(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】光触媒を用いた水素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20250304BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20250304BHJP
H10H 20/00 20250101ALI20250304BHJP
【FI】
C01B3/04 A
B01J35/39
H10H20/00 L
H10H20/00 J
(21)【出願番号】P 2021210009
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-246355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
H10H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水中に分散又は配置された光触媒体にして、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒物質を有する光触媒体と、
前記光触媒体へ照射されて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源と、
前記光源を担持する筐体と
を含み、
前記筐体が前記容器内の水中に配置されて、前記水が前記筐体の表面から放出される前記光源の排熱によって加温されると共に、前記筐体の水に接触する表面が光触媒物質にて被覆されている装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記光源から発せられた光が前記筐体表面を被覆している前記光触媒物質にも照射される装置。
【請求項3】
請求項2の装置であって、複数の前記光源及び前記光源を担持する筐体が前記容器部内の水中に配置され、前記光源の一つから発せられた光がその他の前記光源の前記筐体の表面を被覆している前記光触媒物質にも照射される装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの装置であって、前記光触媒体へ照射される前記光の密度が、所定値以上の、前記光触媒物質に入射される光子量当たりの水素ガスの発生量の割合である光触媒効率を与える密度に又はそれより低く調整される装置。
【請求項5】
請求項2の装置であって、前記光源から発せられた光が前記容器部に閉じ込められるよう構成されている装置。
【請求項6】
請求項5の装置であって、前記容器部が前記光源から発せられた光を前記容器内に閉じ込めるための光反射機構を有している装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの装置であって、
太陽光パネルを有し、前記光源が前記
太陽光パネルの太陽光発電により得られた電力により作動され前記光触媒体へ照射される前記光を発すると共に、その作動時の排熱が前記筐体に接触している前記水へ伝達されるよう構成されている装置。
【請求項8】
請求項7の装置であって、前記太陽光発電の定格電流値の電流が前記光源へ供給されているときに、前記光源の発光効率が最大となるように前記光源の定格出力が調整されている装置。
【請求項9】
請求項7の装置であって、前記光源が複数のLEDを含み、前記太陽光発電の出力電流に応じて、前記光源の発光効率が最大となるように前記複数のLEDのうちの作動するLEDの個数が変更される装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの装置であって、前記光源の発光波長が前記光触媒物質の量子収率が所定の閾値を超える波長帯域に入るように選択されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス製造装置に係り、より詳細には、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、燃焼しても二酸化炭素を生じないクリーンな次世代の燃料としての利用が期待されている。水素ガスは、光触媒を用いた光エネルギーによる水の分解反応により生成できるので、光触媒を用いた水素ガスの製造技術が種々提案されている。例えば、特許文献1、2に於いては、紫外光又は可視光の照射により水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒とその調製方法が開示されている。特許文献3は、太陽光のうちの紫外光から可視光による光触媒を利用する水の酸化反応手段と太陽光のうちの可視光から赤外光の熱を利用する水の還元反応手段とを含む水素製造装置の構成を開示している。