(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20250304BHJP
H02M 9/02 20060101ALI20250304BHJP
H03K 9/08 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M9/02
H03K9/08 Z
(21)【出願番号】P 2024153887
(22)【出願日】2024-09-06
【審査請求日】2024-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】國玉 博史
(72)【発明者】
【氏名】安達 俊幸
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特許第7545608(JP,B1)
【文献】特許第7514462(JP,B1)
【文献】特開2022-154707(JP,A)
【文献】特表2016-500132(JP,A)
【文献】特許第7545607(JP,B1)
【文献】特許第7214046(JP,B2)
【文献】特許第6181792(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H03K 9/08
H02M 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧の第1電圧を生成する第1直流電源と、
2つの電圧間を結ぶ直線波形を複数用いて任意波形電圧を生成する任意波形電圧発生部と、
接地電位と前記任意波形電圧との切り替えによりパルス波形を生成し、前記パルス波形を所定周期で繰り返してパルスを出力するスイッチ部と、
を備え
、
前記任意波形電圧は、前記パルスの印加フェーズにおける出力電圧であり、
前記印加フェーズ
は、前記接地電位から前記第1電圧
に立ち下がる第1の印加区間と、前記第1電圧から折線波形電圧の終端電圧に前記第1電圧をバイアスした電圧である
第2電圧までの第2の印加区間と、で構成され、
前記任意波形電圧発生部は、
インバータ制御により、接地電位を始点として電圧変化率dV/dtを異にする複数の直線波形電圧が連結された折線波形電圧を生成し、
前記第2の印加区間における折線波形電圧と前記第1電圧とを重畳して任意波形電圧を生成する、
パルス電源装置。
【請求項2】
前記任意波形電圧発生部は、
第2直流電源と、
前記第2直流電源の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、
前記第1直流電源の出力と前記整流回路の出力とを重畳する電圧重畳回路と、
を備え、
前記インバータ回路は、直流交流電圧変換において、前記印加フェーズの時間幅、前記折線波形電圧の直線波形電圧を切り替える屈折点、各直線波形電圧の電圧変化率dV/dt、又は屈折点の電圧を調整し、
前記整流回路は、前記インバータ回路の出力を整流して折線波形電圧を生成し、
前記電圧重畳回路は、前記第1直流電源の出力の前記第1電圧と前記整流回路の出力の折線波形電圧とを電圧重畳し、前記第1直流電源の前記第1電圧を始点電圧とし、電圧変化率dV/dtを異にする複数の直線波形電圧が前記屈折点で切り替わって連結する任意波形電圧を生成する、
請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記インバータ回路を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記印加フェーズの時間幅、前記折線波形電圧の直線波形電圧を切り替える屈折点間の時間、及び各直線波形電圧の電圧変化率dV/dt、又は屈折点の電圧を定める制御値を備え、前記制御値に基づいてインバータ制御を行い、複数の直線波形電圧が連結してなる折線波形電圧を生成する、
請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項4】
前記インバータ回路を制御する制御部を備え、
前記制御部は、電源出力Vout、及び/又は出力電流Ioutをフィードバックし、電源出力Vout又は出力電流Ioutを一定値とする、前記印加フェーズの時間幅、前記折線波形電圧の直線波形電圧を切り替える屈折点の時間及び電圧、及び各直線波形電圧を定めるデューティ比の制御値を求め、
前記制御値に基づいてインバータ制御を行い、複数の直線波形電圧が連結してなる折線波形電圧を生成する、
請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項5】
前記電圧重畳回路は、前記整流回路に設けられ、
前記第1直流電源の出力端は、前記整流回路の一方の出力端に接続される、
請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項6】
前記インバータ回路と前記整流回路との間に変圧器を備え、
前記電圧重畳回路は前記変圧器に設けられ、
前記第1直流電源の出力端は、前記変圧器の二次側の一方の端部に接続される、
請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項7】
前記制御部は、屈折点間の時間が前記屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、前記電圧変化率dV/dtの制御値を直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する、
請求項3に記載のパルス電源装置。
【請求項8】
前記制御部は、屈折点間の時間が前記屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、当該時点及び次の時点の屈折点の電圧の制御値、及び屈折点間の時間の制御値に基づいて定まる傾きを直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する、
請求項3に記載のパルス電源装置。
【請求項9】
前記制御部は、屈折点間の時間が前記屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、当該時点の屈折点の電圧の制御値、及び当該時点の出力電圧の検出値の比較による電圧変動の判定に基づき、
電圧変動の判定時に、当該時点の出力電圧の検出値、及び次の時点の屈折点の電圧の制御値に基づいて定まる傾きを直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する、
請求項3に記載のパルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の傾斜で電圧が変化する任意波形を含むパルス出力を生成するパルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電源装置が生成するパルス出力は、成膜処理やエッチング処理等のプラズマ処理に用いられる他、プラズマ処理に限らず種々の産業用装置に適用することができる。例えば、半導体デバイスのエッチング処理において、導体をプラズマ処理する際に基板の表面全体にわたって実質的に均一な負電圧を生成するために、接地に対して負の電圧が基板に印加される。
