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特許7644320ウリジン一リン酸又は3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エンの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】ウリジン一リン酸又は3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エンの使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20250305BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250305BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20250305BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20250305BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20250305BHJP
   A61K 31/575 20060101ALN20250305BHJP
   A61K 31/661 20060101ALN20250305BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20250305BHJP
   A61P 17/16 20060101ALN20250305BHJP
   A61P 17/18 20060101ALN20250305BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
A61K8/55
A23L33/10
A61K8/63
A61Q17/04
A61Q19/02
A61K31/575
A61K31/661
A61P17/00
A61P17/16
A61P17/18
A61P43/00 107
A61P43/00 111
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020147625
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042273
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510232740
【氏名又は名称】ドクタープロラボジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】西尾 朋恵
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141475(JP,A)
【文献】特開平09-255552(JP,A)
【文献】特表2004-529975(JP,A)
【文献】特開2013-034423(JP,A)
【文献】特開2017-012104(JP,A)
【文献】食品中に含まれるメラニン生成調節物質の検索,FRAGRANCE JOURNAL,1997.09,page.63-68
【文献】学会報告 第35回日本美容皮膚科学会総会・学術大会,FRAGRANCE JOURNAL,2017.09,page.100-101
【文献】凍結酵素抽出法を用いたプラセンタエキスの化粧品への応用,FRAGRANCE JOURNAL,2019.03,page.69-72
【文献】美肌・美白素材ウマプラセンタエキス「サラプレックス(登録商標)」,FRAGRNACE JOURNAL,2010.09,page.119-120
【文献】ホルス発酵プラセンタ,FRAGRANCE JOURNAL,2013.09,page.62-63
【文献】非分解プラセンタ内服による肌解析結果の考察,New Food Industry,2017年,Vol.59, No.11,page.85-87
【文献】油性剤型に高配合可能なプラセンタ原料の効果について,FRAGRANCE JOURNAL,2020.06,page.64-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 33/00-33/29
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
A61P 17/00-17/18
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(iv):
【化1】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)、又は下記一般式(vi):
【化2】
で表される3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(3β,6β-dihydroxycholest-5-ene)の、細胞内についてはメラニン産生量を増大させて紫外線に対しメラニンによる防護を図りつつ、細胞外におけるメラニン分泌を抑制して過度な色素沈着等を抑制するための化粧料中又は機能性食品中における有効成分又は保健機能成分としての使用(ただし、人間を治療する方法に該当する使用を除く。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラセンタ抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
健康や美容は、時代にかかわらず多くの人々の関心事である。それゆえ、健康に良いものや美容に良いものとして、これまでに様々な素材が提案されている。
【0003】
中でも、哺乳類の胎盤(プラセンタ)やその抽出物は、健康と美容の両側面において増進をもたらす新たな素材として、男女問わず幅広い年代層から注目されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-158214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにプラセンタは、健康のサポートを目的として健康食品に、また、美容のサポートを図るべく化粧料分野において、主に抽出物の状態でそれぞれ利用されており、日々の健康や肌の調子の面において使用者に好評を得ている。
