記塗膜を形成する、前記[4]~前記[8]のいずれか一つに記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[10]
前記付与工程において、前記コンクリート保護用水系コーティング剤を前記コンクリート表面にスプレー噴射して、前記塗膜を形成する、前記[4]~前記[8]のいずれか一つに記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[11]
前記付与工程において、基材上に設けられた前記コンクリート保護用水系コーティング剤を含む転写膜を前記コンクリート表面に転写して、前記塗膜を形成する、前記[4]~前記[8]のいずれか一つに記載のコンクリート保護膜の形成方法。
[12]
さらに、前記付与工程において形成された前記塗膜を乾燥する乾燥工程を含む、前記[4]~前記[11]のいずれか一つに記載のコンクリート保護膜の形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着性及び水蒸気バリア性に優れた膜を形成可能なコンクリート保護用水系コーティング剤及びコンクリート保護膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《コンクリート保護用水系コーティング剤》
本実施形態のコンクリート保護用水系コーティング剤(以下、単に「コーティング剤」と称することがある)は、天然ゴムラテックス(A)(以下、単に「ラテックス(A)」と称することがある)と、カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)(以下、単に「ラテックス(B)」と称することがある)と、を含有し、且つ、下記条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす。
【0011】
・条件(ア):
樹脂固形分換算における前記天然ゴムラテックス(A)と前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕が0.1~3
【0012】
・条件(イ):
前記アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B)のガラス転移温度が0℃以下
【0013】
・条件(ウ):
前記コンクリート保護用水系コーティング剤を、20℃及び相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atm以下
【0014】
ここで、「コンクリート」とは、主に、セメントに、水、砂などの細骨材、及び、砂利等の粗骨材を混ぜた混合物を意味する。また、「モルタル」は、主に、セメントに水及び細骨材を混ぜた混合物を意味する。「セメント」は、乾燥、粉砕、混合した石灰石、粘土、けい石、鉄原料等を高温で焼成し、これを急冷したものにせっこうを加えて微粉砕したものである。本明細書において、「コンクリート表面」と称した場合には、コンクリートの表面のみならずモルタル等その他セメントを含む混合物で形成された構造物の表面を含む。
【0015】
本実施形態のコーティング剤は、ラテックス(A)及び(B)を含み、且つ、上述の条件(ア)~(ウ)を満たすことで、コンクリート表面との接着性に優れ、且つ、水蒸気バリア性に優れた被膜を形成することができる。当該被膜はラテックス(A)及び(B)によって形成される。この際、ラテックス(A)はコンクリートのひび割れ防止や剥離性向上の役割を果たし、ラテックス(B)はコンクリート表面との接着性向上の役割を果たす。このため、本実施形態のコーティング剤は、コンクリート等の養生用途として好適に用いることが出来る。
また、本実施形態のコーティング剤は水系の組成物であるため、例えば、トンネル内等での施工時の安全性や、取り扱い性に優れる。
【0016】
