(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】L-リジン産生組換え菌株、その構築方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20250304BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250304BHJP
C07K 14/34 20060101ALI20250304BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250304BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20250304BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C07K14/34
C12N15/63 Z
C12N15/11 Z
C12P13/08 A
(21)【出願番号】P 2022552166
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(86)【国際出願番号】 CN2020141539
(87)【国際公開番号】W WO2021248890
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】202010514023.X
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010790877.0
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC 12856
(73)【特許権者】
【識別番号】522077960
【氏名又は名称】黒竜江伊品生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】孟剛
(72)【発明者】
【氏名】魏愛英
(72)【発明者】
【氏名】賈慧萍
(72)【発明者】
【氏名】馬風勇
(72)【発明者】
【氏名】周暁群
(72)【発明者】
【氏名】趙春光
(72)【発明者】
【氏名】郭小▲うぃ▼
(72)【発明者】
【氏名】田斌
(72)【発明者】
【氏名】高暁航
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-191370(JP,A)
【文献】米国特許第06962989(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第111197021(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0363014(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C12N 1/21
C12P 13/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-リジンを生成する微生物であって、当該微生物がコリネバクテリウム属に属し、当該微生物は、配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの改善された発現を有し、前記改善された発現は、配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの発現が増強されること、又は配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが点突然変異を有すること、又は配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが点突然変異を有するとともに、発現が増強されることであり;
配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの点突然変異は、配列番号3のアミノ酸配列の176位のリジン残基のアスパラギン残基への置換をもたらし;
かつ/又は、配列番号29に示されるプロモーター領域の-49位
のヌクレオチドが、シトシン(C)からアデニン(A)に変異され、-51位のヌクレオチドが、グアニン(G)からチミン(T)に変異され、かつ-54~-58位のヌクレオチド配列が、CTGCAからGGTGTに変異されており
、
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)YP97158である、
微生物。
【請求項2】
配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド配列を含む、又は、
前記点突然変異を有するポリヌクレオチド配列は、配列番号2に示されるポリヌクレオチド配列を含む、
請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
当該プロモーター
領域のヌクレオチド配列は、
配列番号30に示されるヌクレオチド配
列である、請求項
1に記載の微生物。
【請求項4】
組換え菌株であって、
配列番号4のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、又は、
配列番号2のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、
を含
み、
宿主菌株が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)YP97158である、組換え菌株。
【請求項5】
組換え菌株であって、
配列番号30に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は、
配列番号30に示されるヌクレオチド配列と当該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されたコード配列とを含む発現カセット、又は
配列番号30に示されるヌクレオチド配列を含む組換えベクター、を含有
し、
宿主菌株がコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)YP97158である、組換え菌株。
【請求項6】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の微生物又は請求項
4若しくは
5に記載の組換え菌株を培養すること、及び培養物からL-リジンを回収することを含む、L-リジンを生産するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年8月7日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202010790877.0、発明の名称が「L-リジン産生組換え菌株、その構築方法及び使用」、及び2020年6月8日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202010514023.X、発明の名称が「dapB遺伝子改変組換え菌株、その構築方法及び使用」である先行出願の優先権を主張している。前記2つの先行出願の全内容が引用により本願に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は遺伝子工学及び微生物の技術分野に属し、具体的には、L-リジン産生能が向上した組換え菌株、その構築方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
L-リジンは発育促進、免疫力増強、中枢神経組織の機能向上などの生理的効果があり、人体と動物が自身で合成できず、かつ成長に必要な8種類の基本アミノ酸の一つである。現在、L-リジンは世界で2番目に大きいアミノ酸の種類で、主な生産方法は発酵法であり、コリネバクテリウムはアミノ酸生産に使用される最も重要な菌種であり、これにはコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・フラバム(C.flavum)、コリネバクテリウム・クレナタム(C.crenatum)、コリネバクテリウム・ペキネンスなどが含まれ、このうちコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)はリジンの重要な生産菌株である。L-リジンの工業的な生産量の約90%は飼料産業における栄養強化剤として、10%は食品産業におけるうま味料や甘味料、医薬品産業における医薬品中間体として使用されている。
【0004】
発酵法によるL-リジンの生産の改良は、撹拌及び酸素供給などの発酵技術、発酵中の糖濃度などの栄養培地の組成、発酵液の乾燥及び造粒又はイオン交換クロマトグラフィー等により発酵液を適切な製品形態に加工すること、又は関連する微生物自体の固有の性能特性に関することができる。
【0005】
