(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】組立治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2404 20160101AFI20250305BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20250305BHJP
H01M 8/2465 20160101ALI20250305BHJP
【FI】
H01M8/2404
H01M8/0247
H01M8/2465
(21)【出願番号】P 2023208514
(22)【出願日】2023-12-11
【審査請求日】2024-07-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522195954
【氏名又は名称】株式会社水素パワー
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深田 直也
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-149265(JP,A)
【文献】中国実用新案第219393438(CN,U)
【文献】中国実用新案第211017261(CN,U)
【文献】特開2006-286546(JP,A)
【文献】特開2016-103309(JP,A)
【文献】特開2021-097019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/2404
H01M 8/0247
H01M 8/2465
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体が設けられた矩形状の枠体と、この枠体の外形寸法と異なる形状のセパレータと、を交互に積層して組み立てる組立治具
を用いたセル又はスタックの組立方法であって、
前記組立治具は、積層方向に沿って延び、前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする第一治具と、前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具と、前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する第三治具と、を備え、
前記第一治具は、前記セパレータに設けられた位置決め孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体の長辺側端面及び短辺側端面に当接可能な枠体用ガイドであり、
前記第一治具を用いて前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする工程と、前記第二治具を用いて前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する工程と、前記第三治具により前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する工程と、を行い、
前記第一治具を用いる工程は、前記位置決め孔に、前記位置決めピンを挿通させ、
前記第二治具を用いる工程は、前記枠体に設けられ、前記各位置決め孔に連通し、前記各位置決め孔よりも大径に構成された連通孔に、前記位置決めピンを挿通させつつ、前記枠体用ガイドに、前記枠体の長辺側端面及び短辺側端面を同時に当接させることで、前記枠体を前記セパレータに積層し、
前記枠体の上方に積層される前記セパレータにおける、前記位置決め孔の周縁には、上方に突設されたボス部が形成されている、セル又はスタックの組立方法。
【請求項2】
膜電極接合体が設けられた矩形状の枠体と、この枠体の外形寸法と異なる形状のセパレータと、を交互に積層して組み立てる組立治具
を用いたセル又はスタックの組立方法であって、
前記組立治具は、積層方向に沿って延び、前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする第一治具と、前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具と、前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する第三治具と、を備え、
前記第一治具は、前記セパレータに設けられた第一位置決め孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体に設けられた第二位置決め孔にのみ挿通可能な枠体用ピンであり、
前記第一治具を用いて前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする工程と、前記第二治具を用いて前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する工程と、前記第三治具により前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する工程と、を行い、
