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<図1>
  • -評価システム及び評価プログラム 図1
  • -評価システム及び評価プログラム 図2
  • -評価システム及び評価プログラム 図3
  • -評価システム及び評価プログラム 図4
  • -評価システム及び評価プログラム 図5
  • -評価システム及び評価プログラム 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】評価システム及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0631 20230101AFI20250304BHJP
【FI】
G06Q10/0631
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024168509
(22)【出願日】2024-09-27
【審査請求日】2024-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和也
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第11995411(US,B1)
【文献】特開2023-043426(JP,A)
【文献】特開2024-095708(JP,A)
【文献】特許第7534511(JP,B1)
【文献】特開2023-095083(JP,A)
【文献】特許第7562002(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2024/0248963(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2699114(KR,B1)
【文献】特開2009-294993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0419044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する評価システムであって、
前記事業計画書を入力する計画書入力部と、
前記評価基準を入力する基準入力部と、
入力された前記事業計画書及び前記評価基準を用いて、前記事業計画書に対する前記評価基準毎の評価レベルを算出する評価レベル算出ユニットと、
前記評価レベルに基づいて前記事業計画書の最終評価を行う評価ユニットと、を備え
前記評価レベル算出ユニットは、前記事業計画書を構成する文章をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、前記評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成し、
前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータからなるデータ群が散らばっているベクトル空間に前記評価レベルに相当する分類領域が設定され、各前記分類領域に含まれるデータ群と各前記分類領域との距離に基づいて前記事業計画書とそれぞれの前記評価基準との間の類似度が算出され、前記類似度に基づいて前記評価レベルが算出される評価システム。
【請求項2】
前記分類領域は、前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータが含まれるベクトル空間において区分けされる複数のクラスタで表され、前記クラスタの分布状態の演算を通じて前記分類領域が算出される請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記分類領域は、「Yes」,「Likely Yes」、「Likely No」、「No」、「Irrelevant」、「Not Mentioned」に対応する6つの領域である請求項2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記評価レベル算出ユニットは生成AIを用いて構成され、前記事業計画書及び前記評価基準はプロンプトとして前記生成AIに与えられる請求項1から3のいずれか一項に記載の評価システム。
【請求項5】
前記事業計画書はカーボンクレジットを獲得するための事業計画書であり、前記評価基準には、カーボンクレジット認証基準準じて作成された一般評価基準と独自に作成された独自評価基準とが含まれている請求項4に記載の評価システム。
【請求項6】
事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する処理をコンピュータに実行させる評価プログラムであって、
