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特許7644116リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20250304BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20250304BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022531936
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023198
(87)【国際公開番号】W WO2021256558
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020105303
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】廣木 寿之
(72)【発明者】
【氏名】王 振
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 慶三
(72)【発明者】
【氏名】木内 規之
(72)【発明者】
【氏名】白井 崇弘
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-019257(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147012(WO,A1)
【文献】特開平09-231974(JP,A)
【文献】特開平10-241679(JP,A)
【文献】国際公開第2011/034152(WO,A1)
【文献】特開2009-087871(JP,A)
【文献】特開2010-070393(JP,A)
【文献】特開平09-151382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 32/00ー32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積S(BET)が2.5~6.2m/gであり、
Xバンドを用いた電子スピン共鳴法により、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの信号強度から算出されるスピン密度I(4.8K)(spins/g)とS(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が、5.2×1017~6.8×1017spins/mであることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法に関する。
本願は、2020年6月18日に、日本に出願された特願2020-105303号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用に利用されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、人造黒鉛材料などの黒鉛が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
自動車用途に適用される電池は、0℃以下の低温から60℃以上の高温まで、広い温度範囲で使用される。しかし、負極材料として黒鉛を用いたリチウムイオン二次電池では、0℃以下の低温で充電すると、負極上にリチウム金属が析出し易いという課題があった。負極上にリチウム金属が析出すると、正極と負極を移動可能なリチウムイオンが減少する。このため、リチウムイオン二次電池の容量が劣化する。
【0004】
負極にリチウム金属が析出しない状態では、正極と負極の充放電効率の差で容量劣化が進行することが報告されている(例えば、非特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5415684号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】第51回電池討論会要旨集3G15(平成22年11月8日)
【文献】「燃料協会誌」第58巻第642号(1979)、p257-263
【文献】炭素、1981(No.105)、p73-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極材料として黒鉛を使用したリチウムイオン電池では、0℃以下の低温での充放電による容量劣化を抑制することが課題となっている。特に自動車用途および系統インフラの電力貯蔵用に適用される産業用リチウムイオン電池には、広い温度範囲での稼働が求められているため、更に低温で充放電しても、容量劣化が抑制可能なリチウムイオン二次電池、及びその負極黒鉛材料が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、-10℃の低温で充放電を繰り返しても放電容量が劣化し難い、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1] リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を熱処理して熱処理原料炭組成物を得る工程と、
前記熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を黒鉛化して黒鉛粉体を得る工程と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程とを少なくとも含み、
前記原料炭粉体の揮発分が3.71%未満であり、前記原料炭粉体の真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満である、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【0010】
[2] 前記熱処理原料炭組成物を得る工程の熱処理の温度が500℃以上、700℃以下である、前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。[3] 前記原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有率が5~20質量%であり、Knight法により求められた芳香族指数faが0.3~0.65である、前記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
[4] 前記[1]から[3]のいずれか一項に記載の製造方法で得られた人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
[5] 前記[4]に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【0011】
[6]窒素吸着比表面積S(BET)が2.5~6.2m/gであり、
Xバンドを用いた電子スピン共鳴法により、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの信号強度から算出したスピン密度I(4.8K)(spins/g)とS(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が、5.2×1017~6.8×1017spins/mであることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、-10℃の低温で充放電を繰り返しても放電容量が劣化し難い、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池用負極、更にリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
<<リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料>>
本実施形態の人造黒鉛材料は、下記(1)~(2)の条件を全て満たすものである。また、本実施形態の人造黒鉛材料は、好ましくは下記(1)~(3)の条件を全て満たすものである。
(1)窒素吸着比表面積S(BET)が2.5~6.2m/gである。
(2)Xバンドを用いた電子スピン共鳴法により、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの信号強度から算出されるスピン密度I(4.8K)(spins/g)とS(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が、5.2×1017~6.8×1017spins/mである。
(3)X線広角回折法で測定される(112)回折線から算出された結晶子の大きさL(112)が4~30nmである。
【0016】
上記条件(1)における窒素吸着比表面積S(BET)は、JIS Z 8830(2013)の「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準拠して測定および計算された窒素吸着比表面積(m/g)である。この方法で測定および計算された比表面積を、以下、単に「比表面積」と略記する。
【0017】
上記条件(2)におけるI(4.8K)は、黒鉛材料を試料管に入れ、真空引きした後、試料管にHeガスを封入して行われるESR測定において、マイクロ波がXバンド(9.60GHz)、強度が1mW、中心磁場が3412G、磁場変調が100kHz、測定温度が4.8Kの条件で測定されたとき、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルの信号強度から算出されるスピン密度(spins/g)である。ESRスペクトルは、通常一次微分スペクトルで得られ、一回積分すると吸収スペクトルになり、二回積分すると信号強度が得られる。このときの信号強度から算出されるスピン密度の大きさは、物質中の不対電子密度を表す指標となる。従って上記条件(2)における比率I(4.8K)/S(BET)は、単位表面積当たりの不対電子密度を表す指標であり、以下、単にI(4.8K)/S(BET)と略記する。
【0018】
上記条件(3)において、X線広角回折法で測定した(112)回折線から算出した結晶子の大きさL(112)は、JIS R 7651(2007)の「人造黒鉛材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定法」に準拠して測定および計算したL(112)である。この方法で測定および計算されたL(112)を、以下、L(112)と略記する場合がある。
【0019】
発明者等は、人造黒鉛材料の結晶子の大きさ、窒素吸着比表面積、I(4.8K)/S(BET)に着目して鋭意検討を重ね、上記条件(1)~(2)を全て、好ましくは上記条件(1)~(3)を全て満たす人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池を作製することで、-10℃以下の温度で充放電を繰り返した場合の放電容量の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
上記条件(1)「窒素吸着比表面積が2.5~6.2m/gである」人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、-10℃以下の低温で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化しにくい。窒素吸着比表面積が2.5m/g以上であると、窒素吸着比表面積が大きいことによる負極でのリチウム金属の析出抑制効果が十分に得られる。また、窒素吸着比表面積が6.2m/g以下である人造黒鉛材料は、比表面積のうち製造時における黒鉛粉体の粉砕で生じた粒子表面の未組織炭素による立体障害で、-10℃以下の低温で充電されたときのリチウムイオンの黒鉛結晶へのインターカレーション反応が阻害されるには至らない。
【0021】
ここで未組織炭素とは、炭素六角網平面に組み込まれない炭素原子で構成された集合組織である。その化学構造は必ずしも明確ではないが、六角網平面を構成する化学結合が粉砕の力学的エネルギーにより切断されて生じたダングリングボンドから成る複雑化した集合組織であると考えられている(例えば、「カーボン用語辞典」P.354-355(アグネ承風社、2000年10月5日発行)参照)。このため未組織炭素は、充放電に伴う黒鉛への可逆的なインターカレーション反応に立体障害として機能し、充電時にはリチウム金属が析出し易くなる。前述の通り未組織炭素は、製造時における黒鉛粉体の粉砕で生じるため、6.2m/g以下となるまで粉砕された場合、未組織炭素の立体障害としての寄与は小さい。
【0022】
これに対し、製造時に黒鉛粉体を、窒素吸着比表面積で6.2m/gを超える大きさに粉砕した人造黒鉛は、その粒子表面に大量の未組織炭素が導入され、リチウムイオンの可逆的インターカレーション反応に対する立体障害の寄与が大きくなる。特に電解液の粘度が低下する-10℃以下の低温で充電するとリチウムイオンが析出し易くなるため好ましくない。
【0023】
上記条件(2)「Xバンドを用いた電子スピン共鳴法により、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの吸収強度から算出されるスピン密度I(4.8K)と前記S(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が、5.2×1017~6.8×1017である」人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、-10℃以下の低温で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化しにくい。ここで前記I(4.8K)は、製造時における黒鉛粉体の粉砕により導入された未組織炭素に含まれる不対電子(局在電子)のスピン密度(spins/g)を表す指標である。またI(4.8K)/S(BET)は、主として粒子表面に導入された未組織炭素の単位面積当たりの導入量(spins/m)である。その理由について以下に詳述する。
【0024】
