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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】盗難防止システム
(51)【国際特許分類】
   G08B 13/24 20060101AFI20250305BHJP
【FI】
G08B13/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024207921
(22)【出願日】2024-11-29
【審査請求日】2024-12-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524440942
【氏名又は名称】石野 ジェーミー アン
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】石野 賢大朗
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509484(JP,A)
【文献】特表2010-530099(JP,A)
【文献】特表2010-525487(JP,A)
【文献】中国実用新案第209625383(CN,U)
【文献】米国特許第3631442(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 13/00 - 15/02
G06K 7/00 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響磁気方式の盗難防止システムであって、
送信期間中にバースト信号を送信する送信部と、
前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力するタグと、
前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出するタグ検出処理部とを備え、
一定周期毎に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる、盗難防止システム。
【請求項2】
音響磁気方式の盗難防止システムであって、
送信期間中にバースト信号を送信する送信部と、
前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力するタグと、
前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出するタグ検出処理部とを備え、
商用周波数電源の毎1周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる、盗難防止システム。
【請求項3】
商用周波数電源の毎1周期中に、57.7kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.0kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.3kHzのバースト信号を送信する送信期間とが含まれる、請求項2に記載の盗難防止システム。
【請求項4】
音響磁気方式の盗難防止システムであって、
送信期間中にバースト信号を送信する送信部と、
前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力するタグと、
前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出するタグ検出処理部とを備え、
商用周波数電源の毎2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる、盗難防止システム。
【請求項5】
商用周波数電源の毎2周期中に、57.25kHzのバースト信号を送信する送信期間と、57.55kHzのバースト信号を送信する送信期間と、57.85kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.15kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.45kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.75kHzのバースト信号を送信する送信期間とが含まれる、請求項4に記載の盗難防止システム。
【請求項6】
商用周波数電源の複数周期にわたって、各周期の送信期間中に57kHz帯又は58kHz帯の異なる周波数のバースト信号を前記送信部から送信させ、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の出力が最も高い周波数を前記タグの共振周波数として検出する共振周波数検出処理部をさらに備え、
前記タグの共振周波数を検出した後の商用周波数電源の各周期の送信期間には、前記共振周波数のバースト信号を含んだ送信パターンで送信が行われる、請求項1に記載の盗難防止システム。
【請求項7】
前記送信期間及び前記受信期間の位相タイミングが、商用周波数電源の位相に対して調整可能である、請求項1に記載の盗難防止システム。
【請求項8】
前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の強度が閾値以上である場合にアラーム報知を行う報知処理部をさらに備え、
複数の前記受信期間ごとに異なる前記閾値が設定されている、請求項1に記載の盗難防止システム。
【請求項9】
前記タグ検出処理部は、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の周波数が許容共振周波数範囲の周波数である場合に前記タグを検出する、請求項1に記載の盗難防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響磁気方式の盗難防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
盗難防止システムの一例として、ラジオ周波数(RF:Radio-Frequency)方式及び音響磁気(AM:Acousto-Magnetic)方式の2種類の電子商品監視(EAS:Electronic Article Surveillance)を行うセキュリティシステムが知られている。
【0003】
RF方式の盗難防止システムは、RF信号(例えば8.2MHz)を発振する発振器及び送信コイルを含む送信器と、センサコイルを含む受信器とを備えている。この種の盗難防止システムでは、商品に取り付けられたRFセキュリティラベルによる電圧変化の大きさは小さいが、RFセキュリティラベルからの信号は非常にクリアに検出可能である。
【0004】
RF方式の盗難防止システムの特徴としては、送信コイルからの高周波磁界の周波数が、固定周波数ではなく、連続的に周波数をスイープ(走査)する方式をとっている点がある。通常、周波数をスイープする範囲は(8.2MHz-10%)~(8.2MHz+10%)である。スイープしている送信器の発振周波数が、RFセキュリティラベルの中のLC共振回路の共振周波数に一致すると、RFセキュリティラベルは発振を始め、RFセキュリティラベルからの信号を検出するセンサコイルにおいて電圧の明確な落ち込み(DIP)が発生する。
