(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】鋳型、その製造方法および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/22 20060101AFI20250305BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20250305BHJP
B22D 25/02 20060101ALI20250305BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20250305BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20250305BHJP
【FI】
B22C9/22 C
B22C9/02 101Z
B22D25/02 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2021158878
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-182492(JP,A)
【文献】特開2004-090046(JP,A)
【文献】特開2014-018834(JP,A)
【文献】特開2003-275846(JP,A)
【文献】特開2017-020504(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111421109(CN,A)
【文献】特開2023-044309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00-30
B22D 25/00-08
B29C 64/00-40
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材を鋳造可能な鋳型であって、
前記羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部を有し、少なくとも前記羽根形成部の一方の主面に開口部が形成される本体部と、
前記開口部を覆う蓋部と、を備えることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
前記本体部は、前記中心軸に沿って設けられる軸部の鋳造に用いられる軸形成部をさらに有し、
前記開口部は、前記羽根形成部の付け根側の所定の領域を除いた部分に形成されることを特徴とする請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
前記開口部は、前記中心軸側の所定の領域を除いた部分に形成されることを特徴とする請求項1に記載の鋳型。
【請求項4】
前記鋳型は、前記本体部に対する前記蓋部の位置を固定する位置決め構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鋳型。
【請求項5】
前記位置決め構造は、内側が前記羽根形成部の外側面に接する爪部であることを特徴とする請求項4記載の鋳型。
【請求項6】
前記本体部は、複数の前記羽根形成部を有し、
前記羽根形成部のそれぞれに前記開口部が形成されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の鋳型。
【請求項7】
前記羽根形成部は、螺旋状に連続する前記羽根部を形成する中空を有し、
前記開口部が複数形成されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の鋳型。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の鋳型の製造方法であって、
一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、
造形体として前記鋳型となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の鋳型を用いた鋳造方法であって、
前記蓋部で前記開口部を封止する工程と、
前記開口部が前記蓋部によって覆われた前記鋳型を、鋳枠の内部に設置する工程と、
前記鋳型を固定するように、前記鋳枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、
前記鋳型に溶湯を注入する工程と、
前記鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材を鋳造する鋳型、その製造方法および鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層型の3Dプリンタで製作される鋳型が普及してきている。一般的に使用される鋳型は、原型となる木型もしくは金型を転写することによって得られるが、このような鋳型は、必ず抜型という作業を行わなければならず、木型や金型は抜ける形状とする必要がある。
【0003】
これに対し、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、一定厚さに敷いた砂に必要な部分のみを硬化させ、それを順次積層することによって得られるため、抜型という作業が発生しない。そのため、例えば逆勾配があるような形状の鋳型であっても容易に作製できる。
【0004】
