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特許7644498双性イオン化合物、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】双性イオン化合物、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 230/02 20060101AFI20250305BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 15/12 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 15/14 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20250305BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20250305BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250305BHJP
   C07F 9/09 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08F230/02
A61K8/81
A61L15/12
A61L15/14
A61L15/24 100
A61L15/24 110
A61L15/42 100
A61L15/42 110
A61L27/34
A61L27/50
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L31/10
A61L31/14
A61L33/06 300
A61Q19/00
C07F9/09 V
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021561574
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044365
(87)【国際公開番号】W WO2021107141
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019215921
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安澤 幹人
(72)【発明者】
【氏名】三木 翼
(72)【発明者】
【氏名】荒川 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】今田 泰嗣
(72)【発明者】
【氏名】松木 均
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520191(JP,A)
【文献】特開昭59-199696(JP,A)
【文献】特開昭63-086704(JP,A)
【文献】特開昭56-152816(JP,A)
【文献】特開2012-091495(JP,A)
【文献】特開2014-193951(JP,A)
【文献】特表2017-526732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61L
A61Q
C07F
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含み、且つ、前記単位の割合が全モノマー単位に対して90モル%を超える、ポリマー。
【請求項2】
下記式(1):
【化2】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位、及び下記式(2):
【化3】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、且つ、Rは、C3-16アルキル基であるか、或いは、Rは、-CO-X-R又は-CH-CO-X-Rであり、且つ、Rは、C1-16アルキル基であり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基である]
で表される単位を含み、且つ、前記式(1)で表される単位の割合が全モノマー単位に対して10モル%以上100モル%未満である、ポリマー。
【請求項3】
式(1)で表される単位と式(2)で表される単位とのモル比が、10:90~40:60である、請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
下記式(1):
【化4】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーであって、前記式(1)で表される単位の割合が全モノマー単位に対して10モル%以上であるポリマーを含むフィルム又はシート。
【請求項5】
下記式(1):
【化5】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーであって、前記式(1)で表される単位の割合が全モノマー単位に対して10モル%以上であるポリマーを含む生体適合性材料。
【請求項6】
医療材料の表面被覆材である、請求項5に記載の生体適合性材料。
【請求項7】
基材と、該基材に一端が固定され、他端が自由端である複数のポリマー鎖で形成されたポリマー層とを含むポリマーブラシであって、
前記複数のポリマー鎖が、下記式(1):
【化6】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーであって、前記式(1)で表される単位の割合が全モノマー単位に対して10モル%以上であるポリマーを含む、ポリマーブラシ。
【請求項8】
下記式:
【化7】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される化合物の製造方法であって、
下記式:
【化8】
(式中、
及びRは、同一又は異なって、アルキル基であり、
、X、m、及びnは前記と同じである)
で表される化合物を、下記式(5):
【化9】
(式中、
~Rは、同一又は異なって、アルキル基であり、
Zは、ハロゲン原子である)
で表される化合物と反応させ、引き続き、水及び/又はアルコールと反応させる工程を含む、方法。
【請求項9】
下記式:
【化10】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される化合物の製造方法であって、
下記式:
【化11】
(式中、R、X、m、及びnは前記と同じである)
で表される化合物を、POCl又はPと反応させ、引き続き、加水分解する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双性イオン化合物、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の発展により人工臓器等の人工医療材料が数多く開発されている。人工医療材料は、生体内で好ましくない生体反応を引き起こさないことが重要である。
【0003】
生体は異物を認識し応答する自己防衛反応システムを持つ。例えば、血管が損傷を受け、内皮下組織が露出し、そこに血液が触れると直ちに血栓生成反応が進行する。このような血液の異物認識反応は人工医療材料と接触した際にも引き起こされ、人工医療材料の表面にタンパク質が吸着して層を形成し、この層に血小板などの細胞が吸着し、伸展・変性することで血栓となる。そのため、生体内で使用される人工医療材料の表面にはタンパク質吸着を抑制する性質を持たせる必要がある。
【0004】
一般的に、タンパク質吸着抑制作用を示す材料の表面は、4つの特性、すなわち、(1)親水性であること、(2)電気的中性であること、(3)水素結合の受容体であること、及び(4)水素結合の供与体でないことが必要であるとされている(非特許文献1)。
【0005】
材料の表面にタンパク質が吸着する原理は完全に判明していないが、タンパク質が界面に接近する際のエネルギー的相互作用が主な原因であると考えられている。タンパク質と界面の主な相互作用は、ファンデルワールス力、静電的引力、及び水素結合が挙げられる。
【0006】
疎水性表面には水溶液とタンパク質との間に大きな界面自由エネルギーが存在するため、それを解消するために界面へのタンパク質吸着が促進される。これに対して、(1)親水性表面では界面自由エネルギーが小さいため、タンパク質吸着が抑制される。
【0007】
材料表面が(2)電気的中性であることにより、タンパク質と界面との静電相互作用が抑制される。また、材料表面が(3)水素結合の受容体であり、(4)水素結合の供与体でなければ、水素結合相互作用が抑制される。
【0008】
よって、上記4つの特性を有する材料の表面は、タンパク質が界面に接近する際のエネルギー的相互作用を軽減することができるため、タンパク質吸着抑制作用を持つと考えられる。
【0009】
ポリマーは、タンパク質吸着抑制材料として有用な材料であり、中でもポリエチレングリコール(PEG)は古くから用いられている。水溶性のPEG鎖を表面にグラフトした材料は、接近するタンパク質を水和したPEG鎖で弾くことによって材料表面へのタンパク質の吸着を抑えることができる。しかしながら、PEG鎖は酸化によって分解されやすく、生体内で長期間安定に使用するには不向きである(非特許文献1)。そのため、生体内で分解されにくく、かつ高いタンパク質吸着抑制作用を持つ材料が求められる。
【0010】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は、上記の要求から生み出されたモノマーであり、下記式で表されるように、細胞膜の成分であるホスファチジルコリンというリン脂質を模倣した材料である(非特許文献2)。
【化1】
【0011】
MPCをモノマーとして重合したポリマーは、双性イオン基、すなわち、ホスホリルコリン(PC)基により、上記4つの特性を有し、タンパク質吸着抑制作用を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Holmlin, R.E.ら、Langmuir 2001, 17, 2841~2850頁
【文献】Vaisocherova, Hら、Biosens. Bioelectron. 2009, 24, 1924~1930頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
MPCをモノマーとして重合したポリマーよりも更にタンパク質吸着抑制作用が優れた材料が求められる。また、MPCをモノマーとして重合したポリマーは、pHが低下すると、親水性が低下してタンパク質吸着抑制作用に悪影響を及ぼすという問題があることを本発明者らは見出した。
【0014】
したがって、本発明は、優れたタンパク質吸着抑制作用、特に酸性領域を含む広範なpH領域において優れたタンパク質吸着抑制作用を有する双性イオン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、MPCのPC基において4級アンモニウムカチオン基とホスホジエステル基とを入れ替えた構造を有するモノマーを用いることにより、得られるポリマーのタンパク質吸着抑制作用が向上することを見出した。また、本発明者らは、上記の構造を有するモノマーを用いて得られるポリマーは、pHが低下しても高い親水性を示し、酸性領域を含む広範なpH領域において優れたタンパク質吸着抑制作用を有することを見出した。さらに、本発明者らは、上記の構造を有するモノマーを用いて得られるポリマーは、体の中で局所的に酸性領域となる部位(例えば、炎症部位、癌発症部位)に対する適合性に優れていることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて更に検討を重ねて本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
項1.
