(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】時間波形可変強磁場発生装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20250305BHJP
【FI】
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2021110755
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】今中 康貴
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-081383(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199793(WO,A1)
【文献】特開2021-052229(JP,A)
【文献】特開平07-272930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁場発生用の電磁石と、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら前記電磁石に供給できる電源装置とを備え
、
前記電源装置は、
蓄電池または大容量コンデンサの少なくとも一方を有する蓄電部と、
前記蓄電部に対する充電用電力を供給する給電部と、
前記電磁石に供給する電流波形を設定する電流波形設定部と、
前記電流波形設定部からの波形制御信号に対応して前記蓄電部から前記電磁石を駆動する電流を供給する電流制御部と、
を有すると共に、
前記電流制御部によって前記電磁石に供給される電流は、最大30000アンペアであって、印加電圧は最大400ボルトである時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項2】
強磁場発生用の電磁石と、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら前記電磁石に供給できる電源装置とを備え
、
前記電源装置は、
蓄電池または大容量コンデンサの少なくとも一方を有する蓄電部と、
前記蓄電部に対する充電用電力を供給する給電部と、
前記電磁石に供給する電流波形を設定する電流波形設定部と、
前記電流波形設定部からの波形制御信号に対応して前記蓄電部から前記電磁石を駆動する電流を供給する電流制御部と、
を有すると共に、
前記電流波形設定部は階段状の波形を指示する波形制御信号を生成すると共に、
前記階段状の波形により前記電磁石に生成される磁場値が一定値を継続する時間は、目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間である時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項3】
前記大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサである請求項
1又は2に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項4】
前記電源装置は、さらに充電用商用電源に接続されている請求項
1乃至3の何れか1項に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項5】
前記電流波形設定部は階段状の波形を指示する波形制御信号を生成すると共に、
前記階段状の波形により前記電磁石に生成される磁場値が一定値を継続する時間は、目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間である請求項
1に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項6】
目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間は、定常磁場計測と同等の精度の高い測定値を得ることができるものである請求項
2又は5に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項7】
前記電磁石はビッター型電磁石又は巻き線型電磁石である請求項1乃至
6の何れか1項に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【請求項8】
前記強磁場は、1テスラ以上70テスラ以下である請求項1乃至
7の何れか1項に記載の時間波形可変強磁場発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約でも一時的な大電流の供給が可能な時間波形可変強磁場発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石の分類としては永久磁石と電磁石に大別することができる。しかし、1テスラ以上の永久磁石で簡単に到達できない強い磁場(強磁場)を発生させる用途には、直流電流をコイル部に供給することで磁場発生を行う電磁石システムが使われている。