【0006】
しかしながら、これまで提案されていた健康食品や化粧料は、プラセンタの配合の意義が必ずしも明確にされることなく使用される場合があった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、より明確な目的の下でのプラセンタ抽出物の新たな使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来の課題を解決するために本発明では、下記一般式(iv):
【化5】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)、又は下記一般式(vi):
【化7】
で表される3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(3β,6β-dihydroxycholest-5-ene)を、細胞内についてはメラニン産生量を増大させて紫外線に対しメラニンによる防護を図りつつ、細胞外におけるメラニン分泌を抑制して過度な色素沈着等を抑制するための化粧料中又は機能性食品中における有効成分又は保健機能成分として使用することとした(ただし、人間を治療する方法に該当する使用を除く。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下記一般式(iv):
【化15】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)、又は下記一般式(vi):
【化17】
で表される3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(3β,6β-dihydroxycholest-5-ene)を、細胞内についてはメラニン産生量を増大させて紫外線に対しメラニンによる防護を図りつつ、細胞外におけるメラニン分泌を抑制して過度な色素沈着等を抑制するための化粧料中又は機能性食品中における有効成分又は保健機能成分として使用すれば(ただし、人間を治療する方法に該当する使用を除く。)、上述の成分により細胞内についてはメラニン産生量を増大させつつ、細胞外におけるメラニン分泌を抑制する新たな化粧料や機能性食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】メラニン生成・抑制能確認試験(第1試験)の試験結果を示す説明図である。
図2】ヒアルロン酸産生試験の試験結果を示す説明図である。
図3】コラーゲン産生試験の試験結果を示す説明図である。
図4】エラスターゼ活性阻害試験の試験結果を示す説明図である。
図5】抗アレルギー活性評価試験の試験結果を示す説明図である。
図6】チロシナーゼ阻害活性試験の試験結果を示す説明図である。
図7】メラニン生成・抑制能確認試験(第2試験)の試験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、プラセンタ抽出物の使用方法に関し、より詳細には、これまでプラセンタ抽出物の添加の意義が必ずしも明確にされることなく使用されることもあった健康食品や化粧料において、より明確な目的の下でのプラセンタ抽出物の新たな使用方法を提供するものである。
【0019】
特に、本実施形態に係る使用では、化粧料又は機能性食品におけるメラニン生成を抑制又は促進する成分、ヒアルロン酸産生促進成分、コラーゲン産生促進成分、エラスターゼ活性阻害成分、抗アレルギー活性促進成分、チロシナーゼ活性阻害成分から選ばれるいずれかの成分の添加材料として、プラセンタ抽出物を使用する点において特徴的である。
【0020】
プラセンタ抽出物は、哺乳類の胎盤(プラセンタ)の抽出物であり、例えば溶媒を用いて抽出した場合は、その抽出液であったり、抽出液の乾燥物がプラセンタ抽出物に含まれる。
【0021】
プラセンタ抽出物の抽出元であるプラセンタは、特に限定されるものではなく、ブタ、ウマ、ヒトをはじめ種々の哺乳類のプラセンタを採用することができる。
【0022】
化粧料は、いわゆるメーキャップ化粧品の他、基礎化粧品やヘアトニック、香水、歯磨き、シャンプー、リンス、身体の洗浄等に用いられる石鹸や洗浄料、入浴剤などのトイレタリー製品も含むものであり、また、予防効果等を謳う、薬用化粧品も含まれる。
【0023】
また、メーキャップ化粧品としては、ファンデーションや眉墨(アイブロー)、マスカラ、アイシャドー、アイライン、口紅、グロス、頬紅(チーク)、白粉、マニキュアなどが挙げられ、基礎化粧品としては、例えば化粧水や乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリームなどが挙げられる。
【0024】
また機能性食品は、医薬品成分を含まない健康の保持増進に寄与するとされる食品全般を包含する概念であり、例えば、栄養補助食品や健康補助食品、栄養調整食品のほか、所謂サプリメントなどの一般食品であったり、特定保健用食品や栄養機能食品、機能性表示食品の如き保健機能食品も含まれる。
【0025】
なお、上述した化粧料や機能性食品についての説明は、本発明の理解に供すべくこれらに相当する物品等の一例を列挙したものであり、各語句の解釈はこれら列挙された物品等に限定されるものではない。ただし、本出願人が本願を権利化するにあたり、本発明をこれら物品等に限定することを妨げない。
【0026】
また本実施形態では、プラセンタ抽出物を、メラニン生成を抑制又は促進する成分、ヒアルロン酸産生促進成分、コラーゲン産生促進成分、エラスターゼ活性阻害成分、抗アレルギー活性促進成分、チロシナーゼ活性阻害成分から選ばれるいずれかの成分の添加材料として使用する。
【0027】
ここで、添加材料としての使用とは、上記各成分を含有させるべくプラセンタ抽出物を化粧料や機能性食品に添加することを意味するほか、プラセンタ抽出物を上記各成分の抽出材料として使用することも含まれる。後者の場合、抽出された各成分が化粧料や機能性食品に添加されることとなる。
【0028】
プラセンタ抽出物の使用は、メラニン生成を抑制又は促進する成分、ヒアルロン酸産生促進成分、コラーゲン産生促進成分、エラスターゼ活性阻害成分、抗アレルギー活性促進成分、チロシナーゼ活性阻害成分から選ばれるいずれかの成分の添加材料であることを目的とする。
【0029】
