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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】地下構造物用蓋体受枠
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/14 20060101AFI20250305BHJP
【FI】
E02D29/14 D
E02D29/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021072303
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022166899
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】大波 豊明
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-159113(JP,A)
【文献】実公昭60-003161(JP,Y2)
【文献】特開平07-292327(JP,A)
【文献】特許第6499963(JP,B2)
【文献】特許第4100581(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00
E02D 29/045-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋体によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用蓋体受枠において、
下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有する金属性の枠本体と、
前記内周面に接着剤によって接着され、閉蓋状態において前記地下構造物用蓋体が面接触する防食用シートと、を備え、
前記枠本体が黒色のものであり、
前記防食用シートは灰色のものであり、
前記枠本体と前記防食用シートのおもて面とは、マンセル記号における明度差が3.0以上7.0未満であることを特徴とする地下構造物用蓋体受枠。
【請求項2】
前記枠本体は、鋳鉄製であって、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって、黒色に塗装されたものであり、
前記防食用シートは、二液混合反応型接着剤によって前記内周面に接着された合成ゴムであることを特徴とする請求項1記載の地下構造物用蓋体受枠。
【請求項3】
前記防食用シートは、上端面が黒色のものであり、
前記枠本体と前記防食用シートの上端面とは、マンセル記号における明度差が2.0以内であることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋体受枠。
【請求項4】
前記内周面は、閉蓋状態において、前記地下構造物用蓋体における鍵穴と対向する部分には前記防食用シートが設けられていないものであることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の地下構造物用蓋体受枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋体によって閉蓋されることで開口が塞がれる地下構造物用蓋体受枠に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や上水道、あるいは電力、ガス、通信等における地下埋設物や地下施設等の地下構造物が地上につながる箇所には、地下構造物につながる開口を画定する地下構造物用蓋体受枠と、この地下構造物用蓋体受枠に支持されることで開口を塞ぐ地下構造物用蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットが設置される場合がある。本明細書では、地下構造物用蓋体受枠を受枠と、地下構造物用蓋体を蓋体と、地下構造物用蓋受枠セットを蓋受枠セットと略称する場合がある。また、蓋体が受枠に支持され、開口が塞がれた状態(蓋体が受枠に嵌め込まれた状態)を閉蓋状態と称することがある。
【0003】
前述した地下構造物内は、下水道管路施設など、特に下水が滞留するような箇所で硫化水素等が発生し、腐食雰囲気となりやすい。蓋体や受枠は、一般的に鋳鉄等の金属製のものであり、蓋体の裏面や、閉蓋状態において受枠の露出する箇所は、腐食雰囲気に曝される厳しい環境となるため、それに耐えうる防食性能が要求される。このため、蓋体の裏面や受枠の露出する箇所に、エポキシ樹脂系粉末塗料等を静電塗装して防食塗膜を設ける等の対策が施される場合がある。
