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  • 特許-電極層 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】電極層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20250304BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250304BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250304BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20250304BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022000470
(22)【出願日】2022-01-05
(65)【公開番号】P2023100077
(43)【公開日】2023-07-18
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】杉田 康成
(72)【発明者】
【氏名】筒井 靖貴
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006051(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100465(WO,A1)
【文献】特開2019-133923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 6/00- 6/22
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる電極層であって、
前記電極層は、電極活物質と、硫化物固体電解質と、残留液体と、を含有し、
前記残留液体は、ハンセン溶解度パラメータにおけるδPが2.9MPa1/2未満であり、沸点が190℃以上であり、
前記電極層における前記残留液体量が、1500ppm以上、5000ppm以下である、電極層。
【請求項2】
前記残留液体が、ナフタレン系化合物、ラウリル基含有化合物および単環芳香族系化合物の少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電極層。
【請求項3】
前記残留液体が、前記ナフタレン系化合物を含む、請求項2に記載の電極層。
【請求項4】
前記ナフタレン系化合物が、テトラリンである、請求項3に記載の電極層。
【請求項5】
前記残留液体が、テトラリンを含まない、請求項1に記載の電極層。
【請求項6】
前記残留液体が、前記ラウリル基含有化合物を含む、請求項2に記載の電極層。
【請求項7】
前記残留液体が、前記単環芳香族系化合物を含む、請求項2に記載の電極層。
【請求項8】
前記電極層が、正極層である、請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の電極層。
【請求項9】
前記電極層が、負極層である、請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の電極層。
【請求項10】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極層および前記負極層の少なくとも一方が、請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の電極層である、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極層に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に、固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。例えば、特許文献1には、無機固体電解質と、バインダーと、分散媒とを含む固体電解質組成物が開示されている。さらに、特許文献1には、分散媒の溶解度パラメータが21MPa1/2以下であることが開示されている。また、特許文献2には、正極層および負極層の作製時に、分散媒として酪酸ブチルを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/203334号公報
【文献】特開2021-132010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池の性能向上の観点から、容量維持率が良好な電極層が求められている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、容量維持率が良好な電極層を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、全固体電池に用いられる電極層であって、上記電極層は、電極活物質と、硫化物固体電解質と、残留液体と、を含有し、上記残留液体は、ハンセン溶解度パラメータにおけるδが2.9MPa1/2未満であり、沸点が190℃以上である、電極層を提供する。
【0006】
本開示によれば、残留液体のδおよび沸点が所定の範囲にあることから、容量維持率が良好な電極層となる。
【0007】
上記開示においては、上記電極層における上記残留液体量が、1500ppm以上、5000ppm以下であってもよい。
【0008】
上記開示においては、上記残留液体が、ナフタレン系化合物、ラウリル基含有化合物および単環芳香族系化合物の少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0009】
上記開示においては、上記残留液体が、上記ナフタレン系化合物を含んでいてもよい。
【0010】
上記開示においては、上記ナフタレン系化合物が、テトラリンであってもよい。
【0011】
上記開示においては、上記残留液体が、上記ラウリル基含有化合物を含んでいてもよい。
【0012】
上記開示においては、上記残留液体が、上記単環芳香族系化合物を含んでいてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記電極層が、正極層であってもよい。
【0014】
上記開示においては、上記電極層が、負極層であってもよい。
【0015】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極層および上記負極層の少なくとも一方が、上述した電極層である、全固体電池を提供する。
【0016】
本開示によれば、上述した電極層を用いることで、容量維持率が良好な全固体電池となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示においては、容量維持率が良好な電極層を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示における電極層および全固体電池について、詳細に説明する。
【0020】