下記式(1):
【化2】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含み、且つ、前記単位の割合が全モノマー単位に対して90モル%を超える、ポリマー。
項2.
下記式(1):
【化3】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位、及び下記式(2):
【化4】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、且つ、Rは、C3-16アルキル基であるか、或いは、Rは、-CO-X-R又は-CH-CO-X-Rであり、且つ、Rは、C1-16アルキル基であり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基である]
で表される単位を含む、ポリマー。
項2a.
下記式(1):
【化5】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位、及びエチレン性不飽和二重結合を有する他のモノマー単位を含む、ポリマーであって、全モノマー単位中、メチルメタクリレート単位の割合が10モル%以下又は5モル%以下であるポリマー。
項2b.
メチルメタクリレート単位を含まない、項2aに記載のポリマー。
項2c.
全モノマー単位中、エチルメタクリレート単位の割合が10モル%以下又は5モル%以下である、項2bに記載のポリマー。
項2d.
エチルメタクリレート単位を含まない、項2b又は2cに記載のポリマー。
項2e.
式(1)で表される単位とエチレン性不飽和二重結合を有する他のモノマー単位とのモル比が、10:90~40:60である、項2a~2dのいずれかに記載のポリマー。
項3.
式(1)で表される単位と式(2)で表される単位とのモル比が、10:90~40:60である、項2に記載のポリマー。
項4.
下記式(1):
【化6】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーを含むフィルム又はシート。
項4a.
項1~3及び2a~2eのいずれかに記載のポリマーを含むフィルム又はシート。
項5.
下記式(1):
【化7】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーを含む生体適合性材料。
項5a.
項1~3及び2a~2eのいずれかに記載のポリマーを含む生体適合性材料。
項5b.
材料に生体適合性を付与する、又は、材料の生体適合性を向上する方法であって、材料の表面に、下記式(1):
【化8】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーを適用する工程を含む、方法。
項5c.
材料に生体適合性を付与する、又は、材料の生体適合性を向上する方法であって、材料の表面に、項1~3及び2a~2eのいずれかに記載のポリマーを適用する工程を含む、方法。
項5d.
材料が医療材料である、項5b又は5cに記載の方法。
項5e.
材料に生体適合性を付与するための、又は、材料の生体適合性を向上するための、下記式(1):
【化9】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーの使用。
項5f.
材料に生体適合性を付与するための、又は、材料の生体適合性を向上するための、項1~3及び2a~2eのいずれかに記載のポリマーの使用。
項5g.
材料が医療材料である、項5e又は5fの使用。
項6.
医療材料の表面被覆材である、項5又は5aに記載の生体適合性材料。
項7.
基材と、該基材に一端が固定され、他端が自由端である複数のポリマー鎖で形成されたポリマー層とを含むポリマーブラシであって、
前記複数のポリマー鎖が、下記式(1):
【化10】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される単位を含むポリマーを含む、ポリマーブラシ。
項7a.
項1~3及び2a~2eのいずれかに記載のポリマーを含む、ポリマーブラシ。
項8.
下記式:
【化11】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される化合物の製造方法であって、
下記式:
【化12】
(式中、
及びRは、同一又は異なって、アルキル基であり、
、X、m、及びnは前記と同じである)
で表される化合物を、下記式(5):
【化13】
(式中、
~Rは、同一又は異なって、アルキル基であり、
Zは、ハロゲン原子である)
で表される化合物と反応させ、引き続き、水及び/又はアルコールと反応させる工程を含む、方法。
項9.
下記式:
【化14】
[式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
は、OH又はOであり、
は、-O-又は-N(Q)-であり、
は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、
mは、1~12の整数であり、
nは、1~4の整数である]
で表される化合物の製造方法であって、
下記式:
【化15】
(式中、R、X、m、及びnは前記と同じである)
で表される化合物を、POCl又はPと反応させ、引き続き、加水分解する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の双性イオン化合物は、タンパク質吸着抑制作用に優れており、特に酸性領域を含む広範なpH領域において優れたタンパク質吸着阻害作用を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例のポリマーブラシのラマンスペクトルを測定した結果を示す。
図2図2は、実施例のポリマーブラシの水に対する接触角を測定した結果を示す。
図3図3は、実施例のポリマーブラシのバッファーに対する接触角を測定した結果を示す。
図4図4は、実施例のポリマーブラシが優れたタンパク質吸着抑制作用を有することを示す顕微鏡写真である。
図5図5は、実施例のポリマーブラシのタンパク質吸着抑制作用を定量化したグラフである。
図6図6は、実施例のポリマーブラシがpH2.8で優れたタンパク質吸着抑制作用を有することを示す顕微鏡写真である。
図7図7は、実施例のポリマーブラシのpH2.8でのタンパク質吸着抑制作用を定量化したグラフである。
図8図8は、実施例のフィルムのタンパク質吸着抑制作用を有することを示す顕微鏡写真である。
図9図9は、実施例のフィルムのタンパク質吸着抑制作用を定量化したグラフである。
図10図10は、実施例のフィルムのタンパク質吸着抑制作用を定量化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<双性イオン化合物>
一実施態様において、双性イオン化合物は、下記式(1):
【化16】
(式中、R、R、X、m、及びnは、前記と同じである)
で表される単位を含むポリマー(以下、「双性イオンポリマーA」という)である。なお、双性イオン化合物は、塩を形成していてもよい。
【0020】
が-N(Q)-である場合、Qで示されるC1-6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基又はi-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基)などが挙げられる。Qは、好ましくは水素原子又はC1-4アルキル基であり、より好ましくは水素原子又はC1-3アルキル基である。
【0021】
は、好ましくは-O-又は-N(H)-である。Xが-N(H)-である場合、-O-よりも結合の切断を受けにくく、高温などの過酷な条件下でも安定である。
【0022】
m及びnは、溶媒への溶解性などに応じて適宜選択することができる。mは、有機溶媒への溶解性を向上する点からは4~12の整数が好ましく、水溶性を向上する点からは1~3の整数が好ましい。
【0023】
nは、好ましくは1~3の整数であり、さらに好ましくは1又は2である。
【0024】
双性イオンポリマーAにおいて、式(1)で表される単位の割合は、全モノマー単位に対して、例えば10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、よりさらに好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、特により好ましくは70モル%以上である。
【0025】
また、タンパク質吸着抑制作用をより一層高くする点から、式(1)で表される単位の割合は、全モノマー単位に対して、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%超であり、よりさらに好ましくは95モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上であり、特により好ましくは100モル%(ホモポリマー)である。
【0026】
双性イオンポリマーAは、コポリマーであってもよく、式(1)で表される単位に加え、さらに他のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマーは、通常、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーである。当該モノマーにおいて、エチレン性不飽和二重結合の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2であり、さらに好ましくは1である。
【0027】
エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸又はその塩、エステル、若しくはアミド;ビニルエーテル;ビニルエステル;スチレンスルホン酸又はその塩などが挙げられる。
【0028】
