(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】接着剤、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、シーラント、及び、噴霧キット
(51)【国際特許分類】
A61L 24/10 20060101AFI20250305BHJP
A61L 24/08 20060101ALI20250305BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
A61L24/10
A61L24/08
A61L24/00 300
(21)【出願番号】P 2023543682
(86)(22)【出願日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2022018105
(87)【国際公開番号】W WO2023026585
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021135966
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲志
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046717(WO,A1)
【文献】特開2021-112234(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105664245(CN,A)
【文献】THAI Thanh Hoang Thi et al.,Supramolecular Cyclodextrin Supplements to Improve the Tissue Adhesion Strength of Gelatin Bioglues,ACS Macro Lett.,2017年,6,83-88
【文献】QIAN Feng et al.,Mechanically resilient, injectable, and bioadhesive supramolecular gelatin hydrogels crosslinked by,Biomaterials,2016年,101,217-228
【文献】XI Chen et al.,Enhanced skin adhesive property of electrospun α-cyclodextrin/nonanyl group-modified poly(vinylalco,RSC Advances,2021年02月25日,11,8759-8766
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンにイミノ基を介して疎水性基が結合されてなるゼラチン誘導体であって、式1:GltnNH-R
1で表されるもの、及び、シクロデキストリンを含む第1剤と、前記ゼラチン誘導体の架橋剤を含む第2剤と、を有
し、
前記疎水性基が、炭素数6~14個の直鎖状のアルキル基を含み、
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリンである、接着剤。
(式1中、Gltnは前記ゼラチンの残基を表し、R
1は前記疎水性基を表し、NHは前記残基と前記疎水性基とに結合している前記イミノ基を表す)
【請求項2】
前記第1剤における、前記疎水性基の導入率が、5.0~80.0モル%である、請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記第1剤が溶媒を含み、前記第1剤中における前記ゼラチン誘導体の濃度が、0.010~0.300g/mLである、請求項1又は2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記濃度が、0.050g/mLを超え、0.150g/mL未満である、請求項3に記載の接着剤。
【請求項5】
前記導入率が、10.0~50.0モル%である、請求項2に記載の接着剤。
【請求項6】
前記疎水性基が炭素数7~12個の直鎖状のアルキル基を含む、請求項
1に記載の接着剤。
【請求項7】
前記第1剤中における前記疎水性基の含有量に対する、前記シクロデキストリンの含有量のモル基準の比が0.1以上である請求項1に記載の接着剤。
【請求項8】
前記モル基準の比が2.6を超えて、10以下である、請求項
7に記載の接着剤。
【請求項9】
前記架橋剤が、少なくとも2つの活性エステル基を有する化合物である、請求項1に記載の接着剤。
【請求項10】
前記ゼラチンが冷水魚ゼラチンである、請求項1に記載の接着剤。
【請求項11】
請求項1に記載の接着剤を含む、創傷被覆材。
【請求項12】
請求項1に記載の接着剤を含む、癒着防止材。
【請求項13】
請求項1に記載の接着剤を含む、止血材。
【請求項14】
請求項1に記載の接着剤を含む、シーラント。
【請求項15】
請求項1に記載の接着剤と、前記接着剤の噴霧器とを備える、噴霧キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、シーラント、及び、噴霧キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンに疎水性基を導入して得られるゼラチン誘導体を用いた組織接着剤が知られている。特許文献1には、「魚由来ゼラチン水溶液を含む接着成分と、水溶性架橋用分子水溶液を含む硬化成分とを混合して組織に塗布する組織接着剤であって、前記水溶性架橋用分子の分子主鎖がアミド結合またはエチレングリコールユニットまたは糖鎖を有するとともに、2個以上の活性エステル基または酸無水物またはアルデヒド基を有することを特徴とする組織接着剤」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記組織接着剤は、生体組織に対する優れた接着性を有し、優れた生体適合性をも有するため、今後の応用が大きく期待されている。一方で、硬化物が生理食塩水中において膨潤することがあり、改善の余地があることを、本発明者は知見している。
【0005】
一般に、外科用接着剤が適用される部位は、浸出液、及び、血液等の水分が豊富にあるため、接着剤(及びその硬化物)がその水分を吸収することにより膨潤すると、適用部位、例えば、閉鎖した創傷部から接着剤がはがれてしまう場合がある。
また、はがれなかったとしても、膨潤することによって、硬化物と生体組織との界面にせん断応力が生ずることがあり、生体組織への負担が大きくなることも予想される。そのため、硬化後の接着剤は膨潤しにくいことが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、硬化物が生理食塩水中において膨潤しにくい接着剤を提供することを課題とする。また、本発明は、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、シーラント、及び、噴霧キットを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] ゼラチンにイミノ基を介して疎水性基が結合されてなるゼラチン誘導体であって、後述する式1で表されるもの、及び、シクロデキストリンを含む第1剤と、上記ゼラチン誘導体の架橋剤を含む第2剤と、を有する接着剤。
【0009】