【0003】
プラズマエッチングや堆積の処理において、エッチングフェーズでの広い負のパルスと、放電フェーズでの短い正のパルスとを備えるパルス波形のバイアスが使用されることが知られている。
【0004】
エッチングや堆積フェーズにおいて、誘電体基板へのイオン堆積効果を補償するためにパルス波形のバイアスを適用されることが知られている。パルス波形は、エッチングや堆積フェーズでの基盤電位の上昇を補償するために減少する負の電圧勾配と、放電フェーズでの電荷バイアスを維持するために電子を引き付けるための正の電圧パルスで構成される。スイッチモード電源に電流源などのイオン電流補償を組み込むことによって負の電圧勾配を生成する構成が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7214046号公報
【文献】特許第6181792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板電圧を一定電圧に維持するイオン電流を供給するには、所定の負の電圧勾配の設定が求められる。上記した従来のパルス電源装置は、負の電圧勾配とイオン電流との間は所定の関数で関係付けられていることから、負の電圧勾配を実現するために電流源などのイオン電流補償電流源が用いられる。
【0007】
しかしながら、高抵抗を備える電流源では、分布容量の影響を受けて電流源を構成する回路の時定数が大きくなり、高速応答性が低いという課題がある。この高速応答性の課題は、高周波のパルス周波数ではより顕著となる。
【0008】
電流源には、上記した高速応答性の課題の他に考慮すべき点がある。一般に、電流源は内部抵抗や温度変動の影響を受けるため温度補償やフィードバック補償が必要となり、パルス電源装置の構成要素のコストが上昇する要因となる。上記したように、電流源を用いた高周波のパルスを出力するパルス電源装置では、電流源を用いることによる高速応答性やコスト等の課題がある。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題を解決し、電流源を用いることなく負の電圧勾配を得ることができる任意波形電圧発生部を備えたパルス電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパルス電源装置は、一定電圧の直流電圧と折線波形電圧とを重畳することにより複数の所定の電圧勾配を有した任意波形のパルスを生成する。折線波形電圧は接地電位から複数の所定の電圧変化率dV/dtで時間変化する複数の直線波形電圧が連結される折線波形電圧を有している。本発明のパルス電源装置は、この折線波形電圧をインバータ制御で生成し、直流電圧と折線波形電圧とを重畳して任意波形電圧を生成し、任意波形電圧からパルス波形を生成することにより、電流源を用いることなく任意の電圧勾配を有したパルスを生成する。
【0011】
本発明のパルス電源装置は、直流電圧の第1電圧を生成する第1直流電源と、2つの電圧間を結ぶ直線波形を複数用いて任意波形の電圧を生成する任意波形電圧発生部と、接地電位と任意波形電圧との切り替えによりパルス波形を生成し、パルス波形を所定周期で繰り返してパルスを出力するスイッチ部とを備える。
【0012】
スイッチ部は、負荷側に周期パルスを印加する印加フェーズと負荷側に蓄積された電荷を放電する放電フェーズをスイッチング動作によって順に繰り返すパルス周期の電流を負荷に供給する。
【0013】
任意波形電圧発生部は、インバータ制御により接地電位を始点として電圧変化率dV/dtを異にする複数の直線波形電圧が連結された折線波形電圧を生成し、生成した折線波形電圧と第1直流電源の第1電圧とを重畳して任意波形電圧を生成する。
【0014】
任意波形電圧は、スイッチ部のパルス周期の印加フェーズで出力されるパルスの出力電圧であり、印加フェーズの開始時の電圧を第1電圧とし、印加フェーズの終了時の電圧を折線波形電圧の終端電圧に第1電圧をバイアスした電圧である。
【0015】
任意波形電圧発生部は、第2直流電源と、第2直流電源の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、第1直流電源の出力と前記整流回路の出力とを重畳する電圧重畳回路を備える。
【0016】
インバータ回路は、直流交流電圧変換を行うインバータ制御において、
(a)印加フェーズの時間幅、
(b)折線波形電圧の直線波形電圧が切り替わる屈折点、及び
(c1)折線波形電圧の各直線波形電圧の電圧変化率dV/dt、又は
(c2)屈折点の電圧
を調整して、任意波形電圧を生成する。
【0017】
出力パルス周期Tの印加フェーズの時間幅(Ton)を調整することにより、パルス出力の時間幅が調整される。
【0018】
屈折点は、折線波形電圧を形成している複数の直線波形電圧が連結される点であり、この屈折点の前後の直線波形電圧は異なる電圧変化率dV/dtを有している。屈折点は、隣接する直線波形同士は連結されているため、屈折点間の時間、印加フェーズの始点電圧、及び各直線波形電圧の電圧変化率dV/dtによって特定することができる。
【0019】
また、屈折点の前後で隣接する直線波形電圧の連結点での端部電圧は一致しているおり、屈折点は、印加フェーズの始点電圧が特定されればため、一端の端部電圧によって特定することができる。
【0020】
課題の項で示したように、基板の表面全体にわたって実質的に均一な負電圧を生成する要請があるが、印加フェーズの期間において、電源出力Vout又は出力電流Ioutは必ず一定とは限らず、負荷状態等によって変化することがある。そのため、基板電圧を一定電圧に維持するイオン電流を供給するために、電源出力Voutや出力電流Ioutに応じて所定の負の電圧勾配の設定が求められる。
【0021】
このような課題に対して、本発明は、異なる電圧変化率dV/dtを備えた複数の直線波形電圧を連結した折線波形電圧により任意波形電圧を形成し、この任意波形電圧に基づいて出力を負荷に供給し、これによって電源出力Vout又は出力電流Ioutを一定値に維持し、基板の表面全体にわたって実質的に均一な負電圧を付加する。
【0022】
整流回路は、前記インバータ回路の出力を整流して折線波形電圧を生成する。また、電圧重畳回路は、第1直流電源の出力の前記第1電圧と整流回路の出力の折線波形電圧とを電圧重畳し、第1直流電源の前記第1電圧を始点電圧とし、電圧変化率dV/dtを異にする複数の直線波形電圧が、屈折点で切り替わって連結する任意波形電圧を生成する。
【0023】
更に、インバータ回路を制御する制御部を備え、予め定めておいた制御値に基づいてインバータ制御を行う。そして、制御部は、インバータ制御における制御パラメータとして、以下の各値を定める制御値を備える。
(a)印加フェーズの時間幅、
(b)折線波形電圧の直線波形電圧を切り替える屈折点間の時間、及び
(c1)各直線波形電圧の電圧変化率dV/dt、又は
(c2)屈折点の電圧
【0024】
