(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】半導体配線研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250305BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250305BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2020555263
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011996
(87)【国際公開番号】W WO2020196162
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019054531
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】坂西 裕一
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-205348(JP,A)
【文献】特開2009-099819(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と酸化剤と砥粒を含み、
前記酸化剤の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して10~30重量部であり、
前記砥粒の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して10~30重量部である、半導体配線研磨用組成物。
R
1O-(C
3H
6O
2)
n-H (1)
(式中、R
1
は炭素数1~24の炭化水素
基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、
6~10である)
【請求項2】
下記研磨条件で銅板を研磨した後の銅板表面の25℃における水接触角が20°以下である、請求項1に記載の半導体配線研磨用組成物。
[研磨条件]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。
【請求項3】
下記試験条件2で求めたディッシング量(nm)に対する、下記試験条件1で求めた研磨速度(nm/min)の割合[研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)]が10以上である、請求項1又は2に記載の半導体配線研磨用組成物。
[試験条件1]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。研磨終了後、研磨前後の前記銅板の厚みの差から、研磨速度(nm/min)を求める。
[試験条件2]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、表面にトレンチを有する絶縁体層上にバリア層を介して設けられた銅からなる導体層を有する銅パターンウエハに対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、前記バリア層の上面が露出するまで研磨する。研磨後、前記銅パターンウエハ表面の前記トレンチと前記バリア層の上面との段差から、ディッシング量(nm)を求める。
【請求項4】
さらに、アニオン界面活性剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物。
【請求項5】
式(1)で表される化合物の含有量が、0.01~20g/Lである、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物。
【請求項6】
式(1)で表される化合物の重量平均分子量が100~3000である、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物。
【請求項7】
式(1)で表される化合物のHLB値が14以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物。
【請求項8】
前記酸化剤と砥粒の含有量の比(酸化剤/砥粒;重量比)が、20/80~80/20、前記酸化剤と砥粒の合計含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して20~60重量部である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物。
【請求項9】
表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、請求項1~
8のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項10】
表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、請求項1~
8のいずれか1項に記載の半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体配線研磨用組成物に関する。本願は、2019年3月22日に日本に出願した、特願2019-054531号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体配線プロセスにおいては、近年、銅含有金属(例えば、銅、銅合金など)が、配線材料として用いられている。通常、銅含有金属を配線材料として使用する場合には、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下「CMP」と称する場合がある)法を用いる方法等により銅の配線構造は形成される。
【0003】
具体的には、まず、トレンチ(配線溝)を有する半導体ウエハの絶縁体層表面に、TaやTaNなどのタンタル含有化合物により形成されたバリア層を形成する。次いで、銅含有金属からなる導体層を、少なくともトレンチ内が完全に埋まるようにバリア層上に形成する。
【0004】
その後、研磨工程が実施される。最初の研磨工程で導体層の一部が研磨される。続く研磨工程で、導体層をトレンチ以外の箇所のバリア層が露出するまで研磨される。その後トレンチ以外の箇所のバリア層も研磨により除去し、絶縁体層を露出させる。これにより、半導体ウエハに銅の配線部が形成される。
【0005】
前述の半導体配線を形成する用途に用いられる研磨用組成物には、相反する2つの機能が求められる。第一に、迅速に導体層を除去できること、すなわち研磨速度に優れることである。第二に、配線金属面表面のディッシング(皿状のくぼみ)の発生が抑制されていることである。
【0006】
このような研磨用組成物として、HLB値が異なる2種のポリエーテル型ノニオン界面活性剤と研磨粒子を含有するもの(例えば、特許文献1)や、テトラアゾール化合物と酸化剤を含有するもの(例えば、特許文献2)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-49709号公報
【文献】特開2006-49790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1、2に開示された研磨用組成物を用いても、前述の相反する2つの機能を十分に満足するものではなく、依然として改良の余地があった。特に、銅は軟質の金属であるため、研磨時にトレンチ表面の中央部がより深く研磨されてディッシングが発生しやすい。
【0009】
従って、本発明の目的は、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制された半導体配線研磨用組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制された半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、研磨方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制された半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物を含む、半導体配線研磨用組成物によれば、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制されることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物を含む、半導体配線研磨用組成物(以下、「本発明の研磨用組成物」と称する場合がある)を提供する。
R1O-(C3H6O2)n-H (1)
(式中、R1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR2COで表される基を示し、前記R2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
【0012】
