(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】変性エポキシ樹脂及び塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/58 20060101AFI20250305BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20250305BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250305BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250305BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20250305BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08G59/58
C09D163/00
C09D7/63
C09D7/61
B32B15/092
B32B27/38
(21)【出願番号】P 2021000946
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】細川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】恒川 義朗
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-157950(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038631(WO,A1)
【文献】特開2001-164180(JP,A)
【文献】特開2004-149696(JP,A)
【文献】特開2004-204135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
B32B 1/00/43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)固形エポキシ樹脂と、(a2)液状エポキシ化合物と、(b)アミンと、(c)多価カルボン酸とを反応させて得られる分子構造を有し、
前記(a2)成分が、ポリオールポリグリシジルエーテルである、変性エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記(a1)成分のエポキシ当量が430以上である、請求項1に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項3】
前記(a2)成分のエポキシ当量が330以下である、請求項1又は2に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項4】
前記(a1)成分100質量部に対する前記(a2)成分の量が、2~180質量部である、請求項1~3のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項5】
前記(b)成分が、第1級アミン及び第2級アミンを含む、請求項1~4のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項6】
前記第1級アミンが脂肪族アミンである、請求項5に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項7】
前記脂肪族アミンの炭素数が8以上である、請求項6に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項8】
(a1)固形エポキシ樹脂と、(a2)液状エポキシ化合物と、(b)アミンと、(c)多価カルボン酸とを反応させて得られる分子構造を有し、
前記(b)成分が、第1級アミン及び第2級アミンを含み、
前記第1級アミンが炭素数が8以上の脂肪族アミンである、変性エポキシ樹脂。
【請求項9】
前記(a1)成分のエポキシ当量が430以上である、請求項8に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項10】
前記(a2)成分のエポキシ当量が330以下である、請求項8又は9に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項11】
前記(a2)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項8~10のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項12】
前記(a1)成分100質量部に対する前記(a2)成分の量が、2~180質量部である、請求項8~11のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項13】
前記第1級アミンに対する前記第2級アミンのモル比が、0.3~10である、請求項5~12のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項14】
前記(c)成分が脂肪族多価カルボン酸である、請求項1~13のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項15】
前記脂肪族多価カルボン酸の炭素数が8以上である、請求項14に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項16】
エポキシ基に対するアミノ基水素原子のモル比が0.2以上である、請求項1~15のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項17】
エポキシ基に対するカルボキシル基のモル比が0.8以下である、請求項1~16のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の(I)変性エポキシ樹脂を含む、塗料組成物。
【請求項19】
更に(II)防錆顔料を含む、請求項18に記載の塗料組成物。
【請求項20】
前記(II)成分が、リン酸塩化合物及びモリブ
デン酸塩化合物と、前記リン酸塩化合物及び前記モリブデン酸塩化合物以外の、亜鉛塩化合物、アルカリ土類金属塩化合物及びビスマス化合物とからなる群より選択される、請求項19に記載の塗料組成物。
【請求項21】
前記(II)成分の配合量が、前記(I)成分100質量部当たり25~125質量部である、請求項18又は19に記載の塗料組成物。
【請求項22】
更に(III)エポキシ官能性アルコキシシランを含む、請求項18~21のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項23】
前記(III)成分の配合量が、前記(I)成分100質量部当たり0質量部超24質量部以下である、請求項22に記載の塗料組成物。
【請求項24】
金属基材と、前記金属基材上に設けられた請求項18~23のいずれかに記載の塗料組成物の塗膜と、を含む、積層体。
【請求項25】
前記金属基材の材料が、鉄、アルミニウム、ステンレスからなる群より選択される、請求項24に記載の積層体。
【請求項26】
