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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】オートファジー阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20250305BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250305BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250305BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250305BHJP
   C07C 59/84 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/00
A61P35/00
C07C59/84
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020157505
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051171
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】521103679
【氏名又は名称】株式会社ユニバーサルコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智史
(72)【発明者】
【氏名】五十里 彰
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直浩
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152696(JP,A)
【文献】KEITH BOWDEN et al.,“Structure-Activity Relations”, Advances in Chemistry,1974年08月01日,p.130-140,DOI: 10.1021/BA-1972-0114.CH009
【文献】NUHN P et al.,“[Synthesis of substituted benzoylacrylic acids as potential antagonists of phospholipase A2].”,Die Pharmazie,1999年02月,Vol. 54, No. 2,p.93-98
【文献】遠藤智史、外6名,がんアジュバント薬を指向したシステインプロテアーゼAtg4B阻害剤の創製,日本病態プロテアーゼ学会学術集会プログラム抄録集,24th,2019年,p.41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩を有効成分として含有するオートファジー阻害剤、又は下記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩を有効成分として含有するAtg4B阻害剤を含む、抗癌剤の活性増強剤。
【化1】

(一般式(1)中、nは、2~20の整数である。)
【請求項2】
請求項に記載の抗癌剤の活性増強剤と抗癌剤とを含む、医薬品組成物。
【請求項3】
請求項に記載の抗癌剤の活性増強剤と抗癌剤とを有する、癌治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートファジー阻害剤に関する。より詳しくは、優れたオートファジー阻害活性を有する、新規化合物、オートファジー阻害剤、Atg4B阻害剤、及びこれを用いた抗癌剤の活性増強剤、並びに医薬品組成物、及び癌治療用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍におけるオートファジーの誘導は、異常タンパク質や異常細胞小器官の蓄積、その結果生じる酸化ストレスなどを抑制することで、腫瘍悪性化や抗癌剤耐性獲得に関与するため、オートファジー阻害剤は既存抗癌剤の有効性を高める新規抗癌剤として期待されている。オートファジー阻害剤が抗癌剤として臨床使用されている例はいまだないが、同様に既存の抗癌剤の作用増強を可能にする薬物としてオブジーボ(ニボルマブ)をはじめとする免疫療法薬が挙げられる。癌免疫療法薬の市場規模は大きく、今後も成長すると予測されている。しかしながら、癌免疫療法薬は臨床で優れた治療成績を示すが、有効な患者は約2割と言われており、その他の作用機序を介して既存の抗癌剤の作用増強を可能にする薬物の開発が望まれている。
【0003】
また、オートファジーに関する研究は増加傾向にあり、2017年には5000件を超える関連論文が発表されており(例えば、非特許文献1~3等参照)、いまだ増加傾向にある。しかし、研究試薬として用いられているオートファジー阻害剤はいまだPI3キナーゼ阻害剤とリソソーム阻害剤しかなく、両者はオートファジー選択的な阻害剤ではない。オートファジーという現象を正しく理解するためにはオートファジー選択的阻害剤の開発が必要であり、試薬レベルでもその使用範囲は広いと推測される。なお、既存の医薬のいくつかにオートファジー阻害活性があることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-002619号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Autophagy: from phenomenology to molecular understanding in less than a decade. Klionsky DJ. Nat Rev Mol Cell Biol. 2007 Nov;8(11):931-7. Review.
【文献】The exponential growth of autophagy-related research: from the humble yeast to the Nobel Prize. Mizushima N. FEBS Lett. 2017 Mar;591(5):681-689.
【文献】Development of autophagy inducers in clinical medicine. Levine B, Packer M, Codogno P. J Clin Invest. 2015 Jan;125(1):14-24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、KRAS変異型を含む一部の難治性の腫瘍がオートファジー依存的に生存・進展すると考えられ、オートファジー阻害剤によって腫瘍の封じ込めが可能になると考えられてきた。そのため、リソソーム阻害活性を介するオートファジー阻害剤として知られるクロロキンやヒドロキシクロロキンを用いた既存抗癌剤との併用療法の臨床試験が行われてきた。しかしながら、最近になってクロロキンによる抗癌活性にオートファジーが関与していないことを示す報告も発表され、癌におけるオートファジーの意義について再考する必要性が出てきた。このような事態が引き起こされてきた背景には、いまだオートファジー選択的阻害剤が開発されていないことが考えられる。したがって、オートファジー選択的阻害剤の開発はオートファジーの生理学的、病態生理学的意義の解明において最も重要な課題の一つである。
【0007】
このような実情のもと、本発明では、優れたオートファジー阻害活性を有する、オートファジー阻害剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明では、まず、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩を有効成分として含有するオートファジー阻害剤、又は下記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩を有効成分として含有するAtg4B阻害剤を含む、抗癌剤の活性増強剤提供する。
【化1】