【0005】
通常、RFセキュリティラベルの共振周波数の管理は、製造工程の品質管理により大きく影響を受ける。しかし、上記のような励磁磁界の広い周波数範囲(8.2MHz±10%)でのスイープ方式により、RFセキュリティラベルの許容共振周波数の範囲は、8.2MHz±10%と広く厳しい品質管理が必要無く、その結果、RFセキュリティラベルのコストを安くすることができている。
【0006】
その一方で、上記のような広い共振周波数の許容範囲は、別の技術問題を引き起こしている。例えば、店舗で販売されるケーブルコイルやLANケーブル等の商品が8.2MHz±10%の範囲内の共振周波数を持っている場合には、これら商品がセンサコイルの近くを通過すると誤報が発生する場合がある。
【0007】
これに対して、AM方式の盗難防止システムは、パルスリッスン方式で動作する。パルスリッスン方式とは、50Hz又は60Hzの商用周波数電源信号のゼロクロス点を制御のトリガタイミングとして、ゼロクロス点から一定時間の後、送信器の送信ウィンドウ(TX Window)(通常ウィンドウ幅1.4ms~2.0ms程度)が開かれ、その間に送信器から58kHzのバースト信号が送信される。その少し後(通常0.2ms程度後)に、受信器の受信ウィンドウ(RX Window)が一定時間(通常2.0ms~5.0ms程度)だけ開かれ、その間にタグからの応答信号を検出する。
【0008】
AM方式の盗難防止システムでは、58kHz帯に共振周波数を持つラベルタグ(例えば下記特許文献1参照)又はLC共振回路からなるハードタグが用いられる。これらのタグは、送信器の送信ウィンドウが開かれているバースト信号送信期間中に58kHzのバースト信号を受けたときに、励磁エネルギーを蓄積し、バースト信号の送信期間が終わった後の一定期間は、タグの共振周波数でのリンギングダウン(Ringing Down)信号を出力する。そして、受信器の受信ウィンドウが開かれている受信期間中は、タグから出てくる減衰した電波(リンギングダウン信号)が受信器で受信され、そのリンギングダウン信号の時間的な間隔、周波数及び減衰具合などに基づいて、その信号がタグからの信号であるか否かが判断され、タグからの信号と判断されればアラームによる報知が行われる。
【0009】
AM方式の盗難防止システムで使用されるラベルタグは、アモルファス金属製の薄板が複数枚平行に並べられた構造であり、58kHzの電波に共振するように作られている(例えば下記特許文献1参照)。一方、AM方式の盗難防止システムで使用されるハードタグでは、フェライトコアのコイル(L)にコンデンサ(C)を接続することによりLC共振回路が構成され、その共振周波数が58kHzに設定されている。
【0010】
AM方式の盗難防止システムにおける品質管理基準として、タグの共振周波数が58.0kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)という基準が設定されている。この基準は、送信器が58.0kHzのバースト信号を送信する際、受信器が許容共振周波数範囲にあるタグを検出できる受信器からの距離(タグ感度)が、共振周波数58.0kHzの最大タグ感度の70%程度以上あることを保証している。
【0011】
このようなRF方式とAM方式を比較すると、以下の通りである。まず、送信器及び受信器の価格については、従来はRF方式の方が安かったが、現在はAM方式の価格もRF方式と同程度となっている。タグの価格については、従来からRF方式の方が安く、AM方式の安価なタグが望まれている。
【0012】
タグの共振周波数の管理基準については、RF方式では8.2MHz±10%という広い許容範囲であるのに対して、AM方式では上述の通り58.0kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)であり、RF方式に比べて共振周波数の許容範囲が非常に狭く、そのため品質管理コストが過大となる。
【0013】
また、誤報などに関する安定性については、RF方式では励磁周波数(8.2MHz)が船舶無線と同じ周波数である点、共振周波数が8.2MHz±10%であるような商品(ケーブルコイル等)の影響を受けやすい点などから、誤報が生じやすい。これに対して、AM方式では、RF方式と比べて安定性が高く、誤報がほとんど生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第4510489号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の通り、送信器及び受信器の価格については、RF方式とAM方式とで同程度になってきている。したがって、AM方式のタグの価格を安くすることができれば、誤報が生じにくく安定性の高いAM方式の盗難防止システムが主流になる可能性がある。
【0016】
この点について、現在ではAM方式のタグの共振周波数のばらつきが大きく改善している。そのため、AM方式のタグの共振周波数の許容範囲を現状の58kHz±0.5%から58kHz±1.0%程度に広げることができれば、AM方式のタグの価格を40~60%下げることが可能になる。
【0017】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能な音響磁気方式(AM方式)の盗難防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明に係る第1の盗難防止システムは、音響磁気方式の盗難防止システムであって、送信部と、タグと、受信部と、タグ検出処理部とを備える。前記送信部は、送信期間中にバースト信号を送信する。前記タグは、前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力する。前記受信部は、前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する。前記タグ検出処理部は、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出する。一定周期毎に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。
【0019】
このような構成によれば、一定周期毎に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれるため、タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能になり、タグの価格を下げることができる。
【0020】
