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特許7644567コンクリート床版及びコンクリート床版の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】コンクリート床版及びコンクリート床版の形成方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20250305BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20250305BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20250305BHJP
   E01D 101/28 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D1/00 D
E01D22/00 A
E01D101:28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019188547
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021063378
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-25
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保久
(72)【発明者】
【氏名】西村 一博
(72)【発明者】
【氏名】中積 健一
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠孝
(72)【発明者】
【氏名】中島 大樹
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】油原 博
【審判官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082496(JP,A)
【文献】特開2018-076654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁の上に複数のプレキャスト版を配列し、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入して複数の前記プレキャスト版を接合したコンクリート床版であって、
それぞれが所定数の標準プレキャスト版からなる複数の標準部と、連結プレキャスト版又は現場打設されたコンクリートで形成された連結部と、が前記橋桁の軸線方向に連続して交互に設けられ、
それぞれの標準部毎に配置され、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入する緊張材が、それぞれの標準部の両側で隣接する前記連結部にわたって配置され、
前記連結部を挟んで隣り合う2つの標準部に配置されたそれぞれの前記緊張材は、2つの前記標準部の間の前記連結部内で橋桁の軸線方向の配置範囲が重複するように配置されており、
それぞれの前記緊張材は、両端が、それぞれの前記標準部の両側に隣接する前記連結部に定着具によって定着されるとともに、前記標準部と前記連結部との接合部付近には該標準部に緊張力を定着することができる接合部定着具が配置されていることを特徴とするコンクリート床版。
【請求項2】
前記緊張材は、前記標準部に配置された標準部緊張材と、該標準部緊張材に接続具によって接続され、前記連結部に配置された連結部緊張材とからなり、
前記標準部緊張材は緊張力を導入した状態で前記接合部定着具によって前記標準部に定着されており、
前記連結部緊張材は、緊張力を導入した状態で前記定着具によって前記連結部に定着されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床版。
【請求項3】
前記緊張材は、前記標準部から前記連結部にわたって連続するものであり、緊張力が導入された状態で両端部が前記定着具によって前記連結部に定着されており、
前記標準部と前記連結部との接合部付近には、前記接合部定着具が前記標準部に前記緊張材の緊張力を定着することが可能に装着されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床版。
【請求項4】
橋桁の上に、複数の標準プレキャスト版が連続して配列された標準部を、前記橋桁の軸線方向に間隔を開けて複数を形成し、
前記標準部毎に配置した標準部緊張材の緊張力によってそれぞれの標準部に前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入し、該標準部緊張材の両端を接合部定着具によって前記標準部に定着し、
前記標準部の間に、連結プレキャスト版を配置し、
前記連結プレキャスト版の両側に隣接する前記標準部に配置された前記標準部緊張材のそれぞれに連結部緊張材を接続し、2つの前記標準部の間で2つの前記標準部緊張材のそれぞれに接続された双方の連結部緊張材が前記橋桁の軸線方向における配置範囲の少なくとも一部が重複するように配置し、
前記連結プレキャスト版と隣接する前記標準部との間にモルタル又はコンクリートを充填して前記連結プレキャスト版が該標準部と接合された連結部を形成し
前記標準部緊張材と接続した前記連結部緊張材に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を両側に隣接する前記標準部の双方と一体となるように結合することを特徴とするコンクリート床版の形成方法。
