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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】イボシデニブ及びその中間体の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/14 20060101AFI20250305BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C07D401/14
C07D401/12
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2022507572
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 US2020045368
(87)【国際公開番号】W WO2021026436
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】62/884,480
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500287019
【氏名又は名称】レ ラボラトワール セルヴィエ
【氏名又は名称原語表記】Les Laboratoires Servier
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】サイズモア,ジェイコブ・ポール
(72)【発明者】
【氏名】チャン,シージエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォー,ニャ・ヒュウ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/104318(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0190249(US,A1)
【文献】ACS MEDICINAL CHEMISTRY LETTERS,2018年,Vol.9, No.4,pp.300-305,DOI: 10.1021/acsmedchemlett.7b00421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物I:
【化10】

を調製する方法であって、
化合物IIa:
【化11】

のエタノール溶媒和物の結晶を単離すること、及び
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を、化合物I又はその溶媒和物に変換すること
を含む方法。
【請求項2】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を単離することが、式II:
【化12】

の化合物の混合物から、化合物IIaを結晶化することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を変換することが、化合物IIaを2-ハロ-4-シアノピリジンと反応させて、化合物Iを与えることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記化合物IIaを結晶化することが、式IIの化合物のジアステレオマー混合物をエタノール溶媒系中に懸濁又は溶解すること、塩基を加えること、0℃~25℃の間で前記混合物を撹拌すること、及び少なくとも一つの非極性溶媒を加えることを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記塩基が、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(「TBD」)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(「DBN」)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、モルホリン、N-メチル-ピペラジン、ピリジン、ブチルアミン、ジブチルアミン、及び1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノナ-5-エン、又はそれらの混合物からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記式IIの化合物の混合物が、2-クロロベンズアルデヒドをメタノ-ル中で5-フルオロピリジン-3-アミンと反応させ、次いで、得られた生成物を(S)-5-オキソピロリジン-2-カルボン酸及び1,1-ジフルオロ-3-イソシアナトシクロブタンと反応させて、式IIの化合物の混合物を与えることにより製造される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を2-ブロモイソニコチノニトリルと反応させて、化合物Iを与えることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を2-ブロモイソニコチン酸エチルと反応させて、中間体S9:
【化13】

を与えることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
NHの存在下で、前記中間体S9を還元して、アミドS10
【化14】

を提供することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ピリジンの存在下で、S10をトリフルオロ酢酸無水物(TFAA)と混合して、化合物Iを与えることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記エタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち一つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記エタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち3つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、少なくとも90%のジアステレオマー過剰率及び少なくとも80%の化学的純度を有する、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、約90%から約99%の間のジアステレオマー純度を有する、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、約80%から約99%の間の化学的純度を有する、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
化合物IIa:
【化15】

のエタノール溶媒和物の結晶を調製する方法であって、
化合物IIa及び化合物IIb及び塩基の混合物を、エタノール溶媒系に懸濁又は溶解すること、少なくとも1つの非極性溶媒を加えること、並びに前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶を単離することを含む方法。
【請求項17】