さらに、本実施形態のコーティング剤は条件(ア)によってラテックス(A)及び(B)の質量比が規定されているため、また、水蒸気バリア性及び造膜性の点でラテックス(B)のニトリル量を適正な範囲とすることができるため、水蒸気バリア性を確保しつつ、接着性を向上させることができる。本実施形態のコーティング剤は、コンクリート表面に塗膜を形成した場合、コンクリート等の被着体に対し優れた接着性を発揮する。特に、本実施形態のコーティング剤を養生目的で用いる場合、所望により一定期間経過後に塗膜(保護膜)を除去する場合もある。この際、塗膜と被着体との接着力が強すぎると塗膜と被着体との剥離が困難であったり、被着体表面に塗膜の残骸が残ることも想定される。しかし、本実施形態のコーティング剤は条件(ア)によってラテックス(A)及び(B)の質量比が規定されているため、塗膜と被着体との接着力が強すぎず、一定以上の力を加えることで容易に剥離することができる。また、本実施形態のコーティング剤はコンクリート等の被着体に塗膜が残りにくく、優れた剥離性を奏することができる。
【0017】
本実施形態のコーティング剤は、例えば、ラテックス(A)を常温下で撹拌しながら、ラテックス(B)及び必要に応じて他の添加剤を添加し、均一な配合液を調製した後、必要に応じて、配合液を撹拌しながらチキソトロピック剤を添加することで得ることができる。また、後述のように衝突混合法によりコーティング剤をコンクリート表面に付与する場合には、ラテックス(A)を常温下で撹拌しながら、ラテックス(B)及び必要に応じて他の添加剤を添加し、均一な配合液を調製しつつ、チキソトロピック剤については別の配合液として、付与直前に衝突混合法により両液を混合することで、本実施形態のコーティング剤を調製することも可能である。
【0018】
(天然ゴムラテックス(A))
天然ゴムラテックス(以下、単に「NR」と称することがある)は、一般には天然のゴムの樹液から製造されるラテックスであり、主成分としてポリイソプレンを含む。
ラテックス(A)における鉄やマグネシウムなどの金属成分に由来する灰分量は、特に限定されるものではないが、コーティング剤の貯蔵安定性や耐老化性の観点から、ラテックス(A)の全固形分に対して、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。尚、ラテックス(A)における灰分量は、JIS K6228に準拠し測定することができる。
また、ラテックス(A)におけるタンパク質の指標となる総窒素含有量は、特に限定されるものではないが、水蒸気バリア性やコーティング剤の塗膜強度の両立の観点から、ラテックス(A)の全固形分に対して、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。尚、ラテックス(A)における総窒素含有量は、JIS K6352に準拠し測定することができる。
【0019】
ラテックス(A)としては各種変性NRを用いることもできる。ラテックス(A)として用いることのできるNRとしては、例えば、通常の固形分濃度(好ましくは50~63質量%、さらに好ましくは60~63質量%)をさらに濃縮した濃縮ラテックス(固形分濃度が好ましくは65~71質量%、さらに好ましくは68~71質量%のラテックス)、ラジカル発生剤により低分子化した解重合ラテックス、スチレンをグラフト重合したスチレン変性ラテックス、メタクリル酸メチルをグラフト重合したアクリル変性ラテックスを用いることができ、その中でも、乾燥性の観点から、濃縮ラテックスを好ましく用いることができる。
【0020】
ラテックス(A)のガラス転移温度は、室温におけるコーティング剤の造膜性や耐衝撃性、接着性の点から、-100~0℃が好ましく、-90~-5℃がさらに好ましく、-80~-10℃が特に好ましい。ガラス転移温度は示差走査熱量分析計(DSC)により測定できる。
【0021】
コンクリート保護用水系コーティング剤中のラテックス(A)の含有量は、条件(ア)との関係で適宜設定されるが、水蒸気バリア性や剥離性の点から、コンクリート保護用水系コーティング剤の全固形分量に対して30~99質量%が好ましく、50~97質量%がより好ましく、70~95質量%がさらに好ましく、80~90質量%が特に好ましい。
【0022】
(カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(B))
アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(以下、単に「NBR」と称することがある)は、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体である。本実施形態におけるラテックス(B)は、カルボキシル基を含有しないNBRである。ここで、「カルボキシル基を含有しないアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス」は、カルボキシル基変性されていないNBRを意味し、具体的には、カルボキシル基含有量が、0.1KOHmg/g以下のNBRを意味する。ラテックス(B)中のカルボキシル基含有量が0.1KOHmg/gを超えると水蒸気バリア性が低下する傾向や剥離性が低下する傾向にある。
【0023】
ラテックス(B)におけるアクリロニトリル含有量(AN量)は特に限定されるものではないが、水蒸気バリア性の点から、ラテックス(B)の全固形分に対して、25~45質量%が好ましく、25~40質量%がさらに好ましく、30~35質量%が特に好ましい。
【0024】
NBRラテックス(B)の粒子径は、特に限定されるものではないが、造膜性や水蒸気バリア性の観点から、800nm以下が好ましく、100nm~200nmがさらに好ましい。
【0025】
コンクリート保護用水系コーティング剤中のラテックス(B)の含有量は、条件(ア)との関係で適宜設定されるが、水蒸気バリア性や剥離性の点から、コンクリート保護用水系コーティング剤の全固形分量に対して1~70質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましく、5~30質量%がさらに好ましく、10~20質量%が特に好ましい。
【0026】
また、コンクリート保護用水系コーティング剤には、ラテックス(B)以外の他の合成ラテックスを併用してもよい。ラテックス(B)以外の他の合成ラテックスとしては、例えば、極性を有するラテックスであることが好ましく、クロロプレンゴムラテックス、アクリル系エマルション、ウレタン系エマルションなどを挙げることができる。ラテックス(B)以外の他の合成ラテックスを併用する場合、特に目的の性能が低下しない限り限定はないが、水蒸気バリア性や剥離性の点から、ラテックスの全固形分量に対する他の合成ラテックスの含有量は、40質量%以下が好ましい。
【0027】
本実施形態のコンクリート保護用水系コーティング剤は、ラテックス(A)及び(B)に関し以下の条件(ア)~(ウ)の全てを満たすことが求められる。
【0028】
(条件(ア):樹脂固形分換算におけるラテックス(A)とラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕)
樹脂固形分換算におけるラテックス(A)とラテックス(B)との質量比〔(B)/(A)〕は、0.1~3である。質量比〔(B)/(A)〕が0.1未満であると、コンクリート表面との接着力が低下する傾向にある。また、質量比〔(B)/(A)〕が2.5を超えると塗膜にひび割れが生じて水蒸気バリア性が低下する傾向にあり、また接着力が強すぎて剥離性が低下する傾向にある。質量比〔(B)/(A)〕は、水蒸気バリア性や剥離性の点から、0.1~1が好ましく、0.3~1がさらに好ましい。
【0029】
(条件(イ):ラテックス(B)のガラス転移温度)
ラテックス(B)のガラス転移温度は、0℃以下である。ラテックス(B)のガラス転移温度が0℃を超えると、塗膜にひび割れが生じ、水蒸気バリア性が低下する傾向にある。ラテックス(B)のガラス転移温度としては、塗膜の造膜性や剥離性の点から、-70℃~-10℃が好ましく、-40℃~-20℃がさらに好ましい。
【0030】
(条件(ウ):乾燥塗膜の水蒸気透過度)
本実施形態の例としては、真空脱泡機で脱泡したコンクリート保護用水系コーティング剤を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmである乾燥塗膜の水蒸気透過度(以下、単に「乾燥塗膜の水蒸気透過度」と称することがある)が100g/m2・day・atm以下である。ここで、乾燥塗膜の水蒸気透過度は40℃×相対湿度90%RH雰囲気下で測定した。乾燥塗膜の水蒸気透過度が100g/m2・day・atmを超えると、コンクリート中の水分が不足し、コンクリートの高品質化、高耐久化、ひび割れ防止を十分に図れない傾向がある。乾燥塗膜の水蒸気透過度は、コンクリートの高品質化、高耐久化、ひび割れ防止の点から、5~80g/m2・day・atm以下が好ましく、10~50g/m2・day・atm以下がさらに好ましい。
