(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】耐油性樹脂組成物、耐油性シートおよび容器
(51)【国際特許分類】
C08L 25/06 20060101AFI20250305BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20250305BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250305BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20250305BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08L25/06
B65D65/02 E
C08J5/18 CET
C08J5/18 CFD
C08L53/02
C08L67/04
(21)【出願番号】P 2021024107
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501073426
【氏名又は名称】ダイセルパックシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】半田 通
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274191(JP,A)
【文献】特開2015-086252(JP,A)
【文献】特開2014-194005(JP,A)
【文献】特開2012-111208(JP,A)
【文献】特開2014-189748(JP,A)
【文献】特開2016-222792(JP,A)
【文献】特開平05-186660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/06
B65D 65/02
C08J 5/18
C08L 53/02
C08L 67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)と結晶化されたポリ乳酸(結晶性PLA)の混合物成形体、
(B)
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック重合体、水素化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック重合体、水素化スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック重合体から選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマーおよび
(C)(C-1)非晶性ポリ乳酸(非晶性PLA)または(C-2)前記(A)成分に含まれるHIPSとは別に含有されているHIPSを含有する耐油性樹脂組成物。
【請求項2】
前記耐油性樹脂組成物中の前記結晶性PLAと前記非晶性PLAの合計含有割合が20質量%以上である、請求項1記載の耐油性樹脂組成物。
【請求項3】
前記耐油性樹脂組成物中の前記結晶性PLAと前記非晶性PLAの合計含有割合が20~40質量%である、請求項1記載の耐油性樹脂組成物。
【請求項4】
前記耐油性樹脂組成物中、(A)成分の含有割合が50~90質量%、(B)成分の含有割合が5~25質量%、(C)成分の含有割合が5~25質量%である、請求項1~3のいずれか1項記載の耐油性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の耐油性樹脂組成物からなる耐油性シート。
【請求項6】
無延伸シートである、請求項5記載の耐油性シート。
【請求項7】
単層シートである、請求項5記載の耐油性シート。
【請求項8】
無延伸単層シートである、請求項5記載の耐油性シート。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項記載の耐油性シートからなる容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐油性が優れた成形体が得られる耐油性樹脂組成物と、前記耐油性樹脂組成物から得られる耐油性シート、前記耐油性シートから得られる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
総菜、菓子などの油成分を含有する食品と接触した状態で使用される食品容器、潤滑油などと接触する機械部品の収納容器などには、耐油性が良いことが求められている。
特許文献1は、(A)スチレン系樹脂55~85質量部および(B)ポリエステル(ポリ乳酸が好ましい)15~45質量部を含み、定ひずみ耐薬試験法による破断時間が60分以上、ビカット軟化温度が70℃以上である樹脂組成物とその成形体の発明が開示されている(特許請求の範囲)。
樹脂組成物およびそれからなる成形品は、耐薬品性(オイルに対する耐薬品性;段落番号0026)および耐熱性に優れているため、食品容器・包装、OA機器、電子機器、雑貨等の幅広い分野での利用が有利になることが記載されている(段落番号0060)。
実施例における定ひずみ耐薬試験方法で使用した試験片は、MD方向に切り出した試験片のみである(段落番号0049)。
【0003】
特許文献2は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)(ポリ乳酸系樹脂が好ましい)及びスチレン系熱可塑性エラストマー(A2)で構成された基材層(A)の少なくとも一方の面に、オレフィン系樹脂(B1)及びゴム含有スチレン系樹脂(B3)で構成された被覆層(B)が形成された積層シートの発明が記載されている(特許請求の範囲)。
「さらに、本発明の積層シートは、耐熱性及び耐油性に優れるため、食品が高温で充填されたり、オーブンや電子レンジで加熱処理される容器(惣菜用容器などの食品用容器)として特に適している(段落番号0091)」と記載されている。
【0004】
特許文献3は、耐衝撃性スチレン系樹脂(A)とポリ乳酸(B)とを含有するスチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなり、前記耐衝撃性スチレン系樹脂(A)とポリ乳酸(B)との使用割合が(A)/(B)であらわされる質量比として、95/5~65/35の範囲であり、前記スチレン系樹脂組成物を二軸延伸する際の倍率が、少なくとも一方向で1.3~8.0倍である、スチレン系延伸シートの発明が記載されている(特許請求の範囲)。
