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  • 特許-粉体の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】粉体の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/22 20060101AFI20250305BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20250305BHJP
   B01D 17/025 20060101ALI20250305BHJP
   B01D 17/038 20060101ALI20250305BHJP
   B01D 12/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C22B3/22
C22B1/00 601
B01D17/025
B01D17/038
B01D12/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021024359
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126337
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04229293(US,A)
【文献】特開2017-177018(JP,A)
【文献】特開2003-071205(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112079540(CN,A)
【文献】特開2015-132011(JP,A)
【文献】特開2000-355718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-7/04
B01D 17/00-17/12
B04B 1/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性粒子を含む粉体と、水または水溶液との第1の混合物に、水の比重より大きく、かつ前記粉体の真比重よりも小さい疎水性液体を添加し、前記第1の混合物と前記疎水性液体との第2の混合物を撹拌する第1の工程と、
前記第2の混合物に静置による重力または遠心力を作用させることで、前記第2の混合物を水相と疎水性液体相とに分離するとともに、前記粉体を前記疎水性液体相に移動させる第2の工程と、
前記疎水性液体相に移動した前記粉体を回収する第3の工程と、を含み、
前記親水性粒子を含む前記粉体は、ダスト、スケール、浸出残渣、フライアッシュ、スラグ粉、及び鉱石粉からなる群から選択される何れか1種以上、または、前記粉体1gを100mlの水と100mlの前記疎水性液体と共に密閉容器内に投入し、これらの混合液を攪拌し静置して水相の状態を観察したとき、少なくとも前記水相に前記粉体が浮遊するものであり、
前記疎水性液体は、トリクロロエチレン、1-ブロモプロパン、テトラクロロエチレン、フッ素系有機溶剤、または、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下の液体であり、
前記第1の工程において、界面活性剤を添加し、
前記第2の工程後に、前記粉体の全量が前記疎水性液体相に浸漬される、
ことを特徴とする粉体の回収方法。
【請求項2】
前記第3の工程で回収した前記粉体を乾燥することで、前記粉体に付着した前記疎水性液体を除去する第4の工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の粉体の回収方法。
【請求項3】
前記粉体の体積基準50%粒子径が100μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粉体の回収方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、油溶性の陰イオン界面活性剤である、請求項1~3の何れか1項に記載の粉体の回収方法。
【請求項5】
前記粉体の表面に油分が付着していることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の粉体の回収方法。
【請求項6】
前記疎水性液体の沸点が常圧で40℃~95℃であり、
前記第1の工程から前記第3の工程を、常温常圧で行うことを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の粉体の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業をはじめとする各種製造業では、親水性粒子を含む粉体が水または水溶液中で分散した混合物が大量に排出される。混合物は、含水スラリーの形態で排出されることが多い。混合物に含まれる粉体は多種多様であり、例えば製鉄業であればダスト、スケール、浸出残渣、フライアッシュ、スラグ粉、及び鉱石粉等である。これらはいずれも親水性粒子でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-132011号公報
【文献】特開2017-177018号公報
【文献】特開2018-176004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、粉体のリサイクルまたは効率的な使用等を目的として、混合物から粉体を分離して回収する場合がある。混合物から粉体を分離するためには、混合物から水分を除去する、すなわち混合物を乾燥する必要がある。混合物を乾燥する方法として、従来では、混合物を加熱する方法、混合物を養生ヤードで耕転(ショベルカー等を用いて混合物を掘り返す作業)しながら天日乾燥する方法が知られている。
【0005】
しかし、混合物を乾燥する方法では、水分は沸点が高く蒸発しにくいので、混合物を乾燥するために長時間を要し、多量のエネルギーを要するという問題があった。特に、混合物の加熱にはCOG(コークス炉ガス)、LNG(液化天然ガス)、重油、灯油等のような高級(高価)なエネルギーが使用される場合があり、このような場合に上記の問題がより深刻になる。また、CO排出量も増えるので、近年特に課題となっているCO削減にも反することとなる。
【0006】
一方、混合物を養生ヤードで天日乾燥する方法は、例えば粉体が発熱する場合に行われる。粉体の安全性を高めるためである。例えばダストの一種である転炉集塵ダストには多くの還元鉄が含まれており、発熱しやすい。このため、転炉粉塵ダストを含む混合物は、養生ヤードで天日乾燥されることが多い。転炉粉塵ダスト中の還元鉄は、天日乾燥される際に安定な酸化鉄まで酸化される。しかし、この方法では、広大な養生ヤードを必要とするのみならず、混合物を乾燥させるまでに非常に長時間を要するという問題があった。さらに、耕転作業という大規模かつ手間の掛かる作業も必要になるという問題もあった。さらに、還元鉄という有用な鉄源をわざわざ酸化鉄に酸化していたので、鉄源としての有用性が低下していた。
【0007】
また、両者の方法に共通する問題として、混合物が水溶液を含む場合、乾燥後の粉体に水溶液の成分に由来する不純物が大量に付着し、粉体の純度が低下するという問題もあった。詳細は後述するが、混合物の種類によっては粉体を分散させる液体が水溶液となる場合がある。例えば、熱間圧延後の熱延板の表面からスケール及び内部酸化層を除去する目的で熱延板が酸洗される。酸洗で生じた廃液は、主に酸洗液で構成されるが、酸洗によって鋼材の表面から脱離した粉体、すなわち浸出残渣をさらに含む場合がある。また、酸洗液には、鋼材または浸出残渣から浸出した成分(例えばFe、Cr、Ni、Zn等のイオン)が含まれる場合がある。この場合、混合物は、粉体である浸出残渣と、水溶液である酸洗液(鋼材または浸出残渣から浸出した成分を含む)とで構成される。そして、混合物を乾燥した場合、残留残渣に酸洗液中の成分(例えばCr、Ni、Zn、酸成分等)が付着する。混合物の種類によっては混合物が油分を含む場合があり、この場合にも同様の問題が生じる。つまり、乾燥後の粉体に油分が付着し、粉体の純度が低下する。特許文献1~3には、混合物から粉体を回収する技術が開示されているが、これらの技術によっても上述した問題を十分に解決することができない。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、養生ヤードを不要とし、粉体の乾燥に要するエネルギーを低減し、かつ粉体中の不純物を削減することが可能な、新規かつ改良された粉体の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、親水性粒子を含む粉体と、水または水溶液との第1の混合物に、水の比重より大きく、かつ粉体の真比重よりも小さい疎水性液体を添加し、第1の混合物と疎水性液体との第2の混合物を撹拌する第1の工程と、第2の混合物に静置による重力または遠心力を作用させることで、第2の混合物を水相と疎水性液体相とに分離するとともに、粉体を疎水性液体相に移動させる第2の工程と、疎水性液体相に移動した粉体を回収する第3の工程と、を含むことを特徴とする粉体の回収方法が提供される。
【0010】
ここで、第3の工程で回収した粉体を乾燥し、粉体に付着した疎水性液体を除去する第4の工程を有してもよい。
【0011】
また、粉体の体積基準50%粒子径が100μm以下であってもよい。
【0012】
また、第1の工程において、界面活性剤を添加してもよい。
【0013】
また、粉体の表面に油分が付着していてもよい。
【0014】
また、疎水性液体の沸点が常圧で40℃~95℃であり、第1の工程から第3の工程の工程を、常温常圧で行ってもよい。
【0015】