【0031】
(チキソトロピック剤)
本実施形態のコンクリート保護用水系コーティング剤は、チキソトロピック剤を含んでいることが好ましい。ここで、チキソトロピック剤は、分散系中に均一な二次結合を形成することなどによって、コーティング剤の粘度を増加させる機能を有する成分である。これにより、コーティング剤から形成される塗膜の均一膜厚性、たれ防止性を高めることができる。
【0032】
チキソトロピック剤には、NRやNBRに用いることのできる一般的な増粘剤を適宜採用できる。チキソトロピック剤としては、コンクリート表面との接着性や耐水性の観点で、例えば、ポリオキシエチレンウレタン樹脂(HEUR(疎水変性エトキシレートウレタン))やエトキシアミノプラスト樹脂(HEAT(疎水性変性エトキシアミノプラストテクノロジー))などの水系会合系シックナーが好ましい。水系会合系シックナーとは、例えば、疎水部と親水部とを含む水溶性高分子をいう。水系会合系シックナーは、疎水分子がラテックス粒子と会合して網目構造(ネットワーク)を形成することでラテックスを含むコーティング剤の粘度を増加させやすい。
【0033】
コンクリート保護用水系コーティング剤中のチキソトロピック剤の含有量は、特に限定はないが、耐水性の点から、コンクリート保護用水系コーティング剤の全固形分量に対して0.1~2質量%が好ましく、0.2~1.5質量%がさらに好ましく、0.3~1質量%が特に好ましい。
【0034】
また、コンクリート保護用水系コーティング剤は、水系会合系シックナーと水系会合系シックナー以外の他のチキソトロピック剤を併用してもよい。水系会合系シックナー以外の他のチキソトロピック剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、グルコール酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムを挙げることができる。チキソトロピック剤として水系会合系シックナーと他のチキソトロピック剤を併用する場合、特に限定はないが、耐水性の点から、チキソトロピック剤の全量に対する他のチキソトロピック剤の含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
(他の添加剤)
本実施形態の保護用水系コーティング剤は、種々の目的に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、消泡剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消臭剤、分散剤、吸着剤、撥水剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
コンクリート保護用水系コーティング剤中の老化防止剤の含有量は、特に限定はないが、コンクリート保護用水系コーティング剤の全固形分量に対して0.1~10質量%が好ましい。
コンクリート保護用水系コーティング剤中の消泡剤の含有量は、特に限定はないが、コンクリート保護用水系コーティング剤の全固形分量に対して0.001~1質量%が好ましい。
【0036】
(コンクリート保護用水系コーティング剤の物性)
本実施形態のコーティング剤の20℃における20rpmに対する粘度(mPa・s)は、塗布容易性の点から2000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましく、200~500mPa・sが特に好ましい。
【0037】
本実施形態のコーティング剤のチキソトロピック性(20℃における1rpmに対する粘度(v1)と20rpmに対する粘度(v2)との比(v1/v2)より算出)は、塗布容易性、垂れ防止性の点から、1~25が好ましく、10~20がさらに好ましい。
【0038】
《コンクリート保護膜の形成方法》
