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特許7644301マスターバッチ、樹脂組成物、及び樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】マスターバッチ、樹脂組成物、及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20250304BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20250304BHJP
   C08L 63/10 20060101ALI20250304BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20250304BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20250304BHJP
   B65D 1/00 20060101ALN20250304BHJP
【FI】
C08J3/22 CFD
C08J5/00 CFD
C08L63/10
C08L67/00
C08L67/02
B65D1/00 110
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024163242
(22)【出願日】2024-09-20
【審査請求日】2024-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】関根 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】片岡 美穂
(72)【発明者】
【氏名】影山 明
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特許第7519158(JP,B1)
【文献】特開2024-030285(JP,A)
【文献】国際公開第2023/153522(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118608(WO,A1)
【文献】特開2011-195188(JP,A)
【文献】特開2012-102316(JP,A)
【文献】特開2006-232976(JP,A)
【文献】特開2006-045477(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第118307938(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 1/00-1/48
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂用のマスターバッチであって、
非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)と、
重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であるとともに重量平均分子量が2000以上30000以下である鎖伸長剤(B)と、を含有し、
下記条件(1)~(3)を満たすマスターバッチ。
条件(1):前記マスターバッチ中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が、前記マスターバッチの全質量を基準として、5質量%以上30質量%以下である。
条件(2):単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下である結晶性ポリエチレンテレフタレートと前記マスターバッチとを、前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。
条件(3):前記マスターバッチが、前記マスターバッチと前記ポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下となる条件で前記ポリエステル樹脂と混合されて用いられる。
【請求項2】
前記非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)が、示差走査熱量測定において、30℃から300℃まで10℃/分で昇温して溶融させた後、30℃まで10℃/分で降温して固化させたときの結晶化に伴う発熱ピークが観察されないものである、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
前記鎖伸長剤(B)のエポキシ当量が100g/mol以上1000g/mol以下である請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマスターバッチと、ポリエステル樹脂(C)とを含有する樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(C)が、結晶性ポリエチレンテレフタレート、結晶性ポリトリメチレンテレフタレート、結晶性ポリブチレンテレフタレート、結晶性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、結晶性ポリ乳酸、結晶性ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及び結晶性ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(C)が再生ポリエチレンテレフタレートを含む請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂(C)が、単独で溶融混練した後の固有粘度が0.4dL/g以上1.3dL/g以下であるポリエチレンテレフタレートを含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物の固有粘度が、0.7dL/g以上1.2dL/g以下であり、
ボトル又はシート用である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物の固有粘度が、0.4dL/g以上0.7dL/g未満であり、
フィルム又は繊維用である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂組成物の固有粘度が、0.5dL/g以上0.8dL/g以下であり、
射出成形用である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項4に記載の樹脂組成物の成形物である樹脂成形体。
【請求項12】
JIS K7136で規定されるヘイズ値が0%以上10%以下である請求項11に記載の樹脂成形体。
【請求項13】
JIS K7373で規定される黄色度(YI値)が15未満である請求項11に記載の樹脂成形体。
【請求項14】
食品容器、非食品容器、射出成形物、シート、フィルム、テープ、又は繊維である、請求項11に記載の樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ、樹脂組成物、及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、現在、ペットボトル、シート、フィルム、及び繊維等の様々な分野で使用されている。例えば、近年、飲料用を中心としてペットボトルの普及は目覚ましく、その使用量は膨大になっている。日本では、リサイクルを促進する目的で、無色透明なペットボトルが用いられている。近年、大量に生産され、消費されるものについては、消費した後の廃棄物を単に廃棄するのではなく、再利用することで、資源循環させることの社会的な要請が高まっている。そのような状況下、特にペットボトルについてはリサイクルが進んでいる。
【0003】
ペットボトルのリサイクル手法については様々な手法がある。マテリアルリサイクルとしては、水平リサイクルやカスケードリサイクルがある。水平リサイクルは、使用済みペットボトルを回収後、粉砕及び洗浄を行い、再生ポリエチレンテレフタレートのフレークとし、これを原料として、再度ペットボトルを製造する手法である。一方、カスケードリサイクルは、再生ポリエチレンテレフタレートのフレークとした後、例えば、フィルムや繊維等のような、ペットボトルより要求性能の低い製品へ適用するというリサイクル手法である。いずれの場合でも、リサイクルを重ねるごとに熱履歴等によってポリエチレンテレフタレートが低分子化することで成形性や強度等が劣化することから、リサイクルの回数にも限度がある。
【0004】
低分子化した再生ポリエチレンテレフタレートのフレークから品質が改善された製品を得る手法の一つとして、ポリエステル樹脂に有効な鎖延長剤を配合し、溶融混練する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、非晶性ポリエステル樹脂と、グリシジル基及び/又はイソシアネート基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量200以上50万以下である反応性化合物を含む結晶性ポリエステル樹脂用改質剤が開示されている。この改質剤によれば、結晶性ポリエステル樹脂、特に使用済みポリエチレンテレフタレートボトルから再生されたPETフレークを用いた溶融成形における成形性の改良、及び透明性を維持した機械的物性の改良を実現可能とされている。
【0005】