また、粉体が、ダスト、スケール、浸出残渣、フライアッシュ、スラグ粉、及び鉱石粉からなる群から選択される何れか1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記観点によれば、養生ヤードを不要とし、粉体の乾燥に要するエネルギーを低減し、かつ粉体中の不純物を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図2】界面活性剤による粉体表面の改質を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
<1.粉体の回収方法>
まず、図1及び図2に基づいて、本実施形態に係る粉体の回収方法について説明する。本実施形態に係る粉体の回収方法は、第1~第3の工程を含む。第1の工程は、親水性粒子を含む粉体10と、水または水溶液(以下、単に「水等」とも称する)20との第1の混合物30に、水の比重より大きく、かつ粉体10の真比重よりも小さい疎水性液体50を添加し、第1の混合物30と疎水性液体50との第2の混合物を撹拌する工程である(図1(a))。第2の工程は、第2の混合物に静置による重力または遠心力を作用させることで、第2の混合物を水相20aと疎水性液体相50aとに分離するとともに、粉体10を水相20aから疎水性液体相50aに移動させる工程である(図1(b))。第3の工程は、疎水性液体相50aに移動した粉体を回収する工程である(図1(c)、(d))。以下、各工程について詳細に説明する。
【0020】
(1-1.第1の工程)
第1の工程では、まず、第1の混合物30に疎水性液体50を添加する。例えば、図1(a)に示されるように、容器100内に第1の混合物30を投入し、ついで疎水性液体50を投入する。なお、投入の順序はこれに限定されない。ついで、第1の混合物30と疎水性液体50との混合物である第2の混合物を撹拌する。攪拌の程度は問われないが、疎水性液体50が第2の混合物内に略均一に分散されるまで攪拌することが好ましい。
【0021】
ここで、第1の混合物30は、粉体10及び水等20を含む。第1の混合物30は含水スラリーとして存在することが多い。もちろん、第1の混合物30は、粉体の含有量が少なくスラリーとなっていない混合物であってもよい。つまり、第1の混合物30は、粉体10及び水等20を含んでいればよく、その形態は問われない。
【0022】
粉体10は、親水性粒子を含む。親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、疎水性液体50よりも水に混ざり易い性質を有する。なお、水への混ざり易さは、例えば以下の方法で評価できる。すなわち、評価の対象となる粉体10を所定量(例えば1g)だけ測り取り、これを所定量(例えば100ml)の水と所定量(例えば100ml)の疎水性液体と共に密閉容器内に投入する。ついで、これらの混合液をよく攪拌し、静置する。混合液を静置した直後に水相の状態を観察し、水相に評価の対象となる粉体のほぼ全量が浮遊していれば、対象とする粉体は親水性粒子であると評価する。
【0023】
粉体10は、親水性粒子のみで構成されていてもよいし、他の種類の粒子、例えば疎水性粒子をさらに含んでいてもよい。ここで、疎水性粒子は、疎水性液体50に対する親和性を有する粒子であり、水よりも疎水性液体50に混ざり易い性質を有する。なお、疎水性液体への混ざり易さは、例えば以下の方法で評価できる。すなわち、評価の対象となる粉体10を所定量(例えば1g)だけ測り取り、これを所定量(例えば100ml)の水と所定量(例えば100ml)の疎水性液体と共に密閉容器内に投入する。ついで、これらの混合液をよく攪拌し、静置する。混合液を静置した直後に水相及び疎水性液体相の状態を観察し、疎水性液体相に評価の対象となる粉体のほぼ全量が浮遊していれば、対象とする粉体は疎水性粒子であると評価する。
【0024】
なお、評価の対象となる粉体が水相及び疎水性液相の双方に浮遊している場合には、粉体は親水性粒子と疎水性粒子との混合物であると評価できる。親水性粒子は、他の種類の粒子と独立して(分離して)存在していてもよいし、他の種類の粒子と一体となって1つの粒子を形成していてもよい。例えば、コークス粉やフライアッシュなどがある。後述するフライアッシュは、親水性粒子(Al、SiO等の金属酸化物からなる灰分)と疎水性粒子(未燃炭素)とが一体となった例である。もちろん、フライアッシュでも、親水性粒子と疎水性粒子とが分離している場合がありうる。
【0025】
粉体10の真比重は、疎水性液体50(詳細には粉体10の回収に使用される疎水性液体50)の比重よりも大きい。これにより、後述する第2の工程において、粉体10を疎水性液体相50aに移動させることができる。すなわち、粉体10の粒子間に存在する水等20を疎水性液体50で置換することができる。なお、後述する第1~第2の工程を行うことで粉体10が疎水性液体相50aに移動した場合、粉体10の真比重は疎水性液体50の比重よりも大きいと判断できる。また、粉体10の中に疎水性粒子が含まれる場合は、疎水性粒子は疎水性液体相50aに移動する。
【0026】
粉体10の粒子径は特に問われないが、粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下であることが好ましい。詳細は後述するが、本実施形態では、粉体10の粒子間に存在する水等20を疎水性液体50で置換することで、粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減し、かつ粉体中の不純物を削減する。疎水性液体50は水等20に比べて低いエネルギーで蒸発する。したがって、粉体10の粒子間に存在する水等20を疎水性液体50で置換することで、粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減することができる。さらに、粉体10中の不純物は、例えば水等20に溶けている成分に由来するものである。したがって、粉体10の粒子間に存在する水等20を疎水性液体50で置換することで、当該成分を水等20ごと除去することができる。したがって、粉体中の不純物を削減することができる。そして、粉体10の粒子径が小さいほど、粉体10の粒子間に存在する間隙が大きくなるため、より多くの水等20を疎水性液体50で置換することができる。このため、本実施形態の処理を行うことによる上記効果が増大する。このような観点から、粉体の粒子径は小さいことが好ましく、後述する実験例5によれば、粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下となる場合に、特に大きな効果が得られる。したがって、粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下であることが好ましい。より好ましくは25μm以下であり、更により好ましくは10μm以下である。一方、下限値は1μm以上であることが好ましい。粒子径が1μm未満であると、粉体10の親水性が非常に高くなり、本実施形態の処理を行っても粉体10の粒子間に存在する水等20を除去しにくくなる可能性があるからである。
【0027】
粉体10の体積基準50%粒子径(d50)は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いた以下の測定方法によって測定可能である。すなわち、測定対象となる試料を水でスラリー化し、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウム溶液を少量添加する。ついで、混合液の撹拌及び超音波照射により混合液中に試料を分散させる。ついで、この混合液をレーザー回折式粒度分布測定装置にセットし、粒度分布を測定する。後述する実施例では、この方法により粉体10の体積基準50%粒子径(d50)を測定した。
【0028】
粉体10は、上述した特性を有するものであればどのようなものであってもよいが、ダスト、スケール、浸出残渣、フライアッシュ、スラグ粉、及び鉱石粉からなる群から選択される何れか1種以上であることが好ましい。これらの粉体には特にリサイクルまたは効率的な使用の要望が強いからである。これらの粉体は親水性粒子でもある。
【0029】
ダストは例えば高炉で発生する高炉二次灰、転炉集塵ダスト等である。これらのダストは湿式で回収されることが多く、このような場合に含水スラリーが生成する。なお、ダストからトランプエレメント(例えばZn等)を除去することを目的として含水スラリーが高濃度処理液(高濃度の酸またはアルカリ水溶液)で処理される場合がある。この場合、含水スラリーは鉄分を多く含む粉体と処理液(すなわち水溶液)で構成される。
【0030】
スケールは例えば熱間圧延時に発生する。具体的には、スラブを予熱することでスラブの表面にスケールが生成する。このようなスケールは、熱間圧延時に微細に粉砕され、クーラント水とともに排出される。つまり、クーラント水中に微細なスケールが分散した含水スラリー(含水スケール)が排出される。なお、熱間圧延時に生成した含水スラリーには油分が3~8質量%(粉体の総質量に対する質量%)で含まれることが多い。油分は例えばスケールの表面に付着している。油分は含水スラリー内に分散している場合もありうる。
【0031】
鋼材は、さまざまな理由で表面処理されることが多い。例えば、熱間圧延後の熱延板の表面からスケール及び内部酸化層を除去する目的で熱延板が酸洗される。また、ステンレス鋼からスケール等を除去する目的でステンレス鋼が酸洗される。これらの表面処理(上記の例では酸洗)で生じた廃液は、主に表面処理に使用した表面処理液(上記の例では酸洗液)で構成されるが、表面処理によって鋼材の表面から脱離した粉体、すなわち浸出残渣をさらに含む場合がある。さらに、廃液には、鋼材または浸出残渣から浸出した成分(例えばFe、Cr、Ni、Zn等の金属イオン)が含まれる(溶解している)場合がある。さらに、廃液に対しては何らかの処理が行われる場合がある。例えば、廃液が酸性の場合、中和処理が行われる場合がある。廃液が中和されることで、廃液中の成分の水酸化物が析出する場合がある。例えば、熱延板の酸洗により発生した廃液を中和処理した場合、Fe、Cr、Ni、Znの水酸化物が混合した析出物が沈殿し、ステンレス鋼の酸洗により発生した廃液を中和処理した場合、Fe、Cr、Niの水酸化物とCaFが混合した析出物が沈殿する。なお、これらの金属成分が析出するpHは異なるので、pHを調整することで特定の金属成分を含む析出物を析出させることができる。このような析出物も粉体であり、浸出残渣の一種である。したがって、鋼材の表面処理によって表面処理液(上述した水溶液に相当)及び浸出残渣を含む含水スラリーが排出される。もちろん、表面処理の対象は鋼材に限られない。したがって、本実施形態における浸出残渣は、表面処理によって被処理物(上記の例では鋼材)から剥がれた粉体の他、廃液の処理(上記の例では中和処理)によって廃液中に析出した粉体(例えば水酸化鉄等)を含む。
