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特許7644476非晶質パーライトを用いた耐水性ジオポリマー硬化体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】非晶質パーライトを用いた耐水性ジオポリマー硬化体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20250305BHJP
   C04B 14/18 20060101ALI20250305BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C04B28/26 ZAB
C04B14/18
C04B12/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021027067
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128705
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 柱国
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-159740(JP,A)
【文献】特開2020-019681(JP,A)
【文献】特開2019-163196(JP,A)
【文献】特開平06-048808(JP,A)
【文献】特表2013-538104(JP,A)
【文献】特表2019-521059(JP,A)
【文献】特開2013-063866(JP,A)
【文献】特開平09-328374(JP,A)
【文献】特開昭57-027960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラーに、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られるジオポリマー硬化体であって、
前記活性フィラーは、非晶質シリカを含むパーライト粉末単味、又は、前記パーライト粉末と、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ粉末、流動床石炭灰、メタカオリン、下水汚泥焼却灰溶融スラグ粉末、高炉スラグ微粉末のいずれか1種若しくは2種以上とを含むものであり、
前記アルカリ溶液は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるもの、又は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるものに、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩のいずれか1種若しくは2種以上を更に加えてなるものであり、
前記活性フィラー及び前記アルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)が4.0以下であるジオポリマー硬化体。
【請求項2】
活性フィラーに、アルカリ溶液を添加し混練し養生する、ジオポリマー硬化体の製造方法において、
前記活性フィラーとして、非晶質シリカを含むパーライト粉末単味、又は、前記パーライト粉末と、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ粉末、流動床石炭灰、メタカオリン、下水汚泥焼却灰溶融スラグ粉末、高炉スラグ微粉末のいずれか1種若しくは2種以上とを含むものを使用し、
前記アルカリ溶液として、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるもの、又は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるものに、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩のいずれか1種若しくは2種以上を更に加えてなるものを使用し、
前記活性フィラー及び前記アルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)を4.0以下とすることを特徴とするジオポリマー硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジオポリマー硬化体に関し、特に活性フィラーとして非晶質シリカを含むパーライト粉末(本明細書では「非晶質パーライト」ともいう。)を用いた耐水性ジオポリマー硬化体に関する。
