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  • 特許-振動防止構造 図1
  • 特許-振動防止構造 図2
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  • 特許-振動防止構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】振動防止構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/43 20060101AFI20250305BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B1/00 501P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021107552
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005553
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓未
(72)【発明者】
【氏名】野澤 裕和
(72)【発明者】
【氏名】大野 正人
(72)【発明者】
【氏名】青木 唯
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-303196(JP,A)
【文献】特開2009-219429(JP,A)
【文献】特開平11-293832(JP,A)
【文献】特開2006-028814(JP,A)
【文献】特開2002-106060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/43
E04B 1/00
E04B 2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外柱から外方へ跳ね出す跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された跳ね出しスラブの振動を防止する振動防止構造であって、
前記振動防止材が、外柱の外方に位置するカーテンウォールにおけるマリオン材の内部に入れ込まれている振動防止構造。
【請求項2】
前記跳ね出しスラブが、第1水平方向及びそれと交差する第2水平方向へ跳ね出す2方向跳ね出しスラブであり、
前記跳ね出し梁が、隅柱から前記第1水平方向及び前記第2水平方向を合成した斜め方向へ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁である請求項1に記載の振動防止構造。
【請求項3】
前記振動防止材の上端部及び下端部のうち、一方側が前記跳ね出し梁に対してボルトにより接合されており、他方側が前記跳ね出し梁に対して溶接により接合されている請求項1又は2に記載の振動防止構造。
【請求項4】
前記振動防止材が、無垢の鋼材で構成されている請求項1~3の何れか1項に記載の振動防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外柱から外方へ跳ね出す跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された跳ね出しスラブの振動を防止する振動防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特に、段落0007、図11図12等を参照。)には、バルコニーの端部に立設された内部マリオンMaを、その上下端部を上階側のバルコニー天井部3及び下階側のバルコニー床部1に対してL字状のブラケット2によって接続することにより、各階のバルコニーを補強する補強材(振動防止材)として機能させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3170569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、カーテンウォールを支持するマリオン材は、ガラスなどの外装材を分離する中方立てであることから、躯体に対する接合部にルーズ等を設けて施工誤差などを吸収する必要がある。しかしながら、上記特許文献1のように、マリオン材自身を上記補強材(振動防止材)などの構造材として利用する場合には、溶接や高力ボルトでルーズが無いように接合する必要があるため適用が困難となる。また、振動防止材で躯体同士を繋ぐと、意匠上適切でない位置に振動防止材が配置されることが懸念される。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、外柱から外方へ跳ね出す跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された跳ね出しスラブの振動を防止する振動防止構造において、跳ね出しスラブの床振動を適切に抑制しながら、意匠に配慮したディテールを実現可能な技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、外柱から外方へ跳ね出す跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された跳ね出しスラブの振動を防止する振動防止構造であって、
前記振動防止材が、外柱の外方に位置するカーテンウォールにおけるマリオン材の内部に入れ込まれている点にある。
【0006】
本構成によれば、外柱の外方に位置するカーテンウォールの開口部においてガラスなどの外装材を分離する中方立てであるマリオン材自身を振動防止材とするのではなく、マリオン材とは別に設けられた振動防止材により、跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で強固に連結して、跳ね出し梁及び跳ね出しスラブの振動を適切に防止することができる。このため、マリオン材については、躯体に対する接合部にルーズ等を設けて施工誤差などを吸収することができる。そして、振動防止材が、マリオン材の内部に入れ込まれているので、意匠上適切でない位置に振動防止材が配置されることを防止することができる。