【0032】
また、リサイクル、CO削減等の観点から鉄スクラップを多量に使用するという要望が近年特に強くなっている。鉄スクラップにはトランプエレメント(例えばCu、Zn、Ni等)が含まれていることが多い。このため、鉄スクラップを使用する際には、鉄スクラップを予めトランプエレメントの浸出剤である高濃度処理液(例えばCu、Zn、Niに対しては高濃度アンモニア水)で処理することによって鉄スクラップ中のトランプエレメントを高濃度処理液中にイオン(例えばアンミン錯体イオン、金属イオン等)として浸出させる。これにより、鉄スクラップからトランプエレメントを除去する。したがって、当該処理後の廃液にはトランプエレメントが溶解している。一方、廃液は高濃度処理液であるので、トランプエレメントを析出させて、高濃度処理液のトランプエレメント浸出能力を再生して再利用されることが多い。この場合、例えば高濃度アンモニア水である廃液中にHSガスを流通させ、廃液中のトランプエレメントを硫化物として析出する。この結果、廃液中に粉体である析出物(上述した浸出残渣の一種と解釈できる)が分散した含水スラリーが生成する。
【0033】
フライアッシュは、石炭焚き火力発電所等における発電時に発生する粉体である。フライアッシュは、Al、SiO等の金属酸化物からなる灰分中に、燃え残った炭素成分である未燃炭素を含んでいる。フライアッシュは、親水性粒子(Al、SiO等の金属酸化物からなる灰分)と疎水性粒子(未燃炭素)とが一体となった例である。もちろん、フライアッシュでも、親水性粒子と疎水性粒子とが分離している場合がありうる。フライアッシュは湿式でフライアッシュ中から疎水性粒子を除いたのち回収されることもあり、この場合、フライアッシュを含む含水スラリーが排出される。なお、フライアッシュからAl等を除去することを目的として含水スラリーが加熱加圧下で酸処理される場合がある。この場合、含水スラリーはフライアッシュと酸の水溶液で構成される。酸の水溶液には、フライアッシュから浸出した成分、例えばAlイオンが含まれる。
【0034】
スラグ粉は例えば高炉で発生する。具体的には、高炉で発生したスラグは湿式で粉砕される(いわゆる水砕)ことが多い。このような水砕によりスラグ粉が分散した含水スラリーが生成する。
【0035】
製鉄業においては、鋼材の原料である鉄鉱石の品質を高めるために、選鉱処理が行われる場合がある。選鉱処理は、概略的には、鉄鉱石を粉砕した後に鉄分の高い鉱石粉を選別する処理である。選鉱処理は湿式で行われる場合があり、このような場合、鉱石粉が水中で分散した含水スラリーが生成する。また、非鉄分野においては、原料である酸化銅鉱、亜鉛精鉱、ボーキサイト、磁硫鉄鉱などを酸、アルカリ、アンモニア等のいずれかの浸出剤で処理することで、これらの原料から目的成分又は不純物を浸出分離する場合がある。その際に、鉱石粉が水溶液中に分散した含水スラリーが生成する。
【0036】
水等20は、水または水溶液である。水等20の組成は混合物によって異なる。例えば、粉体10がダスト、スケール、フライアッシュ、スラグ粉または鉱石粉となる場合、水等20は水となることが多い。ただし、水等20に何らかの成分(例えば酸、アルカリ、または、アンモニア等)を添加した場合、水等20は水溶液となる。水溶液には粉体10から浸出した成分が含まれる場合がある。例えば、フライアッシュからAl等を除去することを目的として含水スラリーが塩酸で酸処理される場合がある。この場合、含水スラリーはフライアッシュと酸の水溶液で構成される。酸の水溶液には、フライアッシュから浸出した成分、例えばAlイオンが含まれる。一方、粉体10が浸出残渣となる場合、水等20は水溶液となることがほとんどである。
【0037】
上述したように、水等20が水溶液となる場合、乾燥後の粉体10の純度が低下するという問題があった。例えば、熱延板の酸洗により発生した廃液には、表面処理液である酸洗液の他、酸洗によって熱延板の表面から脱離した粉体、すなわち浸出残渣をさらに含む場合がある。さらに、廃液には、鋼材または浸出残渣から浸出した成分(例えばFe、Cr、Ni、Zn等の金属イオン)が含まれる場合がある。この場合、混合物は、粉体である浸出残渣と、水溶液である酸洗液(鋼材または浸出残渣から浸出した成分を含む)とで構成される。そして、混合物を乾燥した場合、残留残渣に酸洗液中の成分(例えばCr、Ni、Zn等)が付着する。さらに、熱延板の酸洗により発生した廃液を中和処理した場合、廃液中の金属成分の水酸化物が沈殿する。これらの金属成分が析出するpHは異なるので、pHを調整することで特定の金属成分を含む析出物を析出させることができる。例えば、廃液のpHを調整することで、水酸化鉄のみを沈殿させることができる。しかし、廃液中には他の金属成分(例えばCr、Ni、Zn等)がイオンとして残留している。したがって、水酸化鉄の粉体を乾燥により回収しようとした場合、廃液中にイオンとして残留していた金属成分が水酸化鉄の粉体に付着する。混合物の種類によっては混合物が油分を含む場合があり、この場合にも同様の問題が生じる。つまり、乾燥後の粉体に油分が付着し、粉体の純度が低下する。本実施形態では、このような水溶液を疎水性液体50で置換することによって、粉体10の純度を高めることができる。特に、特定の金属成分を選択的に析出させた場合、そのような特定の金属成分を高純度で回収することができる。
【0038】
疎水性液体50は、疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。疎水性液体50は、例えば、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下の液体である。疎水性液体50の水への溶解度が高いと、粉体10の粒子間に存在する水等20を疎水性液体50で置換した際に、疎水性液体50中に多くの水等20が残る。この場合、粉体10の乾燥に要するエネルギーを十分に低減することができない可能性がある。このような観点から、疎水性液体50の水への溶解度は常温で10.0g/L以下であることが好ましく、5.0g/L以下であることがより好ましい。この場合、疎水性液体50中に残留する水等20をさらに低減することができる。
【0039】
なお、本実施形態における疎水性とは、親油性を含む性質である。疎水性液体50は、例えば、疎水性を有する有機溶剤又は各種の油等であってよい。
【0040】
疎水性液体50の溶解度は、多くの場合、疎水性液体のメーカーが公表しているデータによって判明するが、次にように測定することもできる。例えば、水と疎水性液体を50ml共栓付き遠沈管に15mlずつ投入し、25℃の恒温槽内で150回/分で1時間振り混ぜる。ついで、混合液を遠心分離(1,750G、5分間)し、遠心分離後の混合液を25℃の恒温槽内で約1時間静置する。ついで、水相を任意量分取し、ガスクロクロマトグラフィー・質量分析法(GC/MS)により、水分中の溶剤量を測定する。これにより、水への疎水性液体の溶解度を求めることができる。なお、以下の実施例では、疎水性液体のメーカーが公表している疎水性液体50の溶解度を使用した。
【0041】
疎水性液体50の比重は、水より大きく、回収対象となる粉体10の真比重よりも小さい。これにより、後述する第2の工程を行った後に、容器100内の液相が上から水相20a、疎水性液体相50aとなり、疎水性液体相50a中に粉体10が移動する。疎水性液体50の比重は、例えば1.05以上1.8以下程度であってもよい。なお、粉体10は多孔質である場合もある。そこで、疎水性液体50を選択するにあたっては、候補となる疎水性液体50を用いて実際に第1~第2の工程を行ってもよい。そして、第2の工程の結果、容器100内の液相が上から水相20a、疎水性液体相50aとなり、疎水性液体相50a中に粉体10が移動した場合には、当該疎水性液体50を選択すればよい。疎水性液体50は1種のみ使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0042】
疎水性液体50の沸点は、同圧条件下での第1の混合物30の温度よりも高いことが好ましい。これにより、第1~第3の工程を安定して行うことができる。疎水性液体50の沸点が同圧条件下での第1の混合物30の温度以下となる場合、第1の混合物30に疎水性液体50を添加した際に疎水性液体50が多く蒸発する。この場合、第1の混合物30と疎水性液体50との混合に手間がかかる可能性がある。さらに、第1の混合物30には揮発性の高い成分(例えば塩酸等)が含まれる場合がある。例えば上述した酸洗を塩酸で行う場合があり、この場合、第1の混合物30には揮発性の高い塩酸が含まれる。第1の混合物30に揮発性の高い成分が含まれる場合、作業者の安全性を確保する等の観点から、密閉された作業環境下で本実施形態の処理を行うことが好ましい。したがって、疎水性液体50の沸点が同圧条件下での第1の混合物30の温度以下となる場合、第1の混合物30に疎水性液体50を添加した際に疎水性液体50が多く蒸発し、試験環境の内圧が上昇する可能性がある。したがって、疎水性液体50の沸点は、同圧条件下での第1の混合物30の温度よりも高いことが好ましい。
【0043】
例えば、第1の混合物30の温度が常温(25℃)である場合、同圧条件下で、疎水性液体50の沸点は、好ましくは40℃以上200℃未満である。沸点の上限値は、さらに好ましくは100℃未満、さらに好ましくは95℃以下である。沸点の上限値が100℃未満となる場合、後述する第3の工程において、容易に(例えば安価なエネルギー源である水蒸気で)疎水性液体50を除去することができる。つまり、第1~第3の工程を常温常圧で行う場合、疎水性液体50の沸点は、常圧で40℃~95℃であることが好ましい。
