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  • 特許-金属張積層体及びプリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】金属張積層体及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20250305BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250305BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B15/08 J
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
C08F20/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021016709
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119521
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】長田 一人
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016865(JP,A)
【文献】特開2020-055299(JP,A)
【文献】特開2018-140544(JP,A)
【文献】特開2017-025228(JP,A)
【文献】特開2020-122189(JP,A)
【文献】特開2019-121731(JP,A)
【文献】特開2018-145519(JP,A)
【文献】特開2020-045385(JP,A)
【文献】特開2004-263099(JP,A)
【文献】特開2007-099893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C09J
H05K1/034
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂硬化物と、前記樹脂硬化物に接して積層された金属層とを含む、金属張積層体であって、
前記樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を含み、
前記樹脂硬化物は、比誘電率3.3以下、及び誘電正接0.003以下を有し、
前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisが2.0μm以下であり、
前記金属層の、少なくとも片方の表面の要素平均長さR sm が9.0μm以上である、金属張積層体。
【請求項2】
樹脂硬化物と、前記樹脂硬化物に接して積層された金属層とを含む、金属張積層体であって、
前記樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を含み、
前記樹脂硬化物は、比誘電率3.3以下、及び誘電正接0.003以下を有し、
前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisが2.0μm以下であり、
重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物が、下記一般式(1):
【化1】
{式中、R 1 は、水素原子、又は1価の炭化水素基を表し、R 2 は、水素原子、メチル基、又はエチル基であり、Xは、下記一般式(X-1):
【化2】
(式中、R 3 は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)若しくは下記式(X-2):
【化3】
で表される1,2,4-トリアゾール構造、又は下記一般式(X-3):
【化4】
(式中、R 4 は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)で表されるテトラゾール構造であり、そしてYは、硫黄原子、又はNH基である。}
で表される化合物である、金属張積層体。
【請求項3】
樹脂硬化物と、前記樹脂硬化物に接して積層された金属層とを含む、金属張積層体であって、
前記樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を含み、
前記樹脂硬化物は、比誘電率3.3以下、及び誘電正接0.003以下を有し、
前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisが2.0μm以下であり、
前記樹脂硬化物が、エラストマーに由来する構造部位を含み、
前記エラストマーが、ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物、並びにビニル芳香族化合物の単独重合体、から成る群から選択される少なくとも1種であり、かつ
前記ブロック共重合体又はその水素添加物の前記ビニル芳香族化合物由来の単位の含有率が20質量%以上である、金属張積層体。
【請求項4】
前記金属層の、少なくとも片方の表面の要素平均長さRsmが5.0μm以上である、請求項2又は3に記載の金属張積層体。
【請求項5】
前記金属層の、少なくとも片方の表面の要素平均長さRsmが5.0μm以上、100.0μm以下である、請求項2~4のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項6】
重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物が、1,2,4-トリアゾール構造又はテトラゾール構造を有する、請求項1、3~5のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項7】
前記樹脂硬化物が、エラストマーに由来する構造部位を含み、
前記エラストマーが、ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物、並びにビニル芳香族化合物の単独重合体、から成る群から選択される少なくとも1種であり、かつ
前記ブロック共重合体又はその水素添加物の前記ビニル芳香族化合物由来の単位の含有率が20質量%以上である、請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項8】
前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の静摩擦係数が0.38μs以上、0.50μs以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項9】
前記樹脂硬化物が、2つ以上の末端硬化性官能基を有するポリフェニレンエーテルが架橋してなる架橋構造を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項10】
前記樹脂硬化物が、架橋剤が架橋してなる架橋構造を更に有する、請求項に記載の金属張積層体。
【請求項11】
ガラスクロスをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属張積層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の金属張積層体を含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属張積層体及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報ネットワーク技術の進歩、及び情報ネットワークを活用したサービスの拡大に伴い、電子機器に情報量の大容量化及び処理速度の高速化が求められている。これらの要求に応えるために、プリント配線板等の基板用材料には、従来求められていた耐熱性、難燃性、金属箔とのピール強度等の特性に加え、低誘電率化・低誘電正接化が求められている。このため、プリント配線板等の基板用に用いられる樹脂組成物の更なる改良が検討されている。特に、高周波伝送用途のプリント配線板では、処理速度の高速性を維持するために、上記の各特性が高度に両立されている必要がある。
【0003】
特許文献1は、多層プリント配線板において導体層との密着性に優れる硬化物の形成を可能にする樹脂組成物として、エポキシ化合物(A)と、トリアゾール化合物(B)と、特定構造の第3級アミン化合物(C)とを含む硬化性樹脂組成物を記載する。
また、特許文献2は、多層プリント配線板に用いられる、導体との接着性が高く電気特性に優れる硬化性樹脂フィルムとして、(a)ポリフェニレンエーテル樹脂とトリアリルイソシアヌレートおよび/またはトリアリルシアヌレートとを含む樹脂組成物から形成される層、並びに(b)ガラス転移温度が200℃以下であって、かつ酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種の原子と芳香環とを含有する化合物または高分子化合物から形成される層の二層を少なくとも有し、かつ該フィルムの少なくとも片方の最外層が上記(b)の層で形成されている硬化性樹脂フィルムを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/088358号
【文献】特開2001-298275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載される硬化性樹脂組成物及び硬化性樹脂フィルムは、樹脂硬化物と導体との密着性を向上させることによって金属張積層体の良好な電気特性を得ようとするものであるが、上記各文献に記載される技術によってもなお電気特性は十分とはいえない。特に、良好な高周波特性(すなわち少ない伝送損失)を実現するためには、導体の表皮抵抗の低減が求められるところ、上記各文献に記載される技術では表皮抵抗が高く、樹脂硬化物と導体との密着性についてはある程度良好であり得ても、電気特性にはなお改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、樹脂硬化物と金属層との密着性に優れ、更に電気特性に優れる金属張積層体及びこれを含むプリント配線板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を包含する。
[1] 樹脂硬化物と、前記樹脂硬化物に接して積層された金属層とを含む、金属張積層体であって、
前記樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を含み、
前記樹脂硬化物は、比誘電率3.3以下、及び誘電正接0.003以下を有し、
前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisが2.0μm以下である、金属張積層体。
[2] 前記金属層の、少なくとも片方の表面の要素平均長さRsmが5.0μm以上である、上記態様1に記載の金属張積層体。
[3] 前記金属層の、前記樹脂硬化物と接する表面の静摩擦係数が0.38μs以上、0.50μs以下である、上記態様1又は2に記載の金属張積層体。
[4] 前記金属層の、少なくとも片方の表面の要素平均長さRsmが5.0μm以上、100.0μm以下である、上記態様1~3のいずれかに記載の金属張積層体。