つぎに、本実施形態のコーティング剤を用いたコンクリート保護膜(以下、単に「保護膜」と称することがある)の形成方法について説明する。本実施形態のコンクリート保護膜の形成方法は、少なくとも、ラテックス(A)と、ラテックス(B)と、を含有し、上述の条件(ア)~(ウ)の要件を全て満たす、コンクリート保護用水系コーティング剤をコンクリート表面に付与して塗膜を形成する付与工程を含む。本実施形態のコンクリート保護膜の形成方法には、付与工程に加えて、例えば、塗膜を乾燥させる工程など任意の工程を含めることができる。
【0039】
本実施形態のコンクリート保護膜の形成方法はコーティング剤を被着体であるコンクリート表面に付与することで、当該コンクリート表面との接着性に優れた保護膜を既存の装置にて容易に形成することができる。
また、本実施形態のコンクリート保護膜の形成方法によれば、コーティング剤をコンクリート表面に付与して保護膜を形成するため、被着体表面に凹凸に応じて保護膜の形成が可能であり、さらに、シート養生の課題の一つであったコンクリート等から露出している鉄筋の腐食について、当該鉄筋表面にも保護膜を形成することで鉄筋の腐食が進行するのを抑制することができる。
【0040】
(付与工程)
本実施形態における付与工程は、コンクリート保護用水系コーティング剤をコンクリート表面に付与して塗膜を形成する工程である。「付与」の手段は限定されず、コーティング剤の粘度に応じて、例えば、塗布、噴霧、浸漬など公知の付与手段を適宜採用することができる。
【0041】
付与工程においては、チキソトロピック剤を含む本実施形態のコーティング剤を前記コンクリート表面に付与することができる。また、当該チキソトロピック剤としては、コンクリート表面との接着性や垂れ防止性、耐水性の観点から水系会合系シックナーが好ましい。本実施形態のコーティング剤は必要に応じてチキソトロピック剤を用いることで粘度を適宜調整することができる。
【0042】
特に限定されるものではないが、本実施形態における付与工程に適用可能な付与手段として、例えば、(i)衝突混合法、(ii)直接塗布法、(iii)スプレー塗装法、(iv)転写法、が挙げられる。以下、各付与手段について説明する。
【0043】
(i)衝突混合法
衝突混合法は、ラテックス(A)及びラテックス(B)を含む混合液(以下、「配合液1」と称することがある)と、チキソトロピック剤(以下、配合液2)と、を衝突混合させ、コーティング剤を得て前記コンクリート表面に付与する手段である。衝突混合法は、ラテックス(A)及び(B)を含む配合液1に事前にチキソトロピック剤を混合するのではなく、ラテックス(A)及び(B)を含む配合液1とチキソトロピック剤を含む配合液2とを別とし、付与直前にこれらを衝突混合させ、コーティング剤を得て被着体に付与する方法である。衝突混合法によれば粘度の低い状態でラテックス(A)及び(B)を、付与直前までチキソトロピック剤と混合させずに低粘度の状態を保つことができる。衝突混合法は2液系の付与方法であり、特にスプレー塗装法に採用することが好ましい。このため、衝突混合法によれば、低粘度液のスプレー塗装が可能となり、例えば、大面積施工用途に好適であると共に、コーティング剤の付与後の塗膜は、チキソトロピック剤の増粘効果による、均一膜厚性、たれ防止性、コンクリート表面との接着性、耐水性の向上効果を効果的に発揮することができる。尚、チキソトロピック剤としては上述の水系会合系シックナーを好ましく用いることができる。
衝突混合の条件は特に限定はなく、例えば、特開2020-20166号公報に記載の装置など2液系のスプレー塗装等に用いられる吹付装置を用いて実施することが可能である。このような吹付装置としては、例えば、配合液1を収容する第1のタンクと、配合液2を収容する第2のタンクと、各々のタンクから配合液を送り出すポンプに加え、各配合液に十分な圧力をかけて所定量を送り出す高圧定量送出部と、各配合液を加熱するヒータと、両配合液を衝突混合させてミスト状態で射出するスプレーガンと、を備えた吹付装置等が挙げられる。
【0044】
(ii)直接塗布法