前記半導体配線研磨用組成物は、下記研磨条件で銅板を研磨した後の銅板表面の水接触角が20°以下であることが好ましい。
[研磨条件]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。
【0013】
前記半導体配線研磨用組成物は、下記試験条件2で求めたディッシング量(nm)に対する、下記試験条件1で求めた研磨速度(nm/min)の割合[研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)]が10以上であることが好ましい。
[試験条件1]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。研磨終了後、研磨前後の前記銅板の厚みの差から、研磨速度(nm/min)を求める。
[試験条件2]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、表面にトレンチを有する絶縁体層上にバリア層を介して設けられた銅からなる導体層を有する銅パターンウエハに対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、前記バリア層の上面が露出するまで研磨する。研磨後、前記銅パターンウエハ表面の前記トレンチと前記バリア層の上面との段差から、ディッシング量(nm)を求める。
【0014】
前記半導体配線研磨用組成物は、さらに、アニオン界面活性剤を含むことが好ましい。
【0015】
前記半導体配線研磨用組成物は、式(1)で表される化合物の含有量が、0.01~20g/Lであることが好ましい。
【0016】
前記半導体配線研磨用組成物は、式(1)で表される化合物の重量平均分子量が100~3000であることが好ましい。
【0017】
前記半導体配線研磨用組成物は、式(1)で表される化合物のHLB値が14以上であることが好ましい。
【0018】
前記半導体配線研磨用組成物は、さらに、酸化剤を含有し、前記酸化剤の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部であることが好ましい。
【0019】
前記半導体配線研磨用組成物は、さらに、砥粒を含有し、前記砥粒の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部であることが好ましい。
【0020】
前記半導体配線研磨用組成物は、さらに、酸化剤と砥粒を含有し、前記酸化剤と砥粒の含有量の比(酸化剤/砥粒;重量比)が、20/80~80/20、前記酸化剤と砥粒の合計含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して5~100重量部であることが好ましい。
【0021】
本発明は、また、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、前記半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、研磨方法(以下、「本発明の研磨方法」と称する場合がある)を提供する。
【0022】
本発明は、また、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、前記半導体配線研磨用組成物を用いて、研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法(以下、「本発明の半導体デバイスの製造方法」と称する場合がある)を提供する。
【0023】
なお、本明細書において「半導体配線」とは、トレンチ(配線溝)を有する半導体ウエハの絶縁体層表面に、銅含有金属を含む導体層を積層した後、前記トレンチの外側の導体層を除去することにより、トレンチ内に導体層が充填されることにより形成されたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制された半導体配線研磨用組成物が得られる。また、銅板表面の濡れ性に優れ、なじみがよいことから、高い研磨速度が維持される。このため、半導体配線プロセスに、好適に使用することができる。
【0025】
また、本発明の研磨用組成物を用いることにより、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制された、研磨工程を実施することができる。これにより、効率よく高品質の半導体ウエハや半導体デバイスを製造することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ディッシング量を説明するための半導体ウエハの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的態様について説明する。
1.半導体配線研磨用組成物
本発明の研磨用組成物は、半導体配線プロセスに好適に用いることができる研磨用組成物である。本発明の研磨用組成物は、必須成分として下記式(1)で表される化合物(以下、「ポリグリセリン誘導体」と称する場合がある)を含む。
【0028】
(式(1)で表される化合物)
R1O-(C3H6O2)n-H (1)
(式中、R1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR2COで表される基を示し、前記R2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
【0029】
式(1)の括弧内のC3H6O2は、下記式(2)で示される構造のみを有していてもよく、下記式(3)で示される構造のみを有していてもよく、下記式(2)及び(3)で示される両方の構造を有していてもよい。
-CH2-CHOH-CH2O- (2)
-CH(CH2OH)CH2O- (3)
【0030】
前記R1は、1分子中の5~75%が水素原子である。
【0031】
前記R1、R2における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの2個以上が結合してなる基が挙げられる。
【0032】
前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、イソドデシル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、セチル基、イソセチル基、ステアリル基、イソステアリル基などの炭素数1~24(好ましくは5~20、より好ましくは10~20、さらに好ましくは12~18)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、アリル基、ヘキセニル基、2-エチルヘキセニル基、オレイル基などの炭素数2~24(好ましくは10~20、より好ましくは8~18)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;アルカジエニル基、アルカトリエニル基、アルカテトラニエル基、リノレイル基、リノレニル基などの炭素数2~24(好ましくは2~18)の直鎖状又は分岐鎖状アルカポリエニル基;エチニル基、プロピニル基などの炭素数2~24の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基などを挙げることができる。
【0033】
前記アルキル基としては、なかでも、ドデシル基、イソステアリル基などの炭素数8~18(特に好ましくは炭素数8~15、とりわけ好ましくは炭素数10~15)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。また、前記アルケニル基としては、なかでも、ヘキセニル基、オレイル基などの炭素数8~18の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基が好ましい。
【0034】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基などの3~24員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基などの3~24員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基などの橋かけ環式炭化水素基などを挙げることができる。
【0035】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~24(好ましくは6~15)のアリール基を挙げることができる。
【0036】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル置換アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル置換C1-4アルキル基など)などが挙げられる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1~4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが挙げられる。