これら各成分は追って詳述するが、本発明者らの鋭意研究により明らかとなったものであり、プラセンタ抽出物自体がこれらの成分としての機能を発揮する。ただし、プラセンタ抽出物を構成する全ての成分が同機能を発揮する必要はなく、実質的には、プラセンタ抽出物に含まれる一部の単一の物質により作用が発揮されても良いし、また、複数の物質によって作用が発揮されても良い。
【0030】
メラニン生成を抑制又は促進する成分は、化粧料の態様にて外用的に、及び/または機能性食品の態様にて経口的に(以下、外用・経口使用態様と称する。)使用して皮膚におけるメラニンの生成を抑制又は促進できれば良い。このような成分は、後述するメラニン生成試験にて確認を行うことができる。
【0031】
ヒアルロン酸産生促進成分やコラーゲン産生促進成分は、外用・経口使用態様での使用でヒアルロン酸やコラーゲンの産生を促進できれば良く、例えば後述するコラーゲン、ヒアルロン酸産生試験にて確認を行うことができる。
【0032】
エラスターゼ活性阻害成分は、外用・経口使用態様での使用でエラスターゼの活性を阻害してエラスチンの分解をすることができれば良く、例えば後述するエラスターゼ活性阻害試験にて確認を行うことができる。
【0033】
抗アレルギー活性促進成分は、外用・経口使用態様での使用でアレルギー症状を抑制することができれば良く、例えば後述する抗アレルギー活性試験の如くβ-ヘキソサミニダーゼ活性を測定することで確認を行うことができる。
【0034】
チロシナーゼ活性阻害成分は、外用・経口使用態様での使用でチロシナーゼの活性を阻害し、メラニンの定着を防止できれば良く、例えば後述するチロシナーゼ阻害活性試験にて確認を行うことができる。
【0035】
またプラセンタ抽出物は、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール、ヘキサンから選ばれるいずれか1つ若しくはいずれか2つ以上の混合液からなる非水系特定溶媒に対して溶解性を示す成分群よりなることとしても良い。
【0036】
すなわち、プラセンタ抽出物は、非水系特定溶媒によって抽出された抽出物とすることができる。
【0037】
そして、非水系特定溶媒に対して溶解性を示す成分群よりなるプラセンタ抽出物を前述の各成分として使用することにより、メラニン生成を促進する作用を呈することができ、また、水性溶媒に対して溶解性を示す成分群に含まれるエラスターゼ活性阻害成分に比してより顕著なエラスターゼ活性阻害作用を呈することができる。
【0038】
またプラセンタ抽出物は、水を主成分とする水系溶媒に対して溶解性を示す成分群よりなることとしても良い。換言すれば、プラセンタ抽出物は水系溶媒によって抽出された抽出物とすることができる。
【0039】
ここで水系溶媒は水を主成分とした溶媒であり、水そのものの他に、例えば50w/w%以上の割合で水を含有する溶媒が含まれる。水系溶媒を構成する水以外の成分としては、例えば、水に対して溶解性を示す固体(粉末等)の成分であったり、アルコールの如き水と混和性を示す液体とすることができる。
【0040】
このように、水系溶媒に対して溶解性を示す成分群よりなるプラセンタ抽出物を前述の各成分として使用することにより、メラニン生成を抑制する作用や、非水系特定溶媒に対して溶解性を示す成分群に含まれるヒアルロン酸産生促進成分やコラーゲン産生促進成分に比してより顕著な各作用を呈することができる。
【0041】
また溶媒は、水系溶媒と非水系特定溶媒との混合溶媒としても良い。すなわち、50w/w%未満の割合で水を含み、残余を非水系特定溶媒や、調製する混合溶媒に対して溶解性を示す固体(粉末等)とした混合溶媒することで、上述のプラセンタ抽出物とは異なる組成割合を備えたプラセンタ抽出物を調製することができる。
【0042】
また本願は、本発明者がプラセンタ抽出物より見出した成分の、メラニンの生成促進を目的とした化粧料中の有効成分又は機能性食品中の保健機能成分としての使用方法についても提供するものである。
【0043】
具体的には、下記一般式(i):
【化21】
で表されるコレステロール(Cholesterol)、又は下記一般式(ii):
【化22】
で表されるコレステロール-7-オン(Cholesterol-7-one)、又は下記一般式(iii):
【化23】
で表されるコレスタ-3,5-ジエン-7-オン(Cholesta-3,5-diene-7-one)、又は下記一般式(iv):
【化24】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)の、メラニンの生成促進を目的とした使用であり、これら(i)~(iv)に示す物質のメラニンの生成促進能については、追ってデータを示して説明する。
【0044】
また本願は、下記一般式(iv):
【化25】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)、又は下記一般式(v):
【化26】
で表される3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン(3β-hydroxycholest-4-ene-6-one)、又は下記一般式(vi):
【化27】
で表される3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(3β,6β-dihydroxycholest-5-ene)、又は下記一般式(vii):
【化28】
で表されるコレステリルオレアート(Cholestereyl oleate)、又は下記一般式(viii):
【化29】
で表されるパルミチン酸(Palmitic acid)、又は下記一般式(ix):
【化30】
で表されるチミン(Thymine)の、メラニンの生成抑制を目的とした使用であり、これら(iv)~(ix)に示す物質のメラニンの生成抑制能については、追ってデータを示して説明する。
【0045】
そして、これら(i)~(ix)の成分を、化粧料中又は機能性食品中におけるメラニンの生成促進や生成抑制を目的とした有効成分又は保健機能成分として使用すれば、上述の成分によりメラニンの生成を促進又は抑制する新たな化粧料や機能性食品を提供することができる。
【0046】
以下、本実施形態に係る各使用方法について、実験結果を参照しながら更に説明する。なお、以下ではウマ由来のプラセンタ(胎盤)より抽出したプラセンタ抽出物(以下、ウマプラセンタ抽出物という。)を用いた例について説明するが、プラセンタの由来はウマに限定されるものではない。