直接塗布法は、コーティング剤をコンクリート表面に塗布して、塗膜を形成する手段である。直接塗布法においては刷毛やローラなど公知の塗布手段を用いてコーティング剤をコンクリート表面に塗布することができる。また、直接塗布法においては、コーティング剤がチキソトロピック剤を含む場合、チキソトロピック剤の増粘効果による、均一膜厚性、たれ防止性の観点から、事前にラテックス(A)及び(B)とチキソトロピック剤とを混合したコーティング剤を用いることができる。また、衝突混合法と直接塗布法とを組み合わせることも可能であり、例えば、衝突混合のノズルの先端に刷毛やローラーが取り付けられている塗布手段などを用いることができる。
【0045】
(iii)スプレー塗装法
スプレー塗装法は、コーティング剤をスプレー噴射によってコンクリート表面にスプレー噴射して、塗膜を形成する手段である。スプレー塗装法は、コーティング剤がチキソトロピック剤を含む場合、事前にラテックス(A)及び(B)とチキソトロピック剤とを混合したコーティング剤を用いることも可能だが、上述のように衝突混合法と組み合わせて実施することが好ましい。
【0046】
(iv)転写法
転写法は、基材上に設けられたコーティング剤を含む転写膜をコンクリート表面に転写して、塗膜を形成する手段である。転写法によれば、予め保護膜を成膜できるため、均一、且つ綿密な保護膜をコンクリート表面に形成可能である。転写手段としては、転写膜をコンクリート表面に転写できるものであれば特に限定はないが、例えば、基材としてシート状の材料を用いた転写シートや、基材としてコンクリートの型枠を用いた手段等が挙げられる。コンクリートの型枠を用いた手段としては、特に限定はないが、例えば、特開2004-314328号公報に記載の型枠を用いた方法などが挙げられる。具体的には、コンクリートと接する型枠表面に本実施形態のコーティング剤を塗布し、当該コンクリート型枠内にコンクリート等を打設することで、コンクリート表面に転写膜(保護膜)を付与することができる。
【0047】
(乾燥工程)
本実施形態のコンクリート保護膜の形成方法は、前記付与工程において形成された前記塗膜を乾燥する乾燥工程を含むことができる。
付与工程において形成された塗膜の乾燥条件については特に限定はなく膜厚及び周辺温度に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、1mm厚の場合には、十分な水蒸気バリア性を発揮する観点から、20℃、相対湿度50%RHで12時間以上乾燥することが好ましく、さらに塗膜の外観性を考慮すると、18時間以上乾燥することが好ましく、24時間以上乾燥することが好ましい。
【0048】
《コンクリート保護膜》
上述のように、本実施形態のコーティング剤によれば、優れた接着性及び水蒸気バリア性を有するコンクリート保護膜を作製することができる。
特に限定されるものではないが、十分な水蒸気バリア性を発揮する観点から、保護膜(乾燥塗膜)の膜厚は、0.05mm~3mmが好ましく、1mm~3mmがさらに好ましい。
【0049】
コンクリート表面に対する保護膜の剥離強度は、特に限定はないが、例えば、保護膜表面を粘着テープで裏打ちし、50mm幅における180°ピール力を測定雰囲気25℃×相対湿度50%RH、引裂速度300mm/minで測定した180°ピール強度(単位:N/10mm)を一つの指針とすることができる。例えば、養生処理における保護膜の欠落防止と養生処理後の保護膜の剥離性を考慮した場合には、コンクリート表面に対する保護膜の剥離強度(180°ピール強度)は、0.3~5N/10mmが好ましく、2~3N/10mmがさらに好ましい。なお、本実施形態における保護膜は必ずしもコンクリート表面から除去する必要はなく、任意の目的に応じて養生後も引き続きコンクリート上に付与された状態で維持されていてもよい。
【0050】
以上、本発明の態様につき説明したが本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0051】
以下、本発明の具体的な内容について実施例を用いて説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。表1~2において、各成分の使用量の単位は、固形分換算した質量部である。
【0052】
《コンクリート保護用水系コーティング剤の配合》
(1)事前配合法
