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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】粉体の回収方法および粉体の回収設備
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/00 20060101AFI20250305BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20250305BHJP
   B01D 17/038 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C22B1/00 601
C22B3/22
B01D17/038
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021024358
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126336
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177018(JP,A)
【文献】登録実用新案第3174879(JP,U)
【文献】特開2009-148725(JP,A)
【文献】特開2001-149813(JP,A)
【文献】特開昭54-094170(JP,A)
【文献】特開2003-071205(JP,A)
【文献】米国特許第05006239(US,A)
【文献】特開2015-132011(JP,A)
【文献】特開2000-355718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-7/04
B01D 17/00-17/12
B04B 1/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分の付着した粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収方法であって、
油分が付着した比重が1.05超の前記粉体と、水とを、粘度が0.003~2.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、エマルジョンを形成するエマルジョン化工程と、
前記エマルジョンを遠心力によって破壊し、さらに前記遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離する、粉体相分離工程と、
分離された前記粉体相を回収する粉体相回収工程と、
を有し、
前記第1の揮発性疎水性溶剤は、トリクロロエチレン、1-ブロモプロパン、ハイドロフルオロエーテル、または、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下、且つ常圧での沸点が95℃未満の液体であり、
前記粉体相分離工程は、前記粉体相の掻き寄せ機構を有するろ過型の遠心分離装置によって行われ、
前記粉体相の掻き寄せ機構は、
前記ろ過型の遠心分離装置の回転軸を通る断面視において前記回転軸に対して傾斜するろ過面を有すること、または、前記ろ過型の遠心分離装置のろ過面の近傍に前記ろ過型の遠心分離装置の回転軸とともに回転する螺旋状の板材からなるスクレーパーを有することであり、
前記粉体相分離工程において、前記溶剤相と前記水相をろ過する際、ろ過面上に堆積する前記粉体相を、前記掻き寄せ機構によって、前記ろ過面内の前記粉体相の一部の厚みが小さくなるように集積することを特徴とする、粉体の回収方法。
【請求項2】
前記ろ過型の遠心分離装置が、連続式であって、
前記掻き寄せ機構として、前記遠心分離装置の回転軸に固定され、かつ軸方向に沿って伸びながら前記ろ過面の内面沿って配置された前記スクレーパーを有し、
前記スクレーパーを回転させることでろ過面上の前記粉体を移動させ、前記粉体相を集積させることで前記粉体相の一部の厚みを小さくすることを特徴とする、請求項1に記載の粉体の回収方法
【請求項3】
前記ろ過型の遠心分離装置が、たて型であり、
前記ろ過面が前記回転軸に対して平行または前記回転軸を通る断面において逆八の字になるように傾斜していることを特徴とする、請求項2に記載の粉体の回収方法。
【請求項4】
前記ろ過型の遠心分離装置が、回分式であって、
前記遠心分離装置の前記回転軸を通る断面において、前記回転軸に対して傾斜したろ過面を前記掻き寄せ機構として備え、
前記ろ過面の傾斜によって、遠心力を作用させた際に、前記粉体相の一部の厚みを小さくすることを特徴とする、請求項1に記載の粉体の回収方法。
【請求項5】
前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を前記第1の揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項6】
前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を前記第1の揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1の揮発性疎水性溶剤を揮発除去した後、粉体を含むスラリーを脱水機にて脱水し、前記粉体相を回収することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項7】
前記粉体相分離工程から前記粉体相回収工程を、1台のろ過型の前記遠心分離装置で行うことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項8】
前記粉体相分離工程において、
前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離した後、分離された前記粉体相に前記第1の揮発性疎水性溶剤と同様の第2の揮発性疎水性溶剤を添加し、さらに遠心力を作用させて、前記粉体相中に残留していた溶剤相を分離させてろ過を行う、すすぎ工程を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項9】
前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させることを特徴とする、請求項に記載の粉体の回収方法。
【請求項10】
前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤を揮発除去した後、粉体を含むスラリーを脱水機にて脱水し、前記粉体相を回収することを特徴とする、請求項に記載の粉体の回収方法。
【請求項11】
前記すすぎ工程における第2の揮発性疎水性溶剤の添加量の調整方法が、
前記すすぎ工程において分離した前記溶剤相から、比重分離により油分を含む溶剤相を採取し、
前記油分を含む溶剤相の吸光度を測定し、
得られた吸光度の測定値から前記粉体相回収工程後の前記粉体相中の残留油分量を推定し、
当該残留油分量の推定値が目標値以下となるよう前記すすぎ工程における前記第2の揮発性疎水性溶剤の添加量を調整することを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項12】
前記エマルジョン化工程において、界面活性剤を添加することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項13】
前記油分の付着した粉体が、油分の付着したスケール、油分の付着した研摩屑、および油分の付着したコークス粉のいずれか1種もしくは2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【請求項14】
油分の付着した粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収設備であって、
油分が付着した比重が1.05超の前記粉体と、水とを混合してスラリーを生成するスラリー化装置と、
前記スラリーに比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、エマルジョンを形成するエマルジョン化装置と、
前記エマルジョンを遠心力によって破壊し、さらに前記遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら、前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離する、粉体相分離装置と、
を有し、
前記粉体相分離装置は、前記粉体相の掻き寄せ機構を有するろ過型の遠心分離装置であり、
前記掻き寄せ機構は、
前記ろ過型の遠心分離装置の回転軸を通る断面視において前記回転軸に対して傾斜するろ過面を有すること、または、前記ろ過面の近傍に螺旋状の板材からなるスクレーパーを有することであり、
前記溶剤相と前記水相をろ過する際、ろ過面上に堆積した前記粉体相を集積させる機構であることを特徴とする、粉体の回収設備。
【請求項15】
前記ろ過型の遠心分離装置が、連続式であって、
前記掻き寄せ機構として、前記遠心分離装置の回転軸に固定され、かつ軸方向に沿って伸びながら前記ろ過面の内面沿って配置された前記スクレーパーを有し、
前記スクレーパーを回転させることでろ過面上の前記粉体を移動させ、前記粉体相を集積させることを特徴とする請求項14に記載の粉体の回収設備
【請求項16】
前記ろ過型の遠心分離装置が、たて型であり、
前記ろ過面が前記回転軸に対して平行または前記回転軸を通る断面において逆八の字になるように傾斜していることを特徴とする、請求項15に記載の粉体の回収設備。
【請求項17】
前記ろ過型の遠心分離装置が、回分式であって、
前記遠心分離装置の前記回転軸を通る断面において、前記回転軸に対して傾斜したろ過面を前記掻き寄せ機構として備えることを特徴とする請求項14に記載の粉体の回収設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の回収方法および粉体の回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業をはじめとする各種製造業では、親水性粒子を含む粉体が水または水溶液中で分散した混合物が大量に排出される。混合物は、含水スラリーの形態で排出されることが多い。混合物に含まれる粉体は多種多様であり、例えば製鉄業の分野であればスケール、研磨屑、ダスト、浸出残渣、フライアッシュ、スラグ粉、及び鉱石粉等である。これらはいずれも親水性粒子でもある。
【0003】
例えばスケールや研磨屑には、工業生産に際して不可避的に発生する油分や水分(例えば、圧延で使用する圧延油や潤滑油、冷却水)が混入する。このような油分や水分を含むスケールや研磨屑は、5~50%の水分と、数%の油分を含有する。そのため、リサイクルまたは効率的な使用等を目的として、スケールや研磨屑などの粉体から油分および水分を除去する必要がある。
【0004】
油分を含む粉体(以下、含油粉体とも称する。)から油分を除去する方法として、従来では、ロータリーキルンなどで燃焼処理する方法が知られている。しかし、含油粉体の油分濃度は低いため、燃焼処理する場合には助燃燃料が必要となることから、多量のエネルギーを要するという問題があった。特に、含油粉体の油分濃度がより低い場合には、助燃燃料としてCOG(コークス炉ガス)、重油等のような高級(高価)なエネルギーが使用される場合があり、このような場合に上記の問題がより深刻になっていた。また、燃焼処理する場合には、CO排出量も増えるので、近年特に課題となっているCO削減にも反することとなる。
【0005】
また、油分の付着したスケール(以下、含油スケールとも称する)の場合、燃焼処理し油分を除去した後のスケールは、焼結工程等での鉄源として使用されることが多い。しかし、燃焼処理中にスケール中の主成分であるFeOがFeまで酸化してしまい、焼結工程におけるコークス使用量を増加させてしまう問題があった。
【0006】
このような問題に対し、含油粉体から油分を分離する方法が種々検討されている。
例えば、特許文献1には、含油スケールに抽出剤として有機溶剤を混合して攪拌することで、含油スケールから油分を有機溶剤に抽出する方法が開示されている。また、特許文献2および3にも、含油粉体を含む混合物から油分を分離して粉体を回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-132011号公報
【文献】特開2017-177018号公報
【文献】特開平7-116960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3のいずれの技術によっても、上述の問題を十分に解決することができていない。
【0009】