なお、本明細書では「ジオポリマー硬化体」のことを単に「ジオポリマー」ともいう。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物や副産物を主原料としたジオポリマーが、低炭素結合材として注目されている。ジオポリマーとは、セメントクリンカーを使用せず、非晶質のケイ酸アルミニウムを主成分とした原料(活性フィラー)とアルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩、水酸化物の水溶液の少なくとも1種類(アルカリ溶液)を用いて硬化させたものである(非特許文献1参照)。
【0003】
上記の従来一般的に使われているアルカリ溶液のほかに、フェロシリコン、金属シリコン及び電融ジルコニア等を製造する際に発生するダスト(シリカヒューム粉末)を固化するためのアルカリ活性剤として、アルカリアルミナ粉末(アルミン酸ナトリウム)又はそれと炭酸ナトリウムの混合粉末を使用する事例が最近報告されている(特許文献1参照)。因みに、この固化方法は、完全に非晶質で高純度二酸化ケイ素をもつ粉末を対象とし、弱いアルカリ活性剤を用いた固化後の強度のみに着目しているものである。
【0004】
従来、我が国においてジオポリマーに用いる活性フィラーとしては、フライアッシュと高炉スラグ微粉末が主流である。特に高炉スラグ微粉末は、ジオポリマーの強度発現性に優れているため多用されている。
高炉スラグ微粉末は石灰石起源のカルシウムを含むものの、二酸化炭素(CO)が既に抜けた後であるので、ジオポリマーの製造工程においては石灰石起源のCOは問題にならない。しかし、セメント産業と同様に、石灰石の使用は、鉄鋼産業のCO排出量が多い理由の一つである。したがって、鉄鋼業界もCO排出量の削減に向けて地道な努力を続けており、製鉄の技術革新により、将来的には石灰石を使用せず、高炉スラグを排出しなくなる可能性がある。そのため、ジオポリマーの安定した原料の供給を考慮しなければならない。
【0005】
一方、流紋岩、真珠岩、黒曜石等の、加熱により膨張する性質をもつガラス質の火山岩であるパーライトは、実質的に無尽蔵である。また、パーライトの天然物は非晶質シリカ(活性シリカ)と結晶質成分を含み、800℃未満の温度で加熱されたものでも、非晶質シリカの存在が維持される。そのため、非晶質のパーライトは、ジオポリマーの原料である活性フィラーとしての利用可能性がある(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-19681号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】公益財団法人 日本コンクリート工学会:建設分野へのジオポリマー技術の適用に関する研究委員会報告書, p.1, 2017.9
【文献】S. T. Erdogan: Properties of ground perlite geopolymer mortars, Journal of Materials in Civil Engineering, 27(7), pp.04014210-1~10, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、詳細は後述するが、単にパーライトを活性フィラーとして用いても、得られたジオポリマー硬化体に吸水劣化を生じるという問題がある。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、活性フィラーとしてパーライトを用いるジオポリマー硬化体の吸水劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、次の1~のジオポリマー硬化体及びその製造方法が提供される。
1.
活性フィラーに、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られるジオポリマー硬化体であって、
前記活性フィラーは、非晶質シリカを含むパーライト粉末単味、又は、前記パーライト粉末と、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ粉末、流動床石炭灰、メタカオリン、下水汚泥焼却灰溶融スラグ粉末、高炉スラグ微粉末のいずれか1種若しくは2種以上とを含むものであり、
前記アルカリ溶液は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるもの、又は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるものに、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩のいずれか1種若しくは2種以上を更に加えてなるものであり、
