(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】位相差層および粘着剤層付偏光板、ならびに、該位相差層および粘着剤層付偏光板を用いた画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20250304BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20250304BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20250304BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20250304BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250304BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20250304BHJP
C08G 63/64 20060101ALI20250304BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20250304BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20250304BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20250304BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20250304BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20250304BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20250304BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20250304BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20250304BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
B32B7/023
B32B7/027
B32B27/00 M
C08F20/10
C08G63/64
C09J7/38
C09J201/00
G09F9/00 313
G09F9/30 349E
H05B33/02
H05B33/14 Z
H10K50/86
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2022508125
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004593
(87)【国際公開番号】W WO2021186946
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020047118
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】山岡 洋平
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】山本 悟士
(72)【発明者】
【氏名】木村 智之
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113579(JP,A)
【文献】特開平05-249315(JP,A)
【文献】特開2008-046147(JP,A)
【文献】特開2004-082714(JP,A)
【文献】特開2016-176984(JP,A)
【文献】特開2011-013684(JP,A)
【文献】国際公開第2007/108363(WO,A1)
【文献】特開2019-008252(JP,A)
【文献】特開2014-194483(JP,A)
【文献】特開2015-178607(JP,A)
【文献】特開2018-077523(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061677(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/02
B32B 7/023-7/027、27/00
C08F 20/10
C08G 63/64
C09J 7/38、201/00
G09F 9/00、9/30
H05B 33/00-33/28
H10K 50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子を含む偏光板と、該偏光板に第1の粘着剤層を介して貼り合わせられた位相差層と、該位相差層の該偏光板と反対側に最外層として設けられた第2の粘着剤層と、を有し、
該偏光子が、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成されており、
該位相差層が、樹脂フィルムの延伸フィルムで構成され、Re(450)<Re(550)の関係を満足し、80℃~125℃で180分までの時間加熱した時の遅相軸方向の収縮率が4%以下であり、
該樹脂フィルムが、カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基と、下記一般式(1)で表される構造単位および下記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位とを含み、正の屈折率異方性を有する樹脂と;アクリル系樹脂と;を含有し、
該第1の粘着剤層の85℃および500時間の加熱試験後の糊ずれ量が300μm以上である、
位相差層および粘着剤層付偏光板:
【化1】
【化2】
一般式(1)および(2)中、R
1
~R
3
は、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1~4のアルキレン基であり、R
4
~R
9
は、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1~10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のアリール基、置換または非置換の炭素数1~10のアシル基、置換または非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1~10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1~10のビニル基、置換または非置換の炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基であり;ただし、R
4
~R
9
は、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R
4
~R
9
のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく、
Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差である。
【請求項2】
前記位相差層のRe(550)が100nm~200nmであり、該位相差層の遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が40°~50°または130°~140°である、請求項1に記載の位相差層および粘着剤層付偏光板。
【請求項3】
前記位相差層の厚みが15μm~60μmである、請求項1または2に記載の位相差層および粘着剤層付偏光板。
【請求項4】
前記位相差層を構成する延伸フィルムが、105℃以上の温度で2分間以上加熱する加熱処理に供されたものである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差層および粘着剤層付偏光板。
【請求項5】
前記位相差層と前記第2の粘着剤層との間に、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す別の位相差層をさらに有する、請求項1から4のいずれかに記載の位相差層および粘着剤層付偏光板。
【請求項6】
前記
樹脂フィルムにおいて樹脂全量を100質量%としたときの前記アクリル系樹脂の含有量が0.5質量%~2.0質量%であり、該アクリル系樹脂が、
該アクリル系樹脂を構成する構造単位の全量を100質量%としたときメタクリル酸メチル由来の構造単位を70質量%以上含有し、その重量平均分子量Mwが10,000~200,000である、請求項1から5のいずれかに記載の位相差層および粘着剤層付偏光板
。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の位相差層および粘着剤層付偏光板を備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層および粘着剤層付偏光板、ならびに、該位相差層および粘着剤層付偏光板を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。画像表示装置には、代表的には偏光板および位相差板が用いられている。実用的には、偏光板と位相差板とを一体化した位相差層付偏光板が広く用いられている(例えば、特許文献1)。しかし、位相差層付偏光板は、高温環境下において位相差ムラが発生し、その結果、高温環境下において画像表示装置に色ムラが発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高温環境下において位相差ムラが抑制され、高温環境下において色ムラが抑制された画像表示装置を実現し得る位相差層および粘着剤層付偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による位相差層および粘着剤層付偏光板は、偏光子を含む偏光板と、該偏光板に第1の粘着剤層を介して貼り合わせられた位相差層と、該位相差層の該偏光板と反対側に最外層として設けられた第2の粘着剤層と、を有する。該位相差層は、樹脂フィルムの延伸フィルムで構成され、Re(450)<Re(550)の関係を満足し、80℃~125℃で180分までの時間加熱した時の遅相軸方向の収縮率が4%以下である。該第1の粘着剤層の85℃および500時間の加熱試験後の糊ずれ量は300μm以上である。ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差である。
