(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/26 20060101AFI20250305BHJP
F16H 1/20 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
F16H1/26
F16H1/20
(21)【出願番号】P 2021057412
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】岸本 幸夫
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-308665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/00- 1/26,
57/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸と、
第1歯車対を介して前記第1軸との間で回転を伝達可能な第2軸と、
第2歯車対を介して前記第2軸との間で回転を伝達可能な第3軸と、を備える歯車装置であって、
前記第2軸を移動させることで、前記第1軸と前記第2軸の間の第1芯間距離と、前記第3軸と前記第2軸の間の第2芯間距離とを調整可能な調整機構を備え
、
前記調整機構は、前記第1軸と前記第3軸を支持する本体ハウジングと、前記第2軸を支持する補助ハウジングとを備え、前記補助ハウジングを移動させることで前記第1芯間距離と前記第2芯間距離を調整可能であり、
前記本体ハウジングは、前記第1軸及び前記第3軸のうちの一方の軸側から前記補助ハウジングを受ける受け面を備え、
前記受け面は、前記第2軸の軸方向から見て、前記第1軸の軸芯と前記第3軸の軸芯とを結ぶ仮想線に対して傾斜している歯車装置。
【請求項2】
前記調整機構は、前記第1芯間距離と前記第2芯間距離とを同時に増加又は減少させる調整方向に前記第2軸を移動させることが可能である請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記受け面は、前記一方の軸と前記第2軸との間に設けられる請求項
1または2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記受け面は、前記第1軸側から前記補助ハウジングを受ける第1受け面と、前記第3軸側から前記補助ハウジングを受ける第2受け面とを含み、
前記第1受け面と前記第2受け面とのなす角度は85°以上である請求項
1から3のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項5】
前記調整機構は、前記第1芯間距離及び前記第2芯間距離を同時に増加又は減少させる調整方向に前記第2軸を移動可能であり、
前記調整方向に固定力を付与することで、前記本体ハウジングに対して前記補助ハウジングを固定する固定具を備える請求項
1から
4のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記調整機構は、前記本体ハウジングと前記補助ハウジングの間に配置される調整シムを備え、
前記調整シムは、一対の厚肉プレートと、前記一対の厚肉プレートの間に挟み込まれる複数の薄肉プレートと、を備える請求項
1から
5のいずれか1項に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、第1軸と、歯車対を介して第1軸との間で回転を伝達可能な第2軸と、を備える歯車装置を開示する。この種の歯車装置は、歯車対に関して所要のバックラッシに調整するため、第1軸と第2軸との間の芯間距離を調整可能な調整機構を備えることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車装置は、歯車対を介して第2軸との間で回転を伝達可能な第3軸を備える場合がある。この場合、第1軸と第2軸との間の第1芯間距離の他に、第2軸と第3軸の間の第2芯間距離も調整が必要となる。このように二つの芯間距離の調整が必要となる場合を前提として工夫を講じた歯車装置は未だ提案されていない。