【請求項5】
橋桁の上に、第1の標準部を構成する複数の標準プレキャスト版を連続して配列するとともに端部に隣接して第1の連結プレキャスト版を配列し、
第1の標準部から第1の連結プレキャスト版に連続する第1の緊張材を配置し、緊張力を導入して両端部を定着し、
第1の標準部と第1の連結プレキャスト版との接合部には、既に緊張力が導入された第1の緊張材の連続する部分に接合部定着具を、前記標準プレキャスト版側に定着が可能に装着し、
第1の連結プレキャスト版の第1の標準部が隣接する側の反対側に、第2の標準部を構成する複数の標準プレキャスト版を配列するとともに、端部に第2の連結プレキャスト版を配列し、
第1の連結プレキャスト版内で第1の緊張材と橋桁の軸線方向の配置範囲が重複し、第2の連結プレキャスト版までに連続する第2の緊張材を配置し、
第2の緊張材に緊張力を導入して両端部を第1の連結プレキャスト版及び第2の連結プレキャスト版に定着し、
第2の標準部を構成する標準プレキャスト版と第1の連結プレキャスト版及び第2の連結プレキャスト版との接合部には、第2の緊張材に接合部定着具を、前記標準プレキャスト版側に定着が可能に装着すること、を特徴とするコンクリート床版の形成方法。
【請求項6】
橋桁の上に、複数の標準プレキャスト版が連続して配列された標準部を、前記橋桁の軸線方向に間隔を開けて複数を形成し、
前記標準部毎に配置した標準部緊張材の緊張力によってそれぞれの標準部に前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入し、該標準部緊張材を接合部定着具によって前記標準部に定着し、
隣接する2つの前記標準部の間で、双方の標準部に配置された前記標準部緊張材のそれぞれに連結部緊張材を接続し、双方の前記連結部緊張材は前記橋桁の軸線方向の配置範囲が重複するように配置し、
前記標準部の間に、一方の標準部と密接し、他方とは離隔されるようにコンクリートを打設して連結部を形成し、
前記連結部と密接する標準部に配置された前記標準部緊張材と接続した前記連結部緊張材に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を隣接する前記標準部の一方と一体となるように結合し、
その後に、隣接する前記標準部の他方と前記連結部との間にモルタル又はコンクリートを充填し、
前記連結部緊張材の他方に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を隣接する前記標準部の他方と一体となるように接合することを特徴とするコンクリート床版の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁の上にコンクリートのプレキャスト版を配列して形成されたコンクリート床版に係り、特に一部のプレキャスト版を容易に取り替えて補修することができるコンクリート床版、及びコンクリート床版を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋桁の上に形成されるコンクリート床版には、橋桁の軸線方向に複数のプレキャスト版を配列し、これらを一体に連結したものが広く採用されている。そして、プレキャスト版が強固に一体となるように橋桁の軸線方向にプレストレスを導入することが行われており、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
このように形成されたコンクリート床版は、経年劣化等によって損傷が生じることがある。損傷が生じたコンクリート床版は、補修によって機能を回復することが必要となり、損傷した部分のプレキャスト版を取り替えることが行われている。しかし、橋桁の軸線方向にプレストレスが導入されているコンクリート床版は、複数のプレキャスト版にわたって連続する緊張材が埋め込まれている。そして、一部のプレキャスト版を撤去するために緊張材を切断すると広い範囲でプレストレスが解放されてしまうおそれがある。このため、プレキャスト版を取り替えようとするときには広い範囲を同時に取り替えることになり、多くの作業と費用を要するものとなっている。
【0004】
このような事情から、プレキャスト版の一部を後に取り替えることを想定したコンクリート床版が、特許文献2に開示されている。
このコンクリート床版は、プレキャストコンクリートからなる複数のパネルを桁上に配列したものであり、橋梁の一径間毎に3つのパネルからなる緊張定着用パネル群が設けられている。緊張定着用パネル群は、2つの定着パネルとこれらの間に配置される1つの連結パネルで構成され、複数の緊張定着用パネル群の間には複数の通常パネルが配列されている。緊張材は接続具によって接続され、順次に緊張力が導入されているが、一連の通常パネルとこれらの両側で隣接する2つの定着パネルとに連続するプレストレスを導入して、これらの両端に定着具が装着されている。したがって、連結パネルを撤去しても、その両側にある定着パネルと通常パネルのプレストレスは維持される。これにより、2つの緊張定着用パネル群の連結パネルを撤去し、これらの間にある一連の通常パネル及びこれに隣接する定着パネルを撤去して、取り替えることができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-102529号公報
【文献】特開平07-268808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、次のような解決が望まれる課題がある。