1つの実施形態においては、上記位相差層のRe(550)は100nm~200nmであり、該位相差層の遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度は40°~50°または130°~140°である。
1つの実施形態においては、上記位相差層の厚みは15μm~60μmである。
1つの実施形態においては、上記位相差層を構成する延伸フィルムは、105℃以上の温度で2分間以上加熱する加熱処理に供されたものである。
1つの実施形態においては、上記位相差層および粘着剤層付偏光板は、上記位相差層と上記第2の粘着剤層との間に、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す別の位相差層をさらに有する。
1つの実施形態においては、上記位相差層は、カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基と、下記一般式(1)で表される構造単位および下記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位とを含み、正の屈折率異方性を有する樹脂と;アクリル系樹脂と;を含有し、該アクリル系樹脂の含有量が0.5質量%~2.0質量%であり、該アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチル由来の構造単位を70質量%以上含有し、その重量平均分子量Mwが10,000~200,000である:
【化1】
【化2】
一般式(1)および(2)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1~4のアルキレン基であり、R
4~R
9は、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1~10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のアリール基、置換または非置換の炭素数1~10のアシル基、置換または非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1~10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1~10のビニル基、置換または非置換の炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基であり;ただし、R
4~R
9は、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R
4~R
9のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記の位相差層および粘着剤層付偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、偏光子と位相差層との間の粘着剤層の糊ずれ量ならびに位相差層の遅相軸方向の加熱収縮率を組み合わせて最適化することにより、高温環境下において位相差ムラが抑制された位相差層および粘着剤層付偏光板を実現することができる。その結果、高温環境下において色ムラが抑制された画像表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による位相差層および粘着剤層付偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。例えば、「Re(450)」は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(450)」は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
【0010】
A.位相差層および粘着剤層付偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による位相差層および粘着剤層付偏光板の概略断面図である。図示例の位相差層および粘着剤層付偏光板100は、偏光板10と、偏光板10に第1の粘着剤層20を介して貼り合わせられた位相差層30と、位相差層30の偏光板10と反対側に最外層として設けられた第2の粘着剤層40と、を有する。第2の粘着剤層40により、位相差層および粘着剤層付偏光板は、画像表示セルに貼り付け可能とされている。偏光板10は、偏光子11と、偏光子11の一方の側に配置された第1の保護層12と、偏光子11のもう一方の側に配置された第2の保護層13とを含む。目的に応じて、第1の保護層12および第2の保護層13の一方は省略されてもよい。例えば、位相差層30は偏光子11の保護層としても機能し得るので、第2の保護層13は省略されてもよい。位相差層30の遅相軸と偏光子11の吸収軸とのなす角度は、好ましくは40°~50°であり、より好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは44°~46°であり、特に好ましくは約45°であり;あるいは、好ましくは130°~140°であり、より好ましくは132°~138°であり、さらに好ましくは134°~136°であり、特に好ましくは約135°である。
【0011】
位相差層30は、樹脂フィルムの延伸フィルムで構成され、Re(450)<Re(550)の関係を満足し、80℃~125℃で180分までの時間加熱した時の遅相軸方向の収縮率が4%以下である。位相差層30のRe(550)は、代表的には100nm~200nmである。第1の粘着剤層20の85℃および500時間の加熱試験後の糊ずれ量は300μm以上である。位相差層および粘着剤層付偏光板を構成する各層の詳細については後述する。
【0012】
1つの実施形態においては、位相差層および粘着剤層付偏光板は、位相差層30と第2の粘着剤層40との間に別の位相差層(図示せず)をさらに有していてもよい。別の位相差層は、代表的には、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す。このような別の位相差層を設けることにより、斜め方向の反射を良好に防止することができ、反射防止機能の広視野角化が可能となる。
【0013】
1つの実施形態においては、位相差層および粘着剤層付偏光板は、導電層または導電層付等方性基材(図示せず)をさらに有していてもよい。導電層または導電層付等方性基材が設けられる場合、位相差層および粘着剤層付偏光板は、画像表示セル(例えば、有機ELセル)と偏光板との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。導電層または導電層付等方性基材は、代表的には、位相差層30と第2の粘着剤層40との間に設けられる。別の位相差層が設けられる場合、別の位相差層ならびに導電層または導電層付等方性基材は、代表的には、位相差層30側からこの順に設けられる。
【0014】
位相差層および粘着剤層付偏光板は、さらなる位相差層(図示せず)を有していてもよい。さらなる位相差層は、別の位相差層と組み合わせて設けられてもよく、単独で(すなわち、別の位相差層を設けることなく)設けられてもよい。さらなる位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0015】
位相差層および粘着剤層付偏光板は、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差層および粘着剤層付偏光板は、ロール状に巻回可能である。
【0016】
実用的には、第2の粘着剤層40の表面には、位相差層および粘着剤層付偏光板が使用に供されるまで、剥離フィルムが仮着されていることが好ましい。剥離フィルムを仮着することにより、第2の粘着剤層を保護するとともに、位相差層および粘着剤層付偏光板のロール形成が可能となる。
【0017】
以下、位相差層および粘着剤層付偏光板の構成要素について説明する。
【0018】
B.偏光子
偏光子11としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0019】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0020】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0021】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0022】
偏光子は、好ましくは単層の樹脂フィルムから構成され得る。このような構成であれば、第1粘着剤層および第2の粘着剤層の最適化との相乗的な効果により、高温環境下における位相差ムラが抑制された位相差層および粘着剤層付偏光板が得られ得る。
【0023】
偏光子の厚みは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは3μm~12μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0024】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.5%~46.0%であり、好ましくは43.0%~46.0%であり、より好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0025】
C.保護層
第1の保護層12および第2の保護層13は、それぞれ、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0026】
位相差層および粘着剤層付偏光板は、後述するように代表的には画像表示装置の視認側に配置され、第1の保護層12は、代表的にはその視認側に配置される。したがって、第1の保護層12には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、第1の保護層12には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、位相差層および粘着剤層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0027】
