(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】Agめっき材、Agめっき材の製造方法、および、電気部品
(51)【国際特許分類】
C25D 5/14 20060101AFI20250305BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20250305BHJP
H01R 13/03 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
C25D5/14
C25D5/16
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2020214110
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】平井 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健太郎
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094766(WO,A1)
【文献】特開2017-014589(JP,A)
【文献】特開2013-129902(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1966779(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材であって、
前記基材の上に、基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を複数備えて
おり、
前記Agめっき材の表面には多数の孔が形成されており、
前記孔の個数密度は5,000~100,000個/mm
2
であり、
前記孔とは、前記Agめっき材をレーザー顕微鏡で観察した際に、検出される最も面積の大きい高さを基準とし、その基準から深さ方向に0.5μmの距離に物体が検出されなかった部分とする、Agめっき材。
【請求項2】
最も基材側にある前記2層のめっき構造と前記基材との間に、下地Niめっき層が更に形成されている、請求項1に記載のAgめっき材。
【請求項3】
前記下地Niめっき層の厚さが0.05~2μmである、請求項2に記載のAgめっき材。
【請求項4】
前記孔の平均直径が1~30μmである、請求項
1~3のいずれか一つに記載のAgめっき材。
【請求項5】
前記ポーラスNiめっき層の厚さが0.1~3μmである、請求項1~
4のいずれか一つに記載のAgめっき材。
【請求項6】
前記Agめっき層の厚さが0.1~3μmである、請求項1~
5のいずれか一つに記載のAgめっき材。
【請求項7】
導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材の製造方法であって、
前記基材の上に、基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造を形成し、この2層のめっき構造を複数形成
し、
前記Agめっき材の表面に、個数密度が5,000~100,000個/mm
2
である多数の孔を形成し、
前記孔とは、前記Agめっき材をレーザー顕微鏡で観察した際に、検出される最も面積の大きい高さを基準とし、その基準から深さ方向に0.5μmの距離に物体が検出されなかった部分とする、Agめっき材の製造方法。
【請求項8】
最も基材側にある前記2層のめっき構造と前記基材との間に、下地Niめっき層を更に形成する、請求項
7に記載のAgめっき材の製造方法。
【請求項9】
前記下地Niめっき層の厚さを0.05~2μmとする、請求項
8に記載のAgめっき材の製造方法。
【請求項10】
前記ポーラスNiめっき層の厚さを0.1~3μmとする、請求項
7~9のいずれか一つに記載のAgめっき材の製造方法。
【請求項11】
前記Agめっき層の厚さを0.1~3μmとする、請求項
7~10のいずれか一つに記載のAgめっき材の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか一つに記載のAgめっき材を材料として用いた接点又は端子部品である、電気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Agめっき材、Agめっき材の製造方法、および、電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などに用いられるスイッチやコネクタ、端子などの摺動接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを形成した銀(Ag)めっき材が使用されている。
【0003】
特許文献1には、導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品であって、基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、多層めっき皮膜の表面に多数の孔が形成されてなることを特徴とするめっき品が記載されている(請求項1)。
【0004】
そして、特許文献1には、多層めっき皮膜の表面に多数の孔を形成する理由として、以下の内容を開示している([0020])。
【0005】
すなわち、多孔質めっき層上に表面めっき層を形成することにより、多孔質めっき層の凹凸に沿うように表面めっき層が形成され、表面めっき層にも孔が形成されることになる。多孔質めっき層表面の凸部には表面めっき層が形成され易く、多孔質めっき層表面に形成された孔の底面や側面では、表面めっき層が形成されにくい。その結果、表面めっき層が形成されていない部分や、表面めっき層の厚みが薄い部分が生じることになる。Au又はAgを主成分とする表面めっき層が不均一であることによって、ガルバニック腐食を引き起こす腐食電流の集中を防止でき、むしろ耐食性が向上する。
【0006】
特許文献2には、特許文献1に記載のめっき皮膜の表面に多数の孔を有するとともに該孔に潤滑性粒子がブラスト処理により充填され、摺動性を備わらせることが記載されている(要約)。
【0007】
特許文献3には、耐摩耗性に優れ、コネクタの挿抜を繰り返しても電気的接続性を長期間良好に維持可能とすべく、金属材料よりなる基材と、該基材上に設けられた多数の細孔を有する多孔質金属層と、該多孔質金属層における上記細孔内に充填された充填部とを有しており、該充填部は、上記多孔質金属層を構成する金属材料よりも硬度が低い金属材料よりなるコネクタ用電気接点材料が記載されている(要約、請求項1)。
【0008】
特許文献4、5には、基材上に形成されたニッケルからなる下地層の表面に銀からなる表層が形成され、耐摩耗性に優れた銀めっき材を提供するとともに、その銀めっき材の生産性を向上させるべく、基材の表面を粗面化し、この粗面化した基材の表面にニッケルからなる下地層を形成した後、又は、基材上にニッケルからなる下地層を形成し、この下地層の表面を粗面化した後、この下地層の表面に銀からなる表層を形成することが記載されている(いずれも要約、請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2013/094766号パンフレット