鋳型のなかでも、プロペラやスクリュー、インペラーなど、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材は複雑な形状のものが多く、分割して作製することが多い。分割数が増えるほど寸法精度が落ち、性能低下を引き起こすおそれがある。しかし、積層型3Dプリンタであれば形状に制限はなく、複雑な形状であっても分割の必要がないため、羽根部を有する部材の作製に積層型3Dプリンタが利用されることが多くなっている。
【0005】
例えば、
図6に示す部材は、積層型の3Dプリンタによって作製された
図7A、Bに示す鋳型により作製できる。
図7A、Bに示す鋳型では外形が円筒状であるが、3Dプリンタの造形時間の短縮および無駄な材料の消費を抑えることを考慮し、
図8A、Bのように鋳物の形状に沿って一定の肉厚とした鋳型とすることが好適である。
【0006】
なお、羽根部を有する部材の製作は、ロストワックス鋳造で行なわれることも多いが、ロストワックス鋳造を行なうには鋳物のワックス型を製作する必要があり、大変手間がかかる(特許文献1、2を参照)。また、ロストワックス鋳造は大きな鋳物の製作には不向きであり、作製可能な鋳物が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平07-16701号公報
【文献】特開2003-94148号公報
【文献】特開2003-275846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した通り、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、形状に制限がなく、複雑な形状であっても作製可能であり、羽根部を有する部材の鋳型に適している。しかしながら、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、造形を終えた後に、中空構造に残る未硬化の砂を取り除く必要がある。未硬化の砂が残ってしまうと、鋳造した際に所望の形状が得られないおそれがある。
【0009】
未硬化の砂は、砂残りがないことを目で確認しながら取り除かれることが望ましいが、
図6のような羽根部を有する部材の鋳型では、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において砂残りの有無を視認することが困難である。そのため、羽根形成部において未硬化の砂が残存しやすい。
【0010】
特許文献3に記載の発明では、中空構造に通気口を設け、通気口から未硬化の砂を除去している。しかしながら、特許文献3に記載の発明は、鋳型に用いる材料の節約を目的としていることから、通気口が設けられる中空構造は、材料の節約のために設けられた中空構造であり、溶湯を注入しない。そのため、中空構造に未硬化の砂が多少残っても問題なく、残存する未硬化の砂について考慮されていない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、未硬化の砂が残存することを抑制可能な鋳型、その製造方法および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の鋳型は、付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材を鋳造可能な鋳型であって、前記羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部を有し、少なくとも前記羽根形成部の一方の主面に開口部が形成される本体部と、前記開口部を覆う蓋部と、を備えることを特徴としている。
【0013】
このように、少なくとも羽根形成部の一方の主面に開口部が形成される本体部と、開口部を覆う蓋部とを備えるから、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができ、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【0014】
(2)また、本発明の鋳型において、前記本体部は、前記中心軸に沿って設けられる軸部の鋳造に用いられる軸形成部をさらに有し、前記開口部は、前記羽根形成部の付け根側の所定の領域を除いた部分に形成されることを特徴としている。これにより、羽根形成部の付け根周辺において、設計から誤差が生じることを抑制する。
【0015】
(3)また、本発明の鋳型において、前記開口部は、前記中心軸側の所定の領域を除いた部分に形成されることを特徴としている。これにより、中心軸側において、設計から誤差が生じることを抑制する。
【0016】
(4)また、本発明の鋳型において、前記鋳型は、前記本体部に対する前記蓋部の位置を固定する位置決め構造を有することを特徴としている。これにより、蓋部を適切な位置に配置することを可能とし、バリの発生を抑えられる。
【0017】
(5)また、本発明の鋳型において、前記位置決め構造は、内側が前記羽根形成部の外側面に接する爪部であることを特徴としている。これにより、蓋部を適切な位置に配置することが容易となり、バリの発生を抑制する。
【0018】
(6)また、本発明の鋳型において、前記本体部は、複数の前記羽根形成部を有し、前記羽根形成部のそれぞれに前記開口部が形成されることを特徴としている。これにより、羽根形成部のそれぞれにおいて、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができ、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【0019】