[5] 重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物が、1,2,4-トリアゾール構造又はテトラゾール構造を有する、上記態様1~4のいずれかに記載の金属張積層体。
[6] 重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物が、下記一般式(1):
【化1】
{式中、R1は、水素原子、又は1価の炭化水素基を表し、R2は、水素原子、メチル基、又はエチル基であり、Xは、下記一般式(X-1):
【化2】
(式中、R3は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)若しくは下記式(X-2):
【化3】
で表される1,2,4-トリアゾール構造、又は下記一般式(X-3):
【化4】
(式中、R4は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)で表されるテトラゾール構造であり、そしてYは、硫黄原子、又はNH基である。}
で表される化合物である、上記態様5に記載の金属張積層体。
[7] 前記樹脂硬化物が、2つ以上の末端硬化性官能基を有するポリフェニレンエーテルが架橋してなる架橋構造を有する、上記態様1~6のいずれかに記載の金属張積層体。
[8] 前記樹脂硬化物が、架橋剤が架橋してなる架橋構造を更に有する、上記態様7に記載の金属張積層体。
[9] 前記樹脂硬化物が、エラストマーに由来する構造部位を含み、
前記エラストマーが、ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物、並びにビニル芳香族化合物の単独重合体、から成る群から選択される少なくとも1種であり、かつ
前記ブロック共重合体又はその水素添加物の前記ビニル芳香族化合物由来の単位の含有率が20質量%以上である、上記態様1~8のいずれかに記載の金属張積層体。
[10] ガラスクロスをさらに含む、上記態様1~9のいずれかに記載の金属張積層体。
[11] 上記態様1~10のいずれかに記載の金属張積層体を含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、樹脂硬化物と金属層との密着性に優れ、更に電気特性に優れる金属張積層体及びこれを含むプリント配線板が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る複素環化合物のH-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」ともいう。)について説明するが、本発明は以下の実施形態のみに限定されない。したがって、以下の実施形態は、本発明の要旨の範囲内で適宜変形して実施可能である。本実施形態で言及する各種特性は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法によって測定される値である。
【0011】
≪金属張積層体≫
本発明の一態様は、樹脂硬化物と、当該樹脂硬化物に接して積層された金属層とを含む、金属張積層体を提供する。一態様において、樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を含む。一態様において、樹脂硬化物は、比誘電率3.3以下、及び誘電正接0.003以下を有する。一態様において、金属層の、樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisは2.0μm以下である。
【0012】
金属張積層体において金属層を樹脂硬化物に密着性良く積層するためには、金属層がある程度高粗度である方が有利であるが、そのような高粗度表面は金属層の表皮抵抗の増大、したがって金属張積層体の電気特性の低下を招来する。本発明者らは、予想外にも、特定の構造部位及び特定の誘電特性を有する樹脂硬化物を、特定の表面粗度を有する金属層と組合せることで、金属層が低表面粗度であるにも関わらず当該金属層と樹脂硬化物との密着性が良好であり、良好な電気特性を示す金属張積層体が得られることを見出した。
以下、金属張積層体の各要素について説明する。
【0013】
<金属層>
本実施形態の金属張積層体において、金属層は、樹脂硬化物に接して積層されている。金属層としては、アルミニウム箔及び銅箔が挙げられ、銅箔は、電気抵抗が低い点で好ましい。金属層の表皮抵抗は金属張積層体の電気特性低下の主要因の1つである。特に高周波伝送用途(例えば、高周波伝送用のプリント配線板等の用途)において、表皮抵抗は性能に大きく影響することから、できる限り低減されることが望ましい。金属層の表面が平滑である場合、一般には、表皮抵抗が低減される一方で樹脂硬化物との密着性も低下する。本実施形態の金属張積層体においては、樹脂硬化物が、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位を有していることによって、表面が平滑な金属層に対しても予想外に良好な密着性を示す。
【0014】
金属層の、樹脂硬化物と接する表面の十点平均粗さRzjisは、表皮抵抗低減の観点から、一態様において、2.0μm以下、又は1.4μm以下、又は1.2μm以下、又は0.9μm以下である。なお樹脂硬化物は、金属層の片面又は両面に積層されてよい。十点平均粗さRzjisは、樹脂硬化物と金属層との密着性を一層良好にする観点から、例えば、0.02μm以上、又は0.05μm以上、又は0.10μm以上であってよい。本開示で、十点平均粗さとは、カットオフ値λc及びλsの位相補償帯域通過フィルタを適用して得た基準長さの断面粗さ曲線において,最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均と最深の谷底から深い順に5番目までの谷深さの平均との和であり、具体的にはJIS B0601:2013に準拠して求められる値である。金属層の十点平均粗さの上限は、金属層の入手時の表面状態に応じて、当該金属層の表面に対して、平滑化処理を行い又は租化処理を行わないことで調整でき、下限は、金属層の入手時の表面状態に応じて、当該金属層の表面に対して、粗化処理を行い又は平滑化処理を行わないことで調整できる。平滑化処理及び粗化処理の方法としては、それぞれ、目的の十点平均粗さRzjisに応じて制御された条件でのめっき等を例示できる。
【0015】
金属層の少なくとも片方の表面(一態様においては、樹脂硬化物と接する表面)の要素平均長さRsmは、金属層の表皮抵抗低減による金属張積層体の電気特性向上の観点から、好ましくは、5.0μm以上、又は9.0μm以上、又は30.0μm以上、又は50.0μm以上であり、樹脂硬化物と金属層との密着性を一層良好にする観点から、例えば、100.0μm以下、又は90.0μm以下、又は80.0μm以下であってよい。本開示で、要素平均長さRsmとは、既定基準長さで計測される断面粗さ曲線における輪郭曲線要素の長さの平均(すなわち山の平均間隔)を表し、具体的にはJIS B0601:2013に準拠して求められる値である。なお、山の高さ又は谷の深さが最大高さ又は最大深さの10%以下、及び/又は長さが計算区間の長さの1%以下であるものは、ノイズとみなして前後に続く谷又は山の一部と認識する。金属層の要素平均長さの下限は、金属層の入手時の表面状態に応じて、当該金属層の表面に対して、平滑化処理を行い又は租化処理を行わないことで調整でき、上限は、金属層の入手時の表面状態に応じて、当該金属層の表面に対して、粗化処理を行い又は平滑化処理を行わないことで調整できる。平滑化処理及び粗化処理の方法としては、それぞれ、目的の要素平均長さRsmに応じて制御された条件でのめっき等を例示できる。
【0016】
金属層の、樹脂硬化物と接する表面の静摩擦係数は、樹脂硬化物と金属層との一層良好な密着性を確保することによって、金属張積層体を用いてプリント配線板を製造する際に微細且つ高信頼性の配線パターンを形成できる点で、好ましくは、0.3μs以上、又は0.33μs以上、又は0.38μs以上であり、金属層の表面を平滑にしつつ金属層と樹脂硬化物との接着性の観点から、好ましくは、0.55μs以下、又は0.50μs以下である。本開示で、静摩擦係数は、JISP8147:2010に一部準拠し、本開示の[実施例]の項で説明される方法で求められる値である。金属層の静摩擦係数の上限及び下限は、金属層の入手時の表面状態に応じて、当該金属層の表面に対して、防錆処理、耐熱処理、シランカップリング処理、他の金属層の形成、クロメート層形成等を行うことで調整できる。
【0017】
<樹脂硬化物>
一態様において、樹脂硬化物は、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物(本開示で、単に「複素環化合物」ということもある。)に由来する構造部位(本開示で、「複素環化合物由来部位」ということもある。)を含む。樹脂硬化物において、複素環化合物由来部位は、典型的には、樹脂由来部位及び/又は架橋剤由来部位と化学結合している。典型的な態様においては、樹脂が硬化性官能基(例えばエチレン性不飽和基)を有し、複素環化合物の重合性基と樹脂の硬化性官能基とが付加重合している。
【0018】
一態様において、樹脂硬化物は、本実施形態の複素環化合物(A)と、樹脂(B)と、重合開始剤(C)と、架橋剤(D)とを含む樹脂組成物の硬化物である。樹脂組成物は、溶剤、各種添加剤等のうち1種以上を任意に更に含み得る。
【0019】
樹脂硬化物においては、良好な電気特性を有する金属張積層体を形成する観点から、比誘電率と誘電正接とがそれぞれ所定以下に制御されている。比誘電率及び誘電正接は、樹脂硬化物の材料である樹脂組成物の配合成分の選択、特に樹脂、重合開始剤及び架橋剤の組合せの選択によって制御してよい。
【0020】
樹脂硬化物の比誘電率は、一態様において、3.3以下、又は3.2以下、又は3.0以下である。比誘電率は低い程好ましいが、樹脂硬化物の製造容易性の観点から、例えば、2.2以上、又は2.5以上、又は2.8以上であってよい。
【0021】
また樹脂硬化物の誘電正接は、一態様において、0.003以下、又は0.0025以下、又は0.0020以下である。誘電正接は低い程好ましいが、樹脂硬化物の製造容易性の観点から、例えば、0.0025以上、又は0.0027以上、又は0.0028以上であってよい。
【0022】
樹脂硬化物には、プリント配線板用基板材料において必要な、高い半田リフロー耐熱性及びスルーホール信頼性が要求される。それらの性能の指針となるのは樹脂硬化物の架橋密度に由来するガラス転移温度(Tg)である。樹脂硬化物のガラス転移温度は、当該樹脂硬化物の積層体を形成する際の典型的な加熱、加圧などの使用条件で硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度に対応する。特に、硬化物の良好な耐熱性(特に鉛フリーはんだに対応するはんだ耐熱性)を発現する観点から、樹脂硬化物のガラス転移温度は、好ましくは、170℃以上、より好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上である。樹脂硬化物のガラス転移温度は高い方が好ましいが、硬化物の使用環境への適用性、硬化物と金属箔との接着性などの観点から、樹脂硬化物のガラス転移温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは270℃以下である。