前記塩基が、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(「TBD」)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(「DBN」)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、モルホリン、N-メチル-ピペラジン、ピリジン、ブチルアミン、ジブチルアミン、及び1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノナ-5-エン、又はそれらの混合物からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、少なくとも90%のジアステレオマー過剰率及び少なくとも80%の化学的純度を有する、請求項16又は17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、約90%から約99%の間のジアステレオマー純度を有する、請求項16~18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、図1に実質的に示される粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項16~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち1つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項16~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち3つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項16~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、約80%から約99%の間の化学的純度を有する、請求項16~22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
化合物IIa:
【化16】

のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項25】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、実質的に図1に示される粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項26】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち1つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項27】
前記化合物IIaのエタノール溶媒和物の結晶が、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち3つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられる、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項28】
約90%から約99%の間のジアステレオマー純度を有する、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項29】
少なくとも約99%のジアステレオマー純度を有する、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項30】
少なくとも90%のジアステレオマー過剰率及び少なくとも80%の化学的純度を有する、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【請求項31】
約80%から約99%の間の化学的純度を有する、請求項24記載のエタノール溶媒和物の結晶
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月8日に出願された米国仮特許出願第62/884,480号(その開示は、参照により本明細書に組み込まれる)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)は、イソクエン酸の2-オキソグルタル酸(すなわち、α-ケトグルタル酸)への酸化的脱炭酸を触媒する。これらの酵素は、2つの異なるサブクラスに属し、電子受容体として一方はNAD(+)を利用し、他方はNADP(+)を利用する。5種類のイソクエン酸デヒドロゲナーゼが報告されている:ミトコンドリアマトリックスに局在する3種類のNAD(+)依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、及び2種類のNADP(+)依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(その一方はミトコンドリア性、他方は主に細胞質性)である。各NADP(+)依存性アイソザイムは、ホモ二量体である。
【0003】
IDH1(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(NADP+)、細胞質性)は、IDH;IDP;IDCD;IDPC又はPICDとしても知られている。この遺伝子によりコードされるタンパク質は、細胞質及びペルオキシソームに見いだされるNADP(+)依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼである。それは、PTS-1ペルオキシソーム局在化シグナル配列を含む。ペルオキシソームにおけるこの酵素の存在は、ペルオキシソーム内での還元(2,4-ジエノイル-CoAの3-エノイル-CoAへの変換等の)のためのNADPHの再生、並びに2-オキソグルタル酸を消費するペルオキシソーム反応、すなわちフィタン酸のα-ヒドロキシル化における役割を示唆する。前記細胞質性酵素は、細胞質のNADPH産生において重要な役割を果たす。
【0004】
ヒトIDH1遺伝子は、414アミノ酸のタンパク質をコードする。ヒトIDH1のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、それぞれGenBankエントリー番号NM_005896.2及びNP_005887.2として見出すことができる。IDH1のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、例えば、Nekrutenko et al., Mol. Biol. Evol. 15:1674-1684(1998); Geisbrecht et al., J. Biol. Chem. 274:30527-30533(1999); Wiemann et al., Genome Res. 11:422-435(2001); The MGC Project Team, Genome Res. 14:2121-2127(2004); Lubec et al., Submitted (DEC-2008) to UniProtKB; Kullmann et al., Submitted (JUN-1996) to the EMBL/GenBank/DDBJ databases;及びSjoeblom et al., Science 314:268-274(2006)にも記載されている。
【0005】
特定のがん細胞中に存在するIDH1の突然変異が、α-ケトグルタル酸のR(-)-2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)へのNADPH依存性還元を触媒する、酵素の新たな能力をもたらすことが発見された。2HGの産生は、がんの形成及び進行に寄与すると考えられている(Dang, L et al., Nature 2009, 462:739-44)。
【0006】
IDH2(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(NADP+)、ミトコンドリア性)は、IDH;IDP;IDHM;IDPM;ICD-M;又はmNADP-IDHとしても知られている。この遺伝子によりコードされたタンパク質は、ミトコンドリアに見いだされるNADP(+)依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼである。それは、中間代謝及びエネルギ-生産における役割を果たす。このタンパク質は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体と強く会合するか、又は相互作用している可能性がある。ヒトIDH2遺伝子は、452アミノ酸のタンパク質をコードする。IDH2のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、それぞれGenBankエントリー番号NM_002168.2及びNP_002159.2として見出すことができる。ヒトIDH2のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、例えば、Huh et al., Submitted (NOV 1992) to the EMBL/GenBank/DDBJ databases;及びThe MGC Project Team, Genome Res. 14:2121-2127(2004)にも記載されている。
