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特許7644440再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/199 20060101AFI20250305BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20250305BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20250305BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08G63/199 ZAB
C08G63/78
D01F6/62 306C
D01F6/62 306D
D01F6/84 301C
D01F6/84 301F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020163692
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055957
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】種田 祐路
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 亘
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171138(JP,A)
【文献】特開2015-166454(JP,A)
【文献】特開2008-189840(JP,A)
【文献】特開平10-310637(JP,A)
【文献】特開2002-179783(JP,A)
【文献】特表2014-525965(JP,A)
【文献】特開2002-249557(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0063636(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む再生ポリエステル樹脂であって、下記の(1)~(4)を全て満足することを特徴とする再生ポリエステル樹脂。
(1) ポリエステルを構成する全成分の合計量を100モル%とするとき、80モル%以上がテレフタル酸であり、
(2) 全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールが80モル%以上、シクロヘキサンジメタノールが2モル%以上15モル%以下、ジエチレングリコールが4モル%以下であり、
(3)カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であり、
(4)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシ ュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、 ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該ポリエステル樹脂を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
【請求項2】
請求項1記載の再生ポリエステル樹脂を含有する成形品。
【請求項3】
請求項1記載の再生ポリエステル樹脂を含有する繊維。
【請求項4】
a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用 ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料を用いて再生ポリエステル 樹脂を製造する方法であって、下記(1)~(3)の工程を全て含むことを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールを含む混合物に、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.10~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する工程
(3)前記濾液に重合触媒を添加し、温度260℃以上及び1.0hPa以下の減圧下で前記解重合体の重縮合反応を行う工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法に関する。特に、本発明は、使用済ポリエステル製品に由来するリサイクルポリエステル原料のほか、ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルに由来するリサイクルポリエステル原料を用いて製造され、異物の混入量が少なく、バージンポリエステル樹脂と同様に各種の成形品に加工することができる再生ポリエステル樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略することがある)は、高融点で耐薬品性があり、また比較的低コストであるため、繊維やフィルム、ペットボトル等の成形品等に幅広く用いられている。
これらのポリエステル製品は、製造段階や加工段階で屑の発生が避けられず、また使用後に廃棄処分される場合が多いが、焼却する場合には高熱が発生するため焼却炉の傷みが大きく、寿命が短くなるという問題がある。一方、焼却しない場合には、腐敗分解しないため半永久的に残ることになる。
近年、一度使用されたポリエステル製品のうち、ゴミとして捨てられたプラスチック容器などが河川を経由して海洋へ流出、波や潮流の作用で細かく破砕されたマイクロプラスチックが海洋生物の体内に蓄積、食物連鎖で濃縮され海洋生物の生態系に悪影響が出ていること、プラスチックが海洋汚染の一大原因となっていることが問題視され、使用量の削減や生分解性プラスチックに切り替える動きが全世界的に起きている。
【0003】
このようなプラスチック製品の使用量を削減する観点や、環境問題の観点から、資源を再利用するリサイクルが様々な方法で行われている。ポリエステル製品に関しては、その製造工程で発生したポリエステル屑をリサイクルする方法や一度市場に出回り廃棄された製品を回収、原料として再使用する方法が検討されている。特に近年、繊維製品については、一定のリサイクル率を達成することで認定されるエコマークを付与した製品が普及している。
【0004】
リサイクルポリエステル原料をリサイクルする方法としては、各種の方法が提案されている。例えば、PET屑にメタノールを添加してジメチレンテレフタレート(以下「DMT」と表記することがある。)とエチレングリコール(以下「EG」と表記することがある。)に分解する方法(特許文献1)、PET屑にEGを添加して解重合した後、メタノールを添加してDMTを回収する方法(特許文献2)、PET屑をEGで解重合してオリゴマーとし、これを重縮合反応に用いる方法(特許文献3)等が提案されている。
【0005】