これらの微生物の性能や性質を改善するための方法は、誘発突然変異、突然変異体の選択やスクリーニングを含む。このようにして得られた菌株は、代謝物に対して耐性を有するか、又は調節的に重要な代謝物に対して栄養要求性であり、L-リジンを産生する。
【0006】
コリネバクテリウム・グルタミカムの場合、C.glutamicum生合成経路ではL-リジン1molの合成に4molのNADPHを消費する。したがって、C.glutamicum生合成経路におけるL-リジンの蓄積を向上させるためには、C.glutamicum代謝経路におけるNADPH量の上昇、又はL-リジン合成経路におけるNADPH要求量の低下が重要な手段である。
【0007】
ジヒドロピリジンジカルボン酸レダクターゼ(DHDPR:Dihydrodipicolinate reductase)は細菌と高等植物がジアミノピメリン酸とL-リジンを生合成する過程における第2の重要な酵素であり、ジヒドロピリジンジカルボン酸のNAD(P)H-依存性の還元反応を触媒し、ヘキサヒドロピリジンジカルボン酸を生成する。この酵素は細胞壁の形成に重要な役割を果たす。DHDPRはNADHとNADPHを補因子とすることができ、異なる細菌のDHDPRは異なる補因子に対する親和性も異なり、例えばE.coliはNADHを好んでいるが、C.glutamicumにおけるDHDPRは主にNADPHを補因子とし、L-リジンの合成に関与する。C.glutamicumにおけるDHDPRは、他の発見された生物におけるDHDPRと同様に、遺伝子dapBによってコードされており、その酵素活性は合成経路の最終産物によって調節されないが、2,6-ピリジンジカルボン酸(2,6-PDC)によって阻害される。
【0008】
リジンの収率は生合成経路における酵素活性に関連しており、この活性は、一般に、リジン生合成経路における1つ以上の遺伝子を増幅することにより、又は遺伝子の修飾プロモーターを適用することにより、向上することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの発現が改善され、及び/又は、SEQ ID NO:29に示されるプロモーター領域の-49番目、-51番目、-54~-58番目の塩基が変異した、L-リジンを生成する微生物又は組換え菌株を提供する。本発明はまた、前記微生物又は組換え菌株を用いたL-リジンの生産方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの改善された発現を有する、L-リジンを生成するコリネバクテリウム属に属する微生物又は組換え菌株を提供する。本発明によれば、前記改善された発現は前記ポリヌクレオチドの発現増強、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが点突然変異を有すること、又はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが点突然変異を有するとともに、発現が増強されることである。
【0011】
前記SEQ ID NO:3のアミノ酸配列は遺伝子NCgl2176がコードするタンパク質である。
【0012】
前記微生物又は組換え菌株は、野生型又は親株に比べて増強されたL-リジン産生能を有する。
【0013】
前記ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列とは約90%以上、約92%以上、約95%以上、約97%以上、約98%以上、又は約99%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードしてもよい。本明細書で使用される場合、「相同性」という用語は、2種のポリヌクレオチド又は2種のペプチドモジュールの間の同一性百分率である。1つのモジュールと別のモジュールとの間の配列相同性は本分野で公知の方法によって測定されてもよい。このような配列相同性は例えばBLASTアルゴリズムによって測定されてもよい。
【0014】
ポリヌクレオチドの発現は、発現調節配列の置換又は変異、ポリヌクレオチド配列への変異導入、染色体を介して挿入された又はベクターを介して導入されたポリヌクレオチドのコピー数の増加、又はこれらの組み合わせなどによって増強されてもよい。
ポリヌクレオチドの発現調節配列は修飾されてもよい。発現調節配列は、それに操作可能に連結されたポリヌクレオチドの発現を制御し、また、例えばプロモーター、ターミネータ、エンハンサー、サイレンサーなどを含んでもよい。ポリヌクレオチドは開始コドンの変化を有してもよい。ポリヌクレオチドが染色体の特定部位に組み込まれることで、コピー数を増加させてもよい。本明細書では、特定部位は例えばトランスポゾン部位又は遺伝子間部位を含んでもよい。また、ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込み、前記発現ベクターを宿主細胞に導入することで、コピー数を増加させてもよい。
【0015】
本発明の一実施形態では、ポリヌクレオチド又は点突然変異を有するポリヌクレオチドを微生物染色体の特定部位に組み込むことで、コピー数を増加させる。
【0016】
本発明の一実施形態では、プロモーター配列を有するポリヌクレオチド又はプロモーター配列を有し点突然変異を有するポリヌクレオチドを微生物染色体の特定部位に組み込むことで、前記核酸配列を過剰発現する。
【0017】
本発明の一実施形態では、ポリヌクレオチド又は点突然変異を有するポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込み、前記発現ベクターを宿主細胞に導入することで、コピー数を増加させる。
【0018】
本発明の一実施形態では、プロモーター配列を有するポリヌクレオチド又はプロモーター配列を有し点突然変異を有するポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込むことで、前記発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記核酸配列を過剰発現する。
【0019】
本発明の一特定実施形態では、前記ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:1のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0020】
本発明の一実施形態では、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが点突然変異を有することにより、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列の176番目のリジンが異なるアミノ酸で置換される。
【0021】
本発明によれば、好ましくは、176番目のリジンがアスパラギンで置換される。
【0022】
本発明によれば、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列、その176番目のリジン(K)がアスパラギン(N)で置換されたアミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示される。
【0023】
本発明の一実施形態では、前記点突然変異を有するポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に示されるポリヌクレオチド配列の528番目の塩基が変異したものである。
【0024】
本発明によれば、前記突然変異はSEQ ID NO:1に示されるポリヌクレオチド配列の528番目の塩基のアデニン(A)からシトシン(C)への突然変異を含む。
【0025】
本発明の一実施形態では、前記点突然変異を有するポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2に示されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「操作可能に連結された」という用語は調節配列とポリヌクレオチド配列とが機能的に連結されることにより、調節配列がポリヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御することを指す。調節配列はポリヌクレオチドの発現レベルを向上させ得る強力なプロモーターである。調節配列は、コリネバクテリウム属の微生物に由来のプロモーター又は他の微生物に由来のプロモーターとしてもよい。例えば、プロモーターはtrcプロモーター、gapプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、araBADプロモーター又はcj7プロモーターであってもよい。
【0027】