【0007】
非突然変異体、例えば野生型のIDH2は、イソクエン酸のα-ケトグルタル酸(α-KG)への酸化的脱炭酸を触媒する。
【0008】
特定のがん細胞中に存在するIDH2の突然変異が、α-ケトグルタル酸のR(-)-2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)へのNADPH依存性還元を触媒する、酵素の新たな能力をもたらすことが発見された。2HGは、野生型IDH2によっては形成されない。2HGの産生は、がんの形成及び進行に寄与すると考えられている(Dang, L et al, Nature 2009, 462:739-44)。
【0009】
IDH1又はIDH2における突然変異は、びまん性低悪性度神経膠腫(LGG)腫瘍の70%以上で発生する。IDH突然変異は、2-HGの蓄積をもたらし、これはDNAの過剰メチル化、増加した抑制性ヒストンメチル化、及び分化過程の阻害を通じて、腫瘍形成を促進すると考えられている。突然変異体IDH1(mIDH1)は阻害するが、突然変異体IDH2(mIDH2)は阻害しないことが示されている、AGI-5198として知られるツ-ル化合物を用いて実施された研究は、いくつかのモデル系において、mIDH1タンパク質の阻害がmIDH1誘導性神経膠腫の増殖を抑制することができることを実証した(D. Rohle et al. Science 340:626-630 (2013))。
【0010】
米国特許第9,474,779B2号及び米国特許第9,968,595B2号(これらの全体は参照により本明細書に組み込まれる)は、化学名(S)-N-((S)-1-(2-クロロフェニル)-2-(3,3-ジフルオロシクロブチルアミノ)-2-オキソエチル)-1-(4-シアノピリジン-2-イル)-N-(5-フルオロピリジン-3-イル)-5-オキソピロリジン-2-カルボキサミドで記載される化合物を開示しており、この化合物が、生化学的及び細胞アッセイにおいて突然変異IDH1タンパク質の阻害剤として作用することが示されている。命名規則に応じて、この化合物はまた、(2S)-N-{(1S)-1-(2-クロロフェニル)-2-[(3,3-ジフルオロシクロブチル)アミノ]-2-オキソエチル}-1-(4-シアノピリジン-2-イル)-N-(5-フルオロピリジン-3-イル)-5-オキソピロリジン-2-カルボキサミドとも呼ばれ得る。さらに、2015年に、前記化合物には次のINN:イボシデニブ(ivosidenib)が割り当てられた。イボシデニブの構造は、化合物I:
【化1】

として本明細書に記載される。
【0011】
急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄増殖性腫瘍(MPN)、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)若しくはリンパ腫(例えばT細胞リンパ腫)などの血液悪性腫瘍、又は神経膠腫、胆管がん、軟骨肉腫、前立腺がん、結腸がん、メラノ-マ若しくは非小細胞肺がん(NSCLC)などの固形腫瘍(それぞれ、IDH1の変異対立遺伝子の存在により特徴づけられるもの)を有する患者を処置するために使用される化合物Iを調製するための効率的かつ大規模な製造方法のニーズが存在する。いくつかの実施態様では、血液悪性腫瘍は、再発性又は難治性であり;他の実施態様では、血液悪性腫瘍は、新たに診断されたものであるか、又は、患者は集中的導入化学療法(intensive induction chemotherapy)に不適応である。いくつかの実施態様では、血液悪性腫瘍は、再発性又は難治性の急性骨髄性白血病(AML)である。他の実施態様では、血液悪性腫瘍は、新たに診断された急性骨髄性白血病(AML)である。他の実施態様では、固形腫瘍は、胆管がんである。さらに他の実施態様では、胆管がんは、肝内胆管がん、肝門周囲胆管がん及び遠位胆管がんから選択される。さらに別の実施態様では、患者は軟骨肉腫を有する。他の実施態様では、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍は進行したものである。
【0012】
発明の概要
1つの態様では、本出願は、化合物Iを調製する方法であって、
化合物IIa:
【化2】

の結晶性エタノール溶媒和物を単離すること、及び
前記化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物を、化合物I又はその溶媒和物に変換することを含む方法に関する。いくつかの態様では、前記化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物は、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋である。前記化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な結晶性エタノール溶媒和物は、「化合物IIaのA形エタノール溶媒和物」とも呼ばれる。いくつかの実施態様では、化合物Iは酢酸イソプロピル溶媒和物として得られ、これは他の溶媒和物、また非溶媒和物又は無水固体形態に変換することができる。
【0013】
別の態様では、本出願は、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物を調製する方法であって、化合物IIa及びIIbの混合物を、塩基及びエタノール溶媒系の溶液に懸濁又は溶解すること、非極性溶媒を加えること、及び前記化合物IIaのA形エタノール溶媒和物を単離することを含む方法に関する。本明細書で使用される場合、用語「懸濁すること」は、懸濁した物質が少なくとも部分的に溶解されるように、物質を溶媒又は溶媒の混合物と接触させることを意味する。
【0014】
別の態様では、本出願は、化合物IIaそれ自体の結晶性A形エタノール溶媒和物に関する。いくつかの実施態様では、A形エタノール溶媒和物は、化学的に実質的に純粋である。他の実施態様では、A形エタノール溶媒和物は、ジアステレオマー的に実質的に純粋である。他の実施態様では、A形エタノール溶媒和物は、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】化合物IIaのA形エタノール溶媒和物の粉末X線回折図(XRPD)である。
図2】化合物IIaのA形エタノール溶媒和物の示差走査熱量測定(DCS)及び熱重量分析(TGA)プロファイルを含む。
【0016】
図面及び様々な実施態様の詳細な説明
1つの態様では、本出願は、式II:
【化3】

の化合物の混合物を立体化学的に富化して、化合物IIa:
【化4】

のエタノール溶媒和物を、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な結晶性物質として与える方法に関する。本明細書で使用される場合、用語「化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な」化合物IIaは、少なくとも約90%のジアステレオマー過剰率及び少なくとも約80%の化学的純度を有する化合物IIaのエタノール溶媒和物を指す。いくつかの実施態様では、化合物IIaの実質的にジアステレオマー的に純粋な結晶性エタノール溶媒和物は、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%(又は90%と100%の間の任意のパーセンテージ)のジアステレオマー過剰率を有する。本明細書で使用される場合、化学的純度に関連して、用語「約」は±0.5%を意味する。本明細書で使用される場合、ジアステレオマー過剰率に関連して、用語「約」はまた、±0.5%を意味する。本明細書中で使用される場合、ジアステレオマー過剰率(又はde%)は、以下の式:
【数1】

(式中、Xa及びXbは、ジアステレオマーIIa及びIIbのモル分率であり、化合物IIbは、以下:
【化5】

の構造を有する)
を用いて計算される。
【0017】
他の実施態様では、前記化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物は、前記化合物IIaの重量(非溶媒和又は無水ベ-スで)に基づいて、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%(又は約90%~約100%の間の任意のパーセンテージ)の化学的純度を有する。化学的純度に関連して、残りの重量パーセントは一般に、例えば反応不純物、出発物質、試薬、副生物、及び/又は他の処理不純物(調製及び/又は単離及び/又は精製工程で生じるもの)などの他の物質を含むことを理解されたい。例えば、前記化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物は、当該技術分野で公知の標準的かつ一般的に受け入れられている方法により測定して、約80重量%より高い化学的純度を有すると決定された場合、化学的に実質的に純粋であるとみなし得る。ここで、残りの約20%重量未満は、他の反応不純物、出発物質、試薬、副生物、及び/又は処理不純物などの他の物質を構成する。化学的純度は、当技術分野で公知の方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、核磁気共鳴(NMR)分光法、又は赤外分光法により測定され得る。当業者であれば、これらの方法、及び化学的純度を決定又は評価するためにこれらの追加の(又は代替の)方法をいかに用いるかを容易に理解するであろう。
【0018】
より具体的には、本出願は、式IIの化合物の混合物を立体化学的に富化して、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物を、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のジアステレオマー過剰率を有する単離された結晶性物質として与える方法に関する。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「式IIの化合物を含む混合物」及び「式IIの化合物の混合物」は、化合物IIa及びIIbの混合物(IIa及びIIbは、1:99~99:1の間の比率で存在する)を包含することが意図される。いくつかの実施態様では、式IIの化合物の混合物は、ラセミ混合物であり得る。式IIの化合物の混合物の他の実施態様では、化合物IIbは、前記混合物の50%超を占めていてもよい。式IIの化合物の混合物のさらなる実施態様では、化合物IIaは、混合物の50%超、混合物の100%未満を占めていてもよい。
【0020】
式IIの化合物の混合物から、化合物IIaのエタノール溶媒和物を選択的に結晶化して、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な、化合物IIaのエタノール溶媒和物を与えることができることが見いだされた。選択的結晶化は、ジアステレオマーの過剰を伴う化合物IIaのエタノール溶媒和物を単離することを可能にする。本明細書で使用される場合、用語「与える」、「単離すること」、「単離された」、及び「単離」は、反応混合物から化合物I、若しくはその溶媒和物、又は化合物IIaのエタノール溶媒和物を得て、物理的に分離することを指す。本明細書で使用される場合、用語「約」は、±0.5%を意味する。化合物I、若しくはその溶媒和物、又は化合物IIaのエタノール溶媒和物を含む、本明細書に記載の化合物のいずれかの単離は、固体物質を液体から分離するための当業者に公知の任意の方法を用いて達成され得る。化合物I若しくは化合物Iの溶媒和物又は化合物IIaのエタノール溶媒和物を単離するのに適した分離技術の例としては、濾過が挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「溶媒和物」は、結晶格子構造に組み込まれた溶媒の1つ以上の分子をさらに含む、分子、原子、及び/又はイオンの結晶形態を指す。前記溶媒和物中の溶媒分子は、規則的な配列及び/又は非規則的な配列で存在し得る。前記溶媒和物は、化学量論的な量又は非化学量論的な量のどちらかの溶媒分子を含み得る。例えば、非化学量論的な量の溶媒分子を有する溶媒和物は、溶媒和物からの溶媒の部分的な損失から生じてもよく、又は結晶化プロセスから直接生じてもよい。あるいは、溶媒和物は、2分子以上を含む二量体又はオリゴマ-として生じてもよく、又は結晶格子構造内に生じてもよい。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「非溶媒和物」、「溶媒和されない」、又は「無水」は、結晶格子構造中に組み込まれた溶媒の1つ以上の分子を有さない結晶形態を指す
【0023】
化合物IIa及びIIbは、化合物IIa及びIIbのクロロフェニルで置換された炭素の、立体化学的配座のエピマー化及び相互変換を受けやすいC-H基を含有する。化合物IIaが結晶化混合物の溶液相から枯渇すると(化合物IIaの選択的結晶化のため)、エピマー化反応が化合物IIbを化合物IIaに変換する(その逆もまた正しい)。エピマー化反応は、第二のキラル中心から遠位にある関係(第二のキラル中心からの潜在的な小さな影響又は立体因子を除く)から、立体選択的である可能性は低いので、IIa/IIbのほぼ50/50の混合物が溶液相中に維持される可能性が高い。同時に、幾つかの場合、化合物IIaは化合物IIbより溶解性が低く、従って溶液から優先的に沈殿することが見出されており、そのため固相は、化合物IIaにより富化される(本明細書で立体化学的富化と呼ばれる現象)。よって、エピマー化反応を選択的結晶化と組み合わせることにより、結果として生じる本明細書に記載の「動的結晶化」プロセスが、ジアステレオマーの出発混合物(化合物IIaとIIb)を化合物IIa(次いで単離される)で立体化学的に富化し、従って、ジアステレオマーの出発混合物中の化合物IIaの量に基づく理論的に可能な量よりも高い、化合物IIaの生産量をもたらすことが発見された。例えば、式IIの化合物の混合物10グラムが、化合物IIa及びIIbをそれぞれ約5グラム含む場合、上記の動的結晶化プロセスは、潜在的には5グラムを超える量の化合物IIaの単離を可能にする。
【0024】
いくつかの態様では、化合物IIaは、塩基の存在下でエタノール溶媒系から結晶化され、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なエタノール溶媒和物を与える。本明細書で使用される場合、用語「エタノール溶媒系」は、体積で少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%のエタノールを含む任意の溶媒混合物である。いくつかの実施態様では、前記エタノール溶媒系は、100%のエタノールを含む。いくつかの実施態様では、前記エタノール溶媒系は、少なくとも30%(容量)のエタノールを含まない限り、トルエン、トリフルオロエタノール(TFE)、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸メチル又はMTBE、又は任意のそれらの混合物を含まない。
【0025】
特定の実施態様では、前記塩基は、第一級、第二級又は第三級アミンである。適切な塩基としては、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(「TBD」)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(「DBN」)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、モルホリン、N-メチル-ピペラジン、ピリジン、ブチルアミン、ジブチルアミン、又は1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノナ-5-エン、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0026】
