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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/20 20060101AFI20250305BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20250305BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250305BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250305BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250305BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20250305BHJP
   C08L 61/04 20060101ALI20250305BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20250305BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250305BHJP
   B60C 9/04 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
B60C9/20 G
C08L7/00
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/36
C08K5/098
C08L61/04
C08K5/55
B60C1/00 C
B60C9/04 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023159355
(22)【出願日】2023-09-25
【審査請求日】2024-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】清水 克典
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特許第7160195(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/175675(WO,A1)
【文献】特開2021-000874(JP,A)
【文献】特開2005-255016(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/20
C08L 7/00
C08K 3/013
C08K 3/04
C08K 3/36
C08K 5/098
C08L 61/04
C08K 5/55
B60C 1/00
B60C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードがベルトコート用ゴムによりコートされたベルト層と、カーカスコードがカーカスコート用ゴムによりコートされたカーカスプライと、
を備えるタイヤにおいて、
前記ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記充填剤を50~70質量部含有し、
前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として1.0~3.5であり、
下記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して2~10質量%含有し、
20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上20MPa以下であり、かつ
前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5である
ことを特徴とするタイヤ。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは炭素数1~18の炭化水素基であり、Rは炭素数1~3の炭化水素基または水素である。R~Rはヘテロ原子を含んでいてもよい(ただし、硫黄は含まない)。nは0~2の数を表す。)
【請求項2】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gであり、かつ前記シリカのCTAB比表面積が100~170m/gであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記シリカが、バイオマス由来のシリカであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ベルトコート用ゴムが、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1~1.5質量部、前記フェノール系樹脂を0.5質量部以上3.0質量部未満、前記硬化剤を0.5~5.0質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記有機酸コバルト塩がネオデカン酸ホウ酸コバルトであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関するものであり、詳しくは長期使用によるベルト層の劣化を抑制し、耐久性および操縦安定性に優れるタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは左右一対のビード部およびサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とから主に構成されている。タイヤの内側にはカーカス層が設けられ、カーカス層の両端部はビードコアをタイヤ内側から外側へ包みこむように折り返されている。カーカス層は、カーカスコードがカーカスコート用ゴムによりコートされた、少なくとも1枚のカーカスプライから構成されている。
トレッド部は、キャップトレッドとアンダートレッドとからなり、このアンダートレッドとカーカス層との間に、ベルト層が配設されている。ベルト層は、タイヤ補強層として配置される少なくとも1枚のベルトプライを有する。このベルトプライには、強い衝撃や大きな荷重がかかるため、補強材としてスチールコードが用いられ、スチールコードはベルトコート用ゴムにより被覆される。ベルトコート用ゴムは、スチールコードとの良好な接着性が必要とされる。
一方、近年タイヤの使用期間が長くなる傾向があり、スチールコードとベルトコート用ゴムとの接着性が長期の使用に伴い低下し、耐久性が損なわれるという問題点がある。また、タイヤには高い操縦安定性が常に求められる。
【0003】
下記特許文献1には、スチールコードとの接着性能を改良するゴム組成物の提供を目的とし、天然ゴムを含むジエン系ゴムに、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを0.3~1.5質量部、ステアリン酸コバルトを0.5~1.0質量部、フェノール系樹脂を0.5質量部以上2.0質量部未満、硬化剤を0.5~5.0質量部および硫黄を4.0~8.0質量部配合してなるゴム組成物であって、動歪2%、20℃における動的貯蔵弾性率(E′)が13MPa以上、60℃の正接損失(tanδ)が0.20以下、歪60%、400rpmの定歪疲労試験で破壊するまでの繰り返し回数が35,000回以上であることを特徴とするゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6288148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期使用によるベルト層の劣化を抑制し、耐久性に優れ、操縦安定性を維持または向上したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ベルトコート用ゴムの組成を特定化し、かつベルトコート用ゴムとカーカスコート用ゴムの動的貯蔵弾性率の比を特定の範囲に定めることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち本発明は、スチールコードがベルトコート用ゴムによりコートされたベルト層と、カーカスコードがカーカスコート用ゴムによりコートされたカーカスプライと、