また、一旦製品となったPETボトルなどを再生する際に問題になるものとしては、ポリエステル樹脂中に添加した添加剤やボトル本体に付属するものとして、キャップ(アルミニウム、ポリプロピレン、ポリエチレン)、中栓やライナー(ポリプロピレン、ポリエチレン)、ラベル(紙、ポリスチレン等の樹脂、インク)、接着剤、印字用インクなどがある。
再生工程の前処理としては、まず、回収されたPETボトルを振動ふるいにかけて砂や金属などを除去する。その後、PETボトルを洗浄し、着色ボトルを分離した上で、荒い粉砕を行う。そして、風力分離によりラベルなどを取り除く。さらにキャップなどに由来するアルミ片を除いて、PETボトル片を細かく粉砕する。高温アルカリ洗浄により接着剤、蛋白質やかびなどの成分を除き、比重によりポリプロピレンやポリエチレンなどの異種成分を分離することを行う。
【0006】
しかしながら、これらの工程を経たとしても、特に、前記したようなポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の非ポリエステル樹脂をPET樹脂から分離することは困難であった。このため、上記したような特許文献1~3に記載のリサイクル方法で再生ポリエステル樹脂を得たとしても、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えず、異物の混入量が十分に低減できたものではなく、バージンポリエステル樹脂同様の品質を有する製品を得ることはできなかった。しかも、特許文献1~3のような方法では、回収装置の設置、運転、維持等に多額のコストもかかり、実用性という点でも改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献4記載の発明には、ポリエステル屑をエチレングリコールで解重合した後に、平均目開きが10~50μmのフィルターでろ過した後、再重合反応を行う方法が記載されている。そして、得られた再生ポリエステル樹脂は、異物の混入量が少なく、加工時の操業性に優れるものであることが示されている。しかしながら、この方法においても、上記のような非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えておらず、異物の混入量が十分に低減できたものではなかった。
【0008】
一般に、プラスチック製のボトルなどを製造するにあたっては、成形の容易性、高生産性、成形機械や金型などの設備費が比較的安くてすむなどの点から、溶融可塑化した樹脂をダイオリフィスを通して押出して円筒状のパリソンを形成し、これを金型に挟んで内部に空気を吹き込むいわゆるブロー成形法が採用されている。このようなブロー成形品においても、環境問題の観点からリサイクルポリエステル樹脂を使用することが検討されている。
【0009】
なお、ブロー成形時には結晶化が起こりやすいため、成形が可能であっても白化が生じ、透明性が不十分になるという問題があった。
そこで、透明性を向上させるために、ポリエチレンテレフタレートに他のモノマー成分を共重合したポリエステル樹脂が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【0010】
また、一般に、まくらや寝装品用の詰め物、キルティングの詰め物、マットレスの詰め物等を構成する繊維を接着する目的で、ホットメルト型バインダー繊維が広く使用されている。 中でも、ポリエステル系バインダー繊維には、テレフタル酸とイソフタル酸及びエチレングリコールを主成分とする共重合ポリエステル樹脂が広く使用されている。
【0011】
このように、各種の成形品や繊維製品において、リサイクルポリエステル原料を使用した共重合ポリエステル樹脂の要望は大きいが、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えており、バージンポリエステル樹脂と同様の高品位の各種の製品を得ることが可能となる共重合ポリエステル樹脂は未だに得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特公昭42-8855号公報
【文献】特開昭48-62732号公報
【文献】特開昭60-248646号公報
【文献】特開2005-171138号公報
【文献】特許第6297351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題点を解決し、使用済みポリエステル製品に由来するリサイクルポリエステル原料、あるいはポリエステル樹脂及び製品を製造する工程で発生する屑等に由来するリサイクルポリエステル原料を原料とする共重合ポリエステル樹脂であって、各種の形態のポリエステル製品の製造に利用できる再生ポリエステル樹脂を提供しようとするものである。また、このような本発明の再生ポリエステル樹脂を得ることができる製造方法を提供しようとするものである。
【0014】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、リサイクルポリエステル原料を用いて特定の製造方法により、異物の混入量が少なく、バージンポリエステル樹脂と同様の熱安定性を有する再生ポリエステル樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、次の(イ)~(ニ)を要旨とするものである。
(イ)a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する 未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む再生ポリエステル樹脂であって、下記の(1)~(4)を全て満足することを特徴とする再生ポリエステル樹脂。
(1) ポリエステルを構成する全成分の合計量を100モル%とするとき、 80モル%以上がテレフタル酸であり、
(2) 全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールが80モル%以上、シクロヘキサンジメタノールが2モル%以上15モル%以下、ジエチレングリコールが4モル%以下であり、
(3)カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であり、
(4)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手 順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該ポリエステル樹脂を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
(ロ)(イ)記載の再生ポリエステル樹脂を含有する成形品。
(ハ)(イ)記載の再生ポリエステル樹脂を含有する繊維。