前記動的結晶化プロセスは、-5~25℃、-5~20℃、0~25℃、5~20℃、10~18℃、12~18℃、12~17℃、12~16℃、又は12~15℃の温度で行い得る。
【0027】
特定の実施態様では、前記動的結晶化プロセスは、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、少なくとも0.05当量、少なくとも0.10当量、少なくとも0.15当量、少なくとも0.20当量、又は少なくとも0.25当量の塩基の存在下で実施される。他の実施態様では、前記動的結晶化プロセスは、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.04当量、約0.07当量、約0.10当量、約0.13当量、約0.16当量、約0.19当量、約0.22当量、又は約0.25当量の塩基の存在下で実施される。本明細書で使用される場合、用語「化合物IIa及びIIbの当量」は、式IIの化合物の混合物中に存在する前記2つの化合物の全当量を指す。他の実施態様では、前記動的結晶化は、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.05~約0.10当量、約0.10~約0.15当量、又は約0.15~約0.20当量の塩基の存在下で実施される。塩基の当量に関連して使用される場合、用語「約」は、±0.02当量を意味する。本出願の動的結晶化プロセスのいくつかの実施態様では、使用される塩基の量は触媒的な量である。本明細書で使用される場合、用語「触媒的な」及び「触媒的な量」は、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.04当量から約0.25当量の間の量を指す。いくつかの実施態様では、前記塩基の触媒量は、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.04当量~約0.07当量、約0.04当量~約0.10当量、約0.04当量~約0.13当量、約0.04当量~約0.16当量、約0.04当量~約0.19当量、又は約0.04当量~約0.22当量の塩基である。他の実施態様では、塩基の触媒量は、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、最大約0.04当量、最大約0.07当量、最大約0.10当量、最大約0.13当量、最大約0.16当量、最大約0.19当量、最大約0.22当量、又は最大約0.25当量の塩基である。
【0028】
本出願の動的結晶化プロセスを用いて化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なエタノール溶媒和物を調製及び単離するための最適条件は、一般に、結晶化温度、溶媒、塩基、及び塩基の量に依存する。例えば、上述の温度範囲の上限では、より低い温度の場合よりも、分解プロセスがより多くなる(becomes more prevalent)。塩基の濃度が高くても、生成物の分解が増加する可能性がある。さらに、式IIの化合物がペプチド結合を含むことを考えると、塩基の求核性もまた、化合物の分解に寄与し得る。しかしながら、高温、高濃度の塩基、及び/又は求核性塩基を用いた場合でも、前記動的結晶化プロセスは、単離したエタノール溶媒和物化合物のさらなる精製を余儀なくさせるいくらかの分解物を伴うものの、なおも立体化学的に富化された化合物IIaを生成し得る。
【0029】
別の態様では、本出願は、塩基の存在下、エタノール溶媒系から、式IIの化合物の混合物から化合物IIaを結晶化することを含む、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物(すなわち、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物)を調製する方法に関する。より具体的には、本出願は、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物を調製する方法であって、式IIの化合物を含む混合物を、エタノール溶媒系に懸濁又は溶解すること、塩基を加えること、得られた懸濁液又は溶液を、25℃未満の温度で少なくとも8時間撹拌すること、その後、非極性非プロトン性溶媒(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、又はメチルシクロヘキサン又はヘプタン)、又は非極性非プロトン性溶媒の混合物を滴下し、次いで濾過を介してエタノール溶媒和物を固体として分離することを含む方法に関する。いくつかの実施態様では、エタノール溶媒系中の、塩基と、式IIの化合物を含む混合物の溶液又は懸濁液を、-5~25℃、-5~20℃、0~25℃、5~20℃、10~18℃、12~18℃、12~17℃、12~16℃、又は12~15℃の温度で、最長12時間、最長14時間、最長16時間、最長18時間、又は最長20時間撹拌し、その後、非極性非プロトン性溶媒又は非極性非プロトン性溶媒の混合物を前記懸濁液又は溶液に加える。いくつかの実施態様では、前記非極性非プロトン性溶媒は、四塩化炭素、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルム、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、ジオキサン、若しくはトルエン、又はこれらのうちの任意の2つ以上の混合物から選択され得る。いくつかの実施態様では、前記非極性非プロトン性溶媒は、ペンタン、シクロペンタン、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、若しくはメチルシクロヘキサン、又はこれらのうちの任意の2つ以上の混合物から選択され得る。いくつかの実施態様では、前記非極性非プロトン性溶媒又は溶媒の混合物を、約1分から約24時間かけて前記懸濁液又は溶液に滴下する。いくつかの実施態様では、前記非極性非プロトン性溶媒又は溶媒の混合物を、約1分から約24時間かけて、前記懸濁液又は溶液に一度に、又は二回以上に分けて加える。
【0030】
化合物IIaを化合物IIbに(又はその逆でもよい)エピマー化することができるいずれの塩基も適切であり得る。塩基の選択が、式IIの化合物の分解(これは望ましくない)に寄与する場合もあるが、前記動的結晶化プロセスは、完全に分解を回避する必要はない。代わりに、化合物の分解の程度を、単離される立体化学的に富化された化合物IIaの収率と比較検討すべきである。
【0031】
エピマー化反応に適した塩基としては、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(「TBD」)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(「DBN」)、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、モルホリン、N-メチル-ピペラジン、ピリジン、ブチルアミン、ジブチルアミン、又は1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノナ-5-エン、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0032】
特定の実施態様では、前記動的結晶化プロセスは、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、少なくとも0.05当量、少なくとも0.10当量、少なくとも0.15当量、少なくとも0.20当量、又は少なくとも0.25当量の塩基の存在下で実施される。他の実施態様では、前記動的結晶化は、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.04当量、約0.07当量、約0.10当量、約0.13当量、約0.16当量、約0.19当量、約0.22当量、又は約0.25当量の塩基の存在下で実施される。他の実施態様では、前記動的結晶化プロセスは、化合物IIa及びIIbの1当量当たり、約0.05~約0.10当量、約0.10~約0.15当量、又は約0.15~約0.20当量の塩基の存在下で実施される。本願の動的結晶化プロセスのいくつかの実施態様では、使用される塩基の量は触媒的である。