本発明の一特定実施形態では、前記プロモーターはSEQ ID NO:3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(NCgl2176遺伝子)のプロモーターである。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、遺伝子の調節配列及び遺伝子配列を含有し、適切な宿主細胞にて標的遺伝子を発現させるように構成されるポリヌクレオチド構築体を指す。また、ベクターは、ポリヌクレオチド構築体を指してもよく、ベクターが相同組換えに利用可能な配列を含むことで、宿主細胞へ導入されたベクターによって、宿主細胞のゲノム中の内因性遺伝子の調節配列を変化したり、発現させ得る標的遺伝子を宿主のゲノムの特定部位に挿入したりすることができる。これに関しては、本発明で使用されるベクターは、宿主細胞へのベクターの導入又は宿主細胞の染色体へのベクターの挿入を確認するために選択的マーカーをさらに含んでもよい。選択的マーカーは、薬剤耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する抗性、又は表面タンパク質の発現などの選択可能な表現型を付与するマーカーを含んでもよい。このような選択剤で処理された環境では、選択的マーカーを発現させた細胞が生存するか又は異なる表現型形質を示すので、形質転換細胞の選択が可能になる。
【0029】
本発明のいくつかの特定実施形態では、使用されるベクターはpK18mobsacBプラスミド、pXMJ19プラスミドである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「形質転換」という用語は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより、ポリヌクレオチドがゲノム外要素として機能するか、又は宿主細胞のゲノムに挿入されて複製可能になることを指す。本発明で使用されるベクターの形質転換方法は、核酸を細胞に導入する方法を含んでもよい。また、関連技術で開示した通り、宿主細胞によって電気パルス方法を実施してもよい。
【0031】
本発明によれば、コリネバクテリウム属に属する微生物又は組換え菌株は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ペキネンス(Corynebacterium pekinense)であってもよい。
【0032】
本発明の一実施態様では、前記コリネバクテリウム属に属する微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムYP97158であり、受託番号:CGMCC No.12856、受託日:2016年8月16日、受託機関:中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター、北京市朝陽区北辰西路1号院3号、電話番号:010-64807355であり、中国特許出願CN106367432A(出願日2016年9月1日、公開日2017年2月1)に記載されている。
【0033】
本発明によれば、前記微生物又は組換え菌株は、L-リジン産生量の向上に関する他の改良、例えば、NADPH生成に関連する遺伝子(例えばグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子、グルコノキナーゼをコードする遺伝子、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、又は6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子)及び/又はL-リジン生合成又は分泌に関連する他の遺伝子(例えばアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子、アスパルトキナーゼをコードする遺伝子、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、ジヒドロジピコリン酸シンターゼをコードする遺伝子、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子、m-ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子、lysE)の向上又は低下した発現、又は外来遺伝子による遺伝子の置換をさらに有してもよい。
【0034】
本発明の第2態様は、ポリヌクレオチド配列、該ポリヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列、前記ポリヌクレオチド配列を含む組換えベクター、前記ポリヌクレオチド配列を含有する組換え菌株を提供する。
【0035】
本発明によれば、前記ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、176番目のリジンが異なるアミノ酸で置換される。
【0036】
本発明によれば、好ましくは、176番目のリジンがアスパラギンで置換される。
【0037】
本発明によれば、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列、その176番目のリジン(K)がアスパラギン(N)で置換されたアミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示される。
【0038】
本発明によれば、好ましくは、前記SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1に示されるポリヌクレオチド配列を含有する。
【0039】
本発明の一実施形態では、前記ポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1に示されるポリヌクレオチド配列の528番目の塩基が変異したものである。
【0040】
本発明によれば、前記変異とは、前記部位の塩基/ヌクレオチドが変化することを指し、前記変異方法は、誘発変異、PCR部位特異的変異法、及び/又は相同組換えなどの方法から選ばれる少なくとも1種であってもよい。本発明では、好ましくは、PCR部位特異的変異法及び/又は相同組換えが使用される。
【0041】
本発明によれば、前記変異はSEQ ID NO:1に示されるポリヌクレオチド配列の528番目の塩基のアデニン(A)からシトシン(C)への変異を含む。
【0042】
本発明の一実施形態では、前記ポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2に示されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0043】
本発明によれば、前記アミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含む。
【0044】
本発明によれば、前記組換えベクターは前記ポリヌクレオチド配列をプラスミドに導入して構築されるものである。
【0045】
本発明の一実施形態では、前記プラスミドはpK18mobsacBプラスミドである。
【0046】
本発明の別の実施形態では、前記プラスミドはpXMJ19プラスミドである。
【0047】
具体的には、前記ポリヌクレオチド配列と前記プラスミドとをNEBuider組換え系により組換えベクターに構築してもよい。
【0048】
本発明によれば、前記組換え菌株は前記ポリヌクレオチド配列を含有する。
【0049】
本発明の一実施態様として、前記組換え菌株の出発菌はYP97158である。
【0050】
本発明の第3態様はまた、コリネバクテリウム・グルタミカム組換え菌株の構築方法を提供する。
【0051】
本発明によれば、前記構築方法は、
528番目の塩基が変異するように、宿主菌株中の、例えばSEQ ID NO:1に示される野生型NCgl2176のポリヌクレオチド配列を改変し、変異NCgl2176コード遺伝子を含むコリネバクテリウム組換え菌株を得るステップを含む。
【0052】
本発明の構築方法によれば、前記改変は、誘発変異、PCR部位特異的変異法、及び/又は相同組換えなどの方法のうちの少なくとも1種を含む。
【0053】
本発明の構築方法によれば、前記変異とは、SEQ ID NO:1の528番目の塩基のアデニン(A)からシトシン(C)への変異を指し、具体的には、前記変異NCgl2176コード遺伝子を含むポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2に示される。
【0054】
さらに、前記構築方法は、
528番目の塩基が変異するように、SEQ ID NO:1に示される野生型NCgl2176遺伝子のヌクレオチド配列を改変し、変異NCgl2176遺伝子ポリヌクレオチド配列を得るステップ(1)と、
前記変異したポリヌクレオチド配列をプラスミドに連結して、組換えベクターを構築するステップ(2)と、
前記組換えベクターを宿主菌株に導入して、前記変異NCgl2176コード遺伝子を含むコリネバクテリウム組換え菌株を得るステップ(3)とを含む。