第1の保護層の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm~80μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0028】
第2の保護層13は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。
【0029】
C.位相差層
C-1.位相差層の特性
位相差層の面内位相差Re(550)は、上記のとおり100nm~200nmであり、好ましくは110nm~180nmであり、より好ましくは120nm~160nmであり、さらに好ましくは130nm~150nmである。すなわち、位相差層は、いわゆるλ/4板として機能し得る。
【0030】
位相差層は、上記のとおりRe(450)<Re(550)の関係を満たし、好ましくはRe(550)<Re(650)の関係をさらに満たす。すなわち、位相差層は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性を示す。位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、例えば0.5を超えて1.0未満であり、好ましくは0.7~0.95であり、より好ましくは0.75~0.92であり、さらに好ましくは0.8~0.9である。Re(650)/Re(550)は、好ましくは1.0以上1.15未満であり、より好ましくは1.03~1.1である。
【0031】
位相差層は、上記のように面内位相差を有するので、nx>nyの関係を有する。位相差層は、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率特性を示す。位相差層の屈折率特性は、代表的にはnx>ny≧nzの関係を示す。なお、ここで「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny<nzとなる場合があり得る。位相差層のNz係数は、好ましくは0.9~2.0であり、より好ましくは0.9~1.5であり、さらに好ましくは0.9~1.2である。このような関係を満たすことにより、位相差層および粘着剤層付偏光板を画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0032】
位相差層の厚みは、λ/4板として最も適切に機能し得るように設定され得る。言い換えれば、厚みは、所望の面内位相差が得られるように設定され得る。具体的には、厚みは、好ましくは15μm~60μmであり、さらに好ましくは20μm~55μmであり、最も好ましくは20μm~45μmである。本発明の実施形態においては、通常の樹脂フィルムで構成されるλ/4板に比べて位相差層の厚みを顕著に薄くすることができる。
【0033】
本発明の実施形態においては、位相差層は、80℃~125℃で180分までの時間加熱した時の遅相軸方向の収縮率が、上記のとおり4%以下であり、好ましくは3.5%以下であり、より好ましくは3%以下である。収縮率は小さいほど好ましく、その下限は、例えば0.5%であり得る。
【0034】
位相差層を構成する延伸フィルムの破断伸びは、好ましくは200%以上であり、より好ましくは210%以上であり、さらに好ましくは220%以上であり、特に好ましくは245%以上である。破断伸びの上限は、例えば500%であり得る。本発明の実施形態における位相差層に用いられる延伸フィルムは位相差発現性に優れることに加えて、このように伸張性にも優れるので、これらの相乗効果により非常に薄い厚みで所望の面内位相差を実現し得る。なお、本明細書において「破断伸び」とは、所定の延伸温度(例えば、Tg-2℃)での固定端一軸延伸においてフィルムが破断した時の伸び率を意味する。
【0035】
位相差層は、その光弾性係数の絶対値が好ましくは20×10-12(m2/N)以下であり、より好ましくは1.0×10-12(m2/N)~15×10-12(m2/N)であり、さらに好ましくは2.0×10-12(m2/N)~12×10-12(m2/N)である。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、位相差層および粘着剤層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に表示ムラを抑制することができる。
【0036】
C-2.位相差層の構成材料
位相差層は、代表的には、カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基を含む樹脂を含有する。言い換えれば、位相差層は、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂(以下、これらをまとめてポリカーボネート系樹脂等と称する場合がある)を含有する。ポリカーボネート系樹脂等は、上記一般式(1)で表される構造単位および/または上記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む。これらの構造単位は、2価のオリゴフルオレンに由来する構造単位であり、以下、オリゴフルオレン構造単位と称する場合がある。このようなポリカーボネート系樹脂等は、正の屈折率異方性を有する。
【0037】
位相差層は、代表的には、アクリル系樹脂をさらに含有する。アクリル系樹脂の含有量は0.5質量%~1.5質量%である。なお、本明細書において「質量」単位の百分率または部は、「重量」単位の百分率または部と同義である。
【0038】
C-2-1.ポリカーボネート系樹脂等
<オリゴフルオレン構造単位>
オリゴフルオレン構造単位は、上記一般式(1)または(2)で表される。一般式(1)および(2)中、R1~R3は、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1~4のアルキレン基であり、R4~R9は、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1~10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のアリール基、置換または非置換の炭素数1~10のアシル基、置換または非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1~10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1~10のビニル基、置換または非置換の炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基である。ただし、R4~R9は、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R4~R9のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0039】
ポリカーボネート系樹脂等におけるオリゴフルオレン構造単位の含有量は、樹脂全体に対して、好ましくは1質量%~40質量%であり、より好ましくは10質量%~35質量%であり、さらに好ましくは15質量%~30質量%であり、特に好ましくは18質量%~25質量%である。オリゴフルオレン構造単位の含有量が多すぎる場合、光弾性係数が大きくなりすぎる、信頼性が不十分となる、位相差発現性が不十分となるといった問題が生じるおそれがある。さらに、オリゴフルオレン構造単位が樹脂中に占める割合が高くなるため、分子設計の幅が狭くなり、樹脂の改質が求められた時に改良が困難となる場合がある。一方、仮に、非常に少量のオリゴフルオレン構造単位により所望の逆分散波長依存性が得られたとしても、この場合には、オリゴフルオレン構造単位の含有量のわずかなばらつきに応じて光学特性が敏感に変化するので、諸特性が一定の範囲に収まるように製造することが困難となる場合がある。
【0040】
オリゴフルオレン構造単位の詳細は、例えば、国際公開第2015/159928号パンフレットに記載されている。当該公報は、本明細書に参考として援用される。
【0041】
<他の構造単位>
ポリカーボネート系樹脂等は、代表的には、オリゴフルオレン構造単位に加えて他の構造単位を含み得る。1つの実施形態においては、他の構造単位は、好ましくはジヒドロキシ化合物またはジエステル化合物由来であり得る。目的とする逆分散波長性を発現させるためには、負の固有複屈折を有するオリゴフルオレン構造単位とともに、正の固有複屈折を有する構造単位をポリマー構造に組み込む必要があるため、共重合する他のモノマーとしては、正の複屈折を有する構造単位の原料となるジヒドロキシ化合物又はジエステル化合物がさらに好ましい。
【0042】
共重合モノマーとしては、芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物と、芳香族環を含む構造単位を導入しない、即ち脂肪族構造で構成される化合物が挙げられる。
前記脂肪族構造で構成される化合物の具体例を以下に挙げる。エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール、及び3級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシアルキレングリコール類;イソソルビド等の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物;スピログリコール、ジオキサングリコール等の環状アセタール構造を有するジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸。
前記芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物の具体例を以下に挙げる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸。
尚、上記で挙げた脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとして前記ポリエステルカーボネートの原料とすることができるが、製造法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