【0023】
[複素環化合物(A)]
重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物に由来する構造部位は、樹脂硬化物と金属層との良好な密着性に寄与する。理論に拘束されるものではないが、重合性基と、窒素原子を1つ以上有する芳香族複素環とを有する化合物、及び樹脂を含む樹脂組成物を用い、金属硬化物と金属層との積層体を形成する際に、複素環化合物中の重合性基が樹脂組成物中の樹脂と安定的な結合を形成するとともに、複素環化合物中の含窒素複素環が金属層と相互作用(一態様において錯形成)し、これらによって、複素環化合物由来部位を有する樹脂硬化物は、樹脂硬化物と接する表面が低粗度である本実施形態の金属層に対してでさえ極めて良好な密着性を示し得ると考えられる。
【0024】
複素環化合物が有する重合性基は、典型的にはエチレン性不飽和基である。エチレン性不飽和基としては、アクリル基、メタクリル基、エタクリル基等が挙げられ、好ましくはメタクリル基である。
【0025】
複素環化合物が有する複素環1つ当たりの窒素原子の数は、複素環化合物と金属層との良好な相互作用の観点から、一態様において1つ以上であり、好ましくは、2つ以上、又は3つ以上、又は4つ以上であり、特に好ましくは3つ又は4つである。複素環化合物は、含窒素複素環を1つ又は2つ以上有してよく、樹脂硬化物の誘電特性を良好に維持する観点から、好ましくは含窒素複素環を1つ有する。複素環化合物は、含窒素複素環と、窒素原子を含まない芳香環とを有してもよく、窒素原子を含まない芳香環は含窒素複素環と縮合環を形成しており又は形成していないことができる。複素環化合物が有する含窒素複素環は、例えば5員環又は6員環であってよく、複素環化合物と金属層との良好な相互作用の観点から、好ましくは5員環である。
【0026】
複素環化合物は、複素環化合物と金属層との良好な相互作用の観点から、好ましくは、トリアゾール構造(より具体的には1,2,4-トリアゾール構造)又はテトラゾール構造を有し、より好ましくは、エチレン性不飽和基と、トリアゾール構造(より具体的には1,2,4-トリアゾール構造)又はテトラゾール構造とを有し、更に好ましくは、エチレン性不飽和基と、トリアゾール構造(より具体的には1,2,4-トリアゾール構造)又はテトラゾール構造と、これらを連結する連結基とを有する。エチレン性不飽和基の好適例は前述で例示したとおりである。連結基の好適例は、-S-基、及び-NH-基から成る群から選択される基である。
【0027】
本実施形態に係る複素環化合物は、下記一般式(1):
【化5】
{式中、R1は、水素原子、又は1価の炭化水素基を表し、R2は、水素原子、メチル基、又はエチル基であり、Xは、下記一般式(X-1):
【化6】
(式中、R3は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)若しくは下記式(X-2):
【化7】
で表される1,2,4-トリアゾール構造、又は下記一般式(X-3):
【化8】
(式中、R4は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。)で表されるテトラゾール構造であり、そしてYは、硫黄原子、又はNH基である。}
で表される。
【0028】
一般式(1)で表される複素環化合物は、一般式(X-1)若しくは式(X-2)で表されるトリアゾール構造又は一般式(X-3)で表されるテトラゾール構造と、金属層を構成する金属との錯形成、樹脂がエチレン性不飽和基を有する場合の当該樹脂、及び/又は架橋剤に対するアクリロイル基、メタクリロイル基又はエタクリロイル基の化学結合、及び連結部の-OR1変性による極性の制御によって、金属層表面と被着物の密着性と、金属の防錆性とを両立させる傾向にある。この傾向は、金属層表面が銅(Cu)から成る場合に顕著である。
【0029】
一般式(1)において、R1は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。R1基としての1価の炭化水素基は、炭素数が1~33でよく、置換若しくは非置換でよく、飽和若しくは不飽和でよく、鎖状若しくは環状でよく、かつ/又は脂肪族若しくは芳香族でよく、鎖状の場合には直鎖若しくは分岐鎖でよく、置換されている場合には、置換基は、1価の炭素数1~10の脂肪族又は芳香族の基でよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基;フェニル、アリール、及びベンジル基等である。
【0030】
1基としての1価の炭化水素基の具体例は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基でよい。
【0031】
1基としての置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、鎖状の場合には、炭素数1~10、1~15又は4~12が好ましく、脂環式の場合には、炭素数3~18又は3~20が好ましく、置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基の具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;並びにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0032】
1基としての置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基の具体例は、フェニル基、アリール基、ベンジル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等である。
【0033】
金属層表面への被着物が金属張積層体の誘電特性を悪化させないようにする観点から、一般式(1)において、R1は、水素(H)原子であることが好ましい。一般式(1)において-OR1が-OHであるとき、トリアゾール構造又はテトラゾール構造とアクリロイル基、メタクリロイル基又はエタクリロイル基との間の連結部は、-OH変性されており、それにより、被着物である樹脂硬化物を形成するための樹脂組成物に一般式(1)で表される複素環化合物を含有させても被着物の誘電正接の上昇を抑制し得る。
【0034】
一般式(1)において、R2は、水素原子、メチル基、又はエチル基であり、一般式(1)で表される複素環化合物のための合成原料の入手性の観点からは、水素原子又はメチル基であることが好ましく、金属層表面の腐食又は錆からの保護、及び被着物との密着性の向上の観点からは、メチル基であることが好ましく、そして得られる複素環化合物の嵩高さの観点からは、エチル基であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)において、Yは、硫黄(S)原子、又はNH基であり、トリアゾール構造又はテトラゾール構造とアクリロイル基、メタクリロイル基又はエタクリロイル基との間の連結部として、-S-、又は-NH-を形成する。
【0036】
一般式(1)において、連結部Yの存在は、金属層中の金属(一態様において銅(Cu))との錯形成が可能なトリアゾール構造又はテトラゾール構造と、樹脂組成物の構成樹脂に対する化学結合が可能なアクリロイル基、メタクリロイル基又はエタクリロイル基と、-OR1変性部分とを一分子中に共存させ、その分子を含む樹脂硬化物と金属層表面との密着強度を向上させながら、樹脂硬化物の誘電正接の上昇を抑制することを可能にする。
【0037】
一般式(1)において、Xは、一般式(X-1)若しくは式(X-2)で表されるトリアゾール構造、又は一般式(X-3)で表されるテトラゾール構造である。すなわち、Xは、トリアゾール構造の場合には、一般式(X-1)で表される置換若しくは非置換の1,2,4-トリアゾール骨格を有する1価の基、又は式(X-2)で表される3-アミノ-1,2,4-トリアゾール由来の1価の基であり、そしてテトラゾール構造の場合には一般式(X-3)で表される、置換若しくは非置換のテトラゾール由来の1価の基である。
【0038】
一般式(X-1)中の1,2,4-トリアゾール環において、一般式(1)中のYに対する連結部と、R3との位置関係は、3位と5位、又はその逆である。
【0039】
一般式(X-1)において、R3は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。R3が水素原子である場合、一般式(X-1)で表される1価の基である非置換の1,2,4-トリアゾール基は、1,2,4-トリアゾール環中の3位で、一般式(1)中のYと連結することができる。
【0040】
3基としての1価の炭化水素基は、炭素数が1~33でよく、置換若しくは非置換でよく、飽和若しくは不飽和でよく、鎖状若しくは環状でよく、かつ/又は脂肪族若しくは芳香族でよく、鎖状の場合には直鎖若しくは分岐鎖でよく、置換されている場合には、置換基は、1価の炭素数1~10の脂肪族又は芳香族の基でよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基;フェニル、アリール、及びベンジル基等である。
【0041】
3基としての1価の炭化水素基の具体例は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基でよい。
【0042】
3基としての置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、鎖状の場合には、炭素数1~10、1~15又は4~12が好ましく、脂環式の場合には、炭素数3~18又は3~20が好ましく、置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基の具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;並びにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0043】
3基としての置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基の具体例は、フェニル基、アリール基、ベンジル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等である。
【0044】
式(X-2)で表される1価の基は、1,2,4-トリアゾール環中の3位がアミノ基で置換されており、そして5位で、一般式(1)中のYと連結することができる。
【0045】
一般式(X-3)で表される1価の基は、テトラゾール環中の5位で、一般式(1)中のYと連結することができる。
【0046】
一般式(X-3)において、R4は、水素原子、又は1価の炭化水素基である。
【0047】
4基としての1価の炭化水素基は、炭素数が1~33でよく、置換若しくは非置換でよく、飽和若しくは不飽和でよく、鎖状若しくは環状でよく、かつ/又は脂肪族若しくは芳香族でよく、鎖状の場合には直鎖若しくは分岐鎖でよく、置換されている場合には、置換基は、1価の炭素数1~10の脂肪族又は芳香族の基でよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基;フェニル、アリール、及びベンジル基等である。