【0044】
また、第1の混合物30の温度が100℃超230℃未満の場合、同圧条件下で、疎水性液体50の沸点は、第1の混合物30の温度よりも30~100℃高いことが好ましい。もしくは、第1の混合物30を冷却した後に第1の混合物30に疎水性液体50を添加してもよく、この場合、疎水性液体50の沸点は、冷却後の第1の混合物30の温度よりも30~100℃高いことが好ましい。例えば、フライアッシュの酸処理、及び鉱石粉の酸処理等は加熱加圧下で行われる場合があり、これらの場合、廃液は100℃超230℃未満まで加熱されている場合がある。疎水性液体50の沸点が第1の混合物30の温度よりも30~100℃高ければ、このような作業環境(加熱加圧下の環境)であっても安定して第1~第3の工程を行うことができる。なお、第1の混合物30の温度を低下させた後に第1の混合物30に疎水性液体50を添加してもよく、この場合、上述したように、疎水性液体50の沸点は第1の混合物30の低下後の温度よりも30~100℃高いことが好ましい。このため、特に、第1の混合物30が揮発性の高い成分を有していたとしても、密閉した作業環境の内圧を大きく変動させずに第1~第3の工程を行うことができる。これは、作業環境を変更せずに、あるいは、大きく変更せずに、第1~第3の工程を行うことができることを意味する。したがって、第1の混合物30が生成するような作業(例えばフライアッシュの酸処理)から粉体の回収までの一連の作業を同一作業環境下で行うことができ、非常に効率が良い。なお、第1の混合物30を常温まで冷却し、常温常圧下で第1~第3の工程を行ってもよいが、作業に手間がかかり、時間もかかる。
【0045】
また、疎水性液体50の揮発熱量は、水の揮発熱量より小さいことが好ましい。この場合、第3の工程において疎水性液体50を揮発除去しやすくなり、粉体10と分離しやすくなる。
【0046】
また、粉体10に油分が含まれる場合、油分も粉体10から分離することが好ましい。したがって、この場合、KB値(カウリブタノール値)がなるべく大きい疎水性液体50を選択することが好ましい。KB値の大きな疎水性液体50は、油分を吸収しやすいからである。つまり、第1~第2の工程により粉体10中の油分を疎水性液体50に吸収させる。ついで、第3の工程により、油分ごと疎水性液体50を除去する。
【0047】
なお、好ましいKB値は油分の組成等、様々な要因で変動するので一概には特定できない。したがって、準備できた疎水性液体50のうち、KB値が最も大きいものを選択してもよい。
【0048】
KB値の測定方法は以下の通りである。まず、一定量のカウリ樹脂ブタノール溶液を三角フラスコに入れ、それを標準活字用紙の上に置く。ついで、三角フラスコ内のカウリ樹脂ブタノール溶液に試料(疎水性液体)を加え、濁りが生じて活字が読めなくなった時の試料(疎水性液体)のml数をKB値とする。KB値が大きいほど疎水性液体50の油脂溶解力が強い。なお、KB値はドライクリーニング溶剤における油性汚れに対する洗浄力の目安とされている。本実施形態では、KB値を、疎水性液体50を選択する際の指標としている。後述する実施例で示される通り、第1の混合物30に油分が含まれている場合、トリクロロエチレン、1-ブロモプロパンなどのKB値が高い疎水性液体50を使用することが好ましいといえる。
【0049】
疎水性液体50は上記の条件を満たすものであればどのようなものであっても本実施形態に適用可能である。疎水性液体50の例としては、トリクロロエチレン、1-ブロモプロパン、テトラクロロエチレン、各種フッ素系有機溶剤(例えば1-エトキシ-1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,-トリデカフルオロオクタン、ハイドロフルオロエーテル等)等が挙げられる。
【0050】
第1の混合物30に対する疎水性液体50の添加量が少量でも本実施形態の効果は得られる。しかし、疎水性液体50の添加量があまりにも少ない場合、第2の工程において少量の粉体10しか疎水性液体相50aに移動できない。したがって、本実施形態の効果を十分に享受できない可能性がある。したがって、疎水性液体50の添加量は、第2の工程後に粉体10の全量が疎水性液体相50aに浸漬される程度に設定されることが好ましい。これにより、本実施形態の効果をより多く得られる。
【0051】
本実施形態では、後述するように、親水性粒子を含む粉体10を疎水性液体相50aに移動させる。したがって、粉体10と疎水性液体相50aとの親和性を高めるために、疎水性液体50に加えて界面活性剤60(図2参照)を第1の混合物30に添加することが好ましい。例えば、界面活性剤60が添加された疎水性液体50を第1の混合物30に添加する。界面活性剤60の添加の態様は特に制限されない。例えば、疎水性液体50とは別に界面活性剤60を第1の混合物30に添加してもよい。
【0052】
図2に示されるように、界面活性剤60は、親水基61と疎水基62とを備える。界面活性剤60の親水基61は粉体10の表面側を向き、疎水基62は粉体10の外側を向く。これにより、粉体10の表面を親水性から疎水性に変化させることができるので、粉体10を水相20aから疎水性液体相50aに移動させる際に、粉体10に随伴する水等20の量を低下させることができる。すなわち、より多くの水等20を疎水性液体50で置換することができる。この結果、粉体10の乾燥に要するエネルギーをさらに低減することができる。なお、図2は界面活性剤60によって粉体10の表面が改質されている様子を示しており、粉体10が疎水性液体相50aに移動している。粉体10の表面のうち、界面活性剤60が付着した部分には水等20が付着していないことがわかる。したがって、第3の工程において粉体10を乾燥させる際のエネルギーをさらに低減することができる。この結果、乾燥コストの低下、乾燥度の向上が期待できる。さらに、水等20が水溶液となる場合、粉体10と共に疎水性液体相50aに移動する不純物(水溶液中の各成分)の量も低減し、好ましくは完全に除去することができる。
【0053】
本実施形態で使用可能な界面活性剤は油溶性の界面活性剤であり、主に、陰イオン界面活性剤であるが、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤なども挙げられる。より具体的な例としては、ナトリウムスルホネート(Naスルホネートともいう)、カルシウムスルホネート(Caスルホネートともいう)、マグネシウムスルホネート(Mgスルホネートともいう)等が挙げられ、これらは油溶性の陰イオン界面活性剤である。界面活性剤は、1種類のみ使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。界面活性剤は、当該界面活性剤の使用温度で安定であり、第1の混合物30のpHにおいて官能基部分がイオン化し、かつ疎水性液体50に対して界面活性剤の使用温度で1mg/L以上、より好ましくは1g/L以上溶解することが好ましい。実際に界面活性剤を選択する際には、使用の候補となる界面活性剤を用いて実際に第1~第3の工程を行い、粉体10の乾燥に要するエネルギーが低下したものを選択すればよい。また、界面活性剤の添加量は特に制限されない。後述する実施例で示される通り、界面活性剤の添加量が多いほど多くの水等20を疎水性液体50で置換することができる。この結果、粉体10の乾燥に要するエネルギーをさらに低減することができる。ただし、界面活性剤の添加量が増加していくと、粉体10の乾燥に要するエネルギーの低減量はほぼ頭打ちとなる。この際の界面活性剤の添加量が実質的な上限値となる。
【0054】
(1-2.第2の工程)
第2の工程では、図1(b)に示すように、第2の混合物に静置による重力または遠心力を作用させることで、第2の混合物を水相20aと疎水性液体相50aとに分離する。さらに、粉体10を水相20aから疎水性液体相50aに移動させる。遠心力の大きさ及び時間は第2の混合物が上記の挙動を示す程度に調整されればよい。第2の混合物に遠心力を作用させた場合、重力よりも短時間で第2の混合物を水相20aと疎水性液体相50aとに分離することができる。したがって、第2の混合物に遠心力を作用させることが好ましい。遠心力の上限値は特に限定しないが、10,000G超となると適用できる遠心分離装置はほとんどないため、10,000G以下が好ましい。また、適用する遠心分離装置は、ろ過型の遠心分離機とすることもできる。
【0055】
第2の工程により、粉体10が疎水性液体相50aに移動する。この際、粉体10の周囲に存在する水等20、特に粉体10の粒子間に存在する水等20の多くが疎水性液体50で置換される。疎水性液体50に界面活性剤60を添加しておくことで、より多くの水等20を疎水性液体50で置換することができる。粉体10の粒子間又は粒子表面に油分が存在する場合、当該油分は疎水性液体に吸収される。
【0056】
(1-3.第3の工程)
第3の工程では、疎水性液体相50aに移動した粉体10を回収する。具体的には、図1(b)、(c)に示すように、疎水性液体相50aのうち、粉体10が凝集している部分(この部分はケーキ状に固まっていることが多い。以下、この部分を「粉体ケーキ」とも称する)を、第2の混合物中の他の部分(水相20a、及び疎水性液体相50aのうち粉体ケーキ以外の部分)から分離させて回収する。図1(c)の例では、回収後の粉体ケーキを別の容器200に移動させている。
【0057】