負荷の時間変化が予測できる場合には、制御パラメータを予め想定あるいは測定して取得しておき、制御パラメータあるいは制御パラメータに基づく制御値を記憶手段等に格納しておくことにより、必要に応じて読み出してインバータ制御を行うことができる。制御部は、これらの制御パラメータについて制御値に基づいてインバータ制御を行い、複数の直線波形電圧が連結してなる折線波形電圧を生成する。
【0025】
折線波形電圧は、制御値に基づく設定を、複数の設定態様で行うことができる。
【0026】
(設定態様1)
制御部は、屈折点間の時間が屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、電圧変化率dV/dtの制御値を直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する。
【0027】
(設定態様2)
制御部は、屈折点間の時間が屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、その時点と次の時点の屈折点の電圧の制御値、及び屈折点間の時間の制御値に基づいて定まる傾きを直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する。
【0028】
(設定態様3)
制御部は、屈折点間の時間が屈折点間の時間の制御値に達した各時点において、その時点の屈折点の電圧の制御値とその時点の出力電圧の検出値の比較により電圧変動を判定し、電圧変動が判定された時に、その時点の出力電圧の検出値と次の時点の屈折点の電圧の制御値に基づいて定まる傾きを直線波形電圧の傾きとし、折線波形電圧の直線波形電圧を順次切り替え折線波形電圧を生成する。
【0029】
電圧重畳回路は、整流回路で整流された折線波形電圧と第1直流電源の第1電圧とを電圧重畳して任意波形電圧を生成する。
【0030】
整流回路から出力される折線波形電圧は、直線状に電圧が時間変化する直線波形電圧が複数連結された電圧波形を呈するが、印加フェーズの始点となる電圧は接地電位であり、接地電位から電圧が時間変化する。任意波形電圧は、折線波形電圧に第1電圧が電圧重畳されることにより、第1電圧を始点電圧として所定の電圧変化率dV/dtで直線状に時間変化する直線波形電圧と、屈折点で切り替えられる電圧変化率dV/dtを異にする別の直線波形電圧とで形成される。負荷状態等の変動による電源出力Vout又は出力電流Ioutの変化に応じて、連結する各直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを制御することによって、電源出力Vout又は出力電流Ioutを一定とし、基板電圧を一定電圧に維持するイオン電流を供給する。
【0031】
スイッチ部は、当該スイッチ部におけるパルス生成の開始を任意波形電圧発生部の出力の開始と同期させ、接地電位の0Vと任意波形電圧発生部で生成した任意波形電圧とを切り替えてパルス波形を生成する。生成されたパルス波形は、電位が接地電位である第1の区間と、第1電圧から所定の電圧変化率dV/dtで直線状に時間変化する複数の直線波形電圧が連結してなる折線波形電圧の第2の区間とを有する。第1の区間の0Vと第2区間の始点の第1電圧とは、第1電圧分の電位差を有することになる。
【0032】
任意波形電圧の始点の電圧は、第1直流電源の第1電圧で定まり、任意波形電圧の終点の電圧は、折線波形電圧の電圧変化率dV/dtと折線波形電圧の第2の区間の時間幅で定まる。
【0033】
スイッチ部は、任意波形電圧から生成したパルス波形を1パルスとし、このパルス波形を所定周期で繰り返して周期パルスを出力する。1パルスの時間幅は、第1の区間の時間幅と第2の区間の時間幅を加算した値であり、パルス周期に応じて定まる。
【0034】
負極性の任意波形電圧の場合には、スイッチ部は、0Vの第1の区間と負の第1電圧から折線波形電圧で時間変化する任意波形電圧の第2の区間との2つの電圧区間からなる電圧波形を1パルスとする周期パルスが出力される。
【0035】
本発明の任意波形電圧発生部において、電圧重畳回路の配置位置を複数の形態で構成することができる。
【0036】
(第1の形態):
第1の形態の電圧重畳回路は整流回路に配置される。一例として、整流回路の一方の出力端に第1直流電源の出力端が接続される構成がある。
【0037】
(第2の形態):
第2の形態のインバータ回路と整流回路との間に変圧器を備え、電圧重畳回路はこの変圧器に配置され、第1直流電源の出力端は、変圧器の二次側の一方の端部に接続される。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明のパルス電源装置によれば、電流源を用いることなく所定の電圧勾配を得ることができる任意波形電圧発生部を備えることにより高速応答性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明のパルス電源装置の概略構成を説明するための図である。
【
図2】本発明のパルス電源装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図3A】折線波形電圧の波形例を説明するための図である。
【
図3B】折線波形電圧の波形例を説明するための図である。
【
図4】折線波形電圧の設定例1を説明するためのフローチャートである。
【
図5】折線波形電圧の設定例2を説明するためのフローチャートである。
【
図6A】本発明のパルス電源装置の放電フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図6B】本発明のパルス電源装置の放電フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図7A】本発明のパルス電源装置の印加フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図7B】本発明のパルス電源装置の印加フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図8】本発明の任意波形電圧発生部の第1の構成例の概略構成図である。
【
図9】本発明の任意波形電圧発生部の第1の構成例のタイミングチャートである。
【
図10】本発明の任意波形電圧発生部の第2の構成例の概略構成図である。
【
図11】本発明の任意波形電圧発生部の第2の構成例のタイミングチャートである。
【
図12A】本発明の電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【
図12B】本発明の電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【
図13】本発明の平滑回路を説明するための図である。
【
図14】本発明の平滑回路を備える第1の形態例を説明するための図である。
【
図15】本発明の平滑回路を備える第2の形態例を説明するための図である。
【
図16A】本発明の平滑回路の波形例を示す図である。
【
図16B】本発明の平滑回路の波形例を示す図である。
【
図17】本発明のパルス電源装置の負荷がプラズマ負荷の例を説明するための図である。