ESR測定は、不対電子が磁場中に置かれたときに生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。不対電子を持つ物質に磁場を与えると、ゼーマン効果により物質のエネルギー準位が二分される。測定は、マイクロ波照射下で磁場を掃引して行うが、印加する磁場が大きくなるに従ってエネルギーの分裂間隔である△Eが増大する。△Eが、照射したマイクロ波のエネルギーと等しくなった時に共鳴吸収が観測され、このときのエネルギーの吸収量を検知することによりESRスペクトルが得られる。ESRスペクトルは、通常一次微分スペクトルで得られ、一回積分すると吸収スペクトルになり、二回積分すると信号強度が得られる。このときの信号強度の大きさは、物質中の不対電子の密度の大きさを表す指標となる。黒鉛材料の結晶の中には、局在電子と伝導電子の2種の不対電子が存在する。即ち、黒鉛材料のESR測定では、これら2種の不対電子によるマイクロ波の共鳴吸収の和がESRスペクトルとして観測される。得られたESRスペクトルを二回積分して得られる信号強度は、伝導電子密度と局在電子密度を合計した不対電子密度の大きさを表す指標となる。ここで、黒鉛材料中における伝導電子とは、六角網平面を形成する環の数とその結合形式に関係して自発的に発現する不対π電子であり、六角網平面内を自由に動くことが可能である(例えば、炭素 1966 No.47 30-34、1967 No.50 20-25参照)。
【0025】
一方、局在電子とは、六角網平面積層体のエッジ面に存在する局在電子であり、不動の電子である。また、伝導電子による共鳴吸収の信号強度には温度依存性が無いのに対し、局在電子による共鳴吸収の信号強度は測定温度であるTに反比例して増大する。例えば、4.2K≦T≦300Kの温度範囲における炭素材料のESR測定において、300Kから徐々に測定温度を下げて測定を行った場合、50K付近において局在電子によるマイクロ波の吸収が観測され始め、50K以下の低温領域では、局在電子による信号強度が測定温度であるTに反比例して急増することが報告されている(例えば、炭素 1996 No.175 249-256参照)。これらのことから、温度4.8Kでの吸収強度から算出されるスピン密度I(4.8K)は、局在電子の密度を表す指標と言える。更に製造時の黒鉛粉体の粉砕により導入される局在電子は破断面、即ち粒子表面に導入されるため、I(4.8K)と窒素吸着比表面積S(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)は粒子表面の単位面積当たりの局在電子スピン量を表す指標とみなせる。
【0026】
本実施形態の人造黒鉛材料は、上記条件(2)を満たす。即ち、Xバンドを用いた電子スピン共鳴法により、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの吸収強度から算出されるスピン密度信号強度I(4.8K)と前記S(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が5.2×1017~6.8×1017を満たす。特に上記条件(3)の結晶子サイズL(112)が4~30nmに達した高結晶の黒鉛粉体は、上記条件(1)の体積基準表面積として、窒素吸着比表面積が2.5~6.2m/gに達するまで粉砕された場合は、破断面における炭素原子の三次元的な配列の規則性は大きく低下し、単位面積当たりの局在電子密度、即ちI(4.8K)/S(BET)は向上し、通常は7.0×1017(spins/m)以上に達する。
【0027】
これに対して本実施形態の人造黒鉛は、I(4.8K)/S(BET)が5.2×1017~6.8×1017を満たす。即ち本実施形態の人造黒鉛は、製造時の黒鉛粉体の粉砕で導入される粒子表面の局在電子密度(spins/m)が低い、即ち粒子表面に導入される未組織炭素の量が少ない黒鉛材料と換言できる。リチウムイオンの可逆的インターカレーションに立体障害として機能する未組織炭素が少ないため、-10℃以下の低温で充電してもリチウム金属が析出し難く、当該温度領域で充放電を繰り返した場合の放電容量の劣化を抑制できる。
【0028】
I(4.8K)/S(BET)が5.2×1017未満の人造黒鉛材料を製造することも可能であるが、そのような人造黒鉛を負極に使用したリチウムイオン二次電池を-10℃以下の低温で充電すると、放電容量の大きな低下(充放電容量の劣化)が認められる。その理由は明確ではないが、粒子表面に存在する局在電子量が少ない、即ち粒子表面に存在する未組織炭素の量が少な過ぎる場合は、-10℃以下の低温で充電すると、リチウムイオンが黒鉛結晶にインターカレーションして電解液の溶媒が共挿入(コインターカレーション)し、その結晶層間で還元分解されるからと考えられる。以上の理由からI(4.8K)/S(BET)の範囲は、I(4.8K)/S(BET)が5.2×1017~6.8×1017に限定される。
【0029】
上記条件(3)「L(112)が4~30nmである」人造黒鉛材料は、結晶が高度に発達している。L(112)が4~30nmである人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極として好適な黒鉛化度を有する。L(112)が大きいほど可逆容量が大きいため、人造黒鉛材料のL(112)は4nm以上であることが好ましい。L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料は、結晶組織の発達が不十分な場合がある。このため、L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、容量が小さく、好ましくない場合がある(例えば、リチウムイオン二次電池のための負極炭素材料」P.3-4(リアライズ社、1996年10月20発行)参照)。
【0030】
<<リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法>>
本実施形態の人造黒鉛材料は、例えば、以下に示す製造方法により製造できる。
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法は、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程(以下、「工程A」ともいう)と、
前記原料炭組成物を熱処理して熱処理原料炭組成物を得る工程(以下、「工程B」ともいう)と、
前記熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程(以下、「工程C」ともいう)と、
前記原料炭粉体を黒鉛化して黒鉛粉体を得る工程(以下、「工程D」ともいう)と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程(以下、「工程E」ともいう)とを少なくとも含む。
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法において、前記原料炭粉体の揮発分は3.71%未満、好ましくは0.1%以上3.6%以下であり、前記原料炭粉体の真密度は1.22g/cm超1.73g/cm未満であり、好ましくは1.26g/cm以上1.68g/cm以下である。
【0031】
前記原料炭粉体の揮発分は、JIS M 8812(2004)の「石炭類及びコークス類―工業分析方法」に記載される「7.揮発分定量方法」の「7.2 縦形管状電気炉法」、「b)コークスの場合」に準拠して計算される揮発分[質量分率(%)]である。この方法で及び計算された揮発分を、以下、「揮発分」と略記する。
【0032】
前記原料炭粉体の真密度は、JIS K 2151(2004)の「コークス類-試験方法」に記載される「7.密度・気孔率試験方法」の「7.3 真密度試験方法」に準拠して計算される真密度[g/cm]である。この方法で及び計算された真密度を、以下、「真密度」と略記する。
【0033】
当該人造黒鉛材料を、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合、-10℃の低温で充放電を繰り返しても放電容量の劣化が抑制される理由は、原料炭組成物の熱処理とその後の粉砕との組み合わせで生じた破壊開始点が黒鉛化後も残存し、その破壊開始点を起点にして粉砕が生じた結果、その破断面に導入される未組織炭素の量が少なくなるためと推定される。
【0034】
原料炭組成物の熱処理により揮発分は低減するが、その表面及び内部バルクには、揮発分蒸発経路、即ち曲路状の大小様々なサイズの細孔が形成される。当該熱処理後の粉砕による力学的なエネルギーにより、小さな径の細孔はキャビティー(割れ目)として成長し、大きな径の細孔はキャビティーとして成長後に切断(粉砕)が生じる。このようにして成長したキャビティーは黒鉛化後も格子欠陥として残存し、その後の粉砕では破壊開始点としての役割を演ずる。このような粉砕で生じる破断面には格子欠陥(前記キャビティー)が残存し、格子欠陥以外の破断領域で化学結合の切断が生じる。破断面全体で化学結合の切断が生じるわけではないので、格子欠陥を破壊開始点として生じた粉砕の破断面は、格子欠陥が存在しない状態で生じた粉砕の破断面よりも、粉砕により導入される未組織炭素の量が少なくなる。リチウムイオンの可逆的インターカレーションに立体障害として機能する未組織炭素が少ないため、-10℃以下の低温で充電してもリチウム金属が析出し難く、当該温度領域で充放電を繰り返した場合の放電容量の劣化を抑制できる。
【0035】
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して生成した原料炭組成物の真密度は、通常1.1~1.4g/cm、また揮発分は、通常5~15%である(非特許文献2)。このような性状の原料炭組成物を熱処理することにより生じる一般的な変化として、揮発分は低下し、真密度は向上する。揮発分が低下する理由は、原料炭組成物に含まれる揮発分が、ディレードコーキングプロセスで熱分解、及び重縮合反応が不十分の状態で残存した原料油組成物の反応生成物のため、その後の熱処理により飛散するからである。真密度が向上する理由は、熱処理により前記熱分解、及び重縮合反応が更に進行するからである。このような特性の原料炭組成物を、熱処理して、その後、粉砕して得られる原料炭粉体の揮発分を3.71%未満、好ましくは0.1%以上3.6%以下に低下させ、且つ、前記原料炭粉体の真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満、好ましくは1.26g/cm以上1.68g/cm以下へ向上すれば、適度なサイズの前記破壊開始点が大量に導入されるため、その後に得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料は、-10℃で充放電を繰り返した場合でも放電容量の劣化が好適に抑制できる。
【0036】
原料炭組成物の熱処理反応が進行し過ぎた場合、例えば、原料炭粉体の揮発分が0.1%未満であり、且つ真密度が1.68g/cmより大きい場合は、炭素原子からなる六角網平面の成長が大き過ぎるため、その後に粉砕しても適度なサイズの前記破壊開始点を導入できない。従って、その後に得られる人造黒鉛材料は、-10℃で充放電を繰り返すと放電容量が大きく劣化する。
【0037】
逆に、原料炭組成物の熱処理が不十分の場合、原料炭粉体の揮発分が3.7%以上であり、且つ真密度が1.22g/cm以下であると、ディレードコーキングプロセスで生じた熱分解反応や重縮合反応が不十分な比較的低分子量の化合物しか蒸発しないため、適度なサイズの破壊開始点を形成できない。従って、その後に得られる人造黒鉛材料は、-10℃で充放電を繰り返すと放電容量が大きく劣化する。従って、熱処理された前記原料炭粉体の揮発分は3.71%未満、真密度は1.22g/cm超1.73g/cm未満に限定される。
【0038】
以下に、本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法の各工程の詳細を説明する。
【0039】
[工程A]
工程Aにおける原料油組成物としては、例えば、流動接触分解油のボトム油(FCC DO)、高度な水添脱硫処理を施した重質油、減圧蒸留残油(VR)、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、コールタールピッチ、エチレンボトム油などの重質油が挙げられる。また原料油組成物としては、上記いずれかの重質油に、水素化精製などの各種処理をほどこしたものなどを用いてもよい。
【0040】
工程Aにおける原料油組成物としては、特に、適度な飽和成分と、適度なノルマルパラフィンとを含み、高度な水添脱硫処理を施した重質油を用いることが好ましい。原料油組成物としては、単独の重質油を用いても良いし、二種類以上の重質油を混合して用いてもよい。原料油組成物として、二種類以上の重質油を混合して用いる場合、各重質油の配合比率は各重質油の性状に応じて適宜調整できる。なお、各重質油の性状は、原油の種類、原油から重質油が得られるまでの処理条件などによって異なる。
【0041】
工程Aにおける原料油組成物は、コーキング処理時に良好なバルクメソフェーズを生成する成分と、このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、バルクメソフェーズの大きさを小さくするガスを生じさせる成分とを含むものを用いることが好ましい。
【0042】
工程Aにおける原料油組成物中の良好なバルクメソフェーズを生成する成分としては、Knight法により求められた芳香族指数faが所定の範囲内である重質油成分が挙げられる。本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法では、原料油組成物として、Knight法により求められた芳香族指数faが0.30~0.65であるものを用いることが好ましく、0.35~0.60であるものを用いることがより好ましく、0.40~0.55であるものを用いることがさらに好ましい。
【0043】
ここで芳香族指数faとは、Knight法により求めた芳香族炭素分率である。Knight法では、炭素の分布を13C-NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A1,A2,A3)に分割する。ここで、A1は芳香族環内部炭素数(置換されている芳香族炭素と置換していない芳香族炭素の半分(13C-NMRの約40~60ppmのピークに相当))、A2は置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C-NMRの約60~80ppmのピークに相当)、A3は脂肪族炭素数(13C-NMRの約130~190ppmのピークに相当)である。芳香族指数faは、A1,A2,A3を用いてfa=(A1+A2)/(A1+A2+A3)により求められる。13C-NMR法は、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法である(例えば、非特許文献3参照)。