以上のような背景から、含油粉体から油分を除去して高純度の粉体を回収する方法においては、油分を除去する際のエネルギー(油分除去エネルギー)の消費が少なく、さらに安定的かつ高速に油分除去できる方法が切望されている。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、粉体の回収方法および粉体の回収設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
[1]油分の付着した粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収方法であって、
油分が付着した比重が1.05超の前記粉体と、水とを、粘度が0.003~2.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、エマルジョンを形成するエマルジョン化工程と、
前記エマルジョンを遠心力によって破壊し、さらに前記遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離する、粉体相分離工程と、
分離された前記粉体相を回収する粉体相回収工程と、
を有し、
前記粉体相分離工程は、前記粉体相の掻き寄せ機構を有するろ過型の遠心分離装置によって行われ、
前記粉体相分離工程において、前記溶剤相と前記水相をろ過する際、ろ過面上に堆積する前記粉体相を、前記掻き寄せ機構によって、前記ろ過面内の前記粉体相の一部の厚みが小さくなるように集積することを特徴とする、粉体の回収方法。
[2]前記粉体相分離工程において、前記掻き寄せ機構によって前記粉体相を集積させる際、前記粉体相を前記ろ過面の一方の端面側へ集積させることで前記ろ過面内の前記粉体相の厚み分布に傾斜を持たせ、前記粉体相の一部の厚みを小さくすることを特徴とする、上記[1]に記載の粉体の回収方法。
[3]前記粉体相分離工程における前記粉体相の掻き寄せ機構が、板状の掻き寄せ板を有し、当該掻き寄せ板を前記遠心分離装置内に挿入して、前記粉体相を集積させることで前記粉体相の一部の厚みを小さくすることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の粉体の回収方法。
[4]前記粉体相分離工程における前記粉体相の前記掻き寄せ機構が、前記遠心分離装置の回転軸に平行な面に対して傾斜した前記ろ過面から構成され、当該ろ過面の傾斜によって、遠心力を作用させた際に、前記粉体相の一部の厚みを小さくすることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の粉体の回収方法。
[5]前記第1の揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[6]前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を前記第1の揮発性疎水性溶剤の沸点超の温度で乾燥させることを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[7]前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を前記第1の揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1の揮発性疎水性溶剤を揮発除去した後、粉体を含むスラリーを脱水機にて脱水し、前記粉体相を回収することを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[8]前記粉体相分離工程において、
前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離した後、分離された前記粉体相に第2の揮発性疎水性溶剤を添加し、さらに遠心力を作用させて、前記粉体相中に残留していた溶剤相を分離させてろ過を行う、すすぎ工程を有することを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[9]前記粉体相分離工程から前記粉体相回収工程において、連続した複数の工程を、1台のろ過型の前記遠心分離装置で行うことを特徴とする、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[10]前記第2の揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、上記[8]または[9]に記載の粉体の回収方法。
[11]前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤の沸点のうちいずれか高い方の沸点超の温度で乾燥させることを特徴とする、上記[8]~[10]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[12]前記粉体相回収工程で得た前記粉体相を、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤の沸点のうちいずれか高い方の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記第1の揮発性疎水性溶剤および前記第2の揮発性疎水性溶剤を揮発除去した後、粉体を含むスラリーを脱水機にて脱水し、前記粉体相を回収することを特徴とする、上記[8]~[11]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[13]前記すすぎ工程における第2の揮発性疎水性溶剤の添加量の調整方法が、
前記すすぎ工程において分離した前記溶剤相から、比重分離により油分を含む溶剤相を採取し、
前記油分を含む溶剤相の吸光度を測定し、
得られた吸光度の測定値から前記粉体相回収工程後の前記粉体相中の残留油分量を推定し、
当該残留油分量の推定値が目標値以下となるよう前記すすぎ工程における前記第2の揮発性疎水性溶剤の添加量を調整することを特徴とする、上記[8]~[12]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[14]前記エマルジョン化工程において、界面活性剤を添加することを特徴とする、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
[15]前記油分の付着した粉体が、油分の付着したスケール、油分の付着した研摩屑、および油分の付着したコークス粉のいずれか1種もしくは2種以上の混合物であることを特徴とする、上記[1]~[14]のいずれか一項に記載の粉体の回収方法。
【0013】
[16]油分の付着した粉体から前記油分を分離して前記粉体を回収する粉体の回収設備であって、
油分が付着した比重が1.05超の前記粉体と、水とを混合してスラリーを生成するスラリー化装置と、
前記スラリーに比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、エマルジョンを形成するエマルジョン化装置と、
前記エマルジョンを遠心力によって破壊し、さらに前記遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら、前記溶剤相と前記水相をろ過して前記粉体相を分離する、粉体相分離装置と、
を有し、
前記粉体相分離装置は、前記粉体相の掻き寄せ機構を有するろ過型の遠心分離装置であり、
前記掻き寄せ機構は、
前記溶剤相と前記水相をろ過する際、ろ過面上に堆積した前記粉体相を集積させる機構であることを特徴とする、粉体の回収設備。
[17]前記掻き寄せ機構が、板状の掻き寄せ板を有し、当該掻き寄せ板が前記遠心分離装置内に挿入されて、前記粉体相が集積されることを特徴とする上記[16]に記載の粉体の回収設備。
[18]前記掻き寄せ機構が、前記遠心分離装置の回転軸に平行な面に対して傾斜した前記ろ過面から構成されることを特徴とする上記[16]に記載の粉体の回収設備。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記態様によれば、含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、粉体の回収方法および粉体の回収設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る粉体の回収方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図4図4は、本実施形態のエマルジョン化工程における、界面活性剤による粉体表面の改質を説明するための模式図である。
図5図5は、本実施形態に係る粉体の回収設備1と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
図6図6は、粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80として、連続式のろ過型遠心分離機を適用した場合の断面模式図である。
図7図7は、粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80として、回分式のろ過型遠心分離機を適用した場合の断面模式図である。
図8図8は、発明例1-6~発明例1-10における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係を示すグラフである。
図9図9は、発明例1-6~発明例1-10における、スラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(%)の関係を示すグラフである。
図10図10は、発明例1-11~発明例1-14における、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))と油分除去率(%)との関係を示すグラフである。
図11図11は、<実施例5>における、溶剤中の油分濃度と溶剤相の吸光度との関係を示すグラフである。
図12図12は、<実施例5>における、溶剤相の吸光度とケーキ中の油分濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る粉体の回収方法および粉体の回収設備について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
まず、粉体の回収方法における処理対象物、溶液等について、本発明者によって得られた新たな知見と合わせて説明する。
【0018】
本実施形態の粉体の回収方法における処理対象物は、油分の付着した粉体(含油粉体)であり、例えば、圧延工程で発生するスケールや研磨屑などである。ここでいうスケールとは、油分および水分を含有するスケールであり、含油スケールまたは含油スラッジと呼ばれることもある。
【0019】
処理対象物である含油粉体の粒子径は特に限定されないが、例えば、含油粉体としては平均粒子径5μm~200μmの粉体を対象とすることができる。なお、粉体の粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定することができ、平均粒子径は体積基準とする。
【0020】
次に、含油粉体が含油スケールである場合を例に挙げ、含油スケール中の油分と水分の存在形態について説明する。
図1は、含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。なお、図1に示す各構成要素の形状および寸法比率は、説明の便宜上、実際それらと異なるよう図示しているが、本実施形態における含油粉体は、図1に限定されるものではない。含油スケール中の水分および油分は、図1に示すように、バルク中の油水分、間隙中の油水分、毛管中の油水分、スケールに吸着している油水分として存在している。油水分とは、油分と水分が混合している状態のものをいう。また、ここでいうバルクとは、スケール粒子の界面に触れていない領域を指す。
【0021】
バルク中の油水分とは、スケール粒子群周辺に存在している水分と油分である。間隙中の油水分とは、スケール等の大小の固形粒子が凝集してできた隙間に囲まれている水分と油分である。毛管中の油水分とは、スケール表面の毛管内において毛管圧で結合している水分と油分である。スケール等の粒子に吸着している油水分とは、スケールに化学的に吸着している水分と油分である。
【0022】
バルク中の油水分は、スケール等の粒子群との結合力が殆ど無く、外圧を作用させることで安易に分離できる水分と油分であり、機械的な力、例えば、加圧型脱水機や遠心脱水機による脱水・脱油、又は、静置による自然脱水・脱油等の操作で、分離することができる。
【0023】
一方、間隙中の油水分は、スケール等の固形粒子に囲まれているため、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは非常に困難である。
【0024】
また毛管中の油水分は、スケール等の粒子表面の毛管内部に毛管力によって保持された水分や油分で、間隙中の油水分と同様、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは困難である。