【0055】
本発明の構築方法によれば、前記ステップ(1)は、点突然変異NCgl2176遺伝子の構築を含み、すなわち、コリネバクテリウム・グルタミカムのゲノム配列に従って、NCgl2176遺伝子断片を増幅する2対のプライマーであるP1とP2及びP3とP4を合成し、PCR部位特異的突然変異法によって野生型NCgl2176遺伝子SEQ ID NO:1に点突然変異を導入し、点突然変異NCgl2176遺伝子ヌクレオチド配列SEQ ID NO:2を得て、NCgl2176A528Cとする。
【0056】
本発明の一実施形態では、前記コリネバクテリウム・グルタミカムゲノムは、ATCC13032菌株に由来してもよく、そのゲノム配列はNCBIウェブサイトから取得してもよい。
【0057】
本発明の一実施態様では、前記ステップ(1)では、前記プライマーは以下の通りである。
P1:5'CAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGCGGCGACCGCATGGACACCG 3'(SEQ ID NO:5)
P2:5'CCGGGGACTGGTTTTCGGGTGTTGGTGTGC 3'(SEQ ID NO:6)
P3:5'GCACACCAACACCCGAAAACCAGTCCCCGG 3'(SEQ ID NO:7)
P4:5'CAGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCCGAGGTCTCTCAGAATCGGT 3'(SEQ ID NO:8)
【0058】
本発明の一実施態様では、前記PCR増幅は、以下のように行われる。94℃、30s(秒)変性、52℃、30sアニーリング、及び72℃、40s伸長(30サイクル)。
【0059】
本発明の一実施態様では、前記オーバーラップPCR増幅は、以下のように行われる。94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、及び72℃、90s伸長(30サイクル)。
【0060】
本発明の構築方法によれば、前記ステップ(2)は、分離精製したNCgl2176A528CとpK18mobsacBプラスミドを、NEBuider組換え系により組み立て、組換えプラスミドpK18-NCgl2176A528Cを得ることを含む組換えプラスミドの構築を含む。
【0061】
本発明の構築方法によれば、前記ステップ(3)は、組換えプラスミドpK18-NCgl2176A528Cを宿主菌株に形質転換し、組換え菌株を得ることを含む組換え菌株の構築を含む。
【0062】
本発明の一実施態様では、前記ステップ(3)の形質転換は電気的形質転換法である。
【0063】
本発明の一実施形態では、前記宿主菌株はYP97158である。
【0064】
本発明の一実施形態では、前記組換えは相同組換えによって行われる。
【0065】
本発明の第4態様はまた、コリネバクテリウム組換え菌株の構築方法を提供する。
【0066】
本発明によれば、前記構築方法は、
NCgl2176遺伝子の上下流相同アーム断片、NCgl2176遺伝子コード領域及びそのプロモーター領域配列、又は、NCgl2176A528C遺伝子コード領域及びそのプロモーター領域配列を増幅し、相同組換えによって宿主菌株のゲノムにNCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子を導入することで、前記菌株でNCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子を過剰発現するステップを含む。
【0067】
本発明の一実施形態では、上流相同アーム断片を増幅するプライマーは以下の通りである。
P7:5'CAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAATGCGTTCTGGACTGAGG3'(SEQ ID NO:11)
P8:5'AACACCATTGTCCCTGTTTTGGGCGAAATTTTCCCGGTGCACCGAGAACAGATG3'(SEQ ID NO:12)。
本発明の一実施形態では、下流相同アーム断片を増幅するプライマーは以下の通りである。
P11:5'CTACGAGACGAAGCCGTTCGCCTGAGATGGCGCAATTAAATCAAG 3'(SEQ ID NO:15)
P12:5'CAGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCGCTATGACACCTTCAACGGATC 3'(SEQ ID NO:16)。
【0068】
本発明の一実施形態では、前記遺伝子コード領域及びそのプロモーター領域配列を増幅するプライマーは以下の通りである。
P9:5'CGGGAAAATTTCGCCCAAAACAGGGACAATGGTGTTATGGCATTTGCAGACATTGTGCGC3'(SEQ ID NO:13)
P10:5'CTTGATTTAATTGCGCCATCTCAGGCGAACGGCTTCGTCTCGTAG3'(SEQ ID NO:14)。
【0069】
本発明の一実施形態では、前述P7/P12をプライマーとして、増幅により得られた上流相同断片、下流相同断片及び自体のプロモーターを有するNCgl2176又はNCgl2176A528Cの3つの断片を混合してテンプレートとして増幅を行い、組み込み相同アーム断片を得る。
【0070】
本発明の一実施形態では、使用されるPCR系は、10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μLであり、PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min(分)予備変性、94℃、 30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、120s伸長(30サイクル)、72℃、10min過剰伸長。
【0071】
本発明の一実施形態では、NEBuider組換え系を用いて、シャトルプラスミドPK18mobsacBと組み込み相同アーム断片とを組み立て、組み込みプラスミドを得る。
【0072】
本発明の一実施形態では、組み込みプラスミドを宿主菌株にトランスフェクションし、相同組換えによって宿主菌株のゲノムにNCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子を導入する。
【0073】
本発明の一実施形態では、前記宿主菌株はYP97158である。
【0074】
本発明の一実施形態では、前記宿主菌株はSEQ ID NO:2に示されるポリヌクレオチド配列を持つ菌株である。
【0075】
本発明の第5態様はまた、コリネバクテリウム組換え菌株の構築方法を提供する。
【0076】
本発明によれば、前記構築方法は、
NCgl 2176遺伝子コード領域及びプロモーター領域配列、又はNCgl 2176A528C遺伝子コード領域及びプロモーター領域配列を増幅し、過剰発現プラスミドベクターを構築し、前記ベクターを宿主菌株に形質導入することで、前記菌株でNCgl 2176又はNCgl 2176A528C遺伝子を過剰発現するステップを含む。
【0077】
本発明の一実施形態では、前記遺伝子コード領域及びそのプロモーター領域配列を増幅するプライマーは以下の通りである。
P17:5'GCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAGGATCCCCCGGGAAAATTTCGCCCAAAACAG3'(SEQ ID NO:21)
P18:5'ATCAGGCTGAAAATCTTCTCTCATCCGCCAAAACTCAGGCGAACGGCTTCGTCTCGTAG 3'(SEQ ID NO:22)。
【0078】
本発明の一実施形態では、前記PCR系は、10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μLであり、前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、90s伸長(30サイクル)、72℃、10min過剰伸長。
【0079】
本発明の一実施形態では、NEBuider組換え系を用いて、シャトルプラスミドpXMJ19と自体のプロモーターを持つNCgl2176又はNCgl2176A528C断片とを組み立て、過剰発現プラスミドを得る。
【0080】
本発明の一実施形態では、前記宿主菌株はYP97158である。
【0081】
本発明の一実施形態では、前記宿主菌株はSEQ ID NO:2に示されるポリヌクレオチド配列を持つ菌株である。
【0082】
本発明により得られた組換え菌株は単独でL-リジンの発酵生産に用いられて、L-リジンを産生する他の細菌と混合して発酵し、L-リジンを生産してもよい。
【0083】
本発明のさらなる態様は、SEQ ID NO:29に示されるプロモーター領域の-49番目、-51番目、-54~-58番目の塩基が変異したヌクレオチド配列を含むプロモーターヌクレオチド配列を提供する。