また、特許文献2では、所定のポリエステル樹脂(A)と、重量平均分子量が6000~200000のエポキシ基含有樹脂(B)と、ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)の反応物である鎖延長ポリエステル樹脂(C)とを含有する、ポリエステル樹脂の鎖延長用のマスターバッチが開示されている。特許文献2によれば、マスターバッチ中の樹脂(B)及び鎖延長ポリエステル樹脂(C)の各含有率を所定の範囲内とし、かつ、樹脂(B)のエポキシ価を所定の範囲内とする。それにより、成形加工性に優れ、汎用加工法により成形体の品質を高められるポリエステル樹脂成形体の製造方法、及びその製造方法に用いるマスターバッチを提供可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-45477号公報
【文献】国際公開第2023/153522号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の特許文献1及び2に開示された技術においては、成形物の透明性に関しては、使用するポリエステル樹脂を構成するジオール(グリコール)成分等のモノマー成分の種類や比率によって、透明性の改善又は維持を図るものと解される。改質剤や鎖延長用マスターバッチ等の形態のように、改質又は鎖延長の対象となるポリエステル樹脂と混合するという態様によって、透明性が良好となる樹脂組成物を得られる技術が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、ポリエステル樹脂用のマスターバッチについて、ポリエステル樹脂で希釈した際に、加工性及び成形性が良好であるとともに、透明性が良好で黄色度の低い樹脂組成物を得ることが可能なマスターバッチを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、ポリエステル樹脂用のマスターバッチであって、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)と、重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であるとともに重量平均分子量が2000以上30000以下である鎖伸長剤(B)と、を含有し、下記条件(1)~(3)を満たすマスターバッチが提供される。
条件(1):前記マスターバッチ中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が、前記マスターバッチの全質量を基準として、5質量%以上30質量%以下である。
条件(2):単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下である結晶性ポリエチレンテレフタレートと前記マスターバッチとを、前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。
条件(3):前記マスターバッチが、前記マスターバッチと前記ポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下となる条件で前記ポリエステル樹脂と混合されて用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリエステル樹脂用のマスターバッチについて、ポリエステル樹脂で希釈した際に、加工性及び成形性が良好であるとともに、透明性が良好で黄色度の低い樹脂組成物を得ることが可能なマスターバッチを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<マスターバッチ>
本発明の一実施形態のマスターバッチ(以下、単に「マスターバッチ」と記載することがある。)は、ポリエステル樹脂用のマスターバッチである。本開示において、マスターバッチが用いられる対象のポリエステル樹脂を「ポリエステル樹脂(C)」と記載することがある。また、マスターバッチは、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)を含有することから、樹脂組成物の一種である。便宜上、本開示においては、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)とを溶融混練等により混合して得られる組成物及びそれと比較される組成物を「樹脂組成物」と記載する。さらに、本開示においては、樹脂組成物を射出成形等の手法により成形して得られる成形体を「樹脂成形体」と記載する。
【0013】
マスターバッチは、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)及び鎖伸長剤(B)を含有する。鎖伸長剤(B)は、重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であるとともに重量平均分子量が2000以上30000以下である。そして、マスターバッチは、下記条件(1)~(3)を満たす。
【0014】
条件(1):マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量が、マスターバッチの全質量を基準として、5質量%以上30質量%以下である。
【0015】
条件(2):単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下である結晶性ポリエチレンテレフタレートとマスターバッチとを、鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。
【0016】
条件(3):マスターバッチが、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)を含有する樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下となる条件でポリエステル樹脂(C)と混合されて用いられる。
【0017】
非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)と上記特定の鎖伸長剤(B)を含有し、かつ、条件(1)~(3)の全てを満たすマスターバッチを用いることで、目的とする樹脂組成物を得ることが可能となる。すなわち、当該マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、加工性及び成形性が良好であるとともに、白濁しにくく透明性が良好で黄色度の低い樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0018】
以下、マスターバッチの各成分、及び条件(1)~(3)について詳細に説明する。
【0019】
(非晶性ポリエチレンテレフタレート(A))
マスターバッチは、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)(以下、「非晶性PET(A)」と記載することがある。)を含有する。非晶性PET(A)は、マスターバッチにおけるベース樹脂である。マスターバッチにおけるベース樹脂として非晶性PET(A)を用いることで、マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、ポリエステル樹脂(C)の結晶化温度を低下させうる。それにより、加工性、成形性、及び透明性が良好な樹脂組成物の提供に寄与することができる。
【0020】
一方、非晶性PET(A)の代わりに結晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、「結晶性PET」と記載することがある。)をマスターバッチのベース樹脂として用いると、マスターバッチの製造が困難となる場合がある。これは、結晶性PETの加工温度が非晶性PETの加工温度より高いことも相俟って、マスターバッチを製造する段階で結晶性PETと鎖伸長剤(B)との架橋反応が促進され、ゲル化が生じる場合があるためである。
【0021】
ポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコールとテレフタル酸との脱水縮合や、エチレングリコールとテレフタル酸ジメチルとのエステル交換反応により合成することができる。非晶性PET(A)は、結晶化温度を有しないポリエチレンテレフタレート(PET)であり、いわゆる「A-PET」(非晶性ポリエチレンテレフタレートの略号)や「PET-G」(グリコール変性ポリエチレンテレフタレートの略号)がある。PET-Gは、PET中のエチレングリコール単位の一部(例えば、30~40モル%程度)をシクロヘキサンジメタノール単位で置き換えた非晶性PETである。
【0022】
非晶性PET(A)のなかでも、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET-G)が好ましい。PET-Gを用いることで、希釈樹脂であるポリエステル樹脂(C)の結晶化温度をより低下させやすいことから、加工性、成形性、及び透明性がより良好な樹脂組成物の提供に寄与することができる。
【0023】
熱可塑性樹脂の結晶性及び非晶性については、示差走査熱量測定(DSC)において、対象の熱可塑性樹脂を30℃から300℃まで10℃/分で昇温して溶融させた後、30℃まで10℃/分で降温して固化させたときの結晶化に伴う発熱ピークの有無により判断することができる。具体的には、上記発熱ピークが観察される場合、その熱可塑性樹脂は結晶性であると判断することができる。また、上記発熱ピークが観察されない場合、その熱可塑性樹脂は非晶性であると判断することができる。よって、上記非晶性PET(A)としては、示差走査熱量測定において、30℃から300℃まで10℃/分で昇温して溶融させた後、30℃まで10℃/分で降温して固化させたときの結晶化に伴う発熱ピークが観察されない非晶性PET(A)を用いることができる。発熱ピークの観察には、示差走査熱量計(DSC)を用いる。