不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0029】
不飽和カルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩が挙げられ、その具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
【0030】
不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、アルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。アルキルエステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどのC1-6アルキルエステルが挙げられる。ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、ヒドロキシエチルエステルなどのヒドロキシC2-6アルキルエステルが挙げられる。
【0031】
不飽和カルボン酸のアミドは、N-置換アミド及びN,N-ジ置換アミドを包含する。N-置換アミドとしては、例えば、アルキルアミドが挙げられ、その具体例としては、メチルアミド、エチルアミドなどのC1-6アルキルアミドが挙げられる。N,N-ジ置換アミドとしては、例えば、ジアルキルアミドが挙げられ、その具体例としては、ジメチルアミド、ジエチルアミド、エチルメチルアミドなどのジC1-6アルキルアミドが挙げられる。
【0032】
ビニルエーテルとしては、例えば、エチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられる。
【0034】
他のモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
他のモノマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、これらの塩、エステル、又はアミドであり、例えば、アルキル(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0036】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートなどのC1-10アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0037】
アルキル(メタ)アクリルアミドは、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドを包含する。N-アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-C1-4アルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジC1-4アルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0038】
他のモノマー単位は、好ましくは、下記式(2):
【化17】
(式中、R、R、及びXは、前記と同じである)
で表される単位である。
【0039】
一実施態様において、Rは、メチル基であり、且つ、Rは、C3-6アルキル基、具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基であることが好ましい。
【0040】
他の実施態様において、Rは、-CO-X-R又は-CH-CO-X-Rであり、且つ、Rは、C1-6アルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基であることが好ましい。
【0041】
が-N(Q)-である場合、Qで示されるC1-6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0042】
一実施態様において、コポリマーは、全モノマー単位中、メチルメタクリレート単位の割合が10モル%以下又は5モル%以下であることが好ましく、メチルメタクリレート単位を含まないことが好ましい。当該実施態様において、コポリマーは、全モノマー単位中、エチルメタクリレート単位の割合が10モル%以下又は5モル%以下であることが好ましく、エチルメタクリレート単位を含まないことが好ましい。
【0043】
式(1)で表される単位と他のモノマー単位(例えば、式(2)で表される単位等のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー単位)とのモル比は、好ましくは10:90~40:60であり、より好ましくは10:90~35:65であり、さらに好ましくは10:90~30:70である。
【0044】
双性イオンポリマーAは、その重合形態に応じて、例えば、ランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、又はグラフトコポリマーであってもよい。また、双性イオンポリマーAの形状は、例えば、線状、櫛型、星型、又は梯子型であってもよい。
【0045】
双性イオンポリマーAは、広範なpH領域、例えばpH1~10の範囲において、優れたタンパク質吸着抑制作用を有する。双性イオンポリマーAは、MPCをモノマーとして重合したポリマーでは適さない酸性領域(例えばpH1~3)でも、優れたタンパク質吸着抑制作用を発揮することができる。
【0046】
<双性イオン化合物の製造方法>
双性イオンポリマーAの製造方法は、特に限定されないが、例えば、下記式(3):
【化18】
(式中、R、R、X、m、及びnは前記と同じである)
で表される化合物(双性イオンモノマー)を重合する工程を含む方法であってもよい。
【0047】
以下の説明において、「式(N)で表される化合物」(Nは正の整数である)を「化合物(N)」という。
【0048】
(化合物(3)の製造方法)
化合物(3)は、例えば、次の反応スキームにより得られる:
【化19】
(式中、L及びLは、互いに同一又は異なって、ハロゲン原子であり、R、R、R~R、X、Z、m、及びnは、前記と同じである)。
【0049】
化合物(3)を上記反応スキームで製造することにより、純度の高い化合物(3)が得られる。化合物(3)の純度は、例えば90%以上であり、好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。なお、純度は、H-NMR、31P-NMRにより測定される。
【0050】
<工程(A1)>
工程(A1)は、化合物(9)を化合物(8)と反応させて、化合物(7)を得る工程である。
【0051】
化合物(8)及び(9)において、L及びLで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0052】
化合物(8)の使用量は、化合物(9)1モルに対して、通常、0.8~2.0モル、好ましくは1.0~1.2モルである。
【0053】
工程(A1)の反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、例えば、鎖状アミン(例:トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンなどのジ又はトリC1-4アルキルアミン)、環状アミン(例:1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、2,6-ルチジン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン)などが挙げられる。これらの塩基は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
塩基の使用量は、化合物(9)1モルに対して、通常、1.1~2.0モル、好ましくは1.2~1.5モルである。
【0055】
工程(A1)の反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、極性非プロトン性溶媒が挙げられ、その具体例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロアルカン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
工程(A1)の反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば0~100℃、好ましくは5~40℃である。反応時間は、例えば1~24時間、好ましくは2~12時間である。
【0057】
<工程(B1)>
工程(B1)は、化合物(7)を化合物(6)と反応させて、化合物(4)を得る工程である。
【0058】
化合物(6)の使用量は、化合物(7)1モルに対して、例えば、0.5~2.0モル、好ましくは0.9~1.1モル、通常、約1モルである。
【0059】
工程(B1)の反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、その具体例としては、アセトニトリルなどのニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
工程(B1)の反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば0~100℃、好ましくは5~40℃である。反応時間は、例えば1~100時間、好ましくは2~80時間である。
【0061】
<工程(C1)>
工程(C1)は、化合物(4)を化合物(5)と反応させ、引き続き、水及び/又はアルコールと反応させて、化合物(3)を得る工程である。
【0062】
化合物(5)において、R~Rで示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0063】