(ニ)a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する 未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料を用いて再生ポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(1)~(3)の工程を全て含むことを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタ ノールを含む混合物に、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.10~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収す る工程、
(3)前記濾液に重合触媒を添加し、温度260℃以上及び1.0hPa以下の減圧下で 前記解重合体の重縮合反応を行う工程
【発明の効果】
【0016】
本発明の再生ポリエステル樹脂は、a)使用済みポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料を含有しながらも、異物の混入量が少なく、かつカルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量が特定の範囲を満足し、熱安定性に優れるものである。このため、例えば溶融紡糸により繊維を得る工程、成膜によりシートまたはフィルムを得る工程、ボトル等の成形品を得る工程において、比較的長期にわたる連続運転が可能となり、生産性良く各種の形態の製品を製造することができる。そして、再生ポリエステル樹脂でありながら共重合成分を含む共重合ポリエステル樹脂であるため、透明性が求められるボトル等の成形品や接着性が求められる繊維用途にも好適に使用することができる。
また、本発明の再生ポリエステル樹脂の製造方法によれば、複雑な工程や装置を必要とせず、操業性よく低コストで本発明の再生ポリエステル樹脂を得ることが可能であり、実用上のメリットが大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の再生ポリエステル樹脂(本発明樹脂)は、a)使用済みポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂である。これらの成分が、本発明樹脂を構成するポリエステルの一部となっている。
【0018】
上記a)の使用済みポリエステル製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたポリエステル成形品(繊維を含む。)等が挙げられる。その代表例としては、PETボトル等のような容器又は包装材料が挙げられる。
上記b)のポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルは、製品化に至らなかったポリエステルであり、例えば規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料、成形時に切断された断片、成形時、加工時等に発生した屑、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
【0019】
上記a)及びb)は、その形態等は限定されず、必要に応じてさらに粉砕、切断等の加工を行うことによりペレット化されていても良いし、あるいは溶融してペレット化されていても良い。上記a)及びb)は、それぞれ単独で使用しても良いし、両者の混合物を用いても良い。
【0020】
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料としては、結晶質又は非晶質のいずれのものであっても良い。従って、例えば熱処理を行っていない非晶質のポリエステル屑のペレット、熱処理を施した結晶質ペレット、結晶質ペレットと非晶質ペレットとの混合品等を使用することができる。本発明では、特に缶内への投入や解重合反応時にペレット同士の融着を防止する目的で結晶性のリサイクルポリエステル原料を用いることが好ましい。従って、上記a)又はb)の材料を熱処理により結晶化したもの(結晶化ペレット等)を好適に用いることができる。
【0021】
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料の性状としては、限定的ではなく、上記a)及びb)の形態のままでも良いし、さらに裁断、粉砕等の加工を施して得られる裁断片、粉砕物(粉末)等のほか、これらを成形してなる成形体(ペレット等)等の固体の形態が挙げられる。より具体的には、ポリエステル屑の溶融物を冷却及び切断して得られるペレット、PETボトルのようなポリエステル成形品を細かく裁断した裁断片等が例示される。その他にも、上記のような裁断片、粉砕物(粉末)等を溶媒に分散又は溶解させて得られる液体の形態であっても良い。これらの原料を用いてポリエステル製品を製造する際には、必要に応じてこれらをその融点以上の温度で溶融させて融液として缶内へ投入することもできる。
【0022】
本発明の再生ポリエステル樹脂は、上記a)及びb)の少なくとも1種であるリサイクルポリエステル原料を40質量%以上含有することが好ましく、中でも50質量%以上含有することが好ましい。
リサイクルポリエステル原料の含有量が40質量%未満であると、環境問題に配慮するという目的を果たすことができないものとなる。リサイクルポリエステル原料の含有量の上限については、特に限定するものではないが、後述する本発明の製造方法によれば、リサイクルポリエステル原料の含有量が40~80質量%の再生ポリエステル樹脂まで容易に得ることが可能である。
【0023】
本発明樹脂は、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、80モル%以上がテレフタル酸である。つまり、酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものである。
酸成分中のテレフタル酸の割合は80モル%以上であり、中でもテレフタル酸の割合は90モル%であることが好ましい。テレフタル酸の割合が80モル%未満であると、樹脂組成物の結晶性が低下し非晶性のものとなりやすいため好ましくない。
【0024】
また、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールが80モル%以上、シクロヘキサンジメタノールが2モル%以上15モル%以下、ジエチレングリコールが4モル%以下とするものである。
シクロヘキサンジメタノールの共重合量は、得られる再生ポリエステル樹脂の用途によって、2~15モル%の範囲の中で調整することが好ましく、例えば、成形用途に使用する場合には、シクロヘキサンジメタノールの共重合量は、4~15モル%であることが好ましい。中でも4~8モル%であることが好ましい。シクロヘキサンジメタノールを2~15モル%共重合することにより、ポリエステル樹脂の結晶化速度をダイレクトブロー成形に適したものに調整することができ、ダイレクトブロー成形時の結晶化による白化を防ぐことができる。そして、得られる再生ポリエステル樹脂の融点は、210~250℃のものとすることが好ましい。
【0025】