(一般式(1)中、nは、2~20の整数である。)
更に、本発明では、前記抗癌剤の活性増強剤と抗癌剤とを含む、医薬品組成物を提供する。
また、本発明では、前記抗癌剤の活性増強剤と抗癌剤とを有する、癌治療用キットも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたオートファジー阻害活性を有する、オートファジー阻害剤を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験例2の結果を示す図である。
図2】実験例3の結果を示す図である。
図3】実験例4の結果を示す図である。
図4】実験例5の結果を示す図である。
図5】実験例6の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
1.上記一般式(1)で表される化合物又はその塩
本発明に係る化合物は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩である。
本発明に係る化合物は、後述する実施例に示す通り、前立腺癌細胞株を用いた検討において、細胞レベルで飢餓誘導性オートファジーを有意に抑制した。また、既存の抗癌剤の作用増強効果も認められた。したがって、本発明に係る化合物は、既存の抗癌剤の作用増強を可能にする癌アジュバント薬として、また、Atg4B阻害を作用点とするオートファジー阻害剤として実用化可能である。
【0014】
上記一般式(1)において、nは、2~20の整数であり、好ましくは、nは、2、4、6、8~12、14、16~18、又は20であり、より好ましくは、nは、4、6、8~12、14、16~18、又は20であり、更に好ましくは、nは、6、8~12、17、又は18であり、より更に好ましくは、nは、9、10、11、又は17であり、特に好ましくは、nは、10である。
【0015】
塩とは、具体的には、例えば「薬学的に許容される塩」であり、これは、親化合物(塩フリーの化合物)の生物学的有効性を備えており、生物学的に無毒性か、若しくは生物学的に毒性の低い無機又は有機の酸又は塩基の付加塩をいう。前記塩としては、例えば、塩酸、硫酸等との無機酸付加塩;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等との有機酸付加塩;ナトリウム、カリウム等とのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等とのアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミン等との有機アミン塩等が挙げられる。
【0016】
2.オートファジー阻害剤、Atg4B阻害剤
本発明に係るオートファジー阻害剤は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する。本発明に係るオートファジー剤は、上記の一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有しており、且つ、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、後述する薬学的に許容される担体や、既知又は未知の他の有効成分などを含有していてもよい。
【0017】
本明細書において、「オートファジー阻害剤」とは、オートファジーを阻害ないし抑制する剤をいう。
【0018】
本発明に係るオートファジー阻害剤は、オートファジーが関与する各種疾患のための予防又は治療剤として使用することができる。また、研究用試薬として使用できるほか、診断薬等にも使用できる。
【0019】
本発明に係るAtg4B阻害剤は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する。本発明に係るAtg4B阻害剤は、上記の一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有しており、且つ、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、後述する薬学的に許容される担体や、既知又は未知の他の有効成分などを含有していてもよい。
【0020】
本明細書において、「Atg4B阻害剤」とは、Atg4Bの活性を阻害ないし抑制する剤をいう。
Atg4Bは、Autophagin-1とも称され、オートファゴソーム膜の構成成分であるLC3の成熟化に必須なシステインプロテアーゼである。Atg4Bが正常に機能しないと、オートファジーが完結しないことが知られる。したがって、Atg4Bの阻害は合理的なオートファジー阻害の作用点であると考えられている。
【0021】
本発明に係るAtg4B阻害剤は、Atg4Bが関与する各種疾患のための予防又は治療剤として使用することができる。また、研究用試薬として使用できるほか、診断薬等にも使用できる。
【0022】
