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特許7644644芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20250305BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20250305BHJP
   B65D 85/30 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/103
B65D85/30 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021057015
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154125
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大平 洋二
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-342337(JP,A)
【文献】特開2008-174655(JP,A)
【文献】特開2002-037879(JP,A)
【文献】特開平10-298301(JP,A)
【文献】特開平10-292050(JP,A)
【文献】特開2000-154244(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141336(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B65D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)ペンタエリスリトールのフルエステル(B成分)が0.01~0.12重量部配合されてなり、B成分およびB成分以外の添加剤を含めた配合される添加剤の合計が0.01~0.15重量部であり、A成分の粘度平均分子量が18,000~23,000の範囲であり、
該B成分は、
(i)酸価が5以下であり、
(ii)TGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が300℃以上である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された薄板収納搬送容器
【請求項2】
B成分が0.015~0.07重量部配合されてなり、B成分およびB成分以外の添加剤を含めた配合される添加剤の合計が0.015~0.10重量部である請求項1に記載の薄板収納搬送容器
【請求項3】
B成分におけるTGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が330℃以上である請求項1または2に記載の薄板収納搬送容器
【請求項4】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の塩素原子含有量が5ppm以下である請求項1~のいずれかに記載の薄板収納搬送容器
【請求項5】
薄板収納搬送容器が半導体ウエハ用収納搬送容器である請求項4に記載の薄板収納搬送容器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の脂肪族エステル化合物を必要量配合することにより、離型性および成形耐熱性に優れ、より微量揮発ガス成分が高度に低減された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、磁気ディスクあるいは集積回路チップへと加工されるウエハなどの各種精密電子材料を収納あるいは運搬するために使用される容器やカバーの材料として好適に用いることができる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電子基板、磁気ディスク、半導体ウエハ、マスクガラス等の精密基板、その他精密電子材料を収納し、輸送、搬送、保管するための樹脂製容器においては、その成形材料(熱可塑性樹脂組成物)に関して、微量揮発ガスの原因となる微量不純物を低減することが求められてきた。それに対応するために、不純物塩素原子や不純物金属原子が少なく他樹脂よりも透明性と耐衝撃強度に優れるポリカーボネート樹脂が特許文献1にて提案されている。
【0003】
近年、半導体ウエハの大口径化に伴い、薄板収納搬送容器の大型化も進んでいる。しかし、保管場所、物流費、原材料費削減等の観点から、必要以上の大型化を避けることが好ましく、容器の抜き勾配は極力小さく設計される。成形品が大型化するほど、また、抜き勾配が小さいほど、成形品が離型する時の離型荷重は大きくなる。一方、機能性を向上させるために成形品構造の複雑化、精密化が進んでおり、抜き勾配の小さい部分が避けられない状況にもある。このような理由から、近年は材料による離型性が求められる傾向があり、それに適した材料が特許文献2にて提案されている。特許文献2に示された材料は、表面汚染に敏感とされる半導体ウエハや磁気ディスク等の薄板の表面汚染を低減でき、かつ、成形時の離型性に優れ、さらには、成形耐熱性に優れた薄板収納搬送容器用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0004】
さらに、半導体部品の微細化や配線の狭ピッチ化が進んでおり、半導体ウエハ(精密基板)の収納容器に用いる成形材料においては、ウエハの汚染を高度に防止する観点により、材料から検出される微量揮発分の低減が高度に求められるようになってきた。それに対応するには、特許文献2の技術に関して、一定の離型性を維持した上で、さらなる微量揮発分の低減が必要であり、離型剤として使用する脂肪族エステルの選択とその配合量が重要となる。
【0005】
一方、特許文献3、4では、ポリカーボネート樹脂に配合する脂肪族エステルの種類やそれらの特性値に言及している点で興味深いが、配合する脂肪族エステルの配合量が0.2重量%を超えており、微量揮発分の高度な低減を目的とするものではなかった。また、特許文献5では、配合する脂肪族エステルの量を必要最少量に抑えたものではあるが、ここで限定されている脂肪族エステル化合物については、特許文献2で示された脂肪族エステル化合物と同様のものが示されており、微量揮発分の高度な低減をさらに進めるためには有効ではなく、また、リン系酸化防止剤を含めた添加剤の配合量の最大合計量は1重量%を超えるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3995346号公報
【文献】特許第5749335号公報
【文献】特許第5893856号公報
【文献】特許第5806008号公報
【文献】特許第6575979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明おいては、離型性および成形耐熱性に優れ、微量揮発ガス成分が高度に低減された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、配合するエステル化合物の特性値を規制した特定の脂肪族エステル化合物を少量配合し、かつ、脂肪族エステル化合物以外の添加剤の配合量も限定して配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、下記構成(1)~(9)が提供される。
【0010】
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)多価アルコールと高級脂肪酸とから構成される脂肪族エステル化合物(B成分)が0.01~0.12重量部配合されてなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、B成分およびB成分以外の添加剤を含めた配合される添加剤の合計が0.01~0.15重量部であり、該B成分は、
(i)酸価が5以下であり、
(ii)TGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が300℃以上である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