前記第一治具を用いる工程は、前記第一位置決め孔に、前記位置決めピンを挿通させ、
前記第二治具を用いる工程は、前記枠体に設けられ、前記各第一位置決め孔に連通する連通孔に、前記位置決めピンを挿通させつつ、前記枠体における、前記各セパレータに重畳しない位置に設けられた前記第二位置決め孔に、前記枠体用ピンを挿通させることで、前記枠体を前記セパレータに積層し、
前記枠体の上方に積層される前記セパレータにおける、前記第一位置決め孔の周縁には、上方に突設されたボス部が形成されている、セル又はスタックの組立方法。
【請求項3】
前記第三治具により前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定した状態で、前記第一治具を用いる工程及び前記第二治具を用いる工程を行う、
請求項1又は2に記載のセル又はスタックの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成するセル又はスタックの組立てに用いられる組立治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減への取組みが世界的に活発になっていることを背景に、燃料電池の優位性が注目されている。
【0003】
燃料電池は、水素と酸素さえあれば発電が可能であり、発電時に水しか排出しないことから、環境への負荷が少ない。
また、燃料電池は、化学反応のみで発電するため騒音が発生しないこと、送電ロスが少ないこと、燃料の入手が容易であること等、多くのメリットが存在する。
【0004】
ところで、燃料電池は、セルと呼ばれる、単体で水素と酸素を反応させて発電を行うことができる略板状の構成体が複数枚積層されることで、スタックと呼ばれる積層体となり、全体が概略構成されている。
そして、従来から、セルとスタックとは、異なる方法により組立てられてきた。
【0005】
セルは、例えば特許文献1に示されるように、積層方向に延びる一対の位置決めピンに、セルを構成するセパレータや枠体に設けられ位置決め孔を挿通させていくことで積層され、組立てられる。
【0006】
スタックは、例えば特許文献2に示されるように、側面コ字状のセル積層載置部における側面板を位置決めガイド(ガイドプレート)として、各セルの端面をこの位置決めガイドに当接させた状態で積層していき、上方から押圧板で押圧することで、組立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2022-121027号公報
【文献】特開2009-266760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、スタックの組立てにあたって、特許文献2に示されるような、セルの端面を位置決めガイドに当接させながら積層していく方法を用いる場合、枠体よりもセパレータの外形寸法が大きいセルは、セパレータの端面が位置決めガイドに当接することとなる。
このような場合、セパレータと位置決めガイドとの間に存在するコンタミや結露水によって、セパレータ間に短絡が生じる恐れがあり、製造時の安全性や、製造された燃料電池の品質を適切に担保できない。
【0009】
上記問題の発生を抑制するためには、各セル共通して、枠体の外形寸法をセパレータよりも大きくすることで、枠体の端面をガイドプレートに当接させ、ガイドプレートとセパレータとの沿面距離を一定以上確保しながら、各セルを積層していくことが望ましい。
【0010】
このことを前提として、特許文献1及び特許文献2に示された各方法で、セル及びスタックを組立てる場合、各セル間における枠体の外形寸法の相違等によって、以下、
図16~
図18を用いて詳述するような問題が生ずる。
なお、
図16~
図18において、簡略化した事例として、3枚のセルC1´~C3´を組立て、これらを積層してスタックP´を組立てる事例を説明する。
【0011】
図16においては、上記事例を説明するための構成の平面図を示している。
即ち、各セルC1´~C3´は、(a)それぞれに用いられる枠体M1´~M3´と、(b)これが挟持される一対のセパレータS´(一方のみ図示)と、により構成されている。
【0012】
セパレータS´には、後述する位置決めピンLと略同径に構成され、各位置決めピンLが挿通可能な位置決め孔hsが一対設けられ、枠体M1´~M3´には、位置決め孔hsに連通する連通孔hmが一対設けられている。
枠体M1´~M3´について、セルC2´の枠体M2´の外形寸法を基準として、各枠体M1´~M3´の短辺方向の外形公差は±bである。
また、連通孔hmの直径は、位置決め孔hsの直径dに対して、d+2aである。
【0013】
なお、
図16~
図18において、セパレータの外形を一点鎖線で示し、枠体の外形を二点鎖線で示している。