【0048】
4基としての1価の炭化水素基の具体例は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基でよい。
【0049】
4基としての置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、鎖状の場合には、炭素数1~10、1~15又は4~12が好ましく、脂環式の場合には、炭素数3~18又は3~20が好ましく、置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基の具体例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;並びにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0050】
4基としての置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族基の具体例は、フェニル基、アリール基、ベンジル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等である。
【0051】
一般式(1)で表される複素環化合物の分子量は、X、Y、R1、R2、R3又はR4の選択に応じて決まり、例えば、200~1,030、200~830、200~630、200~530、200~430、200~380、又は200~330の範囲内にある。
【0052】
一般式(1)で表される複素環化合物は、樹脂硬化物と金属層表面との密着性を向上させ、更に任意に、樹脂硬化物の誘電特性の悪化、及び/又は金属張積層体の金属腐食若しくは錆を抑制し得る点で、下記一般式(1-1):
【化9】
{式中、R1及びR2は一般式(1)について定義されたとおりであり、そしてR3は一般式(X-1)について定義されたとおりである。}で表される複素環化合物、下記一般式(1-2):
【化10】
{式中、R1及びR2は一般式(1)について定義されたとおりである。}で表される複素環化合物、及び下記一般式(1-3):
【化11】
{式中、R1及びR2は一般式(1)について定義されたとおりであり、そしてR4は一般式(X-3)について定義されたとおりである。}で表される複素環化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の組合せである。
【0053】
複素環化合物は、特に好ましくは、一般式(1-1)中のR1及びR3が水素原子である化合物、一般式(1-2)中のR1が水素原子である化合物、及び一般式(1-3)中のR1及びR4が水素原子である化合物、から成る群から選ばれる1種以上である。
【0054】
<複素環化合物の製造方法>
本実施形態に係る複素環化合物の製造方法は、例えば、エポキシドの開裂反応、エポキシドの付加反応、オキシラン類の開環反応、アミン類とエポキシドの反応、チオール類とエポキシドの反応、エポキシ系化合物の(部分)架橋反応又は硬化反応、イミダゾール類又はテトラゾール類によるエポキシドの反応促進、三級アミンによるチオール類とエポキシドの反応促進、その他の触媒作用による反応促進などを、単独で、又は組み合わせて使用されることができる。
【0055】
具体的には、グリシジルアクリレート(GA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、グリシジルエタクリレート(GEA)、又はそれらの任意の組み合わせ(以下、総称として「グリシジル(アルキル)アクリレート化合物」ということがある)と、下記式:
X-SH {式中、Xは、上記一般式(1)において定義されたとおりである};及び/又は
X-NH {式中、Xは、上記一般式(1)において定義されたとおりである}
で表される化合物とを反応させることにより、上記一般式(1)で表される複素環化合物を得ることができる。
【0056】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物として、GA、GMA、GEA又はそれらの任意の組み合わせは、一般式(1)中の所定のR2に応じて選択されることができる。原料の入手性の観点からはGA又はGMAが好ましく、金属層表面の腐食又は錆からの保護、及び被着物との密着性の向上の観点からはGMAが好ましく、そして反応生成物の嵩高さの観点からはGEAが好ましい。
【0057】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と、式X-SH及び/又はX-NHで表される化合物との反応については、反応溶媒として、有機溶剤を使用することが好ましく、例えば、アセトンなどのケトン類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;及びグリコールエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤から選択される1種以上を使用してよい。
【0058】
反応条件については、反応温度は、常温、又は室温でよく、例えば、15℃~40℃、又は20℃~35℃の範囲内でよく、反応時間は、3時間~120時間、4時間~118時間、4時間~50時間、又は6時間~25時間の範囲内でよく、そして反応雰囲気は、ドラフト乾燥下、又は真空乾燥下であることが好ましい。
【0059】
反応終了後、生成物の収率の向上、又は生成物の同定の観点から、例えば、ろ過、蒸発乾固、真空乾燥、静置、デカンテーション、沈殿、再溶解、再沈殿、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、核磁気共鳴(NMR)測定などを単独で、又は適宜組み合わせて行なって、生成物を分取することができる。
【0060】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と、式X-SH及び/又はX-NHで表される化合物との反応では、一般式(1)においてR1が水素(H)原子である複素環化合物が得られ易い傾向にある。
【0061】
一般式(1)においてR1が1価の炭化水素である複素環化合物を得る場合には、(i)上記の反応において、R1OH(但し、R1が1価の炭化水素である)などの求核剤を介在させて、エポキシドの開環時に-OR1基(但し、R1が1価の炭化水素である)を有する生成物又は中間体を形成する方法;(ii)一般式(1)においてR1=Hである複素環化合物の-OH基を、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基を用いてナトリウムアルコキシド(-ONa)などの金属アルコキシドに変換してから、ハロゲン化アルキルなどのハロゲン化合物との反応や、トリエチルアミンなどの3級アミン存在下、ハロゲン化アルキルなどのハロゲン化合物との反応により、-OR1基(但し、R1が1価の炭化水素である)を形成する方法などを採用することができる。
【0062】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と、式X-SH又はX-NHで表される化合物との反応では、両者のモル比(グリシジル(アルキル)アクリレート化合物:式X-SH又はX-NHで表される化合物)は、生成物の収率の向上、又は異性化反応の抑制の観点から、1:1.0~1.3、又は1:1.0~1.2であることが好ましく、1:1.0~1.1であることがより好ましい。
【0063】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物との反応物としては、Xがトリアゾール構造を有する場合には式X-SHで表される化合物が好ましく、そしてXがテトラゾール構造を有する場合には式X-NHで表される化合物が好ましい。
【0064】
式X-SHで表される化合物は、Xがトリアゾール構造を有する場合には、下記式(2):
【化12】
{式中、R3は、上記式(X-1)において定義されたとおりである}
で表される化合物、又は3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾールであることが好ましく、より好ましくは、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、又は3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾールである。
【0065】
式X-NHで表される化合物は、Xがテトラゾール構造を有する場合には、5-アミノテトラゾールであることが好ましい。
【0066】
グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と式X-SH及び/又はX-NHで表される化合物との反応には、塩基性触媒又は強塩基触媒を使用することが好ましい。塩基性触媒又は強塩基触媒を使用する場合には、グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と触媒のモル比(グリシジル(アルキル)アクリレート化合物:触媒)は、異性体の生成を抑制するという観点から、1:0.09~0.13であることが好ましく、1:0.10~0.13であることがより好ましい。同様の観点から、グリシジル(アルキル)アクリレート化合物と式X-SH又はX-NHで表される化合物と触媒とのモル比(グリシジル(アルキル)アクリレート化合物:式X-SH又はX-NHで表される化合物:触媒)は、1:1.0~1.3:0.09~0.13であることが好ましい。
【0067】
理論に拘束されることを望まないが、第一級、第二級及び第三級アミノ基は、エポキシ基に対する反応性が大きく異なることが知られており、第一級アミノ基は反応性が最も強く、第二級アミノ基は反応性が弱く、そして第三級アミンは活性水素を持たないので、エポキシ基とは反応せず、エポキシ基同士、又はエポキシ基と他の官能基(例えば、第一級アミノ基、メルカプト基、アルコール性水酸基など)の反応の触媒として機能することが考えられる。したがって、トリエチルアミン(TEA)などの第三級アミンを塩基性触媒として使用すると、第三級アミンの触媒作用によりメルカプト基の反応を促進することができ、又は第一級アミノ基を有する化合物とグリシジル(アルキル)アクリレート化合物との反応を阻害せずに三級アミンを触媒的に使用することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る複素環化合物を得るための反応において、TEAなどの第三級アミンを触媒として使用すると、異性化反応を抑制して、所定の複素環化合物の収率を向上させ易いという傾向が見出された。
【0069】
本実施形態に係る複素環化合物を得るための反応において、GA、GMA、GEA又はそれらの組み合わせに由来するエポキシ基の架橋反応又は硬化反応の進行を抑制したい場合には、ポリアミノ化合物、ポリメルカプト化合物などの多官能化合物の混入を避けることが好ましい。
【0070】