ついで、粉体ケーキを乾燥することで、図1(d)に示すように、粉体ケーキから疎水性液体50を除去し(第4の工程)、粉体10を回収する。ここで、粉体ケーキに含まれる液体の大部分は疎水性液体50なので、より少ないエネルギー(気化熱量)で粉体ケーキを乾燥することができる。したがって、粉体10の乾燥に際して発生するCOを削減することができる。また、第1の混合物30を構成する水等20が水溶液となる場合であっても、粉体ケーキに持ち込まれる水等20は少なくなる。また、第1の混合物に油分が含まれる場合、当該油分は第2の工程により疎水性液体50に吸収され、第3の工程で疎水性液体ごと除去される。このため、粉体10に残留する不純物(水溶液の成分に由来する不純物、及び油分)を削減することができる。また、粉体10の回収に養生ヤードを必要としない。なお、後述する実施例で示されるように、粉体10の乾燥に要するエネルギーは示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)によって測定することができるが、他の方法、例えばカールフィッシャー法によっても測定することができる。
【0058】
なお、第1~第3の工程を行う際の温度、圧力は特に制限されず、例えば常温常圧下で行ってもよい。ただし、第1の混合物が加熱加圧下で生成する場合、第1~第3の工程は、そのような環境と同一の環境下で行ってもよい。この場合の疎水性液体50の好ましい特性は上述した通りである。
【実施例
【0059】
<1.実験例1(粒子間に存在する水等の除去)>
つぎに、本実施形態の実施例(実験例)を説明する。以下に説明する各実験例では、本実施形態の効果を確認するために様々な試験を行った。なお、以下の各実験例はいずれも常温常圧下で行った。
【0060】
実施例1-2~実施例1-8では、まず、フライアッシュの総質量に対して未燃炭素を3.5質量%含むフライアッシュを大気条件下で600℃に加熱することで、フライアッシュ中に存在する未燃炭素を燃焼させた。これにより得られた脱炭素フライアッシュ(脱C-FA)を粉体とした。脱C-FAは、SiOを59.5質量%(脱C-FAの総質量に対する質量%)、Alを24.2質量%、Feを6.7質量%含んだ酸化物粒子であり、体積基準50%粒子径が7μmである球形粒子が多い粉体である。ここで、脱C-FAの化学成分は、乾燥後の脱C-FAを酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。体積基準50%粒子径は上述した方法により測定した。なお、レーザー回折式粒度分布測定装置はLA-960(堀場製作所社製)を用いた。
【0061】
また、疎水性液体としてトリクロロエチレンまたは1-ブロモプロパンを使用した。トリクロロエチレンの比重は1.46、水に対する溶解度は常温で1.28g/L、常温での沸点は87℃、KB値は130である。1-ブロモプロパンの比重は1.35、水に対する溶解度は常温で2.5g/L、常温での沸点は71℃、KB値は125である。
【0062】
ついで、500mlの容器に、乾燥した脱C-FA20g及び水150mlを加えてスラリー化した。すなわち、第1の混合物を作製した。ついで、第1の混合物のpHを測定した。ついで、第1の混合物に疎水性液体(トリクロロエチレンまたは1-ブロモプロパン)150ml及び界面活性剤(トリクロロエチレンまたは1-ブロモプロパンで希釈したNaスルホネート液)を添加し、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。
【0063】
その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、脱C-FAが水相から疎水性液体相に移動した。脱C-FAは遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0064】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)装置(DSC8230、リガク社製)にセットした。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。試料量が非常に少ないため、秤量作業から示差走査熱量測定を行うまでに、試料中の揮発しやすい疎水性液体は揮発してしまう。このため、測定される気化熱量は、サンプル中の水分のみによる気化熱量であると推察される。いずれにせよ、この気化熱量が少ないほど、粉体ケーキに持ち込まれる水等の量が少なくなり、粉体ケーキを乾燥させる際のエネルギーが少なくなると言える。なお、実施例1-2~1-8では、第1の混合物のpH、疎水性液体の種類、界面活性剤の種類、界面活性剤の添加率(粉体に対する添加率)を変えて同様の試験を行った。いずれの気化熱量も400J/g-dryと低い値となった。試験条件及び気化熱量は表1に示す通りである。なお、以下に説明する比較例1-1、実施例1-9の試験条件及び気化熱量も表1に示す。
【0065】
一方、比較例1-1では、実施例1-2で使用した第1の混合物(つまり、疎水性液体及び界面活性剤を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、脱C-FAを遠沈管底部分に沈殿させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。回収した粉体ケーキの含水率は34質量%(粉体ケーキの総質量に対する質量%)となった。また、実施例1-2~1-8と同様に示差走査熱量測定により粉体ケーキの気化熱量を測定したところ、気化熱量は538J/g-dryと実施例1-2~1-8に比べて高い値となった。なお、粉体ケーキの含水率は、粉体ケーキを105℃の恒温槽内で乾燥させ、乾燥前後の質量の減少率((乾燥前質量-乾燥後質量)/(乾燥前質量))を含水率とした。
【0066】
実施例1-9では、実施例1-2~1-8で使用したフライアッシュ(FA)を燃焼せずに(つまり脱C-FAとせずに)粉体とした他は実施例1-5と同様の実験を行った。粉体ケーキの気化熱量は80J/g-dryとやはり比較例1-1に比べて低い値となった。
【0067】
比較例1-1と実施例1-2を比較すると、実施例1-2の気化熱量は比較例1-1の気化熱量よりも小さくなった。実施例1-2では、脱C-FAの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、比較例1-1ではこのような処理を行っていない。このため、実施例1-2では、粒子間に存在する水等が少なくなり、気化熱量が小さくなった。さらに、界面活性剤を添加した実施例1-3~1-8では、界面活性剤の添加により脱C-FAの粒子の表面が疎水性になっている。このため、脱C-FAの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換した際に、より多くの水等を疎水性液体で置換することができた。界面活性剤の添加率が大きいほど気化熱量が小さくなった。したがって、界面活性剤の添加率が大きいほど多くの水等を疎水性液体で置換することができた。実施例1-6では、気化熱量が0J/g-dryとなったので、脱C-FAの粒子間に実質的に水等が存在しないことになる。したがって、実施例1-6では、界面活性剤により脱C-FAの粒子の表面がすべて疎水性になり、粒子間の水等がすべて疎水性液体で置換されたと考えられる。
【0068】
また、使用した疎水性液体がトリクロロエチレンである実施例1-6と1-ブロモプロパンである実施例1-8とを比較すると、実施例1-8の界面活性剤添加率が十分大きいにもかかわらず、実施例1-6の気化熱量がより小さくなった。これは、トリクロロエチレンの水に対する溶解度が1-ブロモプロパンの水に対する溶解度よりも小さいためであると考えられる。すなわち、実施例1-6では、脱C-FAの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換した際に、疎水性液体に取り込まれる水等が実施例1-8よりも少なくなる。具体的には、実施例1-6では、気化熱量が0J/g-dryであるため、疎水性液体に取り込まれる水等はほぼゼロとなるのに対し、実施例1-8では気化熱量が0J/g-dryよりも大きいため、疎水性液体にわずかに水分が取り込まれたと考えられる。
【0069】
また、実施例1-9では、粉体としてフライアッシュ(FA)を使用しているが、実施例1-2~1-8と同様に脱C-FAの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。このため、実施例1-9でも、粒子間に存在する水等が少なくなり、気化熱量が小さくなった。ただし、粉体が異なる他は実施例1-9と同条件である実施例1-5と比較すると、実施例1-9の気化熱量は実施例1-5よりも大きくなった。したがって、実施例1-9では、より多くの水等がフライアッシュの粒子間に残留したと考えられる。フライアッシュは親水性粒子の他、疎水性粒子(未燃炭素)を含む。このため、界面活性剤の多くが疎水性粒子に付着し、親水性粒子に十分に付着しなかったと考えられる。このため、親水性粒子の表面が十分に疎水性にならず、親水性粒子間に水等が残留したと考えられる。
【0070】
つぎに、比較例1-1、実施例1-4、実施例1-6で得た粉体ケーキから試料を約10gずつ採取し、各試料を恒温乾燥機内に投入し、乾燥機内温度を105℃に維持して静置した。さらに、この状態で各試料の質量変化を測定し、質量が一定になる時間を測定した。本試験では各試料の質量が10gと大きいため、乾燥機内に投入した際の各試料には水等(疎水性液体による置換後に残留した水等)のほかに疎水性液体であるトリクロロエチレンも含まれている。したがって、本試験では、各試料に含まれる水等及び疎水性液体を除去するのに要する時間を測定することになる。この結果、比較例1-1では54分、実施例1-4では16分、実施例1-6では6分となった。したがって、粉体の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換することにより、粉体の乾燥に要するエネルギー(すなわち気化熱量)が小さくなった。すなわち、粉体を乾燥しやすくなり、粉体の乾燥速度が上昇することが判明した。
【0071】
【表1】
【0072】
<2.実験例2(高炉ガス灰からアルカリで脱Znを行った後に高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を除去)>