下記表中の組成に従い天然ゴムラテックスを常温下で撹拌しながら、その他のラテックス、消泡剤、及び老化防止剤を配合し、均一な配合液を調製した。その後、配合液を撹拌しながらチキソトロピック剤を添加し、コーティング剤を得た。
ただし、配合5においては、熱水中でメチルセルロース(粉体)を撹拌しながら3質量%になるように均一分散させ、その後、冷却することで得られた無色透明の溶液をチキソトロピック剤として用いた。
【0053】
(2)衝突混合法(配合液1の調製)
配合3において実施例12用に、チキソトロピック剤以外の組成(天然ゴムラテックス、他のラテックス、消泡剤、及び老化防止剤)を配合し、均一な配合液1を調製した。
【0054】
また、各配合のコーティング剤について、20℃、1rpmにおける粘度と20rpmにおける粘度とを英弘精機社製の“B型粘度計”により測定した。この際、1rpmにおける粘度と20rpmにおける粘度との比(1rpm/20rpm)をチキソトロピック性として評価した。チキソトロピック性が8以下の場合は、チキソトロピック性に劣ると判断した。
結果を表3~5に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(ラテックス)
・天然ゴムラテックス(製品名:高濃縮NR(ムサシノケミカル(株)製))
・NBR1(ノンカルボキシル基NBR:製品名:LX513,日本ゼオン(株)製、粒子径:131nm、Tg:-35℃、アクリロニトリル含有量:33質量%、カルボキシル基含有量:0.05KOHmg/g)
・NBR2(ノンカルボキシル基NBR,製品名:1562,日本ゼオン(株)製、粒子径:92nm、Tg:-26℃、アクリロニトリル含有量:34質量%、カルボキシル基含有量:0.05KOHmg/g)
・NBR3(ノンカルボキシル基NBR,製品名:1551,日本ゼオン(株)製、粒子径:179nm、Tg:-19℃、アクリロニトリル含有量:41質量%、カルボキシル基含有量:0.05KOHmg/g)
・NBR4(ノンカルボキシル基NBR,製品名:LX531B,日本ゼオン(株)製)、粒子径:612nm、Tg:-15℃、アクリロニトリル含有量:32質量%、カルボキシル基含有量:0.05KOHmg/g)
・NBR5(ノンカルボキシル基NBR,製品名:1577K (日本ゼオン(株)製、粒子径:88nm、Tg:19℃、アクリロニトリル含有量:32質量%、カルボキシル基含有量:0.05KOHmg/g)
・NBR6(カルボキシル基変性NBR,製品名:LX551,日本ゼオン(株)製、粒子径:135nm、Tg:-15℃、アクリロニトリル含有量:33質量%、カルボキシル基含有量:0.75KOHmg/g)
・Acrylate(ノンカルボキシル基アクリレート,製品名:LX816A,日本ゼオン(株)製、粒子径:152nm、Tg:-15℃、カルボキシル基当量:0.05KOHmg/g)
【0058】
(チキソトロピック剤)
・会合性シックナー
HEAT構造(エトキシアミノプラスト樹脂)製品名:H600VF,ビックケミージャパン(株)製)
HEAT構造(エトキシアミノプラスト樹脂)製品名:TVS-VF,ビックケミージャパン(株)製)
HEUR構造(ポリオキシエチレンウレタン樹脂)製品名:M2600VF,ビックケミージャパン(株)製)
・メチルセルロース(製品名:90MP,松本油脂(株)製)
【0059】
(老化防止剤)
・ヒンダードフェノールの乳化物(老化防止剤A,ムサシノケミカル社製(BASF社製のイルガノックス1010の乳化物)
【0060】
(消泡剤)
・シリコーン系消泡剤(製品名:BYK-066N,ビックケミージャパン(株)製)
【0061】
《試料の作製》
(1)事前配合法
事前配合したコーティング剤を用い、以下のように直接塗布、型枠塗布及びスプレー塗布により各試料を作製した。なお、乾燥時間及び保護膜の厚さについては下記表に示す。
【0062】
(i)直接塗布
調製したコンクリート保護用水系コーティング剤を、表面をブラスト処理した150mm×70mm×10mmのモルタル板に刷毛により直接塗布し、20℃×相対湿度50%RHの雰囲気下で乾燥させ、表面に保護層が形成された試料を作製した。
【0063】
(ii)型枠塗布(転写法)