(7)また、本発明の鋳型において、前記羽根形成部は、螺旋状に連続する前記羽根部を形成する中空を有し、前記開口部が複数形成されることを特徴としている。これにより、螺旋状に連続する中空を有する羽根形成部であっても、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができ、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【0020】
(8)また、本発明の鋳型の製造方法は、上記(1)~(7)のいずれかに記載の鋳型の製造方法であって、一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、造形体として前記鋳型となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴としている。
【0021】
これにより、造形体の開口部から未硬化の造形砂を除去しやすくなる。また、複雑な形状の鋳型であっても多分割することなく寸法精度を高く維持できる。また、鋳型の寸法精度が向上することで、鋳型により作製される鋳物自体の性能向上を図ることができる。
【0022】
(9)また、本発明の鋳型を用いた鋳造方法は、上記(1)~(7)のいずれかに記載の鋳型を用いた鋳造方法であって、前記蓋部で前記開口部を封止する工程と、前記開口部が前記蓋部によって覆われた前記鋳型を、鋳枠の内部に設置する工程と、前記鋳型を固定するように、前記鋳枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、前記鋳型に溶湯を注入する工程と、前記鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴としている。
【0023】
これにより、羽根形成部において未硬化の砂が残存しにくく鋳物に不具合が生じ難い。また、蓋部により鋳造時に開口部を封止することで、所望の形状の鋳物が生成できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができ、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る鋳型の概略構成を示す分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る鋳型において、開口部を覆うように蓋部が設置された状態を表す斜視図である。
【
図3】位置決め構造の変更例を示す図であって、本体部の開口部周辺を示す部分断面図である。
【
図4】第2実施形態に係る本体部と蓋部の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】第2実施形態に係る本体部の変更例を示す斜視図である。
【
図7A】従来の鋳型の概略構成を示す斜視図である。
【
図8A】従来の鋳型の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。なお、各実施形態では基本の実施形態との相違点を中心に説明し、同様の構成についてはその説明を省略する。
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態に係る鋳型1を示す斜視図である。鋳型1は、造形砂およびバインダで形成されており、中空構造を有している。造形砂は、3Dプリンタ(付加製造装置)により鋳型の造形に用いられる砂である。バインダは、造形砂の粒子同士を結合して硬化されている。なお、造形砂をレーザーで焼結する場合には、バインダがなくてもよい。
【0028】
本発明の鋳型1は、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材を鋳造できる。
図1に示す鋳型1は、本体部100と蓋部200とから構成されている。本体部100は、造形砂およびバインダで形成された壁部110により中空構造を実現している。中空構造は、壁部と中空部とで作られる構造を指し、中空部は、壁部に囲われた空間自体(壁部は含まない)を指す。
【0029】
壁部110には、溶湯の注入口120が設けられている。注入口120のサイズは、特に限定されず作製される鋳型1の形状に応じて適宜設定される。注入口120は、溶湯を注入しやすい位置に形成されていればよく、鋳造時に上端となる位置に形成されていることが好ましい。
【0030】
鋳型1の壁部110の厚さは、2mm以上12mm以下であることが好ましい。壁部110の厚さが12mm以下であることで十分な通気性を確保でき、コストを抑えられる。壁部110の厚さ2mmを下回ると、鋳型1を取り扱う際に破損のリスクが高くなるため、実用上の下限は2mmである。また、壁部110の厚さは5mm以上であることがさらに好ましい。壁部110の厚さが5mm以上であることで鋳型として破損リスクを低く抑え十分な強度を維持できる。
【0031】
また、壁部110は、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部111と、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部112と、を有する。
図1に示す鋳型1では、3つの羽根形成部112を有している。軸形成部111と羽根形成部112とは、互いが形成する中空構造が繋がっており、1つの中空構造を形成している。