【0037】
前記R2COで表される基には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ステアロイル基、オレオイル基などの脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが挙げられる。
【0038】
R1としては、なかでも、アルキル基、アシル基、及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、R1としては、直鎖状のアルキル基(なかでもメチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、ステアリル基、特に、メチル基)、脂肪族アシル基(なかでも、アセチル基、ブチル基、ステアロイル基、オレオイル基、特に、アセチル基、オレオイル基)、及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0039】
R1としては、なかでも、ディッシングの発生を抑制しつつ、研磨速度を向上することができる点において、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、特に、炭素数8~18の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、とりわけ、炭素数8~15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0040】
式(1)におけるnは、グリセリンの平均重合度を示す。nの値は、後述する式(1)で表される化合物の製造方法において示されるように、例えば、アルコールとグリシドールからポリグリセリンエーテルを製造する場合には、反応するアルコールと2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、株式会社ダイセル製)のモル比を調製することにより容易に変化させることができる。
【0041】
前記平均重合度nは、例えば2~60、好ましくは2~40、より好ましくは4~20、さらに好ましくは4~10である。nが2以上であると、水溶性が一層向上するため、洗浄性にも優れる。また、被研磨金属表面に対する吸着性が良好で、親水性被膜の形成にも一層優れる。nが60以下であると、良好な親水性を示し、水分散性が一層向上する。不要な泡立ちが抑制され、作業性も一層向上する。なお、本明細書において、ポリグリセリンを構成するグリセリンの平均重合度の算出方法は、特に限定されず、例えば、水酸基価から算出する方法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析法又は液体クロマトグラフ質量分析法等からポリグリセリンの組成を決定し、平均重合度を算出する方法などが挙げられる。
【0042】
前記被研磨金属としては、例えば、銅、銀、金、亜鉛、スズ、パラジウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、チタン、アルミニウム、及びこれらの金属選択される2種以上の金属の合金等が挙げられる。なかでも、銅又は銅合金が好ましい。
【0043】
式(1)における平均重合度nは、なかでも、ディッシングの発生を抑制しつつ、研磨速度を向上することができる点において5~9が好ましく、より好ましくは5~8、特に好ましくは5~7である。
【0044】
式(1)で表される化合物の重量平均分子量は、例えば100~3000である。なかでも、被研磨金属表面に対する吸着性が良好で、親水性被膜の形成に優れる観点から、好ましくは200~3000、より好ましくは200~2000、さらに好ましくは300~2000、最も好ましくは400~1500である。また、上記の観点に加えて、作業性にも優れる点から、さらに好ましくは400~1000、最も好ましくは400~800である。なお本明細書において、重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による。
【0045】
式(1)で表される化合物のHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance)は、分散安定性に優れる観点から、例えば14以上であり、好ましくは14~20、より好ましくは14~18である。なお、上記HLB値は、グリフィン(Griffin)法により算出することができる。
【0046】
本発明における式(1)で表される化合物としては、なかでも、下記式(1-1)~(1-7)で表される化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、特に、下記式(1-1)~(1-4)、(1-6)、及び(1-7)で表される化合物から選択される少なくとも1種が好ましい。
C12H25O-(C3H6O2)4-H (1-1)
C12H25O-(C3H6O2)10-H (1-2)
C18H37-O-(C3H6O2)4-H (1-3)
C18H37-O-(C3H6O2)10-H (1-4)
CH2=CH-CH2-O-(C3H6O2)6-H (1-5)
HO-(C3H6O2)10-H (1-6)
HO-(C3H6O2)20-H (1-7)
【0047】
本発明における式(1)で表される化合物の製造方法として、例えば、[1]アルカリ触媒の存在下、R
1OHで表される化合物(前記R
1は上記に同じ)に、2,3-エポキシ-1-プロパノールを付加重合する方法、[2]ポリグリセリンに、R
1Xで表される化合物(前記Xはハロゲン原子を示す。R
1は上記に同じ。例えば、アルキルハライド、酸ハライド)を反応させる方法、[3]ポリグリセリンに、酸無水物などのカルボン酸の反応性誘導体を反応させる方法、[4]ポリグリセリンに、下記式(4)
【化1】
(式中、R
1は上記に同じ)
で表されるグリシジルエーテル化合物などのポリオールと反応させる方法などが挙げられる。
【0048】
上記[1]の方法で使用するアルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、金属ナトリウム、水素化ナトリウムなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
上記[2]の方法で使用するアルキルハライドとしては、例えば、塩化アルキル、臭化アルキル、ヨウ化アルキルなどを挙げることができる。
【0050】
上記[2]ないし[4]の方法で使用するポリグリセリンとしては、例えば、商品名「PGL 03P(ポリグリセリン3量体)」、「PGL 06(ポリグリセリン6量体)」、「PGL 10PSW(ポリグリセリン10量体)」、「PGL XPW(ポリグリセリン40量体)」(株式会社ダイセル製)などの市販品を好適に使用することができる。
【0051】
上記[4]の方法で使用するポリオールとしては、例えば、2,3-エポキシ-1-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)、グリセリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0052】
本発明の研磨用組成物は、上記式(1)で表される化合物を少なくとも1種含有する。上記式(1)で表される化合物には上述のとおり、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルが挙げられる。従って、本発明の研磨用組成物は、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルから選択される少なくとも1種のポリグリセリン誘導体を含有する。
【0053】
本発明の研磨用組成物は、ポリグリセリン誘導体として、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステル以外にも、例えば、前記化合物に対応するポリグリセリンジエーテルやポリグリセリンジエステルを含有していてもよい。本発明の研磨用組成物において、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルの合計の含有量は、良好な親水性を付与する観点から、本発明の研磨用組成物に含まれるポリグリセリン誘導体全量の75重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。また、ポリグリセリンジエーテル及びポリグリセリンジエステルの合計の含有量は、本発明の研磨用組成物に含まれるポリグリセリン誘導体全量の5重量%以下であることが好ましく、特に1重量%以下であることが好ましい。なお、ポリグリセリン誘導体に含まれる各成分の含有量は、高速液体クロマトグラフィーで各成分を分離し、示差屈折率検出器でピーク面積を算出し、面積比を算出することによって求められる。
【0054】