調製したコンクリート保護用水系コーティング剤を150mm×70mmの型枠に塗布し、20℃×相対湿度50%RHの雰囲気下で乾燥させ型枠にコーティング層を形成した。その後、型枠に調製したモルタルを流し込み硬化養生した。これにより、表面に保護層が形成された試料を作製した。
【0064】
(iii)スプレー塗装
調製したコンクリート保護用水系コーティング剤を、表面をブラスト処理した150mm×70mm×10mmのモルタル板にスプレー塗装機により噴霧し、20℃×相対湿度50%RHの雰囲気下で乾燥させ、表面に保護層が形成された試料を作製した。
【0065】
(2)衝突混合法(スプレー塗装)
調製した配合液1とチキソトロピック剤からなる配合液2とをスプレー塗装機を用い、チキソトロピック剤の含有量が配合3の配合比となるように衝突混合し、コンクリート表面に塗布することでコーティング層を形成した。これにより、表面に保護層が形成された試料を作製した。
【0066】
《評価》
(1)塗膜の外観評価
乾燥後の塗膜(保護層)の外観について塗膜の浮きやひび割れ等の有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って評価した。比較例3、7及び8は、塗膜のひび割れが確認された。
【0067】
〔評価基準〕
A:塗膜の浮きやひび割れ等は確認されなかった。
B:塗膜の浮きやひび割れは確認されなかったが、塗膜表面に著しい凹凸が確認された。
C:塗膜の浮き又はひび割れが確認された。
【0068】
(2)接着性(180°ピール力試験)及び剥離性の評価
乾燥後の塗膜表面を粘着テープで裏打ちし、50mm幅における180°ピール力を測定雰囲気、25℃×50%(相対湿度;RH)、引裂速度300mm/minにてエー・アンド・デイ社製のテンシロン万能材料試験機により180°ピール力を測定し、燥後の塗膜の接着性及び剥離性の指標とした。結果を表に示す。180°ピール力が0.2N/10mm以下の場合は、塗膜が剥がれる恐れあり、接着性に劣ると評価した。
また、下記塗膜剥離後の試料の表面状態を目視により確認し、下記基準に従って剥離性を評価した。この際、比較例4及び8においては保護膜を剥離することができず、剥離性に劣っていると判断した。また、比較例7においては、剥離は可能であったが試料表面に塗膜の残りが認められた。
〔剥離性の評価基準〕
A:試料表面に塗膜の残りは認められなかった。
C:試料表面に塗膜の残りが認められた。
【0069】
(3)耐水性:
40℃の温水に試料を48時間浸漬し、浸漬後の保護膜の外観について、塗膜の浮きやひび割れ等の有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って評価した。比較例1及び2は、塗膜の浮きが認められた。
〔評価基準〕
A:塗膜の浮きやひび割れ等は確認されなかった。
C:塗膜の浮き又はひび割れが確認された。
を目視により観察し、有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って評価した。
【0070】
さらに、浸漬後の試料について、上述の180°ピール力試験を実施し、180°ピール力測定した。180°ピール力が0.2N/10mm以下の場合は、塗膜が剥がれる恐れがあり、接着性に劣ると評価した。比較例1~3及び6は、浸漬後の180°ピール力が0.2N/10mm以下であり耐水性に劣るものであった。
【0071】
(4)水蒸気バリア性:
剥離フィルム上に各実施例及び比較例で用いた調製液を20℃、相対湿度50%RHで72時間乾燥して形成した膜厚1mmになるように調製したシートを評価用試料とし、水蒸気透過度計で40℃×相対湿度90%RH雰囲気下の水蒸気透過度を測定した。比較例は比較例6を除きすべて101以上であり、水蒸気バリア性に劣っていた。
【0072】
(5)垂れ防止性
各実施例及び比較例につき、各々のコーティング剤を用いて、コンクリートの垂直面にコーティング剤を各付与方法に従って任意の塗膜になるように塗布した際のコーティング剤の液だれの有無を確認した。実施例1及び2においては、問題のない範囲であったが、塗布液の垂れが確認された。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】