【文献】特開2013-129902号公報
【文献】特開2015-59260号公報
【文献】特開2017-14588号公報
【文献】特開2017-14589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、環境規制の問題からEV、PHVなどの電動車両のニーズが増えている。電動車両には通電性、接触信頼性の観点から銀めっき処理した伸銅材が使用されることが多い。このような高圧端子に求められる特性として、耐挿抜性と耐摩耗性(本明細書ではまとめて耐摩耗性と呼称する。)があり、好適には微摺動摩耗に耐えるための性能(耐振動性)がある。
【0011】
本発明の課題は、優れた耐摩耗性を備えるAgめっき材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材であって、
前記基材の上に、基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を複数備えている、Agめっき材である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
最も基材側にある前記2層のめっき構造と前記基材との間に、下地Niめっき層が更に形成されている。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の態様であって、
前記下地Niめっき層の厚さが0.05~2μmである。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記Agめっき材の表面に多数の孔が形成されてなる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の態様であって、
前記孔の個数密度が5000~100,000個/mm2である。
【0017】
本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様に記載の態様であって、
前記孔の平均直径が1~30μmである。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記ポーラスNiめっき層の厚さが0.1~3μmである。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1~第7のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記Agめっき層の厚さが0.1~3μmである。
【0020】
本発明の第9の態様は、
導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材の製造方法であって、
前記基材の上に、基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造を形成し、この2層のめっき構造を複数形成する、Agめっき材の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の態様であって、
最も基材側にある前記2層のめっき構造と前記基材との間に、下地Niめっき層を更に形成する。
【0022】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載の態様であって、
前記下地Niめっき層の厚さを0.05~2μmとする。
【0023】
本発明の第12の態様は、第9~第11のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記ポーラスNiめっき層の厚さを0.1~3μmとする。
【0024】
本発明の第13の態様は、第9~第12のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記Agめっき層の厚さを0.1~3μmとする。
【0025】
本発明の第14の態様は、
第1~第8のいずれか一つの態様に記載のAgめっき材を材料として用いた接点又は端子部品である、電気部品である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、優れた耐摩耗性を備えるAgめっき材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1のAgめっき材の表面のSEM(走査電子顕微鏡)による二次電子像(2000倍)である。
【
図2】実施例1のAgめっき材の断面のSIM(走査イオン顕微鏡)像である。
【
図3】実施例5のAgめっき材の断面のSIM像である。
【
図4】比較例2のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
【
図5】比較例3のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
【
図6】比較例4のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
【
図7】比較例6のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
【
図8】比較例7のAgめっき材の断面のSIM像である。
【
図9】(a)は、実施例1のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による二次電子像(2000倍)である。(b)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による反射電子組成像(2000倍)である。(c)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるAgの特性X線像である。(d)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるNiの特性X線像である。
【
図10】(a)は、実施例1のAgめっき材に対して耐摩耗性試験後の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による二次電子像(2000倍)である。(b)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による反射電子組成像(2000倍)である。(c)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるAgの特性X線像である。(d)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるNiの特性X線像である。
【
図11】めっき膜厚の算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本実施形態について説明する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
【0029】
<Agめっき材>