上記接着剤の硬化物は生理食塩水中において膨潤しにくいため、生体組織に適用した後も、生体組織からはがれにくく、また、その界面に応力を生じさせにくく、接着剤が適用された生体組織に対する負担が軽減されやすい。
【0010】
[2] 上記第1剤における上記疎水性基の導入率が、5.0~80.0モル%である、[1]に記載の接着剤。
【0011】
導入率が上記数値範囲内である接着剤は、より優れた本発明の効果を有する。
【0012】
[3] 上記第1剤が溶媒を含み、上記第1剤中における上記ゼラチン誘導体の濃度が、0.010~0.300g/mLである、[1]又は[2]に記載の接着剤。
【0013】
ゼラチン誘導体の濃度が上記数値範囲内である接着剤は、より優れた本発明の効果を有する。
【0014】
[4] 上記濃度が、0.050g/mLを超え、0.150g/mL未満である、[3]に記載の接着剤。
【0015】
上記濃度が0.050g/mLを超えると、得られる接着剤は、より優れた耐圧強度を有し、0.150g/mL未満だと、生理食塩水中において硬化物がより膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有する。
【0016】
[5] 上記導入率が、10.0~50.0モル%である、[2]に記載の接着剤。
【0017】
導入率が10.0モル%以上であると、生理食塩水中において硬化物がより膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有し、50.0モル%以下であると、接着剤はより優れた耐圧強度を有する。
【0018】
[6] 上記疎水性基が炭素数1~20個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基(「アルキル基A1」)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤。
【0019】
上記疎水性基がアルキル基A1を含む場合、接着剤は生体組織へのより優れた接着力を有し、第1剤の粘度がより低くなりやすい。
【0020】
[7] 後述する式1におけるR1が炭素数7~12個の直鎖状のアルキル基(以下「アルキル基A2」ともいう。)を含む、[6]に記載の接着剤。
【0021】
後述する式1におけるR1がアルキル基A2を含む場合、接着剤は生体組織への更に優れた接着力を有し、第1剤の粘度も更に低くなりやすい。
【0022】
[8] 上記シクロデキストリンがα-シクロデキストリン又はその誘導体である[1]~[7]のいずれかに記載の接着剤。
【0023】
α-シクロデキストリンは、アルキル基(特に、アルキル基A1、及び、アルキル基A2)を包接しやすいため、結果的に得られる第1剤の粘度がより低くなりやすい。また、硬化物が生理食塩水中でより膨潤しにくい。
【0024】
[9] 上記第1剤中における疎水性基の含有量に対する、シクロデキストリンの含有量のモル基準の比(「Cy/HBic」ともいう。)が0.1以上である[1]~[8]のいずれかに記載の接着剤。
【0025】
Cy/HBicが上記数値範囲内である接着剤の第1剤中では、ゼラチン誘導体が有する疎水性基に対するシクロデキストリンの量が十分となりやすく、結果として、得られる接着剤の第1剤の粘度がより低くなりやすく、生理食塩水中で、硬化物がより膨潤しにくい。
【0026】
[10] 上記モル基準の比が2.6を超えて、10以下である、[9]に記載の接着剤。
【0027】
Cy/HBicが上記数値範囲内である接着剤の第1剤は、より粘度が低くなりやすく、噴霧用の接着剤として適している。
【0028】
[11] 上記架橋剤が、少なくとも2つの活性エステル基を有する化合物である、[1]~[10]のいずれかに記載の接着剤。
【0029】
架橋剤の硬化性基が活性エステル基であると、温和な条件で選択的に第1級アミノ基と反応しやすいため、室温硬化型の接着剤としてのより優れた特性が得られる。
【0030】
[12] 上記ゼラチンが冷水魚ゼラチンである、[1]~[11]のいずれかに記載の接着剤。
【0031】
冷水魚ゼラチンは、生体温度で優れた流動性を有するため、原料ゼラチンが冷水魚ゼラチンである接着剤は、より粘度が低くなりやすい。
【0032】
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の接着剤を含む、創傷被覆材。
[14] [1]~[12]のいずれかに記載の接着剤を含む、癒着防止材。
[15] [1]~[12]のいずれかに記載の接着剤を含む、止血材。
[16] [1]~[12]のいずれかに記載の接着剤を含む、シーラント。
[17] [1]~[12]のいずれかに記載の接着剤と、上記接着剤の噴霧器とを備える、噴霧キット。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、硬化物が生理食塩水中において膨潤しにくい、接着剤が提供できる。また、本発明によれば、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、シーラント(封止材)、及び、噴霧キットも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係る噴霧キットに含まれる噴霧器の構成部品の説明図である。
【
図3】噴霧キットによって接着剤を対象組織に適用する方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0036】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0037】
[接着剤]
本発明の実施形態に係る接着剤は、ゼラチンにイミノ基を介して疎水性基が結合されてなるゼラチン誘導体であって、後述する式1で表されるもの、及び、シクロデキストリンを含む第1剤と、上記ゼラチン誘導体の架橋剤を含む第2剤と、を有する。以下では、本実施形態に係る接着剤(以下、「本接着剤」ともいう。)に含まれる成分について詳述する。
【0038】
<第1剤>
本実施形態に係る第1剤は、ゼラチン誘導体と、シクロデキストリンとを含み、更に溶媒を含んでもよい。
第1剤は、後述する第2剤と混合され、ゼラチン誘導体が架橋剤より架橋され、硬化物の骨格が形成される。硬化反応は、典型的には疎水化ゼラチンが有する第1級アミノ基と、第2剤が有する架橋性基(典型的には活性エステル基等)とによる反応である。
【0039】
この点で、本接着剤中における第1剤の含有量は、後述する第2剤の架橋性基の含有量との関係で、第1剤中のアミノ基の1当量に対して、第2剤中の架橋性基の0.1~3.0当量となるよう調製されることが好ましく、0.2~2.0当量となるよう調製されることがより好ましく、0.3~1.5当量となるよう調製されることが更に好ましく、0.3~0.8当量となるよう調製されることが特に好ましい。
【0040】
(ゼラチン誘導体)
第1剤中におけるゼラチン誘導体の含有量としては特に制限されないが、第1剤中におけるゼラチン誘導体の濃度(ゼラチン誘導体/溶媒、小数第4位を四捨五入)が、0.010~0.300g/mLであることが好ましく、0.050g/mLを超えることがより好ましく、0.075g/mL以上が更に好ましく、0.075g/mLを超えることが特に好ましく、0.150g/mL以下が好ましく、0.150g/mL未満がより好ましく、0.100g/mL以下が特に好ましい。