従って、本発明により、外柱から外方へ跳ね出す跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された跳ね出しスラブの振動を防止する振動防止構造において、跳ね出し梁及び跳ね出しスラブの床振動を適切に抑制しながら、意匠に配慮したディテールを実現することができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記跳ね出しスラブが、第1水平方向及びそれと交差する第2水平方向へ跳ね出す2方向跳ね出しスラブであり、
前記跳ね出し梁が、隅柱から前記第1水平方向及び前記第2水平方向を合成した斜め方向へ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁である点にある。
【0008】
本構成によれば、上記第1水平方向及び上記第2水平方向の2方向へ跳ね出す2方向跳ね出しスラブについても、隅柱から上記斜め方向へ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁を設けて当該斜め方向跳ね出し梁に支持させると共に、斜め方向跳ね出し梁を振動防止材により上下階間で連結することで、当該斜め方向跳ね出し梁及び当該斜め方向跳ね出し梁に支持された2方向跳ね出しスラブの振動を適切に防止することができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記振動防止材の上端部及び下端部のうち、一方側が前記跳ね出し梁に対してボルトにより接合されており、他方側が前記跳ね出し梁に対して溶接により接合されている点にある。
【0010】
本構成によれば、振動防止材の上端部及び下端部のうちの一方側が跳ね出し梁に対してボルトにより接合されているので、当該振動防止材が内蔵されたマリオン材の施工誤差などを適切に吸収することができる。一方、振動防止材の上端部及び下端部のうちの他方側が跳ね出し梁に対して溶接により接合されているので、跳ね出し梁に対して振動防止材の端部を強固に固定して、当該跳ね出し梁の振動を適切に抑制することができる。
更に、下側の跳ね出し梁に対する振動防止材の下端部の接合を溶接によるものとすることで、当該接合部における溶接作業を楽な下向きで実施することができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記振動防止材が、無垢の鋼材で構成されている点にある。
【0012】
本構成によれば、跳ね出し梁を上下階間で連結する振動防止材として引張力及び圧縮力の双方に対抗可能な無垢の鋼材を用いることで、上側及び下側の両跳ね出し梁に対してそれらの間の振動防止材により振動防止効果を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の振動防止構造が採用された建物の跳ね出しスラブ部分の平面図
図2図1に示す建物のカーテンウォールの出隅部の拡大平面図
図3】斜め方向跳ね出し梁部分の拡大平面図
図4図3における矢視aから見た立面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る振動防止構造の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の振動防止構造(以下「本振動防止構造」と呼ぶ。)は、外柱1から外方へ跳ね出す跳ね出し梁4に支持された跳ね出しスラブ8を有する建物において、当該跳ね出し梁4及び当該跳ね出しスラブ8の振動を防止するための構造として採用される。
【0015】
更に、本実施形態において、跳ね出しスラブ8は、第1水平方向X及びそれと垂直に交差する第2水平方向Yへ跳ね出す2方向跳ね出しスラブ8として構成されている。また、跳ね出し梁4としては、外柱1から第1水平方向Xへ跳ね出す第1跳ね出し梁4Xや外柱1から第2水平方向Yへ跳ね出す第2跳ね出し梁4Yとは別に、外柱1のうちの隅柱2から第1水平方向X及び第2水平方向Yを合成した斜め方向(以下「跳ね出し方向A」と呼ぶ場合がある。)へ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁4Aが設けられている。尚、跳ね出しスラブ8の外方に、跳ね出し梁4により支持されたバルコニー26が設けられている。
そして、本振動防止構造は、図1及び図4に示すように、隅柱2から斜め方向である跳ね出し方向Aへ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁4Aの跳ね出し方向Aにおける先端部4aを振動防止材10により上下階間で連結することで、当該斜め方向跳ね出し梁4A及び当該斜め方向跳ね出し梁4Aに支持された2方向跳ね出しスラブ8の振動を防止する構造として構成されている。
【0016】
本振動防止構造は、跳ね出しスラブ8の床振動を適切に抑制しながら、意匠に配慮したディテールを実現可能とするための構成を採用しており、その構成について以下に説明を加える。
本振動防止構造が設けられた建物には、外柱1の外方に位置するカーテンウォール20が設けられている。カーテンウォール20には、上下階の跳ね出しスラブ8の間に掛け渡されたマリオン材を所定間隔で複数並設し、そのマリオン材の隣接間の開放部に外装材をはめ込んで構成されている。
【0017】
図2に示すように、隅柱2の外方の出隅部に設置されるマリオン材22は、互いに直交する2重のガラス板21が外装材として嵌め込まれるコーナーマリオン23と、その内側に沿わせて設けられたバックマリオン24とを有する矢尻型に構成されている。そして、斜め方向跳ね出し梁4Aの先端部4a(図4参照)を上下階間で連結する振動防止材10は、カーテンウォール20におけるマリオン材22の内部に入れ込まれている。詳しくは、コーナーマリオン23及びバックマリオン24は、アルミニウム合金を押し出し成形してなる中空のアルミ押出形材で構成されており、そのうちのバックマリオン24の内部空間に振動防止材10が内装されている。この構成により、マリオン材22自身が振動防止材として機能するのではなく、マリオン材22とは別に設けられた振動防止材10により、斜め方向跳ね出し梁4A及び2方向跳ね出しスラブ8の振動が適切に防止されることになる。そのため、マリオン材22については、上下階の跳ね出しスラブ8に対する接合部にルーズ等を設けて施工誤差などを吸収することができる。一方、振動防止材10は、バックマリオン24に内装され覆い隠されているので、外部への露出による意匠性の悪化が回避されている。