(2-1)本発明に係る第2の盗難防止システムは、音響磁気方式の盗難防止システムであって、送信部と、タグと、受信部と、タグ検出処理部とを備える。前記送信部は、送信期間中にバースト信号を送信する。前記タグは、前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力する。前記受信部は、前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する。前記タグ検出処理部は、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出する。商用周波数(60Hzまたは50Hz)電源の毎1周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。
【0021】
このような構成によれば、商用周波数電源の毎1周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれるため、音響磁気方式のタグの共振周波数の許容範囲を現状の58.0kHz±0.5%から少なくとも58.0kHz±1.0%程度にまで広げることが可能になる。このように、タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能になれば、タグの価格を下げることができる。
【0022】
(2-2)商用周波数電源の毎1周期中に、57.7kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.0kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.3kHzのバースト信号を送信する送信期間とが含まれていてもよい。
【0023】
このような構成によれば、商用周波数電源の毎1周期中の3つの送信期間中に送信される異なる周波数のバースト信号に対し、タグから一定強度以上のリンギングダウン信号を受信するか否かの送信期間/位相の組み合わせに基づいて、58.0kHz±1.0%程度のより広い共振周波数のタグを検出することが可能になる。
【0024】
(3-1)本発明に係る第3の盗難防止システムは、音響磁気方式の盗難防止システムであって、送信部と、タグと、受信部と、タグ検出処理部とを備える。前記送信部は、送信期間中にバースト信号を送信する。前記タグは、前記送信部から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力する。前記受信部は、前記送信期間後の受信期間中に、前記リンギングダウン信号を受信する。前記タグ検出処理部は、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号に基づいて前記タグを検出する。商用周波数電源の毎2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。
【0025】
このような構成によれば、商用周波数電源の毎2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれるため、音響磁気方式のタグの共振周波数の許容範囲を現状の58.0kHz±0.5%から少なくとも58.0kHz±1.5%程度にまで広げることが可能になる。このように、タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能になれば、タグの価格を下げることができる。
【0026】
(3-2)商用周波数電源の毎2周期中に、57.25kHzのバースト信号を送信する送信期間と、57.55kHzのバースト信号を送信する送信期間と、57.85kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.15kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.45kHzのバースト信号を送信する送信期間と、58.75kHzのバースト信号を送信する送信期間とが含まれていてもよい。
【0027】
このような構成によれば、商用周波数電源の毎2周期中の6つの送信期間中に送信される異なる周波数のバースト信号に対し、タグから一定強度以上のリンギングダウン信号を受信するかに基づいて、58.0kHz±1.5%程度のより広い共振周波数のタグを検出することが可能になる。
【0028】
(4)前記盗難防止システムは、商用周波数電源の複数周期にわたって、各周期の送信期間中に57kHz帯又は58kHz帯の異なる周波数のバースト信号を前記送信部から送信させ、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の出力が最も高い周波数を前記タグの共振周波数として検出する共振周波数検出処理部をさらに備えていてもよい。この場合、前記タグの共振周波数を検出した後の商用周波数電源の各周期の送信期間には、前記共振周波数(fr)のバースト信号を含んだ送信パターンで送信が行われる。送信パターンは(fr-0.1kHz,fr,fr+0.1kHz)のパターンであってもよい(後述表4参照)。
【0029】
このような構成によれば、予めタグの共振周波数を検出し、その後の商用周波数電源の各周期において当該共振周波数のバースト信号を送信期間中に送信することにより、タグを検出することができる。これにより、反共振周波数(特許文献1参照)がタグの検出に与える影響を回避することができる。
【0030】
(5)前記送信期間及び前記受信期間の位相タイミングが、商用周波数電源の位相に対して調整可能であってもよい。
【0031】
このような構成によれば、環境ノイズが多くタグの検出感度が悪い位相タイミングを避けて送信期間及び受信期間を設けることにより、タグの検出感度を向上することができる。
【0032】
(6)前記盗難防止システムは、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の強度が閾値以上である場合にアラーム報知を行う報知処理部をさらに備えていてもよい。この場合、複数の前記受信期間ごとに異なる前記閾値が設定されていてもよい。
【0033】
このような構成によれば、複数の受信期間ごとに異なる閾値を設定し、各受信期間において受信部で受信するリンギングダウン信号の強度が閾値以上であるか否かに基づいて報知を行うことにより幅広い許容共振周波数範囲のタグを感度よく検出し、報知を行うことができる。
【0034】
(7)前記タグ検出処理部は、前記受信部で受信する前記リンギングダウン信号の周波数が許容共振周波数範囲の周波数である場合に前記タグを検出してもよい。
【0035】
このような構成によれば、受信部で受信するリンギングダウン信号の周波数が許容共振周波数範囲の周波数である場合にのみタグを検出することにより、タグの検出精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能な音響磁気方式(AM方式)の盗難防止システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態に係る盗難防止システムの構成例を示すブロック図である。