(2)A成分の粘度平均分子量が18,000~23,000の範囲である前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
(3)B成分が0.015~0.07重量部配合されてなり、B成分およびB成分以外の添加剤を含めた配合される添加剤の合計が0.015~0.10重量部である前項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
(4)B成分におけるTGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が330℃以上である前項1~3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
(5)B成分がペンタエリスリトールのフルエステルを主成分とする脂肪族エステル化合物である前項1~4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
(6)芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の塩素原子含有量が5ppm以下である前項1~5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
(7)前項1~6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品。
【0017】
(8)成形品が薄板収納搬送容器である前項7記載の成形品。
【0018】
(9)薄板収納搬送容器が半導体ウエハ用収納搬送容器である前項8記載の成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型性および成形耐熱性に優れ、微量揮発ガス成分が高度に低減された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であり、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。例えば、電子部品、電子基板、磁気ディスク、集積回路チップへと加工されるウエハなどの半導体ウエハ、マスクガラス等の精密基板、その他精密電子材料など覆う外装成形品や周辺の成形部材、前述の各種電子材料を収納し、輸送、搬送、保管するための容器としての成形品や容器を構成する成形部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0021】
<A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂>
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法また溶融法で反応させて得られるものである。ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでもビスフェノールAが特に好ましい。
【0022】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステル又はハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0023】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を溶液法又は溶融法によって反応させて芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、二価フェノールは単独又は2種以上を使用することができ、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。また芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、芳香族又は脂肪族、好ましくは炭素数8以上の芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、さらに2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0024】
本発明においては、特に溶液法が好適に用いられ、かかる溶液法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間程度である。
【0025】
また、かかる重合反応において、末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、一般にはフェノール又は低級アルキル置換フェノールであって、下記式(I)で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~9、好ましくは1~8のアルキル基を示し、mは0~5、好ましくは0~3の整数を示す。)
【0028】
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールなどが挙げられる。
【0029】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとジフェニルカーボネートを混合し、好ましくは重合速度を速めるためにアルカリ(土類)金属化合物等の重合触媒を用いて、減圧下通常120~350℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には1mmHg以下にして生成したフェノール類を系外に除去させる。反応時間は通常1~4時間程度である。
【0030】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で18,000~23,000の範囲が好ましく、18,100~22,500がより好ましく、18,200~22,000の範囲がさらに好ましく、18,300~21,000の範囲が特に好ましく、18,400~20,000の範囲がもっとも好ましい。かかる粘度平均分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、一定の機械的強度を有し成形時の流動性も良好であり好ましい。分子量が低くなると成形品に強度がでないため実用的な材料が得られ難くなる。分子量が高くなると、成形流動性が劣るという問題が生じ易く、さらに、微量揮発分検出の原因となるフェノール化合物や塩素系有機溶媒が樹脂中に残りやすくなる問題が生じ易く、それを解消しようと押出温度を上げると、塩素系有機溶媒は低減されるが、樹脂の分解が進みフェノール化合物量が増える場合がある。
【0031】
本発明でいう粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηSP)を次式に挿入して求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0032】
なお、具体的な比粘度の測定としては、例えば次の要領で行うことができる。まず、ポリカーボネート樹脂をその20~30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度を、オストワルド粘度計を用いて求める。
【0033】
<B成分:脂肪族エステル化合物>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、多価アルコールと高級脂肪酸とから構成される脂肪族エステル化合物(B
成分)を0.01~0.12重量部配合されてなることを特徴とする。
【0034】
多価アルコールと高級脂肪酸とから構成される脂肪族エステル化合物は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01~0.10重量部であり、より好ましくは0.015~0.07重量部であり、さらに好ましくは0.02~0.05重量部である。脂肪族エステル化合物の配合量が前述の範囲より少ないと成形時の離型性が低下して成形加工性が悪化するため好ましくなく、脂肪族エステル化合物の配合量が前述の範囲を超えると、成形時の耐熱性の僅かな低下が生じて、芳香族ポリカーボネート樹脂がごくわずかながら分解しやすくなり、微量揮発成分としてのフェノール化合物量が増したり、脂肪族エステル化合物自体の揮発や分解により、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から検出される微量揮発成分が増加するため好ましくない。