本実施形態に係るAgめっき材は、導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材であって、前記基材の上に、基材側(下側)から、ポーラスNi(ニッケル)めっき層とAg(銀)めっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を複数備えていることを特徴とする。
【0030】
前記基材は導電性金属からなれば限定は無いが、銅又は銅合金であってもよい。
【0031】
ポーラスNiめっき層は、その名の通り、多孔質のめっき層である。
【0032】
ポーラスNiめっき層は、例えば公知のポーラスNiめっき液および電解めっき方法により作製することができる3次元構造からなる多孔性のNiめっき皮膜であり、その表面から観察したときの孔の直径が概ね1μm前後から数10μmの孔であって、高い比表面積を有するものである。
【0033】
ポーラスNiめっき層は、Niを主成分とするめっき層であり、本発明の効果を奏する範囲においてP、B、Co、Fe、Cr、Cu、Zn等の他の元素を含有していてもよい。以降、Niめっき層、Agめっき層は、それぞれNi、Agが主成分であることを意味する。
【0034】
ポーラスNiめっき層中における具体的なNiの含有量は、例えば90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、さらには99質量%以上としてもよい。
【0035】
前記ポーラスNiめっき層の厚さが0.1~3μmであるのが好ましい。この厚さならば、Niめっき層を、孔の個数密度、孔の平均直径を適切に設定したうえで多孔質化できる。ポーラスNiめっき層の厚さは0.3~2μmであるのがより好ましく、0.8μm以上であるのが更に好ましい。
【0036】
Agめっき層は、Agストライクめっきを施した後にAgめっき(本めっき)を施して得られるAgめっき皮膜であってもよい。そして、Agを主成分とするめっき層である。
Agめっき層に他の元素例えばC、N、S、Se、Sb、Co、Cu、Au、In、P、Zn、Sn、Pd、Bi等を本発明の効果を奏する範囲において含有してもよい。なお便宜上、本明細書中においてAgストライクめっきとその上に形成するAgめっき層を区別するために、Agストライクめっき層上に形成したAgめっき層をAg本めっき層と表すことがある。
【0037】
Agめっき層中における具体的なAgの含有量は、例えば90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、さらには導電性の観点から99質量%以上としてもよい。
【0038】
Agめっき材の表面に多数の孔が形成されてなるのが好ましい。つまり、複数あるAgめっき層の最も表面側(露出面)に多数の孔が観察されてなるのが好ましい。また、Agめっき材を構成するAgめっき層のいずれの上側の面にも多数の孔が観察されてもよい。Agめっき層の孔は、その下に形成されているポーラスNiめっき層の表面にAgめっき層が被覆され、そのポーラスNiめっき層の孔部分が完全に埋まるまでAgめっきが被覆されないために、観察されたものと考えられる。
【0039】
基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する(交互に重なっている)2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を複数備えているのは、断面を電子顕微鏡で観察して確認することができる。例えば、
図2は本発明(実施例1)のAgめっき材の断面をSIM(走査イオン顕微鏡)で観察したSIM像(走査イオン顕微鏡像)である。
図2により、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を複数(
図2では3つ)、備えていることが確認できる。2層のめっき構造は、3つ以上備えていることがより好ましい。ポーラスNiめっき層は薄い灰色の層であり、Agめっき層は濃い灰色である。ポーラスNiめっき層には凸凹(孔部)が観察され、その表面にAgめっきが形成されている。
【0040】
また、Agめっき材の表面の孔の個数密度および孔のサイズを評価した。株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X150を使用して、対物レンズ×100を用いて形状測定を実施し、マルチファイル解析アプリケーションを使用し、体積・面積測定を実施し、解析範囲を100μm×100μmとした。検出される最も面積の大きい高さを基準(高さ0)(解析アプリケーションで算出される)として、その基準の高さからAgめっき層の深さ方向に0.5μmの距離(位置)に物体(めっき表面)が検出されなかった部分を孔(ポーラス部)とみなし、その個数と面積を計測する。それから単位面積当たりの孔の個数密度と孔の平均直径を算出した。なお、孔の直径が1μm未満のものは計測対象から除外した。
【0041】
また、Agめっき材を構成する最表層以外のAgめっき層の上側(Agめっき材の表面側)の面に多数の孔(凹凸)が形成され、そのAgめっき層の上側の面にポーラスNiめっき層が形成されている。
【0042】
Agめっき材の表面の前記孔の個数密度が5,000~100,000個/mm2であるのが好ましい。
【0043】
前記孔の平均直径が1~30μmであるのが好ましく、2~20μmであるのがより好ましい。
【0044】
前記Agめっき層の厚さが0.1~3μmであるのが好ましく、0.2~2μmであるのがより好ましい。この厚さならば、孔の個数密度、孔の平均直径を適切に設定したうえでAgめっき層に多数の孔を形成できる。3μmより厚いとポーラスNiめっき層の表面の孔がAgめっき層で埋められる等により表面に多数の孔が十分に形成されない恐れがある。但し、上記数値範囲は一例であり、結局のところ、Agめっき層の厚さは、Agめっき層の上側の面に多数の孔が形成される厚さであればよい。Agめっき材を構成するいずれのAgめっき層の厚さも、Agめっき層の上側の面に多数の孔が形成される厚さであるのがより好ましく、具体的には0.2~2μmであるのがより好ましく、0.5μm以上であるのが更に好ましい。
【0045】
本実施形態では、ポーラスNiめっき層とその直上に形成されたAgめっき層とを一組とした2層のめっき構造を複数備える。この構成により、本実施形態のAgめっき材は優れた耐摩耗性有し、好適には優れた耐振動性を有する。
【0046】
最も基材側にある前記2層のめっき構造と前記基材との間に、下地Niめっき層が更に形成されているのが好ましい。特に、基材直上に下地Niめっき層を形成し、下地Niめっき層の直上にポーラスNiめっき層を形成するのが好ましい。
【0047】
下地Niめっき層を形成することにより、例えばAgめっき材が加熱された場合に、基材の成分であるCuやFeなどの元素がAgめっき層に拡散することを防止し、基材とポーラスNiめっき層との密着性の劣化など、特性の低下を抑制することができる。
【0048】
基材(又は基材に何らかの層が形成されている場合は該層)とポーラスNiめっき層との間で良好な密着性を担保できるのならば、下地Niめっき層には限定は無い。良好な密着性や曲げ加工性の観点から、下地Niめっき層の厚さが0.05~2μmであるのが好ましい。
【0049】
<Agめっき材の製造方法>