【0024】
非晶性PET(A)としては、市販品を用いることもできる。非晶性PET(A)の市販品としては、例えば、イーストマンケミカル社製の商品名「EASTAR」シリーズ、及びSKケミカル社製の商品名「SKYGREEN」シリーズ等を挙げることができる。非晶性PET(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
マスターバッチ中の非晶性PET(A)の含有量は、マスターバッチの全質量を基準として、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、72質量%以上92質量%以下であることがより好ましく、75質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。マスターバッチ中の非晶性PET(A)の含有量が上記範囲内であることにより、マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、加工性、成形性、及び透明性がより良好で、黄色度がより低い樹脂組成物が得られやすい。
【0026】
(鎖伸長剤(B))
マスターバッチは、鎖伸長剤(B)を含有する。この鎖伸長剤(B)は、重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であるとともに重量平均分子量が2000以上30000以下である。鎖伸長剤(B)は、重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であることから、グリシジル基(エポキシ基)を有する。鎖伸長剤(B)のグリシジル基は、ポリエステル樹脂(C)が有するヒドロキシ基及びカルボキシ基の少なくとも一方(以下、「ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基」と記載することがある。)と反応しうる。そのため、マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際、鎖伸長剤(B)は、ポリエステル樹脂(C)と反応してポリエステル樹脂(C)を鎖伸長し、分子量を増加させることで、黄変や白濁を抑制しつつ、成形時の変形を抑制することが可能となる。
【0027】
鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数及び重量平均分子量は、いずれも上記特定の範囲内であることが必要である。鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であり、かつ、鎖伸長剤(B)の重量平均分子量は、4000以上20000以下であることが好ましく、7000以上12000以下であることがより好ましい。
【0028】
仮に鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下又は65超であり、かつ、重量平均分子量が2000未満であると、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)とポリエステル樹脂(C)との間で過剰な架橋反応が起きやすい。そのため、ポリエステル樹脂(C)で希釈して得られる樹脂組成物が白化し、透明性に劣りやすい。さらに、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)との溶融混練時に粘度が高くなり、ポリエステル樹脂(C)への鎖伸長剤(B)の分散が不十分となる場合がある。一方、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下又は3未満であり、かつ、重量平均分子量が30000超であると、上記の架橋反応が十分に起きにくいため、得られる樹脂組成物が成形性に劣る場合がある。また、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数が3未満であり、かつ、重量平均分子量が2000未満であると、上記の架橋反応が不十分となり、得られる樹脂組成物が加工性及び成形性に劣る場合がある。一方、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数が65超であり、かつ、重量平均分子量が30000超であると、上記の架橋反応がさらに過剰に起きやすいため、ポリエステル樹脂(C)で希釈して得られる樹脂組成物が白化し、透明性に劣りやすい。
【0029】
本開示において、鎖伸長剤(B)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値を意味する。鎖伸長剤(B)の重量平均分子量は、具体的には、以下の装置及び条件により測定される値をとることができる。
・GPC装置:商品名「HLC-8020」(東ソー社製)
・カラム:商品名「TSKgel G2000HXL」、「G3000HXL」、「G4000GXL」(東ソー社製)
・溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0mL/分
・試料濃度:2g/L
・注入量:100μL
・温度:40℃
・検出器:型番「RI-8020」(東ソー社製)
・標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製)
【0030】
鎖伸長剤(B)は、上述の通り、ポリエステル樹脂(C)が有するヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基と反応しうる官能基であるグリシジル基(エポキシ基)を有する。鎖伸長剤(B)の1分子当たりのグリシジル基(エポキシ基)の平均個数は、重量平均エポキシ官能基数で表され、求める反応の強さに応じて適宜設定できる。重量平均エポキシ官能基数は、鎖伸長剤(B)の重量平均分子量/エポキシ当量で求めることができる。例えば、目的の重量平均分子量を決めることにより、グリシジル基(エポキシ基)を有する重合性モノマーと、その他の重合性モノマーの比を調整して重合させる。それにより、1分子当たり望む平均個数であるグリシジル基(エポキシ基)を有する鎖伸長剤(B)を製造することができる。
【0031】
一例として、グリシジル基を有する重合性モノマーとしてグリシジルメタクリレート、その他の重合性モノマーとしてスチレンを用いて、鎖伸長剤(B)を製造する場合を挙げて説明する。具体的には、スチレンとグリシジルメタクリレートを用いて、重量平均分子量が5000で1分子当たりのグリシジル基(エポキシ基)の平均個数が4つの鎖伸長剤(B)を製造する場合、次の通りである。スチレン(分子量104.15)とグリシジルメタクリレート(分子量142.15)を、スチレン:グリシジルメタクリレート=10.6:1(質量比)で仕込むことにより、目的の鎖伸長剤(B)として、スチレン/グリシジルメタクリレート共重合体を得ることができる。
【0032】
鎖伸長剤(B)の重量平均エポキシ官能基数は、3以上65以下であり、4以上50以下であることが好ましい。鎖伸長剤(B)の効果により、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)とを溶融混練する際に、ポリエステル樹脂(C)が有するヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基と鎖伸長剤(B)が反応し、一部が架橋される。それによって、溶融混練時の強度が向上し、成形性が良好な樹脂組成物が得られやすくなる。
【0033】
仮に鎖伸長剤(B)の重量平均分子量が2000以上30000以下又は30000超であり、かつ、重量平均エポキシ官能基数が3未満であると、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)とポリエステル樹脂(C)との間で架橋点が少なくなる。そのため、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)との溶融混練時の強度向上が不十分となり、得られる樹脂組成物の成形性が低下する場合がある。一方、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均分子量が2000以上30000以下又は2000未満であり、かつ、重量平均エポキシ官能基数が65超であると、上記の架橋点が多すぎて、鎖伸長剤(B)とポリエステル樹脂(C)との反応が進む。そのため、得られる樹脂組成物が白化し、透明性に劣る場合があり、また、ポリエステル樹脂(C)との反応が起こりすぎてしまい、得られる樹脂組成物が成形性に劣る場合がある。また、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均分子量が2000未満であり、かつ、重量平均エポキシ官能基数が3未満であると、上記の架橋反応が不十分となり、得られる樹脂組成物が加工性及び成形性に劣る場合がある。一方、仮に鎖伸長剤(B)の重量平均分子量が30000超であり、かつ、重量平均エポキシ官能基数が65超であると、上記の架橋反応がさらに過剰に起きやすいため、ポリエステル樹脂(C)で希釈して得られる樹脂組成物が白化し、透明性に劣りやすい。
【0034】