前記活性フィラー及び前記アルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)が4.0以下であるジオポリマー硬化体。
2.
活性フィラーに、アルカリ溶液を添加し混練し養生する、ジオポリマー硬化体の製造方法において、
前記活性フィラーとして、非晶質シリカを含むパーライト粉末単味、又は、前記パーライト粉末と、フライアッシュ、都市ごみ焼却灰溶融スラグ粉末、流動床石炭灰、メタカオリン、下水汚泥焼却灰溶融スラグ粉末、高炉スラグ微粉末のいずれか1種若しくは2種以上とを含むものを使用し、
前記アルカリ溶液として、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるもの、又は、アルミン酸ナトリウムの水溶液若しくはアルミン酸ナトリウムの粉末に水を加えてなるものに、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩のいずれか1種若しくは2種以上を更に加えてなるものを使用し、
前記活性フィラー及び前記アルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)を4.0以下とすることを特徴とするジオポリマー硬化体の製造方法。
【0010】
ここで、本発明でいう「非晶質シリカを含むパーライト粉末」とは、流紋岩、真珠岩、黒曜石等のパーライトの天然物または800℃以上の熱処理を受けないものを粉砕して得られる粉末で、アルカリ溶液中でジオポリマーの縮重合反応に必要なケイ素(Si4+)を溶出する、非晶質シリカ(活性シリカ)を含むものをいう。なお、以下の説明では、「非晶質シリカを含むパーライト粉末」を単に「パーライト粉末」ともいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性フィラーに、アルカリ溶液を添加し混練し養生して得られるジオポリマー硬化体において、活性フィラー及びアルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)を4.0以下とすることで、ジオポリマー硬化体の吸水劣化を抑制することができると共に、10MPa以上の圧縮強度を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】パーライト粉末のSEM写真。
図2】パーライト粉末を用いたジオポリマーの小角柱試験体の強度に及ぼすアルカリ溶液の影響を示すグラフ。
図3】パーライト粉末を用いたジオポリマーの標準角柱試験体の強度に及ぼすアルカリ溶液の影響を示すグラフ。
図4】パーライト粉末、及びパーライト粉末を用いたジオポリマーのX線回折分析結果。
図5】表3に示すシリーズWN14-NH18のジオポリマーのSEM写真。
図6】表3に示すシリーズWN14-NH18のジオポリマーのEDS分析の結果より作成したAl-SiO-NaOの酸化物の分布図。
図7】表3に示す3シリーズのジオポリマーモルタルの水中浸漬後の外観写真。
図8】パーライト粉末とフライアッシュを活性フィラーとしたジオポリマーモルタルの曲げと圧縮強度を示すグラフ。
図9】パーライト粉末のみを活性フィラーとしたジオポリマーモルタルの強度に及ぼすアルミン酸ナトリウムの混合比の影響を示すグラフ。
図10】パーライト粉末の30質量%をフライアッシュで代替した活性フィラーを用いたジオポリマーモルタルの強度に及ぼすアルミン酸ナトリウムの混合比の影響を示すグラフ。
図11】パーライト粉末の50質量%をフライアッシュで代替した活性フィラーを用いたジオポリマーモルタルの強度に及ぼすアルミン酸ナトリウムの混合比の影響を示すグラフ。
図12】活性フィラーとしてパーライト粉末を用いたジオポリマー硬化体の強度、吸水劣化有無と、活性フィラー及びアルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)との関係を示す図。
図13】表6に示すシリーズFP11-AH41のジオポリマー硬化体のSEM写真。
図14】表6に示すシリーズFP11-AH41のジオポリマー硬化体のEDS分析の結果より作成したAl-SiO-NaOの酸化物の分布図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来一般的に、ジオポリマー(以下「GP」という。)は、活性フィラー(以下「AF」という。)とアルカリ金属のケイ酸塩(ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなど)、アルカリ金属の水酸化物(NaOHやKOHなど)の水溶液の少なくとも1種類のアルカリ溶液(以下「AS」という。)を用いて作製される。