Zで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0064】
化合物(5)の使用量は、化合物(4)1モルに対して、通常、2~40モル、好ましくは12~20モルである。
【0065】
化合物(5)との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、その具体例としては、アセトニトリル、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
化合物(5)との反応において、反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば-10~40℃、好ましくは-5~30℃である。反応時間は、純度の点から、好ましくは5時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは7時間以上、さらにより好ましくは8時間以上、特に好ましくは9時間以上であり、通常20時間以下、好ましくは15時間以下である。
【0067】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノールなどのC1-4アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
水及び/又はアルコールとの反応において、反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば0~100℃、好ましくは5~40℃である。反応時間は、例えば1~24時間、好ましくは2~12時間である。
【0069】
<工程(A2)>
工程(A2)は、化合物(9)を化合物(6)と反応させて、化合物(10)を得る工程である。
【0070】
化合物(6)の使用量は、化合物(9)1モルに対して、例えば、0.5~2.0モル、好ましくは0.9~1.1モル、通常、約1モルである。
【0071】
工程(A2)の反応は、工程(B1)と同様、溶媒中で行うことが好ましい。
【0072】
工程(A2)の反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば10~150℃、好ましくは20~120℃である。反応時間は、例えば1~48時間、好ましくは2~36時間である。
【0073】
<工程(B2)>
一実施態様において、工程(B2)は、化合物(10)をPOClと反応させ、引き続き、加水分解することにより、化合物(3)を得る工程である。
【0074】
POClの使用量は、化合物(10)1モルに対して、通常、1~100モル、好ましくは8~10モルである。
【0075】
POClとの反応は、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、鎖状アミン(例:トリエチルアミンなどのトリC1-4アルキルアミン)、環状アミン(例:ピリジン、イミダゾール)などが挙げられる。これらの塩基は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
塩基の使用量は、化合物(10)1モルに対して、通常、1.2~120モル、好ましくは9~12モルである。
【0077】
POClとの反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、その具体例としては、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
POClとの反応において、反応温度は、例えば-40~5℃、好ましくは-30~0℃である。反応時間は、例えば0.5~24時間、好ましくは1~12時間である。
【0079】
別の実施態様において、工程(B2)は、化合物(10)をPと反応させ、引き続き、加水分解することにより、化合物(3)を得る工程である。
【0080】
の使用量は、化合物(10)1モルに対して、通常、0.5~10モル、好ましくは1~5モルである。
【0081】
との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、その具体例としては、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0082】
との反応において、反応温度は、例えば10~150℃、好ましくは30~100℃である。反応時間は、例えば1~12時間、好ましくは2~10時間である。
【0083】
化合物(3)及びその中間体は、常法(例えば、ろ過、クロマトグラフィー、再沈殿、濃縮、これらの各操作の2回又は3回以上の繰り返し、これらの各操作の組み合わせ)により精製してもよい。
【0084】
(化合物(3)を重合する工程)
双性イオンポリマーAは、工程(C1)又は工程(B2)などで得られる化合物(3)を重合することにより製造することができる。
【0085】
化合物(3)は単独で重合してもよく、他のモノマーと共重合してもよい。他のモノマーは、例えば、<双性イオン化合物>の項に記載した他のモノマーと同じものを使用することができる。
【0086】
化合物(3)と他のモノマーとのモル比は、好ましくは1:99~99:1、より好ましくは5:95~95:5、さらに好ましくは10:90~90:10、よりさらに好ましくは15:85~85:15、特に好ましくは20:80~80:20である。
【0087】
化合物(3)の重合は、触媒、架橋剤、重合開始剤などの存在下で行ってもよい。重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
【0088】
熱重合開始剤としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0089】
過酸化物としては、例えば、ジアルキルパーオキシド類(例:ジ-t-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド)、ジアシルパーオキシド類(例:ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド)、過酸又は過酸エステル類(例:t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド)などが挙げられる。
【0090】
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0091】
熱重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0092】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類(例:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル)、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、1,4-ジベンゾイルベンゼン、ジベンゾイル、これらの組合せなどが挙げられる。
【0093】
光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよい。光増感剤としては、例えば、トリアルキルアミン、トリアルカノールアミン(例:トリエタノールアミン)、ジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル(例:ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ安息香酸アミル)、ジアルキルアミノベンゾフェノン(例:4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)、これらの組合せなどが挙げられる。
【0094】
化合物(3)の重合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、プロトン性溶媒(例:水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、非プロトン性溶媒(例:酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0095】
化合物(3)の重合は、重合が進行する限り特に制限されない。
【0096】
熱重合の場合、重合温度は、例えば、30~150℃、好ましくは50~100℃である。重合時間は、例えば、5~20時間、好ましくは10~15時間である。
【0097】
光重合の場合、通常、活性エネルギー線(例:紫外線)を照射する。照射量は、特に制限されないが、例えば、50~10000mJ/cmである。
【0098】
化合物(3)の重合物は、常法(例えば、透析)により精製してもよい。
【0099】
重合物は、固形状又はゲル状であってもよい。固形状の重合物は、例えば、一次元形状(例:鎖状)、二次元形状(例:フィルム状、シート状)、三次元形状(例:管状)であってもよい。
【0100】
フィルム又はシート状の重合物は、例えば、化合物(3)及び溶媒を含む重合性組成物を基材に適用する工程、及び該基材に適用された重合性組成物を重合する工程を含む方法により得られる。
【0101】
基材の材質としては、ガラス、金属(例:クロム、コバルト、ニッケル、チタン、これらを含む合金)、セラミックス(例:ハイドロキシアパタイト)、樹脂(例:フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド系樹脂)が挙げられる。基材は、離型性基材であってもよい。
【0102】
基材への適用方法としては、例えば、コーティング法(例:スピンコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法)、ディッピング法、スプレー法が挙げられる。
