(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】ハロオレフィン類組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20250305BHJP
【FI】
C09K5/04 F ZAB
C09K5/04 E
C09K5/04 C
(21)【出願番号】P 2023121070
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2021159384の分割
【原出願日】2015-08-10
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2014196449
(32)【優先日】2014-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】土屋 立美
(72)【発明者】
【氏名】山田 康夫
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-083818(JP,A)
【文献】特表2013-529717(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099856(WO,A1)
【文献】Material Compatibility & Lubricants Research For Low GWP Refrigerants-Phase I:Thermal and Chemical S,AHRTI Final Report,(2012),p.1-62,インターネット<URL: http://www.ahrinet.org/Resources/Research/Public-Sector-Research/Technical-Resul
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C07C 17/42
C07C 21/00
C10M101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
HFO-1234yfと、
(b)HFO-1234ze、HFC-254eb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、HFC-23、HFC-32、HFC-125、HFC-143a、HFC-134a、FC-1216、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFO-1232xf、HCFO-1223xd及びクロロメタンの群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、
(c)水と、
(d)酸素と、
を含み、
少なくとも前記(b)はHFO-1243zfを含み、
前記(a)HFO-1234yfの全量に対して、前記(c)水の含有量が3重量ppm以上、200重量ppm以下であり、
前記(a)HFO-1234yfの全量に対して、前記(b)の化合物の含有量が0.1重量ppm以上10000ppm未満であり、
前記(a)HFO-1234yfの全量に対して、前記(d)酸素の含有量が0.35mol%以下であり、
(e)ポリアルキレングリコール及びポリオールエステルを含まない、ハロオレフィン類組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロオレフィン類組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HFC-125、HFC-32等に代表されるヒドロフルオロカーボン「HFC」は、オゾン層を破壊する物質として知られるCFC、HCFC等に替わる重要な代替物質として広く用いられている。このような代替物質として、HFC-32とHFC-125の混合物である「HFC-410A」や、HFC-125、HFC-134a及びHFC-143aの混合物である「HFC-404A」等が知られている。
【0003】
上記代替物質は、例えば、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、消火剤等、多岐にわたる用途に利用されており、消費量も多い。一方で、上記物質はいずれもCO2の数千倍の温暖化能力(いわゆる「GWP」と称される)をもつため、これらの物質の拡散によって、地球温暖化におよぼす影響が大きいことが懸念されている。この地球温暖化対策として使用後の物質回収が行われているが、すべてを回収できるわけではなく、また、漏洩等による拡散も無視できない。冷媒、熱媒体の用途においては、CO2や炭化水素系物質による代替も検討されているものの、CO2冷媒自体は効率が悪く、また、機器も大型化するので消費エネルギーを含めた総合的な温暖化ガス排出量の削減には課題が多い。また、炭化水素系物質は、その燃焼性の高さから安全性の面で問題が残る。
【0004】
上記問題を解決する物質として、現在では温暖化係数の低いハイドロハロオレフィン類が注目されている。ハイドロハロオレフィン類とは、水素、フッ素、塩素を含む不飽和炭化水素の総称であり、たとえば、以下のような化学式で示される物質が含まれる。尚、化学式の後のカッコ内は、冷媒用途において一般的に用いられている冷媒番号を表している。
CF3CF=CF2 (HFO-1216yc、ヘキサフルオロプロペンともいう。)
CF3CF=CHF (HFO-1225ye)
CF3CF=CH2 (HFO-1234yf)
CF3CH=CHF (HFO-1234ze)
