(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】ポリアニリン、及びその方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/02 20060101AFI20250305BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08G73/02
C08J5/18 CEZ
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020070827
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-04-07
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キンレン, パトリック ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】フラック, マシュー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブルトン, エリック エー.
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/102017(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0249803(US,A1)
【文献】特表2003-529651(JP,A)
【文献】特開2017-110181(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190326(WO,A1)
【文献】特開2010-043260(JP,A)
【文献】P.J.Kinlen, J.Liu, Y.Ding, C.R.Graham, and E.E.Remsen,Emulsion Polymerization Process for Organically Soluble and Electrically Conducting Polyaniline,Macromolecules,American Chemical Society,1998年,Vol.31,p.1735-1744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された分子量分布(Mw/Mn)が1から5であり、
式(I):
によって表され、
式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の各例が、水素、置換又は非置換のC1-C20アルキル、置換又は非置換のC1-C20アルコキシル、及びハロゲンから独立して選択され、R
1、R
2、R
3、及びR
4の1つ又は複数の例が、C1-C20アルコキシル、及びハロゲンから独立して選択された基と任意選択的に置き換えされ、
A
-の各例が、
スルホネートであり、
nは、ポリアニリンが55,000g/モルから80,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するような整数である、ポリアニリン。
【請求項2】
前記ポリアニリンが、炭化水素を含まない、請求項1に記載のポリアニリン。
【請求項3】
前記ポリアニリンが、複数の共役塩基対イオンを有する酸性化されたポリアニリンである、請求項1又は2に記載のポリアニリン。
【請求項4】
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された数平均分子量(Mn)が55,000g/モルから
74,000g/モルである、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【請求項5】
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたZ平均分子量(Mz)が100,000g/モルから250,000g/モルである、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【請求項6】
前記ポリアニリンは、Mwが65,000g/モルから70,000g/モルである、請求項1から
5のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【請求項7】
R
1、R
2、R
3、及びR
4の各例が、水素、及び非置換のC1-C20アルキルから独立して選択される、請求項1に記載のポリアニリン。
【請求項8】
A
-の各例が、ジノニルナフタレンスルホネートである、請求項1に記載のポリアニリン。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリアニリンを含む膜であって、当該膜が、当該膜の総重量に基づいて、1重量%以下の炭化水素含有量を有する、膜。
【請求項10】
前記炭化水素がナフタレンである、請求項
9に記載の膜。
【請求項11】
アニリンの水溶液のエマルジョン、及び1重量%以下の炭化水素含有量を有するアルキル置換アリールスルホン酸の有機溶媒溶液を、内径を有する一定長のチューブを備えたフローリアクター内に導入することと、
前記チューブ内でモノマーを重合し、ポリアニリンを形成することと
を含む、ポリアニリンの製造方法。
【請求項12】
触媒を前記エマルジョンに導入することをさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
触媒を前記フローリアクターに導入することをさらに含む、請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒が、過硫酸アンモニウムである、請求項
12又は
13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルキル置換アリールスルホン酸が、ジノニルナフチルスルホン酸である、請求項
11から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMwが50,000g/モルから150,000g/モルである、請求項
11から
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMw/Mnが1.5から1.9である、請求項
11から
16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアニリン、その物品、及びポリアニリンを形成する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
共役系重合体材料(conjugated polymeric material)は、化学構造を適切に設計することにより、耐腐食性及び制電性をもたらす添加剤として使用されたり、有機発光ダイオード(OLED)、太陽電池、半導体、ディスプレイスクリーン、及び化学センサなどの電子用途において利用されたりすることができる。しかしながら、共役系重合体材料は、バッチ処理で調製された場合、高い製造コスト、材料の不一致、処理上の困難という課題を有することが多い。
【0003】
このような進歩にも関わらず、現状の方法では、導電性ポリマーの利用拡大には限りがある。例えば、ポリアニリン(PANI又は「エメラルジン」)は、高い製造コスト、材料の不一致、及びバッチ処理の困難により、完全に活用されていない導電性ポリマーのうちの1つである。PANIは、最終仕上げとしてプリント基板製造において広く使用されており、銅及びハンダ付けされた回路を腐食から保護する。PANIは、水溶液中でアニリンを化学酸化重合することによって調整されることが多い。この手法によって得られた材料は、ほとんどの有機溶媒において非晶質及び不溶性である。さらに、従来のPANI製品は、通常、本来ならば望まれる程度の熱的安定性を有しない。さらに、PANIを形成するためには、評価中の現状の多くのフローリアクターは、処理にコストと複雑さをもたらすフローデバイスを制御するために、マイクロ流体チップ又は小型化カラム、並びに特殊機器を使用する。
