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▶ 株式会社新三興鋼管の特許一覧

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  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図1A
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図1B
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図2A
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図2B
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図3
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図4
  • 特許-表面改質鋼管及びその製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】表面改質鋼管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/28 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
E02D5/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024184265
(22)【出願日】2024-10-18
【審査請求日】2024-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599078738
【氏名又は名称】株式会社新三興鋼管
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和三
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 雅和
(72)【発明者】
【氏名】喬 世杰
(72)【発明者】
【氏名】三谷 洋二
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202460(JP,A)
【文献】特開2001-090061(JP,A)
【文献】特開2007-085157(JP,A)
【文献】実開平01-147040(JP,U)
【文献】特開2009-114846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/28
B21D 5/12
B21D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って延びる基準外周面と、
前記基準外周面から径方向外側に突出する凸部及び前記基準外周面から径方向内側にへこむ凹部のうち少なくとも一方と
を有し、
前記基準外周面の外径をd(mm)、前記凸部の前記基準外周面からの高さをh(mm)、前記凹部の前記基準外周面からの深さをu(mm)、軸方向に沿った長さd(mm)あたりの前記凸部及び前記凹部が占める面積の平均値をs(mm2)として、
s/d≧30.6であって、
K=α×h+β×u+γ×s/d (ただし、α=34.7、β=2.0、γ=0.4)
で定義される指標値Kが20以上である、
表面改質鋼管。
【請求項2】
前記指標値Kは30以上である、請求項1に記載の表面改質鋼管。
【請求項3】
前記指標値Kは40以上である、請求項2に記載の表面改質鋼管。
【請求項4】
35N/mm2以上の圧縮強度を有する基礎材料に固定した場合の付着強度が35N/mm2以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の表面改質鋼管。
【請求項5】
前記基礎材料は、水分を1~90%含有し、3CaO・SiO2、MgO、Al23、3CaO・Al23、4CaO・Al23・Fe23、MgCO3、及びCaCO3のうち少なくとも1つを含む、請求項4に記載の表面改質鋼管。
【請求項6】
鋼板材の表面から突出する凸部及び前記表面からへこむ凹部のうち少なくとも一方を形成する改質ステップと、
前記凸部及び前記凹部のうち少なくとも一方が形成された前記鋼板材を複数の成形ロールを用いて円筒状に成形する成形ステップと、
前記円筒状に成形された前記鋼板材の端面同士の突き合わせ部分を電縫溶接して表面改質鋼管を形成する鋼管形成ステップと
を有し、
前記改質ステップでは、
前記鋼管形成ステップにより形成される前記表面改質鋼管における周方向に沿って延びる基準外周面の外径をd(mm)、前記凸部の前記基準外周面からの高さをh(mm)、前記凹部の前記基準外周面からの深さをu(mm)、軸方向に沿った長さd(mm)あたりの前記凸部及び前記凹部が占める面積の平均値をs(mm2)として、
K=α×h+β×u+γ×s/d (ただし、α=34.7、β=2.0、γ=0.4)
で定義される指標値Kが20以上となるように前記凸部及び前記凹部のうち少なくとも一方を形成し、
前記成形ステップでは、前記複数の成形ロールの少なくとも一部の外周面に形成された逃げ溝により、前記鋼板材の前記凸部及び前記凹部を形成する際に生じた突出部が前記成形ロールに接触することを避ける、