図2】共振周波数が異なる無効化不可能なタグをAMアンテナの58.0kHzバースト信号で励磁したときのリンギングダウン信号出力の強さの一例を示した図である。
図3】共振周波数が異なる無効化可能なタグをAMアンテナの58.0kHzバースト信号で励磁したときのリンギングダウン信号出力の強さの一例を示した図である。
図4】リンギングダウン信号の強さとタグの感度の関係を示した図である。
図5】盗難防止システムの動作タイミングの第1実施例について説明するための図である。
図6A】第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図であり、タグの共振周波数が57.4kHz~57.6kHzの場合を示している。
図6B】第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図であり、タグの共振周波数が57.7kHz~57.9kHzの場合を示している。
図6C】第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図であり、タグの共振周波数が58.0kHzの場合を示している。
図6D】第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図であり、タグの共振周波数が58.1kHz~58.3kHzの場合を示している。
図6E】第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図であり、タグの共振周波数が58.4kHz~58.6kHzの場合を示している。
図7】盗難防止システムの動作タイミングの第2実施例について説明するための図である。
図8】第3実施例について説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
1.盗難防止システムの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る盗難防止システムの構成例を示すブロック図である。この盗難防止システムは、音響磁気(AM:Acousto-Magnetic)方式の電子商品監視(EAS:Electronic Article Surveillance)を行うセキュリティシステムであり、タグ10、送信部20、受信部30、制御部40及びスピーカ50などを備えている。送信部20及び受信部30は、店舗の出入口などに設置される。
【0039】
タグ10は、盗難防止のための監視の対象となる商品に取り付けられるラベルタグである。AM方式の盗難防止システムで使用されるラベルタグ10は、アモルファス金属製の薄板が複数枚平行に並べられた構造を有しており、内部に磁石が備えられている。ただし、タグ10は、ラベルタグに限らず、フェライトコアに巻き線を巻いた磁気コイルとコンデンサによりLC共振回路を構成するハードタグであってもよい。
【0040】
店舗のレジなどで、タグ10内の磁石の磁力を消去する作業を行えば、タグ10が無効化されて受信部30で検出されない状態になる。すなわち、購入前の商品に取り付けられたタグ10は有効化されており、当該商品を店舗から持ち出そうとした場合には受信部30でタグ10が検出されアラームが報知されるが、商品の購入後はレジなどでタグ10が無効化されることにより、受信部30でタグ10が検出されることなく商品を店舗の外に持ち出すことが可能になる。
【0041】
送信部20には、発振器21、送信アンプ22及び送信アンテナ23などが含まれる。発振器21は57kHz帯のバースト信号を送信する発振回路と、58kHz帯のバースト信号を送信する発振回路を備えており、一定周期の各送信期間中に送信ウィンドウ(TX Window)が開かれ、その間に送信アンプ22を介して送信アンテナ23から57kHz帯および58kHz帯のバースト信号が送信される。
【0042】
送信アンテナ23に対して一定距離の範囲内にタグ10がある場合には、送信アンテナ23から送信されるバースト信号によりタグ10が発振する。具体的には、タグ10がその共振周波数に近い周波数のバースト信号を受けたときに、送信部20の送信ウィンドウが開かれている送信期間中はタグ10が励磁エネルギーを蓄積し、バースト信号の送信期間が終わった後の一定期間は、タグ10の共振周波数でのリンギングダウン(Ringing Down:減衰)信号を出力する。
【0043】
受信部30には、受信アンテナ31、受信アンプ32及び狭帯域フィルタ33などが含まれる。受信アンテナ31に対して一定距離の範囲内にタグ10がある場合に、タグ10がバースト信号により発振したときには、受信アンテナ31でタグ10からのリンギングダウン信号を受信することができる。
【0044】
具体的には、バースト信号の送信期間(送信ウィンドウ)(通常1.4ms~2.0ms)の少し後(通常0.2ms程度後)に、受信部30の受信ウィンドウ(RX Window)が一定時間(通常2.0ms~5.0ms程度)だけ開かれる。受信部30の受信ウィンドウが開かれている受信期間中に、タグ10からのリンギングダウン信号が受信アンテナ31で受信され、受信アンプ32及び狭帯域フィルタ33を介して制御部40に入力される。
【0045】
制御部40は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを備え、プロセッサがプログラムを実行することにより、盗難防止システムの動作に必要な処理を実行する。制御部40は、1つの制御装置により構成されてもよいし、複数の制御装置により構成されてもよい。例えば、MPU(Micro Processor Unit)コントローラにより受信制御が行われ、その他の制御がシステムコントローラにより行われるような構成であってもよい。
【0046】
制御部40は、プロセッサがプログラムを実行することにより、バースト信号送信処理部41、タグ検出処理部42及び報知処理部43などの各種処理部として機能する。ただし、制御部40は、これらの処理部に限らず、他の処理部として機能してもよい。
【0047】
バースト信号送信処理部41は、送信部20からバースト信号を送信するための処理を行う。すなわち、バースト信号送信処理部41の処理により、予め設定された送信期間(送信ウィンドウ)中に、予め設定された周波数のバースト信号が送信部20から送信される。
【0048】
タグ検出処理部42は、受信部30からの信号に基づいてタグ10を検出するための処理を行う。具体的には、上記受信ウィンドウ期間に受信部30で受信するタグ10からのリンギングダウン信号に基づいて、タグ検出処理部42によりタグ10が検出される。
【0049】
受信アンテナ31と制御部40との間に狭帯域フィルタ33を介在させることにより、タグ検出処理部42は、受信部30で受信するリンギングダウン信号が一定範囲の周波数である場合にのみタグ10を検出する。これにより、タグ10の検出精度を向上することができる。狭帯域フィルタ33としては、直交ミラーフィルタ(QMF)を使用することができる。ただし、狭帯域フィルタ33は省略されてもよい。
【0050】