他方、本実施形態に係る複素環化合物の用途に応じて、2モルのグリシジル(アルキル)アクリレート化合物に由来するエポキシ基の架橋反応若しくは硬化反応を進行させることが好ましい場合もある。その場合、複素環化合物を得るための反応中、又は反応後に、その場で、又は別の反応系で、複素環化合物と他の架橋剤との硬化反応又は架橋反応などを促進して、複素環化合物に由来する構造単位を含む硬化物又は架橋ネットワークを形成することが好ましい。
【0071】
樹脂硬化物中の複素環化合物由来部位の構造は、固体NMR測定により確認できる。
【0072】
樹脂組成物中の複素環化合物(A)及び樹脂硬化物中の複素環化合物(A)由来部位のそれぞれの比率は、好ましくは、0.01質量%以上、又は0.02質量%以上、又は0.03質量%以上であり、好ましくは、1.0質量%以下、又は0.5質量%以下、又は0.3質量%以下である。
【0073】
[樹脂(B)]
樹脂組成物が含む樹脂(B)は、典型的には、分子中、好ましくは分子末端に硬化性官能基を有する。当該硬化性官能基は、複素環化合物(A)の重合性基と結合することで、樹脂硬化物と金属層との密着性向上に寄与する。樹脂(B)が有する硬化性官能基は、複素環化合物(A)の重合性基と安定的な結合を形成し得る点で、好ましくはエチレン性不飽和基である。樹脂(B)の1分子当たりの硬化性官能基数は、樹脂硬化物の物性、誘電特性、金属層との密着性等が良好である点で、好ましくは、2~5、又は2~4、又は2若しくは3、又は3である。
【0074】
樹脂硬化物の比誘電率及び誘電正接を本実施形態の所望の範囲に容易に制御できる点で、樹脂(B)としては、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスチレン、脂環式構造を有する樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、ポリイミド前駆体樹脂、及びフェノール樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく、特に好ましくはポリフェニレンエーテルである。
【0075】
樹脂組成物における複素環化合物(A)と樹脂(B)との質量比(A:B)は、樹脂硬化物と金属層との良好な密着性を得る観点から、好ましくは、1:7~50、又は1:8~46、又は1:9~44である。
【0076】
(ポリフェニレンエーテル)
好ましい一態様において、樹脂(B)はポリフェニレンエーテルである。ポリフェニレンエーテルは、一態様において、下記一般式(3):
【化13】
{式中、Ra、Rb、Rc及びRdは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子)、置換基を有してもよいアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、シクロヘキシル基等の炭素数6~10の環状のアルキル基)、置換基を有してもよいアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基)、置換基を有してもよいアリール基(例えば、フェニル基及びナフチル基)、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいニトロ基、又は置換基を有してもよいカルボキシル基を表す。}
で表される繰り返し構造を有する。但し上記の置換基はそれぞれ炭素数0~6の基であり、好ましくは存在しない。
【0077】
樹脂硬化物がポリフェニレンエーテルを含むことは、樹脂硬化物をFT-IR測定(ATR法)した際に得られるスペクトルにおいて、1021,1189,1306,1471,1603cm-1付近に比較的強いピークが検出されることにより確認できる。
【0078】
ポリフェニレンエーテルの具体例としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-ブチルフェノール等)との共重合体、及び、2,6-ジメチルフェノールとビフェノール類又はビスフェノール類とをカップリングさせて得られるポリフェニレンエーテル共重合体、及びポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等をビスフェノール類やトリスフェノール類のようなフェノール化合物と有機過酸化物の存在下、トルエン等の溶媒中で加熱し、再分配反応させて得られる、直鎖構造もしくは分岐構造を有するポリフェニレンエーテルが挙げられる。
【0079】
これらのポリフェニレンエーテルの中で、分子鎖内に分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、フェニレン基がスタッキングし難いのでハードセグメントが形成し難く、その結果として熱衝撃性が高い傾向にあるので好ましい。そのようなポリフェニレンエーテルの例としては2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノールなどの単官能フェノールとトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、α,α,α’,α’-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)-p-キシレンなどの分岐構造を有する多官能フェノール化合物とをカップリングさせて得られるポリフェニレンエーテル共重合体、およびポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等をトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、α,α,α’,α’-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)-p-キシレンなどの分岐構造を有するフェノール化合物と有機過酸化物の存在下、トルエン等の溶媒中で加熱し、再分配反応させて得られる、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
【0080】
ポリフェニレンエーテルが直鎖構造である場合の数平均分子量は、好ましくは、500~15,000、又は700~5,000、又は2,000~2,700、又は2,300~2,450である。
ポリフェニレンエーテルが分岐構造を含む場合の数平均分子量は、好ましくは、500~15,000、又は700~5,000、又は1,000~3,000、又は1,450~2,800である。
ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比は、小さいほど、樹脂組成物の流動性が高く金属層に対する濡れ性が高くなるため、樹脂硬化物と金属層との密着性の観点で好ましい。具体的には、Mw/Mn比は、好ましくは1.1~5.0、又は1.2~3.0、又は1.3~2.0、又は1.35~1.40である。
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算にて求められる値である。
【0081】
ポリフェニレンエーテルが典型的に有する硬化性官能基は、架橋及び複素環化合物との結合によって樹脂硬化物の良好な特性(金属層との密着性、耐熱性等の物性、誘電特性、等)を得る観点から、好ましくは分子末端に存在する。一態様において、ポリフェニレンエーテルは2つ以上の末端硬化性官能基を有し、樹脂硬化物において当該ポリフェニレンエーテルが架橋してなる架橋構造を形成し得る。
【0082】
ポリフェニレンエーテルは、好ましくは、下記一般式(4):
【化14】
{式中、nは、0又は1であり、Reは、炭素数1~8の飽和又は不飽和のアルキレン基を表し、そしてRfは、水素原子、又は炭素数1~8の飽和又は不飽和のアルキル基を表す。}
で表される硬化性部位(すなわち、エチレン性不飽和基を硬化性官能基として含む部位)を有する。
【0083】
一般式(4)において、nは0であることが好ましく、硬化性部位の構造としては、β位にRrとしてC1-8アルキル基を有するα,β-不飽和カルボン酸エステル基が好ましい。このようなα,β-不飽和カルボン酸エステル基としては、アクリレート基、メタクリレート基、エタクリレート基、プロパクリレート基、又はブタクリレート基が好ましい。
【0084】
上記のような不飽和カルボン酸エステル基をポリフェニレンエーテル分子末端に導入する場合、導入方法に限定はなく、ポリフェニレンエーテルの末端の水酸基と、不飽和カルボン酸とのエステル結合の形成反応を例示できる。エステル結合の形成には公知の様々な方法を利用することが出来る。たとえば、a.カルボン酸ハロゲン化物とポリマー末端水酸基との反応、b.カルボン酸無水物とポリマー末端水酸基との反応によるエステル結合の形成、c.カルボン酸とポリマー末端水酸基との直接反応、d.エステル交換反応による方法、等が挙げられる。
【0085】
ポリフェニレンエーテルは、硬化性官能基を1分子中に好ましくは2個以上、より好ましくは、平均で2.5~5.0個又は2.5~4.0個有する。ポリフェニレンエーテル1分子中の平均硬化性官能基数が大きいと耐熱性が高くなる傾向があり、小さいと靭性が高くなる傾向がある。硬化性官能基の平均数が、2.5個以上である場合、金属張積層体の耐熱性が良好である傾向にあり、5.0個以下である場合、樹脂組成物の流動性が良好であり、樹脂硬化物と金属層との密着性、及び金属張積層体の均一性が高い傾向にある。
【0086】
ポリフェニレンエーテルが硬化性官能基を有する場合のポリフェニレンエーテルの硬化率は、高耐熱性、低吸水率等の観点から、好ましくは、30%以上、又は50%以上、又は80%以上、又は85%以上、又は90%以上である。ポリフェニレンエーテルの硬化率は、100%であってよいが、樹脂硬化物の製造容易性の観点から、例えば、100%未満、又は99%以下、又は98%以下であってよい。硬化率は、樹脂硬化物の粉砕試料の固体NMR測定により求めることができる。
【0087】
樹脂組成物中の樹脂(B)及び樹脂硬化物中の樹脂(B)由来部位のそれぞれの比率は、好ましくは、20質量%以上、又は30質量%以上、又は40質量%以上、又は50質量%以上、又は60%質量以上であり、好ましくは、90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下である。
【0088】
[重合開始剤(C)]
樹脂組成物は、典型的には重合開始剤(C)を含む。重合開始剤(C)としては、樹脂組成物において硬化反応を促進する能力を有する任意の有機過酸化物を使用することができる。硬化反応の良好な進行の観点から、オキシムエステル、及びパーオキサイドから成る群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0089】
オキシムエステルとしては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-O-ベンゾイルオキシム、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム等が挙げられる。
【0090】
パーオキサイドとしては、有機過酸化物が好ましく、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等が挙げられる。なお、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のラジカル発生剤も樹脂組成物のための反応開始剤として使用することができる。中でも、耐熱性、及び機械特性に優れ、更に低い比誘電率及び誘電正接を有する樹脂硬化物を提供する観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0091】