【0025】
またスケール等の粒子に吸着している油水分は、粒子表面や内部に化学的に結合している水分・油分であり、温度の上昇による揮発や、化学反応でしか分離できない水分や油分である。つまり、間隙中の油水分、毛管中の油水分、粒子に吸着している油水分は、通常の脱水・脱油操作(遠心脱水機やフィルタープレスによる機械的な脱水・脱油操作、又は、静置による自然脱水・脱油等)では、容易に分離することはできない。
【0026】
このような課題について本発明者は、油水分、特に油分を分離・除去する手段として溶剤を用いる方法について検討した。検討の結果から、バルク中、間隙中および毛管中の油分ならびに粒子に付着している油分を溶剤によって吸着し粉体から分離させることができると考え、さらに検討を進めた。
【0027】
含油スケールに有機溶剤を添加後、撹拌し、含油スケール中の油分を抽出する場合、バルク中の油分は容易に有機溶剤に接触するため、抽出されやすい。一方、間隙中および毛管中の各油分は、スケールに囲まれており、かつ、間隙中および毛管中には水分も油分と同時に存在する。そのため、間隙中および毛管中の各油分と有機溶剤は、水分とスケールに遮断されてしまい、有機溶剤と間隙中および毛管中の各油分とは容易に接触できない。つまり、間隙中の油分および毛管中の油分については、有機溶剤の添加・攪拌だけでは、含油スケール中の油分は抽出されにくく、油分の含有率は低下しにくい。
【0028】
本発明者は、通常の脱水・脱油操作では容易に分離できない間隙中の油分と毛管中の油分を、揮発し易い疎水性の有機溶剤(以下、揮発性疎水性溶剤とも称する。)で置換した後、間隙および毛管中にある揮発性疎水性溶剤を揮発させることで、含油スケール中の油分を低減できることを見出した。
【0029】
また、揮発性疎水性溶剤として、常圧での沸点が95℃未満であるとともに常温常圧で液体である有機溶剤を選定することにより、水の蒸発を抑制し、有機溶剤を主体に揮発させることができることを見出した。
【0030】
また、含油粉体から油分を分離する手段として疎水性の有機溶剤を用いた場合、有機溶剤と含油粉体の混合液を強撹拌後に静置すると、溶剤液滴間の水相に多くの粉体粒子が分散したエマルジョン(乳濁液)となるが、十分にエマルジョン化していないと溶剤による油分の抽出が進行しないことが分かった。エマルジョン化しない領域では、水と油分が付着した粉体とからなるスラリー中で、粉体が十分な流動性を確保できていないために、溶剤が均一に混合されず、油分の抽出は進みにくいと考えられる。そのため、有機溶剤と含油スケールの混合液をエマルジョンとする際、エマルジョン化する領域を十分に把握した上で、油分が付着した粉体と水と溶剤との混合比率を決定していくことが重要である。
【0031】
また、一般には、疎水性の有機溶剤と水の混合液を強撹拌して静置すると、一時的にエマルジョンが生じるが、短時間でエマルジョン状態が解消することが多い。しかし、上述した微細な含油粉体と有機溶剤との混合液のように、親水性(ぬれ性)が高い微細粉体を含有する混合液を強撹拌して静置すると、エマルジョンが容易に破壊されずに安定化してしまうことがある。これは、固形分である微細粉体が乳化剤として機能して、微細な水滴と有機溶剤相との界面、若しくは、微細な有機溶剤液滴と水相との界面に微細粉体が介在することで、エマルジョンが安定化するからである。エマルジョンが安定化すると、疎水性の有機溶剤と水とを容易に分離できなくなってしまうので、エマルジョンを破壊する必要がある。
【0032】
そこで本発明者は、エマルジョンを破壊する方法として、ろ過型の遠心分離装置を用いて遠心力を作用させる方法を検討した。その結果、エマルジョンを破壊して溶剤と水相と粉体相に分離できるとともに、溶剤相と水相をろ過し粉体相のみを回収できることを見出した。このように、エマルジョンに遠心力を作用させることにより、溶剤液滴間の水相に存在する微細な粉体は、遠心力の作用する方向へ移動されるため、水と溶剤のみからなるエマルジョンとなる。この結果、溶剤液滴は合一して大きくなり、短時間でエマルジョンは解消(解乳化)、すなわち破壊される。
【0033】
以上説明した新たな知見に基づき、本発明はなされた。
次に、本発明の一実施形態である粉体の回収方法および粉体の回収設備について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
<1.粉体の回収方法>
図2は、本実施形態に係る粉体の回収方法を示すフローチャートである。また図3は、本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係る粉体の回収方法は、スラリー化工程S1と、エマルジョン化工程S2と、粉体相分離工程S3と、粉体相回収工程S4とを含む。
以下、各工程について、図3を参照しながら説明する。なお説明の便宜上、図3では、回分式のろ過型遠心分離機および遠心分離用容器200を用いた場合を示しているが、本実施形態に係る粉体の回収方法は、使用される装置によって限定されるものではない。
【0035】
(スラリー化工程S1)
スラリー化工程S1は、油分の付着した粉体(含油粉体)10と水20とを容器100内で混合してスラリー30を生成する工程である(図3(a))。
スラリー化工程S1では、まず、容器100内に粉体10と水20を投入して攪拌(混合)することで、粉体10を水20中に分散させてスラリー30を生成する。
【0036】
含油粉体10は、比重1.05超の粒子である。含油粉体10は、親水性粒子を含むことが好ましく、親水性粒子としては、例えば、スケールや研磨屑が挙げられる。親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、水に混ざり易い性質を有する。含油粉体10は、親水性粒子のみで構成されているのがより好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば他の種類の粒子、例えば疎水性粒子を含んでいてもよい。疎水性粒子は水に対する疎水性を有する粒子であり、例えば、コークス粉、プラスチック粉などが挙げられる。含油粉体10を構成する粒子のほとんどが疎水性粒子であってもよい。
【0037】
含油粉体10のほとんどが疎水性粒子の場合には、エマルジョン化させた後にろ過型の遠心分離機で相分離すると、疎水性粒子からなるケーキの間隙が疎水性溶剤に満たされる。そのため、次に、水相が通過する際に、抵抗となり、ろ過しにくくなるが、掻き寄せを行うことで、水相の濾過性は改善される。疎水性粒子と親水性粒子との混合物の場合も同様で、ろ過型遠心分離で脱液すると、混合物からなるケーキの間隙が疎水性溶剤に満たされ、次に、水相が通過する際に、抵抗となり、ろ過しにくくなるが、掻き寄せを行うことで、水相の濾過性は改善される。
【0038】
含油粉体10の比重は1.05超で、かつ後工程のエマルジョン化工程S2で使用する第1の揮発性疎水性溶剤(以下、洗浄用溶剤とも称する。)50の比重よりも大きい。これにより、後にエマルジョンを破壊して相分離を図る際に、含油粉体10を溶剤相50aに移動させることができる。すなわち、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することができる。なお、含油粉体10の中に疎水性粒子が含まれる場合は、疎水性粒子は溶剤相50aに移動する。
【0039】
含油粉体10の粒子径は特に問わないが、含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が200μm以下であることが好ましい。本実施形態では、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することで、含油粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減するとともに、効率よく粉体を回収するものである。第1の揮発性疎水性溶剤50は水20に比べて低いエネルギーで蒸発する。したがって、含油粉体10の粒子間に存在する水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することで、含油粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減することができる。そして含油粉体10の粒子径が小さいほど、含油粉体10の粒子間に存在する間隙が大きくなるため、より多くの水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することができ、結果、上記効果が増大する。このような観点から、含油粉体10の粒子径は小さいことが好ましく、含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下であることが好ましい。より好ましくは80μm以下であり、更により好ましくは50μm以下である。一方、含油粉体10の体積基準50%粒子径が1μm未満であると、図1で説明した間隙水に対して毛管水及び吸着水が多くなり、含油粉体10の親水性が非常に高くなり、本実施形態の処理を行っても含油粉体10の粒子間に存在する水20を除去しにくくなる可能性がある。そのため、含油粉体10の体積基準50%粒子径の下限値は1μm以上であることが好ましい。
【0040】
含油粉体10の体積基準50%粒子径(d50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた以下の測定方法によって測定可能である。すなわち、測定対象となる試料を水でスラリー化し、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウム溶液を少量添加する。ついで、混合液の撹拌及び超音波照射により混合液中に試料を分散させる。ついで、この混合液をレーザー回折式粒度分布測定装置にセットし、粒度分布を測定する。
【0041】
含油粉体10は、油分の付着したスケール、油分の付着した研摩屑および油分の付着したコークス粉のいずれか1種、もしくは2種以上の混合物であってもよい。また含油粉体10は、上述したように親水性を有する粒子からなるものが好ましいが、スケールもしくは研磨屑であることがより好ましい。これらの含油粉体には特にリサイクルまたは効率的な使用の要望が強いからである。
【0042】
スケールは例えば熱間圧延時に発生する。具体的には、スラブを予熱することでスラブの表面にスケールが生成する。このようなスケールは、熱間圧延時に微細に粉砕され、クーラント水とともに排出される。つまり、クーラント水中に微細なスケールが分散した含水スラリー(含水スケール)が排出される。なお、熱間圧延時に生成した含水スラリーには油分が3~8質量%(粉体の総質量に対する質量%)で含まれることが多い。
【0043】
スラリー化工程S1における水20の添加量は、粉体10が水20中でスラリー状になる量以上とする。なお、後段のエマルジョン化工程で、スラリー30に第1の揮発性疎水性溶剤50を添加するため、スラリー30の粘性は上昇する。そのため、スラリー化工程S1における粘性は目標とする粘性よりも低くしておく方がよい。具体的には、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を2.00Pa・S以下になるように、粉体10に対して水20を添加する。スラリーの粘度は、好ましくは0.65Pa・S以下、より好ましくは0.50Pa・S以下、さらに好ましくは、0.35Pa・S以下とする。一方、スラリー化工程S1において水の添加量が多すぎると、エマルジョン化工程S2以降で、含油粉体10と第1の揮発性疎水性溶剤50の接触確率が低下するため、エマルジョン化工程S2以降の所要時間、すなわち粉体10からの油分の抽出時間を長くしたり、撹拌強度を大きくしたりする必要がある。したがって、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を0.003Pa・S以上になるように含油粉体10に対して水20を添加することが好ましい。
【0044】
ここで、スラリー化工程S1における粘性の限定理由について、本発明者の検討結果を合わせて以下、説明する。
本発明者は、後述するエマルジョン化工程S2におけるエマルジョン化の度合いと油分の抽出の進行度合いの相関について検討したところ、エマルジョン化が不十分であると洗浄用溶剤による油分の抽出の進行も不十分となる、という新たな知見を得た。これは、エマルジョン化が不十分である場合では、スラリー中で、油分の付着した粉体が十分な流動性を確保できていないために、洗浄用溶剤を添加しても当該溶剤が均一に混合されず、油分の抽出が促進されないためと考えられる。そのため、スラリーと洗浄用溶剤の混合液をエマルジョン化する際、十分にエマルジョン化するよう混合比率を調整することが重要となる。そこで本発明者は、スラリーの粘性に着目し、スラリー化工程S1において水と粉体とを混合してスラリーとする際の粘性を所定値以下、すなわち2.00Pa・S以下となるよう制御することで、後述するエマルジョン化工程において十分にエマルジョン化させることができることを見出した。