前記事業計画書を入力する計画書入力処理と、
前記評価基準を入力する基準入力処理と、
入力された前記事業計画書及び前記評価基準を用いて、前記事業計画書に対する前記評価基準毎の評価レベルを算出する評価レベル算出処理と、
前記評価レベルに基づいて前記事業計画書の最終評価を行う評価処理と、を実行させ
前記評価レベル算出処理は、前記事業計画書を構成する文章をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、前記評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成し、
前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータからなるデータ群が散らばっているベクトル空間に前記評価レベルに相当する分類領域が設定され、各前記分類領域に含まれるデータ群と各前記分類領域との距離に基づいて前記事業計画書とそれぞれの前記評価基準との間の類似度が算出され、前記類似度に基づいて前記評価レベルが算出される評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する評価システム、及びそのような評価をコンピュータに実行させる評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による事業計画立案支援システムは、地域情報及び地域毎に立案された事業の事例情報を複数記憶し、事業計画により解決しようとする課題に対する指標を取得し、事例情報の中から指標が共通する事例情報を推薦事例情報として抽出し、この推薦事例情報の中から事業成果を示す事業評価項目に基づく情報を生成して出力する。さらに、事業計画立案支援システムは、推薦事例情報に基づき、事業評価項目の一つを目的変数とし、他の事業評価項目を説明変数とする学習データにより学習した評価モデルを生成し、事業計画の事業評価項目の値を説明変数として評価モデルに入力することにより得られる目的変数の値を出力する。
【0003】
特許文献2による、言語発信能力評価システムは、質問及び評価対象を含むユーザ入力を受け付ける評価対象取得部、言語能力評価試験の評価基準を取得する評価基準取得部、前記ユーザ入力と生成AIに対する指示及び説明とを含むプロンプトを生成AIに提供するプロンプト提供部、プロンプトに対する回答を生成AIから取得する回答取得部、回答に含まれる評価対象の評価を表示する評価表示部を備える。プロンプトを構成する指示には、言語能力評価試験の評価者としての役割を生成AIに付与する役割付与指示、評価基準に基づいて評価対象を評価させる評価作成指示、評価作成指示の評価が前記評価基準に基づくことを確認させる確認指示が、含まれる。さらに、プロンプトを構成する説明には、評価基準の説明及び評価基準に基づく評価方法の説明が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2024-011875号公報
【文献】特許第7521860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による事業計画立案支援システムでは、事業評価項目の一つを目的変数とし、他の事業評価項目を説明変数とする学習データによって学習される学習モデルが構築される必要があるが、多くの事業評価項目があれば、学習データの作成に大きな負担が生じる。
【0006】
特許文献2による言語発信能力評価システムでは、プロンプトを与えることで生成AIから評価対象に対する評価情報が得られるので、評価のための準備作業負担は少なくて済む。特に、英語検定のような言語発信能力評価では、評価基準は言語発信能力に限定されたものであり、良く知られた基準であることから、比較的簡素である。しかしながら、評価対象が事業計画であれば、事業計画を構成する項目や評価基準の項目が複雑であり、特許文献2にしめされるような評価技術を、そのまま事業計画書の評価に適用することは困難である。
【0007】
上述した実情に鑑み、本発明の目的は、複数の評価基準を用いて事業計画書を少ない負担で正確に評価できる評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による評価システムは事業計画書を複数の評価基準を用いて評価するシステムであり、前記事業計画書を入力する計画書入力部と、前記評価基準を入力する基準入力部と、入力された前記事業計画書及び前記評価基準を用いて、前記事業計画書に対する前記評価基準毎の評価レベルを算出する評価レベル算出ユニットと、前記評価レベルに基づいて前記事業計画書の最終評価を行う評価ユニットと、を備え
