(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】RFIDモジュール及びそれを埋設した空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20250305BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250305BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20250305BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20250305BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
B60C19/00 J
B60C19/00 G
B60C1/00 Z
G06K19/077 232
C08L21/00
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2021507879
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005212
(87)【国際公開番号】W WO2021166795
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020024645
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】長橋 祐輝
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103183876(CN,A)
【文献】国際公開第2019/054227(WO,A1)
【文献】特開2013-245339(JP,A)
【文献】特開2019-099816(JP,A)
【文献】特開2008-007584(JP,A)
【文献】特開2008-296552(JP,A)
【文献】特開2010-264627(JP,A)
【文献】特開2016-007749(JP,A)
【文献】特表2005-528534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
B60C 1/00
G06K 19/077
C08L 21/00
C08K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを記憶するIC基板と、前記データを送受信するアンテナと、該アンテナを被覆する被覆層とを備え、該被覆層が炭酸カルシウムを含有し、前記被覆層の比誘電率が7以下であ
り、前記被覆層のガラス転移温度が-70℃~-45℃の範囲にあることを特徴とするRFIDモジュール。
【請求項2】
前記被覆層がゴム又はエラストマーと20phr以上の炭酸カルシウムとからなることを特徴とする請求項1に記載のRFIDモジュール。
【請求項3】
前記被覆層に含まれる炭酸カルシウムが20phr~55phrであることを特徴とする請求項2に記載のRFIDモジュール。
【請求項4】
前記被覆層の厚さが0.5mm~3.0mmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のRFIDモジュール。
【請求項5】
前記被覆層は、誘電正接が0.1以下であり、表面抵抗率が10
12Ω・m以上であり、体積抵抗率が10
12Ω・m以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のRFIDモジュール。
【請求項6】
前記被覆層の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)が2MPa~12MPaの範囲にあることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のRFIDモジュール。
【請求項7】
データを記憶するIC基板と、前記データを送受信するアンテナと、該アンテナを被覆する被覆層とを備え、該被覆層が炭酸カルシウムを含有し、前記被覆層の比誘電率が7以下であり、前記被覆層は、誘電正接が0.1以下であり、表面抵抗率が10
12
Ω・m以上であり、体積抵抗率が10
12
Ω・m以上であることを特徴とするRFIDモジュール。
【請求項8】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、請求項1~7のいずれかに記載のRFIDモジュールが埋設されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記被覆層の比誘電率が該被覆層に隣接して配置されるゴム部材の比誘電率よりも低いことを特徴とする請求項8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記RFIDモジュールが前記カーカス層よりタイヤ幅方向外側に配置され、前記被覆層の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)と、前記RFIDモジュールのタイヤ幅方向外側に位置するゴム部材のうち20℃の貯蔵弾性率が最も大きいゴム部材における20℃の貯蔵弾性率E'out(20℃)とが0.1≦E'c(20℃)/E'out(20℃)≦1.5の関係を満たすことを特徴とする請求項8