鎖伸長剤(B)のエポキシ当量は、100g/mol以上1000g/mol以下であることが好ましく、150g/mol以上800g/mol以下であることがより好ましく、200g/mol以上600g/mol以下であることがさらに好ましい。鎖伸長剤(B)のエポキシ当量が100g/mol以上であると、上述の架橋点が適度に増え、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)との溶融混練時の強度が向上しやすく、得られる樹脂組成物の成形性が良好になりやすい。一方、鎖伸長剤(B)のエポキシ当量が1000g/mol以下であると、上述の架橋点が適度な量に抑えられ、得られる樹脂組成物の透明性が良好になりやすい。本開示において、鎖伸長剤(B)のエポキシ当量は、JIS K7236の規定に準じて測定される値をとることができる。
【0035】
鎖伸長剤(B)は、分子鎖において、グリシジル基(エポキシ基)を主鎖、側鎖、及び末端のいずれに有してもよく、それらのうちの複数に有してもよい。鎖伸長剤(B)の種類としては、重量平均エポキシ官能基数及び重量平均分子量がいずれも上述した特定の範囲内であれば、特に限定されない。好適な鎖伸長剤(B)としては、前述のように、グリシジル基(エポキシ基)を有する重合性モノマー、及びその他の重合性モノマーを含むモノマー混合物の共重合体を挙げることができる。その共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、又は交互共重合体のいずれでもよい。
【0036】
グリシジル基を有する重合性モノマーの好適例としては、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート系モノマー(以下、「グリシジル(メタ)アクリレート系モノマー」と記載することがある。)等を挙げることができる。グリシジル(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートが好ましい。本開示における「(メタ)アクリレート」との文言は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方が含まれることを意味する。
【0037】
その他の重合性モノマーの好適例としては、スチレン系モノマー、(メタ)アクリレート系モノマー、及びオレフィン系モノマー等を挙げることができる。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、及びp-tert-ブチルスチレン等を挙げることができる。スチレン系モノマーの1種又は2種以上を用いることができる。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(メタ)アクリレート系モノマーの1種又は2種以上を用いることができる。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、及びイソプレン等を挙げることができる。オレフィン系モノマーは1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
鎖伸長剤(B)の種類としては、スチレン系モノマーとグリシジル(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体(スチレン/グリシジル(メタ)アクリレート系共重合体)、スチレン系モノマーと(メタ)アクリレート系モノマーとグリシジル(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体(スチレン/(メタ)アクリレート/グリシジル(メタ)アクリレート系共重合体)、スチレン系モノマーとオレフィン系モノマーとグリシジル(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体(スチレン/オレフィン/グリシジル(メタ)アクリレート系共重合体)が好ましい。
【0039】
鎖伸長剤(B)としては、市販品を用いることもできる。鎖伸長剤(B)の市販品としては、例えば、BASF社製の商品名「Joncryl」ADRシリーズ、東亞合成社製の商品名「アルフォン」シリーズ、日油社製の商品名「マープルーフ」シリーズ、住友化学社製の商品名「ボンドファースト」シリーズ、及びSKケミカル社製の商品名「ロタダー」シリーズ等を挙げることができる。鎖伸長剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
[条件(1)]
マスターバッチは、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量に関して、上記の条件(1)を満たす。すなわち、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量は、マスターバッチの全質量を基準として、5質量%以上30質量%以下である。マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量は、マスターバッチの全質量を基準として、8質量%以上28質量%以下であることが好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量が上記範囲内であることにより、マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、加工性、成形性、及び透明性がより良好な樹脂組成物が得られやすい。
【0041】
マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量が5質量%未満であると、非晶性PET(A)と鎖伸長剤(B)を溶融混練してマスターバッチを製造する際に、マスターバッチがゲル化しやすく、マスターバッチの製造が困難となる。また、マスターバッチを製造できても、そのマスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、ポリエステル樹脂(C)の持つ耐熱性が低下しやすい。一方、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量が30質量%超であると、マスターバッチにおける非晶性PET(A)の割合が減少することから耐衝撃性等の機械的物性が低下しやすく、また、マスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈して得られる樹脂組成物の透明性が低下しやすい。さらに、マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量が多くなると、非晶性PET(A)と鎖伸長剤(B)を溶融混練してマスターバッチを製造する際に、非晶性PET(A)と鎖伸長剤(B)が均一に混合されにくい。具体的には、鎖伸長剤(B)が、マスターバッチの製造過程にある混合物の表面に液状となって出てきてしまい、その混合物が固化しにくいため、マスターバッチを作製することが困難となる。
【0042】
[条件(2)]
マスターバッチをポリエステル樹脂で希釈した際に、目的の樹脂組成物を得るためには、前述の通り、条件(2)も必要となる。すなわち、単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下である結晶性PETとマスターバッチとを、鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。この条件(2)における結晶性PETは、ポリエステル樹脂(C)として用いうるものであり、固有粘度IVを測定する対象の樹脂組成物試料の原料として用いるものである。上記の樹脂組成物試料は、マスターバッチと結晶性PETを溶融混練して得られることから、結晶性PETの固有粘度IVについても、結晶性PETを単独で溶融混練して得られる樹脂について測定される固有粘度IVを採る。固有粘度は、溶液中でポリマーが占める単位質量当たりの体積であり(単位:dL/g)、ポリマーの分子量に依存し、分子量の目安として用いられる。
【0043】
上記の条件(2)から、上記樹脂組成物試料の固有粘度IVは、上記の結晶性PETを単独で溶融混練して得られる樹脂の固有粘度IVより大きい(IV>IV)。仮にIV=IVとなる場合、IV-IV=0となり、これは、上記の結晶性PETへのマスターバッチの添加の有無にかかわらず同じ固有粘度を示すことを表す。そのため、この場合、ポリエステル樹脂(C)にマスターバッチを添加しても、成形性の改善が期待できない。また、仮にIV<IVとなる場合、IV-IV<0となり、これは、上記の結晶性PETにマスターバッチを添加しても、固有粘度が低下することを表す。そのため、この場合、ポリエステル樹脂(C)にマスターバッチを添加する効果よりも、加工時の加水分解等による影響が大きくなり、成形性が低下することとなる。さらに、IV-IVが0.29dL/g以上であると、成形性が低下しやすく、また、白濁が起こるか、黄色度が高くなりやすく、透明性に劣る樹脂組成物となりやすい。
【0044】
上述の通り、IVとIVの差(IV-IV)は、0dL/gより大きく、0.29dL/g未満である。IV-IVの値については、下限付近(0を超えた0付近の値)では、数値が大きくなるほど、成形性が改善されやすい。一方、上限付近(0.29未満で0.29付近の値)では、数値が小さくなるほど、透明性が改善しやすく、また、黄色度が低下しやすい。IVとIVの差(IV-IV)は、0.05dL/g以上0.25dL/g以下(0.05≦IV-IV≦0.25)であることが好ましい。IV-IVの値が上記の好ましい範囲であることにより、加工性及び成形性がより良好であるとともに、透明性がより良好で黄色度のより低い樹脂組成物が得られやすくなる。
