(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 11/00 20060101AFI20250304BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
F02F11/00 E
F16J15/06 P
F16J15/06 H
F02F11/00 F
(21)【出願番号】P 2023103427
(22)【出願日】2023-06-23
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390033042
【氏名又は名称】ダイハツディーゼル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】星野 祐馬
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-066452(JP,A)
【文献】中国実用新案第205225474(CN,U)
【文献】特開2014-181678(JP,A)
【文献】特開平07-260004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00、 11/00
1/00- 1/42
7/00
F16J 15/00- 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドと、シリンダライナと、これらの間に配された平板リング状のガスケットとを有する内燃機関であって、
前記ガスケットが、
前記シリンダヘッドと前記シリンダライナとで厚さ方向両側から挟持される本体部と、
前記本体部から内径側に突出し、前記本体部よりも厚さ方向寸法が小さく、内径端が前記シリンダライナの外周面と
相対する突出部と、
を有し、
前記シリンダヘッドと前記シリンダライナとを固定した状態で、前記ガスケットの前記突出部の内径端と前記シリンダライナの外周面との間に半径方向の隙間が設けられた内燃機関。
【請求項2】
前記突出部の内径端が、前記シリンダライナの前記外周面の上端よりも下方に設けられた請求項1に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関し、特に、シリンダヘッドとシリンダライナとの間のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、ディーゼル機関のシール構造が示されている。具体的には、
図4に示すように、シリンダヘッド101とシリンダライナ103とでガスケット102を厚さ方向(図中上下方向)両側から挟持することにより、シリンダヘッド101とシリンダライナ103との間の隙間からの燃焼ガスの漏れ出しを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のディーゼル機関では、シリンダライナ103の上面の外周部103aを内周部103bよりも一段下げ、この外周部103aにガスケット102を配している。そして、シリンダライナ103の上面の外周部103aと内周部103bとの間の段差(外周面103c)に、平板リング状のガスケット102の内周面を嵌合させることで、ガスケット102がシリンダライナ103に対して位置決めされる。
【0005】
上記のようなディーゼル機関において、燃焼ガスのシール性を高めるためには、ガスケット102とシリンダヘッド101及びシリンダライナ103との面圧を高めることが有効である。例えば、
図5に示すようにガスケット102の内径を
図4よりも拡大すると、ガスケット102とシリンダヘッド101及びシリンダライナ103との接触面積が減少するため、ガスケット102に加わる面圧が上昇してシール性が高められる。しかし、この場合、ガスケット102の内周面102aとシリンダライナ103の外周面103cとの間の半径方向隙間δ1が大きくなるため、ガスケット102の位置決め精度が低下してシール性が悪化する恐れがある。
【0006】
また、
図6に示すように、ガスケット102の外径を
図4よりも縮小した場合も、上記と同様に、ガスケット102に加わる面圧が上昇してシール性が高められるが、以下のような不具合が生じる。シリンダヘッド101は、シリンダライナ103やその外周に設けられたエンジンフレーム104と上下方向で当接しておらず、シリンダヘッド101とエンジンフレーム104とをボルトで締め付けることにより、シリンダヘッド101とシリンダライナ103との間に配したガスケット102を挟持している(