また、各枠体M1´~M3´の外形について、基準とする枠体M2´を太線で示し、枠体M2´よりも小さい枠体M1´を細線で示し、枠体M2´よりも小さい枠体M3´を極太線で示している。
また、各セルC1´~C3´におけるセパレータSの外形寸法や、位置決め孔hsの配置箇所について、その公差は、各枠体M1´~M3´の外形公差に比して十分に小さいものとする。
【0014】
このことを前提として、各セルC1´~C3´を、特許文献1に示すような方法で、位置決めピンLを用いて組立てた場合、
図17に示すような組立て態様が、一例として想定される。
即ち、セルC1´については、セパレータSに対して枠体M1´が短辺方向に沿ってaだけ紙面下方にずれて積層され、セルC3´については、セパレータSに対して枠体M1´が短辺方向に沿ってaだけ紙面上方にずれて積層され、セルC2´については、ズレがなく(位置決め孔hsと連通孔hmの中心が合って)積層された態様である。
【0015】
そして、スタックP´を、特許文献2に示すような方法で、枠体用ガイドGを用いて組立てた場合、
図18に示すような組立て態様が、一例として想定される。
即ち、各セルC1´~C3´における枠体M1´~M3´の端面を、枠体用ガイドGに当接させながら積層するため、セルC1´のセパレータS、及びセルC3´のセパレータSの積層位置について、短辺方向に2(a+b)だけズレが生じることとなる。
【0016】
このように、枠体の外形寸法の公差や、枠体とセパレータとの孔径の公差が生じている状態で、セルの組立てとスタックの組立てとを、異なる治具による完全に独立した工程とすると、各セル間(セパレータ間)のズレが大きくなる。
これに起因して、セパレータ接触面積減少による面圧や接触抵抗の増大が発生し、燃料電池の発電効率に悪影響を及ぼすこととなる。
【0017】
本発明は上記のような実状に鑑みてなされたものであって、スタックの組立てにあたって、各セル間のセパレータの位置のズレを極力抑制するための組立治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明は、膜電極接合体が設けられた矩形状の枠体と、この枠体の外形寸法と異なる形状のセパレータと、を交互に積層して組み立てる組立治具であって、
積層方向に沿って延び、前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする第一治具と、前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具と、前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する第三治具と、を備える。
【0019】
本発明によれば、一の組立て治具の中で、セルの組立てを行うことができ、スタックの組立て時において、各セルに含まれるセパレータの位置のズレを極力抑制することができる。
【0020】
詳述すれば、本組立て治具を用いる場合、作業者は、セルの組立てにおいて、枠体については、第二治具により移動を規制しつつ、第一治具により、この枠体に積層するように、各セパレータ同士の積層位置を位置決めすることとなる。
このとき、第三治具により、第一治具及び第二治具の相対位置が固定されているため、上記流れにて組立てを行うことで、枠体の外形寸法にバラつきが生じている場合でも、各セルについて、第二治具を基準とした、枠体とセパレータとの相対位置が略一定となる。
このため、各セルを積層してスタックを組立てた場合であっても、セルの組立てと同様に、各セルの枠体を第二治具により位置決めしつつ、積層することで、各セルに含まれるセパレータの位置のズレを極力抑制することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記第一治具は、前記セパレータに設けられた孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体の長辺側端面及び短辺側端面に当接可能な枠体用ガイドであり、
前記第三治具は、前記位置決めピン及び前記枠体用ガイドの基端が固定される基台である。
【0022】
このような構成とすることで、簡易な構成でもって、上記の組立て作業を行うことができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記第一治具は、前記セパレータに設けられた孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体に設けられた孔にのみ挿通可能な枠体用ピンであり、
前記第三治具は、前記位置決めピン及び前記枠体用ピンの基端が固定される基台である。
【0024】
このような構成とすることで、簡易な構成でもって、上記の組立て作業を行うことができる。
【0025】
また、本発明は、組立て治具を用いたセル又はスタックの組立方法であって、