【0084】
本発明によれば、SEQ ID NO:29に示されるプロモーター領域の-49番目のヌクレオチドシトシン(C)がアデニン(A)に変異し、-51番目のヌクレオチドグアニン(G)がチミン(T)に変異し、-54~-58番目のヌクレオチドCTGCAがGGTGTに変異する。
【0085】
本発明によれば、前記プロモーターヌクレオチド配列は、
(a)SEQ ID NO:30に示されるヌクレオチド配列、又は、
(b)SEQ ID NO:30に示されるヌクレオチド配列とは90%以上、好ましくは、95%以上、又は98%以上の同一性を有するヌクレオチド配列であって、、(a)前記プロモーターの増強活性を保留し、かつ-49番目のヌクレオチドがアデニン(A)として保持され、-51番目のヌクレオチドがチミン(T)として保持され、-54~-58番目のヌクレオチドがGGTGTとして保持されるヌクレオチド配列である。
【0086】
本発明はまた、前記プロモーターと前記プロモーターの後に操作可能に連結されたコード配列とを含む上記プロモーターを含む発現カセットを提供する。本発明の一実施態様では、前記コード配列はdapB遺伝子のコード配列である。
【0087】
本発明はまた、本発明のプロモーターヌクレオチド配列を含む組換えベクターを提供する。
【0088】
本発明によれば、本発明のプロモーターヌクレオチド配列をシャトルプラスミドに連結して前記組換えベクターを構築し、本発明の一実施態様として、前記シャトルプラスミドはpK18mobsacBプラスミドである。
【0089】
本発明はまた、上記プロモーターヌクレオチド配列又は上記組換えベクターを含む組換え菌株を提供する。
【0090】
本発明による組換え菌株は、SEQ ID NO:30に示されるヌクレオチド配列を含む。前記SEQ ID NO:30に示されるヌクレオチド配列はdapB遺伝子のプロモーター領域である。さらに、前記SEQ ID NO:30に示されるヌクレオチド配列はdapB遺伝子コード配列に連結される。具体的には、前記組換え菌株は、本発明の上記発現カセット又は組換えベクターを含んでもよい。具体的には、本発明の組換え菌株は発現カセット又は組換えベクターで形質転換されたものである。本発明による組換え菌株は、上記変異したプロモーターヌクレオチド配列を宿主菌株に導入して組換えたものであり、前記宿主菌株は、本分野で公知のL-リジン産生菌株、例えばコリネバクテリウムから選ばれる少なくとも1種であってもよく、前記コリネバクテリウムはコリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・フラバム、コリネバクテリウム・クレナタム、コリネバクテリウム・ペキネンスであってもよいが、好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカムである。本発明の一実施態様として、前記宿主菌株はYP97158である。
【0091】
本発明による組換え菌株は、pK18mobsacBプラスミドをベクターとする。
【0092】
本発明による組換え菌株は、他の改変をさらに含んでもよい。
【0093】
本発明はまた、
-49番目、-51番目及び-54~-58番目の塩基が変異するようにSEQ ID NO:29に示されるプロモーター領域を改変し、変異したプロモーター領域を含むヌクレオチド配列を得るステップ(1)を含むL-リジン産生組換え菌株の構築方法を提供する。
【0094】
本発明によれば、前記変異とは、SEQ ID NO:29に示されるプロモーター領域の-49番目のヌクレオチドシトシン(C)がアデニン(A)に変異し、-51番目のヌクレオチドグアニン(G)がチミン(T)に変異し、-54~-58番目のヌクレオチドCTGCAがGGTGTに変異することを指す。具体的には、前記変異したプロモーター領域のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:30に示される。さらに、前記構築方法は、前記変異したプロモーター領域ヌクレオチド配列をプラスミドに連結し、組換えベクターを構築するステップ(2)と、
前記組換えベクターを宿主菌株に導入し、前記変異したプロモーター領域を含むL-リジン産生組換え菌株を得るステップ(3)とをさらに含む。
【0095】
本発明によれば、前記ステップ(1)では、前記変異方法は、誘発変異、PCR部位特異的突然変異又は相同組換えを含むが、好ましくは、PCR部位特異的突然変異法である。
【0096】
本発明によれば、前記ステップ(1)は、
dapB遺伝子のプロモーター領域を増幅する2対のプライマーを設計し、PCR技術によって、変異したプロモーター領域ヌクレオチド配列を得ることを含む。
【0097】
本発明の一実施態様では、前記ステップ(1)のプライマーは以下の通りである。
P1’:5' CCGGAATTC ACCATGCCGGACATGCGGAC3'(EcoR I)(SEQ ID NO:31)
P2’:5'CCTTCTGAACGGGTTGTGGTATAATGGTGG 3'(SEQ ID NO:32)
P3’:5'CCACCATTATACCACAACCCGTTCAGAAGG 3'(SEQ ID NO:33)
P4’:5' ACATGCATGC GAATATTGACGTTGAGGAAG 3'(Sph I)(SEQ ID NO:34)。
【0098】
本発明の一実施態様では、前記ステップ(1)は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032をテンプレートとして、それぞれプライマーP1’とP2’、P3’とP4’でPCR増幅を行い、点突然変異を含む2本のDNA断片を得ることと、上記2本のDNA断片をテンプレート、P1’とP4’をプライマーとして、オーバーラップPCR増幅(Overlap PCR)によって、本発明のプロモーター領域ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:30)を含むDNA断片を得ることとを含む。
【0099】
本発明によれば、ステップ(1)では、オーバーラップPCR増幅(Overlap PCR)によって得られたDNA断片の両端のそれぞれにEcoR IとSph I制限酵素切断部位を含有する。
【0100】
本発明によれば、前記ステップ(2)は、オーバーラップPCR反応で増幅された産物を分離精製し、断片を二重制限酵素切断(ダブルダイジェスト(Double digestion))(EcoR I/Sph I)に供した後、同様に二重制限酵素切断(EcoR I/Sph I)を受けたシャトルプラスミドに連結し、対立遺伝子置換組換えベクターを得ることを含む。
【0101】
本発明によれば、前記シャトルプラスミドはpK18mobsacBプラスミドであり、構築された組換えベクターはpK18-P dapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)である。
【0102】
本発明の一実施態様では、前記組換えプラスミドはカナマイシン耐性マーカーを有する。
【0103】
本発明の一実施態様では、前記ステップ(3)の形質転換は電気的形質転換法であり、例示的には、前記ステップ(3)では、組換えプラスミドは菌株YP97158に形質転換される。
【0104】
本発明はまた、本発明の前述微生物又は組換え菌株のL-リジン製造における使用、又はL-リジン発酵量の向上方法、又はL-リジンの生産方法を提供する。
【0105】
本発明による前記使用及び方法は、前記微生物又は組換え菌株を培養して発酵し、前記培養物からL-リジンを回収し、L-リジンを得るステップを含む。本発明による前記使用及び方法は、本発明の組換え菌株を単独で使用してもよいし、他のL-リジン産生細菌として混合して使用してもよい。
【0106】
本分野で既知の培養条件下で適切な培地にて微生物を培養してもよい。培地は、炭素源、窒素源、微量元素、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。培養中、培養物のpHを調節することができる。さらに、培養するときに、気泡の発生、例えば消泡剤を用いて気泡の発生を防止することを含んでもよい。さらに、培養するときに、ガスを培養物に注射することを含んでよい。ガスは培養物の好気条件を維持しうる任意のガスを含んでもよい。培養中、培養物の温度は20~45℃であってもよい。培養物から生成したL-リジンを回収してもよく、即ち、硫酸又は塩化水素酸で培養物を処理した後、例えば陰イオン交換クロマトグラフィー、濃縮、結晶化や等電点沈殿の方法の組み合わせを行う。
【0107】
本発明において各配列番号は、以下のとおりである:
SEQ ID NO 1:NCgl2176野生型ORF配列
SEQ ID NO 2:NCgl2176
A528CORF配列
SEQ ID NO 3:NCgl2176野生型コードタンパク質のアミノ酸配列