本実施形態のAgめっき材の製造方法としては、導電性金属からなる基材の上にAgめっき層が形成されたAgめっき材の製造方法であって、前記基材の上に、基材側から、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順序で有する2層のめっき構造を形成し、この2層のめっき構造を複数形成することを特徴とする。以下に記載の無い内容は、<Agめっき材>の項目に記載の内容と同様とする。
【0050】
(工程1:前処理工程)
前処理として、基材に対する電解脱脂および酸洗を行うのが好ましい。例えば、基材を陰極、別途用意したSUS板を陽極とし、電解脱脂を行い、基材上の有機物を除去するのが好ましい。その後、硫酸などの酸を含む水溶液により基材を酸洗するのが好ましい。
【0051】
(工程2:下地Niめっき層形成工程)
次に、下地Niめっき層を形成するのが好ましい。下地Niめっき層を形成する際のめっき浴の構成(組成)およびめっき条件には限定は無く、後掲の実施例の項目で挙げるめっき浴(スルファミン酸浴;スルファミン酸ニッケルとホウ酸、塩化ニッケル等からなる)およびめっき条件を使用可能である。他のめっき浴としては、ワット浴(硫酸ニッケルと塩化ニッケル、ホウ酸等からなる)、全塩化物浴(塩化ニッケルとホウ酸等からなる)が挙げられる。
【0052】
この下地Niめっき液中のNi濃度は、5~200g/Lであるのが好ましく、10~180g/Lであるのが更に好ましく、20~150g/Lであるのが最も好ましく、このようなめっき液を用いて電気めっきを行うことが好ましい。
【0053】
下地Niめっき層を形成する際のめっき液の液温は、好ましくは10~70℃、更に好ましくは25~55℃である。電流密度は、好ましくは15A/dm2以下であり、より好ましくは10A/dm2以下、更には好ましくは0.5~7A/dm2である。
【0054】
(工程3:ポーラスNiめっき層形成工程)
下地Niめっき層の直上に、ポーラスNiめっき層を形成するのが好ましい。ポーラスNiめっき層を形成する際のめっき浴(液)の構成(組成)およびめっき条件には限定は無く、Niイオンを含有するめっき浴中でめっきを施し、Niを主成分とする多孔質めっき層が形成されるのであればよい。
【0055】
具体的には、Niイオンを含有し、かつ疎水性基を有する水溶性の第4級アンモニウム塩が添加されているめっき浴中で電気めっきする方法などが例示される。前記第4級アンモニウム塩は、公知のNi電気めっき浴に添加することができる。
【0056】
公知の電気めっき浴としては、例えば、ワット浴、スルファミン酸Ni浴、有機酸Ni浴などを例示することができる。
【0057】
このポーラスNiめっき液中のNi濃度は、5~200g/Lであるのが好ましく、10~180g/Lであるのが更に好ましく、20~150g/Lであるのが最も好ましい。
【0058】
ポーラスNiめっき層を形成する際のめっき液の液温は、好ましくは10~70℃、更に好ましくは25~55℃である。電流密度は、好ましくは15A/dm2以下であり、より好ましくは10A/dm2以下、更には好ましくは0.5~7A/dm2である。
【0059】
(工程4:Agストライクめっき層形成工程)
ポーラスNiめっき層の直上に、Agストライクめっき層を形成するのが好ましい。Agストライクめっき層を形成する際のめっき浴の構成およびめっき条件には限定は無く、公知のめっき浴、めっき条件を適用できる。また、後掲の実施例の項目で挙げるめっき浴およびめっき条件を使用可能である。
【0060】
このAgストライクめっき液中のAg濃度は、0.01~15g/Lであるのが好ましく、0.1~10g/Lであるのが更に好ましく、0.2~5g/Lあるのが最も好ましい。また、電気めっきによりAgストライクめっきを行うことが好ましい。
【0061】
Agストライクめっき層を形成する際のめっき液の液温は、好ましくは10~60℃、更に好ましくは15~55℃である。電流密度は、好ましくは8A/dm2以下であり、より好ましくは5A/dm2以下、更には好ましくは0.2~3A/dm2である。
【0062】
(工程5:Ag本めっき層形成工程)
Agストライクめっき層の直上に、Ag本めっき層を形成するのが好ましい。Ag本めっき層を形成する際のめっき浴の構成およびめっき条件には限定は無く、後掲の実施例の項目で挙げるめっき浴およびめっき条件を使用可能である。Ag本めっき層の厚さは、Ag本めっき層に多数の孔が形成される厚さに設定すればよく、電気めっきにより形成することが好ましい。
【0063】
このAg本めっき液中のAg濃度は、5~200g/Lであるのが好ましく、20~180g/Lであるのが更に好ましく、50~150g/Lであるのが最も好ましい。
【0064】
Ag本めっき層を形成する際のめっき液の液温は、好ましくは10~60℃、更に好ましくは15~55℃である。電流密度は、好ましくは15A/dm2以下であり、より好ましくは10A/dm2以下、更には好ましくは0.5~7A/dm2である。
【0065】
Agストライクめっき層と、Agストライクめっき層上に形成されたAg本めっき層は、例えばAgめっき材の断面を顕微鏡で観察してもAgストライクめっき層の厚さが非常に薄く、組成もAgで区別が困難であるので、1層のAgめっき層とみなす。
【0066】
次に、(工程3)~(工程5)のセットを繰り返す。そして、2層のめっき構造を所望の数(複数)形成する。その後、適宜水洗し、Agめっき材を得る。
【0067】
本実施形態のAgめっき材を材料として用いて、スイッチやコネクタ、接点又は端子部品のような電気部品を作製すると、耐摩耗性および耐振動性に優れた電子部品が得られる。
【0068】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例】
【0069】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0070】
[実施例1]
(工程1:前処理(電解脱脂と酸洗))
まず、基材として67mm×50mm×0.3mmの純銅金属板(C1020)を用意し、この基材と別途用意したSUS板とをアルカリ脱脂液に入れ、基材を陰極、SUS板を陽極とし、電圧5Vで30秒間電解脱脂した。その後、3%硫酸水溶液中で15秒間、基材を酸洗した。各作業間では15秒の水洗を実施した。
【0071】
(工程2:下地Niめっき層の形成)
次に、540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物と25g/Lの塩化ニッケルと35g/Lのホウ酸を含む水溶液からなるめっき液(浴)を用意した。そして該めっき液中において、基材を陰極、別途用意したSK(硫黄含有)ニッケル電極板を陽極とし、マグネチックスターラにより500rpmで撹拌しつつ、電流密度7A/dm2、液温50℃で電気めっきを行い、基材の直上に0.2μmの厚さの下地Niめっき層を形成した。
【0072】
(工程3:ポーラスNiめっき層の形成)
次に、540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物と25g/Lの塩化ニッケルと35g/Lのホウ酸と多孔性構造のニッケルめっき皮膜が得られるニッケルめっき用添加剤として10mL/LのトップポーラスニッケルRSN(奥野製薬工業株式会社製)を含む水溶液からなるめっき液を用意した。めっき液の総量は1Lとした。