本発明の研磨用組成物中の、上記式(1)で表される化合物の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、0.01g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.05g/L以上、さらに好ましくは0.1g/L以上、最も好ましくは0.3g/L以上である。上記式(1)で表される化合物の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属に親水性の膜が形成され、研磨速度の過度の低下が一層抑制される。また、上記式(1)で表される化合物の含有量は例えば、20g/L以下であることが好ましく、より好ましくは10g/L以下、さらに好ましくは5g/L以下、最も好ましくは3g/L以下である。上記式(1)で表される化合物の含有量が前記範囲であることにより、研磨力を維持しながらも、ディッシングの発生が一層抑制される。上記式(1)で表される化合物の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全ての上記式(1)で表される化合物の含有量の合計である。
【0055】
(他の成分)
アニオン界面活性剤:
本発明の研磨用組成物は、研磨速度を高く保つとともに、ディッシングの発生を一層抑制する観点から、さらに、アニオン界面活性剤を含むことが好ましい。アニオン界面活性剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0056】
前記アニオン界面活性剤としては、なかでも、下記式(5)及び/又は下記式(6)で表される化合物を含有することが好ましい。
R3-Y1 (5)
R3-X1-Y1 (6)
(式中、但し、R3はアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を示し、X1はポリオキシアルキレン基を示し、Y1はアニオン性官能基を示す)
【0057】
R3におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20(好ましくは5~15、特に好ましくは8~12)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0058】
R3におけるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、オレイル基等の炭素数2~20程度のアルケニル基が挙げられる。
【0059】
R3におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基が挙げられる。前記アリール基には置換基が結合していてもよい。置換基としては、例えば、C1-5アルキル基、C1-5アルコキシ基等が挙げられる。置換基を有するアリール基としては、例えば、トリル基等が挙げられる。
【0060】
Y1のアニオン性官能基は、カルボン酸、リン酸、亜リン酸、硫酸、亜硫酸、スルホン酸、又はそれらの塩の残基であることが好ましく、なかでも、ディッシングの発生を抑制しつつ、研磨速度を向上することができる点において、硫酸残基、亜硫酸残基、スルホン酸残基、又はこれらの塩の残基であることが好ましい。また、上記式(5)又は上記式(6)で表される化合物は、例えば、アンモニウムカチオン、アミン類カチオン、アルカリ金属カチオン(例えば、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオンなど)などのカウンターイオンを含んでいてもよい。なかでも、研磨速度を向上するという観点から、カリウムカチオン、アンモニウムカチオン、及びアミン類カチオンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アンモニウムカチオン又はトリエタノールアミンカチオンがより好ましく、アンモニウムカチオンが最も好ましい。
【0061】
上記式(6)中のX1におけるポリオキシアルキレン基は、例えば[(OR4)t]で表される。前記R4は炭素数1~4のアルキレン基(好ましくは、炭素数2~4のアルキレン基)を示す。また、前記tはオキシアルキレン基(OR4)の平均繰り返し数である。t個のR4は同一であっても、異なっていてもよい。
【0062】
前記ポリオキシアルキレン基としては、具体的には、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)基等が挙げられる。
【0063】
前記平均繰り返し数tは、特に限定されないが、例えば6以下の数である。前記平均繰り返し数tの上限値は、好ましくは4であり、より好ましくは3、特に好ましくは2.5、最も好ましくは2である。前記平均繰り返し数tの下限値は、例えば0.5、好ましくは1である。前記平均繰り返し数tが前記範囲であることにより、導体層における配線エッジ部の金属腐食(「スリット」と呼ばれる)の発生を一層抑制する。
【0064】
本発明の研磨用組成物がアニオン界面活性剤を含む場合、被研磨金属表面に親水性被膜を形成するメカニズムは次のように推測される。なお、本発明のメカニズムは次の推測に限定されるものではない。
【0065】
本発明の研磨用組成物に含まれるポリグリセリン誘導体は、前記アニオン界面活性剤により被研磨金属表面に形成された保護膜の疎水表面に吸着して保護膜を形成する作用を有する。ポリグリセリン誘導体の疎水性部分はアニオン界面活性剤による保護膜の疎水表面に結合し、ポリグリセリン誘導体の親水性部分はアニオン界面活性剤による保護膜の疎水表面とは反対側に位置している。そのため、アニオン界面活性剤による保護膜の疎水表面の上に形成されるポリグリセリン誘導体による保護膜の表面は親水性を有している。アニオン界面活性剤による保護膜の疎水表面の上にポリグリセリンによる保護膜(親水性被膜)が形成されると、被研磨面表面との親和性が向上し、本発明の研磨用組成物による被研磨面表面の研磨速度が向上する。その結果、本発明の研磨用組成物による被研磨金属表面の研磨速度は、アニオン界面活性剤の使用によっても過度の低下が抑制される。
【0066】
本発明の研磨用組成物がアニオン界面活性剤を含む場合、本発明の研磨用組成物中の、アニオン界面活性剤の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、0.01g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.03g/L以上、さらに好ましくは0.05g/L以上、さらにより好ましくは0.08g/L以上、最も好ましくは0.1g/L以上である。アニオン界面活性剤の含有量が前記範囲であることにより、過剰な研磨を抑制するのに十分な保護膜が被研磨金属表面に形成され、ディッシング発生を一層抑制する。また、アニオン界面活性剤の含有量は例えば、10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下、さらにより好ましくは0.5g/L以下、最も好ましくは0.3g/L以下である。アニオン界面活性剤の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属表面に形成される保護膜が適度な厚さとなり、研磨速度が一層良好に維持される。前記アニオン界面活性剤の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全てのアニオン界面活性剤の含有量の合計である。
【0067】
前記アニオン界面活性剤の含有量は、式(1)で表される化合物1重量部に対して、例えば0.05~1.00重量部、好ましくは0.1~0.8重量部、特に好ましくは0.2~0.5重量部である。
【0068】
保護膜形成剤:
本発明の研磨用組成物は、ディッシングの発生を一層抑制する観点から、さらに、保護膜形成剤を含むことが好ましい。前記保護膜形成剤は、被研磨面表面に吸着して保護膜を形成する作用を有する。この保護膜形成剤による保護膜の表面は疎水性を有している。前記保護膜が形成されると、被研磨金属表面との間の親和性が低下し、研磨速度が低下する。その結果、高速で研磨した場合であっても、被研磨金属表面の過剰な除去が抑制され、ディッシングの発生が一層抑制される。なお、前記保護膜形成剤には、前述のポリグリセリン誘導体や、アニオン界面活性剤は含まれないものとする。前記保護膜形成剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0069】
前記保護膜形成剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体が挙げられる。ベンゾトリアゾール誘導体は、ベンゾトリアゾールの五員環に結合している水素原子が他の原子団で置換されたものである。なかでも、本発明の研磨用組成物において、ディッシングの発生をより効果的に抑制するという観点から、ベンゾトリアゾールであることが好ましい。
【0070】