本発明に係るオートファジー阻害剤及びAtg4B阻害剤の投与対象は、通常、ヒトであるが、本発明では、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ等の家畜も含む。
【0023】
本発明に係るオートファジー阻害剤及びAtg4B阻害剤の投与形態は、固体製剤及び液体製剤のいずれの形態でもよく、例えば注射剤、経口剤(錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤)、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、坐剤等が挙げられる。
【0024】
これらの医薬品組成物の形態とするには、薬学的に許容される担体とともに製剤化することができる。そのような担体としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラ癌ト、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸-水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
前記医薬品組成物中における有効成分の含有量は、製剤の形によって大きく変動するため特に限定されるものではないが、例えば医薬品組成物全量に対して0.001~100質量%とすることができる。
【0026】
3.抗癌剤の活性増強剤
本発明に係る活性増強剤は、前述したオートファジー阻害剤又はAtg4B阻害剤を含む。本発明に係る活性増強剤は、前述したオートファジー阻害剤又はAtg4B阻害剤を含んでおり、且つ、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、前述した薬学的に許容される担体や、既知又は未知の他の有効成分などを含有していてもよい。
【0027】
一般に、オートファジーは生体防御的に誘導される。そのため、抗癌剤処理された細胞はアポトーシスを惹起して細胞死に向かう一方で、自身を保護するためにオートファジーも誘導する。このオートファジーの誘導は、抗癌剤の感受性の低下の原因になることも知られ、オートファジー阻害剤を抗癌剤と併用することで抗癌剤の作用増強につながると考えられている。
【0028】
癌は世界的に主な死亡原因であり、癌の予防及び根治を目指した新規抗癌剤の開発が急務とされている。近年、治療奏効率の優れた抗癌剤が上市されているが、その大半は抗体医薬である。抗体医薬は癌の原因タンパクに直接作用するために高い効果が得られる反面、大量生産が困難などの原因によるその高い薬価が問題となり、金銭上の理由から治療を選択できない患者も多く存在する。そのため、大量生産が容易であり、比較的安価である低分子医薬の開発が望まれる。これに対し、本発明に係る活性増強剤は、化学合成も容易であり、大量生産にも耐えられることが想定されるため、癌治療への適応が得られれば、患者の治療機会の向上、ひいては国民医療費の削減に寄与できると考えられる。
【0029】
本明細書において、「癌」は広義に解釈され、「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち、腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。本発明に係る活性増強剤の対象となる癌は特に制限はされないが、例えば、頭頚部癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、血液癌、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫、血液癌等が挙げられる。本発明では、特に、前立腺癌が好ましく、その中でも特に、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)が好ましい。
【0030】
ホルモン依存性癌の治療にはホルモン療法が有効であるが、先天的に若しくは治療の過程でホルモン感受性が消失した去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)についてはホルモン療法では全く効果がないため、新規抗癌剤の開発が急務とされている。本発明に係る活性増強剤は、後述する実施例に示す通り、CRPC治療薬の活性を増強するため、非常に有用である。
【0031】
本明細書において、「抗癌剤」とは、標的の疾病ないし病態である、癌に対する治療的又は予防的効果を示す薬剤のことをいう。なお、治療的効果には、癌に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等も含まれる。本発明に係る活性増強剤の対象となる抗癌剤は特に限定されないが、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド、酢酸シプロテロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、スピロノラクトン、カンレノン、ドロスピレノン、ケトコナゾール、トピルタミド(フルリジル)、シメチジン等の抗アンドロゲン剤;アビラテロン等のCYP17リアーゼ阻害剤;ドセタキセル、カバジタキセル等のタキサン系抗癌剤等が挙げられる。本発明では、特に、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療薬が好ましく、その中でも特に、アビラテロン、アパルタミド、エンザルタミド、カバジタキセルが好ましい。