【0005】
本開示の目的の1つは、二つの芯間距離を調整できる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の歯車装置は、第1軸と、第1歯車対を介して前記第1軸との間で回転を伝達可能な第2軸と、第2歯車対を介して前記第2軸との間で回転を伝達可能な第3軸と、を備える歯車装置であって、前記第2軸を移動させることで、前記第1軸と前記第2軸の間の第1芯間距離と、前記第3軸と前記第2軸の間の第2芯間距離とを調整可能な調整機構を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の歯車装置によれば、二つの芯間距離を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態の歯車装置を側面から見た部分断面図である。
【
図3】実施形態の歯車装置を側面から見た他の部分断面図である。
【
図8】本体ハウジングと補助ハウジングの間に初期シムを配置した状態を模式的に示す図である。
【
図9】本体ハウジングと補助ハウジングとの間から初期シムを除いた状態を模式的に示す図である。
【
図10】本体ハウジングと補助ハウジングとの間に調整シムを配置した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1、
図2を参照する。歯車装置10は、複数の軸12、14、16、18と、複数の軸12、14、16、18を支持するハウジング20と、複数の軸12、14、16、18の間で回転を伝達可能な複数の歯車対22、24、26と、を備える。
図2では、ピッチ円によって歯車対22、24を構成する一部の歯車を示す。
【0011】
複数の軸12、14、16、18は、入力軸12と、中間軸としての第1軸14及び第2軸16と、出力軸としての第3軸18とを含む。入力軸12には、駆動源(不図示)から回転が入力される。駆動源は、例えば、モータ、エンジン、ギヤモータ等である。中間軸は、入力軸12から出力軸に至る動力伝達経路に設けられる。出力軸は、駆動対象となる被駆動装置(不図示)に回転を出力する。本実施形態の第1軸14、第2軸16及び第3軸18は、平行軸歯車機構の歯車対22、24を支持する役割を持ち、互いに平行に配置される。
【0012】
複数の歯車対22、24、26は、前段側の軸から後段側の軸に回転を変速して伝達可能である。本実施形態の複数の歯車対22、24、26は回転を減速する減速歯車機構として機能する。複数の歯車対22、24、26は、第1軸14と第2軸16との間で回転を伝達する第1歯車対22と、第2軸16と第3軸18との間で回転を伝達する第2歯車対24と、を含む。第2軸16は、第1歯車対22を介して第1軸14との間で回転を伝達可能であることになる。第3軸18は、第2歯車対24を介して第2軸16との間で回転を伝達可能であることになる。この他に、複数の歯車対22、24、26は、入力軸12と第1軸14との間で回転を伝達する第3歯車対26を含む。第3歯車対26は、入力軸12及び第1軸14のそれぞれに設けられる一対の傘歯車によって構成される。
【0013】
第1歯車対22は、第1軸14と一体回転可能に設けられる第1駆動歯車28と、第2軸16と一体回転可能に設けられる第1従動歯車30とを備える。第2歯車対24は、第2軸16と一体回転可能に設けられる第2駆動歯車32と、第3軸18と一体回転可能に設けられる第2従動歯車34とを備える。駆動歯車28、32と従動歯車30、34は平歯車であり、平行軸歯車機構を構成する。歯車28、30、32、34は、たとえば、インボリュート歯車である。第1歯車対22の歯車28、30は、後述する第1芯間距離La1を調整することで、バックラッシを調整可能である。同様に、第2歯車対24の歯車30、32は、後述する第2芯間距離La2を調整することで、バックラッシを調整可能である。
【0014】
図2~