例えば、ビッター型電磁石は非常に強い磁界が必要な場合に使用される(特許文献1、2、非特許文献1、2参照)。従来の電磁石に使われていた鉄心は飽和してしまい、2テスラ程度の磁場に制限されていた。超電導電磁石はより強い磁界を発生させることができ、理論上の限界はもっと高いが、磁束のクリープのために10~20テスラの磁界に制限される。より強い磁界を得るためには、ビッター型電磁石のような抵抗性ソレノイド電磁石が使用される。抵抗性ソレノイド電磁石の欠点は、非常に大きな駆動電流を必要とすることと、大量の熱を放出することである。
【0003】
電磁石において共通することは、コイルと呼ばれる導体を巻いたものに電気を流すことで、その中心部に磁場を発生させることである。コイルに電流を流して磁場を発生させる場合、流す電流量と発生する磁場の大きさ、時間波形とは簡単には比例関係にある。よって磁場出力を任意に変えるためには、コイルに流す電流の「大きさ」、「時間変化」を制御すれば良いことになる。
【0004】
これまでの一般的な強磁場磁石では長時間安定性の高い磁場を発生させることに主眼が置かれるため、電流の時間変化(ドリフト)が少ない磁場、「定常強磁場」を発生させる手法が中心的になっている。しかしながら電流量が増えると、コイルを外向きに大きく変形させる応力(マックスウェル応力)の発生やコイルの抵抗による発熱の問題が顕著になるため、磁石システムそのものが壊れないような上限で電流を抑えなくてはならない、すなわち最大発生磁場にリミットがある。よってそれ以上の強磁場を発生させたい場合には、コンデンサなどに蓄えた大きな電気エネルギーを瞬間的にコイル部に流し、瞬間的な強磁場発生(パルス強磁場)の手法を用いることになる。
【0005】
定常強磁場磁石としては、電気抵抗がゼロの超伝導線を使った超伝導磁石、電気抵抗のある金属材料を使う常伝導磁石などがあり、パルス強磁場磁石としては、高強度、高伝導性の線材を使った巻線型磁石や、磁石の破壊を前提とした電磁濃縮型磁石などがある。
定常強磁場磁石とパルス強磁場磁石の現在の大まかな発生磁場上限としては以下のようになっている。
定常強磁場磁石としては、超伝導磁石、常伝導磁石、ハイブリッド磁石があり、それぞれの大まかな発生磁場上限値は約20テスラ、約30テスラ、約50テスラとなっている。パルス強磁場磁石としては、巻線型非破壊パルス磁石、一巻きコイル型パルス磁石、電磁濃縮型パルス磁石があり、それぞれの大まかな発生磁場上限値とその発生時間は約100テスラ(約100ミリ秒)、約200テスラ(約10マイクロ秒)、約1000テスラ(約5マイクロ秒)となっている。
【0006】
定常磁場の長所としては、磁場を一定にとどめておく、あるいは緩やかに変化させることで極めて精度の高い計測が可能となることであるが、磁場上限があることや高価な寒剤(液体ヘリウム)、あるいは設備が大がかりになること、非常に大きな電力を要することなどの短所がある。
一方、パルス磁場は小さな電力で定常磁場装置では不可能な強磁場の発生が可能になるものの、10マイクロ秒~100ミリ秒程度の極めて短い時間に磁場が発生、変化するため、定常磁場と比べると精度の高い実験には不向きである。また磁場波形もコイルやコンデンサを含む回路によって決まる三角関数的な波形となり、波形自体を簡単に変えることはできない短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6925316号公報
【文献】特開昭61-58473号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】L.G. Rubin et.al. 木戸義勇訳、『フランシス・ピッター国立磁石研究所』、日本物理学会誌 第37巻824頁~829頁(1982)
【文献】三浦成人、他、『高磁場ピッターコイル用大型高強度銀銅板の開発』、日本金属学会誌 第63巻1290頁~1294頁(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした背景の中、定常強磁場磁石やパルス強磁場磁石は、物質材料研究などにおいて、それぞれの磁石の特長を活かす形で、様々な強磁場下物性計測(電気的、光学的、磁気的性質)に相補的に使われている。
大型の定常強磁場磁石は一定磁場を長時間安定に発生させることが可能であるが、その発生自体に時間がかかり(発生までに1時間程度)、様々な磁場波形に変化させるにも同じオーダーで時間が必要となる。そのため精度の高い実験が可能でも、多数の試料を測定する上では非常に時間を要すること、強磁場発生の上限にある程度の制限があること、そして大型になればなるほど運転、維持にコストがかかるなどのデメリットがあり、研究大学院大学や自然科学系の国立研究所などで有する特別な設備となっている。
【0010】