プレキャストコンクリートからなるパネルの一部に損傷が生じ、これを取り替えようとするときに、少なくとも2つの定着パネル及び2つの連結パネルと、2つの定着パネルの間にある一連の通常パネルとを取り替えなければならない。このため、取り替えるパネルの数を最小限に抑えて補修の費用を低減しようとする要請に、充分に対応できるものではない。また、コンクリート床版を設置するときに、定着パネルにはキャップケーブルを配置するためのダクトを及びダクト内に配置された緊張材を定着するための定着用ブロックをあらかじめ設けておく必要がある。キャップケーブルはパネルの取り替え後の緊張定着用パネル群にプレストレスを導入するためのものであり、コンクリート床版の設置時には使用しないダクト及び定着用ブロックを設けておくことになる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、損傷が生じて取り替えが必要になった部分に限定して容易に補修することができるコンクリート床版を提供すること、及びこのコンクリート床版を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、 橋桁の上に複数のプレキャスト版を配列し、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入して複数の前記プレキャスト版を接合したコンクリート床版であって、 それぞれが所定数の標準プレキャスト版からなる複数の標準部と、連結プレキャスト版又は現場打設されたコンクリートで形成された連結部と、が前記橋桁の軸線方向に連続して交互に設けられ、 それぞれの標準部毎に配置され、前記橋桁の軸線方向にプレストレスを導入する緊張材が、それぞれの標準部の両側で隣接する前記連結部にわたって配置され、 前記連結部を挟んで隣り合う2つの標準部に配置されたそれぞれの前記緊張材は、2つの前記標準部の間の前記連結部内で橋桁の軸線方向の配置範囲が重複するように配置されており、 それぞれの前記緊張材は、両端が、それぞれの前記標準部の両側に隣接する前記連結部に定着具によって定着されるとともに、前記標準部と前記連結部との接合部付近には該標準部に緊張力を定着することができる接合部定着具が配置されているコンクリート床版を提供する。
【0009】
このコンクリート床版では、複数の標準部の間に設けられた連結部を撤去しても緊張材の緊張力は接合部定着具によって標準部に定着されている。したがって、プレキャスト版に損傷が生じたときに、損傷した部分を含む標準部及びその両側に隣接する連結部を撤去しても、残存させる範囲のコンクリート床版はプレストレスが導入された状態に維持することができる。そして、撤去した標準部の後に新たな標準プレキャスト版を配置するとともに、新たな連結プレキャスト版の配置又は新たに打設する場所打ちコンクリートによって連結部を形成して、損傷したコンクリート床版を補修することが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版において、 前記緊張材は、前記標準部に配置された標準部緊張材と、該標準部緊張材に接続具によって接続され、前記連結部に配置された連結部緊張材とからなり、 前記標準部緊張材は緊張力を導入した状態で前記接合部定着具によって前記標準部に定着されており、 前記連結部緊張材は、緊張力を導入した状態で前記定着具によって前記連結部に定着されているものとする。
【0011】
このコンクリート床版では、部分的にプレキャスト版を取り替えて効率の良い補修が可能になるとともに、コンクリート床版を形成するときには、広い範囲にわたって同時に標準部の施工又は連結部の施工を行うことができ、長い距離にわたってコンクリート床版を形成するときに効率の良い施工が可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版において、 前記緊張材は、前記標準部から前記連結部にわたって連続するものであり、緊張力が導入された状態で両端部が前記定着具によって前記連結部に定着されており、 前記標準部と前記連結部との接合部付近には、前記接合部定着具が前記標準部に前記緊張材の緊張力を定着することが可能に装着されているものとする。
【0013】
このコンクリート床版では、部分的にプレキャスト版を取り替えて効率の良い補修が可能になる。そして、緊張材が標準部から連結部にわたって連続するものを使用しており、コンクリート床版を形成するときに緊張材の接続部の数が低減されるとともに、緊張作業の回数が低減され、工事費の低減が可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、 橋桁の上に、複数の標準プレキャスト版が連続して配列された標準部を、前記橋桁の軸線方向に間隔を開けて複数を形成し、 前記標準部毎に配置した標準部緊張材の緊張力によってそれぞれの標準部に前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入し、該標準部緊張材の両端を接合部定着具によって前記標準部に定着し、 前記標準部の間に、連結プレキャスト版を配置し、 前記連結プレキャスト版の両側に隣接する前記標準部に配置された前記標準部緊張材のそれぞれに連結部緊張材を接続し、2つの前記標準部の間で2つの前記標準部緊張材のそれぞれに接続された双方の連結部緊張材が前記橋桁の軸線方向における配置範囲の少なくとも一部が重複するように配置し、 前記連結プレキャスト版と隣接する前記標準部との間にモルタル又はコンクリートを充填して前記連結プレキャスト版が該標準部と接合された連結部を形成し、 前記標準部緊張材と接続した前記連結部緊張材に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を両側に隣接する前記標準部の双方と一体となるように結合するコンクリート床版の形成方法を提供するものである。