表面改質鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質鋼管及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、地盤やコンクリート、セメントに鋼管杭を埋め込んで固定し土木建築物の基礎を構築することがなされている。鋼管杭が固定される材料と鋼管杭との間の付着強度を高めるために、鋼管杭の表面に凹部を設けて摩擦力を高めた表面改質鋼管も考えられている(例えば、特許文献1参照)。近年の大型の土木建築物の建設などにおいては、より高い付着強度を実現できる表面改質鋼管が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-175055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、高い付着強度を実現できる表面改質鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、高い付着強度を実現できる表面改質鋼管が提供される。表面改質鋼管は、周方向に沿って延びる基準外周面と、上記基準外周面から径方向外側に突出する凸部及び上記基準外周面から径方向内側にへこむ凹部のうち少なくとも一方とを有する。上記基準外周面の外径をd(mm)、上記凸部の上記基準外周面からの高さをh(mm)、上記凹部の上記基準外周面からの深さをu(mm)、軸方向に沿った長さd(mm)あたりの上記凸部及び上記凹部が占める面積の平均値をs(mm2)として、s/d≧30.6であって、K=α×h+β×u+γ×s/d(ただし、α=34.7、β=2.0、γ=0.4)で定義される指標値Kが20以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、本発明の第1の実施形態における表面改質鋼管を示す正面図である。
図1B図1Bは、図1AのA-A線断面図である。
図2A図2Aは、本発明の第2の実施形態における表面改質鋼管を示す正面図である。
図2B図2Bは、図2AのB-B線断面図である。
図3図3は、本発明に係る表面改質鋼管を製造するための電縫管製造装置の構成を模式的に示す図である。
図4図4は、図3に示す電縫管製造装置におけるブレイクダウンロールを部分断面図である。
図5図5は、本発明に係る実施例と比較例についての指標値Kと付着強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る表面改質鋼管の実施形態について図1Aから図5を参照して詳細に説明する。図1Aから図5において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、図1Aから図5においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や一部の構成要素が省略されている場合がある。以下の説明では、特に言及がない場合には、「第1」や「第2」などの用語は、構成要素を互いに区別するために使用されているだけであり、特定の順位や順番を表すものではない。
【0008】
本発明に係る表面改質鋼管は、土木建築物の建設などにおいてセメントやコンクリートなどの基礎材料に固定されて使用されるものである。また、本明細書では、このような基礎材料に固定された表面改質鋼管を基礎材料から押し抜くのに必要な単位面積当たりの荷重を付着強度(剥離強度)と定義する。ここで、本出願において「表面改質鋼管」とは鋼管の表面に径方向外側に突出する凸部及び径方向内側にへこむ凹部のうち少なくとも一方が形成された鋼管をいうものとする。
【0009】
鋼管の外周面に凸部や凹部が形成されている場合、セメントなどの基礎材料が固化する前に基礎材料が鋼管の外面に付着又は接触すると、基礎材料が鋼管の凸部や凹部に入り込んでいく。このとき、凹凸の少ない平滑な表面性状の鋼管であれば、固化した後の基礎材料と鋼管との間の付着強度は弱く、凹凸の多い表面性状の鋼管であれば、固化した後の基礎材料と鋼管との間の付着強度は強くなると考えられる。これは、外周面に凸部や凹部を形成した鋼管と基礎材料とのアンカー効果(投錨効果)によって、鋼管と基礎材料との間に強固な機械的な結合力が生じるためである。本発明者等は、どのような構造の表面改質鋼管であればこのアンカー効果が高まるのかについて鋭意研究を重ねたところ、外周面に形成される凸部や凹部によって定まる特定の指標値Kが付着強度に応じて増加することを発見した。そして、本発明者等は、この指標値Kが20以上であれば基礎材料との付着強度が極めて高くなる(35N/mm2以上)ことを見出した。
【0010】
本発明者等が発見した表面改質鋼管の指標値Kは以下の式により定義される。
K=α×h+β×u+γ×s/d
ここで、α=34.7、β=2.0、γ=0.4であり、dは表面改質鋼管の基準外周面の外径(mm)、hは基準外周面から径方向外側に突出する凸部の高さ(mm)、uは基準外周面から径方向内側にへこむ凹部の深さ(mm)、sは軸方向に沿った長さd(mm)において凸部及び凹部が占める面積の平均値(mm2)である。
【0011】