【0044】
工程Aにおける原料油組成物の芳香族指数faが0.3以上であると、原料炭組成物の熱処理と、その後の粉砕処理との組み合わせにより、適度なサイズの破壊開始点が形成され、黒鉛化後の粉砕により割断的な粉砕が生じる確率が向上する。また、芳香族指数faが0.65以下であると、コーキング処理時に発生するガスによってバルクメソフェーズを小さなサイズに制限できるため好ましい。隣接するバルクメソフェーズの境界は、その後の粉砕処理により前記破壊開始点を形成し易いため、黒鉛化後の粉砕処理により割断的に粉砕される確率が向上する。これに対し、芳香族指数faが0.65を超えると、コーキング処理時にマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、メソフェーズのシングル成長速度よりも、メソフェーズ同士の合体速度が速くなる。その結果、コーキング処理時に発生するガスによるバルクメソフェーズを小さくする効果が十分に得られず、小さなサイズに制限できないおそれがある。また芳香族指数faが0.3未満であると、原料炭組成物の熱処理後の粉砕で生じる破壊開始点が大きく成長し易く、切断に至る(粉砕に至る)確率が急増する。この結果、黒鉛化後に残存する破壊開始点が必要以上に減少し、黒鉛化後の粉砕処理で割断的な粉砕が生じ難くなるため好ましくない。
【0045】
工程Aにおける原料油組成物中のバルクメソフェーズを小さくするガスを生成する成分としては、ノルマルパラフィンが挙げられる。本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法では、原料油組成物として、ノルマルパラフィン含有率が5~20質量%であるものを用いることが好ましく、10~15質量%であるものを用いることがより好ましい。
【0046】
工程Aにおける原料油組成物のノルマルパラフィン含有量は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値であることを意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、溶出クロマトグラフィーによって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から原料油組成物の全質量を基準としたノルマルパラフィン含有率が算出可能である。
【0047】
工程Aにおける原料油組成物の中に含まれるノルマルパラフィンは、コーキング処理時にガスを発生させる。このガスは、コーキング処理時に生成するバルクメソフェーズの大きさを小さなサイズに制限し、メソフェーズを小さなサイズに制限する重要な役割を果たしている。また、コーキング処理時に発生するガスは、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズ同士を一軸配向させ、選択的な配向性を有する微細組織にする機能も有している。
【0048】
工程Aにおける原料油組成物のノルマルパラフィン含有率が5質量%以上であると、バルクメソフェーズが必要以上に成長することが抑制され、適度な大きさの炭素六角網平面積層体がより形成されやすくなる。また、原料油組成物のノルマルパラフィン含有率が20質量%以下であると、ノルマルパラフィンから発生するガスの発生量が多くなりすぎることがない。コーキング処理時にガスが過剰に発生すると、原料炭組成物の熱処理後の粉砕で生じる破壊開始点が大きく成長し易く、切断に至る(粉砕に至る)確率が急増する。この結果、黒鉛化後に残存する破壊開始点が必要以上に減少し、割断的な粉砕が生じ難くなるため好ましくない。
【0049】
以上の通り、工程Aにおける原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有率が5~20質量%であり、かつ、Knight法により求められた芳香族指数faが0.3~0.65であることが好ましい。このような原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで、隣接するメソフェーズの境界を適度に導入し、原料炭組成物の熱処理と、その後の粉砕処理との組み合わせにより、その後の黒鉛化処理でも残存し得る適度なサイズの破壊開始点を形成する。その結果、黒鉛化後の粉砕により割断的な粉砕が生じる確率が向上する。
【0050】
工程Aにおける原料油組成物としては、ノルマルパラフィン含有率および芳香族指数faが上記の範囲であって、密度Dが0.91~1.02g/cmであるものがより好ましく、さらに粘度Vが10~220mm/sであるものが特に好ましい。
【0051】
工程Aにおいて、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する方法としては、例えば、特許文献1に記載されている公知の方法を用いることができる。原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する方法は、高品質の人造黒鉛材料の原料を大量生産するために大変適している。
【0052】
工程Aにおいて、原料油組成物をコーキング処理する方法としては、ディレードコーキングプロセスを用いる。コーキング処理を行うことによって、原料油組成物の熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て、原料炭組成物が得られる。
【0053】
ディレードコーカーの条件としては、例えば、圧力が、0.1~0.8MPaであることが好ましく、0.2~0.6MPaであることがより好ましい。
また、温度が、400~600℃であることが好ましく、490~540℃であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の製造方法では、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズを、コーキング処理時に原料油組成物より発生するガスによって制御する。このため、コーキング処理時に原料油組成物より発生したガスの系内での滞留時間は、炭素六角網平面のサイズを決定するための重要な制御パラメータである。コーキング処理時に発生したガスの系内での滞留時間は、コーキング処理における圧力によって調整できる。
そのため、コーキング処理における圧力が上記の好ましい範囲内であると、原料油組成物より発生するガスの系外への放出速度をより制限しやすくなる。
また、コーキング処理における温度が上記の好ましい範囲内であると、本発明の効果を得るために調整された原料油組成物からより良好なメソフェーズを成長させることができる。
【0055】
対して、コーキング処理における温度が低すぎ、かつ圧力が高すぎる場合は、コーキング処理時のガス発生量が不十分となり、原料炭組成物の結晶組織が成長しすぎる。この場合において、後述する工程Bにおける熱処理にて作成した熱処理原料炭組成物の粒子表面に開口部を有する細孔、及び、粒子表面に凸凹が形成されにくくなるため好ましくない。
また、コーキング処理における温度が高すぎ、かつ圧力が低すぎる場合は、コーキング処理時のガス発生量が過多となり、その後の黒鉛化工程で熱処理しても黒鉛結晶組織が成長しにくく、高容量が発現しないためリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料として好ましくない。
【0056】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において、コーキング処理して生成した原料炭組成物は、生コークスを含む組成物である。
【0057】
[工程B]
工程Bでは、コーキング処理して生成した原料炭組成物を熱処理して熱処理原料炭組成物を得る。
原料炭組成物を熱処理して原料炭粉体を得る方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度が、好ましくは450~750℃、より好ましくは500~700℃、さらに好ましくは550~650℃で、最高到達温度の保持時間が、好ましくは0.1~3時間、より好ましくは0.2~2時間、さらに好ましくは0.5~1時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。このとき雰囲気ガスには0.01~21体積%の範囲で酸素ガスを導入しても良い。加熱方法としては、例えば、原料炭組成物をサヤに投入し、ローラーハースキルンを使用する方法や、ロータリーキルンに原料炭組成物を直接投入する方法等が挙げられる。
【0058】
工程Bにおける前記原料炭粉体の揮発分、及び真密度は、前記原料炭組成物の熱処理温度及び熱処理時間と相関がある。一般的な傾向として、熱処理温度が高いほど、又は熱処理時間が長いほど、熱処理原料炭組成物及びそれから得られる原料炭粉体の揮発分は減少し、且つ真密度は大きくなる。前記原料炭組成物の熱処理温度及び熱処理時間は、原料炭粉体の揮発分が3.71%未満であり、原料炭粉体の真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満となるように設定する必要がある。
【0059】
原料炭粉体の揮発分及び真密度をこれらの範囲に調整しやすく、且つ、熱処理時間を短時間にすることができ、製造コストを抑えることができるため、原料炭組成物の熱処理の最高到達温度は450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、550℃以上がさらに好ましい。原料炭粉体の揮発分及び真密度をこれらの範囲に調整しやすく、且つ、熱処理原料炭組成物及び原料炭粉体の品質安定性を向上することができるため、原料炭組成物の熱処理の最高到達温度は750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、650℃以下がさらに好ましい。
熱処理温度が低すぎる場合には長時間を要し、製造コストが不必要に増大するため好ましくない。また、熱処理温度が高すぎると熱処理原料炭組成物及び原料炭粉体の性状(揮発分と真密度)のバラツキが大きくなり、品質安定性の観点から好ましくない。
【0060】
[工程C]
工程Cでは、熱処理処理して生成した熱処理原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る。原料炭粉体を得る方法としては、ハンマー式ミルを用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0061】
原料炭粉体は、所定の粒度となるように分級してもよい。原料炭粉体の平均粒子径は5~40μmであることが好ましい。原料炭粉体の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計による測定に基づく。原料炭粉体の平均粒子径が40μm以下であると、これを黒鉛化した後に粉砕することで、得られる人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極として好適な粒子径を有するものとなる。原料炭粉体の平均粒子径が5μm以上であると、これを黒鉛化した後に粉砕得られる人造黒鉛材料の比表面積が大きくなりすぎず、好ましい。比表面積が大きすぎる黒鉛材料を使用してリチウムイオン二次電池の負極の形成に用いるペースト状の負極合剤を作製すると、必要な溶媒量が莫大となるため好ましくない。
【0062】
[工程D]
工程Dでは、熱処理原料炭組成物を粉砕して得られた前記原料炭粉体を黒鉛化して黒鉛粉体を得る。具体的には、前記原料炭粉体を更に熱処理して、前記原料炭粉体から揮発成分を除去し、脱水、熱分解して、固相黒鉛化反応させる。この黒鉛化処理を行うことにより、安定な品質の人造黒鉛材料が得られる。
【0063】
黒鉛化処理方法としては、例えば、前記原料炭粉体から揮発成分を除去するか焼を行ってか焼コークスを得た後、炭素化する炭化処理を行い、その後、黒鉛化処理を行う熱処理が挙げられる。か焼および炭化処理は、必要に応じて行うことができ、行わなくてもよい。黒鉛化処理方法において、か焼および炭化処理を省略しても、最終的に製造される人造黒鉛材料の物性に与える影響は殆ど無い。
【0064】
か焼は、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度500~1500℃、好ましくは900~1200℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0065】
炭化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度500~1500℃、好ましくは900~1500℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0066】
黒鉛化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500~3200℃、好ましくは2800~3200℃で、最高到達温度の保持時間0~100時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。黒鉛化処理は、例えば、原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に封入し、アチソン炉やLWG炉のような黒鉛化炉を用いて行ってもよい。
【0067】
[工程E]
工程Eにおいて、原料炭粉体を黒鉛化して得られた黒鉛粉体を粉砕する方法としては、気流式ジェットミルを用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、-10℃の低温で充放電を繰り返しても放電容量が劣化し難いものとなる。
【0069】
<<リチウムイオン二次電池用負極>>
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含む炭素材料と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含むものであればよく、必要に応じて、炭素材料として、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料だけでなく、公知の黒鉛材料又は非晶質炭素材料を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0070】