請求項24又は25に記載の積層体を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エポキシ樹脂及び塗料組成物に関する。より具体的には、本発明は、密着耐久性に優れた塗膜を形成することができる変性エポキシ樹脂及び塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板等の被塗装基材の表面に防錆性能を付与する目的で、塗膜を形成する処理がなされている。塗膜の形成においては、基材上に下塗り塗料(プライマー)の塗膜を形成し、その上に上塗り塗料(トップコート)又は中塗り塗料の塗膜が形成されることがある。これらの塗膜に用いられる樹脂としては様々検討されているが、特にエポキシ樹脂は密着性に優れるものとして、プライマー用樹脂組成物の材料として用いられることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、ビスフェノール型エポキシ樹脂に所定の脂肪族アミン類と他のアミン類とをそれぞれ所定量反応させて得られる変性エポキシ樹脂が、溶剤に対する溶解性に優れ、乾燥性、耐食性、耐水性に優れた塗料に好適であることが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン類との反応物であるアミン変性エポキシ樹脂とジカルボン酸類とを反応させて得られる、所定のアミン価を有する変性エポキシ樹脂を含有する塗料用バインダーが、非鉄合金に対して優れた密着性を示すことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-100431号公報
【文献】特開2001-164180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗膜の密着性は、被塗装基材の防錆保護能を発揮させるための基本的な性能である。さらに、当該基材で構成される物品が使用時に複数種の外部要因に晒されることに鑑みると、防錆保護能を有効に発揮させるためには、塗膜が単に密着性に優れるだけでなく、当該外部要因のそれぞれに抗って密着性を十分維持できる性能まで獲得することが望まれる。しかしながら、これまでの防錆塗料は、複数種の外部要因に十分抗えるほどの密着性は保持していない。例えば、特許文献1に示される技術による塗膜は、衝撃を受けるとクラックから塗膜が剥離してしまい、密着性を維持することができない。また、特許文献2に示される技術による塗膜は、浸水及び塩水に対して密着性を十分に維持することができない。
【0007】
そこで本発明は、衝撃が加えられた場合と、浸水及び/又は塩水に暴露された場合のいずれにおいても優れた密着性を維持できる特性(以下において、この特性を「密着耐久性」とも記載する。)を有する塗膜を形成可能な変性エポキシ樹脂及び塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、固形エポキシ樹脂と、液状エポキシ化合物と、アミンと、多価カルボン酸とを反応させて得られる変性エポキシ樹脂及びこれを用いた樹脂組成物が、密着維持性に優れた塗膜を形成できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (a1)固形エポキシ樹脂と、(a2)液状エポキシ化合物と、(b)アミンと、(c)多価カルボン酸とを反応させて得られる分子構造を有する、変性エポキシ樹脂。
項2. 前記(a1)成分のエポキシ当量が430以上である、項1に記載の変性エポキシ樹脂。
項3. 前記(a2)成分のエポキシ当量が330以下である、項1又は2に記載の変性エポキシ樹脂。
項4. 前記(a2)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である、項1~3のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項5. 前記(a2)成分が、ポリオールポリグリシジルエーテルである、項1~3のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項6. 前記(a1)成分100質量部に対する前記(a2)成分の量が、2~180質量部である、項1~5のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項7. 前記(b)成分が、第1級アミン及び第2級アミンを含む、項1~6のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項8. 前記第1級アミンが脂肪族アミンである、項7に記載の変性エポキシ樹脂。
項9. 前記脂肪族アミンの炭素数が8以上である、項8に記載の変性エポキシ樹脂。
項10. 前記第1級アミンに対する前記第2級アミンのモル比が、0.3~10である、項7~9のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項11. 前記(c)成分が脂肪族多価カルボン酸である、項1~10のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項12. 前記脂肪族多価カルボン酸の炭素数が8以上である、項11に記載の変性エポキシ樹脂。
項13. エポキシ基に対するアミノ基水素原子のモル比が0.2以上である、項1~12のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項14. エポキシ基に対するカルボキシル基のモル比が0.8以下である、項1~13のいずれかに記載の変性エポキシ樹脂。
項15. 項1~14のいずれかに記載の(I)変性エポキシ樹脂を含む、塗料組成物。項16. 更に(II)防錆顔料を含む、項15に記載の塗料組成物。
項17. 前記(II)成分が、リン酸塩化合物及びモリブテン酸塩化合物と、前記リン酸塩化合物及び前記モリブデン酸化合物以外の、亜鉛塩化合物、アルカリ土類金属塩化合物及びビスマス化合物とからなる群より選択される、項16に記載の塗料組成物。
項18. 前記(II)成分の配合量が、前記(I)成分100質量部当たり25~125質量部である、項16又は17に記載の塗料組成物。
項19. 更に(III)エポキシ官能性アルコキシシランを含む、項15~18のいずれかに記載の塗料組成物。
項20. 前記(III)成分の配合量が、前記(I)成分100質量部当たり0質量部超24質量部以下である、項19に記載の塗料組成物。
項21. 金属基材と、前記金属基材上に設けられた項15~20のいずれかに記載の塗料組成物の塗膜と、を含む、積層体。
項22. 前記金属基材の材料が、鉄、アルミニウム、ステンレスからなる群より選択される、項21に記載の積層体。
項23. 項21又は22に記載の積層体を含む物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、密着耐久性を有する塗膜を形成可能な変性エポキシ樹脂及び塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.変性エポキシ樹脂
本発明の変性エポキシ樹脂は、(a1)固形エポキシ樹脂(以下において、「(a1)成分」とも記載する。)と、(a2)液状エポキシ化合物(以下において、「(a2)成分」とも記載する。)と、(b)アミン(以下において、「(b)成分」とも記載する。)と、(c)多価カルボン酸(以下において、「(c)成分」とも記載する。)とを反応させて得られる分子構造を有することを特徴とする。つまり、本発明のエポキシ樹脂は、(a1)成分及び(a2)成分の重合物が(b)成分及び(c)成分で変性された分子構造を有することを特徴とする。以下、本発明の変性エポキシ樹脂について詳述する。
【0012】
以下において、塗膜の「密着耐久性」とは、金属基材(特に、冷間圧延鋼板及び亜鉛メッキ鋼板)上に設けられた塗膜が、衝撃が加えられた場合と、浸水及び/又は塩水に暴露された場合のいずれにおいても金属基材への優れた密着性を維持できる特性をいう。また、「塗膜の塩水に対する密着耐久性」という場合、上述の「密着耐久性」の中でも特に塗膜の塩水に対する密着耐久性を指し、「塗膜の衝撃に対する密着耐久性」という場合、上述の「密着耐久性」の中でも特に塗膜の衝撃に対する密着耐久性を指す。塗膜の「耐屈曲性」とは、塗膜を屈曲させた場合に亀裂の発生を抑制できる特性をいう。塗膜の「耐クラック性」とは、塗膜に衝撃が加えられた場合に亀裂の発生を抑制できる特性をいう。
【0013】
なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は、その両端の値を含む。例えば、30~200nmとの表記は、30nm以上200nm以下であることを意味する。
【0014】
1-1.(a1)固形エポキシ樹脂
(a1)成分である固形エポキシ樹脂は、常温(具体的には25℃)で固形の性状を保つエポキシ樹脂である。なお、本発明において、固形の性状とは、上記常温で流動性及びゲル特性を示さない性状であり、上記常温で流動性及び/又はゲル特性を示す液状及び半固形の性状は除外される。具体的には、固形の性状とは、25℃における硬度が5N以上であることをいう。ここでいう硬度とは、レオテック社製レオメーターで、感圧軸5φ、針入速度2cm/min、針入度3mmで測定した値をいう。また、本発明において、エポキシ樹脂とは、分子中にエポキシ基を2個以上含む化合物をいう。
【0015】
固形エポキシ樹脂の種類としては特に限定されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;テトラフェニルグリシジルエーテルエタン等の多官能性グリシジルエーテル;フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、ナフトール等のフェノール化合物と、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;フェノール化合物とジビニルベンゼンやジシクロペンタジエン等のジオレフィン化合物との付加反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;4-ビニルシクロヘキセン-1-オキサイドの開環重合物の過酸によるエポキシ化物;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0016】
これらの固形エポキシ樹脂の中でも、塗膜の密着耐久性をより一層高める観点から、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(つまり、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの重縮合物)及びビスフェノールF型エポキシ樹脂(つまり、ビスフェノールFとエピハロヒドリンと重縮合物)、より好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。具体例として、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。式(1)中、Rは各々独立に水素原子又はメチル基であり、nは1.8以上の数である。
【0017】
【0018】
(a1)成分の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られるポリスチレン換算分子量)としては、固形性状を与える限りにおいて特に限定されないが、例えば900以上が挙げられる。
【0019】
(a1)成分のエポキシ当量としては、固体性状を与える限りにおいて特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば430以上、好ましくは440以上、より好ましくは470以上が挙げられる。また、塗膜の密着耐久性をより一層高め、塗膜に優れた耐屈曲性を付与する観点から、(a1)成分のエポキシ当量としては、さらに好ましくは590以上、一層好ましくは650以上が挙げられる。特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、(a1)成分のエポキシ当量としては、特に好ましくは790以上、最も好ましくは840以上が挙げられる。
【0020】
(a1)成分のエポキシ当量の範囲の上限としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高め、塗膜に優れた耐屈曲性を付与する観点から、例えば4200以下、好ましくは3800以下が挙げられる。また、塗膜に衝撃に対する耐クラック性を付与し、塗膜の密着耐久性をより一層向上し、及び/又は塗膜の耐屈曲性をより一層高める観点から、(a1)成分のエポキシ当量としては、より好ましくは2100以下、さらに好ましくは1900以下が挙げられる。さらに、塗膜の衝撃に対する耐クラック性をより一層高め、及び/又は塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、(a1)成分のエポキシ当量としては、一層好ましくは1010以下、特に好ましくは960以下が挙げられる。
【0021】
(a1)成分として用いることができる市販品としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、jER1001、jER1002、jER1003、jER1003F、jER1004、jER1004FS、jER1004F、jER1004AF、jER1055、jER1005F、jER1006FS、jER1007、jER1007FS、jER1008、jER1009(以上、三菱化学社製)、エポトートYD-011、エポトートYD-012、エポトートYD-013、エポトートYD-014、エポトートYD-017、エポトートYD-019、エポトートYD-020G(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、EPICLON1050、EPICLON3050、EPICLON4050、EPICLON7050(以上、DIC社製)、DER-661、DER-663U、DER-664、DER-667、DER-668、DER-669(以上、ダウケミカル社製)等が挙げられ;ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、エポトートYDF-2001、エポトートYDF-2004、エポトートYDF-2005RD(以上、新日鉄住金社製)、jER4004P、jER4005P、jER4007P(以上、三菱化学社製)等が挙げられる。
【0022】
変性エポキシ樹脂を構成する成分の総量100質量部に対する(a1)成分が占める比率としては特に限定されないが、密着耐久性をより一層高める等の観点から、例えば25~95質量部、好ましくは60~93質量部、より好ましくは79~90質量部が挙げられる。
【0023】
1-2.(a2)液状エポキシ化合物
(a2)成分である液状エポキシ化合物は、常温(具体的には25℃)で液状の性状を保つエポキシ樹脂である。なお、本発明において、液状とは、上記常温で流動性を示す性状をいい、好ましくは上記常温で粘度が20Pa・s以下、好ましくは10Pa・s以下の低粘性であることをいう。また、本発明において、液状エポキシ化合物とは、分子中にエポキシ基を含む化合物をいい、具体的には、分子中にエポキシ基を2個以上含む液状化合物(つまり液状エポキシ樹脂)と、分子中にエポキシ基を1個含む液状化合物(つまり、一般的に反応性希釈剤として用いられうる化合物)との両方を包含し、これらのいずれかを用いてもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
液状エポキシ樹脂の種類としては特に限定されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;ポリオールポリグリシジルエーテル等の多官能性グリシジルエーテル;フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、ナフトール等のフェノール化合物と、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;フェノール化合物とジビニルベンゼンやジシクロペンタジエン等のジオレフィン化合物との付加反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;4-ビニルシクロヘキセン-1-オキサイドの開環重合物の過酸によるエポキシ化物;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0025】