【0032】
羽根形成部112には、主面のうち、上面となる主面に開口部130が設けられている。このとき、「上」は鋳造時の配置における鉛直上側のことを指し、「主面」は羽根形成部112が有する面のうち最も大きい面のことを指す。開口部130は、羽根形成部112の付け根側の所定の領域を除いた部分に形成されることが好ましい。開口部130が羽根形成部112の付け根にまで形成されると、蓋部200を閉じたときの噛み合わせの誤差が鋳物に残るおそれが高くなる。スクリュー等の鋳物にとって羽根の付け根の精度は機能上重要であり、精度の狂いが残らないようにこの部分の鋳型は一体化している方が好ましい。
【0033】
このように、所定の領域とは、誤差なく形成すべき付け根の領域である。所定の領域を設けることで、鋳造時に開口部および蓋部の間に生じるバリを加工しやすくなる。特に、所定の領域を、羽根形成部の径方向の幅に対して1/4以上設けることにより、グラインダー等の器具によって面に沿ってバリ取りを行なうような公知のバリ加工がしやすくなる。
【0034】
また、開口部130は、羽根形成部のすべての領域における砂残りが確認できるように形成されることが好ましい。そのため、開口部130は、羽根形成部112のうち、外周から径方向全体に対する半分以上の領域において形成されることが好ましい。これにより、羽根形成部112の内部を視認しやすくなり、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことが容易となる。そのため、羽根形成部112において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【0035】
羽根形成部112に形成された開口部130は、鋳造時に蓋部200によって覆われる。
図2は、開口部130を覆うように蓋部200が設置された状態を示す図である。蓋部200は、開口部130を覆うように形成されればよいが、
図2のように開口部130の形状に合わせて形成されることが好ましい。言い換えると、鋳造時に壁部110により形成される中空構造が、鋳物と同じ形状となるように、蓋部200が形成されることが好ましい。これにより、バリの発生を抑えることができ、鋳造後に鋳物を加工する手間が削減される。
【0036】
また、蓋部200は、本体部100に対して蓋部200の位置を固定する位置決め構造を有していることが好ましい。蓋部200は、蓋本体部205および爪部210を有している。蓋本体部205は、開口部130を閉じる平板上の部分であり、鋳造時には羽根の主面を形成する。蓋部200は、蓋本体部205だけで構成されてもよいが、爪部210を備えていることが好ましい。爪部210は、位置決め構造として機能し、内側が羽根形成部112の外側面と接する。蓋部200が爪部210を有しているから、本体部100に対する蓋部200の位置を固定できる。また、蓋部200を適切な位置に固定することで、バリの発生を抑制できる。
【0037】
図1、2では、1つの蓋部200に対して3つの爪部210が設けられているが、1つの蓋部200に対して設けられる爪部210の数や位置は特に限定されない。また、
図1、2において爪部210は、羽根形成部112の外側面の一部と接しているが、羽根形成部112の外側面のすべてと接するように形成されてもよい。
【0038】
上記では、羽根形成部112の数が3つの場合について説明したが、羽根形成部112の数は3つに限られず、鋳型1により製造する鋳物に合わせて定められる。また、複数の羽根形成部112が同じ形状でなくてもよく、異なる形状であってもよい。また、複数の羽根形成部112が等間隔で設けられなくてもよく、羽根形成部112間の間隔が異なってもよい。
【0039】
また、開口部130は、羽根形成部112における一方の主面に設けられていればよく、下面に設けられてもよい。しかし、蓋部200が固定しやすいことから、羽根形成部112の上面に設けられることが好ましい。
【0040】
[鋳型の製造方法]
(工程全体)
上記のように構成される鋳型1の製造方法を説明する。鋳型1は、積層型3Dプリンタ(付加製造装置)を用いて製造される。3Dプリンタとして市販のバインダージェットタイプのものを使用できる。
【0041】
3Dプリンタに入力する鋳型1のデータは、中空構造が鋳物の形状となるように壁部110により閉塞されている構造とするのではなく、注入口120や開口部130を形成することで一部が開放されている構造に設計されている。注入口120は溶湯の注入口となり、開口部130は未硬化の造形砂の排出口となる。
【0042】
このように3Dプリンタにより、一定厚さに砂を敷き均し、造形体となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる一連の工程を繰り返すことで造形体を形成する。これにより、複雑な形状の鋳型であっても多分割することなく寸法精度を高く維持できる。なお、造形材料の詳細については後述する。
【0043】
造形が終わると、形成された積層体内では硬化した造形体(例えば鋳型1)が未硬化の砂に埋没した状態となっている。積層体から未硬化の砂を取り除くことで、造形体が取り出される。造形体が中空の場合、周囲の未硬化の砂を取り除いても中空部には未硬化の砂が存在する。注入口120から未硬化の砂をある程度排出することは可能だが、特に中心軸とは異なる方向に突出して形成された羽根形成部112における未硬化の砂を、注入口120から取り除くことは困難である。これに対し、羽根形成部112の一方の主面に開口部を設けることで、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができる。そのため、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制し、鋳型の寸法精度を向上させる。