【0004】
新しく且つ改善されたポリアニリン、ポリアニリンを有する物品、及びポリアニリンを形成する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、ポリアニリン、その物品、及びポリアニリンを形成する方法を提供する。
【0006】
少なくとも1つの態様では、ポリアニリンは、約100℃以上の熱安定性、約50,000g/モルから約150,000g/モルの重量平均分子量(Mw)、及び約1から約5の分子量分布(Mw/Mn)を有する。
【0007】
少なくとも1つの態様では、膜は、ポリアニリンを含み、当該膜は、当該膜の総重量に基づいて、約1重量%の炭化水素含有量を有する。
【0008】
少なくとも1つの態様では、当該方法は、アニリンの水溶液のエマルジョン、及び1重量%以下の炭化水素含有量を有するアルキル置換アリールスルホン酸を、内径を有する一定長のチューブを備えたフローリアクター内に導入することを含む。当該方法は、チューブ内でモノマーを重合し、ポリアニリンを形成することを含む。
【0009】
本開示の上述の特徴を詳しく理解し得るように、上記で簡単に要約されている本開示のより詳細な説明が、例を参照することによって得られる。一部の例を添付の図面に示している。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施例のみを示しており、それゆえ、本開示の範囲を限定するとみなすべきではなく、本開示は、その他の等しく有効な態様を認め得ることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】1つ又は複数の態様に係る、例示的なフローリアクターシステムの図である。
【
図1B】1つ又は複数の態様に係る、例示的な連続フローリアクターシステムの図である。
【
図1C】1つ又は複数の態様に係る、例示的な平行フローリアクターシステムの図である。
【
図2】1つ又は複数の態様に係る、システム及び方法を使用する重合方法のプロセスフロー図である。
【
図3】1つ又は複数の態様に係る、フローリアクターの内径領域の断面図である。
【
図4】1つ又は複数の態様に係る、内径領域の一部を占有する導電性ポリマー反応生成物を有するフローリアクターの内径領域の断面図である。
【
図5】1つ又は複数の態様に係る、システム及び方法を使用する重合方法のプロセスフロー図である。
【
図6】1つ又は複数の態様に係る、システム及び方法を使用するPANI-DNNSAの重合方法のプロセスフロー図である。
【
図7A】1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの屈折率検出器を使用して、ゲル浸透結果(屈折率対保持容量(mL))を示すグラフである。
【
図7B】1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの粘度計を使用して、ゲル浸透結果(粘度計差圧対保持容量(mL))を示すグラフである。
【
図8】1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの熱安定性データ(抵抗対温度)を示すグラフである。
【
図9】1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの熱安定性データ(抵抗対温度)を示すグラフである。
【
図10a】1つ又は複数の態様に係る、DNNSAの重ね合わされたFTIRスペクトルである。
【
図10b】1つ又は複数の態様に係る、DNNSAの重ね合わされたFTIRスペクトルである。
【0011】
理解しやすくするため、各図面に共通する同一の要素を指定する際に、可能であれば、同一の参照番号が使用されている。1つの実施例の要素及び特徴を、有利には、さらに詳述することなく、他の実施例に組み込んでもよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、ポリアニリン、その物品、及びポリアニリンを形成する方法を提供する。本開示のポリアニリンは、スルホン化されてない炭化水素などの副生成物を実質的に含まないことが可能であり、これにより、従来のポリアニリンに比べて、ポリアニリンの「ガス放出」の減少をもたら。本開示のポリアニリンは、約100℃以上の熱安定性、約50,000g/モルから約150,000g/モルの重量平均分子量(Mw)、及び約1から約5の分子量分布(MWD)を有する。本開示のポリアニリンの減少したガス放出及び改善された分子量特性により、従来のポリアニリンに比べて、改善された熱安定性がもたらされる。
【0013】
本開示の方法は、アニリン、及びアルキル置換アリールスルホン酸(例えば、ジノニルナフタレンスルホン酸(DNNSA))を使用することにより、本開示のポリアニリンを形成することを含む。本開示の方法のアルキル置換アリールスルホン酸は、1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有する。従来のアルキル置換アリールスルホン酸(例えば、DNNSA)は、1重量%より多くのスルホン化されてない炭化水素含有量を有する。スルホン化されてない炭化水素は、分岐又は直鎖のパラフィン及び/又は芳香族化合物(例えば、ベンゼン及びナフタレン)を含み得る。例えば、従来のDNNSA試料のスルホン化されてない炭化水素含有量は、貯蔵のために超高真空下に置かれたとき、スルホン酸の分解によってもらされたと仮定された。しかしながら、スルホン化されてない炭化水素は、既にDNNSA試料内に存在し、おそらく従来のDNNSA製造工程の製品の副生成物であることが発見された。例えば、1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有するDNNSAを使用することにより、減少したガス放出及び改善された熱安定性を有するポリアニリンを提供することができる。減少したガス放出及び改善された熱安定性を有するポリアニリン、及びその物品は、物品(航空機、地上車両、風力タービン、衛星等)において幅広く使用するため組成、コーティング、層等を提供する。
【0014】
ポリアニリン
本開示のポリアニリンは、酸性化されたポリアニリン(この後、PANI-酸又は「エメラルジン塩」と呼ばれる)又は中性ポリアニリンであり得る。ポリアニリンの酸性化された形態は、以下でより詳細に説明されるように、(陰イオン配位子として)共役塩基対イオン(conjugate-base counterions)を有し得る。中性ポリアニリンは、任意の適切な条件(PANI-酸を水酸化ナトリウム溶液で処理し、中性化したポリマー生成物を水で洗浄するなど)の下で、PANI-酸を中性化することにより形成され得る。
【0015】
ここでの分子量データ(Mw、Mn、Mz、Mp、及びMw/Mn)とは、中性ポリアニリン(例えば、ポリアニリンの非電荷、非ドープ形態)のことを指す。言い換えると、ここでのポリアニリンの分子量は、酸など、或いはDNNSAなどのドーパントの存在によって添加された分子量を含まない。
【0016】
本開示のポリアニリンは、約50,000g/モルから約150,000g/モル(例えば、約75,000g/モルから約100,000g/モル、代替的に、約100,000 g/モルから約130,000g/モル)を有し得る。本開示のポリアニリンは、約50,000g/モルから約100,000g/モル(例えば、約60,000g/モルから約80,000g/モル、代替的に、約80,000g/モルから約100,000g/モル)の数平均分子量(Mn)を有し得る。