特許文献4は、光触媒粒子が分散された水を、受光窓を有する筐体内に循環させて、光による水の分解反応を起こし、水素ガスを発生させる水素発生装置の構造を提案している。特許文献5は、水中に置かれた光触媒からなる電極21を内蔵したレシーバに太陽光集光器を用いて集積させた光を照射して、光触媒内の荷電子を励起させ、周囲の水の電気分解を行い、連続的に水素ガスを生産する水素発生システムの構成を提案している。なお、水素ガスの製造技術ではないが、特許文献6に於いて、二酸化炭素を溶解させた溶媒にsp3結晶構造の炭素同素体から成るプレート状炭素材を浸水し、ヒーターによって溶媒の温度を上昇させながら、紫外光を溶媒に照射することにより、炭素材が励起することによって二酸化炭素のC=O結合が切り離され、一酸化炭素生成とともにメタンが生成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平9-510657
【文献】特開2003-251197
【文献】特開2013-234077
【文献】特開2015-218103
【文献】特開2017-24956
【文献】特開2016-108181
【非特許文献】
【0004】
【文献】“Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity” Tsuyoshi Takata, Junzhe Jiang, Yoshihisa Sakata, Mamiko Nakabayashi, Naoya Shibata, Vikas Nandal, Kazuhiko Seki, Takashi Hisatomi & Kazunari Domen, Nature volume 581, pages411-414 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明の発明者等の研究に於いて、水素ガスの製造効率は、反応物である水の温度が高くなると、高くなることが見いだされている。そこで、水素ガスの製造効率を上昇させるためには水の加温が有効であるところ、その際、別にエネルギーを外部から供給するヒーターを用いるのではなく、光触媒への照射光を発生する光源の排熱を利用できるようになっていれば、より具体的には、光源から水への輻射熱だけでなく、光源の排熱が水へ直接伝達できる構成が採用されていれば、水素製造に関わるエネルギーの利用効率をより高めることも可能となる。そのような構成の一つとして、光源を担持する筐体そのものを水中に配置して水を発熱する光源装置の表面に直接に接触させる構成が考えられる。この点に関し、本発明の発明者等が研究したところ、光源の筐体の表面を熱伝達効率の向上のために金属等の材料で形成した場合、筐体表面の金属材料が水中に溶け出してしまい、筐体表面が劣化してしまうなどの現象が観察された。従って、光源を担持する筐体を水中に配置する構成に於いては、熱伝達効率をできるだけ低減させずに筐体表面の劣化が抑えられるようになっていることが好ましく、また、その際、水の光反応量が向上される構成となっていると有利である。
【0006】
かくして、本発明の主な課題は、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置に於いて、水素ガスの製造の効率を向上すべく、光源の排熱により水を加温する構成を提供することである。
【0007】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如き装置であって、光源を、それを担持する筐体ごと、水中に沈める構成に於いて、筐体の表面の劣化を抑えつつ、水の光反応量も増大できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様によれば、上記の課題は、水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水中に分散又は配置された光触媒体にして、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒物質を有する光触媒体と、
前記光触媒体へ照射されて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源と、
前記光源を担持する筐体と
を含み、
前記筐体が前記容器内の水中に配置されて、前記水が前記筐体の表面から放出される前記光源の排熱によって加温されると共に、前記筐体の水に接触する表面が光触媒物質にて被覆されている装置
によって達成される。
【0009】