CF3CH=CH2 (HFO-1243zf)
CF3CCl=CH2 (HCFO-1233xf)
CF2ClCCl=CH2(HCFO-1232xf)
CF3CH=CHCl(HCFO-1233zd)
CF3CCl=CHCl(HCFO-1223xd)
CClF2CCl=CHCl(HCFO-1222xd)
CFCl2CCl=CH2(HCFO-1231xf)
CH2ClCCl=CCl2(HCO-1230xa)
これらの中でも特にフルオロプロペン類は、低GWPの冷媒、熱媒体の候補として有望な物質であるが、時間の経過等により徐々に分解が生じることがあり、決して安定性が高い物質とはいえない。そのため、このような物質を種々の用途に使用するにあたっては、その使用状況又は使用環境によって性能が徐々に低下する等の問題がある。
【0005】
フルオロプロペン類の安定性を高める方法としては、HFO-1234yfとCF3Iとを含む組成物にフェノール化合物を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法では、フェノール化合物の作用によりHFO-1234yfの安定性が向上するものの、配合時のハンドリング性の観点からは課題が残るものである。また、上記のようにフェノール化合物を添加して安定性を向上させる方法では、フェノール化合物の作用によってフルオロプロペン類そのものの性能を低下させるおそれもあり、性能を維持しつつ安定性を向上させるという点においても問題が残るものであった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、分解や酸化が抑制された、安定性の高いハロオレフィン類組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ハロオレフィン類とその他の特定の物質を含む混合物中に、微量の水分を存在させることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のハロオレフィン類組成物に関する。
1.(a)ハロオレフィン類と、
(b)HFO-1234ze、HFC-254eb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、HFC-23、HFC-32、HFC-125、HFC-143a、HFC-134a、FC-1216、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFO-1232xf、HCFO-1223xd及びクロロメタンの群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、
(c)水と、
を含んでなることを特徴とする、ハロオレフィン類組成物。
2.前記(a)ハロオレフィン類の全量に対して、前記(c)水の含有量が200重量ppm以下である、上記項1に記載の組成物。
3.さらに(d)酸素を含む、上記項1又は2に記載の組成物。
4.前記(a)ハロオレフィン類の全量に対して、前記(d)酸素の含有量が0.35mol%以下である、上記項3に記載の組成物。
5.前記(a)ハロオレフィン類が、テトラフルオロプロペンである、上記項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
6.前記テトラフルオロプロペンが、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、上記項5に記載の組成物。
7.前記テトラフルオロプロペンが、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、上記項5に記載の組成物。
8.さらに(e)ポリアルキレングリコール及びポリオールエーテルの少なくとも一方を含む、上記項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
9.(a)ハロオレフィン類と、
(c)水と、
(e)ポリアルキレングリコール及びポリオールエーテルの少なくとも一方と、
を含んでなることを特徴とする、ハロオレフィン類組成物。
10.前記(a)ハロオレフィン類の全量に対して、前記(c)水の含有量が200重量ppm以下である、上記項9に記載の組成物。
11.前記(a)ハロオレフィン類が、テトラフルオロプロペンである、上記項9又は10に記載の組成物。
12.前記テトラフルオロプロペンが、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、上記項11に記載の組成物。
13.前記テトラフルオロプロペンが、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、上記項11に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るハロオレフィン類組成物によれば、水分を含むことで、組成物中の含まれるハロオレフィン類の安定性が向上する。すなわち、ハロオレフィン類の分子内二重結合が安定に存在することができ、また、ハロオレフィン類の酸化も起こりにくくなるので、ハロオレフィン類が有する性能が長期間にわたって損なわれにくい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