【0017】
本開示のポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された分子量分布(MWD)が、約1から約5(例えば、約1から約4、約1から約3、約1.2から約2.5、約1.3から約1.7)を有し得る。MwDは、MwをMnで割ることによって求めることができ、ここでは、「Mw/Mn」と言及され得る。
【0018】
本開示のポリアニリンは、約75,000g/モルから約250,000g/モル(例えば、約100,000g/モルから約250,000g/モル、約150,000g/モルから約250,000g/モル)のZ平均分子量(Mz)を有し得る。Mzは、ポリマーの高い分子含量を示す。例えば、本開示のポリアニリンのMz値は、従来のポリアニリンのMz値より高い場合があり、これにより、従来のポリアニリンに比べて改善された処理性が実現し得る。
【0019】
本開示のポリアニリンは、約50,000g/モルから約150,000g/モル(例えば、約100,000g/モルから約150,000g/モル、約110,000g/モルから約140,000g/モル、約113,000g/モルから約136,000g/モル)のピーク平均分子量(Mp)を有し得る。ピーク平均分子量は、ポリマー分布の分子量のモードを示し、本開示のポリアニリンの増加した分子量を強調する。
【0020】
ポリアニリンの分子量特性(例えば、Mw、Mn、Mz、Mp)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用して決定することができる。移動相は、N-メチルピロリドン(NMp)内の0.02Mぎ酸アンモニウム(AF)であり得る。ユニバーサル較正技法を用いて、粘度検出器及び屈折率検出器を利用した分子量分布を測定することができる。使用の前、溶液は、0.45ミクロンフィルターを通してフィルタリングされ得る。ポリアニリン試料は、スペクトロ品質(spectroquality)のメタノールで沈殿させ、メタノールで4回洗浄し、真空濾過を用いて回収することができる。これらの試料は、自然乾燥し、AF-MNP内で溶解し、0.2ミクロンフィルターを通過させ、分析のために直接GPCバイアルに渡すことができる。
【0021】
本開示のポリアニリンの物品(例えば、膜)は、試料(例えば、膜)の総重量に基づいて、約1重量%以下(例えば、約0.5重量%以下、約0.1重量%以下、約0.001重量%から約1重量%、約0.01重量%から約0.5重量%)の炭化水素含有量を有し得る。例えば、膜は、膜の総重量(例えば、炭化水素含有量、ポリアニリン、及びドーパントの総重量)に基づいて、約1重量%以下の炭化水素含有量を有し得る。炭化水素は、C1-C20パラフィン、及び芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン及びナフタレン)を含む。少なくとも一態様では、炭化水素は、ナフタレンである。
【0022】
本開示のポリアニリンの物品(例えば、膜)は、ASTM E595-93に従って、約0.5%以下(例えば、約0.3%以下、約0.1%以下、約0.05%以下、約0.01%以下)のガス放出割合を有し得る。
【0023】
本開示のポリアニリンは、約100℃以上(例えば、約110℃以上、約120℃以上、約120℃から約160℃、約130℃から約160℃、約140℃から約160℃、約150℃から約160℃)の熱安定性を有し得る。ポリアニリンをスライドガラスに回転塗布し、回転塗布された試料を70℃で乾燥させることにより、熱安定性を判定することができる。電気接触のためにスライドの縁にシルバーバーを塗布することができる。試料は、対流式オーブン内で24時間にわたって一定の温度(例えば、150℃)に曝露され得る。次いで、試料の抵抗を測定し、熱安定性を判定することができる。
【0024】
少なくとも1つの態様では、ポリアニリンは、以下の式(I)によって表されるPANI-酸である。
式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の各例は、水素、置換又は非置換のC1-C20アルキル、置換又は非置換のC1-C20アリール、置換又は非置換のC1-C20アルカリール、置換又は非置換のC1-C20アリールアルキル、置換又は非置換のC1-C20アルコキシル、及びハロゲン(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)から独立して選択され、R
1、R
2、R
3、及びR
4の1つ又は複数の例は、C1-C20アルコキシル、及びハロゲン(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)から独立して選択された基と任意選択的に置換され、
A
-の各例は、陰イオン配位子であり、
nは、ポリアニリンが約55,000g/モルから約80,000g/モル(例えば、約60,000g/モルから約75,000g/モル、約65,000g/モルから約70,000g/モル)の重量平均分子量(Mw)を有するような整数である。
【0025】
R1、R2、R3、及びR4の各例は、水素、及び非置換のC1-C20アルキルから独立して選択される。1つ又は複数の態様では、C1-C20アルキルは、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、sec-ペンチル、n-ヘキシル、イソ-ヘキシル、及びsec-ヘキシルから選択される。少なくとも1つの態様では、R1、R2、R3、及びR4の各例は、水素である。
【0026】
少なくとも1つの態様では、C1-C20アリールは、フェニル及びナフチルから選択される。少なくとも一態様では、C1-C20アルカリールは、ベンジルである。少なくとも1つの態様では、C1-C20アリールアルキルは、トルイル、メシチル、又はエチルベンジルである。
【0027】
少なくとも1つの態様では、A-の各例は、スルホン酸、水酸化物、及びハロゲン(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)から独立して選択された陰イオン配位子である。1つ又は複数の態様では、A-は、ジノ二ルナフタレンスルホン酸などのスルホン酸である。
【0028】
アルキル置換アリールスルホン酸、アニリン、及びポリアニリンを調製する方法
本開示のポリアニリンを形成するための、代表的な非限定的反応スキームが、以下のスキーム1で示される。スキーム1に示すように、アニリンは、アルキル置換アリールスルホン酸及び触媒で処理され、式(I)によって表すポリアニリンを形成する。
【0029】
スキーム1の式(I)のR1、R2、R3、R4、及びA-は、以上の式(I)について説明されたとおりである。
【0030】
スキーム1のアニリンモノマーについては、R1、R2、R3、及びR4の各例は、水素、置換又は非置換のC1-C20アルキル、置換又は非置換のC1-C20アリール、置換又は非置換のC1-C20アルカリール、置換又は非置換のC1-C20アリールアルキル、置換又は非置換のC1-C20アルコキシル、及びハロゲン(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)から独立して選択され、R1、R2、R3、及びR4の1つ又は複数の例は、C1-C20アルコキシル、及びハロゲン(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)から独立して選択された基と任意選択的に置換され、
R5は、水素である。
【0031】