【0032】
4.医薬品組成物
本発明に係る医薬品組成物は、前述した活性増強剤と抗癌剤とを含む。本発明に係る医薬品組成物は、前述した活性増強剤及び抗癌剤を含んでおり、且つ、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、前述した薬学的に許容される担体や、既知又は未知の他の有効成分などを含有していてもよい。
【0033】
本発明に係る医薬品組成物は、前述した活性増強剤と、例えば前述した抗癌剤のうち1種と組み合わせた癌治療用の医薬品組成物として調製され、対象に投与し得る。なお、特定の癌に対して複数の抗癌剤の臨床的使用が認められている場合、それらに本発明に係る活性増強剤を組み合わせた抗癌組成物を調製し、用いてもよい。また、異なる2種以上の癌に対して、複数の抗癌剤の投与が行われる場合も、それらに本発明に係る活性増強剤を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
本発明に係る活性増強剤を抗癌剤とともに用いる場合、他の癌治療法と組み合わせて実施することが可能であり、それぞれの治療法を単独で実施したときに比べてより効果的な治療効果が期待できる。例えば、外科的切除と組み合わせて実施する場合は、手術の前後を問わず化学療法を継続することが可能である。また、放射線療法と組み合わせて治療することも可能である。
【0035】
抗癌剤と組み合わせる本発明に係る活性増強剤の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜選択することができ、抗癌剤の抗癌活性を増強する量であれば、特に制限はない。実際には、抗癌剤の所定の投与量に従って、広範囲に変動し得る。
【0036】
本発明に係る活性増強剤と抗癌剤とは、両者を混和後、単一の混合製剤(抗癌組成物)として対象に投与することが好ましい。ただし、それぞれ別の投与経路(例えば、活性増強剤は静脈内投与、抗癌剤は経口投与など)で投与しても同様の治療効果が期待できる。
【0037】
本発明に係る活性増強剤と抗癌剤とを別々に投与する場合、投与する抗癌剤の種類、対象の病状等に合わせてそれぞれの投与量等を決定することが可能である。本発明に係る活性増強剤は、抗癌剤の投与の前、或いは投与の後のいずれでも投与できるが、その投与間隔はあまり長くないのが好ましい。
【0038】
5.癌治療用キット
本発明に係る癌治療用キットは、前述した活性増強剤と抗癌剤とを有する。本発明に係る癌治療用キットは、前述した活性増強剤と抗癌剤とを有しており、且つ、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、その他のものを有していてもよい。
【0039】
本発明に係る癌治療用キットは、例えば本発明に係る活性増強剤を含む第一の収容部と、抗癌剤を含む第二の収容部とを備えるものとすることができる。当該キットにおける「収容部」とは、それぞれの薬剤が混合せずに、独立して存在するために有効な形態であれば特に制限はなく、例えば容器や個別包装形態などであってもよく、一のシート状で独立して区分けされた領域としての形態であってもよい。
【0040】
本発明に係る癌治療用キットは、それぞれの薬剤を単独で投与してもよく、必要時にそれぞれの収容部から本発明に係る活性増強剤と抗癌剤とを取り出して混合し、製剤(抗癌組成物)を調製してもよい。
【実施例
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
<実験例1>化合物の合成
【化2】
【0043】
Ar雰囲気下、アルキルベンゼン (1a-n, 0.252 mmol) のCH2Cl2 (1.5 mL) 溶液に室温にて、無水マレイン酸 (25 mg, 0.252 mmol)、塩化アルミニウム (67 mg, 0.504 mmol) を順次加え、室温にて1時間撹拌を行った。氷冷下、水(1.5 mL) を加え、CH2Cl2 層を分離後、水層を CH2Cl2 (1.5 mL) を用いて3回抽出し、先のCH2Cl2 層と合わせた。合わせた CH2Cl2層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2: 7g, n-hexane : acetone = 3 : 1 ~ 1 : 1) で精製することにより、白色結晶であるAUP誘導体を得た。
【0044】
【化3】




