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特許7644457高純度ヒアルロン酸およびそのオリゴ糖を効率的に合成するための組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
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  • 特許-高純度ヒアルロン酸およびそのオリゴ糖を効率的に合成するための組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium  glutamicum) 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】高純度ヒアルロン酸およびそのオリゴ糖を効率的に合成するための組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20250305BHJP
   C12P 19/26 20060101ALI20250305BHJP
   C07K 14/22 20060101ALN20250305BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20250305BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20250305BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20250305BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/26
C07K14/22
C12N9/10
C12N15/31
C12N15/54
C12R1:15
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022524109
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2019126013
(87)【国際公開番号】W WO2021077580
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】201911018182.4
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521282033
【氏名又は名称】ブルーメイジ バイオテクノロジー コーポレイション リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】522163986
【氏名又は名称】チアンナン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】カン チェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン チエン
(72)【発明者】
【氏名】フー リータオ
(72)【発明者】
【氏名】トゥー クオチョン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー チアンホア
(72)【発明者】
【氏名】リー チアリエン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ティエンモン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103937734(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107354119(CN,A)
【文献】TANIGUCHI et al.,BMC Microbiology,2017年,Vol. 17, No. 1,DOI: 10.1186/s12866-017-1067-6
【文献】PFEIFER-SANCAR et al.,BMC Genomics,2013年,Vol. 14, No. 1,DOI: 10.1186/1471-2164-14-888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソポリサッカライド遺伝子cg0420および/またはcg0424がサイレンシングまたはノックアウトされた、およびヒアルロン酸合成酵素が発現されたことを特徴とする、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であって、前記ヒアルロン酸合成酵素は、下記(a)又は(b):
(a)化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に由来し、そして配列番号3に示すアミノ酸配列を有する酵素;
(b)配列番号3に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、そしてヒアルロン酸合成活性を有する酵素
で示される、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項2】
UDP-N-アセチルグルコサミンおよび/またはUDP-グルクロン酸経路が促進された、請求項1に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項3】
前記UDP-N-アセチルグルコサミン経路が、グルタミン-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホグルコムターゼ、及びUDP-N-アセチルグルコサミンピロホスホリラーゼ/グルコース-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼの二機能性酵素を含み;およびUDP-グルクロン酸経路がホスホグルコムターゼ、グルコース-6-リン酸ウレアアミドトランスフェラーゼ、及びUDP-グルコースデヒドロゲナーゼを含むことを特徴とする、請求項2に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項4】