【0035】
本発明に使用される脂肪族エステル化合物においては、(i)酸価が5以下であり、(ii)TGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が300℃以上であることを満足するように脂肪族エステル化合物の種類を選定することが肝要である。
【0036】
なお、二種類以上の脂肪族エステル化合物を配合する場合のB成分における「酸価」および「TGA(熱重量解析)の5%重量減少温度」は、各脂肪族エステル化合物の各値の加重平均値とする。
【0037】
脂肪族エステル化合物の酸価が5より大きくなるか、あるいは、TGA(熱重量解析)の5%重量減少温度が300℃より小さくなると、脂肪族エステル化合物自体の芳香族ポリカーボネートへの寄与が大きくなり、芳香族ポリカーボネート樹脂の微妙な分解が生じて、検出される微量揮発成分が増えたり、脂肪族エステル化合物自体の微量揮発や微量分解により、検出される微量揮発成分増えることになる。
【0038】
脂肪族エステル化合物の酸価は4.5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましい。また、脂肪族エステル化合物のTGA(熱重量解析)の5%重量減少温度は330℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましく、370℃以上がさらに好ましい。
【0039】
脂肪族エステル化合物を構成する多価アルコールとしては、炭素原子数3~32のものが好ましい。かかる多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(例えばデカグリセリン等)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等が挙げられる。
【0040】
また、脂肪族エステル化合物を構成する高級脂肪酸とは、炭素原子数10~32の脂肪族カルボン酸が好ましく、その具体例としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、並びに、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、セトレイン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。これらのなかでも脂肪族カルボン酸としては炭素原子数10~22のものがより好ましく、炭素原子数14~20であるものがさらに好ましい。さらに、炭素原子数14~20の飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、特にステアリン酸およびパルミチン酸が好ましい。ステアリン酸の如き脂肪族カルボン酸は、通常、炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物であることが多い。前記飽和脂肪酸エステルにおいても、かかる天然油脂類から製造され他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなるステアリン酸やパルミチン酸から得られたエステル化合物が好ましく使用される。
【0041】
前記エステル化合物類の具体例としては、例えばグリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを主成分とするものが好ましく用いられる。
【0042】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の特定成分の含有量>
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の塩素原子含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に対して30ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましく、3ppm以下が特に好ましい。塩素原子としては、ポリマー重合工程で使用した塩素系有機溶媒が芳香族ポリカーボネート樹脂中に残留したものがほとんどであり、これに加えて、原料ホスゲン中に不純物として含まれる四塩化炭素や、ポリマー鎖に残った微量の未反応のクロロホーメート基に由来するものである。残存する塩素系有機溶媒が多くなると、塩素系有機溶媒自身の揮発や分解生成物により、樹脂から検出される微量揮発成分が増えることになる。なお、本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の塩素原子含有量は、燃焼塩素法により測定される。
【0043】
また、本発明の目的の低減対象としている微量揮発成分とは、上記のポリマー重合工程で使用された残存有機溶媒成分や残存有機溶媒の分解物成分、押出時に配合する添加剤である例えば離型剤として用いる脂肪族エステル化合物からの揮発成分や分解物、安定剤として用いるリン系化合物からの揮発成分や分解物、芳香族ポリカーボネート樹脂由来のフェノール化合物などがある。芳香族ポリカーボネート樹脂由来のフェノール化合物とは、芳香族ポリカーボネート樹脂のポリマー重合の際の未反応フェノール化合物が残留したもの、あるいは、押出ペレット化で芳香族ポリカーボネート樹脂の分解で生じたものが挙げられる。
【0044】
これらのフェノール化合物とは、炭素数が6~18であるフェノール化合物であり、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造の際に用いられる末端封鎖用の1価フェノール化合物、原料の2価フェノールおよび添加剤を構成するフェノール化合物などがある。なお、炭素数が18を超えるフェノール化合物は揮発性が低くなるため、本発明の達成に関する影響は小さい。
【0045】
炭素数が6~18であるフェノール化合物とは、具体的には前述した原料の2価フェノール、殊にビスフェノ-ルAや、前述した末端停止剤として使用される1価のフェノールであるフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールおよびイソオクチルフェノール等が挙げられる。
【0046】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、アウトガスの発生量を抑制することが重要である。上述した塩化メチレン等の溶媒量の低減も重要であるが、特に塩化メチレン以外の添加剤やフェノール化合物などの揮発成分を低減することが、各種精密電子材料を収納あるいは運搬するために使用される容器やカバーの材料として好適に使用されるため重要である。
【0047】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるアウトガスの発生量として、塩化メチレンの発生量は500ppb以下が好ましく、300ppb以下がより好ましい。
【0048】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるアウトガスの発生量として、塩化メチレン以外の揮発成分の発生量は10ppb以下が好ましく、7ppb以下がより好ましく、5ppb以下がさらに好ましい。
【0049】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるアウトガス分析(塩化メチレン成分
量およびその他の成分量)の測定は、ヘッドスペース(HS)法とガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)を組み合せたHS/GC/MSシステムによって、サンプルを150℃で1時間加熱した時に発生するガス成分(塩化メチレンおよびその他の成分)量を測定することによって得られる。
【0050】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の微量揮発成分の低減方法>
本発明で示した樹脂組成物中の微量揮発ガスを低減する方法は、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体単独で溶融押出する時に、あるいは添加剤を配合して芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を溶融押出する際に「添加剤として特定の脂肪族エステル化合物を必要最少量配合すること」である。