公知の黒鉛材料としては、例えば、本実施形態の人造黒鉛材料以外の人造黒鉛材料および天然黒鉛系材料などが挙げられる。また非晶質炭素材料としても公知の易黒鉛化性炭素材料、難黒鉛化性炭素材料などが挙げられる。
【0071】
天然黒鉛系材料としては、天然から産出される黒鉛状物、前記黒鉛状物を高純度化したもの、その後、球状にしたもの(メカノケミカル処理を含む)、高純度品や球状品の表面を別の炭素で被覆したもの(例えば、ピッチコート品、CVDコート品等)、プラズマ処理をしたものなどが挙げられる。
【0072】
本実施形態の人造黒鉛材料以外の人造黒鉛材料、天然黒鉛系材料、非晶質炭素材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、鱗片状であってもよいし、球状、又は塊状であってもよい。
【0073】
炭素材料として、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料に加えて、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料以外の黒鉛材料を含む場合、その混合比率は任意の比率とすることができる。前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料以外の黒鉛材料を含む場合、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を20質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0074】
バインダーとしては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンゴム)などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、黒鉛材料100質量部に対して1~30質量部程度とすることが好ましく、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0075】
導電助剤としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、導電性を示すインジウム-錫酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1~15質量部とすることが好ましく、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0076】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法としては、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含む炭素材料を利用するものであれば特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含む炭素材料を加圧成形する。例えば、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含む炭素材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを含む混合物である負極合剤を製造する。その後、負極合剤を所定の寸法に加圧成形する方法が挙げられる。
【0077】
負極合剤に使用される溶媒としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知の溶媒を用いることができる。具体的には、例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエンなどの有機溶媒、水などの溶媒を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0078】
負極合剤を製造する際に、黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、有機溶媒とを混合する方法としては、例えば、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。負極合剤の加圧成形は、例えば、ロール加圧、プレス加圧などの方法を用いて行うことができる。負極合剤の加圧成形は、100~300MPa程度の圧力で行うことが好ましい。
【0079】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、以下に示す方法により、製造することができる。すなわち、前記実施形態の製造方法で得られる人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを、公知の方法により混錬してスラリー状又はペースト状の負極合剤を製造する。その後、スラリー状の負極合剤を銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥することにより、シート状、ペレット状等の形状に成形する。その後、乾燥した負極合剤からなる層を圧延し、所定の寸法に裁断する。
【0080】
スラリー状の負極合剤を負極集電体上に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を用いることができる。
【0081】
負極集電体上に塗布した負極合剤は、例えば、平板プレス、カレンダーロール等を用いて圧延することが好ましい。負極集電体上に形成した乾燥した負極合剤からなる層は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせで用いる方法など公知の方法により、負極集電体と一体化することができる。
【0082】
負極集電体の材料としては、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用できる。具体的には、負極集電体の材料として、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体の形状についても、特に制限なく利用可能である。具体的には、負極集電体の形状として、例えば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状であって、全体形状が帯状であるものなどが挙げられる。
【0083】
また、負極集電体としては、例えば、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパーなどの多孔性材料を使用してもよい。
【0084】
<<リチウムイオン二次電池>>
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池について説明する。図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。図1に示すリチウムイオン二次電池10は、負極集電体12と一体化された負極11と、正極集電体14と一体化された正極13とを有している。図1に示すリチウムイオン二次電池10では、負極11として本実施形態の負極が用いられている。負極11と正極13とは、セパレータ15を介して対向配置されている。図1において、符号16は、アルミラミネート外装を示している。アルミラミネート外装16内には、電解液が注入されている。
【0085】
正極13は、活物質と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。活物質としては、リチウムイオン二次電池用正極に用いられる公知のものを用いることができ、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いることができる。具体的には、活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、及び複酸化物(LiCoNiMn、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0086】
バインダーとしては、上述した負極11に用いられるバインダーと同様のものを用いることができる。導電助剤としては、上述した負極11に用いられる導電助剤と同様のものを用いることができる。
【0087】
正極集電体14としては、例えば、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する弁金属又はその合金を用いるのが好ましい。具体的には、Al、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属を含む合金などを用いることができる。特に軽量かつエネルギー密度が高いことからAl及びその合金が好ましい。
【0088】
セパレータ15としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものなどを使用できる。なお、リチウムイオン二次電池が、正極と負極とが直接接触しない構造である場合には、セパレータは不要である。
【0089】
リチウムイオン二次電池10に使用する電解液及び電解質としては、リチウムイオン二次電池に使用される公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質を使用できる。電解液としては、電気伝導性の観点から有機電解液を用いることが好ましい。
【0090】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2-メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N-メチル2-ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの有機電解液は、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0091】
電解質としては、公知の各種リチウム塩を使用できる。例えば、リチウム塩として、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO、LiN(CSO等が挙げられる。
【0092】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体および該誘導体を含む重合体などが挙げられる。
【0093】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極11を備えるため、-10℃以下の低温で充放電サイクルを繰り返しても、容量劣化が生じにくい。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用として好ましく利用できる。
【0094】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を用いたものであればよく、負極以外の電池構成上必要な部材の選択について、なんら制約を受けるものではない。
【0095】
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、図1に示すリチウムイオン二次電池10に限定されるものではない。
【0096】
本実施形態のリチウムイオン二次電池を製造する方法としては、前記実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法で得られる負極を利用するものであれば特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、前記実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法で得られる負極と、正極とをセパレータを介して対向配置する工程を含む。前記実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法で得られる負極と、負極集電体とを一体化し、正極と正極集電体とを一体化し、負極集電体と一体化された負極と、正極集電体と一体化された正極とをセパレータを介して対向配置する工程を含むことが好ましい。負極集電体と一体化された負極と、正極集電体と一体化された正極とがセパレータを介して対向配置された単層電極体を外装体に収容し、前記外装体の内部に電解液を注入して、本実施形態のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0097】
リチウムイオン二次電池の構造は、例えば、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造であってもよい。また、リチウムイオン二次電池の構造は、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造であってもよい。
【0098】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用できる。
【実施例
【0099】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0100】
<人造黒鉛材料の製造>
(実施例1)
≪原料油組成物の製造≫
常圧蒸留残油を減圧蒸留し、更に水素化脱硫したもの(硫黄分380質量ppm、15℃における密度0.83g/cm)を、反応温度530℃、全圧0.23MPa、触媒/油比13、接触時間7秒で流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。触媒としては、シリカ・アルミナ触媒に白金が担持されたものを使用した。なお「硫黄分」とは、JIS K2541に従い測定される値を意味する。
【0101】
また、このようにして得られた流動接触分解残油に同体積のn-ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離した。
【0102】
更に、常圧蒸留残油(硫黄分0.35質量%、15℃における密度0.92g/cm)を、加熱炉出口温度350℃、圧力1.3kPaの条件下で減圧蒸留し、初留点410℃、アスファルト分9質量%、飽和分61質量%、硫黄分0.1質量%、窒素分0.3質量%の減圧蒸留残油を得た。この減圧蒸留残油に、同体積のn-ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離した。なお「窒素分」とは、JIS K2609に従い測定される値を意味する。また「飽和分」及び「アスファルト分」は薄層クロマトグラフを用いて測定される値を意味する。