【0043】
共重合モノマーとして、負の複屈折を有する構造単位を有する化合物として従来より知られている、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物や、フルオレン環を有するジカルボン酸化合物もオリゴフルオレン化合物と組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明に用いられる樹脂は、前記脂環式構造を有する化合物によって導入可能な構造単位の中でも、共重合成分として下記式(3)で表される構造単位を含有することが好ましい。
【化3】
【0045】
前記式(3)の構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、スピログリコールを用いることができる。
【0046】
本発明に用いられる樹脂において、前記式(3)で表される構造単位は5質量%以上、90質量%以下含有されていることが好ましい。上限は70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。下限は10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が特に好ましい。前記式(3)で表される構造単位の含有量が前記下限以上であれば、十分な機械物性や耐熱性、低い光弾性係数が得られる。さらに、アクリル系樹脂との相溶性が向上し、得られる樹脂組成物の透明性をさらに向上することができる。また、スピログリコールは重合反応の速度が比較的に遅いため、含有量を前記上限以下に抑えることで、重合反応を制御しやすくなる。
【0047】
本発明に用いられる樹脂は、共重合成分としてさらに下記式(4)で表される構造単位を含有することが好ましい。
【化4】
【0048】
前記式(4)で表される構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明に用いられる樹脂において、前記式(4)で表される構造単位は5質量%以上、90質量%以下含有されていることが好ましい。上限は70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。下限は10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。前記式(4)で表される構造単位の含有量が前記下限以上であれば、十分な機械物性や耐熱性、低い光弾性係数が得られる。また、前記式(4)で表される構造単位は吸水性が高い特性があるため、前記式(4)で表される構造単位の含有量が前記上限以下であれば、吸水による成形体の寸法変化を許容範囲に抑えることができる。
【0050】
本発明に用いられる樹脂は、さらに別の構造単位を含んでいてもよい。尚、かかる構造単位を「その他の構造単位」と称することがある。その他の構造単位を有するモノマーとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(及びその誘導体)を採用することがより好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールとトリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。これらのモノマーに由来する構造単位を含む樹脂は、光学特性や耐熱性、機械特性等のバランスに優れている。また、ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点から、オリゴフルオレン構造単位を含有するジエステル化合物以外のジエステル化合物は用いないことが好ましい。
【0051】
本発明に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上160℃以下であることが好ましい。上限は155℃以下がさらに好ましく、150℃以下がより好ましく、145℃以下が特に好ましい。下限は120℃以上がさらに好ましく、130℃以上が特に好ましい。ガラス転移温度が上記範囲外であると耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こしたり、位相差フィルムの使用条件下における品質の信頼性が悪化する可能性がある。一方、ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時にフィルム厚みの斑が生じたり、フィルムが脆くなり、延伸性が悪化したりする場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。
【0052】
ポリカーボネート系樹脂等の構成および製造方法等の詳細は、例えば、国際公開第2015/159928号パンフレット(上記)に記載されている。この記載は、本明細書に参考として援用される。
【0053】
C-2-2.アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、熱可塑性樹脂としてのアクリル系樹脂が使用される。アクリル系樹脂の構造単位となる単量体としては、例えば、以下の化合物が挙げられる:メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘプチルメタクリレート、シクロヘプチルアクリレート、シクロオクチルメタクリレート、シクロオクチルアクリレート、シクロドデシルメタクリレート、シクロドデシルアクリレート。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の単量体を組み合わせて用いる形態は、2種以上の単量体の共重合、1種の単量体の単独重合体の2つ以上のブレンド、およびこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、これらのアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体(例えば、オレフィン系単量体、ビニル系単量体)を併用してもよい。
【0054】
アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構造単位を含む。アクリル系樹脂におけるメタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量は70質量%以上、100質量%以下が好ましい。下限は80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。この範囲であると、本発明のポリカーボネート系樹脂と優れた相溶性が得られる。メタクリル酸メチル以外の構造単位としては、アクリル酸メチル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレンを用いることが好ましい。アクリル酸メチルを共重合することで熱安定性を向上させることができる。フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレンを用いることで、アクリル系樹脂の屈折率を調整することができるため、組み合わせる樹脂の屈折率に合わせ込むことで、得られる樹脂組成物の透明性を向上させることができる。このようなアクリル系樹脂を用いることで、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムが得られ得る。
【0055】
アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、10,000以上、200,000以下である。下限は30,000以上が好ましく、50,000以上が特に好ましい。上限は180,000以下が好ましく、150,000以下が特に好ましい。分子量がこのような範囲であれば、ポリカーボネート系樹脂との相溶性が得られることで、最終的な位相差フィルム(位相差層)の透明性を向上させることができ、かつ、延伸時の伸張性を十分に向上させる効果が得られる。尚、上記の重量平均分子量はGPCにより測定される、ポリスチレン換算の分子量である。また、アクリル系樹脂は実質的に分岐構造を含有しないことが相溶性の観点から好ましい。分岐構造を含有しないことは、アクリル系樹脂のGPCカーブが単峰性であることなどで確認できる。
【0056】
C-2-3.ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とのブレンド
ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とはブレンドされ、樹脂組成物として位相差フィルム(位相差層)の製造方法に供される(製造方法はC-3項で後述する)。ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とは、好ましくは、溶融状態でブレンドされ得る。溶融状態でブレンドする方法としては、代表的には、押出機を用いた溶融混練が挙げられる。混練温度(溶融樹脂温度)は、好ましくは200℃~280℃であり、より好ましくは220℃~270℃であり、さらに好ましくは230℃~260℃である。混練温度がこのような範囲であれば、熱分解を抑制しながら、両樹脂が均一にブレンドされた樹脂組成物のペレットが得られ得る。押出機中の溶融樹脂温度が280℃を超えると、樹脂の着色および/または熱分解が発生する場合がある。一方、押出機中の溶融樹脂温度が200℃を下回ると、樹脂粘度が高くなり過ぎて押出機に過大な負荷が掛かったり、樹脂の溶融が不十分となる場合がある。なお、押出機の構成、スクリューの構成等としては、任意の適切な構成が採用され得る。光学フィルム用途に耐え得る樹脂の透明性を得るためには二軸押出機を用いることが好ましい。さらに、樹脂中の残存低分子成分や、押出混錬中の低分子量の熱分解成分は、製膜工程や延伸工程で冷却ロールや搬送ロールを汚染する懸念があるため、これを除去するために、真空ベントを備える押出機を用いることが好ましい。
【0057】