報知処理部43は、受信部30で受信するタグ10からのリンギングダウン信号に基づいて、報知を行うための処理を行う。具体的には、受信部30で受信するタグ10からのリンギングダウン信号に基づいて、タグ検出処理部42がタグ10を検出した場合に、当該タグ10が取り付けられた商品の盗難を報知するためのアラームがスピーカ50から出力される。
【0051】
2.タグに関する詳細
(1)タグの共振周波数と反共振周波数
タグ10は、共振周波数(fr:resonance frequency)で励磁エネルギーの蓄積と出力が最大になるが、共振周波数より若干高い周波数に反共振周波数(fa:anti-resonance frequency)があり、この反共振周波数では励磁エネルギーの蓄積と出力が逆に小さくなる。(特許文献1参照)
【0052】
タグ10は、無効化可能(De-activatable)であるタグと、無効化不可能(Non De-activatable)であるタグの2種類に分類される。すなわち、タグ10内の磁石の磁力を消去する作業を行うことができる場合は無効化可能なタグであり、タグ10内の磁石の磁力を消去する作業を行うことができない場合は無効化不可能なタグである。
【0053】
無効化可能なタグ10では、電磁結合係数(Magneto-mechanical Coupling factor)が小さい。また、無効化可能なタグ10では、fa-fr≒0.1kHz程度であり、反共振周波数(fa)が共振周波数(fr)に非常に近い。
【0054】
これに対して、無効化不可能なタグ10では、電磁結合係数(Magneto-mechanical Coupling factor)が大きい。また、無効化不可能なタグ10では、fa-fr≒0.3kHz程度であり、反共振周波数(fa)と共振周波数(fr)の差が大きい。
【0055】
(2)無効化不可能なタグの詳細
図2は、共振周波数が異なる無効化不可能なタグ10をAMアンテナの58.0kHzバースト信号で励磁したときのリンギングダウン信号出力の強さの一例を示した図である。図2において、横軸はタグ10の共振周波数、縦軸はリンギングダウン信号の電圧を示している。
【0056】
この例では、58.0kHzの励磁周波数でバースト信号を送信して、無効化不可能なタグ10を共振させ、リンギングダウン信号を出力させた場合について説明する。測定条件として、送信ウィンドウの時間幅は1.6msであり、送信ウィンドウが閉じられてから0.4ms後のリンギングダウン信号の電圧を測定した。
【0057】
図2に示すように、タグ10の共振周波数が57.7kHzのときにリンギングダウン信号の電圧降下が見られる。これは、バースト信号の励磁周波数58.0kHzが、共振周波数57.7kHzのタグ10の反共振周波数(fa)に対応していることによるものである。タグ10の共振周波数の許容範囲が現状の58kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)である場合、この許容範囲内に57.7kHzの共振周波数が含まれており、共振周波数57.7kHzのタグ10は58.0kHzバースト信号に対してリンギングダウン信号の電圧降下が見られるが、システムの受信部30でタグ検出可能である。
【0058】
(3)無効化可能なタグの詳細
図3は、無効化可能なタグ10をAMアンテナの58.0kHzバースト信号で励磁したときのリンギングダウン信号出力の強さの一例を示した図である。図3において、横軸はタグ10の共振周波数、縦軸はリンギングダウン信号の電圧を示している。
【0059】
この例では、58.0kHzの励磁周波数でバースト信号を送信して、無効化可能なタグ10を共振させ、リンギングダウン信号を出力させた場合について説明する。測定条件として、送信ウィンドウの時間幅は1.6msであり、送信ウィンドウが閉じられてから0.4ms後のリンギングダウン信号の電圧を測定した。
【0060】
図3に示すように、タグ10の共振周波数が57.8kHz~57.9kHzのときにリンギングダウン信号の電圧降下が見られる。これは、バースト信号の励磁周波数58.0kHzが、共振周波数57.8kHz~57.9kHzのタグ10の反共振周波数(fa)に対応していることによるものである。タグ10の共振周波数の許容範囲が現状の58kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)である場合、この許容範囲内に57.8kHz~57.9kHzの共振周波数が含まれることになる。共振周波数57.8kHz~57.9kHzのタグ10は58.0kHzのバースト信号による励磁に対してリンギングダウン信号の落ち込みはあるが、システムの受信部30でタグ検出可能である。
【0061】
(4)リンギングダウン信号とタグの感度
図4は、リンギングダウン信号の強さとタグの感度の関係を示した図である。図4において、横軸はリンギングダウン信号の電圧、縦軸はタグ10の感度(タグ感度)を示している。
【0062】
「タグ感度」は、受信アンテナ31が許容共振周波数範囲にあるタグ10を検出できる受信アンテナ31からの距離(タグ10と受信アンテナ31との距離)を意味している。図4に示すように、リンギングダウン信号とタグ10の感度は、ほぼ比例関係にある。したがって、タグ10を検出するためには、リンギングダウン信号の電圧を一定値以上にすることが必要であり、その一定値との関係でタグ感度が決まる。
【0063】
(5)タグの共振周波数の許容範囲とバースト信号の励磁周波数
バースト信号の励磁周波数58.0kHzに対して、リンギングダウン信号の電圧の落ち込みが見られるタグ10の共振周波数は、上述の通り、無効化不可能なタグ10の場合は57.7kHz、無効化可能なタグ10の場合は57.8kHz~57.9kHzであるが、現状では、これらの共振周波数を含む58kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)がタグ10の共振周波数の許容範囲として適用される。
【0064】
言い換えると、現状のようにバースト信号の励磁周波数が58.0kHzである場合、共振周波数の許容範囲が58kHz±0.52%(58.0kHz±0.3kHz)であるタグ10に対して、必要な励磁が与えられることにより、電圧が一定値以上のリンギングダウン信号がタグ10から出力され、そのタグ10が問題なく検出できることを示している。このことを背景にして、以下では、無効化不可能なタグ10及び無効化可能なタグ10のいずれにも適用可能でタグ10の許容共振周波数範囲を広げることができる盗難防止システムの実施例について説明する。
【0065】
3.実施例
以下の実施例では、商用周波数電源(50Hz又は60Hz)の1周期中又は2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。すなわち、従来は、商用周波数電源の1周期中に、58.0kHzのバースト信号を送信する送信期間が1回だけであったが、以下の実施例では、商用周波数電源の1周期中又は2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが、異なる位相で複数回現れるように設定されている。