前記評価レベル算出ユニットは、前記事業計画書を構成する文章をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、前記評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成し、
前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータからなるデータ群が散らばっているベクトル空間に前記評価レベルに相当する分類領域が設定され、各前記分類領域に含まれるデータ群と各前記分類領域との距離に基づいて前記事業計画書とそれぞれの前記評価基準との間の類似度が算出され、前記類似度に基づいて前記評価レベルが算出される。
【0009】
この構成によれば、事業計画書を評価するために用いられる評価基準が複数用意され、評価対象となった事業計画書は、評価基準毎に評価され、その各評価レベルが算出される。事業計画書が多くの内容を含んでいても、1つの評価基準で評価される場合には、その評価作業負担は少ない。さらに、事業計画書の最終評価は、評価基準毎に算出された全ての評価レベルに基づいて決定されるので、事業計画書はあらゆる視点からチェックされることになり、その最終評価は、正確なものとなる。
【0010】
事業計画書が評価基準を満たしているかどうかをチェックするには、事業計画書に含まれている文章と評価基準に含まれている文章との類似状態をチェックすることが好適である。文章と文章の類似状態は、文章をベクトル表現すれば、内積演算などのベクトル演算によって算出可能である。文章のベクトル表現化には、「Word Embedding」などの技法が用いられると、その後の評価処理(自然言語処理)にとっても好都合である。このことから、本発明では、前記評価レベル算出ユニットは、前記事業計画書を構成する文章をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、前記評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成し、前記計画書ベクトルデータと前記基準ベクトルデータとを用いて算出された前記事業計画書とそれぞれの前記評価基準との間の類似度に基づいて前記評価レベルを算出することが提案される。
【0011】
計画書ベクトルデータと基準ベクトルデータとを用いて、事業計画書とそれぞれの評価基準との間の類似度(評価基準充足度)を算出するために、K-means法などの分類手法を用いると、算出されたクラスタ(評価レベルに相当)に対する定量的な考察(クラスタの代表点からのユークリッド距離など)が可能となり、好都合である。このことから、本発明では、前記評価レベルは、前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータが含まれるベクトル空間において区分けされた複数のクラスタで表され、前記クラスタの分布状態の演算を通じて前記評価レベルが算出されることが提案される。前記クラスタのそれぞれへ分布状態から、前記事業計画書の前記評価レベルが算出されること例えば、K-means法を用いて、ベクトルデータを複数のクラスタ(評価レベル)に分類して、ベクトルデータを各クラスタ(各評価レベル)に分類することができる。
【0012】
上述したような、計画書ベクトルデータと基準ベクトルデータとを用いた事業計画書に対する評価レベルの算出は、適切なプロンプトを作成すれば、各種の生成AIを用いることで、比較的簡単でかつ高い精度で可能となる。このことから、本発明では、前記評価レベル算出ユニットは生成AIを用いて構成され、前記事業計画書及び前記評価基準はプロンプトとして前記生成AIに与えられることが提案される。
【0013】
最近、その評価の困難性から賛否両論が繰り広げられている事業計画の1つとして、カーボンクレジットを生み出す事業計画が挙げられる。カーボンクレジットとは、主に企業間で温室効果ガスの排出削減量を売買できる仕組みであり、企業は環境活動によって生まれた温室効果ガスの削減量や吸収量を数値化し、カーボンクレジットとして認証された排出権を他の企業と取引することができる。このため、カーボンクレジット関連の事業計画書は、多方向からの評価が必要であり、その評価基準の項目数も多くなり、その評価は重要である。また、評価基準には各国で策定されたものや各企業の独自の基準やノウハウが含まれている。このことから、本発明では、前記事業計画書はカーボンクレジットを獲得するための事業計画書であり、前記評価基準には、カーボンクレジット認証基準を準じて作成された一般評価基準と独自に作成された独自評価基準とが含まれている。これにより、カーボンクレジットを生み出す事業計画が、少ない負担で正確に評価できる。
【0014】