上記の構成に於いて、「光触媒物質」は、上記の如く、光を照射されると、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる物質であってよい。「光触媒体」は、かかる光触媒物質から成り、水中に分散される粒子、或いは、光触媒物質そのもので形成された部材又は任意の基板又は基質上に光触媒物質を固定してなり、水中の任意の位置に配置されたもの、若しくは、それらの両方であってよい(以下、本明細書に於いて、単に「光触媒」という場合には、光触媒物質を指すものとする。)。「光源」は、典型的には、電力の供給を受けて、光触媒物質に吸収されて水の分解反応を惹起させる光を発する任意の形式のものであってよく、筐体に担持され、防水された状態で、その筐体ごと水中に配置されることとなる。筐体は、熱伝導性の高い材料で形成されるのが好ましく、典型的には、アルミニウムなどの金属材料にて形成されてよい。
【0010】
光源の発光波長は、光触媒へ照射される光が効率的に光触媒に吸収されて励起電子と正孔とを生成するように、好適には、光触媒の量子収率が(任意に選択されてよい)所定の閾値を超える波長帯域に入るように選択される。この点に関し、後の実施形態の欄に於いて例示されるように、典型的な光触媒の量子収率は、照射光の波長が或る波長付近を下回ると急激に増大する。従って、光源の発光波長が、かかる光触媒の量子収率の急激な増大が生ずる波長よりも短波長側となるように、光源が選択されてよい。本発明に於いて利用可能な光触媒としては、例えば、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、La2Ti2O7(チタン酸ランタン)、Ga2O3(酸化ガリウム)、GaN(窒化ガリウム)、NaTaO3(タンタル酸ナトリウム)、TiO2(酸化チタン)などが利用可能である。なお、これらの光触媒は、適宜、助触媒が付加されて使用されてよい。一方、光源としては、種々の発光ダイオード(LED)が採用されてよく、具体的には、インジウム窒化ガリウム(InGaN)、ダイヤモンド(紫外)、窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)(紫外、青)、セレン化亜鉛(青)、酸化亜鉛(近紫外、紫、青)を用いたものが利用可能である。
【0011】
そして、本発明の装置の構成に於いては、筐体の水に接触する表面が光触媒物質にて被覆される。ここに於いて、筐体表面を被覆する光触媒物質は、光触媒体と同一の物質であっても、異なる光触媒物質であってもよい。これにより、筐体を構成する金属材料などの表面が直接に水に接触することが回避される。
【0012】
上記の本発明の装置の構成に於いては、水に接触した光触媒体に光を照射して水の分解反応を惹起して水素ガスを製造する装置に於いて、筐体に担持された光源が水中に沈められ、これにより、水を光源の排熱により加温する構成が設けられる。かかる構成によれば、反応物である水が加温されることで、水素ガス製造の効率が向上されることとなる。また、水の加温が光源の排熱を利用して達成されるために、水の加温のためのヒーター等を別途設ける必要がなく、従って、水の加温のためにエネルギーを別途供給する必要がないので、水素ガスの製造に要するエネルギーの効率化が図られることとなる。そして、本発明の場合には、水中に沈められる筐体の表面が光触媒物質により被覆され、これにより、筐体が金属材料などで形成されている場合に、筐体表面の金属が直接に水に接触することが防止され、筐体表面の金属の溶解を防止し、筐体表面の劣化が抑制されることとなる。この点に関し、水中の光源から発せられた光に於いては、種々の散乱(レイリー散乱、ラマン散乱など)が生じたり、容器の内壁や水面にて反射されるなどして、水中にて種々の方向に伝播することとなる。従って、散乱や反射した光が光源の筐体表面の光触媒に当たることにより吸収され、筐体表面で水の分解反応が発生し、これにより、水素ガス製造の効率の更なる向上が期待される。更に、上記の構成によれば、容器部内に光源を配置する構成となり、容器部の外側の構造が簡素化されるので、装置の配置に要する空間をコンパクトにすることができる一方、容器部の寸法を増大し、装置をスケールアップすることも容易となる。
【0013】
上記の本発明の装置に於いては、任意の態様にて、光源から発せられた光が筐体表面を被覆している光触媒物質にも照射される構成が設けられていてよい。例えば、本発明の装置は、複数の光源及び光源を担持する筐体が容器部内の水中に配置され、光源の一つから発せられた光がその他の光源の筐体の表面を被覆している光触媒物質にも照射されるように構成されていてよい。また、別の態様に於いて、本発明の装置は、光源から発せられた光が容器部に閉じ込められるよう構成されていてよく、そのために、例えば、容器部は、その内側が光反射板を設けられるなどして、光源から発せられた光を容器内に閉じ込めるための光反射機構を有していてよい。これらの構成によれば、光源から発せられた光のできるだけ多くの量が光触媒へ照射され、水素ガスの発生に寄与できるようになる。