なお、ゼラチン誘導体を2種以上併用する場合は、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0041】
ゼラチン誘導体の濃度が0.050g/mLを超えると、より優れた耐圧強度を有する接着剤が得られる。また、ゼラチン誘導体の濃度が0.150g/mL未満であると、硬化物がより膨潤しにくく、より優れた耐圧強度を有する接着剤が得られる。また、ゼラチン誘導体の濃度が0.075g/mL以上であると、更に優れた耐圧強度を有する接着剤が得られる。また、ゼラチン誘導体の濃度が0.100g/mL以下であると、硬化物が更に膨潤しにくく、更に優れた耐圧強度を有する接着剤が得られる。
【0042】
ゼラチン誘導体は、ゼラチンにイミノ基(すなわち-NH-)を介して疎水性基が結合されてなるゼラチン誘導体であって、式1で表されるものである。
式1:GltnNH-R1
【0043】
なお、式1中、Gltnはゼラチン残基を表す。また、NHは、ゼラチン残基と疎水性基とに結合しているイミノ基を表す。
【0044】
式1中、R1は疎水性基を表す。疎水性基としては特に制限されないが、炭素数が1~20個の炭化水素基を有する基が好ましい。
ここで、炭素数が1~20個の炭化水素基を有する基とは、炭素数が1~20個の炭化水素基そのもの、及び、炭素数が1~20個の炭化水素基と連結基とを含む基等を意味する。
【0045】
すなわち、Lを単結合、又は、2価の連結基とし、R21を炭素数が1~20個の炭化水素基とした場合には、疎水性基は、*-L-R21で表される基が好ましい。なお*は結合位置を表す。
【0046】
また、Lの2価の連結基としては、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-N(R)-(Rは水素原子、又は、1価の有機基(好ましくは炭素数1~20個の炭化水素基)を表す)、アルキレン基(好ましくは炭素数2~10個のアルキレン基)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2~10個のアルケニレン基)、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、なかでも、-O-、-C(O)-、及び、-C(O)O-が好ましい。
なお、Lが炭素原子を含む場合、LとR21の炭素原子の合計が1~20個であることが好ましく、4~18個であることがより好ましく、6~14個であることが更に好ましく、7~12個であることが特に好ましい。
【0047】
炭素数1~20個の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20個の鎖状炭化水素基、炭素数3~20個の脂環式炭化水素基、炭素数6~14個の芳香族炭化水素基、及びこれらを組み合わせた基が挙げられる。
【0048】
炭素数1~20個の鎖状炭化水素基としては、例えば、直鎖状、又は、分枝鎖状のアルキル基が挙げられ、直鎖状の炭化水素基が好ましい。
直鎖状、又は、分枝鎖状のアルキル基としては、
炭素数が1個のメチル基;
炭素数が2個のエチル基;
炭素数が3個のプロピル基、イソプロピル基;
炭素数が4個のブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基;
炭素数が5個のペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基;
炭素数が6個のヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチル-2-メチル-プロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基;
炭素数が7個のヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,1,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基;
炭素数が8個のオクチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、3-エチル-3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルブチル基、2,2-ジエチルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルブチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、2,2,3,3-テトラメチルブチル基、1,1-ジメチル-2-エチルブチル基;
炭素数が9個のノニル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,3-ジメチルヘプチル基、2,4ジメチルヘプチル基、2,6ジメチルヘプチル基、3,3ジメチルヘプチル基、3,4ジメチルヘプチル基、3,5ジメチルヘプチル基、4,4ジメチルヘプチル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルヘプチル基、2,2,3-トリメチルヘキシル基、2,2,4-トリメチルヘキシル基、2,2,5-トリメチルヘキシル基、2,3,3-トリメチルヘキシル基、2,3,4-トリメチルヘキシル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルヘキシル基、3,3,4-トリメチルヘキシル基、2メチル-3-エチルヘキシル基、3-メチル-3-エチルヘキシル基、3-エチル-4-メチルヘキシル基、3-エチル-5-メチルヘキシル基、2,2,3,3-テトラメチルペンチル基、2,2,3,4-テトラメチルペンチル基、2,2,4,4-テトラメチルペンチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、2,2-ジメチル-3-エチルペンチル基、2,3-ジメチル-3-エチルペンチル基、2,4-ジメチル-3-エチルペンチル基、3,3-ジエチルペンチル基;
炭素数が10個のデシル基、2-メチルノニル基、2-エチルオクチル基、2-プロピルヘプチル基、及び、2-ブチルヘキシル基、;等が挙げられる。
【0049】
また、上記以外にも、ウンデシル基、ドデシル基、ドリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、及び、イコシル基等が挙げられる。
【0050】
炭素数3~20個の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、及び、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0051】
炭素数6~14個の芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、フェニル基、トリル基、及び、ナフチル基等が挙げられる。
【0052】
上記を組み合わせた基としては、特に制限されないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、及び、ナフチルエチル基等の炭素数6~12個のアラルキル基等が挙げられる。
【0053】
また、R1は、下記式で表される基であってもよい。下記式中、*は結合位置を表す。
【0054】
【0055】