重合開始剤(C)の含有量は、複素環化合物(A)と樹脂(B)との合計含有量100質量%基準で、良好な反応効率の観点から、好ましくは、0.05質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は1.5質量%以上であり、樹脂硬化物の比誘電率及び誘電正接を低く抑えるという観点から、好ましくは、5質量%以下、又は4.5質量%以下、又は4.0質量%以下である。
【0092】
[架橋剤(D)]
一態様において、樹脂組成物は架橋剤(D)を含み、これにより樹脂硬化物は、架橋剤が架橋してなる架橋構造を更に有する。架橋剤(D)としては、架橋反応を起こすか又は促進する能力を有する任意の架橋剤を使用することができる。架橋剤は、架橋反応の観点から、炭素-炭素不飽和二重結合を1分子中に平均2個以上有することが好ましい。架橋剤は、1種類の化合物で構成されてもよく、2種類以上の化合物で構成されてもよい。本明細書にいう「炭素-炭素不飽和二重結合」とは、架橋剤がポリマー又はオリゴマーである場合、主鎖より分岐した末端に位置する二重結合をいう。炭素-炭素不飽和二重結合としては、例えば、ポリブタジエンにおける1,2-ビニル結合が挙げられる。
【0093】
架橋剤(D)としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)等のトリアルケニルシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等の分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、分子中にビニルベンジル基を有するジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等の分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。架橋剤は、これらの中でも、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びポリブタジエンから成る群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0094】
樹脂組成物中の複素環化合物(A)と樹脂(B)との合計含有量100質量%基準での架橋剤(D)の量、又は樹脂硬化物中の複素環化合物(A)由来部位と樹脂(B)由来部位との合計含有量100質量%基準での架橋剤(D)由来部位の量は、樹脂硬化物の良好な物性及び金属層との良好な密着性を得る観点から、好ましくは、10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上であり、樹脂硬化物の比誘電率及び誘電正接を低く抑えるという観点から、好ましくは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下である。
【0095】
[添加剤]
樹脂組成物は、更に、前述の樹脂(B)と異なるエラストマー、難燃剤、無機フィラー(例えばシリカフィラー等)、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤などのうち1種以上の添加剤を含んでよい。添加剤の含有量は、樹脂組成物中にて複素環化合物(A)と樹脂(B)との合計含有量100質量%基準で、又は樹脂硬化物中にて複素環化合物(A)と樹脂(B)との合計含有量100質量%基準で、好ましくは0.01~100質量%であり、より好ましくは0.1~80質量%であり、さらに好ましくは1~50質量である。
【0096】
(エラストマー)
樹脂(B)と異なるエラストマーは、ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体、及びその水素添加物(ビニル芳香族化合物とオレフィン系アルケン化合物とのブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体)、並びにビニル芳香族化合物の単独重合体から成る群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記ブロック共重合体又はその水素添加物において、ビニル芳香族化合物由来の単位の含有率は、樹脂(B)とエラストマーとの良好な相溶性によって樹脂硬化物と金属層との密着性が良好である点で、好ましくは、2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上、又は20質量%以上であり、所望の用途に応じて、例えば、80質量%以下、又は75質量%以下、又は70質量%以下であることができる。
【0097】
ビニル芳香族化合物は、分子内に芳香環、及びビニル基を有すればよく、例えば、スチレンが挙げられる。オレフィン系アルケン化合物は、分子内に、直鎖若しくは分岐構造を有するアルケンであればよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ブタジエン、及びイソプレンが挙げられる。樹脂(B)がポリフェニレンエーテルである場合、当該ポリフェニレンエーテルとの相溶性に優れる観点から、エラストマーは、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体;スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、SEBSの水素添加物、スチレン-ブタジエン-ブチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン‐イソプレンブロック共重合体の水素添加物などの水添スチレン系エラストマー;及びスチレンの単独重合体(ポリスチレン:PS)から成る群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、SEBS、水添SEBS、及びPSから成る群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【0098】
上記水素添加物における水素添加率は特に限定されず、オレフィン系アルケン化合物由来の炭素‐炭素不飽和二重結合が一部残存していてもよい。
【0099】
エラストマーの重量平均分子量は、好ましくは30,000~300,000、より好ましくは31,000~290,000である。重量平均分子量が30,000以上である場合、樹脂硬化物の耐熱性が一層良好である傾向にあり、重量平均分子量が300,000以下である場合、樹脂組成物の流動性が一層良好である傾向にある。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い標準ポリスチレン換算で求められる値である。
【0100】
エラストマーの量は、樹脂硬化物の誘電特性及び金属層との密着性が良好である点で、樹脂組成物中にて樹脂(B)と架橋剤(D)との合計含有量100質量%基準で、又は樹脂硬化物中にて樹脂(B)由来部位と架橋剤(D)由来部位との合計含有量100質量%基準で、好ましくは、2質量%以上、又は3質量%以上、又は4質量%以上であり、樹脂組成物の流動性が良好である点で、好ましくは、40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下である。
【0101】
(難燃剤)
樹脂組成物は、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤としては、耐熱性を向上できる観点から、樹脂組成物の硬化後に樹脂硬化物中の他の成分、特に樹脂(B)及び架橋剤(D)に由来する部位と相溶しないものが好ましい。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機難燃剤;ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエタン、4,4-ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物;レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート等のリン系難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、難燃剤は、樹脂硬化物の誘電特性に一層有利である点で、デカブロモジフェニルエタンであることが好ましい。
【0102】
難燃剤の含有量は、特に限定されないが、UL規格94V-0レベルの難燃性を維持するという観点から、樹脂(B)と架橋剤(D)との合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上である。また、樹脂硬化物の比誘電率及び誘電正接を低く維持できる観点から、難燃剤の含有量は、好ましくは50質量部以下、又は45質量部以下、又は40質量部以下である。
【0103】
[溶剤]
樹脂組成物は溶剤を含んでよい。この場合、樹脂組成物は、樹脂組成物中の固形成分が溶剤に溶解又は分散したワニスの形態であることができる。溶剤としては、固形成分の溶解性又は分散性の観点から、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物;メタノール、エタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びクロロホルムから成る群から選ばれる1種又は2種以上が好適である。
【0104】
溶剤に対して樹脂組成物中の固形成分、特に複素環化合物(A)及び/又は樹脂(B)を好適に溶解させ、また、室温程度でも樹脂組成物の好適な流動性を確保し易くする観点から、溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物の溶剤がより好ましく、例えば、トルエン・メチルエチルケトン混合溶剤、トルエン・シクロヘキサン混合溶剤、及びトルエン・シクロペンタノン混合溶剤等がさらに好ましい。また、後述の基材への含浸性の観点からは、溶剤としてはトルエン単独も好ましい。
【0105】
溶剤の使用量は、例えば、樹脂組成物の所望の粘度、樹脂組成物の金属層への適用手段、金属層の材質及び表面形態などに応じて、任意に決定されることができる。
【0106】
<基材>
本実施形態の金属張積層体においては、樹脂硬化物と基材との複合体が金属層と積層されていてもよい。基材としては、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラスクロス;アスベスト布、金属繊維布、及びその他の合成若しくは天然の無機繊維布;全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙-ガラス混繊糸から得られる布等の天然セルロース系基材;ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム等が挙げられる。これらの基材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0107】
