IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電磁誘導装置 図1
  • 特許-電磁誘導装置 図2
  • 特許-電磁誘導装置 図3
  • 特許-電磁誘導装置 図4
  • 特許-電磁誘導装置 図5
  • 特許-電磁誘導装置 図6
  • 特許-電磁誘導装置 図7
  • 特許-電磁誘導装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】電磁誘導装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/10 20160101AFI20250305BHJP
   H02J 50/50 20160101ALI20250305BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20250305BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
H02J50/10
H02J50/50
H02J50/80
H05B6/12 304
H05B6/12 308
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021034136
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022134762
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大浴 清作
(72)【発明者】
【氏名】八木 裕
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-511184(JP,A)
【文献】特開2005-093122(JP,A)
【文献】特開2009-165291(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0104570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/10
H02J 50/50
H02J 50/80
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁誘導を利用して、対象物を加熱させたり、対象物に給電するための電磁誘導装置であって、
天板で上部が閉じられた収容空間内に設けられ、前記天板に向かう方向の磁束を発生する電磁誘導コイルと、
前記収容空間の底面と電磁誘導コイルとの間に設けられ、前記電磁誘導コイルの駆動周波数とは異なる周波数の搬送波を前記天板に向かう方向に出力する通信用コイルと、
前記天板と前記電磁誘導コイルとの間に設けられて前記通信用コイルと磁気結合する中継コイルを有し、前記搬送波の周波数で共振するように構成された中継デバイスとを備える、
電磁誘導装置。
【請求項2】
前記中継コイルは、板状またはシート状の誘電体の表面に形成される、請求項1に記載の電磁誘導装置。
【請求項3】
前記中継デバイスは、
前記誘電体の表面において、前記中継コイルの一端に接続されかつ当該中継コイルの周囲を囲むように形成された第1表面電極と、
前記誘電体の裏面において、前記第1表面電極と対向するように形成された第1裏面電極とを有する、請求項2に記載の電磁誘導装置。
【請求項4】
前記誘電体の表面には、前記中継コイルの他端に接続された第2表面電極が形成され、前記誘電体の裏面には、前記第1裏面電極に接続されかつ前記第2表面電極と対向するように第2裏面電極が形成されている、請求項3に記載の電磁誘導装置。
【請求項5】
前記第1裏面電極と前記第2裏面電極との接続配線は、前記中継コイルを構成する配線と直交するように延びている、請求項4に記載の電磁誘導装置。
【請求項6】
前記中継コイルは、前記電磁誘導装置を上から見た平面視において、前記電磁誘導コイルよりも大きい外径を有する、請求項1から4のいずれかに記載の電磁誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導を利用して、被加熱物を加熱させたり、給電対象物に給電するための電磁誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キッチン用の家電製品などにおいて、安全性の確保や利便性の向上を図るために、電気的な接点を設けずに無線給電を行ったり、近距離無線通信(NFC)を用いて機器同士や機器とキッチン用品(例えば、鍋)との間で無線通信を行うこと、いわゆるコードレス化が期待されている。
【0003】