【0004】
また、閉蓋状態で面接触する、蓋体の外周面と受枠の内周面(蓋体と受枠の嵌合部分)は、防食塗膜を均一に設けることが困難なうえに、たとえ防食塗膜を設けたとしても蓋体の開閉動作等で干渉(接触)し剥がれてしまい、発錆が生じやすい(腐食しやすい)。このため、本出願人は、受枠の内周面に、合成ゴム等からなる防食用シートを設けた受枠を提案している(例えば、特許文献1等参照)。特許文献1記載の受枠によれば、蓋体の外周面や受枠の内周面と防食用シートとの間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-159113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、受枠の設置工事等において、作業員が、ゴム製等の防食用シートの存在に気付かず、防食用シートの部分も枠本体と同様に金属製のものであると誤認してしまうと、防食用シートを不用意に損傷してしまう虞がある。また、維持管理の点検の際には、防食用シートに損傷や剥がれ等がない状態であることを、容易かつ明確に判別できる手段も望まれる。これらのように、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を、長期にわたり、より安定して防止するための新規な課題を見出したものである。
【0007】
本発明は前記事情に鑑み、受枠の設置工事等における防食用シートの不用意な損傷を防止し、さらに維持管理の点検を容易にする工夫がなされた地下構造物用蓋体受枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を解決する本発明の地下構造物用蓋体受枠は、
地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋体によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用蓋体受枠において、
下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有する金属性の枠本体と、
前記内周面に接着剤によって接着され、閉蓋状態において前記地下構造物用蓋体が面接触する防食用シートと、を備え、
前記枠本体が黒色のものであり、
前記防食用シートは灰色のものであり、
前記枠本体と前記防食用シートのおもて面とは、マンセル記号における明度差が3.0以上7.0未満であることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記防食用シートは、合成ゴムまたはプラスチックを材料とするものであってもよい。合成ゴムとしては、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)が好ましく、プラスチックとしては、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)が好ましい。また、前記地下構造物用蓋体受枠は、設置後景観に害することがないよう黒色塗装とする数十年の実績があり、前記防食用シートは、全体が、灰色であってもよいし、おもて面のみが灰色であってもよい。また、前記枠本体は、例えば鋳鉄製の鋳物からなるものであってもよい。前記内周面は、その傾斜角度が特に限定されるものではなく、例えば8°~12°程度であってもよい。
【0010】
本発明の地下構造物用蓋体受枠によれば、前記防食用シートは、灰色のものであるため、設置工事等において作業員へ注意を喚起することができる。これにより、前記枠本体と同様に金属製のものであると誤認して不用意に前記防食用シートを損傷してしまうといったミスを抑止することができる。また、前記防食用シートが前記枠本体と識別しやすいため、維持管理の点検の際に、防食用シートに生じた損傷や剥がれ等の不具合を容易に見つけることができる。
【0012】
前記防食用シートが、NBR等の合成ゴムを材料とする態様では、所定の色彩を施すために顔料を添加すると、例えば二液混合反応型接着剤等によって該防食用シートを前記枠本体に接着する際に接着力(接着強さ)が低下してしまう。そこで、前記防食用シートを灰色のものとすれば、カーボンブラックに白色の顔料を添加することで形成でき、顔料の使用量が減少する。この結果、前記枠本体に対する前記防食用シートの接着力の低下を抑えることができる。また、前記枠本体と前記防食用シートのおもて面における、マンセル記号における明度差を3.0以上とすることで、前記防食用シートと前記枠本体とを明確に識別することができ、設置工事等における作業員への注意喚起と、維持管理の点検の容易性を十分に担保することができる。なお、前記枠本体と前記防食用シートのおもて面における、マンセル記号における明度差が7.0を超えると、前記防食用シートと前記枠本体との識別性は向上するものの、その分、該防食用シートに添加する白色の顔料が増加し、接着力が低下するため好ましくない。