ベンゾトリアゾールによる保護膜は、ベンゾトリアゾールの五員環部分が被研磨金属表面に結合し、ベンゾトリアゾールのベンゼン環部分が被研磨金属(銅又は銅合金)表面とは反対側に位置する結果、表面が疎水性を有している。ベンゾトリアゾール誘導体による保護膜は、ベンゾトリアゾール誘導体の五員環部分が被研磨面表面に結合し、ベンゾトリアゾール誘導体のベンゼン環部分が被研磨金属の表面とは反対側に位置する結果、表面が疎水性を有している。
【0071】
本発明の研磨用組成物が保護膜形成剤を含む場合、本発明の研磨用組成物中の、保護膜形成剤の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、0.001g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.01g/L以上である。前記保護膜形成剤の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属表面の過剰な研磨を強く抑制するのに十分な保護膜が被研磨金属表面に形成され、ディッシングの発生を一層効果的に抑制する。また、前記保護膜形成剤の含有量は例えば、1g/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.2g/L以下である。保護膜形成剤の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属表面に形成される保護膜が適度な厚さとなり、研磨速度が一層良好に維持される。前記保護膜形成剤の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全ての保護膜形成剤の含有量の合計である。
【0072】
酸化剤:
本発明の研磨用組成物は、研磨速度を一層向上させる観点から、さらに酸化剤を含むことが好ましい。前記酸化剤は、被研磨金属を酸化させる作用を有し、本発明の研磨用組成物による研磨速度を一層向上させる働きを有する。前記酸化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0073】
前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素や過硫酸アンモニウムなどの過酸化物が挙げられる。なかでも、前記酸化剤に由来する被研磨金属表面の金属汚染を低減するという観点から、過酸化水素が好ましい。
【0074】
本発明の研磨用組成物が酸化剤を含む場合、本発明の研磨用組成物中の、酸化剤の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは3g/L以上、最も好ましくは5g/L以上である。前記酸化剤の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属に対する研磨速度が一層大きく向上させることができる。また、前記酸化剤の含有量は例えば、30g/L以下であることが好ましく、より好ましくは20g/L以下、最も好ましくは15g/L以下である。前記酸化剤の含有量が前記範囲であることにより、ディッシングの発生を一層強く抑制することができる。前記酸化剤の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全ての酸化剤の含有量の合計である。
【0075】
本発明の研磨用組成物が酸化剤を含む場合、酸化剤の含有量は、式(1)で表される化合物1重量部に対して、例えば1~50重量部、好ましくは2~40重量部、特に好ましくは5~30重量部、最も好ましくは10~30重量部である。
【0076】
式(1)で表される化合物と酸化剤を上記範囲で含有すると、式(1)で表される化合物が、被研磨金属の表面を被覆して保護することで、酸化剤による化学的研磨作用を和らげることができ、被研磨金属表面に、ディッシング(皿状のくぼみ)が発生するのを防止することができる。
【0077】
エッチング剤:
本発明の研磨用組成物は、研磨速度を一層向上させる観点から、さらにエッチング剤を含むことが好ましい。前記エッチング剤は、被研磨金属をエッチングする作用を有し、本発明の研磨用組成物による研磨速度を一層向上させる働きを有する。前記エッチング剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0078】
前記エッチング剤としては、例えば、グリシン、アラニン、バリンなどのα-アミノ酸を挙げることができる。なかでも、被研磨金属に対する研磨速度を一層大きく向上させる観点から、グリシンが好ましい。
【0079】
本発明の研磨用組成物がエッチング剤を含む場合、本発明の研磨用組成物中の、エッチング剤の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、0.5g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは3g/L以上、最も好ましくは5g/L以上である。前記エッチング剤の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属に対する研磨速度が一層大きく向上させることができる。また、前記エッチング剤の含有量は例えば、50g/L以下であることが好ましく、より好ましくは30g/L以下、さらに好ましくは20g/L以下、最も好ましくは15g/L以下である。前記エッチング剤の含有量が前記範囲であることにより、ディッシングの発生を一層強く抑制することができる。前記エッチング剤の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全てのエッチング剤の含有量の合計である。
【0080】
砥粒:
本発明の研磨用組成物は、研磨速度を一層向上させる観点から、さらに砥粒を含むことが好ましい。前記砥粒は、被研磨金属を機械的に研磨する役割を担い、本発明の研磨用組成物による研磨速度を一層向上させる働きを有する。前記砥粒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0081】
前記砥粒としては、例えば、シリカ(沈降シリカ、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、合成シリカ)、セリア、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、酸化マンガン、ダイヤモンドなどが挙げられる。なかでも、研磨後の被研磨金属の表面欠陥を低減するという観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0082】
前記砥粒の平均一次粒子径は、例えば、3nm以上であることが好ましく、より好ましくは5nm以上、最も好ましくは8nm以上である。前記砥粒の平均一次粒子径が、上記下限値以上であると、研磨速度は効果的に向上させることができる。また前記砥粒の平均一次粒子径は、例えば、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、最も好ましくは50nm以下である。前記砥粒の平均一次粒子径が、上記上限値以下であると、本発明の研磨用組成物内で砥粒が沈降することを防ぐことができる。なお、前記砥粒の平均一次粒子径は、BET法により測定される砥粒の比表面積から算出される。
【0083】
本発明の研磨用組成物が砥粒を含む場合、本発明の研磨用組成物中の、砥粒の含有量(g/L)は、特に限定されないが、例えば、0.5g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上、最も好ましくは5g/L以上である。前記砥粒の含有量が前記範囲であることにより、被研磨金属に対する研磨速度を一層大きく向上させることができる。また、前記砥粒の含有量は例えば、100g/L以下であることが好ましく、より好ましくは50g/L以下、最も好ましくは20g/L以下である。前記砥粒の含有量が前記範囲であることにより、ディッシングの発生を一層強く抑制することができる。前記砥粒の含有量は、本発明の研磨用組成物中の全ての砥粒の含有量の合計である。
【0084】
本発明の研磨用組成物が砥粒を含む場合、砥粒の含有量は、式(1)で表される化合物1重量部に対して、例えば1~50重量部、好ましくは2~40重量部、特に好ましくは5~30重量部、最も好ましくは10~30重量部である。
【0085】
式(1)で表される化合物と砥粒を上記範囲で含有すると、式(1)で表される化合物が砥粒の表面を被覆することで、砥粒の凝集を抑制し、砥粒の分散性を高める効果を発揮する。これにより、砥粒の凝集体が被研磨金属の表面に接触して、ディッシング(皿状のくぼみ)を発生させるのを防止することができる。
【0086】
本発明の研磨用組成物はさらにまた、砥粒を上述の酸化剤と共に含有することが、式(1)で表される化合物が砥粒の凝集を抑制し、砥粒の分散性を高める効果を発揮すると共に、酸化剤による研磨速度向上効果が得られ、ディッシングの発生を抑制しつつ、研磨速度を向上することができる点において好ましい。
【0087】