【0047】
〔1.プラセンタ抽出物の調製〕
近年、化粧料や機能性食品に配合する機能性素材として、様々な天然成分が使用されている。中でも、哺乳類の胎盤であるプラセンタは、美容や健康維持に寄与する素材として注目されている。
【0048】
しかし、先に述べたように、プラセンタやその抽出物が持つ機能性について科学的に検討された例は未だ少ないのが現状である。そこでここでは、ウマプラセンタを代表例とし、幾つかの機能性評価試験を実施して有効性を確認すべく、まずはプラセンタ抽出物の調製を行った。
【0049】
ウマプラセンタ抽出物の抽出原料として、ウマプラセンタ粉末を使用した。ウマプラセンタ粉末は、ウマ胎盤の凍結乾燥粉末である。
【0050】
まず、100mgのウマプラセンタ粉末を1.5mlチューブに量り取り、1mlの抽出溶媒を添加して、室温にて30分間撹拌を行った。抽出溶媒は、水系溶媒として滅菌超純水、非水系特定溶媒としてジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide : 以下、DMSOともいう。)をそれぞれ使用した。
【0051】
撹拌後、チューブを室温に静置し、得られた上清をウマプラセンタ抽出物とした。なお、このウマプラセンタ抽出物は、100mgのプラセンタ粉末に1mlの抽出溶媒を添加して調製したことに由来し、100mg/mlサンプルと称することとした。また、以下の各試験において、100mg/mlサンプルを適宜希釈して調製した希釈サンプルに関し、例えば100倍希釈されたサンプルであれば1mg/mlサンプル、10000倍希釈されたサンプルであれば10μg/mlサンプルのように表現する。
【0052】
〔2.メラニン生成・抑制能確認試験(第1試験)〕
メラニンはフェノール類物質が高分子化して色素になった物質の総称である。ヒトの皮膚に存在するメラニンは、チロシンから合成された様々なインドール化合物がポリマーを形成した形態をとっている。
【0053】
メラニンの最も重要な役割は、紫外線防御であり、紫外線による日光障害や悪性腫瘍の発症を抑制する。メラニンのそのほかの機能としては、生体に有蓋な活性酸素種の吸収、金属や薬剤の取り込みなどが知られている。
【0054】
メラニンを含む細胞は徐々に角質上層に異同し、脂質代謝酵素(リパーゼなど)やタンパク質分解酵素(エラスターゼなど)の作用によって細胞間の接着が分解され、最終的に角質は剥離、脱落する。
【0055】
本試験では、ヒトメラノーマ細胞(G361細胞株)をモデル細胞として、細胞とサンプルとを共培養し、培養液中に生成されたメラニンと細胞生存率を測定した。
【0056】
細胞培養の方法としては、ヒトメラノーマ細胞(G361細胞株)はMcCoy's 5A medium(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS))を用いて前培養した。
【0057】
その後、24穴プレートに1.0×105cells/mlの濃度で0.5mlを播種し、CO2インキュベータ(37℃、5% CO2)にてオーバーナイト培養した。
【0058】
オーバーナイト後、培地を除去し、0.5mlの新しい培地と所定の濃度に希釈された2.5μlのプラセンタ抽出物の各サンプル(以下、各希釈サンプルともいう。)を添加し、再びCO2インキュベータにて72時間培養を行った。
【0059】
また、メラニン生成・抑制能の確認は、産生されたメラニン量を確認することで行った。具体的には、72時間の培養が行われたプレートから培地を除去し、各ウェルをPBS(Phosphate Buffered Saline; リン酸緩衝食塩水)にて洗浄した後に各ウェルに1mlの1M NaOH溶液を加え、室温で4時間反応させ、プレートリーダにて405nmにおける吸光度を測定することでメラニン産生量とした。
【0060】
また、細胞生存率の測定は、MTT法により行った。72時間の培養が行われたプレートから培地を除去し、各ウェルに1mlの新しい培地を添加する。次いで、各ウェルにMTT染色液(5mg/ml in PBS)を200μl添加し、CO2インキュベータにて4時間に亘り静置培養した。
【0061】
そして、培地を除去し、各ウェルに塩酸-イソプロパノール溶液を1mlずつ加えて、ピペッティングにてホルマザンを完全に溶解させ、マイクロプレートリーダで570nmにおける吸光度を測定することで、細胞生存率の算出を行った。
【0062】
図1はコントロールに対するメラニン生産比を示したグラフであり、図1(a)は水系溶媒にて抽出したプラセンタ抽出物(以下、プラセンタ水系抽出物ともいう。)によるメラニン生産比を示し、図1(b)は非水系特定溶媒にて抽出したプラセンタ抽出物(以下、プラセンタ非水系抽出物という。)によるメラニン生産比を示している。
【0063】
図1(a)に示すように、プラセンタ水系抽出物に関し、400μg/mlサンプル、100μg/mlサンプル、10μg/mlサンプルについて確認を行ったところ、検討された全ての濃度において約20%程度のメラニン生成抑制効果が認められた。
【0064】
このことより、プラセンタ水系抽出物には、メラニン生成を抑制する成分、換言すれば肌の美白に寄与する成分が存在するものと考えられた。
【0065】
またこれに対し、プラセンタ非水系抽出物に関し各希釈サンプルについて確認を行ったところ、図1(b)に示すように、検討された全ての濃度において約20~40%程度のメラニン生成促進効果が認められた。
【0066】
このことより、プラセンタ非水系抽出物には、メラニン生成を促進する成分が含まれており、毛髪の黒色を維持するなどの効果があるものと考えられた。
【0067】
また、これら水系、非水系のプラセンタ抽出物についての結果を踏まえると、プラセンタ水系抽出物とプラセンタ非水系抽出物とでは、メラニンの産生においてそれぞれ「抑制」と「促進」という正反対の性質を持つ点が明らかとなったのは、実に興味深い点であると言える。
【0068】
〔3.コラーゲン・ヒアルロン酸産生試験〕
コラーゲンは、動物の皮膚などの結合組織を形成する構造タンパク質である。コラーゲンは皮膚の構造維持に貢献しており、皮膚を若々しく保ち、シワを作らないために重要である。
【0069】
コラーゲンは、皮膚の真皮に存在する繊維芽細胞により産生され、繊維芽細胞のコラーゲン産生を促進することができれば、若々しい皮膚を維持することができる。それゆえ、繊維芽細胞のコラーゲン産生促進成分は、抗老化の化粧品素材として有用であると考えられる。