Vitreoscilla由来のヘモグロビンVHbも発現していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項5】
前記UDP-N-アセチルグルコサミンおよび/またはUDP-グルクロン酸経路をコードする遺伝子が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)で発現するようにベクターにライゲートされていることを特徴とし、前記ベクターがpXMJ19、pECXK99E、pEC-XT99A、pEKEx1、pEKEx2、pVWEx1、pVWEx2、pZ8-1、pECTAC-K99およびpAPE12のいずれか一つを含み、ここで前記UDP-N-アセチルグルコサミンおよび/またはUDP-グルクロン酸経路をコードする遺伝子は、pgM、ugd、galU、glmS、glmM、及びglmUから選ばれる少なくとも1の遺伝子である、請求項2又は3に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項6】
前記ヘモグロビンVHbをコードする遺伝子が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)で発現するようにベクターにライゲートされていることを特徴とし、前記ベクターがpXMJ19、pECXK99E、pEC-XT99A、pEKEx1、pEKEx2、pVWEx1、pVWEx2、pZ8-1、pECTAC-K99およびpAPE12のいずれか一つを含む、請求項4に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)。
【請求項7】
下記工程:
(1)エキソポリサッカライド合成遺伝子cg0420およびcg0424を段階的または同時にノックアウトする工程、および(2)ヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子、ヘモグロビンVHbをコードする遺伝子、およびpgM、ugd、galU、glmS、glmMおよびglmUから選択される少なくとも一つの遺伝子をベクターにライゲートしてコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の細胞中に形質転換される工程、
を含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の構築方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を使用して発酵を実施し、炭素源、窒素源、無機塩類、金属イオンおよび酸素を含む培養環境下で、25~35℃で24~72時間発酵を行うことを特徴とする、ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項9】
ヒアルロン酸加水分解酵素またはヒアルロン酸リアーゼを発酵初期の段階で添加し、前記ヒアルロン酸加水分解酵素またはヒアルロン酸リアーゼの添加量が500~50000U/mLである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
グルコースが前記発酵の工程中で補充されることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
ヒアルロン酸およびその誘導体生成物の調製における、請求項1からのいずれか一項に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、高純度ヒアルロン酸およびそのオリゴ糖を効率的に合成するための組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に関し、生体工学の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンおよびグルクロン酸から構成される二糖類単位が重合することによる直鎖の酸性ムコ多糖類である。超高分子量のヒアルロン酸は、良好な粘弾性、保湿性および抗炎症性などの機能を有し、眼科手術における粘弾性剤、関節内注入による治療などに使用され得る。高分子量のヒアルロン酸は保湿効果および潤滑効果に優れ、化粧品分野で使用され得る。高純度のヒアルロン酸およびオリゴ糖は、抗腫瘍、創傷治癒促進、骨形成および血管新生促進、および免疫調整などの作用を有する。2016年、ヒアルロン酸の世界市場は72億米ドルであり、および2020年には世界全体で108億米ドルに達すると予測される。
【0003】
現在、市販のヒアルロン酸は、天然にヒアルロン酸を産生するスプレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)の発酵により主に得られる。しかしながら、スプレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)は病原性のある菌株であり、多くの疾患を引き起こし得るため、スプレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)により産生されるヒアルロン酸は、医療、食品およびその他の分野の要求を満たすことが困難であった。さらに、それらから産生されるヒアルロン酸は、低純度を有し、製品の品質が低下する。この問題を解決するため、遺伝子工学技術が枯草菌(Bacillus subtilis)およびコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などのいくつかの工学菌株にヒアルロン酸合成酵素を異種発現させて、ヒアルロン酸を合成することに使用された。