【0073】
そして該めっき中において、下地Niめっき層が形成された基材(以降、中間物は「被めっき材」と呼称する。)を陰極、SKニッケル電極板を陽極とし、マグネチックスターラにより500rpmで撹拌しつつ、厚さ1μm(設定値)の多孔質でないNiめっき層に相当する体積のNiが形成されるように電流密度1A/dm2、液温50℃で500秒間電気めっきを行い、下地Niめっき層の直上にポーラスNiめっき層を形成した。その際のポーラスNiめっき層の厚さ(上記設定値)は後掲の表1に記載する。
【0074】
ポーラスNiめっき層の形成後の素材について、蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製FT-110A)使用し、コリメータ径φ0.2mm、測定時間10secでサンプルの中央部のNiめっき層の厚さを測定した結果、1.2μmであり設定値通りの膜厚が形成されていることが確認された。なお、蛍光X線膜厚計の測定原理より、下地Niめっき層とポーラスNiめっき層の厚さの和が、Niめっき層の厚さとして測定されていると考えられる。
【0075】
(工程4:Agストライクめっき層の形成)
次に、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなるめっき液を用意した。そして該めっき液中において、被めっき材を陰極、白金で被覆したチタン電極板を陽極とし、マグネチックスターラにより500rpmで撹拌しつつ、液温25℃、表に記載の電流密度で10秒間電気めっきを行った後、15秒間水洗した。
【0076】
(工程5:Ag本めっき層の形成)
次に、175g/Lのシアン化銀カリウムと95g/Lのシアン化カリウムと6mg/Lのセレンを含む水溶液からなる銀めっき浴を用意した。該めっき浴中において、被めっき材を陰極、純度99.99%以上の銀電極板を陽極とし、マグネチックスターラにより500rpmで撹拌しつつ、厚さ1μm(設定値)のAgめっき層が形成されるように電流密度0.5A/dm2、液温18℃で240秒間電気めっきを行い、Agストライクめっき層の直上にAg本めっき層を形成した。表1のAgめっき層の厚さはAgストライクめっき層とAg本めっき層との合計厚さ(上記設定値)である。Ag本めっき層の形成後、15秒間水洗した。
【0077】
Agめっき層の形成後の素材について、蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製FT-110A)使用し、コリメータ径φ0.2mm、測定時間10secでサンプルの中央部のAgめっき層の厚さを測定した結果、1μmであり設定値通りの膜厚が形成されていることが確認された。
【0078】
次に、(工程3)~(工程5)(のセット)を2回繰り返し、下地Niめっき層を含め合計7層のめっき層からなるAgめっき材を作製した(Agストライクめっき層はAg本めっき層とまとめて一つの層としてカウント)。
【0079】
(めっき膜厚)
作製したAgめっき材の各層のめっきの膜厚を、オージェ電子分光装置(日本電子株式会社製のオージェマイクロプローブJAMP-7800)を用い、加速電圧10kV、照射電流1×10-7A、ビーム径100μmφの条件で、Agめっき材の表面をArスパッタリング(加速電圧3kV、エミッション電流25mA)により深さ方向にエッチングしながらAgとNiについて測定し、AgとNiの深さ方向プロファイルよりめっき厚を算出した。測定データステップ間隔は、0~300秒の間では0.5分、300~600秒の間では1分、600秒以上では2分とした。
【0080】
測定例を
図11に示す。以下、めっき膜厚の算出方法を説明する。
【0081】
図11の横軸がスパッタリング時間、縦軸が濃度(原子百分率)のAgとNiのそれぞれの深さ方向プロファイル(デプスプロファイル)において、測定データについて10区間移動平均を計算して移動平均線を作成する。
【0082】
それぞれの移動平均線において極大値と極小値をプロット(図示しない)し(Agの移動平均線の極大値は2つ、極小値は2つ、Niの移動平均線の極大値は3つ、極小値は2つ、ただし最表面は除く)、更にAgとNiのそれぞれの移動平均線の隣り合った(濃度の)極大値と極小値の和を2で除した値を中間値とし、当該極大値と極小値の間の線分に中間値をプロットして中間点(図中に白丸で示す)とした。
【0083】
なお、Agの深さ方向のプロファイルの移動平均線において、最も表面に近い極小値よりもスパッタ時間の小さい側(最表面側)の中間点は、当該極小値に隣接し且つスパッタ時間の大きい側にプロットされている中間点と同じ濃度を(当該極小値と最表面との間の)移動平均線上にプロットして中間点とする。
【0084】
また、Agの深さ方向のプロファイルの移動平均線において、最も基材に近い極大値よりもスパッタ時間の大きい側(基材側)の中間点は、当該極大値に隣接し且つスパッタ時間の小さい側にプロットされている中間点と同じ濃度を(当該極大値と基材側との間の)移動平均線上にプロットして中間点とする。
【0085】
Niの深さ方向のプロファイルの移動平均線において、最も表面に近い極大値よりもスパッタ時間の小さい側(最表面側)の中間点は、当該極大値に隣接するスパッタ時間の大きい側にプロットされている中間点と同じ濃度を(当該極大値と最表面との間の)移動平均線上にプロットして中間点とする。
【0086】
Niの深さ方向のプロファイルの移動平均線において、最も基材に近い極大値よりもスパッタ時間の大きい側(基材側)の中間点は、当該極大値に隣接するスパッタ時間の小さい側にプロットされている中間点と同じ濃度を(当該極大値と基材側との間の)移動平均線上にプロットして中間点とする。
【0087】
そして、AgとNiのそれぞれの移動平均線において、隣り合ったこの中間点同士を線で結び、この線の上側に極大値がくる区間の横軸方向の長さ(スパッタリング時間)を測定し、この長さをSiO2のエッチングレート(エッチング速度20nm/min)より厚さに換算し、Agめっき層とNiめっき層のそれぞれのめっき膜厚とした。
【0088】
なお、最表面のAgめっき層(図中に7層で表示される)については、最表面(スパッタ時間がゼロ)と最表面に最も近い中間点までの横軸の長さ(時間)より、上述のエッチングレートで換算してAgめっき層の厚さを求めた。
本発明の請求項に規定するめっきの厚さはこのような方法で算出する。
【0089】
その結果、Agめっき材の表面側から順に、Agめっき層(7層)の厚さは0.611μm、ポーラスNiめっき層(6層)の厚さは1.148μm、Agめっき層(5層)の厚さは0.739μm、ポーラスNiめっき層(4層)の厚さは1.453μm、Agめっき層(3層)の厚さは0.69μm、ポーラスNiめっき層(2層)の厚さは1.099μmであった。
【0090】
(Agめっき材の耐摩耗性)
作製した銀めっき材の耐摩耗性を評価するために、株式会社山崎精機研究所製 精密摺動試験機CRS-G2050-DWA型を使用し、銀めっき材の一方を内径R=1.5mmのエンボス状(半球面状)に加工し、他方の(同じ平板状の)銀めっき材の板面上に荷重5Nで接触させたのち、摺動速度1.67mm/sec、摺動距離5mmで往復摺動をし、銅素地が露出するまでの回数を測定した。ただし接触抵抗が1mΩを超えた場合、その時点でNGとした。