【0070】
またヒアルロン酸は、主に皮膚真皮の主要な細胞である繊維芽細胞やその他結合組織の細胞によって産生される。細胞外マトリックスの主成分となっており、様々な細胞間相互作用に関与している。またその他、高濃度で滑液中に存在し、関節の正常な水分保持と潤滑を担っている。
【0071】
本試験では、繊維芽細胞培養系への本実施形態に係るプラセンタ抽出物の添加によるコラーゲンやヒアルロン酸の産生能を測定し、プラセンタ抽出物における肌の水分保持効果に関する評価を行う。
本試験方法としては、モデル細胞として成人皮膚繊維芽細胞(NHDF-Ad)を用いた。
マイクロウェルプレートに1.0×104cells/wellずつ播種し、CO2インキュベータ(37℃、5% CO2)にて24時間に亘り前培養した。
【0072】
前培養の後、培地を除去し、新しい培地と所定の濃度に希釈された各希釈サンプルを添加し、再びCO2インキュベータにて72時間培養を行い、培養液中に産生されたコラーゲン量とヒアルロン酸量を、市販のELISAキットを用いて測定した。同様に、同じ細胞を用いてMTT試験を行った。
【0073】
図2はコントロールに対するヒアルロン酸産生比を示したグラフであり、図2(a)はプラセンタ水系抽出物によるヒアルロン酸産生比を示し、図2(b)はプラセンタ非水系抽出物によるヒアルロン酸産生比を示している。
【0074】
図2(a)に示すように、プラセンタ水系抽出物の添加により、ヒアルロン酸産生の上昇が認められた。このことから、プラセンタ水系抽出物には、ヒアルロン酸の産生を促進する成分が含まれていることが示唆された。
【0075】
これに対し、プラセンタ非水系抽出物に関し各希釈サンプルについて確認を行ったところ、図2(b)に示すように、検討されたいずれの濃度においても、ヒアルロン酸産生の上昇は認められなかった。すなわち、プラセンタ非水系抽出物には、ヒアルロン酸の産生の促進効果は有しないものと考えられた。
【0076】
図3はコントロールに対するコラーゲン産生比を示したグラフであり、図3(a)はプラセンタ水系抽出物によるコラーゲン産生比を示し、図3(b)はプラセンタ非水系抽出物によるコラーゲン産生比を示している。
【0077】
図3(a)に示すように、プラセンタ水系抽出物において、顕著なコラーゲン産生の上昇が認められた。また、プラセンタ非水系抽出物においても、100μg/mlサンプルの添加によるコラーゲン産生の上昇が認められた。
【0078】
これらのことから、水系、非水系のプラセンタ抽出物のいずれにおいても、コラーゲンの産生を促進する成分が含まれていることが示唆された。
【0079】
また本試験結果を踏まえると、プラセンタ水系抽出物には、ヒアルロン酸及びコラーゲン産生を促進させる成分が、また、プラセンタ非水系抽出物にはコラーゲン産生を促進させる成分が含まれていることが示唆された。
【0080】
〔4.エラスターゼ活性阻害試験〕
真皮に存在するコラーゲン・エラスチンの架橋構造は、肌の弾力を保持する重要な役割を果たしている。エラスチン分解酵素であるエラスターゼは、紫外線等による刺激によって誘導され、エラスチンが分解されると、架橋構造が脆くなり肌の弾力が失われる。本試験では、エラスターゼ阻害活性を測定することで、プラセンタ抽出物が有する肌弾力保持機能を評価する。
【0081】
本試験では、細胞溶解液を実験に用いた。細胞溶解液を調製は、まず、コンフルエントになるまで前培養したヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF-Ad)をPBSで洗浄し、細胞溶解液にて1.0×106cells/mlに再懸濁した。その後、超音波処理を行い、4℃、13,000rpmで15分間遠心し、上清を細胞溶解液として回収した。
【0082】
次に、このようにして調製した細胞溶解液12.5μlに対し、35.5μlの0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)と、2μlの各希釈サンプルとを混合し、37℃にて15分間インキュベートした。その後、エラスターゼの基質として50μlの5mM N-スクシニル-Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド(N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilide)を添加し、37℃にて3時間インキュベートした。そして、マイクロプレートリーダで405nmにおける吸光度を測定し、エラスターゼ活性を算出した。なお、ポジティブコントロールとして、エラスターゼ阻害剤であるホスホラミドン(終濃度0.04mM)を使用した。
【0083】
図4はコントロールに対するエラスターゼ活性比を示したグラフであり、図4(a)はプラセンタ水系抽出物によるエラスターゼ活性比を示し、図4(b)はプラセンタ非水系抽出物によるエラスターゼ活性比を示している。
【0084】
図4(a)に示すように、プラセンタ水系抽出物においては、1600μg/mlサンプルと400μg/mlサンプルについて、凡そ30%程度のエラスターゼ活性の低下が認められた。しかしながら、40μg/mlサンプルでは、エラスターゼ活性の低下は認められなかった。
【0085】
これに対し、プラセンタ非水系抽出物においては、図4(b)に示すように、400μg/mlサンプルについて約20%、1600μg/mlサンプルについては約60%ものエラスターゼ活性の低下が認められた。
【0086】
これらのことから、水系、非水系のプラセンタ抽出物はエラスターゼ活性を阻害する成分が含まれていることが示唆された。
【0087】
特に、プラセンタ水系抽出物にあっては、おそらく100μg/ml以上の濃度、図4(a)に示す結果に基づくならば400μg/ml以上の濃度での使用、また、プラセンタ非水系抽出物にあっては40μg/ml以上の濃度、より効果的には400μg/ml以上の濃度での使用により、プラセンタ抽出物をエラスターゼ活性阻害の有効成分とする肌弾力の保持に寄与できる可能性が期待される。
【0088】
〔5.抗アレルギー活性評価試験〕
炎症が繰り返されてしまう花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギーの発症メカニズムは未だ不明であるが、種々の免疫機構のうち好塩基球が顆粒を放出することが原因の一つであると考えられている。