【0014】
ところで、本発明の発明者等の研究によれば、後の実施形態の欄に於いて詳細に説明される如く、光触媒に照射する光密度を増大すると、水素ガスの製造効率(入射光量当たりの水素ガスの製造量)は低減することが見いだされた。これは、光強度の増大により光触媒にて発生する励起電子と正孔の密度が増大しても、励起電子及び正孔との水との分解反応の速度が遅く、励起電子と正孔がそれぞれ水と反応する前に再結合により消滅してしまうことから、エネルギーが有効に水素ガスの製造に利用されないことによると考えられる。従って、光源から発せられる光の密度は、水素ガスの製造効率の低下とバランスして適当な値となるように調整されることが好ましい。そこで、上記の本発明の装置に於いては、光触媒体へ照射される光の密度が、所定値以上の光触媒効率(光触媒物質に入射される光子量当たりの水素ガスの発生量の割合)を与える密度に又はそれより低く調整されるようになっていてよい。具体的には、例えば、実験によれば、光触媒体に照射される光の密度は、0.1W/cm2以下になるようにするのが好ましいことが見出されているので、光源の出力P/照射面積A≦0.1W/cm2が成立するように光源の出力Pと照射面積Aの関係が調整されることが好ましい。
【0015】
上記の本発明の装置に於いて、光源は、太陽光発電により得られた電力により作動され、光触媒体へ照射される光を発すると共に、その作動時の排熱が筐体から水へ伝達されるよう構成されていてよい。これにより、水素ガスの製造は、再生可能エネルギーにより達成されることとなる。また、太陽光そのものを光触媒体へ照射するのではなく、太陽光から得られた電力にて光源を作動することによれば、単位面積当たりに於いて薄い太陽光エネルギーを濃縮して光エネルギーを光触媒体へ供給することが可能となり、装置の小型化が図られることとなる。
【0016】
ところで、電力で光源を作動する場合、光源の発光効率が最大になっていることが好ましい。従って、光源を太陽光発電により得られた電力により作動する場合には、太陽光発電の定格電流値の電流が光源へ供給されているときに光源の発光効率が最大となるように、光源の定格出力が調整されていてよい。これにより、太陽光エネルギーをより有効に水素ガスの製造に利用できることとなる。また、太陽光発電の場合、日照条件により出力が変動し、利用可能な電流が時々刻々に変動し得る。その場合、光源は、その時々で、発光効率が最大となるよう作動された方が、水素ガスの製造に利用されるエネルギーの効率が良いこととなる。この点に関し、光源として複数個のLEDが採用されてよく、その場合、個々のLEDの発光効率は、投入される電流に応じて変化するので、光源は、太陽光発電の出力電流に応じて、光源の発光効率が最大となるように複数個のLEDのうちの作動するLEDの個数が変更されるように構成されていてよい。これにより、太陽光エネルギーをより有効に光源からの光に変換して水素ガスの製造に利用できることが期待される。
【発明の効果】
【0017】
かくして、上記の本発明によれば、光触媒を用いた水の分解反応による水素ガスの製造に際して、光触媒効率の向上のために反応物である水の温度を上昇させる場合に、光源を筐体ごと、水中に沈め、これにより、筐体から光源の排熱が水中へ放出されるようにして、水温の上昇が図られると共に、筐体の表面が光触媒物質にて被覆されることで、筐体の表面が水により劣化することを防止すると共に、光源から発せられた光のうち、水中で散乱や反射することで種々の方向に進む光が、筐体表面の光触媒に当たることで、水素ガスの製造に寄与させることが可能となり、エネルギーの効率化が図られることとなる。また、筐体の金属表面が水に直接に接触することで金属材料が水中に溶け出す場合、水中に溶け出した金属イオンが水中の光触媒物質にて生成された励起電子又は正孔と反応して、水素ガスの製造効率を低下させてしまうことが起き得るところ、本発明では、筐体表面の金属材料の水中への溶出が防止されることとなるので、水中の金属イオンによる水素ガスの製造効率の低下を抑制できることとなる。更に、光源の排熱により水を加温する構成によれば、光源の輻射熱により水を加温する場合よりも、確実に水の温度を上昇させ、光触媒効率の向上が期待される。そして、本発明の装置の光源を太陽光エネルギー由来の電力で作動する態様の場合には、二酸化炭素を排出せずに、効率的に水素エネルギーを得ることが可能となる。
【0018】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による水素ガス製造装置の一つの模式図であり、