カーボンクレジットは、企業間あるいはブローカー間の取引対象となるので、カーボンクレジットを生み出すための事業計画書では、生み出されるカーボンクレジットの取引価値が重要となる。このため、生み出されるカーボンクレジットの取引価値が高くなることも、評価基準に加えてもよい。このことから、本発明では、前記カーボンクレジットを獲得するための事業計画書の最終評価が、前記カーボンクレジットの取引価値に影響されることも提案される。
【0015】
本発明は、事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する処理をコンピュータに実行させる評価プログラムも権利範囲としている。そのような評価プログラムは、前記事業計画書を入力する計画書入力処理と、前記評価基準を入力する基準入力処理と、入力された前記事業計画書及び前記評価基準を用いて、前記事業計画書に対する前記評価基準毎の評価レベルを算出する評価レベル算出処理と、前記評価レベルに基づいて前記事業計画書の最終評価を行う評価処理と、をコンピュータに実行させ
前記評価レベル算出処理は、前記事業計画書を構成する文章をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、前記評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成し、
前記計画書ベクトルデータ及び前記基準ベクトルデータからなるデータ群が散らばっているベクトル空間に前記評価レベルに相当する分類領域が設定され、各前記分類領域に含まれるデータ群と各前記分類領域との距離に基づいて前記事業計画書とそれぞれの前記評価基準との間の類似度が算出され、前記類似度に基づいて前記評価レベルが算出される。
その実行を通じて行われる各処理により、上記評価システムで述べられた種々の作用効果が得られる。
【0016】
本発明のその他の特徴、作用及び効果は、以下の図面を用いた本発明の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】評価システムの概略構成を示す模式図である。
図2】事業計画書が定量的に評価される際の処理の流れを示す流れ図である。
図3】プロンプトの一例を示す文書図である。
図4】K-means法による評価の分類を説明する説明図である。
図5】複数の事業計画書に対する各評価基準における評価レベルの一覧表である。
図6】複数の事業計画書に対する評価レベルの一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、図1を用いて、本発明による評価システムの概略構成を説明する。この評価システムは、事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する。このシステムは、計画書入力部11と、基準入力部12と、評価レベル算出ユニット20と、評価ユニット30とを備える。
【0019】
計画書入力部11は、入力された事業計画書を、評価レベル算出ユニット20が処理可能なデータに変換して、評価レベル算出ユニット20に与える。基準入力部12は、事業計画書を評価する際に用いられる評価基準を評価レベル算出ユニット20が処理可能なデータに変換して、評価レベル算出ユニット20に与える。評価基準は、数個から数百を超える項目を有するが、これらの項目は、1つまたは複数の文書によってまとめられてもよい。
【0020】
評価レベル算出ユニット20は、評価システムの中核構成要素であり、実質的にコンピュータユニットを用いて構築され、与えられた事業計画書及び評価基準を用いて、事業計画書に対する評価基準毎の評価レベルを算出する。このため、評価レベル算出ユニット20は、機能部として、命令生成部21、ベクトル表現化モジュール22,演算部23などを含んでいる。なお、評価システムを構成する各構成要素における少なくともいくつかの処理は、実質的にコンピュータプログラムの実行によりコンピュータによって実現される。
【0021】
命令生成部21(プロンプト生成部21)は、ユーザによる指示を受け付けて、この評価システムの演算部23に対する命令スクリプトを生成するインターフェースとして機能する。命令生成部21によって生成される演算部23に対する命令スクリプトには、ユーザの指示内容、事業計画書の内容、評価基準の内容が含まれる。ユーザの指示内容とは、例えば、「入力される文書は、炭素クレジットプロジェクトに関する報告書である。」、「各基準について、このプロジェクトは基準に適合しているかという問いに対する証拠となる記述を見つけること」、「得られた証拠を出力形式を厳守して出力すること。」などである。
【0022】