A.電極層
本開示における電極層は、全固体電池に用いられる電極層であって、上記電極層は、電極活物質と、硫化物固体電解質と、残留液体と、を含有し、上記残留液体は、ハンセン溶解度パラメータにおけるδが2.9MPa1/2未満であり、沸点が190℃以上である。
【0021】
本開示によれば、残留液体のδおよび沸点が所定の範囲にあることから、容量維持率が良好な電極層となる。ここで、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)におけるδは、分子間の双極子相互作用エネルギーに該当する。δが大きい残留液体は、硫化物固体電解質を溶解させやすく、硫化物固体電解質を構成する元素の溶出が生じやすくなる。例えば、特許文献1では、SP値が21MPa1/2以下の分散媒の具体例として、酪酸ブチル等の各種分散媒が開示されている。電極層が残留液体として酪酸ブチルを含有する場合、酪酸ブチルのδは比較的大きいため、硫化物固体電解質と反応し、硫化物固体電解質の劣化(イオン伝導性の低下)が生じる。その結果、充放電サイクル特性が低下する。これに対して、本開示においては、電極層が、δが小さい残留液体を含有するため、残留液体および硫化物固体電解質が反応することを抑制できる。その結果、容量維持率が良好な電極層となる。
【0022】
また、沸点が低い分散媒を用いて電極層を作製した場合、乾燥時に、電極層から分散媒が揮発しやすい反面、電極層に割れが生じやすくなる。その理由は、乾燥時に、電極層に含まれるバインダーが偏析するためであると考えられる。これに対して、本開示においては、電極層に残留する残留液体の沸点が高いため、電極層に割れが生じることを抑制できる。特に、電極層に含まれる残留液体は、δが小さく、かつ、沸点が高いため、後述する実施例に記載するように、残留液体量を大幅に増加させた場合であっても、容量維持率が良好な電極層となる。また、分散媒のδおよび沸点の具体例を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
1.残留液体
本開示における電極層は、残留液体を含有する。残留液体は、電極層に残留した液体成分である。残留液体は、典型的には、後述するペーストにおける分散媒である。また、残留液体は、ハンセン溶解度パラメータにおけるδが2.9MPa1/2未満であり、かつ、沸点が190℃以上である。電極層は、このような残留液体を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0025】
残留液体におけるδは、通常、2.9MPa1/2未満である。δは、2.5MPa1/2以下であってもよく、2.3MPa1/2以下であってもよく、2.1MPa1/2以下であってもよい。δが大きいと、残留液体による硫化物電解質の劣化を十分に抑制できない可能性がある。
【0026】
残留液体の沸点は、通常、190℃以上であり、200℃以上であってもよく、205℃以上であってもよく、210℃以上であってもよい。残留液体の沸点が低いと、電極層の割れを十分に抑制できない可能性がある。一方、残留液体の沸点は、例えば300℃以下であり、250℃以下であってもよい。残留液体の沸点が高いと、残留液体を除去するために、例えば乾燥温度を高くする必要があり、製造効率が低下しやすい。
【0027】
残留液体としては、例えば、ナフタレン系化合物、ラウリル基含有化合物および単環芳香族系化合物が挙げられる。ナフタレン系化合物は、ナフタレン骨格を有する化合物であり、例えば、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)、ナフタレンが挙げられる。残留液体は、テトラリンであってもよく、テトラリンでなくてもよい。また、ラウリル基含有化合物は、ラウリル基(ドデシル基)を有する化合物であり、例えば、N,N-ジメチルラウリルアミン(N,N-ジメチルドデシルアミン)が挙げられる。単環芳香族系化合物は、単環芳香族炭化水素(典型的にはベンゼン環)を有する化合物である。単環芳香族系化合物は、単環芳香族炭化水素を1つ有していてもよく、2つ有していてもよく、3つ以上有していてもよい。単環芳香族系化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、テトラメチルベンゼン(例えば、1,2,3,5-テトラメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン)、ジフェニルメタンが挙げられる。
【0028】
電極層における残留液体量は、例えば、500ppm以上、7000ppm以下であり、1000ppm以上、6000ppm以下であってもよく、1500ppm以上、5000ppm以下であってもよい。残留液体量が少ないと、電極層に割れが生じやすくなる。一方、残留液体量が多くても、容量維持率に与える影響は少ないものの、相対的に、体積エネルギー密度が低下する場合がある。また、本開示においては、残留液体量が比較的多くても、容量維持率が低下しにくい。そのため、電極層を作製する際に、乾燥工程の簡略化を図れるという利点もある。残留液体量は、後述するように、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)により求めることができる。
【0029】
2.電極活物質
本開示における電極層は、電極活物質を含有する。電極活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよい。
【0030】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。正極活物質の表面には、イオン伝導性酸化物が被覆されていることが好ましい。正極活物質と硫化物固体電解質とが反応し、高抵抗層が生じることを抑制できるからである。イオン伝導性酸化物としては、例えばLiNbOが挙げられる。イオン伝導性酸化物の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。
【0031】
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金等のLi系活物質;グラファイト、ハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の酸化物系活物質;Si単体、Si合金、酸化ケイ素(SiO)等のSi系活物質が挙げられる。チタン酸リチウム(LTO)は、Li、TiおよびOを含有する化合物である。チタン酸リチウムの組成としては、例えばLiTi(3.5≦x≦4.5、4.5≦y≦5.5、11≦z≦13)が挙げられる。xは、3.7以上4.3以下であってもよく、3.9以上4.1以下であってもよい。yは、4.7以上5.3以下であってもよく、4.9以上5.1以下であってもよい。zは、11.5以上12.5以下であってもよく、11.7以上12.3以下であってもよい。チタン酸リチウムは、LiTi12で表される組成を有することが好ましい。
【0032】