【0089】
そこで本試験では、好塩基球のモデル細胞としてラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3)を用い、プラセンタ抽出物による顆粒放出抑制活性(抗アレルギー活性)の評価を行った。顆粒にはβ-ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)が含まれており、細胞上清中の酵素量を測定することで顆粒の放出量を測定し、また、酵素量は細胞上清の酵素活性の強さにより測定した。
【0090】
具体的には、ラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3)を5×105cells/mlの濃度に調製し、96穴プレートに100μl播種した。このようなプレートを、β-ヘキソサミニダーゼ活性測定用とMTT試験用との2枚作製し、CO2インキュベータ(37℃、5% CO2)にて40時間に亘り前培養した。
【0091】
前培養後、培地を除きTyrode's bufferにてウェルを洗浄し、0.5μlの各希釈サンプルを含む100μlのTurode's buffer(又はEMEM培地)を各ウェルに添加した。37℃、5%CO2で1時間培養後、β-ヘキソサミニダーゼ活性測定用のプレートは上清を捨てウェルを洗浄し、100μlのA23187(in Tyrode's buffer)を添加した。インキュベータで1時間培養後、各ウェルの上清から50μlを分取し、新しい96穴プレートに移した。
【0092】
β-ヘキソサミニダーゼ活性の測定は、50μlずつ上清を分取した新たなプレートの各ウェルに、p-ニトロフェニル-N-アセチル-β-グルコサミニド(p-Nitrophenyl-N-acetyl-beta-glucosaminide)溶液を基質として50μl添加し、アルミ箔で遮光した上で室温にて1~3時間反応させた。反応後、全ウェルに100μlの反応停止液を添加して酵素反応を停止させ、プレートリーダにて405nmの吸光度を測定し、β-ヘキソサミニダーゼ活性を測定した。
【0093】
またMTT試験は、各希釈サンプルを添加して1時間が経過したプレートについて、まず、各ウェルの培地を除き、MTT染色液(5mg/ml in medium)を100μlずつ添加し、5
%CO2、37℃で4時間静置培養した。次いで、培地を除去し、各ウェルに塩酸-イソプロパノール溶液を1mlずつ加え、遮光し、4時間室温で放置した。その後、マイクロプレートリーダにて570nmにおける吸光度を測定し、細胞生存率の指標とした。
【0094】
図5はコントロールに対するβ-ヘキソサミニダーゼ活性比を示したグラフである。図5から分かるように、水系、非水系のプラセンタ抽出物のいずれにおいても、高濃度域である400μg/mlサンプルの添加時に、β-ヘキソサミニダーゼ活性が減少した。
【0095】
このことから、本実施形態に係るプラセンタ抽出物には、抗アレルギー活性を示す成分が含まれていることが示唆された。
【0096】
〔6.チロシナーゼ阻害活性試験〕
肌におけるシミやソバカスの原因となるメラニン色素は、メラノサイト内のチロシナーゼと呼ばれる酵素の働きによって作られる。チロシナーゼは紫外線により活性化されメラニンを産生するが、この酵素の働きを阻害することでメラニンの定着を防止し、美白効果が得られることが分かっている。
【0097】
本試験では、L-チロシンあるいはL-DOPAを基質として、各希釈サンプルがチロシナーゼ活性に及ぼす影響について評価した。
【0098】
試験方法としては、33.3μlの各希釈サンプルと、333μlの2.5mM基質(L-チロシン又はL-DOPA)と、600μlの0.1Mリン酸バッファー(pH6.8)と、33μlのチロシナーゼ(1380unit/ml)とを混合し、その直後から分光光度計により475nmにおける吸光度の経時的な変化を記録した。475nmの吸光度は、酵素-基質反応後のドーパクロムの形成によるものとされ、時間あたりの吸光度の増加を算出することで酵素活性値とした(L-チロシン:10分間測定、L-DOPA:3分間測定)。コントロール(溶媒)添加時のチロシナーゼ活性値を100%として、各希釈サンプル添加時の相対的なチロシナーゼ活性を算出した。ポジティブコントロールとして、コウジ酸(終濃度:17μg/ml)を用いた。
【0099】
図6(a)はL-DOPAを基質としたチロシナーゼ活性率の水系又は非水系のプラセンタ抽出物の影響を示したグラフであり、図6(b)はL-チロシンを基質としたチロシナーゼ活性率の水系又は非水系のプラセンタ抽出物の影響を示したグラフである。
【0100】
図6(a)に示すように、コントロール(溶媒)添加時のチロシナーゼ活性値(基質:L-DOPA)を100として相対値を算出したところ、水系又は非水系のいずれのプラセンタ抽出物においても、濃度依存的にチロシナーゼ活性率の減少が認められ、終濃度3.3mg/mlの水系又は非水系のプラセンタ抽出物の添加により、チロシナーゼ活性は有意に低下した。
【0101】
また図6(b)に示すように、コントロール(溶媒)添加時のチロシナーゼ活性値(基質:L-チロシン)を100として相対値を算出したところ、プラセンタ非水系抽出物(終濃度3.3mg/ml)において、有意なチロシナーゼ活性率の減少が認められた。プラセンタ水系抽出物においては、検討した濃度でのチロシナーゼ活性率の低下は認められなかった。
【0102】
これらの結果から、本実施形態に係る水系又は非水系のプラセンタ抽出物には、チロシナーゼ阻害活性を示す成分が含まれていること、また、この効果はプラセンタ非水系抽出物において、より顕著な傾向にあることが示唆された。
【0103】
〔7.メラニン生成・抑制能確認試験(第2試験)〕
次に、メラニン生成・抑制能確認試験の第2試験について説明する。先に説明した〔2.メラニン生成・抑制能確認試験(第1試験)〕では、プラセンタ水系抽出物と、プラセンタ非水系抽出物とについて産生されたメラニン量の確認を行ったが、本第2試験では、プラセンタ非水系抽出物に着目し、本発明者らが同抽出物より単離同定した各成分のそれぞれについて、メラニン生成・抑制能の確認を行った。
【0104】
本発明者らがプラセンタ非水系抽出物より単離した各成分は、以下の通りである。