逆にパルス強磁場は大型コンデンサに溜めたエネルギーを瞬間的に放電させて短時間に強磁場を発生させるため非常に省エネとなるが、磁場発生時間が非常に短いこと、磁場波形を決まった形状にしか制御できないこと、定常磁場での測定に比べて原理上データの精度が低くなることなどのデメリットがある。
そのため材料研究などにおいて汎用的に一番使われている電磁石は、市販されている磁場強度が10テスラ前後の超伝導磁石となっている。超伝導磁石はその特性から磁場発生自体には大きな電力を必用とはしないが、液体ヘリウムという高価な寒剤も常に必要となること、原理的に一定磁場の発生には強いが、短時間で大きく磁場を変化させることは難しいため計測に時間がかかるなど、大型の定常強磁場磁石と同じ問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ところで、(1)最大発生磁場、(2)磁場維持時間、(3)発生磁場波形という3つの観点から見た場合、これまで最大発生磁場と磁場維持時間を満たす方向で開発が進んできた。しかし、強磁場発生の分野では、最大発生磁場や磁場維持時間の観点に比べると、発生磁場波形は注目されてこなかった、発生磁場波形の磁場発生時間内に任意に磁場値を変化させることで、従来装置と比較して高効率かつ精度も遜色なく、安価に磁場中測定を可能とする時間波形可変強磁場発生装置が実現できるのではないかと考え、本発明を完成させるに至った。
特に、従来型の時間波形を可変できる磁場発生装置では、通常、センサに高周波電流を流すと共に、直流のバイアス電圧を印加して高周波信号を変調しているため、磁場測定用の信号を得るために復調器を使用する必要があり、回路構成が複雑になり、本発明でいう強い磁場発生は原理的に難しいという課題がある。
【0012】
本発明は、上記の定常磁場、パルス磁場発生システムの課題を解決するもので、商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約でも一時的な大電流の供給が可能であって、復調器を使用することなく、回路構成が簡単で発生される磁場の時間波形が可変な強磁場発生装置を提供することを目的する。
【0013】
[1]本発明の時間波形可変強磁場発生装置は、例えば
図1、
図3に示すように、強磁場発生用の電磁石10と、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できる電源装置30と、を備えるものである。
【0014】
[2]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、電源装置30は、蓄電池または大容量コンデンサの少なくとも一方を有する蓄電部32と、電磁石10に供給する電流波形を設定する電流波形設定部70と、電流波形設定部70からの波形制御信号に対応して蓄電部32から電磁石10を駆動する電流を供給する電流制御部60と、を備えるものであるとよい。
[3]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサであるとよい。
[4]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、電流制御部60によって電磁石10に供給される電流は、最大30000アンペアであって、印加電圧は最大400ボルトであるとよい。
[5]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、電源装置30は、さらに充電用商用電源31に接続されているとよい。
[6]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、電流波形設定部70は階段状の波形を指示する波形制御信号を生成し、階段状の波形により電磁石10に生成される磁場値が一定値を継続する時間は、目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間であるとよい。
[7]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間は、定常磁場計測と同等の精度の高い測定値を得ることができるものであるとよい。
[8]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、電磁石10はビッター型電磁石又は巻き線型電磁石であるとよい。
[9]本発明の時間波形可変強磁場発生装置において、好ましくは、前記強磁場は、1テスラ以上70テスラ以下であるとよい。好ましくは、前記強磁場は、20テスラを超え70テスラ以下であって、超伝導磁石単体で発生できる磁場よりも高い値であるとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の時間波形可変強磁場発生装置の場合、発生する磁場の波形は外部の波形発生器からの入力信号に比例する形で制御ができ、磁場発生継続時間も目的物の磁気特性を計測するのに必要な時間(例えば0.1秒から数分の範囲)が可能である。