【0051】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から微量揮発ガスを低減する方法として、さらに芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中に残存する塩素系有機溶媒や炭素数6~18のフェノール化合物を少なくすることが有効であり、例えば、ポリマー重合工程の後半の段階において芳香族ポリカーボネート樹脂の乾燥を強化する方法、表面積を大きくした芳香族ポリカーボネート樹脂を乾燥する方法、貧溶媒で芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体の洗浄を行なう方法、そして、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を溶融押出する時に脱揮を強化する方法などが挙げられる。
【0052】
芳香族ポリカーボネート樹脂の乾燥を強化する方法としては、具体的には、乾燥温度を上げることが有効である。ただし、芳香族ポリカーボネート樹脂の軟化点以上の温度に設定するのは好ましくなく、通常90~140℃で乾燥が行われる。また、乾燥時間を延長したり、乾燥中の芳香族ポリカーボネート樹脂の攪拌効率を上げたりする方法がある。
【0053】
芳香族ポリカーボネート樹脂の表面積を大きくするには、具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂の粒径を小さくしたパウダー形状にすることが好ましく、そのためには芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕を強化する等の方法が用いられる。特に乾いた樹脂を粉砕するには粒子が硬すぎて効率が悪いため、造粒後の有機溶媒や水を含んだスラリー状態のものを粉砕することが好ましい。また、多孔質パウダーとすることも有効であり、例えば、良溶媒に溶かした芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を、その良溶媒の沸点よりかなり高い温度に設定してある貧溶媒へ滴下しながら攪拌して造粒する方法がある。
【0054】
貧溶媒で芳香族ポリカーボネート樹脂、殊に樹脂パウダーの洗浄を行なう方法を採用することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂中のフェノール化合物が貧溶媒へ抽出される。さらに、この方法はかかる貧溶媒が芳香族ポリカーボネート樹脂中の塩素系有機溶媒と置換され塩素系有機溶媒を少なくする効果もある。貧溶媒としては、アセトン、メタノール、ヘプタン等が挙げられ、なかでもアセトンが好ましく用いられる。
【0055】
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を溶融押出する時に脱揮を強化する方法としては、具体的には、溶融押出機内の脱揮面積を大きくとる方法が用いられる。また、脱揮圧力を低く設定したり、水などの脱揮助剤を使用したりする方法がある。
【0056】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の四塩化炭素を少なくする方法としては、原料ホスゲン中の四塩化炭素濃度の低減により四塩化炭素の持込みを減少する方法、具体的には活性炭による四塩化炭素の吸着除去やホスゲンと四塩化炭素の沸点差を利用した蒸留によるホスゲンからの四塩化炭素の分離除去等が挙げられる。また、四塩化炭素の含有量の少ない塩化メチレンを使用する方法としては、連続で塩化メチレンを循環使用する場合には循環使用している塩化メチレンの一部又は全量を蒸留等の操作により塩化メチレン中に含まれている四塩化炭素を除去する方法がある。
【0057】
芳香族ポリカーボネート樹脂中のクロロホーメート基を減少させる方法としては、重合時に触媒を用いたり、重合時間を充分に取ったりする等の重合を完結させ易くする方法や、芳香族ポリカーボネート樹脂をNaOH水溶液等のアルカリ水溶液で洗浄処理する方法がある。
【0058】
<B成分(脂肪族エステル化合物)以外の成分>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なうことがない限り、各種添加剤、他樹脂や充填剤は配合しても差し支えないが、それらは使用しないかあるいは出来るだけ少なくすることが好ましい。
【0059】
本発明において、B成分およびB成分以外の添加剤を含めた配合される添加剤の合計は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.01~0.15重量部であり、好ましくは0.01~0.13重量部であり、より好ましくは0.015~0.10重量部であり、さらに好ましくは0.02~0.08重量部である。上記範囲内であれば、成形時の離型性が良好であり、成形時の耐熱性に優れ、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から検出される微量揮発成分が抑制され好ましい。
【0060】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記点を考慮しつつ、その熱安定性、意匠性等の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
【0061】
〔熱安定剤〕
熱安定剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形時における分子量の低下や色相の悪化を防止するため樹脂の劣化を防ぐため少量配合してもよく、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001~0.03重量部が好ましく、0.001~0.02重量部がより好ましく、0.001~0.01重量部がさらに好ましく、0.001~0.005重量部が特に好ましい。かかる範囲内では、熱安定剤の揮発や熱安定剤の分解物や変質物の揮発に由来する微量揮発成分が抑制されるので好ましい。
【0062】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、熱安定剤としてリン系熱安定剤を配合することができる。
【0063】
かかるリン系熱安定剤の具体例としては、芳香族基や脂肪族基を有する亜リン酸(ホスファイト)、ホスホナイト、ホスフィナイト、ホスフィン、リン酸(ホスフェート)、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキサイドなどが例示され、中でもホスファイト、ホスホナイト、ホスフィン、ホスホネート、ホスフェートが好ましく用いられる。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0064】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0065】
ホスフィン化合物としては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましいホスフィン化合物は、トリフェニルホスフィンである。
【0066】
ホスホネート化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0067】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
これらの中でも、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナ
イト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく;ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましく;トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0068】
〔ヒンダードフェノール系酸化防止剤〕