又は9に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記RFIDモジュールの中心がタイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記RFIDモジュールが前記ビード部のビードコアの上端からタイヤ径方向外側に15mmの位置とタイヤ最大幅位置との間に配置されていることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記RFIDモジュールの断面中心とタイヤ表面との距離が1mm以上であることを特徴とする請求項8~12のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記アンテナが螺旋状であることを特徴とする請求項8~13のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、RFIDモジュールが埋設された空気入りタイヤにおいて、
前記RFIDモジュールは、データを記憶するIC基板と、前記データを送受信するアンテナと、該アンテナを被覆する被覆層とを備え、該被覆層が炭酸カルシウムを含有し、前記被覆層の比誘電率が7以下であり、前記被覆層の比誘電率が該被覆層に隣接して配置されるゴム部材の比誘電率よりも低いことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDモジュール及びそれを埋設した空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、被覆層の形状を維持しながら、RFIDモジュールの耐久性及び通信性を改善することを可能にしたRFIDモジュール及びそれを埋設した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、RFIDモジュールを埋設することが行われている(例えば、特許文献1参照)。RFIDモジュールの通信距離を伸ばすために、RFIDモジュールの周辺のゴム部材に対して絶縁する絶縁層を設けることが好適である。このような絶縁層において、絶縁層の強化のためにシリカを配合することが一般的である。しかしながら、絶縁層にシリカを配合すると、絶縁層を成形した際に絶縁層が収縮して所望の形状を維持することができず、耐久性も悪化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、被覆層の形状を維持しながら、RFIDモジュールの耐久性及び通信性を改善することを可能にしたRFIDモジュール及びそれを埋設した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明のRFIDモジュールは、データを記憶するIC基板と、前記データを送受信するアンテナと、該アンテナを被覆する被覆層とを備え、該被覆層が炭酸カルシウムを含有し、前記被覆層の比誘電率が7以下であり、前記被覆層のガラス転移温度が-70℃~-45℃の範囲にあることを特徴とするものである。
また、本発明のRFIDモジュールは、データを記憶するIC基板と、前記データを送受信するアンテナと、該アンテナを被覆する被覆層とを備え、該被覆層が炭酸カルシウムを含有し、前記被覆層の比誘電率が7以下であり、前記被覆層は、誘電正接が0.1以下であり、表面抵抗率が10
12
Ω・m以上であり、体積抵抗率が10
12
Ω・m以上であることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、前記RFIDモジュールが埋設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のRFIDモジュールでは、被覆層は炭酸カルシウムを含有しているので、シリカを含有する場合に比べて被覆層の成形時の収縮が抑制され、RFIDモジュールの形状を維持することができると共に、炭酸カルシウムが充填剤として被覆層の比誘電率の低下に寄与し、RFIDモジュールの通信性を改善することができる。また、被覆層の比誘電率は7以下であるので、RFIDモジュールの電波透過性を向上させ、電波強度の減衰に対して抑制効果を得ることができ、RFIDモジュールの通信性を更に改善することができる。
【0008】
本発明のRFIDモジュールにおいて、被覆層はゴム又はエラストマーと20phr以上の炭酸カルシウムとからなることが好ましい。これにより、カーボンを含有する場合に比べ、被覆層の比誘電率を比較的低くすることができ、RFIDモジュールの通信性を効果的に改善することができる。
【0009】
被覆層に含まれる炭酸カルシウムは20phr~55phrであることが好ましい。これにより、被覆層の比誘電率を比較的低くすることができ、RFIDモジュールの通信性を効果的に改善することができる。
【0010】
被覆層の厚さは0.5mm~3.0mmであることが好ましい。これにより、被覆層による保護効果を確保しつつ、RFIDモジュールの通信性を効果的に改善することができる。
【0011】
被覆層は、誘電正接が0.1以下であり、表面抵抗率が1012Ω・m以上であり、体積抵抗率が1012Ω・m以上であることが好ましい。誘電正接を上記範囲に設定することでRFIDモジュールにおける電波透過時の電波強度の減衰を防止することができると共に、電気抵抗をそれぞれ上記範囲に設定することでRFIDモジュールの通信性を効果的に改善することができる。