本発明の研磨用組成物中の砥粒と酸化剤の合計含有量(g/L)は、例えば1g/L以上、好ましくは5g/L以上、特に好ましくは10g/L以上、最も好ましくは15g/L以上である。砥粒と酸化剤の合計含有量の上限値は、例えば50g/L、好ましくは40g/L、最も好ましくは30g/Lである。
【0088】
砥粒と前記酸化剤の合計含有量は、式(1)で表される化合物1重量部に対して例えば5~100重量部、好ましくは10~80重量部、特に好ましくは20~60重量部、最も好ましくは30~50重量部である。
【0089】
砥粒の含有量は、酸化剤1重量部に対して、0.1~10重量部含有することが好ましく、好ましくは0.5~5重量部、特に好ましくは0.5~3重量部、最も好ましくは0.5~2重量部である。
【0090】
砥粒と酸化剤の含有量の比(酸化剤/砥粒;重量比)は、例えば20/80~80/20、好ましくは30/70~70/30、特に好ましくは40/60~60/40である。
【0091】
その他の成分:
本発明の研磨用組成物には、本発明の効果が妨げられない範囲において、さらに他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、水、pH調整剤、アルコール類、キレート類などが挙げられる。なお、本発明の研磨用組成物において、水は通常、純水が用いられ、なかでも、超純水が好ましい。超純水とは、不純物含有量が0.01μg/L以下の水をいうものとする。なお本明細書における「純水」には、超純水も包含されるものとする。
【0092】
本発明の研磨用組成物の水接触角:
本発明の研磨用組成物を用いて、下記研磨条件で銅板を研磨した後の銅板表面の25℃における水接触角が20°以下であることが好ましく、より好ましくは18°以下であり、さらに好ましくは16°以下である。本発明の研磨用組成物は、上記特性を有することにより、被研磨金属表面の濡れ性を制御し、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制するという、相反する2つの性能を兼ね備える効果に一層優れる。
[研磨条件]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。
【0093】
前記銅板の純度は、99.9%以上が好ましく、99.99%以上がより好ましく、99.999%以上がさらに好ましい。このような銅板としては、例えば、市販の銅ブランケットウエハを利用することができる。
【0094】
上記研磨後の銅板表面と水との接触角は、接触角計を用いて測定することができる。水接触角の測定方法として、液滴法、転落法などが挙げられ、特に限定されない。市販の接触角計としては、例えば、CA-X型接触角計(協和界面科学株式会社製)などが挙げられる。
【0095】
本発明の研磨用組成物の研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)の割合;
本発明の研磨用組成物は、下記試験条件2で求めたディッシング量(nm)に対する、下記試験条件1で求めた研磨速度(nm/min)の割合[研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)]は10以上が好ましく、より好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上である。上記ディッシング量に対する研磨速度の割合が10以上であることにより、高い研磨速度を維持しながらも、ディッシングの発生を抑制する効果に一層優れる。
[試験条件1]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。研磨終了後、研磨前後の前記銅板の厚みの差から、研磨速度(nm/min)を求める。
[試験条件2]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、表面にトレンチを有する絶縁体層上にバリア層を介して設けられた銅からなる導体層を有する銅パターンウエハに対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、前記バリア層の上面が露出するまで研磨する。研磨後、前記銅パターンウエハ表面の前記トレンチと前記バリア層の上面との段差から、ディッシング量(nm)を求める。
【0096】
上記試験条件1で測定される研磨速度は、迅速に研磨する観点から、500nm/min以上であることが好ましく、より好ましくは600nm/min以上、さらに好ましくは700nm/min以上である。一般的には、初期の導体層の厚みは、1000nm程度であるので、研磨速度は500nm/min以上であると、半導体ウエハ1枚あたりの加工時間が2分以内となり、実用的である。
【0097】
上記試験条件2で測定されるディッシング量は、ディッシングが抑制された高品質な半導体ウエハを製造する観点から、50nm以下が好ましく、より好ましくは40nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。
【0098】
本発明の研磨用組成物のpH:
本発明の研磨用組成物の25℃におけるpHは、特に限定されないが、被研磨金属の表面に対する吸着作用に一層優れる観点から、中性付近から酸性であることが好ましい。具体的には、被研磨金属表面に対する吸着作用に一層優れ、良好な保護膜を形成させる観点から、pHは2以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、最も好ましくは6以上である。また、本発明の研磨用組成物の保存安定性を一層向上させ、保護膜を安定的に形成させる観点から、pHは10以下であることが好ましく、より好ましくは9以下、最も好ましくは8.5以下である。ここで、25℃におけるpHとは、市販のpHメータを用いて測定することができ、電極を本発明の研磨用組成物に浸漬し1分後の数値をいうものとする。
【0099】
次に本発明の研磨用組成物の製造方法の一例について説明する。
【0100】
本発明の研磨用組成物の製造方法の一例は、何ら制限されず、例えば、式(1)で表される化合物を、他の成分(例えば、アニオン界面活性剤、保護膜形成剤、酸化剤、エッチング剤、砥粒、pH調整剤など)とともに、水と適宜混合することによって調製することができる。
【0101】
上記のとおり説明した本発明の研磨用組成物の各成分の含有量は、使用時における含有量である。このため、本発明の研磨用組成物は、用時調製することができる形態(以降、「本発明の研磨用組成物調製用材料」と称する場合がある)の状態で供給されてもよい。
【0102】
本発明の研磨用組成物調製用材料は、例えば水で希釈することにより、本発明の研磨用組成物を調製することができる材料である。本発明の研磨用組成物調製用材料は、溶液状、乳液状、懸濁状など、種々の液状の形態とすることができ、またそれを固形化若しくは半固形化した、又は封入した、ゲル状、カプセル状、又は粉末状、粒子状、顆粒状などの種々の形態とすることができる。
【0103】
本発明の研磨用組成物調製用材料が、溶液状(濃縮液)の場合、希釈倍率は特に限定されないが、流通コストや保管スペースの削減の観点から、2倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、50倍以上がさらに好ましい。
【0104】
本発明の研磨用組成物調製用材料が、溶液状(濃縮液)の場合、本発明の研磨用組成物調製用材料100重量%に対して、上記式(1)で表される化合物の含有量は、例えば、3重量%以上が好ましく、より好ましくは15重量%以上である。また上記含有量の下限値は、75重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。上記下限値以上であると、流通コストや保管スペースの削減により優れる。また上記上限値以下であると、取扱い性(調製のしやすさ)により優れる。
【0105】
本発明の研磨用組成物調製用材料は、上記水に、上記式(1)で表される化合物を含有させる工程を含む以外は、公知の液剤、固形剤、半固形剤、ゲル剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの製造方法に従って製造することができる。
【0106】
以上説明した本発明の研磨用組成物は、以下に詳述する半導体デバイスの製造方法及び研磨方法に好適に用いることができる。
【0107】
本発明の半導体デバイスの製造方法及び半導体ウエハの研磨方法:
本発明の研磨用組成物は、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、研磨する工程を含む、研磨方法(本発明の研磨方法)や、前記工程を含む半導体デバイスの製造方法(本発明の半導体デバイスの製造方法)に好適に用いることができる。
【0108】