上記液状のエポキシ樹脂の例示のうち、ビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としては、上記「(a1)固形エポキシ樹脂」において示した式(1)で表される化合物において、Rが各々独立に水素原子又はメチル基であり、nが0.7未満の数のものが挙げられる。
【0026】
上記液状のエポキシ樹脂の例示のうち、重合物の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られるポリスチレン換算分子量)としては、液状性状を与える限りにおいて特に限定されないが、例えば600以下が挙げられる。
【0027】
上記液状のエポキシ樹脂の例示のうち、ポリオールポリグリシジルエーテルは、ポリオールと2以上のグリシジルアルコールとのエーテルである。上記ポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の、炭素数2~30、好ましくは2~22の脂肪族ポリオールが挙げられる。ポリオールポリグリシジルエーテルの具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0028】
これらの液状エポキシ樹脂は、1種単独で用いられてもよいし、複数種の組み合わせで用いられてもよい。
【0029】
分子中にエポキシ基を1個含む液状化合物としては、例えば、単官能性グリシジルエーテル樹脂が挙げられ、具体的には、高級(具体的には、炭素数6以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上)アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。これらの分子中にエポキシ基を1個含む液状化合物は、1種単独で用いられてもよいし、複数種の組み合わせで用いられてもよい。
【0030】
これらの液状エポキシ化合物の中でも、塗膜の密着耐久性をより一層高める観点から、好ましくは液状エポキシ樹脂が挙げられ、好ましくは(a21)ビスフェノール型エポキシ樹脂(以下において、「(a21)成分」とも記載する。)及び多官能性グリシジルエーテルが挙げられ、より好ましくは多官能性グリシジルエーテルが挙げられ、さらに好ましくは(a22)ポリオールポリグリシジルエーテル(以下において、「(a22)成分」とも記載する。)が挙げられ、一層好ましくはポリオールと2個グリシジルアルコールとのエーテル(つまり、ポリオールジグリシジルエーテル)が挙げられる。
【0031】
(a2)成分のエポキシ当量としては、液状性状を与える限りにおいて特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば330以下が挙げられる。特に(a22)成分のエポキシ当量としては、塗膜の密着耐久性を高める観点から、好ましくは300以下、より好ましくは280以下、さらに好ましくは220以下が挙げられ、(a21)成分のエポキシ当量としては、塗膜の密着耐久性を高める観点から、好ましくは200以下が挙げられる。特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、(a2)成分のエポキシ当量としては、一層好ましくは165以下、より一層好ましくは150以下が挙げられる。(a2)成分のエポキシ当量の範囲の下限としては特に限定されないが、例えば100以上、好ましくは120以上が挙げられる。
【0032】
(a2)成分として用いることができる市販品としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品として、jER827、jER828、jER828EL、jER828XA、jER834(以上、三菱化学社製)、エポトートYD-115、エポトートYD-115G、エポトートYD-115CA、エポトートYD-118T、エポトートYD-127、エポトートYD-128、エポトートYD-128G、エポトートYD-128S(以上、新日鉄住金化学社製)、EPICLON840、EPICLON840-S、EPICLON850、EPICLON850-S(以上、DIC社製)等が挙げられ;ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品として、jER806、jER806H、jER807(以上、三菱化学社製)等が挙げられ;ポリオールポリグリシジルエーテルとしては、エポライト40E、エポライト100E、エポライト200E、エポライト400E、エポライト70P、エポライト200P、エポライト400P、エポライト1500NP、エポライト1600、エポライト80MF、エポライト100MF(以上、共栄社化学株式会社)等が挙げられる。
【0033】
(a1)成分100質量部に対する(a2)成分の量としては特に限定されないが、密着耐久性を高める観点から、例えば2~180質量部、好ましくは2.7~100質量部、より好ましくは4~40質量部、さらに好ましくは5~8質量部、一層好ましくは5.5~7質量部、又は5.7~6.5質量部が挙げられる。
【0034】
変性エポキシ樹脂を構成する成分の総量100質量部に対する(a1)成分及び(a2)成分の総量が占める比率としては特に限定されないが、密着耐久性をより一層高める等の観点から、例えば74~97質量部、好ましくは80~95質量部、さらに好ましくは85~93質量部が挙げられる。
【0035】
1-3.(b)アミン
(b)成分であるアミンの例としては特に限定されないが、例えば第1級アミン及び第2級アミン等が挙げられる。また、アミンの別の種類における例としては、モノアミン及びジアミン(異なる2個の炭素原子それぞれにアミノ基が結合した化合物)等が挙げられる。さらに、アミンのさらに別の種類における例としては、脂肪族(非環式の脂肪族)アミン、脂環族(環式の脂肪族)アミン、芳香族アミン等、より具体的には、炭素数1以上の脂肪族アミン、炭素数5以上の脂環族アミン、炭素数6以上の芳香族アミン等が挙げられる。
【0036】
アミンの具体例としては、第1級アミンとして、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の炭素数1以上の脂肪族モノアミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ノルボニルアミンなどの炭素数5以上の脂環族モノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサンジアミン等の炭素数2以上の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン等の炭素数5以上の脂環族ジアミン;トルイジン、キシリジン、クミジン(イソプロピルアニリン)、ヘキシルアニリン、ノニルアニリン、ドデシルアニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン等の炭素数6以上の芳香族アミン等が挙げられ、第2級アミンとして、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の炭素数2以上の第2級脂肪族モノアミン等が挙げられる。これらのアミンは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0037】