さらに「本発明の延伸シートから得られる成形品は耐油性に優れる観点より、内容物の食品として、油成分を含むものであっても、好適に用いることができる(段落番号0035)」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-48248号公報
【文献】特許第5069943号公報
【文献】特許第6206701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、耐油性が優れた成形体が得られる耐油性樹脂組成物、前記耐油性樹脂組成物から得られる耐油性シート、前記耐油性シートから得られる容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、(A)耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)と結晶化されたポリ乳酸(結晶性PLA)の混合物成形体、
(B)熱可塑性エラストマーおよび
(C)(C-1)非晶性ポリ乳酸(非晶性PLA)または(C-2)前記(A)成分に含まれるHIPSとは別に含有されているHIPSを含有する耐油性樹脂組成物と、前記耐油性樹脂組成物から得られる耐油性シート、前記耐油性シートから得られる食品容器を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐油性樹脂組成物から得られる耐油性シートは耐油性が優れており、無延伸で単層のシートであっても前記耐油性は維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】シートが平坦な状態にあるときの耐油性試験を説明するための平面図。
【
図2】シートが折り曲げられた状態にあるときの耐油性試験を説明するための側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<耐油性樹脂組成物>
(A)成分は、HIPSと結晶性PLAの混合物成形体である。
(A)成分は、例えば、HIPSとPLA(非晶性PLA)をPLAの結晶化温度(約110℃±10℃)で加熱混練した後で、公知のペレットのような所望形状に成形して得ることができる。
HIPSは、メルトフローレート(MFR)が1~25g/10minが好ましく、1.5~22g/10minがより好ましい。
結晶性PLAは、非晶性PLAの一部が結晶化されたものを含み、植物由来のものが好ましい。
結晶性PLAは、メルトフローレート(MFR)が1~30g/10minが好ましく、3.8~26.3g/10minがより好ましい。
HIPSと結晶性PLAの合計量中のそれぞれの含有割合は、HIPS50~85質量部、ポリ乳酸15~50質量%が好ましく、HIPS60~75質量%、ポリ乳酸25~40質量%がより好ましい。
(A)成分は、東洋スチレン(株)から販売されている商品名BM600(PLA30質量%含有)(結晶化度20%または50%)を使用することもできる。
【0011】
(B)成分は熱可塑性エラストマーであり、他の含有成分の相溶化剤として作用する成分である。
(B)成分の熱可塑性エラストマーは、ウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレン系エラストマーなどを挙げることができる。
(B)成分としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック重合体(SBS重合体)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック重合体(SIS重合体)、水素化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック重合体(SEBS重合体)、水素化スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック重合体(SEPS)、エチレン-αオレフィン系重合体、エチレン-αオレフィン-ポリエン重合体、シリコーンゴム、アクリルゴム、及びブタジエン-(メタ)アクリル酸エステル重合体から選ばれる1種以上を挙げることができる。
これらの中でも、SBS重合体、SEBS重合体、SEPS重合体がより好ましく、SBS重合体がさらに好ましい。
【0012】
(C)成分は、(C-1)成分の非晶性PLAまたは(C-2)成分の(A)成分に含まれるHIPSとは別に含有されているHIPSである。
(C-1)成分の非晶性PLAは、植物由来のものが好ましく、メルトフローレート(MFR)が1~30g/10minが好ましく、3.8~26.3g/10minがより好ましい。
(C-2)成分のHIPSは、メルトフローレート(MFR)が1~25g/10minが好ましく、1.5~22g/10minがより好ましい。
【0013】
耐油性樹脂組成物中の(A)~(C)成分の合計量中の各成分の含有割合は、
(A)成分50~90質量%、(B)成分5~25質量%、(C)成分5~25質量%が好ましく、
(A)成分60~90質量%、(B)成分5~20質量%、(C)成分5~20質量%がより好ましく、
(A)成分70~90質量%、(B)成分5~18質量%、(C)成分5~18質量%がさらに好ましい。
【0014】
耐油性樹脂組成物中の前記結晶性PLAと前記非晶性PLAの合計含有割合は、20質量%以上が好ましく、20~40質量%がより好ましく、25~35質量%がさらに好ましい。
【0015】
耐油性樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲内で、安定剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤などの光安定化剤、熱安定化剤など)、流動性改良剤、可塑剤、軟化剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、導電剤、防曇剤、着色剤、充填剤(シリカ、タルク、金属フィラーなどの粒状充填剤や、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などの繊維状充填剤など)、結晶核成長剤、分散剤、発泡剤、消泡剤、抗菌剤などを含有することができる。
【0016】
<耐油性シートおよび容器>
本開示の耐油性シートは、上記の耐油性樹脂組成物からなるものである。
耐油性シートの厚みや大きさは、用途に応じて選択することができるが、例えば、厚みは0.1~0.8mmの範囲にすることができる。
耐油性シートは、公知の押出成形、プレス成形などの方法を適用して製造することができる。