NFCでは、送信コイルと受信コイルとの間の磁界結合によって電力伝送を行ったり、通信伝送を行っている。例えば、特許文献1にあるように中継コイル等で複数のコイルを重ねて配置することで通信距離を伸ばす技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5640515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁界結合の特性上、送信コイルと受信コイルとの間に磁性体等の磁束を阻害するものがあると、通信距離が低下したり、通信伝送が阻害されるという課題がある。すなわち、特許文献1のように、中継コイルを設けた場合においても、送信コイルと受信コイルとの間に障害物があると効率よく給電や通信ができないという課題がある。また、送信コイルと受信コイルとの位置をきちんとあわせないと効率よく給電や通信ができないという課題がある。
【0006】
より詳しくは、例えば、誘導加熱装置では、天板に載置された加熱対象物(例えば、鍋やケルト等)を誘導加熱するための加熱コイルが設けられている。したがって、加熱コイルの下方に加熱対象物と情報通信するための送信コイルを配置すると、加熱コイルにより、加熱対象物との間の通信が阻害され、効率よく通信ができない。一方で、送信コイルの位置を加熱コイルからずらすことも考えられるが、加熱対象物の受信コイルが設けられている位置は、加熱対象物によって異なる場合があり、使用者が送信コイルと受信コイルを磁気結合させるための位置合わせする必要があるという問題がある。また、天板の送信コイル上に載置された加熱対象物を避けるために、送信コイルを傾けて配置する必要があり、装置の大型化を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁誘導装置において、電磁誘導コイルの影響を回避して被加熱物との通信が実現できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る電磁誘導装置は、天板で上部が閉じられた収容空間内に設けられ、前記天板に向かう方向の磁束を発生する電磁誘導コイルと、前記収容空間の底面と電磁誘導コイルとの間に設けられ、前記電磁誘導コイルの駆動周波数とは異なる周波数の搬送波を前記天板に向かう方向に出力する通信用コイルと、前記天板と前記電磁誘導コイルとの間に設けられて前記通信用コイルと磁気結合する中継コイルを有し、前記搬送波の周波数で共振するように構成された中継デバイスとを備える。
【0009】
上記態様によると、通信用コイルから出力された搬送波が、電磁誘導コイルによって阻害された場合でも、中継デバイスにおいて、電磁誘導コイルからの漏れ磁束を増幅させることができる。また、電磁誘導コイルの駆動周波数と異なる搬送波を用いているので、電磁誘導コイルから出る磁束の影響を受けずに、通信用コイルから出力された搬送波のみを増幅させることができる。
【0010】
上記態様の電磁誘導装置において、前記中継コイルは、板状またはシート状の誘電体表面に形成される、としてもよい。
【0011】
このように、中継コイルは、板状またはシート状の誘電体表面に形成して、天板と電磁誘導コイルとの間に挿入することで、使用者の安全性を確保することができる。また、中継コイルを板状またはシート状の誘電体表面に形成することで、中継デバイスの薄型化が可能になり、加熱効率や給電効率が低下するのを防ぐことができる。さらに、天板にアンテナを埋め込む方式と比較して、製造コストを低減できる。
【0012】
上記態様の電磁誘導装置において、前記中継デバイスは、前記誘電体の表面において、前記中継コイルの一端に接続されかつ当該中継コイルの周囲を囲むように形成された第1表面電極と、前記誘電体の裏面において、前記第1表面電極と対向するように形成された第1裏面電極とを有する、としてもよい。
【0013】
これにより、第1表面電極と第1裏面電極との間に線間容量が形成されるので、電子部品レスで中継デバイスに共振回路を構成することができる。
【0014】
上記態様の電磁誘導装置において、前記誘電体の表面には、前記中継コイルの他端に接続された第2表面電極が形成され、前記誘電体の裏面には、前記第1裏面電極に接続されかつ前記第2表面電極と対向するように第2裏面電極が形成されている、としてもよい。
【0015】
これにより、第2表面電極と第2裏面電極との間に線間容量が形成されるので、電子部品レスで中継デバイスに共振回路を構成することができる。
【0016】
上記態様の電磁誘導装置において、前記第1裏面電極と前記第2裏面電極との接続配線は、前記中継コイルを構成する配線と直交するように延びている、としてもよい。
【0017】
これにより、通信ノイズを低減することができる。
【0018】
前記中継コイルは、前記電磁誘導装置を上から見た平面視において、前記電磁誘導コイルよりも大きい外径を有する、としてもよい。
【0019】
これにより、天板が割れたときでも、電磁誘導コイルが露出されないので、使用者が誤って電磁誘導コイルに触れるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電磁誘導装置は、天板に載置される対象物と通信用コイルと間に設けられた電磁誘導コイルの影響を回避して対象物との通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る誘導加熱装置の斜視図