【0045】
なお、上記の単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下の結晶性PETを選択するためには、単独で溶融混練する前の固有粘度が1.1dL/g以上1.3dL/g以下の結晶性PETを選択するとよい。
【0046】
本開示において、固有粘度(IV)は、JIS K7367-5に規定される方法にしたがって、溶媒にフェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタン(四塩化エタン)を質量比1:1で混合した混合溶媒、測定機にオストワルド粘度管を用いて、25℃で測定される値(dL/g)をとる。
【0047】
[条件(3)]
マスターバッチをポリエステル樹脂で希釈した際に、目的の樹脂組成物を得るためには、前述の通り、条件(3)も必要となる。すなわち、マスターバッチは、マスターバッチとポリエステル樹脂(C)を含有する樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下となる条件でポリエステル樹脂(C)と混合されて用いられることを要する。
【0048】
樹脂組成物の成形性がより良好となりやすい観点から、条件(3)における樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量は、0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物の透明性がより良好となりやすい観点から、条件(3)における樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量は、0.9質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(ポリエステル樹脂(C))
ポリエステル樹脂(C)は、マスターバッチの希釈に用いられる樹脂であって、マスターバッチと混合されることで、マスターバッチとともに樹脂組成物を構成する樹脂である。ポリエステル樹脂(C)は、通常、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位、及びアルキレンジオールに由来する構成単位を有する樹脂である。
【0050】
ポリエステル樹脂(C)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート樹脂(I-PET)、及びポリカーボネート(PC)等を挙げることができる。また、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET-G)のように、これらの樹脂の一部を置き換えたポリエステル樹脂や、ケミカルリサイクル(化学的再生法)又はメカニカルリサイクル(物理的再生法)によって再生されたポリエステル樹脂を用いてもよい。ポリエステル樹脂(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
ポリエステル樹脂(C)としては、結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂のどちらも用いることができる。これらのなかでも、上述のマスターバッチを用いることで、成形性の改善効果が高いことから、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。そのなかでも、結晶性ポリエチレンテレフタレート、結晶性ポリトリメチレンテレフタレート、結晶性ポリブチレンテレフタレート、結晶性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、結晶性ポリ乳酸、結晶性ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及び結晶性ポリカーボネートがより好ましい。したがって、ポリエステル樹脂(C)が、結晶性ポリエチレンテレフタレート、結晶性ポリトリメチレンテレフタレート、結晶性ポリブチレンテレフタレート、結晶性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、結晶性ポリ乳酸、結晶性ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及び結晶性ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0052】
ポリエステル樹脂(C)としては、市販品を用いてもよい。PETの市販品としては、例えば、クラレ社製の商品名「クラペット」シリーズ及び「バイオクラペット」シリーズ、ユニチカ社製の商品名「ユニチカポリエステル」シリーズ、並びにSKケミカル社製の商品名「SKYPET」シリーズ等を挙げることができる。PTTの市販品としては、例えば、デュポン社製の商品名「ソロナ」シリーズ等を挙げることができる。PBTの市販品としては、例えば、東レ社製の商品名「トレコン」シリーズ、三菱ケミカル社製の「ノバデュラン」シリーズ、及びポリプラスチックス社製の商品名「ジュラネックス」シリーズ等を挙げることができる。PCTの市販品としては、例えば、SKケミカル社製の商品名「SKYPURA」シリーズ等を挙げることができる。PENの市販品としては、例えば、帝人社製の商品名「テオネックス」シリーズ等を挙げることができる。ポリ乳酸の市販品としては、例えば、ユニチカ社製の商品名「テラマック」シリーズ等を挙げることができる。I-PETの市販品としては、ベルポリエステルプロダクツ社製の商品名「ベルペット」シリーズ等を挙げることができる。PCの市販品としては、例えば、帝人社製の商品名「パンライト」シリーズ等を挙げることができる。
【0053】
(その他の成分)
マスターバッチは、上述の非晶性PET(A)及び鎖伸長剤(B)以外に、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、顔料、充填剤、表面処理剤、滑剤、可塑剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、難燃剤、及び発泡剤等を挙げることができる。その他の成分は1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
<マスターバッチの製造方法>
マスターバッチは、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)及び鎖伸長剤(B)を含む材料を溶融混練することにより製造することができる。この溶融混練の際に、必要に応じて、上述したその他の成分を添加してもよい。
【0055】
マスターバッチを得る際の溶融混練の方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー等の高速ミキサーやタンブラー等の混合機を使用して、非晶性PET(A)及び鎖伸長剤(B)を含む材料を予め混合した後、混練装置を用いて溶融混練する方法が挙げられる。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、及び加圧ニーダー等を挙げることができる。押出機等の混練装置を使用して上記材料を溶融混練するとともに、混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出された混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工してもよい。溶融混練できる限りにおいて、使用する混練装置は特に限定されないが、混練能力の高さから、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、又は二軸押出機が好ましく用いられる。また、樹脂組成物を得る際にマスターバッチを使用しやすい観点から、マスターバッチは、上述のように加工されて、ペレット状又はフレーク状の形態であることが好ましい。
【0056】
マスターバッチを得る際の溶融混練時の温度は、非晶性PET(A)を含む熱可塑性樹脂が溶融する温度であればよく、200℃以上260℃以下であることが好ましく、220℃以上240℃以下であることがより好ましい。マスターバッチを得る際の溶融混練は、1段階で行ってもよいし、2段階で行ってもよい。2段階の溶融混練では、例えば、一部の非晶性PET(A)及び鎖伸長剤(B)を溶融混練し、ストランド状に押し出された混練物をペレット状やフレーク状の形態に加工する。次いで、ベレット状又はフレーク状の形態の混練物に、残りの非晶性PET(A)及び鎖伸長剤(B)、並びに必要に応じてその他の成分を加えた上で、再度溶融混練する方法をとることができる。
【0057】
以上詳述した通り、本実施形態のマスターバッチは、非晶性PET(A)と特定の鎖伸長剤(B)を含有し、かつ、前述の条件(1)~(3)の全てを満たす。そのため、このマスターバッチをポリエステル樹脂(C)で希釈した際に、加工性及び成形性が良好であるとともに、白濁しにくく透明性が良好で黄色度が低い樹脂組成物を得ることが可能である。このように、マスターバッチの効果は、希釈樹脂であるポリエステル樹脂(C)とマスターバッチを混合(溶融混練)することにより発現する。仮にマスターバッチを作製せずに、非晶性PET(A)、鎖伸長剤(B)、及びポリエステル樹脂(C)を溶融混練すると、鎖伸長剤(B)が局所的に反応し、その結果、混練物がゲル化し、不均一な樹脂組成物となりやすい。