【0015】
このコンクリート床版の形成方法では、一部のプレキャスト版を取り替えてい効率の良い補修が可能なコンクリート床版を形成することができる。そしてコンクリート床版の新設時には、複数の標準部を並行して形成し、さらにこれらの標準部の間の複数の連結部を並行して形成することができ、効率のよい作業が可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明は、 橋桁の上に、第1の標準部を構成する複数の標準プレキャスト版を連続して配列するとともに端部に隣接して第1の連結プレキャスト版を配列し、 第1の標準部から第1の連結プレキャスト版に連続する第1の緊張材を配置し、緊張力を導入して両端部を定着し、 第1の標準部と第1の連結プレキャスト版との接合部には、既に緊張力が導入された第1の緊張材の連続する部分に接合部定着具を、前記標準プレキャスト版側に定着が可能に装着し、 第1の連結プレキャスト版の第1の標準部が隣接する側の反対側に、第2の標準部を構成する複数の標準プレキャスト版を配列するとともに、端部に第2の連結プレキャスト版を配列し、 第1の連結プレキャスト版内で第1の緊張材と橋桁の軸線方向の配置範囲が重複し、第2の連結プレキャスト版までに連続する第2の緊張材を配置し、 第2の緊張材に緊張力を導入して両端部を第1の連結プレキャスト版及び第2の連結プレキャスト版に定着し、 第2の標準部を構成する標準プレキャスト版と第1の連結プレキャスト版及び第2の連結プレキャスト版との接合部には、第2の緊張材に接合部定着具を、前記標準プレキャスト版側に定着が可能に装着するコンクリート床版の形成方法を提供するものである。
【0017】
このコンクリート床版の形成方法では、橋桁の軸線方向へ標準部と連結部とを順次に形成するとともに、標準部と連結部に連続する緊張材によって効率よく双方にプレストレスを導入することができる。
また、連結部と標準部との接合部には、緊張材に接合部定着具が装着されていることにより、プレキャスト版に損傷が生じたときには、損傷が生じた範囲を含む限定された範囲でプレキャスト版を撤去しても残存する標準部のプレストレスが維持される。したがって、限定された範囲を効率よく取り替え、少ない費用で補修することが可能なコンクリート床版とすることができる。
【0018】
請求項6に係る発明は、 橋桁の上に、複数の標準プレキャスト版が連続して配列された標準部を、前記橋桁の軸線方向に間隔を開けて複数を形成し、 前記標準部毎に配置した標準部緊張材の緊張力によってそれぞれの標準部に前記橋桁の軸線方向のプレストレスを導入し、該標準部緊張材を接合部定着具によって前記標準部に定着し、 隣接する2つの前記標準部の間で、双方の標準部に配置された前記標準部緊張材のそれぞれに連結部緊張材を接続し、双方の前記連結部緊張材は前記橋桁の軸線方向の配置範囲が重複するように配置し、 前記標準部の間に、一方の標準部と密接し、他方とは離隔されるようにコンクリートを打設して連結部を形成し、 前記連結部と密接する標準部に配置された前記標準部緊張材と接続した前記連結部緊張材に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を隣接する前記標準部の一方と一体となるように結合し、 その後に、隣接する前記標準部の他方と前記連結部との間にモルタル又はコンクリートを充填し、 前記連結部緊張材の他方に緊張力を導入して前記連結部に定着し、該連結部を隣接する前記標準部の他方と一体となるように接合するコンクリート床版の形成方法を提供するものである。

【0019】
このように形成されたコンクリート床版では、それぞれの標準部毎に標準部緊張材が定着されており、プレキャスト版又は場所打ちコンクリートで形成された連結部に損傷が生じたときには、損傷が生じた範囲を含む限定された範囲でプレキャスト版の取り替え又はコンクリートの打ち替えを行い、効率の良い補修が可能となる
また、連結部に配置した連結部緊張材の緊張力導入時には、一方の連結部緊張材を緊張して一方の標準部と結合するときに他方の標準部とは分離した状態となっている。これにより連結部には一方の連結部緊張材によるプレストレスが有効に導入される。そして、一方の連結部緊張材の緊張後に他方の標準部と接合し、他方の連結部緊張材を緊張するときには、既に結合された標準部による拘束力によってプレストレスの導入量が制限されるが、双方の連結部緊張材によって導入されるプレストレスは、隣接する双方の標準部と接合した後に双方の連結部緊張材を緊張したときより、有効にプレストレスを導入することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のコンクリート床版では、損傷が生じた範囲に限定して撤去し、残存させる部分はプストレスを維持したまま補修することが可能となる。また、本発明のコンクリート床版の形成方法では、残存させる部分のプレストレスを維持したまま一部を撤去し、補修することができるコンクリート床版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のコンクリート床版を有する橋梁の構成を示す概略斜視図である。
図2】本発明の一実施形態であるコンクリート床版を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