高さが2mmを超える凸部を有する鋼管は製造が難しいため、凸部の高さhは2mm以下であることが好ましい。また、深さが5mmを超える凹部を有する鋼管は製造が難しいため、凹部の深さuは5mm以下であることが好ましい。なお、製造ができるのであれば、凸部の高さhが2mmを超えていてもよいし、凹部の深さuが5mmを超えていてもよい。
【0012】
本明細書において、表面改質鋼管の基準外周面とは、周方向に沿って延びる外周面が1つの半径においてのみ存在する場合にはその外周面をいい、周方向に沿って延びる外周面が異なる半径において複数存在する場合には、面積の合計が最も広い外周面をいい、面積の合計が同一である外周面が複数存在する場合には、最も半径の小さい外周面をいう。
【0013】
使用される基礎材料の例としては、例えば、水分を1~90%含有し、3CaO・SiO2、MgO、Al23、3CaO・Al23、4CaO・Al23・Fe23、MgCO3、及びCaCO3のうち少なくとも1つを含み、30N/mm2以上の圧縮強度を有する材料(例えばセメントやコンクリート)が挙げられる。
【0014】
また、表面改質鋼管の肉厚をtとすると、表面改質鋼管の基準外周面の外径dに対する肉厚tの比(t/d)が0.01以上0.10以下であることが好ましい。t/dが0.01以上であれば表面改質鋼管としての強度を確保しやすく、t/dが0.10以下であれば表面改質鋼管の軽量化を図ることができる。
【0015】
図1Aは、本発明の第1の実施形態における表面改質鋼管10を示す正面図、図1B図1AのA-A線断面図である。図1A及び図1Bに示すように、この表面改質鋼管10は、周方向に沿って延びる外周面12と、外周面12から径方向外側に突出する複数の突起16(凸部)とを有している。これらの突起16は、互いに直交する向きの2種類の突起161,162を含んでおり、これら2種類の突起161,162が軸方向に沿って交互に規則的なパターンで配置されている。図1Aに示す例では、突起161は、軸周りに90度ごとに設けられており、周方向に配置された4つの突起161が所定のピッチP1で軸方向に並んで配置されている。また、突起162も、軸周りに90度ごとに設けられており、周方向に配置された4つの突起162が同じピッチP1で軸方向に並んで配置されている。
【0016】
突起16の頂面も周方向に沿って延びているが、その面積の合計は外周面12の面積の合計よりも小さいため、本実施形態においては外周面12が基準外周面となる。したがって、基準外周面の外径d1は、外周面12の外径として定義される。また、突起16の高さh1は、外周面12から半径方向外側に突起16が突出している距離として定義される。
【0017】
突起16は、軸方向に沿って上述したピッチP1ごとに繰り返し同じパターンで形成されている。したがって、この1ピッチP1あたりの突起16が占める面積S1を測定することで、軸方向に沿った長さd1あたりの突起16が占める面積の平均値s1をs1=S1×(d1/P1)により算出することができる。
【0018】
このような表面改質鋼管10の指標値Kは、上述したように、
K=α×h1+γ×s1/d1=α×h1+γ×S1/P1
で定義される(α=34.7、γ=0.4)。本実施形態における表面改質鋼管10の指標値Kは20以上である。
【0019】
図2Aは、本発明の第2の実施形態における表面改質鋼管20を示す正面図、図2Bは、図2AのB-B線断面図である。図2A及び図2Bに示すように、この表面改質鋼管20は、図1A及び図1Bに示す表面改質鋼管10の外周面12に、さらに径方向内側にへこむ複数の溝部24(凹部)を形成したものである。それぞれの溝部24は軸方向に延びており、複数の溝部24が所定のピッチP2(>P1)で軸方向に並んで配置されている。図示の例では、溝部24は中心軸周り90度ごとに形成されているが、中心軸周り90度ごとに軸方向にずれている(溝部241と溝部242)。
【0020】
溝部24の深さu2は、外周面12から溝部24の最深部までの距離として定義される。
【0021】
突起16及び溝部24は、軸方向に沿って上述したピッチP2ごとに繰り返し同じパターンで形成されている。したがって、この1ピッチP2あたりの突起16及び溝部24が占める面積S2を測定することで、方向に沿った長さd1あたりの突起16及び溝部24が占める面積の平均値s2はs2=S2×(d1/P2)により算出することができる。
【0022】
このような表面改質鋼管20の指標値は、
K=α×h1+β×u2+γ×s2/d1=α×h1+β×u2+γ×S2/P2
で定義される(α=34.7、β=2.0、γ=0.4)。本実施形態における表面改質鋼管20の指標値Kは20以上である。
【0023】
上述した表面改質鋼管10,20は、例えば図3に示すような電縫管製造装置100によって製造することができる。この電縫管製造装置100は、コイル状に巻かれた帯状の鋼板材110を下流側(造管方向)に連続的に送り出すアンコイラ120と、鋼板材110の表面から突出する凸部及び/又は表面からへこむ凹部を形成する1組の改質ロール131,132と、改質ロール131,132の下流側で鋼板材110を円筒状に成形する複数組の成形ロール140と、円筒状に成形された鋼板材110の端面同士の突き合わせ部分を高周波誘導加熱により電縫溶接して表面改質鋼管170を形成するコイル150と、電縫溶接された表面改質鋼管を冷却する冷却ユニット160とを備えている。図3に示す成形ロール140は、上流側のブレイクダウンロール142と下流側のフィンパスロール144とを含んでいる。