【0045】
油分の付着した粉体と水と洗浄用溶剤とを混合攪拌した後のエマルジョンにおいて、粉体から油分を抽出するためには、粉体の1つ1つの粒子が洗浄用溶剤の液滴に接することが必要となる。そのためには、水相中で粉体が自由に移動できるようにする必要がある。この「水相中を自由に移動できる」ことを評価する指標を検討した結果、本発明者はスラリーの粘度でもって評価できることを見出した。スラリー中の固形物濃度、すなわち粉体の比率が上昇するとスラリーの粘度は急激に上昇し、スラリーの流動性が大幅に低下するため、その後、エマルジョン化を図っても、粉体と洗浄用溶剤の液滴は接触する機会が急激に減少してしまう。このようなことから、本実施形態では上記のとおり、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を2.00Pa・S以下とすることが重要である。
【0046】
また、本実施形態では予め粉体10と水20とを混合してスラリー化した後に、当該スラリー30に第1の揮発性疎水性溶剤50を添加する。しかし、粉体10と水20と第1の揮発性疎水性溶剤50を同時に混ぜて混合した場合、水20と粉体10との混合が進みにくく、エマルジョン化が難しくなる場合がある。特に、水/粉体の混合比(g/g)が小さくなると、エマルジョン化しにくくなり、油分の除去性能が低下する。よって、スラリー化工程S1においては、水20と粉体10を予め混合し、スラリー化した後に、第1の揮発性疎水性溶剤50を添加し、混合しエマルジョン化していく方が好ましい。
【0047】
スラリー化工程S1で使用する混合装置としては、特に限定しないが、例えば、粉体10と水20の混合物を撹拌する撹拌翼を備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0048】
(エマルジョン化工程S2)
エマルジョン化工程S2は、スラリー化工程S1で生成したスラリー30に、第1の揮発性疎水性溶剤50を添加して攪拌することでエマルジョン40を形成する工程である(図3(b))。
エマルジョン化工程S2では、まず、粉体10と水20からなるスラリー30が入った容器100内に比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤50を添加し、さらに攪拌してエマルジョン40を形成する。なお、エマルジョン化工程S2では、容器100とは別の容器を使用し、撹拌してエマルジョン40を形成してもかまわない。
【0049】
一般に、エマルジョンとは、相互に混じり合わない2種の液体であって、一方の液体中に他方の液体が微細な液滴となって分散している分散系溶液を意味し、乳濁液とも称される。本実施形態に係るエマルジョン40は、比重の異なる2種の液体(水20と第1の揮発性疎水性溶剤50)と、固形分の粉体10が懸濁した分散系溶液を意味する。
【0050】
第1の揮発性疎水性溶剤50は、揮発性および疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。第1の揮発性疎水性溶剤50は、例えば、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下の液体である。第1の揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度が高いと、粉体10の粒子間に存在する水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換した際に、第1の揮発性疎水性溶剤50中に多くの水20が残る。この場合、粉体相回収工程S4後の粉体10の乾燥に要するエネルギーを十分に低減することができない可能性がある。このような観点から、第1の揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度は常温で10.0g/L以下であることが好ましく、5.0g/L以下であることがより好ましい。この場合、第1の揮発性疎水性溶剤50中に残留する水20をさらに低減することができる。
【0051】
なお、本実施形態における「疎水性」とは、親油性を含む性質であってもよく、第1の揮発性疎水性溶剤50は、例えば、疎水性を有する有機溶剤又は各種の油等であってよい。
【0052】
第1の揮発性疎水性溶剤50の比重は、水より大きく、回収対象となる粉体10の比重よりも小さい。具体的には、第1の揮発性疎水性溶剤50の比重は1.05超、2.0未満とする。これにより、後述する粉体相分離工程S3にてエマルジョンを破壊することによって、遠心分離用容器200内の相構造が上から、水相20a、溶剤相50a、粉体相10aとなる(図3(c)、(d)参照)。
【0053】
第1の揮発性疎水性溶剤50の沸点は、常圧で95℃未満であることが好ましい。沸点の上限値が95℃未満であれば、後工程の粉体相回収工程S4において、容易に(例えば安価なエネルギー源である水蒸気で)第1の揮発性疎水性溶剤50を除去することができる。なお、第1の揮発性疎水性溶剤50の沸点の下限値は特に限定しないが、油分の抽出操作は常温で行いやすいことから、50℃以上とすることが好ましい。
【0054】
また、第1の揮発性疎水性溶剤50の揮発熱量は、水の揮発熱量より小さいことが好ましい。この場合、粉体相回収工程S4において第1の揮発性疎水性溶剤50を揮発除去しやすくなり、粉体10と分離しやすくなる。
【0055】
また、第1の揮発性疎水性溶剤50として用いる溶剤としては、粉体10より効率的に油分を除去するため、KB値(カウリブタノール値)の大きい溶剤を選択することが好ましい。第1の揮発性疎水性溶剤50としてKB値の大きな溶剤を用いることで、油分をより吸収しやすくなる。KB値の観点からは、第1の揮発性疎水性溶剤50として、例えばトリクロロエチレン、1-ブロモプロパンなどを使用することが好ましい。また、第1の揮発性疎水性溶剤50として、ハイドロフルオロエーテルを用いてもよい。
【0056】
油分の付着した粉体10に対する第1の揮発性疎水性溶剤50の添加量、すなわち洗浄用溶剤添加率は、油分の抽出効率の観点から適切に制御されることが好ましい。上述したように、エマルジョン化工程S2において十分にエマルジョン化していないと第1の揮発性疎水性溶剤50による油分の抽出が十分に進行しない。エマルジョン化しない領域では、スラリー30の流動性が低いため、第1の揮発性疎水性溶剤50が油分の付着した粉体と接触する機会が少なく、油分の抽出は進みにくいと考えられる。そのため、スラリー30と第1の揮発性疎水性溶剤50の混合液をエマルジョンとする際は、スラリーの粘性が上記範囲内となるよう混合液の配合比率を制御することが望ましい。
【0057】
本実施形態では、粉体相分離工程S3においてエマルジョンを破壊して相分離を図る際、粉体10を疎水性の溶剤相50aに移動させる。粉体10を疎水性の溶剤相50aに十分に移動させるには、粉体10と溶剤相50aとの親和性を高めること有効である。そこで、本実施形態において粉体10として親水性の粒子を含む場合、エマルジョン化工程S2では、第1の揮発性疎水性溶剤50に加えて界面活性剤90をスラリー30に添加することが好ましい。界面活性剤90の添加の態様は特に制限されない。例えば、第1の揮発性疎水性溶剤50とは別に界面活性剤90をスラリー30に添加してもよいし、同時に添加してもよい。
【0058】
図4は、本実施形態のエマルジョン化工程S2における、界面活性剤90による粉体10の表面の改質を説明するための模式図である。
図4に示されるように、界面活性剤90は、親水基91と疎水基92とを備える。界面活性剤90の親水基91は粉体10の表面側を向き、疎水基92は粉体10の外側を向く。これにより、粉体10の表面を親水性から疎水性に変化させることができるので、粉体10を水相20aから溶剤相50aに移動させる際に、粉体10に随伴する水20の量を低下させることができる。すなわち、粉体10を取り囲む水20を、より多く第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することができる。この結果、粉体相回収工程S4後において、粉体10の乾燥に要するエネルギーをさらに低減することができ、乾燥度の向上が期待できる。なお、図4は界面活性剤90によって粉体10の表面が改質されている様子を示しており、粉体10が溶剤相50aに移動している状態である。図4に示すとおり、粉体10の表面のうち、界面活性剤90が付着した部分には水20が付着していないことがわかる。
【0059】
界面活性剤90は、油溶性の界面活性剤を用いることができ、主に、陰イオン界面活性剤であるが、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤なども挙げられる。より具体的な例としては、ナトリウムスルホネート(Naスルホネートともいう)、カルシウムスルホネート(Caスルホネートともいう)、マグネシウムスルホネート(Mgスルホネートともいう)等が挙げられ、これらは油溶性の陰イオン界面活性剤である。界面活性剤90は、1種類のみ使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。界面活性剤90は、当該界面活性剤の使用温度で安定であり、スラリー30のpHにおいて官能基部分がイオン化することが好ましく、かつ第1の揮発性疎水性溶剤50に対して界面活性剤の使用温度で1mg/L以上、より好ましくは1g/L以上溶解することが好ましい。また、界面活性剤90の添加量は特に制限されない。後述する実施例で示される通り、界面活性剤90の添加量が多いほど多くの水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することができる。この結果、粉体10の乾燥に要するエネルギーをさらに低減することができる。ただし、界面活性剤90の添加量が増加していくと、粉体10の乾燥に要するエネルギーの低減量はほぼ頭打ちとなる。この際の界面活性剤90の添加量が実質的な上限値となる。
【0060】
(粉体相分離工程S3)
粉体相分離工程S3は、エマルジョン化工程S2で形成したエマルジョン40を遠心力によって破壊し、さらにこの遠心力によって水相20aと溶剤相50aと粉体相10aに相分離しながら溶剤相50aと水相20aをろ過して粉体相10aを分離する工程である(図3(c)~(f))。
【0061】
粉体相分離工程S3は、ろ過型の遠心分離装置を用いて実施することができ、例えば、後述する本実施形態に係る粉体の回収設備1に備えられた粉体相分離装置(ろ過型の遠心分離装置)80を用いてもよい。
本実施形態の粉体相分離工程S3は、エマルジョン40に対し遠心力を作用させて相分離を図りながら、溶剤相50aと水相20aをろ過して粉体相10aを分離するものである。
【0062】
粉体相分離工程S3では、図3(c)に示すように、まず遠心力によって遠心分離用容器200内のエマルジョン40を破壊する。
本実施形態のエマルジョン40は、図3(b)に示すように溶剤液滴間の水20中に多くの粉体10が介在することにより安定している。その上、エマルジョン40のろ過抵抗は非常に大きいため、一般的な吸引ろ過の方法では、ろ過に要する時間が長時間となってしまう。そこで本実施形態では、図3(c)に示すとおり、エマルジョン40に遠心力を作用させることで、溶剤液滴間の水相20aに多く存在する粉体10を、遠心力が作用する方向(図3(c)の矢印方向)に移動させることができる。さらに、溶剤液滴が合一して溶剤相50aとなり、結果、エマルジョン40を破壊することができる。またこのとき、粉体10表面に付着していた油分は第1の揮発性疎水性溶剤50(溶剤相50a)に吸収される。
【0063】
このように遠心力を作用させてエマルジョン40を破壊することで、粉体10が溶剤相50aへ移動していく。このとき、粉体10の周囲に存在する水20、特に粉体10の粒子間に存在する水20の多くが第1の揮発性疎水性溶剤50で置換される。なお、前工程のエマルジョン化工程S2で界面活性剤90を添加しておくことで、より多くの水20を第1の揮発性疎水性溶剤50で置換することができる。
【0064】
エマルジョン40が破壊されると、図3(d)に示すとおり、遠心分離用容器200内の上から(ろ過面201と反対側から)、水相20a、溶剤相50a、粉体相10aの順に分離される。この際、粉体相10aの間隙は主に溶剤相50aで満たされ、水20は粉体10の周囲にわずかに存在するだけである。よって、例えば図3(d)中のA点では、溶剤相50aのろ過抵抗は遠心力よりも小さくなるため、溶剤相50aはろ過面201から容易にろ過される。すなわち、エマルジョン40の破壊後は相分離が進行するが、相分離の完了を待たずして、溶剤相50aの遠心分離用容器200外への排出を進めることができる。
【0065】