電流波形設定部は、例えば階段状の波形を作製し、磁場値が一定のステップのところで、その時間中で十分な計測に利用することで、定常磁場計測と同等の精度の高い測定を短時間に測定を行うことができる。
さらに好ましくは、階段状に変化する磁場発生の場合、次々と異なった磁場での計測(磁場変化計測)が可能となり、全計測時間も通常の定常磁場を使った場合と比べて大幅に短くすることができる。
さらに好ましくは、蓄電部として蓄電池や小型大容量コンデンサを用いることで、本発明の時間波形可変強磁場発生装置は移動も可能になると共に、充電用商用電源として液体ヘリウムや大電力が必要となる通常の定常磁場発生装置に比べて、契約アンペア数が少なくできる低圧商用電源を使用することが出来、磁場発生に必要とされる電力供給契約が低額で済み、維持コストを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例を示す蓄電池を用いた電源装置と、当該電源装置を制御する制御用システムを説明する機能ブロック図である。
【
図3】本発明の一実施例を示す、ビッター磁石の構成図である。
【
図4】
図3に示すビッター磁石の構成要素である円形金属板の構成図である。
【
図5】本発明の一実施例を示す様々な発生磁場波形を示す波形図である。
【
図6】本発明の一実施例を示す最高電流値を変えた場合の階段状磁場の波形図である。
【
図7】本発明の一実施例を示す5回繰り返しを行った階段状磁場発生を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
本発明の時間波形可変強磁場発生装置においては、強磁場発生のための大電流に対応できる電磁石10として、例えばビッター型電磁石や巻き線型電磁石を用いる。ここで、強磁場とは、1テスラ以上70テスラ以下であるとよく、好ましくは、20テスラを超え70テスラ以下であって、超伝導磁石単体で発生できる磁場よりも高い値であるとよい。大電流は、例えば最大30000アンペアであって、印加電圧は最大400ボルトであるとよい。
【0018】
電源装置30としては、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できるとよい。そのために、電源装置30には蓄電池または小型大容量のコンデンサを使い、電流波形設定部としての信号発生器70の外からの波形入力に対応して、蓄電部分から、例えば印加電流として最大30000アンペアであって、印加電圧は最大400ボルトである電流量を高速に制御・調節できるとよい。
蓄電池とは、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵し、必要に応じて電気を取り出すことができる装置で、充電によって繰り返し使用することができる。バッテリー、二次電池ともいわれ、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、NAS(ナトリウム硫黄)電池、リチウムイオン電池など様々な種類がある。
大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサであるとよい。電気二重層型コンデンサは、電気二重層を誘電体とした、対面電極のコンデンサ構造をしており、静電容量は、例えば数十F(ファラッド)である。ここで、電気二重層とは、固体と液体との間で自発的に生じ、充電によって、電子またはホールが互いに引き合って整列している状態を言う。油入式充放電用コンデンサは、誘電体に木材パルプを加工した紙に、絶縁油を含浸させたものを使っている。油入式充放電用コンデンサは、単純な構造ゆえ、静電容量は増やすためには形状が大きくなる難点があるが、耐電圧に優れている。ケミカルコンデンサは、アルミ電解コンデンサとも呼ばれ、誘電体としては、アルミニウム電極(通常はアルミ箔)表面に形成した酸化被膜(酸化アルミニウム)を用いる。ケミカルコンデンサは、誘電体層が非常に薄いため、大きな容量を得ることが出来る。
そして、電磁石10と電源装置30を組み合わせ、任意の磁場発生時間、任意の磁場波形の発生を可能とする磁場発生システムが実現できる。
【0019】
図1は本発明の一実施例を示す蓄電池を用いた電源装置の機能ブロック図で、当該電源装置を制御する制御用システムも併せて記載してある。図において、本発明の電源装置30は、充電用商用電源31、蓄電池32、大電流化対応制御ブロック40、電流出力回路50、帰還制御ブロック60を備えている。充電用商用電源31は、蓄電池32を充電するための電源系統で、例えば商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約でも足りるが、液体ヘリウムや大電力が必要となる通常の定常磁場発生装置に用いられる高電圧電源系統を用いてもよい。高電圧電源系統は、供給電圧が例えば6.6kVであり、供給電力量が数MW程度にも対応できる。