【0091】
その結果、実施例1のAgめっき材は、摺動回数1,000回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0092】
(Agめっき材の耐振動性(微摺動摩耗性))
作製した銀めっき材の耐摩耗性を評価するために、株式会社山崎精機研究所製 精密摺動試験機CRS-G2050-DWA型を使用し、銀めっき材の一方を内径R=1.5mmのエンボス状(半球面状)に加工し、他方の(同じ平板状の)銀めっき材の板面上に荷重5Nで接触させたのち、摺動速度0.2mm/sec、摺動距離0.1mmで往復摺動をし、接触抵抗が1mΩ以上になるまでの回数を測定した。
【0093】
その結果、実施例1のAgめっき材は、摺動回数50,000回後においても接触抵抗が1mΩ未満であり、耐振動性に優れていた。
【0094】
(Agめっき材の表面の孔の個数密度、平均直径)
Agめっき材の表面に観察される孔について、個数密度および平均直径を評価した。
【0095】
株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X150を使用して、対物レンズ×100を用いて形状測定を実施、マルチファイル解析アプリケーションを使用し、体積・面積測定を実施し、解析範囲100μm×100μmとした。
【0096】
解析範囲において、検出される最も面積の大きい高さを表面(解析アプリケーションで算出される)として、その表面から深さ方向に0.5μmの距離(位置)に物体(めっき表面)が検出されなかった部分を孔(ポーラス部)とみなし、孔の個数と面積を計測する。計測した孔の個数と孔の面積より孔の平均面積を計算し、この孔の平均面積と同じ面積の円の直径を算出して孔の平均直径とした。また、計測結果より単位面積当たりの孔の個数密度を算出した。
【0097】
その結果、孔の個数密度は9,300個/mm2、孔の平均直径は16.3μmであった。
【0098】
各例でのAgめっき材の構造や評価結果等は以下の表1に記載する。
【表1】
【0099】
[実施例2]
実施例2では、ポーラスNiめっきの際のNiめっき液の組成として、540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物と25g/Lの塩化ニッケルと35g/Lのホウ酸と多孔性構造のニッケルめっき皮膜が得られるニッケルめっき用添加剤として8mL/LのトップポーラスニッケルRSN(奥野製薬工業株式会社製)を含む水溶液からなるめっき液を使用し、Ag本めっきの際のAgめっき液の組成として、175g/Lのシアン化銀カリウムと95g/Lのシアン化カリウムと55mg/Lのセレンを含む水溶液からなるめっき液を用意し、Ag本めっき層の形成工程において、被めっき材を陰極、純度99.99質量%以上の銀電極板を陽極として、スターラにより500rpmで撹拌しつつ、厚さ1μmのAgめっき層が形成されるように電流密度を5A/dm2、液温を18℃として24秒間電気めっきを行いAg本めっき層を形成した、以外は実施例1と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0100】
このAgめっき材を、実施例と同様の方法で各めっき厚を測定、算出した結果、Agめっき材の表面側から順に、Agめっき層(7層)の厚さは0.613μm、ポーラスNiめっき層(6層)の厚さは0.998μm、Agめっき層(5層)の厚さは0.825μm、ポーラスNiめっき層(4層)の厚さは1.384μm、Agめっき層(3層)の厚さは0.637μm、ポーラスNiめっき層(2層)の厚さは1.415μmであった。
【0101】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数1000回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0102】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、50,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり、耐振動性に優れていた。
【0103】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ10,800個/mm2、16.2μmであった。
【0104】
[実施例3]
(工程3)~(工程5)(のセット)を1回繰り返し、合計5層とした以外は、実施例2と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0105】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数1000回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0106】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、13,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり耐振動性に優れていた。(20,000回摺動後の接触抵抗は1mΩを超えた。)
【0107】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ25,500個/mm2、7.1μmであった。
【0108】
[実施例4]
(工程3)~(工程5)(のセット)を3回繰り返し、合計9層とした以外は、実施例2と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0109】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数1000回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0110】
また、実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、50,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり、耐振動性に優れていた。
【0111】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ23,100個/mm2、7.7μmであった。
【0112】
[実施例5]
ポーラスNiめっきの電気めっきの時間を250秒、Ag本めっきの電気めっきの時間を12秒とした以外は、実施例2と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0113】
このAgめっき材を、実施例と同様の方法で各めっき厚を測定、算出した結果、Agめっき材の表面側から順に、Agめっき層(7層)の厚さは0.439μm、ポーラスNiめっき層(6層)の厚さは0.425μm、Agめっき層(5層)の厚さは0.463μm、ポーラスNiめっき層(4層)の厚さは0.561μm、Agめっき層(3層)の厚さは0.386μm、ポーラスNiめっき層(2層)の厚さは0.439μmであった。