【0044】
(造形材料)
造形砂には、積層型3Dプリンタ用の専用砂が用いられる。専用砂として市販されているものを適宜選択して使用できる。市販の専用砂には、例えば3Dプリンタの純正材料やTCaST(登録商標、太平洋セメント社製)が挙げられる。専用砂は、例えば、鋳造する金属の溶湯温度に応じて、耐熱性を勘案して選択することができる。さらには、市販の専用砂を改良して造形砂として用いてもよい。造形砂の平均粒径は、60μm以上150μm以下が好ましく、100μm程度がさらに好ましい。
【0045】
バインダは、縮合や重合により硬化するフェノール樹脂やフラン樹脂などの有機物であってもよいが、有機物の種類によっては高温での使用が制限されることもある。そのため、高温での使用をする場合や、鋳込み時に有機物が気化することによる臭気等の環境への影響、発生したガスを起因とする鋳物の欠陥を防止しようとする場合には、バインダは、カルシウムアルミネート、セメント、石膏、石灰などの無機質水硬性物質を主成分とすることが好ましい。
【0046】
[鋳造方法]
(工程全体)
上記の鋳型1を用いた鋳造方法を説明する。
【0047】
鋳造時には、まず、開口部130を蓋部200によって封止する。このとき、蓋部200の位置を固定するために、接着剤や粘着テープなどの固定部材を用いてもよい。固定部材は、鋳型の組成を変えないために金属を含まない部材である必要があり、例えば、有機物から構成される。粘着テープは、例えば、マスキングテープやガムテープである。固定部材は鋳造時に炭化してしまうが、後述するように鋳型1の外表面が鋳物砂によって覆われるため、炭化しても問題ない。
【0048】
次に、開口部130が蓋部200によって覆われた鋳型1を、鋳枠の内部に設置する。鋳枠は、筒体もしくは上部開口した箱型であり、鋳物砂を充填した際に鋳型1の外表面を覆うことが可能であれば、形状や大きさは特に限定されない。鋳枠の材料についても特に限定されないが、一般的な鋳枠として用いられる木枠や金枠であればよい。
【0049】
鋳枠の内部に鋳型1を設置した後に、鋳枠の内面と鋳型1の外表面との間に鋳物砂を充填し、鋳型1を固定する。このとき、鋳型1の外表面のうち、注入口120以外の部分が鋳物砂によって覆われるように、鋳枠の内部に鋳物砂が充填されることが好ましい。
【0050】
鋳造時、鋳型1は、中空構造に注がれる溶湯によって内部から圧力を受ける。鋳枠の内部に鋳型1を設置し、鋳枠の内部に鋳物砂を充填する目的には、開口部130から溶湯が漏れてしまうことの防止もあるが、溶湯の圧力による鋳型1の変形や破損の抑止もある。鋳型1が変形や破損してしまうと、所定の寸法の鋳物が得られなくなるおそれがある。
【0051】
鋳型1の準備ができたら、鋳型1に溶湯を注入し、溶湯が冷却した後に、鋳型1で生成された鋳物を取り出す。その際には、鋳型1は型ばらしする。製造された鋳物は、鋳物の中心軸に沿って設けられた軸部と、中心軸とは異なる方向に伸びる羽根部とを有する。
【0052】
(鋳物砂)
鋳物砂は、一般的に使われる鋳物砂から選択することができる。鋳物砂として、例えば、珪砂、ジルコンサンド、クロマイトサンド、オリビンサンド、アルミナサンド、人工砂(セラミック系)、およびこれらを混合した砂を用いることができる。鋳物砂に使用する砂は特に限定されず、鋳造する金属に応じた耐熱性の観点で選ぶことができる。
【0053】
また、鋳物砂には、粘結材を含ませてもよい。これにより、鋳物砂の強度を向上することができ、溶湯の圧力による変形や破損を抑止できる。鋳物砂に粘結材を含めない場合には、鋳枠に充填された鋳物砂の上に重りを設置することで強度を向上させてもよく、これにより溶湯の圧力による変形や破損を抑止できる。
【0054】
[第2実施形態]
上記の鋳型1では、蓋部200が爪部210を備えているが、
図3に示すように、開口部130と蓋部200とが係止するように、側面にインローを位置決め構造として形成してもよい。インローとは、凹凸になった状態の部品同士が噛み合う構造をいう。
図3の12A側が鉛直上側であり、12B側が鉛直下側であるとき、開口部130には鉛直下側に出っ張った段が形成され、蓋部200には鉛直上側に出っ張った段が形成され、開口部130に蓋部200を嵌め込む際に、互いの段が噛み合う。太い矢印の方向に蓋部200を移動させても、開口部130により係止され、蓋部200が本体部100の中空部に入ることを防止する。
【0055】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の本体部は、羽根形成部が1つであり、螺旋状に連続する羽根部912を形成する中空を有する点で第1実施形態のものと異なり、その他の点では同様の構成を有する。
【0056】
図4は、本体部300と蓋部400とを示す斜視図である。
図4に示すように、本体部300は、壁部310として、軸形成部311と羽根形成部312とを有する。羽根形成部312は、1つの本体部300に対して1つ設けられており、螺旋状に連続する羽根部912を形成する中空を有する。
【0057】