式1において、ゼラチンの残基に直接結合している窒素原子(N)は、ゼラチン中の主としてリジン(Lys)のε-アミノ基由来である。式1のNH構造は、例えばFT-IR(Fourier transform infrared spectrometer)スペクトルにおいて3300cm-1付近のバンドにより検出することができる。
【0056】
より優れた本発明の効果を有する接着剤が得られる点で、ゼラチン誘導体は、式11で表されるゼラチン誘導体が好ましい。
式11:GltnNH-CHR2R3
上記式11中、R2は炭素数1~19個の炭化水素基を表し、その具体例としては、R1の炭化水素基のうち、炭素数1~19個の炭化水素基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
R3は、炭素数1~19個の炭化水素基、又は、水素原子を表し、水素原子が好ましい。なお、R2、及び、R3の炭素数の合計は、特に制限されないが、2~19個が好ましく、3~17個がより好ましく、5~13個が更に好ましく、6~11個が特に好ましい。
【0057】
第1剤中における疎水性基の導入率としては、特に制限されないが、5.0~80.0モル%が好ましく、10.0モル%以上がより好ましく、50.0モル%以下がより好ましい。
なお、疎水性基の導入率は、第1剤中における、イミノ基の含有量/(イミノ基の含有量+アミノ基の含有量)として定義される値であり、アミノ基量を、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸法によって定量することで求められる値である。
【0058】
なお、「第1剤中における疎水性基の導入率」とは、第1剤が、ゼラチン誘導体以外のゼラチン(例えば、原料ゼラチン)を含まない場合、ゼラチン誘導体における疎水性基の導入率と同義である。
一方、例えば、第1剤がゼラチン誘導体と後述する原料ゼラチンとを含む場合(言い換えれば、ゼラチン誘導体と原料ゼラチンとをそれぞれ含む混合物である場合)、疎水性基の導入率は、ゼラチン誘導体、及び、原料ゼラチンがそれぞれ有するアミノ基の合計量を反映した数値となる。具体的には、第1剤中における疎水性基の導入率は、以下の式Aにより計算することもできる。
【0059】
式A:第1剤中における疎水性基の導入率=Ha×Ma/(Ma+Mb)
なお、式中、Ma、Mbは、第1剤中におけるゼラチン誘導体、及び、ゼラチンの質量基準の含有量をそれぞれ表し、Haはゼラチン誘導体における疎水性基の導入率を表す。
【0060】
第1剤における疎水性基の導入率が、10.0モル%以上であると、硬化物がより膨潤しにくくなり、50.0モル%以下であると、より優れた耐圧強度を有する接着剤が得られる。
【0061】
・ゼラチン誘導体の製造方法
ゼラチン誘導体の製造方法は特に制限されず、公知の方法が利用できる。
例えば、ゼラチンが有するε-アミノ基に、アルデヒド、又は、ケトンを反応させ、シッフ塩基を介して疎水性基を結合させ、そのシッフ塩基を還元してゼラチン誘導体を得る方法が挙げられる。この方法は、例えば、特開2019-216755号公報の0029~0031段落に記載されている。
【0062】
上記の方法によれば、ゼラチン残基にイミノ基を介して疎水性基が直接結合したゼラチン誘導体(式:GltnNH-R1)が得られる。この疎水性基は、アルデヒド、又は、ケトンに由来する。
【0063】
他の方法としては、ゼラチンが有するε-アミノ基に、酸ハライド、又は、クロロギ酸エステル化合物等をトリエチルアミン等の塩基の存在下で反応させ、アミドを得る方法が挙げられる。この方法は、例えば、国際公開第2014/112208号の0072~0080段落に記載されている。
【0064】
上記の方法によれば、ゼラチン残基にアミド結合(イミノ基が含まれる)を介して疎水性基が結合したゼラチン誘導体が得られる。この疎水性基は、酸ハライド、又は、クロロギ酸エステル化合物に由来する。
【0065】
上記で得られた反応溶液に、大過剰の貧溶媒、例えば冷エタノールを加えると、ゼラチン誘導体が沈殿するので、これをろ別し、乾燥すれば、粉末状のゼラチン誘導体が得られる。なお、乾燥させる前に、ゼラチン誘導体をエタノール等で洗浄してもよい。
【0066】
ゼラチン誘導体の製造に使用する原料ゼラチン(以下、「ORGゼラチン」ともいう。)は典型的には、疎水性基が導入されていない(誘導体化されていない)ゼラチンである。
【0067】
ORGゼラチンの分子量は、特に制限されず、一般に、重量平均分子量で10,000~300,000が好ましい。一形態として、生体に対するアレルギー反応が抑制されやすい観点からは、50,000未満であることも好ましい。この点では、ゼラチンの分子量は、45,000以下が好ましく、40,000以下がより好ましい。下限としては特に制限されないが、接着剤の硬化物がより優れた機械強度を有する点で、10,000以上が好ましい。
【0068】
ORGゼラチンは、天然由来、化学合成、発酵法、及び、遺伝子組換え等により得られるゼラチンのいずれであっても特に制限なく使用できる。なかでも、天然由来のゼラチンが好ましい。天然由来のゼラチンとしては、例えば、ウシ、及び、ブタ等の哺乳動物由来のもの、及び、タイ、チョウザメ、サケ、及び、タラ等魚由来のものが挙げられる。
【0069】
本接着剤を液体として使用する場合、取り扱い性の観点からは、使用温度(例えば生体温度)において、優れた流動性を有することが好ましい。
この点では、ORGゼラチンは魚由来ゼラチンが好ましく、なかでも、サケ、及び、スケソウダラ等の冷水魚由来のゼラチンが好ましい。
なお、「液体として使用する」とは、第1剤、又は、第2剤のいずれか一方又は両方が溶媒を含む液体である場合と、第1剤、及び、第2剤のいずれもが固体であって使用時に溶媒と混合して使用される場合とがある。
【0070】
魚由来ゼラチン、特に、冷水魚ゼラチンは、構成単位であるアミノ酸の1000個当たり、ヒドロキシプロリンに由来する単位の数が80個以下、及び/又は、プロリン由来の単位の数が110個以下であることが好ましい。このような条件を有するゼラチンは、常温でのより優れた流動性を有しているため、第1剤に(ゼラチン誘導体の原料、及び/又は、添加剤として)使用すると、優れた取り扱い性を有する接着剤が得られる。
【0071】
ORGゼラチンは、酸処理ゼラチン、及び、アルカリ処理のいずれであってもよい。第1剤は、ORGゼラチンとして異なる2種以上のゼラチンを含んでもよい。異なる2種以上とは、由来、分子量、及び、処理方法等のいずれか又は複数が異なるものを意味する。
【0072】
(シクロデキストリン)
シクロデキストリンは、D-グルコース単位がα-1,4-グルコシド結合で環状に結合した環状化合物であり、澱粉、及び/又は、澱粉の加水分解物にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ等の酵素を作用させて製造される。
【0073】
第1剤中におけるシクロデキストリンの含有量としては特に制限されないが、第1剤中におけるシクロデキストリンの濃度(シクロデキストリン/溶媒、小数第4位を四捨五入)は、0.001~0.200g/mLであることが好ましく、0.003~0.150g/mLがより好ましい。
なお、シクロデキストリンを2種以上併用する場合は、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0074】