これらのアミンの中でも、密着耐久性を高める観点から、(b)成分としては、好ましくは第1級アミン及び第2級アミンが組み合わされて用いられ、より好ましくは、当該第1級アミン及び当該第2級アミンがいずれもモノアミンであり、さらに好ましくは、当該第1級アミンが脂肪族アミン(脂肪族モノアミン)であり、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、当該脂肪族アミンの炭素数は好ましくは8以上である。当該脂肪族アミンの炭素数範囲の上限としては特に限定されないが、例えば22以下、好ましくは12以下が挙げられる。当該第2級アミンの炭素数範囲の上限としては特に限定されないが、例えば24以下、好ましくは16以下、さらに好ましくは10以下が挙げられる。
【0038】
また、(b)成分として、第1級アミン及び第2級アミンが組み合わされて用いられる場合、第1級アミンに対する第2級アミンのモル比(第2級アミンのモル数/第1級アミンのモル数)としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば0.3~10、好ましくは0.5~8が挙げられ、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、より好ましくは0.7~5、さらに好ましくは0.9~3、一層好ましくは1~2が挙げられる。
【0039】
変性エポキシ樹脂のエポキシ基1に対するアミノ基水素原子のモル比(アミノ基水素原子のモル数/エポキシ基のモル数)としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上が挙げられ、塗膜の密着耐久性に加えて耐屈曲性を高める観点から、さらに好ましくは0.7以上、一層好ましくは0.75以上が挙げられる。変性エポキシ樹脂のエポキシ基に対するアミノ基水素原子のモル比範囲の上限としては特に限定されないが、密着耐久性を高める観点から、例えば1以下、好ましくは0.95以下が挙げられ、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.85以下、一層好ましくは0.8以下が挙げられる。なお、アミノ基水素原子とは、アミノ基を構成している水素原子をいい、例えば1モルの第1級アミノ基(-NH2)を構成している水素原子は2モルであり、1モルの第2級アミノ基(-NHR)を構成している水素原子は1モルである。
【0040】
1-4.(c)多価カルボン酸
(c)成分である多価カルボン酸の例としては特に限定されず、例えば、脂肪族多価カルボン酸、脂環族多価カルボン酸、及び芳香族多価カルボン酸が挙げられる。
【0041】
脂肪族多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3,6-ヘキサントリカルボン酸等の炭素数2以上の脂肪族多価カルボン酸が挙げられ;脂環族多価カルボン酸としては、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素数7以上の脂環族多価カルボン酸が挙げられ;芳香族多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、ナフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸、メリット酸等の炭素数8以上の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0042】
これらの多価カルボン酸の中でも、塗膜の密着性を高める観点から、好ましくは脂肪族多官能カルボン酸及び脂環族多官能カルボン酸が挙げられる。また、塗膜の密着耐久性、特に衝撃及び/又は塩水に対する密着耐久性をより高める観点、並びに/若しくは、塗膜の耐屈曲性を高める観点から、より好ましくは脂肪族多官能カルボン酸が挙げられ、さらに好ましくは脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。さらに、特に塗膜の衝撃及び/又は塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、一層好ましくは炭素数8以上の脂肪族多官能カルボン酸、より一層好ましくは炭素数8以上の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0043】
変性エポキシ樹脂のエポキシ基に対するカルボキシル基のモル比(カルボキシル基のモル数/エポキシ基のモル数)としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば0.8以下、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.4以下が挙げられ、塗膜の密着耐久性を高めるとともに耐屈曲性も高める観点から、さらに好ましくは0.3以下、一層好ましくは0.23以下が挙げられる。変性エポキシ樹脂のエポキシ基に対するカルボキシル基のモル比範囲の上限としては特に限定されないが、密着耐久性を高める観点から、例えば0.05以上、好ましくは0.09以上が挙げられ、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、より好ましくは0.14以上、さらに好ましくは0.18以上が挙げられる。
【0044】
1-5.変性エポキシ樹脂の合成
上記の変性エポキシ樹脂の合成方法としては、上記(a1)成分及び上記(a2)成分を重合させ且つ(b)成分及び(c)成分により変性する限りにおいて特に限定されず、公知のエポキシ樹脂の重合工程並びにアミン変性工程及び酸変性工程を任意に組み合わせればよい。
【0045】
特に、密着耐久性を高める観点から、上記の変性エポキシ樹脂の合成方法は、まず、上記(a1)成分及び上記(a2)成分を重合し且つ(b)成分で変性する工程と、その後、(c)成分で変性する工程とにより行うことが好ましい。この場合、より具体的には、溶媒中に、(a1)成分、(a2)成分及び(b)成分を含む反応液中で、好ましくは90~130℃、より好ましくは100~120℃の温度条件で反応を行い、その後、反応液に(c)成分を追加し、好ましくは110~140℃、より好ましくは120~130℃の温度条件で反応を行うことにより、変性エポキシ樹脂を合成することができる。
【0046】
変性エポキシ樹脂の合成に用いられる溶媒としても特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、N-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール溶媒;α-又はβ-テルピネオール等のテルペン溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン等のケトン溶媒;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート等の酢酸エステル溶媒等が挙げられる。
【0047】
1-6.用途
本発明の変性エポキシ樹脂は、密着耐久性に優れた塗膜を形成することができる。具体的には、本発明の変性エポキシ樹脂は、金属基材(特に、冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板等の鉄基材等)上に塗膜として設けられた状態で、当該塗膜に、衝撃、浸水、及び/又は塩水といった外部刺激を負荷しても、金属基材上に密着した状態を維持する特性に優れている。従って、本発明のエポキシ樹脂は、金属基材上に塗布する塗料組成物、好ましくは防錆用塗料組成物、より好ましくは一次防錆用塗料組成物の有効成分として用いることができる。
【0048】
2.塗料組成物
上記の本発明の変性エポキシ樹脂は、密着耐久性に優れた塗膜を形成することができる。従って、本発明は、上記の(I)変性エポキシ樹脂(以下において、「(I)成分」とも記載する。)を含む塗料組成物も提供する。本発明の塗料組成物は、好ましくは下塗塗料組成物として用いることができる。
【0049】
2-1.(I)変性エポキシ樹脂
(I)成分である変性エポキシ樹脂については、上記「1.変性エポキシ樹脂」で述べた通りである。
【0050】
2-2.(II)防錆顔料