(E)-4-Oxo-4-(4-propylphenyl)but-2-enoic acid (AUP06)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.96 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.68 (2H, sext, J = 7.2 Hz), 2.67 (2H, t, J= 7.2 Hz), 6.88 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.99 (1H, d, J = 16.0 Hz)
【0045】
【化4】



(E)-4-Oxo-4-(4-pentylphenyl)but-2-enoic acid (AUP07)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.90 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.25-1.38 (4H, m), 1.65 (2H, quin, J = 7.6 Hz), 2.69 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.99 (1H, d, J= 15.2 Hz)
【0046】
【化5】



(E)-4-(4-Heptylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP08)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.89 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.24-1.38 (8H, m), 1.66 (2H, quin, J = 7.6 Hz), 2.69 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.90 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.34 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.94 (2H, d, J = 8.0 Hz), 8.01 (1H, d, J= 16.0 Hz)
【0047】
【化6】



(E)-4-(4-Nonylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP09)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.20-1.36 (12H, m), 1.64 (2H, quin, J = 7.2 Hz), 2.69 (2H, t, J = 7.2 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.6 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.98 (1H, d, J= 15.6 Hz)
【0048】
【化7】



(E)-4-(4-Decylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP15)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.21-1.35 (14H, m), 1.64 (2H, quin, J = 7.6 Hz), 2.69 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 8.00 (1H, d, J= 15.2 Hz)
【0049】
【化8】



(E)-4-Oxo-4-(4-undecylphenyl)but-2-enoic acid (AUP01)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.20-1.35 (16H, m), 1.64 (2H, quin, J = 7.2 Hz), 2.69 (2H, t, J = 7.2 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 8.00 (1H, d, J= 15.2 Hz)
【0050】
【化9】



(E)-4-(4-Dodecylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP16)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 6.8 Hz), 1.20-1.34 (18H, m), 1.63 (2H, quin, J = 6.8 Hz), 2.68 (2H, t, J = 6.8 Hz), 6.86 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.98 (1H, d, J= 15.2 Hz)
【0051】
【化10】



(E)-4-Oxo-4-(4-tridecylphenyl)but-2-enoic acid (AUP02)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.20-1.35 (20H, m), 1.60-1.68 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 7.2 Hz), 6.88 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.98 (1H, d, J = 16.0 Hz)
【0052】
【化11】



(E)-4-Oxo-4-(4-pentadecylphenyl)but-2-enoic acid (AUP03)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 6.8 Hz), 1.20-1.35 (24H, m), 1.60-1.66 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 6.8 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.98 (1H, d, J = 15.2 Hz)
【0053】
【化12】



(E)-4-(4-Heptadecylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP04)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.86 (3H, t, J = 6.8 Hz), 1.20-1.34 (28H, m), 1.60-1.67 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 6.8 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.98 (1H, d, J = 15.2 Hz)
【0054】
【化13】



(E)-4-(4-Octadecylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (17)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.86 (3H, t, J = 6.8 Hz), 1.21-1.34 (30H, m), 1.60-1.67 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 6.8 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.99 (1H, d, J = 15.2 Hz)
【0055】
【化14】



(E)-4-(4-Nonadecylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP05)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 6.8 Hz), 1.19-1.33 (32H, m), 1.59-1.66 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 6.8 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.98 (1H, d, J = 15.2 Hz)
【0056】
【化15】