基材は、ガラスクロスであることが好ましい。ガラスクロスの誘電率は、5.1以下であることが好ましく、4.9以下であることがより好ましい。基材がガラスクロスであることにより、金属張積層体が高い耐熱性と低い熱膨張率とを有することができる。特に、ガラスクロスの誘電率が、5.1以下である場合、例えばEガラスクロス等に比べ、金属張積層体の誘電率を一層低減できる。ガラスクロスの誘電率は低い方が好ましいが、ガラスクロスの入手容易性の観点から、例えば、Qガラス以上、又はL2ガラス以上であってよい。なおガラスクロスの誘電率は、クロスではなく、塊状に加工したサンプルを用いて、空洞共振法にて10GHzで測定される値である。
【0108】
<金属張積層体の製造>
金属張積層体は、例えば、前述した本開示の樹脂組成物を金属層と積層し、当該樹脂組成物を硬化させて樹脂硬化物とすることで製造できる。好適には、ワニス形態の樹脂組成物を単独で又は支持体の上に塗布した後に、樹脂組成物中の溶剤を乾燥除去して製膜することにより、樹脂フィルムを得ることができる。この樹脂フィルムを金属層と積層し、更に硬化させることにより、金属張積層体において当該樹脂フィルムを層間絶縁シート、接着フィルム等として機能させることができる。ワニス形態の樹脂組成物(以下、単にワニスともいう。)は、樹脂硬化物と金属層との良好な密着性を得る観点から好ましい。一態様において、前述で例示したような基材と樹脂組成物との複合体(本開示で、「プリプレグ」ともいう。)を金属層に積層し、当該樹脂組成物を硬化させることが好ましい。プリプレグは、基材をワニスに含浸させた後、熱風乾燥機等で溶剤を乾燥除去して得ることができる。
【0109】
プリプレグ中の樹脂組成物固形分の割合は、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。樹脂組成物固形分の割合が30質量%以上である場合、金属張積層体の絶縁信頼性が良好である傾向がある。樹脂組成物固形分の割合が80質量%以下である場合、金属張積層体の曲げ弾性率等の機械特性が良好である傾向がある。
【0110】
一態様に係る金属張積層体においては、基材と複合化されていてもよい樹脂硬化物の片面又は両面に金属層が積層されている。樹脂硬化物は、基材と複合化されている場合であっても金属層と接して積層されていることができる。積層方法は特に限定されないが、例えば、基材又は金属層に対する樹脂組成物のコーティング、塗布又は噴霧;樹脂硬化物と基材又は金属層との貼合せ又はラミネート;樹脂組成物への基材又は金属層の浸漬;基材又は金属層への樹脂組成物の含浸;後述の支持体から基材への樹脂組成物の転写または貼り換え;その他の複合化;及び樹脂組成物(特にワニス)の乾燥などが挙げられる。上記で列挙された適用方法は、単独で、又は任意の組み合わせで使用されることができる。上記の支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;銅箔、アルミニウム箔等の金属箔;離型紙等を挙げることができる。支持体は、樹脂硬化物から事後的に取り外される場合には、マット加工、コロナ処理、離型処理等の化学的又は物理的な処理を施されていてよい。他方、支持体が、銅、アルミニウムなどの金属で構成されている場合、一態様においては、当該支持体を本開示の金属層として用いてもよい。
【0111】
特に好ましい積層方法としては、上記プリプレグを形成し、これを金属層と重ねた後、樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂硬化物及び基材の複合体と、金属層とが積層されている金属張積層体を得る方法が挙げられる。樹脂組成物は、例えば、温度範囲140℃~170℃、及び1分間~30分間のホールド時間での加熱により硬化させてよい。金属層と組合せる複合体は、1枚でも複数枚でもよく、用途に応じて複合体の片面又は両面に金属層を重ねて金属張積層体に加工する。金属張積層体の特に好ましい用途の1つはプリント配線板である。プリント配線板は、金属張積層体から金属箔の少なくとも一部が除去されていることが好ましい。
【0112】
<金属張積層体の特性>
本実施形態の金属張積層体は、一態様において、次の特性(i)及び/又は(ii)
(i)金属層に対する樹脂硬化物のピール強度≧0.4N
(ii)Df2 - Df1 ≦ 0.001
{式中、Df2は、本実施形態の複素環化合物に由来する構造部位を含む樹脂硬化物の誘電正接を示し、そしてDf1は、上記複素環化合物に由来する構造部位を含まない他は上記樹脂硬化物と同一の樹脂硬化物の誘電正接を示す。}
を満たすことが好ましく、特性(i)及び(ii)を満たすことがより好ましい。
【0113】
特性(i)について、金属層に対する樹脂硬化物のピール強度は、金属張積層体における金属層に対する樹脂硬化物の密着性が良好である点で、好ましくは、0.4N以上、より好ましくは0.5N以上である。上記ピール強度は高い方が好ましいが、金属張積層体の製造容易性の観点から、例えば1.0N以下、又は0.8N以下であってもよい。
【0114】
特性(ii)について、Df2からDf1を引くことにより得られる値は、本実施形態の複素環化合物の使用の有無による影響を示す一指標であり、Df2-Df1≦0.001の範囲内にあると、樹脂硬化物が本実施形態の複素環化合物に由来する構造部位を有していても誘電特性が良好に保持される傾向がある。このような観点から、Df2-Df1<0.0005がさらに好ましい。Df2-Df1の値は小さい方が好ましいが、金属張積層体の製造容易性の観点から、例えば、Df2-Df1≧0.0001、又はDf2-Df1≧0.0002であってもよい。
【0115】
≪プリント配線板≫
本実施形態の金属張積層体は、電気特性、特に高周波伝送特性に優れており、電子基板用材料等として好適である。本発明の一態様は、前述した本開示の金属張積層体を含むプリント配線板を提供する。一般に、プリント配線板とは、絶縁体から成る板の表面又は内部に導体配線パターンをプリント(印刷)することにより得られる基板をいい、コンデンサ等の電気部品を形成する前の状態を指す。本実施形態に係るプリント配線板は、その少なくとも一部分に、本開示の樹脂硬化物、絶縁体、導体又はその配線パターン、スルーホール又はブラインドビア等を有してよい。一態様において、プリント配線板は、電気特性の観点から、金属張積層体から金属箔の一部が除去されたものであることが好ましい。本実施形態のプリント配線板は、本実施形態の樹脂硬化物と、低粗度面にて当該樹脂硬化物と良好に密着している本実施形態の金属層とを有することで、優れた電気特性及び絶縁信頼性を有し得る。
【0116】
本実施形態のプリント配線板は、典型的には、上述した本実施形態のプリプレグを用いて、加圧加熱成型;更に上記で説明された積層体の金属層の配線パターン化により形成できる。金属層の配線パターン化は、例えば物理エッチング、化学エッチング、メッキ、浸漬などにより行われることができる。
【0117】
本実施形態に係るプリント配線板は、電気特性(特に高周波伝送特性)及び絶縁信頼性に優れることから、高速通信用モジュールに実装されることが特に好ましい。高速通信用モジュールは、一製品に組み込むことによって、その製品の情報、例えば、位置情報、稼働状況などを高速で通信することができる端末である。高速通信用モジュールは、具体的には、高周波伝送又は第5世代(5G)通信システムに組み込まれ、情報通信、産業用装置・機器の遠隔操作、Internet of Things(IoT)等に利用されることができる。
【実施例
【0118】
以下、実施例により、本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0119】
≪複素環化合物の合成≫
下記スキーム1に従って合成反応を行なった。
【化15】
【0120】
三口フラスコに溶媒としてアセトン(不揮発成分濃度=38.5%)52gを加え、反応成分として3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール(3MTA)13.0g及びグリシジルメタクリレート(GMA)18.27gを加え、さらに触媒としてトリエチルアミン(TEA)1.30gを加えて、ドラフト乾燥下、24時間に亘って反応させた。その後、溶媒をエバポレーターにより留去して、フラスコ内の生成物を得た。生成物の同定をH-NMR(日本電子製「ECS-400」、ジメチルスルホキシド-D(重DMSO))により行なって、複素環化合物Iを得た。なお異性体Bは、前述の一般式(1-1)中のR1及びR3が水素原子である化合物である。複素環化合物IのH-NMRチャートを図1に示す。
【0121】
図1において5.7ppm付近及び6.1ppm付近に確認できるメタクリレート由来のピークと、8.4ppm付近のトリアゾール環に由来するピークとの比率が、約1:1であることから、複素環化合物Iが得られたものと判断した。なお、上記の比率が正確な1:1ではない理由は、単一種の化合物ではなく、異性体Aと異性体Bの混合物が得られたためであると推察される。
【0122】
≪変性PPE1の調製≫
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、予め調製した0.12gの酸化第一銅及び1.26gの47%臭化水素の混合物と、0.28gのN,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン、10.22gのジメチル-n-ブチルアミン、2.23gのジ-n-ブチルアミン、885.9gのトルエン、47.47gの2,6-ジメチルフェノール、22.68gの2,3,6-トリメチルフェノール、29.86gの1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(ADEKA製:AO-30)を入れた。次いで、激しく攪拌しながら反応器へ1.05L/分の速度で空気をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は20℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。空気を導入し始めてから200分後、空気の通気をやめ、反応器内の窒素ガス置換を行った後、この重合混合物を1.46gのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩四水和物(同仁化学研究所製試薬)と水200gの水溶液として添加した。
【0123】
更に、1.0gのハイドロキノンと水40gとの混合液を加え、20℃にて1時間保温し、副生したジフェノキノンの還元処理を行った後、70℃に加温し、70℃にて1時間銅抽出を実施した。その後、静置分離により未変性ポリフェニレンエーテル溶液(有機相)と、触媒金属を移した水相とに分離した。
【0124】