本発明の研磨方法において研磨が施される被研磨体である半導体ウエハは、表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有している。前記導体層は、銅含有金属(例えば、銅、銅合金など)から形成される。また、前記導体層と絶縁体層の間には、銅含有金属の拡散を防ぐ目的のバリア層が存在する。前記トレンチの幅(配線の太さを示す)は特に限定されない。前記バリア層を構成するバリア金属材料としては、低抵抗の金属材料、例えば、TiN、TiW、Ta、TaN、W、WNなどを挙げることができる。なかでも、バリア性能に優れる観点から、Ta、TaNが好ましい。
【0109】
通常、半導体配線プロセスにおいては、最初の研磨工程で導体層の一部が研磨される。続く研磨工程(いわゆる仕上げ研磨)で、トレンチ内以外の箇所のバリア層が露出するまで導体層が研磨される。次いで最後に、トレンチ以外の箇所のバリア層も研磨により除去し、絶縁体層を露出させる。これにより、半導体ウエハに銅含有金属の配線部(すなわち、トレンチ内に導体層が充填されたもの)が形成される。特に、本発明の研磨用組成物は、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が抑制されることから、上記の仕上げ研磨用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0111】
式(1)で表される化合物(ポリグリセリン誘導体)を、以下のとおり製造した。
【0112】
(製造例1)
ラウリルアルコール1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、株式会社ダイセル製)を4mol付加して、ポリグリセリン誘導体(A1)(C12H25O-(C3H6O2)4-H、分子量:482)を得た。
【0113】
(製造例2)
2,3-エポキシ-1-プロパノールの使用量を10molに変更した以外は製造例1と同様にして、ポリグリセリン誘導体(A2)(C12H25O-(C3H6O2)10-H、分子量:926)を得た。
【0114】
(製造例3)
2,3-エポキシ-1-プロパノールの使用量を6molに変更した以外は製造例1と同様にして、ポリグリセリン誘導体(A3)(C12H25O-(C3H6O2)6-H、分子量:630)を得た。
【0115】
(製造例4)
イソステアリルアルコール1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、株式会社ダイセル製)を10mol付加して、ポリグリセリン誘導体(A4)(C18H37O-(C3H6O2)10-H、分子量:1010)を得た。
【0116】
(製造例5)
グリセリン1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、株式会社ダイセル製)を9mol付加して、ポリグリセリン誘導体(A5)(HO-(C3H6O2)10-H、分子量:758)を得た。
【0117】
また、比較例製造例として、式(1)に示す構造を有さない化合物を、以下のとおり製造した。
【0118】
(比較製造例1)
エチレングリコール1molに、エチレンオキシドを48mol付加した後、プロピレンオキシドを38mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(A6)(分子量:4378)を得た。
【0119】
(比較製造例2)
エチレングリコール1molに、エチレンオキシドを32mol付加した後、プロピレンオキシドを20mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(A7)(分子量:2630)を得た。
【0120】
(比較製造例3)
ラウリルアルコール1molに、エチレンオキシドを10mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(A8)(分子量:626)を得た。
【0121】
(比較製造例4)
ラウリルアルコール1molに、エチレンオキシドを20mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(A9)(分子量:1066)を得た。
【0122】
上記製造例、比較製造例で得た化合物を用い、表1に記載の各成分を適宜に水と混合することにより実施例(実施例1と実施例5は参考例とする)及び比較例の研磨用組成物を調製した。
【0123】
実施例及び比較例で得られた研磨用組成物について、下記評価を行った。なお、各研磨用組成物のpHは表1に示すとおりである。
【0124】
(研磨試験)
以下の条件で研磨を行い、(1)水接触角、(2)研磨速度、及び(3)ディッシング量の評価を行った。
・研磨装置:片面CMP用研磨機Mirra(アプライドマテリアルズ社製)
・被研磨体:(1)水接触角評価用:直径200mmの銅ブランケットウエハ
(2)研磨速度評価用:直径200mmの銅ブランケットウエハ
(3)ディッシング量評価用:銅パターンウエハ(854マスクパターン)
(SEMATECH社製)
・研磨パッド:ポリウレタン積層パッドIC-1000/SubaIV
(ロームアンドハース社製)
・研磨圧力:13.8kPa
・研磨定盤回転数:100rpm
・研磨用組成物の供給速度:200mL/min
・キャリア回転数:100rpm
【0125】
(評価方法)
(1)水接触角
水接触角は、前記被研磨体(1)の銅ブランケットウエハを60秒間研磨後のウエハ表面の水接触角を、ウエハ洗浄処理評価装置「CA-X200」(協和界面化学株式会社製)を用いて求めた。なお、水接触角の測定は、研磨後の各ウエハの表面を純水でリンスしてから実施した。
(2)研磨速度
研磨速度は、前記被研磨体(2)の銅ブランケットウエハを60秒間研磨し、研磨前後の各ウエハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。各ウエハの厚みの測定には、シート抵抗測定機「VR-120」(国際電気システムサービス株式会社製)を使用した。
(3)ディッシング量
ディッシング量は、前記被研磨体(3)の銅パターンウエハの研磨量を評価した。具体的には、前記被研磨体(3)の銅パターンウエハは、表面にトレンチを有する二酸化ケイ素製の絶縁体層の上にタンタル製のバリア層及び厚さ1000nmの銅製の導体層が順に設けられてなり、深さ500nmの初期凹部を上面に有している。前記(3)の銅パターンウエハを、実施例及び比較例の研磨用組成物を用いて研磨する前に、市販の研磨材(商品名「PLANERLITE-7105」、株式会社フジミインコーポレーテッド製)を用いて、導体層の厚さが300nmになるまで上記研磨条件で予備研磨した。続いて、実施例及び比較例の研磨用組成物を用いて、予備研磨後の前記被研磨体(3)の銅パターンウエハをバリア層の上面が露出するまで、上記研磨条件で研磨した。研磨後、
図1に示すように、前記(3)銅パターンウエハ表面のトレンチ11内の導体層14とバリア層13の上面との段差から、ディッシング(D)量(nm)を、接触式表面測定装置「プロファイラHRP340」(ケーエルエー・テンコール社製)を用いて、測定した。以上の(1)~(3)の評価結果を表1に示す。
【0126】
(ポットライフ)
調製直後の実施例及び比較例の各研磨用組成物と、調製後に25℃の恒温槽中に14日間静置した実施例及び比較例の各研磨用組成物と、をそれぞれ用いて、前記被研磨体(2)の銅ブランケットウエハを前記の研磨試験条件で研磨した。その後、研磨前後の各ウエハの厚みの差を研磨時間で除することにより研磨速度を算出し、調製直後の研磨用組成物における研磨速度と、25℃、14日間保管後の研磨用組成物における研磨速度とを比較して、各研磨用組成物のポットライフを下記基準に基づき評価した。ポットライフにより、本発明の研磨用組成物の性能が所定時間保存後も安定的に維持されているか否かを評価できる。結果を表1に示す。
【0127】
評価基準:
○(良):研磨速度の低下率が10%以下
△(やや不良):研磨速度の低下率が10%超
【0128】
【0129】
(結果の評価)
表1に示されるように、実施例の研磨用組成物は、研磨速度に優れるとともに、ディッシングの発生が顕著に抑制されていた。つまり2つの相反する機能を兼ね備えていることが明らかとなった。一方、比較例の研磨用組成物は、研磨速度及びディッシングのうち、いずれか一つに関して実用上満足できる結果が得られなかった。特に比較例においては、[研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)]の割合が、全て10未満であり、研磨速度に比例して、ディッシング量も大きくなっていることが明らかとなった。
【0130】
表に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0131】
<アニオン界面活性剤>
(B1):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が2であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム
(B2):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が1.5であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン
(B3):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が2であるポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホン酸アンモニウム
(B4):ラウリルスルホン酸アンモニウム
(B5):ラウリルベンゼンスルホン酸アンモニウム
(B6):ラウリル硫酸アンモニウム
(B7):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が4であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸
(B8):オレイン酸カリウム
(B9):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が2であるポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸カリウム
(B10):オキシエチレン単位の平均繰り返し数が2であるポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸アンモニウム
<保護膜形成剤>
(C1):ベンゾトリアゾール
<酸化剤>
(D1):過酸化水素
<エッチング剤>
(E1):グリシン
<砥粒>
(F1):コロイダルシリカ、平均一次粒子径30nm
<pH調整剤>
(G1):水酸化カリウム
【0132】
以上のまとめとして本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 下記式(1)で表される化合物を含む組成物。
R1O-(C3H6O2)n-H (1)
(式中、R1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR2COで表される基を示し、前記R2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
[2] 式(1)で表される化合物の含有量が0.01~20g/Lである、[1]に記載の組成物。
[3] 式(1)で表される化合物の重量平均分子量が100~3000である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 式(1)で表される化合物のHLB値が14以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5] 式(1)で表される化合物が、下記式(1’)で表される化合物である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の組成物。
R1O-(C3H6O2)n-H (1’)
(式中、R1は、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数8~18の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、5~8である)
[6] さらに、アニオン界面活性剤を含む[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
[7] アニオン製界面活性剤が、下記式(6’)で表される化合物である、[6]に記載の組成物。
R3-X1-Y1 (6’)
(式中、但し、R3は炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示し、X1はポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基を示し、Y1は硫酸、亜硫酸、スルホン酸、又はこれらの塩の残基を示す)
[8] 下記式(6’)で表される化合物を、式(1)で表される化合物1重量部に対して0.05~1.00重量部含有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
R3-X1-Y1 (6’)
(式中、但し、R3は炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示し、X1はポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基を示し、Y1は硫酸、亜硫酸、スルホン酸、又はこれらの塩の残基を示す)
[9] さらに、酸化剤を含有し、前記酸化剤の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10] さらに、過酸化物を含有し、前記過酸化物の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[11] さらに、砥粒を含有し、前記砥粒の含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[12] さらに、シリカを含有し、前記シリカの含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して1~50重量部である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[13] さらに、酸化剤と砥粒を含有し、前記酸化剤と砥粒の含有量の比(酸化剤/砥粒;重量比)が、20/80~80/20、前記酸化剤と砥粒の合計含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して5~100重量部である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[14] さらに、過酸化物及び/又はシリカを含有し、前記酸化剤と砥粒の合計含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して5~100重量部である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[15] さらに、過酸化物とシリカを含有し、前記過酸化物とシリカの含有量の比(過酸化物/シリカ;重量比)が、20/80~80/20、前記酸化剤と砥粒の合計含有量が、式(1)で表される化合物1重量部に対して5~100重量部である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[16] 下記研磨条件で銅板を研磨した後の銅板表面の25℃における水接触角が20°以下である、[1]~[15]のいずれか1つに記載の組成物。
[研磨条件]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。
[17] 下記試験条件2で求めたディッシング量(nm)に対する、下記試験条件1で求めた研磨速度(nm/min)の割合[研磨速度(nm/min)/ディッシング量(nm)]が10以上である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の組成物。
[試験条件1]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、かつ銅板に対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、60秒間研磨する。研磨終了後、研磨前後の前記銅板の厚みの差から、研磨速度(nm/min)を求める。
[試験条件2]
研磨装置を用い、ポリウレタン積層研磨パッドに、前記研磨用組成物を供給速度200mL/minで供給し、表面にトレンチを有する絶縁体層上にバリア層を介して設けられた銅からなる導体層を有する銅パターンウエハに対して、研磨圧力13.8kPaをかけながら、研磨定盤及びキャリアをともに100rpmで回転させ、前記バリア層の上面が露出するまで研磨する。研磨後、前記銅パターンウエハ表面の前記トレンチと前記バリア層の上面との段差から、ディッシング量(nm)を求める。
[18] 半導体配線研磨用組成物である、[1]~[17]のいずれか1つに記載の組成物。
[19] [1]~[18]のいずれか1つに記載の組成物の半導体配線研磨用組成物としての使用。
[20] [1]~[18]のいずれか1つに記載の組成物を使用して、半導体配線研磨用組成物を製造する方法。
[21] 表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、[1]~[18]のいずれか1つに記載の組成物を用いて、研磨する工程を含む、研磨方法。
[22] 表面にトレンチを有する絶縁体層と、前記絶縁体層表面に形成された導体層とを有する半導体ウエハを、[1]~[18]のいずれか1つに記載の組成物を用いて、研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0133】
1 半導体ウエハ
11 トレンチ
12 絶縁体層
13 バリア層
14 導体層
D ディッシング量