溶剤相50aが粉体相10aを通過しろ過面201より排出された後は、水相20aが粉体相10a内を通過することになるが、図3(e)に示すとおり、粉体相10a内の間隙は、残留した第1の揮発性疎水性溶剤50が多く存在する。そのため、例えば図3(e)中のB点では、水相20aのろ過抵抗は遠心力よりも大きくなるため、水相20aは粉体相10aを容易に通過することができず、遠心力だけでは排出されにくい。
そこで本実施形態では、ろ過型の遠心分離装置に粉体相10aの掻き寄せ機構を設け、この掻き寄せ機構によって水相20aの排出を促す。具体的には、まず図3(f)に示すように、ろ過面201上に堆積した粉体相10aを、掻き寄せ機構によってろ過面201上の一部領域(図示左側の領域)に集積させる。これにより、ろ過面201上の他の領域(図示右側の領域)に位置する粉体相10aが少なくする。すなわち、ろ過面201内の粉体相10aの一部の厚みを小さくする。粉体相10aの一部の厚みをゼロにしてもよい。この粉体相10aの厚みの小さくなった領域(図3(f)にて点線で囲まれた領域)ではろ過抵抗が小さくなるため、水相20aが容易に粉体相10aを通過する。その結果、水相20aをろ過面201から系外へ排出することができ、水相20aから粉体相10aを分離させることができる。つまり、ろ過面201上に堆積した粉体相10aを、掻き寄せ機構によって集積させることで、水相20aの系外への排出を促すことができ、結果、固液分離速度を高めることができる。
なお、図3(d)~図3(f)において、ろ過面201の下方に図示された矢印の方向は、溶剤相50aと水相20aの排出方向を示しており、矢印の太さは、排出の度合いを表している。つまり例えば図3(f)では、ろ過面201から排出される水相20aの排出量は、粉体相10aの厚みの小さな領域では多く、厚みの大きい領域では少ないことを示している。
【0066】
掻き寄せ機構としては、後述の本実施形態に係る粉体の回収設備1で詳述するが、例えば、板状の掻き寄せ板であってもよい。この場合は、当該板状の掻き寄せ板を遠心分離用容器200内に挿入し、粉体相10aを掻き寄せて集積させることで粉体相10aの一部の厚みを小さくすることができる。
【0067】
また、ろ過面201が、遠心分離装置の回転軸に平行な面に対して傾斜した構成を掻き寄せ機構としてもよい。つまり、ろ過面201を傾斜させた構造とすることによって粉体相10aのろ過面201全面への堆積を抑制し、かつ遠心力の作用によって粉体相10aの一部をろ過面201の端面側へ集積させることができる。
【0068】
上記のような掻き寄せ機構によって、ろ過面201上に堆積した粉体相10aを集積させる際、その集積位置や形態は特に限定せず、粉体相10aのうち厚みの小さくなった領域ができればよい。例えば、粉体相10aをろ過面201の面上における外周側へ集積させることでろ過面201内の粉体相10aの厚み分布に傾斜を持たせ、粉体相10aの一部の厚みを小さくしてもよい。このようにろ過面201内の粉体相10aの一部の厚みを小さくすることにより、当該領域のろ過抵抗が大幅に低下するため、水相20aをろ過面201より容易かつ高速で排出することができ、結果、固液分離速度を向上させることができる。
【0069】
粉体相分離工程S3における遠心力は、10G以上とするのが好ましい。遠心力が10G以上であれば、溶剤相50aが粉体相10aを容易に通過することができる。遠心力の上限値は特に限定しないが、10,000G超となると適用できるろ過型の遠心分離装置がほとんどないため、10,000G以下が好ましい。
【0070】
(すすぎ工程S3´)
粉体相分離工程S3において、溶剤相50aと水相20aをろ過して粉体相10aを分離した後、分離された粉体相10aに第2の揮発性疎水性溶剤51(以下、すすぎ用溶剤とも称する。)をさらに添加することによって、粉体相10a中に残留していた溶剤相50aを分離させるすすぎ工程S3´を行ってもよい。
【0071】
図3(f)に示すように、分離された粉体相10a中には、ろ過しきれなかった溶剤相50aが残留していることがある。この残留溶剤相50a´は、油分を吸着しているもののろ過できなかったものであるため、粉体10の純度を高めるには、残留溶剤相50a´を十分に分離・除去する方が好ましい。本実施形態では、このような残留溶剤相50a´を含む粉体相10aへ第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)51を添加して、遠心力によって残留溶剤相50a´を粉体相10aから分離させて除去するすすぎ工程S3´を実施することが好ましい。粉体相分離工程S3において、このようなすすぎ工程S3´を追加して行うことで、粉体相10a中に残存する油分を含む残留溶剤相50a´を十分に除去できるようになり、純度の高い粉体10を回収することができる。
【0072】
第2の揮発性疎水性溶剤51の添加量は、次のように算出することが好ましい。
まず、すすぎ工程S3´において分離・除去された残留溶剤相50a´を、比重分離によって油分をほとんど含まない水相と、油分を含む溶剤相とに分離し、そのうちの油分を含む溶剤相の吸光度を測定する。得られた吸光度の測定値から、粉体相回収工程S4後の粉体相中の残留油分量を推定し、この残留油分量の推定値が目標値以下となるよう、第2の揮発性疎水性溶剤51の添加量を調整する。
つまり、すすぎ工程S3´によって分離・除去された残留溶剤相中に油分が多く含む場合(吸光度が高い場合)は、粉体相10aから除去しきれなかった油分が多く残っていると判断でき、その場合は第2の揮発性疎水性溶剤51の添加量を増やす。一方、すすぎ工程S3´によって分離・除去された残留溶剤相中に油分がほぼ残っていない場合(吸光度が低い場合)は、粉体相10aから油分を十分に除去できていると言えるため、第2の揮発性疎水性溶剤51の添加量を減らせばよい。これにより、残留溶剤相50a´を効率的に粉体相10aから分離・除去することができる。また、すすぎ工程S3´によって分離された油分を含む残留溶剤相50a´の吸光度によって、回収後の粉体相中の残留油分量を制御することができる。
【0073】
すすぎ工程S3´によって分離された油分を含む残留溶剤相50a´の吸光度は、例えば、測定対象である残留溶剤相50a´を密閉セルに入れ、吸光度計で吸光度を測定する。油分は、一般的に黄色を帯びているため、油分を含んだ残留溶剤相50a´の吸光度を測定する際の吸収波長は、350~500nm付近を用いればよい。
【0074】
すすぎ工程S3´で用いる第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)51としては、上述した第1の揮発性疎水性溶剤50と同様のものを使用してもよく、また違ってもよい。
なお、後述するが、洗浄廃液から回収した油分を含む溶剤相については、蒸留した後に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤として再生させる。この再生させた揮発性疎水性溶剤は、第1の揮発性疎水性溶剤もしくは第2の揮発性疎水性溶剤として使用することができる。また、すすぎ廃液から回収した溶剤相に関しては、油分の含有量が少ないことから、第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)としても使用ができる。これらのことから、第1の揮発性疎水性溶剤50と第2の揮発性疎水性溶剤51は同じものを使用するのが好ましい。
【0075】
(粉体相回収工程S4)
粉体相回収工程S4は、粉体相分離工程S3によって分離された粉体相10aを回収する工程である。
【0076】
粉体相回収工程S4では、まず遠心分離用容器200から粉体相10aを回収する。具体的には、図3(f)にて示したような水相20aの排出(ろ過)が完了した後、遠心分離用容器200内に残った粉体相10aを回収する。なお、水相20aの排出が完了した後の粉体相10aは、粉体10が凝集してケーキ状に固まっていることが多く、「粉体ケーキ」、または単に「ケーキ」とも呼ばれる。
【0077】
次に、回収後の粉体相10a中に残留している第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51を除去する。回収後の粉体相10a中には、排出しきれなかった第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51が残留しているため、これらを除去する必要がある。具体的には、例えば、乾燥除去や揮発除去によりこれらの溶剤を除去すればよい。
【0078】
乾燥除去によって第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51を除去する場合、乾燥温度は第1の揮発性疎水性溶剤50の沸点超の温度とすることが好ましい。これにより粉体相10aから効率的に各溶剤を乾燥除去できる。なお、すすぎ工程において第2の揮発性疎水性溶剤51として第1の揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方の温度で乾燥除去すればよい。
【0079】
乾燥させる手段は特に限定しないが、例えば、間接加熱型乾燥器、真空間接加熱型乾燥器などを用いて乾燥させてよい。
【0080】
揮発除去によって第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51を除去する場合は、まず、第1の揮発性疎水性溶剤50の沸点超の水温である温水槽に投入して第1の揮発性疎水性溶剤50を揮発除去する。温水槽に投入された粉体相10aはスラリー化するため、溶剤を揮発除去した後は、当該スラリーを脱水機にて脱水する。これにより、各溶剤が除去された粉体10を回収することができる。なお、すすぎ工程において第2の揮発性疎水性溶剤51として第1の揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、温水槽の水温は、第1の揮発性疎水性溶剤50および第2の揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方とすればよい。
【0081】
上述したように、粉体相分離工程S3後の粉体相(粉体ケーキ)10aに含まれる液体の大部分は第1の揮発性疎水性溶剤50、または、第2の揮発性疎水性溶剤51なので、より少ないエネルギー(気化熱量)で粉体相10aを乾燥することができる。したがって、粉体相10aの乾燥に際して発生するCOを削減することができる。なお、後述する実施例で示されるように、粉体相の乾燥に要するエネルギーは示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)によって測定することができるが、他の方法、例えばカールフィッシャー法によっても測定することができる。
【0082】
以上、本実施形態に係る粉体の回収方法について説明してきたが、各工程を行う際の温度、圧力は特に制限されず、例えば常温常圧下で行ってもよい。また本実施形態では、粉体相分離工程S3から粉体相回収工程S4において、連続した複数の工程を、1台のろ過型の遠心分離装置で行うことが好ましい。
【0083】
また、本実施形態に係る粉体の回収方法は、スラリー化工程S1~粉体相回収工程S4の各工程を回分処理で実施することも可能であるが、固液分離速度、粉体回収速度および生産性の観点からは、これら工程を同時並行で処理する連続処理で実施することが好ましい。
【0084】
本実施形態に係る粉体の回収方法によれば、ろ過型の遠心分離装置を用い、揮発性の疎水性溶剤を利用した油分の抽出・除去を行うため、従来の燃焼処理方法に比べ、含油粉体からの油分除去エネルギーを大幅に低減できる。また、ろ過型遠心分離装置にてエマルジョンを破壊しながら、粉体相(粉体ケーキ)と油分を含んだ溶剤と水とに分離した後、粉体相をろ過面で掻き寄せ集積させることにより、粉体相の厚みの小さくなった領域から水相をすばやく排出することができ、高速かつ効率的に粉体相を回収することができる。また回収された粉体相中の間隙は、揮発性疎水性溶剤がほとんどであることから、容易に除去することができ、油分をほとんど含まない低水分かつ高純度の粉体を、効率的に回収することができる。すなわち、本実施形態に係る粉体の回収方法によれば、油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、新規かつ改良された粉体の回収方法を提供することができる。
【0085】
<2.粉体の回収設備>
次に、上述した本実施形態の粉体の回収方法を実施するための粉体の回収設備の一実施形態について説明する。すなわち、本実施形態に係る粉体の回収設備は、油分の付着した粉体から油分を分離して粉体を回収する設備である。また、本実施形態の粉体の回収設備における各装置は回分式で設けてもよいし、各装置を同時に稼働させながら連続して処理を進める、いわゆる連続処理となるよう設けてもよい。なお、粉体回収速度および生産性の観点からは、粉体の回収プロセスは連続処理(連続プロセス)とすることが好ましい。