図6では、ボルトの図示を省略し、ボルトの締め付けで生じる軸力Fのみを示している。)。この場合、ガスケット102の外径を縮小すると、シリンダヘッド101のうち、ガスケット102と接触する領域(ガスケット102の外周面102b)と、ボルトによる軸力Fが加わる領域との半径方向距離δ2が広がるため、シリンダヘッド101に点線で示すような撓みが生じやすくなる。
【0007】
そこで、本発明は、ガスケットに加わる面圧を高めてシール性を向上させると共に、ガスケットとシリンダライナとを精度良く位置決めすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、シリンダヘッドと、シリンダライナと、これらの間に配された平板リング状のガスケットとを有する内燃機関であって、
前記ガスケットが、前記シリンダヘッドと前記シリンダライナとで厚さ方向両側から挟持される本体部と、前記本体部から内径側に突出し、前記本体部よりも厚さ方向寸法が小さく、内径端が前記シリンダライナの外周面と嵌合する突出部とを有する内燃機関を提供する。
【0009】
上記のガスケットのうち、本体部はシリンダヘッドとガスケットとで挟持されるが、突出部は本体部よりも厚さ方向寸法が小さいため、シリンダヘッドとガスケットとで挟持されない。この場合、ガスケットの半径方向全域をシリンダヘッドとシリンダライナとで挟持する場合と比べて、突出部を設けた分だけガスケットとシリンダヘッド及びシリンダライナとの接触面積が減じられるため、ガスケットに加わる面圧が上昇する。また、ガスケットの突出部の内径端をシリンダライナの外周面と嵌合させることで、ガスケットをシリンダライナに対して精度良く位置決めすることができる。
【0010】
ガスケットの突出部の内径端は、シリンダライナの外周面の上端よりも下方に設けることが好ましい。これにより、突出部の内径端をシリンダライナの外周面と確実に嵌合させて、ガスケットをシリンダライナに対して確実に位置決めすることができる。
【0011】
ガスケットの突出部の上面とシリンダヘッドの下面との間の隙間に、燃焼室に供給された燃料が滞留すると、ガスケットの早期の劣化を招く恐れがある。そこで、ガスケットの突出部は、本体部の上端から下方に離間した領域に設けることが好ましい。この場合、突出部の上面とシリンダヘッドの下面との間に比較的広い隙間が形成されるため、この隙間に、燃焼室に供給された燃料が滞留しにくくなり、ガスケットの早期の劣化を防止できる。
【0012】
上記の内燃機関では、シリンダヘッド又はシリンダライナに環状溝を設けることが好ましい。この場合、シリンダヘッドとシリンダライナでガスケットを挟持したときの圧迫力で、ガスケットの材料が塑性流動して、ガスケットに、上記の環状溝に入り込んだ凸部が形成される。これにより、シリンダヘッド又はシリンダライナとガスケットとの接触部におけるシール性が高められる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、ガスケットに加わる面圧を高めてシール性を向上させると共に、ガスケットとシリンダライナとを精度よく位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関(ディーゼルエンジン)の断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る内燃機関のガスケット付近の拡大断面図である。
【
図5】
図4の内燃機関のガスケットの内径を拡大した場合を示す断面図である。
【
図6】
図4の内燃機関のガスケットの外径を縮小した場合を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る内燃機関としてのディーゼルエンジン(例えば、舶用ディーゼルエンジン)を示す。このディーゼルエンジンは、シリンダヘッド1と、シリンダライナ2と、エンジンフレーム3と、燃料供給部(図示省略)とを有する。このディーゼルエンジンは、シリンダヘッド1、シリンダライナ2、及びピストン4で形成される燃焼室5に空気を供給する吸気工程と、ピストン4の上昇により燃焼室5内の空気を圧縮する圧縮工程と、圧縮された空気に燃料供給部から液体燃料(例えば重油)を噴射して着火させる爆発工程と、燃焼室5から燃焼後の排ガスを排出する排気工程とを繰り返すことで運転される。尚、本明細書では、説明の便宜上、ピストン4の移動方向(
図1の上下方向)で、シリンダヘッド1側を上方、その反対側を下方と言う。本実施形態のディーゼルエンジンは、ピストン4の移動方向が鉛直方向となるように設置される。
【0017】
シリンダライナ2は、エンジンフレーム3の内周に取り付けられる。シリンダライナ2の外周面に設けられた段部2aと、エンジンフレーム3の内周面に設けられた段部3aとを当接させることで、両者が上下方向で位置決めされる。
【0018】