シクロヘキサンジメタノールの共重合量が2モル%未満であると、樹脂組成物の結晶化速度が速いものとなるため、ダイレクトブロー成形した際に、成形品が結晶化して白化し、透明性に劣るものとなる。一方、シクロヘキサンジメタノールの共重合量が15モル%を超えると、樹脂組成物が非晶性のものとなるため、高温乾燥時や固相重合工程においてブロッキングが起こりやすくなる。
【0026】
本発明樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールは、全グリコール成分の80モル%以上であり、中でも85モル%以上であることが好ましい。エチレングリコールの含有量が80モル%未満であると、得られるポリエステル樹脂の結晶性や耐熱性が劣るものとなる。
【0027】
また、本発明樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、その中でも3モル%以下であることが好ましい。特に、本発明の製造方法により得られる本発明樹脂においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いるが、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。本発明樹脂は、その副生するジエチレングリコールの量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であることにより、熱安定性に優れた性能を有している。このため、繊維、射出成形体や各種のブロー成形体、シート、フィルム等の成形品を生産性良く得ることが可能となる。なお、ジエチレングリコールの含有量の下限値は、例えば0.5モル%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0028】
本発明樹脂における、テレフタル酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0029】
また、本発明樹脂における、全グリコール成分中のエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ダイマージオール、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体等を用いることができる。
【0030】
重縮合触媒としては、限定的ではないが、例えばゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物等の少なくとも1種を用いることができる。その中でも、特にゲルマニウム化合物及びアンチモン化合物の少なくとも1種を使用する。得られる再生ポリエステル樹脂の透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。上記の各化合物としては、ゲルマニウム、アンチモン、チタン、コバルト等の酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物等が例示される。
【0031】
重縮合触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対して5×10-5モル/unit以上とすることが好ましく、その中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。上記使用量の上限は、例えば1×10-3モル/unit程度とすることができるが、これに限定されない。
【0032】
なお、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒も、重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、重縮合工程で重合触媒を添加する際には、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒の種類及びその含有量を考慮することが好ましい。
【0033】
また、重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重縮合触媒と併せて、溶融粘度を調整することができる脂肪酸エステル、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物を添加することもできる。
【0034】
脂肪酸エステルとしては、例えば蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0035】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0036】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0037】
本発明樹脂は、上記のような組成を有するとともに記に示す特性値を有するものである。
(a)カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下
(b)昇圧試験機により測定した平均昇圧速度が0.6MPa/h以下
これらの特性値を有する本発明樹脂は、後述する本発明の製造方法により得ることができる。
【0038】
まず、本発明樹脂は(a)の特性値として、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であり、中でも30当量/t以下であることが好ましく、さらには25当量/t以下であることが好ましい。
本発明樹脂は、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であることにより、耐熱性に優れた性能を有しており、各種の成形方法により耐熱性に優れた成形品を生産性よく得ることが可能となる。
【0039】
本発明の再生ポリエステル樹脂の極限粘度は、特に限定されないが、通常は0.44~0.80程度であることが好ましい。また、本発明の再生ポリエステル樹脂は、後述するように、固相重合工程を経て高重合度化することで成形用途に用いることも可能である。この場合、得られる再生ポリエステル樹脂の極限粘度は0.80~1.25とすることが好ましい。なお、極限粘度(IV)は、フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定するものである。
【0040】
本発明樹脂は(b)の特性値として、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、0.5MPa/h以下であることが好ましく、中でも0.4MPa/h以下であることが好ましい。本発明における平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
【0041】
平均昇圧速度の測定方法は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い 、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ 、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該ポリエステル樹脂を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出するものである。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