【0103】
<成形体>
一実施態様において、成形体は、双性イオンポリマーAを含む。成形体は、フィルム又はシートであることが好ましい。
【0104】
成形体は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、安定剤(例:熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、界面活性剤、可塑剤、防汚剤、防汚剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0105】
成形体の厚みは、形状によって異なるが、フィルムの場合、厚みは、例えば、0.5~500μm、好ましくは1~200μmであり、シートの場合、厚みは、例えば、0.5~5mm、好ましくは1~3mmである。
【0106】
成形体は、双性イオンポリマーAを、慣用の成形法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、キャスト成形、カレンダー成形、インフレーション成形などにより成形することができる。例えば、成形体がフィルム又はシートである場合、溶融成膜法(例:Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法)、溶液成膜法(例:キャスト法)により、成形体を製造することができる。
【0107】
<ポリマーブラシ>
一実施態様において、ポリマーブラシは、基材と、該基材に一端が固定され、他端が自由端である複数のポリマー鎖で形成されたポリマー層とを含むポリマーブラシであって、前記複数のポリマー鎖が双性イオンポリマーAを含む、ポリマーブラシである。
【0108】
基材は、例えば、<双性イオン化合物の製造方法>の(化合物(3)を重合する工程)において、基材として記載したものと同じものを使用することができる。なお、基材は表面処理(例えば、洗浄処理、エッチング処理)が施されたものであってもよい。
【0109】
ポリマーブラシは、例えば、(a)基材表面に重合反応の開始点となる官能基を固定する工程、及び(b)前記開始点からモノマーを重合する工程を含む方法により製造できる。
【0110】
工程(a)としては、重合反応の開始点となる官能基を含む開始剤(以下、「ブラシ用開始剤」という)を基材表面に固定する方法が好ましい。当該方法としては、ブラシ用開始剤及び溶媒を含む組成物を基材に適用する方法が好ましい。基材への適用方法としては、例えば、<双性イオン化合物の製造方法>のフィルム状の重合物の製造方法において、基材への適用方法として記載した方法と同じ方法を採用することができる。
【0111】
ブラシ用開始剤としては、基材に結合することができる結合性基と、重合開始点となる重合開始基とを有する化合物を好ましく用いることができる。
【0112】
前記結合性基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などの反応性シリル基;チオール基;ジスルフィド基;リン酸基などが挙げられる。これらのうち、反応性シリル基が好ましい。
【0113】
前記重合開始基としては、1-ブロモエチル基、1-メチル-1-ブロモエチル基、クロロエチル基などのハロゲン化アルキル基;2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ基、N-(t-ブチル)-1-フェニル-2-メチルプロピルニトロキシ基、N-(t-ブチル)-1-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロキシ基などのニトロキシ基含有官能基;SOCl基などが挙げられる。これらのうち、ハロゲン化アルキル基が好ましい。
【0114】
ブラシ用開始剤としては、例えば、トリアルコキシシリルアルキル ハロアルカノエートが挙げられ、その具体例としては、下記式:
【化20】
(式中、R10~R12は、それぞれ独立してアルコキシ基であり、R13は、ハロアルキル基であり、kは2以上の整数である)
で表される化合物が挙げられる。
【0115】
10~R12で示されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1-6アルコキシ基が挙げられる。これらのうち、C1-4アルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
【0116】
13で示されるハロアルキル基としては、例えば、1-ブロモエチル基、1-メチル-1-ブロモエチル基などのハロC1-6アルキル基が挙げられる。R13は、好ましくはハロC1-4アルキル基である。
【0117】
ブラシ用開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0118】
溶媒としては、例えば、プロトン性溶媒(例:水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、非プロトン性溶媒(例:酢酸エチル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0119】
基材に表面開始剤及び溶媒を含む組成物を適用すると、基材の表面と表面開始剤とが反応して結合を形成する。反応温度及び反応時間は、表面開始剤が基材に固定される限り、特に制限されない。反応温度は、例えば10~40℃であり、好ましくは15~30℃であり、反応時間は、例えば1~36時間、好ましくは5~30時間である。
【0120】
工程(b)において、使用されるモノマーは、化合物(3)を含む限り、特に制限されず、化合物(3)単独であってもよく、化合物(3)と他のモノマーとの組み合わせであってもよい。他のモノマーとしては、例えば、<双性イオン化合物>の項に記載した他のモノマーと同じものが使用できる。
【0121】
工程(b)の重合法は、ラジカル重合法が好ましく、リビングラジカル重合法がより好ましい。リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer Polymerization:RAFT)、ニトロキシドを介した重合法(Nitroxide-mediated Polymerization:NMP)などが挙げられる。中でも、ATRP、NMPが好ましく、反応安定性の点からATRPが好ましい。
【0122】
重合は、触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒は、通常、金属触媒であり、その具体例としては、ハロゲン化金属触媒、金属錯体触媒などが挙げられる。
【0123】
ハロゲン化金属触媒としては、例えば、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)などのハロゲン化銅触媒;塩化チタン(II)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)などのハロゲン化チタン触媒;塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)などのハロゲン化鉄触媒;塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)などのハロゲン化コバルト触媒;塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)などのハロゲン化ニッケル触媒;塩化モリブデン(III)、塩化モリブデン(V)などのハロゲン化モリブデン触媒;塩化ルテニウム(III)などのハロゲン化ルテニウム触媒などが挙げられる。
【0124】
金属錯体触媒としては、例えば、ルテニウム錯体触媒、鉄錯体触媒、ニッケル錯体触媒、パラジウム錯体触媒、ロジウム錯体触媒、銅錯体触媒、レニウム錯体触媒、モリブデン錯体触媒などが挙げられる。
【0125】
触媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。触媒としては、ハロゲン化金属触媒が好ましく、ハロゲン化銅触媒がより好ましい。
【0126】
触媒は、配位子と組み合わせてもよい。配位子としては、電子供与性の配位子が好ましく、例えば、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミンなどの多座アミン;トリス[2-ピリジルメチル]アミン、N-ブチル-2-ピリジルメタンイミン、N-ドデシル-N-(2-ピリジルメチレン)アミン、N-オクタデシル-N-(2-ピリジルメチレン)アミン、N-オクチル-2-ピリジルメタンイミン、4,4’-ジノニル-2,2’-ジピリジル、4,4’-ジ-(t-ブチル)-2,2’-ジピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ジピリジル、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、2,2’-ビピリジルなどのピリジン系化合物;ホスフィン系化合物;シクロペンタジエン系化合物などが挙げられる。
【0127】
重合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、プロトン性溶媒(例:水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、非プロトン性溶媒(例:酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0128】