実施例2-2~2-6では、まず、高炉ガス灰の総質量に対してFeを39質量%、Cを28質量%、Znを1.3質量%含み、体積基準50%の粒子径が18μmである高炉ガス灰を粉体として準備した。ここで、高炉ガス灰の化学成分は、乾燥後の高炉ガス灰を酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。体積基準50%粒子径は上述した方法により測定した。
【0073】
ついで、高炉ガス灰からトランプエレメントであるZnを除去した。具体的には、500ml容器に、高炉ガス灰20gと、水200mlと、Znをアンミン錯体化するアンモニアイオンを含む硫酸アンモニウムと、NaOHとを加えてスラリー化した。ついで、スラリーのNH濃度を30g/L、pHを10.5に調整し、容器を密閉した状態でスラリーを3時間振倒器で撹拌した。これにより、高炉ガス灰からZnを水溶液中に浸出させた。すなわち、第1の混合物を作製した。
【0074】
ついで、容器内に疎水性液体(1-ブロモプロパン)200mlと界面活性剤(トリクロロエチレンで希釈したCaスルホネート液)とを添加した。ついで、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、高炉ガス灰が水相から疎水性液体相に移動した。高炉ガス灰は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0075】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。
【0076】
さらに、粉体ケーキを恒温乾燥機内に投入し、乾燥機内温度を105℃に維持して粉体ケーキを乾燥させた。ついで、乾燥後の粉体ケーキに含まれるZn、Sの含有率(乾燥後の粉体ケーキの総質量に対する質量%)を測定した。測定は、乾燥後の粉体ケーキを酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により行った。なお、Zn、Sは第1の混合物の水溶液に含まれる成分であり、これらの含有率が少ないほど、粉体に含まれる不純物が少ないことになる。Znは高炉ガス灰から第1の混合物の水溶液に浸出したものであり、SはZnを水溶液中に浸出させるための浸出剤である硫酸アンモニウム中の硫酸イオンに由来するものである。実施例2-2~2-6の試験条件、気化熱量、Zn含有率、及びS含有率を表2に示す。
【0077】
比較例2-1では、上記で作製した第1の混合物(つまり、疎水性液体及び界面活性剤を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。その後、実施例2-2~2-6と同様の処理を行って、気化熱量、Zn含有率、S含有率を測定した。比較例2-1の試験条件、気化熱量、Zn含有率、及びS含有率を表2に示す。
【0078】
比較例2-1及び実施例2-2~2-6のいずれもZn含有率は当初の高炉ガス灰に含まれるZnの含有率(1.3質量%)よりも減少した。したがって、いずれの例でも少なくともZnの除去はできていることになる。ただし、比較例2-1と実施例2-2~2-6とを比較すると、比較例2-1の気化熱量は実施例2-2~2-6よりも高く、比較例2-1のZn含有率、S含有率はいずれも実施例2-2~2-6よりも高くなった。
【0079】
まず、比較例2-1と実施例2-2を比較すると、実施例2-2では、高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、比較例2-1ではこのような処理を行っていない。このため、実施例2-2では、粒子間に存在する水等(ここでは水溶液)が少なくなり、気化熱量が小さくなった。さらに、水等に溶解しているZn、Sも水等と共に疎水性液体により置換されるので、Zn含有率、S含有率も小さくなった。さらに、界面活性剤を添加した実施例2-3~2-6では、界面活性剤の添加により高炉ガス灰の粒子の表面が疎水性になっている。このため、高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換した際に、より多くの水等を疎水性液体で置換することができた。このため、気化熱量、Zn含有率、及びS含有率がさらに低下した。さらに、界面活性剤の添加率が大きいほど、気化熱量、Zn含有率、及びS含有率が低下した。実施例2-6では、気化熱量が10J/g-dryとなったので、高炉ガス灰の粒子間に水等がわずかに存在したことになる。実施例2-6では、界面活性剤により高炉ガス灰の粒子の表面がすべて疎水性になり、粒子間の水等がすべて疎水性液体で置換されたと考えられるが、疎水性液体中にわずかに水等が溶解したために、このような結果が得られたと考えられる。
【0080】
【表2】
【0081】
<3.実験例3(高炉ガス灰から酸で脱Znを行った後に高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を除去)>
実施例3-2~3-6では、まず、実験例2で使用した高炉ガス灰からトランプエレメントであるZnを除去した。具体的には、500ml容器に、高炉ガス灰20gと、水200mlとを加えてスラリー化した。ついで、スラリーに濃度36質量%の塩酸水溶液を加え、スラリーのpHを1に調整した。ついで、容器を密閉した状態でスラリーを1時間振倒器で撹拌した。これにより、高炉ガス灰からZnを水溶液中に浸出させた。すなわち、第1の混合物を作製した。
【0082】
ついで、容器内に疎水性液体(フッ素系有機溶剤の1つである1-エトキシ-1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブタン)200mlと界面活性剤(当該フッ素系有機溶剤で希釈したMgスルホネート液)を添加した。ここで、1-エトキシ-1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブタンの比重は1.43、水に対する溶解度は常温で20mg/L、常温での沸点は76℃、KB値は10である。ついで、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、高炉ガス灰が水相から疎水性液体相に移動した。高炉ガス灰は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0083】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。
【0084】
さらに、粉体ケーキを恒温乾燥機内に投入し、乾燥機内温度を105℃に維持して粉体ケーキを乾燥させた。ついで、乾燥後の粉体ケーキに含まれるZn、Clの含有率(乾燥後の粉体ケーキの総質量に対する質量%)を測定した。Zn含有率は、乾燥後の粉体ケーキを酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。Cl含有率は、乾燥後の粉体ケーキを温水抽出処理することでCl成分を抽出し、イオンクロマトグラフ法により測定した。なお、Zn、Clは第1の混合物の水溶液に含まれる成分であり、これらの含有率が少ないほど、粉体に含まれる不純物が少ないことになる。Znは高炉ガス灰から第1の混合物の水溶液に浸出したものであり、ClはZnを水溶液中に浸出させるための浸出剤である塩酸に由来するものである。実施例3-2~3-6の試験条件、気化熱量、Zn含有率、及びCl含有率を表3に示す。
【0085】
比較例3-1では、上記で作製した第1の混合物(つまり、疎水性液体及び界面活性剤を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。その後、実施例3-2~3-6と同様の処理を行って、気化熱量、Zn含有率、及びCl含有率を測定した。比較例3-1の試験条件、気化熱量、Zn含有率、及びCl含有率を表3に示す。
【0086】
比較例3-1及び実施例3-2~3-6のいずれもZn含有率は当初の高炉ガス灰に含まれるZnの含有率(1.3質量%)よりも減少した。したがって、いずれの例でも少なくともZnの除去はできていることになる。ただし、比較例3-1と実施例3-2~3-6とを比較すると、比較例3-1の気化熱量は実施例3-2~3-6よりも高く、比較例3-1のZn含有率、S含有率はいずれも実施例3-2~3-6よりも高くなった。
【0087】
まず、比較例3-1と実施例3-2を比較すると、実施例3-2では、高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、比較例3-1ではこのような処理を行っていない。このため、実施例3-2では、粒子間に存在する水等(ここでは水溶液)が少なくなり、気化熱量が小さくなった。さらに、水等に溶解しているZn、Clも水等と共に疎水性液体により置換されるので、Zn含有率、Cl含有率も小さくなった。さらに、界面活性剤を添加した実施例3-3~3-6では、界面活性剤の添加により高炉ガス灰の粒子の表面が疎水性になっている。このため、高炉ガス灰の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換した際に、より多くの水等を疎水性液体で置換することができた。このため、気化熱量、Zn含有率、及びCl含有率がさらに低下した。さらに、界面活性剤の添加率が大きいほど気化熱量、Zn含有率、及びCl含有率が低下した。実施例3-6では、気化熱量が0J/g-dryとなったので、高炉ガス灰の粒子間に実質的に水等が存在しないことになる。したがって、実施例3-6では、界面活性剤により高炉ガス灰の粒子の表面がすべて疎水性になり、粒子間の水等がすべて疎水性液体で置換されたと考えられる。
【0088】
【表3】
【0089】
<4.実験例4(粒子間に存在する水等及び油分の除去)>
実施例4-2~4-5では、まず、油分を含む含水スラリー(含油スラリー)を第1の混合物として準備した。ここで、含水スラリー中のスケールは、スケールの総質量に対してFeを63質量%、油分を3.1質量%で含み、体積基準50%の粒子径が48μmとなっている。ここで、スケールの化学成分は、乾燥後のスケールを酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。スケールの油分は、以下の方法で測定した。すなわち、乾燥後のスケールをノルマルヘキサンに浸漬することでスケールから油分を抽出した。その後、抽出液を100℃に加温しノルマルヘキサンを揮発させ、残渣量から油分を算出した。体積基準50%粒子径は上述した方法により測定した。