図2図1のII-II線における誘導加熱装置の断面図
図3図1のII-II線における中継デバイスの断面図
図4】中継コイルの構成及び各電極を説明するための図
図5】誘導加熱装置の回路の概略構成を示す図
図6】中継デバイスの他の構成例を示す斜視図
図7】誘導加熱装置の他の構成例を示す平面図
図8】中継デバイスの他の構成例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に本実施形態に係る誘導加熱装置の斜視図を示し、図2図1のII-II線断面図を示す。本実施形態では、誘導加熱装置として、IHクッキングヒータを例示している。なお、説明の便宜上、誘導加熱装置について、使用者が相対する方向における手前側を「前」、奥側を「後」と称し、手前側から奥側に見たときの左側を「左」、右側を「右」と称し、使用時の高さ方向における上側を「上」、下側を「下」と称する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態では、誘導加熱装置1として、キッチンの調理台に設けられた据え付け用の開口部(図示省略)に組み込まれる、いわゆるビルトイン型のIHクッキングヒーターを例示している。誘導加熱装置1は、フライパンや鍋などの被加熱物8を電磁誘導の原理を利用して加熱するように構成される。誘導加熱装置1は、電磁誘導装置の一例である。
【0025】
なお、誘導加熱装置1は、ビルトイン型のIHクッキングヒーターに限定されず、IHクッキングヒーター以外の調理機器であってもよい。また、例えば、誘導加熱装置1が、建物に備え付けの調理設備、テーブルのような家具等に電磁誘導コイル31が直接内蔵されるような構成であってもよい。
【0026】
なお、被加熱物8は、フライパンや鍋に限定されず、電磁誘導により電磁誘導コイル31から受電するための受電コイルが内蔵された電気機器等であってもよい。
【0027】
図1に示すように、誘導加熱装置1は、誘導加熱が可能な被加熱物8の載置場所としての加熱部3が4つある4口タイプのものである。4つの加熱部3は、それぞれが前後方向または左右方向に間隔をあけて設けられ、誘導加熱装置1の上から見た平面視(以下、単に平面視という)においてそれぞれの加熱部3の中心を結ぶと略四角形状になるように配置される。
【0028】
図1及び図2に示すように、誘導加熱装置1は、天板21が上部に設けられた筐体2と、前述の4つの加熱部3と、各加熱部3に対応して設けられた4つの中継デバイス4と、操作表示部6と、制御基板70とを備える。4つの加熱部3、4つの中継デバイス4、操作表示部6及び制御基板70は、筐体2内に収容される。
【0029】
-筐体-
筐体2は、誘導加熱装置1を設置する空間に対応する外郭を有し、上方に開放された概ね矩形箱状に形成される。筐体2は、主に板金などで構成される。筐体2の開口周縁には、同じく板金などからなる枠状のブラケット24が組み付けられる。天板21は、ブラケット24上に筐体2の開口を覆うように設置される。天板21が置かれた筐体2内には、収容空間Qが形成される。収容空間Qにおいて、上下方向の中間位置には、加熱部3を設置するための中板23が設けられる。中板23には、後述する電磁誘導コイル31と対応する位置に、電磁誘導コイル31を冷却するための通気口27が形成される。なお、誘導加熱装置1が、筐体2を備えないような構成であってもよい。図示しないが、例えば、建物に備え付けの調理設備、テーブルのような家具等に電磁誘導コイル31が直接内蔵されるような構成の場合に、筐体を設けずに、上記の調理設備や家具等に収容空間Qが形成され、その収容空間Qに電磁誘導コイル31が収容されていてもよい。
【0030】
-操作表示部-
操作表示部6は、筐体2の前部における天板21下側にパネル状に設けられる。具体的な図示は省略するが、操作表示部6は、天板21に載置された被加熱物8に対する加熱レベルなどの表示を行うと共に使用者の入力を受け付ける。操作表示部6は、例えば、液晶表示素子などからなる表示部とタッチパネルを含んで構成される。なお、操作表示部6の操作形態及び表示形態は、特に限定されず、従来から知られている様々な形態を採用することができる。
【0031】
-加熱部-
加熱部3は、中板23に設けられた円盤状のコイルベース28によって支持された電磁誘導コイル31を備える。電磁誘導コイル31は、例えば、天板21に沿うように放射線状に巻回された平型のコイルである。
【0032】
電磁誘導コイル31は、後述する駆動回路76(図5参照)によって駆動され、天板に向かう方向(上下方向)、すなわち天板21上に載置された被加熱物8に向かう方向(上下方向)の磁束を発生する。これにより、誘導加熱装置1は、天板21に載置された被加熱物8を誘導加熱したり、被加熱物8に設けられた電磁誘導コイル(図示省略)を介して被加熱物8に電力を供給したりすることができる。電磁誘導コイル31の駆動周波数(上記駆動電流の周波数)は、例えば、数十[kHz]程度に設定される。