(E)-4-(4-Henicosylphenyl)-4-oxobut-2-enoic acid (AUP10)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.20-1.34 (36H, m), 1.60-1.68 (2H, m), 2.68 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.88 (1H, d, J = 15.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.99 (1H, d, J = 15.2 Hz)
【0057】
<実験例2>各化合物のAtg4B阻害活性評価、及びPLA2阻害活性評価
【0058】
[方法:Atg4B阻害活性評価]
精製したLC3のC末にグルタチオン-S-トランスフェラーゼを融合させたLC3-GSTとAtg4B、阻害剤を混合し、37 ℃ 、3時間インキュベート後にSDS-PAGEを行い染色し、LC3-GSTからLC3とGSTへの変換量を観察した。各バンドはImage Jを用いて定量解析した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加したサンプルを調製した。変換量、変換率 (%) は以下の式により算出した。変換率 (%) は対照群を100%として算出した。
変換量 = (GST + LC3) / (LC3-GST + GST + LC3)
変換率 (%) = (阻害剤添加時の変換量) / (DMSO添加時の変換量) ×100
【0059】
[方法:PLA2阻害活性評価]
EnzChek Phospholipase A2 Assay Kit(@Thermofisher)を用いて、提供された実験プロトコールに基づきPLA2阻害活性を評価した。DMSOを添加したサンプルを対照群とし、各種濃度の化合物を添加したサンプルの対照群の活性に対する阻害%から50%阻害濃度を算出した。
【0060】
[結果及び考察]
Atg4Bに対する50%阻害濃度はアルキル鎖長が長くなるにつれて低下し、アルキル鎖長が11の時に最も小さくなり、アルキル鎖長が11のAUP01が最も強力にAtg4Bを阻害した。更に炭素数が増えるにつれ活性は低下するが、アルキル鎖長が18、19のときにまた活性は上昇した。これは、アルキル鎖長の増加に伴う酵素との相互作用の上昇によって阻害活性が上昇したが、アルキル鎖長15、17と長くなるにつれ脂溶性の亢進による溶解度の低下によって活性が低下し、更にアルキル鎖長18、19では新たな相互作用の獲得によって阻害活性が増強したと考えられた。
【0061】
また、アルキル鎖長18、19ではPLA2に対する50%阻害濃度が、それぞれ0.049±0.013 μM、0.35±0.13 μMである一方で、AUP01はPLA2に対する50%阻害濃度が、3.5±0.3 μMであった。したがって、AUP01は、これらと比較してAtg4Bへの選択性が高いことが示唆された。
【0062】
<実験例3>AUP01のオートファジー阻害活性評価
【0063】
[方法]
前立腺癌LNCaP細胞細胞は37 ℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/ml penicillin-G potassium、100 μg/ml streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液 (pH 7.0) を含むRPMI1640を用いた。両細胞を1 × 106cells/dishで6 cm dishに播種し、24時間後にFBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物AUP01若しくは化合物17を添加した。2時間後にアミノ酸枯渇培地に置換し、更に3時間培養後に細胞をDPBSで回収し、以下のようにウエスタンブロットとDAPGreen染色に供した。
【0064】
[方法:ウエスタンブロット(図2A)]
各種試薬で処理した細胞をDPBSで3回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞はDulbecco’s phosphate buffered saline (DPBS) で洗浄後、8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferにより懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離 (15,000 x g、15分間、4 ℃) し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride (PVDF) 膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、p62とβ-actinに対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit (GE healthcare) を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH)を用いて解析した。
【0065】
[方法:DAPGreen染色(図2B)]
増殖培地に懸濁した細胞を24-well multiplate中に2 × 104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、DAPGreenを添加し、30分間インキュベートした。FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物AUP01を添加した。2時間後にアミノ酸枯渇培地に置換し、更に3時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤 (fluoromount-G) を用いてカバーグラスを固定した。カバーグラスを共焦点レーザー顕微鏡LSM700 (Carl Zeiss) にセットし、蛍光観察を行った。倒立型蛍光顕微鏡の40倍油浸対物レンズを用いて、画像を取り込んだ。