【0090】
ついで、第1の混合物150ml(固形物量52g)と疎水性液体(1-ブロモプロパン)200mlを500ml容器に入れ、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。ついで、第2の混合物に界面活性剤(1-ブロモプロパンで希釈したNaスルホネート液)を添加し、第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによってさらに30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、スケールが水相から疎水性液体相に移動した。スケールは遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0091】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。
【0092】
さらに、粉体ケーキを恒温乾燥機内に投入し、乾燥機内温度を105℃に維持して粉体ケーキを乾燥させた。ついで、乾燥後の粉体ケーキに含まれる油分の含有率(乾燥後の粉体ケーキ(油分除く)の総質量に対する質量%)を測定した。油分の含有率の測定は上述した方法により行った。実施例4-2~4-5の試験条件、気化熱量、及び油分含有率を表4に示す。
【0093】
比較例4-1では、第1の混合物(つまり、疎水性液体及び界面活性剤を添加していない含水スラリー)150ml(固形物量52g)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。その後、実施例4-2~4-5と同様の処理を行って、気化熱量、及び油分含有率を測定した。比較例4-1の試験条件、気化熱量、及び油分含有率を表4に示す。
【0094】
比較例4-1と実施例4-2~4-5とを比較すると、比較例4-1では油分含有率が当初のスケールの油分含有率と変わっておらず、油分が除去されなかった。さらに、比較例4-1の気化熱量は実施例4-2~4-5よりも高くなった。一方、実施例4-2~4-5では、いずれも油分が大きく減少しており、油分が除去されたことがわかった。また、気化熱量も大きく減少した。
【0095】
まず、比較例4-1と実施例4-2を比較すると、実施例4-2では、スケールの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、比較例4-1ではこのような処理を行っていない。このため、実施例4-2では、粒子間に存在する水等が少なくなり、気化熱量が小さくなった。また、粒子間に存在する油分は疎水性液体に吸収され、疎水性液体ごと除去された。このため、油分含有率も小さくなった。ただ、疎水性液体を除去する際に、疎水性液体中に溶解した油分の一部が残留する場合がある。このため、実施例4-2では油分が若干残留した。
【0096】
さらに、界面活性剤を添加した実施例4-3~4-5では、界面活性剤の添加によりスケールの粒子の表面が疎水性になっている。このため、スケールの粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換した際に、より多くの水等を疎水性液体で置換することができた。このため、気化熱量がさらに低下した。さらに、界面活性剤の添加率が大きいほど気化熱量が低下した。したがって、界面活性剤の添加率が大きいほど多くの水等を疎水性液体で置換することができた。実施例4-5では、気化熱量が13J/g-dryとなったので、スケールの粒子間に水等がわずかに存在したことになる。実施例4-5では、界面活性剤によりスケールの粒子の表面がすべて疎水性になり、粒子間の水等がすべて疎水性液体で置換されたと考えられるが、疎水性液体中にわずかに水等が溶解したために、このような結果が得られたと考えられる。
【0097】
一方、油分含有率は、界面活性剤の添加率の増加に伴って若干ではあるが増加した。界面活性剤の添加率が大きいほど、粒子間には油分を含む疎水性液体が多く存在することになる。このため、界面活性剤の添加率が大きいほど、疎水性液体を除去した際に残留する油分が若干増加した。もちろん、いずれの実施例4-2~4-5でも油分の質量%は比較例4-1より大きく減少しており、本実施形態の効果は十分に得られている。
【0098】
【表4】
【0099】
<5.実験例5(d50の影響の考察)>
実施例5-2、5-4、5-6では、体積基準50%粒子径(d50)が異なる細粒砂を粉体として用いた。各実施例で用いた細粒砂の体積基準50%粒子径(d50)を表5に示す。なお、細粒砂はSiOおよびAlを主成分とする酸化物粒子である。実施例5-8、5-10では、化学組成及び体積基準50%粒子径が異なる複数種類のフライアッシュを大気条件下で600℃に加熱することで、各フライアッシュ中に存在する未燃炭素を燃焼させた。これにより得られた複数種類の脱C-FAを粉体とした。これらの脱C-FAは、SiOを52~64質量%(脱C-FAの総質量に対する質量%)、Alを19~28質量%、Feを3~8質量%で含んだ酸化物粒子であり、球形粒子を多く含む。さらに、これらの脱C-FAの体積基準50%粒子径は互いに異なる。各実施例で用いた脱C-FAの体積基準50%粒子径(d50)を表5に示す。ここで、細粒砂及び脱C-FAの化学成分は、乾燥後の細粒砂及び脱C-FAを酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。体積基準50%粒子径(d50)は上述した方法で測定した。
【0100】
ついで、実施例5-2、5-4、5-6、5-8、5-10では、500ml容器に、乾燥した粉体20g及び水150mlを加えてスラリー化した。すなわち、第1の混合物を作製した。ついで、第1の混合物のpHを測定した。pHは7.1~8.9であった。ついで、第1の混合物に疎水性液体(トリクロロエチレン)150mlを添加し、これらの混合物である第2の混合物を高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、粉体(細粒砂または脱C-FA)が水相から疎水性液体相に移動した。粉体は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0101】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。実施例5-2、5-4、5-6、5-8、5-10の試験条件及び気化熱量を表5に示す。
【0102】
実施例5-11では、実施例5-2で作製された第2の混合物を遠心分離機に掛ける代わりに2分間静置した。つまり、実施例5-11では、第2の混合物に静置による重力を作用させた。実施例5-11でも、容器内の第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、粉体(細粒砂)が水相から疎水性液体相に移動した。粉体は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。その後は、実施例5-2と同様に示差走査熱量測定により粉体ケーキの気化熱量を測定した。実施例5-11の試験条件及び気化熱量を表5に示す。
【0103】
比較例5-1、5-3、5-5では、実施例5-2、5-4、5-6で作製した第1の混合物(つまり、疎水性液体を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、粉体を遠沈管底部分に沈殿させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。ついで、実施例5-2、5-4、5-6と同様に示差走査熱量測定により粉体ケーキの気化熱量を測定した。比較例5-1、5-3、5-5の試験条件及び気化熱量を表5に示す。
【0104】
比較例5-7、5-9では、実施例5-8、5-10で作製した第1の混合物(つまり、疎水性液体を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、粉体を遠沈管底部分に沈殿させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。ついで、実施例5-8、5-10と同様に示差走査熱量測定により粉体ケーキの気化熱量を測定した。比較例5-7、5-9の試験条件及び気化熱量を表5に示す。
【0105】
各実施例と、これらの実施例と同じ粉体を使用した比較例とを比較すると(例えば実施例5-2と比較例5-1とを比較すると)、いずれの実施例においても、気化熱量が対応する比較例の気化熱量よりも低くなった。各実施例では、粉体の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、各比較例ではこのような処理を行っていない。このため、各実施例では、粒子間に存在する水等が少なくなり、気化熱量が小さくなった。さらに、粉体の体積基準50%粒子径が小さいほど気化熱量の低下幅が大きく、特に体積基準50%粒子径が100μm以下、25μm以下、10μm以下となる場合に低下幅が顕著に大きくなった。したがって、粉体の体積基準50%粒子径(d50)は、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは25μm以下であり、より好ましくは10μm以下であることが判明した。
【0106】
さらに、比較例5-1、実施例5-2、実施例5-11を比較すると、静置によって細粒砂を沈降させた実施例5-11でも、気化熱量が低下することを確認できた。しかし、遠心力を作用させた実施例5-2ほどは気化熱量が低下しなかった。
【0107】
【表5】
【0108】
<6.実施例6(スラグ粉または鉄鉱石粉の粒子間に存在する水等の除去)>