【0033】
なお、電磁誘導コイル31の構成は、平型のコイルに限定されない。例えば、図示しないが、図1の電磁誘導コイル31と対応する位置に、天板21に沿って延びるフェライトコア等の軸心周りに巻回された電磁誘導コイルを、前後方向または左右方向に間隔をあけて並べて設置するようにしてもよい。また、電磁誘導コイル31は、加熱部3ごとに、同じ構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
【0034】
-制御基板-
制御基板70は、加熱部3ごとに設けられ、各加熱部3の下側に配置されている。本実施形態では、制御基板70が、筐体2の底板25上、すなわち、収容空間Qの底面26上に設置されている例を示す。制御基板70には、被加熱物8に搭載された通信デバイス80と無線でデータ通信をするための通信用コイル71と、制御回路72とが設けられる。
【0035】
図5に示すように、制御回路72は、操作表示部6に受け付けた操作内容に基づいて、電磁誘導コイル31を駆動する駆動回路76と、通信用コイル71を介して通信デバイス80と無線通信する通信回路77とを備える。通信デバイス80は、例えば、通信デバイス80は、通信用コイル81と、通信用コイル81を介して通信回路77と無線通信する通信回路82とを備える。ただし、通信デバイス80の構成は、特に限定されない。
【0036】
上記無線通信でやり取りされるデータは、特に限定されないが、例えば、誘導加熱装置1から被加熱物8に設定温度等の設定データを送信したり、被加熱物8から誘導加熱装置1に要求電力量のデータを送信したり、被加熱物8に収容された媒体(例えば、料理等)の測定温度を送信したりする。
【0037】
通信用コイル71は、上記の無線通信のために、電磁誘導コイル31の駆動周波数とは異なる周波数の搬送波を出力する。搬送波の搬送周波数は、特に限定されないが、例えば、被加熱物8と制御回路72との通信にNFC(Near Field Communication)規格に準拠した通信方式(以下、単にNFCという)を用いる場合、13.56[MHz]に設定される。通信用コイル71は、電磁誘導コイル31の真下に設けられる。一般的に、誘導加熱装置1は、被加熱物8が電磁誘導コイル31の真上に設置されるように構成される。したがって、通信用コイル71を電磁誘導コイル31の真下に設けることで、使用者が、被加熱物8と通信用コイル71との位置合わせをする手間を省くことができる。
【0038】
-中継デバイス-
図2に戻り、中継デバイス4は、筐体2の天板21と電磁誘導コイル31との間に設けられる。中継デバイス4は、天板21に沿って延びる板状またはシート状の誘電体40を備える。誘電体40の表面(本実施形態では上面)には、中継コイル41が形成される。なお、中継コイル41が、誘電体40の下面に形成されてもよい。
【0039】
誘電体40は、平面視においてコイルベース28の外径よりと同じか若干大きい円形状であり、コイルベース28の周縁部の上に載置され、支持されている。このような構成にすることで、例えば、天板21がガラス等の素材で構成されている場合において、天板が割れたときでも、電磁誘導コイル31が露出されないので、使用者が誤って電磁誘導コイル31に触れるのを防ぐことができる。
【0040】
誘電体40の材質は、特に限定されないが、例えば、誘電体40の材料として、マイカ(εr=7.0)や雲母(εr=7.5)を好適に使用できる。マイカや雲母のように、高い比誘電率の素材を用いることで、後述する線間容量C1,C2をを確保するための厚さや電極面積を削減することができる。なお、誘電体40の材料は、マイカや雲母に限定されず、比誘電率がマイカや雲母と同程度以上の他の素材を用いてもよい。
【0041】
図3は、図2の中継デバイス4を拡大した図面である。また、図4左側は、中継デバイス4の上から見た図を示し、図4右側は、中継デバイス4を下から見た図を示す。図4では、誘電体40を省略して記載している。
【0042】
図3及び図4に示すように、中継コイル41は、平面視において、導体線を誘電体40上に複数ターンの矩形螺旋状になるように形成した平面コイルである。導体線の材質は特に限定されないが、抵抗率が低い方が好ましい。例えば、銅等の金属材料で構成された導電インクや導電テープ、導電基板等を好適に使用できる。なお、中継コイル41の形状は、矩形螺旋状に限定されず、他の形状、例えば、円形螺旋状であってもよい。
【0043】
さらに、誘電体40の表面には、中継コイル41の外端(一端)に接続されかつ中継コイル41の周囲を囲む表面外周電極42と、中継コイル41の内端(他端)に接続された表面内部電極43とが形成されている。中継コイル41の前後左右の中心位置は、通信用コイル71の中心位置と位置合わせされる。これにより、通信用コイル71から出力された磁束を効率よく受信することができる。