ベクトル表現化モジュール22は、命令スクリプトに含まれている事業計画書を構成する文章(語句を含む)をベクトル表現することで計画書ベクトルデータを生成し、同様に命令書に含まれている評価基準を構成する文章をベクトル表現することで基準ベクトルデータを生成する。文章のベクトル表現化には、例えば、BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)などで用いられているWord・Embedding技法が用いられる。生成された計画書ベクトルデータ及び基準ベクトルデータは、ユーザの指示内容とともに演算部23に与えられる。
【0023】
演算部23は、計画書ベクトルデータと基準ベクトルデータとを用い、ユーザ指示を参照して、事業計画書における各評価基準の充足度を示す類似度を算出することで、入力された事業計画書の評価レベルを算出する。類似度は、計画書ベクトルデータの各文章と基準ベクトルデータの各文章とのベクトル演算(例えば、内積演算)によってその間の類似度を求める技法などによって算出可能である。評価基準に含まれている複数の基準項目毎に、評価レベルは算出される。ここでは、評価レベルは、基準項目単位での評価レベルの集合体とみなすことができる。
【0024】
評価ユニット30は、演算部23の演算結果である評価レベル、つまり評価レベル算出ユニット20の出力に基づいて、評価対象となっている事業計画書の最終評価を行い、事業計画書最終評価を出力する。なお、評価ユニット30は、評価レベル算出ユニット20の機能部の1つとして、評価レベル算出ユニット20に組み込まれてもよい。
【0025】
ベクトル表現化モジュール22及び評価レベル算出ユニット20は、生成AI25として、統合されてもよい。その場合は、命令生成部21は、プロンプト生成部21として機能する。さらに、この生成AI25に評価ユニット30の機能も組み込むことができる。また、評価ユニット30は、生成AI25から独立して、独立した機械学習モデルで構成してもよい。
【0026】
次に、本発明の評価システムの実施形態の1つを説明する。この実施形態では、評価システムは、カーボンクレジットを獲得するための事業計画書を、カーボンクレジット評価基準に基づいて評価する。この評価システムの評価レベル算出ユニット20は、プロンプト生成部21によって生成されたプロンプトを与えられることにより評価レベルを出力する生成AI25を備える。なお、カーボンクレジット評価基準には、カーボンクレジット認証基準を準じて作成された一般評価基準と独自に作成された独自評価基準とが含まれている。
【0027】
カーボンクレジットとは、企業や個人が温室効果ガスの排出を削減するプロジェクトに資金を提供することで獲得できる排出権であり、排出権の価値は温室効果ガスの削減分に相当する。そのような温室効果ガス排出プロジェクト(以下、単にプロジェクトと称する)には、大きな資金を投入する必要があるので、そのプロジェクトが生み出すカーボンクレジットが適切な価値をもつかどうか事前にプロジェクト案を精査することが重要である。プロジェクト案には、水田からの排出温室効果ガスの削減に関するプロジェクト案、植林や森林伐採抑制に関するプロジェクト案、バイオチャーに関するプロジェクト案、などがあり、そのようなプロジェクト案が、本発明における事業計画書である。なお、図3図6で示された例では、事業計画書としてバイオチャーに関するプロジェクト案が取り扱われているが、もちろん本発明の事業計画書がバイオチャーに関するプロジェクト案に限定されているわけではない。
【0028】
図2に、バイオチャーに関するプロジェクト案である事業計画書と森林事業計画書とが、評価システムにより定量的に評価される際の処理の流れが示されている。この評価システムでは、同じ評価基準をもって種々の事業計画書を順次評価することも可能である。以下の説明では、バイオチャーに関するプロジェクト案である事業計画書が取り扱われる。
【0029】
評価対象となるバイオチャープロジェクトに関する事業計画書が、ユーザによって作成される。同時に、ユーザによって、この事業計画書の評価のためのカーボンクレジット評価基準(以下、単に評価基準と称する)が作成される。作成された事業計画書及び評価基準が、テキストデータ化され、評価システムに与えられる。
【0030】
評価基準は、100以上の項目からなるが、そのうちのいくつかの例は、次のようなものである。
(1)原料は純粋な生物由来の廃棄物バイオマスでなければならず、目的に応じて栽培されたものであってはならない。
(2)原料は、エネルギー生産以外の目的で腐敗または燃焼されたまま放置されていること。
(3)バイオ炭は乾燥トン数で表す。水分を含むと炭素隔離量を過大評価することになるため、水分を含まないように注意しなければならない。
(4)使用されるバイオマスは、塗料残渣、溶剤、その他の潜在的に有毒な不純物を含んではならない。
(5)原料は他国から輸入されたものであってはならない。