【
図18】スイッチ駆動信号、電源出力Vout、及び出力電流Ioutの一例を示す図である。
【
図19】ウェハー電圧Vsh、電源出力Vout、及びイオン電流Ipを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(1)本発明のパルス電源装置の概略構成及び動作例
以下、本発明のパルス電源装置の概略構成及び動作例について
図1~
図6を用いて説明する。
【0041】
パルス電源装置1は、電源部10とスイッチ部13と制御部15とを備える。電源部10は、一定電圧の第1電圧を生成する第1直流電源11を第1電源とし、任意波形電圧を生成する任意波形電圧発生部12を第2電源として備える。
【0042】
任意波形電圧発生部12は、接地電位を始点として、所定の電圧変化率dV/dtで電圧が変化する複数の直線波形電圧が連結されてなる折線波形電圧Vlineを生成し、この折線波形電圧Vlineに第1直流電源11の第1電圧を重畳させることによって、第1電圧を始点として、所定の電圧変化率dV/dtで電圧が変化する任意波形電圧を生成し、任意波形電圧出力Voptのパルスを出力する。
【0043】
スイッチ部13は、スイッチング動作によって負荷側に蓄積された電荷を放電する放電フェーズと負荷側に周期パルスを印加する印加フェーズとを順に繰り返し、負荷に対して電流を供給する。スイッチ部13は、印加フェーズにおいて任意波形電圧出力Voptのパルスを負荷に出力するためのパルススイッチ部13aと、負荷に蓄積された電荷を放電するための放電回路13bとを備える。パルススイッチ部13a及び放電回路13bのスイッチング動作は、制御部15によって制御される。
【0044】
印加フェーズでは、スイッチ部13は、任意波形電圧発生部12で生成された任意波形電圧を周期パルスの1パルス波形として負荷に印加する。放電フェーズでは、負荷側に蓄積された電荷が放電されてスイッチ部13の出力は0Vとなるため、印加フェーズの開始時点でのスイッチ部13の出力は、0Vから第1電圧に変化する。スイッチ部13から出力されたパルス出力は、電源出力として負荷21に供給される。
【0045】
パルス電源装置1は、平滑回路を備えた構成としてもよい。平滑回路の形態としては、任意波形電圧発生部12の出力端に平滑回路が接続される第1の形態と、スイッチ部13のパルススイッチ部13aの出力端に平滑回路が接続される第2の形態と、がある。第1の形態による平滑回路は、任意波形電圧発生部の出力に含まれるノイズ分を抑制する。第2の形態による平滑回路は、スイッチ部13において放電フェーズと印加フェーズとの間の電圧変化に伴って生じるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。なお、
図1では、平滑回路は示していない。
【0046】
制御部15は、任意波形電圧発生部12及びスイッチ部13を制御する。この際、任意波形電圧発生部12の任意波形電圧出力Voptの出力制御、及びスイッチ部13のパルス制御が同期して行われる。
【0047】
図2は、本発明のパルス電源装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。電源部10は、第1直流電源11の第1電源と、任意波形電圧発生部12の第2電源を備える。第1電源の第1直流電源11は、一定電圧の第1電圧V1を出力生成する。第2電源の任意波形電圧発生部12は、接地電位を始点として所定の電圧変化率dV/dtで電圧が変化する折線波形電圧Vlineを生成し、この折線波形電圧Vlineに第1電圧V1を重畳させて台形波形電圧を生成する。
【0048】
任意波形電圧発生部12は、制御部15からの制御信号に基づいて折線波形電圧Vlineを生成し、生成した折線波形電圧Vlineと第1電圧V1とを重畳して任意波形電圧を生成し、任意波形電圧出力Voptとして出力する。
【0049】
任意波形電圧発生部12の制御信号は、スイッチ部13を制御するスイッチ制御信号と同一の出力パルス周期Tとを備えると共に、スイッチ制御信号と同期している。任意波形電圧発生部12の制御信号による折線波形電圧Vlineの発生と、スイッチ制御信号によるパルスの印加フェーズの開始とは同時点Aである。また、任意波形電圧発生部12の制御信号による折線波形電圧Vlineの終了と、スイッチ制御信号によるパルスの印加フェーズの終了及び放電フェーズの開始とは同時点Bである。
【0050】
ここで、出力パルス周期T(=Ton+Toff)に対するデューティ比をTon/Tとしたとき、任意波形電圧発生部12の制御信号のオン時間と印加フェーズの時間とは同一のTonとなり、任意波形電圧発生部12の制御信号のオフ時間と放電フェーズの時間とは同一のToffとなる。
【0051】
折線波形電圧Vlineは、印加フェーズの始点の0Vから、複数の直線波形電圧における所定の各電圧変化率dV/dtで変化し、印加フェーズの終点では、電圧変化率dV/dtとTonとの積(Ton×dV/dt)で定まる電圧ΔVとなる。任意波形電圧出力Voptは、印加フェーズの始点の第1電圧V1から所定の電圧変化率dV/dtで変化し、印加フェーズの終点では、第1電圧V1に電圧ΔVを重畳した電圧(V1+ΔV)となる。
【0052】
電圧ΔV及び電圧(V1+ΔV)は、ΔVが電圧変化率dV/dtとTonとの積(Ton×dV/dt)であるため、電圧変化率dV/dt及びTonあるいは周期パルスのデューティ比に依存した電圧となる。したがって、電圧変化率dV/dt、Ton又は周期パルスのデューティ比が変更された場合には、電圧ΔV及び(V1+ΔV)は異なる値となる。
【0053】
第1の形態の平滑回路は、任意波形電圧出力Voptに含まれるノイズ分を抑制し、第2の形態の平滑回路は、スイッチ部13のスイッチ部出力に含まれるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。パルス電源装置1の電源出力は、負荷21に供給される。
【0054】
図2Aは第1直流電源11の電圧V1を示し、
図2Bは任意波形電圧発生部12が備えるインバータを制御する制御信号を示し、
図2Cは折線波形電圧Vlineを示し、
図2Dは任意波形電圧出力Voptを示し、
図2Eはスイッチ部13のパルススイッチ部を制御する制御信号SWAを示し、
図2Fはスイッチ部13の出力Vswを示し、
図2Gは電源出力Voutを示している。
【0055】
図2Cの折線波形電圧Vlineは、
図2Bで示す出力パルス周期T中のTonにおいてインバータの制御信号に基づいて形成され、出力パルス周期T中のToffでは形成されない。
図2Dに示す任意波形電圧出力Voptは、
図2Aに示す第1直流電源11の電圧V1と
図2Cに示す折線波形電圧Vlineとを重畳して形成される。
【0056】
図2Cに示される折線波形電圧Vline及び
図2Dに示される任意波形電圧出力Voptは、始点P0、屈折点P1、屈折点P2、及び終点P3の各屈折点と、これらの屈折点間を繋ぐ複数の直線波形電圧を備える。なお、図では屈折点として始点P0と終点P3を含め合計4点の屈折点が示されているが、屈折点の個数は、始点と中間点と終点の少なくとも3点以上の任意の点数とすることができる。