SEQ ID NO 4:NCgl2176
K176Nコードタンパク質のアミノ酸配列
SEQ ID NO 29:野生型プロモーター配列
SEQ ID NO 30:突然変異后プロモーター配列
【0108】
有利な効果
本発明は、NCgl 2176遺伝子を弱化又はノックアウトした結果、該遺伝子によってコードされる産物がL-リジン産生能に影響を与え、コード配列に点突然変異を導入したり、該遺伝子のコピー数を増加したり、得た組換え菌株を過剰発現したりすることで、得た菌株が未改変の菌株に比べて、高濃度のL-リジンの生産に有利であることを見出した。
さらに、dapB遺伝子のプロモーター領域に点突然変異を導入することで、組換え型菌株を得る場合、得られた菌株も、未突然変異的菌株に比べて、L-リジンの産生量を大幅に向上させ、生成効率をさらに高め、生成コストを低下させ、普及に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、具体的な実施例を参照して本発明の技術的解決手段についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を例示的に説明、解説するものに過ぎず、本発明の特権利範囲を限定するものとして理解すべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現され得るる技術であれば、本発明が特許しようとする範囲に含まれる。特に断らない限り、以下の実施例に使用される原料及び試薬は全て市販商品であるか、又は既知の方法によって製造することができ、行われる操作は全て本分野で公知のものであるか、又は市販品のユーザーマニュアルに従って行われる。
【0110】
以下の実施例では、前記菌株の培養に使用される基礎培地の組成が同じであり、この基礎培地の組成に所望のスクロース、カナマイシンやクロラムフェニコールなどが添加されており、基礎培地の組成は以下に示される。
【0111】
以下の実施例では、SSCP電気泳動PAGEの製造及び条件は以下に示される。
【0112】
以下の実施例では、L-リジンの発酵培地処方及び発酵制御のプロセスは以下に示される。
【0113】
【0114】
実施例1 点突然変異NCgl 2176遺伝子コード領域を含む形質転換ベクターpK18-NCgl 2176A528Cの構築
NCBIによる野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ゲノム配列に従って、NCgl 2176遺伝子コード領域配列を増幅する2対のプライマーを設計して合成し、対立遺伝子置換によって菌株YP97158(受託番号:CGMCC No.12856、受託日期:2016年8月16日、受託機関:中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター、北京市朝陽区北辰西路1号院3号、電話番号:010-64807355、中国特許出願CN106367432A(出願日2016年9月1日、公開日2017年2月1日)中)の背景に記載のNCgl2176遺伝子コード領域(SEQ ID NO:1)に点突然変異を導入し、コードタンパク質を対応するアミノ酸配列はSEQ ID NO:3であり、NCgl2176遺伝子のヌクレオチド配列の528番目のAはC(SEQ ID NO:2:NCgl2176A528C)に変わり、コードタンパク質を対応するアミノ酸配列の176番目のリジンはアスパラギン(SEQ ID NO:4:NCgl2176K176N)に変わった。
プライマーは以下のように設計される(上海invitrogen社により合成)。
P1:5'CAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGCGGCGACCGCATGGACACCG 3'(SEQ ID NO:5)
P2:5'CCGGGGACTGGTTTTCGGGTGTTGGTGTGC 3'(SEQ ID NO:6)
P3:5'GCACACCAACACCCGAAAACCAGTCCCCGG 3'(SEQ ID NO:7)
P4:5'CAGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCCGAGGTCTCTCAGAATCGGT 3'(SEQ ID NO:8)
構築方法:コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032をテンプレートとして、それぞれプライマーP1とP2、P3とP4でPCR増幅を行った。
PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、40s伸長(30サイクル)、72℃、10min過剰伸長。サイズがそれぞれ796bp及び786bpであり、NCgl 2176遺伝子コード領域を含有する2本のDNA断片(NCgl2176UpとNCgl2176Down)が得られた。
上記2本のDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離精製した後、上記2本のDNA断片をテンプレート、P1とP4をプライマーとして、オーバーラップPCRによって、長さ約1552bpの断片を増幅した。
PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、90s伸長(30サイクル)、72℃ 10min過剰伸長。
このDNA断片(NCgl 2176A528C)によって、YP97158NCgl2176遺伝子コード領域の528番目のアデニン(A)はシトシン(C)に変わり、最終的には、コードタンパク質の176番目のアミノ酸はリジン(K)からアスパラギン(N)に変わった。
pK18mobsacBプラスミド(Addgene社より購入)をXba Iで制限酵素切断した後、アガロースゲル電気泳動によってNCgl2176A528Cと線形化したpK18mobsacBプラスミドとを分離精製し、次に、NEBuider組換え系により組み立て、ベクターpK18-NCgl2176A528Cを得て、該プラスミドには、カナマイシン耐性マーカーが含有されている。ベクターpK18-NCgl2176A528Cを配列決定会社に送って配列決定同定を行い、正しい点突然変異(A-C)を含むベクターpK18-NCgl2176A528Cを保管して、使用に備えた。
【0115】
実施例2 点突然変異NCgl2176A528Cを含む改変菌株の構築
構築方法:対立遺伝子置換プラスミドpK18-NCgl2176A528Cを電気ショックによりL-リジン生産菌株YP97158(その構築方法はWO2014121669A1を参照する。配列決定した結果、該菌株染色体に野生型のNCgl2176遺伝子コード領域が保留されている)に形質転換し、培養により産生された単一コロニーをそれぞれプライマーP1及びユニバーサルプライマーM13Rで同定し、サイズが約1559bpのバンドを増幅できる菌株を陽性菌株とした。15%スクロース含有培地で陽性菌株を培養し、培養により産生された単一コロニーをそれぞれカナマイシン含有培地及びカナマイシン不含培地で培養し、カナマイシン不含培地で成長しているが、カナマイシン含有培で成長していない菌株を、さらに以下のプライマー(上海invitrogen社により合成)でPCR同定を行った。
P5:5'GAAAACACCGCCCGAATC 3'(SEQ ID NO:9)
P6:5'GGAGTGCGTGTTTGTTGATG 3'(SEQ ID NO:10)
上記PCR増幅産物を高温で変性し、氷浴処理をした後、sscp電気泳動(プラスミドpK18-NCgl2176A528C増幅断片を陽性対照、YP97158増幅断片を陰性対照、水を空白対照とする)を行い、断片の構造が異なるので、電気泳動位置が異なり、このため、断片の電気泳動位置が陰性対照の断片位置と一致せず、かつ陽性対照断片の位置と一致する菌株は対立遺伝子置換に成功した菌株であった。プライマーP5とP6を用いて、再度PCRによって対立遺伝子置換に成功した菌株の目的断片を増幅し、PMD19-Tベクターに連結して、配列決定を行い、配列アラインメントの結果塩基配列が突然変異した配列は、菌株の対立遺伝子置換が成功したと検証し、YPL-4-011と命名された。
【0116】
実施例3 NCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子をゲノムで過剰発現させた改変菌株の構築
NCBIによる野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ゲノム配列に従って、上下流相同アーム断片、NCgl2176又はNCgl 2176A528C遺伝子コード領域及びプロモーター領域配列を増幅する3対のプライマーを設計して合成し、相同組換えによって菌株YP97158にNCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子を導入した。