本明細書では、まず従来法に従い、水ガラスと苛性ソーダ水溶液の単体や混合液をアルカリ溶液として、パーライト粉末を活性フィラーとするGPモルタル(以下「パーライトGPモルタル」という。)を作製し、その性能を考察した。
【0014】
1.従来法によるパーライトGPモルタルの作製と性能
1.1 使用材料
本試験に使用した材料を表1に示す。パーライト粉末(以下「PP」という。)は、粒状のパーライトの原石(粗粒率0.67、粒子の最大寸法0.3mm)を、比表面積が6000cm/g前後になるまでボールミルで粉砕したものである。PPの蛍光X線分析(XRF)分析結果を表2に示す。PPの主成分はSiOとAlであることがわかる。また、PPのSEM写真を図1に示す。
一方、ASとしては、モル濃度が10~18mol/Lである4種類の苛性ソーダ水溶液(以下「NH」という。)のいずれか、又はNHとJIS 2号珪酸ソーダ(以下「WG」という。)の混合溶液を使用した。
また、モルタルの細骨材としては、洗浄後の海砂を使用した。海砂の表乾密度は2.57g/cm、吸水率は1.36%、実績率は66.7%、粗粒率は2.90であった。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
1.2 試験体の作製と養生
PPの使用量を節約するため、パーライトGPモルタルの強度に与えるASの影響についての検討には、小さい試験体を用いた。パーライトGPモルタルの調合を表3に示す。使用材料を計量し、粉体と砂をプラスチックビーカーに入れ、1分間手混ぜを行った。その後、ASを加え、2分間練り混ぜた。練り混ぜた後、寸法が2×2×10cmの耐熱塩化ビニール樹脂製型枠に装入してテーブルバイブレータで30秒間締め固めた。さらに、試験体の上面をラップで封緘して80℃の乾燥箱に入れ24時間養生した。その後、試験体の温度が室温になるまで室内に放置し、脱型した。封緘の状態でさらに20±3℃,R.H.60±5%の気中常温養生を24時間行った。強度の試験結果は、使用される試験体の寸法の影響を受けると考えられる。パーライトGPモルタルの強度を明らかにするために、NHのモル濃度(mol/L)がそれぞれ10、16及び18であるシリーズNH0の試料を使って、標準試験体(4×4×16cmの角柱試験体)を作製した。試料の作製においては、モルタルミキサーにて粉体の混合を1分間行い、ASを加え、2分間練り混ぜた。試験体作製時のテーブルバイブレータによる締固め時間は60秒とした。また、試験体の気中常温封緘養生は7日とした。
【0018】
【表3】
【0019】
1.3 測定項目と方法
(1)強度試験
2×2×10cmの小角柱試験体の場合、1本の角柱試験体を2つに切断して圧縮強度を測定した。2つの試験片の寸法は2×2×5cmであった。圧縮強度は2本の小角柱試験体を切断して得られた4つの試験片の平均値とした。
一方、4×4×16cmの標準角柱試験体の場合、まず万能試験機を使用して3点法で曲げ試験を行った。次に曲げ試験後の折片を使い圧縮強度を測定した。曲げ強度は3つ、圧縮強度は6つの標準角柱試験体の結果の平均値とした。
【0020】
(2)SEM分析とX線回折分析
18mol/LのNHを用いたシリーズWN14のパーライトGPペースト硬化体(砂を添加しなかったもので、以下「WN14-NH18」という。)に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)によって内部構造を観察し、併せてEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素分析を行った。また、パーライトGPの化学組成を検討するために、WN14-NH18及び18mol/LのNHのみを用いたシリーズNH0のパーライトGPペースト硬化体に対して、X線回折分析(XRD)を行った。XRD分析の条件として、X線出力は45kV、200mA、入射スリットは1.25deg.、スキャンスピードは5度/分、ステップ幅は0.005度、スキャン範囲は5~60deg.とした。
【0021】
1.4 試験結果及び考察
(1)パーライトGPモルタルの強度及びASの影響