また、本発明の地下構造物用蓋体受枠において、前記枠本体は、鋳鉄製であって、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって、黒色に塗装されたものであり、
前記防食用シートは、二液混合反応型接着剤によって前記内周面に接着された合成ゴムであってもよい。
【0013】
さらに、本発明の地下構造物用蓋体受枠において、前記防食用シートは、上端面が黒色のものであり、
前記枠本体と前記防食用シートの上端面とは、マンセル記号における明度差が2.0以内であってもよい。
【0014】
前記防食用シートの上端面は、閉蓋状態において、前記枠本体と前記地下構造物用蓋体との間に位置して地上に露出する状態になる。ここで、前記地下構造物用蓋体の表面も前記枠本体と同様に黒色である場合に、前記防食用シートの上端面のみ色が異なっていると、違和感を生じる虞がある。また、前記地下構造物用蓋体は、その表面に様々なデザインや着色が施される場合があるが、前記防食用シートの上端面の色が前記枠本体と異なっていると、デザイン上の統一感が損なわれる虞がある。そこで、前記防食用シートの上端面を、前記枠本体とマンセル記号における明度差が2.0以内の黒色とする態様を採用すれば、違和感やデザイン上の統一感が損なわれることを軽減することが可能となる。
【0015】
また、本発明の地下構造物用蓋体受枠において、前記内周面は、閉蓋状態において、前記地下構造物用蓋体における鍵穴と対向する部分には前記防食用シートが設けられていないものであってもよい。
【0016】
前記内周面のうち、前記地下構造物用蓋体における鍵穴と対向する部分は、該地下構造物用蓋体の外周面が接触しない部分(地下構造物用蓋体と地下構造物用蓋体受枠とが嵌合しない部分)となり、前記防食用シートがなくても腐食の影響が少ない。その上、前記鍵穴を閉塞する弁蓋を開閉工具等で回動させる際に弁蓋の先端等が接触しやすく、前記防食用シートが設けられていると、弁蓋の先端等の接触により剥がれやすい。そして、前記防食用シートの一部の剥がれは、該防食用シートのその他の部分の剥がれを誘引する引き金にもなりかねない。そのため、前記地下構造物用蓋体における鍵穴と対向する部分に前記防食用シートが設けられていない態様を採用すれば、弁蓋の先端等の接触による剥がれを防ぐことができ、結果として該防食用シートのその他の部分の剥がれも抑えることができる。
【0017】
なお、前記内周面のうち、閉蓋状態において、前記地下構造物用蓋体におけるこじり穴と対向する部分も、該地下構造物用蓋体の外周面が接触しない部分であり、前記防食用シートを設けない態様としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、受枠の設置工事等における防食用シートの不用意な損傷を防止し、さらに維持管理の点検を容易にする工夫がなされた地下構造物用蓋体受枠を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は、受枠と蓋体とからなる蓋受枠セットの断面図であり、(b)は、(a)に示す蓋受枠セットの平面図である。
図2】(a)は、図1(a)における、破線の円で囲んだA部を拡大して示す図である。(b)は、図1(b)のC-C線断面図である。
図3】(a)は、図1に示す受枠の平面図であり、(b)は、(a)における、一点鎖線の円で囲んだD部を拡大して示す図である。
図4図3(a)に示す受枠の底面図である。
図5】(a)は、図3(a)に示す受枠の正面図(下方から見た図)であり、(b)は、図3(a)に示す受枠の背面図(上方から見た図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1(a)は、受枠3と蓋体2とからなる蓋受枠セット10の断面図であり、同図(b)は、同図(a)に示す蓋受枠セット10の平面図である。なお、図1(a)に示す断面図は、同図(b)のB-B線断面図である。また、図1(a)では、地面Gを示し、同図(b)では、地面Gを省略している。
【0022】