図1(B)は、その光源装置の模式的な側面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による水素ガス製造装置に使用される典型的な光触媒(SrTiO
3)の吸光率及び量子収率の波長特性(非特許文献1より引用)と、光源(InGaN系LED)の発光波長特性(本発明の発明者等により測定)との例を示した図である。
【
図3】
図3(A)は、実験により得られた光触媒の接触する水に温度に対する光触媒効率の変化を示したグラフ図である。
図3(B)は、光触媒に照射される光の密度(光強度)に対する光触媒効率の変化を示したグラフ図である。データは、本発明の発明者等による実験により得られた。
【
図4】
図4は、本実施形態による水素ガス製造装置の別の態様の模式図である。
【
図5】
図5(A)は、本実施形態による水素ガス製造装置の更に別の態様の模式図であり、
図5(B)は、その光源装置の模式的な側面図である。
【
図6】
図6(A)は、電源に4つのLEDが並列に接続された光源に於いて、実験により得られた光源への投入電流に対する発光効率の変化を示したグラフ図である。
図6(B)は、電源に1つのLEDが並列に接続された光源に於いて、光源への投入電流に対する発光効率の変化を示したグラフ図である。データは、本発明の発明者等による実験により得られた。
【
図7】
図7(A)~(C)は、太陽光パネルの発電電流量に応じて作動するLEDの数が変更できるようになった光源の回路構成を模式的に表わした図である。
【符号の説明】
【0020】
1,1a…水素ガス製造装置
2…容器部
3…光触媒体
4…光源装置
5…LED
6…プリント基板
7…熱伝導シート
8…筐体
9…透明板
10…反射板
11…電力線
12…光触媒被覆
15…太陽光パネル
16…送電線
W…水
L…光線
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
水素ガス製造装置の構成
図1(A)を参照して、本実施形態の水素ガス製造装置1は、一つの態様に於いて、水(液体)Wを受容する任意の形態の容器部2と、容器部2内の水中に分散された光触媒物質から成る粒子状の光触媒体3と、光触媒体3へ照射される光を発する光源装置4と、発生した水素ガスと酸素ガスとを分離器へ送る送気管2aとを有する。
【0022】
上記の水素ガス製造装置1の構成に於いて、光触媒体3は、光を照射されると、光子を吸収して励起電子と正孔とを生成し、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる光触媒物質から成る粒子であり、水中に分散されていてよい。本実施形態に於いて使用される光触媒物質としては、この分野で利用されている、光の照射により水から水素ガスを発生することが可能な物質が用いられてよく、具体的には、例えば、SrTiO
3(チタン酸ストロンチウム)、La
2Ti
2O
7(チタン酸ランタン)、Ga
2O
3(酸化ガリウム)、GaN(窒化ガリウム)、NaTaO
3(タンタル酸ナトリウム)、TiO
2(酸化チタン)などが利用可能である。光触媒物質は、典型的には、
図2に示されている如く、照射光の波長を長波長側から短波長側へ変化させていくと、或る波長付近にて、吸光率及び量子収率が急激に増大する波長特性を呈する(吸光率及び量子収率が増大する波長帯域で光子の吸収による励起電子と正孔との生成量が増大する。)。かかる光触媒物質から粒子状の光触媒体3を調製する場合、それぞれ、光触媒物質を構成する組成の原料物質を混合して焼成することにより、光触媒物質から成る半導体粒子が形成され、かかる粒子が光触媒体3として水中に分散されてよい。なお、光触媒体3としては、上記の光触媒物質から成る半導体粒子がそのまま使用されてもよいが、適宜選択された助触媒が粒子表面に付加されて、触媒能が増強されたものが使用されてもよい。
【0023】
光源装置4は、上記の光触媒体3の光触媒物質に吸収され、励起電子と正孔とを発生させる波長の光を発する任意の光源であってよい。この点に関し、より詳細には、上記の
図2の如く、光触媒物質の吸光率及び量子収率が、或る波長より短波長側の光が照射されたときに増大する波長特性を有しているので、光源装置4に於いては、光触媒体3の光触媒物質の吸光率及び量子収率が増大する波長帯域の光を発生する発光素子又は発光体が選択される。具体的には、光源の発光素子又は発光体としては、インジウム窒化ガリウム(InGaN)、ダイヤモンド(紫外)、窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)(紫外、青)、セレン化亜鉛(青)、酸化亜鉛(近紫外、紫、青)などを用いた種々の発光ダイオード(LED)が採用されてよい。例えば、
図2の、光触媒物質としてSrTiO