【0024】
表面改質鋼管170に例えば上述した突起16を形成する場合には、鋼管の内周面に対応する側の改質ロール132に突起が設けられ、鋼管の外周面に対応する側の改質ロール131には、改質ロール132の突出部に対応する溝が設けられる。この改質ロール132の突起により鋼板材110を改質ロール131側に押し込んで鋼板材110に突起(電縫溶接後には突起16となる)を形成することができる。また、表面改質鋼管170に例えば上述した溝部24を形成する場合には、鋼管の外周面に対応する側の改質ロール131に突起が設けられ、鋼管の内周面に対応する側の改質ロール132には、改質ロール131の突出部に対応する溝が設けられる。この改質ロール131の突起により鋼板材110を改質ロール132側に押し込んで鋼板材110に溝部(電縫溶接後には溝部24となる)を形成することができる。これらの改質ロール131,132の突出部及び溝の形状及び寸法は、製造される表面改質鋼管170の指標値Kが20以上となるように設定されている。
【0025】
図4は、1組のブレイクダウンロール142を示す部分断面図である。例えば、表面改質鋼管170に溝部24を形成する場合には、上述したように改質ロール131の突起と改質ロール132の溝によって鋼板材110に溝部111が形成されるが、これに伴い鋼板材110には反対側が突出する突起112が形成される。本実施形態では、ブレイクダウンロール142がこの鋼板材110の突起112及び溝部111を潰してしまわないように、鋼板材110の突起112に対向する側のブレイクダウンロール142Aの外周面に逃げ溝143が形成されている。表面改質鋼管170に突起16を形成する場合には反対側のブレイクダウンロール142Bに同様の逃げ溝が形成される。本実施形態では、このような逃げ溝143が成形ロール140のうちブレイクダウンロール142に形成されているが、すべての成形ロール140にこのような逃げ溝を形成することも可能である。
【0026】
このように、図3に示す例では、改質ロール131,132によって上述した突起16及び溝部24に対応する凸部及び凹部のうち少なくとも一方を鋼板材110に形成し(改質ステップ)、その後鋼板材110を複数の成形ロール140を用いて円筒状に成形し(成形ステップ)、円筒状に成形された鋼板材110の端面同士の突き合わせ部分をコイル150によって電縫溶接して表面改質鋼管170を形成し(鋼管形成ステップ)、形成された表面改質鋼管170を冷却ユニット160により冷却することにより表面改質鋼管170が完成する。
【0027】
図3に示す例では、改質ロール131,132を用いて鋼板材110に凸部及び/又は凹部を形成しているが、鋼板材110をコイル状に巻く前に改質ステップを行ってもよい。例えば、炭素を0.01~0.4質量%含む炭素鋼板を加熱して圧延する際(熱間圧延工程)に、凸部及び/又は凹部からなる模様を有する圧延ロールの間に鋼板を通すことで模様を鋼板に転写して凸部及び/又は凹部を有する鋼板を作製し、これをコイル状に巻いたものを電縫管製造装置100に導入してもよい。
【実施例
【0028】
実施例1として図1A及び図1Bに示す表面改質鋼管10を用意した。この表面改質鋼管10の基準外周面(外周面12)の外径d1=48.6mm、突起16の高さh1=0.8mmであった。1ピッチP1あたりの突起16が占める面積S1を測定し、この測定値から軸方向に沿った長さd1あたりの突起16が占める面積の平均値s1を算出したところ、s1=1487mm2であった。この実施例1の表面改質鋼管10の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.8+0.4×1487/48.6=40.0
であった。
【0029】
実施例2として図2A及び図2Bに示す表面改質鋼管20を用意した。この表面改質鋼管20の基準外周面(外周面12)の外径d1=48.6mm、突起16の高さh1=0.8mm、溝部24の深さu2=1.8mmであった。1ピッチP2あたりの突起16及び溝部24が占める面積S2を測定し、この測定値から軸方向に沿った長さd1あたりの突起16及び溝部24が占める面積の平均値s2を算出したところ、s2=1578mm2であった。この実施例2の表面改質鋼管20の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.8+2.0×1.8+0.4×1578/48.6=44.3
であった。
【0030】
実施例3として外周面に多数の小さな突起が梨地模様状に分布した表面改質鋼管を用意した。この表面改質鋼管の外周面(基準外周面)の外径d3=48.6mm、梨地模様状の突起の高さh3=0.2mmであった。軸方向に沿った長さd3あたりの梨地模様状の突起が占める面積の平均値s3を算出したところ、s3=2974mm2であった。この実施例3の表面改質鋼管の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.2+0.4×2974/48.6=31.4
であった。
【0031】