図1には、本発明の一実施形態である蓋体(地下構造物用蓋体)2と、その蓋体2を支持する受枠(地下構造物用蓋体受枠)3とを備えた蓋受枠セット(地下構造物用蓋受枠セット)10が示されている。地下埋設物である下水道用排水管は地表から所定の深さの位置に埋設されており、その下水道用排水管の途中に、地下施設として、マンホールが設けられている。下水道用排水管もマンホールも地下構造物に相当する。マンホールは、既製のコンクリート成型品を積み上げた躯体によって、下水道用排水管から地表へ向かう縦穴として形成されている。受枠3はその躯体の上に設けられたものであり、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを画定している。この地下構造物内は、発生した硫化水素等によって腐食雰囲気になっている。
【0023】
蓋体2は、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを開閉自在に塞ぐ平面視で円形のものであり、図1に示す蓋体2は、開口Hを塞いでいる。図1に示す蓋体2は、鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。なお、蓋体2は、鋳鉄以外の鉄製であってもよく、鉄以外の金属製であってもよい。
【0024】
図2(a)は、図1(a)における、破線の円で囲んだA部を拡大して示す図である。
【0025】
図1および図2(a)に示すように、蓋体2は、円盤状の天板部21と、その天板部21の外周部分に設けられ天板部21を囲む環状壁部22と、天板部21の裏面から下方に突出した蓋リブ23とを備えている。天板部21の裏面と蓋リブ23には、電着塗装による防食被膜が形成されている。環状壁部22の外周には、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面221が形成されている。
【0026】
図1および図2(a)に示すように、受枠3は、枠本体5と、防食用シート7と、を備えている。枠本体5は、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものであり、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって、黒色(例えばマンセル記号における明度が1.5(N1.5))に塗装されている。また、枠本体5は、平面視で環状に形成された筒状の筒体51と、筒体51の下端部分から外側に張り出したフランジ部52と、フランジ部52の上面に設けられた枠リブ53とを有している。筒体51の内周部分には、受枠3の内側にリング状に突出した停止部512が設けられている。この停止部512は、長期間の使用により蓋体2のずり下がりが進行していくと、蓋体2の環状壁部22の下端が当接し、これ以上のずり下がりを阻止するものである。
【0027】
図2(a)に示すように、筒体51の内周部分における、停止部512の上側には、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面511が形成され、この内周面511の表面に防食用シート7が設けられている。内周面511の傾斜角度は、蓋体2の外周面221の傾斜角度と略同じ(例えば8°~9°)に設定されている。
【0028】
図2(a)では、枠本体5に設けられた防食用シート7を抜き出して一点鎖線の円で囲んで拡大して示している。防食用シート7は、本実施形態では、合成ゴムのNBRによって構成され、カーボンブラックと白色の顔料を添加することで灰色(例えばマンセル記号における明度が6.5(N6.5))に調整されている。防食用シート7の厚さは、蓋体2の開閉動作における、蓋体2と受枠3との干渉によっても、切れたり割れたりせず、傷が付き蓋体2や受枠3における、鋳鉄の素地が露出しない厚さとの観点から、0.5~5.0mmの範囲で設定される。
【0029】
防食用シート7は、下端面74を枠本体5の停止部512に支持させた状態で、裏面71が接着剤によって枠本体5の内周面511に接着されている。なお、防食用シート7は、NBRを材料とするものに限定されず、CRやIIR等の他の合成ゴムを材料とするものであってもよいし、PP、PVC等のプラスチックを材料とするものであってもよい。さらに、これらの材料を複合したものであってもよい。
【0030】
図2(a)に示すように、閉蓋状態では、蓋体2の外周面221と、枠本体5の内周面511に設けられた防食用シート7とが面接触して蓋体2が受枠3に支持される。これにより、防食用シート7と蓋体2の外周面221との間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、蓋体2の外周面221の腐食を防止することができる。また、枠本体5の内周面511は、表面に設けられた防食用シート7によって腐食が防止される。
【0031】