重合は、開始剤の存在下で行うことが好ましい。開始剤としては、臭素系開始剤(例:ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル、(1-ブロモエチル)ベンゼン、2-ブロモイソ酪酸エチル)、塩素系開始剤(例:クロロ酢酸メチル、2-クロロプロピオン酸メチル、2,2-ジクロロアセトフェノン)などが挙げられる。これらの開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0129】
<生体適合性材料>
双性イオンポリマーAは、生体適合性に優れており、材料の表面に適用することにより、材料に生体適合性を付与したり、材料の生体適合性を向上することができ、当該材料を生体適合性材料として使用することができる。一実施態様において、生体適合性材料は、双性イオンポリマーAを含む。「生体適合性材料」とは、タンパク質、細胞などが接着しにくい性質を持つ材料をいう。
【0130】
生体適合性材料としては、例えば、人工血管、カテーテル、人工臓器、人工関節、人工透析膜、人工皮膚、人工骨(関節部など)、コンタクトレンズ、絆創膏、包帯などの医療材料の表面被覆材(又は表面コーティング材);コンタクトレンズの保存液;バイオチップ、マイクロアレイチップなどの診断医療デバイスの表面改質材;細胞培養シート;血液、タンパク質、細胞の保存材;タンパク質の凝固防止材;保湿剤、パック材料(化粧料)などが挙げられる。
【実施例
【0131】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0132】
[合成例:双性イオンモノマー]
合成例1.(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ)エチルホスフェート(MCHP)の合成
工程A1:ジエチル 2-ブロモエチルホスフェートの合成
【化21】
N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(0.18g、1.5mmol)を、窒素雰囲気下のへそ付きフラスコに入れた。これに、脱水ジクロロメタン(27mL)、脱水トリエチルアミン(3.0mL、22mmol)、及び2-ブロモエタノール(1.0mL、15mmol)を加えた。この溶液にジエチルクロロホスフェート(2.9mL、20mmol)を滴下し、0℃で1時間撹拌した。得られた反応混合物を室温まで加温して一晩撹拌した。その後、生成したトリエチルアミン塩酸塩をろ去し、ろ液を分液漏斗に移して飽和重曹水で洗浄した。得られた有機層を水、食塩水で洗浄し、次いで2N HClで洗浄した。さらに、得られた有機層を水、食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過、濃縮することにより、標題化合物を無色の液体(3.16g、81%)として得た。
1H NMR (400 MHz,CDCl3): δ=1.35-1.37(t, J=6.87, 7.16, 6H, CH3-CH2), 3.53-3.56(t, J=6.30, 2H, CH2-Br), 4.12-4.18(quin, J=6.87, 7.16, 4H, PO-CH2-CH3), 4.29-4.33(dt, J=6.30, 2H, Br-CH2-CH2-OP)
【0133】
工程B1:(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ)エチル ジエチルホスフェートの合成
【化22】
工程A1で得られたジエチル 2-ブロモエチルホスフェート(1.04g、4mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(0.76mL、4.5mmol)、及びアセトニトリル(7mL)を室温で3日間撹拌した。この溶液を濃縮し、粗生成物を無色の液体として得た。この粗生成物を酢酸エチルで再沈殿し、酢酸エチルで洗浄し、標題化合物を無色の粘稠液(1.43g、64%)として得た。
1H NMR (400 MHz,DMSO-d6): δ=1.24-1.28 (dt,J=0.91, 7.02, 6H,CH3CH2-OP), 1.90 (s, 3H,CH3-), 3.19 (s, 6H, -N+(CH3)2-), 3.79-3.83 (m, 4H, CH2-N+(CH3)2-CH2-CH2-OP), 3.83 (dq, 4H, CH3CH2-OP), 4.43-4.67 (q, J=3.4, 6.12, 2H, -N-CH2-CH2-OP), 4.53 (br, 2H, C(O)-O-CH2-), 5.717, 6.162 (t, 2H, C=CH2)
【0134】
工程C1:MCHPの合成
【化23】
工程B1で得られた(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ)エチル ジエチルホスフェート(0.61g、1.5mmol)を、窒素雰囲気下のへそ付きフラスコに入れた。これに、脱水アセトニトリル(15mL)を加えた。この溶液にブロモトリメチルシラン(1.2mL、9.0mmol)を滴下し、0℃で9時間撹拌した。この溶液を濃縮し、粗生成物を粘稠液として得た(収率:61%)。この粗生成物にメタノールを添加して9時間撹拌し、水及びアセトンの混合溶媒(水:アセトン=9:1)による2回の洗浄を伴って、強酸性陽イオン交換樹脂(H型)(DOWEX 50Wx8 50~100メッシュ)で精製することにより、無色の液体を得た。次いで、この液体を濃縮してアセトンを除去し、得られた溶液を一晩凍結乾燥した。最後に、凍結乾燥物を少量の脱水メタノールで溶解し、窒素雰囲気下、脱水アセトンに滴下して白色粉末沈殿物を得る再沈殿操作を3回繰り返すことにより、標題化合物を得た(0.103g、27%)。
1H NMR (400 MHz,DMSO-d6): δ=1.90 (s, 3H,CH3-), 3.19 (s, 6H, -N+(CH3)2-), 3.75 (m, 2H, -N+(CH3)2-CH2-CH2-OP), 3.83 (br, 2H, -O-CH2-CH2-N), 4.27 (br, 2H, -CH2-OP), 4.53 (br, 2H, -O-CH2-), 5.717, 6.162 (t, 2H, C=CH2)(純度99.89%)
【0135】
合成例2.MCHPの合成
工程A2:2-コリニウムメタクリレートブロミドの合成
【化24】
窒素置換したへそつきフラスコに2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(0.5mL、3.0mmol)、2-ブロモエタノール(0.2mL、3mmol)、及びアセトニトリル(6mL)を加え、室温で24時間攪拌させた。この溶液を濃縮し、粗生成物を無色の粘稠液として得た。粗生成物をクロロホルムで溶かし、酢酸エチルに再沈殿し、ろ過及び酢酸エチルでの洗浄により白色固体(0.81g、96%)を得た。
1H NMR (400 MHz,CD3OD): δ=1.97(s, 3H, CH3-), 3.276(s, 6H, -N+(CH3)2-), 3.613(m, 2H, -N+(CH3)2-CH2-CH2-OH), 3.88(m, 2H, -O-CH2-CH2-), 4.028(m, 2H, -CH2-OH), 4.641(m, 2H, -O-CH2-), 5.717, 6.162(2s, 2H, C=CH2)
【0136】
工程B2:MCHPの合成
窒素置換した三つ口フラスコに、工程A2で得られた2-コリニウムメタクリレートブロミド(0.34g、1.2mmol)、イミダゾール(0.90g、12mmol)、及び脱水アセトニトリル(8mL)を加えた。この溶液に、-25℃で、塩化ホスホリル(0.4mL、4.3mmol)及び脱水アセトニトリル(20mL)を滴下した。20分後、水を加えて混合物を次の日まで置いた。生成したイミダゾール塩酸塩をろ去し、真空下で濃縮し、粗生成物を白色固体(0.624g)として得た。粗生成物をDIAION SK104Hに通し、これを3回繰り返し、黄色いオイル(0.4976g、52%)を得た。さらに、逆相シリカカラムクロマトグラフィー(0.1質量% TFA水溶液:アセトニトリル=95:5)にて単離操作を行うことにより、標題化合物を無色の粘稠液(47.4mg、13%)として得た。
1H NMR (400 MHz,DMSO-d6): δ=1.90 (s, 3H,CH3-), 3.19 (s, 6H, -N+(CH3)2-), 3.75 (m, 2H, -N+(CH3)2-CH2-CH2-OP), 3.83 (br, 2H, -O-CH2-CH2-N), 4.27 (br, 2H, -CH2-OP), 4.53 (br, 2H, -O-CH2-), 5.717, 6.162(2s, 2H, C=CH2)
【0137】
合成例3.MCHPの合成
窒素置換した三つ口フラスコに、工程A2で得られた2-コリニウムメタクリレートブロミド(0.282g、1.0mmol)及び脱水アセトニトリル(2.5mL)を加えて、氷浴に設置した後、塩化ホスホリル(0.28mL、3.0mmol)を滴下した。12時間後、脱イオン水(0.28mL、16.0mmol)を加え、12時間撹拌した。この溶液を濃縮後、減圧乾燥させることで粗生成物を黄色い液体として得た(H NMR収率:61%)。粗生成物(0.845g)を逆相シリカカラムクロマトグラフィー(0.1質量% TFA水溶液:アセトニトリル=95:5)にて単離操作を行うことにより、標題化合物を得た(0.139g、49%)。
【0138】
合成例4.MCHPの合成
工程A4:2-コリニウムメタクリレートクロリドの合成
【化25】
工程A2で得られた2-コリニウムメタクリレートブロミドを水に溶かし、強酸性陽イオン交換樹脂(H型)(DOWEX 50Wx8 50~100メッシュ)に吸着させ、0.1Mの塩酸で溶出させた。これを凍結乾燥することにより、標題化合物を得た。
【0139】
工程B4:MCHPの合成