電極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。電極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、10nm以上、50nm以下であり、100nm以上、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、累積粒度分布の累積50%の粒径(メディアン径)をいい、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出される。
【0033】
電極層における電極活物質の割合は、例えば、20体積%以上、80体積%以下であり、30体積%以上、70体積%以下であってもよく、40体積%以上、65体積%以下であってもよい。電極活物質の割合が少ないと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。一方、電極活物質の割合が多いと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。
【0034】
3.硫化物固体電解質
本開示における電極層は、硫化物固体電解質を含有する。硫化物固体電解質は、電極層におけるイオン伝導パスを構成する。硫化物固体電解質は、通常、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有する。硫化物固体電解質は、例えば、Liと、A(Aは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)と、Sとを含有する。Aは、少なくともPを含むことが好ましい、また、硫化物固体電解質は、ハロゲンとして、Cl、BrおよびIの少なくとも一つを含有していてもよい。また、硫化物固体電解質は、Oを含有していてもよい。
【0035】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。また、硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、その結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0036】
硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。
【0037】
硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-x(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、CaおよびZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、BrおよびIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。
【0038】
硫化物固体電解質の他の組成として、例えば、Li7-x-2yPS6-x-y、Li8-x-2ySiS6-x-y、Li8-x-2yGeS6-x-yが挙げられる。これらの組成において、Xは、F、Cl、BrおよびIの少なくとも一種であり、xおよびyは、0≦x、0≦yを満たす。
【0039】
硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度が高いことが好ましい。25℃における硫化物固体電解質のLiイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。硫化物固体電解質は、絶縁性が高いことが好ましい。25℃における硫化物固体電解質の電子伝導度は、例えば10-6S/cm以下であり、10-8S/cm以下であってもよく、10-10S/cm以下であってもよい。また、硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上、50μm以下である。
【0040】
電極層における硫化物固体電解質の割合は、例えば、15体積%以上、75体積%以下であり、15体積%以上、60体積%以下であってもよい。硫化物固体電解質の割合が少ないと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。一方、硫化物固体電解質の割合が多いと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0041】
電極活物質および硫化物固体電解質の合計に対する、電極活物質の割合は、例えば、40体積%以上、80体積%以下であり、50体積%以上、80体積%以下であってもよく、60体積%以上、70体積%以下であってもよい。電極活物質の割合が少ないと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。一方、電極活物質の割合が多いと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。
【0042】
電極層における、電極活物質および硫化物固体電解質の合計の割合は、例えば、75体積%以上、100体積%未満であり、80体積%以上、100体積%未満であってもよく、90体積%以上、100体積%未満であってもよい。
【0043】
4.電極層
本開示における電極層は、上述した、電極活物質、硫化物固体電解質および残留液体を含有する。電極層は、正極層であってもよく、負極層であってもよい。
【0044】
本開示における電極層は、導電材を含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。電極層における導電材の割合は、例えば、0.1体積%以上、10体積%以下であり、0.3体積%以上、10体積%以下であってもよい。
【0045】
本開示における電極層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーが挙げられる。電極層におけるバインダーの割合は、例えば、1体積%以上、20体積%以下であり、5体積%以上、20体積%以下であってもよい。また、電極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0046】
本開示における電極層の製造方法は、特に限定されない。本開示においては、全固体電池に用いられる電極層の製造方法であって、電極活物質と、硫化物固体電解質と、分散媒とを含有するペーストを準備する準備工程と、上記ペーストを塗工し、塗工層を形成する塗工工程と、上記塗工層を乾燥し、上記分散媒を除去する乾燥工程と、を有し、上記分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおけるδが2.9MPa1/2未満であり、沸点が190℃以上である、電極層の製造方法を提供することもできる。ペーストは、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ペーストを塗工する方法は、特に限定されないが、例えばブレード法が挙げられる。塗工層の乾燥温度は、例えば80℃以上120℃以下である。塗工層の乾燥時間は、例えば10分間以上、5時間以下である。また、電極層における分散媒の残留量(残留液体量)は、上述した範囲であることが好ましい。