【0042】
本発明樹脂は、後述する製造方法を採用することにより、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量を低減することができるため、(b)の特性値である、昇圧試験機により測定した平均昇圧速度を0.6MPa/h以下にすることが可能である。
【0043】
次に、本発明樹脂の製造方法について説明する。本発明の製造方法においては、(1)~(3)に示す工程を順に行うことが重要である。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールを含む混合物に、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.10~1.30となるように投入し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する工程、
(3)前記濾液に重合触媒を添加し、温度250℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【0044】
まず、(1)の解重合工程では、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールを含む混合物に、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.10~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る。
【0045】
エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール及びシクロヘキサンジメタノールは、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。
【0046】
特に、エチレンテレフタレートオリゴマーとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化反応物を好適に用いることができる。また、エチレンテレフタレートオリゴマーの数平均重合度は、限定的ではないが、例えば2~20程度とすることができる。
【0047】
エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールを含む混合物(以下、混合物Eと表記することがある)の量は、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂100質量%中の20~80質量%とすることが好ましく、30~70質量%とすることがより好ましい。
混合物Eの量が上記より少ない場合、リサイクルポリエステル原料を投入した際に、リサイクルポリエステル原料同士がブロッキングを起こしやすくなり、攪拌機に過大な負荷がかかるため好ましくない。
一方、混合物Eの量が上記範囲より多い場合は解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂のリサイクル率が低くなり好ましくない。
【0048】
(1)の工程において、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、リサイクルポリエステル原料を添加する割合としては、最終的に得ようとするポリエステル樹脂のイソフタル酸の共重合量によって適宜変更すればよいが、概ね、下記の割合(合計で100質量部)で添加することが好ましい。エチレンテレフタレートオリゴマーは5~50質量部、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールは合わせて1~18質量部、リサイクルポリエステル原料は40~80質量部とすることが好ましい。
【0049】
中でもエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールの添加する合計量は、解重合反応を十分に進行させるため、1~15質量部とすることが好ましく、中でも3~13質量部とすることがより好ましい。合計量が18質量部を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合があり、好ましくない。
混合物Eにおいて、エチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールやシクロヘキサンジメタノールを投入する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、投入することが好ましい。
【0050】
(1)の工程において混合物Eにリサイクルポリエステル原料を投入する際には、撹拌しながら全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.10~1.30となるようにして、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
本発明の製造方法においては、この工程が重要である。つまり、リサイクルポリエステル原料を利用した従来の方法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているが、本発明においては、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合を行い、かつ混合物E中、リサイクルポリエステル原料の全ての成分を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が、1.10~1.30となるようにしてリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合を行うものである。
【0051】
上記したような(1)の工程を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、(2)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができる。そして、(3)の工程の重縮合反応において、本発明の特性値として、ジエチレングリコールの含有量(共重合量)やカルボキシル末端基濃度が特定量以下のものであり、かつ異物の混入量が少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
さらには、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合を行うことにより、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行う場合に比べて、共重合成分が存在することで、低温で解重合反応を進行させることが可能となる。これは、工業ベースで実施をする場合には大きなメリットとなる。