樹脂組成物(結果として、位相差層)におけるアクリル系樹脂の含有量は、上記のとおり0.5質量%以上、2.0質量%以下である。下限は0.6質量%以上がより好ましい。上限は1.5質量%以下が好ましく、1.0重量%以下がより好ましく、0.9重量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が特に好ましい。このように、ポリカーボネート系樹脂にアクリル系樹脂をごく限定的な比率で配合することにより、伸張性および位相差発現性を顕著に増大させることができる。さらに、ヘイズを抑制することができる。このような効果は理論的には明らかでなく、試行錯誤により得られた予期せぬ優れた効果である。なお、アクリル系樹脂の含有量が少なすぎると、上記の効果が得られない場合がある。一方、アクリル系樹脂の含有量が多すぎると、ヘイズが高くなってしまう場合がある。また、伸張性および位相差発現性も上記範囲内の場合に比べて不十分となったり、かえって低下してしまう場合が多い。
【0058】
樹脂組成物は、機械特性および/または耐溶剤性等の特性を改質する目的で、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の合成樹脂、ゴム、およびこれらの組み合わせがさらにブレンドされてもよい。
【0059】
樹脂組成物は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、熱安定剤、酸化防止剤、触媒失活剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、染顔料、衝撃改良剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、核剤、難燃剤、無機充填剤、発泡剤が挙げられる。樹脂組成物に含まれる添加剤の種類、数、組み合わせ、含有量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0060】
C-3.位相差層の形成方法
位相差層は、上記C-2項に記載の樹脂組成物からフィルムを形成し、さらにそのフィルムを延伸することにより得られる。樹脂組成物からフィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。中でも得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができる押出成形法、またはキャスト塗工法が好ましい。キャスト塗工法では残存溶媒による問題が生じるおそれがあるため、特に好ましくは押出成形法、中でもTダイを用いた溶融押出成形法がフィルムの生産性や、後の延伸処理のし易さの観点から好ましい。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、位相差層に所望される特性等に応じて適宜設定され得る。このようにして、ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とを含む樹脂フィルムが得られ得る。
【0061】
樹脂フィルム(未延伸フィルム)の厚みは、得られる位相差層の所望の厚み、所望の光学特性、後述の延伸条件などに応じて、任意の適切な値に設定され得る。好ましくは50μm~300μmである。
【0062】
上記延伸は、任意の適切な延伸方法、延伸条件(例えば、延伸温度、延伸倍率、延伸方向)が採用され得る。具体的には、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。
【0063】
上記延伸方法、延伸条件を適宜選択することにより、上記所望の光学特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数)を有する位相差層を得ることができる。
【0064】
上記フィルムの延伸温度は、1つの実施形態においては、ポリカーボネート系樹脂等のガラス転移温度(Tg)以下の温度である。通常、ポリカーボネート系樹脂等のフィルムを延伸する場合、Tg以下の温度ではフィルムがガラス状態であるので、延伸は実質的には不可能である。本発明の実施形態に用いられる樹脂フィルムによれば、アクリル系樹脂(代表的には、ポリメチルメタクリレート)を少量配合することにより、ポリカーボネート系樹脂等のTgを実質的に変化させることなく、Tg以下での延伸が可能となる。さらに、理論的には明らかではないが、Tg以下で延伸を行うことにより、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルム(位相差層)を実現することができる。具体的には、延伸温度は、好ましくはTg~Tg-10℃であり、より好ましくはTg~Tg-8℃であり、さらに好ましくはTg~Tg-5℃である。なお、上記フィルムは、例えばTg+5℃程度、また例えばTg+2℃程度までであれば、Tgよりも高い温度であっても適切に延伸され得る。
【0065】
上記のようにして得られる延伸フィルムは、好ましくは、105℃以上の温度で2分間以上加熱する加熱処理に供される。加熱処理を施すことにより、上記所望の収縮率を有する位相差層を形成することができる。加熱温度は、好ましくは105℃~140℃であり、より好ましくは110℃~130℃であり、さらに好ましくは115℃~125℃である。加熱時間は、好ましくは2分間~150分間であり、より好ましくは3分間~120分間であり、さらに好ましくは5分間~60分間である。
【0066】
必要に応じて、延伸フィルムは、緩和処理に供されてもよい。これにより、延伸により生じる応力を緩和することができ、上記所望の収縮率を有する位相差層を形成することができる。緩和処理条件としては、任意の適切な条件を採用し得る。例えば、延伸フィルムを、延伸方向に沿って所定の緩和温度および所定の緩和率(収縮率)で収縮させる。緩和温度は、好ましくは60℃~150℃である。緩和率は、好ましくは3%~6%である。緩和処理が行われる場合、緩和処理は、代表的には、上記加熱処理の前に行われ得る。
【0067】
以上のようにして、位相差層を構成する位相差フィルムが得られ得る。
【0068】
D.第1の粘着剤層および第2の粘着剤層
D-1.第1の粘着剤層および/または第2の粘着剤層の特性
第1の粘着剤層20は、上記のとおり、85℃および500時間の加熱試験後の糊ずれ量が300μm以上であり、好ましくは330μm以上であり、より好ましくは360μm以上であり、さらに好ましくは390μm以上であり、特に好ましくは420μm以上である。糊ずれ量の上限は、例えば600μmであり得る。このように糊ずれ量の大きい粘着剤を偏光子と位相差層との貼り合わせに用いることにより、上記位相差層の遅相軸方向の収縮率を制御することによる効果および後述の第2の粘着剤層のクリープ値を制御することによる効果との相乗的な効果により、高温環境下における位相差ムラが抑制された位相差層および粘着剤層付偏光板を実現することができる。なお、本明細書において「糊ずれ量」とは、位相差層および粘着剤層付偏光板において加熱試験後に偏光子および位相差層の端面からはみ出した粘着剤層の最もはみ出しが大きい部分の長さをいう。
【0069】
第2の粘着剤層40は、23℃におけるクリープ値が例えば5μm以上であり、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは60μm以上であり、特に好ましくは100μm以上であり、とりわけ好ましくは120μm以上である。クリープ値の上限は、例えば300μmであり得る。このようにクリープ値の大きい粘着剤を位相差層および粘着剤層付偏光板の画像表示セルへの貼り合わせに用いることにより、上記位相差層の遅相軸方向の収縮率を制御することによる効果および上記第1の粘着剤層の糊ずれ量を制御することによる効果との相乗的な効果により、高温環境下における色ムラが抑制された画像表示装置を実現することができる。クリープ値は、例えば以下の手順で測定され得る:粘着剤シートから切り出した試験サンプルを10mm×10mmの接合面にて支持板に貼着する。試験サンプルを貼り付けた支持板を固定した状態で、500gfの荷重を鉛直下方に加える。荷重を加えて1秒後および3600秒後の支持板からのずれ量を測定し、それぞれCr1およびCr3600とする。Cr1およびCr3600から下記式により求められるΔCrをクリープ値とする。なお、本明細書におけるクリープ値は、粘着剤層の厚みを20μmに換算した場合の値である。
ΔCr=Cr3600-Cr1
【0070】
第1の粘着剤層および/または第2の粘着剤層は、85℃における貯蔵弾性率が、好ましくは1.0×104Pa以上であり、好ましくは2.0×104Pa以上であり、より好ましくは5.0×104Pa以上であり、さらに好ましくは1.0×105Pa以上である。貯蔵弾性率がこのような範囲であれば、上記所望の糊ずれ量および/またはクリープ値の実現が容易となる。一方で、貯蔵弾性率は、例えば3.0×106Pa以下である。
【0071】
第1の粘着剤層の厚みは、好ましくは2μm~50μmであり、より好ましくは3μm~40μmである。第2の粘着剤層の厚みは、好ましくは4μm~30μmであり、より好ましくは5μm~20μmである。第1の粘着剤層および第2の粘着剤層の厚みがこのような範囲であれば、上記糊ずれ量およびクリープ値を制御する効果との相乗的な効果により、高温環境下における位相差ムラが抑制された位相差層および粘着剤層付偏光板を実現することができ、かつ、高温環境下における色ムラが抑制された画像表示装置を実現することができる。
【0072】
D-2.第1の粘着剤層および第2の粘着剤層の構成材料
第1の粘着剤層および第2の粘着剤層は、第1の粘着剤層が上記所望の糊ずれ量を有し、第2の粘着剤層が上記所望のクリープ値を有する限りにおいて、任意の適切な構成が採用され得る。第1の粘着剤層および第2の粘着剤層は、同一の粘着剤で構成されていてもよく、それぞれ異なる粘着剤で構成されていてもよい。以下、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層をまとめて粘着剤層として、構成材料を説明する。粘着剤層を構成する粘着剤の組成(例えば、ベースポリマーの種類(極性、Tg、柔らかさ)、分子量)、架橋構造(例えば、架橋剤の種類、架橋点間距離(架橋点間分子量)、架橋密度)等を調整することにより、糊ずれ量および/またはクリープ値を制御することができる。
【0073】
D-2-1.ベースポリマー