小角柱試験体を用いた圧縮強度の測定結果を図2に示す。シリーズWN41に比べ、シリーズNH0(NHのみ)の方が圧縮強度は高かった。また、シリーズWN14の圧縮強度が最も高かった。この結果より、パーライトGPの強度発現には最適なNH割合が存在することがわかった。すなわち、NHの割合が少ない場合、ASによる刺激が十分ではないためPPからの元素溶出は少なくなり、GPの反応生成物も少なくなる。一方、WGの添加はGPの縮重合反応に必要なSi4+を補充することになるため、ASの刺激能力を大きく低下させない限度でWGを少量添加すれば、GPの強度は向上すると考えられる。
図3は、標準角柱試験体より測定したパーライトGPモルタルの曲げ強度と圧縮強度を示すものである。NHのモル濃度の増加に伴って、曲げ強度と圧縮強度は共に増加することが認められた。図2及び図3の結果により総合的に判断すると、パーライトGP硬化体を作製するためには、NHのモル濃度(mol/L)を10以上とすることが必要であり、強度向上の観点からは14以上とすることが好ましいといえる。これは、WGとNHからなるアルカリ溶液はGPの縮重合反応に必要なAl3+イオンを提供せず、また、PPは強アルカリの刺激を受けないと、Al3+イオンを溶出しないためである。
【0022】
(2)パーライトGPのSEM及びXRD分析の結果
PP、シリーズWN14-NH18及びNH0-NH18のGPのXRD結果を図4に示す。同図に示すように、PP(図4では「パーライト原石」と表記。)のXRDチャートには、2θ=15~35degの範囲にハローピークは見られ、曹長石、玻璃長石、白雲母及び石英などの結晶化合物を表すピークもあった。したがって、PPは非結晶質シリカも結晶物も含むものである。このようにPPは完全な非結晶性鉱物ではなく、結晶物も存在するため、Al3+を溶出するためにはモル濃度(mol/L)が10以上のNHを添加することが必要となると考えられる。一方、上述の2シリーズのGPでは、2θ=20~40deg.の範囲にハローピークが見られ、ハローピークの頂点はおよそ2θ=28deg.の位置にあった。このことより、PP中の非結晶質化合物と違った非結晶物がGPに生成したと考えられる。しかし、PP中の一部の結晶物はGP中にも見られた。すなわち、PPは完全には溶けて反応しなかったと考えられる。特に、Al3+を含有するAlbiteはGPに残っている。また、シリーズNH0-NH18のGPのピークからゼオライトが生成されていることが確認された。
図5に、シリーズWN14-NH18のGPのSEM写真を示す。EDS分析の結果より、画像中央にある粒子は反応しきれないPPであることがわかった。また、EDS分析の結果に基づいて作成したAl-SiO-NaOの酸化物の分布を図6に示す。同図より、パーライトGPではAlの含有量が極めて少なく、NaO・SiOゲルが生成された可能性のあることがわかった。2θ=20~40deg.の範囲のハローピークはNaO・SiOゲルに起因するものであると考えられる。
【0023】
(3)パーライトGPの吸水劣化
表3に示す3シリーズのパーライトGPモルタルを水に1日浸漬すると、図7に示すようにモルタルは膨張を生じ亀裂が見られた。原因は明確にはわかっていないが、アルカリ骨材反応の劣化機構と同じように、アルカリシリカゲル(NaO・SiOゲル)の吸水膨張に起因すると考えられる。すなわち、PPには、非晶質でGPの硬化反応に必要なSiOが多く含まれて、強アルカリ溶液においてSi4+を溶出するが、それに対してAl3+を含有しても、殆ど結晶形態として存在しており、アルカリ溶液におけるAl3+の溶出不足のために、アルカリシリカゲルが生成されたと考えられる。すなわち、強度の観点から、アルカリ金属のケイ酸塩(ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなど)と水酸化物(NaOHやKOHなど)の水溶液をアルカリ活性剤として使って、PPを用いたGP硬化体を作製することができる。しかし、このGP硬化体は、アルカリシリカゲルを含むため、耐水性が劣り、吸湿すると壊れる可能性がある。
【0024】
一方、前述のように、フライアッシュ(以下「FA」)は、Si4+だけでなくAl+3も溶出するため、GPの活性フィラーとして多用されている。そこで、PPのAl3+の溶出不足を補うために、PPの一部をFAで代替してGPモルタルを作製した。GPモルタルの調合を表4に示す。用いたFAは、JIS II種で密度が2.29g/cm、比表面積が4392cm/gであった。また、FAの化学組成を表5に示す。GPモルタルの練混ぜ方法、試験体の作製と養生方法は、前述した方法と同じとした。すなわち、試験体は4×4×16cmで、80℃24時間の気中封緘養生の後、20±3℃,R.H.60±5%の気中封緘養生を1日行った。