しかしながら、枯草菌(Bacillus subtilis)自体は細胞溶解性の傾向があり、および細胞溶解により放出されたDNAがヒアルロン酸生成物へのコンタミネーションを引き起こすことになる。対照的に、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は枯草菌(Bacillus subtil)より細胞壁が厚く、耐性が強く、および細胞の安定性が高い。しかしながら、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は細胞外でより多くのエキソポリサッカライドを合成することになる。これらのポリサッカライドはヒアルロン酸合成経路において基質と競合するだけでなく、下流のヒアルロン酸の精製を困難にし、それによってヒアルロン酸生成物の品質を低下させる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の概要
発明の第一目的は、エキソポリサッカライド遺伝子cg0420および/またはcg0424がサイレンシングまたはノックアウトされ、かつヒアルロン酸合成酵素が発現している組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を提供することである;遺伝子cg0420は配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含み;cg0424は配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含み;およびヒアルロン酸合成酵素は(a)、(b)または(c)に示される通りである。
(a)化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)および配列番号3と少なくとも90%の相同性を有するそのアミノ酸配列に由来する酵素;
(b)配列番号3に示されるようなアミノ酸配列を有する酵素。
(c)(a)または(b)に基づいて置換または欠失され、およびヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質。
【0005】
一実施形態において、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のエキソポリサッカライド遺伝子cg0420(配列番号1)およびcg0424(配列番号2)がサイレンシングまたはノックアウトされ、ヒアルロン酸合成酵素が組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)で発現される。
【0006】
一実施形態において、ヒアルロン酸合成酵素は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes) (配列番号3)由来である。
【0007】
一実施形態において、UDP-N-アセチルグルコサミンおよび/またはUDP-グルクロン酸経路はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)において促進される。
【0008】
一実施形態において、UDP-N-アセチルグルコサミン経路は、グルタミン-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、ホスホグルコムターゼ、UDP-N-アセチルグルコサミンピロホスホリラーゼ/グルコース-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼの二機能性酵素を含む。
【0009】
一実施形態において、UDP-グルクロン酸経路は、ホスホグルコムターゼ、グルコース-6-リン酸ウレアアミドトランスフェラーゼ、UDP-グルコースデヒドロゲナーゼを含む。
【0010】
一実施形態において、ホスホグルコムターゼpgm(配列番号4)、グルコース-6-リン酸ウレアアミドトランスフェラーゼGalU(配列番号5)、UDP-グルコースデヒドロゲナーゼUgd(配列番号6)、グルタミンフルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼGlmS(配列番号7)、ホスホグルコムターゼGlmM(配列番号8)、UDP-N-アセチルグルコサミンピロホスホリラーゼ/グルコース-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼの二機能性酵素GlmU(配列番号9)は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440由来である。
【0011】
いくつかの実施形態において、上記で説明した任意のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)において、pgM、ugd、galU、glms、glmMおよびglmUから選択される少なくとも一つの遺伝子発現が促進される。
【0012】
一実施形態において、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は、工業的に安全なコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の菌株由来であり、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のヒアルロン酸合成酵素遺伝子hasAを異種発現させたものである。組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)エキソポリサッカライド遺伝子cg0420およびcg0424をノックアウトして細胞外表面からヘテロポリサッカライドを除去し、発現カセットを構築して経路遺伝子pgM、ugd、galU、glms、glmMおよびglmUの発現を高めることによって、ヒアルロン酸の合成基質である、UDP-N-アセチルグルコサミンおよびUDP-グルクロン酸の産生を増加させたものである。