以下の説明では、本実施形態の回収設備の一例として、連続処理で実施する場合を例に挙げ、説明する。
【0086】
図5は、本実施形態に係る粉体の回収設備1と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
本実施形態の粉体の回収設備1は、スラリー化装置60と、エマルジョン化装置70と、遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら、溶剤相と水相をろ過して粉体相を分離する粉体相分離装置80とを備える。なお、図5では、粉体相分離装置80として、連続式のろ過型遠心分離機を適用した場合を示しているが、本発明はこれに限定されず、種々のろ過型遠心分離機を適用可能である。
【0087】
スラリー化装置60は、スラリー化工程S1を実行する装置であり、油分が付着した比重が1.05超の粉体10と水20とを攪拌・混合してスラリー30を生成する。スラリー化装置60としては公知のものを使用することができ、例えば、粉体10及び水20の混合液を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0088】
粉体の回収方法を連続処理で行う場合、スラリー化装置60は、後段のエマルジョン化装置70に対して例えば、配管を介して接続することができる。スラリー化装置60で生成されたスラリー30は配管を通って、エマルジョン化装置70へ送出される。なお、配管にはポンプP1が接続されており、ポンプP1によって配管中のスラリー30がエマルジョン化装置70に送出される。
【0089】
エマルジョン化装置70は、エマルジョン化工程S2を実行する装置であり、スラリー30に比重が1.05超、2.0未満の第1の揮発性疎水性溶剤50を添加した後、攪拌・混合し、エマルジョン40を形成する。エマルジョン化装置70については公知のものを使用することができ、例えば、スラリー30と第1の揮発性疎水性溶剤50との混合物を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0090】
粉体の回収方法を連続処理で行う場合、エマルジョン化装置70は、後段の粉体相分離装置80に対して例えば、配管を介して接続することができ、生成されたエマルジョン40は配管を通って、粉体相分離装置80へ送出される。なお、配管にはポンプP2が接続されており、ポンプP2によって配管中のエマルジョン40が粉体相分離装置80に送出される。
【0091】
エマルジョン化装置70には、スラリー30および第1の揮発性疎水性溶剤50が導入される。スラリー30はスラリー化装置60から配管を介してエマルジョン化装置70に導入される。第1の揮発性疎水性溶剤50は、例えば溶剤の貯留槽(不図示)などからエマルジョン化装置70に導入される。図5では、第1の揮発性疎水性溶剤50はスラリー30を配送する配管に供給され、スラリー30とともにエマルジョン化装置70に導入されている。第1の揮発性疎水性溶剤50は、スラリー30とは別の配管を通じてエマルジョン化装置70に直接導入されてもよい。
【0092】
エマルジョン化装置70は、モータMで撹拌翼を回転させることにより、スラリー30と第1の揮発性疎水性溶剤50とを撹拌して、混合する。その結果、粉体10と水20と第1の揮発性疎水性溶剤50が強攪拌されるため、上述したエマルジョン40を生成することができ、さらに、第1の揮発性疎水性溶剤50が油分の抽出剤として作用して、粉体10から油分が抽出される。
【0093】
粉体相分離装置80は、ろ過型の遠心分離装置(ろ過型遠心分離機)であり、遠心力によってエマルジョンを破壊し、さらに遠心力によって水相と溶剤相と粉体相に相分離しながら、溶剤相と水相をろ過して粉体相を分離する装置である。
【0094】
粉体の回収方法の各工程を連続処理で行う場合、ろ過型遠心分離機(粉体相分離装置)80には、エマルジョン化装置70から配管を介してエマルジョン40が導入され、その後、エマルジョン40が遠心分離される。
【0095】
粉体の回収を連続処理で行う場合、粉体相分離装置80であるろ過型遠心分離機としては、図5に示すような連続式のろ過型遠心分離機を採用することが好ましい。また、揮発性の溶剤を使用できるほか、ろ過した溶剤相や、すずき工程で用いた第2の揮発性疎水性溶剤51など各種溶剤や廃液を区別して各排出口から取り出すことができる連続式のろ過型遠心分離機を採用することがより望ましい。
【0096】
本実施形態におけるろ過型遠心分離機(粉体相分離装置)80は、遠心力によって相分離された粉体相10aを掻き寄せるための掻き寄せ機構81を有する。掻き寄せ機構81は、溶剤相と水相をろ過する際、スクリーン(ろ過面)82上に堆積した粉体相10aをろ過面の一部に集積させる機構である。ろ過型遠心分離機80に掻き寄せ機構81を備えることで、効率的かつ高速で固液分離を図ることができる。本実施形態の場合、掻き寄せ機構81は、回転軸の軸方向に沿って延びる螺旋状の板材からなるスクレーパーである。スクレーパーは回転軸に固定される。スクレーパーの外周端は、ろ過面82の内面の近傍に位置する。スクレーパーは、回転軸とともに回転することで、ろ過面82上の粉体相10aを徐々に下側へ移動させる。
【0097】
図6に、たて型の連続式のろ過型遠心分離機を適用した場合のろ過型遠心分離機(粉体相分離装置)80の断面模式図を示す。
たて型の連続式のろ過型遠心分離機の場合、機体上部に設けられた供給口より供給されたエマルジョン40に遠心力が作用することで、エマルジョン40が破壊され、ろ過面82上で粉体相10a、溶剤相50a、水相20aに相分離される。相分離された各相は、ろ過面82側から粉体相10a、溶剤相50a、水相20aの順に配置される。エマルジョン40中の溶剤相50aは遠心力を受けて高速回転するスクリーン(ろ過面)82の孔82aを通過し、系外へ排出される。一方、エマルジョン40中の粉体相10aはスクリーン82の内側に残留し、回転体内部のスクレーパーにより、機体の下方へ搬送される。なお搬送された粉体相10aは、ろ過型遠心分離機80下方に設けられた乾燥装置(不図示)へ投入されるか、もしくはろ過型遠心分離機80下方に設けられた排出口から排出され、ろ過型遠心分離機80の系外に設けられた乾燥装置へ配管等を介して搬送される。
【0098】
ろ過型遠心分離機(粉体相分離装置)80として連続式のろ過型遠心分離機を採用する場合は、このスクレーパーが掻き寄せ機構81に相当する。
ここで、たて型の連続式のろ過型遠心分離機の場合、上部から供給されたエマルジョン40のうち溶剤相50aは遠心力が作用すると間もなくろ過され系外へ排出されが、水相20aは上述のとおり、粉体相10aの間隙を通り抜けることが困難である。そのため、本実施形態では、スクレーパーによって粉体相10aが掻き寄せられて集積されることで、粉体相10aの厚みが小さくなった領域から水相20aが系外へ排出されていく。
【0099】
なお、図6に示すろ過型遠心分離機(粉体相分離装置)80のスクリーン82は、回転軸を中心として、機体上方から下方(上流から下流)にかけて断面視略八の字、いわゆる末広がりとなるように設けられているが、スクリーン82の形状は特にこれに限定されない。すなわち、スクリーン82が回転軸に対して平行であってもよく、また回転軸を中心として、機体上方から下方(上流から下流)にかけて断面視して逆八の字、つまり、機体を平面視した場合、スクリーン82の径が下方にかけて小さくなるように設けられてもよい。
【0100】
図6に示すようなたて型の連続式の粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80の場合、エマルジョン40はスクレーパー(掻き寄せ機構)81によって機体下方へ搬送されながら、同時に遠心力によって相分離される。このとき、相分離された粉体相10aは、スクレーパー81で掻き寄せられ、スクレーパー81の掻き寄せ面の下面に堆積するが、堆積した粉体相10aは、遠心力によってスクリーン82全面に沿うように広がろうとし、粉体相10aの厚みが小さい領域が減少する、すなわち遠心力によって粉体相10aの厚みが略均一となる可能性がある。これに対して、スクリーン82を回転軸に対して平行(遠心力に対して直角)にした場合、もしくは、回転軸を中心として、機体上方から下方(上流から下流)にかけて断面視して逆八の字となるよう傾斜させた場合、遠心力は、スクレーパーで掻き寄せられた粉体相10aをスクリーン82全面に広がらせるように作用しにくくなる。これにより、厚みが小さい粉体相10aの領域を維持することができ、水相20aの系外への排出を高速かつ効率的に実施できる。
【0101】
以上、粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80として連続式のろ過型遠心分離機を採用した場合について説明したが、本実施形態の粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80として、回分式のろ過型遠心分離機も適用可能であり、その場合でも連続式と同様の構造、技術思想を適用できる。
【0102】
次に、回分式のろ過型遠心分離機を適用した場合の粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80Aについて説明する。
図7に、回分式のろ過型遠心分離機を適用した場合の粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80Aの装置断面図を示す。
本実施形態の粉体の回収設備において、粉体相分離装置として回分式のろ過型遠心分離機を用いる場合は、図7に示すとおり、回転軸に対して傾斜したろ過面201が掻き寄せ機構となる。すなわち、通常は回転軸に対して平行に設置されるろ過面201(図7でいう傾斜角度αが0°の場合)を、回転軸に平行な面に対して傾斜させることで、ろ過面201全面への粉体相10aの堆積を抑制するとともに、粉体相10aの集積を促すことができる。ろ過面201の傾斜角度αについて、傾斜角度αが0°超であれば前述の効果を発揮させることができる。傾斜角度αの上限値は特に限定しないが、傾斜角度αを過度に大きくすると、回分式のろ過型遠心分離用容器200の長さが大きくなり、遠心分離装置が大きくなるため、傾斜角度αは60°以下とすることが好ましい。
【0103】
なお、回分式である粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80Aのろ過面201の傾斜方向は特に問わない。すなわち、エマルジョンが投入された遠心分離用容器200を粉体相分離装置80Aに設置する際、ろ過面201の上端側が回転軸側に傾斜する方向(図7参照)にろ過面201を傾斜させてもよいし、ろ過面201の下端側が回転軸側に傾斜する方向にろ過面201を傾斜させてもよい。いずれの傾斜方向であっても、ろ過面201全面への粉体相10aの堆積を抑制し、かつ粉体相10aの集積を促す効果を享受できる。
【0104】
以上、粉体相分離装置80、80Aについて説明したが、粉体相分離装置80、80Aによって分離された粉体相(ケーキ)には揮発性疎水性溶剤が含まれるため、これを除去する必要がある。具体的には、乾燥除去や揮発除去によりこれらの溶剤を除去すればよいが、例えば、粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)80としてたて型の連続式のろ過型遠心分離機を用いた場合は、機体下方に温水槽(不図示)を設けることで、粉体相排出口から直接当該温水槽に投入できる。また、乾燥除去により溶剤を除去する場合は、機体下方より排出したケーキを、ケーキ移送用のポンプ等で乾燥機に投入すればよい。
【実施例
【0105】
次に、本実施形態の実施例(実験例)を説明する。以下に説明する各実施例では、本実施形態の効果を確認するために様々な試験を行った。なお、以下の各実施例はいずれも常温常圧下で行った。
【0106】
<実施例1>
粉体、疎水性溶剤(洗浄用溶剤)および水を表1Aに示す条件で配合して混合、攪拌するとともに、表1Bに示す条件で遠心分離し、粉体相を回収した。
【0107】
【表1A】
【0108】
【表1B】
【0109】
比較例1-1では、表1Aに示す配合物(粉体と疎水性溶剤)と水を、表1Aで示す配合条件で配合した。具体的には、油分が付着したスケールと水を、100mlのガラス容器内に入れて密栓し、人為的に振ることで混合してスラリー化した。その後、スラリーに疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加して密栓し、さらに人為的に振り混合・攪拌した。攪拌後の状態はエマルジョンとなっていた。
その後、底面にろ過面を有しない一般的な遠心分離用容器にエマルジョンを投入し、この遠心分離用容器を回分式の卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間、遠心力を作用させた。その後、遠心分離用容器内の相分離状態を観察し、容器底に沈殿した粉体相(ケーキ)を回収し、気化熱量、粉体相中の油分含有率を測定し、油分除去率を計算した。