図4を参照する。ハウジング20は、複数の軸12、14、16、18及び複数の歯車対22、24、26を内部に収容する中空構造をなす。ハウジング20は、第1軸14、第2軸16、第3軸18を支持する軸穴36、38、40を備える。軸穴36、38、40は、第1軸14を支持する第1軸穴36と、第2軸16を支持する第2軸穴38と、第3軸18を支持する第3軸穴40とを含む。
【0015】
軸14、16、18と軸穴36、38、40との間には軸14、16、18を支持する軸受42、44、46が配置される。軸受42、44、46は、第1軸14と第1軸穴36との間に配置される第1軸受42と、第2軸16と第2軸穴38との間に配置される第2軸受44と、第3軸18と第3軸穴40との間に配置される第3軸受46とを含む。
【0016】
ハウジング20は、第2軸16の軸芯に沿った軸方向X両側に設けられる一対の壁部48を備える。第1軸14、第2軸16、第3軸18のそれぞれに対応する軸穴36、38、40は一対の壁部48に個別に形成される。
【0017】
図4、
図5を参照する。歯車装置10は、第2軸16を移動させることで、第1軸14と第2軸16の間の第1芯間距離La1と、第3軸18と第2軸16の間の第2芯間距離La2を調整可能な調整機構50を備える。第1芯間距離La1は、第1軸14の軸芯C1と第2軸16の軸芯C2との間の距離をいう。第2芯間距離La2は、第2軸16の軸芯C2と第3軸18の軸芯C3との間の距離をいう。
【0018】
調整機構50は、ハウジング20を構成する本体ハウジング52及び補助ハウジング54と、本体ハウジング52と補助ハウジング54との間に配置される調整シム56A、56Bと、を備える。
【0019】
本体ハウジング52及び補助ハウジング54は、ハウジング20を分割した形状をなす。本体ハウジング52は、前述の第1軸穴36を備え、第1軸穴36によって第1軸受42を介して第1軸14を支持する。本体ハウジング52は、第1軸14の両端部のそれぞれを支持する。本体ハウジング52は、前述の第3軸穴40を備え、第3軸穴40によって第3軸受46を介して第3軸18を支持する。本体ハウジング52は、第3軸18の両端部のそれぞれを支持する。
【0020】
補助ハウジング54は、第2軸16の軸方向Xの両側に対となって個別に設けられる。一対の補助ハウジング54は、共通の本体ハウジング52によって支持される。補助ハウジング54は、前述の第2軸穴38を備え、第2軸穴38によって第2軸受44を介して第2軸16を支持する。一対の補助ハウジング54のそれぞれは、第2軸16の両端部のそれぞれを個別に支持する。補助ハウジング54の第2軸穴38には、第2軸受44の外輪44a(
図3参照)が嵌め合い(例えば、すきま嵌め)により直接に取り付けられる。
【0021】
本体ハウジング52は、補助ハウジング54を収容する収容穴58を備える。補助ハウジング54は、全体としてブロック状をなし、本体ハウジング52の収容穴58内に嵌め込まれる。収容穴58は、第2軸16の軸方向X外側に向かって開いており、カバー材60によって覆い塞がれる。カバー材60は、ボルト等によって本体ハウジング52に着脱可能に取り付けられる。
【0022】
本体ハウジング52は、補助ハウジング54を第1軸14側から受ける第1受け面62と、補助ハウジング54を第3軸18側から受ける第2受け面64とを備える。ここでの「第1軸14側」とは、後述する仮想線Lbに沿った方向で第1軸14側をいう。「第3軸18側」も同様に、仮想線Lbに沿った方向で第3軸18側をいう。第1受け面62は、第1軸14と第2軸16との間に設けられる。第2受け面64は、第2軸16と第3軸18との間に設けられる。本体ハウジング52の受け面62、64は本体ハウジング52の収容穴58に設けられる。
【0023】
補助ハウジング54は、第1受け面62によって受けられる第1被受け面66と、第2受け面64によって受けられる第2被受け面68とを備える。第1被受け面66は、その第1軸14側にある補助ハウジング54の側部に設けられる。第2被受け面68は、その第2軸16側にある補助ハウジング54の側部に設けられる。
【0024】