実施例6-2、6-4では、スラグ粉または鉱石粉を粉体として準備した。ここで、スラグ粉は高炉から発生したスラグを湿式で粉砕することで得られたものである。スラグ粉はCaOを41.7質量%(スラグ粉の総質量に対する質量%)、SiOを33.8質量%、Alを13.4質量%で含んだ酸化物粒子であり、体積基準50%粒子径が67μmとなっている。ここで、スラグ粉の化学成分は、ガラスビード法による蛍光X線分析装置(XRF)(ZSX PrimusII、リガク社製)により測定した。体積基準50%粒子径は上述した方法により測定した。一方、鉱石粉は鉄鉱石粉である。鉄鉱石粉は、Feを89.4質量%(鉄鉱石粉の総質量に対する質量%)で含んだ酸化物粒子であり、体積基準の50%粒子径は110μmとなっている。ここで、鉄鉱石粉の化学成分は、乾燥した鉄鉱石粉を酸性水溶液に酸溶解した後、ICP法により測定した。体積基準50%粒子径は上述した方法により測定した。
【0109】
ついで、500ml容器に、乾燥した粉体20g及び水150mlを加えてスラリー化した。すなわち、第1の混合物を作製した。ついで、第1の混合物のpHを測定した。ついで、第1の混合物に疎水性液体(トリクロロエチレン)150mlと界面活性剤(トリクロロエチレンで希釈したNaスルホネート液)を添加し、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、粉体が水相から疎水性液体相に移動した。粉体は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0110】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5~8mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。実施例6-2、6-4の試験条件及び気化熱量を表6に示す。
【0111】
比較例6-1、6-3では、実施例6-2、6-4で作製した第1の混合物(つまり、疎水性液体及び界面活性剤を添加していないもの)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、粉体を遠沈管底部分に沈殿させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。ついで、回収した粉体ケーキの含水率を実験例1と同様に測定したところ、含水率は34質量%(粉体ケーキの総質量に対する質量%)となった。さらに、実施例6-2、6-4と同様に示差走査熱量測定により粉体ケーキの気化熱量を測定した。比較例6-1、6-3の試験条件及び気化熱量を表6に示す。
【0112】
各実施例と、これらの実施例と同じ粉体を使用した比較例とを比較すると(例えば実施例6-2と比較例6-1とを比較すると)、いずれの実施例においても、気化熱量が対応する比較例の気化熱量よりも低くなった。各実施例では、粉体の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換している。一方、各比較例ではこのような処理を行っていない。このため、各実施例では、粒子間に存在する水等が少なくなり、気化熱量が小さくなった。
【0113】
【表6】
【0114】
<7.実験例7(粉体が浸出残渣となる例)>
まず、浸出液(浸出剤)である硫酸アンモニウム溶液(20g-NH/L)(アンモニア換算濃度)を浸出容器に入れ、そのpHを濃度20質量%のNaOH水溶液でpH9.8~10.2に調整した。さらに、浸出容器内に、ZnとNiでめっきした表面処理鋼板(表面の面積0.08m)を入れ、撹拌用ポンプでこれらの混合物を3時間撹拌した。その後、撹拌用ポンプを停止し、浸出容器内を静置した。ついで、浸出容器内の浸出液を浸出容器から排出し、濾過し、浸出廃液を得た。浸出廃液の組成を表7に示す。表7に示すように、浸出廃液には、浸出液成分であるNHの他、表面処理鋼板から浸出したZnイオン及びNiイオン(これらはアンミン錯体イオンとして存在する)が含まれている。なお、浸出廃液中のZn、Ni濃度は、ICP法により測定し、浸出廃液中のNH濃度は、蒸留処理後、蒸留液に対する吸光度法により測定し、浸出廃液中のS2-濃度は、蒸留処理後、ヨウ素滴定により測定した。
【0115】
ついで、浸出廃液を再生容器内に入れ、撹拌用ポンプで撹拌しながら、酸化還元電位が-200mVになるまで、浸出廃液に硫化水素ガスを投入した。これにより、アンミン錯体イオンを形成しているZnイオン、Niイオンを硫化物(硫化Zn及び硫化Ni)として析出させた。その際、pH計で浸出廃液のpHを測定し、浸出廃液のpHを9.8~10.2に維持した。なお、再生容器内の気相部の硫化水素濃度は、0.1ppm以下であった。以上の工程により、第1の混合物を作製した。ここでの粉体は浸出残渣、すなわち硫化Zn及び硫化Ni(硫化物粒子)であり、水等は浸出廃液である。
【0116】
ついで、第1の混合物200mlを500mlの容器に入れ、さらに、容器に疎水性液体(トリクロロエチレン)200mlと、析出した硫化物量に対しNaスルホネート液を0.6質量%添加した。ついで、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、浸出残渣が水相から疎水性液体相に移動した。浸出残渣は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0117】
ついで、排出した水相及び疎水性液体相を別の容器に移し、静置による比重分離により、これらを2相分離した。ついで、水相(すなわち浸出残渣を除いた浸出廃液)を回収した。浸出残渣を除いた浸出廃液の組成を表7に示す。測定方法は上記と同様とした。表7に示すように、浸出残渣を除いた浸出廃液のNH濃度は元の浸出廃液のNH濃度と同程度であり、かつ、硫化水素ガスに由来する硫化物イオンも検出されなかった。一方、浸出残渣を除いた浸出廃液のZnイオン、Niイオン濃度はかなり低下し、浸出液として再利用できる程度の値となった。したがって、実験例7で使用した浸出液がZn、Niを浸出させる機能を有すること、本実験例7の処理(本実施形態の処理)により浸出廃液を浸出液に再生できることを確認できた。
【0118】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。この結果、気化熱量は125J/g-dryとなった。
【0119】
一方で、第1の混合物(つまり、浸出残渣を含み、かつ疎水性液体及び界面活性剤が添加されていない浸出廃液)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。その後、上記と同様の処理を行って、気化熱量を測定した。この結果、気化熱量は735J/g-dryとなった。したがって、粉体が硫化物系の浸出残渣となる場合であっても、粉体の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換することにより、気化熱量を大きく低減できることが確認できた。
【0120】
【表7】
【0121】
<8.実施例8(ステンレス鋼処理後の浸出廃液からCaF回収)>
ステンレス鋼としてCr-Ni系ステンレス鋼を用い、酸洗した際に発生したフッ素イオン含有廃液を準備した。フッ素イオン含有廃液の組成は表8に示す通りである。なお、フッ素イオン含有廃液中のFe、Cr、Ni濃度は、ICP法により測定し、フッ素イオン含有廃液中のF濃度は、イオンクロマトグラフ法により測定した。
【0122】
ついで、フッ素イオン含有廃液10Lを容器に入れ、フッ素イオン含有廃液を攪拌しながら生石灰(CaO)を添加し、フッ素イオン含有廃液のpHを3に調整した。これにより、フッ素イオン含有廃液中のフッ素イオンをCaFとして析出させた。その後、フッ素イオン含有廃液を静置し、CaFを主成分とする析出物を沈殿させた。ついで、上澄み部分を廃棄することで、第1の混合物である含水スラリーを作製した。ここでの粉体は浸出残渣である析出物(主成分はCaF)であり、水等はフッ素イオン含有廃液である。
【0123】
ついで、第1の混合物200mlを500mlの容器に入れ、さらに、容器に疎水性液体(トリクロロエチレン)200mlと、析出した固形物量に対しNaスルホネート液を1.0質量%添加した。ついで、これらの混合物である第2の混合物を、高せん断撹拌式ホモジナイザーによって30秒間撹拌した。その後、第2の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離機によって第2の混合物に遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。これにより、第2の混合物が水相と疎水性液体相とに分離し、浸出残渣が水相から疎水性液体相に移動した。浸出残渣は遠沈管の底部に沈殿し、ケーキ状となった。ついで、遠沈管を傾けて粉体ケーキの上側に存在する水相及び疎水性液体相を排出した。
【0124】
ついで、遠沈管の底部に沈積した粉体ケーキの一部(5mg)を試料として採取し、湿潤状態のまますぐに試料を示差走査熱量測定装置にセットした。示差走査熱量測定装置は実験例1と同様の装置を用いた。ついで、試料を常温(室温)から80℃に昇温し、このときの気化熱量を測定した。この結果、気化熱量は39J/g-dryとなった。
【0125】
一方、第1の混合物(つまり、浸出残渣を含み、かつ疎水性液体及び界面活性剤が添加されていない浸出廃液)を遠沈管に投入し、第1の混合物に遠心分離機によって遠心力(1,750G)を30秒間作用させた。ついで、遠沈管を傾け、水相を排出した。ついで、底部に沈積した粉体ケーキを回収した。その後、上記と同様の処理を行って、気化熱量を測定した。この結果、気化熱量は693J/g-dryとなった。したがって、粉体がCaFを主成分とする浸出残渣となる場合であっても、粉体の粒子間に存在する水等を疎水性液体で置換することにより、気化熱量を大きく低減できることが確認できた。
【0126】
【表8】
【符号の説明】
【0127】
10 粉体
20 水等
20a 水相
30 第1の混合物
50 疎水性液体
50a 疎水性液体相
100、200 容器
図1
図2