また、より優れた本発明の効果を有する接着剤が得られる点で、第1剤中における疎水性基の含有量に対する、シクロデキストリンの含有量のモル基準の比(シクロデキストリン/疎水性基、「Cy/HBic」)が0.1以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.0を超えることが更に好ましく、2.0を超えることが特に好ましく、2.5を超えることが最も好ましく、10.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、6.0以下が更に好ましい。
なお、シクロデキストリンを2種以上併用する場合は、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0075】
Cy/HBicが1.0を超えると、第1剤の粘度がより低くなりやすく、噴霧用の接着剤として好ましい。また、Cy/HBicが2.0を超えると、更に粘度が低くなりやすく、2.5を超えるとこの傾向は特に顕著である。
【0076】
なお、シクロデキストリンは、疎水性基以外のゼラチン残基も包接すると考えられ、第1剤中のシクロデキストリンの濃度と、第1剤の粘度とには負の相関があると考えられる。添加したシクロデキストリンに対する粘度低下の効果がより顕著である観点からは、Cy/HBicは、一形態として、10.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、6.0以下が更に好ましい。
【0077】
シクロデキストリンとしては、構成するグルコースの数が6個(α型)、7個(β型)、及び、8個(γ型)等のシクロデキストリンを用いることができ、更にその誘導体も使用(又は併用)することができる。
なかでも、α-シクロデキストリン又はその誘導体は、その内腔の大きさが、疎水性基を包接するためにより適している点で好ましい。
【0078】
α-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、メチルα-シクロデキストリン、ブチルα-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルα-シクロデキストリン、アセチルα-シクロデキストリン、スクシニルα-シクロデキストリン、グルコシルα-シクロデキストリン、マルトシルα-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンカルボキシメチルエーテル、リン酸エステルα-シクロデキストリン、及び、カルボキシメチルα-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0079】
β-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、カルボキシメチル-エチル-β-シクロデキストリン、ジエチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシブテニル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ランダム メチル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、2-セレニウム架橋-β-シクロデキストリン、及び、2-テルリウム架橋-β-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0080】
γ-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル-γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ブチル-γ-シクロデキストリン、3A-アミノ-3A-デオキシ-(2AS,3AS)-γ-シクロデキストリン、モノ-2-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-メシチレンスルホニル-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,6-ジ-O-フェニル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-γ-シクロデキストリン、及び、オクタキス(2,3,6-トリ-O-アセチル)-γ-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0081】
(溶媒)
第1剤は更に、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、水性溶媒が挙げられ、水性溶媒としては、超純水;生理食塩水;ホウ酸、リン酸、炭酸等各種無機塩緩衝液;これらの混合物等を用いることができる。なかでも、水性溶媒は、pH8~13のホウ酸緩衝液が好ましく、pH9~12のホウ酸緩衝液がより好ましい。水性溶媒は、第1剤の固形分が0.050~0.800g/mLとなるような量で使用されることが好ましい。
【0082】
上記以外にも第1剤は原料ゼラチンとして説明したORGゼラチンを含有していてもよい。
【0083】
<第2剤>
第2剤はゼラチン誘導体の架橋剤を含む。また、第2剤は、溶媒を含んでもよい。
【0084】
(架橋剤)
架橋剤は、典型的には、ゼラチン誘導体が有する第1級アミノ基と反応し得る置換基(架橋性基)を1分子中に少なくとも2つ有する化合物である。
なお、第1剤がORGゼラチンを含む場合、架橋剤によって、ORGゼラチンが有する第1級アミノ基も反応する。
【0085】
架橋剤が有する架橋性基としては特に制限されないが、第1剤中における第1級アミノ基(典型的には、ゼラチン誘導体に由来する)に対して、温和な条件で選択的に反応しやすい観点で、活性エステル基(活性化されたエステル基)が好ましい。すなわち、架橋剤としては、1分子中に活性エステル基を少なくとも2つ有する化合物が好ましい。
このような架橋剤には、N-ヒドロキシスクシンイミド又はN-ヒドロキシスルホスクシンイミドで活性化された多塩基酸等がある。
【0086】
上記以外にも、架橋剤としては、ゲニピン、アルデヒド化合物、酸無水物、ジチオカーボネート、及び、ジイソチオシアネート等を使用できる。
【0087】
多塩基酸としては、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルタル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、オキサロ酢酸、cis-アコニット酸、2-ケトグルタル酸、ポリ酒石酸、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、カルボキシメチル化デキストリン、カルボキシメチル化デキストラン、カルボキシメチル化デンプン、カルボキシメチル化セルロース、カルボキシメチル化キトサン、及び、カルボキシメチル化プルラン等が挙げられる。
【0088】
架橋剤としては、ジスクシンイミジルグルタレート(DSG)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ジスクシンイミジルタートレート(DST)等も使用できる。
【0089】