プライマーは以下のように設計される(上海invitrogen公司より合成)。
P7:5'CAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAATGCGTTCTGGACTGAGG3'(SEQ ID NO:11)
P8:5'AACACCATTGTCCCTGTTTTGGGCGAAATTTTCCCGGTGCACCGAGAACAGATG3'(SEQ ID NO:12)
P9:5'CGGGAAAATTTCGCCCAAAACAGGGACAATGGTGTTATGGCATTTGCAGACATTGTGCGC3'(SEQ ID NO:13)
P10:5'CTTGATTTAATTGCGCCATCTCAGGCGAACGGCTTCGTCTCGTAG3'(SEQ ID NO:14)
P11:5'CTACGAGACGAAGCCGTTCGCCTGAGATGGCGCAATTAAATCAAG 3'(SEQ ID NO:15)
P12:5'CAGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCGCTATGACACCTTCAACGGATC 3'(SEQ ID NO:16)
構築方法:コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032又はYPL-4-011をそれぞれテンプレートとして、プライマーP7/P8、P9/P10、P11/P12のそれぞれでPCR増幅を行い、上流相同アーム断片約720bp、NCgl2176遺伝子及びそのプロモーター断片約1092bp、NCgl2176A528C遺伝子及びそのプロモーター断片約1092bp、並びに下流相同アーム断片約653bpを得た。次に、P7/P12をプライマーとして、以上で増幅させた3つの断片(上流相同アーム断片、NCgl2176遺伝子及びそのプロモーター断片、下流相同アーム断片、又は、上流相同アーム断片、NCgl2176A528C遺伝子及びそのプロモーター断片、下流相同アーム断片)を混合してテンプレートとして増幅を行い、組み込み相同アーム断片を得た。
PCR反応終了後、増幅させた産物を電気泳動して回収し、カラムDNAゲル回収キット(TIANGEN)で所望の約2504bpのDNA断片を回収し、NEBuider組換え系により、Xba Iで消化されて回収されたシャトルプラスミドPK18mobsacBに連結し、組み込みプラスミドPK18mobsacB-NCgl2176又はPK18mobsacB-NCgl2176A528Cをそれぞれ取得し、プラスミドには、カナマイシン耐性マーカーが含有されており、カナマイシンによるスクリーニングによって、プラスミドがゲノムに組み込まれた組換え体が得られた。
PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、120s伸長(30サイクル)、72℃、10min過剰伸長。
2つの組み込みプラスミドをそれぞれL-リジン生産菌の菌株YP97158にエレクトロコンバージョンし、培養により産生された単一コロニーをP13/P14プライマーでPCR同定を行い、PCRによりサイズ約1609bpの断片が増幅されたものを陽性菌株、断片が増幅されなかったものを原菌とした。陽性菌株を15%スクロースによるスクリーニングに供した後、それぞれカナマイシン含有培地及びカナマイシン不含培地で培養し、カナマイシン不含培地で成長しているが、カナマイシン含有培地で成長していない菌株をさらにP15/P16プライマーでPCR同定を行い、サイズ約1123bpが増幅された菌はNCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子がYP97158ゲノムに組み込まれた菌株であり、それぞれYPL-4-012(点突然変異無し)とYPL-4-013(点突然変異有り)と命名された。
P13:5'TCCAAGGAAGATACACGCC 3'(SEQ ID NO:17)
P14:5'CCTGAGCGGAATAGTCCTGTG3'(SEQ ID NO:18)
P15:5'ACGCACCCGTGTTCTACCT3'(SEQ ID NO:19)
P16:5'CGTTGGAATCTTGCGTTG 3'(SEQ ID NO:20)
【0117】
実施例4 NCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子をプラスミドで過剰発現させた改変菌株の構築
NCBIによる野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ゲノム配列に従って、NCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子コード領域及びプロモーター領域配列を増幅する1対のプライマーを設計して合成し、プライマーは以下のように設計される(上海invitrogen公司により合成)。
P17:5'GCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAGGATCCCCCGGGAAAATTTCGCCCAAAACAG3'(SEQ ID NO:21)
P18:5'ATCAGGCTGAAAATCTTCTCTCATCCGCCAAAACTCAGGCGAACGGCTTCGTCTCGTAG 3'(SEQ ID NO:22)
構築方法:野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032又はYPL-4-011をそれぞれテンプレートとして、プライマーP17/P18でPCR増幅を行い、NCgl2176又はNCgl2176A528C遺伝子及びそのプロモーター断片1140bpを得て、増幅させた産物を電気泳動して回収し、カラムDNAゲル回収キットで所望の1140bpのDNA断片を回収し、NEBuider組換え系により、EcoR I制限酵素で切断されて回収されたシャトルプラスミドpXMJ19に連結し、過剰発現プラスミドpXMJ19-NCgl2176又はpXMJ19-NCgl2176A528Cを得た。プラスミドにはクロラムフェニコール耐性マーカーが含有されており、クロラムフェニコールによるスクリーニングによって、プラスミドが形質転換された菌株が得られた。
PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、90s伸長(30サイクル)、72℃、 10min過剰伸長。
プラスミドをそれぞれL-リジン生産菌の菌株YP97158にエレクトロコンバージョンし、培養により産生された単一コロニーをM13R(-48)及びP18プライマーでPCR同定を行い、PCR増幅によりサイズ約1147bpの断片を含むものを導入菌株とし、それぞれYPL-4-014(点突然変異無し)とYPL-4-015(点突然変異有り)と命名した。
【0118】
実施例5 NCgl2176遺伝子をゲノムで欠損した改変菌株の構築
NCBIによるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノム配列に従って、NCgl2176遺伝子コード領域の両端の断片を増幅する2対のプライマーを合成して、上下流相同アーム断片とした。プライマーは以下のように設計される(上海英俊公司により合成)。
P19:5'CAGTGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGTCAAAGAGGGCGAGATAAT3'(SEQ ID NO:23)
P20:5'GTTCATGAGACACCCAGTAGGACGACCTACAGAATACTAGTCAGTG 3'(SEQ ID NO:24)
P21:5'CACTGACTAGTATTCTGTAGGTCGTCCTACTGGGTGTCTCATGAAC 3'(SEQ ID NO:25)
P22:5'CAGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCACCGCACGATGGTTCACT3'(SEQ ID NO:26)
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032をテンプレートとして、それぞれプライマーP19/P20及びP21/P22でPCR増幅を行い、上流相同アーム断片852bp及び下流相同アーム断片787bpを得て、次に、プライマーP19/P22でオーバーラップPCRを行い、完全な相同アーム断片1639を得て、PCR反応終了後、増幅させた産物を電気泳動して回収し、カラムDNAゲル回収キットで所望の1639bpのDNA断片を回収し、NEBuider組換え系によりXba I制限酵素で切断されて回収されたシャトルプラスミドpk18mobsacBプラスミドに連結し、ノックアウトプラスミドを得た。該プラスミドにはカナマイシン耐性マーカーが含有されている。
ノックアウトプラスミドをリジン生産菌株YP97158にエレクトロコンバージョンし、培養により産生された単一コロニーをそれぞれ下記プライマー(上海英俊公司により合成)によってPCR同定を行った。