前記第一治具を用いて前記各セパレータ同士の積層位置を位置決めする工程と、前記第二治具を用いて前記枠体の長辺方向及び短辺方向の移動を規制する工程と、前記第三治具により前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定する工程と、を行う。
【0026】
このような構成とすることで、上記の通り、各セルに含まれるセパレータの位置のズレが極力抑制されたスタック、又はこれを構成するセルを組立てることができる。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記第一治具は、前記セパレータに設けられた位置決め孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体の長辺側端面及び短辺側端面に当接可能な枠体用ガイドであり、
前記第一治具を用いる工程は、前記位置決め孔に、前記位置決めピンを挿通させ、
前記第二治具を用いる工程は、前記枠体に設けられ、前記各位置決め孔に連通し、前記各位置決め孔よりも大径に構成された連通孔に、前記位置決めピンを挿通させつつ、前記枠体用ガイドに、前記枠体の長辺及び短辺を同時に当接させることで、前記枠体を前記セパレータに積層する。
【0028】
このような構成とすることで、簡易な構成でもって、上記の組立て作業を行うことができる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記第一治具は、前記セパレータに設けられた第一位置決め孔に挿通可能な位置決めピンであり、
前記第二治具は、前記枠体に設けられた第二位置決め孔にのみ挿通可能な枠体用ピンであり、
前記第一治具を用いる工程は、前記第一位置決め孔に、前記位置決めピンを挿通させ、
前記第二治具を用いる工程は、前記枠体に設けられ、前記各第一位置決め孔に連通する連通孔に、前記位置決めピンを挿通させつつ、前記枠体における、前記各セパレータに重畳しない位置に設けられた前記第二位置決め孔に、前記枠体用ピンを挿通させることで、前記枠体を前記セパレータに積層する。
【0030】
このような構成とすることで、簡易な構成でもって、上記の組立て作業を行うことができる。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記枠体の上方に積層される前記セパレータにおける、前記位置決め孔の周縁には、上方に突設されたボス部が形成されている。
【0032】
このような構成とすることで、各セルにおいて、位置決め孔周りの各セパレータ間の距離が大きくなる。
このため、スタックを積層方向に圧縮した場合等外力が加わった場合に、枠体に設けられた孔を介して、各セパレータが接触する事態が極力抑制され、この事態に基づくセルの短絡を抑制することができる。
【0033】
本発明の好ましい形態では、前記第三治具により前記第一治具及び前記第二治具の相対位置を固定した状態で、前記第一治具を用いる工程及び前記第二治具を用いる工程を行う。
【0034】
このような構成とすることで、より位置決めの精度を向上させたセル又はスタックの組立てを行うことができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、スタックの組立てにあたって、各セル間のセパレータの位置のズレを極力抑制するための組立て治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態1に係る組立て治具を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いてセルを組立てる様子を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いてセルを組立てる様子を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の実施形態1に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図8】本発明の実施形態1に係るセパレータに設けられたボス部を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態2に係る組立て治具を示す斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いてセルを組立てる様子を示す斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いてセルを組立てる様子を示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図13】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図14】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図15】本発明の実施形態2に係る組立て治具を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図16】従来技術を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図17】従来技術を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【