また、ポリエチレングリコール、又は、ポリエチレングリコールエーテルの多塩基酸エステルであって、多塩基酸におけるポリエチレングリコールと反応していないカルボキシル基の少なくとも1つが活性エステル化されたもの、例えば4,7,10,13,16-ペンタオキサノナデカン二酸ジ(N-スクシンイミジル)、及び、下記式で表されるポリエチレングリコール ジ(スクシンイミジル スクシネート)(SS-PEG-SS):
【0090】
【0091】
(nは数平均分子量が約20,000となる数);
更に、下記式で表されるペンタエリスリトール-ポリエチレングリコールエーテルテトラスクシンイミジル グルタレート(4S-PEG):
【0092】
【0093】
(nはMwが約3,000~30,000、好ましくは5,000~27,000、より好ましくは15,000~25,000となる数);
等も好ましい。
【0094】
アルデヒド化合物としては、1分子中に2つ以上のホルミル基が導入された、ホルミル基導入多糖類、例えばホルミル基導入デンプン、ホルミル基導入デキストラン、ホルミル基導入デキストリン、及び、ホルミル基導入ヒアルロン酸等が挙げられる。
【0095】
酸無水物としては、無水グルタル酸、無水マレイン酸、及び、無水コハク酸等が挙げられる。
また、ジイソチオシアネートとしてはヘキサメチレンジイソチオシアネート等が挙げられる。
架橋剤としては、活性化ポリエチレングリコール多塩基酸エステル、及び、ホルミル基導入多糖類等が好ましく、活性化ポリエチレングリコール多塩基酸エステルがより好ましい。
【0096】
第2剤中における架橋剤の含有量、及び、接着剤中における第2剤の含有量は、第1剤中におけるアミノ基の含有量に応じて適宜調整されればよい。
【0097】
例えば、第1剤中におけるアミノ基の量の1当量に対して、N-ヒドロキシスクシンイミドで活性化されたエステル基(活性エステル基)が0.1~3.0当量となることが好ましく、0.2~2.0当量となることがより好ましく、0.3~1.5当量となることが更に好ましく、0.3~0.8となることが特に好ましい。
なお、第2剤は、架橋剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。第2剤が、2種以上の架橋剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0098】
(溶媒)
第2剤は溶媒を含んでもよい。溶媒としては水性溶媒が好ましい。
なお、水性溶液としては、第1剤が含んでもよい水性溶液としてすでに説明したものが使用できる。
【0099】
なかでも、pH3~8のリン酸緩衝液が好ましく、pH4~6のリン酸緩衝液がより好ましい。
溶媒を含む第1剤と、溶媒を含む第2剤とを同体積で混合した際に、pHが約8~約10となるように双方の水性溶媒のイオン強度が調整されることが好ましい。
例えば、第1剤をpH9、イオン強度0.05~0.1のホウ酸緩衝液とし、第2剤をpH4、イオン強度0.01~0.03のリン酸緩衝液とすることで、同体積で混合した際に上記範囲のpHとすることができる。又は、第1剤をpH10、イオン強度0.05~0.1のホウ酸緩衝溶液として、第2剤をpH4、イオン強度0.01~0.07のリン酸緩衝溶液としてもよい。
【0100】
<添加剤>
上記第1剤、及び/又は、第2剤は、各種添加剤を本発明の目的を阻害しない量で更に含んでよい。添加剤としては、着色料、pH調整剤、及び、保存剤等が挙げられる。例えば、接着剤の適用箇所が分かり易いように、第1剤、及び/又は、第2剤に着色料(例えばブリリアントブルー)を添加してもよい。添加量は、例えば10~100μg/mLであってよい。
【0101】
また、本発明の接着剤(特に第1剤)は粘度が低いため、噴霧器を用いて霧状に吐出して塗布する形態で使用されることが好ましいが、粘度調整剤を添加することで、容易に増粘させることもでき、硬化前の塗布膜の液だれを抑制することもできるため、適用部位、用途に応じて粘度を調整できる点(当初の粘度が低いため増粘の余地がある点)も優れている。
【0102】
本接着剤は、ゼラチンに疎水性基が導入されたゼラチン誘導体を含むが、ゼラチン誘導体を含んでいれば、「その他の」ゼラチン、及び/又は、「その他の」ゼラチン誘導体を含んでいてもよい。
すなわち、第1剤がスケソウダラゼラチンの誘導体を含む場合、第1剤は、例えば、スケソウダラゼラチン、ブタゼラチン、及び/又は、ブタゼラチン誘導体等を含んでいてもよい。
【0103】
[接着剤の製造方法]
本接着剤は、第1剤と第2剤とを個別に調製することによって得ることができる。以下では、第1剤、及び、第2剤の調製方法をそれぞれ説明する。
【0104】
<第1剤の調製方法>
第1剤は、ゼラチン誘導体、シクロデキストリン、及び、必要に応じて他の成分を混合することで製造できる。この際、ゼラチン誘導体が有する疎水性基の少なくとも一部をシクロデキストリンに包接させる(包接化合物を形成する)工程を有することが好ましい。
【0105】
ゼラチン誘導体の疎水性基をシクロデキストリンで包接する方法としては特に制限されず、シクロデキストリンに水を添加して調製したスラリーにゼラチン誘導体を添加して混合する方法、及び、シクロデキストリンとゼラチン誘導体とを溶媒に溶解させ、これを乾燥させる方法等が使用できる。
【0106】
シクロデキストリンとゼラチン誘導体とを溶媒に溶解させ、乾燥させる方法の場合、得られる第1剤は、粉状である。これを液体の第1剤として用いる場合、上記粉状の第1剤にホウ酸緩衝液等の水性溶媒を添加すればよい。なお、必要に応じてこの時点で添加剤を加えてもよい。
得られた第1剤は、例えばポリプロピレン等のプラスチック製ディスペンサ等の所定の容器に充填することができる。組織接着剤として用いる場合、組織に適用する際に使用する、先端部で2剤を混合することができるダブルシリンジ型ディスペンサ等の一方に第1剤の水溶液を充填することが好ましい。
【0107】
<第2剤の調製方法>
第2剤は架橋剤を含む。架橋剤は公知の方法で合成してもよいし、市販されているものを使用してもよい。第2剤を液体とする場合には、架橋剤と、それを溶解するための、例えばリン酸緩衝液等の水性溶媒を混合すればよい。
【0108】
<組織への適用方法>
本接着剤は、呼吸器外科、消化器外科、心臓血管外科、脳神経外科、及び、口腔外科等、種々の外科手術における切開口、及び、皮膚創傷等に適用することができる。
【0109】
2剤を混合することにより直ちに硬化反応が起こり、硬化物が形成される。硬化反応の際の温度としては特に制限されないが、一般に15~45℃が好ましく、20~42℃がより好ましい。硬化時間は特に制限されないが、1~60分で十分な接着力と膜強度とが得られる。
【0110】
本接着剤は、生体組織に生じた創傷を被覆するための創傷被覆材として使用することができる。また、術後癒着を防止するための癒着防止材としても使用することができる。
【0111】
また、本接着剤の硬化物は優れた組織接着性と柔軟性とを併せ持つため、例えば、血管吻合部に適用することによって、血管吻合部からの出血を止めるための止血材等としても使用できる。
また、本接着剤は後述するように、組織に適用した際、優れた耐圧強度を有しているため、血圧に耐えることができ、かつ、その柔軟性により血管の拍動に追従する。
また、本接着剤の硬化物は、優れた接着性に加えて、優れた吸収性、及び、生体適合性を併せ持つため、例えば、硬膜の縫合時に、硬膜と硬膜の隙間、硬膜縫合部、又は、硬膜形成材料と硬膜との隙間を補填するためのシーラント等としても使用できる。
【0112】