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合することができる。本開示のポリカーボネート樹脂組成物は、成形加工時の色相の悪化が少ない、或いは成形品の高温下での長期間の使用に伴う変色が少ないといった耐乾熱性能を有しているが、さらに高度な耐乾熱性能を付与する場合には、かかる酸化防止剤の配合が有効である。
【0069】
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも市販品として入手可能である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0070】
〔ブルーイング剤〕
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、成形品の黄色味を打ち消すために、本発明の目的を損なわない範囲で、ブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としてはポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば特に制限はない。一般的にはアントラキノン系染料は入手が容易であるため好ましい。
【0071】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13(CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業株式会社製「スミプラストバイオレットB」)、一般名Solvent Violet31(CA.No 68210;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンバイオレットD」)、一般名Solvent Violet33(CA.No 60725;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーJ」)、一般名Solvent Blue94(CA.No 61500;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーN」)、一般名Solvent Violet36(CA.No 68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」)、一般名Solvent Blue97(商標名バイエル社製「マクロレックスブルーRR」)及び一般名Solvent Blue45(CA.No 61110;商標名 クラリアント社製「ポリシンスレンブルーRLS」)が代表例として挙げられる。ブルーイング剤は、視感透過率等を考慮し、通常0.3~1.2ppmの濃度で芳香族ポリカーボネート樹脂中に含有することができる。
【0072】
〔蛍光増白剤〕
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において蛍光増白剤は、樹脂等の色調を白色あるいは青白色に改善するために用いられるものであれば、本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。例えばスチルベン系、ベンズイミダゾール系、ベンズオキサゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系化合物等が挙げられる。具体的には例えばCI Fluorescent Brightener 219:1や、イーストマンケミカル社製EASTOBRITE OB-1やハッコールケミカル社製「ハッコールPSR」、などを挙げることができる。ここで蛍光増白剤は、光線の紫外部のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視部に放射する作用を有するものである。
【0073】
〔他の熱安定剤〕
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において配合される他の熱安定剤としては、例えば、硫黄系熱安定剤を挙げることができる。硫黄系熱安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ステアリルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。中でもペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ミリスチルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネートが好ましい。特に好ましくはペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)である。該チオエーテル系化合物は住友化学工業株式会社からスミライザーTP-D(商品名)及びスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に入手できる。
【0074】
〔他の樹脂やエラストマー〕
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、他の樹脂やエラストマーを本発明の目的が損なわれない範囲で、すなわち極めて少割合であれば配合することもできる。
【0075】
かかる他の樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0076】
また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、シリコーンゴム、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム等が挙げられる。
【0077】
〔前述以外の成分〕
上記以外にも本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、成形品の種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加剤を配合することができる。
【0078】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分および任意に他の成分をそれぞれV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行い、その後ベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。別法として、A成分、B成分および任意に他の成分をそれぞれ独立にベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機に供給する方法、A成分および他の成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法、B成分を水または有機溶剤で希釈混合した後、溶融混練機に供給、またはかかる希釈混合物を他の成分と予備混合した後、溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。溶融混錬押出機へ脱揮助剤としての水を注入する装置を使用することもできる。
【0079】
<成形品>
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、そのまま、または上述のように溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形品にすることができる。
【0080】
成形品としては、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に使用される成形品が挙げられる。具体的には、電子部品、電子基板、磁気ディスク、集積回路チップへと加工されるウエハなどの半導体ウエハ、マスクガラス等の精密基板、その他精密電子材料など覆う外装成形品や周辺の成形部材としての成形品、前述の各種電子材料を収納し、輸送、搬送、保管するための容器としての成形品や容器を構成する成形部材としての成形品が挙げられる。なかでも、磁気ディスクあるいは集積回路チップへと加工されるウエハなどの各種精密電子材料を収納あるいは運搬するために使用される薄板収納搬送容器が好ましく、特に半導体ウエハ用収納搬送容器が好ましい。
【実施例