3が用いられている場合には、照射光の波長が380nmを下回ると、吸光率及び量子収率が増大するので、360~370nmに発光波長のピークを有するInGaN系のLEDが光源装置4の発光体として有利に用いることが可能である。
【0024】
光源装置4は、その構成に於いて、例えば、
図1(B)に模式的に描かれている如く、LEDであってよい光源5がプリント基板6に載置され、その下に熱伝道シートが敷かれて、筐体8の窪み構造内に載置されてよい。筐体8は、アルミニウムなどの熱伝導性の高い金属などの任意の材料にて形成されてよい。そして、光源5の載置された筐体8の窪み構造の開口部分が透光性のあるガラス、石英ガラス、樹脂などの透明板9により封鎖され密閉され、これにより、光源5が外部からシールされた状態で光源5からの光が透明板9から放射されることとなる。また、筐体8の窪み構造の内壁が反射板10に形成されて、光源5からの光が効率的に透明板9から外部へ放射されるようになっていることが好ましい。光源5への電力供給は、筐体8にシールされた状態で貫通された電力線11により為されてよい。
【0025】
そして、上記の光源装置4が、
図1(A)の如く、容器部2内の水Wの中に配置され、光源の排熱が筐体8を介して水に伝達されて、水が加温され、水素ガス製造の効率の向上が図られる。この点に関し、「発明の概要」の欄に於いて触れた如く、本発明の発明者等の研究によれば、水の温度を上昇させると、光触媒による水素ガス製造の効率が上昇することは、以下の如き実験により見いだされている。
【0026】
実験に於いては、ガラス板上に100mgのSrTiO3(チタン酸ストロンチウム)を展開し焼結してなる光触媒部材を、石英ガラス製の容器に入れられた水200ml内に浸漬し、水温をヒーターで種々の値に調節しつつ、スポットタイプのLED(最大出力0.691W)により365nmの光を種々の光強度にて照射し、水の分解反応を惹起させて発生した水素ガスを回収し、水素ガスの発生量を測定した。光の照射面積は、2cm2とした。LEDの出力(照射光強度)は、パワーメータ(オフォールジャパン 50(150)A-BB26)を用いて計測しながら調節した。そして、光触媒への照射光の光量(入射光量)は、以下により算出した。
入射光量(mmol・cm-2・hr-1)=P×λ×3600/(A・h・c)
ここで、Pは、LED出力(W・cm-2)であり、λは、波長=365(nm)であり、Aは、アボガドロ数(mol-1)であり、hは、プランク定数(J・s)であり、cは、光速(m・s-1)である。そして、水素ガス製造の効率(光触媒効率)は、以下により算出した。
光触媒効率(%)=水素ガスH2の発生量×2/入射光量
ここで、水素ガスの発生量の単位は、mmol・cm-2・hr-1である(水素イオンの還元量は、水素ガスの二倍である。)。
【0027】
結果に於いて、
図3(A)を参照して、LED出力を最大出力に維持しながら、水温を30℃、40℃、50℃、60℃と昇温させると、光触媒効率は、水温の上昇と共に増加した。これは、加熱により光触媒による電子と水との反応速度を増大したためと考えられる。かくして、水温の上昇により、光触媒による水素ガス製造の効率が向上することが確かめられた。
【0028】
また、上記の光源装置4から発せられる光の密度は、水素ガス製造の効率が向上されるように調節されてよい。より詳細には、本発明の発明者等の研究によれば、既に触れた如く、光触媒に照射する光密度を増大すると、水素ガスの製造効率(入射光量当たりの水素ガスの製造量)は低減してしまうことが見出されている。
図3(B)を参照して、
図3(A)と同様の条件での実験によれば、水温を25℃(室温)として、LED出力を最大出力の5%、10%、20%、60%、100%と変化させると、光触媒効率は、LED出力、即ち、照射光の密度の増大と共に低下した。これは、光強度の増大により光触媒にて発生する励起電子と正孔の密度が増大しても、励起電子及び正孔との水との分解反応の速度が遅く、励起電子と正孔がそれぞれ水と反応する前に再結合により消滅してしまうことによると考えられる。即ち、光触媒に照射する光の密度を増加すると、水素ガスの発生に寄与する光子エネルギーの割合が低減してしまうことが示されている。そして、具体的には、
図3(B)を参照して、水素ガスの製造効率は、光強度が0.1W/cm
2以下の範囲であれば、その変化が緩やかであることが理解される。ただし、光強度が低いほど、光触媒反応の絶対量が低下するので、より多くの水素ガスを得るためには、光源装置4からの光の密度は、0.1W/cm
2程度又はそれより少し少ない程度に調節することが好ましい。例えば、光源装置4からの照射光の面積Acm
2は、光触媒効率が高くなる光強度が0.1W/cm
2以下となるように、光源装置4からの光出力がP
L(W)のとき、P