本接着剤の使用方法としては特に制限されないが、後述する噴霧器を用いて、対象部位(組織)に塗布し、組織上で硬化物(ゲル)を形成させる形態が好ましい。
【0113】
[噴霧キット]
本発明の実施形態に係る噴霧キットは、噴霧器、第1剤、及び、第2剤を含んで構成され、第1剤と第2剤とが混合された接着剤を対象となる生体組織等に霧状に塗布するために用いられる。
【0114】
図1は、噴霧キットに含まれる噴霧器の構成部品の説明図であり、
図2は、組み立てられた噴霧キットの説明図である。
【0115】
噴霧器10は、外筒15、及び、先端にガスケットが配設されたプランジャ18からなる第1剤用シリンジ、並びに、外筒14、及び、先端にガスケットが配設されたプランジャ17からなる第2剤用シリンジを有している。各シリンジには、それぞれ第1剤21、及び、第2剤22が、典型的には、同量注入される。
なお、
図2において、第1剤21は着色され、第2剤22は着色されていないが、第2剤22が着色されていてもよいし、いずれも着色されていなくてもよい。
【0116】
外筒14、及び、外筒15は、シリンジホルダ16によって、それぞれが動かないよう、拘束された状態で支持され、先端にはアプリケータ13が嵌め差し込まれる。アプリケータ13の内部には、第1剤21、及び、第2剤22のための流通路(図示しない)がそれぞれ形成されており、各シリンジから押し出された第1剤と第2剤は混合されずにアプリケータ13の先端まで流通する。なお、アプリケータ内で第1剤と第2剤を混合するよう、内部の流通路が形成されていてもよい。
【0117】
プランジャ17、及び、プランジャ18の後部端には、プランジャキャップ19が嵌め込まれている。このプランジャキャップ19を、シリンジホルダ16の方向へと押し込むことにより、2本のプランジャ17、18を一体として押し込むことができ、シリンジ内の第1剤21、及び、第2剤22を同量押し出すことができるようになっている。
【0118】
シリンジから押し出され、アプリケータ13内の流通路を経た第1剤、及び、第2剤は、エクステンダ12内の流通路を介して、スプレ先端11から霧状となって吐出される。
なお、噴霧器10は、エクステンダ12を有しているが、噴霧器10はエクステンダ12を有していなくてもよい。噴霧器10がエクステンダ12を有していない場合、アプリケータ13の出口に、スプレ先端11が接続されていてもよい。
【0119】
次に、噴霧キットの使用方法について説明する。
図3は、噴霧キットによって接着剤を対象組織に適用する方法を説明するフローチャートである。
まず、ステップS30において、第1剤と第2剤とがそれぞれ調製される。第1剤と第2剤の調製方法は特に制限されないが、例えば、それぞれ溶媒を含まない第1剤、及び、第2剤にそれぞれ所定量の溶媒を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0120】
より具体的には、噴霧キットは、粉末状の第1剤、及び、第2剤が封入されたバイアル瓶を備え、これにそれぞれ所定量の溶媒を注入して、液状の第1剤、及び、第2剤が調製される形態が挙げられる。なお、これらの溶媒は、第1剤用シリンジ、及び、第2剤用シリンジにそれぞれ予め注入されていてもよい。
【0121】
次に、ステップS31において、調製された液状の第1剤と第2剤とがそれぞれシリンジに注入され、噴霧器が組み立てられる。具体的には、バイアル瓶内で混合して調製されたものを、各シリンジで吸引し、その後、噴霧器を組み立てればよい。
【0122】
次に、ステップS32において、プランジャキャップを押し込むことで、スプレ先端から霧状の接着剤が吐出される。本ステップによって、対象組織に対して接着剤が塗布され、速やかにゲル状に固化する。
上記第1剤、及び、第2剤を混合して得られる接着剤の硬化物は、生理食塩水中で膨潤しにくいという特徴を有するため、浸出液、及び、血液等の水分が多く存在する環境下でもはがれにくく、かつ、界面に応力を発生させにくく、生体組織への負担が軽減されるという特徴を有する。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
(1)ゼラチン誘導体「18C10」の調製
スケソウダラ由来のアルカリ処理ゼラチン(Mw=37000、「ビーマトリックスフィッシュゼラチンTA(商品名)」、新田ゼラチン製、以下「Orgゼラチン」という。)の10gを、50℃のオイルバスに浸したナス型フラスコ中の超純水-エタノール混合溶媒50mLに加え、2時間程度撹拌しながら溶解して20質量%水溶液を調製した。次に、得られた水溶液に、後段で加えるデカナールの1.5倍当量のピコリンボラン(純正化学製)を加えた後、デカナール(東京化成工業製)を、ゼラチンのアミノ基に対する0.5倍当量(ゼラチンのアミノ基1モルに対するデカナールのモル比)添加した。
【0125】
次に、ナス型フラスコに還流冷却器を取り付け、攪拌しながら55℃で18時間反応させた。次に、反応溶液を1Lのエタノールに滴下し再沈殿させた。1時間攪拌後、冷凍庫にて1時間静置した後、ガラスフィルターでろ過した。ろ過残渣を、再びビーカー中の1Lのエタノールに入れ再沈殿させ、1時間攪拌後、冷凍庫にて1時間静置した。再びガラスフィルターでろ過した後、ろ過残渣を減圧乾燥器で一晩以上乾燥させ、ゼラチン残基に、疎水性基であるデシル基(C10)がイミノ基を介して導入されたゼラチン誘導体を98%の収率で得た。
【0126】
得られたゼラチン誘導体における、デシル基の導入率を以下の手法によって求めた。
まず、Orgゼラチン、及び、ゼラチン誘導体をそれぞれ0.1質量/体積%
で水・DMSO(ジメチルスルホキシド)混合溶媒(体積比1:1、以下同様)に溶解し、48ウェルプレートに100μL分注した。
そこへ水・DMSO混合溶媒に溶解した0.1体積/体積%のトリエチルアミン(TEA、ナカライテスク社製)を100μL加え、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。更に、水・DMSO混合溶媒に溶解した0.1質量/体積%トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS、和光純薬(株)製)を100μL加え、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。アルミホイルで遮光し、37℃のインキュベーター内で2時間静置した後、インキュベーターから取り出しHCl(6mol/L)を50μL加えて反応を停止し、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。次に、遮光して10分間静置後、340nmの吸光度(Abs)を吸光度計(TECAN社製、Spark 10M-NMST)で測定した。測定された吸光度から、ゼラチンを含まない点でのみ異なるブランク試料の吸光度を引き、以下の計算式によって、ゼラチン誘導体のデシル基導入率が18.0モル%であることを求めた。
導入率(モル%)=[Abs(原料ゼラチン)-Abs(ゼラチン誘導体)
]/[Abs(Orgゼラチン)]×100
【0127】
上記の方法により得られたゼラチン誘導体を「18C10」とした。
【0128】
デカナールの添加量を0.1当量としたこと以外は上記と同様にして、デシル基の導入率が7.8モル%である、「7.8C10」を得た。
また、デカナールの添加量を1.0当量としたこと以外は上記と同様にして、デシル基の導入率が31.0モル%である「31C10」を得た。