第2軸16の軸方向Xから見て、第1軸14の軸芯C1と第3軸18の軸芯C2とを結ぶ仮想線Lbを想定する。このとき、第1受け面62は、第1軸14側に向かうに連れて仮想線Lbから離れるように、仮想線Lbに対して傾斜している。本実施形態では、第1被受け面66も同様の条件を満たす。第2受け面64は、仮想線Lb上において第3軸18側に向かうに連れて仮想線Lbから離れるように、仮想線Lbに対して傾斜している。本実施形態では、第2被受け面68も同様の条件を満たす。この条件を満たすうえで、本実施形態の受け面62、64は平面状をなす。
【0025】
調整機構50は、第1芯間距離La1と第2芯間距離La2とを同時に増加または減少させる主調整方向Daに第2軸16を移動させることが可能である。この主調整方向Daは、第2軸16の軸方向Xから見て、仮想線Lbに対して交差する方向となる。本実施形態では、この主調整方向Daは、仮想線Lbに対して垂直な方向となる。調整機構50は、補助ハウジング54を主調整方向Daに移動させることで、主調整方向Daに第2軸16を移動させることが可能である。以下、主調整方向Daにおいて芯間距離La1、La2を減少させる方向を減少方向Da1とし、芯間距離La1、La2を増加させる方向を増加方向Da2という。
【0026】
調整機構50は、補助ハウジング54を仮想線Lbに沿った副調整方向Dbに移動させることが可能である。これにより、仮想線Lbに対して傾斜している第1受け面62及び第2受け面64の何れかに沿って補助ハウジング54を移動させることができる。ひいては、第1受け面62に沿って補助ハウジング54を移動させることで、第2芯間距離La2を調整可能となる。また、第2受け面64に沿って補助ハウジング54を移動させることで、第1芯間距離La1を調整可能となる。
【0027】
調整シム56A、56Bは、第2軸16と第1軸14との間に形成される第1隙間70Aを埋める第1調整シム56Aと、第2軸16と第3軸18との間に形成される第2隙間70Bを埋める第2調整シム56Bとを含む。第1隙間70Aは、本体ハウジング52の第1受け面62と補助ハウジング54の第1被受け面66との間に形成される。第2隙間70Bは、本体ハウジング52の第2受け面64と補助ハウジング54の第2被受け面68との間に形成される。
【0028】
調整シム56A、56Bは、全体として板状をなす。第1調整シム56Aは、第1軸14側から補助ハウジング54を支持している。第1調整シム56Aは、その厚みを変えることで、第1軸14の径方向における第2軸16及び補助ハウジング54の位置とともに第1芯間距離La1を調整できる。第2調整シム56Bは、第3軸18側から補助ハウジング54を支持している。第2調整シム56Bは、その厚みを変えることで、第3軸18の径方向における第2軸16及び補助ハウジング54の位置とともに第2芯間距離La2を調整できる。調整機構50は、個々の調整シム56A、56Bの厚みを変えることによって、第1芯間距離La1と第2芯間距離La2を個別に調整可能であるともいえる。
【0029】
図6、
図7を参照する。第1調整シム56A、第2調整シム56Bの構成は共通のため、図面において第1調整シム56Aを参照のうえ、両者に共通する構成を説明する。調整シム56A、56Bは、一対の厚肉プレート72と、一対の厚肉プレート72の間に挟み込まれる複数の薄肉プレート74A、74Bとを備える。厚肉プレート72、薄肉プレート74A、74Bは、例えば、金属等を素材として構成される。厚肉プレート72は、調整シム56A、56Bを動かすときに、調整シム56A、56B全体の形状を保持するために用いられる。厚肉プレート72の厚みは、例えば、0.5mm以上である。
【0030】
薄肉プレート74A、74Bは、調整シム56A、56B全体の厚みを調整するために用いられる。薄肉プレート74A、74Bの厚みは、厚肉プレート72の厚みより薄く、例えば、0.2mm以下である。本実施形態の複数の薄肉プレート74A、74Bは、複数の第1薄肉プレート74Aと、第1薄肉プレート74Aよりも薄い複数の第2薄肉プレート74Bとを含む。第1薄肉プレート74Aは、例えば、mm単位で小数第一位の値の調整に用いられ、0.1mmの厚みとなる。第2薄肉プレート74Bは、例えば、mm単位で小数第二位の値の調整に用いられ、0.01mmの厚みとなる。