羽根形成部312には、例えば点線で囲む領域に開口部330が設けられる。羽根形成部312において未硬化の砂が残存することを抑えるためには、羽根形成部312のすべての領域における砂残りを確認できるように、複数の開口部330が設けられることが好ましい。これにより、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができ、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。なお、鋳型3においても、鋳型1と同様に、鋳造時にそれぞれの開口部330を蓋部400によって覆う。
【0058】
鋳型3は、鋳造によって
図6に示す鋳物900を生成する。
図6に示す鋳物900は、中心軸に沿って設けられた軸部911と、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部912を有する。螺旋状に連続する羽根部912を形成する中空を有する羽根形成部312は、中心軸上の位置に応じて、羽根部912のピッチPや中心軸から外縁までの距離が変化するように形成されてもよい。
【0059】
[第4実施形態]
上記の鋳型3の本体部300では、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部311を有するが、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部311を有さなくてもよい。例えば、
図5に示す本体部700では、壁部710が、中空の羽根形成部712のみを形成している。羽根形成部712は、軸部の無い螺旋状に連続する羽根部のみの鋳物の鋳造に用いられる。
【0060】
軸形成部311がない鋳型3であっても、中心軸側の所定の領域を除いた部分に形成されることが好ましい。所定の領域を設けることで、鋳造時に開口部および蓋部の間に生じるバリを加工しやすい。
【0061】
[各実施形態の総括]
以上のことから、本発明に係る鋳型は、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができる。これにより、羽根形成部において未硬化の砂が残存することを抑制する。
【0062】
[実施例]
上記の方法に沿って、鋳型を作製し、鋳造を行なった。3Dプリンタとして、CJP660(3DSYSTEMS社製)を使用した。造形砂として、TCaST(太平洋セメント株式会社製、平均粒径は100μm)を使用した。
【0063】
実施例として、
図1、2に示す形状の鋳型を作製した。造形条件は、表1の通りである。作製された鋳型は、肉厚(壁部および蓋部の厚さ)が5mmであった。開口部は、羽根形成部のすべての領域における砂残りが確認できるように形成された。また、比較例として、開口部および開口部に対応する蓋部を形成せずに一体型鋳型としたことを除いて実施例と同様である鋳型を作製した。
【表1】
【0064】
まず、鋳型に残存する未硬化の砂の除去を行ない、除去にかかった時間、視認性、砂残りについて評価を行なった。評価結果を表2に示す。砂の除去にかかった時間は、比較例を基準として、比較例と同程度の時間の場合には〇、比較例よりも時間が短かった場合には◎として評価した。視認性として、羽根形成部における未硬化の砂を視認できる場合には◎、視認できない場合には△として評価した。砂残りとしては、未硬化の砂の除去を終えた鋳型の重量を測定し、鋳型の重量が設計から想定される重量と同程度の場合には◎、想定される重量よりも重い場合には砂残りがあるとして△と評価した。
【表2】
【0065】
次に、鋳造および型ばらしを行ない、問題なく行なえた場合には○と評価した。そして、実施例および比較例の鋳型から生成された鋳物において、精度、鋳肌、バリについて評価した。評価結果を表3に示す。鋳物の精度については、設計通りの場合には◎、軽微な不備がある場合には○と評価した。鋳肌については、鋳肌の荒れがない場合には○と評価した。バリについては、バリが生じなかった場合を◎、バリが生じたが容易に加工可能な場合を○と評価した。
【表3】
【0066】
比較例の鋳型では、開口部がないことから、羽根形成部における砂残りの確認ができず、未硬化の砂が残存してしまった。また、未硬化の砂が残存したことにより、鋳型から生成された鋳物の精度に軽微な不備が見受けられた。一方で、一体型鋳型であることから、バリが生じなかった。
【0067】
これに対して、実施例の鋳型では、羽根形成部に開口部が設けられているため、羽根形成部において砂残りを確認しながら未硬化の砂を取り除くことができる。これにより、比較例と比べて鋳物の精度が向上した。また、開口部と蓋部との間にバリが生じてしまったが、羽根形成部の付け根を避けて開口部を設けているため、容易に加工できた。
【0068】
中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材では、鋳型の寸法精度が向上することで、鋳型により作製される鋳物自体の性能向上を図ることができる。そのため、比較例よりも、生成された鋳物の精度が高い実施例の方が好ましい。
【符号の説明】
【0069】
1、3 鋳型
100、300、700 本体部
110、310、710 壁部
111、311 軸形成部
112、312、712 羽根形成部
120、320、720 注入口
130、330、730 開口部
200、400 蓋部
205 蓋本体部
210 爪部
900 鋳物
911 軸部
912 羽根部
P ピッチ