【0103】
このようにして得られた流動接触分解残油と、流動接触分解残油の飽和分と、減圧蒸留残油の飽和分とを、質量比で43:50:7の割合で混合し、実施例1の原料油組成物を得た。得られた実施例1の原料油組成物のノルマルパラフィン含有率および芳香族指数faを、以下に示す方法により求めた。その結果を表1に示す。また、後述する実施例2~5及び比較例4~8で得られた原料油組成物についても、ノルマルパラフィン含有率および芳香族指数faを同様の方法で求めた。結果を表1に示す。
【0104】
(ノルマルパラフィン含有率)
原料油組成物のノルマルパラフィン含有量を、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、溶出クロマトグラフィーによって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定した。この測定値から原料油組成物の全質量を基準とした含有率(質量%)を算出した。
【0105】
(芳香族指数fa)
原料油組成物の芳香族指数faを、Knight法により求めた。具体的には、炭素の分布を13C-NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A1,A2,A3)に分割した。ここで、A1は芳香族環内部炭素数(置換されている芳香族炭素と置換していない芳香族炭素の半分(13C-NMRの約40~60ppmのピークに相当))、A2は置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C-NMRの約60~80ppmのピークに相当)、A3は脂肪族炭素数(13C-NMRの約130~190ppmのピークに相当)である。芳香族指数faは、A1,A2,A3を用いてfa=(A1+A2)/(A1+A2+A3)により求めた。
【0106】
≪工程A≫
次に、実施例1の原料油組成物を試験管に入れ、コーキング処理として、常圧500℃で3時間熱処理を行ってコークス化し、実施例1の原料炭組成物を得た。
【0107】
≪工程B≫
得られた実施例1の原料炭組成物を、窒素ガス気流下550℃で加熱し、実施例1の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から550℃までの昇温時間を1時間、550℃の保持時間を1時間、550℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0108】
≪工程C≫
得られた実施例1の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例1の原料炭粉体を得た。得られた原料炭粉体の揮発分と真密度を、以下に示す方法により求めた。それの結果を表1に示す。なお、後述する実施例2~5、9~13及び比較例1~16で得られた原料炭粉体の揮発分と真密度も、同様の方法で求めた。結果を表1~2に示す。
【0109】
(揮発分の測定)
原料炭粉体の揮発分[質量分率(%)]を、JIS M 8812(2004)の「石炭類及びコークス類―工業分析方法」に記載される「7.揮発分定量方法」の「7.2 縦形管状電気炉法」、「b)コークスの場合」に準拠して求めた。
【0110】
(真密度の測定)
原料炭粉体の真密度[g/cm]は、JIS K 2151(2004)の「コークス類-試験方法」に記載される「7.密度・気孔率試験方法」の「7.3 真密度試験方法」に準拠して求めた。
【0111】
≪工程D≫
実施例1の原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、その坩堝をアチソン炉内の加温材、保温材であるパッキングコークスに埋め込んだ後、2950℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2950℃までの昇温時間を130時間、2950℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0112】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0113】
(結晶子の大きさL(112)の算出)
実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(窓枠の大きさが16mm×20mm、深さ0.2mm)に詰め、JIS R7651(2007)に準拠して広角X線回折法で測定を行い、結晶子の大きさL(112)を算出した。X線回折装置としては(株)リガク社製のULTIMA IVを用い、X線源としてはCuKα線(KβフィルターNiを使用)を用いた。また、X線管球への印可電圧及び電流を40kV及び40mAとした。
【0114】
得られた回折図形をJIS R 7651(2007)に準拠した方法で解析した。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施した。そして、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の(112)回折線を補正し、結晶子サイズL(112)を算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定および解析は3回ずつ実施し、その平均値をL(112)とした。
【0115】
L=K×λ/(β×cosθB)- - - - - -Scherrerの式
ここで、L:結晶サイズ(nm)
K:形状因子定数(=1.0)
λ:X線の波長(=0.15406nm)
θ:ブラッグ角(補正された回折角度)
β:真の半値幅(補正値)
【0116】
(窒素吸着比表面積S(BET)の測定)
実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の窒素吸着比表面積は、マイクロトラック・ベル株式会社製の比表面積測定装置(BELSORPminiII)を使用し、JIS Z 8830(2013)の「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準拠して測定・算出した。なお、人造黒鉛材料の予備乾燥は、減圧下300℃で3時間行った。その後、ガス流動法による窒素吸着BET多点法で比表面積の値(m/g)を算出した。
【0117】
(ESR信号強度I(4.8K)の測定と、I(4.8K)/S(BET)の算出)
実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料約1.5mgを試料管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後、試料管にHeガスを封入してESR測定を行った。ESR装置、マイクロ波周波数カウンター、ガウスメーター、クライオスタットは、それぞれBRUKER社製ESP350E、HEWLETT PACKARD社製HP5351P、BRUKER社製ER035M、OXFORD社製ESR910を用いた。マイクロ波はXバンド(9.60GHz)を用い、強度1mW、中心磁場3412G 、磁場変調100kHzの条件により測定を行った。測定温度は4.8Kで、その吸収強度(I4.8K)を算出し、表1に示した。信号強度は、ESRスペクトルを2回積分し、標準物質で補正することにより求めた値(spins/g)である。なおXバンド領域のマイクロ波を用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素ラジカル由来のピークは、いずれの実施例および比較例の負極材においても、g=2.0付近に出現することを確認した。得られた信号強度I(4.8K)と窒素素吸着比表面積S(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)の値(spins/m)を算出した。
【0118】
得られたリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、窒素吸着比表面積S(BET)、温度4.8KにおけるESR信号強度I(4.8K)、及び比率I(4.8K)/S(BET)を表1に示す。なお、実施例2~5及び比較例1~8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料についても同様の方法で結晶子の大きさL(112)、窒素吸着比表面積S(BET)、温度4.8KにおけるESR信号強度I(4.8K)、及び比率I(4.8K)/S(BET)を求めた。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例2)
≪原料油組成物の製造≫
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧18MPa、水素分圧16MPa、温度380℃とした。
【0120】
このようにして得られた水素化脱硫油と、実施例1で得られた流動接触分解残油とを、質量比で5:95の割合で混合し、実施例2の原料油組成物を得た。
【0121】
≪工程A≫
実施例2の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0122】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下700℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から700℃までの昇温時間を2時間、700℃の保持時間を1時間、700℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0123】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例2の原料炭粉体を得た。
【0124】
≪工程D≫
実施例2の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0125】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0126】
(実施例3)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、流動接触分解残油の芳香族分とを質量比で70:30の割合で混合し、実施例3の原料油組成物を得た。
【0127】
≪工程A≫
実施例3の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0128】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下600℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。熱処理方法としては、室温から600℃までの昇温時間を1時間30分、600℃の保持時間を1時間、600℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0129】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例3の原料炭粉体を得た。
【0130】
≪工程D≫
実施例3の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0131】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0132】
(実施例4)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残渣油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分とを、質量比で30:70の割合で混合し、実施例4の原料油組成物を得た。
【0133】
≪工程A≫
実施例4の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0134】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下500℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0135】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例4の原料炭粉体を得た。
【0136】
≪工程D≫
実施例4の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0137】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0138】
(実施例5)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で20:20:60の割合で混合し、実施例5の原料油組成物を得た。
【0139】
≪工程A≫
実施例5の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0140】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下500℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0141】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例5の原料炭粉体を得た。
【0142】
≪工程D≫
実施例5の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0143】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0144】
(比較例1)
≪工程A≫
実施例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0145】
≪低温熱処理工程≫
実施例1の原料炭組成物を、窒素ガス気流下400℃で加熱し、比較例1の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から400℃までの昇温時間を1時間、400℃の保持時間を1時間とし、その後は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0146】