【0066】
(1)第1実施例
図5は、盗難防止システムの動作タイミングの第1実施例について説明するための図である。この例では、商用周波数電源の毎1周期が、PhaseA、PhaseB及びPhaseCの3つの位相に分割され、各位相において送信ウィンドウ(送信期間)及び受信ウィンドウ(受信期間)が設定される。具体的には、各位相の初期のタイミングで、送信部20の送信ウィンドウが1.4ms~2.0ms程度開かれ、その間に送信部20からバースト信号が送信される。また、各位相における送信ウィンドウの少し後(0.2ms程度後)に、受信部30の受信ウィンドウが一定時間(2.0ms~3.0ms程度)だけ開かれ、その間にタグ10からのリンギングダウン信号が受信される。
【0067】
PhaseA、PhaseB及びPhaseCの各位相におけるバースト信号の周波数は、下記表1の通りである。このように各位相におけるバースト信号の周波数は、57kHz帯又は58kHz帯である。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。各位相におけるバースト信号の出力は、送信アンプ22により一定に制御される。
【表1】
【0068】
図6A図6Eは、第1実施例におけるタグ10の共振周波数の許容範囲について説明するための図である。図中送信Window期間の縦線マーク部分はタグ10における励磁エネルギーの吸収領域であり、送信Windowの後の減衰マーク部分はタグ10のリンギングダウン信号を示している。図6Aは、タグ10の共振周波数が57.4kHz~57.6kHzの場合に、PhaseAの受信ウィンドウにタグ10の強いリンギングダウン信号が現れる可能性があることを意味している。図6Bは、タグ10の共振周波数が57.7kHz~57.9kHzの場合に、PhaseA及びPhaseBの受信ウィンドウにタグ10の強いリンギングダウン信号が現れる可能性があることを意味している。図6Cは、タグ10の共振周波数が58.0kHzの場合に、PhaseA、PhaseB及びPhaseCの受信ウィンドウにタグ10の強いリンギングダウン信号が現れる可能性があることを意味している。図6Dはタグ10の共振周波数が58.1kHz~58.3kHzの場合、図6Eはタグ10の共振周波数が58.4kHz~58.6kHzの場合をそれぞれ示している。なお、タグ10の共振周波数がバースト信号の周波数と一致していなくても、バースト信号の周波数に対して±0.3kHzの範囲内にタグ10の共振周波数があれば、タグ10のリンギングダウン信号が、バースト信号の送信ウィンドウに続く受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度で出力される。
【0069】
図6Aに示すように、タグ10の共振周波数が57.4kHz~57.6kHzの場合、PhaseAにおける57.7kHzのバースト信号により、タグ10からPhaseAの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。これに対して、PhaseBにおける58.0kHzのバースト信号、及び、PhaseCにおける58.3kHzのバースト信号では、タグ10からPhaseB及びPhaseCの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力されない。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中、PhaseAの1つの位相のみにおいて、タグ10から一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。
【0070】
図6Bに示すように、タグ10の共振周波数が57.7kHz~57.9kHzの場合、PhaseAにおける57.7kHzのバースト信号、及び、PhaseBにおける58.0kHzのバースト信号により、タグ10からPhaseA及びPhaseBの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。これに対して、PhaseCにおける58.3kHzのバースト信号では、タグ10からPhaseCの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力されない。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中、PhaseA及びPhaseBの2つの位相において、タグ10から一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。
【0071】
図6Cに示すように、タグ10の共振周波数が58.0kHzの場合、PhaseAにおける57.7kHzのバースト信号、PhaseBにおける58.0kHzのバースト信号、及び、PhaseCにおける58.3kHzのバースト信号により、タグ10からPhaseA、PhaseB及びPhaseCの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中、PhaseA、PhaseB及びPhaseCの3つの位相の全てにおいて、タグ10から一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。
【0072】
図6Dに示すように、タグ10の共振周波数が58.1kHz~58.3kHzの場合、PhaseBにおける58.0kHzのバースト信号、及び、PhaseCにおける58.3kHzのバースト信号により、タグ10からPhaseB及びPhaseCの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。これに対して、PhaseAにおける57.7kHzのバースト信号では、タグ10からPhaseAの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力されない。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中、PhaseB及びPhaseCの2つの位相において、タグ10から一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。
【0073】
図6Eに示すように、タグ10の共振周波数が58.4kHz~58.6kHzの場合、PhaseCにおける58.3kHzのバースト信号により、タグ10からPhaseCの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。これに対して、PhaseAにおける57.7kHzのバースト信号、及び、PhaseBにおける58.0kHzのバースト信号では、タグ10からPhaseA及びPhaseBの受信ウィンドウにおいて一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力されない。すなわち、商用周波数電源の毎1周期中、PhaseCの1つの位相のみにおいて、タグ10から一定強度以上で検出可能な強度のリンギングダウン信号が出力される。