【0081】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、各実施例にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体、各実施例に用いた脂肪族エステル化合物の特性値、溶融押出して得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットに関する各評価は、次の(1)~(5)の方法に従った。
【0082】
(1)酸価
JIS K 0070に準拠して中和滴定法により酸価(KOHmg/g)を求めた。
【0083】
(2)TGA(熱重量解析)による5%重量減少温度
TA-instruments社製のDiscovery SDT 650を使用し、N雰囲気下において20℃/minで昇温させ、試料の減量が仕込み重量の5重量%となった時の温度をTGA(熱重量解析)の5%重量減少温度として測定した。
【0084】
(3)粘度平均分子量
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解し、得られた溶液を20℃でオストワルド粘度計を用いて比粘度を求め、下記式より芳香族ポリカ
ーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)を求めた。
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0085】
(4)塩素原子含有量
日東精工アナリテック(株)(旧社名:三菱ケミカルアナリテック)製の塩素イオウ分析装置TOX-2100Hを用いて燃焼塩素法により測定した。具体的には、サンプル(ペレット)を電気炉(920℃)で加熱し、全量気化させ、気化したガスを硫酸に通して脱水後、塩素用の電解液(酢酸ナトリウム)に吸着させた。吸着により生じた電位差を電位滴定により元の電位へ戻した。元の電位に戻すのに必要なエネルギーにより塩素原子含有量を算出した。
【0086】
(5)アウトガス分析
アジレント・テクノロジー株会社製の6890NGC&5975B GC/MSDを用いたヘッドスペース(HS)法とガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)を組み合せたHS/GC/MSシステムによって、サンプル(ペレット)3gを150で1時間加熱した時に発生するガス成分(塩化メチレンおよびその他の成分)を測定した。
【0087】
(6)成形滞留試験
成形滞留安定性を評価するために成形耐熱試験に相当する成形滞留試験を実施した。各実施例で得たペレットを120℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、(株)日本製鋼所製の射出成形機J180ADSを用いてシリンダー温度350℃、金型温度80℃、1分サイクルにて幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)の3段型プレートを成形した。連続して20ショット成形した後、該射出成形機のシリンダー温度350℃のシリンダー中に樹脂を10分間滞留させ、滞留前後の試験片の厚さ2mm部について、JIS K-7105、JIS Z 8781-4に従い、X-Rite社(旧名Gretag Macbeth社)製のColor-Eye7000Aを用いて光源D65、視野角10度、透過法の条件でCIE表色系での色相(L、a、b)を測定し、以下の式(a)により色差ΔEを求めた。ΔEが小さいほど成形滞留安定性が優れることを示す。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2 …式(a)
「滞留前の成形板」の色相:L、a、b
「滞留後の成形板」の色相:L’、a’、b
ΔL:L-L
Δa:a-a
Δb:b-b
【0088】
(7)離型荷重
ペレットを120℃で5時間乾燥した後、射出成型機((株)日本製鋼所製:J180ADS)を用いてシリンダー温度320℃、金型温度90℃でコップ状(開口部外径:70mm、底面外径:63mm、高さ:20mm、厚さ:4mm)の離型性評価用金型を使用して射出成形し、ロードセルによって離型時の突き出し荷重を測定した。この値が小さいほど離型性に優れていることを示す。
【0089】
[実施例1]
温度計、撹拌機及び還流冷却器付き反応器にイオン交換水2194部、48%水酸化ナトリウム水溶液402部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロ
パン575部およびハイドロサルファイト1.2部を溶解した後、塩化メチレン1810部を加え、活性炭処理したホスゲン283部を撹拌下15~25℃で40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液72部およびp-tert-ブチルフェノール18.5部を加え、撹拌して乳化せしめ、10分後にホモミキサーで処理した後、無撹拌状態で温度30~33℃の範囲で、3時間放置し反応を終了した。反応終了後塩化メチレン1810部を加え20分間撹拌混合した後静置して、ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液相と水相を分離した。分離したポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液1部に対しイオン交換水1部を加えて洗浄および分液を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで3回繰り返した。洗浄した該ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を公称ろ過精度1μmのSUS304製フィルターで濾過した。
【0090】
次に、得られたポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を、45℃の温水(ニーダー内部空間容量の10%程度を占める量)が仕込まれたニーダーの攪拌下に1時間かけて投入し、スチームを吹き込みながら内温45℃で塩化メチレンを蒸発除去させてポリカーボネート粉粒体と水の混合物を得た。かかる粉粒体と水の混合物を粉砕機に通して粉砕した後、水温95℃にコントロールされた攪拌機付熱水処理槽に投入し、粉粒体25部、水75部の混合比になるように水を加え、30分間攪拌機混合した。この粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して塩化メチレン3.5重量%、水10重量%を含有する粉粒体を得た。次に、この粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/Hr(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間8時間の条件で乾燥し、粘度平均分子量18,500の粉粒体を得た。
【0091】
次いで、得られたポリカーボネート粉粒体に日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート〔酸価:3.1、TGA5%重量減少温度:378℃〕)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加し、ナウターミキサーを用いて20分間攪拌混合したものを、ベント二箇所とそのベント間にイオン交換水注入口を有し、かつシリンダーとダイの間に20μmディスク型スクリーンを付設した二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α)を用いて、その原料供給口から30kg/Hrで供給し、スクリュ回転数300rpm、樹脂温度280℃、ベント真空度1kPaの押出条件でストランドを溶融押出した。溶融押出したストランドを冷却バスで冷却した後、切断機で切断して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。なお、イオン交換水注入口から脱揮助剤としてイオン交換水をポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部供給した。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0092】