【0031】
このような薄い薄肉プレート74A、74Bを厚肉プレート72で挟み込むことによって、複数の薄肉プレート74A、74Bだけを取り扱う場合と比べ、調整シム56A、56B全体を容易に取り扱うことができる。
【0032】
調整シム56A、56Bは、カバー材60を取り外したときに、第2軸16の軸方向Xにおいて収容穴58に対して抜き差し可能となる。一対の厚肉プレート72は、補助ハウジング54及び薄肉プレート74A、74Bに対して第2軸16の軸方向X外側にはみ出るはみ出し部72aを備える。一対の厚肉プレート72のはみ出し部72aには通し穴72bが形成される。収容穴58に対して調整シム56A、56Bを抜き差しするとき、針金等の線材を通し穴72bに通して引っ掛ける。この状態で線材を動かすことで、調整シム56A、56B全体を収容穴58に対して容易に抜き差しすることができる。
【0033】
図5を参照する。この他に、歯車装置10は、本体ハウジング52に対して補助ハウジング54を固定する固定具76を備える。固定具76は、補助ハウジング54に対して減少方向Da1に配置される。本実施形態の固定具76はボルトである。固定具76は、本体ハウジング52を貫通する挿通孔78に挿通されるとともに、補助ハウジング54に設けられる第1雌ねじ孔80にねじ込まれる。補助ハウジング54は、減少方向Da1に凸状をなす凸部82を備える。凸部82は、補助ハウジング54の第1被受け面66と第2被受け面68との間に設けられる。凸部82は、本体ハウジング52に設けられた減少方向Da1に凹状をなす凹部84内に配置される。第1雌ねじ孔80は、補助ハウジング54の凸部82に形成される。
【0034】
固定具76は、第1雌ねじ孔80に対するねじ込みによって、減少方向Da1の固定力Faを補助ハウジング54に付与する。固定具76は、この固定力Faを補助ハウジング54に付与することによって、本体ハウジング52に対して補助ハウジング54を固定する。
【0035】
この他に、歯車装置10は、補助ハウジング54に対して増加方向Da2に配置される押さえ部材86を備える。本実施形態の押さえ部材86はボルトである。押さえ部材86は、本体ハウジング52を貫通する第2雌ねじ孔88にねじ込まれる。押さえ部材86は、第2雌ねじ孔88に対するねじ込み量を調整することで、補助ハウジング54に増加方向Da2側から当たった状態で保持される。これにより、押さえ部材86は、補助ハウジング54の増加方向Da2での動きを拘束できる。
【0036】
次に、
図8、
図9、
図10を用いて、調整機構50を用いた歯車対22、24のバックラッシの調整方法を説明する。各図では、説明の便宜のため、隙間70A、70Bの大きさを誇張して示す。
【0037】
図8を参照する。歯車対22、24のバックラッシとは、歯車対22、24を構成する駆動歯車28、32と従動歯車30、34をかみ合わせたときの歯面間の隙間の大きさをいう。バックラッシは、例えば、歯面間の最小距離である法線方向バックラッシである。この他にも、バックラッシは、一方の歯車のピッチ円上の弧の長さである円周方向バックラッシでもよい、
【0038】
まず、バックラッシの調整作業前において、本体ハウジング52と補助ハウジング54の間の第1隙間70A及び第2隙間70Bのそれぞれに初期シム90を予め配置しておく。この作業は、例えば、歯車装置10を製造工場から出荷する前に事前に行っておく。初期シム90は、設計上、第1歯車対22及び第2歯車対24のバックラッシが所定のバックラッシ(例えば、0.1mm)となるような厚み(例えば、2.0mm)とする。これにより、バックラッシがゼロとなるように歯車対22、24を構成する歯車28、30、32、34同士が強く当たる事態を避けることができる。
【0039】