図3図2に示すコンクリート床版の標準部と連結部の境界を拡大して示す概略断面図である。
図4図2及び図3に示すコンクリート床版を形成する工程を示す概略図である。
図5図2及び図3に示すコンクリート床版を形成する工程を示す概略図である。
図6】本発明の他の実施形態であるコンクリート床版を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
図7図6に示すコンクリート床版の標準部と連結部の境界を拡大して示す概略断面図である。
図8図6及び図7に示すコンクリート床版を形成する工程を示す概略図である。
図9図6及び図7に示すコンクリート床版を形成する工程を示す概略図である。
図10図6及び図7に示すコンクリート床版を形成する工程を示す概略図である。
図11】本発明の他の実施形態であるコンクリート床版を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
図12図11に示すコンクリート床版の連結部を他の工程によって形成した例を示す概略断面図及びこの連結部を形成する工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明のコンクリート床版を有する橋梁の構成を示す概略斜視図である。また、図2は、本発明の一実施形態であるコンクリート床版を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
この橋梁は、道路橋として用いられるものであり、橋脚2又は橋台5に支持された橋桁1の上にコンクリートのプレキャスト版10を配列し、これらを連結するとともに橋桁1に固定してコンクリート床版3としたものである。プレキャスト版は、コンクリート床版の標準部を構成する標準プレキャスト版11と、連結部を構成する連結プレキャスト版12と、橋桁の端部に配置される端部プレキャスト版13との3種類が使用されており、それぞれのプレキャスト版には橋桁1の軸線方向に複数のダクト14が設けられている。これらのダクトに挿通した緊張材を緊張及び定着することによってコンクリート床版3には橋桁1の軸線方向のプレストレスが導入されている。
【0023】
上記橋桁1は、複数の鋼桁81を平行に架け渡し、これらを横桁82で連結したものであり、それぞれの鋼桁81は、上フランジ83と下フランジ84とこれらを上下に連結するウェブ85とを有するものである。上フランジの上面にはプレキャスト版を固定するためのずれ止め部材86が設けられている。
【0024】
プレキャスト版10は、あらかじめ工場又は製作ヤード等においてコンクリートを打設し、形成されたものであり、橋桁1の軸線方向に所定の寸法となっている。また、橋桁の軸線と直角方向の寸法は道路の幅と対応したものとなっている。これらのプレキャスト版10は、橋桁1の軸線と直角方向にプレストレスが導入されたものであってもよく、プレストレスはプレテンション方式又はポストテンション方式のいずれによって導入されたものであってもよい。
【0025】
これらのプレキャスト版10が橋桁上で該橋桁の軸線方向に配列され、結合されるとともにずれ止め部材86で鋼桁4に固定されている。隣り合うプレキャスト版は合成樹脂系の接着剤等によって結合されるものであってもよいし、10mm~40mm程度の隙間をおいてプレキャスト版を配列し、これらの間に無収縮モルタルを充填して結合されるものであってもよい。
【0026】
上記コンクリート床版は、図2(a)に示すように複数の標準プレキャスト版11を連続して配列して形成される標準部31と、一つの連結プレキャスト版からなる連結部32とが、橋梁の軸線方向に交互に形成されたものである。本実施の形態では、一つの標準部に3つの標準プレキャスト版11を配列しているが、配列する数は適宜にあらかじめ設定することができる。なお、橋桁1の端部には標準プレキャスト版に代えて端部プレキャスト版13が配置されている。
【0027】
上記標準プレキャスト版11には、橋桁の軸線方向に緊張材を挿通する複数のダクト14が設けられている。これらのダクト14は、標準プレキャスト版の厚さのほぼ中心で上面及び下面とほぼ平行に直線状に形成されている。一方、連結プレキャスト版12は、緊張材の緊張及び定着を可能とするための増厚部を有するものとなっている。また、標準プレキャスト版11と接合される両端部には切り欠き12aが設けられ、この切り欠き内で緊張材が露出するものとなっている。この連結プレキャスト版12に形成されているダクト15は、上記切り欠き12a内で一端が開口し、他端は反対側で隣接する標準プレキャスト版11の下側で開口するものとなっている。上記切り欠き12a内の開口は、隣接する標準プレキャスト版11のダクト14と対向する位置に設けられる。そして、両端に設けられた切り欠き12a内からそれぞれ反対側に向かって互いに交差するようにダクト15が形成されている。
橋桁の端部に配置される端部プレキャスト版13には、標準プレキャスト版11と連続するように直線状にダクトが形成されている。
なお、これらのプレキャスト版には、適宜に必要な鉄筋が配置されているが、図2図3等において表示を省略している。
【0028】
上記のように配列されたプレキャスト版10にプレストレスを導入する緊張材は、それぞれの標準部について、該標準部とその両側にある連結部とを貫通する一連の緊張材が用いられる。それぞれの緊張材は、標準部に配置される標準部緊張材21と両側の連結部に配置される連結部緊張材22とからなり、これらが接続具23によって接続されたものである。そして、標準部緊張材21は、緊張力が導入された状態で両端が接合部定着具24によって標準部のプレキャスト版に定着されている。連結部緊張材22は、標準プレキャスト版11に定着された標準部緊張材21の端部に、接続具23によって一端が接続され、他端から緊張力を導入した状態で、定着具25により連結プレキャスト版12に定着されたものである。