【0052】
なお、本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクルポリエステル原料はモノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解されることが望ましい。このように解重合反応を制御することにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
【0053】
解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外であると、得られる再生ポリエステル樹脂は、本発明で規定する、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量の少なくとも一方を満足しないものとなり、また、平均昇圧速度が高いものとなる。これは、解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、各種の無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われないため、(2)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができず、(3)の工程の重縮合反応後に異物が析出し、その結果、平均昇圧速度が高い再生ポリエステル樹脂となる。
【0054】
本発明の製造方法で用いる反応器は、容量や攪拌翼の形状は、一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造となっていることが好ましい。
リサイクルポリエステル原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。
【0055】
(1)の工程で行う解重合時の反応温度は、反応器の内温を245~280℃の範囲に設定して行うことが好ましく、中でも内温を255~280℃の範囲に設定して行うことがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満になる場合には、反応物が固化し、操業性が悪化するとともに、再生ポリエステル樹脂が得られたとしても、ジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。反応温度が280℃を超える場合は、得られる再生ポリエステル樹脂のジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。
また、解重合の反応時間(リサイクルポリエステル原料の投入終了後からの反応時間)は、4時間以内が好ましく、ジエチレングリコールの副性量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑える観点から、2時間以内とすることがより好ましい。
【0056】
(2)の工程においては、(1)の工程で解重合反応を行った解重合体を含む反応生成物を、濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて異物を濾過する。上記したように、(1)の工程の条件で解重合反応を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させることにより、析出した異物を濾過し、異物の混入量の少ない濾液を得ることができる。
濾過粒度が25μmより大きいフィルターを使用すると、ポリマー中の異物を十分に除去できず、得られる再生ポリエステル樹脂中の異物が多くなる。このため、このような樹脂を用いて紡糸を行うと、ノズルパックの昇圧や切糸が生じる。一方、濾過粒度が10μmよりも小さいフィルターを使用すると、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となり、また、操業性も悪化する。
【0057】
また、本発明の(2)の工程で使用できるフィルターとしては、一般的なもので特に問題ないが、スクリーンチェンジャー式のフィルターやリーフディスクフィルターやキャンドル型焼結フィルターなどが挙げられる。
【0058】
そして、本発明の製造方法においては、上記の工程(2)を経て得られた濾液に、前記したような重合触媒を加え、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。
【0059】
そして、重縮合反応槽において、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。
重縮合反応温度は、中でも270℃以上とすることがより好ましい。ただし、重縮合反応温度が高過ぎると熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化すること、同じく熱分解により末端基量(COOH)が高くなるため、本発明においては、重縮合反応温度の上限は、285℃以下とすることが好ましい。ここで得られる再生ポリエステル(プレポリマー)の極限粘度は0.44~0.80であることが好ましい。
【0060】
本発明樹脂中には、その効果を損なわない範囲であれば、上記したような重合触媒、抗酸化剤、リン化合物等の添加剤以外の各種の添加剤を含有していてもよい。
各種の添加剤としては、ポリエステル樹脂の熱分解による着色を抑制するために酢酸マンガン等のマンガン化合物、アントラキノン系染料化合物、銅フタロシアニン系化合物等の添加剤が含有されていてもよい。
【0061】
続いて、上記した溶融重合反応により得られたプレポリマーをダイス状、円柱状などの任意の形状のチップとし、該ポリエステルチップを結晶化装置に連続的に供給し150~190℃の温度で結晶化をさせた後、乾燥機に供給し190℃以下の温度で4~16時間の範囲で乾燥後、予備加熱機に送り2~5時間の範囲で下記固相重合温度まで加熱した後、固相重合機へ連続的に供給し固相重合反応を行うことにより、目標の極限粘度のポリエステル樹脂を得る。固相重合は、窒素ガスなどの不活性ガス下で行うのが好ましい。固相重合は通常170~230℃の範囲内の温度で行うのが好ましく、180~220℃の範囲内の温度行うのがより好ましい。また、重合時間は20時間~80時間の範囲で、固相重合機内にて反応させることにより行う。
【0062】
本発明樹脂は、ブロー成形、射出成形、延伸法などを採用して、色調、透明性に優れた成形品(ブロー成形品、射出成形品、シート、フィルム等)を得ることができ、また、溶融紡糸により繊維を得ることができる。
【0063】
本発明樹脂を含有する成形品は、例えば本発明樹脂を含む原料を用いてプレス成形、押出成形、圧空成形、ブロー成形等の各種の成形方法を適用することにより製造することができる。これにより、容器をはじめ、各種の部品を提供することができる。本発明樹脂は、バージンのポリエステル樹脂に近い特性を有し、熱安定性に優れているという理由から、特にブロー成形品の製造に適している。従って、本発明樹脂を含む原料の溶融物からパリソンを得る工程及び前記パリソン内部に気体を吹き込む工程を含む成形体の製造方法を好適に採用することができる。これによって、容器等の成形体を製造することができる。