シリンダヘッド1とシリンダライナ2との間には、円形の平板リング状のガスケット10が配される。ガスケット10は、例えば金属で形成され、具体的にはSPCC材等の炭素鋼で形成される。本実施形態では、シリンダライナ2の上面の外周部に設けられた外側環状領域2bを、内周部に設けられた内側環状領域2cよりも一段下げて設け、この外側環状領域2bにガスケット10を配している。外側環状領域2b及び内側環状領域2cは、何れも上下方向と直交する平坦面である。
【0019】
図2に示すように、ガスケット10は、本体部11と、本体部11から内径側に突出した突出部12とを一体に有する。本体部11は、断面矩形の平板リング状をなしている。本体部11の上面11a(後述する凸部11eを除く領域)及び下面11bは平坦面である。本体部11の内周面11c(突出部12を除く領域)及び外周面11dは円筒面である。本体部11の厚さt(上面11aと下面11bとの距離)は、シリンダライナ2の上面の外側環状領域2bと内側環状領域2cとの上下方向距離dよりも大きい。
【0020】
突出部12は、本体部11の内周面の全周に連続したリング状を成している。図示例の突出部12は、断面矩形を成している。突出部12の厚さ方向寸法(上下方向寸法)t2は、本体部11の厚さt1よりも小さい。突出部12は、本体部11の上端から下方に離間した領域に設けられる。図示例では、突出部12が、本体部11の上端及び下端を除く厚さ方向中間部に設けられ、特に、本体部11の厚さ方向中央に設けられる。突出部12の内径端に設けられた円筒状内周面12aは、シリンダライナ2の外周面2dの上端よりも下方に設けられ、すなわち、シリンダライナ2の上面の内側環状領域2cよりも下方に設けられる。図示例では、突出部12の上面12bが、シリンダライナ2の外周面2dの上端と同じ高さに設けられ、内側環状領域2cと同一平面上に設けられる。
【0021】
シリンダヘッド1の下面1aのうち、ガスケット10の本体部11と上下方向で対向する領域には、環状溝1bが形成されている。環状溝1bは、例えば複数設けられ、図示例では半径方向に離間した2箇所に設けられる。図示例の環状溝1bは、断面V字形状を成している。この他、環状溝1bの断面形状を、矩形や半円形としてもよい。
【0022】
シリンダヘッド1とシリンダライナ2との組み付けは、以下のような手順で行われる。
【0023】
まず、エンジンフレーム3の内周にシリンダライナ2を上方から挿入し、エンジンフレーム3の段部3aにシリンダライナ2の段部2aを上方から当接させる。その後、シリンダライナ2の上面の外側環状領域2bに、ガスケット10を配置する。本実施形態のガスケット10は、突出部12が本体部11の厚さ方向中央に設けられている。また、シリンダヘッド1とシリンダライナ2とでガスケット10を挟持する前の状態では、ガスケット10の本体部11の上面11aは凸部11eの無い平坦面である。従って、ガスケット10は、厚さ方向中央に関して対称な形状を成しているため、上下の向きを気にすることなくシリンダライン2の上面の外側環状領域2bに配置することができる。
【0024】
このとき、ガスケット10の内径端、すなわち、突出部12の円筒状内周面12aを、シリンダライナ2の外周面2dと嵌合させることにより、ガスケット10をシリンダライナ2に対して半径方向で精度よく位置決め(芯だし)することができる。図示例では、ガスケット10の突出部12の円筒状内周面12aが、シリンダライナ2の外周面2dの上端よりも下方、すなわち、シリンダライナ2の上面の内側環状領域2cよりも下方に設けられているため、突出部12の円筒状内周面12aとシリンダライナ2の外周面2dとを確実に嵌合させて、ガスケット10を確実に位置決めすることができる。このとき、ガスケット10の円筒状内周面12aとシリンダライナ2の外周面2dとは、僅かな半径方向隙間を介して嵌合している。
【0025】
次に、シリンダヘッド1をシリンダライナ2及びエンジンフレーム3の上部に取り付ける。具体的に、シリンダヘッド1の内周面1cと、これと半径方向に対向するシリンダライナ2の外周面2eとを嵌合させて両者を半径方向で位置決めする。この状態で、シリンダライナ2の上面の外側環状領域2bに配されたガスケット10の上に、シリンダヘッド1を載置する。そして、シリンダヘッド1とエンジンフレーム3とをボルト20(
図1参照)で締め付けることにより、シリンダライナ2の段部2aとエンジンフレーム3の段部3aとの当接部を介して、シリンダライナ2の上面の外側環状領域2bとシリンダヘッド1の下面1aとでガスケット10の本体部11を厚さ方向(上下方向)両側から挟持、圧迫する。
【0026】