本発明の塗料組成物は、上記(I)成分に加えて、(II)防錆顔料(以下において、「(II)成分」とも記載する。)を含むことができる。
【0051】
(II)成分としては、防錆顔料として公知の成分を特に限定されることなく用いることができるが、具体例としては、(II-1)リン酸塩化合物、(II-2)モリブテン酸塩化合物、(II-3)亜鉛塩化合物(但し、前記(II-1)化合物及び前記(II-2)化合物以外)、(II-4)アルカリ土類金属塩化合物(但し、前記(II-1)化合物及び前記(II-2)化合物以外)、及び(II-5)ビスマス化合物(但し、前記(II-1)化合物及び前記(II-2)化合物以)等が挙げられ、これらの1種又は複数種を適宜選択することができる。
【0052】
(II-1)化合物であるリン酸塩化合物としては、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸鉄、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸塩;リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸鉄、リン酸アルミニウム等のリン酸塩;ポリリン酸亜鉛、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸マグネシウム、ポリリン酸アルミニウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。特に、ポリリン酸アルミニウムとしては、金属化合物(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ビスマス、コバルト、スズ、ジルコニウム、チタニウム、ストロンチウム、銅、鉄、リチウム、アルミニウム、ニッケル、及びナトリウムの塩化物、水酸化物、炭酸化物、硫酸物等)で処理されたトリポリリン酸二水素アルミニウムが挙げられる。亜リン酸塩の市販品としては、EXPERT NP-1500、NP-1530、EXPERT NP-1600(東邦顔料株式会社製)等が挙げられ;リン酸塩、特にリン酸亜鉛の市販品としては、ZP-DL、P-WF、P-W-2、D-1、ZP-50S、ZP-SB、ZP-HS、MZP-500、MP-620PMG、ZP-600(キクチカラー株式会社製)、EXPERT NP-530(東邦顔料株式会社製)等が挙げられ;縮合リン酸塩、特にポリリン酸アルミニウムの市販品としては、K-WHITE140、K-WHITE Ca650、K-WHITE#450H、K-WHITE G105、K-WHITE#105、K-WHITE#108、K-WHITE#82、K-WHITE#84S(テイカ株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
(II-2)化合物であるモリブテン酸塩化合物としては、モリブデン酸カルシウム、モリンブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム及びモリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。モリブテン酸塩化合物、特にモリブデン酸アルミニウムの市販品としては、LFボウセイPM-300c、PM-303W(キクチカラー株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
(II-3)化合物である亜鉛塩化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。亜鉛塩化合物の市販品としては、酸化亜鉛1種(堺化学工業株式会社製)、酸化亜鉛3種(本荘ケミカル株式会社製)、Sachtolich HD (硫化亜鉛;商品名;Sachleben Chemie GmbH製)、塩化亜鉛(株式会社長井製薬所製)が挙げられる。
【0055】
(II-4)化合物であるアルカリ土類金属塩化合物としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等のアルカリ金属の、酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩等が挙げられる。また、アルカリ土類金属塩化合物は、脂肪酸、ロジン酸、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。アルカリ土類金属塩化合物、特に炭酸カルシウムの市販品としては、NS#2300、NS#1000、NS#400、NS#100(日東粉化工業株式会社製)、白艶華CC、白艶華CCR、白艶華DD、Vigot10、Vigot15、白艶華U(白石カルシウム株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
(II-5)化合物であるビスマス化合物としては、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス及び有機酸ビスマス等が挙げられる。
【0057】
上記の防錆顔料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上記の防錆顔料の中でも、塗膜の密着耐久性を高める観点から、好ましくは(II-1)化合物、(II-3)化合物、及び/又は(II-4)化合物が挙げられ、より好ましくはポリリン酸アルミニウム、酸化亜鉛、及び/又は炭酸カルシウムが挙げられる。
【0059】
上記の防錆顔料の中でも、塗膜の密着耐久性を高める観点から、少なくとも(II-1)化合物を用いることが好ましく、特に塗膜の浸水及び/又は塩水に対する密着耐久性を高める観点から、(II-1)化合物に、(II-3)化合物及び/又は(II-4)化合物を組み合わせることがより好ましく、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、(II-1)化合物に、(II-3)化合物及び(II-4)化合物を組み合わせることがさらに好ましい。また、これらの場合において、(II-1)化合物としてはポリリン酸アルミニウムが特に好ましく、(II-3)化合物としては酸化亜鉛が特に好ましく、(II-4)化合物としては炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0060】
本発明の塗料組成物において、(I)成分100質量部に対する(II)成分の総量としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば25~125質量部、好ましくは30~115質量部、より好ましくは45~105質量部、さらに好ましくは60~95質量部、一層好ましくは75~85質量部が挙げられる。
【0061】
2-3.(III)エポキシ官能性アルコキシシラン
本発明の塗料組成物は、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性を高める観点から、上記(I)成分に加えて、又は上記(I)成分及び上記(II)成分に加えて、更に(III)エポキシ官能性アルコキシシラン(以下において、「(III)成分」とも記載する。)を含むことが好ましい。
【0062】
エポキシ官能性アルコキシシランとは、1分子中にエポキシ基と加水分解性シリル基とを有する化合物をいう。エポキシ官能性アルコキシシランの具体例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。式中、R1はグリシジル基を有する1価の有機基であり、R2及びR3は各々独立に炭素数1~5のアルキル基であり、sは1~10の整数であり、tは0~2の整数である。
【0063】
【0064】
上記(2)で表されるエポキシ官能性アルコキシシランのより具体的な例としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、4-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、4-グリシドキシブチルトリエトキシシラン等、及びこれらの縮合物等が挙げられる。