を備えるタイヤにおいて、
前記ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記充填剤を50~70質量部含有し、
前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として1.0~3.5であり、
下記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して2~10質量%含有し、
20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上であり、かつ
前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5である
ことを特徴とするタイヤを提供するものである。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(1)中、RおよびRは炭素数1~18の炭化水素基であり、Rは炭素数1~3の炭化水素基または水素である。R~Rはヘテロ原子を含んでいてもよい(ただし、硫黄は含まない)。nは0~2の数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期使用によるベルト層の劣化を抑制し、耐久性および操縦安定性に優れたタイヤを提供することができる。
【0011】
本発明のタイヤは、ベルトコート用ゴムの組成を上記のように特定化している。これにより、スチールコードとベルトコート用ゴムとの接着性を長期にわたり維持することができ、優れた耐久性を提供できる。また、ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)とカーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')を2.5~3.5に特定することにより、優れた操縦安定性もタイヤに付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。まず、ベルトコート用ゴムについて説明する。該ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有する。
【0013】
(ジエン系ゴム)
ベルトコート用ゴムに用いられるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)を必須成分とする。NRは、本発明の効果向上の観点から、ジエン系ゴム100質量部中、80質量部以上含有することが好ましい。なお、イソプレンゴム(IR)は本発明で言うNRに含まれるものとする。
また本発明においてジエン系ゴムは、NR以外の他のゴムを使用することができ、例えばおよびブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0014】
(充填剤)
ベルトコート用ゴムに使用される充填剤は、カーボンブラックおよびシリカから構成される。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、本発明の効果が向上するという観点から、50~120m/gであるのが好ましく、70~100m/gであるのがさらに好ましい。また、シリカのCTAB比表面積は、本発明の効果が向上するという観点から、100~180m/gであるのが好ましく、130~170m/gであるのがさらに好ましい。シリカは、地球環境上の観点からバイオマス由来のシリカを使用することも好適な形態である。なおバイオマス由来のシリカは市販されており、例えばFengHai Rice Biotechnology社製Precipitated silica K160等が挙げられ、バイオマス由来以外のシリカと比べて、組成に実質的な相違点はない。
なお本発明において、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値であり、CTAB比表面積はシリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0015】
(有機酸コバルト塩)
ベルトコート用ゴムに使用される有機酸コバルト塩は、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができ、中でもホウ素を含む有機酸コバルト塩が好ましく、ホウ酸ネオデカン酸コバルトがとくに好ましい。
【0016】
(フェノール系樹脂)
ベルトコート用ゴムには、その効果向上のために、フェノール系樹脂を配合するのが好ましい。
フェノール系樹脂としては、例えばクレゾール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルフェノール樹脂、変性フェノール樹脂を挙げることができる。変性フェノール樹脂としてはカシュー変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アニリン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂等が例示される。
【0017】
(硬化剤)
ベルトコート用ゴムには、前記フェノール系樹脂の硬化剤を配合するのが好ましい。
硬化剤としては、例えばヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ-ホルムアルデヒドのポリマー、メラミンのN-メチロール誘導体等が挙げられる。これらのメチレン供与体は、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0018】
(シラン化合物)
ベルトコート用ゴムは、下記式(1)で表されるシラン化合物を含有する。
【0019】
【化2】
【0020】
(式(1)中、RおよびRは炭素数1~18の炭化水素基であり、Rは炭素数1~3の炭化水素基または水素である。R~Rはヘテロ原子を含んでいてもよい(ただし、硫黄は含まない)。nは0~2の数を表す。)
【0021】
ベルトコート用ゴムにシリカを用いると、これを用いないゴムに比べ、硬さが同等の場合に貯蔵弾性率E’が低下するという現象がみられるが、前記式(1)で表されるシラン化合物を用いることにより、前記貯蔵弾性率E’の低下分を補完することができる。また、ベルトコート用ゴムは、タイヤ成形時までに一定期間保管されると粘度が上昇し、タイヤ成形性を損なう場合があるが、該シラン化合物を使用することにより、保管時のゴムの粘度上昇を抑制し、タイヤ成形性を改善できるという効果も奏する。
【0022】
前記式(1)で表されるシラン化合物は、本発明の向上の観点から、RおよびRがアルキル基である、アルキルアルコキシシラン化合物であるのが好ましい。該形態において、nは0であるのが好ましく、Rは、炭素数7~20のアルキル基が好ましく、具体的には、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、ジエン系ゴムとの相溶性の観点から、炭素数8~10のアルキル基がさらに好ましい。また、該形態において、Rはエチル基であるのがとくに好ましい。
【0023】
(ベルトコート用ゴムの配合割合)
ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有し、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記充填剤を50~70質量部含有し、前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として1.0~3.5であり、前記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して2~10質量%含有することを特徴とする。