【0066】
[結果及び考察]
3時間のアミノ酸枯渇培地での処理によって、p62の分解とオートファゴソームの生成に起因するDAPGreenのドット状の蛍光の増加が認められ、オートファジーが誘導されていることが示された。AUP01の前処理によってp62発現量は濃度依存的に増加し、リード化合物17よりもその効果は強力であった。またアミノ酸枯渇培地で誘導されたDAPGreen蛍光も減少した。以上のことから、AUP01は培養細胞レベルでオートファジーを阻害することが示された。
【0067】
<実験例4>アビラテロンによるアポトーシスとオートファジーの誘導に関する評価
【0068】
[方法:生細胞数測定]
増殖培地に懸濁したLNCaP細胞を96-well multiplate中に2 × 104 cells/200 μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、培地中に試料を添加して更に24時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40 μM resazurinを添加し、37℃で2‐4時間培養した後、マイクロプレートリーダーModel680 (Bio Rad) を用いて波長570 nm 及び600 nmの吸光度を測定した。細胞生存率 (%) は以下の式により算出した。
細胞生存率 (%) = (S-A) / (B-A) × 100
S : 試料及び細胞を添加したwellの吸光度
A : 培地のみを添加したwellの吸光度
B : DMSO及び細胞を添加したwellの吸光度
【0069】
[方法:ウエスタンブロット]
前立腺癌LNCaP細胞細胞は37 ℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/ml penicillin-G potassium、100 μg/ml streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液 (pH 7.0) を含むRPMI1640を用いた。両細胞を1 × 106 cells/dishで6 cm dishに播種し、24時間後にFBS濃度を2%に変えた10 μM アビラテロン含有培地に置換し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで回収し、以下のようにウエスタンブロットに供した。各種試薬で処理した細胞をDPBSで3回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞はDulbecco’s phosphate buffered saline (DPBS) で洗浄後、8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferにより懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離 (15,000 x g、15分間、4 ℃) し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride (PVDF) 膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、PARP、p62、p-p62 (Ser403)、LC3とβ-actinに対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit (GE healthcare) を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH)を用いて解析した。
【0070】
[結果及び考察]
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療薬として用いられるアビラテロンはLNCaP細胞に対して用量依存的に切断型PARPを生成し、アポトーシス性細胞死が誘導されていることが示された。また、同時にp-p62とLC3-IIの生成が認められたことから、オートファジーも誘導されていることが示された。
【0071】
<実験例5>アビラテロンとAUP01の併用効果
【0072】
[方法:DAPGreen染色(図4A)]
増殖培地に懸濁した細胞を24-well multiplate中に2 × 104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、DAPGreenを添加し、30分間インキュベートした。FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物AUP01を添加した。2時間後に10 μM アビラテロン含有培地に置換し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤 (fluoromount-G) を用いてカバーグラスを固定した。カバーグラスを共焦点レーザー顕微鏡LSM700 (Carl Zeiss) にセットし、蛍光観察を行った。倒立型蛍光顕微鏡の40倍油浸対物レンズを用いて、画像を取り込んだ。
【0073】
[方法:免疫蛍光染色(図4B)]
増殖培地に懸濁した細胞を24-well multiplate中に2 × 104 cells/500 μLずつ播種し、37 ℃、5% CO2条件下で24時間培養後、FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物AUP01を添加した。2時間後に10 μM アビラテロン含有培地に置換し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄した。4% paraformaldehyde phosphate buffer solution 300 μLを加え、10分間固定し、0.1% Triton X-100、100 mM glycineを含むDPBS 300 μLを加え、10分間静置した。0.1% Tween 20、1% BSAを含むDPBS 300 μLを加え、1時間ブロッキングし、DPBSで2回洗浄後、DPBSに300 : 1 に希釈した一次抗体 (抗Caspase-3抗体) 液中に、4 ℃で一晩インキュベートした。PBSで2回洗浄後、DPBSに500 : 1 で希釈したAlexa Fluoro-488標識したウサギ二次抗体液中に、室温で1時間遮光してインキュベートした。PBSで2回洗浄後、余分な水分を除去し、スライドグラス上にマウント剤 (DAPI fluoromount-G) を用いてカバーグラスを固定した。蛍光免疫染色した細胞を、共焦点レーザー顕微鏡LSM700 (Carl Zeiss) にセットし、蛍光観察を行った。倒立型蛍光顕微鏡の40倍油浸対物レンズを用いて、画像を取り込んだ。