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
PPとFAを活性フィラーとしたGPモルタルの曲げと圧縮強度を図8に示す。同図に示すように、FAの代替率が高いほど、GPモルタルの強度は小さくなる傾向が見られた。言い換えれば、FAの代替率を適当に設定すれば、所要の強度をもつGP硬化体を作製できるということである。しかし、この2シリーズのGPモルタルは、水に1日浸漬した後に膨張して亀裂を生じた。このように、単にFAを添加するだけでは、アルカリシリカ反応を完全に抑えることができず、パーライトGPの吸水劣化問題を解決できないことがわかった。すなわち、従来のアルカリ溶液を使う場合には、FAの添加でAl3+の溶出が増加しても、アルカリ溶液とPPに提供されるSi4+の過剰問題を解決できない。
【0028】
2.パーライトGPの吸水劣化対策の検討
従来の製法で作製したパーライトGPの吸水劣化問題を解決するために、ケイ酸ナトリウムを使わず、NHとアルミン酸ナトリウムの水溶液(以下「AN」という。)を混合する溶液をアルカリ溶液として用いる方法を検討した。
用いたANは、比重が1.49g/cm、成分がAl(20.02%)、NaO(18.90%)であった。NHは、PPの溶出性を考え18mol/Lのものを使用した。ANとNHの体積比及びFAの代替率を変化させて、前述した方法で12シリーズのモルタル(表6を参照)を練り混ぜ、4×4×16cmの標準角柱試験体を作製した。そして、80℃24時間の気中封緘養生と20±3℃,R.H.60±5%の1日気中封緘養生を行った後、万能試験機で曲げと圧縮強度を測定した。水中浸漬試験には、直径5cm×高さ10cmの円柱試験体又は2cm×2cm×10cmの小角柱試験体を使用した。浸漬時間は1日とし、水の温度は20±3℃とした。
【0029】
【表6】
【0030】
2.1 強度の試験結果
図9に、PPのみを活性フィラーとしたGPモルタルの曲げ強度と圧縮強度を示す。曲げ強度は小さいため、アルカリ溶液の構成の影響がはっきり見られなかった。しかし、ANとNHの体積比(AN体積/NH体積)が大きいほど、圧縮強度は増加することが認められた。一方、図10図11は、FAがそれぞれ30質量%と50質量%のPPを代替したGPモルタルの曲げと圧縮強度の試験結果を示すものである。図9~11からわかるように、FAを添加すると、GPモルタルの強度は、PPを単独で使用した場合より増加した。また、図10図11からわかるように、FAの代替率にかかわらず、PPのみを活性フィラーとした場合と同様に、ANとNHの体積比(AN体積/NH体積)が大きいほど、圧縮強度が高くなる傾向が見られた。その理由として、非晶質シリカを多く含むPPとFAから、Si4+イオンの溶出は相対的に容易であるため、非常に強いアルカリ刺激ではなくても、Si4+イオンが活性ファイラーから溶出する。そのため、NH割合の増加による強アルカリの刺激で活性フィラーのAl3+イオン溶出を促進することよりも、ANの添加でAl3+イオンを提供することがGPの強度発現にとって好ましい。
【0031】
2.2 水中浸漬試験による劣化状況
各シリーズのGPモルタル硬化体の水中浸漬試験による吸水劣化の有無を表6に記入した。シリーズAH11を水中に浸漬すると、表面劣化を生じた。これに対して、ANの割合が多いシリーズAH10、AH21、AH31及びAH41では劣化を生じなかった。シリーズAH11の場合には、NHの割合が大きいため、強アルカリの刺激でPPからSi4+イオンが多く溶出し、ANより提供されたAl3+イオンが少なく、結局Si4+イオンが過剰になったことが表面劣化の原因であると考えられる。
一方、シリーズFP37-AH11、FP37-AH12及びFP11-AH12の試験体は、吸水による劣化を示した。これも、シリーズAH11の場合と同様に、強アルカリの刺激でPPからSi4+イオンが多く溶出したためであると考えられる。また、シリーズFP37-AH12とFP11-AH12を比べると、FAの代替率の増加に伴って、吸水劣化に与える強アルカリの影響は小さくなる傾向が見られた。これは、FAの使用量の増加に伴い、FAからAl3+イオンの溶出が増加し、過剰なSi4+イオンが減少したためであると考えられる。したがって、AN単味又はANとNHを適当な割合で混合してアルカリ溶液とすれば、パーライトGP硬化体の吸水劣化問題を解決できるといえる。