【0033】
いくつかの実施態様では、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、式IIの化合物の混合物をエタノール溶媒系に加えること、塩基を加えること、及び混合物を-5~25℃、-5~20℃、0~25℃、5~20℃、10~18℃、12~18℃、12~17℃、12~16℃、又は12~15℃で、最大12時間、14時間、16時間、18時間、又は20時間攪拌した後、n-ヘプタンなどの非極性溶媒又は非極性溶媒の混合物を滴下すること、次いで単離することにより調製され得る。
【0034】
化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、以下の特性のうちの1つ以上により同定され得る:少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のジアステレオマー過剰率、及び実質的に図1に示す粉末X線回折パターン(XRPDパターンは、X線管Cu線源(Cu X-ray tube source)を備えた粉末回折計を用いて測定した)。図1の実験的XRPDパターンにおいて同定された、回折ピークの2θ±0.2°の角度及びd-間隔を表1に列挙する。ジアステレオマー過剰率に関連して本明細書で使用される場合、用語「約」は±2.5%を意味する。
【0035】
【表1】
【0036】
いくつかの実施態様では、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、以下の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち一つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられ得る。いくつかの実施態様では、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、以下の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つを含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられ得る。いくつかの実施態様では、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、次の2θ:7.2°±0.2°、8.6°±0.2°、12.2°±0.2°、13.1°±0.2°、14.4°±0.2°、16.7°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、21.8°±0.2°及び25.2°±0.2°にあるピークのうち3つ以上を含む粉末X線回折(XRPD)パターンにより特徴づけられ得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、定義された図における用語「実質的に示す粉末X線回折(XRPD)パターン」は、比較を目的として、図に示された最も強いピークの少なくとも50%が存在することを意味する。さらに、比較を目的として、2θピーク位置における示されたものからのいくらかの変動(例えば、±0.2°)が許容され、この変動が各ピーク位置に適用されることを理解されたい。
【0038】
化合物IIaの結晶性A形エタノール溶媒和物はまた、示差走査熱量測定(「DSC」)及び熱重量分析(「TGA」)により特徴づけられ得る。1つの実施態様では、化合物IIaの結晶性A形エタノール溶媒和物は、120.6℃(ピーク温度)、136.4℃(ピーク温度)及び203.4℃(開始温度)における三つの吸熱を含むDSCサ-モグラムを示す。化合物IIaのA形エタノール溶媒和物はまた、TGAにより決定される、150℃以下で最大10重量%の重量損失により特徴づけられ得る。いくつかの実施態様では、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物は、少なくとも8.0重量%の重量損失により特徴づけられる。
【0039】
図2は、化合物IIaのA形エタノール溶媒和物のDSC及びTGAサ-モグラムを示す。
【0040】
別の態様では、本出願は、化合物Iを調製する方法であって、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶エタノール溶媒和物を得ること、及びそれを化合物Iに変換することを含む方法に関する。
【0041】
いくつかの態様では、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶性エタノール溶媒和物を得ることは、上記の動的結晶化プロセスを用いて、エタノール溶媒系から化合物IIaを立体化学的に富化し、選択的に結晶化することを含む。式IIの化合物の任意の混合物は、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIaのA形結晶エタノール溶媒和物を得るための出発点であり得る。いくつかの実施態様では、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIbは、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な結晶エタノール溶媒和物を得るための出発点であり得る。
【0042】
式IIの化合物の混合物は、当業者に公知の任意の方法に従って調製され得る。式IIの化合物の混合物を調製するための出発物質は、当業者に公知であるか、又は国際公開公報第2013107291号、国際公開公報第2007076034号、国際公開公報第2006067445号、国際公開公報第2006067445号、Atkinson, J. G. et al., J. Amer. Chem. Soc. 90:498 (1968)、Berkessel. A. et al., Angew Chemie, Int Ed. 53:11660 (2014);Angew. Chem. Int. Ed. Sun, X. et al., 52:4440 (2013)、Topolovcan, N. et al., Eur. J. Org. Chem. 2868 (2015)、及びPavlik, J. W. et al., J Heterocyclic Chem. 42:73(2005)(いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法により例示されるような、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0043】
例えば、式IIの化合物の混合物は、スキ-ム1:
【化6】

に従って調製され得る。
【0044】
スキ-ム1において、式IIの化合物の混合物は、ベンズアルデヒドS1をメタノ-ル中で第一級アミンS2と反応させ、次いで得られた生成物をオキソピロリジン-2-カルボン酸S3及びイソシアナトシクロブタンS4と反応させて、式IIの化合物を与えることにより合成され得る。
【0045】
式IIの化合物の混合物は、スキ-ム2に示されるプロセスによる、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIaのA形結晶エタノール溶媒和物を得るための本出願の動的結晶化プロセスを受けてもよい。
【化7】
【0046】
動的結晶化によって、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶エタノール溶媒和物が単離され得、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のジアステレオマー過剰率が得られる。
【0047】