【0105】
本発明者による単離同定作業上、暫定的にHS-1と命名した一般式(i):
【化31】
で表されるコレステロール(Cholesterol)。
【0106】
同じく暫定的にHS-2と命名した一般式(ii):
【化32】
で表されるコレステロール-7-オン(Cholesterol-7-one)。
【0107】
暫定的にHS-3と命名した下記一般式(v):
【化33】
で表される3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン(3β-hydroxycholest-4-ene-6-one)。
【0108】
暫定的にHS-4と命名した一般式(x):
【化34】
で表される5α,6α-エポキシコレスタン-3β-オール(5α,6α-epoxycholestan-3β-ol)。
【0109】
暫定的にHS-6と命名した下記一般式(vi):
【化35】
で表される3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(3β,6β-dihydroxycholest-5-ene)。
【0110】
暫定的にHS-7と命名した一般式(iii):
【化36】
で表されるコレスタ-3,5-ジエン-7-オン(Cholesta-3,5-diene-7-one)。
【0111】
暫定的にHS-8と命名した一般式(vii):
【化37】
で表されるコレステリルオレアート(Cholestereyl oleate)。
【0112】
暫定的にHS-10と命名した一般式(viii):
【化38】
で表されるパルミチン酸(Palmitic acid)。
【0113】
暫定的にHAS-1と命名した一般式(xi):
【化39】
で表されるウリジン(Uridine)。
【0114】
暫定的にHAS-2と命名した下記一般式(iv):
【化40】
で表されるウリジン一リン酸(Uridine Monophosphate)。
【0115】
暫定的にHSE-2と命名した下記一般式(ix):
【化41】
で表されるチミン(Thymine)。
【0116】
これら11種類の各単離成分HS-1、HS-2、HS-3、HS-4、HS-6、HS-7、HS-8、HS-10、HAS-1、HAS-2、HSE-2についてメラニン生成・抑制能の確認を行った。
【0117】
試験方法は、前述の第1試験と同様であるが、添加するサンプルをプラセンタ抽出物ではなく、これら各成分が各々最終濃度が100μMになるように、ジメチルスルホキシド溶液に溶解後、培養液に添加した。
【0118】
図7(a)は各サンプルにおける細胞生存率を示すグラフであり、図7(b)はコントロールに対する細胞あたりの細胞外メラニン産生比、図7(c)はコントロールに対する細胞あたりの細胞内メラニン産生比を示すグラフである。また表1に、細胞生存率を加味した細胞あたりの細胞外・細胞内メラニン生産比の表を示す。なお、表1中に示す"type"において、「A+」はコントロールに対し20%を超える割合でメラニン産生量が増大していることを示し、「A-」はコントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量が増大していることを示し、「B++」はアルブチン(100 μM)と同等程度にメラニン産生量が減少していることを示し、「B+」はコントロールに対し20%を超える割合でメラニン産生量が減少していることを示し、「B-」はコントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量が減少していることを示している。
【表1】
【0119】
まず図7(a)の細胞生存率について検討すると、HS-1(コレステロール)、HS-2(コレステロール-7-オン)およびHS-4(5α,6α-エポキシコレスタン-3β-オール)ではコントロール(DMSO)と比較して、細胞生存率は劇的に減少した(HS-1: 55.7 %、HS-2: 36.5 %、HS-4: 28.6 %)。また、HAS-2(ウリジン一リン酸)もコントロール(DMSO)と比較して、細胞生存率は有意に減少していた(HAS-2: 79.8 %)。
【0120】
一方で、HS-3(3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン)、HS-7(コレスタ-3,5-ジエン-7-オン)、HS-10(パルミチン酸)およびHSE-2(チミン)は、コントロール(DMSO)と比較して細胞生存率が有意に上昇することが確認された(HS-3: 109.4 %、HS-7: 113.3 %、HS-10: 110.3 %、HSE-2: 114.3 %)。これらの結果を踏まえると、HS-3、HS-6、HS-7、HS-8、HS-10、HSE-2およびHAS-1はB16メラノーマ細胞に対して細胞毒性は示さないことが確認出来た。
【0121】
また、図7(b)によれば、HS-3、HS-4、HS-6、HS-8、HS-10、HSE-2、HAS-1およびHAS-2添加では、1細胞あたりの細胞外メラニン産生比がコントロール(DMSO)と比較して抑制されていた。特に、HS-3、HS-6、HSE-2およびHAS-2では、ポジティブコントロールであるアルブチン(100 μM)と同等の細胞外メラニン産生抑制が確認出来た。一方、HS-1、HS-2およびHS-7添加では、コントロール(DMSO)と比較して1細胞あたりの細胞外メラニン産生比が上昇していた。
【0122】
また、図7(c)によれば、HS-3、HS-4、HS-8、HS-10、HSE-2およびHAS-1添加により1細胞あたりの細胞内メラニン産生比がコントロール(DMSO)と比較して抑制されていた。一方、HS-1、HS-2、HS-6、HS-7およびHAS-2添加では、コントロール(DMSO)と比較して1細胞あたりの細胞外メラニン産生比が上昇していた。
【0123】
更に、表1を参照しつつ各成分毎に検討すると、まずHS-1(コレステロール)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%を超えるメラニン産生量の増大が認められた。
【0124】
またHS-2(コレステロール-7-オン)は、細胞外においてコントロールに対し20%を超えるメラニン産生量の増大が認められた。また、細胞内においてはコントロールに対して20%以下ではあるもののメラニン産生量の増大が認められた。