前記充填剤の含有量が50質量部未満では操縦安定性が低下し、70質量部を超えるとタイヤの耐久性が低下する。
前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として1.0未満または3.5を超える場合は、タイヤの耐久性が低下する。
前記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して2質量%未満では、添加量が少な過ぎて所望の効果を奏することができず、10質量%を超えると、混合時の粘度上昇やスコーチの悪化、老化時における加硫物性が悪化する。
【0024】
本発明の効果向上の観点から前記充填剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、50~70質量部であるのが好ましい。
本発明の効果向上の観点から前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比は、1.0~3.3であるのが好ましい。
【0025】
また、前記充填剤において、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、30~50質量部であるのが好ましく、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、30~50質量部であるのが好ましい。
【0026】
またベルトコート用ゴムにおいて、本発明の効果向上の観点から、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1~1.5質量部、前記フェノール系樹脂を0.5質量部以上3.0質量部未満、前記硬化剤を0.5~5.0質量部含有するのが好ましい。
【0027】
本発明のタイヤは、前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上であり、かつ前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5であることを特徴とする。
上述のように、ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)とカーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')を2.5~3.5に特定することにより、優れた操縦安定性タイヤに付与することができる。
動的貯蔵弾性率は、JIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製弾性スペクトロメーターを用いて静歪10%、動歪±2%、周波数20Hz、温度20℃の条件で測定された値(MPa)である。
さらに好ましい前記(Belt E')/(Carcass E')は、2.7~3.3である。
また、前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')は、15~20MPaが好ましく、前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')は4~8MPaが好ましい。
動的貯蔵弾性率の値の調整は、フィラーの種類やグレードの変更、硫黄量の変更等により達成できる。
【0028】
本発明において、前記カーカスコート用ゴムの組成は、前記(Belt E')/(Carcass E')の範囲を満足できればとくに制限されないが、例えばジエン系ゴムとしては、NR、BRおよびSBRが用いられ、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを30~50質量部使用するのが好ましい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は70~100m/gであるのが好ましい。
【0029】
なお、ベルトコート用ゴムおよびカーカスコート用ゴムには、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;老化防止剤;可塑剤;などのベルトコート用ゴムまたはカーカスコート用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0030】
本発明のタイヤは、長期使用によるベルト層の劣化を抑制し、耐久性および操縦安定性に優れる。また本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【実施例
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0032】
標準例1、実施例1~5および比較例1~6
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を80℃のバンバリーミキサーで5分間混合した。その時の到達温度は150℃であった。次に、ロールを用いて加硫系を加えて混合し、ゴム組成物を得た。得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、170℃10分間プレス加硫して、加硫ゴム試験片を作製し、以下の評価を行った。
【0033】
動的貯蔵弾性率(E’):得られた試験片を使用し、JIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製弾性スペクトロメーターを用いて静歪10%、動歪±2%、周波数20Hz、温度20℃の条件で測定した(MPa)。
【0034】
定歪疲労試験:得られた試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、JIS K6270を参考にして、20℃、歪100%、試験周波数6.67 Hz(回転数400rpm)の条件で引張定歪疲労試験を行い、破壊するまでの繰り返し回数を測定した。
【0035】
タイヤ操縦安定性:得られたゴム組成物をベルトコート用ゴムおよびカーカスコート用ゴムに使用して、試験タイヤを作製した。各試験タイヤをリムサイズ18×8.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧240kPaの条件にて、舗装路からなるテストコースにおいてテストドライバーによる官能評価を実施した。結果は、標準例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。
【0036】
タイヤ耐久性:
得られたゴム組成物をベルトコート用ゴムおよびカーカスコート用ゴムに使用して空気入りタイヤ(サイズ295/35R21)を加硫成形した。得られたタイヤをリム(21×10.5J)に装着し、酸素濃度100%の気体を充填し空気圧350kPaにして、温度70℃の環境中に14日間、静置した。その後、空気圧170kPaに調整し、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、JATMA規定加重の88%から2時間ごとに13%ずつ荷重を増加させながら、速度60km/hの条件で、6,000kmの走行試験を行った。走行試験後、タイヤを分解してベルト層におけるエッジセパレーションの量(mm)を測定した。
【0037】
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
*1:NR(TSR20)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*3:SBR(日本ゼオン株式会社製Nipol 1502)
*4:カーボンブラック1 (東海カーボン株式会社製シーストV、窒素吸着比表面積(NSA)=27m/g)
*5:カーボンブラック2 (東海カーボン株式会社製シースト300、窒素吸着比表面積(NSA)=84m/g)
*6:シリカ(FengHai Rice Biotechnology社製Precipitated silica K160、CTAB比表面積=158m/g)
*7:シランカップリング剤(エボニック・デグサ社製Si75)