【0031】
評価システムは、与えられた事業計画書及び評価基準を用いて、プロンプトを生成することができるが、プロンプト生成部21のユーザインタフェースを用いてユーザによって作成され、評価システムに与えられてもよい。この実施形態では、生成AI25は、LLM(大規模言語モデル)を用いて構築されているので、このLLMの仕様に適したプロンプトが生成される。そのようなプロンプトの一例が、図3に示されている。図3の例では、ネット等を通じてユーザから与えられる、指示(ユーザの指示内容)、事業計画書、評価基準に基づいて、プロンプト生成部21がプロンプトを生成する。ここでは、生成AI25の出力精度を上げるため、プロンプトは英語で書かれている。もちろん、プロンプトは日本語で書かれてもよい。
【0032】
入力される事業計画書のデータ量が大きい場合は、適当なメモリから読み込まれるように指定された文書ファイル名がプロンプトに記入される。また、入力評価基準の項目数が多い場合、所定数の評価基準の項目を含むプロンプトが順次生成AI25に与えられ、生成AI25から出力される複数の出力結果が、統合される。
【0033】
事業計画書が評価基準をどの程度満たしているかどうかを、事業計画書とそれぞれの評価基準項目との間の類似度(事業計画書の評価基準に対する充足度)に基づいて判定される。その判定結果としての。事業計画書に対する各評価基準の充足度である評価レベルは、次の6段階の評価レベル、「Yes」,「Likely Yes」、「Likely No」、「No」、「Irrelevant」、「Not Mentioned」に設定されている。
【0034】
この評価システムでは、類似度に基づいて判定するために、事業計画書を構成する文章のベクトルデータ(計画書ベクトルデータ)及び評価基準を構成する文章のベクトルデータ(評価基準ベクトルデータ)のベクトル空間における、各データの近さ(類似度:距離)が利用される。つまり、各データは、「Yes」,「Likely Yes」、「Likely No」、「No」、「Irrelevant」、「Not Mentioned」の評価レベルをクラスタとして、分類される。つまり、ベクトル空間におけるベクトルデータ群の各クラスタに対する分布状態から、各ベクトルデータの特定のクラスタ(特定の評価レベル)への分類が算出される。この分類には、K―means法が用いられている。
【0035】
この実施形態でのK―means法による分類は、図4に示すように、計画書ベクトルデータ及び基準ベクトルデータからなるデータ群が散らばっているベクトル空間に、「Yes」,「Likely Yes」、「Likely No」、「No」、「Irrelevant」、「Not Mentioned」に対応する6つの分類領域(評価レベルに相当する)が設定され、その各分類領域にデータ群が分類され、各分類領域に含まれるデータ群の重心と各分類領域の重心との距離(ユークリッド距離:L2distance)が算出され、その距離が評価レベル算出の定量的な裏付けを与える。より詳しく説明すれば、例えば、以下の手順により分類が行われる。
(1)各証拠の記述をベクトル表現化してベクトルデータ群を生成し、
(2)各分類領域にベクトルデータをクラスタリングし、
(3)各分類領域のクラスタの重心ベクトルを算出し、
(4)それぞれの証拠の記述に関して、(3)において算出した重心ベクトルのうち最もユークリッド距離が低いクラスタの分類領域をK―means法による分類とする。
【0036】
このことから、プロンプトには、出力指示として、6つの評価レベル、そのような評価の元になった証拠の記述、などが記述される。
【0037】
評価ユニット30は、100以上の評価基準毎に算出された評価レベルから、評価対象となっている事業計画の価値(品質)を評価して、当該事業計画のカーボンクレジットの価値を含む、評価データ(評価レポート)を生成する。
【0038】
図5には、複数の事業計画書に対する多数の評価基準における6段階の評価レベルを示す参考例としての一覧表出力である。なお、この参考例では、K―means法の対象となるデータ群は、生成AIが出力する、評価算出の根拠として抽出された文章(エビデンス)をベクトル表現化して得られたベクトルデータである。評価算出の根拠として抽出された文章例は次のようなものである。
(1)某社の木炭生産はバッチ式である。窯に薪を詰め、燃焼室を密閉し、各窯で熱分解を行う。冷却段階では、窯の壁と上部から熱が放散され、そのまま冷却される。冷却後、燃焼室は開放され、炭化物は輸送のために処理される。
(2)輸送中の粉塵の発生や爆発を防ぐためのバイオ炭の含水率については言及されていない。
(3)この文書には、輸送中の粉塵の発生や爆発を防ぐためのバイオ炭の含水率についての詳細は記載されていない。