また、枠本体5が黒色のものであり、本実施形態では防食用シート7のおもて面72が灰色のものである。このため、設置工事等において作業員へ注意を喚起することができる。これにより、枠本体5と同様に金属製のものであると誤認して不用意に防食用シート7を損傷してしまうといったミスを抑止することができる。また、防食用シート7が枠本体5と識別しやすいため、維持管理の点検の際に、防食用シート7に生じた損傷や剥がれ等の不具合を容易に見つけることができる。これらにより、蓋体2の外周面と受枠3の内周面の腐食を、長期間にわたりより安定して防止することができる。
【0032】
特に、本実施形態では、防食用シート7を灰色のものとしているため、前述したようにカーボンブラックに白色の顔料を添加することで形成でき、顔料の使用量が減少する。この結果、枠本体5に対する防食用シート7の接着力の低下を抑えることができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、枠本体5と防食用シート7との、マンセル記号における明度差を3.0以上(具体的には、枠本体5がN1.5に対し、防食用シートがN6.5であるので明度差は5.0)としているため、防食用シート7と枠本体5とを明確に識別することができる。なお、枠本体5と防食用シート7との、マンセル記号における明度差が7.0を超えると、防食用シート7に添加する白色の顔料が増加し、接着力が低下するため好ましくない。
【0034】
ここで、図2(a)に示すように、防食用シート7の上端面73は、閉蓋状態において、枠本体5と蓋体2との間に位置して地上に露出する状態になる。このため、防食用シート7の上端面73を、例えば塗装等によって、枠本体5と、マンセル記号における明度差が2.0以内の黒色とすることが好ましい。こうすることで、枠本体5と防食用シート7の上端面73との色の違いによる違和感が生じにくくなる。
【0035】
防食用シート7は、枠本体5の内周面511の全周にわたって設けてもよいが、本実施形態では、天板部21の周縁部分における、図1(b)では上側に形成された鍵穴211と対向する部分には防食用シート7を設けていない。この鍵穴211は、開閉工具を挿入するための切欠き状の孔であり、受枠3における、鍵穴211と対向する部分は、蓋体2とは接触していない。以下、その点について詳述する。
【0036】
図3(a)は、図1に示す受枠3の平面図であり、図3(b)は、同図(a)における、一点鎖線の円で囲んだD部を拡大して示す図である。図4は、図3(a)に示す受枠3の底面図である。図5(a)は、図3(a)に示す受枠3の正面図(下方から見た図)であり、図5(b)は、図3(a)に示す受枠3の背面図(上方から見た図)である。なお、図3(a)に示す受枠3の右側面図(右側方から見た図)と、図3(a)に示す受枠3の左側面図(左側方から見た図)は、図5(a)と同一に表れるため省略している。また、図5(c)は、図3(a)に示す受枠3のE-E線断面図である。なお、図3(b)および図5(c)において、枠本体5と区別するため、防食用シート7に網掛けして示している。
【0037】
図3(b)および図5(c)に示すように、枠本体5における、鍵穴211(図1(b)参照)と対向する鍵穴対向領域511aには、防食用シート7が設けられていない。鍵穴対向領域511aの幅方向の長さ(防食用シート7の両側端面75,75間の間隔)Sは、鍵穴211の幅方向の長さと略同じに設定されている。
【0038】
図2(b)は、図1(b)のC-C線断面図である。この図2では、防食用シート7の一方側(図3(b)および図5(c)の右側)の側端面75が示されている。
【0039】
図2(b)に示すように、鍵穴211の裏面側には、ロック部材9が設けられている。ロック部材9は、蓋体2の裏側に支持された一対の軸部92,92と、鍵穴211を閉塞する弁蓋91と、弁蓋91よりも下方位置に設けられた係止爪93と、錘94と、付勢手段としてのバネ95を有している。また、枠本体5における、ロック部材9に対応した部分には、内周面511よりも下方位置に斜め下方に突出した爪受片514が設けられ、爪受片514の下方に空間Rが形成されている。
【0040】
ロック部材9は、一対の軸部92,92を中心に、弁蓋91が鍵穴211を閉塞する閉塞状態と、弁蓋91が鍵穴211を開放する開放状態とに回動可能なものである。また、ロック部材9は、錘94によって閉塞状態に向かう方向の力が付与されるとともに、バネ95によって閉塞状態に向かう方向に付勢され、係止爪93空間Rに挿入されている。このため、蓋体2が浮上すると係止爪93が爪受片514に係止して開口の開放が阻止される。
【0041】