[実施例2]
温度計、撹拌機及び還流冷却器付き反応器にイオン交換水2194部、48%水酸化ナトリウム水溶液402部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン575部およびハイドロサルファイト1.2部を溶解した後、塩化メチレン1810部を加え、活性炭処理したホスゲン283部を撹拌下15~25℃で40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液72部およびp-tert-ブチルフェノール18.5部を加え、撹拌して乳化せしめ、10分後にホモミキサーで処理した後、無撹拌状態で温度30~33℃の範囲で、3時間放置し反応を終了した。反応終了後塩化メチレン1810部を加え20分間撹拌混合した後静置して、ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液相と水相を分離した。分離したポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液1部に対しイオン交換水1部を加えて洗浄および分液を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで3回繰り返した。洗浄した該ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を公称ろ過精度1μmのSUS304製フィルターで濾過した後、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトをポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0025重量部となる量を添加した。
【0093】
次に、得られたポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を、45℃の温水(ニーダー内部空間容量の10%程度を占める量)が仕込まれたニーダーの攪拌下に1時間かけて投入し、スチームを吹き込みながら内温45℃で塩化メチレンを蒸発除去させてポリカーボネート粉粒体と水の混合物を得た。かかる粉粒体と水の混合物を粉砕機に通して粉砕した後、水温95℃にコントロールされた攪拌機付熱水処理槽に投入し、粉粒体25部、水75部の混合比になるように水を加え、30分間攪拌機混合した。この粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して塩化メチレン3.5重量%、水10重量%を含有する粉粒体を得た。次に、この粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/Hr(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間8時間の条件で乾燥し、粘度平均分子量18,500のポリカーボネート樹脂粉粒体を得た。
【0094】
次いで、得られたポリカーボネート粉粒体に日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加し、ナウターミキサーを用いて20分間攪拌混合したものを、ベント二箇所とそのベント間にイオン交換水注入口を有し、かつシリンダーとダイの間に20μmディスク型スクリーンを付設した二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α)を用いて、その原料供給口から30kg/Hrで供給し、スクリュ回転数300rpm、樹脂温度280℃、ベント真空度1kPaの押出条件でストランドを溶融押出した。溶融押出したストランドを冷却バスで冷却した後、切断機で切断して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。なお、イオン交換水注入口から脱揮助剤としてイオン交換水をポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部供給した。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0095】
[実施例3]
実施例2において、p-tert-ブチルフェノールの添加量を14.9部に代えた以外は同様に実施して、粘度平均分子量22,000のポリカーボネート樹脂粉粒体およびペレットを得た。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0096】
[実施例4]
温度計、撹拌機及び還流冷却器付き反応器にイオン交換水2194部、48%水酸化ナトリウム水溶液402部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン575部およびハイドロサルファイト1.2部を溶解した後、塩化メチレン1810部を加え、活性炭処理したホスゲン283部を撹拌下15~25℃で40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液72部およびp-tert-ブチルフェノール18.5部を加え、撹拌して乳化せしめ、10分後にホモミキサーで処理した後、無撹拌状態で温度30~33℃の範囲で、3時間放置し反応を終了した。反応終了後塩化メチレン1810部を加え20分間撹拌混合した後静置して、ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液相と水相を分離した。分離したポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液1部に対しイオン交換水1部を加えて洗浄および分液を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで3回繰り返した。洗浄した該ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を公称ろ過精度1μmのSUS304製フィルターで濾過した後、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0025重量部となる量を添加した。
【0097】
次に、得られたポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液を、45℃の温水(ニーダー内部空間容量の10%程度を占める量)が仕込まれたニーダーの攪拌下に1時間かけて投入し、
スチームを吹き込みながら内温45℃で塩化メチレンを蒸発除去させてポリカーボネート粉粒体と水の混合物を得た。かかる粉粒体と水の混合物を粉砕機に通して粉砕した後、水温95℃にコントロールされた攪拌機付熱水処理槽に投入し、粉粒体25部、水75部の混合比になるように水を加え、30分間攪拌機混合した。この粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して塩化メチレン3.5重量%、水10重量%を含有する粉粒体を得た。次に、この粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/Hr(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間8時間の条件で乾燥し、粘度平均分子量18,500のポリカーボネート樹脂粉粒体を得た。
【0098】
次いで、得られたポリカーボネート粉粒体に日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.045重量部添加し、ナウターミキサーを用いて20分間攪拌混合したものを、ベント二箇所とそのベント間にイオン交換水注入口を有し、かつシリンダーとダイの間に20μmディスク型スクリーンを付設した二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α)を用いて、その原料供給口から30kg/Hrで供給し、スクリュ回転数300rpm、樹脂温度280℃、ベント真空度1kPaの押出条件でストランドを溶融押出した。溶融押出したストランドを冷却バスで冷却した後、切断機で切断して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。なお、イオン交換水注入口から脱揮助剤としてイオン交換水をポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部供給した。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0099】