【0017】
本開示の耐油性シートは、無延伸シートでもよいし、延伸シートでもよいが、無延伸シートであっても優れた耐油性を有しているものである。このため、特許文献3の発明のように耐油性を付与するために延伸処理をする必要は無いが、用途に応じた厚さに調整するため、一軸延伸または二軸延伸することができる。
本開示の耐油性シートは、単層シートでもよいし、積層シートでもよいが、単層シートであっても優れた耐油性を有しているものである。このため、特許文献2の発明のように耐油性を付与するため、基材層と被覆層からなる積層シートにする必要は無い。
本開示の耐油性シートは、耐油性樹脂組成物の含有成分を調製することによって、特許文献1の発明のようにMDのみの耐油性が良いものではなく、MDとTDの両方向の耐油性が優れたものを得ることができる。
本開示の耐油性シートは、無延伸かつ単層シートであるものがより好ましい。
【0018】
本開示の容器は、上記の耐油性シートから製造されるものであり、形状、厚さ、大きさなどは用途に応じて選択することができる。
本開示の容器は、上記の耐油性シートを使用し、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチドモールド成形、熱板成形などの慣用の熱成形を適用して製造することができる。
本開示の容器は、総菜容器、弁当容器、チョコレート、クッキー、ビスケットなどの油成分含有菓子容器などの食品容器またはその一部、前記食品容器の内部(例えば、食品容器の底)に敷く中敷きシート、食品容器内の食品を覆うカバー材として使用することができるほか、OA機器とその部品、電子機器とその部品、各種機械部品、雑貨などの幅広い分野で使用することができる。
【0019】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0020】
(A)成分
HIPS/結晶性PLA:商品名トーヨーエネライツ BM600(PLA30質量%含有)(結晶化度20%)(東洋スチレン(株))
(B)成分
SBS重合体:スチレン系熱可塑性エラストマー;商品名タフプレン126S(旭化成(株))
(C-1)成分
非晶性PLA:商品名REVODE110(浙江海正生物材料股イ分有限公司)
(C-2)成分
HIPS:商品名トーヨースチロールHI E640(東洋スチレン(株))
【0021】
実施例1~3、比較例1~4
表1に示す各成分をドライブレンドした後、下記条件で押出成形して、シートを製造した。
(押出条件)
押出機:汎用横型押出機 PG-65-32型((株)プラ技研)
シリンダー温度:210℃
ロール温度:65℃
シート厚さ:0.4mm
シート幅:700mm
得られたシートは、縦150mm、横10mmの寸法で、長さ方向がMDとTDになるように切り出したものを試験シートとして使用し、下記の耐油性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0022】
<耐油性試験>
(1)耐油性試験1(試験シートが平坦状態)
図1に示すとおり、平坦な台20上に試験シート1を置き、長さ方向中間位置にMCTオイル(中鎖脂肪酸)を染み込ませた脱脂綿2(10mm角)を置いた。脱脂綿2は、MCTオイル(中鎖脂肪酸)が入った容器中に60秒間浸漬したものを使用した。
室温(20~25℃)で所定時間放置したとき、試験シート1を指で折り曲げたときに破断するかどうかで耐油性を確認した。前記試験時間は、1分間、3分間、5~60分間で実施した。5~60分間は5分ごとに取り出して破断するかどうかを確認した。
【0023】
(2)耐油性試験2(試験シートが曲げられた状態)
図2に示す治具10を使用した。
治具10は、基板13と、基板部13から間隔W(W=36mmまたは24mm)をおいて垂設された2枚の支持板11、12を有している。基板13は、平坦な台20上に固定されている。治具10は、Wの異なる2つの治具を使用することもできるし、2枚の支持板11、12を可動させてWを調整できるものを使用することもできる。
図2に示すとおり、2枚の支持板11、12の間に長さ方向の中間位置が頂点になるように折り曲げた状態の試験シート1を挟み込んで保持した。
図2に示す状態の試験シート1の折り曲げ部の頂点位置にMCTオイル(中鎖脂肪酸)を染み込ませた脱脂綿2(10mm角)を置いた。脱脂綿2は、MCTオイル(中鎖脂肪酸)が入った容器中に60秒間浸漬したものを使用した。
室温(20~25℃)で所定時間放置したとき、試験シート1を指で折り曲げたときに破断するかどうかで耐油性を確認した。前記試験時間は、1分間、3分間、5~60分間で実施した。5~60分間は5分ごとに取り出して破断するかどうかを確認した。
【0024】
【0025】
耐油性(割れ発生時間)は、1分間、3分間、5~60分間(但し、5分ごとに試験)の試験時間にて、試験シート1を折り曲げたときに破断しなかった最大処理時間を示している。
例えば、1は1分間経過時点では破断せず、3分間では破断したことを示し、5は5分間経過時点では破断せず、10分間経過時点では破断したことを示し、35は35分間経過時点では破断せず、40分間経過時点では破断したことを示す。
>60は、試験開始から60分間経過時点で試験シート1に変化がなかったことを示し、<1は、1分間放置した試験シート1を指で折り曲げたときに破断したことを示している。
(A)~(C)成分を全て含有している実施例と、(A)~(C)成分のうちのいずれかの成分を含有していない比較例との対比から、実施例の耐油性が優れていることが確認された。
特に(A)、(B)、(C-1)成分の組み合わせからなり、実施例2、3と比べるとPLA含有割合の高い実施例1は、MDとTDの両方向における耐油性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本開示の耐油性樹脂組成物から得られる耐油性シートは、容器(食品、日用品、電気・電子機具及び部品、機械機具および部品、雑貨などの各種容器など)の製造材料として使用することができるほか、飲料などの液体充填用容器、食品用容器(惣菜用容器、弁当用容器、菓子容器など)、薬品用容器、オーブンや電子レンジ用容器、熱湯を注ぐタイプの容器(インスタント食品用容器など)、加熱殺菌に供される容器、非加熱容器などに使用することができる。さらに食品容器内で使用する中敷きシート、食品を覆うカバー材としても使用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 試験シート
2 油含有脱脂綿
10 治具
11、12 支持板
13 基板
20 台(試験用の台)