図12に、パーライトGP硬化体の強度、吸水劣化有無と、活性フィラー及びアルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)との関係を示す。この図12にプロットしたシリーズの詳細を表7に示す。すなわち、表3に示した1シリーズ(NH018)、表4に示した2シリーズ、及び表6に示した12シリーズの合計15シリーズについて図12にプロットした。
図12より、FAの添加有無とアルカリ溶液の組成にかかわらず、SiO/Alモル比が4.0以下であれば、パーライトGP硬化体は、実用上の強度が得られ、吸水劣化が生じないことが認められた。
なお、SiO/Alモル比の下限値は特に限定されないが、GPの縮重合反応にSi4+イオンが不可欠であること、及びPP利用の観点からSiO/Alモル比は2.5以上であることが好ましい。
【0032】
【表7】
【0033】
2.3 SEM分析結果
図13に、シリーズFP11-AH41のSEM写真を示す。またEDS分析の結果に基づいて作成したAl-SiO-NaOの酸化物の分布を図14に示す。SEM画像より多くのFA粒子が確認される。80℃の加温養生を行ってもFAの反応が表層に留まることがわかった。加温養生による試験体の乾燥が、FAのイオン溶出の進行を妨げたと考えられる。図13の右図に示すようにPPとFAの表層が反応して粒子が連結している。湿度が保持される高温蒸気養生を行えば、パーライトGP硬化体の強度は増加する可能性が十分にあると考えられる。FAの溶出が増えれば、ANの添加量を低減することができる。なお、図6図14比較するとパーライトGP硬化体の成分がAl側に移動している傾向がみられ、Al3+イオンの供給増加でN-A-S-Hゲルが生成したと考えられる。
【0034】
3.まとめ
以上の試験結果をまとめると以下の通りである。
1)加温養生をすれば、常用のアルカリ溶液(NH又はNHとWGの混合水溶液)の混合によって、非晶質パーライト粉末(PP)を用いたGP硬化体の作製は可能であるが、吸水劣化の問題がある。
2)NH又はNHとWGの混合水溶液をアルカリ溶液として用いた場合、PPの一部がFAに置換されても、GP硬化体の吸水劣化の問題は解決されない。
3)アルカリ溶液として、AN又はANとNHの混合水溶液を用い、尚かつ活性フィラー及びアルカリ溶液に含まれるSiOとAlのモル比(SiO/Al)を4.0以下とすることにより、吸水劣化の問題が解決されると共に、実用上の強度が得られる。
【0035】
以上、本発明の実施形態において活性フィラーは、PP単味の場合と、PPとFAの混合物の場合があるが、後者の場合、PPと混合するものはFAには限定されず、FAに代えて、又はFAとの併用で、他の活性アルミノシリケート粉末の1種又は2種以上を用いることもできる。他の活性アルミノシリケート粉末としては、都市ごみ焼却灰溶融スラグ粉末、流動床石炭灰、メタカオリン、下水汚泥焼却灰溶融スラグ粉末、高炉スラグ微粉末等が挙げられる。これらの粉末は、いずれもアルカリ溶液中で少なくともAl3+イオンを溶出するものである。
【0036】
また、本発明の実施形態においてアルカリ溶液は、AN単味又はANとNHの混合水溶液としたが、アルミン酸ナトリウムの粉末に水を添加してなるもの、又はアルミン酸ナトリウムの粉末と苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の粉末の混合物に水を添加してなるものとすることもできる。さらに、アルカリ溶液にはアルカリ金属のケイ酸塩(ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等)若しくは炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)を更に含むこともできる。なお、前述のアルカリ溶液においてアルミン酸ナトリウム等の粉末に添加する水は、GPの作製において活性フィラーと混錬するために添加する水とすることができる。
また、活性フィラーからのAl3+イオンの溶出の観点から、アルカリ溶液にNHを添加する場合におけるそのモル濃度(mol/L)は、前述したように10以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましい。一方、NHのモル濃度(mol/L)の上限値は特に限定されないが、GP硬化体の作製作業の安全性及びGP硬化体からの過剰なアルカリ溶出に配慮すると、18以下であることが好ましい。
【0037】
以上の実施形態では80℃の加温養生を行ったが、加温養生の温度は80℃には限定されず、例えば40℃以上の加温養生を行うことができる。
図1
図2
図3
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図12
図13
図14