図18】従来技術を用いた、セル又はスタックの組立方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、
図1~
図15を用いて、本発明の各実施形態に係る組立治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法について説明する。
なお、以下に示す各実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の各実施形態に限定するものではない。
また、これらの図において、符号X、C及びPは、本実施形態に係る組立治具、セル及びスタックを示す。
【0038】
<実施形態1>
以下、
図1~
図8を用いて、実施形態1に係る組立治具X、及びそれを用いたセルC又はスタックPの組立方法について説明する。
【0039】
<<組立治具>>
組立治具Xは、膜電極接合体mが設けられた矩形状の枠体M(
図2等参照)と、枠体Mの外形寸法と異なる形状のセパレータS(
図2等参照)と、を交互に積層して組み立てるものである。
また、組立治具Xは、
図1に示すように、積層方向D(
図2等参照)に沿って延び、各セパレータS同士の積層位置を位置決めする第一治具1と、枠体Mの長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具2と、第一治具1及び第二治具2の相対位置を固定する第三治具3と、を備えている。
【0040】
第一治具1は、セパレータSに設けられた位置決め孔hs(
図2参照)に挿通可能な位置決めピンLであり、積層方向Dに沿って延びる略円柱状体として、一対設けられている。
【0041】
第二治具2は、枠体Mの長辺側端面及び短辺側端面に当接可能な枠体用ガイドGであり、略直方体状の複数のブロック体として構成されている。
また、第二治具2は、本実施形態においては、枠体Mの長辺側端面が当接する3つの枠体用ガイドGと、短辺側端面が当接する1つの枠体用ガイドGと、により構成されてり、それぞれ、第三治具3である基台Bの周縁に配置されている。
さらに、長辺方向に沿って配置された3つの枠体用ガイドGは、枠体Mの長辺側端面が当接する側面が略同一平面状に配置されるように、配置されている。
【0042】
第三治具3は、位置決めピンL及び枠体用ガイドGの基端が固定される、略長方形板状の基台Bである。
【0043】
上記した組立治具Xにより、
図2に示す一対のセパレータS(アノードセパレータ及びカソードセパレータ)と枠体Mとが、
図3に示すように積層され、一枚のセルCが組立てられる。
【0044】
ここで、各セパレータSには、各位置決めピンLと略同径に構成され、各位置決めピンLが挿通可能な位置決め孔hsが設けられている。
また、枠体Mには、各位置決め孔hsに連通し、各位置決め孔hsよりも大径に構成された一対の連通孔hmが設けられている。
さらに、既述の通り、セパレータS間の短絡を防止するために、枠体Mの外形寸法は、長辺方向及び短辺方向何れにおいても各セパレータSよりも大きく構成されている。
【0045】
<<組立方法>>
上記した組立治具Xの構成、及びセパレータSと枠体Mの構成を前提に、以下の通りのセルCの組立方法が実施される。
なお、本実施形態に係る組立方法において、第三治具3(基台B)により第一治具1(位置決めピンL)及び第二治具2(枠体用ガイドG)の相対位置を固定する工程は、組立治具Xを製造することで、既に行われている。
【0046】
まず、作業者は、
図3(a)に示すように、一方のセパレータSの各位置決め孔hsを、各位置決めピンLに挿通させ、このセパレータSを基台Bに載置する(第一治具1を用いる工程)。
このとき、一方のセパレータSの長辺側端面及び短辺側端面は、何れも各枠体用ガイドGには当接しない。
【0047】
次に、作業者は、
図3(b)に示すように、枠体Mについて、その各連通孔hmに、各位置決めピンLを挿通させつつ、各枠体用ガイドGに、枠体Mの長辺側端面及び短辺側端面を同時に当接させることで、枠体Mを一方のセパレータSに積層する(第二治具2を用いる工程)。
【0048】
次に、作業者は、
図3(c)に示すように、他方のセパレータSの各位置決め孔hsを、各位置決めピンLに挿通させ、このセパレータSを枠体Mに積層する(第一治具1を用いる工程)。
このとき、他方のセパレータSの長辺側端面及び短辺側端面は、何れも各枠体用ガイドGには当接しない。
【0049】
そして、作業者は、各セパレータと接着部材(図示せず)とを熱圧着する等して、一のセルCを組立てる。
【0050】