少なくとも1つの態様では、スキーム1のアニリンモノマーのR1、R2、R3、及びR4の各例は、水素、及び非置換のC1-C20アルキルから独立して選択される。1つ又は複数の態様では、C1-C20アルキルは、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、sec-ペンチル、n-ヘキシル、イソ-ヘキシル、及びsec-ヘキシルから選択される。少なくとも1つの態様では、R1、R2、R3、及びR4の各例は、水素である。
【0032】
本開示のアルキル置換アリールスルホン酸(又は、その溶液(例えば、有機溶液)は、1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有し得、DNNSAなどのジアルキル置換ナフチルスルホン酸(dialkyl-substituted naphthyl sulfonic acid)であり得る。1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有する、DNNSAなどのアルキル置換アリールスルホン酸は、King Industriesから市販で入手することができる。
【0033】
少なくとも1つの態様では、アルキル置換アリールスルホン酸(例えば、DNNSA)(又はその溶液)は、酸(追加の溶媒が存在しない酸、例えば、イソプロパノール)の総重量に基づいて、約1重量%以下(例えば、約0.5重量%以下、約0.1重量%以下、約0.001重量%から約1重量%、約0.01重量%から約0.5重量%)の炭化水素含有量を有する。
【0034】
本開示の方法におけるアルキル置換アリールスルホン酸:アニリンのモル比は、約0.2:1から約2:1(例えば、約0.3:1から約1:1、約0.8:1から約1:0.8、約1:1)であり得る。
【0035】
本開示の触媒は、任意の適切なアンモニウム又は硫酸塩触媒(例えば、過硫酸アンモニウム)を含み得る。
【0036】
さらに、炭炭化水素溶媒の添加は好ましくない場合がある。例えば、ヘプタン又はヘキサンを高レベルで添加することにより、エマルジョンの形成が防止される。例えば、当該方法が、ヘプタン内にDNNSAのみがあり、2‐ブトキシエタノールがない状態で実行された場合、反応は、可溶性産物を産出するところまで進まない場合がある。
【0037】
フローリアクター処理
アルキル置換アリールスルホン酸(例えば、DNNSA)を使用して、フローリアクター化学処理によって、本開示のポリアニリン(以後PANI-酸とも呼ばれる)を溶媒溶解性ポリマーとして形成する処理が本明細書に記載される。開示されたシステム及び方法は、リアクター処理後の操作がない状態で純化されたエメラルジン塩を直接捕集する特有の処理シーケンスを提供する。本システム及び方法は、導電性ポリマー、具体的には、導電性ポリマー塩(例えば、PANI-酸)を合成する既知の方法に対する改善をもたらす。本システム及び方法は、反応時間が非常に短く、長い反応時間を要する従来の方法を用いては実現できない。
【0038】
例えば、本システム及び方法は、可溶性であり且つ本質的に導電性である重合体としてのポリアニリン(PANI)塩の効率良く且つ制御された合成の改善をもたらす。本明細書では、PANI-塩又は「エメラルジン塩」の連続流合成は、フローリアクターを用いるように記載されている。幾つかの実施例では、フローリアクターは、マイクロ流体(1から約750umの内径)チューブリアクターを備えている。幾つかの実施例では、マイクロ流体チューブは、フルオロポリマー(例えば、TEFLON(登録商標))を含む。チューブリアクターは、形成されるポリマーの堆積に適切であり、且つ導電性ポリマー塩の直接純化が容易な表面を設ける。
【0039】
本明細書で使用されている用語「フローリアクター」は、マイクロフローリアクターを含んでいる。本明細書では、マイクロフローリアクターは、1mm(1000ミクロン)より短い流れ寸法(例えば、チューブ内径(I.D.))を有するフローリアクターとして使用される。
【0040】
以下でさらに説明されているように、幾つかの実施例では、重合反応が進行するにつれて、ポリマー生成物の大部分がチューブの壁に堆積する。ポリマー生成物は、水で洗浄して、水溶性反応物、試薬、及び副生成物を除去することによって、純化することができる。
【0041】
フローリアクターの中で形成されてチューブの壁に堆積された導電性ポリマー塩を有機溶媒で溶離させて、固形鋳込み成形、膜形成、又は析出に適した可溶性導電性ポリマー塩を提供することができる。この装置は、in situ特性評価(例えば、UV-Vis分光法、赤外線、及び/又は質量分光法)のために構成可能である。
【0042】
少なくとも1つの反応物を重合するための装置及び関連する方法が説明される。特定の実施例では、装置は、混合室及びマイクロ流路を備えているマイクロ流体装置である。さらに、リアクターは、マイクロ流路に動作可能に接続された出力チャンバ及び検出ユニットをさらに備え得る。
【0043】
米国法の適用において本明細書に参照により組み込まれた米国特許出願第10,118,922号に記載されたような、本開示のポリアニリンを形成するために任意の適切な装置(例えば、フローリアクター)を使用してもよい。
【0044】
図1Aを参照すると、フローリアクターシステム100が示されている。第1の反応物10(例えば、アニリン)及び第2の反応物20(例えば、アルキル置換アリールスルホン酸)が、第1の混合ユニット30に導入される。
図1Aで示すリアクターシステム100は、従来のマクロスケール装置又はバッチリアクターよりも効率的に導電性ポリマー塩を(単位時間当たりの質量で)生成することができる。フローリアクターシステム100は、室温から約250℃の処理温度範囲(例えば、100℃より低い処理温度)で作動可能である。幾つかの実施例では、周囲温度とは、約50°F(10℃)から約90°F(32℃)の間である。幾つかの実施例では、反応物10、20は、フローリアクターに導入される前に所望のモル比で混合されるように、所定の流量及び/又は所定の濃度で、第1の混合ユニット30に個別に導入される。他の実施例では、反応物10、20は、フローリアクターに導入される前に所望モル比で混合されるように、第1の混合ユニット30に共に導入される。第1の混合ユニット30は、任意の適切な混合装置であってもよい。幾つかの実施例では、混合装置は、1つ又は複数の溶液(例えば、水溶液及び非水溶液)を乳化することが可能な高速又は超高速の混合装置である。幾つかの実施例では、第1の反応物10は、水溶液の中に含まれ、第2の反応物20は、非水溶液の中に含まれる。第1の混合ユニット30は、第1の反応物10及び第2の反応物20を乳化するように設計される。第3の反応物50が、第2の混合ユニット60で第1及び第2の反応物に加わる。幾つかの実施例では、反応物50は触媒である。第2の混合ユニット60内で混合した後、反応物は、入口ポート65を介してチューブ70に導入される。チューブ70は、分析機器90によってモニターされ得る排出ポート80を備えている。分析機器90は、未反応材料及び/又は反応生成物などの、排出ポート80から流れる材料を調べて分析する分光機器を含み得る。分光機器は、UV-Vis、IR(近赤外線、中赤外線、及び遠赤外線)、及び質量分析を含む。キャパシタンス、pHなどの他の分析及び調査技法を使用することができる。圧力調整ユニット67は、重合過程中又は重合材料の捕集工程の過程中に圧力の変化をモニターするためにフローリアクター70の出口部に位置付けされ得る。圧力調整ユニット67からの情報は、反応物のフローリアクターへの導入を中止するためにコントローラによって使用され得る。例えば、処理の過程中の圧力変化をモニターするために追加の圧力調整ユニット67がフローリアクター70の入口部に位置付けされ得る。流体ライン69が、フローリアクター70に個別に流体連結され得る。それにより、フローリアクターユニット70から重合生成物を捕集するために、パージ媒体66(例えば、水)又は捕集媒体68(例えば、溶媒)が導入される。