ハロオレフィン類組成物は、(a)ハロオレフィン類と、(b)前記ハロオレフィン類の製造で副生した副生物であるHFO-1234ze、HFC-254eb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、HFC-23、HFC-32、HFC-125、HFC-143a、HFC-134a、FC-1216、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFO-1232xf、HCFO-1223xd及びクロロメタンの群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物(以下「(b)の成分と略記する」)と、(c)水とを含む。
【0014】
ここで、HFO-1234zeは1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFC-254ebは、1,
1,1,2-テトラフルオロプロパン、HFO-1243zfは3,3,3-トリフルオロプロペン、HFC-245ebは1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン、HFC-245faは1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、HFC-245cbは、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ
プロパン、HFC-236eaは1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン、HFC-236faは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、HFO-1225yeは1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、HFC-23はトリフルオロメタン、HFC-32はメチレンジフルオリド、HFC-125は1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン、HFC-143aは1,1,1-トリ
フルオロエタン、HFC-134aは1,1,1,2-テトラフルオロエタン、FC-1216はヘキサ
フルオロプロペン、HCFO-1233xfは2-クロロ-3,3,3トリフルオロプロペン、HCFO-1233zdは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFO-1232xfは3,3-ジフ
ルオロプロペン、HCFO-1223xdは1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
である。
【0015】
(b)の成分は、例えば、(a)ハロオレフィン類の製造における副生物である。よって、(b)の成分は、(a)ハロオレフィン類とは異なる化合物である。
【0016】
上記ハロオレフィン類組成物(以下「組成物」と略記することがある)は、水分を含むことで、ハロオレフィン類の分子内二重結合が安定に存在でき、また、ハロオレフィン類の酸化も起こりにくくなるので、結果としてハロオレフィン類の安定性が向上する。
【0017】
上記ハロオレフィン類とは、フッ素、塩素等のハロゲン原子を置換基として有する不飽和炭化水素をいう。また、ハロオレフィン類は、すべての水素がハロゲン原子で置換されていてもよいし、一部の水素がハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロオレフィン類の炭素数は特に制限されるわけではないが、例えば、炭素数3~10である。ハロオレフィン類の炭素数は、組成物中におけるハロオレフィン類の安定性がより高まるという点で、3~8であることが好ましく、3~6であることが特に好ましい。組成物中に含まれるハロオレフィン類は、1種のみの化合物であってもよいし、異なる2種以上の化合物であってもよい。
【0018】
特に好ましいハロオレフィン類としては、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプ
ロペンやトリフルオロプロペンが挙げられる。これらの化合物はいずれも、その異性体の種類については特に制限されない。特に好ましいハロオレフィン類の具体例としては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、1,1,2,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yc)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225zc)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)、1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンテン(HFO-1429myz)等が例示される。
【0019】