粘着剤層は、代表的には、ベースポリマーとして(メタ)アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、シリコーン系ポリマーまたはゴム系ポリマーを含有する粘着剤組成物から形成される。ベースポリマーとして(メタ)アクリル系ポリマーが用いられる場合、粘着剤層は、例えば(メタ)アクリル系ポリマー(A)を含有する粘着剤組成物から形成される。(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有する。
【0074】
<(メタ)アクリル系ポリマー(A)>
(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、上記のとおり、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有する。アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系ポリマー(A)を形成する全モノマー成分において、粘着剤層の接着性を向上させる観点から、50重量%以上であることが好ましく、当該アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマーの残部として任意に設定できる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートをいう。
【0075】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)の主骨格を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1~18のものが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、イソミリスチル基、ラウリル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは単独でまたは組み合わせて使用できる。アルキル基の平均炭素数は3~10であることが好ましい。
【0076】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、モノマー成分として、アルキル(メタ)アクリレート以外にも、カルボキシル基含有モノマー(a1)、ヒドロキシル基含有モノマー(a2)等の共重合モノマーを含有していてもよい。共重合モノマーは単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0077】
カルボキシル基含有モノマー(a1)は、その構造中にカルボキシル基を含み、かつ(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの重合性不飽和二重結合を含む化合物である。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などが挙げられる。これらの中でも、共重合性、価格、および粘着剤層の粘着特性を向上させる観点から、アクリル酸が好ましい。
【0078】
モノマー成分としてカルボキシル基含有モノマー(a1)を使用する場合、カルボキシル基含有モノマー(a1)の含有量は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)を形成する全モノマー成分において、通常0.01重量%以上10重量%以下である。
【0079】
ヒドロキシル基含有モノマー(a2)は、その構造中にヒドロキシル基を含み、かつ(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの重合性不飽和二重結合を含む化合物である。ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)-メチルアクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、粘着剤層の耐久性を向上させる観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0080】
モノマー成分としてヒドロキシル基含有モノマー(a2)を使用する場合、ヒドロキシル基含有モノマー(a2)の含有量は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)を形成する全モノマー成分において、通常0.01重量%以上10重量%以下である。
【0081】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、モノマー成分として、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上である不飽和炭素二重結合を有するモノマーを含有することが好ましい。ホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上である不飽和炭素二重結合を有するモノマー(a3)としては、アルキル(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリル酸が挙げられる。モノマー(a3)は、ホモポリマーのガラス転移温度が20℃以上である不飽和炭素二重結合を有するモノマーが好ましく、ホモポリマーのガラス転移温度が40℃以上である不飽和炭素二重結合を有するモノマーがより好ましい。
【0082】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)において、モノマー(a3)を含有する割合は特に限定されない。含有量は、通常0.1重量%~40重量%であり、より好ましくは1重量%~30重量%である。なお、含有量は、モノマー(a3)を2種類以上併用する場合は合計での含有量である。
【0083】
モノマー(a3)としては、例えば、メチルアクリレート(Tg:8℃)、メチルメタクリレート(Tg:105℃)、エチルメタクリレート(Tg:65℃)、n-プロピルアクリレート(Tg:3℃)、n-プロピルメタクリレート(Tg:35℃)、n-ペンチルアクリレート(Tg:22℃)、n-テトラデシルアクリレート(Tg:24℃)、n-ヘキサデシルアクリレート(Tg:35℃)、n-ヘキサデシルメタクリレート(Tg:15℃)、n-ステアリルアクリレート(Tg:30℃)、及びn-ステアリルメタクリレート(Tg:38℃)などの直鎖アルキル(メタ)アクリレート;t-ブチルアクリレート(Tg:43℃)、t-ブチルメタクリレート(Tg:48℃)、i-プロピルメタクリレート(Tg:81℃)、及びi-ブチルメタクリレート(Tg:48℃)などの分岐鎖アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシルアクリレート(Tg:19℃)、シクロヘキシルメタクリレート(Tg:65℃)、イソボルニルアクリレート(Tg:94℃)、及びイソボルニルメタクリレート(Tg:180℃)などの環状アルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸(Tg:106℃)などが挙げられる。これらは単独または組み合わせて使用できる。
【0084】
共重合モノマーは、粘着剤組成物が後述する架橋剤を含有する場合に、架橋剤との反応点になる。カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーは、分子間架橋剤との反応性に富むため、得られる粘着剤層の凝集性や耐熱性の向上のために好ましく用いられる。また、カルボキシル基含有モノマーは、耐久性とリワーク性を両立させる点で好ましく、ヒドロキシル基含有モノマーは、リワーク性を向上させる点で好ましい。
【0085】
モノマー成分として、その他の共重合モノマー(a4)をさらに用いてもよい。その他の共重合モノマー(a4)は、例えば、(メタ)アクリロイル基またはビニル基などの不飽和二重結合を有する重合性の官能基を有する。その他の共重合モノマー(a4)を用いることにより、粘着剤層の接着性および耐熱性が改善され得る。その他の共重合モノマー(a4)は単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0086】
その他の共重合モノマー(a4)として、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマーを用いることにより、粘着剤層の密着性を向上できる。アミノ基含有モノマーは、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートである。アミド基含有モノマーは、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロール-N-プロパン(メタ)アクリルアミド、アミノメチル(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、メルカプトメチル(メタ)アクリルアミド、メルカプトエチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等のN-アクリロイル複素環単量体;N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム等のN-ビニル基含有ラクタム系単量体である。
【0087】
その他の共重合モノマー(a4)は、多官能性モノマーであってもよい。多官能性モノマーの使用により、粘着剤層のゲル分率の調整や凝集力の制御を実施できる。多官能性モノマーは、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の多官能アクリレート;及びジビニルベンゼンである。多官能アクリレートは、好ましくは1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートである。
【0088】
その他の共重合モノマー(a4)は、上述した以外に、例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸4-エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル等の環化重合性モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等のエポキシ基含有モノマー;ビニルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有モノマー;リン酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のオレフィン類又はジエン類;ビニルアルキルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニルを用いることができる。