【0045】
幾つかの実施例では、フローリアクターシステム100は、チューブ70への単一の入口ポートを有する。他の実施例では、フローリアクターシステム100は、入口ポート65と排出ポート80の間に位置付けされた追加の入口ポートを有する。
図1Aで示されているように、チューブ70を巻回させて、拡張したチューブ状のフローリアクターを設けることができる。
【0046】
幾つかの実施例では、チューブ70は、ハウジング40内に含まれる。ハウジング40は、温度制御及び/又は支持及び/又はチューブ70の破損からの保護をもたらす。幾つかの実施例では、ハウジング70は、チューブ70の少なくとも一部を囲む内部表面を有し、それにより、巻回したチューブ70が少なくとも部分的にハウジング40の内部に含まれる。幾つかの実施例では、ハウジング40は、チューブ70に対して温度制御(加熱及び/又は冷却を含む)をもたらすように構成される。
【0047】
図1Bで示されているように、代替的なフローリアクター構成100aが、直列連結された巻回構成で配置された複数のチューブ70a、70bを有するように示される。チューブ70a、70bは、寸法的に同じであってもよいし、異なる長さ及び/又は異なる内径を有してもよい。この構成では、ハウジングは、チューブ70a及び70bを受け入れる別個のセクション40a、40bに分岐され得る。これらのセクションは、チューブを加熱及び/又は冷却するために個別に操作することができる。代替的に、フローリアクター構成100aは、チューブ70a、70bを受け入れる単一のハウジングを有し得る。プロセス流がフローリアクターに入る前に分割されるチューブの並列なアレイ構成に対して、直列のアレイは、反応混合物が拡散制限条件で維持される時間量を最大化する。任意の特定の理論に縛られるわけではないが、拡散制限条件で反応混合物を維持することにより、バッチ処理に比べて、エマルジョン内の反応物から導電性ポリマー塩を生成するための現在開示されている反応の改善がもたらされる。本明細書で開示されている本方法及びシステムは、反応物のエマルジョンに対するこのような拡散制限条件を提供する。
【0048】
図1Cを参照すると、例示的なフローリアクターシステム100bが示されている。複数のフローリアクターユニット70c、70d、及び70eが、並列流構成で示されている。各フローリアクター70c、70d、及び70eは、流制御弁63を介して個別に隔離され得る。流制御弁63は、各フローリアクターの入口部及び出口部に位置付けされ、対応するフローリアクターにモノマー溶液を導入する。流制御弁63は、手動で操作してもよく、且つ/又は、従来の制御装置を用いるコンピュータ制御のために構成されたソレノイドベースであってもよい。流制御弁63は、分散液の逆流を防止する1つ又は複数のチェック弁を含み得る。1つ又は複数の圧力調整ユニット67は、重合過程中又は重合材料の捕集工程の過程中に圧力変化をモニターするために、フローリアクターのうちの1つ又は複数の出口部に位置付けされ得る。追加の圧力調整ユニット67をさらに各フローリアクターの入口部に位置付けしてもよい。パージ及び/又はポリマー回収を活性化するために、フローリアクター70c、70d、及び70eのうちの1つ又は複数を隔離するように、流制御弁63がコントローラからの圧力データに連結され得る。この構成では、フローリアクターシステム100bは、フローリアクターユニット70c、70d、及び70eのうちの1つ又は複数を選択的に隔離することによって継続的に操作することができる。これは、重合生成物の回収、及び/又は残りのフローリアクターユニットのうちの1つ又は複数へのモノマーの導入を維持しながらのメンテナンスのためである。代替的に、フローリアクターシステム100bは、例えば、フローリアクターユニット70c、70d、及び70eのうちの1つ又は複数へのモノマーの導入を一時的に中止させることによって、半継続的に操作することができる。追加の流体ライン69を流制御弁63のうちの1つ又は複数に個別に流体連結してもよく、それにより、パージ媒体66(例えば、水)又は捕集媒体68(例えば、溶媒)を導入し、1つ又は複数のフローリアクターユニット70c、70d、及び70eから重合生成物を選択的に捕集する。フローリアクターユニット70c、70d、及び70eのうちの1つ又は複数は、チューブの内径から回収された重合生成物を伴う又は伴わない搬送のために、フローリアクターシステム100bから物理的に取り外され得る。
【0049】
図2を参照すると、プロセスフロー201は、本明細書に開示された方法の例として示されている。したがって、ブロック205では、非水溶媒の中で水性モノマーと酸とのエマルジョンを調製することが示されている。ブロック210では、エマルジョン及び触媒をマイクロリアクターチューブに導入することが示されている。所定の時間の後、反応物のうちの1つ又は複数の流れを止めることができ、ブロック215で示されているように、任意選択的に、水を用いてマイクロリアクターチューブの洗浄を実行することができる。ブロック215は、未反応反応物及び/又は低分子量生成物を除去するように実行され得る。ブロック220では、有機溶媒を用いてポリマーをマイクロリアクターチューブから回収することが実行される。
【0050】
図3及び
図4では、内径Dを有するチューブ孔の内表面310を有するチューブ300の断面が示されている。幾つかの実施例では、最大直径は、拡散制限反応の利点が減少する直径よりも小さい。この最大直径は、4000ミクロン程度であってもよく、高圧チューブで使用されるチューブ径に類似する。他の実施例では、4000ミクロン未満、3000ミクロン未満、又は1000ミクロン未満から、最小で約100ミクロンの直径を用いることより、最適な結果が得られる場合がある。任意の特定の理論に縛られるわけではないが、本明細書で開示且つ説明されている反応のより迅速な反応速度は、リアクターチューブの内径寸法をマイクロ流体システムにおいて10
4から10
6ほどまで縮小させるときに起きると考えられている。これは、単位時間当たりの反応容積の何らかの釣合いとして以前報告された。一実施例では、毛細管300は、ガラス、金属、プラスチック、又は内表面がポリマー(例えば、フルオロポリマー)でコーティングされたガラス若しくは金属から作られる。チューブは、別のポリマー内に包まれてもよく、又は金属でコーティングされてもよい。
【0051】
チューブ長は、圧力を扱うためのシステムの選択された構成要素の能力(ポンプ力、チューブの破裂強度、取り付け部品など)に基づいて選択され得る。現在開示されているシステムとの使用に適したチューブの最大長は、背圧と、チューブの長さ全体を通して生成物を搬送する能力との関数である。幾つかの実施例では、システムは、システムが約20bar(280psi)以下で作動するようなチューブ内径を有して連結されたチューブ長で作動するように構成され得る。幾つかの実施例では、4000ミクロン未満の内径を有するチューブでは、チューブの長さは500メートルを越えない。他の実施例では、チューブ300は、約100メートル以下の長さの、1000ミクロン未満の直径のチューブ(マイクロ流体チューブ)である。チューブの直径と長さのその他の組み合わせが、システムの作動パラメータと所望の単位時間当たりの反応容積と比例するように使用され得る。
【0052】
チューブの断面は、任意の形状であってもよいが、好ましくは円形である。幾つかの実施例では、