(1)窒素雰囲気下のへそ付きフラスコにP(2.896g、15mmol)を入れ、滴下漏斗に工程A4で得られた2-コリニウムメタクリレートクロリド(2.183g、10mmol)及び乾燥アセトニトリル(15mL)を入れた。前記フラスコに乾燥アセトニトリル(50mL)を添加した。
(2)オイルバスで温度を25℃に調節しながら、前記フラスコに白色固体溶液を滴下した(1分当たり6~7滴)。滴下後、70℃で5時間反応を行い、混合物をろ過して液体と固体に分離した。
(3)前記液相にMili-Q水(1mL)を滴下し、70℃で3時間撹拌し、凍結乾燥して粗生成物を得た。
(4)粗生成物をメタノールに溶かし、脱水アセトンに窒素雰囲気下で滴下して沈殿物を得る再沈殿操作を3回繰り返し、白色粉末を得た。
(5)得られた白色粉末を少量のアセトニトリルに溶かし、不溶部を濾過により取り除いた後、脱水アセトンに窒素雰囲気下で滴下し、標題化合物を得た。
(5’)(5)の別法として、得られた白色粉末をイオン交換水に溶かし、強酸性陽イオン交換樹脂(H型)(DOWEX 50Wx8 50~100メッシュ)に吸着させ、酢酸溶液で溶出することにより、標題化合物を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO -d6): δ=1.899 (s, 3H,CH 3-), 3.148 (s, 6H, -N+(CH 3)2-), 3.484 (m, 2H, -N+(CH3)2-CH 2-CH2-OP), 3.760 (m, 2H, -O-CH2-CH 2-N), 4.262 (m, 2H, -CH 2-OP), 4.515 (m, 2H, -O-CH 2-), 5.758, 6.081 (s, 2H, C=CH2)(純度99.97%)
31P NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ=-0.656(純度99.93%)
【0140】
合成例5.2-{(3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ}エチルホスフェート(MACHP)の合成
工程A5:N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミドの合成
【化26】
脱水ジクロロメタンを窒素雰囲気下のへそ付きフラスコに入れた。これに、トリエチルアミン(42mL,415mmol)とN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(12g,143mmol)を加えた。この溶液にメタクリロイルクロリド(9.7ml,87mmol)を滴下し、0℃で一晩攪拌した。この溶液からトリエチルアミン塩酸塩を除くために濾過し、濾液を濃縮し粗生成物を粘稠液として得た。この粗生成物を減圧蒸留(5mmHg,140℃)にて精製することで無色の粘稠液として得た。次いで、この粘稠液をシリカクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:2→100:25)にて標題化合物を無色粘稠液(8.05g,47mmol,51%)として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ=1.53-1.59(m, 2H, -NH-CH2-CH 2-CH2-N(CH3)2), 1.80(s, 3H, CH 3-CH2), 2.11(s, 6H, N(CH 3)2), 2.27-2.30(m, 2H, -NH-CH2-CH2-CH 2-N(CH3)2), 3.23-3.29(m, 2H, -NH-CH 2-CH2--CH2-N(CH3)2), 5.16, 5.61 (2s, 2H, C=CH2), 7.82(s, 1H, NH)
【0141】
工程B5:2-{(3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ}エチルジエチルホスフェートの合成
【化27】
丸底フラスコに、工程A5で得られたN-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-2-メチル-2-プロペンアミド(3.48g,20mmol)、工程A1で得られたジエチル 2-ブロモエチルホスフェート(6.69g,26mmol)、アセトニトリル5mlと重合禁止剤4-メトキシフェノールを少量加えた。室温で24時間攪拌後、溶液を濃縮し、粗生成物を粘稠液として得た。この粗生成物を20倍量の酢酸エチルでデカンテーションを行い、粘稠液を標題化合物(2.71g,6.2mmol,31%)として得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ=1.20-1.23(t, 6H, CH 3-CH2-OP ), 1.82(s, 3H, CH 3-CH2), 1.84-1.88(br, 2H, -NH-CH2-CH 2-CH2-N(CH3)2), 3.08 (s, 6H, -N+(CH 3)2-), 3.12-3.16(m, 2H, -NH-CH 2-CH2-CH2-N(CH3)2), 3.35-3.41 (m, 2H, -NH-CH2-CH2-CH 2-N(CH3)2), 3.66-3.68 (m, 2H, -N+(CH3)2-CH 2-CH2-OP), 4.01-4.06(m, 4H, PO-CH 2-CH3), 4.35-39 (br, 2H, CH2-CH 2-OP), 5.28, 5.67 (2s, 2H, C=CH2), 8.02(s, 1H, NH)
【0142】
工程C5:MACHPの合成
【化28】
工程B5で得られた2-{(3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ}エチルジエチルホスフェート(2.71g、6.2mmol)を、窒素雰囲気下のへそ付きフラスコに入れた。これに、脱水アセトニトリル(70mL)を加えた。この溶液にブロモトリメチルシラン(10mL,65mmol)を滴下し、0℃で9時間撹拌した。この溶液を濃縮し、粗生成物を粘稠液として得た。この粗生成物を少量の脱水メタノールで溶解し、窒素雰囲気下、脱水アセトンに滴下することにより、標題化合物を得た(2.11g)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ=1.85 (s, 3H,CH 3-), 1.86-1.90(m, 2H, -NH-CH2-CH 2-CH2-N(CH3)2), 3.09 (s, 6H, -N+(CH 3)2-), 3.24-3.39(m, 2H, -NH-CH 2-CH2-CH2-N(CH3)2), 3.60-3.63 (m, 2H, -NH-CH2-CH2-CH 2-N(CH3)2), 3.73-3.86 (br, 2H, -O-CH2-CH 2-N), 4.23 (br, 2H, -CH 2-OP), 5.33, 5.69 (2s, 2H, C=CH2), 8.07(s, 1H, NH)
【0143】
[実施例1:双性イオンポリマー]
実施例1-1:MCHPホモポリマー
チューブ型反応器内でMCHP(0.191g、0.68mmol)及びAIBN(1.1mg、0.0068mmol)をDMSO溶液(0.68mL)に溶解し、窒素を30分間バブリングすることにより脱気し、凍結脱気及び窒素パージの際に系内の酸素を除去した。重合は70℃で16時間実施した。得られた生成物を、メタノール及び脱イオン水で1日ずつ、セルロース透析チューブ(3500MWCO)によって精製し、凍結乾燥してMCHPポリマー(0.0028g、15%)を得た。
1H NMR (400 MHz,methanol-d4): δ=1.8-2.0 (br, 4H,-CH2-CH2-), 3.28 (br, 6H, -N+(CH3)2-), 3.74 (br, 2H, -N+(CH3)2-CH 2 -CH2-OP), 3.85 (br, 2H, -O-CH2-CH 2 -N), 4.31 (br, 2H, -CH2-OP), 4.547 (br, 2H, -O-CH2-)
【0144】
実施例1-2:MCHP-BMA(ブチルメタクリレート)コポリマー
MCHPの代わりに、MCHPとBMAを40:60のモル比で混合したモノマーを使用した点を除き、実施例1-1と同様に操作し、MCHP-BMAコポリマー(p(MCHP-co-BMA))を得た。得られたMCHP-BMAコポリマーにおいて、MCHP単位とBMA単位とのモル比は、13:87である。
1H NMR (400 MHz,methanol-d4): δ=0.959 (br, 3H,CH 3 -CH2-), 1.42 (br, 2H, CH3-CH 2 -CH2-), 1.63 (br, 2H, -CH2-CH 2 -CH2-), 3.28 (br, 6H, -N+(CH3)2-), 3.74 (br, 2H, -N+(CH3)2-CH 2 -CH2-OP), 3.85 (br, 2H, -O-CH2-CH 2 -N), 3.97 (br, 2H, -CH2-CH2-CH 2 -O-), 4.31 (br, 2H, -CH 2 -OP), 4.48 (br, 2H, -O-CH2-)
【0145】
実施例1-3:MCHP-BMAコポリマー及びMCHP-DI(ジメチルイタコネート)コポリマー
実施例1-2と同様に操作し、MCHP単位とBMA単位とのモル比が22:78又は29:71であるMCHP-BMAコポリマー、及びMCHP単位とDI単位とのモル比が18:82であるMCHP-DIコポリマー(p(MCHP-co-DI))を製造した。
具体的には、N交換後の枝付きフラスコ内の無水エタノール(8mL)にMCHP(0.6mmol)、AIBN(0.06mmol)、及びBMA(2.4mmol)を溶解し、温度を70℃に上昇して24時間反応させた。得られたコポリマーをメタノールに溶解し、セルロース透析チューブ(3500MWCO)によって精製し、エタノールに溶解してヘキサン中で沈殿させて、MCHP単位とBMA単位とのモル比が22:78あるMCHP-BMAコポリマーを製造した。