(4)個々の大袋の水分測定により、水分が20~30%であることを確認。
(5)この文書には、200kmを超えるバイオ炭の輸送とそれに伴う温室効果ガスの排出に関する情報はない。
【0039】
図5の一覧表では、縦列の各項目が、事業計画書を規定する文献番号を示しており、横行の各項目が、評価基準の項目を規定している評価基準項目番号を示している。例えば、2列目の各セルには、文献番号2の事業計画書に対する各評価基準項目の評価レベルが表示されており、2行2列(2,2)のセルには、文献番号2の事業計画書に対する評価基準項目2の評価レベルとして、「Likely Yes」が表示されている。
【0040】
評価ユニット30は、図5に示されたような評価レベルデータに基づいて、各事業計画書のカーボンクレジットの取引価値を推定し、その価値順位を示す総合評価レポートを生成することも可能である。
【0041】
図6に参考例として示された一覧表出力では、縦列は図5と同じく、横行の1番目のセル(Document iD)が事業計画書を規定する文献番号を示しており、横行の2番目のセル(labeled class)が事業計画書の評価レベルを示し、横行の3番目のセル(evidence)が評価算出の根拠として抽出された文章(エビデンス)を示し、横行の4番目のセル(matched)が生成AIによる評価とK―means法による評価の一致(TRUE)または不一致(FALSE)を示し、横行の5番目のセル(K―means classification)がK―means法による評価レベルを示し、横行の6番目のセル(L2 distanse)は、K―means法で算出された距離値を示している。横行の5番目のセルはK―means法での第1位となった評価レベルを示しており、横行の6番目のセルは、第1位となった根拠としての距離値を示している。横行の7番目以降のセルは、K―means法での第2位以降の評価レベルと距離値を順次示している。事業計画書の最終評価が、第1位となった評価レベルであり、図6では、文献番号1で示された事業計画書の最終評価は、「Yes」となる。その際、第2位以降の評価レベルと距離値も示されるので、最終評価の定量的な考察が可能となる。
【0042】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、評価システムは一体的に構成されているように示されたが、これらの各構成要素は、ネットワークを介して分散され、評価システムが分散システムとして構成されてもよい。例えば、評価レベル算出ユニット20のプロンプト生成部21は、ユーザ端末に構築され、評価レベル算出ユニット20の生成AI25や評価ユニット30は遠隔地のクラウドコンピューティングサービスに構築され、最終的な評価結果がユーザ端末に送られる構成でもよい。また、生成AI25は、別のサーバあるいはユーザ端末に構築されてもよい。
【0043】
(2)評価ユニット30は生成AI25と一体的に構成可能であるが、生成AI25からの種々のデータ出力(例えば、図5図6で示されたような一覧表データなど)を入力データとして、事業計画書の価値順位を示す最終結果を出力する機械学習モデルとして構築されてもよい。
【0044】
(3)上述した実施形態では、事業計画書の実施形態として、主にバイオチャープロジェクトに関する事業計画書が取り上げられたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、省エネルギー関連事業の計画書、食料自給化事業の計画書、など、種々の事業計画書にも同様な利点をもって本発明の評価システムは適用できる。
【0045】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する評価システム及び評価プログラムに適用できる。
【符号の説明】
【0047】
2 :評価基準項目
11 :計画書入力部
12 :基準入力部
20 :評価レベル算出ユニット
21 :命令生成部(プロンプト生成部)
22 :ベクトル表現化モジュール
23 :演算部
25 :生成AI
30 :評価ユニット
【要約】
【課題】複数の評価基準を用いて事業計画書を少ない負担で正確に評価できる評価システム及び評価プログラムを提供する。
【解決手段】事業計画書を複数の評価基準を用いて評価する評価システムは、前記事業計画書を入力する計画書入力部11と、前記評価基準を入力する基準入力部12と、入力された前記事業計画書及び前記評価基準を用いて、前記事業計画書に対する前記評価基準毎の評価レベルを算出する評価レベル算出ユニット20と、前記評価レベルに基づいて前記事業計画書の最終評価を行う評価ユニット30とを備える評価システム。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6