図4で示されているように、重合は、チューブ孔の内表面310で生じる。重合生成物400が、内径Dを縮小した直径D’に制限する。幾つかの実施例では、チューブ内径、又は内径Dの縮小は、長手方向軸A-A、B-Bの周りで対称的である。幾つかの実施例では、チューブ内径、又は内径Dの縮小は、長手方向軸A-A、B-Bの周りで非対称的である。チューブ300の直径Dを直径D′に縮小することによって、本明細書に記載のプロセスを制御するために部分的に測定及び/又は使用することができる背圧が生じる。
【0053】
この背圧をモニターすることができるが、重合の初期段階では、時間T1における背圧は、チューブ300内に供給される乳化した反応混合物の粘度及び流量と一致している。重合によってチューブ300の内径が縮小する期間T2の間、背圧が増加し始め、閾値に接近する。幾つかの実施例では、システムは、背圧値が所定の閾値に達したときに重合を止めるよう設計されている。期間T2で示されている背圧の変化率は、反応物の粘度、反応物及び/又は触媒のモル濃度、温度、流量、並びにこれらの組み合わせを操作することにより、毛細管チューブの破裂強度及びその他のリアクターパラメータを考慮しながら調節することができる。
図5は、現在開示されている方法の実施例を表すプロセスフロー
図500を示す。したがって、ブロック505では、反応物のエマルジョン及び触媒をマイクロリアクターチューブ内にポンプ供給することが示されている。ブロック510では、重合工程の間に反応物のエマルジョンの背圧をモニターすることが示されている。ポンピング装置を備えた外付け又は電気の従来型圧力モニター機器を使用することが想定されている。ブロック515で示されているように、閾値背圧に一旦達したら、反応物のエマルジョンの導入が止められる。ブロック520では、有機溶媒を用いて洗浄することによって、ポリマー生成物をマイクロリアクターチューブから回収することが示されている。
【0054】
例として、本明細書に開示された方法を本開示のポリアニリンの製造に適用することができる。少なくとも1つの態様では、本開示の方法によって形成されたポリアニリンは、ポリアニリン-ジノニルナフタレンスルホン酸塩(「PANI-DNNSA」)である。PANI-DNNSAは、有機発光ダイオード(OLED)、太陽電池、半導体、ディスプレイスクリーン、及び化学センサなどの電気用途のための導電性ポリマーである。
【0055】
したがって、実施例として、PANI-DNNSA塩の連続流合成プロセスが提供されている。フロー装置は、酸化試薬を、水性アニリン及び有機可溶性DNNSAの予め形成されたエマルジョンに添加することを可能にするように設計された。例えば、酸化触媒としての過硫酸アンモニウムの存在におけるアニリンとDNNSAの等モル量のエマルジョン重合を実行することができる。この反応は、以下でスキーム2で示されている。
【0056】
したがって、
図6を参照すると、プロセスフロー
図600が示されている。ブロック602及び604では、アニリンを含む水性組成物、及びアルキル置換アリールスルホン酸を含む非水性組成物が、それぞれ第1の混合器内に導入される。ブロック610では、反応物のエマルジョンを第1の混合器内で形成することが実行される。ブロック615では、触媒及び反応物のエマルジョンを第2の混合器内に導入することが実行される。ブロック620では、マイクロリアクターチューブに導入することと、閾値背圧を得ることとが実行される。ブロック625では、反応物のエマルジョン及び触媒のマイクロリアクターチューブへの導入を停止することが実行される。任意選択的に、未反応材料及び/又は低分子量ポリマーを除去するために、ブロック630では、水を用いてマイクロリアクターチューブを洗浄することができる。ブロック635では、有機溶媒を用いてポリアニリンポリマー塩(polyaniline polymer salt)をマイクロリアクターチューブから回収することが実行される。
【0057】
諸態様
本開示は、とりわけ、以下の態様を提供する。各態様は、任意の代替的な態様を任意選択的に含むとみなされ得る。
【0058】
条項1
ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された重量平均分子量(Mw)が約50,000g/モルから約150,000g/モルであり、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された分子量分布(Mw/Mn)が約1から約5であるポリアニリン。
【0059】
条項2
前記ポリアニリンが、炭化水素を実質的に含まない、条項1に記載のポリアニリン。
【0060】
条項3
前記ポリアニリンが、複数の共役塩基対イオンを有する酸性化されたポリアニリンである、条項1又は2に記載のポリアニリン。
【0061】
条項4
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMwが約55,000g/モルから約80,000g/モルである、条項1から3のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0062】
条項5
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMwが約110,000g/モルから約140,000g/モルである、条項1から4のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0063】
条項6
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された数平均分子量(Mn)が約50,000g/モルから約100,000g/モルである、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0064】
条項7
前記ポリアニリンは、Mnが約72,000g/モルから約74,000g/モルである、条項1から6のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0065】
条項8
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定された分子量分布(Mw/Mn)が約1から約5である、条項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
条項9
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMw/Mnが約1.5から約1.9である、条項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
条項10
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたZ平均分子量(Mz)が約100,000g/モルから約250,000g/モルである、条項1から9のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0068】
条項11
前記ポリアニリンは、Mzが約152,000g/モルから約204,000g/モルである、条項1から10のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0069】
条項12
前記ポリアニリンは、ピーク平均分子量(Mp)が約50,000g/モルから約150,000g/モルである、条項1から11のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0070】
条項13
前記ポリアニリンは、Mpが約113,000g/モルから約136,000g/モルである、条項1から12のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0071】
条項14