MCHP0.9mmol及びBMA2.1mmolを使用した点を除き、上記と同様に操作し、MCHP単位とBMA単位とのモル比が29:71であるMCHP-BMAコポリマーを製造した。
BMAの代わりにDIを使用し、無水エタノールの代わりに、脱イオン水:メタノール=4:6(容積比)の混合液を使用した点を除き、上記と同様に操作し、MCHP単位とDI単位とのモル比が18:82であるMCHP-DIコポリマーを製造した。
1H NMR (500 MHz,methanol-d4): δ= 1.2-1.5 (br, 2H,-C-CH2-C-),3.24 (br, 6H, -N+(CH3)2-), 3.62 (br, 3H, -O-CH3), 3.74 (br, 2H, -N+(CH3)2-CH2-CH2-OP), 4.26 (br, 2H, -CH2-OP), 4.34 (br, 2H, -O-CH2-)
なお、上記と同様に、コントロールとして、BMAホモポリマー(p(BMA))、MPC単位とBMA単位とのモル比が29:71であるMPC-BMAコポリマー(p(MPC-co-BMA))、及びDIホモポリマー(p(DI))を製造した。
【0146】
[実施例2:フィルム]
実施例1-1及び1-2で得られたポリマーを用い、0.1g/mLのポリマー溶液(溶媒:エタノール)を調製し、このポリマー溶液をガラス基板にキャストし、室温にて一日乾燥することにより、フィルムを作製した。また、実施例1-3で得られたポリマーを用い、40mg/mLのポリマー溶液(溶媒:エタノール)を調製し、このポリマー溶液をガラス基板にキャストし、室温にて一日乾燥することにより、フィルムを作製した。
【0147】
[実施例3:ポリマーブラシ(SI-ATRP)]
ガラスウエハを1.0cm×2.0cm片に切断し、エタノール、水、アセトン、及びエタノールの順に5分ずつ超音波処理することにより洗浄し、酸素プラズマにより10分間エッチングした。
(3-トリメトキシシリル)プロピル2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(TSBM)(0.045mmol、0.012mL)を開始剤として使用し、ガラスウエハ上に均質な開始剤単層を得た。
3mmolの改質剤[MPC(東京化成工業社製、商品名「2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン」)、MCHP、又はMACHP]、TSBM単層を有するガラスウエハ、臭化銅(I)(0.12mmol、0.017g)、及び2,2’-ビピリジル(0.3mmol、0.047g)を200mLのへそ付きフラスコに加え、窒素雰囲気に置換した。これに、溶媒としてのメタノール及び水(メタノール:水=1:1)、続けてエチル 2-ブロモイソブチレート(EBIB)(0.12mmol、0.018mL)を加え、室温で24時間振盪し、MPC改質ガラスウエハ(Si-p(MPC))、MCHP改質ガラスウエハ(Si-p(MCHP))、及びMACHP改質ガラスウエハ(Si-p(MACHP))を得た。
【0148】
試験例1:ラマンスペクトル
スライドガラス、TSBM単層を有するガラスウエハ(単に「TSBM」と称する)、Si-p(MCHP)、及びSi-p(MPC)について、レーザーラマン顕微鏡(Technospex社製、uRaman-532)により、ラマンスペクトルを測定した。結果を図1に示す。
【0149】
Si-p(MPC)では、1090cm-1にピークが観測された。当該ピークは、MPCにおけるO-P-Oの対称伸長振動を表す。
Si-p(MCHP)では、917cm-1にピークが観測された。当該ピークは、MCHPにおけるP-O-HのPO伸長振動を表す。
なお、TSBMの582cm-1は、C-Brによるものである。
【0150】
試験例2:接触角(WCA)
スライドガラス(SG)、TSBM、Si-p(MPC)、Si-p(MCHP)、及びSi-p(MACHP)について、自動接触角計(協和界面科学社製、DMe-201)を用いて、水又はバッファーに対する接触角を次のように測定した。
水に対する接触角は、5μLの滴下量のMili-Q水を用いて室温で測定した。
バッファーに対する接触角は、下表に示すバッファーを調製し、5μLの滴下量を用いて室温で測定した。
【0151】
【表1】
【0152】
水に対する接触角の結果を図2に示し、バッファーに対する接触角の結果を図3に示す。
【0153】
スライドガラスの静的水接触角は、約46.3°であるのに対し、Si-p(MPC)及びSi-p(MCHP)は、スライドガラスよりも親水性であり、静的水接触角は、それぞれ、約37.8°及び22.7°であった。このことから、Si-p(MCHP)は、水性条件で極めて親水性の高い表面となることが分かる。
【0154】
バッファーに対する接触角から、Si-p(MCHP)及びSi-p(MACHP)は、スライドガラス、Si-p(TSBM)、及びSi-p(MPC)に比べて、より親水性であり、種々のpHに対してより安定であることが分かる。例えば、pHが3.8から1.0に低下するにつれて、Si-p(MPC)は、接触角が大きく変化(上昇)するのに対し、Si-p(MCHP)及びSi-p(MACHP)は、接触角がほとんど変化しない。
【0155】
試験例3:タンパク質吸着
0.1M、pH9.0の炭酸ナトリウムバッファーに2mg/mlのタンパク質(フィブリノーゲン)を含む溶液を調製した。これとは別に、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)を濃度が1mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。穏やかにタンパク質溶液を撹拌しながら、タンパク質溶液1mLずつ50μLのFITC溶液を加え、5mLのアリコートとした。必要量のFITC溶液を加えた後、4℃の暗所で8時間反応をインキュベートした。pH7.4のPBS、透析膜(富士フイルム和光純薬社製、ダイアライシスメンブラン、サイズ27)を用いて0~5℃で一晩透析を2回行い、FITC標識フィブリノーゲンPBS溶液を得た。また、pH7.4のPBSの代わりに、pH2.8のMcllvaineバッファーを使用し、上記と同様に操作し、FITC標識フィブリノーゲンMcllvaineバッファー溶液を得た。
【0156】
pH7.4でのSi-p(MPC)とSi-p(MCHP)との比較
スライドガラス、Si-p(MPC)、及びSi-p(MCHP)について、pH7.4のPBSで超音波処理し、37℃、5%COの条件で一晩インキュベートした。これらを、上記のFITC標識フィブリノーゲンPBS溶液中で60分間インキュベートし、PBSで洗浄した後、蛍光顕微鏡を用いて観察した。蛍光顕微鏡の観察写真を図4(A)に示し、蛍光強度(タンパク質の吸着量に相当)を図5に示す。
【0157】
また、吸着されたタンパク質を75%アルコールで固定化し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。SEMの観察写真を図4(B)に示し、タンパク質の吸着面積を図5に示す。
【0158】
スライドガラス上のタンパク質の吸着量は、Si-p(MCHP)及びSi-p(MPC)上のタンパク質の吸着量に比べて著しく多い。また、スライドガラス上のタンパク質の吸着面積も、Si-p(MCHP)及びSi-p(MPC)上のタンパク質の吸着面積に比べて著しく大きい。Si-p(MCHP)は、タンパク質の吸着量が最も少なく、吸着面積も約5%と低く、生体適合性に優れることが分かる。
【0159】
pH2.8でのSi-p(MPC)とSi-p(MCHP)との比較
ガラス(Plane)、Si-p(MPC)、及びSi-p(MCHP)について、pH2.8のMcllvaineバッファーで超音波処理し、37℃、5%COの条件で一晩インキュベートした。これらを、上記のFITC標識フィブリノーゲンMcllvaineバッファー溶液中で60分間インキュベートし、PBSで洗浄した後、蛍光顕微鏡を用いて観察した。蛍光顕微鏡の観察写真を図6に示し、蛍光強度及びタンパク質の吸着面積を図7に示す。
【0160】
p(BMA)とp(MCHP-co-BMA)との比較
実施例2で得られたp(MCHP-co-BMA)フィルムを表面に形成したガラス、及びコントロールとしてp(BMA)フィルムを表面に形成したガラスについて、上記と同様にタンパク質吸着試験を行った。蛍光顕微鏡の観察写真を図8に示し、蛍光強度及びタンパク質の吸着面積を図9に示す。
【0161】
p(MCHP-co-BMA)フィルムは、p(BMA)フィルムに比べて、タンパク質の吸着量が著しく少なく、タンパク質の吸着面積も小さく、生体適合性に優れることが分かる。
【0162】
p(MPC-co-BMA)とp(MCHP-co-BMA)との比較、及びp(DI)とp(MCHP-co-DI)との比較
実施例2で得られたp(MCHP-co-BMA)フィルムを表面に形成したガラス、及びp(MCHP-co-DI)フィルムを表面に形成したガラス、並びにコントロールとしてp(BMA)フィルムを表面に形成したガラス、及びp(DI)フィルムを表面に形成したガラスについて、上記と同様にタンパク質吸着試験を行った。蛍光強度及びタンパク質の吸着面積を図10に示す。
【0163】
p(MCHP-co-BMA)フィルムは、p(MPC-co-BMA)フィルムに比べて、タンパク質の吸着量及び吸着面積が低減されており、生体適合性に優れることが分かる。また、共重合させる他のモノマーとして、BMAの代わりに、DIを用いても、タンパク質の吸着量及び吸着面積を低減することができ、生体適合性に優れることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10