次に、バックラッシの調整作業を開始する。まず、作業現場において第1歯車対22の実バックラッシBLs1、第2歯車対24の実バックラッシBLs2、第1隙間70Aに配置される初期シム90の実厚さTs1、第2隙間70Bに配置される初期シム90の実厚さTs2を測定する。実バックラッシBLs1、BLs2は、例えば、ダイヤルゲージ、スキマゲージ等の測定子を用いて測定する。このとき、隙間70A、70Bに配置される調整シム56A、56Bの厚さ方向での初期シム90の実厚さを測定する。
【0040】
次に、
図9に示すように、補助ハウジング54を減少方向Da1に移動させることができるように、第1隙間70A及び第2隙間70Bから初期シム90を除去する。この後、補助ハウジング54を減少方向Da1に移動させることで、第1歯車対22及び第2歯車対24のバックラッシをゼロにできる。本実施形態では、歯車30、32とともに補助ハウジング54を自重によって減少方向Da1に移動させることで、このようにバックラッシをゼロにできる。この後、バックラッシがゼロになるときの第1隙間70Aの実寸法Tm1、第2隙間70Bの実寸法Tm2を測定子によって測定する。このとき、隙間70A、70Bに配置される調整シム56A、56Bの厚さ方向での隙間70A、70Bの実寸法を測定する。
【0041】
次に、測定した実バックラッシBLs1、初期シム90の実厚さTs1、第1隙間70Aの実寸法Tm1を用いて、第1歯車対22の目標バックラッシBLt1を得るために必要な第1調整シム56Aの目標厚さTt1を算出する。
【0042】
これは、例えば、次のような流れで算出する。第1隙間70Aに配置されるシム(調整シム56A、初期シム90)の有無による第1隙間70Aの大きさの変化量と、第1歯車対22のバックラッシの変化量とが比例関係にあるとする。初期シム90の有無による第1隙間70Aの変化量は、初期シム90の実厚さTs1と第1隙間70Aの実寸法Tm1との差分値(=Ts1-Tm1)で表すことができる。また、初期シム90の有無による第1歯車対22のバックラッシの変化量は、実バックラッシBLs1そのもので表すことができる。また、調整シム56Aの有無による第1隙間70Aの変化量は、調整シム56Aの厚みTt1と第1隙間70Aの実寸法Tm1との差分値(=Tt1-Tm1)で表すことができる。また、調整シム56Aの有無によるバックラッシの変化量は、調整シム56Aを配置したときの第1歯車対22のバックラッシBLt1そのもので表すことができる。これらをまとめると、次の式(1)が成立する。この式(1)を用いて、目標バックラッシBLt1を得るために必要な第1調整シム56Aの目標厚さTt1を算出することができる。
Ts1-Tm1:BLs1=Tt1-Tm1:BLt1 ・・・ (1)
【0043】
例えば、初期シム90の実厚さTs1が2.0(mm)、実バックラッシBLs1が0.1(mm)、第1隙間70Aの実寸法Tm1が1,1(mm)、目標バックラッシBLt1が0.005(mm)とする。このとき、2.0-1.1:0.1=St1-1.1:0.005となり、St1=1.145(mm)となる。
【0044】
同様の要領で、測定した実バックラッシBLs2、初期シム90の実厚さTs2、第2隙間70Bの実寸法Tm2を用いて、第2歯車対24の目標バックラッシBLt2を得るために必要な調整シム56A、56Bの目標厚さTt2を算出する。目標厚さTt2は、次の式(2)を用いて算出することができる。
Ts2-Tm2:BLs2=Tt2-Tm2:BLt2 ・・・ (1)
【0045】
次に、
図10に示すように、調整シム56A、56Bの実厚さTg1、Tg2が求めた目標厚さTt1、Tt2となるように、調整シム56A、56Bの厚みを調整する。このとき、調整シム56A、56Bの薄肉プレート74A、74Bの枚数を増減させることで、調整シム56A、56Bの厚みを調整する。この後、その調整した実厚さTg1、Tg2の調整シム56A、56Bを隙間70A、70Bに配置する。これにより、第1調整シム56Aの実厚さTg1に応じた第1芯間距離La1に調整され、その第1芯間距離La1に応じた第1歯車対22の実バックラッシBLg1に調整される。また、第2調整シム56Bの実厚さTg2に応じた第2芯間距離La2に調整され、その第2芯間距離La2に応じた第2歯車対24の実バックラッシBLg2に調整される。このとき、調整後の実バックラッシBLg1、BLg2を再測定し、その測定値が目標バックラッシBLt1、BLt2からずれている場合、目標バックラッシBLt1、BLt2が得られるまで調整シム56A、56Bの実厚さTg1、Tg2を調整する作業を繰り返す。