L/0.1となるように調節されてよい。照射光の面積は、反射板の向きを調節することにより調整されてよい。
【0029】
そして、更に、水中に沈められる上記の光源装置4に於いては、筐体8の外側の表面に於いて光触媒物質の被覆12が適用される。本発明の発明者等の研究によれば、光源装置4を水中にそのまま(光触媒物質の被覆12なしで)沈めた場合、筐体8の外側の表面の材料が水中に溶解するなどして、表面の劣化が観察された。特に、水として、超純水(電気抵抗率≧15MΩ・cm)を用いた場合、筐体8の表面が金属であると、溶解と劣化が顕著に発生した。ところで、
図1(A)に模式的に描かれている如く、光源装置4からの光Lは、透明板9を透過して水中Wに進むところ、水中に於いては、光の散乱が発生し、液面や容器部内面では反射が生ずるので、光は、図中、点線矢印で描かれている如く、水中内で種々の方向に進むこととなり、透明板9を透過した光が散乱と反射を繰返して、少なくない量にて、筐体8の表面にも到達することとなる。従って、筐体8の表面でも光触媒反応が生ずるようになっていれば、水素ガス製造の効率の向上が期待される。そこで、本実施形態に於いては、筐体8の表面の材料の溶解及び劣化の防止と水素ガス製造の効率の向上とのために、上記の如く、筐体8の表面が光触媒物質12により被覆されてよい。筐体8の表面に被覆される光触媒物質は、光触媒体3と同一の物質であってもよいし、別の光触媒物質であってもよい。ただし、筐体8の表面の光触媒物質も、光源からの光の波長の光に対して十分な活性を有するものであることが好ましい。
【0030】
上記の構成に於いて、光源装置4からの光のできるだけ多くが、容器部2内の光触媒体3及び光触媒被覆12に照射され吸収されるように、容器部2に於いては、光を外部へ漏らさないように、即ち、光を容器部2内に閉じ込めるための構成が設けられていてよい。例えば、容器部2の内壁が光を反射する反射ミラーに覆われていてよい(光反射機構)。
【0031】
本実施形態の水素ガス製造装置1に於いて、光触媒体3は、
図4に模式的に描かれている如く、光触媒物質を有する板状部材であってもよい。その場合、光触媒体3は、典型的には、図示の如く、平板状に形成されてよいが、光触媒物質が水Wに接触できるようになっていれば、これに限定されない。例えば、一つの態様に於いて、光触媒体3は、ガラス基板やセラミックス基板上に全体的に光触媒物質の粉末を載せ、加熱して焼結することによって、光触媒物質を基板上に固定することにより、形成されてよく、或いは、光触媒物質が板状に固められた基板が光触媒体3として採用されてもよい。また、例えば、容器部2内の水Wの対流を発生するための撹拌手段13が設けられていてもよい。更に、光触媒体3として、板状部材を採用する場合に、光触媒物質から成る粒子状の光触媒体3が水中に分散され、水素ガスの製造に寄与するようになっていてもよい。
【0032】
また、本実施形態の水素ガス製造装置1に於いて、
図5(A)に模式的に描かれている如く、光Lを発する複数の光源が整列された光源装置4が容器部の水中Wに沈められるようになっていてもよく、複数の、そのような光源装置4が水中に配置されていてもよい。かかる光源装置4に於いては、
図5(B)に模式的に描かれている如く、筐体8の上に、LEDであってよい複数の光源5が、プリント基板6、熱伝導シート7を介して配置され、各光源5の周囲には、光源5から発せられる光を集光する反射板10が設けられ、光源5の上部には、透明板9が設置され、これにより、複数の光源5からの光Lが透明板9を通って、水中Wへ伝播するようになっていてよい。そして、筐体8の外表面は、光触媒物質12により被覆されていてよい。かかる構成によれば、
図5(A)に示されている如く、一つの光源装置4から発せられた光Lが、別の光源装置4の筐体8の光触媒物質12により被覆された表面に照射されるようにすることができ、そこに於いて、光触媒による水の分解反応を惹起することで、水素ガスが製造できることとなる。
【0033】
上記の本実施形態の装置1の光源装置4は、電力にて作動されるところ、その電力は、好ましくは、太陽光パネルなどにて発電された太陽光由来のエネルギー又はその他の再生可能エネルギーにより与えられてよい。そのために、
図5(A)に示されている如く、光源装置4は、太陽光パネル15などの再生可能エネルギーによる発電源からの送電線16を通じて電力の供給を受けるよう構成されてよい。
【0034】
水素ガス製造装置の作動