【0012】
被覆層の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)は2MPa~12MPaの範囲にあることが好ましい。これにより、被覆層によるRFIDモジュールの保護効果が向上し、RFIDモジュールの耐久性を効果的に改善することができる。
【0013】
被覆層のガラス転移温度は-70℃~-45℃の範囲にあることが好ましい。これにより、高温又は低温の環境下においてもRFIDモジュールの耐久性を損なわずに使用することができる。
【0014】
本発明の空気入りタイヤにおいて、被覆層の比誘電率は被覆層に隣接して配置されるゴム部材の比誘電率よりも低いことが好ましい。これにより、RFIDモジュールの電波透過性を十分に確保することができる。
【0015】
RFIDモジュールはカーカス層よりタイヤ幅方向外側に配置され、被覆層の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)と、RFIDモジュールのタイヤ幅方向外側に位置するゴム部材のうち20℃の貯蔵弾性率が最も大きいゴム部材における20℃の貯蔵弾性率E'out(20℃)とは0.1≦E'c(20℃)/E'out(20℃)≦1.5の関係を満たすことが好ましい。これにより、RFIDモジュールの耐久性を効果的に改善することができる。
【0016】
RFIDモジュールの中心はタイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることが好ましい。これにより、タイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0017】
RFIDモジュールはビード部のビードコアの上端からタイヤ径方向外側に15mmの位置とタイヤ最大幅位置との間に配置されていることが好ましい。これにより、RFIDモジュールが走行時の応力振幅が小さい領域に配置されるため、RFIDモジュールの耐久性を効果的に改善することができ、更に、タイヤの耐久性を低下させることがない。
【0018】
RFIDモジュールの断面中心とタイヤ表面との距離は1mm以上であることが好ましい。これにより、タイヤの耐久性を効果的に改善することができると共に、タイヤの耐外傷性を改善することができる。
【0019】
アンテナは螺旋状であることが好ましい。これにより、走行時におけるタイヤの変形に対して追従することができ、RFIDモジュールの耐久性を改善することができる。
【0020】
本発明において、貯蔵弾性率E'は、JIS-K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、引張の変形モードにおいて、指定された各温度、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み±2%の条件にて測定されるものである。また、被覆層の表面抵抗率[Ω・m]及び体積抵抗率[Ω・m]は、JIS-K6271に準拠して測定される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a),(b)は本発明の実施形態からなるRFIDモジュールの一例を示すものであり、
図1(a)は斜視図であり、
図1(b)は断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態からなるRFIDモジュールが埋設された空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
【
図3】
図3は
図2の空気入りタイヤを概略的に示す子午線断面図である。
【
図4】
図4は
図2の空気入りタイヤを概略的に示す赤道線断面図である。
【
図5】
図5は
図2の空気入りタイヤに埋設されたRFIDモジュールを拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6(a),(b)は本発明の実施形態からなるRFIDモジュールの変形例を示すものであり、
図6(a)は斜視図であり、
図6(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1(a),(b)は本発明の実施形態からなるRFIDモジュールを示すものである。
【0023】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態のRFIDモジュール10は、トランスポンダ20とそれを被覆する被覆層23からなる。トランスポンダ20として、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることができる。トランスポンダ20は、データを記憶するIC基板21と、データを非接触で送受信するアンテナ22とを有している。このようなトランスポンダ20を用いることで、適時にデータを書き込み又は読み出し、データを効率的に管理することができる。なお、RFIDとは、アンテナ及びコントローラを有するリーダライタと、IC基板及びアンテナを有するIDタグから構成され、無線方式によりデータを交信可能な自動認識技術である。
【0024】
図1(a)において、トランスポンダ20のアンテナ22は、IC基板21の両端部の各々から突出し、螺旋状を呈している。このアンテナ22の長さを適宜変更することにより、通信性を確保することができる。なお、トランスポンダ20の全体の形状は、特に限定されるものではなく、