前記ポリアニリンが、約100℃以上の熱安定性を有する、条項1から13のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0072】
条項15
前記ポリアニリンが、約150℃から約160℃の熱安定性を有する、条項1から14のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0073】
条項16
前記ポリアニリンが、式(I):
によって表され、
式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の各例が、水素、置換又は非置換のC1-C20アルキル、置換又は非置換のC1-C20アルコキシル、及びハロゲンから独立して選択され、R
1、R
2、R
3、及びR
4の1つ又は複数の例が、C1-C20アルコキシル、及びハロゲンから独立して選択された基と任意選択的に置き換えされ、
A
-の各例が、陰イオン配位子であり、
nは、前記ポリアニリンが約55,000g/モルから約80,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するような整数である、条項1から15のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0074】
条項17
前記ポリアニリンは、Mwが約65,000g/モルから約70,000g/モルである、条項1から16のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0075】
条項18
R1、R2、R3、及びR4の各例が、水素、及び非置換のC1-C20アルキルから独立して選択される、条項1から17のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0076】
条項19
R1、R2、R3、及びR4の各例が、水素である、条項1から18のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0077】
条項20
A-の各例が、ジノ二ルナフタレンスルホン酸である、条項1から19のいずれか一項に記載のポリアニリン。
【0078】
条項21
条項1から20のいずれか一項に記載のポリアニリンを含む膜であって、当該膜が、当該膜の総重量に基づいて、約1重量%以下の炭化水素含有量を有する、膜。
【0079】
条項22
前記膜が、前記膜の総重量に基づいて、約0.5重量%以下の炭化水素含有量を有する、条項21に記載の膜。
条項23
前記炭化水素がナフタレンである、条項21又は22に記載の膜。
【0080】
条項24
前記膜が、約0.5%以下のガス放出割合を有する、条項21から23のいずれか一項に記載の膜。
【0081】
条項25
前記膜が、約0.1%以下のガス放出割合を有する、条項21から24のいずれか一項に記載の膜。
【0082】
条項26
アニリンの水溶液のエマルジョン、及び1重量%以下の炭化水素含有量を有するアルキル置換アリールスルホン酸の有機溶媒溶液を、内径を有する一定長のチューブを備えたフローリアクター内に導入することと、
前記チューブ内でモノマーを重合し、ポリアニリンを形成することと
を含む、方法。
【0083】
条項27
触媒を前記エマルジョンに導入することをさらに含む、条項26に記載の方法。
【0084】
条項28
触媒を前記フローリアクターに導入することをさらに含む、条項26又は27に記載の方法。
【0085】
条項29
前記一定長のチューブが巻回されている、条項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【0086】
条項30
前記フローリアクターが、平行流構成で配置された複数のチューブを備えている、条項26から29のいずれか一項に記載の方法。
【0087】
条項31
アニリン対酸のモル比が、約1:1から約0.2:1の間である、条項26から30のいずれか一項に記載の方法。
【0088】
条項32
前記触媒が、過硫酸アンモニウムである、条項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【0089】
条項33
前記アルキル置換アリールスルホン酸が、ジノニルナフチルスルホン酸である、条項26から32のいずれか一項に記載の方法。
【0090】
条項34
アルキル置換アリールスルホン酸の前記有機溶媒溶液が、0.5重量%以下の炭化水素含有量を有する、条項26から33のいずれか一項に記載の方法。
【0091】
条項35
アルキル置換アリールスルホン酸の前記有機溶媒溶液が、0.1重量%以下の炭化水素含有量を有する、条項26から34のいずれか一項に記載の方法。
【0092】
条項36
アルキル置換アリールスルホン酸の前記有機溶媒溶液が、0.5重量%以下のナフタレンを有する、条項26から35のいずれか一項に記載の方法。
【0093】
条項37
前記ポリアニリンを前記チューブから回収することをさらに含む、条項26から36のいずれか一項に記載の方法。
【0094】
条項38
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMwが約50,000g/モルから約150,000g/モルである、条項26から37のいずれか一項に記載の方法。
【0095】
条項39
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMwが約65,000g/モルから約70,000g/モルである、条項26から38のいずれか一項に記載の方法。
【0096】
条項40
前記ポリアニリンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたMw/Mnが約1.5から約1.9である、条項26から39のいずれか一項に記載の方法。
【0097】
条項41
前記ポリアニリンが、約100℃以上の熱安定性を有する、条項26から40のいずれか一項に記載の方法。
【0098】
条項42
前記ポリアニリンが、約150℃から約160℃の熱安定性を有する、条項26から42のいずれか一項に記載の方法。
【0099】
実施例
PANI/DNNSAは、Kinlenら(Macromolecules,1998年,31,1735-1744)によって開発されたエマルジョン重合プロセスを使用して合成された。PANI/DNNSA(pur)合成は、King Industriesから入手した5つの精製Nacure試料(C,D,E,F,H)を使用して実行された。導電性測定のため、すべての試料が、2000rpmでガラスにスピンコーティングされ、1時間にわたって70℃で加熱された。すべての膜厚測定が、Bruker Contour GT-K1白色光干渉計を使用して実行された。特に断りのない限り、接点としてシルバーインクを用いて、すべての膜がガラス基板に鋳造された。抵抗は、-10Vから10Vの電圧スイープでKeithley半導体特性評価システムを使用して測定された。
【0100】
材料
すべての化学物質は、さらなる精製なくそのまま使用された。2‐ブトキシエタノール内で精製されたDNNSA(Nacure1051)は、King Industriesから入手した。アニリン、過硫酸アンモニウム、及びキシレンは、Sigma-Aldrichから入手した。NMPは、Fisher Scientificから入手した。すべての材料は、試薬等級であった。
【0101】
方法
PANI/DNNSA 精製されたDNNSAバッチ
PANI/DNNSA