電源装置30は、蓄電池32に加えて、平滑コンデンサ33、制御回路電源34、操作・監視回路36を有している。蓄電池32は直流電力を供給するもので、例えば16V~400Vの定格電圧を有し、定格電流は例えば1~30kAとする。平滑コンデンサ33は、蓄電池32の供給する電流・電圧を平滑化するもので、蓄電池32の正負端子に大電流化対応制御ブロック40と並列に接続されている。制御回路電源34は、商用電源から操作・監視回路36用の電力を与える。操作・監視回路36は、蓄電池32の端子間電圧と供給電流を監視しており、PWM回路66に入力電圧の情報を与える。操作・監視回路36は、補助電源として作用することもでき、蓄電池32に蓄電用電力を供給するようにしてもよい。
蓄電池32を設けると、例えば商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約の充電用商用電源31で充電しても、蓄電池32から一時的な大電流の供給が可能となり、工場や大規模商業施設のように供給電力契約を数MW程度としなくてもすみ、契約アンペア数を低減できることから、電力料金が少なくてすむ。
【0020】
大電流化対応制御ブロック40は、電界効果トランジスタ(FET)42、駆動回路44、平滑コンデンサ46、ダイオード47、インダクタLf48を有している。電界効果トランジスタ42は、パルス幅変調回路66からのPWM制御信号をゲート端子に入力して、ドレイン端子-ソース端子間のドレイン電流のオンオフ制御をしている。平滑コンデンサ46とダイオード47は、電界効果トランジスタ42を挟んで、蓄電池32の正負端子と接続されている。インダクタLf48は、電界効果トランジスタ42と電流出力回路50との間に挿入されている。
電流出力回路50は、コンデンサCf52、コモンモードコイルCMを有しており、出力端子P、Nの間にビッター型磁石10の励磁用出力電流を出力している。
【0021】
帰還制御ブロック60は、出力電流検出トランス54、バッファアンプ58、誤差アンプ62、使用率制限回路64、パルス幅変調回路(PWM:pulse width modulation)66を有している。バッファアンプ58は、出力電流検出トランス54の検出信号を入力しているもので、例えば出力電流の監視用に用いられる。誤差アンプ62は、出力電流検出トランス54と使用率制限回路64のパターン信号とを比較して、パルス幅変調回路66に送っている。使用率制限回路64は時間当たりの電流変化量(dI/dt)を制限すると共に、誤差アンプ62の誤差信号が大きい場合にも、パルス幅変調回路66のデューティー比の上限値を制限して、ビッター型磁石10が過大な電流により損壊することを防止する。
信号発生器70は、使用率制限回路64に対して、ビッター型磁石10に供給する駆動電流波形を指示するパターン信号を出力している。パソコン72は、信号発生器70に指示する駆動電流波形のパターンを指示しやすくするソフトウェアを搭載しているもので、汎用のコンピュータ装置が用いられる。
【0022】
この様に構成された装置においては、パソコン72PCから信号発生器70を制御し、発生させたい磁場の波形と同じ電圧プロファイルを使用率制限回路64に送る。
図2は、
図1に示す装置の出力電流の波形図である。電気二重層型コンデンサや電磁石の場合は、単位時間当たりの電流増分が許容される範囲に制限があるので、この範囲の制限内で、出力電流の波形図を指示する。
【0023】
使用率制限回路64では、信号発生器70から送られたパターン信号に応じて、蓄電池32からの直流電流が制御され、電流出力回路50の出力端子P、Nとつながっているビッターコイルの円形金属板12に電流が流れ、磁場が発生する。
またパルス磁場発生では、高容量コンデンサシステムに充電した電気エネルギーを使って、1ミリ秒30テスラ以上の磁場発生が可能となっている。よって、このビッターコイルをそのまま使うことで30テスラ程度の強磁場発生まで十分耐えることができる。コイルの発熱は小型循環冷却器により純水を磁石内に循環させ速やかに冷却を行う。
【0024】
図3は本発明の一実施例を示す、ビッター型電磁石の構成図である。図において、ビッター型磁石10は、円形金属板12、絶縁板14、フランジ16、締め付け棒18を有している。ビッター型磁石は、コイル状の線材ではなく、円形の導電性金属板と絶縁性のスペーサーをらせん状に重ねた構造になっている。電流は円形金属板の間をらせん状に流れる。銅銀合金を利用した積層円形金属板の目的は、円形金属板内の移動電荷に作用する磁場によるローレンツ力が、磁場強度の2乗に比例して増加することで生じる外側への巨大な機械的圧力に耐えることである。また、円形金属板に流れる大電流による抵抗加熱で円形金属板に発生する膨大な熱を逃がすために、円形金属板の穴から水が冷却剤として循環している。放熱量は、磁場の強さの2乗に比例して増加する。
【0025】