【0013】
一実施形態において、上記で説明したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のいずれか一つはまた、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の微好気環境での増殖およびヒアルロン酸合成能力を改善するために、VitreoscillaヘモグロビンVHb(配列番号10)を発現する。本発明の第二の目的は、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の構築方法を提供することであり、当該方法は(1)段階的または同時にノックアウトボックスを構築することによりエキソポリサッカライド遺伝子cg0420およびcg0424をノックアウトすること;(2)ヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子およびpgM、ugd、galU、glmS、glmMおよびglmUから選択される少なくとも一つの遺伝子をベクターにライゲートし、これを目的の菌株の細胞に形質転換させること、を含む。
【0014】
一実施形態において、ベクターは、pXMJ19、pECXK99E、pEC-XT99A、pEKEx1、pEKEx2、pVWEx1、pVWEx2、pZ8-1、pECTAC-K99またはpAPE12であってよい(上記ベクターは、Eggeling, L. and Bott, M., Handbook of corynebacterium glutamicum. 2005, Boca Raton: Taylor & Francis. 616 pに開示されている。)
【0015】
一実施形態において、当該方法は、pgm、galU、ugdをベクターpXMJ19にライゲートすることに関する。
【0016】
一実施形態において、当該方法は、glmS、glmM、glmUをベクターpECXK99Eにライゲートすることに関する。
【0017】
本方法の第三の目的は、ヒアルロン酸の製造方法を提供することであり、当該方法は組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を発酵することを含む。
【0018】
一実施形態において、その発酵は24時間~72時間、25~35℃で実施される。
【0019】
一実施形態において、当該方法はまた、発酵の初期にヒアルロン酸加水分解酵素またはヒアルロン酸リアーゼを添加することも含み、ヒアルロン酸加水分解酵素またはヒアルロン酸リアーゼは500~50000U/mLの量で添加される。
【0020】
本発明の第四の目的は、ヒアルロン酸およびその誘導体生成物の調製における組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の使用を提供することである。
【0021】
有益な効果:本発明では、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のヒアルロン酸合成酵素遺伝子hasAを異種発現する工業的に安全な菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)におけるヒアルロン酸の合成経路を構築する。コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のエキソポリサッカライド遺伝子cg0420およびcg0424をノックアウトし、それによって細胞質外表面からヘテロポリサッカライドを除去することによりヒアルロン酸の純度を向上させた。ヒアルロン酸の合成基質であるUDP-N-アセチルグルコサミンおよびUDP-グルクロン酸の合成を増加する経路遺伝子pgM、ugd、galU、glms、glmM、およびglmUの発現を高める発現カセットを構築し、ヒアルロン酸合成時の基質供給不足の課題を解決することによって、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のヒアルロン酸合成能力を高める。また、発酵過程中の溶存酸素不足の問題を解決するために、VitreoscillaヘモグロビンVHbを組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に発現させ、微好気環境での組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の増殖およびヒアルロン酸合成能力を向上させる。cg0420をノックアウトすることにより、ヒアルロン酸の収率および純度の両方がある程度改善された。粗生成物の収率は18g/Lから23g/Lへと27.8%増加し、純度は75%から86%へと増加した。cg0420およびcg0424の両方をノックアウトすることにより、ヒアルロン酸の収率は58.3%増加し、28.5g/Lに達し、粗生成物の純度は95%に達する。ダブルノックアウトおよびVHb発現により、組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の生産能力は40g/Lに達し、オリジナル株と比較して40.3%向上している。ヒアルロン酸のオリゴ糖の生産は、発酵プロセス中に6000U/mLの外来性ヒアルロン酸加水分解酵素を添加することにより達成される。最終的に、ヒアルロン酸の生産能力は72g/Lに達し、オリジナル株に比べて152.6%増加し、これまでに報告された最高生産株より2.5倍高かった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面の説明