図1(a),(b)に示す柱状の形態の他に、
図6(a),(b)に示す板状の形態を用いても良い。
【0025】
被覆層23は、トランスポンダ20の表裏両面を挟むようにしてトランスポンダ20の全体を被覆している。被覆層23は、非補強充填剤として炭酸カルシウムを含有している。ここで、被覆層23は、炭酸カルシウム以外の非補強充填剤を含有していないことが好ましい。被覆層23が含有する炭酸カルシウムは、特に限定されるものではないが、例えば、重質炭酸カルシウムや、表面処理剤で表面処理した炭酸カルシウムを用いることができる。このような炭酸カルシウムは、他の無機フィラーに比べて比誘電率が低いため、被覆層23の比誘電率の低減に寄与する。なお、炭酸カルシウム以外の非補強充填剤として、黒鉛、粘土、二酸化チタン、二酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、デンプン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭化ケイ素などが挙げられる。
【0026】
また、被覆層23は比誘電率が7以下である。好ましくは、比誘電率が2~5であると良い。なお、被覆層23が例えばゴムからなる場合、当該ゴムの比誘電率は、常温において860MHz~960MHzの比誘電率である。ここで、常温はJIS規格の標準状態に準拠し、23±2℃、60%±5%RHである。当該ゴムは23℃、60%RHで24時間処理された後に静電容量法により比誘電率が計測される。上述した860MHz~960MHzの範囲は、現状のUHF帯のRFIDの割り当て周波数に該当するが、上記割り当て周波数が変更された場合、その割り当て周波数の範囲の比誘電率を上記の如く規定すれば良い。
【0027】
上述したRFIDモジュールでは、被覆層23は炭酸カルシウムを含有しているので、シリカを含有する場合に比べて被覆層23の成形時の収縮が抑制され、RFIDモジュール10の形状を維持することができると共に、炭酸カルシウムが充填剤として被覆層23の比誘電率の低減に寄与し、RFIDモジュール10の通信性を改善することができる。また、被覆層23の比誘電率は7以下であるので、RFIDモジュール10の電波透過性を向上させ、電波強度の減衰に対して抑制効果を得ることができ、RFIDモジュール10の通信性を更に改善することができる。
【0028】
これに対して、例えば、被覆層にシリカを配合した場合、被覆層を成形する際に収縮し、所望の形状を維持することができず、被覆層の耐久性を十分に得ることができない。また、被覆層に炭酸カルシウム以外の非補強充填剤を配合した場合、比誘電率の低減効果に有効なものがなく、RFIDモジュールの通信性を改善できないことがある。
【0029】
上記RFIDモジュールにおいて、被覆層23は、誘電正接が0.1以下であり、表面抵抗率が1012Ω・m以上であり、体積抵抗率が1012Ω・m以上であることが好ましい。誘電正接を上記範囲に設定することでRFIDモジュール10における電波透過時の電波強度の減衰を防止することができると共に、電気抵抗をそれぞれ上記範囲に設定することでRFIDモジュール10の通信性を効果的に改善することができる。
【0030】
被覆層23の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)は、2MPa~12MPaの範囲にあると良い。このように被覆層23の物性を設定することで、被覆層23によるRFIDモジュール10の保護効果が向上し、RFIDモジュール10の耐久性を効果的に改善することができる。
【0031】
被覆層23のガラス転移温度は、-70℃~-45℃の範囲にあることが好ましく、-60℃~-45℃の範囲にあることがより好ましい。これにより、高温又は低温の環境下においてもRFIDモジュール10の耐久性を損なわずに使用することができる。ここで、被覆層23のガラス転移温度が下限値より低いと、被覆層23の耐熱性が悪化し、高温環境下での被覆層23の保護効果を十分に得ることができず、逆に被覆層23のガラス転移温度が上限値を超えると、低温環境下での耐久性が悪化し、被覆層23にクラックが生じやすくなる。
【0032】
被覆層23の組成として、被覆層23は、ゴム又はエラストマーと20phr以上の炭酸カルシウムとからなることが好ましい。このように被覆層23を構成することで、カーボンを含有する場合に比べ、被覆層23の比誘電率を比較的低くすることができ、RFIDモジュール10の通信性を効果的に改善することができる。炭酸カルシウムの含有量が多くなる程、比誘電率を低減することができるが、例えば、被覆層23が、25phrを超え30phr以下である炭酸カルシウムを含有する場合、被覆層23の比誘電率を4以上6未満とすることができる。また、被覆層23が、30phrを超え40phr以下である炭酸カルシウムを含有する場合、被覆層23の比誘電率を2以上4未満とすることができる。なお、本明細書において、「phr」は、ゴム成分(エラストマー)100重量部あたりの重量部を意味する。
【0033】
この被覆層23に含まれる炭酸カルシウムは、20phr~55phrであることが好ましい。これにより、被覆層23の比誘電率を比較的低くすることができ、RFIDモジュール10の通信性を効果的に改善することができる。但し、被覆層23に炭酸カルシウムが過度に含まれると脆性的になり、被覆層23としての強度が低下するため好ましくない。また、被覆層23は、炭酸カルシウムの他に、20phr以下のシリカ(白色フィラー)や5phr以下のカーボンブラックを任意に含むことができる。少量のシリカやカーボンブラックを併用した場合、被覆層23の強度を確保しつつ、その比誘電率を低下させることができる。