【0044】
また、誘電体40の裏面には、表面外周電極42と全体にわたって対向するように形成された裏面外周電極44と、表面内部電極43と対向するように形成された裏面内部電極45とが設けられる。これにより、表面外周電極42と裏面外周電極44との間に線間容量C1が形成され、表面内部電極43と裏面内部電極45との間に線間容量C2が形成される。
【0045】
さらに、裏面外周電極44と裏面内部電極45との間は、中継コイル41を構成する導体線と直交するように延びた接続配線46で接続される。
【0046】
これにより、中継デバイス4には、図5に示すように、中継コイル41と線間容量C1と線間容量C2とが直列に接続された直列共振回路49が構成される。
【0047】
直列共振回路49は、通信用コイル71から出力される搬送波の搬送周波数で共振するように構成される。そうすることで、通信用コイル71から出力された搬送波が、電磁誘導コイル31によって阻害された場合でも、中継デバイス4において、電磁誘導コイル31からの漏れ磁束を増幅させることができる。そして、中継コイル41と被加熱物8の通信用コイル82とが磁気結合することにより、通信用コイル71から出力された搬送波を被加熱物8の通信回路に伝送することができる。
【0048】
ここで、直列共振回路49の共振周波数foは、以下の式(1)で表される。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
上式において、Lは中継コイル41のインダクタンスであり、Cは線間容量C1と線間容量C2との合成キャパシタンスである。また、εsは、誘電体40の比透磁率であり、dは誘電体40の厚さ、Sは対向する電極の表面積である。
【0052】
例えば、誘電体として厚さ0.3[mm]のマイカ(εr=7.0)を用いた場合において、誘電体40の表裏に形成された外周電極42,44の対向表面積を3420[mm]、内部電極43,45の対向表面積を625[mm]とすると、式(2)と直列接続の合成Cは100[pF]程度になる。式(1)から、中継コイル41のインダクタンスが1.3[μF]程度に設定されると、直列共振回路49の共振周波数が13.56[MHz]になる。すなわち、中継デバイス4の直列共振回路49は、NFCの搬送波の搬送周波数で共振するように構成される。
【0053】
なお、中継コイル41のインダクタンスLは、コイルの径や、コイルの巻き数を変えることで調整することができる。線間容量C1または線間容量C2は、例えば、誘電体40として用いる素材の比誘電率や、誘電体40の厚さを変えることで調整できる。また、線間容量C1または線間容量C2は、例えば、誘電体40の表裏に形成された電極の対向表面積を変えて調整してもよい。
【0054】
換言すると、中継コイル41のインダクタンスL、線間容量C1または線間容量C2のうち1または複数は設計で変えることが可能であり、これらを変えることにより共振周波数foを任意の値に設定することができる。このように、本実施形態の構成を用いることで、RFID等のように搬送周波数が異なる通信規格に対して、柔軟に共振周波数を変更することができる。
【0055】
以上をまとめると、本実施形態の誘導加熱装置1は、天板21が上部に設けられた筐体2と、電磁誘導コイル31と、通信用コイル71と、中継デバイス4とを備える。電磁誘導コイル31は、筐体2内部の収容空間Qに設けられ、天板21に載置された被加熱物8に向かう方向の磁束を発生する。通信用コイル71は、筐体2の底板25と電磁誘導コイル31との間に設けられ、電磁誘導コイル31の駆動周波数とは異なる周波数の搬送電磁波を天板21に向かう方向に出力する。中継デバイス4は、天板21と電磁誘導コイル31との間に設けられて通信用コイル71と磁気結合する中継コイル41と、線間容量C1,C2とで構成された直列共振回路49を備える。
【0056】
このような構成にすることで、前述のとおり、通信用コイル71から出力された搬送波が、電磁誘導コイル31によって阻害された場合でも、中継デバイス4において、電磁誘導コイル31からの漏れ磁束を増幅させることができる。そして、中継コイル41と被加熱物8の通信用コイル82とが磁気結合することにより、通信用コイル71から出力された搬送波を被加熱物8の通信回路に伝送することができる。すなわち、通信用コイル71と被加熱物8との間に電磁誘導コイル31を配置した場合においても、通信用コイル71を介して、制御回路72と被加熱物8との間でデータ通信を行うことができる。
【0057】
上記実施形態において、中継コイル41は、板状またはシート状の誘電体表面に形成される。
【0058】
このように、中継コイル41を板状またはシート状の誘電体40の表面に形成して、天板21と電磁誘導コイル31との間に挿入することで、使用者の安全性を確保することができる。また、中継コイル41を板状またはシート状の誘電体40の面に形成することで、中継デバイス4の薄型化が可能になり、加熱効率や給電効率が低下するのを防ぐことができる。さらに、天板21にアンテナを埋め込む方式と比較して、製造コストを低減できる。