【0046】
以上の歯車装置10の効果を説明する。
【0047】
歯車装置10は、第2軸16の位置を調整可能な調整機構50を備える。よって、第2軸16の位置を調整することで第1芯間距離La1と第2芯間距離La2との両方を調整できる。また、これら二つの芯間距離La1、La2を調整するうえで、第1軸14や第3軸18に専用の個別の調整機構を不要にできる。よって、二つの芯間距離La1、La2を調整するうえで構造の簡素化を図ることができる。
【0048】
調整機構50は、第1芯間距離La1と第2芯間距離La2を同時に増加又は減少させる主調整方向Daに第2軸16を移動可能である。よって、前述のように、第1歯車対22のバックラッシと第2歯車対24のバックラッシをゼロにしてから、第2軸16を僅かに動かすことで、各バックラッシを所要の大きさに容易に調整できる。これにより、低バックラッシが必要とされる用途(例えば、ロボットアーム、パイプベンダー)の歯車装置10に好適に利用できるようになる。
【0049】
調整機構50は、補助ハウジング54の位置を調整することで第2軸16の位置を調整可能である。よって、補助ハウジング54そのものを動かす簡易な構造によって二つの芯間距離La1、La2の調整を実現できる。このため、二重偏心ブッシュのような複雑機構を用いる場合と比べ、第2軸16周りの構成を簡素化できる。ひいては、調整機構50の複雑化に伴う周辺構造(例えば、第2軸16)の小型化を避けることができる。
【0050】
受け面62、64は、仮想線Lbに対して傾斜している。よって、受け面62、64を仮想線Lbに対して平行な面とするより、受け面62、64において補助ハウジング54を受ける箇所の面積を広げ易くなる。ひいては、補助ハウジング54を受け面62、64によって安定して受け易くなる。
【0051】
受け面62、64は、第1軸14及び第3軸18のうちの一方の軸と第2軸16との間に設けられる。ここでは、一方の軸を第1軸14として説明する。仮に、実施形態の補助ハウジング54と同じ縦横寸法を持ち、受け面62、64のみ仮想線Lbと平行にした参考構造を想定する。ここでの横寸法とは、第2軸16の軸方向Xから見て、前述の副調整方向Dbでの寸法をいい、縦寸法は、それとは直交する方向での寸法をいう。実施形態のように受け面62、64を傾斜したうえで、第1軸14(一方の軸)と第2軸16との間に設ける場合を想定する。この場合、参考構造と比べて、補助ハウジング54との干渉を避けつつ、第1軸14及び第3軸18のうちの他方の軸(ここでは第3軸18)側に第1軸14(一方の軸)を近づけ易くなる。ひいては、本体ハウジング52の横寸法を小型化し易くなる。
【0052】
固定具76は、減少方向Da1に固定力Faを付与することで、補助ハウジング54を固定する。よって、仮想線Lbに沿った方向に固定力Faを付与する場合と比べ、補助ハウジング54の同方向でのずれを防止できる。ひいては、補助ハウジング54を固定するうえで、補助ハウジング54のずれに起因する芯間距離のずれを防止できる。
【0053】
歯車装置10の他の特徴を説明する。
図5を参照する。第1受け面62と第2受け面64とのなす角度θは、好ましくは、85°以上の範囲である。この角度θは、第2軸16の軸方向から見て、平面状の第1受け面62を第3軸18側に延長した線Lc1と、平面状の第2受け面64を第1軸14側に延長した線Lc2とが第2軸16側においてなす角度をいう。
【0054】