化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶エタノール溶媒和物は、当業者に公知の任意の方法に従って化合物Iに変換され得る。例えば、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶エタノール溶媒和物は、スキ-ム3に従って化合物Iに変換され得る。スキ-ム3においては、化合物IIaとブロモイソニコチノニトリルとのバックワルド反応が、化合物Iを与える。
【化8】
【0048】
あるいは、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋なA形結晶エタノール溶媒和物は、スキ-ム4に従って化合物Iに変換され得る。スキ-ム4においては、化合物IIaを2-ブロモイソニコチン酸エチルと反応させて中間体S9を与えることにより、化合物Iが合成される。NHの存在下における中間体S9の還元が、アミドS10を提供する。次に、アミドS10を、ピリジン及び適切な溶媒の存在下で、トリフルオロ酢酸無水物(TFAA)と反応させて、化合物Iを得る。適切な溶媒には、THFが挙げられる。
【化9】
【0049】
実験の部
以下の実施例は、例示の目的で本明細書に提供され、請求項のいずれかに対する限定を構成することはない。
略語:
TBD:1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン。
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン。
DBN:1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン。
EtOAc:酢酸エチル。
IPAc:酢酸イソプロピル。
EtOH:エタノール。
I-PrOH:イソプロピルアルコール。
n-BuOH:n-ブタノール。
t-BuOH:t-ブタノール。
DCM:ジクロロメタン。
THF:テトラヒドロフラン。
2-MeTHF:2-メチルテトラヒドロフラン。
DMF:ジメチルホルムアミド。
DMSO:ジメチルスルホキシド。
RT(又はrt):室温。
【0050】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー面積パーセント」を表す「LCAP」は、ピークの総面積に対する、関心対象の化合物のピーク面積のパーセンテージを意味する。
HPLC実験は、Phenomenex Cellulos-4、250×4.6mm、5μmカラム及びDAD検出器を備えたAgilent 1100を用い、かつ移動相としてヘキサン/エタノールを用いて行った。
HNMR:H溶液NMRは、DMSO-d6を使用して、Bruker400MHzのNMR分光計にて収集した。
DSC熱分析は、TA Q2000 DSC(TA Instruments製)を用いて実施した。圧着したアルミニウムパンを用いて試料を調製し、パージガスとしてNを用いて、10℃/分の加熱速度で室温から所望の温度まで試験した。
TGA熱分析は、TA Q5000 TGA(同じくTA Instruments製)を用いて行った。圧着したアルミニウムパンを用いて試料を調製し、パージガスとしてNを用いて、60秒の変調、10℃/分の加熱速度で、室温から所望の温度まで試験した。
粉末X線回折の試料に、CuKα1(1.540598Å)及びCuKα2(1.544426Å)の放射線を、Kα1/Kα2比0.50で照射し、2θが3~40°のXRPDデ-タを収集した。
【0051】
化合物IIa及びIIbを含む混合物の動的結晶化
エタノール(300mL)中の式IIの化合物(100g、HPLCでAが89%、185.0mmol)の53:47混合物を、15℃で、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(2.0g、14.4mmol)と合わせ、次いで、14~17℃で20時間撹拌した。n-ヘプタン(300mL)を反応混合物に滴下した。さらに14~17℃で1時間撹拌した後、固体を濾過により収集した。濾過ケ-キを25℃未満でエタノール/n-ヘプタン(200mL、1v/1v)で洗浄し、真空下、50℃で乾燥して、化合物IIa(58.5g、A純度99.4%、収率65%)を、白色固体のエタノール溶媒和物として与え、化合物IIaのIIbに対する比率 >99.9:0.1であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.0-8.9 (bm, 2 H), 8.41 (d, J = 2.6 Hz, 1H), 8.02 (bs, 1H), 7.75 (s, 1H), 7.41 (dd, J = 8.1, 1.3 Hz, 1H), 7.21 (td, J = 7.7, 1.7 Hz, 1H), 7.11 (td, J = 7.6, 1.3 Hz, 1H), 6.89 (dd, J = 7.7, 1.6 Hz, 1H), 6.38 (bs, 1H), 4.14 (p, J = 6.5 Hz, 1H), 4.00 (bs, 1H), 3.05 to 2.84 (m, 2 H), 2.7 to 2.3 (m, 2H), 2.10 (ddd, J = 16.8, 9.5, 7.6 Hz, 1H), 2.03 to 1.92 (m, 1H), 1.90 to 1.70 (m, 2H)
エタノールのδ (4.34, t, J = 5.1 Hz, 1 H), 3.43 (dq, J = 6.9, 4.9 Hz, 2H), 1.04 (t, J = 7.0 Hz, 3H)
化合物IIaのLC MS: ESI(+) 測定値:[M+H]+481
【0052】
スキ-ム2による化合物Iの合成
1つの実施態様では、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物を、化合物Iに変換する。このような変換は、化合物IIa(0.20mmol)、2-ブロモイソニコチノニトリル(0.30mmol)、CsCO(129mg、0.39mmol)、Pd(dba)(18mg、0.02mmol)及びキサントホス(Xant-Phos)(9.4mg、0.02mmol)を、1,4-ジオキサン(10mL)中、N下、80℃で一晩撹拌することを含む。濾過後、濾液を真空中で濃縮し、残留物を標準的な方法で精製して、化合物Iを与える。
【0053】
スキ-ム3による化合物Iの合成
あるいは、スキ-ム3により、化合物IIa及び2-ブロモイソニコチン酸エチル(化合物S8)を溶媒中で合わせて、バックワルド反応を経て、化合物S9を与える。化合物S9のエチルエステルを還元して、アミドS10を形成することができ、これはさらに、化合物Iのニトリル官能基を導入する縮合反応を起こし得る。
【0054】
具体的には、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な結晶性エタノール溶媒和物(0.20mmol)、2-ブロモイソニコチン酸(0.30mmol)、CsCO(129mg、0.39mmol)、Pd(dba)(18mg、0.02mmol)及びキサントホス(9.4mg、0.02mmol)の混合物を、1,4-ジオキサン(10mL)中、N下、80℃で一晩攪拌する。濾過後、濾液を真空中で濃縮し、残留物を標準的な方法で精製して、化合物S9を与える。化合物S9(0.3mmol)、NH(0.4~1mmol)、及びMeOHの混合物を、封管中、60℃で一晩撹拌する。濾過後、濾液を真空中で濃縮し、残留物を標準的な方法で精製して、化合物S10を与える。化合物S10(0.3mmol)、ピリジン、及びTFAAの混合物を、THF中、0℃で一晩撹拌する。反応混合物を真空中で濃縮し、残留物を標準的な方法で精製して、化合物Iを与える。
【0055】
エピマー化の化学
動的結晶化のための最適条件は、一般に、化合物の最小限の分解を伴う迅速なエピマー化反応を含む。エピマー化を受けやすい化合物について、最小限の分解を伴う迅速なエピマー化を達成するための最適条件は、一般に、反応温度、塩基、塩基の濃度及び溶媒に依存する。多くの実験を行って、本出願の動的結晶化プロセスが、化合物Iを調製するための大規模な製造法の効率を改善することを示した。
【0056】