【0114】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数400回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0115】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、20,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり耐振動性に優れていた。(30,000回摺動後の接触抵抗は1mΩを超えた。)
【0116】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ43,400個/mm2、4.9μmであった。
【0117】
[実施例6]
ポーラスNiめっきの電気めっきの時間を250秒、Ag本めっきの電気めっきの時間を12秒とした以外は、実施例4と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0118】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数800回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0119】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、50,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり耐振動性に優れていた。
【0120】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ38,800個/mm2、4.5μmであった。
【0121】
[実施例7]
ポーラスNiめっきの電気めっきの時間を250秒、Ag本めっきの電気めっきの時間を12秒とした以外は、実施例3と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0122】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数150回後においても銅素地の露出がなく、接触抵抗も1mΩ未満であり、耐摩耗性に優れていた。
【0123】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、10,000回摺動後も接触抵抗は1mΩ未満であり耐振動性に優れていた。(15,000回摺動後の接触抵抗は1mΩを超えた。)
【0124】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ36,600個/mm2、6.0μmであった。
【0125】
[比較例1]
比較例1は、2層のめっき構造を1つのみ((工程3)~(工程5)を繰り返さず合計3層)とした以外は実施例2と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0126】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性が十分でなかった。
【0127】
また、Agめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、5,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0128】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ18,800個/mm2、9.0μmであった。
【0129】
[比較例2]
2層のめっき構造を1つのみ((工程3)~(工程5)を繰り返さず合計3層)とし、本Agめっきの電気めっきの時間を720秒とした以外は、実施例1と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0130】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性は十分でなかった。
【0131】
また、Agめっき材を、実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、2,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0132】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ12,400個/mm2、9.4μmであった。
【0133】
[比較例3]
2層のめっき構造を1つのみ((工程3)~(工程5)を繰り返さず合計3層)とし、本Agめっきの電気めっき時間を1,200秒とした以外は、実施例1と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0134】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性は十分でなかった。
【0135】
また、Agめっき材を、実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、5,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0136】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度を評価したところ、孔は認められなかった(0個/mm2であった)。
【0137】
[比較例4]
ポーラスNiめっき形成時の電流密度を3A/dm2、電気めっき時間を165秒とし、Agストライクめっき形成時の電流密度を2A/dm2、2層のめっき構造を1つのみ((工程3)~(工程5)を繰り返さず合計3層)とし、本Agめっきの電気めっき時間を1200秒とした以外は、実施例1と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0138】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性が十分でなかった。
【0139】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度を評価したところ、孔は認められなかった(0個/mm2であった)。
【0140】
[比較例5]
ポーラスNiめっき形成時の電流密度5A/dm2、電気めっき時間を100秒とした以外は、比較例4と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0141】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数1,00回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性が十分でなかった。
【0142】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度を評価したところ、孔は認められなかった(0個/mm2であった)。