【0125】
HS-3(3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%を超える割合でのメラニン産生量の減少が認められた。特に細胞外においては、アルブチン(100 μM)と同等程度のメラニン産生量の減少が認められた。
【0126】
HS-4(5α,6α-エポキシコレスタン-3β-オール)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量の減少が認められた。
【0127】
HS-6(3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン)は、細胞外においてコントロールに対し20%を超える割合、特にアルブチン(100 μM)と同等程度のメラニン産生量の減少が認められたが、細胞内においては逆に、コントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量の増大が認められた。
【0128】
HS-7(コレスタ-3,5-ジエン-7-オン)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%を超えるメラニン産生量の増大が認められた。
【0129】
HS-8(コレステリルオレアート)は、細胞外においてはコントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量の減少が認められ、また、細胞内においてコントロールに対し20%を超える割合でのメラニン産生量の減少が認められた。
【0130】
HS-10は(パルミチン酸)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%を超える割合でのメラニン産生量の減少が認められた。
【0131】
HSE-2(チミン)は、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%を超える割合でのメラニン産生量の減少が認められた。特に細胞外においては、アルブチン(100 μM)と同等程度のメラニン産生量の減少が認められた。
【0132】
HAS-1(ウリジン)は、細胞内及び細胞外の両方においても、細胞内及び細胞外の両方において、コントロールに対し20%以下の割合ではあるがメラニン産生量の減少が認められた。
【0133】
HAS-2(ウリジン一リン酸)は、細胞外においてコントロールに対し20%を超える割合、特にアルブチン(100 μM)と同等程度のメラニン産生量の減少が認められたが、細胞内においては逆に、コントロールに対し20%を超える割合でのメラニン産生量の増大が認められた。
【0134】
そして、これらの結果を総合的に勘案すると、コレステロール(HS-1)、コレステロール-7-オン(HS-2)、3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(HS-6)、コレスタ-3,5-ジエン-7-オン(HS-7)、ウリジン一リン酸(HAS-2)の各成分は、コントロール(DMSO)と比較してメラニンの生成を促進することが示された。より詳細には、コレステロール(HS-1)、コレステロール-7-オン(HS-2)、コレスタ-3,5-ジエン-7-オン(HS-7)の各成分は細胞内及び細胞外の両方において、また、3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(HS-6)、ウリジン一リン酸(HAS-2)の各成分は細胞内においてメラニンの生成を促進することが示された。このことは、化粧料や機能性食品中において、メラニンの生成促進を目的とする有効成分や保健機能成分としてこれらの成分が有用であることを示すものといえる。
【0135】
また同様に、3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン(HS-3)、5α,6α-エポキシコレスタン-3β-オール(HS-4)、3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(HS-6)、コレステリルオレアート(HS-8)、パルミチン酸(HS-10)、チミン(HSE-2)、ウリジン(HAS-1)、ウリジン一リン酸(HAS-2)は、メラニンの生成を抑制することが示された。より詳細には、3β-ヒドロキシコレスタ-4-エン-6-オン(HS-3)、5α,6α-エポキシコレスタン-3β-オール(HS-4)、コレステリルオレアート(HS-8)、パルミチン酸(HS-10)、チミン(HSE-2)、ウリジン(HAS-1)の各成分は細胞内及び細胞外の両方においてメラニンの生成を抑制でき、中でもHS-3、HS-8、HS-10、HSE-2、HAS-1は細胞外メラニンの生成を有意に抑制し、また、3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(HS-6)、ウリジン一リン酸(HAS-2)の各成分は細胞外においてメラニンの生成を抑制することが示された。このことは、化粧料や機能性食品中において、メラニンの生成抑制、ひいては美白を目的とする有効成分や保健機能成分としてこれらの成分が有用であることを示すものといえる。
【0136】
また興味深いことに、3β,6β-ジヒドロキシコレスタ-5-エン(HS-6)や、ウリジン一リン酸(HAS-2)は、細胞内におけるメラニンの生成は促進させるが、細胞外におけるメラニンの生成はアルブチン(100 μM)と同等程度に抑制する。このことは、例えば細胞内については紫外線に対しメラニンによる防護を図りつつ、細胞外におけるメラニン分泌を抑制して過度な色素沈着等を抑制する化粧料や機能性食品、更には医薬品等の製剤としての効果が期待される。
【0137】
上述してきたように、本実施形態に係る発明によれば、化粧料又は機能性食品におけるメラニン生成を抑制又は促進する成分、ヒアルロン酸産生促進成分、コラーゲン産生促進成分、エラスターゼ活性阻害成分、抗アレルギー活性促進成分、チロシナーゼ活性阻害成分から選ばれるいずれかの成分の添加材料として、プラセンタ抽出物を使用することとしたため、より明確な目的の下でのプラセンタ抽出物の新たな使用方法を提供することができる。
【0138】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7