【0074】
このように、第1実施例では、タグ10の共振周波数が57.4kHz~57.6kHzの場合(図6A)、57.7kHz~57.9kHzの場合(図6B)、58.0kHzの場合(図6C)、58.1kHz~58.3kHzの場合(図6D)、及び、58.4kHz~58.6kHzの場合(図6E)のそれぞれにおいて、タグ10から受信ウィンドウで検出可能な一定強度以上のリンギングダウン信号が出力される位相の組み合わせが異なる。したがって、各位相(商用周波数電源の毎1周期中の3つの送信期間中)に送信される異なる周波数のバースト信号に対し、タグ10から一定強度以上のリンギングダウン信号を受信するか否かの位相の組み合わせに基づいて、57.4kHz~58.6kHz(58kHz±1.0%程度)のより広い共振周波数のタグ10を検出することが可能になる。
【0075】
(2)第2実施例
図7は、盗難防止システムの動作タイミングの第2実施例について説明するための図である。この例では、商用周波数電源の毎2周期が、P1~P6の6つの位相に分割され、各位相において送信ウィンドウ(送信期間)及び受信ウィンドウ(受信期間)が設定される。なお、図7では、各位相P1~P6における送信ウィンドウ(送信期間)のみを図示しているが、第1実施例と同様に、各位相において、送信部20の送信ウィンドウが一定時間開かれ、その少し後に受信部30の受信ウィンドウが一定時間開かれる。
【0076】
【表2】
P1~P6の各位相におけるバースト信号の周波数は、上記表2の通りである。このように各位相におけるバースト信号の周波数は、57kHz帯又は58kHz帯である。すなわち、商用周波数電源の毎2周期中に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。各位相におけるバースト信号の出力は、送信アンプ22により一定に制御される。
【0077】
位相P1における57.25kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が56.95kHz~57.55kHz(57.25kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0078】
位相P2における57.55kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が57.25kHz~57.85kHz(57.55kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0079】
位相P3における57.85kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が57.55kHz~58.15kHz(57.85kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0080】
位相P4における58.15kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が57.85kHz~58.45kHz(58.15kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0081】
位相P5における58.45kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が58.15kHz~58.75kHz(58.45kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0082】
位相P6における58.75kHzのバースト信号に続く受信ウィンドウでは、共振周波数が58.45kHz~59.05kHz(58.75kHz±0.3kHz)の範囲内にあるタグ10を一定強度以上のリンギングダウン信号強度で検出することができる。
【0083】
このように、第2実施例では、共振周波数が56.95kHz~59.05kHzの範囲内、すなわち58.0kHz±1kHz(±1.7%)の範囲内にあるタグ10を検出することができる。このように、各位相(商用周波数電源の毎2周期中の6つの送信期間中)に送信される異なる周波数のバースト信号に対し、タグ10からバースト信号の送信ウィンドウに続く受信ウィンドウで一定強度以上のリンギングダウン信号を受信するかに基づいて、58kHz±1.7%程度のより広い共振周波数のタグ10を検出することが可能になる。
【0084】
(3)第3実施例
図8は、第3実施例について説明するためのブロック図である。この例では、図1に示した盗難防止システムにおける制御部40の構成のみが異なり、他の構成は図1の構成と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0085】
図8に示すように、制御部40は、上述したバースト信号送信処理部41、タグ検出処理部42及び報知処理部43だけでなく、共振周波数検出処理部44としても機能する。共振周波数検出処理部44は、商用周波数電源の複数周期にわたって、各周期の送信期間中に57kHz帯又は58kHz帯の異なる周波数のバースト信号を送信部20から送信させ、受信部30で受信するリンギングダウン信号の出力が最も高い周波数を共振周波数として検出する。
【0086】
下記表3は、バースト信号送信処理部41の処理により送信されるバースト信号の一例である。この例では、電源周波数が60Hzの場合について説明する。
【表3】
【0087】
上記表3に示すように、商用周波数電源の各周期tnが、PhaseA、PhaseB及びPhaseCの3つの位相に分割され、各位相において送信ウィンドウ(送信期間)及び受信ウィンドウ(受信期間)が設定される。各位相では、異なる周波数のバースト信号が送信される。具体的には、各周期tnの各位相において、バースト信号の周波数を0.1kHzずつスイープ(走査)させる。
【0088】
周波数をスイープする範囲は57.4kHz~58.6kHzであり、この範囲の周波数で繰り返しバースト信号が送信される。なお、商用電源周波数60Hzの場合、各周期tnで経過する時間は16msと非常に短く、57.4kHz~58.6kHzの範囲を3回繰り返したとしても、上記表3の通り経過時間は208ms程度である。
【0089】
各周期tnの各位相において送信されるバースト信号に対して、受信部30でリンギングダウン信号を受信した場合には、その出力が最も高いものであるかどうかが判定される。すなわち、タグ10の共振周波数の許容範囲である57.4kHz~58.6kHzの範囲(58.0kHz±0.6kHz)でバースト信号の周波数をスイープさせたときに、最も出力が高いリンギングダウン信号が判別され、そのリンギングダウン信号に対応するバースト信号の周波数がタグ10の共振周波数として検出される。
【0090】