上記ハロオレフィン類は、公知の製造方法によって製造されたものを使用することができる。そのような製造方法の一例としては、フルオロアルカンを触媒の存在下に脱フッ化水素する方法が挙げられる(例えば、特表2012-500182号公報に記載の方法)。フルオロアルカンの炭素数は特に制限はないが、3~8であることが好ましく、3~6であることが特に好ましい。例えば、ハロオレフィン類がテトラフルオロプロペンであれば、原料としてペンタフルオロプロパンを使用し、これを触媒の存在下で脱フッ化水素反応を行うことで、テトラフルオロプロペンを製造することができる。具体的に、ハロオレフィン類が2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)であれば、原料として1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンや1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンを使用し、これを触媒の存在下で脱フッ化水素反応を行えば2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を得ることができる。また、ハロオレフィン類が1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)であれば、原料として1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを使用し、これを触媒の存在下で脱フッ化水素反応を行えば1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)が得られる。なお、上記製造方法では、触媒としては酸化クロム又はフッ素化された酸化クロム等のクロム触媒、その他の金属触媒を用いることができ、反応温度は200~500℃の範囲内で行うことができる。
【0020】
ところで、上記のような製造方法によって例えば2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する場合、副生成物としてE体及びZ体の1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)等が生成する。この場合、得られた生成物を精製するなどして上記の副生成物を除去し、目的物の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得るのが通常である。しかし、上記製造方法で副生したE体及びZ体の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは副生成物であると同時に、組成物における(b)の成分でもある。従って、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを上記方法で製造する場合は、本形態の組成物において必須の成分である(b)の成分も得られるので、精製をせずに副生成物を含んだ状態で使用することができるという利点がある。もちろん、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに限らず、他のハロオレフィン類を上記製造方法で製造する場合においても、副生成物が(b)の成分でもある限りは、精製せずにそのまま組成物におけるハロオレフィン類として使用することができる。従って、ハロオレフィン類が、フルオロアルカンを触媒の存在下に脱フッ化水素する方法によって製造された場合は、ハロオレフィン類には副生成物が含まれた状態であってよい。
【0021】
組成物における(b)の成分としては、HFO-1234ze、HFC-254eb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、HFC-23、HFC-32、HFC-125、HFC-143a、HFC-134a、FC-1216、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFO-1232xf、HCFO-1223xd、クロロメタンの群から化合物であり、これらの1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上である場合、その組み合わせは特に限定されない。
【0022】
上記(b)の成分は、公知の製造方法によって製造されたものを使用してもよいし、上述のように、ハロオレフィン類の製造によって副生するものを(b)の成分として利用してもよい。
【0023】
水の種類としては特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、濾過水、水道水、その他、市販の純水生成機等で得られる超純水等の精製水等を使用することができる。ただし、水にHCl等の酸分が含まれると、設備を腐食させたり、ハロオレフィン類を安定化させる効果が低減したりするおそれがあるので、通常採用される分析手法において検出限界以下となる程度にまでにHCl等を除去しておくことが好ましい。この場合の酸分の含有量は、組成物中に含まれる(a)の成分、(b)の成分及び(c)の成分の全量に対して、好ましくは10重量ppm以下、より好ましくは1重量ppm以下である。
【0024】
水のpHについては、特に限定されないが通常は6~8の範囲内であればよい。水に含まれる酸分が上記範囲内にあれば、水のpHは通常この範囲内に入るはずである。
【0025】
組成物に含まれる水の含有量は、(a)ハロオレフィン類の全量に対して200重量ppm以下であることが好ましい。この場合、ハロオレフィン類を安定化させる作用が充分に発揮される。また、水の含有量がハロオレフィン類の全量に対して200重量ppm以下、より好ましくは30重量ppm未満であれば、機器を腐食させたり、ハロオレフィン類の分解を逆に促進させたりするのを防止しやすくなる。組成物に含まれる水の含有量の下限値は、本発明の効果が発揮される限り限定はされないが、例えば、0.1重量ppmとすることができ、より好ましくは3重量ppmとすることができる。この範囲であれば、組成物中におけるハロオレフィン類の安定性がさらに向上する。
【0026】
組成物に含まれる水の含有量は、3重量ppmを超え、30重量ppm未満であることが特に好まく、この場合、組成物中におけるハロオレフィン類の安定性がさらに向上する。また、組成物に含まれる水の含有量が30重量ppm未満であることで、冷媒性能が阻害されるのも抑制される。