【0064】
本発明樹脂は前記したように、ジエチレングリコールの含有量、カルボキシル末端基濃度が特定量以下であることにより、熱安定性に優れている。このため、上記のような成形品を得る際には、厚さ斑などが生じにくく、均整度の高い成形品を操業性よく得ることができる。さらに、本発明樹脂は前記したように、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、異物の混入量が少ないものである。樹脂中に存在する異物としては、無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物が想定されるが、これらの異物が少ないことによって、表面外観が良好で耐衝撃性や強度に優れた成形品を得ることができる。
【0065】
成形品の場合は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.1~1.0質量%含有することで極限粘度の低下や成形後の色調悪化を防ぐことができる。
【0066】
成形品の場合は、重合触媒としてゲルマニウム系化合物及び、コバルト化合物を含有することが好ましい。ゲルマニウム化合物を、ポリエステルの酸成分1モルに対し5.0×10-5モル~3.0×10-4モル含有することが好ましい。1.0×10-5モルよりも少ないと、目標の重合度のポリエステル樹脂を得ることが困難となる。一方、3.0×10-4モルを超えると、コバルト化合物とゲルマニウム化合物の反応による副生成物により、ポリエステルの経時安定性が悪くなり、長期保存後のポリエステル樹脂組成物の極限粘度の低下や色調の悪化が起こるため、好ましくない。
【0067】
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド等が挙げられ、重合触媒活性、得られるポリエステル樹脂の物性及びコストの点から、二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0068】
コバルト化合物の含有量は、ポリエステルの酸成分1モルに対し1.0×10-5モル~1.0×10-4モルであることが必要であり、2.0×10-5モル~8.0×10-5モルであることが好ましい。
1.0×10-5モルよりも少ないと。ポリエステルの色調が悪くなる。一方、1.0×10-4モルを超えるとポリエステル樹脂の経時安定性も悪くなる。コバルト化合物としては、酢酸コバルト、蟻酸コバルト、塩化コバルト、酸化コバルト等が挙げられ、重合触媒活性、得られるポリエステル樹脂の物性及びコストの点から、酢酸コバルトが好ましい。
本発明樹脂を含有する繊維の場合は、例えば本発明樹脂を含む原料を溶融し、紡糸する工程を含む製造方法によって繊維を製造することができる。これにより、例えば単糸繊度が0.8デシテックス以下(好ましくは0.6~0.3デシックス)の極細繊維も製造することができる。紡糸方法等は、公知の条件に従って実施することができる。
【0069】
本発明樹脂は、前記したように異物の含有量が比較的少なく、バージンポリエステル樹脂と同等の特性を有しているため、溶融紡糸、延伸・熱処理、巻取工程のいずれにおいても糸切れのトラブルが生じにくく、生産性良くポリエステル繊維を得ることができる。
【0070】
本発明樹脂を含有する本発明の繊維としては、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであっても良く、また長繊維、短繊維等のいずれであっても良い。
【実施例
【0071】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度
得られた再生ポリエステル樹脂を用い、フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定するものである。
(b)ポリエステル樹脂の組成
得られた再生ポリエステル樹脂を、重水素化トリフルオロ酢酸と重水素化クロロホルムとの容量比が1/11の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製JNM-ECZ400R/S1型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求めた。
(c)カルボキシル末端基濃度
得られた再生ポリエステル樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(d)昇圧試験機により測定した平均昇圧速度
得られた再生ポリエステル樹脂を、エクストルーダーにて300℃で溶融し、エクストルーダーの先端にフィルターとして、ステンレス鋼製綾畳織フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm、粘性抵抗係数(m-1):2.60×107、慣性抵抗係数:5.14×10、上條精機社製)をセットし、さらにその背面(下流側)に補強材(ステンレス製平織金網(呼び寸法メッシュ:40メッシュ、織り方:平織、線径:0.21mm(株)上條精機製)を積層した後、ポリマー吐出量を29.0g/分として、フィルター圧力を昇圧試験機;アサヒゲージ社製「MES-Y44D型」検出器を用いて測定する。前記の昇圧試験機を用いた昇圧試験を12時間連続して行い、昇圧試験を始める際の初期圧力値(MPa)(ポリエステル樹脂がフィルターを通り始めてから5~10分の間の圧力の最小値を初期圧力とする。)と、12時間経過時点の最終圧力値(MPa)の値から、下記計算式により平均昇圧速度を算出した。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12
【0072】
(e)融点、(f)ガラス転移温度
得られた再生ポリエステル樹脂を、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲25℃~280℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量8mgで測定した。
(g)成形性
得られた容器(サンプル数100本)の胴部の厚さを測定し、最厚部と最薄部の厚さの差が0.30mmまでのものを合格とした。このとき合格したサンプルの本数により、以下のように2段階で評価した。
〇:合格サンプル数が95本以上
×:合格サンプル数が94本以下
【0073】
(h)ヘーズ
得られた容器から切り出してサンプル片(20個)を作成し、濁度を日本電色工業社製の濁度計 MODEL 1001DPで測定し(空気:ヘーズ0%)、n数20の平均値とした。この値が小さいほど透明性が良好であり、6%以下であれば透明性に優れていると判定した。
(i)耐衝撃性
(g)成形性の評価にて、合格となった成形品(サンプル数100本)に、水道水340mlを充填し、室温下にて、Pタイル上に、200cmの高さから、成形体の底面を下向き、側面を下向きにして成形体を1回ずつ落下させた。このとき割れなかった成形体の本数で耐衝撃性を評価した。なお、90本以上の場合、耐衝撃性が良好であると評価した。