このようにして、共振周波数検出処理部44によりタグ10の共振周波数が検出された後、バースト信号送信処理部41が、その検出共振周波数のバースト信号を含む送信パターンで以降バースト信号を送信する。
【0091】
下記表4は、タグ10の共振周波数が57.5kHzと検出された場合の各周期tnの各位相におけるバースト信号の周波数を示している。
【表4】
【0092】
上記表4に示すように、各周期tnのPhaseBにおけるバースト信号の周波数が、タグ10の共振周波数である57.5kHzとされ、PhaseAにおけるバースト信号の周波数が57.4kHz(57.5-0.1kHz)、PhaseCにおけるバースト信号の周波数が57.6kHz(57.5+0.1kHz)とされる。すなわち表3の共振周波数スイープ工程で、タグ10の共振周波数が57.5kHzと検出された後は、一定期間各周期tnにおいて57.5±0.1kHzの周波数で繰り返しバースト信号が送信されタグ10が検出され、その後再度表3の共振周波数スイープ工程に戻る。
【0093】
このように、共振周波数検出処理部44の処理により予めタグ10の共振周波数を検出し、その後の商用周波数電源の各周期tnにおいて当該共振周波数に関するバースト信号パターン(共振周波数-0.1kHz、共振周波数、共振周波数+0.1kHz)を送信することにより、タグ10を確実に検出することができる。これにより、反共振周波数がタグ10の検出に与える影響を回避することができる。
【0094】
上記第1実施例~第3実施例では、商用周波数(50Hz又は60Hz)電源の一定周期毎に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間(送信ウィンドウ)と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間(送信ウィンドウ)とが含まれる盗難防止システムを提案したが、この送信制御は商用周波数電源のゼロクロス点を基準に送信制御が行われる。本発明の応用として、商用周波数電源を使用しなくて直流電源を使用する場合もある。この場合、一定周期毎に上記実施例と同じ方法でバースト信号の周波数を変えた送信ウィンドウ及びその後に開く受信ウィンドウとすることで、許容共振周波数を広げたタグ10を検出できることは言うまでもないことである。
【0095】
4.報知処理
報知処理部43は、受信部30で受信するリンギングダウン信号の強度が閾値以上である場合に報知を行う。上記閾値としては、複数の受信期間(受信ウィンドウ)ごとに異なる閾値が設定されていてもよい。例えば、上記第1実施例~第3実施例のように商用周波数電源の各周期がPhaseA、PhaseB及びPhaseCの3つの位相に分割され、各位相において送信ウィンドウ(送信期間)及び受信ウィンドウ(受信期間)が設定されている場合には、PhaseA、PhaseB及びPhaseCのそれぞれの受信ウィンドウにおいて、異なる閾値が設定されていてもよい。
【0096】
この場合、PhaseA、PhaseB及びPhaseCのいずれかの受信ウィンドウにおいて、受信部30で受信するリンギングダウン信号の強度が閾値以上である場合に、報知処理部43による報知が行われてもよい。また、PhaseA、PhaseB及びPhaseCの各受信ウィンドウのうち、2つ以上の位相において受信部30で受信するリンギングダウン信号にピークが現れた場合には、最も大きいピークの強度が閾値以上であるときに、報知処理部43による報知が行われてもよい。
【0097】
5.位相タイミングの調整
送信ウィンドウ(送信期間)及び受信ウィンドウ(受信期間)の位相タイミングは、商用周波数電源の位相に対して調整可能であってもよい。この場合、環境ノイズなどによりタグ10の検出感度が悪い位相タイミングを避けて送信ウィンドウ及び受信ウィンドウを設けることにより、タグ10の検出感度を向上することができる。
【0098】
例えば、複数の盗難防止システム(送信アンテナ23など)が互いに近接して設置されている場合、それらの送信ウィンドウ及び受信ウィンドウを適切に同期させることが極めて重要である。具体的には、2つ以上の送信アンテナ23が近接して設置される場合、送信アンテナ23の送信ウィンドウ(通常1.4ms~2.0ms)の位相を近接する送信アンテナ23の送信ウィンドウの位相に一致させ、近接する他の送信アンテナ23からのバースト信号の位相が、こちらのシステムの受信ウィンドウに重ならないようにすることが重要である。
【0099】
こちらの受信ウィンドウの位相に近接する他の送信アンテナ23の送信ウィンドウの位相が重なり、適切に同期が取れていない場合には、誤報が発生したり、タグ10の検出感度が低下したりするなどの問題が生じる。そこで、送信ウィンドウ及び受信ウィンドウの位相タイミングを、商用周波数電源の位相に対して調整し、適切に同期させれば、誤報が発生したり、タグ10の検出感度が低下したりするなどの問題を防止することができる。特に、AM方式では、RF方式と比べて波長が長く、互いに比較的遠く(例えば100m)に位置する盗難防止システム同士でも影響が生じやすいため、注意が必要である。
【0100】
また、送信ウィンドウ及び受信ウィンドウを制御するモード(ラベル検出モード)と、送信ウィンドウ及び受信ウィンドウを制御しないモード(ノイズ測定モード)とが設けられていてもよい。この場合、ノイズ測定モードでは、送信ウィンドウにおいてバースト信号は送信せずに、受信アンテナ31からの受信信号(ノイズ)を商用周波数電源の各周期の位相(PhaseA、PhaseB、PhaseC)の送信ウィンドウ/受信ウィンドウとの位相関係において測定してもよい。
【0101】
そして、ノイズ測定モードにおいて特定位相のところで大きなノイズが測定された場合に、そのノイズが検出された位相が受信ウィンドウに重なっていれば、ノイズの影響が大きくなるため、当該受信ウィンドウをノイズの影響が小さい位相に移動させることにより調整してもよい。
【符号の説明】
【0102】
10 タグ
20 送信部
21 発振器
22 送信アンプ
23 送信アンテナ
30 受信部
31 受信アンテナ
32 受信アンプ
33 狭帯域フィルタ
40 制御部
41 バースト信号送信処理部
42 タグ検出処理部
43 報知処理部
44 共振周波数検出処理部
50 スピーカ
【要約】
【課題】タグの共振周波数の許容範囲を広くすることが可能な音響磁気方式(AM方式)の盗難防止システムを提供する。
【解決手段】音響磁気方式の盗難防止システムは、送信部20と、タグ10と、受信部30と、タグ検出処理部42とを備える。送信部20は、送信期間中にバースト信号を送信する。タグ10は、送信部20から送信されるバースト信号により共振し、リンギングダウン信号を出力する。受信部30は、送信期間後の受信期間中に、リンギングダウン信号を受信する。タグ検出処理部42は、受信部30で受信するリンギングダウン信号に基づいてタグ10を検出する。一定周期毎に、57kHz帯のバースト信号を送信する送信期間と、58kHz帯のバースト信号を送信する送信期間とが含まれる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8