【0110】
比較例1-2では、表1Aに示す配合物(粉体と疎水性溶剤)と水を、表1Aで示す配合条件で配合した。具体的には、油分が付着したスケールと水を、100mlのガラス容器内に入れて密栓し、人為的に振ることで混合してスラリー化した。その後、スラリーに疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加して密栓し、さらに人為的に振り混合・攪拌した。攪拌後の状態はエマルジョンとなっていた。
その後、底面にろ過面(ろ過面は回転軸に対して平行、傾斜角度αは0度)を有したろ過型の遠心分離用容器にエマルジョンを投入し、この遠心分離用容器を回分式の卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間、遠心力を作用させた。その後、遠心分離用容器内の相分離状態を観察し、容器底に沈殿したケーキを回収し、気化熱量、粉体相中の油分含有率を測定し、油分除去率を計算した。
【0111】
発明例1-3、比較例1-4~1-5、発明例1-6~1-10では、表1Aに示す配合物(粉体と疎水性溶剤)と水を、表1Aで示す配合条件で配合した。具体的には、油分が付着したスケールと水を、100mlのガラス容器内に入れて密栓し、人為的に振ることで混合してスラリー化した。その後に、スラリーに疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加して密栓し、さらに人為的に振り混合・攪拌した。
その後、底面にろ過面(ろ過面は回転軸に対して平行、傾斜角度αは0度)を有したろ過型遠心分離用容器に、スラリーと疎水性溶剤の混合物を投入し、この遠心分離用容器を回分式の卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間、遠心力を作用させた。その後、遠心分離用容器の底(ろ過面)に堆積しているケーキを掻き寄せ機構(スプーン)で掻き寄せた後、再度、遠心分離用容器を卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間遠心力を作用させた。なお、表1B中の「掻き寄せ工程の回数」とは、前述の一連の工程(遠心力作用~掻き寄せ~遠心力作用)を1回としてカウントした。また、掻き寄せ工程を1回行うごとに、遠心分離用容器の相分離状態を観察し、水相が排出されてなくなるまで、掻き寄せ操作と遠心分離操作を繰り返した。掻き寄せ操作の工程の回数を表1Bに記載した。水相の排出完了後、容器底に沈殿したケーキを回収し、気化熱量、粉体相中の油分含有率を測定し、油分除去率を計算した。
【0112】
発明例1-11~1-17、発明例1-21~1-24では、表1Aに示す配合物(粉体と疎水性溶剤)と水を、表1Aで示す配合条件で配合した。具体的には、各種粉体と水を100mlのガラス容器内に入れて密栓し、人為的に振ることで混合してスラリー化した。その後に、スラリーに疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加して密栓し、さらに人為的に振り混合・攪拌した。
その後、底面にろ過面(ろ過面は回転軸に対して平行もしくは斜め、傾斜角度αは0~30度)を有したろ過型遠心分離用容器にエマルジョンを投入し、この遠心分離用容器を回分式の卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間、遠心力を作用させた。その後、洗浄用洗剤と同量の油分を含まない揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)を遠心分離用容器内に投入し、さらに遠心分離用容器を卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間遠心力を作用させた。その後、遠心分離用容器の底(ろ過面)に堆積しているケーキをスプーンで掻き寄せた後、再度、遠心分離用容器を卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとしてさらに10秒間、遠心力を作用させた。
なお、掻き寄せ工程を1回行うごとに遠心分離用容器の相分離状態を観察し、水相が排出されてなくなるまで、掻き寄せ操作と遠心分離操作を繰り返した。掻き寄せ操作の工程の回数を表1Bに記載した。水相の排出完了後、容器底に沈殿したケーキを回収し、気化熱量、粉体相中の油分含有率を測定し、油分除去率を計算した。
【0113】
発明例1-18~1-20では、表1Aに示す配合物(粉体と疎水性溶剤)と水を、表1Aで示す配合条件で配合した。具体的には、スケールと水を100mlのガラス容器内に入れて密栓し、人為的に振ることで混合してスラリー化した。その後に、スラリーに疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加して密栓し、さらに人為的に振り混合・攪拌した。この際、洗浄用溶剤中に表1Aに記載の添加率で界面活性剤(Na-スルホネート)を加えた。なお表1A記載の界面活性剤の添加率は粉体に対する添加率(質量%、外数)である。
その後、底面にろ過面(ろ過面は回転軸に対して平行、傾斜角度αは0度)を有したろ過型遠心分離用容器にエマルジョンを投入し、この遠心分離用容器を回分式の卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間、遠心力を作用させた。その後、界面活性剤を含む洗浄用溶剤の量と同量の油分を含まない揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)を遠心分離用容器に投入し、さらに遠心分離用容器を卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとして10秒間遠心力を作用させた。その後、遠心分離用容器の底(ろ過面)に堆積しているケーキをスプーンで掻き寄せた後、再度、遠心分離用容器を卓上遠心分離装置にて回転させ、遠心加速度1750Gとしてさらに10秒間、遠心力を作用させた。
なお、掻き寄せ工程を1回行うごとに遠心分離用容器の相分離状態を観察し、水相が排出されてなくなるまで、掻き寄せ操作と遠心分離操作を繰り返した。掻き寄せ操作の工程の回数を表1Bに記載した。水相の排出完了後、容器底に沈殿したケーキを回収し、気化熱量、粉体相中の油分含有率を測定し、油分除去率を計算した。
【0114】
次に、試験結果について説明する。
【0115】
比較例1-1~1-2、実施例1-3に示すように、ろ過面を有しない一般的な従来の遠心分離容器(比較例1-1)よりも、ろ過面を有したろ過型遠心分離容器(比較例1-2)の方が回収後の粉体相中の油分含油率は低下し、気化熱量も低減できるといえる。さらに、発明例1-3のように、ろ過面を有したろ過型遠心分離容器とした上でさらに掻き寄せ工程を行った方が、回収後の粉体相中の油分含油率も低下し、気化熱量も低下するといえる。
【0116】
また、比較例1-4~1-5、発明例1-6~1-10は、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))を一定(0.29(g/g))にし、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))のみを0.18~1.06(g/g)まで変化させた例である。
水/粉体が0.33(g/g)以下(比較例1-4および比較例1-5)では、スラリー化できておらず、スラリーの粘度測定時、測定範囲を超過(100Pa・S超)してしまい、測定自体が実施できなかった。また、比較例1-4、1-5ではスラリー化できなかったため、エマルジョンの状態も不良であった。
一方、水/粉体が0.47(g/g)以上(発明例1-6~発明例1-10)では、十分にスラリー化でき、いずれも2.00Pa・s以下であった。また、発明例1-8~発明例1-10はいずれも、エマルジョンの状態は良好であったが、発明例1-6、1-7では、スラリー粘度が、若干高めとなり、エマルジョンの状態は発明例1-8~発明例1-10よりも若干劣ったものの、本発明の効果を阻害するほどではなかった。
【0117】
図8および図9のそれぞれは、発明例1-6~発明例1-10における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係、ならびにスラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(%)を示すグラフである。
図8および図9のグラフに示すとおり、水/粉体が小さくなると、スラリーの粘度が上昇してしまい、洗浄用溶剤との混合が不十分となる結果、油分除去率は低下する傾向となった。例えば、水スラリーの粘度が1.98Pa・Sの時(発明例1-6)、油分除去率は42質量%となり油分を除去できることを確認した。
一方、粘度が100Pa・S超の時(比較例1-4及び比較例1-5)、油分除去率は10%以下となり、ほとんど除去できないことがわかった。スラリーの粘度が0.61Pa・Sの時(発明例1-7)、油分除去率は52質量%まで上昇しさらに、スラリーの粘度が0.35Pa・S以下になると(発明例1-8~発明例1-10)、油分除去率は64~70質量%まで大幅に上昇し、ほぼ一定となった。これより、スラリーの粘度を0.35Pa・Sにすることで、エマルジョン中の水相内を粉体が自由に動けるようになり、エマルジョン中の溶剤液滴と粉体の接触が律速とならないと考えられる。なお気化熱量については、水スラリーの粘度の変動によって大きな差異はなかった。
以上のことから、粉体と水を混合して作成するスラリーの粘度は、2.0Pa・S以下とし、好ましくは0.65Pa・S以下とし、より好ましくは0.50Pa・S以下とし、さらに好ましくは0.35Pa・Sとする。
【0118】
発明例1-8、1-11においては、すすぎ工程の有無について比較している。発明例1-8、1-11の結果から、すすぎ工程を行うことで、油分除去率が上昇しているといえる。これは、粉体相分離工程で、粒子間に残存している油分を含んだ洗浄用溶剤を完全に除去できていないためである。つまり、粉体相分離工程においてすすぎ工程を行うことで、粒子間に残存する油分を含む洗浄用溶剤を十分に除去できるようになる。
【0119】
図10は、発明例1-11~発明例1-14における、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))と油分除去率(%)との関係を示すグラフである。
実施例1-11~1-14では、洗浄用溶剤/粉体を0.21~1.23(g/g)まで変化させているが、図10のグラフに示すとおり、洗浄用溶剤/粉体が大きいほど、油分除去率が上昇し、洗浄用溶剤/粉体の配合比が0.3でほぼ油分除去率が97質量%にも達することがわかる。
【0120】
さらに、発明例1-11、1-15~1-17において、ろ過型遠心分離容器のろ過面の傾斜角度αを、回転軸に対して平行(0度)~30度まで変化させた。なお、傾斜方向は図7に示すように、ろ過面の上端側を回転軸方向に傾斜させる方向としている。
発明例1-11、1-15~1-17からも明らかなように、ろ過面の傾斜角度αを0度とするよりも、ろ過面を傾けたほうが、遠心分離容器内の水相をより少ない掻き寄せ工程の回数で排出できることがわかる。この現象を以下に説明する。
【0121】
図3に示すように、エマルジョンが破壊された後は、遠心力によって粉体相(ケーキ)と溶剤相と水とに相分離され、溶剤相はケーキ内を通過してろ過面より排出され、次に水相が排出される。
具体的にはまず、エマルジョン中の粉体に遠心力が作用し、回転軸からより遠いところ、すなわち容器底面(ろ過面)に濃縮され、粉体相(ケーキ)を形成する。通常、ケーキ内は、溶剤を多く含んでいるため、水が通過するにはろ過抵抗が高く、ろ過に時間を要する。しかし、ろ過面を傾けて設置すると(傾斜角度が0度より大きくすると)、ケーキが一方の方向に集積されるため、ケーキ厚が薄くなった領域や、ケーキに覆われないろ過面が生じる。このようなケーキ厚の小さい領域やケーキに覆われていないろ過面上では、ろ過抵抗は小さくなり、水相をすばやくろ過できることになる。このような現象が実施例1-15~1-17で生じたと考えている。
【0122】
さらに、発明例1-11、発明例1-18~1-20において、界面活性剤の添加による気化熱量の影響を調べた。エマルジョン化工程において洗浄用溶剤とともに界面活性剤を添加することにより、気化熱量は低下でき、その量が増えるほど気化熱量が低下することがわかった。なお、界面活性剤の量を他の発明例よりも多く添加した発明例1-20であっても気化熱量は、13J/g-dryとなり、粒子間に水等がわずかに存在した結果となった。これは、界面活性剤により粉体(スケール)の粒子の表面がすべて疎水性になり、粒子間の水等がすべて疎水性溶剤で置換されたと考えられるが、溶剤中に、水がわずかに溶解したために、このような結果が得られたと考えられる。