実施例4として実施例3の表面改質鋼管の外周面に実施例2と同様の溝部を形成したものを用意した。すなわち、外周面の外径d3=48.6mm、梨地模様状の突起の高さh3=0.2mm、溝部の深さu4=2.2mmであった。軸方向に沿った長さd3あたりの梨地模様状の突起及び溝部が占める面積の平均値s4を算出したところ、s4=3849mm2であった。この実施例4の表面改質鋼管の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.2+2.0×2.2+0.4×3849/48.6=43.0
であった。
【0032】
実施例5として実施例3の表面改質鋼管とは梨地模様状の突起の高さのみが異なるもの(高さh5=0.1mm)を用意した。この実施例5の表面改質鋼管の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.1+0.4×2974/48.6=27.9
であった。
【0033】
比較例1として外周面に凸部や凹部のない外径48.6mmの丸形鋼管を用意した。この比較例1の丸形鋼管の指標値Kを算出すると、
K=0.0
であった。
【0034】
比較例2として比較例1の丸形鋼管の外周面に図2A及び図2Bに示す溝部24と同様の溝部を形成した表面改質鋼管を用意した。この表面改質鋼管の溝部の深さは3.0mmであり、軸方向に沿った長さ48.6mmあたりの溝部が占める面積の平均値を算出したところ、1458mm2であった。この比較例2の溝付丸形鋼管の指標値Kを算出すると、
K=2.0×3.0+0.4×1458/48.6=18.0
であった。
【0035】
比較例3として比較例2の溝の数を半分にした表面改質鋼管を用意した。この比較例3の溝付丸形鋼管の指標値Kを算出すると、
K=2.0×3.0+0.4×729/48.6=12.0
であった。
【0036】
比較例4として実施例1の表面改質鋼管とは突起の高さのみが異なるもの(突起の高さ0.2mm)を用意した。この比較例4の表面改質鋼管の指標値Kを算出すると、
K=34.7×0.2+0.4×1487/48.6=19.2
であった。
【0037】
実施例1~5及び比較例1~4の鋼管(長さ200mm)を用意し、それぞれの鋼管を長さ120mm、内径165.2mmの容器内に配置し、長さ200mmの鋼管のうち120mmを基礎材料としてのセメントミルクに浸し、その後セメントミルクを固化させた。セメントミルクとしては、太平洋セメント社製の普通ポルトランドセメント1.0に対して水道水0.5を加え、圧縮強度37.6N/mm2を有するものを用いた。打設してから材齢7日経過後に油圧プレス機で鋼管を基礎材料から押し抜くのに必要な荷重を付着強度として測定した。このような実験を3回行い、その平均値を比較した。その結果は以下の通りである。
【表1】
【0038】
図5は、上記結果を指標値Kと付着強度との関係を示すグラフとして表したものである。図5から、指標値Kが大きくなれば付着強度が増加することがわかる。このグラフから、近年鋼管に求められている付着強度35N/mm2以上を得るためには、指標値Kが20以上であればよいことがわかる。指標値Kが20以上である実施例1~5の表面改質鋼管は、比較例1の丸形鋼管に対して8倍を超える付着強度を実現している。さらに付着強度を高めるためには、表面改質鋼管の指標値Kが30以上であることが好ましく、40以上であることがさらに好ましい。
【0039】
以上述べたように、基準外周面の外径をd(mm)、凸部の基準外周面からの高さをh(mm)、凹部の基準外周面からの深さをu(mm)、軸方向に沿った長さd(mm)あたりの凸部及び凹部が占める面積の平均値をs(mm2)として、K=α×h+β×u+γ×s/d(ただし、α=34.7、β=2.0、γ=0.4)で定義される指標値Kが20以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上となるように凸部及び/又は凹部を鋼管の外周面に形成すれば、基礎材料との付着強度が極めて高くなる。35N/mm2以上の圧縮強度を有する基礎材料にこのような表面改質鋼管を固定すれば35N/mm2以上の付着強度が得られる。
【0040】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
10,20 表面改質鋼管
12 外周面(基準外周面)
16,161,162 突起(凸部)
24,241,242 溝部(凹部)
100 電縫管製造装置
110 鋼板材
111 溝部
112 突起
120 アンコイラ
131,132 改質ロール
140 成形ロール
142,142A,142B ブレイクダウンロール
143 逃げ溝
144 フィンパスロール
150 コイル
160 冷却ユニット
170 表面改質鋼管
【要約】
【課題】高い付着強度を実現できる表面改質鋼管を提供する。
【解決手段】表面改質鋼管20は、周方向に沿って延びる外周面12と、外周面12から径方向外側に突出する突起16と、外周面12から径方向内側にへこむ溝部24とを有する。外周面12の外径をd1(mm)、突起16の高さをh1(mm)、溝部24の深さをu2(mm)、軸方向に沿った長さd1(mm)あたりの突起16及び溝部24が占める面積の平均値をs(mm2)としてK=α×h1+β×u2+γ×s/d1(ただし、α=34.7、β=2.0、γ=0.4)で定義される指標値Kが20以上である。
【選択図】図2B
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5