*8:シラン化合物(信越化学工業株式会社製KBE-3083、オクチルトリエトキシシラン)
*9:酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種)
*10:老化防止剤(フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD)
*11:ネオデカン酸ホウ素酸コバルト(DIC CORPORATION製NBC-2、コバルト含量=22.2質量%、表1には有機酸コバルト量として示した。)
*12:フェノール系樹脂(INDSPEC社製PENACOLITE RESIN B-18-S、レゾルシン樹脂)
*13:硬化剤(CYTEC INDUSTRIES社製CYREZ964RPC、HMMM)
*14:硫黄(四国化成工業株式会社製ミュークロンOT-20)
*15:加硫促進剤CZ(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーCZ-G)
*16:加硫促進剤DZ(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーDZ)
【0040】
表1の結果から、各実施例は、スチールコードがベルトコート用ゴムによりコートされたベルト層と、カーカスコードがカーカスコート用ゴムによりコートされたカーカスプライと、を備え、前記ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有し、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記充填剤を50~70質量部含有し、前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として(シリカ/カーボンブラック比)1.0~3.5であり、前記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して、2~10質量%含有し、20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上であり、かつ前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5であるので、標準例1のゴム組成物に比べ、長期使用によるベルト層の劣化を抑制し、耐久性および操縦安定性に優れたタイヤを提供できることが分かる。
【0041】
一方、比較例1は、前記充填剤の含有量が本発明で規定する上限を超え、またシリカ/カーボンブラック比が本発明で規定する上限を超えているので、タイヤ耐久性に劣る結果となった。
比較例2は、前記充填剤の含有量が本発明で規定する下限未満であり、(Belt E')/(Carcass E')も本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ操縦安定性に劣る結果となった。
比較例3は、シリカ/カーボンブラック比が本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ耐久性に劣る結果となった。
比較例4は、ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が本発明で規定する下限未満であり、(Belt E')/(Carcass E')も本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ操縦安定性に劣る結果となった。
比較例5は、フェノール系樹脂および硬化剤を配合せず、動的貯蔵弾性率(Belt E')が本発明で規定する下限未満であり、(Belt E')/(Carcass E')も本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ操縦安定性に劣る結果となった。
比較例6は、ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が本発明で規定する下限未満であり、(Belt E')/(Carcass E')も本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ操縦安定性に劣る結果となった。
【0042】
本発明は、下記実施形態を包含する。
実施形態1:
スチールコードがベルトコート用ゴムによりコートされたベルト層と、カーカスコードがカーカスコート用ゴムによりコートされたカーカスプライと、
を備えるタイヤにおいて、
前記ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記充填剤を50~70質量部含有し、
前記カーボンブラックに対するシリカの量が質量比として1.0~3.5であり、
下記式(1)で表されるシラン化合物を前記シリカに対して2~10質量%含有し、
20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上であり、かつ
前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')(MPa)と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')(MPa)の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5である
ことを特徴とするタイヤ。
【0043】
【化3】
【0044】
(式(1)中、RおよびRは炭素数1~18の炭化水素基であり、Rは炭素数1~3の炭化水素基または水素である。R~Rはヘテロ原子を含んでいてもよい(ただし、硫黄は含まない)。nは0~2の数を表す。)
実施形態2:
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gであり、かつ前記シリカのCTAB比表面積が100~170m/gであることを特徴とする実施形態1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
実施形態3:
前記シリカが、バイオマス由来のシリカであることを特徴とする実施形態1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
実施形態4:
前記ベルトコート用ゴムが、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記有機酸コバルト塩をコバルト量として0.3~1.5質量部、前記フェノール系樹脂を0.5質量部以上3.0質量部未満、前記硬化剤を0.5~5.0質量部含有することを特徴とする実施形態1~3のいずれかに記載のタイヤ。
実施形態5:
前記有機酸コバルト塩がネオデカン酸ホウ酸コバルトであることを特徴とする実施形態1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【要約】
【課題】近年タイヤの使用期間が長くなる傾向があり、スチールコードとベルトコート用ゴムとの接着性が長期の使用に伴い低下し、耐久性が損なわれるという問題点がある。また、タイヤには高い操縦安定性が常に求められる。
【解決手段】ベルトコート用ゴムと、カーカスコート用ゴムとを備え、前記ベルトコート用ゴムは、天然ゴムを含むジエン系ゴム、カーボンブラックおよびシリカからなる充填剤、有機酸コバルト塩、フェノール系樹脂および硬化剤を特定量で含有し、20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')が13MPa以上であり、かつ前記ベルトコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Belt E')と前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的貯蔵弾性率(Carcass E')の比(Belt E')/(Carcass E')が2.5~3.5であるタイヤによって上記課題を解決した。
【選択図】なし