【0057】
電圧V1と折線波形電圧Vlineとの重畳により、任意波形電圧出力Voptの始点P0の電圧はV1となり、終点P3の電圧はV3となる。終点P3の電圧V3は、複数の直線波形電圧の電圧変化に応じた電圧となり、折線波形電圧Vlineの始点と終点との間の電圧差ΔVは(V1-V3)となる。
【0058】
図2EのスイッチSWAの制御信号は、
図2Bのインバータの制御信号と同期し、制御信号SWAは、パルススイッチ部13aのオン/オフを制御し、スイッチSWBの制御信号は放電回路13bのオン/オフを制御する。
【0059】
図2Fにおいて、Ph_disを付した区間は放電フェーズを表し、Ph_appを付した区間は印加フェーズを表している。放電フェーズは、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態で、放電回路13bのスイッチSWBがオン状態である。一方、印加フェーズは、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオン状態で、放電回路13bのスイッチSWBがオフ状態である。
【0060】
パルススイッチ部13aのスイッチSWAは、オフ状態からオン状態に切り替えることによって、放電フェーズから印加フェーズに切り替え、印加フェーズのTonの間において、任意波形電圧出力Voptをパルス出力として出力する。
【0061】
放電回路13bのスイッチSWBは、オフ状態からオン状態に切り替えることによって、印加フェーズから放電フェーズに切り替え、放電フェーズのToffの間において負荷に蓄積されていた電荷を接地に放電し、任意波形電圧出力Voptの電圧を0Vとする。
【0062】
図2F及び
図2Fは何れも出力波形を示しているが、
図2Fはパルススイッチ部の出力波形を示し、
図2Gはパルススイッチ部の出力を平滑化して後の電源の出力波形を示している。
【0063】
(折線波形電圧の波形例)
図3A,
図3Bを用いて折線波形電圧の波形例を説明する。ここでは、始点P0と終点P3の間に2つの屈折点P1,P2を有した折線波形電圧の波形例について示しているが、屈折点は任意の点数とすることができる。
図3A,
図3Bにおいて、破線で示す直線波形電圧は、始点P0と終点P3の間を一本の直線で結ぶ波形を示している。
【0064】
図3Aに示す折線波形電圧の波形例では、破線で示す直線波形電圧と比較して、屈折点P1の電圧V1は低く、屈折点P2の電圧V2は高い例である。この波形例では、始点P0と屈折点P1とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtはV1/T1で表され、屈折点P1と屈折点P2とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは(V2-V1)/T2で表され、屈折点P2と終点P3とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは(V3-V2)/T3で表される。なお、T1は始点P0と屈折点P1の間の時間幅であり、T2は屈折点P1と屈折点P2の間の時間幅であり、T3は屈折点P2と終点P3の間の時間幅である。
【0065】
図3Bに示す折線波形電圧の波形例では、破線で示す直線波形電圧と比較して、屈折点P1の電圧V1は高く、屈折点P2の電圧V2は低い例である。この波形例においても、始点P0と屈折点P1とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtはV1/T1で表され、屈折点P1と屈折点P2とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは(V2-V1)/T2で表され、屈折点P2と終点P3とを結ぶ直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは(V3-V2)/T2で表される。
【0066】
(折線波形電圧の設定態様)
制御部による折線波形電圧の設定態様について
図4、
図5を用いて説明する。なお、以下では、1パルスを生成するパルス周期において、スイッチング動作によって負荷側に周期パルスを印加する印加フェーズと負荷側に蓄積された電荷を放電する放電フェーズとを行い、このパルス周期を繰り返して生成された電流を負荷に供給する場合について示している。
【0067】
制御部は、インバータ制御において折線波形電圧を生成する際に、以下の各制御値を制御パラメータとして設定しておく。
(a)印加フェーズの時間幅T、
(b)折線波形電圧の直線波形電圧を切り替える屈折点間の時間Tk、及び
(c1)各直線波形電圧の電圧変化率dV/dt、又は
(c2)屈折点の電圧
【0068】
(設定態様1)
折線波形電圧の設定態様1について
図4を用いて説明する。この設定例1では上記した制御値のうち、印加フェーズの時間幅T、及び屈折点間の時間Tkが設定されて屈折点が定まった状態にあるとき、折線波形電圧を構成する各直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを設定する例を示す。なお、
図4のフローチャートでは、手順を符号S1~S7で示している。
【0069】
屈折点を定める制御値として、印加フェーズの時間幅T、屈折点間の時間Tk、及び屈折点間の直線波形の傾きを定める制御値として、直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを予め定めて記憶しておく。これらの制御値は、任意の記憶装置に読み出し可能に格納しておくことができる。
【0070】
まず、初期値として設定しておいた印加フェーズの最初の時点での直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを読み出し(S1)、最初の直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを設定し、この電圧変化率dV/dtで直線波形電圧を生成する(S2)。
【0071】
その後、直線波形電圧を出力し初めてからの経過時間が屈折点間の時間Tkに達したか否か基づいて、屈折点に到達したか否かを判定し(S3)、屈折点に到達したときは、次の直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを読み出し(S4)、読み出した直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを変更する(S5)。
【0072】
屈折点が折線波形電圧の終点であるか否かを判定し、終点でない場合には、S3からS5の工程を繰り返す(S6)。S6において屈折点が終点であるときは、1つの印加フェーズが終了し、放電フェーズを経て1パルスの形成するパルス周期が終了した後、次のパルス周期においてS1からS6の工程を繰り返す(S7)。
【0073】
(設定態様2)