本実施形態の水素ガス製造装置1の作動に於いては、光源装置4が太陽光パネル5等の発電源からの電力の供給を受けて光を発し、その光が容器部2内の光触媒体3に照射される。また、容器部2内の水Wは、光源装置4の排熱により加温される。そして、光触媒物質に於いては、光が吸収され、励起電子と正孔が発生し、励起電子により、水の水素が還元されて水素ガスを形成し、正孔により、水の酸素が酸化されて、酸素ガスを形成する。かくして、発生した水素ガスと、酸素ガスとは、送気管2aを通り、分離器(図示せず)へ送られ、水素ガスが分離され回収されることとなる。分離器は、例えば、この分野で利用されている水素分離膜を用いた任意の分離器であってよい。
【0035】
光源装置の出力制御
既に述べた如く、本実施形態の水素ガス製造装置1に於いて、光源装置4へ供給される電力は、太陽光パネル15などの再生可能エネルギー由来のものであってよい。光触媒に照射する光として、太陽光をそのまま利用するのではなく、太陽光エネルギーから変換された電力により光源装置から発せられる光を用いることにより、光の波長を光触媒が吸収しやすい波長帯域に変換し、また、光の密度を濃縮することができ、これにより、光触媒の占める空間を小さくでき、水素ガス製造装置の小型化が容易となる。
【0036】
ところで、光源装置4へ電力を供給して発光素子又は発光体を発光させて光触媒への照射光を得る場合、LEDなどの発光素子又は発光体は、その発光効率が、投入される電流量に対して変化することが見出されている。本発明の発明者等の実験によれば、
図6(A)に例示されている如く、定格電流1A、定格電圧3.54VのLEDを4つ並列に接続した状態で、投入した電流に対して発光効率(%)を計測したところ、図示の如く、発光効率が最大となったのは、投入電流が定格電流に満たない値(1.6A)のときであった。即ち、このことは、発光効率が最大となる電流以上の電流を発光素子又は発光体へ投入すると、光に変換されないエネルギーの割合が相対的に増加し、エネルギーの損失が増大することを示している。そこで、本実施形態に於いては、光源装置4へ投入する電流は、発光素子又は発光体の発光効率が最大となるように調整されることが好ましい。或いは、光源装置4へ投入され得る電流に於いて、発光効率が最大となるように発光素子又は発光体に於ける電流量が調整されてよい。具体的には、光源装置4へ投入され得る電流が投入されたときに、最大の発光効率を与える電流が流れる定格出力の発光素子又は発光体が選択されてよい。従って、例えば、光源装置4へ電力を供給する電力源が太陽光パネルであるとき、好ましくは、その太陽光パネルの定格電流値に於いて、最大の発光効率を与える電流が流れるように発光素子又は発光体が選択される。
【0037】
また、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーによる発電源が光源装置4へ電力を供給する電力源として用いられている場合、発電源の出力は、日照条件などの環境条件により出力が変動し、利用可能な電流が時々刻々に変動し得る。その際、光源装置が、その時々で、発光効率が最大となる状態にて作動されるようになっていれば、水素ガスの製造に利用されるエネルギーの効率が良いこととなる。そのための一つの手法として、本実施形態の光源装置4に於いて、発光素子又は発光体として、
図7(A)~
図7(C)に描かれている如く、複数個のLEDを並列に接続した構成が採用されてよい。かかる構成に於いては、発電源の出力に応じて、発電源に接続されるLEDの数が調整され、これにより、接続されているLEDに於いては、常に、できるだけ発光効率が最大となる電流が流れるように構成されることとなる。例えば、発電源の出力がその定格出力であるときには、
図7(A)の如く複数個のLEDの全てが発電源PVに接続され、発電源の出力がその定格出力の半分程度になったときには、
図7(B)の如く、半数個のLEDが発電源PVに接続され、発電源の出力がその定格出力の1/4程度になったときには、
図7(C)の如く、1/4個数のLEDが発電源PVに接続されてよい。これにより、
図6(B)に例示されている如く、発電源PVに接続されているLEDには、最大の発光効率を与える電流が流れる状態を達成することが可能となる。即ち、発電源の出力に応じて、接続するLEDの数を調整することにより、発電源から電流を受けるLEDの各々に於ける発光効率ができるだけ最大に近い状態となり、光の発生に寄与しないエネルギーの損失の抑制が可能となる。
【0038】
例として、LEDの投入電力が5.664W(電流1.6A、3.54V)のとき、LEDの発光効率が32%である場合、発光出力は、1.84Wとなる。その場合、光触媒体3に於ける照射光密度は、光触媒効率の高い0.1W/cm2程度であることから、照射面積は、18.4cm2程度となるように調節されることが好ましい。この条件を満たすように、光源装置4に於ける反射板の位置・向き、LEDの配置間隔が設定されてよい。
【0039】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。