【0065】
本発明の塗料組成物において、(I)成分100質量部に対する(III)成分の量としては特に限定されないが、塗膜の密着耐久性を高める観点から、例えば0質量部超24質量部以下、好ましくは0質量部超18質量部以下、より好ましくは0質量部超12質量部以下が挙げられ、特に塗膜の塩水に対する密着耐久性をより一層高める観点から、さらに好ましくは4~11質量部、一層好ましくは7~11質量部、より一層好ましくは9~11質量部が挙げられる。
【0066】
2-4.他の成分
本発明の塗料組成物には、上記(I)成分、及び必要に応じ添加される上記(II)成分及び/又は(III)成分以外に、防錆性能及び密着耐久性に悪影響を及ぼさない範囲で、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、溶媒(上記「1-5.変性エポキシ樹脂の合成」において述べた溶媒と同様)、体質顔料(例えば、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等)、白色顔料(例えば、酸化チタン等)、着色顔料、可塑剤、顔料分散剤、表面調整剤、消泡剤、増粘剤、飛散防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0067】
本発明の塗料組成物において、溶媒の含有量としては特に限定されないが、例えば20~60質量%、好ましくは30~50質量%、より好ましくは35~45質量%が挙げられる。
【0068】
3.積層体
上記の本発明の塗料組成物は、密着耐久性に優れた塗膜を形成することができる。具体的には、本発明の変性エポキシ樹脂は、金属基材上に塗膜として設けられた状態で、当該塗膜に、衝撃、浸水、及び/又は塩水といった外部刺激を負荷しても、金属基材上に密着した状態を維持する特性に優れている。従って、従って、本発明は、金属基材と、前記金属基材上に設けられた上記の塗料組成物の塗膜とを含む積層体も提供する。
【0069】
金属基材の材料としては、鉄、アルミニウム、ステンレス等が挙げられるが、本発明の塗料組成物により形成される塗膜が、優れた密着耐久性によって優れた防錆効果を奏するため、本来腐食しやすい鉄であることが特に好ましい。鉄基材のより具体的な例としては、鋼鉄(冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼等)、鋳鉄(球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等)、表面処理鋼板(亜鉛メッキ鋼板、リン酸亜鉛処理鋼板、ジルコニウム処理鋼板等)が挙げられる。アルミニウム基材としては、Al1085、Al1050、Al1100、Al2017、Al2024、Al3003、Al5052、Al5056、Al5062、Al6061、Al6063、Al7075等が挙げられる。ステンレス基材としては、オーステナイト系ステンレス(SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS403、SUS420、SUS630等)、フェライト系ステンレス(SUS405、SUS430、SUS430LX等)等が挙げられる。
【0070】
上記の塗料組成物の塗膜の厚みとしては、例えば5~40μm、好ましくは10~38μm、より好ましくは20~36μm、さらに好ましくは25~32μmが挙げられる。
【0071】
本発明の積層体は、金属基材表面に、上記の塗料組成物を塗装することで、塗料組成物層を積層する工程と、塗料組成物層を乾燥及び硬化することで塗膜を形成する工程とにより作製することができる。塗装方法としては特に限定されず、例えば、エアスプレー、エアレススプレー等の従来公知の方法を用いることができる。乾燥及び硬化の条件としても特に限定されないが、例えば10~150℃、好ましくは20~100℃で、5~30分、好ましくは10~20分の条件が挙げられる。
【0072】
本発明の積層体は、上記の塗料組成物の塗膜を下塗り塗膜とし、さらに、当該下塗り塗膜上に上塗り塗膜が積層されていてもよい。上塗り塗膜としては特に限定されず、例えば、二液型ウレタン塗料、メラミン焼付塗料、アクリル焼付塗料、HAA(β-ヒドロキシアルキルアミド)硬化型粉体塗料、ブロックドイソシアネート硬化型粉体塗料等の上塗り塗料の塗膜が挙げられる。
【0073】
上塗り塗膜の厚みとしては、例えば10~90μm、好ましくは20~70μmが挙げられる。
【0074】
4.物品
上記の積層体は、特定の用途及び/又は機能を有する物品の形態で提供されることができる。つまり、本発明は、上記の積層体を含む物品も提供する。
【0075】
本発明の物品としては、例えば、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の構造物、自動車、電車等の車両、工作機械、建設機械、鋼製家具、時計、携帯電話、カメラ等の部品等の、金属基材を用いる物品が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(1)材料
実施例及び比較例の、変性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物1及び樹脂組成物2の製造で用いた材料の詳細は、以下の通りである。
【0078】
【0079】
【0080】
なお、表4A~表7Aにおいて、(a1)成分、半固形エポキシ樹脂、(a2)成分、(b)成分、及び(c)成分の仕込み量を表す数値の単位は「質量部」であり、表8A~表10Aにおいて、(I)成分、(II)成分、(III)成分、及び他の成分の配合量を示す数値の単位も「質量部」である。
【0081】
(1-3)金属基材
・SPCC-SD:冷間圧延鋼板(日本テストパネル社製)
・Zn/鋼板:電気亜鉛メッキ鋼板(日本テストパネル社製)
・ZPO/鋼板:リン酸亜鉛処理鋼板(日本テストパネル社製)
・Zr/鋼板:ジルコニウム処理冷間圧延鋼板(冷間圧延鋼板にジルコニウム処理を行ったものを用意した。)
・アルミニウム:Al5052(TP技研株式会社製)
・ステンレス:SUS304(TP技研株式会社製)
【0082】
(1-4)塗料組成物2の上塗り塗料
・二液型ウレタン塗料:白色の2液硬化型ウレタン塗料(製品名:スターク(R)1、ナトコ株式会社)をカタログ記載の主剤:硬化剤比で混合し、シンナーで適宜希釈して使用した。
・メラミン焼付塗料:白色のメラミン樹脂焼付塗料(製品名:ハイメリット、ナトコ株式会社)をシンナーで希釈して使用した。
・アクリル焼付塗料:白色のアクリル樹脂焼付塗料(製品名:アクリスト(R)Hi、ナトコ株式会社)をシンナーで希釈して使用した。
・HAA硬化型粉体塗料:白色のプリミド硬化型ポリエステル粉体塗料(製品名:エコナ(R)51A、ナトコ株式会社)
【0083】
(2)変性エポキシ樹脂I-1~I-25の合成(塗料組成物1の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、表4A~表7Aの(a1)成分又は半固形エポキシ樹脂、(a2)成分、及び(b)成分をそれぞれ表示の量と、ブチルセロソルブ80質量部と、N-酢酸ブチル90質量部とを仕込み、撹拌しながら110℃まで昇温して1時間保持した。続いてグリコールエーテル溶媒を200質量部、及び表4A~表7Aの(c)成分を表示の量加え、125℃まで昇温して5時間保持することで、変性エポキシ樹脂I-1~I-25を合成した。その後、反応液をグリコールエーテル溶媒及びN-酢酸ブチル(体積比1:1)の混合溶媒で希釈し、変性エポキシ樹脂I-1~I-25を固形分含量40質量%で含む樹脂組成物(以下において、「塗料組成物1」と記載する。)を得た。
【0084】
(3)塗料組成物2の製造