【0059】
上記実施形態において、誘電体40の表面には、中継コイル41の一端に接続されかつ中継コイル41の周囲を囲むように形成された表面外周電極42と、中継コイル41の他端に接続された表面内部電極43が形成される。また、誘電体40の裏面には、表面外周電極42と対向するように裏面外周電極44が形成され、表面内部電極43と対向するように裏面内部電極45が形成される。
【0060】
上記の構成にすることで、中継デバイス4には、中継コイル41と線間容量C1と線間容量C2とが直列に接続された直列共振回路49が構成される。これにより、中継デバイス4を電子部品レスで構成することができ、電子部品に依存する使用温度の制約を排除することができる。また、誘電体の表面及び裏面にパターンを形成するだけで共振回路を構成できるので、他の回路基板等との間で物理的な接続構成が不要であり、容易に取り付けることができる。
【0061】
上記実施形態において、裏面外周電極44と裏面内部電極45との接続配線は、中継コイル41を構成する配線と直交するように延びている。
【0062】
これにより、通信ノイズを低減することができる。
【0063】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0064】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0065】
例えば、中継デバイス4として、図6に示すように、2枚の誘電体401,402を貼り合わせた構成としてもよい。図6の構成とする場合、例えば、一方の誘電体401の表面に中継コイル41、表面外周電極42及び表面内部電極43を形成し、他方の誘電体402の表面に裏面外周電極44、裏面内部電極45及び接続配線46を形成する。そして、両誘電体401,402の裏面同士を接着剤等を用いて貼り合わせるとよい。
【0066】
上記実施形態では、中継デバイス4の直列共振回路を構成するコンデンサを、表面外周電極42と裏面外周電極44との間の線間容量C1及び表面内部電極43と裏面内部電極45との間の線間容量C2で実現する例を示したがこれに限定されない。例えば、図7に示すように、直列共振回路49を構成するコンデンサ75を電子部品を用いて構成してもよい。この場合、コンデンサ75は、例えば、制御基板70上に実装してもよい。
【0067】
上記実施形態では、加熱部3ごとに中継デバイス4を設ける例を示したがこれに限定されない。例えば、図8に示すように、複数の加熱部3を覆うような中継デバイス4を設けるようにしてもよい。図8では、フリーロケーション型の誘導加熱装置1に対して、2つの左右方向に2つの中継デバイス4を並べて配置した例を示している。中継デバイス4の配置や構成については、上記実施形態と同様である。例えば、中継デバイス4は、筐体2の天板21と電磁誘導コイル31との間に設けられ、天板21に沿って延びる板状またはシート状の誘電体40を備える。そして、誘電体40の表面には中継コイル41及び表面電極42,43が形成され、裏面には各表面電極42,43と対向するように裏面電極(図示省略)が形成される。このような構成にすることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、誘電体40は、円形状に限定されず、図8に示すように、矩形状であってもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、表面内部電極43と裏面内部電極45とを対向するように離間させて配置し、両者間に線間容量C2が形成されるようにしているが、これに限定されない。例えば、表面内部電極43と裏面内部電極45とをはとめ等を用いて、直接接続するようにしてもよい。この場合には、表面外周電極42と裏面外周電極44との間の線間容量C1と中継コイル41とで直列共振回路が構成される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の誘導加熱装置は、電磁誘導コイルの影響を回避して天板に載置される対象物との通信を実現できるので、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0070】
1 誘導加熱装置(電磁誘導装置)
8 被加熱物(対象物)
4 中継デバイス
21 天板
31 電磁誘導コイル
40 誘電体
41 中継コイル
42 表面外周電極(第1表面電極)
43 表面内部電極(第2表面電極)
44 裏面外周電極(第1裏面電極)
45 表面内部電極(第2裏面電極)
46 接続配線
71 通信用コイル
Q 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8