≪工程C≫
得られた比較例1の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
【0147】
≪工程D≫
比較例1の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0148】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0149】
(比較例2)
≪工程A≫
実施例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0150】
≪高温熱処理工程≫
実施例1の原料炭組成物を、窒素ガス気流下750℃で加熱し、比較例2の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から750℃までの昇温時間を2時間、750℃の保持時間を1時間、750℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。その後は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0151】
≪工程C≫
得られた比較例2の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例2の原料炭粉体を得た。
【0152】
≪工程D≫
比較例2の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0153】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0154】
(比較例3)
≪工程A≫
実施例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0155】
≪熱処理工程≫
比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法においては、原料炭組成物の熱処理を行わなかった。
【0156】
≪工程C≫
実施例1の原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
【0157】
≪工程D≫
このようにして得られた原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0158】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0159】
(比較例4)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で15:20:65の割合で混合し、比較例4の原料油組成物を得た。
【0160】
≪工程A≫
比較例4の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0161】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下500℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0162】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例4の原料炭粉体を得た。
【0163】
≪工程D≫
比較例4の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0164】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0165】
(比較例5)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分とを、質量比で50:50の割合で混合し、比較例5の原料油組成物を得た。
【0166】
≪工程A≫
比較例5の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0167】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下700℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から700℃までの昇温時間を2時間、700℃の保持時間を1時間、700℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0168】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例5の原料炭粉体を得た。
【0169】
≪工程D≫
比較例5の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0170】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0171】
(比較例6)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分とを、質量比で15:85の割合で混合し、比較例6の原料油組成物を得た。
【0172】
≪工程A≫
比較例6の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0173】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下600℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から600℃までの昇温時間を1時間30分、600℃の保持時間を1時間、600℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0174】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例6の原料炭粉体を得た。
【0175】
≪工程D≫
比較例6の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0176】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例6のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0177】
(比較例7)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で4:91:5の割合で混合し、比較例7の原料油組成物を得た。
【0178】
≪工程A≫
比較例7の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0179】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下650℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から650℃までの昇温時間を1時間30分、650℃の保持時間を1時間、650℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0180】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例7の原料炭粉体を得た。
【0181】
≪工程D≫
比較例7の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0182】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例7のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0183】
(比較例8)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で15:85の割合で混合し、比較例8の原料油組成物を得た。
【0184】
≪工程A≫
比較例8の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、原料炭組成物を得た。
【0185】
≪工程B≫
得られた原料炭組成物を、窒素ガス気流下550℃で加熱し、熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から550℃までの昇温時間を1時間、550℃の保持時間を1時間、550℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0186】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が19.5~20.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例8の原料炭粉体を得た。
【0187】
≪工程D≫
比較例8の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0188】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が9.5~10.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0189】
(実施例6)
実施例1で得た人造黒鉛材料と、比較例3で得た人造黒鉛材料とを、質量比で50:50の割合で混合した混合物からなる実施例6のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0190】
(実施例7)
実施例1で得た人造黒鉛材料と、比較例3で得た人造黒鉛材料とを、質量比で30:70の割合で混合した混合物からなる実施例7のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0191】
(実施例8)
実施例1で得た人造黒鉛材料と、比較例3で得た人造黒鉛材料とを、質量比で20:80の割合で混合した混合物からなる実施例8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0192】
<評価用電池の作製(1)>
以下に示す方法により、評価用電池として図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製した。負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15としては、それぞれ以下に示すものを用いた。
【0193】
(負極11、負極集電体12)
実施例1~8、比較例1~8で得た何れかの人造黒鉛材料と、1.5質量%の濃度に調整された結着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC(第一工業製薬株式会社製のBSH-6))水溶液と、48質量%の濃度で結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)が分散した水溶液とを、固形分の質量比で98:1:1の割合で混合し、ペースト状の負極合剤を得た。
得られた負極合剤を、負極集電体12としての厚さ18μmの銅箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、負極合剤からなる層である負極11が負極集電体12上に形成された負極シートを得た。
負極シートにおける負極合剤の単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として約9.4mg/cmとなるように調整した。
【0194】
その後、負極シートを、幅32mm、長さ52mmとなるように切断した。そして、負極11の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、負極リード板としての役割を担う負極集電体12を露出させた。
【0195】
(正極13、正極集電体14)
正極材料である平均粒子径10μmのコバルト酸リチウムLiCoO(日本化学工業社製のセルシード(登録商標)C10N)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1120)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック(登録商標))とを質量比で89:6:5に混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジノンを加えて混練し、ペースト状の正極合剤を得た。
得られた正極合剤を、正極集電体14としての厚さ30μmのアルミニウム箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、正極合剤からなる層である正極13が正極集電体14上に形成された正極シートを得た。
正極シートにおける正極合剤の単位面積当たりの塗布量は、コバルト酸リチウムの質量として、約20mg/cmとなるように調整した。
【0196】
その後、正極シートを、幅30mm、長さ50mmとなるように切断した。そして、正極13の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、正極リード板としての役割を担う正極集電体14を露出させた。
【0197】
(セパレータ15)
セパレータ15としては、セルロース系不織布(日本高度紙(株)製のTF40-50)を用いた。図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製するために、まず、負極11と負極集電体12と負極リード板とが一体化された負極シートと、正極13と正極集電体14と正極リード板とが一体化された正極シートと、セパレータ15と、その他のリチウムイオン二次電池10に使用する部材とを乾燥させた。具体的には、負極シートおよび正極シートを、減圧下120℃で12時間以上乾燥させた。また、セパレータ15及びその他部材を、減圧下70℃で12時間以上乾燥させた。
【0198】
次に、乾燥させた負極シート、正極シート、セパレータ15及びその他部材を、露点が-60℃以下に制御されたアルゴンガス循環型のグローブボックス内で組み立てた。このことにより、図1に示すように正極13と負極11とがセパレータ15を介して対向して積層され、ポリイミドテープ(不図示)で固定された単層電極体を得た。なお、負極シートと正極シートとは、積層した正極シートの周縁部が、負極シートの周縁部の内側に囲まれる配置となるように積層した。