なお、橋桁1の端部では標準プレキャスト版に代えて端部プレキャスト版13が用いられ、標準部緊張材21が接合部定着具24によって端部プレキャスト版13に定着されている。
【0029】
上記標準部緊張材21及び連結部緊張材22は鋼より線が用いられており、図3に示すように接合部定着具24はくさびを用いるものである。この接合部定着具24は標準プレキャスト版11と密接するように配置される支圧板24aと、内径が徐々に拡大する円筒状の部材であるくさび保持部材24bと、くさび保持部材24bの中空孔内に挿通された標準部緊張材21と該くさび保持部材24bの内周面との間に押し入れられるくさび24cとを有するものである。この接合部定着具24は、標準部の両端で標準部緊張材21の定着に用いられる他、端部プレキャスト版13への定着にも用いられている。
【0030】
一方、上記接続具23は、図3に示すように連結部緊張材22が挿通される中空孔を備えたくさび保持部材23aと、連結部緊張材22とくさび保持部材23aの内周面との間に押し入れられるくさび23bと、上記くさび保持部材23aと標準部緊張材21を定着するためのくさび保持部材24bとを連結する連結部材23cとを備えるものである。連結部材23cはほぼ円筒状となった部材であって、一端には内径を狭窄するように張り出したフランジ部23dを有し、他端付近の内周面には雌ネジ部が形成されたものである。この連結部材23cの雌ネジ部を、標準部緊張材21を定着するくさび保持部材24bの外周面に形成された雄ネジとねじり合わせる。そして、中空孔内に連結部緊張材22に装着されたくさび保持部材23aを収容し、フランジ部23dに突き当てて係止することによって標準部緊張材21と連結部緊張材22とを接続するものとなっている。
【0031】
連結部緊張材22を定着する定着具25は、標準部緊張材21を定着する定着具23と同様に、支圧板25aと、くさび保持部材25bと、くさび25とを有するものであるが、この定着具25ではくさび保持部材25bの外周面に雄ねじが形成され、くさび保持部材25bの外周面にねじり合わされるナット25dを備えている。このナット25dは、くさび保持部材25bを把持して連結部緊張材22を緊張した状態で支圧板25aに締め付けることができるものである。
【0032】
このようなコンクリート床版は次のような工程で形成することができる。
図4(a)に示すように、橋桁1上に標準プレキャスト版11を所定の位置に配列する。つまり、連結部32を形成する領域を開けて標準部31とする領域に所定の数の標準プレキャスト版11を配列する。そして、一つの標準部内で隣り合う標準プレキャスト版11の間にモルタルを充填するとともに、標準プレキャスト版11に形成されたダクト14内に標準部緊張材21を挿通する。この標準部緊張材21を緊張し、接合部定着具24によって標準部の両端で定着する。
【0033】
その後、図4(b)に示すように標準部緊張材21の緊張力によってプレストレスが導入された複数の標準部31の間に連結プレキャスト版12を配置する。そして、図5(a)に示すよう標準プレキャスト版11の下側に開口した連結プレキャスト版12のダクト15内に連結部緊張材22を挿通する。この連結部緊張材22の先端を、連結プレキャスト版12の端部に形成された切り欠き12a内で標準部プレキャスト版に定着された標準部緊張材21と接続具23によって接続する。そして、連結プレキャスト版12に形成された切り欠き12aにコンクリートを充填し、硬化した後に、図5(b)に示すように連結部緊張材22を、標準プレキャスト版11の下側で緊張し、定着する。
【0034】
このようなコンクリート床版3では、連結プレキャスト版12のみに損傷が生じたときには、当該連結プレキャスト版12のみを撤去し、標準部31に損傷が生じたときには当該標準部31の標準プレキャスト版11とその両側の連結プレキャスト版12とを撤去し、これらを取り替えて補修することができる。このとき、接続具23で接続された連結部緊張材22を撤去しても標準部緊張材21は接合部定着具24によって標準プレキャスト版11に定着されており、残存させる標準部31のプレストレスは維持される。そして、新たな標準プレキャスト版及び連結プレキャスト版を配置した後、コンクリート床版の形成時と同様にプレストレスを導入してコンクリート床版を補修することができる。
また、このようなコンクリート床版3の新設時には、新設する領域が長い場合に、標準部の形成又は連結部の形成のそれぞれを広い範囲で同時に行うことができ、効率の良い施工が可能となる。
【0035】
図6は、本発明の他の実施形態であるコンクリート床版4を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
このコンクリート床版4は、図2及び図3に示すコンクリート床版3と同様に、複数の標準プレキャスト版51を配列して形成される標準部41と、一つの連結プレキャスト版52からなる連結部42とが、橋梁の軸線方向に交互に形成されたものである。そして、上記のように配列されたプレキャスト版にプレストレスを導入する緊張材54も同様に、それぞれの標準部41について、該標準部41とその両側にある連結部42とを貫通するように一連の緊張材54が用いられる。そして、図6(b)に示すように、これらの緊張材54aは、隣り合う標準部に配置された緊張材54bと連結プレキャスト版52内で橋桁の軸線方向の範囲が重複するように配置されている。