円形金属板12は、銅又は強度の強い銅合金を打ち抜いて作成された大略円形の板で、スリット122、締め付け棒用切り欠き穴124、冷却水用穴126、中央穴128が形成されている。円形金属板12は、高強度高伝導材料である銅銀合金を利用した、強磁場発生用ビッターコイルを用いている。このビッターコイルは、本出願人において定常強磁場発生とパルス磁場発生の両方に利用しており、定常強磁場発生には15メガワット電力を供給することで、最大30テスラ程度の磁場発生の実績がある。スリット122は隣接する層間で、楔形切り欠き部142の切り欠き角度に相当する角度だけ回転しており、例えば45度の場合は8枚で一回転し、30度の場合は12枚で一回転する。
絶縁板14は、例えばポリイミド樹脂製の板で、楔形切り欠き部142、締め付け棒用切り欠き穴144、冷却水用穴146、中央穴148が形成されている。楔形切り欠き部142は、円周面の一部が所定の角度、例えば30度~45度程度、軸方向から円周部に切り欠いてある。積層される円形金属板12は、重ねコイルとして絶縁板14の切り欠き部146で隣接する円形金属板12との導通を図ると共に、切り欠き部146を除く絶縁板14では隣接する円形金属板12との絶縁を図ることで、コイルの1ターン分を形成している。
【0026】
フランジ16はビッター型磁石10の軸方向の両端に設けられるもので、例えばFRP製の円板よりなり、締め付け棒18による締結力を支持するための剛性を有している。締め付け棒18は、円形金属板12と絶縁板14の重ねコイル積層体を締め付けるもので、例えば軸方向に8本等間隔で設けられている。締め付け棒18は、各層の対応する締め付け棒用切り欠き穴124、144に装着されるもので、円形金属板12の周面に沿って装着されるため、締結リング182をフランジ16側に近い部位に設けて締め付け保持されている。
【0027】
高磁場導入路20は、円形金属板12の中央穴128と絶縁板14の中央穴148に連通するもので、ビッター型磁石10で生成される高磁場空間に観察対象物を送致するための導入路である。電極22は、両端のフランジ16表面に電線の接続端子が設けられているもので、積層される円形金属板12の両側端部と接続される。
冷却水供給管24は、各層の対応する円形金属板12の冷却水用穴126と絶縁板14の冷却水用穴146に冷却水を供給する管路で、両端のフランジ16表面に冷却水接続口が設けてある。冷却水には、例えば電気抵抗率の高い(106Ω・cm)脱イオン化された蒸留水を用いるとよい。冷却水供給管24から供給される冷却水により、ビッター型磁石10で高磁場発生に伴って生成される熱と熱交換している。
【0028】
図5は、本発明の一実施例を示す様々な発生磁場波形を示す波形図である。
図5(A)は三角関数的な波形の入力により実際に発生した磁場で、
図5(B)は階段状の磁場となっている。階段状の磁場は発生時間全体で約2秒程度、階段状の一定部分が0.2秒程度となっている。
【0029】
図6は電流を変化させて階段状の磁場を発生させた波形図である。最大電流に応じた磁場発生となっていることが分かる。
【0030】
図7は階段状磁場発生を繰り返し行った測定結果であり、今回は5回の繰り返しを行った。原理的には蓄電池のエネルギーがなくなるまで、繰り返しを行うことができる。こうした繰り返しの磁場は、磁場のオンオフを行っていることと同じであり、磁気冷凍などへの応用が考えられる。
【0031】
なお、上記の実施の形態においては、強磁場発生用の電磁石としてビッター型電磁石の場合を示したが、巻き線型電磁石でもよい。また、上記の実施の形態においては、蓄電部として蓄電池の場合を示したが、大容量コンデンサでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の時間波形可変強磁場発生装置によれば、高い繰り返し周波数で磁場のオンオフ制御が可能となるため、磁気冷凍装置への応用が可能となるなど波及効果は大きい。
また、本発明の時間波形可変強磁場発生装置は、非殺傷性スタンドオフ兵器(敵の防空システムの有効射程外から発射される空対地ミサイル)の非殺傷兵器(行動制止システム)、1GHz以上のNMR用高磁場インサートコイル、実験室規模の研究用マグネット、フライホイールエネルギー貯蔵および磁気浮上用磁気ベアリング、高出力モーター/ジェネレーター、トランス、誘導性障害電流リミッターなど、商業および軍事用途に応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0033】
10:ビッター型電磁石
12:円形金属板
122:スリット
124:締め付け棒用切り欠き穴
126:冷却水用穴
128:中央穴
14:絶縁板
142:楔形切り欠き部
144:締め付け棒用切り欠き穴
146:冷却水用穴
148:中央穴
16:フランジ
18:締め付け棒
182:締結リング
20:高磁場導入路
22:電極
24:冷却水供給管
30:電源装置
31:充電用商用電源
32:蓄電池
40:大電流化対応制御ブロック
50:電流出力回路
60:帰還制御ブロック
70:信号発生器(信号波形設定部)
72:パソコン(PC)