上記した設定態様1は、予め設定された直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを用いた例であるが、設定態様2では、電圧変化率dV/dtに代えて屈折点の電圧を用いて折線波形電圧を設定してもよい。この場合には、最初の直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは、折線波形電圧の始点P0の電圧V0と屈折点P1の電圧V1との電圧差(V1-V0)を時間幅T1で除算することで求められ、次の直線波形電圧の電圧変化率dV/dtは、屈折点P1の電圧V1と屈折点P2の電圧V2との電圧差(V2-V1)を時間幅T2で除算することで求められ、他の区間の直線波形電圧についても同様に求められる。
【0074】
(設定態様3)
折線波形電圧の設定態様3について
図5を用いて説明する。この設定例2では上記した制御値のうち、印加フェーズの時間幅T、及び屈折点間の時間Tkが設定されて屈折点が定まり、各屈折点での出力電圧Vkが定まっている状態にあるとき、各直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを設定する例を示す。なお、
図5のフローチャートでは、手順を符号S11~S21で示している。
【0075】
まず、印加フェーズの最初の時点での直線波形電圧の電圧変化率dV/dtを算出する。この電圧変化率dV/dtは、始点P0における電圧V0と最初の屈折点P1での電圧V1との電圧差(V1-V0)を時間幅T1で除算することによって算出される(S11)。算出した電圧変化率dV/dtを初期値として設定する(S12)。
【0076】
直線波形電圧の時間幅が経過した後の屈折点Pkにおいて(S13)、屈折点Pkに設定されている出力電圧Vkを読み出すと共に(S14)、その時点での出力電圧Voを検出する(S15)。検出した出力電圧Voと読み出した出力電圧Vkとを比較し、検出した出力電圧Voが設定した出力電圧Vkから変動しているか否かを判定する。判定では、例えば出力電圧Voと出力電圧Vkとの差分が予め設定しておいたしきい値を越えているか否かに基づいて行うことができる。電圧に変動が無いと判定された場合には、S13~S15の工程を繰り返す(S16)。
【0077】
電圧に変動が有ると判定された場合には、次の屈折点Pk+1の電圧Vk+1を読み出し(S17)、出力電圧Voと読み出した屈折点Pk+1の電圧Vk+1との電圧差(Vk+1-Vo)を時間幅T1で除算した((Vk+1)-Vo)/T1によって電圧変化率dV/dtを算出し(S18)、電圧変化率dV/dtを更新する(S19)。そして、S13~S19の工程を折線波形電圧の終点まで繰り返し(S20)、1つの印加フェーズが終了し、放電フェーズを経て1パルスの形成するパルス周期が終了した後、次のパルス周期においてS11からS20の工程を繰り返す(S21)。
【0078】
(放電フェーズの動作例)
図6は、放電フェーズの動作例を説明するための図であり、
図6Aと
図6Bは、それぞれ
図2F中の放電フェーズPh_disにおいて、電源出力VoutがV2から0Vに立ち上がる時点の動作状態、及び電源出力Voutが0Vとなる動作状態を表している。
【0079】
図6Aの放電フェーズPh_dis1は、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態に切り替わり、放電回路13bのSWBがオン状態に切り替わった時点である。この時点は、
図2FにおいてDis1で表される区間に相当する。このDis1では、電源出力VoutがV2から0Vに立ち上がり、出力電流Ioutは、急峻した放電電流が0Aに向かって減少する。印加フェーズの電流Irは、プラズマ負荷の場合にはイオン電流Ipに相当する。
【0080】
図6Bの放電フェーズPh_dis2は、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態にあり、放電回路13bのSWBがオン状態にある。この状態は、
図2においてDis2で表される区間に相当する。このDis2では、電源出力Voutが0Vであり、出力電流Ioutは0Aとなる。
【0081】
(印加フェーズの動作例)
図7は、印加フェーズの動作例を説明するための図であり、
図7Aと
図7Bは、それぞれ
図2F中の印加フェーズPh_appにおいて、電源出力Voutが0VからV1に立ち下がる時点の動作状態、及び電源出力VoutがV1からV2に変化する動作状態を表している。
【0082】
図7Aの印加フェーズPh_app1は、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオン状態に切り替わり、放電回路13bのSWBがオフ状態に切り替わった時点である。この時点は、
図2FにおいてApp1で表される時点に相当する。このApp1の時点では、電源出力Voutが0VからV1に立ち下がり、負荷に向かって電流Iqが流れる。App1の時点における電圧変化は、スイッチ部より後段に接続される回路の時定数で定まる。
【0083】
図7Bの印加フェーズPh_app2は、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオン状態にあり、放電回路13bのSWBがオフ状態にある。この状態は、
図2FにおいてApp2で表される区間に相当する。このApp2では、電源出力VoutはV1から電圧変化率dV/dtで変化し、App2の終点では、電源出力VoutはV2となる。プラズマ負荷の場合において、出力電流Ioutには、電圧変化率dV/dtに基づいて定まるイオン電流Ipに相当する一定電流の電流Irが流れる。なお、電流Ir及び電流Iqの一例については
図18に示す。
【0084】
(2)任意波形電圧発生部
本発明の任意波形電圧発生部12は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、第1電源の直流電源の出力と整流回路を介して出力される折線波形電圧Vlineと、を重畳して台形波形電圧を生成し、任意波形電圧出力Voptとして出力する電圧重畳回路とを備える。
【0085】
本発明の任意波形電圧発生部は、直流電源の出力と折線波形電圧Vlineとを重畳する電圧重畳回路を、任意波形電圧発生部の回路において異なる位置に配置する複数形態で構成することができる。
【0086】
以下、本発明の任意波形電圧発生部の第1構成例~第2構成例について、
図8~
図11を用いて説明する。
図8及び
図9は、任意波形電圧発生部の第1の構成例を説明するための図であり、
図10及び
図11は、任意波形電圧発生部の第2の構成例を説明するための図である。また、
図12は、電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【0087】
(a)任意波形電圧発生部の第1の構成例
図8は、本発明の任意波形電圧発生部の第1の構成例の概略構成を示し、
図9は、本発明の任意波形電圧発生部の第1の構成例のタイミングチャートを示している。
【0088】