【0089】
(メタ)アクリル系ポリマーにおけるその他の共重合モノマー(a4)の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは8質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
【0090】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量Mwは、例えば20万~300万であり、好ましくは100万~250万であり、より好ましくは120万~250万である。重量平均分子量Mwがこのような範囲であれば、耐久性(特に、耐熱性)に優れた粘着剤層が得られ得る。重量平均分子量Mwが300万を超えると、粘度の上昇および/またはポリマー重合中におけるゲル化が生じる場合がある。
【0091】
D-2-2.反応性官能基含有シランカップリング剤
粘着剤組成物は、反応性官能基含有シランカップリング剤を含有することができる。反応性官能基含有シランカップリング剤は、反応性官能基が代表的には酸無水物基以外の官能基である。酸無水物基以外の官能基としては、例えば、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ビニル基、スチリル基、アセトアセチル基、ウレイド基、チオウレア基、(メタ)アクリル基、複素環基、およびこれらの組み合わせが挙げられる。反応性官能基含有シランカップリング剤は単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0092】
粘着剤組成物に反応性官能基含有シランカップリング剤を配合する場合、反応性官能基含有シランカップリング剤の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、通常0.001重量部以上5重量部以下である。
【0093】
D-2-3.架橋剤
粘着剤組成物は、架橋剤を含有することができる。架橋剤としては、有機系架橋剤、多官能性金属キレートなどを用いることができる。有機系架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、過酸化物系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イミン系架橋剤が挙げられる。多官能性金属キレートは、多価金属が有機化合物と共有結合または配位結合しているものである。粘着剤組成物が放射線硬化型である場合、架橋剤として多官能性モノマーを用いることができる。架橋剤は単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0094】
粘着剤組成物に架橋剤を配合する場合、架橋剤の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、通常0.01重量部以上15重量部以下である。
【0095】
粘着剤組成物にイソシアネート系架橋剤を配合する場合、イソシアネート系架橋剤の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、通常0.01重量部以上15重量部以下である。
【0096】
粘着剤組成物に過酸化物を配合する場合、過酸化物の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、通常0.01重量部以上2重量部以下である。このような範囲であれば、加工性および架橋安定性などの調整が容易である。
【0097】
D-2-4.添加剤
粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系オリゴマーおよび/またはイオン性化合物を含有していてもよい。また、粘着剤組成物は、添加剤を含有していてもよい。添加剤の具体例としては、着色剤、顔料などの粉体、染料、界面活性剤、可塑剤、粘着性付与剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状、箔状物が挙げられる。また、制御できる範囲内で、還元剤を加えてのレドックス系を採用してもよい。添加剤の種類、数、組み合わせ、含有量等は、目的に応じて適切に設定され得る。添加剤の含有量は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、好ましくは5重量部以下であり、より好ましくは3重量部以下であり、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0098】
E.画像表示装置
上記A項~D項に記載の位相差層および粘着剤層付偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明の実施形態は、そのような位相差層および粘着剤層付偏光板を用いた画像表示装置も包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、有機EL表示装置が挙げられる。本発明の実施形態による画像表示装置は、代表的には、その視認側に上記A項~D項に記載の位相差層および粘着剤層付偏光板を備える。
【実施例】
【0099】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0100】
(1)糊ずれ量
実施例および比較例で得られた位相差層および粘着剤層付偏光板を所定サイズ(後述の表1のMサイズまたはTサイズ)に切り出し、試験サンプルとした。当該試験サンプルを85℃および500時間の加熱試験に供し、当該加熱試験後に偏光子および位相差層の端面からはみ出した第1の粘着剤層のはみ出し量を、対物レンズ(20倍)で観察および測定した。第1の粘着剤層の最もはみ出しが大きい部分の長さを糊ずれ量とした。観察の際には透過光を0(ゼロ)とし、反射光で観察するよう調整した。
(2)クリープ値
実施例および比較例で得られた位相差層および粘着剤層付偏光板を10mm×30mmサイズに切り出し試験サンプルとした。当該試験サンプルの上端部10mm×10mmを、SUS板に第2の粘着剤層を介して貼着し、試験サンプルの下端部に500gfの荷重を鉛直下方に負荷した。荷重を加えて1秒後および3600秒後における試験サンプルとSUS板とのずれ量を測定し、それぞれCr1およびCr3600とした。Cr1およびCr3600から下記式により求められるΔCrをクリープ値とした。
ΔCr=Cr3600-Cr1
(3)色ムラ
実施例および比較例で得られた位相差層および粘着剤層付偏光板を所定サイズ(後述の表1のMサイズまたはTサイズ)に切り出し、第2の粘着剤層を介してガラス板に貼り合わせ試験サンプルとした。85℃で500時間加熱後の試験サンプルを反射シート(東レフィルム加工社製、DMS蒸着フィルム)上に載置し、分光測色計(コニカミノルタ社製、製品名「CM-2600d」)を用いて、サンプル中央部の反射色相a*
Cおよびb*
C、ならびに、サンプル端部の反射色相a*
Eおよびb*
Eを測定した。下記式で求められるΔabを色ムラの指標とした。Δabが小さいほど色ムラが良好であることを示す。
Δab={(a*
E-a*
C)2+(b*
E-b*
C)2}1/2
【0101】
[化合物の略号]
以下の製造例で用いた化合物の略号は以下の通りである。
・BPFM:ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン
特開2015-25111号公報に記載の方法で合成した。
【化5】
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・SPG:スピログリコール[三菱ガス化学(株)製]
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱ケミカル(株)製]
【0102】
[製造例1:位相差層を構成する位相差フィルムの作製]
撹拌翼、及び還流冷却器を具備した竪型撹拌反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。BPFMを30.31質量部(0.047mol)、ISBを39.94質量部(0.273mol)、SPGを30.20質量部(0.099mol)、DPCを69.67質量部(0.325mol)、および触媒として酢酸カルシウム1水和物7.88×10-4質量部(4.47×10-6mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を110℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、40分で内温240℃、圧力20kPaにした。その後、さらに圧力を下げながら、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。この樹脂を「PC1」と称する。各モノマーに由来する構造単位の比率は、BPFM/ISB/SPG/DPC=21.5/39.4/30.0/9.1質量%である。PC1の還元粘度は0.46dL/g、Mwは48,000、屈折率nDは1.526、溶融粘度は2480Pa・s、ガラス転移温度は139℃、光弾性係数は9×10-12[m2/N]、波長分散Re(450)/Re(550)は0.85であった。
【0103】
アクリル系樹脂としてダイヤナールBR80(三菱ケミカル(株)製)を用いて、得られたポリエステルカーボネートとの押出混錬を行った。ポリカーボネートのペレット(99.5質量部)とBR80の粉(0.5質量部)を混ぜ合わせたものを、定量フィーダーを用いて(株)日本製鋼所製の二軸押出機TEX30HSSに投入した。押出機シリンダー温度は250℃に設定し、処理量12kg/hr、スクリュー回転数120rpmで押出を行った。また、押出機には真空ベントが具備されており、溶融樹脂を減圧脱揮しながら押出した。このようにして得られた樹脂組成物のペレットを、100℃で6時間以上、真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅300mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、長さ3m、幅200mm、厚み100μmの長尺未延伸フィルムを作製した。この長尺未延伸フィルムを、延伸温度をTg、延伸倍率2.4倍で延伸した。得られた延伸フィルムを緩和処理(緩和温度130℃、緩和率4.5%)に供し、次いで、125℃で2分間の加熱処理に供した。