(pur)については、バッチリアクターにおける同じ手順の後、すべてのバッチが合成された。Nacureは、イオン交換樹脂(Dowex、強塩基性アニオン交換体)を使用して精製された。精製されたNacure(82.926g、0.09モル)、及び水(200ml)が、500mlの反応管に添加された。混合物は、0℃(Tj)まで冷却された。60分後、アニリン(5.59g、0.06モル)が、混合物に添加された。10分後、水(50ml)の中の過硫酸アンモニウム(16.885g、0.074モル)が、30分にわたって滴下された。一旦反応が完了すると、トルエンが生成物に添加され、材料は、0.01M H2SO4(1回)及び水(3回)で洗浄された。すべての水を確実に除去するために、材料は回転蒸発(3回)させられた。すべての反応の概要を以下の表1で確認することができる。導電性及び分子量は、表2で確認することができる。
表1:PANI/DNNSAのすべての精製されたバッチ
表2:膜導電性及び分子量
【0102】
ニート膜の熱安定性
Boron MoleculaからのニートPANI試料の熱安定性試験が実行された。試料は、ガラスにスピンキャストされ、抵抗が測定された。試料は、70℃、100℃、及び130℃の温度ごとに24時間にわたってオーブン内に配置された。試料は、取り除かれた後、抵抗測定が行われる前に室温まで冷却された。室温で1時間経った後、試料を各温度に24時間の間戻す前に、さらなる変化がないことを確認するため、第2の抵抗測定が行われた。
【0103】
分子量特性評価
方法:ポリアニリン(PANI)の分子量を特性化するために、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が利用された。N-メチルピロリジノン(NMP)内のぎ酸アンモニウム(AF)0.02Mが、移動相として使用された。ユニバーサル較正技法を用いて、粘度検出器及び屈折率検出器を利用した分子量分布が測定された。使用の前、すべての溶液は、0.45ミクロンフィルターを通してフィルタリングされた。PANI試料は、スペクトロ品質(spectroquality)のメタノールで沈殿させられ、メタノールで4回洗浄され、真空濾過を用いて回収された。これらの試料は、自然乾燥し、AF-MNP内で溶解し、0.2ミクロンフィルターを通過し、分析のために直接GPCバイアルに渡された。従来の分子量(IR MW)は、ユニバーサル較正関係(universal calibration relationship)を一連の単分散ポリスチレン(PS)標準で実行されるカラム較正(column calibration)と組み合わせことによって決定された。
【0104】
バッチ処理の比較:Nacure及びKpure
1.5:1.0ドーパント対アニリンの比。
図7Aは、ポリアニリンの屈折率検出器を使用して、ゲル浸透結果(屈折率対保持容量(mL))を示すグラフである。ポリアニリンは、従来のDNNSA(ライン700)又は1重量%より少ない炭化水素含有量を有するDNNSA(ライン702)を使用して生成された。Y軸は、ミリボルトを示す。
図7Bは、ポリアニリンの粘度計を使用して、ゲル浸透結果(粘度計差圧対保持容量(mL))を示すグラフである。ポリアニリンは、従来のDNNSA(ライン704)又は1重量%より少ない炭化水素含有量を有するDNNSA(ライン706)を使用して生成された。Y軸は、ミリボルトを示す。
【0105】
【0106】
熱安定性データ
手順:PANIの試料は、スライドガラスに回転塗布され、70℃で乾燥させられた。電気接触のために縁にシルバーバーが塗布された。試料は、対流式オーブン内で、25℃、70℃、100℃、130℃、160℃、及び190℃の温度に24時間曝された。各曝露について抵抗が測定された。
図8は、1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの熱安定性データ(抵抗対温度)を示すグラフである。ロットFシリーズ(ロットF1.54、ロットF1.62、ロットF1.81、MAFロットF)は、精製されたDNNSAを使用して形成された試料を有する試料である。1801、1802、1803、及び1804は、精製されていないNACUREを使用して形成された試料である。
【0107】
図9は、1つ又は複数の態様に係る、ポリアニリンの熱安定性データ(抵抗対温度)を示すグラフである。ライン1702、1703、1704、及びMAF-2-125-1は、精製されていないNACUREを使用して形成された試料である。1702、1703、及び1704試料は、フロー処理を使用して形成された。MAF-2-125-1は、バッチ処理を使用して形成された。
【0108】
試料の調製:スライドガラスのコーティング。ドロップキャスト:NACURE1051;KPURE CXC1304。大量の水道の脱イオン水で洗浄された。スライドは70℃で一時間乾燥された。FTIRスペクトルが、上記の試料と、それに加えてニートNACURE及びKPUREに対して加えられた。
図10aは、1つ又は複数の態様に係る、DNNSAの重ね合わされたFTIRスペクトルである。KPURE(ライン1000)は、検出された水不溶性残留物を示さなかった。ニートKPUREは、ライン1002で示された。
図10bは、1つ又は複数の態様に係る、DNNSAの重ね合わされたFTIRスペクトルである。NACURE1051(ライン1004)は、検出された水不溶性残留物を示さなかった。ニートNACURE1051は、ライン1006で示された。
【0109】
結論NACUREは、非常に粘着性のある水不溶性残留物を残す。粘着性材料は、スルホン化されてない芳香族炭化水素であると考えられている。残留物は、望まれていない不純物である。KPUREは、残留物を残さず、すべての炭化水素が完全にスルホン化されたことを示す。高真空下での低いガス放出結果を支持する。
【0110】
精製されたDNNSA(F)を用いたPANI-DNNSAのガス放出
【0111】
全体的に、本開示は、ポリアニリン、及びポリアニリンを形成する方法を提供する。本開示のポリアニリンは、スルホン化されてない炭化水素などの副生成物を実質的に含まないことが可能であり、これにより、従来のポリアニリンに比べてポリアニリンの「ガス放出」の減少がもたらされる。本開示のポリアニリンの減少したガス放出及び改善された分子量特性により、従来のポリアニリンに比べて、改善された熱安定性がもたらされる。本開示の方法は、アニリン、及びアルキル置換アリールスルホン酸(例えば、ジノニルナフタレンスルホン酸(DNNSA))を使用することにより、ポリアニリンを形成することを含む。本開示の方法のアルキル置換アリールスルホン酸は、1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有し得る。例えば、1重量%以下のスルホン化されてない炭化水素含有量を有するDNNSAを使用することにより、減少したガス放出及び改善された熱安定性を有するポリアニリンを提供することができる。
【0112】
以上は本開示の実施例を対象としているが、本開示の他の実施例及びさらなる実施例は、その基本的な範囲を逸脱しない限り、考案してもよい。さらに、以上は、例えば、航空宇宙産業のビークル構成要素を対象としているが、本開示の実施例は、航空機に関連しない他の用途、例えば、自動車産業、海運産業、エネルギー産業、風力タービン、衛星等における用途を対象とし得る。
【0113】
本開示の様々な実施例の記載が例示の目的で提示されてきたが、網羅的であること又は開示の実施例に限定することは意図されていない。記載された実施例の範囲及び精神から逸脱することなく、多くの修正例及び変形例が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施例、実際的な適用、若しくは市場で見出される技術に対する技術的改善の諸原理を最もよく説明するために、又は、他の当業者が本明細書で開示された実施例を理解することを可能にするために選択された。以上は本開示の実施例を対象としているが、本開示の他の実施例及びさらなる実施例は、その基本的な範囲を逸脱しない限り、考案してもよい。