第1の構成例の任意波形電圧発生部12Aは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備え、電圧重畳回路12eは、整流回路12d内に設けられる。
【0089】
第2直流電源12aは、交流を直流に変換して直流電圧を出力するAC/DC電源を用いる他に、通常の直流電源を用いても良い。AC(交流)の発生源は、外部電源あるいは内部電源のいずれとしてもよい。インバータ回路12bは、入力した直流電圧を交流電圧に変換すると共に、変換した交流電圧の電圧値を調整して出力する。トランス12cは、インバータ回路12bからの交流電圧の振幅を所定の巻線比で定まる変圧比に基づいて変換する。整流回路12dは、トランス12cの交流電圧を整流して直流電圧に変換する。
【0090】
インバータ回路12bは、制御部15から出力される制御指令に基づいてインバータ制御される。制御部15の制御指令は、任意波形電圧発生部出力の電圧及び/又は電流のフィードバック信号に基づいて生成される他に、図示しない外部装置からの外部信号に基づいて生成される構成としてもよい。
【0091】
インバータ回路12bは、例えば、数百kHz~数十MHzの高周波で駆動される。インバータ回路12bは、1つのスイッチング素子を用いた1石型のフライバックインバータ、2つのスイッチング素子を用いた2石型のハーフブリッジインバータ、4つのスイッチング素子を用いた4石型のフルブリッジインバータの何れを用いてもよい。
【0092】
電圧重畳回路12eは、整流回路12d内に組み込まれ、整流回路12dの整流出力に第1直流電源11の第1電圧V1を重畳する。
図12Aは、整流回路12d内に組み込んだ電圧重畳回路12eの構成例を示している。ここでは、整流回路12dとして、ダイオードブリッジから構成される回路例を示している。
図12Aの回路構成例では、整流回路12dの一方の出力端に電圧重畳回路12eの出力端を接続し、第1電圧V1を重畳した整流出力を任意波形電圧出力として出力する。
【0093】
図9は、インバータ制御としてPWM制御を用いた場合を示している。インバータ制御は、出力パルス周期Tの内でデューティ比に基づくオン時間Tonの間に行われ、オフ時間Toffが経過した後に再開される。PWM制御は、駆動周波数f_invで定まるインバータ周期Tinv(=1/f_inv)毎にパルス幅を制御する。パルス幅を漸次増加あるいは漸次減少させて出力電圧の波高値を昇圧あるいは降圧することによって、出力電圧が調整される。
【0094】
インバータ制御によって折線波形電圧Vline、及び任意波形電圧出力Voptの電圧の勾配波形を生成する際には、任意波形電圧発生部12の後段に平滑回路が接続された際の応答性を考慮して、インバータ制御を行うPWM制御の駆動周波数f_invは、出力パルス周波数f_pulseよりも高い周波数とする必要があり、5倍以上の高周波数であることが望ましい。
【0095】
トランス12cは、インバータ回路12bのインバータ出力の波高値を巻線比で定まる変圧比に基づいて調整し、整流回路12dに出力する。整流回路12dはインバータ出力を整流し、所定の電圧変化率dV/dtで電圧変化する折線波形電圧を出力する。折線波形電圧は、オン時間Tonの時間内に出力され、オフ時間Toffでは出力されない。電圧重畳回路12eは、整流回路12dの整流出力に第1電圧V1を重畳して重畳出力を生成する。
【0096】
(b)任意波形電圧発生部の第2の構成例
図10は、本発明の任意波形電圧発生部の第2の構成例の概略構成を示し、
図11は、本発明の任意波形電圧発生部の第2の構成例のタイミングチャートを示している。
【0097】
第2の構成例の任意波形電圧発生部12Bは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備え、電圧重畳回路12eをトランス12c内に備える。
【0098】
第2の構成例の任意波形電圧発生部12Bは、第1の構成例の任意波形電圧発生部12Aと同様に、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備えるが、電圧重畳回路12eがトランス12cに組み込まれて構成される点で相違している。ここでは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dについての説明は省略し、電圧重畳回路12eについてのみ説明する。
【0099】
電圧重畳回路12eは、トランス12c内に組み込まれる形態で構成され、インバータ回路12bのインバータ出力に第1直流電源11の第1電圧V1を重畳する。
図12Bは、電圧重畳回路12eの構成例を示している。
【0100】
図12Bの回路構成例では、トランス12cの2次側に一方の出力端に第1直流電源11を接続することによって、トランス12cで電圧変換されたインバータ出力に第1電圧V1を重畳する。
【0101】
図11は、
図9と同様に、インバータ制御としてPWM制御を用いた場合を示している。インバータ制御は、出力パルス周期Tの範囲内でデューティ比に基づくオン時間Tonの間に行われ、オフ時間Toffが経過した後に再開される。PWM制御は、駆動周波数f_invで定まるインバータ周期Tinv毎にパルス幅を制御する。パルス幅を漸次増加あるいは漸次減少させて出力電圧の波高値を昇圧あるいは降圧することによって、出力電圧が調整される。
【0102】
第1の構成例と同様に、インバータ制御によって折線波形電圧Vline、及び任意波形電圧出力Voptの電圧の勾配波形を生成する際には、任意波形電圧発生部12の後段に平滑回路が接続された際の応答性を考慮して、インバータ制御を行うPWM制御の駆動周波数f_invは、出力パルス周波数f_pulseよりも高い周波数とする必要があり、5倍以上の高周波数であることが望ましい。
【0103】
トランス12cは、インバータ回路12bのインバータ出力の波高値を変圧比に基づいて調整する。
【0104】
電圧重畳回路12eは、トランス12cで電圧変換したインバータ出力に第1電圧V1を重畳してトランス出力を生成し、整流回路12dに出力する。整流回路12dはインバータ出力を整流し、所定の電圧変化率dV/dtで電圧変化する折線波形電圧を出力する。折線波形電圧は、オン時間Tonの時間内に出力され、オフ時間Toffでは出力されない。
【0105】
(3)平滑回路
図13は、平滑回路14の構成例を示している。平滑回路14は、直列接続されたインダクタLpと並列接続されたキャパシタCpのLC回路で構成される。なお、この平滑回路14は一例であって、このLC回路に限定されるものではない。
【0106】
本発明のパルス電源装置1の平滑回路は、任意波形電圧発生部12の出力端に平滑回路が接続される第1の形態と、スイッチ部13のパルススイッチ部13aの出力端に平滑回路が接続される第2の形態と、により構成することができる。第1の形態の平滑回路は、任意波形電圧出力に含まれるノイズ分を抑制する。第2の形態の平滑回路は、スイッチ部13において放電フェーズと印加フェーズとの間の電圧変化に伴って生じるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。
【0107】
(a)平滑回路の第1の形態例