【0143】
[比較例6]
2層のめっき構造を1つのみ((工程3)~(工程5)を繰り返さず合計3層)とし、ポーラスNiめっきの電気めっき時間を1,500秒、本Agめっきの電気めっき時間を720秒とした以外は、実施例1と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0144】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において接触抵抗が1mΩを超え、耐摩耗性が十分でなかった。
【0145】
また、このAgめっき材を実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、3,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0146】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度および孔の平均直径を評価したところ、それぞれ4,600個/mm2、31.2μmであった。
【0147】
[比較例7]
比較例7では、下地Niめっきを設けず、前記実施例1の工程3のNiめっき液に添加剤(トップポーラスニッケルRSN)を添加せず(すなわちポーラスNiめっき層を設けず)に厚さ1μmのNiめっき層を形成し、Agストライクめっきの電流密度を2A/dm2とした以外は実施例1と同様の方法で、Agめっき材を作製した。
【0148】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性が十分でなかった。
【0149】
また、このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、5,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0150】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度を評価したところ、孔は認められなかった(0個/mm2であった)。
【0151】
[比較例8]
比較例8では、下地Niめっき層を設けず、前記実施例1の工程3のNiめっき液に添加剤(トップポーラスニッケルRSN)を添加せず(すなわちポーラスNiめっき層を設けず)に厚さ1μmのNiめっき層を形成し、この上にAgストライクめっきの電流密度を2A/dm2、Ag本めっきの時間を120秒として厚さ5μmのAgめっき層を1層のみ形成した以外は、実施例2と同様の方法でAgめっき材を作製した。
【0152】
このAgめっき材を、実施例1と同様の方法で耐摩耗性を評価した結果、摺動回数100回後において銅素地の露出があり、耐摩耗性が十分でなかった。
【0153】
また、実施例1と同様の方法で耐振動性を評価した結果、5,000回摺動後に接触抵抗は1mΩを超え、耐振動性は十分でなかった。
【0154】
また、実施例1と同様の方法でAgめっき材の表面の孔の個数密度を評価したところ、孔は認められなかった(0個/mm2であった)。
【0155】
図1は、実施例1のAgめっき材の表面のSEM(走査電子顕微鏡)による二次電子像(2000倍)である。
図2は、実施例1のAgめっき材の断面のSIM(走査イオン顕微鏡)像である。
図3は、実施例5のAgめっき材の断面のSIM像である。
図4は、比較例2のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
図5は、比較例3のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
図6は、比較例4のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
図7は、比較例6のAgめっき材の表面のSEMによる二次電子像(2000倍)である。
図8は、比較例7のAgめっき材の断面のSIM像である。
図9(a)は、実施例1のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による二次電子像(2000倍)である。
図9(b)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による反射電子組成像(2000倍)である。
図9(c)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるAgの特性X線像である。
図9(d)は、Agめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるNiの特性X線像である。
図10(a)は、実施例1のAgめっき材に対して耐摩耗性試験後の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による二次電子像(2000倍)である。
図10(b)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による反射電子組成像(2000倍)である。
図10(c)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるAgの特性X線像である。
図10(d)は、耐摩耗性試験後のAgめっき材の表面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)によるWDX(波長分散X線分光法)によるNiの特性X線像である。
【0156】
図1に示すように、実施例1では、Agめっき材の表面に多数の孔が形成されてなる。
【0157】
図2に示すように、実施例1では、ポーラスNiめっき層とAgめっき層とをこの順で有する2層のめっき構造が形成され、この2層のめっき構造を3組備えていることが確認できる。また、Agめっき材の最表面側以外のポーラスNiめっき層の表面にも多数の孔が確認でき、各ポーラスNiめっき層の直上に設けられた各Agめっき層が該孔に入り込んでいる様子が確認できる。実施例5に係るAgめっき材の断面のSIM像を示す
図3でも、その様子が確認できる。
【0158】
図9(c)に示すように、
図9(b)の像の白色部分はAgが確認できる。その一方、
図9(d)に示すように、
図9(b)の像の黒色部分(すなわちAgめっき層に形成された孔)ではNiが観察された。
【0159】
Agめっき材の耐摩耗性の試験を行った後の
図10(c)に示すように、
図10(b)の像の白色部分はAgが確認され、Agめっきが残存していることがわかる。その一方、
図10(d)に示すように、
図10(b)の像の黒色部分では
図9(d)と比べ網目状にNiの濃度が高い部分が観察された。摺動試験により表面の柔らかいAgめっき層の一部が削れ、ポーラスNiめっき層の一部が露出して、このような網目状に観察されたと考えられる。
【0160】
表1に示すように、各実施例では耐摩耗性も耐振動性も良好であったが、各比較例では各実施例ほどの耐摩耗性も耐振動性も得られなかった。
【0161】
なお、実施例、比較例のNiめっき層、ポーラスNiめっき層のNiの純度はいずれも99質量%以上であり、Agストライクめっき層、Ag本めっき層のAgの純度はいずれも99質量%以上である。