【0034】
被覆層23の厚さtは0.5mm~3.0mmであることが好ましく、1.0mm~2.5mmであることがより好ましい。ここで、被覆層23の厚さtは、トランスポンダ20を含む位置でのゴム厚さであり、例えば、
図1(b)に示すようにトランスポンダ20の中心を通る直線上での厚さt1と厚さt2を合計したゴム厚さである。このように被覆層23の厚さtを適度に設定することで、被覆層23による保護効果を確保しつつ、RFIDモジュール10の通信性を効果的に改善することができる。ここで、被覆層23の厚さtが0.5mmより薄いと、被覆層23による絶縁性が低下し、RFIDモジュール10の通信性の改善効果を十分に得ることができない。逆に、被覆層23の厚さtが3.0mmを超えると、タイヤに埋設して使用した場合にRFIDモジュール10が破損するおそれがある。なお、被覆層23の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば、三角形や長方形、台形、紡錘形を採用することができる。
図1(b)の被覆層23では長方形の断面形状を有している。
【0035】
図2~5は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図2に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0036】
一対のビード部3間には、複数本のカーカスコードをラジアル方向に配列してなる少なくとも1層(
図2では1層)のカーカス層4が装架されている。カーカス層4はゴムで被覆されている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、ナイロンやポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用される。各ビード部3には環状のビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0037】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ外周側には、複数層(
図2では2層)のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0038】
ベルト層7のタイヤ外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層(
図2では2層)のベルトカバー層8が配置されている。
図2において、タイヤ径方向内側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の全幅を覆うフルカバーを構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0039】
上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4の両端末4eは、各ビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返され、ビードコア5及びビードフィラー6を包み込むように配置されている。カーカス層4は、トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分である本体部4Aと、各ビード部3においてビードコア5の廻りに巻き上げられて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分である巻き上げ部4Bとを含む。
【0040】
また、タイヤ内表面には、カーカス層4に沿ってインナーライナー層9が配置されている。トレッド部1にはキャップトレッドゴム層11が配置され、サイドウォール部2にはサイドウォールゴム層12が配置され、ビード部3にはリムクッションゴム層13が配置されている。
【0041】
このように構成される空気入りタイヤに、RFIDモジュール10が埋設されている。
図2では、カーカス層4よりタイヤ幅方向外側の部位にRFIDモジュール10が配置されている。RFIDモジュール10を構成するトランスポンダ20はタイヤ周方向に沿って延在している。このトランスポンダ20は、タイヤ周方向に対して-10°~10°の範囲で傾斜するように配置しても良い。
【0042】
上述した空気入りタイヤでは、RFIDモジュール10が埋設されているので、被覆層23の形状を維持しながら、RFIDモジュール10の耐久性及び通信性を改善することができる。また、カーカス層4よりタイヤ幅方向外側にRFIDモジュール10が埋設されていることで、RFIDモジュール10の通信時に電波を遮断するタイヤ構成部材がなく、RFIDモジュール10の通信性を良好に確保することができる。カーカス層4よりタイヤ幅方向外側にRFIDモジュール10を埋設する場合、RFIDモジュール10をカーカス層4の巻き上げ部4Bとリムクッションゴム層13との間やカーカス層4とサイドウォールゴム層12との間に配置することができる。他の構造として、RFIDモジュール10をカーカス層4の巻き上げ部4Bとビードフィラー6との間やカーカス層4の本体部4Aとビードフィラー6との間に配置することも可能である。