【0058】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、前述のマスターバッチと、前述のポリエステル樹脂(C)とを含有する。樹脂組成物中のマスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)の合計含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。樹脂組成物中のマスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)の合計含有量の上限は特に限定されず、例えば、樹脂組成物の全質量を基準として、100質量%であってもよい。よって、樹脂組成物中のマスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)の合計含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0059】
ポリエステル樹脂(C)は、マスターバッチの説明で述べた通りである。マスターバッチによる効果が高まる観点から、ポリエステル樹脂(C)は、以下のポリエステル樹脂を含むことが好ましい。すなわち、ポリエステル樹脂(C)は、結晶性ポリエチレンテレフタレート、結晶性ポリトリメチレンテレフタレート、結晶性ポリブチレンテレフタレート、結晶性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、結晶性ポリ乳酸、結晶性ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及び結晶性ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、ポリエステル樹脂(C)は、再生ポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂(C)は、単独で溶融混練した後のもので測定される固有粘度が0.4dL/g以上1.3dL/g以下であるポリエチレンテレフタレートを含むことも好ましい。
【0060】
マスターバッチとポリエステル樹脂(C)との混合割合としては、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)の合計質量に対して、マスターバッチの含有量が、0.1質量%以上30質量%以下となる割合であることが好ましい。マスターバッチの上記含有量が0.1質量%以上であることにより、樹脂組成物の成形性が良好となりやすい。一方、マスターバッチの上記含有量が30質量%以下であることにより、樹脂組成物中の非晶性PET(A)の含有量が抑えられることで、耐衝撃性等の機械的物性を維持しやすい。また、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量が抑えられることで、前述の架橋点が適度の量となるため、白濁が抑制され、透明性が良好な樹脂組成物が得られやすくなる。これらの観点から、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)の合計質量に対するマスターバッチの含有量は、0.2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
樹脂組成物は、前述の条件(3)を満たすマスターバッチを含有するため、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として、0.01質量%以上1.0質量%以下である。換言すると、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量が、0.01質量%以上1.0質量%以下となるように、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)を含む材料を混合(溶融混練)する。
【0062】
樹脂組成物の成形性がより良好となりやすい観点から、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の上記含有量は、0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物の透明性がより良好となりやすい観点から、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の上記含有量は、0.9質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
樹脂組成物の固有粘度は、0.4dL/g以上1.2dL/g以下であることが好ましい。この固有粘度の範囲内にある樹脂組成物は、様々な用途に適用することが可能であり、固有粘度の数値に応じてより適当な用途に用いられる。その一態様としては、樹脂組成物の固有粘度が0.7dL/g以上1.2dL/g以下である場合、その樹脂組成物は、ボトル又はシート用であることが好ましい。また、樹脂組成物の固有粘度が0.4dL/g以上0.7dL/g未満である場合、その樹脂組成物は、フィルム又は繊維用であることが好ましい。さらに、樹脂組成物の固有粘度が0.5dL/g以上0.8dL/g以下である場合、その樹脂組成物は、射出成形用であることが好ましい。射出成形用としては、例えば、メガネフレーム、化粧品キャップ、及び洗濯機部品等を挙げることができる。前述のマスターバッチを使用することで、特にリサイクルによって低下しやすいポリエステル樹脂(C)の固有粘度を、リサイクル前と同水準の固有粘度に近づけた樹脂組成物を得ることが可能であり、水平リサイクルを可能とすることができる。
【0064】
(その他の成分)
樹脂組成物は、上述のマスターバッチ、及びポリエステル樹脂(C)以外に、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、上述のマスターバッチに含有されていてもよいその他の成分を挙げることができる。樹脂組成物に含有されるその他の成分は、マスターバッチに含有されていてもよいし、マスターバッチとは別個に、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)とともに混合されることで含有されてもよい。
【0065】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物は、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)を含む材料を溶融混練することにより、製造することができる。この溶融混練の際に、必要に応じて、上述したその他の成分を添加してもよい。
【0066】
樹脂組成物を得る際の溶融混練の方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー等の高速ミキサーやタンブラー等の混合機を使用して、マスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)を含む材料を予め混合した後、混練装置を用いて溶融混練する方法が挙げられる。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、及び加圧ニーダー等を挙げることができる。押出機等の混練装置を使用して上記材料を溶融混練するとともに、混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出された混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工してもよい。溶融混練できる限りにおいて、使用する混練装置は特に限定されないが、混練能力の高さから、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、又は二軸押出機が好ましく用いられる。また、樹脂組成物から樹脂成形体を得る際に、樹脂組成物を成形機にて成形しやすいように、樹脂組成物は、上述のように加工されて、ペレット状又はフレーク状の形態であることが好ましい。
【0067】
樹脂組成物を得る際の溶融混練時の温度は、ポリエステル樹脂(C)が溶融する温度であればよく、240℃以上300℃以下であることが好ましく、260℃以上280℃以下であることがより好ましい。樹脂組成物を得る際の溶融混練は、1段階で行ってもよいし、2段階で行ってもよい。2段階の溶融混練では、例えば、一部のマスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)を溶融混練し、ストランド状に押し出された混練物をペレット状やフレーク状の形態に加工する。次いで、ベレット状又はフレーク状の形態の混練物に、残りのマスターバッチ及びポリエステル樹脂(C)、並びに必要に応じてその他の成分を加えた上で、再度溶融混練する方法をとることができる。
【0068】
以上詳述した本実施形態の樹脂組成物は、前述のマスターバッチを含有するため、加工性及び成形性が良好であるとともに、透明性が良好で黄色度が低いなどの特性を有することが可能である。そのため、後記の樹脂成形体の実施形態で説明する通り、各種の適当な成形法を選択することにより、各種の樹脂成形体を製造することができる。また、樹脂組成物を使用することによって、後述するように、ヘイズ値が低い樹脂成形体や黄色度が低い樹脂成形体を製造することができる。
【0069】
<樹脂成形体>