P23:5'TCAAAGAGGGCGAGATAAT 3'(SEQ ID NO:27)
P24:5'ACCGCACGATGGTTCACT 3'(SEQ ID NO:28)
上記PCRによりサイズ1521bp及び2556bpのバンドが増幅された菌株は陽性菌株であり、2556bpバンドだけが増幅された菌株は原菌である。陽性菌株を15%スクロース培地でスクリーニングした後、それぞれカナマイシン含有培地及びカナマイシン不含培地で培養し、カナマイシン不含培地で成長しているが、カナマイシン含有培地で成長していない菌株をさらにP23/P24プライマーでPCR同定を行い、サイズ1521bpのバンドが増幅された菌株はNCgl2176遺伝子コード領域がノックアウトされた遺伝子改変菌株であり、YPL-4-016と命名された。
【0119】
実施例6 L-リジン発酵実験
実施例2~5で構築された菌株と原菌株YP97158とを、BLBIO-5GC-4-H型番の発酵槽(上海百崙生物科技有限公司より購入)にて、表1に示される培地及び表2に示される制御プロセスによって、発酵実験を行った。菌株ごとに3回繰り返して、結果を表3に示す。
表3に示す結果から、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいてNCgl2176遺伝子を過剰発現することや、NCgl2176遺伝子コード領域に対する点突然変異NCgl2176
A528C及び過剰発現は、L-リジン産生量の上昇に有利であり、一方、遺伝子の弱化又はノックアウトは、リジンの蓄積に不利である。
【0120】
実施例7 点突然変異dapB遺伝子プロモーター領域を含む形質転換ベクターpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)の構築
NCBIによるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032ゲノム配列に従って、dapB遺伝子プロモーター領域配列を増幅する2対のプライマーを設計して合成し、対立遺伝子置換によって菌株YP97158背景中のdapB遺伝子プロモーター領域(SEQ ID NO:29)に点突然変異を導入し、dapB遺伝子プロモーター領域のヌクレオチド配列の-49bp番目のCはAに変わり、-51bp発酵槽のGはTに変わり、-54--58bp CTGCAはGGTGT(SEQ ID NO:30)に変わった。
プライマーは以下のように設計される(上海invitrogen公司により合成)。
P1’:5' CCGGAATTCACCATGCCGGACATGCGGAC3'(EcoR I)(SEQ ID NO:31)
P2’:5'CCTTCTGAACGGGTTGTGGTATAATGGTGG 3'(SEQ ID NO:32)
P3’:5'CCACCATTATACCACAACCCGTTCAGAAGG 3'(SEQ ID NO:33)
P4’:5' ACATGCATGCGAATATTGACGTTGAGGAAG 3'(Sph I)(SEQ ID NO:34)。
構築方法:コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032をテンプレートとして、それぞれプライマーP1’とP2’、P3’とP4’でPCR増幅を行った。
PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、60s伸長、30サイクル、72℃、 10min過剰伸長。
点突然変異を有し、長さがそれぞれ665bp及び644bpの2本のDNA断片(dapB UpとdapB Down断片)を得た。上記2本のDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離精製した後、精製した2本のDNA断片をテンプレートとして、P1’とP4’をプライマーとして、Overlap PCRによって、長さ約1279bpの断片(Up-Down断片)を増幅した。
Overlap PCR系:10×Ex Taq Buffer 5μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、Mg2+(25mM)4μL、プライマー(10pM)各2μL、Ex Taq(5U/μL)0.25μL、全体積50μL。
前記Overlap PCR増幅は以下のように行われる。94℃、5min予備変性、94℃、30s変性、52℃、30sアニーリング、72℃、90s伸長、30サイクル、72℃、10min過剰伸長。
上記Up-Down断片をアガロースゲル電気泳動により分離精製し、該断片は、dapB遺伝子プロモーター領域及びその上下流配列を含み、断片の両端のそれぞれにEcoR IとSph I制限酵素切断部位を有する。このDNA断片によって、YP97158 dapB遺伝子プロモーター領域の-49bp番目のCはAに変わり、-51bp番目のGはTに変わり、-54~-58bp CTGCAはGGTGTに変わった。
断片を二重制限酵素切断(EcoR I/Sph I)に供した後、精製して回収し、同様に二重制限酵素切断(EcoR I/Sph I)を受けたシャトルプラスミドpK18mobsacB(Addgene公司より購入)に連結し、対立遺伝子置換プラスミドpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を得て、該プラスミドにはカナマイシン耐性マーカーが含有されている。ベクターpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を配列決定会社に送って配列決定同定を行い、正しい点突然変異を有するベクターpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を保管して、使用に備えた。
【0121】
実施例8 点突然変異pK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を含む改変菌株の構築
対立遺伝子置換プラスミドpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を電気ショックによりL-リジン生産菌株YP97158(配列決定の結果、該菌株の染色体には野生型dapB遺伝子プロモーターが保留されている)に形質転換し、培養により産生された単一コロニーをそれぞれプライマーP1’及びユニバーサルプライマーM13Fで同定し、サイズ1350bpのバンドが増幅された菌株は陽性菌株であった。陽性菌株を15%スクロース含有培地で培養し、培養により産生された単一コロニーをそれぞれカナマイシン含有培地及びカナマイシン不含培地で培養した。
カナマイシン不含培地で成長しているが、カナマイシン含有培地で成長していない菌株をさらに下記プライマー(上海invitrogen公司により合成)でPCR同定を行った。
P5’:5'AGATCGTCGGACTCATTGAC3'(SEQ ID NO:35)
P6’:5'CAAACATAGTTCCACCTGTG 3'(SEQ ID NO:36)
上記PCR増幅産物を高温で変性し、氷浴処理した後、SSCP電気泳動(プラスミドpK18-PdapB(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)増幅断片を陽性対照、YP97158増幅断片を陰性対照、水を空白対照とする)を行い、断片構造が異なるので、電気泳動位置が異なり、このため、断片の電気泳動位置が陰性対照断片の位置と一致せず、陽性対照断片の位置と一致する菌株は対立遺伝子置換に成功した菌株であった。次に、PCRによって陽性菌株の目的断片を増幅し、PMD19-Tベクターに連結して配列決定を行い、配列アラインメントの結果塩基配列が突然変異した配列は、菌株の対立遺伝子置換に成功したと検証し、YPL-4-010と命名された。
【0122】
実施例9 L-リジン発酵実験
実施例8で構築された菌株YPL-4-010及び原菌株YP97158を、BLBIO-5GC-4-H型番の発酵槽(上海百崙生物科技有限公司(bailun bio)より購入)にて、表1に示される培地及び表2に示される制御プロセスによって発酵実験を行った。菌株ごとに3回繰り返して、結果を表4に示す。
表4に示す結果から、コリネバクテリウム・グルタミカムにdapB遺伝子プロモーターの点突然変異したPdapB
(C(-49)A,G(-51)T,CTGCA(-54--58)GGTGT)を供することは、L-リジン産生量の上昇に有利である。
【0123】
以上は、本発明の実施形態を説明した。ただし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨及び原則を逸脱することなく行われる全ての修正、同等置換、改良などは本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【配列表】