ここで、実施形態1に係る組立治具Xを用いたセルC、及びスタックPの組立方法について、
図4~
図7を用いて、より幾何学的に説明する。
なお、
図4は、
図5~
図7を用いた説明にあたり、
図2に示す組立治具X、各セパレータS及び枠体Mを模式的に示した斜視図である。
【0051】
本実施形態に係る組立方法の説明においては、
図16~
図18による従来技術の説明と同様に、簡略化した事例として、3枚のセルC1~C3を組立て、これらを積層してスタックPを組立てる事例を説明する。
【0052】
図5に示すように、本組立方法に用いられる各セルC1~C3は、(a)それぞれに用いられる枠体M1~M3と、(b)これを挟持する一対のセパレータS(一方のみ図示)と、により構成されている。
また、枠体M1~M3について、従来技術の説明と同様に、セルC2の枠体M2の外形寸法を基準として、各枠体M1~M3の短辺方向の外形公差は、±bである。
【0053】
ここで、連通孔hmの直径は、位置決めピンLに挿通させつつ、各枠体用ガイドGに当接可能となるように、枠体M1~M3よりも大径に構成されており、例えば、d+2√2bとなされている。
【0054】
なお、セパレータS及び枠体M1~M3の外形線の線種や太さの描画ルールについては、従来技術の説明と同様である。
また、各セルC1~C3間における、セパレータSの外形寸法、及び位置決め孔hsの配置箇所について、その公差は、各枠体M1~M3の外形公差に比して十分に小さいものとする。
【0055】
このことを前提として、各セルC1~C3を、組立治具Xを用いて組立てた場合、
図6に示すような組立て態様が、一例として想定される。
なお、
図6(及び
図7(a))では、基台Bの図示を省略している。
【0056】
ここで、各セルC1~C3の組立て態様について、位置決めピンLと枠体用ガイドGの相対位置が、基台Bにより固定されているため、枠体用ガイドGを基準とした、枠体MとセパレータSとの相対位置が、セルCに寄らず略一定となる。
詳述すれば、平面視において、枠体用ガイドGと当接する枠体Mの長辺側端面から、これに隣接するセパレータSの長辺側端面までの距離d1、及び枠体用ガイドGと当接する枠体Mの短辺側端面から、これに隣接するセパレータSの短辺側端面までの距離d2は、セルCに寄らず略一定となる。
【0057】
そして、スタックPを、同じく組立治具Xを用いて組立てた場合、
図7に示すような組立て態様となる。
即ち、
図7(a)に示すように、距離d1及びd2がセルに寄らず略一定となることで、枠体M1~M3の外形にバラつきがある場合でも、平面視における各セパレータSの積層位置のズレが極力抑制される。
なお、
図7(b)は、
図7(a)のQQ´線断面図であり、各セルC1~C3を構成する各枠体M1~M3及びセパレータSの厚みは、誇張して示している。
また、スタック組立時には、位置決めピンLを省略して枠体用ガイドGのみで組立てを行っても略同様の効果が得られ、かつセル積層時の作業性がより容易になる効果が得られる。
【0058】
ここで、
図8に示すように、枠体Mの上方に積層されるセパレータS(セパレータS1と称する)における、位置決め孔hsの周縁には、上方に突設されたボス部jが形成されていても良い。
なお、
図8(a)において、一例として、
図5(b)と同様の図(セルC2の平面図)を示し、
図8(b)において、
図8(a)のaa´線拡大断面図を示している。
【0059】
ボス部jは、上記のセパレータSにおける位置決め孔hsの周縁に、絞り加工が施されることで形成されている。
これにより、ボス部jの上部内面から、枠体Mの下方に積層されるセパレータS(セパレータS2と称する)の内面までの距離kは、セパレータS1におけるボス部jが形成されていない部分の内面から、セパレータS2の内面までの距離k´よりも、大きく構成されている。
なお、ボス部jの突出高さは、セパレータS1の表面に設けられるシール材等の部材の突出高さよりも低く構成されていることが好ましく、これにより、スタックPを組立てた際の厚みの増加を抑制することができる。
【0060】
<<効果>>
本実施形態によれば、簡易な構成である一の組立治具Xの中で、セルCの組立てを行うことができ、各セルCに含まれるセパレータSの位置のズレが極力抑制されたスタックP、又はこれを構成するセルCを組立てることができる。
【0061】
また、ボス部jにより、位置決め孔hsの周縁における、各セパレータS間の距離kが大きくなり、セパレータS1、S2が接触することによるセルCの短絡を抑制することができる。
【0062】
また、基台Bにより位置決めピンL及び枠体用ガイドGの相対位置を固定した状態で、第一治具を用いる工程及び第二治具を用いる工程を行うことで、位置決めの精度を向上させたセルC又はスタックPの組立てを行うことができる。
【0063】
<実施形態2>
以下、
図9~
図15を用いて、実施形態2に係る組立治具X、及びそれを用いたセルC又はスタックPの組立方法について説明する。