【0199】
次に、単層電極体をアルミラミネート外装16に収容し、内部に電解液を注入した。電解液としては、溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度となるように溶解し、更にビニレンカーボネート(VC)を1質量%の濃度となるように混合しものを用いた。溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:7の割合で混合したものを用いた。
【0200】
その後、正極リード板および負極リード板がはみ出した状態で、アルミラミネート外装16を熱融着した。以上の工程により、実施例1~8、比較例1~8の密閉型のリチウムイオン二次電池10を得た。
【0201】
<評価用電池の充放電試験(1)>
実施例1~8、比較例1~8のリチウムイオン二次電池10について、以下に示す充放電試験を行った。
先ず、電池の異常を検知するための予備試験を行った。すなわち、電池を25℃の恒温室内に設置し、4mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、10分間休止した後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、予備試験とした。
この予備試験により、実施例1~8、比較例1~8の電池は、全て異常がないことを確認した。その上で、以下の本試験を実施した。なお、予備試験は、本試験のサイクル数には含まない。
【0202】
本試験では、電池を25℃の恒温室内に設置し、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い10分間休止した後、同じ電流(30mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。
【0203】
次に、電池を-10℃に設定された恒温槽の中に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを100回繰り返した。その後、電池を再度25℃の恒温槽内に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量」とした。
【0204】
-10℃で充放電を繰り返した後の容量劣化を表す指標として、上記の「初期放電容量」に対する「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量」の維持率(%)を、以下の(式1)を用いて算出した。その結果を表1に示す。
【0205】
【数1】
【0206】
【表1】
【0207】
表1に示すように、実施例1~8のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%未満の範囲内であり、かつ、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲内ある熱処理された原料炭粉体を使用して、本発明の製造方法で得られた人造黒鉛材料が用いられている。
実施例1~8のリチウムイオン二次電池では「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が67%以上であった。このことから、本発明の製造方法で得られた人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、-10℃の温度で充放電サイクルを繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認された。
【0208】
また、表1に示すように、実施例1~8のリチウムイオン二次電池では、「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率」が67.5%以上であった。このことから、実施例1~8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、急速充電を繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認できた。
【0209】
一方、比較例1のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例4、5、6のリチウムイオン二次電池の負極には、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例2、7、8のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%未満の範囲外であり、かつ、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例3のリチウムイオン二次電池の負極には、熱処理されておらず、揮発分が3.71%未満の範囲外である原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
【0210】
比較例1~8のリチウムイオン二次電池は、いずれも、「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」は46%未満であり、実施例1~8と比較して、放電容量は劣化し易いことが確認された。
【0211】
(実施例9)
≪工程A≫
実施例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0212】
≪工程B≫
実施例1において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いた以外は実施例1と同様の方法により、実施例9の熱処理原料炭組成物を得た。
【0213】
≪工程C≫
得られた実施例9の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例9の原料炭粉体を得た。
【0214】
≪工程D≫
実施例9の原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、その坩堝をアチソン炉内の加温材、保温材であるパッキングコークスに埋め込んだ後、2950℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2950℃までの昇温時間を130時間、2950℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0215】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が14.5~15.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0216】
(実施例10)
≪工程A≫
実施例2と同様にして原料炭組成物を得た。
【0217】
≪工程B≫
実施例2において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が98:2の混合ガスを用いた以外が実施例2と同様の方法により実施例10の熱処理原料炭組成物を得た。
【0218】
≪工程C≫
得られた実施例10の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が14.5~15.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例10の原料炭粉体を得た。
【0219】
≪工程D≫
実施例10の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0220】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が11.5~12.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0221】
(実施例11)
≪工程A≫
実施例3と同様にして原料炭組成物を得た。
【0222】
≪工程B≫
実施例3において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が90:10の混合ガスを用いた以外は実施例3と同様の方法により、実施例11の熱処理原料炭組成物を得た。
【0223】
≪工程C≫
得られた実施例11の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が12.5~13.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例11の原料炭粉体を得た。
【0224】
≪工程D≫
実施例11の原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2850℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2850℃までの昇温時間を23時間、2850℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0225】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が8.5~9.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例11のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0226】
(実施例12)
≪工程A≫
実施例4と同様にして原料炭組成物を得た。
【0227】
≪工程B≫
実施例4において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いた以外は実施例4と同様の方法により実施例12の熱処理原料炭組成物を得た。
【0228】
≪工程C≫
得られた実施例12の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例12の原料炭粉体を得た。
【0229】
≪工程D≫
実施例12の原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2850℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2850℃ までの昇温時間を23時間、2850℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0230】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が10.5~11.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例12のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0231】
(実施例13)
≪工程A≫
実施例5と同様にして原料炭組成物を得た。
【0232】
≪工程B≫
実施例5において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いた以外は実施例3と同様の方法により、実施例13の熱処理原料炭組成物を得た。
【0233】
≪工程C≫
得られた熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、実施例13の原料炭粉体を得た。
【0234】
≪工程D及び工程E≫
実施例12の原料炭粉体に替えて実施例13の原料炭粉体を用いたことと、平均粒子径が8.5~9.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕したこと以外は実施例12と同様の方法で実施例13のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0235】
(比較例9)
≪工程A≫
比較例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0236】
≪低温熱処理工程≫
比較例1において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いた以外は比較例1と同様の方法により比較例9の熱処理原料炭組成物を得た。
【0237】
≪工程C≫
得られた比較例9の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が17.5~18.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例9の原料炭粉体を得た。
【0238】
≪工程D及び工程E≫
実施例12の原料炭粉体に替えて比較例9の原料炭粉体を用いたことと、平均粒子径が14.5~15.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕したこと以外は実施例12と同様の方法で比較例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0239】
(比較例10)
≪工程A≫
比較例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0240】
≪高温熱処理工程≫
比較例2において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が99:1の混合ガス気流下750℃で加熱し、比較例10の熱処理原料炭組成物を得た。
【0241】
≪工程C≫
得られた比較例10の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例10の原料炭粉体を得た。
【0242】
≪工程D及び工程E≫
実施例12の原料炭粉体に替えて比較例10の原料炭粉体を用いたこと以外は実施例12と同様の方法で比較例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0243】
(比較例11)
≪工程A≫
実施例1と同様にして原料炭組成物を得た。
【0244】
≪熱処理工程≫
比較例11のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法においては、原料炭組成物の熱処理を行わなかった。
【0245】
≪工程C≫