化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIaを、95%エタノール中、室温でTBD(0.1当量)と合わせた場合、化合物IIaのIIbに対する比率は、2時間後に87.5%/12.5%であることが分かった(エントリー1)。HPLCスペクトログラムにおける追加のピークが示すように、いくらかの分解も観察された。24時間後、この比率は依然として87.1%/12.9%であった。これは室温で触媒量のTBDを用いたエピマー化反応が非常に速い(不完全ではあるが)ことを示した。
【0057】
前記エピマー化反応は、エタノール中、DBN(0.1当量)で行うと、室温で2時間後に化合物IIbがわずか2.8%しか観察されず、より遅いことが分かった(エントリー2)。しかし24時間後では、IIaのIIbに対する比率は86.3%/13.7%であった。分解ピークもHPLCにより観察された。
【0058】
EtOAc/n-ヘプタン(1/1)の混合物中で、化合物IIaをTBD(0.1当量)と合わせた場合、室温で4時間後に、わずか4.2%のIIbしか観察されず、IIbの量は24時間後にも増加しなかった(エントリー3)。
【0059】
しかし、EtOAc/n-ヘプタン(3/1)の混合物中で、化合物IIaをTBDと合わせた場合、室温で4時間後に、IIaのIIbに対する比率は、85.1%/14.9%であり(エントリー4)、その比率は24時間後もあまり変化しなかった。観察された分解生成物は(上記のエタノール反応と比較して)より少なかった。
【0060】
別の実験、エントリー5では、20gの化合物IIaを、EtOAc(200mL、10V)中、40℃で5時間、TBD(0.1当量)と合わせた。IIaのIIbに対する比率は、63.0%/37.0%であり、分解は認められなかった。次いで、反応混合物を室温に冷却し、HCl水溶液、次いでブラインで洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮乾固して、20gのIIa/IIbの混合物を白色の固体として与え、その比率が63.6%/36.4%であることが観察された。この材料をさらなるエピマー化研究に用いた。
【0061】
【表2】
【0062】
化合物IIa及びIIbをそれぞれ15/85の比率で含む(かつLCAPが83.7%である)混合物を、様々な溶媒中でエピマー化した。EtOAc又はIPAc中、0.1当量のTBD、DBU又はDBNの存在下では(エントリー6~10)、IIa/IIb比率は約1/1に増加したが、24時間後でもそれ以上の増加は無かった。有意な量の分解が観察され、化学的純度は、(83.7%から)42~68%に低下した。表2中のエントリー6~10を参照のこと。
【0063】
IPAc中、TBDを用いると、前記エピマー化は、DBU及びDBNと比較して速く、IIa/IIb比率は約2時間で約1/1に増加した(エントリー8)。そこで、TBDをさらなる研究のための塩基として選択した。
【0064】
0.1当量のTBDを含むEtOAc/エタノール(3/1V/V)の混合物では、IIa/IIb比率は、10℃にて、数時間で約1/1に増加した(エントリー11)。20時間後、この比率はそれ以上増加しなかった。しかし、溶媒としてのEtOAc又はIPAcと比較すると、EtOAc/エタノール(3/1V/V)の混合物中での分解は、10℃で一晩後にも有意に増加しなかった(全体を通してLCAPが約74%のままであった)。
【0065】
エントリー12の条件を用いて、エピマー化を20gまでスケ-ルアップした。10℃にて、3時間後、反応混合物(IIa/IIbは約49/51)を濾過して、キラル純度99.8%及びLCAP純度98.2%のIIa 4gを得た(エントリー12)。
【0066】
IIa及びIIbの混合物(IIa/IIb比率は約49/51)を、エタノール中、0.1当量のTBDと共に、15℃で26時間撹拌した場合、固体中のIIa/IIb比率は約75/25であり、LCAPは依然として約77%であった(エントリー13)。
【0067】
【表3】
【0068】
エタノール中でのエピマー化のための温度の最適化(開始時のIIa/IIb比率は15/85)
エタノール中でのエピマー化反応のために、反応温度をさらに最適化した。0.1当量のTBDを用いた場合、エタノール中、-5℃及び5℃では、エピマー化は過度に緩慢であった。IIa/IIbの比率は、約24時間後でも、15/85から約50/50への増加であった(エントリー14~16)。20gの実験から、わずか5.5gの固体しか得られなかった。
【0069】
10℃及び12℃では、IIa/IIbの比率は24時間後にそれぞれ70/30及び68/32に増加した(エントリー17及び18)。15℃(エントリー19及び20)では、反応混合物中でIIa/IIbの比率が15/85から24時間後に82/18となるのが観察された。濾過及び乾燥後、20gの実験から9.5gの固体を得た。キラル純度は99.9%であり、LCAPは98.4%であった。20℃では、24時間後、化合物IIa/化合物IIbの比率は90/10に増加したものの、反応混合物についてLCAP純度約55%と、分解がより激しかった(エントリー21)。これらの実験は、0.1当量のTBDを含むエタノール中でのエピマー化反応では、約15℃が適切な温度であり、かつこれらの条件下では、二番晶(2nd crop)について、化合物IIaの化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な結晶性エタノール溶媒和物を約32%の収率で得ることができることを示した。
【0070】
【表4】
【0071】
エピマー化反応のための異なる溶媒のスクリ-ニング:
IIaの一番晶(1st crop)の母液から得た粗IIa/IIb混合物をエピマー化するために、様々な溶媒をスクリ-ニングした。粗混合物(LCAP:83%、キラルIIa/IIb:17%/83%)を、TBD(0.1当量)の存在下、15℃にて、これらの溶媒中で24時間撹拌した。エタノールを用いると、90%/10%の高いIIa/IIb比率が、反応混合物について達成された(エントリー22)。しかし、IIaの分解は激しく、HPLCにより測定した反応混合物の純度は、約37%にすぎなかった。EtOAc溶媒中では、わずかな分解(HPLCによる78%純度)しか観察されず、IIa/IIb比率は53%/47%(エントリー23)であった。溶媒としてIPAを用いると、同様の結果、すなわち、78%のHPLCによる純度及び49%/51%のIIa/IIbの比率(エントリー24)が得られた。
【0072】
【表5】
【0073】
動的結晶化(すなわち、結晶化及びエピマー化)のための溶媒としてのi-PrOH
化学分解を最小にしてエピマー化反応を最適化する目的で、化学的及びジアステレオマー的に実質的に純粋な化合物IIa及びTBD(0.1当量)から出発して、15℃で2時間、様々な溶媒(エタノール、EtOAc、i-PrOH、n-PrOH、n-BuOH、t-BuOH、THF、2-MeTHF、CHCN及びアセトン)をスクリ-ニングした。次の表のデ-タは、様々な溶媒から収集したものである。i-PrOHは、2時間後に最小の化学分解を伴う良好なエピマー化をもたらし、このとき、化学的純度91.8%で、57%/42%のIIa/IIb比率が得られた(エントリー37参照)。
【表6】
【0074】
エピマー化のためのエタノール/n-ヘプタン中でのTBDの使用
エントリー45及び46において、化合物IIa及びIIbの混合物を、TBD(0.07又は0.10当量)の存在下でエタノールに溶解した。反応混合物を所定の時間撹拌し、n-ヘプタンを溶液に加えた後、固体を濾過した。化合物IIaの結晶性エタノール溶媒和物を、LCAP 99%以上かつキラル純度99%以上の固体として収集した。
【表7】
【0075】
多くの実施態様が本明細書に記載されたが、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲、ならびに例として本明細書に含まれていた特定の実施態様により定義されるべきである。本明細書を通して引用された全ての参考文献(参考文献、発行特許、公開特許出願、及び同時係属特許出願を含む)の内容は、参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、当業者に一般的に知られている意味を付与される。
図1
図2