【0043】
上記空気入りタイヤにおいて、
図1(a)に示すように、アンテナ22は螺旋状であることが好ましい。このような形状を有するアンテナ22を用いることで、走行時におけるタイヤの変形に対して追従することができ、RFIDモジュール10の耐久性を改善することができる。
【0044】
また、被覆層23の比誘電率は、被覆層23に隣接して配置されるゴム部材(
図2ではカーカス層4のコートゴムとリムクッションゴム層13)の比誘電率よりも低いことが好ましい。このように被覆層23の比誘電率を設定することで、RFIDモジュール10の電波透過性を十分に確保することができる。
【0045】
更に、RFIDモジュール10よりタイヤ幅方向外側に位置するゴム部材(
図2ではサイドウォールゴム層12とリムクッションゴム層13)のうち、20℃の貯蔵弾性率E'out(20℃)が最も大きいゴム部材(以下、外部材と記載することもある。)はリムクッションゴム層13に相当するが、被覆層23の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)と、RFIDモジュール10のタイヤ幅方向外側に位置するゴム部材のうち20℃の貯蔵弾性率が最も大きいゴム部材における20℃の貯蔵弾性率E'out(20℃)とは、0.1≦E'c(20℃)/E'out(20℃)≦1.5の関係を満たすことが好ましく、0.15≦E'c(20℃)/E'out(20℃)≦1.30の関係を満たすことがより好ましい。被覆層23とRFIDモジュール10の外側に位置する当該ゴム部材との剛性差が過度に大きくなり難いため、当該ゴム部材に対する被覆層23の剛性を適度に保つことができる。これにより、RFIDモジュール10の耐久性を改善することができる。
【0046】
ここで、E'c(20℃)/E'out(20℃)の値が下限値より小さい場合、外部材よりも被覆層23の剛性が低くなり、RFIDモジュール10に対する保護効果が低下する。逆に、E'c(20℃)/E'out(20℃)の値が上限値より大きい場合、外部材よりも被覆層23の剛性が高くなり、被覆層23が脆性的になり、被覆層23が破断し易くなるので、RFIDモジュール10の破損に繋がる。
【0047】
被覆層23の20℃の貯蔵弾性率E'c(20℃)と、被覆層23の60℃の貯蔵弾性率E'c(60℃)とは、1.0≦E'c(20℃)/E'c(60℃)≦1.5の関係を満たすと良い。このように被覆層23の物性を設定することで、被覆層23の温度依存性が低くなる(被覆層23が発熱しにくくなる)ため、高速走行時にタイヤの温度が上昇しても被覆層23が軟化せず、RFIDモジュール10の耐久性を効果的に改善することができる。
【0048】
被覆層23の60℃の貯蔵弾性率E'c(60℃)と、被覆層23のタイヤ幅方向外側に隣接するゴム部材(
図2ではリムクッションゴム層13)の60℃の貯蔵弾性率E'a(60℃)とは、0.2≦E'c(60℃)/E'a(60℃)≦1.2の関係を満たすことが好ましい。このように被覆層23と被覆層23に隣接するゴム部材の物性を設定することで、両者の物性が近くなるため、走行時における応力の分散効果を得ることができ、RFIDモジュール10の耐久性を効果的に改善することができる。
【0049】
上記空気入りタイヤにおいて、RFIDモジュール10は、タイヤ径方向の配置領域として、ビードコア5の上端5e(タイヤ径方向外側の端部)からタイヤ径方向外側に15mmの位置P1と、タイヤ最大幅となる位置P2との間に配置されていると良い。即ち、RFIDモジュール10は、
図3に示す領域S1に配置されていると良い。RFIDモジュール10が領域S1に配置された場合、RFIDモジュール10は走行時の応力振幅が小さい領域に位置するため、RFIDモジュール10の耐久性を効果的に改善することができ、更に、タイヤの耐久性を低下させることがない。ここで、RFIDモジュール10が位置P1よりもタイヤ径方向内側に配置されると、ビードコア5等の金属部材と近くなるためRFIDモジュール10の通信性が悪化する傾向がある。その一方で、RFIDモジュール10が位置P2よりもタイヤ径方向外側に配置されると、RFIDモジュール10が走行時の応力振幅が大きい領域に位置し、トランスポンダ20自体の破損やRFIDモジュール10の周辺での界面剥離が発生し易くなるので好ましくない。
【0050】
図4に示すように、タイヤ周上には、タイヤ構成部材の端部同士が重ねられてなる複数のスプライス部がある。
図4には各スプライス部のタイヤ周方向の位置Qが示されている。RFIDモジュール10の中心は、タイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることが好ましい。即ち、RFIDモジュール10は、