実施例1の原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が17.5~18.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
【0246】
≪工程D≫
このようにして得られた比較例11の原料炭粉体を、実施例9と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0247】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が12.5~13.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例11のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0248】
(比較例12)
≪工程A≫
比較例4と同様にして原料炭組成物を得た。
【0249】
≪工程B≫
比較例4において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いたこと以外は比較例4と同様の方法により比較例12の熱処理原料炭組成物を得た。
【0250】
≪工程C≫
得られた比較例12の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が15.5~16.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例12の原料炭粉体を得た。
【0251】
≪工程D及び工程E≫
実施例12の原料炭粉体に替えて比較例12の原料炭粉体を用いたことと、平均粒子径が13.5~14.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕したこと以外は実施例12と同様の方法で比較例12のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0252】
(比較例13)
≪工程A≫
比較例5と同様にして原料炭組成物を得た。
【0253】
≪工程B≫
比較例5において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が98:2の混合ガスを用いた以外は比較例5と同様の方法により比較例13の熱処理原料炭組成物を得た。
【0254】
≪工程C≫
得られた比較例13の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例13の原料炭粉体を得た。
【0255】
≪工程D≫
比較例13の原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2850℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2850℃までの昇温時間を23時間、2850℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0256】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例13のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0257】
(比較例14)
≪工程A≫
比較例6と同様にして原料炭組成物を得た。
【0258】
≪工程B≫
比較例6において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が90:10の混合ガスを用いた以外は比較例6と同様の方法により比較例14の熱処理原料炭組成物を得た。
【0259】
≪工程C≫
得られた比較例14の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が18.5~19.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例14の原料炭粉体を得た。
【0260】
≪工程D≫
比較例14の原料炭粉体を実施例9と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0261】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例14のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0262】
(比較例15)
≪工程A≫
比較例7と同様にして原料炭組成物を得た。
【0263】
≪工程B≫
比較例7において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が94:6の混合ガスを用いた以外は比較例7と同様の方法により比較例15の熱処理原料炭組成物を得た。
【0264】
≪工程C≫
得られた比較例15の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が20.5~21.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例15の原料炭粉体を得た。
【0265】
≪工程D≫
比較例15の原料炭粉体を実施例9と同じ方法で黒鉛化し、黒鉛粉体を得た。
【0266】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が11.5~12.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例15のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0267】
(比較例16)
≪工程A≫
比較例8と同様にして原料炭組成物を得た。
【0268】
≪工程B≫
比較例8において、窒素ガスに替えて窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガスを用いた以外は比較例8と同様の方法により比較例16の熱処理原料炭組成物を得た。
【0269】
≪工程C≫
得られた比較例16の熱処理原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が17.5~18.5μmの範囲となるようにハンマー式ミルで粉砕し、比較例16の原料炭粉体を得た。
【0270】
≪工程D≫
比較例16の原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2850℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2850℃までの昇温時間を23時間、2850℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行い、黒鉛粉体を得た。
【0271】
≪工程E≫
得られた黒鉛粉体をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が10.5~11.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例16のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0272】
(実施例14)
実施例9で得た人造黒鉛材料と、比較例11で得た人造黒鉛材料とを、質量比で50:50の割合で混合した混合物からなる実施例14のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0273】
(実施例15)
実施例9で得た人造黒鉛材料と、比較例11で得た人造黒鉛材料とを、質量比で30:70の割合で混合した混合物からなる実施例15のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0274】
(実施例16)
実施例9で得た人造黒鉛材料と、比較例11で得た人造黒鉛材料とを、質量比で20:80の割合で混合した混合物からなる実施例16のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0275】
実施例9~13及び比較例9~16のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料について、実施例1と同様の方法で結晶子の大きさL(112)、窒素吸着比表面積S(BET)、温度4.8KにおけるESR信号強度I(4.8K)、及び比率I(4.8K)/S(BET)を求めた。結果を表2に示す。
【0276】
<評価用電池の作製(2)>
実施例1~8、比較例1~8で得た何れかの人造黒鉛材料に替えて実施例9~16、比較例9~16で得た何れかの人造黒鉛材料を用いたことと、正極材料として、平均粒子径10μmのコバルト酸リチウムLiCoOに替えて平均粒子径12μmのニッケル・コバルト・マンガンとリチウムの複合酸化物NCM523(Beijing Easpring Material Technology Co., Ltd.製)を用いたこと、正極シートにおける正極合剤の単位面積当たりの塗布量をNCM523の質量として約17.2mg/cmとなるように調整したこと、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:7の割合で混合したものに替えて、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:4:3の割合で混合したものを用いたこと以外は上記「評価用電池の作製(1)」と同様にして、実施例9~16、比較例9~16の密閉型のリチウムイオン二次電池10を得た。
【0277】
<評価用電池の充放電試験(2)>
実施例9~16、比較例9~16のリチウムイオン二次電池10について、上記「評価用電池の充放電試験(1)」と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0278】
【表2】
【0279】
表2に示すように、実施例9~16のリチウムイオン二次電池の負極には、X 線広角回折法で測定される(112)回折線から算出された結晶子の大きさL(112)が4~30nmであり、窒素吸着比表面積S(BET)が2.5~6.2m/gであり、Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの信号強度から算出されるスピン密度I(4.8K)(spins/g)と、S(BET)の比率I(4.8K)/S(BET)が、5.2×1017~6.8×1017spins/mであることを特徴とする人造黒鉛材料が負極として使用されている。また揮発分が3.71%未満の範囲内であり、かつ、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲内ある熱処理された原料炭粉体を使用して、本発明の製造方法で得られた人造黒鉛材料が用いられている。
実施例9~16のリチウムイオン二次電池では「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が75%以上であった。このことから、本発明の人造黒鉛材料、及び本発明の製造方法で得られた人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、-10℃の温度で充放電サイクルを繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認された。
【0280】
また、表2に示すように、実施例9~16のリチウムイオン二次電池では、「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率」が75.5%以上であった。このことから、実施例9~16のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、急速充電を繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認できた。
【0281】
一方、比較例10、11、15、16のリチウムイオン二次電池の負極は、S(BET)が本発明の範囲内であるのに対し、I(4.8K)/S(BET)は本発明の範囲外である。
比較例12、13のリチウムイオン二次電池の負極は、I(4.8K)/S(BET)が本発明の範囲内であるのに対し、S(BET)は本発明の範囲外である。
比較例9、14のリチウムイオン二次電池の負極は、S(BET)とI(4.8K)/S(BET)が共に本発明の範囲外である。
比較例9~16のリチウムイオン二次電池は、いずれも、「-10℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」は64%以下であり、実施例9~16と比較して、放電容量は劣化し易いことが確認された。
【0282】
また比較例9のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例12、13、14のリチウムイオン二次電池の負極には、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例10、15、16のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%未満の範囲外であり、かつ、真密度が1.22g/cm超1.73g/cm未満の範囲外である熱処理された原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
比較例11のリチウムイオン二次電池の負極には、熱処理されておらず、揮発分が3.71%未満の範囲外である原料炭粉体を使用して得られた人造黒鉛材料が用いられている。
【産業上の利用可能性】
【0283】
本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、-10℃の低温で充放電を繰り返しても放電容量が劣化し難いものとなる。そのため、本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として、好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0284】
10・・・リチウムイオン二次電池
11・・・負極
12・・・負極集電体
13・・・正極
14・・・正極集電体
15・・・セパレータ
16・・・アルミラミネート外装
図1