本発明の一実施形態の樹脂成形体は、前述の樹脂組成物の成形体である。樹脂成形体は、樹脂組成物を成形することによって、製造することができる。その成形方法としては、例えば、押出成形、Tダイ押出成形、射出成形、インジェクションブロー成形、ブロー成形、圧縮成形、及び溶融紡糸等を挙げることができる。これにより、食品容器、非食品容器、射出成形物、シート、フィルム、テープ、又は繊維として、透明性が良好で黄色度が低い樹脂成形体を提供することが可能である。
【0070】
樹脂成形体は、前述のマスターバッチを含有する樹脂組成物の成形体であるため、透明性が良好であるとともに黄色度が低い性質を有することが可能である。透明性に関して、具体的には、樹脂成形体は、JIS K7136で規定されるヘイズ値が、0%以上10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。樹脂成形体のヘイズ値は、JIS K7136の規定に準じて測定される値をとることができる。
【0071】
また、樹脂成形体は、JIS K7373で規定される黄色度(YI値)が、15未満であることが好ましく、10未満であることがより好ましく、5未満であることがさらに好ましい。パス回数(ニーダーや押出機で処理した回数)の多い用途では、繰り返し熱がかかるため、黄変が進みやすいが、黄色度(YI値)が15未満であればよい。樹脂成形体の黄色度(YI値)は、JIS K7373の規定に準じて測定される値をとることができる。
【0072】
なお、上述した通り、本発明の一実施形態は、以下の構成をとり得る。
[1]ポリエステル樹脂用のマスターバッチであって、
非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)と、
重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であるとともに重量平均分子量が2000以上30000以下である鎖伸長剤(B)と、を含有し、
下記条件(1)~(3)を満たすマスターバッチ。
条件(1):前記マスターバッチ中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が、前記マスターバッチの全質量を基準として、5質量%以上30質量%以下である。
条件(2):単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9dL/g以上1.0dL/g以下である結晶性ポリエチレンテレフタレートと前記マスターバッチとを、前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。
条件(3):前記マスターバッチが、前記マスターバッチと前記ポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物中の前記鎖伸長剤(B)の含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下となる条件で前記ポリエステル樹脂と混合されて用いられる。
[2]前記非晶性ポリエチレンテレフタレート(A)が、示差走査熱量測定において、30℃から300℃まで10℃/分で昇温して溶融させた後、30℃まで10℃/分で降温して固化させたときの結晶化に伴う発熱ピークが観察されないものである、上記[1]に記載のマスターバッチ。
[3]前記鎖伸長剤(B)のエポキシ当量が100g/mol以上1000g/mol以下である上記[1]又は[2]に記載のマスターバッチ。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載のマスターバッチと、ポリエステル樹脂(C)とを含有する樹脂組成物。
[5]前記ポリエステル樹脂(C)が、結晶性ポリエチレンテレフタレート、結晶性ポリトリメチレンテレフタレート、結晶性ポリブチレンテレフタレート、結晶性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、結晶性ポリ乳酸、結晶性ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及び結晶性ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記[4]に記載の樹脂組成物。
[6]前記ポリエステル樹脂(C)が再生ポリエチレンテレフタレートを含む上記[4]又は[5]に記載の樹脂組成物。
[7]前記ポリエステル樹脂(C)が、単独で溶融混練した後の固有粘度が0.4dL/g以上1.3dL/g以下であるポリエチレンテレフタレートを含む、上記[4]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記樹脂組成物の固有粘度が、0.7dL/g以上1.2dL/g以下であり、
ボトル又はシート用である、上記[4]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]前記樹脂組成物の固有粘度が、0.4dL/g以上0.7dL/g未満であり、
フィルム又は繊維用である、上記[4]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]前記樹脂組成物の固有粘度が、0.5dL/g以上0.8dL/g以下であり、
射出成形用である、上記[4]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11]上記[4]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物の成形物である樹脂成形体。
[12]JIS K7136で規定されるヘイズ値が0%以上10%以下である上記[11]に記載の樹脂成形体。
[13]JIS K7373で規定される黄色度(YI値)が15未満である上記[11]又は[12]に記載の樹脂成形体。
[14]食品容器、非食品容器、射出成形物、シート、フィルム、テープ、又は繊維である、上記[11]~[13]のいずれかに記載の樹脂成形体。
【実施例
【0073】
以下、本発明の一実施形態について実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明の一実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
<材料の用意>
以下に示す材料を用意した。鎖伸長剤のエポキシ当量及び重量平均分子量については、以下の方法により測定を行った。また、測定したエポキシ当量及び重量平均分子量を用いて、重量平均分子量/エポキシ当量により、鎖伸長剤の重量平均エポキシ官能基数を算出した。以下に示すポリエステル樹脂(C)の固有粘度は、当該ポリエステル樹脂を単独で溶融混練して得られた樹脂について測定した値であり、その測定方法は後述する。
【0075】
(エポキシ当量の測定)
鎖伸長剤のエポキシ当量(g/mol)は、JIS K7236の規定に準じて測定することにより求めた。
【0076】
(重量平均分子量の測定)
鎖伸長剤の重量平均分子量は、以下の装置及び条件にて、GPCにより測定した。
・GPC装置:商品名「HLC-8020」(東ソー社製)
・カラム:商品名「TSKgel G2000HXL」、「G3000HXL」、「G4000GXL」(東ソー社製)
・溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0mL/分
・試料濃度:2g/L
・注入量:100μL
・温度:40℃
・検出器:型番「RI-8020」(東ソー社製)
・標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製)
【0077】
(非晶性ポリエチレンテレフタレート)
・A-1:商品名「EASTARコポリエステルGN071」(イーストマンケミカル社製、PET-G)
【0078】
(鎖伸長剤)
・B-1:商品名「ジョンクリルADR4468」(BASF社製、「グリシジル基を有する、スチレン/(メタ)アクリレート系共重合体」、重量平均エポキシ官能基数23.4、重量平均分子量7250、エポキシ当量310g/mol)
・B-2:商品名「ジョンクリルADR4400」(BASF社製、「グリシジル基を有する、スチレン/(メタ)アクリレート系共重合体」、重量平均エポキシ官能基数14.6、重量平均分子量7100、エポキシ当量485g/mol)
・B-3:商品名「モディパーA4100」(日油社製、「グリシジル基を有する、スチレン/(メタ)アクリレート系共重合体」、重量平均エポキシ官能基数171.4、重量平均分子量240000、エポキシ当量1400g/mol)
・B-4:商品名「マープルーフG-01100」(日油社製、「グリシジル基を有する、スチレン/(メタ)アクリレート系共重合体」、重量平均エポキシ官能基数70.5、重量平均分子量12000、エポキシ当量170g/mol)
【0079】
(ポリエステル樹脂(C))
・C-1:商品名「MA-2101M」(ユニチカ社製、結晶性PET、固有粘度0.60dL/g)
・C-2:上記ポリエステル樹脂C-1を、回転数60rpm、バレル温度280℃に設定した単軸押出機(日本プラコン社製、NS型40mmベント式押出機、L/D=30、スクリュー径=40mm、3段ダルメ、圧縮比2.0)で溶融混練し、ノズルからひも(ストランド)状に押出し、水槽にて冷却後、ペレタイザーにて切断することでペレット化する操作を6回行ったもの(結晶性PET、固有粘度0.47dL/g)
・C-3:商品名「クラペットKS710B-8S」(クラレ社製、結晶性PET、固有粘度0.96dL/g)
・C-4:商品名「SKYPURA0302」(SKケミカル社製、PCT、固有粘度0.63dL/g)