なお、同実施形態において、実施形態1と基本的に同一の構成要素については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
【0064】
<<組立治具>>
組立治具Xは、
図9に示すように、積層方向Dに沿って延び、各セパレータS同士の積層位置を位置決めする第一治具1と、枠体Mの長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具2と、第一治具1及び第二治具2の相対位置を固定する第三治具3と、を備えている。
【0065】
第一治具1は、セパレータSに設けられた第一位置決め孔h1(
図10参照)に挿通可能な位置決めピンLであり、積層方向Dに沿って延びる略円柱状体として、一対設けられている。
【0066】
第二治具2は、枠体に設けられた第二位置決め孔h2(
図10参照)にのみ挿通可能な枠体用ピンWであり、位置決めピンLと同様に、積層方向Dに沿って延びる略円柱状体として、一対設けられている。
なお、枠体用ピンWは、本実施形態においては、位置決めピンLと略同径に構成されているが、位置決めピンLよりも小径或いは大径あっても良く、これに応じて、後述する第二位置決め孔h2の径も変更され得る。
【0067】
第三治具3は、位置決めピンL及び枠体用ピンWの基端が固定される、略長方形板状の基台Bである。
【0068】
上記した組立治具Xにより、
図10に示す一対のセパレータS(アノードセパレータ及びカソードセパレータ)と枠体Mとが積層され、
図11に示すように積層され、一枚のセルCが組立てられる。
【0069】
ここで、各セパレータSには、各位置決めピンLと略同径に構成され、各位置決めピンLが挿通可能な第一位置決め孔h1が設けられている。
また、枠体Mには、各第一位置決め孔h1に連通し、各第一位置決め孔h1と略同径に構成された一対の連通孔hmが設けられている。
【0070】
さらに、既述の通り、セパレータS間の短絡を防止するために、枠体Mの外形寸法は、長辺方向及び短辺方向何れにおいても各セパレータSよりも大きく構成されている。
本実施形態においては、特に短辺方向の外形寸法が、実施形態1に比して大きく構成されている。
これにより、枠体M1~M3には、各第一位置決め孔h1と各連通孔hmを連通させた際、セパレータSが重畳しない位置(短辺側にはみ出す部分)に、一対の第二位置決め孔h2が設けられている。
【0071】
<<組立方法>>
上記した組立治具Xの構成、及びセパレータSと枠体Mの構成を前提に、以下の通りのセルCの組立方法が実施される。
なお、本実施形態に係る組立方法において、第三治具3(基台B)により第一治具1(位置決めピンL)及び第二治具2(枠体用ピンW)の相対位置を固定する工程は、組立治具Xを製造することで、既に行われている。
【0072】
まず、作業者は、
図11(a)に示すように、一方のセパレータSの各第一位置決め孔h1を、各位置決めピンLに挿通させ、このセパレータSを基台Bに載置する(第一治具1を用いる工程)。
【0073】
次に、作業者は、
図11(b)に示すように、枠体Mについて、その各連通孔hmに、各位置決めピンLを挿通させつつ、各第二位置決め孔h2に、枠体用ピンWを挿通させることで、枠体Mを一方のセパレータSに積層する(第二治具2を用いる工程)。
【0074】
次に、作業者は、
図11(c)に示すように、他方のセパレータSの各第一位置決め孔h1を、各位置決めピンLに挿通させ、このセパレータSを枠体Mに積層する(第一治具1を用いる工程)。
【0075】
そして、作業者は、各セパレータと接着部材(図示せず)とを熱圧着する等して、一のセルCを組立てる。
【0076】
ここで、実施形態2に係る組立治具Xを用いたセルC、及びスタックPの組立方法について、
図12~
図15を用いて、より幾何学的に説明する。
なお、
図12は、
図13~
図15を用いた説明にあたり、
図10に示す組立治具X、各セパレータS及び枠体Mを模式的に示した斜視図である。
【0077】
本実施形態に係る組立方法の説明においても、
図16~
図18による従来技術の説明と同様に、簡略化した事例として、3枚のセルC1~C3を組立て、これらを積層してスタックPを組立てる事例を説明する。
【0078】
図13に示すように、本組立方法に用いられる各セルC1~C3は、(a)それぞれに対応する枠体M1~M3と、(b)これを挟持する一対のセパレータS(一方のみ図示)と、により構成されている。
また、枠体M1~M3について、セルC2の枠体M2の外形寸法を基準として、各枠体M1~M3の短辺方向の外形公差は±cである。
【0079】
なお、実施形態1と同様に、セパレータS及び枠体M1~M3の外形線の線種や太さの描画ルールについては、従来技術の説明と同様である。
また、各セルC1~C3間における、セパレータSの外形寸法、及び位置決め孔hsの配置箇所について、その公差は、各枠体M1~M3の外形公差に比して十分に小さいものとする。
【0080】