【0123】
さらに、発明例1-21は、粉体として油分が付着した研磨屑を用いた場合であるが、本発明例でも、研磨屑から油分の分離を行うことができ、かつ研磨屑から油分が除去できることを確認した。
【0124】
さらに、発明例1-22~1-24において、疎水性溶剤(洗浄用溶剤)としてトリクロロエチレン、ハイドロフルオロエーテルを使用し、油分が除去できることを確認した。
【0125】
なお、油分除去前の粉体および回収したケーキ(粉体相)の各油分含有率は、次のように測定した。
まず、油分除去前の粉体および回収したケーキそれぞれについて、105℃の乾燥機で2時間乾燥させた後、ソックスレー抽出器を用いて、n-ヘキサンにて油分を抽出した。引き続き、抽出したn-ヘキサンと油分を含んだ混合物を加温し、n-ヘキサンを揮散した後、残さ物(油分)の重量を測定し、油分除去前の粉体およびケーキ中の油分含有率をそれぞれ算出した。なお油分除去率は、油分除去前の粉体の油分含有率から油分除去後のケーキ(粉体相)の油分含有率を引いた油分含有率差を分子とし、油分除去前の粉体の油分含有率を分母とした場合の値である。
【0126】
また、回収したケーキの気化熱量は、次のように測定した。
まず遠心分離用容器の底部に沈積したケーキから5~8mgの試料を採取し、湿潤状態のままの試料をすばやく示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)装置(DSC8230、リガク社製)に設置した。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。試料量が非常に少ないため、秤量作業から示差走査熱量測定を行うまでに、試料中の揮発性疎水性液体は揮発してしまう。このため、測定される気化熱量は、試料中の水分のみによる気化熱量であると推察される。すなわち、この気化熱量が少ないほど、ケーキに持ち込まれる水等の量が少なくなり、回収後のケーキを乾燥させる際のエネルギーが少なくなると言える。
【0127】
また、粉体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定し、体積基準の平均粒子径を求めた。
【0128】
また、スラリーの粘度は、まず回転粘度計により粘性抵抗トルクを測定し、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算することで求めた。具体的には、まず作成したスラリー300mlをトールビーカーに入れ、回転粘度計のローター部を浸漬させた状態で回転させることにより、ローター部に作用するスラリーの粘性抵抗トルクを測定した。その後、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算した。なお、回転粘度計は、「VISCOMETER DVL-8型(東機産業製)」を用いた。
【0129】
<実施例2>
まず、油分の付着したスケール(水分20質量%、油分5質量%-dry)に水を添加後、混合し、スラリー化工程でスラリー(固形物含有率:50%質量)を作成した。ついでスラリー化工程で作成したスラリーをエマルジョン化装置に2.0kg/分で投入し、さらに洗浄用溶剤(1-ブロモプロパン、比重:1.35、沸点:71℃)を0.29kg/分で投入し、攪拌することで、エマルジョンを作成した。
【0130】
次に、エマルジョン化工程で作成したエマルジョンを2.29kg/分で、図5および図6に示すたて型の連続式のろ過型遠心分離機に投入した。また、すすぎ用溶剤として洗浄用溶剤と同様のもの(1-ブロモプロパン、比重:1.35、沸点:71℃)を0.29kg/分で投入した。なお、用いたたて型の連続式のろ過型遠心分離機は、粉体相分離工程とすすぎ工程と粉体回収工程の一連の工程が上流から下流に向かう鉛直方向に沿って連続して行えるような設計とした。すすぎ用溶剤投入後、遠心加速度が1750Gとなるように遠心力を作用させて、ろ過面を回転させた。なお、ろ過面のスリット幅は50μmとした。
【0131】
また、掻き寄せ機構であるスクレーパーの回転速度は、ろ過面の回転速度より30rpm小さくし、ろ過面に堆積したスケールを下流側に掻き寄せた。
ろ過型遠心分離機によって分離した、油分を主に含む洗浄用溶剤と、水を主体とする洗浄廃液と、すすぎ工程で分離した油分をほとんど含まないすすぎ用溶剤と、水を主体とするすすぎ廃液は、それぞれろ過型遠心分離機の側面に設けられた排出口より回収した。また、洗浄用溶剤、すすぎ用溶剤および水を分離した後のスケール(ケーキ)は、ろ過型遠心分離機の下方に設けられた排出口から排出し、回収した。回収したケーキ中の油分含有率、気化熱量を測定した。結果を表2に示す。
【0132】
なお、本実施例では、ろ過面の傾斜角度αは次の3ケースとした。
CASE1は、遠心分離機の回転軸とケーキの掻き寄せ方向とが平行、つまりろ過面を回転軸と平行(αが0度)となるように設けた場合である。CASE2は、回転軸と掻き寄せ方向が交わるように、つまり断面視して略逆円錐状となるようにろ過面を設け、かつαを10度とした場合である。CASE3は、遠心分離機の下流に向かうほど掻き寄せ方向が回転軸から遠ざかるように、つまり断面視して略円錐状となるようろ過面を設け、かつαを-10度とした場合である。
比較例2-1および発明例2-2ではCASE1、発明例2-3および2-5ではCASE2、発明例2-4ではCASE3で行った。なお発明例2-5では、洗浄用溶剤およびすすぎ用溶剤に界面活性剤(Na-スルホネート)を添加したものを用い、スケール量に対して0.5質量%となるようにそれぞれ添加した。
【0133】
比較例2-1では、揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤、すすぎ用溶剤)を用いずに水のみを用いた。具合的には、洗浄用溶剤の代わりに水を用い、すすぎ用溶剤の代わりに水を用い、界面活性剤は添加しなかった。
比較例2-1および発明例2-2~2-5での結果を表2に示す。
揮発性疎水性溶剤を使用しなかった比較例2-1では、油分はほとんど除去されなかった。さらに、回収後のケーキ中の水分は21%であり、気化熱量は530J/g-dryであった。
【0134】
一方、発明例2-2~2-5では、回収後のケーキ中の油分含有率はいずれの例でも0質量%となり、比較例2-1と比較して大幅に低下させることができた。気化熱量も発明例2-2~2-5では低下することを確認した。
ろ過面の傾斜角度(α)が異なる発明例2-2~2-4の中では、発明例2-3の場合(αが10度)が最も気化熱量が小さくなった。これより、回転軸に対して掻き寄せ方向が交わるようにろ過面を設置した方が、ケーキ中の残留水分が少ないことが明らかとなった。また、界面活性剤を添加した発明例2-5は、界面活性剤を添加しなかった発明例2-3と比較して、気化熱量を約10分の1に低減することができ、界面活性剤によるスケール表面の疎水化の効果を確認した。
【0135】
なお、スケールおよび回収後のケーキの油分含有率、および、気化熱量は、<実施例1>と同様の測定方法で測定した。
【0136】
【表2】
【0137】
<実施例3>
発明例2-3で回収したケーキ1kgを、90℃に調整した温水2リットル中に投入し、1分間攪拌することで、回収したスケール中に残存していた疎水性溶剤を揮発させた。その後、スラリー化したケーキを採取し、回分式の遠心分離装置にて1750Gの遠心力を30秒作用させ、固液分離を行い、再度、ケーキを得た。水分除去後のケーキ中の残留溶剤含有率を測定したところ、残留溶剤は検出されなかった。
【0138】
次に、発明例2-5で回収したケーキ1kgを解砕した後、乾燥皿に厚さ5mm以下となるよう薄く敷き詰め、120℃に調整した乾燥炉内で10分間乾燥させスケール中に残存していた疎水性溶剤を揮発させた。乾燥後、ケーキ中の残留溶剤含有率を測定したところ、残留溶剤は検出されなかった。
【0139】
なお、本実施例において、ケーキ中の残留溶剤含有率は、次のように測定した。
溶剤を揮発除去させたケーキと純水を混合し試料水とし、試料水を密閉容器に入れた。次いで、試料を溶剤の沸点より30~50℃高い温度にて10~20分加温し、試料水中から密閉容器内の空気層中に溶剤成分を揮散させた。その後、密閉容器内の気相部分をシリンジで採取し、シリンジ内のガス成分をガスクロマトグラフにて測定し、ケーキ中の残留溶剤濃度を算出した。
【0140】
<実施例4>
発明例2-3で回収した洗浄廃液を静置し、比重分離によって油分を含んだ溶剤相(含油溶剤相)と水相とに相分離させ、含油溶剤相のみを回収した。回収した含油溶剤相を120℃に調整した蒸留装置に投入し、溶剤成分のみを蒸発させたのちに凝結させることで、含油溶剤相を油分と溶剤とに分離した。分離した溶剤は無色透明であり、油分は含まれていないことを確できた。このことから、分離した溶剤は第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)または第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)として再利用できることが確認できた。一方、分離した油分中には残留溶剤を2.1質量%含んでいたが、ほとんどの溶剤を蒸留操作により回収できることを確認した。
【0141】
なお、含油溶剤相から分離した油分中の残留溶剤含有率は、次のように測定した。
まず、分離した油分中の臭素含有率を燃焼イオンクロマトグラフ法にて測定した。次に、分離した油分中の臭素がすべて1-ブロモプロパンであると仮定し、油分中の残留溶剤含有率を計算した。なお、燃焼装置として、三菱ケミカルアナリテック社製のAQF-100型を用い、イオンクロマトグラフ装置(IC装置)として、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のICS-2000型を用いた。
【0142】
<実施例5>
実施例2-3で、すすぎ溶剤の投入量のみを0.03kg/分~0.4kg/分に変化させたこと以外は同じ条件にて試験を行い、洗浄廃液、すすぎ廃液およびケーキを回収した。回収したすすぎ廃液を静置し、比重分離によって水相と溶剤相とに分離した。分離した溶剤相はJIS P 3801規定の「5種A」のろ紙でろ過し、わずかに混入しているスケール分を除去し、ろ過後の溶剤を回収した。
【0143】
回収したろ過後の溶剤中の油分濃度と、吸収波長400nmでの溶剤相の吸光度との関係を調べたところ、図11に示すような関係が得られた。この関係から、吸光度2以下の領域で、溶剤中の油分濃度と溶剤相の吸光度との関係がほぼ正の相関があることがわかった。
【0144】
また、ろ過後の溶剤相の吸光度(吸収波長400nm)とケーキ中の油分濃度との関係を調べたところ、図12のような関係が得られた。このような関係から、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度を測定することにより、ケーキ中の油分濃度を推定することができるといえる。このことから、例えばスケール等の粉体中の油分濃度をある目標値以下としたい場合、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度からケーキ中の残留油分量を推定し、当該残留油分量の推定値が前記目標値以下となるようすすぎ用溶剤の添加量を調整すればよい。こうすることで、粉体中の油分濃度を効率的に目標値以下とできるとともに、すすぎ溶剤の使用量を適切なものに制御でき、溶剤の過剰な投入等のロスを抑制できる。
例えば、図12の関係をみるに、ケーキ(粉体)中の油分濃度を0.2%以下にするには、吸光度が0.25以下であることが必要であるといえ、吸光度が当該範囲内となるようすすぎ溶剤の投入量を調整する。
【0145】
また、すすぎ廃液中の溶剤相の吸光度(吸収波長400nm)が0.25の時、この溶剤中の油分濃度は11mg/ml-溶剤と小さく、第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)として使用できることを確認した。
【符号の説明】
【0146】
1 粉体の回収設備
10 粉体(含油粉体)
10a 粉体相
20 水
20a 水相
30 スラリー
40 エマルジョン
50 第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)
50a 溶剤相
50a´ 残留溶剤相
51 第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)
60 スラリー化装置
70 エマルジョン化装置
80 粉体相分離装置(ろ過型遠心分離機)
81 掻き寄せ機構(スクレーパー)
82 ろ過面
90 界面活性剤
100 容器
200 遠心分離用容器
201 ろ過面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12