このとき、ガスケット10の突出部12は、本体部11よりも厚さ方向寸法が小さいため、シリンダヘッド1とシリンダライナ2とで挟持されず、これらと非接触とされる。この場合、ガスケット10全体をシリンダヘッド1及びシリンダライナ2で挟持する場合と比べて、ガスケット10とシリンダヘッド1及びシリンダライナ2との接触面積が小さいため、ガスケット10に加わる面圧が大きくなり、シール性が高められる。
【0027】
上記のように、シリンダヘッド1とエンジンフレーム3とでガスケット10を厚さ方向両側から圧迫すると、ガスケット10が塑性変形して、厚さ方向寸法が若干小さくなると共に、半径方向寸法が若干大きくなる。本実施形態では、ボルト20でシリンダヘッド1をシリンダライナ2及びエンジンフレーム3に固定した状態で、シリンダヘッド1とシリンダライナ2及びエンジンフレーム3との間の上下方向隙間や、ガスケット10の内径端(突出部12の円筒状内周面12a)とシリンダライナ2の外周面2dとの間の半径方向隙間が残っている。
【0028】
また、シリンダヘッド1とシリンダライナ2でガスケット10を厚さ方向両側から挟持したときの圧迫力により、ガスケット10の材料が塑性流動して、本体部11の上面11aに、環状溝1bに入り込んだ凸部11eが形成される。これにより、ガスケット10の本体部11の上面11aとシリンダヘッド1の下面1aとの間のシール性が高められる。
【0029】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0030】
図3に示す実施形態では、ガスケット10の突出部12が、内径側に行くほど厚さ方向寸法が小さい先細り形状をなしている。具体的に、突出部12の上面12bが、本体部11の上面11aと突出部12の内周面12aとを接続するテーパ面であり、突出部12の下面12cが、本体部11の下面11bと突出部12の内周面12aとを接続するテーパ面である。この場合でも、突出部12はシリンダヘッド1とシリンダライナ2とで挟持されないため、
図2に示す実施形態と同様に、ガスケット10とシリンダヘッド1及びシリンダライナ2との面圧を高めると共に、突出部12の内周面12aをシリンダライナ2の外周面2dに嵌合させてガスケット10を位置決めすることができる。
【0031】
しかし、
図3の実施形態では、突出部12の上面12bとシリンダヘッド1の下面1aとの間に、外径側に行くほど幅が狭くなった断面楔状の隙間S2が設けられる。この場合、燃焼室5に供給された燃料Gが、楔状の隙間S2の外径端(幅狭部)に溜まりやすいため、滞留した燃料Gによりガスケット10が劣化し、シール性を悪化させることが懸念される。
【0032】
これに対し、
図2に示す実施形態では、ガスケット10の突出部12が本体部11の上端から下方に離間した領域に設けられている。この場合、突出部12の上面12bとシリンダヘッド1の下面1aとの間に形成される隙間S1は、
図3のような断面楔状の隙間S1と比べて幅が広くなっている。特に、図示例では、ガスケット10の本体部11の上面11aと突出部12の上面12bとの間に、本体部11の円筒状内周面11cが設けられているため、隙間S1の外径端の幅が広くなっており、具体的には隙間S1が断面矩形状を成している。これにより、上記の隙間S1に燃料が溜まりにくくなり、ガスケット10の劣化を防止できる。
【0033】
以上の実施形態では、シリンダヘッド1の下面1aに環状溝1bを設けると共に、ガスケット10に環状溝1bに入り込んだ凸部を設けた場合を示したが、これに代えて、あるいはこれに加えて、シリンダライナ2の上面に環状溝を設けると共に、ガスケット10にこの環状溝に入り込んだ凸部を設けてもよい。また、このような環状溝が不要であれば、シリンダヘッド1の下面1a及びシリンダライナ2の上面のうち、ガスケット10の本体部11と対向する領域を、環状溝のない平坦面としてもよい。
【0034】
以上の実施形態では、ガスケット10の突出部12が全周で連続した環状を成しているが、これに限らず、周方向に離間した複数箇所に突出部12を設けてもよい。また、上記の実施形態では、突出部12の断面が矩形や台形を成しているが、突出部の断面形状はこれらに限らず、例えば半円形や三角形としてもよい。
【0035】
本発明は、液体燃料(重油)を用いたディーゼルエンジンに限らず、ガス燃料(LNG)を用いたガスエンジンや、液体燃料とガス燃料を選択的に使用可能なデュアルフューエルエンジン等に適用することもできる。また、本発明は、舶用の内燃機関に限らず、例えば、陸上で用いられる発電用の内燃機関に適用することもできる。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダヘッド
1b 環状溝
2 シリンダライナ
3 エンジンフレーム
4 ピストン
5 燃焼室
10 ガスケット
11 本体部
11e 凸部
12 突出部
20 ボルト