・C-5:商品名「パンライトL-1250Y」(帝人社製、PC、固有粘度1.08dL/g)
【0080】
<マスターバッチの作製>
(実施例1-1)
非晶性PET樹脂A-1 80質量部、鎖伸長剤B-1 20質量部を、小型高速混合機を使用して混合し、混合物を得た。次いで、その混合物を、回転数350rpm、バレル温度200~240℃に設定した二軸押出機(L/D=52.5、スクリュー径=30mm)で溶融混練し、ノズルからひも(ストランド)状に押出した。ストランド状に押し出された混練物を水槽にて冷却後、ペレタイザーにて切断することで、ペレット状のマスターバッチを作製した。
【0081】
(実施例1-2~4、比較例1-1~6)
表1(表1-1及び表1-2)の上段に示す種類の材料及び使用量(単位:質量部)としたこと以外は、上述の実施例1-1と同様にして、マスターバッチを作製した。
【0082】
(マスターバッチの加工性)
以下に示す評価基準にしたがってマスターバッチの加工性を評価した。
○:マスターバッチを作製できた。
×:マスターバッチが作製できなかった。
比較例1-1及び1-6は混練物がゲル化し、比較例1-3は混練物が固化しなかったため、マスターバッチを作製することができなかった。
【0083】
(固有粘度の測定)
上記の各ポリエステル樹脂(C)の固有粘度は、当該ポリエステル樹脂を単独で溶融混練して得られた樹脂について、JIS K7367-5に規定される方法にしたがって測定した。具体的には、ポリエステル樹脂(C)を回転数60rpm、バレル温度280℃に設定した単軸押出機(日本プラコン社製、NS型40mmベント式押出機、L/D=30、スクリュー径=40mm、3段ダルメ、圧縮比2.0)で溶融混練し、ノズルからひも(ストランド)状に押出し、水槽にて冷却後、ペレタイザーにて切断することでペレット化した樹脂を用意した。ポリエステル樹脂C-2については、上記操作を6回行ったもの(6パス品)を材料とした。得られた樹脂を、フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタン(四塩化エタン)を質量比1:1で混合した混合溶媒に溶解し、25℃において、オストワルド粘度管を用いて、各ポリエステル樹脂(C)の固有粘度を測定した。
【0084】
作製できたマスターバッチと、固有粘度(IV)が0.96dL/gであった結晶性PETであるポリエステル樹脂C-3を用い、前述の条件(2)における「樹脂組成物試料」の固有粘度IVを測定した。具体的には、マスターバッチとポリエステル樹脂C-3とを、鎖伸長剤の含有量が0.4質量%となる割合でドライブレンドし、混合物を得た。次いで、その混合物を、回転数60rpm、バレル温度280℃に設定した単軸押出機(日本プラコン社製、NS型40mmベント式押出機、L/D=30、スクリュー径=40mm、3段ダルメ、圧縮比2.0)で溶融混練し、ノズルからひも(ストランド)状に押出した。ストランド状に押し出された混練物を水槽にて冷却後、ペレタイザーにて切断することでペレット状の樹脂組成物試料を作製した。得られた樹脂組成物試料について、JIS K7367-5に規定される方法にしたがって、上記と同様の方法により、固有粘度IVを測定した。表1の下段に、IV、IV、IV-IVの値を示す。
【0085】
【0086】
【0087】
<樹脂組成物の作製>
(実施例2-1)
実施例1-1で作製したマスターバッチ(MB1)0.125質量部と、ポリエステル樹脂C-1 99.875質量部をドライブレンドし、混合物を得た。次いで、その混合物を、回転数60rpm、バレル温度280℃に設定した単軸押出機(日本プラコン社製、NS型40mmベント式押出機、L/D=30、スクリュー径=40mm、3段ダルメ、圧縮比2.0)で溶融混練し、ノズルからひも(ストランド)状に押出した。ストランド状に押し出された混練物を水槽にて冷却後、ペレタイザーにて切断することで、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0088】
<樹脂成形体の作製>
実施例2-1で作製した樹脂組成物を140℃で4時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業社製、NS-40型成形機、型締め力40t)を使用して、シリンダ温度280℃、射出圧60MPa、金型温度10℃の条件にて1mm厚プレートを成形した。これを樹脂成形体としての試験片とした。
【0089】
(実施例2-2~12、比較例2-1~8)
表2(表2-1~表2-3)の上段に示す種類の材料及び使用量(単位:質量部)としたこと以外は、上述の実施例2-1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物及び試験片を作製した。なお、比較例2-8はマスターバッチを使用せず、ポリエステル樹脂(C)のみを使用して試験片を作製した。また、比較例2-4では、溶融時の粘度が高くなってしまい、射出成形時、金型に樹脂が入らず成形できなかった。比較例2-2及び2-8では、溶融時の粘度が低すぎるため、金型の隙間から樹脂がはみ出てしまい、バリが発生した。
【0090】
<測定及び評価方法>
(加工性)
単軸押出機にてペレット状の樹脂組成物を作製する際に、ストランド状に押し出された混練物の状態を観察することにより、以下に示す評価基準にしたがって、樹脂組成物の加工性を評価した。評価結果を表2の下段に示す。
AA:10分間でストランドが切断することなく、加工可能であった。
A:10分間でストランドが1~2回切断したが、加工可能であった。
B:10分間でストランドが3~5回切断したが、加工可能であった。
C:10分間でストランドが6回以上切断した。
【0091】
(成形性)
射出成形機にて樹脂組成物から試験片を成形する際の成形条件に基づき、以下に示す評価基準にしたがって、樹脂組成物の成形性を評価した。評価結果を表2の下段に示す。
AA:射出圧の条件がポリエステル樹脂(C)単体を成形する場合の条件(以下、「通常条件」と記載する。)と同等の条件で成形可能であった。
A:射出圧の条件を通常条件から5%まで上げることで成形可能であった。
B:射出圧の条件を通常条件から5%超15%以下に上げることで成形可能であった。
C:射出圧の条件を通常条件から15%まで上げても成形不可であったか、溶融時の粘度が低く、金型の隙間から樹脂がはみ出てバリが発生した。
【0092】
(樹脂組成物の固有粘度の測定)
実施例2-1~12及び比較例2-1~8で作製した各ペレット状の樹脂組成物について、JIS K7367-5に規定される方法にしたがって、上記と同様の方法により、樹脂組成物の固有粘度(IV)を測定した。結果を表2の下段に示す。
【0093】
(透明性)
ヘイズメーター(スガ試験機社製)を使用して、各試験片について、JIS K7136で規定されるヘイズ値を測定した。得られたヘイズ値に基づいて、以下に示す評価基準にしたがって、試験片の透明性を評価した。結果を表2の下段に示す。
AA:ヘイズ値が0%以上3%以下であった。
A:ヘイズ値が3%超7%以下であった。
B:ヘイズ値が7%超10%以下であった。
C:ヘイズ値が10%超であった。
【0094】
(黄色度)
分光測色計(商品名「CM-3600A」、コニカミノルタ製)を使用して、各試験片をD65光源、10度視野における透過測定により、L表色系におけるL値、a値、及びb値を測定した。そして、JIS K7373の規定に準じて黄色度(YI値)を算出し、以下の評価基準にしたがって、試験片の黄色度を評価した。結果を表2の下段に示す。
AA:YI値が5未満であった。
A:YI値が5以上10未満であった。
B:YI値が10以上15未満であった。
C:YI値が15以上であった。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
(応用例1:Tダイ法)
実施例2-4と同種類及び同量のマスターバッチ及びポリエステル樹脂を使用し、均一に混合した後、Tダイを装着したラボプラストミル(東洋精機社製)を使用して280℃で押出成形し、厚さ約0.5mm、幅100mmのシート状の評価用サンプルを製造した。製造した評価用サンプルをプレスして、厚さ約20μmのシートを作製した。作製したシートを目視で観察したところ、透明性が良好であり、黄色度の低いシートが得られたことが確認された。
【0099】
(応用例2:ブロー成形法)
実施例2-4と同種類及び同量のマスターバッチ及びポリエステル樹脂を使用し、均一に混合した後、280℃に加熱したスクリュー径40mmのブロー成形機にて容量200mL、肉厚1mmの円筒状のボトル容器を作製した。作製したボトル容器を目視で観察したところ、透明性が良好であり、黄色度の低いボトル容器が得られたことが確認された。

【要約】
【課題】ポリエステル樹脂で希釈した際、加工性及び成形性が良好であり、かつ透明性が良好で黄色度の低い樹脂組成物を得られるマスターバッチを提供する。
【解決手段】非晶性PET(A)と、重量平均エポキシ官能基数が3以上65以下であり、かつ重量平均分子量が2000~30000である鎖伸長剤(B)とを含有するマスターバッチである。マスターバッチ中の鎖伸長剤(B)の含有量は5~30質量%である。また、単独で溶融混練した後の固有粘度IVが0.9~1.0dL/gである結晶性PETとマスターバッチとを、鎖伸長剤(B)の含有量が0.4質量%となる割合で溶融混練して得られる樹脂組成物試料の固有粘度をIV(dL/g)としたとき、0<IV-IV<0.29である。さらに、このマスターバッチは、樹脂組成物中の鎖伸長剤(B)の含有量が0.01~1.0質量%となる条件でポリエステル樹脂と混合されて用いられる。
【選択図】なし