【0027】
組成物に含まれる(b)の成分の含有量は、ハロオレフィン類の全量に対して0.1重量ppm以上10000重量ppm未満含まれていることが好ましく、この範囲であれば、ハロオレフィン類の安定化作用が阻害されるおそれは小さい。
【0028】
組成物には、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の公知の添加物を含有していてもよい。その他の添加物は、組成物の全量に対して50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0029】
組成物を調製する方法は特に限定されず、例えば、各成分をそれぞれ準備し、これらを所定の配合量で混合することで組成物を得ることができる。
【0030】
上記の組成物では、水が存在することによって、ハロオレフィン類の二重結合が安定に存在し、酸化等も起こりにくいので、ハロオレフィン類の安定性が高い。そのため、通常のハロオレフィン類に比べて長期間の保存ができるようになる。しかも、ハロオレフィン類の安定性が高いことで、ハロオレフィン類が有する性能が損なわれるおそれも小さい。そのため、例えば、組成物を冷媒や熱媒体に使用したとしても、ハロオレフィン類の安定性が高いことで、冷媒や熱媒体としての性能が優れたものとなる。
【0031】
上記組成物はさらに(d)酸素を含むこともできる。組成物が(d)酸素を含む場合、(d)酸素の含有量は(a)ハロオレフィン類の全量に対して0.35mol%以下であ
ることが好ましい。酸素の含有量この範囲であれば、組成物中におけるハロオレフィン類の安定性がさらに向上する。この観点から、組成物における酸素の含有量は少ないほど好ましいが、上述のように組成物は水を含んでいるので、上記の範囲内の酸素量であれば、その水の作用によって、ハロオレフィン類の安定性は保持され得る。組成物における酸素の含有量の下限値は、例えば、ガスクロマトグラフィーの検出限界である1ppmとすることができる。
【0032】
上記のように組成物を冷媒や熱媒体として使用する場合は、ハロオレフィン類としては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)等が特に有利である。
【0033】
組成物を冷媒や熱媒体として使用する場合は、潤滑油として(e)ポリアルキレングリコール及びポリオールエーテルの少なくとも一方を組成物中に含んでいてもよい。組成物がポリアルキレングリコール及びポリオールエーテルの少なくとも一方を含む場合は、上記の(b)の成分が組成物中に含まれていてもよいし、上記の(b)の成分が組成物中に含まれていなくてもよい。上記の(b)の成分が組成物中に含まれていない場合は、組成物は、(a)ハロオレフィン類と、(c)水と、(e)ポリアルキレングリコール及びポリオールエーテルの少なくとも一方と、を含んでなる。なお、(a)ハロオレフィン類及び(c)水については上述の構成と同様である。
【0034】
潤滑油は、組成物中に含まれる(a)の成分、(b)の成分及び(c)の成分の全量に対して10~50質量%含むことができるが、冷凍機のオイルタンクの仕様により異なるので、特にこの範囲に限定されるものではない。この範囲であれば、ハロオレフィン類の安定性が損なわれるおそれはない。また、潤滑油は、ポリビニルエーテル(PVE)をさらに含んでもよいし、ポリビニルエーテル単独で構成されるものであってもよい。
【0035】
ポリアルキレングリコール(PAG)としては、たとえば、日本サン石油株式会社製「SUNICE P56」等が挙げられる。また、ポリオールエーテル(POE)としては、たとえばJX日鉱日石エネルギー株式会社製「Ze-GLES RB32」等が挙げられる。
【0036】
なお、組成物が潤滑油を含む場合にあっても、組成物中に(d)酸素を含むこともできる。組成物が(d)酸素を含む場合、上述と同様の理由により、(d)酸素の含有量は(a)ハロオレフィン類の全量に対して0.35mol%以下であることが好ましい。
【0037】
ハロオレフィン類を主成分とする冷媒や熱媒体は、金属等と接触した際に分解や酸化が起こりやすく、冷媒、熱媒体としての性能が損なわれやすいが、上記組成物を冷媒や熱媒体として使用すれば、ハロオレフィン類の高い安定性により、冷媒や熱媒体の性能の低下が抑制される。
【0038】
よって、本発明に係る組成物は、上記の冷媒や熱媒体用途に限らず、その他各種の用途に使用することができる。そのような用途に組成物を使用する場合、ハロオレフィン類の具体例としては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、1,1,2,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yc)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225
zc)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)、1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンテン(HFO-1429myz)等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下「HFO-1234yf」と略記する)と、水とを準備し、これらを配合することで、HFO-1234yfに対して水の含有量が10重量ppm、200重量ppm、10000重量ppmの3種類のハロオレフィン類組成物を調製した。なお、上記HFO-1234yfは、たとえば、特開2012-500182号公報の実施例1、特開2009-126803号公報に示されるような方法で製造した。このとき生成するHFは水洗塔、NaOH水溶液のアルカリ塔により脱酸した。得られたハロオレフィン類組成物は、HFO-1234yfの製造において生成した副生成物(例えば、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、すなわち(b)の成分)が含まれ得る。