【0018】
図2に示すように、バックマリオン24の内部には、振動防止材10の跳ね出し方向Aに沿って前方の面が当接する位置決め用プレート25が設けられている。このことで、バックマリオン24の内部において、位置決め用プレート25に前方の面を当接させながら振動防止材10を簡単に設置することができる。
【0019】
振動防止材10は、鉛直方向に延びる棒状で、水平断面が跳ね出し方向Aと平行な長辺とそれに直交する短辺とを有する矩形である無垢の鋼材で構成されている。この構成により、図4を参照して、跳ね出し梁4Aの先端部4aを上下階間で連結する振動防止材10として用いられる無垢の鋼材は、引張力及び圧縮力の双方に対抗可能であることから、上側及び下側の両跳ね出し梁4Aに対してそれらの間に掛け渡された振動防止材10により良好な振動防止効果が得られる。
尚、振動防止材10が長期荷重を負担しないように、振動防止材10の取り付けは建物の躯体工事完了後に行うことが望ましい。
【0020】
振動防止材10の取り付け作業における上下階夫々の斜め方向跳ね出し梁4Aに対する振動防止材10の上端部及び下端部の接合方法の詳細について、図3及び図4に基づいて以下に説明する。
跳ね出し梁4Aは、上フランジ4b及び下フランジ4cを有するH形鋼で構成されており、その先端部4aにおける上フランジ4bの上面には、跳ね出しスラブ8に埋設されて当該跳ね出しスラブ8の上面に露出される上フランジ6aを有して断面形状がT字状の接合部材6が溶接接合されている。また、跳ね出し梁4Aの下フランジ4cは、後述するボルト14の接合部を確保するために、プレートを溶接して上フランジ4bよりも拡幅したものとされている。
【0021】
振動防止材10の上端部は、上側の跳ね出し梁4Aの先端部4aに対してボルト14により接合されている。即ち、振動防止材10の上端部には、鉛直姿勢で振動防止材10の側面に溶接接合された上端鉛直プレート12と、水平姿勢で当該上端鉛直プレート12の上面に溶接接合された上端水平プレート13が設けられている。そして、この上端水平プレート13が、跳ね出し梁4Aの下フランジ4cに対してボルト14により接合されている。また、下フランジ4cにおけるボルト14の接合位置のずれを許容するために、下フランジ4cに形成されたボルト挿通孔の径は、当該ボルト14の径に対して十分なクリアランスを有するものとされている。また、ボルト14としては高力ボルトが使用されており、下フランジ4cに形成されたボルト挿通孔のクリアランスを補填するために、ボルト14とボルト挿通孔の間に座金が介装されて、当該座金が下フランジ4cに溶接接合されている。
一方、振動防止材10の下端部は、下側の跳ね出し梁4Aの先端部4aに対して溶接部16により接合されている。即ち、振動防止材10の下端部には、鉛直姿勢で振動防止材10の側面に溶接接合された下端鉛直プレート15が設けられている。そして、この下端鉛直プレート15が、跳ね出し梁4Aに接合された接合部材6の上フランジ6aに対して溶接部16により接合されている。
【0022】
このように、振動防止材10の上端部が、跳ね出し梁4Aの先端部4aに対してボルト14により接合されていると、そのボルト14の遊びにより振動防止材10が内蔵されたマリオン材22(図2参照)の施工誤差などを適切に吸収することができる。一方、振動防止材10の下端部が、斜め方向跳ね出し梁4Aの先端部4aに対して溶接部16により接合されていると、斜め方向跳ね出し梁4Aの先端部4aに対して振動防止材10の下端部が強固に固定されて、当該斜め方向跳ね出し梁4Aの振動が適切に抑制される。更に、下側の斜め方向跳ね出し梁4Aに対する振動防止材10の下端部の接合が溶接部16によるものであるため、当該溶接部16における溶接作業が楽な下向きで実施できるようになる。
【0023】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0024】
(1)上記実施形態では、出隅部のマリオン材22の内部に入れ込んだ振動防止材10により隅柱2から斜め方向(跳ね出し方向A)へ跳ね出す斜め方向跳ね出し梁4Aを上下階間で連結して、当該斜め方向跳ね出し梁4A及び当該斜め方向跳ね出し梁4Aに支持された2方向跳ね出しスラブ8の振動を防止したが、振動防止材10を内部に入れ込むマリオン材については、出隅部のものではなく、同じ面に設けられた外装材の間に配置されるマリオン材として、そのマリオン材の内部に入れ込まれた振動防止材により外柱から一方向へ跳ね出す跳ね出し梁を連結して、当該跳ね出し梁及び当該跳ね出し梁に支持された一方向へ跳ね出す跳ね出しスラブの振動を防止するように構成しても構わない。
【0025】
(2)上記実施形態では、マリオン材22のバックマリオン24の内部に振動防止材10を設けたが、マリオン材22の内部における振動防止材10の設置位置については適宜変更しても構わない。
【0026】
(3)上記実施形態では、振動防止材10の上端部を上側の跳ね出し梁4Aに対してボルト14により接合すると共に、振動防止材10の下端部を下側の跳ね出し梁4Aに対して溶接部16により接合したが、これら振動防止材10の上下端部の上下の跳ね出し梁4Aに対する接合方法については、適宜変更しても構わない。
【0027】
(4)上記実施形態では、振動防止材10の上下端部を跳ね出し梁4Aの先端部4aに接合したが、跳ね出し梁4Aにおける振動防止材10の上下端部の接合箇所については適宜変更しても構わない。
【0028】
(5)上記実施形態では、振動防止材10を無垢の鋼材としたが、例えば鋼管など別の材料で振動防止材を構成しても構わない。
【符号の説明】
【0029】
2 隅柱(外柱)
4A 跳ね出し梁
8 跳ね出しスラブ
10 振動防止材
14 ボルト
16 溶接部
20 カーテンウォール
22 マリオン材
A 跳ね出し方向(斜め方向)
X 第1水平方向
Y 第2水平方向
図1
図2
図3
図4