図1図1:組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)によるヒアルロン酸産生のための代謝経路および関連酵素。
図2図2:組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)によるヒアルロン酸の収量および純度を示すグラフ。
図3図3:5Lの発酵タンクにおける組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)によるヒアルロン酸の収量を示すグラフ。
図4図4:ヒアルロン酸加水分解酵素を外添した組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の5L発酵タンクにおけるヒアルロン酸の収量を示すグラフ。
図5図5:組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)により産生された二糖類単位のヒアルロン酸のマススペクトル。
【0023】
発明の詳細な説明
株:コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) ATCC13032、プラスミド:pXMJ19、pEC-XK99E、pK18mobSacB
LB培地:イースト粉末5g/L、ペプトン10g/L、および塩化ナトリウム10g/L
BHI:脳心臓抽出物17g/L、ソルビトール21g/L
発酵培地:グルコース:40g/L、コーンスティープ粉末:20g/L、KH2PO4:15g/L、K2HPO4:5g/L、MgSO4:1g/L
【0024】
ヒアルロン酸収量の測定:発酵ブロスを適宜採取して10倍希釈し、10,000rpmで10分間遠心分離し、上清を採取して4×容量の予め冷やしたエタノールを添加し、-20で6時間エタノール沈殿を行い、10,000rpmで10分間遠心分離し、上清を廃棄し、元の容量まで水で再懸濁し、10,000rpmで5分間遠心分離し、沈殿物を廃棄し、上清を採取して、4×容量の予め冷やしたエタノールと混合し、-20で6時間エタノール沈殿を行い、10,000rpmで10分間遠心分離し、上清を廃棄し、元の容量まで水で再懸濁し、10,000rpmで5分間遠心分離し、上清を採取し、沈殿物を廃棄した。上清を採取して50倍希釈し、最終的に500倍希釈した。試料の測定は、試料を直線有効範囲内で希釈し、その後カルバゾール硫酸法により測定した。
【0025】
カバゾール硫酸法による測定:1mL試料を5mLのホウ砂硫酸(500mLの濃H2SO4中に4.77gのホウ砂を溶解した)を含むガラスチューブに添加し、十分に混合し、沸騰水浴中で15分間煮沸した後、氷上で冷却した。250μLのカルバゾール試薬(0.125gのカルバゾールを100mLの完全エタノールに溶解)を加え、よく混合し、沸騰水浴で15分間煮沸した。試料を等量の蒸留水に置き換えた以外は同じ条件でブランクコントロールを調製し、波長530nmの吸光度値を測定した。標準試料として異なる濃度(10、20、30、40、50μg mL-1)のD-グルクロン酸で標準曲線をプロットし、その吸光度値を標準曲線にフィッティングしてヒアルロン酸の含有量を算出した。標準曲線の式:y=126.88x-9.2639、R2=0.9991(x、A530吸光度;y、試料中のグルクロン酸含有量(μg mL-1))。コンドロイチンの収率の計算式:ヒアルロン酸含量(g/L)=(標準曲線で求めた濃度*希釈倍率*2.067)/1000。試料の測定に際しては、直線有効範囲に合わせて試料を希釈した。
【0026】
ヒアルロン酸の分子量の測定:発酵物の上清をアルコール沈殿を繰り返すことで不純物を除去し、高純度のヒアルロン酸を得て、分子量をHPLCにより測定した。
【0027】
LC-MSによるヒアルロン酸の構造の測定:発酵物の上清をアルコール沈殿を繰り返すことにより不純物を除去し、高純度のヒアルロン酸を得た後、このサンプルをヒアルロニダーゼにより37℃で一晩処理し、ヒアルロン酸を二糖類単位に切断した。その後、試料に9倍量の無水メタノールを添加した。不純物および未加水分解ヒアルロン酸を遠心分離で除去し、LC-MSにより二糖類単位の構造を解析する前に、不溶性の不純物を有機膜で濾過した。
【実施例
【0028】
実施例1:組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の構築
(1)遺伝子cg0420およびcg0424のノックアウト
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) ATCC13032のゲノムDNAを鋳型にして、かつ0420-up-Fおよび0420-up-Rをプライマーとして使用し、PCRにより、cg0420から約500bp上流の断片、0420-upを得て、そのPCR産物を精製した。
【0029】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) ATCC13032のゲノムDNAを鋳型にして、かつ0420-down-Fおよび0420-down-Rをプライマーとして使用してPCRにより、cg0420から約500bp下流の断片、0420-downを得て、そのPCR産物を精製した。
【0030】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) スーサイトプラスミド pK18mobsacBをEcoRI/BamhIで二重消化し、消化したpK18mobsacBに0420-upおよび0420-down断片をGibson Assemblyキットで一段階ライゲートし、得られた組換えプラスミドをpK18-0420と名付けた。