【0047】
B.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図1に示される全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に配置された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、を有する。本開示においては、正極層1および負極層2の少なくとも一方が、上記「A.電極層」に記載した電極層である。
【0048】
本開示によれば、上述した電極層を用いることで、容量維持率が良好な全固体電池となる。
【0049】
1.正極層および負極層
本開示における正極層および負極層については、上記「A.電極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。本開示においては、(i)正極層が上述した電極層に該当し、負極層が上述した電極層に該当しなくてもよく、(ii)正極層が上述した電極層に該当せず、負極層が上述した電極層に該当してもよく、(iii)正極層および負極層の両方が上述した電極層に該当してもよい。
【0050】
2.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、上記正極層および上記負極層の間に配置される。固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質およびバインダーについては、上記「A.電極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0051】
3.全固体電池
本開示において、「全固体電池」とは、固体電解質層(少なくとも固体電解質を含有する層)を備える電池をいう。また、本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層を有する発電要素を備える。発電要素は、通常、正極集電体および負極集電体を有する。正極集電体は、例えば、正極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。一方、負極集電体は、例えば、負極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0052】
本開示における全固体電池は、上記発電要素を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上記発電要素に対して、厚さ方向の拘束圧を付与する拘束治具を備えていてもよい。拘束治具として、公知の治具を用いることができる。拘束圧は、例えば、0.1MPa以上50MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であってもよい。拘束圧が小さいと、良好なイオン伝導パスおよび良好な電子伝導パスが形成されない可能性がある。一方、拘束圧が大きいと、拘束治具が大型化し、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0053】
本開示における全固体電池の種類は、特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0054】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0055】
[実験例1]
テトラリン(δ=2.0、沸点205℃)に、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P))を添加し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、分散液を得た。その後、遠心分離機を用いて、固形分を分離することにより溶液を得た。
【0056】
[実験例2]
テトラリンの代わりに、酪酸ブチル(δ=2.9、沸点165℃)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして、溶液を得た。
【0057】
[評価]
実験例1、2で得られた溶液のLi量を、酸分解/ICP発光分光分析法(酸分解/ICP-AES)により求めた。また、実験例1、2で得られた溶液のS量を、酸素燃焼/イオンクロマトグラフ法により求めた。その結果を表2に示す。なお、表2に示すLi量およびS量は、実験例1の結果を1とした場合の相対値である。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、テトラリンは、酪酸ブチルに比べて、δが小さいため、硫化物固体電解質との反応性が低いことが確認された。
【0060】
[実施例1]
負極活物質としてLiTi12粒子(LTO)を用いた。この負極活物質、導電材(VGCF)、バインダー(PVdF)および分散媒(テトラリン、δ=2.0、沸点205℃)を秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。その後、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミック)を添加し、再度、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。これにより、負極ペーストを得た。次に、負極集電体(Ni箔)上に、負極ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体上に負極層を形成した。
【0061】
[比較例1]
テトラリンの代わりに、キシレン(δ=1.0、沸点138℃)を用いたこと以外は、参考例3と同様にして、負極集電体上に負極層を形成した。
【0062】
[評価]
実施例1および比較例1で作製した負極層の表面を観察し、割れの発生を確認した。その結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、実施例1では、負極層に割れは発生しなかったが、比較例1では、負極層に割れが発生した。その理由は、キシレンは沸点が低いため、乾燥の際に短時間で多くの揮発が生じたためであると推測される。これに対して、テトラリンは沸点が高いため、乾燥の際に短時間で多く揮発が生じなかったためであると推測される。
【0065】
[実施例2]
(正極ペーストの作製)
正極活物質として、LiNbOで表面処理したLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いた。この正極活物質、導電材(VGCF)、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミック)、バインダー(PVdF)および分散媒(テトラリン、δ=2.0、沸点205℃)を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合した。これにより、正極ペーストを得た。
【0066】
(負極ペーストの作製)