【0041】
(実施例2)
1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下「HFO-1234ze」と略記する)と、水とを準備し、これらを配合することで、HFO-1234zeに対して水の含有量が10重量ppm、200重量ppm、10000重量ppmの3種類のハロオレフィン類組成物を調製した。なお、上記HFO-1234zeは、たとえば、特開2012-500182号公報に記載の方法のようにHFC-245ebの脱HFによりHFO-1234y
fと共に得た。生成したHFは水洗塔、NaOH水溶液のアルカリ塔により脱酸した。HFO-1234yfは(b)の成分である。
【0042】
(比較例1)
水を配合しなかったこと以外は実施例1と同様の方法にてハロオレフィン類組成物を得た。
【0043】
(比較例2)
水を配合しなかったこと以外は実施例2と同様の方法にてハロオレフィン類組成物を得た。
【0044】
(ハロオレフィン類の安定性試験1)
上記実施例及び比較例で得られたハロオレフィン類組成物の各々について、以下のようにハロオレフィン類の安定性試験を行った。片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、ハロオレフィン類組成物をハロオレフィン類の含有量が0.01molとなるように加えた。チューブは溶封により密閉状態とした。このチューブを150℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で1週間保持した。その後、恒温槽から取り出して冷却し、チューブ内のガス中の酸分の分析を行うことで、ハロオレフィン類の安定性を評価した。
【0045】
(ハロオレフィン類の安定性試験2)
上記実施例及び比較例で得られたハロオレフィン類組成物の各々について、以下のようにハロオレフィン類の安定性試験を行った。片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8
mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)にハロオレフィン類組成物をハロオレフィン類の含有量が0.01molとなるように加えた。次いで、酸素濃度がハロオレフィン類の充填モル数に対し所定のモル濃度(0.010モル%、0.115モル%又は0.345モル%)になるように調整して酸素をチューブ内に封入した。このチューブを150℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で1週間保持した。その後、恒温槽から取り出して冷却し、チューブ内のガス中の酸分の分析を行うことで、ハロオレフィン類の安定性を評価した。
【0046】
ここで、ガス中の酸分の分析は次のような方法で行った。上記冷却後のチューブを、液体窒素を用いて、チューブ内に滞留するガスを完全に凝固させた。その後、チューブを開封し、徐々に解凍してガスをテドラーバッグに回収した。このテドラーバッグに純水5gを注入し、回収ガスとよく接触させながら酸分を純水に抽出するようにした。抽出液をイオンクロマトグラフィーにて検出して、フッ化物イオン(F-)及びトリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)の含有量(重量ppm)を測定した。
【0047】
表1に試験結果を示す。尚、表1中「yf」及び「ze(E)」はそれぞれ、「HFO-1234yf」及び「HFO-1234ze」を示す。また、「ze(E)」における(E)は、HFO-1234zeがE体であることを示す。
【0048】
【0049】
表1のNo.5~8はいずれも酸素の添加量を0.010モル%としたものであるが、No.5では、水を含有しない組成物であるので、水を含有するNo.6~8に比べると酸分の含有量が多くなっていることがわかる。つまり、No.5では、酸分の含有量が多いことから、ハロオレフィン類であるHFO-1234yfの分解や酸化がNo.6~8
に比べて促進していることがわかる。この結果から、水を含有する組成物では、ハロオレフィン類であるHFO-1234yfが安定化していることがわかる。また、No.9~12はいずれも酸素の添加量を0.115モル%、No.13~16はいずれも酸素の添加量を0.345モル%としたものであるが、酸素の添加量を0.115モル%の場合と同様の傾向が見られた。さらに、ハロオレフィン類がHFO-1234zeの場合においても(No.21~24,25~28,29~32)同様の傾向が見られた。尚、No.1~4及びNo.17~20ではいずれも、酸分の含有量は1重量ppmを下回っており、ハロオレフィン類の分解はほとんど進行していないことがわかる。これは、系内へ酸素を添加しなかったので、酸化等が起こらなかったためであると考えられる。従って、酸素がほとんど存在しない系では、組成物中に水が含まれるか否かによらず、いずれのハロオレフィン類も安定な状態である。
【0050】
以上より、本発明のように、組成物に含まれる水がハロオレフィン類を安定化していることは明らかである。