(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】脱硫ゴム、脱硫ゴムを含有するゴム組成物、およびゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08J 11/18 20060101AFI20250305BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20250305BHJP
C08L 17/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08J11/18 ZAB
C08K5/548
C08L17/00
(21)【出願番号】P 2020214572
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 祥平
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-323004(JP,A)
【文献】特表2015-519454(JP,A)
【文献】Journal of applied polymer science,米国,2007年,Vol. 104, Issue 6,p. 3562-3580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/18
C08K 5/548
C08L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’-ジチオジアニリンを含有する脱硫剤と加硫ゴムとを混合処理してなる脱硫ゴム。
【請求項2】
請求項
1に記載の脱硫ゴムを含有するゴム組成物。
【請求項3】
ゴム組成物中の未加硫ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記脱硫ゴムを1~30質量部含有する請求項
2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項
2または
3に記載のゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な加硫後物性および加工性を示す脱硫ゴム、脱硫ゴムを含有するゴム組成物、およびゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから、使用済タイヤやその他のゴム製品から生ずる加硫ゴム廃材を再利用することが強く要望されている。
【0003】
下記特許文献1では、ハロゲン化ジフェニルジスルフィド化合物を含有する加硫ゴムの脱硫剤が記載されている。
【0004】
下記特許文献2では、ジスルフィド化合物と3価のリン化合物とを含有してなる脱硫剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-323004号公報
【文献】特開平8-337603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが鋭意検討したところ、上記従来技術は脱硫ゴムの臭気改善が主目的であり、脱硫ゴムを含むゴム組成物の加硫後物性については、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な加硫後物性を示す脱硫ゴム、脱硫ゴムを含有し、加工性に優れたゴム組成物、およびゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記の如き構成により解決し得る。すなわち本発明は、下記式(1)~(4)のいずれかに記載の化合物:
【化1】
(R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、酸素原子、またはアルキル基を表す)を含有する脱硫剤と加硫ゴムとを混合処理してなる脱硫ゴムに関する。
【0009】
上記脱硫ゴムにおいて、前記脱硫剤が、2,2’-ジチオジアニリンおよび2,2’-ジチオジアニリンからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明は前記脱硫ゴムを含有するゴム組成物に関し、ゴム組成物中の未加硫ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記脱硫ゴムを1~30質量部含有することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は前記記載のゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
従来の脱硫剤は、加硫ゴムの硫黄架橋部だけでなく、ゴム分子の主鎖をも切断する傾向があるため、脱硫処理後の加硫ゴムを再加硫したとき、引張強さなどの加硫後物性が悪化する傾向があった。
【0013】
本発明に係る脱硫ゴムは、脱硫剤としてアミノ基を有するスルフィド化合物を使用し、これと加硫ゴムとの混合物を混合処理してなるものであるため、良好な加硫後物性を示す。良好な加硫物性が得られる原因としては、脱硫剤が有するアミノ基によって、加硫ゴム中の硫黄架橋部の切断反応が求核的に促進されることによって、選択的に硫黄架橋部の切断が進行しつつ、ゴム分子の主鎖の切断が抑制されることが考えられる。また、選択的に加硫ゴムの硫黄架橋部の切断が進行することに伴い、脱硫ゴムおよび該脱硫ゴムを含有するゴム組成物のムーニー粘度が低下し、加工性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る脱硫ゴムは、下記式(1)~(4)のいずれかに記載の化合物:
【化2】
(R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、酸素原子、またはアルキル基を表す)を含有する脱硫剤と加硫ゴムとを混合処理することにより得られたものである。前記脱硫剤は、式(1)~(4)に記載の各化合物を単独で含有してもよく、式(1)~(4)に記載の各化合物のうち、複数の化合物を含有してもよい。
【0015】
上記式(1)~(4)に記載の化合物として、xが2であるジチオアニリンが好適であり、特に好適には両方のフェニル基中、スルフィド結合に対しオルト位にアミノ基を有する2,2’-ジチオジアニリン、または両方のフェニル基中、スルフィド結合に対しパラ位にアミノ基を有する4,4’-ジチオジアニリンが挙げられる。
【0016】
本発明において使用する脱硫剤としては、上記式(1)~(4)に記載の化合物以外の化合物を含有してもよいが、良好な加硫後物性および加工性を示す脱硫ゴムを得るために、かつ得られた脱硫ゴムの臭気抑制のために、脱硫剤中に占める上記式(1)に記載の化合物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0017】
脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムは、ゴム成分を加硫したものであり、使用済タイヤやその他のゴム製品から生ずる加硫ゴム廃材を好適に使用することができる。加硫ゴムの原料となるゴム成分としては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)などのオレフィン系ゴム、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム、その他ポリウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンなどを含めた合成ゴム類などが挙げられる。
【0018】
加硫ゴムの原料となる硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0019】
脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムとして、ゴム成分および硫黄と共に、必要に応じて加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を適宜配合したゴム組成物を加硫したものが使用可能である。
【0020】
カーボンブラックとしては、当業者に公知のカーボンブラックが使用可能であり、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどが用いられる。脱硫ゴムの原料となる加硫ゴム中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、カーボンブラックの含有量は30~100質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。
【0021】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0022】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0023】
脱硫ゴムの原料となる脱硫剤と加硫ゴムとの配合比率としては、加硫ゴム中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、脱硫剤の配合量を0.5~20質量部とすることが好ましく、1~10質量部とすることがより好ましい。
【0024】
本発明に係る脱硫ゴムは、上記脱硫剤と加硫ゴムとを混合処理することにより得られる。脱硫剤と加硫ゴムとの混合処理方法としては特に限定はないが、脱硫剤と加硫ゴムとを混合しつつ、脱硫剤が加硫ゴムの硫黄架橋部を切断できるように、例えば当業者に公知のロールに脱硫剤と加硫ゴムとを通す方法などが挙げられる。その際、ロール温度は適宜、冷却または加熱してもよい。
【0025】
得られた脱硫ゴムは、再利用する加硫ゴムの硫黄架橋部が選択的に切断されているため、未加硫(未使用)のゴム成分と混合して使用しても、良好な加硫後物性が得られる。ゴム組成物中の未加硫ゴム成分の全量を100質量部としたとき、脱硫ゴムを1~30質量部含有することが好ましい。脱硫ゴムを配合するゴム組成物を構成し得る、ゴム成分、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などは、前記と同様のものが使用可能である。
【0026】
また、脱硫ゴムおよび上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0027】
上記脱硫ゴムを含有するゴム組成物は加工性に優れ、かつ加硫後物性に優れる。したがって、本発明に係る脱硫ゴムおよび該脱硫ゴムを含有するゴム組成物は、多量のゴム部を備える空気入りタイヤ用途に特に好適に使用可能である。
【実施例】
【0028】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0029】
(脱硫ゴムの原料となる加硫ゴムの調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従い、ダイハン社製ラボミキサーを使用し、第一混合段階で、硫黄および加硫促進剤を除く他の配合剤をゴム成分に添加・混練し、次いで、第二混合段階で、得られた混練物に硫黄と加硫促進剤を添加・混練しゴム組成物を調製した。
【0030】
【0031】
表1中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・天然ゴム:STR20
・カーボンブラック:東海カーボン社製「シースト3」
・亜鉛華:三井金属鉱業社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業社製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーNS」
【0032】
前記ゴム組成物を150℃、25分間の条件で加硫することにより、シート状の加硫ゴムを製造し、ロール(関西ロール社製6インチロール)を用いて加硫ゴムを粉砕することにより、粉末状の加硫ゴム(加硫ゴム粉)を調製した。
【0033】
(脱硫ゴムの製造)
前記加硫ゴム粉と脱硫剤とを表2に記載の割合で混合後、ロール表面を25℃に冷却したロール(関西ロール社製6インチロール)を用いて、前記加硫ゴム粉と脱硫剤との混合物を冷却しつつ、最小間隔で40分間、繰り返しロールを通すことにより、実施例1~4および比較例2に係る脱硫ゴムを製造した。なお、比較例1は比較用として、脱硫しないゴムを製造した。
【0034】
【0035】
表2中の各脱硫剤の詳細は、以下のとおりである。
・脱硫剤1(式(1)に記載の化合物):東京化成社製「2,2’-ジチオジアニリン」
・脱硫剤2(式(1)に記載の化合物):東京化成社製「4,4’-ジチオジアニリン」
・脱硫剤3:東京化成社製「ジフェニルジスルフィド」
【0036】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表3の配合処方に従って各成分を配合し、ダイハン社製ラボミキサーを用いて混練し、実施例5~8および比較例3~5のゴム組成物を調整した。
【0037】
表3中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・天然ゴム:STR20
・カーボンブラック:東海カーボン社製「シースト3」
・亜鉛華:三井金属鉱業社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業社製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業社製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーNS」
【0038】
(ゴム組成物の加工性評価(ムーニー粘度測定))
JIS K6300に準拠して(L形ロータ)、予熱1分、測定4分、温度100℃にて測定した。比較例3の値を100とした指数で表示した。数値が小さいほどゴム組成物のムーニー粘度が低く、加工性に優れることを意味する。
【0039】
(脱硫ゴムを含有する加硫ゴムの加硫後物性評価(抗張積および引張強さ測定))
実施例5~8および比較例3~5のゴム組成物について、150℃、25分間の条件で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて以下の試験を行った。
・抗張積:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)で引張り強さおよび破断時伸びを測定し、その積を抗張積とした。比較例3の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど加硫後物性に優れることを意味する。なお、脱硫ゴムを含有するゴム組成物の加硫ゴムは、非脱硫ゴムを含有するゴム組成物の加硫ゴムに比して、破断伸びが大幅に悪化する傾向にある。このため、非脱硫ゴムを含有するゴム組成物の加硫ゴムである比較例3の値(100)に対し、100未満であっても95以上であれば許容できるものとする。
・引裂強さ:JIS K6252に準拠した引裂試験(クレセント形)で引裂強さを測定し、比較例3の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど加硫後物性に優れることを意味する。
【0040】
【0041】
表3の結果から、実施例5~8に係るゴム組成物は加工性に優れ、かつその加硫ゴムは加硫後物性に優れることがわかる。