【0036】
しかし、このコンクリート床版では、図2及び図3に示すコンクリート床版3とは異なり、一連の緊張材54が一方の連結部42-1から他方の連結部42-2に至るまで接続されることなく連続するものとなっている。この緊張材54は緊張力が導入された状態で両端がそれぞれ定着具55によって連結プレキャスト版52-1,52-2に定着されている。そして、図6(b)及び図7に示すように連結プレキャスト版52と標準プレキャスト版51との接合部には、接合部定着具として中間定着具56が緊張材54の緊張力を標準プレキャスト版51に伝達することが可能に装着されている。ただし、この中間定着具56を介して緊張材54の緊張力が標準プレキャスト版51に伝達されているのではなく、緊張材54には中間定着具56の前後でほぼ同じ緊張力が連続して導入されている。そして、緊張材54の端部の定着が開放されたときに、緊張材54の緊張力を標準プレキャスト版51に伝達して定着することが可能としたものである。
上記中間定着具56は、連結プレキャスト版52に形成された切り欠き52a内で装着されたものであり、この切り欠き52aは、緊張材54に緊張力が導入され、中間定着具56が緊張材に装着された後にコンクリートが充填される。
【0037】
このコンクリート床版でも、緊張材54は鋼より線が用いられており、図7に示すように定着具55は支圧板55aと、緊張材54が挿通される円筒状のくさび保持部材55bと、くさび保持部材55bと緊張材54との間に押し入れられるくさび55cと、くさび保持部材の外周面にねじり合わされるナット55dと、を有するものである。また、中間定着具56は支圧板56a、くさび保持部材56b、及びくさび55cを有するものが用いられている。
【0038】
このようなコンクリート床版4は、例えば次にように形成することができる。
図8(a)に示すように橋桁1の端部から端部プレキャスト版53、標準プレキャスト版51及び連結プレキャスト版52-1を配列する。そして、図8(b)及び図10(a)に示すように、これらのプレキャスト版に形成されているダクトに緊張材54-1を挿通する。このとき、標準プレキャスト版51の連結プレキャスト版52と接合される面には、ダクトの位置と合致するように中間定着具の支圧板56aを固定しておく。そして、くさび保持部材56bも支圧板56aに接着剤等によって仮固定しておくのが望ましい。
【0039】
挿通した緊張材54-1は、ジャッキ等によって緊張力を導入し、連結プレキャスト版52-1のダクトが開口する位置及び端部プレキャスト版53のダクトが開口する位置で両端を定着する。その後、連結プレキャスト版52-1と標準プレキャスト版51との接合部で連結プレキャスト版52に設けられた切り欠き52a内の操作により、支圧板56aに接着されたくさび保持部材56bの仮固定を解放するとともに、くさび保持部材56bと緊張材54-1との間にくさび56cを押し入れる。くさび56cを押し入れる操作は、ジャッキ等を用いて強く押し入れるのが望ましい。
【0040】
続いて、図9(a)に示すように緊張力が導入された標準部41-1の反対側で連結プレキャスト版52-1と隣接する位置に、第2の標準部41-2を構成する複数の標準プレキャスト版51を配列するとともに、その先に第2の連結プレキャスト版52-2を配列する。そして、図9(b)及び図10(b)に示すように第2の標準部41-2を構成する標準プレキャスト版51及びその両側で隣り合う2つの連結プレキャスト版52-1,52-2を貫通するようにダクト内に緊張材54-2を挿通する。緊張材54-2は、連結プレキャスト版52と標準プレキャスト版51との接合部では、先に第1の標準部41-1に緊張材54-1を挿通したときと同様に支圧版56aとくさび保持部材56bとに挿通しておく。この緊張材54-2に緊張力を導入し、両端を第2の標準部41-2の両側の連結プレキャスト版52-1,52-2に定着する。その後に、連結プレキャスト版52-1,52-2と第2の標準部41-2との接合部でくさび保持部材56bと緊張材54-2との間にくさび56cを押し込む。
【0041】
このように標準部を形成する複数の標準プレキャスト版51の配列、連結プレキャスト版52の配列、緊張材54の挿通、緊張材54の緊張及び中間定着具56の装着を繰り返し、順次にプレキャスト版を連結する。また、標準プレキャスト版51と連結プレキャスト版52との接合部で連結プレキャスト版52に設けられた切り欠き52a内にはコンクリートを充填する。
このような工程によりコンクリート床版4を形成することができる。
【0042】
このようなコンクリート床版4でも、一部に損傷が生じてプレキャスト版を取り替えて補修することが必要となったときに、損傷が生じた連結プレキャスト版52のみ、又は損傷が生じた標準部41の標準プレキャスト版51とその両側にある連結プレキャスト版52を撤去する。そして、撤去する部分に配置された緊張材54を切断しても、残存させる標準部と撤去する連結部との接合部に配置されている中間定着具56が緊張力を標準プレキャスト版51に伝達し、緊張材54が定着される。したがって、コンクリート床版4の残存させる部分はプレストレスを維持した状態で、損傷した部分のプレキャスト版を取り換えて補修することが可能となる。
【0043】
図11は、本発明の他の実施形態であるコンクリート床版を有する橋梁の軸線方向の概略断面図及びこの橋梁が有するコンクリート床版の一部を拡大して示す概略断面図である。