この角度θが30°のように小さい場合、減少方向Da1に補助ハウジング54を移動させたとき、くさび効果により本体ハウジング52への負荷が増大する。これに対して、角度θが90°以上の場合、このような本体ハウジング52の変形を防止できる。角度θの上限値は特に限定されないが、仮想線Lbに対して受け面62、64を傾斜させる関係上、角度θは180°未満となる。また、角度θのより好ましい範囲は、第1受け面62と第2受け面64の成形のし易さを考慮すると、85°以上95°以下の範囲である。なお、第1受け面62と第2受け面64のなす角度θは85°未満でもよい。
【0055】
各構成要素の他の変形形態を説明する。
【0056】
歯車装置10の軸12、14、16、18の数は3つ以上であればよく、その具体的な数は特に限定されない。例えば、軸12、14、16、18は、3つでもよいし、5つ以上でもよい。第1軸14、第2軸16、第3軸18を通る動力伝達経路の具体例は、第1歯車対22を介して第1軸14との間で回転を伝達可能な第2軸16と、第2歯車対24を介して第2軸16との間で回転を伝達可能な第3軸18と、を備えていれば、特に限定されない。実施形態の動力伝達経路は、第1軸14、第2軸16、第3軸18を順に経由する経路である例を説明した。しかし、この他にも、例えば、動力伝達経路は、第2軸16から第1軸14及び第3軸18のそれぞれに動力が分配される経路であってもよい。
【0057】
歯車対22、24を構成する歯車機構の具体例は特に限定されない。例えば、歯車対22、24は、交差軸歯車機構を構成してもよい。第1軸14及び第3軸18は、第2軸16の軸芯C2に対して直交する面と平行に配置されてもよいということである。
【0058】
調整機構50は、第1芯間距離La1と第2芯間距離La2のうちの一方を増加させたら、そのうちの他方を減少させるように第2軸16を移動可能であってもよい。これは、例えば、第2軸16が第1軸14と第3軸18の間の仮想線Lb上に設けられる場合を想定している。
【0059】
調整機構50は、補助ハウジング54を備える例を説明したが、補助ハウジング54を備えずともよく、その具体例は特に限定されない。調整機構50は、例えば、小径偏心ブッシュと大径偏心ブッシュを組み合わせた二重偏心ブッシュを用いて第2軸16の位置を調整してもよい。
【0060】
第1受け面62及び第2受け面64のうちの一方の受け面のみが仮想線Lbに対して傾斜してもよい。第1軸14及び第3軸18のうちの一方の軸側から補助ハウジング54を受ける受け面62、64が仮想線Lbに対して傾斜していてもよいともいえる。たとえば、第1受け面62のみ仮想線Lbに対して傾斜し、第2受け面64は仮想線Lbと平行であってもよい。
【0061】
また、仮想線Lbに対して傾斜する受け面62、64は、第1軸14及び第3軸18のうちの一方の軸と第2軸16との間に設けられていなくともよい。これは、例えば、仮想線Lbに対して傾斜する第1受け面62が仮想線Lbを挟んで第2軸16とは反対側に設けられる場合を想定している。
【0062】
固定具76は、仮想線Lbに沿った方向に固定力を付与することで補助ハウジング54を固定してもよい。この他にも、減少方向Da1に固定力を付与するうえで、固定具76は、補助ハウジング54に対して増加方向Da2に配置されていてもよい。これは、例えば、補助ハウジング54と本体ハウジング52との間に配置される固定具76がくさびである場合を想定している。
【0063】
調整シム56A、56Bは単数のプレートによって構成されてもよい。調整シム56A、56Bを複数のプレートによって構成する場合、薄肉プレート74A、74Bの厚みは特に限定されない。
【0064】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができる誤差の分だけずれた構造も当然に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10…歯車装置、14…第1軸、16…第2軸、18…第3軸、22…第1歯車対、24…第2歯車対、50…調整機構、52…本体ハウジング、54…補助ハウジング、56A、56b…調整シム、62,64…受け面、72…厚肉プレート、74A、74B…薄肉プレート、76…固定具。