【0031】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032はエレクトロポレーションによりプラスミド pK18-0420でトランスフェクションし、およびその電気ショック条件は、電圧1.5KV、5ms(エレクトロポレーション管の幅は1mmであった)であり、その電気ショックは2回実施した。組換え菌の第一スクリーニングは、25mg/Lカナマイシンを含むBHIプレートで行った。陽性組換え菌をピックアップし、液体LB培地で一晩さらに培養した後、100g/Lスクロースを含むBHIプレートで2回目のスクリーニングを実施した。このコロニーに対し、プライマー0420-up-Fおよび0420-down-Rを使用してPCRを行ったところ、0420遺伝子ノックアウト組換え株から1Kbの断片を増幅することができ、この組換え株をC.glutamicumΔ0420と命名した。cg0424遺伝子も上記の方法でノックアウトし、cg0424シングルノックアウト株、cg0420およびcg0424ダブルノックアウト株を得て、それぞれC. glutamicum Δ0420、C. glutamicum Δ0420およびΔ0424と名付けた。
【0032】
それらのなかで、使用されたプライマー配列は次に示す通りである:
0420-UP-F:GCAGGTCGACTCTAGAGGATCCAAGTTTCGAACCATGCTTGAAC(配列番号11)
0420-UP-R:GATCTGATTCTTCGCACCAATAGGCGACATACCGTTTCTAACTGCTCAG(配列番号12)
0420-down-F:CTGAGCAGTTAGAAACGGTATGTCGCCTATTGGTGCGAAGAATCAGATC(配列番号13)
0420-down-R:CTATGACCATGATTACGAATTCTGGACCCTAAACTGAGCAGTGA(配列番号14)
【0033】
(2)遺伝子HasAおよびVHbのインテグレーション
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型にして、かつU-up-FおよびU-up-Rをプライマーとして使用して、PCRにより500bp U-up断片を増幅し、そのPCR産物を精製した。
【0034】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型にして、かつU-down-FおよびU-down-Rをプライマーとして使用して、PCRにより約500bp D-down断片を増幅し、そのPCR産物を精製した。
【0035】
Vitreoscilla(Vitreoscilla stercoraria DSM 513)のゲノムDNAを鋳型にして、かつHasA-FおよびHasA-Rをプライマーとして使用して、PCRにより配列番号10に示す断片を増幅し、そのPCR産物を精製した。
【0036】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)スーサイドプラスミドpK18mobsacBをEcoRI/BamhIで二重消化し、消化されたpK18mobsacBにGibson Assemblyキットで断片U-up、D-down、およびVHbを一段階でライゲートし、得られた組換えプラスミドをpK18-VHBと名づけた。
【0037】
C.glutamicumΔ0420株、C.glutamicumΔ0424株およびC.glutamicumΔ0420 Δ0424株、および野生株は、エレクトロポレーションによりプラスミドpK18-VHBを導入し、電気ショック条件は:電圧1.5KV、5ms、(エレクトロポレーション管の幅は1mmであった)であり、電気ショックは2回実施した。組換え菌の最初のスクリーニングは、25mg/Lのカナマイシンを含むBHIプレートで行った。陽性の組換え体をピックアップし、液体LB培地で一晩さらに培養した後、100g/Lのスクロースを含むBHIプレートで2回目のスクリーニングを行った。そのコロニーにおいてプライマーU-up-FおよびD-down-Rを使用してPCRを行い、HasA遺伝子を組み込んだ組み換え体から1.3Kbの断片を増幅することができ、得られた組み換え株をC.glutamicum-HasAと命名した。VHb遺伝子の組み込みにも上記の方法を使用して、最終的に得られた株はそれぞれC.glutamicumΔ0420-HasA-VHB、Δ0424-HasA-VHB、Δ0420&Δ0424-HasA-VHB、およびWT-HasA-VHBであった。
U-up-F:GCAGGTCGACTCTAGAGGATCCTTAGAAGAACTGCTTCTGAAT(配列番号15)
U-up-R:AATAGGCATGATATACGCTCCTTCGAACACGGCGACACTGAAC(配列番号16)
D-down-F:GTTACCGACGGTTTCTTTCATATTCCAAGCCGGAGAATTTCC(配列番号17)
D-down-R:CTATGACCATGATTACGAA ATGAAAGAAACCGTCGGTAAC(配列番号18)
HasA-F:AAGGAGCGTATATCATGCCTATTTTCAAGAAGACT(配列番号19)
HasA-R:AATAGGCATGATATACGCTCCTTTTATTTAAAAATAGTAACTTTTTTTCTAG(配列番号20)
【0038】
(3)組換えプラスミドpXMJ19-pgm-galU-ugdおよびpECXK99E-glmS-glmM-glmUの構築