反応器上部に窒素ガス導入の為のライン、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1リットルのジャケット付き反応器に上記未変性ポリフェニレンエーテル溶液400gを投入した。反応器内部を窒素置換した後、攪拌をしながらシリンジを用いてトリエチルアミン27.5gを加えた。その後塩化メタクリロイル22.7gとトルエン83.6gとの混合液をシリンジに採取し系内に滴下した。滴下終了後から3時間常温で攪拌を継続した後にオイルバスでフラスコを加熱し、還流状態で反応を継続した。還流開始から2時間経過した段階で加熱をやめ、常温に戻った後にメタノール2.00gを加えて反応を停止した。次いで、当該反応液を固形分濃度が20質量%となるまで濃縮した後、濃縮液と等質量のイオン交換水を用いて水洗した。その後、水層を除去し、有機層をメタノール(有機層の5倍質量)に攪拌しながら滴下した。次いで、沈殿物をろ過し、ろ物を110℃で1時間真空乾燥し、変性ポリフェニレンエーテル1を得た。
得られた変性ポリフェニレンエーテル1の数平均分子量(Mn)は2580g/mol、重量平均分子量(Mw)は5500g/mol、平均末端基数は3.0であった。
【0125】
≪金属張積層体の作製≫
<ワニスの作製>
表1に示されるとおりに、樹脂組成物の配合成分、ガラスクロス、及び銅箔を用意した。表2に示される組成に従って、溶剤としてのトルエン82質量部に対して、エチレン性不飽和基を有する複素環化合物、ポリフェニレンエーテル、エラストマー、架橋剤及びその他の添加剤を表2に示す質量部で配合して、溶解、及び/または分散するまで攪拌を継続した。次いで、溶解物へ開始剤をそれぞれ添加し、十分に攪拌して、ワニスを得た。
【0126】
<樹脂付き銅箔の作製>
得られたワニスを銅箔上に、乾燥後の膜厚が25μmになる様に塗布し、90℃で10分間、送風オーブン内で乾燥して樹脂付き銅箔を作製した。
更に、得られた樹脂付き銅箔2枚の樹脂側が接する様に貼り合わせて、室温から昇温速度2℃/分で加熱し、200℃で60分間、圧力10kg/cmで真空プレス積層することにより、両面銅張板を作製した。
【0127】
<プリプレグの作製>
また、得られたワニスにガラスクロス基材を含浸させた後、所定のスリットに通すことにより余分なワニスを掻き落とし、120℃の乾燥オーブンにて所定時間乾燥させ、トルエンを除去することにより、プリプレグを得た。このプリプレグを所定サイズに切り出した。
【0128】
<銅張積層板の作製>
得られたプリプレグを所定枚数重ね、更にその重ね合わせたプリプレグの両面に金属箔を重ね合わせた状態で、真空プレスを行うことにより、銅張積層板を得た。この真空プレスの工程では、温度条件として、室温から昇温速度2℃/分で加熱し、200℃で60分間保持し、圧力40kg/cmで加圧した。
【0129】
≪評価≫
<ポリフェニレンエーテルの同定及び分析>
[数平均分子量及び重量平均分子量]
クロロホルム溶媒下、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いた。標準ポリスチレンを用いた検量線に基づいて数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0130】
[平均末端基数]
ポリフェニレンエーテル(PPE)1分子当たりの平均末端官能基数を以下の方法により求めた。すなわち、「高分子論文集,vol.51,No.7(1994),第480頁」記載の方法に準拠し、PPEの塩化メチレン溶液にテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド溶液を加えることにより得られるサンプルの波長318nmにおける吸光度変化を紫外可視吸光光度計で測定した。この測定値から、PPEの末端変性の前後のフェノール性水酸基の数を求めた。また、上記で求めたPPEの数平均分子量と、PPEの質量とを用いてPPEの分子数(数平均分子数)を求めた。
これらの値から、下記数式(1)に従って、変性前後のPPE1分子当たりの平均フェノール性水酸基数を求めた。
1分子当たりの平均フェノール性水酸基数
=フェノール性水酸基の数/数平均分子数…(1)
変性後の平均末端官能基数は、下記数式(2)に従って求めた。:
1分子当たりの平均末端官能基数
=変性前の平均フェノール性水酸基数-変性後の平均フェノール性水酸基数…(2)
【0131】
<樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)>
樹脂硬化物の動的粘弾性を測定し、tanδが最大となる温度によりガラス転移温度(Tg)を求めた。測定装置としてARESS(TAインスツルメンツ社製)を用い、試験片:長さ約45mm、幅約12.5mm及び厚さ約3mm、ひねりモード、周波数:10rad/sの条件で測定を行った。
【0132】
<金属層の粗さ測定>
樹脂層と接する側の金属層表面の十点平均粗さRzjis及び要素平均長さRsmは、JIS B0601-2013に準拠した測定レーザー顕微鏡(LEXTOLS4100、オリンパス社製)を用いて下記の方法により測定した。
(1)金属層の粗さ測定面を上側にして、測定試料をステージに乗せる。
(2)対物レンズ50倍でフォーカス調整し[レーザー観察]により撮影する。
撮影設定は[通常]、[高精度]、[自動]で実施する。
(3)測定対象領域は撮像された259μm×259μmとし、この範囲において表面粗さを計測する。
(4)[表面粗さ]を選択し、[表面前処理]で[表面補正]を実施する。
(5)表面粗さは、[解析パラメータ]の[線粗さ]を選択し、表面画像内の任意の異なる場所5カ所に水平線を表示させ、それぞれの十点平均粗さRzjis及び要素平均長さRsmの数値を得る。
(6)得られた5つの数値の平均値をそれぞれ算出し、十点平均粗さRzjis及び要素平均長さRsmとする方法で、金属層表面の十点平均粗さ及び要素平均長さRsmを得る。
【0133】
<金属層表面の静摩擦係数>
金属層の静摩擦係数は、JISP8147:2010に準拠して測定した。但し、ポータブル摩擦計(新棟科学製ミューズTYPE:94i―II)を用いて、金属層表面の任意の異なる場所5カ所を測定し、その平均値を算出して、静摩擦係数とする方法で静摩擦係数を測定した。
【0134】
<樹脂硬化物と金属層との密着性(ピール強度)>
上記の真空プレスで成形された両面銅張板、銅張積層板から銅箔を一定速度で引き剥がす際の応力を測定した。具体的には、両面銅張板、または銅張積層板を、幅10mm×長さ100mmのサイズに切り出した。オートグラフ(AG-5000D、株式会社島津製作所製)を用い、銅箔を銅張積層板に対し90℃の角度で50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重の平均値を測定し、3回の測定の平均値を求めた。算出された平均値を、樹脂硬化物と金属層とのピール強度として得た。ピール強度を次の基準によりランク分けした。
◎(著しく良好) 0.45≦ピール強度(N)
〇(良好) 0.4≦ピール強度(N)<0.45
×(不良) ピール強度(N)<0.4
【0135】
<微細配線パターン成形性>
上記の真空プレスで成形された銅張積層板にサブトラクティブ法による銅配線パターンを成形し、その配線パターンの成形性を評価した。
具体的には、まず銅張積層板の銅箔面上にDF(ドライフィルム:旭化成製サンフォート)を、ロールラミネータを用いて、温度:110℃、圧力:0.4MPa、回転速度:1.0m/分で貼り合わせた後、L(ライン)/S(スペース)=50μm/50μmの露光マスクを介して露光量:100mJ/cm2にて光照射した。次に、炭酸ナトリウム水溶液(現像液)によるスプレーエッチングによる現像処理により、上記露光工程で光の当たっていない箇所を溶解除去してマスクパターンを作製した。
次に、塩化銅エッチング液により、ドライフィルムでマスクされていない銅箔部をエッチング除去した後、水酸化ナトリウム溶液にてDF剥離し、銅配線パターンを成形した。
配線パターン形成性は、配線パターンを上面から光学顕微鏡で観察し、配線パターンのトップ面とボトム面にそれぞれフォーカスしたものについて写真撮影して評価した。
【0136】
(配線パターン形成性の評価方法)
配線パターンのトップ面とボトム面にフォーカスしたときの観察写真で、それぞれの配線の幅を測定し、次の基準によりランク分けした。
◎(著しく良好):トップ面とボトム面の両方の配線幅の凹凸(すなわち配線幅の最大値と最小値との差)が5μm以下、且つトップ面とボトム面の配線の幅の平均値差が10μm以下。
〇(良好):トップ面とボトム面の両方の配線幅の凹凸が8μm以下、且つトップ面とボトム面の配線の幅の最大値の差が15μm以下のもののうち、上記◎の基準を満たさないもの。
×(不良):上記◎及び〇の基準を満たさないもの。
【0137】
<微細配線パターンにおける絶縁信頼性(防錆性/耐マイグレーション性)>
上記で得られた銅張積層板に、配線幅100μm、配線間幅100μmで交互に配置された正極、負極の電極配線パターンを有する内層回路基材を作製した。この内層回路基材上に、上記樹脂付き銅箔、またはプリプレグと銅箔を重ねて、温度条件として室温から2℃/分で昇温し、200℃で60分間、圧力条件40kg/cmの真空プレス条件で積層し、その後、内層回路から引回し電極部を形成してマイグレーション評価用サンプルを作製した。耐マイグレーション測定は、温度85℃及び相対湿度85%の条件下、直流電圧50Vを印加し、絶縁抵抗値の変動、銅デンドライトの成長の有無を観察し、次の基準によりランク分けした。
○(良好):500hr後の絶縁抵抗値が1×108Ωを上回り、かつデンドライトの成長が認められなかったもの。
△(許容):500hr後の絶縁抵抗値が1×108Ωを上回るか、又はデンドライトの成長が認められなかったもの。
×(不良):500hr後の絶縁抵抗値が1×108Ωを下回り、かつデンドライトの成長が認められたもの。
【0138】
<比誘電率及び誘電正接>
樹脂組成物からなるワニスをガラスクロスに含浸して得られたプリプレグを複数枚積層して、真空プレスで加圧、加熱硬化して得られた樹脂硬化物積層体について、周波数10GHzにおける誘電正接を、空洞共振法にて測定した。測定装置としてネットワークアナライザー(N5230A、AgilentTechnologies社製)、及び関東電子応用開発社製の空洞共振器(Cavity Resornator CPシリーズ)を用いた。厚さ約0.5mmの樹脂硬化物積層体を、その積層体のガラスクロスの経糸が長辺となるように、幅約2mm、長さ50mmの大きさに切り出した。次にサンプルを105℃±2℃のオーブンに入れ、2時間乾燥させた後、温度23℃及び相対湿度50±5%の環境下に96±5時間静置した。その後、温度23℃及び相対湿度50±5%の環境下で上記測定装置を用いることにより、サンプルの比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0139】
また、銅箔グレードa~eの各々について、エチレン性不飽和基を有する複素環化合物を含まないワニスを用いる比較例1及び2の誘電正接Df1に対して、エチレン性不飽和基を有する複素環化合物を含むワニスを用いた実施例の誘電正接Df2の差を算出して、次の基準によりランク分けした。
〇(良好) Df2 - Df1 ≦ 0.0005
△(許容) 0.0005 < Df2 - Df1 ≦ 0.001
×(不良) Df2 - Df1 > 0.001
【0140】
<評価結果>
実施例及び比較例により得られた銅張積層板について、上記のとおりに評価した結果を表2に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
図1