このコンクリート床版6は、図2及び図3に示すコンクリート床版3と同様に、複数の標準プレキャスト版71を連続して配列して形成される標準部61と、複数が設けられた標準部61の間に形成される連結部62とを有するものであるが、このコンクリート床版6では連結部62が現場で打設されたコンクリートで形成されている。この連結部62のコンクリートは、図11(b)に示すように両側にある標準部61と密接するように打設されている。
【0044】
このコンクリート床版6にプレストレスを導入する緊張材は、図2及び図3に示すコンクリート床版3と同様に、それぞれの標準部61について、該標準部61とその両側にある連結部62とを貫通する一連の緊張材となっている。そして、これらの緊張材は隣り合う標準部に配置された緊張材と連結部62内で橋桁の軸線方向の範囲が重複するように配置されている。
【0045】
緊張材は、標準部緊張材74と連結部緊張材75とからなり、標準部緊張材74は、図11(b)に示すように標準部61を構成する標準プレキャスト版71に接合部定着具によって両端が定着され、この標準部緊張材74に接続具76によって連結部緊張材75が接続されている。そして、連結部緊張材75は連結部62に設けられた増厚部の下側で緊張され、定着具77によって定着されている。
【0046】
このようなコンクリート床版6は、標準部61の標準プレキャスト版71を配列し、標準部緊張材74の配置、緊張及び定着を行って標準部61にプレストレスを導入する。その後、連結部62となる領域に型枠を設置するともに、連結部緊張材75を配置して既に定着されている標準部緊張材74に接続具76によって接続する。そして、シースに挿通された連結部緊張材75を埋め込むように連結部62のコンクリートを打設する。このコンクリートが硬化した後に連結部緊張材75を緊張し、定着することによって連結部62にもプレストレスを導入することができる。
【0047】
また、連結部62のコンクリート72は、図12(a)及び図12(b)に示すように隣り合う一方の標準部61-1とは密接するように打設し、他方の標準部61-2とは間隙79が形成されるものとし、後にこの間隙79にコンクリート78又はモルタルを充填するものであってもよい。
このように連結部62のコンクリート72を打設するときには次のように連結部緊張材75を緊張する。
連結部62のコンクリート72を打設して硬化した後、図12(b)に示すように連結部62のコンクリート72が密接している側の標準部61-1に配置された標準部緊張材74に接続した連結部緊張材75-1に緊張力を導入し、定着する。その後、他方の標準部61-2と連結部62のコンクリート72との間に形成されている間隙79にコンクリート78又はモルタルを充填し、連結部62のコンクリート72と他方の標準部61-2とが一体に連続した状態とする。そして、充填したコンクリート78又はモルタルが硬化した後に、図12(c)に示すように他方の連結部緊張材75-2を緊張し、定着する。
【0048】
このように連結部62のコンクリート72を打設し、連結部緊張材75を緊張することにより、先に形成されている標準部61-1の拘束によって連結部62にプレストレスが導入されにくくなるのを低減することができる。特に、このコンクリート床版6の補修が必要となって連結部62を撤去した後に新たな連結部のコンクリートを打設し、この新たな連結部に配置した緊張材を上記の手順で緊張することにより、プレストレスを有効に導入することができる。
【0049】
以上に説明したコンクリート床版及びコンクリート床版の形成方法は、本発明の実施の形態であって、本発明に係るコンクリート床版及びコンクリート床版の形成方法は、本発明の範囲内で適宜に態様を変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0050】
1:橋桁, 2:橋脚, 3:コンクリート床版, 4:コンクリート床版、 5:橋台,6:コンクリート床版,
10:プレキャスト版, 11:標準プレキャスト版, 12:連結プレキャスト版, 12a:連結プレキャスト版に設けられた切り欠き, 13:端部プレキャスト版, 14:標準プレキャスト版に設けられたダクト, 15:連結プレキャスト版に設けられたダクト,
21:標準部緊張材, 22:連結部緊張材, 23:接続具, 23a:くさび保持部材, 23b:くさび, 23c:連結部材, 23d:連結部材のフランジ部, 24:接合部定着具, 24a:支圧板, 24b:くさび保持部材, 24c:くさび, 25:定着具, 25a:支圧板, 25b:くさび保持部材, 25c:くさび, 25d:ナット,
31:コンクリート床版の標準部, 32:コンクリート床版の連結部,
41:コンクリート床版の標準部, 42:コンクリート床版の連結部,
51:標準プレキャスト版, 52:連結プレキャスト版, 52a,連結プレキャスト版に設けられた切り欠き, 53:端部プレキャスト版, 54:緊張材, 55:定着具, 55a:支圧板, 55b:くさび保持部材, 55c:くさび, 55d:ナット, 56:中間定着具, 57:切り欠きに充填されたコンクリート,
61:コンクリート床版の標準部, 62:コンクリート床版の連結部,
71:標準プレキャスト版, 72:連結部のコンクリート, 74:標準部緊張材, 75:連結部緊張材, 76:接続具, 77:定着具, 78:間隙に充填するコンクリート, 79:連結部のコンクリートと標準部との間隙,
81:鋼桁, 82:横桁, 83:上フランジ, 84:下フランジ, 85:ウェブ, 86:ずれ止め部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12