第1の形態の平滑回路14Aについて
図14を用いて説明する。なお、
図14では、整流回路12dにおいて電圧重畳を行う任意波形電圧発生部12Aの構成例を示している。
【0108】
平滑回路14Aは、任意波形電圧発生部12Aの整流回路12dの出力端とスイッチ部13の入力端との間に接続され、整流回路等で発生した任意波形電圧出力に含まれる高周波成分のノイズを抑制する。この回路構成では、スイッチ部13内のパルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態に切り替わっても、平滑回路14A内のコンデンサに充電された電圧はV1電源の電圧まで下がらない。そのため、第1の形態では、平滑回路14A内のコンデンサに充電された電圧を放電するために、放電回路17が接続される。
【0109】
(b)平滑回路の第2の形態例
第2の形態の平滑回路14Bについて
図15,
図16を用いて説明する。
図15は、整流回路12dにおいて電圧重畳を行う任意波形電圧発生部12Aの構成例を示し、
図16は、平滑回路14Bの波形例を示している。
【0110】
第2の形態例の平滑回路14Bは、スイッチ部13において、パルススイッチ部13aと放電回路13bとの間に接続される。スイッチ部13のパルススイッチ部13aで行われるスイッチング動作により、放電時には電圧がV2から第1電圧V1に急峻に切り替わり、また接地電位の0Vから第1電圧V1に電圧が急峻に切り替わる。この電圧変化は、出力波形においてオーバーシュートあるいはアンダーシュートが発生する。
【0111】
パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオン状態において、平滑回路14Bのコンデンサが充電される。その後、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態に切り替わると、平滑回路14Bのコンデンサに充電された電圧は、放電回路13bがオン状態となるため放電される。これにより、放電フェーズと印加フェーズとの間において、パルススイッチ部13aのオン状態とオフ状態の切り替えの際に、電圧変化に伴うオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動が抑制され、電源出力の電圧値は所定の時定数で整定され、変動が抑制された電源出力Voutが出力される。
【0112】
図16は、平滑回路14Bの波形例を示している。
図16Aは、インダクタLfとキャパシタCfの定数が小さい場合を示し、
図16Bは、インダクタLfとキャパシタCfの定数が大きい場合を示している。
【0113】
インダクタLf及びキャパシタCfを小さな定数に選択することにより、LC回路の時定数は小さな値に設定され、これにより、電圧の立ち上がり時間を短縮することができる。LC回路の時定数が大きい場合には、電圧の立ち上がり時間t2が長くなって放電時を長く設定する必要が生じ、高周波の出力パルス周波数f_pulseを設定する際に影響する。電圧の立ち上がり時間t1は、パルス周期の例えば10%よりも短いことが望ましい。
【0114】
(4)プラズマ負荷の例
図17を用いて、本発明のパルス電源装置の負荷がプラズマ負荷の例について説明する。プラズマ負荷である場合には、プラズマチャンバ2内のプラズマ負荷は、キャパシタCw、Cp、及びイオン電流Ipで表される。キャパシタCwは、基板等のプラズマチャンバが備える構成要素の固有容量であり、Cpは、シース容量や浮遊容量の不定容量である。
【0115】
プラズマチャンバ2では、チャンバ内に配置した基板に供給するイオン電流Ipを一定電流とし、これによって、基板のウェハー電圧Vshを一定電圧に維持することが求められる。
【0116】
本発明のパルス電源装置は、上記のような一定電流のイオン電流Ipを供給し、基板のウェハー電圧Vshを一定電圧に維持するための電力をプラズマチャンバ2の負荷に供給する。
【0117】
本発明のパルス電源装置は、検出器16で検出した電源出力Vout、及び/又は出力電流Ioutを制御部15にフィードバックし、電源出力Vout、又は出力電流Ioutを一定値とする制御値を生成し、パルススイッチ部13aのスイッチSWA、及び放電回路13bのスイッチSWBを制御する。
【0118】
図18は、スイッチを駆動する駆動信号、電源出力Vout、及び出力電流Ioutの一例を模式的に示し、
図19は、ウェハー電圧Vsh、電源出力Vout、及びイオン電流Ipを示している。
【0119】
放電フェーズから印加フェーズに切り替わる際、電源出力Voutは接地電位の0VからV1に平滑回路14Bの時定数で変化し、時間tqの間の電流Iqが流れる。時間tqが経過した後、電源出力Voutは電圧変化率dV/dtで変化し、電流Iqは一定電流に維持される。
【0120】
印加フェーズの終了時点では、電源出力Voutは電圧V2となる。この電圧V2は、電圧変化率dV/dtと印加フェーズの時間幅で定まる電圧値となる。なお、印加フェーズの勾配区間の時間幅は、出力パルス周期Tのオン時間Tonに相当する。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のパルス電源装置は、プラズマ処理に適用する他、一定電圧のパルス出力を要する負荷に適用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 パルス電源装置
2 プラズマチャンバ
10 電源部
12,12A,12B 任意波形電圧発生部
12b インバータ回路
12c トランス
12d 整流回路
12e 電圧重畳回路
13 スイッチ部
13a パルススイッチ部
13b 放電回路
14,14A,14B 平滑回路
15 制御部
16 検出器
17 放電回路
21 負荷
Cf,Cp,Cw キャパシタ
Iout 出力電流
Ip イオン電流
Lf,Lp インダクタ
P0 始点
P1,P2,Pk 屈折点
P3 終点
Ph_dis 放電フェーズ
Ph_add 印加フェーズ
SWA,SWB スイッチ
T 出力パルス周期
Tinv インバータ周期
Toff オフ時間
Ton オン時間
Vopt 任意波形電圧出力
Vk 出力電圧
Vline 折線波形電圧
Vo 出力電圧
Vout 電源出力
Vsh ウェハー電圧
dV/dt 電圧変化率
f_inv 駆動周波数
f_pulse 出力パルス周波数
ΔV 電圧差
【要約】
【課題】電流源を用いることなく負の電圧勾配を得ることができる任意波形電圧発生部を備えたパルス電源装置を提供する。
【解決手段】
本発明のパルス電源装置は、一定電圧の直流電圧と折線波形電圧とを重畳することにより複数の所定の電圧勾配を有した任意波形のパルスを生成する。折線波形電圧は接地電位から複数の所定の電圧変化率dV/dtで時間変化する複数の直線波形電圧が連結される折線波形電圧を有している。パルス電源装置は、この折線波形電圧をインバータ制御で生成し、直流電圧と折線波形電圧とを重畳して任意波形電圧を生成し、任意波形電圧からパルス波形を生成することにより、電流源を用いることなく任意の電圧勾配を有したパルスを生成する。
【選択図】
図1