負極活物質としてLiTi12粒子(LTO)を用いた。この負極活物質、導電材(VGCF)、バインダー(PVdF)および分散媒(テトラリン、δ=2.0、沸点205℃)を秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。その後、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミック)を添加し、再度、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。これにより、負極ペーストを得た。
【0067】
(SE層ペーストの作製)
ポリプロピレン製容器に、分散媒(ヘプタン)と、バインダー(ブタジエンゴム系バインダーを5質量%含んだヘプタン溶液)と、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミック、平均粒径D50:2.5μm)とを加え、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて、30秒間混合した。次に、容器を振とう器で3分間振とうさせた。これにより、固体電解質層用ペースト(SE層用ペースト)を得た。
【0068】
(全固体電池の作製)
まず、アプリケーターを使用したブレード法にて、正極集電体(アルミニウム箔)上に、正極ペーストを塗工した。塗工後、50℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、その後、100℃のホットプレート上で10分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。次に、負極集電体(Ni箔)上に、負極ペーストを塗工した。塗工後、50℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、その後、100℃のホットプレート上で10分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。ここで、正極の充電比容量を185mAh/gとした場合に、負極の充電比容量が1.15倍となるように、負極層の目付量を調整した。
【0069】
次に、上記正極をプレスした。プレス後の正極層の表面に、ダイコーターにより、SE層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。その後、5ton/cmの線圧でロールプレスを行った。これにより、正極集電体、正極層および固体電解質層を有する正極側積層体を得た。次に、上記負極をプレスした。プレス後の負極層の表面に、ダイコーターにより、SE層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。その後、5ton/cmの線圧でロールプレスを行った。これにより、負極集電体、負極層および固体電解質層を備える負極側積層体を得た。
【0070】
正極側積層体と負極側積層体とを、それぞれ打ち抜き加工し、固体電解質層同士が対向するように配置し、両者の間に、未プレスの固体電解質層を配置した。その後、130℃にて、2ton/cmの線圧でロールプレスし、正極と固体電解質層と負極とをこの順に有する発電要素を得た。得られた発電要素をラミネート封入し、5MPaで拘束することで、全固体電池を得た。
【0071】
[実施例3]
正極層および負極層を作製する際の乾燥条件を、それぞれ、80℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、その後、110℃のホットプレート上で10分間乾燥させる条件に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、全固体電池を作製した。
【0072】
[比較例2]
分散媒として、テトラリンの代わりに酪酸ブチル(δ=2.9、沸点165℃)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、正極ペーストおよび負極ペーストを作製した。作製した各ペーストを用い、正極層および負極層を作製する際の乾燥条件を、それぞれ、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させる条件に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、全固体電池を作製した。
【0073】
[比較例3]
正極層および負極層を作製する際の乾燥条件を、それぞれ、100℃のホットプレート上で15分間乾燥させる条件に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、全固体電池を作製した。
【0074】
[比較例4]
正極層および負極層を作製する際の乾燥条件を、それぞれ、95℃のホットプレート上で30分間乾燥させる条件に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、全固体電池を作製した。
【0075】
[比較例5]
正極層および負極層を作製する際の乾燥条件を、それぞれ、90℃のホットプレート上で30分間乾燥させる条件に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、全固体電池を作製した。
【0076】
[評価]
(残留液体量の測定)
実施例2、3および比較例2~5で作製した電極(正極および負極)から、活物質層(正極層および負極層)を取り出し、メタノールとともに撹拌した。その後、遠心分離機を用いて、固形分を分離することにより溶液を得た。得られた溶液の残留液体量(残留した分散媒量)を、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)により求めた。その結果を表4に示す。
【0077】
(容量維持率測定)
実施例2、3および比較例2~5で作製した全固体電池の容量維持率を測定した。具体的には、全固体電池を、0.3C相当の電流で定電流充電し、セル電圧が2.7Vに到達した後、定電圧充電し、充電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。その後、0.3C相当の電流で定電流放電し、1.5Vになった時点で終了した。この放電容量を、1サイクル目の放電容量とした。その後、同条件で5サイクル充放電を行い、5サイクル目の放電容量を求めた。5サイクル目の放電容量を、1サイクル目の放電容量で除することで、容量維持率を求めた。その結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示すように、実施例2、3で作製した全固体電池は、比較例2~5で作製した全固体電池に比べて、容量維持率が高いことが確認された。また、比較例2~5では、残留液体量の増加に伴い、容量維持率が低下することが確認された。一方、実施例2では、比較例5よりも、残留液体量が多い電極層を用いているが、98%という高い容量維持率が確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池
図1