【0074】
実施例1
〔再生ポリエステル樹脂〕
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー40.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いて、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)とエチレングリコール(EG)をCHDMが2.7質量部、EGを3.3質量部投入し、混合物Eを得た。その後、リサイクルポリエステル原料(ポリエステル樹脂を製造する工程で発生するポリエステル屑のペレット状のもの)54質量部を、ロータリーバルブを介し、約2hかけて定量投入した。
このとき、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比(以下、G/Aと表記することがある)が1.15となるように投入した。その後、260℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。
そして、得られた解重合体を、エステル化反応器と重縮合反応器との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットして重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として二酸化ゲルマニウムを1.0×10-4mol/unit、コバルト化合物として酢酸コバルトを、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてテトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(ADECA社製:アデカスタブAO-60)を、得られるポリエステル樹脂に対して0.2質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、極限粘度が0.7のポリエステル樹脂を得た。
続いて、得られたポリエステル樹脂を結晶化装置に連続的に供給し、150℃で結晶化させた後、乾燥機に供給し130℃で10時間乾燥後、予備加熱器機に送り180℃まで加熱した後、固相重合機へ供給した。そして、窒素ガス下にて固相重合反応を190℃で50時間行い、極限粘度が1.1のポリエステル樹脂を得た。
【0075】
〔ブロー成形品〕
得られた再生ポリエステル樹脂をチップ化し、乾燥させた後、ダイレクトブロー成形機(タハラ社製)を用い、押出温度260℃で樹脂を押出して円筒形パリソンを形成し、パリソンが軟化状態にあるうちに金型で挟み、底部形成を行い、これをブローしてボトルを成形した。このとき、パリソン径3cmで長さが25cmとなったところで底部形成を行い、ブロー成形して350mlの中空容器(ダイレクトブロー成形品)を得た。
【0076】
実施例2~8 、比較例1~9
〔再生ポリエステル樹脂〕
解重合反応時に添加する、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及びリサイクルポリエステル原料の添加量、G/A及び熱処理温度を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、解重合反応を行った。
また、濾液を回収する工程におけるフィルターの濾過粒度、重合反応工程における熱処理温度を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造した。
続いて、得られたポリエステル樹脂を実施例1と同様にして固相重合反応を行い、極限粘度が1.1のポリエステル樹脂を得た。
〔ブロー成形品〕
得られたポリエステル樹脂を用い、実施例1と同様にしてブロー成形を行い、ブロー成形品を得た。
【0077】
実施例2~8、比較例1~9で得られたポリエステル樹脂の特性値、ブロー成形品の成形性、ヘーズ、耐衝撃性の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から明らかなように、実施例1~8で得られた再生ポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基量、ジエチレングリコールの含有量、平均昇圧速度が本発明で規定する範囲内のものであったため、ブロー成形を行う際の成形性に優れていた。
そして、実施例1~8で得られた中空容器は、ヘーズが低く透明性に優れており、耐衝撃性にも優れていた。
【0080】
一方、比較例1では、解重合反応時のG/Aが高かったため、ジエチレングリコールの含有量が高く、熱安定性に劣るものとなり、また、CHDM共重合量が1モル%と少なかったため、結晶性が高くなり、得られた中空容器はヘーズが悪く、成形性や耐衝撃性も悪化した。また、G/Aが高かったため、異物の除去が不十分で、昇圧速度が速かった。
比較例2では、(1)の工程における解重合を285℃の熱処理条件下で行ったため、得られた再生ポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基濃度及びジエチレングリコールの含有量が高いものであった。また、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量ともに高かったため、成型時に再生ポリエステル樹脂の熱分解が生じ、成形性が悪く、得られた中空容器の耐衝撃性も劣るものであった。比較例3では、ES缶とPC缶間に設けたキャンドルフィルターの濾過粒度が5μmであったため、濾過中に目詰まりを起こし、重縮合反応へ工程を進めることができず、樹脂を得ることができなかった。
【0081】
比較例4では、ES缶とPC缶間に設けたキャンドルフィルターの濾過粒度が30μmであったため、得られた再生ポリエステル樹脂は、異物の混入量が多く、平均昇圧速度が高いものとなった。そのため、得られた中空容器はヘーズが高く、透明性に劣っており、また、耐衝撃性も劣るものであった。比較例5では、解重合反応時のG/Aが低かったため、得られた再生ポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基濃度が高く、平均昇圧速度も高いものであった。また、カルボキシル末端基濃度が高かったため、成型時に再生ポリエステル樹脂の熱分解が生じ、成形性が悪化し、得られた中空容器のヘーズ、耐衝撃性ともに劣るものであった。比較例6では、解重合のG/Aが1.35と高かったため、得られた再生ポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量ともに高く、熱安定性に劣るものとなり、また、平均昇圧速度も高いものであった。このため、成形性が悪化し、得られた中空容器のヘーズ、耐衝撃性ともに劣るものであった。比較例7では、解重合温度が低かったため、リサイクルポリエステルの解重合が十分に進まず、再生ポリエステル樹脂を得ることができなかった。比較例8では、重縮合反応温度が低かったため、重縮合反応が十分に進まず、再生ポリエステル樹脂を得ることができなかった。