また、デカナールの添加量を2.0当量としたこと以外は上記と同様にして、デシル基の導入率が51.0モル%である「51C10」を得た。
【0129】
(2)第1剤の調製
疎水化ゼラチン、及び、α-シクロデキストリンをそれぞれ秤量し、0.075mol/Lのホウ酸緩衝液(pH9.5)を添加し第1剤を調整した。表1には、各実施例における第1剤の組成が記載されている。例えば、実施例1であれば、ホウ酸緩衝液の1mLに対して、ゼラチン誘導体(7.8C10)の75mg、α-シクロデキストリン(「αCD」ともいう。)の8mgを分散させた。
【0130】
(3)第2剤の調製
架橋剤として、ペンタエリスリトール-ポリエチレングリコールエーテル テトラスクシンイミジル グルタレート(「4S-PEG」、重量平均分子量20,000、日油製)を準備した。これを0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH4.0)に溶解させ、第2剤とした。
【0131】
(4)接着剤の調製
ADY社製Wシリンジに、第1剤と第2剤とを、モル基準で、(架橋剤のNHSエステル)/(第1剤における第1級アミノ基)として、0.5(50モル%)となるように充填した。これを使用時に押し出し、混合した。表1中には、「NHS/アミン」と記載されている。
【0132】
<評価>
(膨潤性の評価)
Wシリンジから吐出し、厚み=1mmのゲル(接着剤硬化物)を作製し、直径10mmのポンチでくり抜いてサンプルとした。
【0133】
次に、サンプル(接着剤硬化物)を50ml遠沈管に移し、生理食塩水(Acid Bule 25μ/mlを添加したもの)50mlを注ぎ、37℃インキュベーター内で静置した。
【0134】
浸漬直前に測定しておいたサンプルの質量M0と、生理食塩水に浸漬し、24時間経過した後の質量M1とから、以下の式によって質量変化を求めた。この値が低いほど膨潤しにくく、生体組織に適用する接着剤として優れている。各実施例、及び、比較例の接着剤についての測定結果は、表1に記載されている。
【0135】
質量変化(Δ)=|(M1-M0)/M0|
【0136】
(生体組織への接着性)
ASTM-F2392-04Rに準拠して、組織接着力を評価するためのモデル組織として、コラーゲンケーシング(ニッピ製)を用いた接着性(耐圧強度)評価を行った。
【0137】
直径30mmのコラーゲンケーシングに直径3mmのピンホールを作製し、厚さ1mmとなるように接着剤を塗布した。これを室温(23~25℃)で10分間静置し、耐圧強度を測定した。試験は5回行い、平均値について以下の基準により評価した。各実施例、及び、比較例の接着剤ついての評価結果は表1に記載されている。
【0138】
・評価基準
AA:耐圧強度が14.5kPa以上だった。
A:耐圧強度が11.5kPa以上、14.5kPa未満だった。
B:耐圧強度が 8.5kPa以上、11.5kPa未満だった。
C:耐圧強度が 5.5kPa以上、 8.5kPa未満だった。
D:耐圧強度が 5.5kPa未満だった。
【0139】
(粘度測定)
上記で調製した第1剤のそれぞれについて、振動式粘度計「ビスコメイト VM-100A」(セコニック社製)を用いて、25℃における粘度を測定した。結果は表1に記載されている。
【0140】
【0141】
なお、表1において、比較例1は、第1剤がα-シクロデキストリンを含有しないこと以外は実施例1と同様に調製した接着剤を用いて測定した結果である。
また、参考例1は、接着剤として「デュラシール(登録商標)」を用いたこと以外は上記と同様にして測定した結果である。なお、「デュラシール」は、ポリエチレングリコールエステル化合物とリン酸緩衝液とを含む第1剤と、アミノ酸溶液を含む第2剤とを混合して用いる接着剤である。
【0142】
表1の記載のとおり、ゼラチン誘導体とシクロデキストリンとを含む第1剤と、その架橋剤を含む第2剤からなる実施例1の接着剤は、シクロデキストリンを含有しない比較例1の接着剤、及び、参考例1の接着剤と比較して、より膨潤しにくく、耐圧強度、及び、粘度のいずれも実用範囲であった。
【0143】
また、第1剤中におけるゼラチン誘導体の濃度が0.050g/mLを超え、0.150g/mL未満である、実施例10の接着剤は、実施例8の接着剤と比較して、より優れた耐圧強度を有していた。また、実施例11の接着剤と比較して、より膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有していた。
この傾向は、ゼラチン誘導体における疎水性基の導入率に関わらず同様であった。すなわち、導入率が18.0%である実施例6の接着剤は、実施例2の接着剤と比較してより優れた耐圧強度を有し、実施例7の接着剤と比較して、より膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有していた。また、導入率が51.0%である実施例14の接着剤は、実施例12の接着剤と比較して、より優れた耐圧強度を有し、実施例15の接着剤と比較して、より膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有していた。
【0144】
また、第1剤における疎水性基の平均導入率が10.0~50.0%である、実施例3、及び、実施例9の接着剤は、実施例1の接着剤と比較して、より膨潤しにくく、かつ、より優れた耐圧強度を有していた。また、実施例13の接着剤と比較して、より優れた耐圧強度を有していた。
【0145】
また、第1剤におけるCy/HBicが、1.0を超える実施例5の接着剤は、実施例3の接着剤と比較して、第1剤の粘度がより低かった。
また、第1剤におけるCy/HBicが、2.0を超える実施例5の接着剤は、実施例4の接着剤と比較して、第1剤の粘度がより低かった。
【0146】
また、第1剤中におけるゼラチン誘導体の濃度が、0.075g/mLを超える実施例6の接着剤は、実施例5の接着剤と比較して、より優れた耐圧強度を有していた。この傾向は、ゼラチン誘導体における疎水性基の導入率に関わらず同様であった。すなわち、実施例10の接着剤は、実施例9の接着剤と比較してより優れた耐圧強度を有し、実施例14の接着剤は、実施例13の接着剤と比較してより優れた耐圧強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の接着剤は、得られる硬化物が膨潤しにくいため、はがれにくく、かつ、界面に応力を発生させにくいため対象組織に対する負担が小さく、外科手術等において使用される組織接着剤として利用可能である。また、本発明の接着剤は、外科手術等によって生ずる創傷部を覆い、創傷の回復を促進する創傷被覆材としても使用できる。また、本接着剤は、組織切除後の損傷部に適用することで、修復過程で生ずる周辺組織同士の癒着を防止するための物理的隔壁として働き、癒着防止材としても使用できる。
【0148】
また、本発明の接着剤は膨潤しにくく、かつ、粘度を低く調整できるため、噴霧器を用いて霧状に塗布することができる。また、公知の増粘剤等を用いて簡単に粘度を調整することもできるので、塗布後の定着性が重要視される分野の接着剤としても容易に応用可能である。
【符号の説明】
【0149】
10:噴霧器、11:スプレ先端、12:エクステンダ、13:アプリケータ、14:外筒、15:外筒、16:シリンジホルダ、17、18:プランジャ、19:プランジャキャップ、21:第1剤、22:第2剤