[実施例5]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)の添加量を0.1重量部に代えたこと以外は実施例1と同様に行なった。
【0100】
[実施例6]
実施例2において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加する代わりに、エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製:ロキシオールVPG861(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート〔酸価:1.0、TGA5%重量減少温度:382℃〕)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0101】
[実施例7]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加する代わりに、エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製:ロキシオールVPG861(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0102】
[実施例8]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加する代わりに、エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製:ロキシオールVPG861(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.045重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0103】
[実施例9]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加する代わりに、エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製:ロキシオールVPG861(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0104】
[実施例10]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加する代わりに、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)の添加量を0.04重量部とし、さらに理研ビタミン(株)製:リケスターEW400(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート〔酸価:10、TGA5%重量減少温度:322℃〕)0.01重量部を添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0105】
[実施例11]
実施例1において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.015重量部添加する代わりに、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)の添加量を0.01重量部とし、さらに理研ビタミン(株)製:リケマールS-100A(商品名)(主成分:グリセリンモノステアレート〔酸価:2.0、TGA5%重量減少温度:290℃〕 )0.04重量部を添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0106】
[実施例12]
実施例3において、溶融押出する際にイオン交換水(脱揮助剤)を供給しなかったこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0107】
[実施例13]
実施例5において、溶融押出する際にイオン交換水(脱揮助剤)を供給しなかったこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0108】
[実施例14]
実施例4において、得られた粘度平均分子量18,500のポリカーボネート樹脂粉粒体を用いる代わりに、ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量19,700の芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人株式会社製:パンライト(商標)L-1225WX)を用いたこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表1に示した。
【0109】
[比較例1]
実施例5において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)の添加量を0.15重量部に代えたこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0110】
[比較例2]
実施例12において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加する代わりに、理研ビタミン(株
)製:リケマールS-100A(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0111】
[比較例3]
実施例13において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加する代わりに、理研ビタミン(株)製:リケマールS-100A(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0112】
[比較例4]
実施例13において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加する代わりに、理研ビタミン(株)製:リケスターEW400(商品名)(主成分:ペンタエリスリトールテトラステアレート〔酸価:10、TGA5%重量減少温度:322℃〕)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0113】
[比較例5]
実施例5において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加する代わりに、理研ビタミン(株)製:リケスターEW400(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.03重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0114】
[比較例6]
実施例13において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加する代わりに理研ビタミン(株)製:リケスターEW400(商品名)をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部添加したこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0115】
[比較例7]
実施例5において、日油(株)製:ユニスターH-476-S(商品名)の添加量を0.005重量部に代えたこと以外は同様に行なった。得られたペレットについて、前記(4)~(7)の測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型性および成形耐熱性に優れ、さらに微量揮発ガスが高度に低減されており、該ポリカーボネート樹脂組成物から得られた透明な成形品は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に有用であり、特に半導体ウエハ等の薄板収納搬送容器として有用である。