蓋体2を開蓋するため、不図示の開閉工具によって弁蓋91を押し下げ、ロック部材9を反時計回りに回動させると、鍵穴211が開放されるとともに係止爪93が爪受片514の下方から退き、空間Rの外に出る。これにより、蓋体2を開蓋することができる。なお、図2(b)では、回動したロック部材9については、図面を簡略化するため、弁蓋91のみを一点鎖線で示している。
【0042】
ここで、ロック部材9が回動する際、弁蓋91の先端が枠本体5に接近するため、内周面511における鍵穴対向領域511aに防食用シート7が設けられていると、弁蓋91の先端が接触して剥がれやすい。この防食用シート7の一部の剥がれは、防食用シート7のその他の部分の剥がれを誘引するきっかけになる虞もある。
【0043】
本実施形態では、内周面511における鍵穴対向領域511aに防食用シート7が設けられていないため、弁蓋91の先端の接触により剥がれることがなくなり、結果として防食用シート7全体の剥がれを抑えることができる。
【0044】
なお、図1(b)において、蓋体2を時計の文字盤に例えて、4時と8時の位置付近には、こじり孔212がそれぞれ設けられている。こじり孔212は、蓋体2が長期間開かれず、錆付きや車両の通過などの繰り返し荷重により蓋体2と受枠3とがきつく嵌合されること等により蓋体2が開きにくくなっている場合などに、不図示の棒状の開閉工具を挿入してこじるための孔である。これらこじり孔212,212も、鍵穴211と同様に切欠き状に形成されているため、受枠3における、こじり孔212と対向する部分は、蓋体2とは接触していない。このため、内周面511における、こじり孔212と対向する部分も、防食用シート7を設けない態様としてもよい。
【0045】
次いで、枠本体5への防食用シート7の取り付け工程の一例を説明する。
【0046】
例えば合成ゴムのNBRを材料に用い、カーボンブラックと白色の顔料を添加することで灰色(例えばN6.5)とした防食用シート7を用意する。防食用シート7の高さ寸法は、枠本体5の内周面511の高さ寸法と同じとし、防食用シート7の全長は、枠本体5の内周面511の全周の長さと略同じか若干長めに形成する。なお、必要に応じて、防食用シート7の上端面73を黒色に塗装する。
【0047】
次に、枠本体5の内周面511における、鍵穴対向領域511aを除く部分と、おもて面72をマスキングテープで被覆した状態で防食用シート7の裏面71に、例えば二液混合反応型接着剤を塗布する。なお、防食用シート7や接着剤の厚みは、機能性や作業性等を考慮して調整され、例えば、防食用シート7の厚みを1.5mm程度としてもよい。
【0048】
そして、枠本体5の停止部512を受けとして、防食用シート7を枠本体5の内周面511に重ねた後、防食用シート7における、鍵穴対向領域511aにかかる部分をカットする。ここで、枠本体5の内周面511の全周に防食用シート7を設ける態様であると、防食用シート7が重なった箇所でカットしなければならず、作業がやりにくい場合がある。それに対して、本実地形態のように鍵穴対向領域511aに防食用シート7を設けない態様であれば、防食用シート7をカットする作業が容易になる。
【0049】
次いで、クリップ等で枠本体5と防食用シート7を挟み、接着が完了するまで養生させる。ここで、クリップ等の代わりに、蓋体2を閉蓋状態にセットすることで養生させてもよい。すなわち、蓋体2を、養生用の治具として用いることもできる。
【0050】
養生が完了したら、マスキングテープを剥がして枠本体5への防食用シート7の取り付けが完了となる。
【0051】
以上説明した受枠3によれば、受枠の設置工事等における防食用シートの不用意な損傷を防止し、さらに維持管理の点検を容易にする工夫がなされた地下構造物用蓋体受枠を提供することができる。
【0052】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、前述した実施形態では、灰色の防食用シート7を例に挙げて説明したが、枠本体5と十分に識別できる色であれば、灰色以外の防食用シート7を採用してもよい。また、防食用シート7全体を灰色とした実施形態を説明したが、黒色の防食用シート7であって、おもて面72のみを灰色に塗装したものを用いてもよい。この態様を採用すると、蓋体の開閉動作等で干渉(接触)し灰色の塗装が剥がれてしまうことがあるが、顔料を添加せずに構成できるため、顔料の添加による接着力の低下が防止されるとともに、上端面73の黒色の塗装も不要となる。
【符号の説明】
【0053】
10 蓋受枠セット
2 蓋体
21 天板部
211 鍵穴
22 環状壁部
221 外周面
3 受枠
5 枠本体
511 内周面
511a 鍵穴対向領域
512 停止部
7 防食用シート
73 上端面
75 側端面
9 ロック部材
91 弁蓋
H 開口
図1
図2
図3
図4
図5