図4に示す領域S2に配置されていると良い。具体的には、RFIDモジュール10を構成するIC基板21が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していると良い。更には、アンテナ22を含むRFIDモジュール10の全体が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していることがより好ましく、被覆ゴムにより被覆された状態のRFIDモジュール10の全体が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していることが最も好ましい。また、RFIDモジュール10と離間して配置するタイヤ構成部材として、RFIDモジュール10と隣接して配置されるサイドウォールゴム層12又はリムクッションゴム層13、或いはカーカス層4であることが好ましい。このようにタイヤ構成部材のスプライス部から離間させてRFIDモジュール10を配置することで、タイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0051】
なお、
図4の実施形態では、各タイヤ構成部材のスプライス部のタイヤ周方向の位置Qが等間隔に配置された例を示したが、これに限定されるものではない。タイヤ周方向の位置Qは任意の位置に設定することができ、いずれの場合であってもRFIDモジュール10は各タイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間するように配置される。
【0052】
図5に示すように、RFIDモジュール10の断面中心とタイヤ表面との距離dは1mm以上であることが好ましい。このようにRFIDモジュール10とタイヤ表面とを離間させることで、タイヤの耐久性を効果的に改善することができると共に、タイヤの耐外傷性を改善することができる。
図5の実施形態において、距離dはRFIDモジュール10の断面中心とタイヤ外表面との距離であるが、RFIDモジュール10がインナーライナー層9と近い位置に配置される場合、距離dはRFIDモジュール10の断面中心とタイヤ内表面との距離である。
【0053】
上述した実施形態では、カーカス層4の巻き上げ部4Bの端末4eがビードフィラー6の上端6e付近に配置された例を示したが、これに限定されるものではなく、カーカス層4の巻き上げ部4Bの端末4eは任意の高さに配置することができる。例えば、カーカス層4の巻き上げ部4Bの端末4eは、ビードコア5の側方に配置しても良い。このようなロータンナップ構造において、トランスポンダ20をビードフィラー6とサイドウォールゴム層12又はリムクッションゴム層13との間に配置することができる。その際、被覆層23のタイヤ幅方向外側に隣接するゴム部材は、サイドウォールゴム層12又はリムクッションゴム層13となる。
【実施例】
【0054】
データを記憶するIC基板と、データを送受信するアンテナと、アンテナを被覆する被覆層とを有し、被覆層の炭酸カルシウムの含有の有無、被覆層のシリカの含有の有無、被覆層の非補強充填剤の含有の有無、被覆層の比誘電率、被覆層の炭酸カルシウムの含有量、被覆層の厚さ、被覆層の貯蔵弾性率E'c(20℃)を表1のように設定した比較例1~3及び実施例1~8のRFIDモジュールを製作した。
【0055】
比較例1においては、シリカを配合した被覆層を用いた。比較例2においては、シリカと炭酸カルシウム以外の非補強充填剤とを配合した被覆層を用いた。比較例3においては、炭酸カルシウム以外の非補強充填剤を配合した被覆層を用いた。
【0056】
これらRFIDモジュールについて、下記試験方法により、形状維持性、耐久性及び通信性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0057】
形状維持性:
各RFIDモジュールについて、加硫成形後における寸法の変化を測定した。評価結果は、加硫前の寸法に対して±1mmを超える寸法変化があった場合を「有り」とし、加硫前の寸法に対して±1mmの範囲内の寸法変化であった場合を「無し」として示した。
【0058】
耐久性:
各RFIDモジュールについて、温度30℃~40℃、伸張速度400±20rpm、定歪80%の条件で300万回の繰り返し変形を与える定歪疲労試験を実施した後、RFIDモジュールにおける外観的な故障を確認した。評価結果は、外観的な故障がない場合を「◎(優)」で示し、外観的な故障はあるが被覆層により被覆されたトランスポンダを起点とする故障ではない場合を「○(良)」で示し、被覆層により被覆されたトランスポンダを起点とする外観的な故障があった場合を「△(可)」の3段階で示した。
【0059】
通信性:
各RFIDモジュールについて、リーダライタを用いて通信作業を実施した。具体的には、リーダライタにおいて出力250mW、搬送波周波数860MHz~960MHzとして通信可能な最長距離を測定した。評価結果は、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど通信性が優れていることを意味する。
【0060】
【0061】
この表1から判るように、実施例1~8のRFIDモジュールは、形状維持性、耐久性及び通信性がバランス良く改善されていた。
【0062】
一方、比較例1においては、シリカを配合した被覆層を用いたので、被覆層の寸法変化が生じると共に、耐久性が悪化した。比較例2においては、シリカと炭酸カルシウム以外の非補強充填剤とを配合した被覆層を用いたので、RFIDモジュールの通信性が悪化した。比較例3においては、炭酸カルシウム以外の非補強充填剤を配合した被覆層を用いたので、RFIDモジュールの通信性が悪化した。
【符号の説明】
【0063】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
10 RFIDモジュール
20 トランスポンダ
21 IC基盤
22 アンテナ
23 被覆層
CL タイヤ中心線