また、各枠体M1~M3間における、各第二位置決め孔h2と各連通孔hmとの相対位置について、その公差は、各枠体M1~M3の外形公差に比して十分小さいものとする。
また、各第二位置決め孔h2及び連通孔hmの直径は、各第一位置決め孔h1の直径と略同径である。
【0081】
このことを前提として、各セルC1~C3を、組立治具Xを用いて組立てた場合、
図14に示すような組立て態様が、一例として想定される。
なお、
図14(及び
図15(a))では、基台Bの図示を省略している。
【0082】
ここで、各セルC1~C3の組立て態様について、位置決めピンLと枠体用ピンWの相対位置が、基台Bにより固定されているため、枠体用ピンWを基準とした、枠体MとセパレータSとの相対位置が、セルCに寄らず略一定となる。
詳述すれば、平面視において、枠体用ピンWの中心から、これに隣接するセパレータSの長辺側端面までの距離d3及びd4は、セルCに寄らず略一定となる。
【0083】
そして、上記態様で組立てられた各セルC1~C3を、同じく組立治具Xを用いて、スタックPとして組立てた場合、
図15に示すような組立て態様となる。
即ち、
図15(a)に示すように、距離d3及びd4がセルに寄らず略一定となることで、枠体M1~M3の外形にバラつきがある場合でも、平面視における各セパレータSの積層位置のズレが極力抑制される。
なお、
図15(b)は、
図15(a)のRR´線断面図であり、各セルC1~C3を構成する各枠体M1~M3及びセパレータSの厚みは、誇張して示している。
また、スタック組立時には、位置決めピンLを省略して枠体用ピンWのみで組立てを行っても略同様の効果が得られ、かつセル積層時の作業性がより容易になる効果が得られる。
【0084】
<<効果>>
本実施形態によれば、実施形態1と同様に、簡易な構成である一の組立治具Xの中で、セルCの組立てを行うことができ、各セルCに含まれるセパレータSの位置のズレが極力抑制されたスタックP、又はこれを構成するセルCを組立てることができる。
【0085】
また、特に本実施形態では、第一位置決め孔h1と連通孔hmとが略同径に構成して、組立てが可能であるため、実施形態1と異なり、ボス部jを形成しなくとも、セパレータS1、S2が接触することによるセルCの短絡が抑制される。
ちなみに、連通孔hmの孔径は、位置決めピンLの径より大きめに設定しても良い。その場合は、
図11(b)に示した枠体Mの位置決めピンLへの挿通作業がより容易になる効果が得られる。
【0086】
<変更例>
なお、出願書類中の「略」は、その後に続く形状に面取りや丸め加工がなされていること、また形状を構成する要素がその形状の目的を阻害しない範囲内で変形や長さ変更されているものを含むことを意味する概念である。
また、上述の実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0087】
例えば、各実施形態においては、基台Bにより位置決めピンL及び枠体用ガイドG(又は枠体用ピンW)の相対位置を予め固定した状態で、位置決めピンL(又は枠体用ピンW)を用いる工程及び枠体用ガイドGを用いる工程を示した。
このところ、実施形態1においては、基台Bが分割された構成とすることで、この順序が入れ替わっても良い。
【0088】
即ち、基台Bは、位置決めピンLが設けられている構成体と、枠体用ガイドGが設けられている構成体と、に分割された構成であっても良い。
これにより、作業者は、まず、一方の構成体で位置決めピンLを用いる工程を実施することができる。
そして、作業者は、各構成体を組合わせて、位置決めピンL及び枠体用ガイドGの相対位置を固定することで、枠体Mに枠体用ガイドGを当接させ、枠体用ガイドGを用いる工程を実施しても良い。
【0089】
この他、枠体Mの外形寸法について、セパレータSに比して、短辺方向のみが大きく長辺方向は略同一、或いは長辺方向のみが大きく短辺方向は略同一であっても良い。
また、枠体用ガイドGは、複数のブロック体である必要はなく、例えば、細長い角柱状体等であっても良いし、一枚乃至は複数枚の板状体により、基台Bから略垂直に立設する壁面を構成し、これを枠体用ガイドGとしても良い。
【符号の説明】
【0090】
X 組立治具
1 第一治具
P 位置決めピン
2 第二治具
G 位置決めガイド
W 枠体用ピン
3 第三治具
B 基台
S セパレータ
M、M1~M3 枠体
C、C1~C3 セル
P スタック
【要約】
【課題】スタックの組立てにあたって、各セル間のセパレータの位置のズレを極力抑制するための組立治具、及びそれを用いたセル又はスタックの組立方法を提供する。
【解決手段】膜電極接合体mが設けられた矩形状の枠体Mと、この枠体Mの外形寸法と異なる形状のセパレータSと、を交互に積層して組み立てる組立治具Xであって、積層方向dに沿って延び、各セパレータS同士の積層位置を位置決めする第一治具1と、枠体Mの長辺方向及び短辺方向の移動を規制する第二治具2と、第一治具1及び第二治具2の相対位置を固定する第三治具3と、を備える。
【選択図】
図2