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440を3mlのLB液体培地に接種し、30℃、220rpmで24時間培養した。菌を回収し、細胞ゲノム抽出キットでゲノムDNAを抽出した。プライマー pgm-F/pgm-R、galU-F/galU-R、ugd-F/ugd-R、glmS-F/glmS-R、glmM-F/glmM-R、およびglmU-F/glmU-Rを設計し、抽出したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)ゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅系および手順で遺伝子pgm、ugd、galU、glmU、glmSおよびglmMを増幅し、取得した。プラスミドpXMJ19およびpECXK99Eを選択した制限部位で酵素消化し、線状プラスミドpXMJ19およびpECXK99Eを得て、増幅断片pgm、ugd、galUおよび線状プラスミドpXMJ19、およびglmU、glmS、glmMおよび線状プラスミドpECXK99Eについてギブソンアッセンブリー反応を実施した。JM109コンピテントセルをギブソンアッセンブリー反応系で形質転換した。この形質転換体はプラスミド配列決定反応および配列アラインメントのために選択され、組換えプラスミドpXMJ19-pgm-ugd-galUおよびpECX99E-glmU-glmM-glmSを構築することに成功した。当該組換えプラスミドをコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、C.glutamicumΔ0420-HasA-VHB、Δ0424-HasA-VHB、Δ0420&Δ0424-HasA-VHBおよびWT-HasA-VHB、株に電気的形質転換し、得られた組換え株をそれぞれWT、Δ0420、Δ0424およびΔ0420&Δ0424と名づけた。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例2:組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)によるヒアルロン酸の産生
構築された組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のためグルタミカム株WT、Δ0420、Δ0424およびΔ0420&Δ0424の各単クローンを5mlのBHI培地に、200rpm、30℃で一晩接種した。10時間後、接種物の1%を250ml三角フラスコ(25ml発酵培地を含む)に移した。200rpm、28℃でインキュベートした3時間後に、IPTGを最終濃度0.25Mmで添加し、遺伝子発現を誘導した。発酵期間は48時間であった。発酵終了後、上清を取り、4倍量のエタノールを添加してアルコール沈殿を行い、不純物を除去した。アルコール沈殿を2回繰り返した後、カルバゾール硫酸法によりヒアルロン酸の含有量を測定した。図2から、cg0420およびcg0420をノックアウトすることにより、ヒアルロン酸の収量および純度がある程度向上したことを見ることができる。ダブルノックアウト株では、振とうボトルによるヒアルロン酸の収量および純度はそれぞれ6.9g/Lおよび95%まで向上した。
【0042】
実施例3:5L発酵タンクにおける組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の発酵培養
構築された組換えコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)HasA-VGB/pXMJ19-pgm-ugd-galUおよびpECX99E-glmU-glmM-glmS(cg0420およびcg0424ノックアウト)の各単クローンを5mlのBHI培地で、200rpm、30℃、一晩で接種した。10時間後、接種物の1%を250mlの三角フラスコ(25mlの発酵培地を含む)に移した。200rpm、28℃で10時間培養し、接種物の10%を発酵タンクに接種した。発酵中は、グルコースの投入によりタンク内のグルコース含量を約10g/Lに維持し、NaOHの投入によりpHを中性に制御した。発酵20時間後にヒアルロン酸加水分解酵素を最終濃度6000U/mLで外添した。発酵時間は72時間であった。図3から、ヒアルロン酸加水分解酵素を添加無しで、48時間でODは最高レベルに達したことを見ることができる。ヒアルロン酸は24時間から48時間まで急速に蓄積し、60時間後には収量が40g/Lまで上昇した。図4から、4時間から36時間までは対数増殖期であり、菌は急速に増殖し、36時間で定常期に入ったことを見ることができる。さらに、24時間から60時間まで、ヒアルロン酸が急速に蓄積された。図3と比較すると、発酵期間が12時間長くなり、ヒアルロン酸の収量も大幅に増加した。72時間において、ヒアルロン酸の収量は72g/Lに達し、加水分解酵素を添加しない場合より32g/L高く、ODもある程度増加した。
【0043】
比較例
実施例1と同様の戦略で、他の経路競合前駆体のCgl1118(NC_003450.3)およびCgl0452(NC_003450.3)をコードする遺伝子がノックアウトされた。実施例1の工程(2)および(3)に従って構築した組換えプラスミドを、Cgl1118(NC_003450.3)およびCgl0452(NC_003450.3)のノックアウト細胞に形質転換した。実施例2または3の方法に従って発酵を行った。その結果、これらの遺伝子ノックアウト株では、ヒアルロン酸の収量が大幅に減少した。振とうボトルによる収量はわずか3.1g/Lであった。この主な理由は、これらの遺伝子をノックアウトすることにより、菌の増殖に影響を与え、結果として株の増殖が遅くなることである。また、48時間の発酵のOD値は34であり、同じ条件下で培養した野生型株のわずか半分程度であった。
【0044】
本発明を上記の好ましい実施形態とともに開示したものの、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、この技術に精通した者が様々な変更および修正を行うことができる。それゆえ、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって規定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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