上記(2)で得た塗料組成物1を250質量部(変性エポキシ樹脂I-1~I-25は100質量部)、グリコールエーテル溶媒60質量部、酢酸イソブチル40質量部、並びに、表8A~表10Aに示す(II)成分及び他の成分を表示の量撹拌混合し、混合液を調製した。得られた混合液をチタニアビーズとともにポリエチレン製容器に封入し、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)を用いて2時間分散し、分散液を調製した。得られた分散液に、表8A~表10Aに示す(III)成分を表示の量と、シリコン系表面調整剤(BYK-Chemie社製、BYK-342)0.1質量部とを添加して塗料組成物2を作製した。
【0085】
(4)塗料組成物1の塗膜性能評価
(4-1)試験板の作製
金属基材として、冷間圧延鋼板(SPCC-SD)及び電気亜鉛メッキ鋼板(Zn/鋼板)を、幅75mm、長さ150mm、厚さ0.8mmのサイズで用意し、それぞれの金属基材の表面に、塗料組成物1を、エアスプレーにて乾燥膜厚30μmとなるよう塗布した。その後、20℃雰囲気下で7日間乾燥硬化させることで、金属基材と、金属基材上に設けられた塗料組成物1の塗膜とを含む積層体の形態で、各試験板1を得た。
【0086】
(4-2)密着耐久性評価
(4-2-1)衝撃に対する密着耐久性
デュポン式耐衝撃試験機を使用し、上記(4-1)で得られた各試験板1の塗膜面に対し、おもり重量500g、撃ち型の尖端直径1/2インチ、落下高度50cmの条件で衝撃を負荷した。その後、塗膜の状態を観察し、以下の基準に基づいて評価した。なお、この試験は、温度23℃、相対湿度50%の条件下で行った。
【0087】
◎:クラックが認められなかった
〇:極僅かにクラックが生じたが、塗膜の剥離は認められなかった
△:僅かにクラックが生じたが、塗膜の剥離は認められなかった
×:クラックが生じるとともに、塗膜の剥離が認められた
【0088】
なお、剥離が認められなかった◎、〇及び△の評価の場合は、衝撃に対する密着耐久性が所定の基準を満たしていると評価した。さらに、衝撃に対する密着耐久性が所定の基準で認められた◎、〇及び△の評価の中で、クラックの量に基づき耐クラック性を評価でき、具体的には、◎、〇及び△の順に耐クラック性が優れている(◎が最も優れている)と評価できる。結果を表4A~表7Aに示す。
【0089】
(4-2-2)浸水に対する密着耐久性
JIS K5600-6-2「塗膜の化学的性質―耐液体性(水浸せき法)」に準拠した方法により、試験板1を40℃の温水に表示の時間浸漬した。浸漬後、温水から試験板1を取り出して室温で24時間乾燥させた。その後、JIS K5600-5-6(1999)「塗膜の機械的性質-付着性(クロスカット法)」に基づいた試験を行い、基材に対する密着性を以下の2種の評価基準に基づいて評価した。
【0090】
<評価基準1-JIS K5600-5-6付着性(クロスカット法)評価基準>
【表3】
【0091】
評価基準1により、分類0、分類1及び分類2のいずれかの評価(分類0が最も優れている)である場合に、浸水に対する密着耐久性が所定の基準を満たしていると評価した。結果を表4A~表7Aに示す。
【0092】
<評価基準2-剥離数及びフチ欠け>
クロスカットしたマス100個中、剥離したマスの数(「剥離数」)を数えた。また、フチ欠けの形態を以下の基準で評価した。
◎:カット線の縁及び/又は交点に欠けが認められなかった
〇:カット線の縁及び/又は交点に僅かに欠けが認められた
△:カット線の縁及び/又は交点に欠けが見られ、僅かにマスの剥がれが認められた
×:カット線の縁及び/又は交点に欠けが多数見られ、マスの剥がれが認められた
【0093】
評価基準2により、剥離数が3以下(剥離数が少ないほど優れている)でフチ欠けが◎、〇、△のいずれかの評価(◎が最も優れている)である場合に、浸水に対する密着耐久性が所定の基準を見たしていると評価した。結果を表4A~表7Aに示す。
【0094】
(4-2-3)塩水に対する密着耐久性
各試験板1の塗膜の、試験板端部から約10mm内側の領域において、試験板1の素地(金属基材)に到達するように、幅1mmのカットを2本、対角線上に交差するように施した。カットを施した試験板を用い、JIS K5600-7-1(1999)「塗膜の長期耐久性- 耐中性塩水噴霧性」に準拠した方法で表示の時間塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧後、3時間常温で放置して試験板を乾燥させた。乾燥後の試験板のカットラインを被覆するように、24mm幅の接着テープ(ニチバン社製の工業用セロハンテープ)を気泡が残らないように指先で均一に圧着させた(セロハンテープがカットライン方向に沿いつつ、かつ、カットラインの位置がセロハンテープの中央となるように留意した)。その後、圧着したテープの端を持ち、塗膜面に対して60度の角度で引っ張って、塗膜からテープを剥がした。テープを剥がしたあと、カットライン位置からの塗膜の片側最大剥離幅(最大値は12mm)を計測した。この剥離幅が3mm以下の場合(剥離幅が小さいほど優れている)に、塩水に対する密着耐久性が所定の基準を見たしていると評価した。結果を表4A~表7Aに示す。
【0095】
(4-3)他の密着耐久性評価
金属基材を、リン酸亜鉛処理鋼板(ZPO/鋼板)、ジルコニウム処理鋼板(Zr/鋼板)、Al5052(アルミニウム)、又はSUS304(ステンレス)に変更したことを除いて、上記(4-2-2)及び上記(4-2-3)と同様にして、浸水に対する密着耐久性及び塩水に対する密着耐久性を評価した。結果を表4B~表7Bに示す。
【0096】
(4-4)耐屈曲性評価
JIS K5600-5-1(1999)「塗膜の機械的性質-耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」に準拠した屈曲試験を行って、各試験板1を変形させた。なお、試験はタイプ1の試験装置で、直径3mmの円筒形マンドレルを使用して行った。試験後の塗膜状態について目視観察を行い、以下の基準に基づいて評価した。結果を表4A~表7Aに示す。
【0097】
◎:塗膜に割れが認められない
〇:塗膜に極僅かな亀裂が入る
△:塗膜に亀裂が入る
【0098】
(5)塗料組成物2の塗膜性能評価
(5-1)試験板の作製
冷間圧延鋼板及び電気亜鉛メッキ鋼板(幅75mm、長さ150mm、厚さ0.8mm)それぞれの表面に、樹脂組成物2を、エアスプレーにて乾燥膜厚30μmとなるよう塗布した(下塗塗膜)。続いて、上塗り塗料として二液型ウレタン塗料を塗装して20℃雰囲気下で7日間静置した(上塗塗膜)。これによって、金属基材と、金属基材上に設けられた塗料組成物2の塗膜(下塗塗膜)と、下塗塗膜上に設けられた上塗塗膜とを含む積層体の形態で、試験板2を得た。
【0099】
(5-2)密着耐久性評価
試験板2について、上記(4-2)と同様にして、衝撃に対する密着耐久性、浸水に対する密着耐久性、及び塩水に対する密着耐久性を評価した。結果を表8A~表10Aに示す。
【0100】
(5-3)他の密着耐久性評価
金属基材を、リン酸亜鉛処理鋼板(ZPO/鋼板)、ジルコニウム処理鋼板(Zr/鋼板)、Al5052(アルミニウム)、又はSUS304(ステンレス)に変更し、又は、上塗り塗料を、メラミン焼付塗料(塗装後100℃で20分間焼付けた後20℃雰囲気下で3日間静置することで塗膜を形成した)、アクリル焼付塗料(塗装後120℃で20分間焼き付け、さらに20℃雰囲気下で3日間静置することで塗膜を形成した)、HAA硬化型粉体塗料(コロナ静電塗装ガンで塗装後160℃で20分間焼き付け、さらに20℃雰囲気下で3日間静置することで膜厚60μmの塗膜を形成した)に変更したことを除いて、上記(4-2-2)及び上記(4-2-3)と同様にして、浸水に対する密着耐久性及び塩水に対する密着耐久性を評価した。結果を表8B~表10Bに示す。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】