【0074】
[方法:ウエスタンブロット(図4CD)]
前立腺癌LNCaP細胞細胞は37 ℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地として5% (v/v) FBS、100 U/ml penicillin-G potassium、100 μg/ml streptomycin sulfate及び10 mM [4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid] HEPES緩衝液 (pH 7.0) を含むRPMI1640を用いた。両細胞を1 × 106 cells/dishで6 cm dishに播種し、FBS濃度を2%に変えた増殖培地に置換し、化合物AUP01若しくはウォルトマニン(Wo)を添加した。2時間後に10 μM アビラテロン含有培地に置換し、更に24時間培養後に細胞をDPBSで2回洗浄し、以下のようにウエスタンブロットに供した。各種試薬で処理した細胞をDPBSで3回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。回収した細胞はDulbecco’s phosphate buffered saline (DPBS) で洗浄後、8 M Urea、10 mM Tris (hydroxymethyl) aminomethane、50 mM Na2H2PO4を含むUrea bufferにより懸濁してソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離 (15,000 x g、15分間、4 ℃) し、その上清を細胞抽出液とした。12.5% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride (PVDF) 膜に転写した。PVDF膜は、1% BSAを用いてブロッキング後、PARPとβ-actinに対する一次抗体とhorseradish peroxidase標識二次抗体と順次反応させた。抗体反応性タンパク質はECL enhanced chemiluminescence detection kit (GE healthcare) を用いた化学発光法により検出した。バンドの濃さはImage J(NIH)を用いて解析した。
【0075】
[方法:生細胞数測定(図4D)]
増殖培地に懸濁したLNCaP細胞を96-well multiplate中に2 × 104 cells/200 μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、AUP01(1 μM; △, 2 μM; ▲)添加2時間後に、5, 10 μM アビラテロンを添加して更に24時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40 μM resazurinを添加し、37 ℃で2‐4時間培養した後、マイクロプレートリーダーModel680 (Bio Rad) を用いて波長570 nm 及び600 nmの吸光度を測定した。
【0076】
[結果及び考察]
アビラテロン処理によって誘導されたオートファジーはAUP01の前処理によって抑制された。また、アポトーシス性細胞死はAUP01の前処理によって増強された。よって、AUP01はアビラテロン処理時に誘導されたオートファジーを阻害することによってアポトーシスを増強したと考えられた。
【0077】
<実験例6>AUP01によるCRPC治療薬の抗癌活性増強効果
【0078】
[方法:生細胞数測定]
増殖培地に懸濁したLNCaP細胞を96-well multiplate中に2 × 104 cells/200 μLずつ播種し、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBSを含む培地に交換し、5 μM AUP01添加2時間後に、アパルタミド(50, 100 μM)、カバジタキセル(10, 20 μM)若しくはエンザルタミド(20, 50 μM)を添加して更に24時間培養した。対照群としてdimethylsulfoxide (DMSO) を添加した細胞を調製した。次に、血清不含及びフェノールレッド不含の培地に交換し、40 μM resazurinを添加し、37℃で2‐4時間培養した後、マイクロプレートリーダーModel680 (Bio Rad) を用いて波長570 nm 及び600 nmの吸光度を測定した。
【0079】
[結果及び考察]
3種の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療薬アパルタミド、カバジタキセル、エンザルタミドに対してもAUP01は有意に抗癌活性を増強させた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、優れたオートファジー阻害活性を有する、新規化合物、オートファジー阻害剤、Atg4B阻害剤、及びこれを用いた抗癌剤の活性増強剤、並びに医薬品組成物、及び癌治療用キットを提供することができる。本発明に係るオートファジー阻害剤等は、化学合成も容易であり、大量生産に適する。したがって、本発明に係るオートファジー阻害剤等を癌治療などに応用することで、患者の治療機会の向上、ひいては国民医療費の削減に寄与できると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5