【0104】
このようにして、位相差層を構成する位相差フィルムR1を得た。位相差フィルムR1を125℃で180分加熱した時の遅相軸方向の収縮率は2.92%であった。また、位相差フィルムR1は、nx>ny>nzの屈折率特性を示し、Re(550)は145nm、Re(450)/Re(550)は0.85であった。
【0105】
[製造例2:位相差層を構成する位相差フィルムの作製]
緩和処理および加熱処理を行わなかったこと以外は製造例1と同様にして位相差フィルムR2を得た。位相差フィルムR2を125℃で180分加熱した時の遅相軸方向の収縮率は4.54%であった。また、位相差フィルムR2は、nx>ny>nzの屈折率特性を示し、Re(550)は145nm、Re(450)/Re(550)は0.85であった。
【0106】
[製造例3:粘着剤の調製]
(アクリル系ポリマーA1の調製)
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート99部、4-ヒドロキシブチルアクリレート1部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、このモノマー混合物100部に対して、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチル100部と共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行って、重量平均分子量(Mw)180万、Mw/Mn=4.8のアクリル系ポリマーA1の溶液を調製した。
【0107】
(粘着剤の調製)
アクリル系ポリマーA1溶液の固形分100部に対して、トリメチロールプロパン/キシリレンジイソシアネート付加物(東ソー社製、商品名「タケネートD110N」)0.02部、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、商品名「ナイパーBMT」)0.3部およびエポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBM-403」)0.2部を配合して、粘着剤PSA1を得た。
【0108】
[製造例4:粘着剤の調製]
D110Nの配合量を0.1部に変更したこと以外は製造例3と同様にして、粘着剤PSA2を得た。
【0109】
[製造例5:粘着剤の調製]
(アクリル系ポリマーA2の調製)
ブチルアクリレート94.9部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.1部およびアクリル酸5部を含有するモノマー混合物を用いたこと以外は製造例3と同様にして、Mw230万、Mw/Mn=3.9のアクリル系ポリマーA2の溶液を調製した。
【0110】
(粘着剤の調製)
アクリル系ポリマーA2溶液の固形分100部に対して、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)0.6部、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、商品名「ナイパーBMT」)0.2部およびエポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBM-403」)0.2部を配合して、粘着剤PSA3を得た。
【0111】
[製造例6:粘着剤の調製]
(アクリル系ポリマーA3の調製)
ブチルアクリレート91部、N-アクリロイルモルホリン6部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.3部およびアクリル酸2.7部を含有するモノマー混合物を用いたこと以外は製造例3と同様にして、Mw270万、Mw/Mn=3.8のアクリル系ポリマーA3の溶液を調製した。
【0112】
(粘着剤の調製)
アクリル系ポリマーA3溶液の固形分100部に対して、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)0.1部、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、商品名「ナイパーBMT」)0.3部およびエポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBM-403」)0.2部を配合して、粘着剤PSA4を得た。
【0113】
[製造例7:粘着剤の調製]
(アクリル系ポリマーA4の調製)
ブチルアクリレート82.1部、ベンジルアクリレート13部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1部およびアクリル酸4.8部を含有するモノマー混合物を用いたこと以外は製造例3と同様にして、Mw220万のアクリル系ポリマーA4の溶液を調製した。
【0114】
(粘着剤の調製)
アクリル系ポリマーA4溶液の固形分100部に対して、反応性シリル基を有するポリエーテル化合物(カネカ社製、商品名「サイリルSAT10」)0.5部、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)0.45部および過酸化物架橋剤(ベンゾイルパーオキサイド)0.1部を配合して、粘着剤PSA5を得た。
【0115】
[製造例8:偏光板の作製]
(偏光子の作製)
厚み30μmのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により長手方向に5.9倍になるように長手方向に一軸延伸しながら同時に膨潤、染色、架橋、洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。
具体的には、膨潤処理は20℃の純水で処理しながら2.2倍に延伸した。次いで、染色処理は得られる偏光子の単体透過率が45.0%になるようにヨウ素濃度が調整されたヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7である30℃の水溶液中において処理しながら1.4倍に延伸した。更に、架橋処理は、2段階の架橋処理を採用し、1段階目の架橋処理は40℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.2倍に延伸した。1段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は5.0重量%で、ヨウ化カリウム含有量は3.0重量%とした。2段階目の架橋処理は65℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.6倍に延伸した。2段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は4.3重量%で、ヨウ化カリウム含有量は5.0重量%とした。また、洗浄処理は、20℃のヨウ化カリウム水溶液で処理した。洗浄処理の水溶液のヨウ化カリウム含有量は2.6重量%とした。最後に、乾燥処理は70℃で5分間乾燥させて偏光子を得た。
【0116】
(偏光板の作製)
上記偏光子の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を介して、トリアセチルセルロースフィルム(厚み40μm、コニカミノルタ社製、商品名「KC4UYW」)を貼り合わせ、保護層/偏光子の構成を有する偏光板P1を得た。
【0117】
[製造例9:偏光板の作製]
(偏光子の作製)
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0118】
(偏光板の作製)
得られた偏光子の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護層としてのシクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、ZF-12、23μm)を、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが約1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、UV光線をシクロオレフィン系フィルム側から照射して接着剤を硬化させた。次いで、樹脂基材を剥離してシクロオレフィン系フィルム(保護層)/偏光子の構成を有する偏光板P2を得た。
【0119】
[実施例1~5および比較例1~8]
偏光板、位相差フィルム(位相差層)、ならびに粘着剤(第1の粘着剤層および第2の粘着剤層)を表1に示すように組み合わせて、位相差層および粘着剤層付偏光板を作製した。ここで、偏光板と位相差層(位相差フィルム)とは、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすようにして貼り合わせた。得られた位相差層および粘着剤層付偏光板を上記色ムラの評価に供した。結果を、第1の粘着剤層の糊ずれ量、位相差層の収縮率および第2の粘着剤層のクリープ値と併せて表1に示す。なお、表1の「サイズ」欄の「M」は77.4mm×162.3mmサイズを、「T」は159.5mm×244.5mmサイズを意味する。
【0120】
【0121】
[評価]
表1から明らかなように、第1の粘着剤層の糊ずれ量、位相差層の収縮率および第2の粘着剤層のクリープ値を組み合わせて制御することにより、高温環境下における色ムラが抑制された画像表示装置を実現し得る位相差層および粘着剤層付偏光板が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の位相差層および粘着剤層付偏光板は画像表示装置(代表的には、液晶表示装置、有機EL表示装置)に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0123】
10 偏光板
11 偏光子
12 第1の保護層
13 第2の保護層
20 第1の粘着剤層
30 位相差層
40 第2の粘着剤層
100 位相差層および粘着剤層付偏光板