(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】圧電音響部品
(51)【国際特許分類】
G10K 9/122 20060101AFI20250305BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
G10K9/122 101
G10K9/122 140
G10K9/122 150
H04R17/00
(21)【出願番号】P 2022510638
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012443
(87)【国際公開番号】W WO2021193788
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2020057095
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】株式会社デンソーエレクトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅英
(72)【発明者】
【氏名】砂原 忠男
(72)【発明者】
【氏名】松下 彰秀
(72)【発明者】
【氏名】濱田 紘司
【審査官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/186280(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/131825(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0182572(US,A1)
【文献】国際公開第2011/155334(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 9/12-9/22
H04R 17/00-17/10
H04R 7/00-7/26
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の振動板及び前記振動板の少なくとも片面上に設けられた圧電素子からなる圧電発音素子と、
前記圧電発音素子の前記振動板の外周部を全周に亘って固定し、前記圧電発音素子の両側に第1の空間と第2の空間を形成するように構成され、前記第1の空間と対向する壁部に1以上の放音孔が形成されて前記第1の空間の容積と前記1以上の放音孔により共振器を構成しているケースを備え、
前記振動板の前記外周部に形成される固定部の内側に位置する非固定部分は、互いに対向する一対の長辺と該長辺よりも長さが短く互いに対向する一対の短辺を備えており、
前記圧電素子が、前記振動板の前記非固定部分の中央領域上に設けられており、
前記圧電素子の輪郭形状が、前記一対の短辺を二分する第1の仮想線に対して対称となり且つ前記第1の仮想線と直交し且つ前記圧電素子の中心を通る第2の仮想線に対して対称となるように定められており、
入力信号として矩形波信号または正弦波信号を入力したときの1次共振周波数と、3次共振周波数と前記1次共振周波数と前記3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、それぞれ80dB以上になるように前記共振器の構成と非固定部分の形状が定められており、
前記非固定部分の前記一対の長辺には、前記圧電素子の外周部に沿い且つ前記第2の仮想線に沿って前記第1の仮想線から離れる方向に凸となる第1及び第2の凸部が形成されており、且つ、
前記非固定部分の前記一対の長辺には、前記第1及び第2の凸部に隣接し、前記圧電素子の前記中心を通り前記第2の仮想線との間に鋭角を成すように延びる第3の仮想線上に位置して80dB以上の周波数範囲を調整するように前記第1の仮想線に向かって凸となる第1及び第2の凹部が形成されていることを特徴とする圧電音響部品。
【請求項2】
前記非固定部分の前記一対の長辺の一方には、前記一対の凸部に隣接し、前記第2の仮想線に対して前記第3の仮想線と線対称になる第4の仮想線が通る位置に前記第1の仮想線に向かって凸となる第3の凹部が更に形成されている請求項1に記載の圧電音響部品。
【請求項3】
前記非固定部分の前記一対の長辺には、前記一対の凸部に隣接し、前記第2の仮想線に対して前記第3の仮想線と線対称になる第4の仮想線が通る位置に前記第1の仮想線に向かって凸となる第3の凹部及び第4の凹部が更に形成されている請求項1に記載の圧電音響部品。
【請求項4】
前記第1の凹部と前記第3の凹部との間の距離と前記第2の凹
部と第4の凹
部との間の距離が等しく、
前記距離が10mm~13mmである請求項3に記載の圧電音響部品。
【請求項5】
前記振動板の前記非固定部分の前記長辺の長さL0と前記短辺の長さW0の比L0/W0が、2.1~2.4の範囲に入るように定められている請求項1に記載の圧電音響部品。
【請求項6】
前記圧電素子の前記中心から前記第1の仮想線に沿って測った前記一対の短辺の一方までの距離L21と前記圧電素子の中心から前記第1の仮想線に沿って測った前記一対の短辺の他方までの距離L22との比L1/L2が、10:10~12:8の範囲にある請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電音響部品。
【請求項7】
前記圧電素子の前記輪郭形状が、円形、楕円形または多角形である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧電音響部品。
【請求項8】
前記ケースは、前記振動板の前記非固定部分の輪郭形状と同一形をなす開口部を備えて、前記振動板の外周部を固定する発音素子ホルダを備えている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の圧電音響部品。
【請求項9】
前記振動板の裏面に前記圧電素子が設けられている請求項1に記載の圧電音響部品。
【請求項10】
前記振動板の非固定部分は、厚みが10μm~150μmの鉄にニッケルを配合した合金製板からなり、
前記圧電素子は厚みが30μm~100μmのPZTセラミックが中間電極を介して積層された積層部が複数積層された積層体と該積層体の両側に配置された一対の外側電極とを備えた構造を有しており、
前記圧電素子を前記振動板に接着する接着剤のショアD硬度が75~85であり且つ厚みが1μm~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の圧電音響部品。
【請求項11】
前記一対の外側電極のうち、少なくとも前記振動板に接着されないほうの前記外側電極には、前記第1の仮想線上に位置し且つ前記外側電極の中心に向かって凸となる一対の凹部を備えている請求項10に記載の圧電音響部品。
【請求項12】
前記凹部の形状は、1次共振周波数に対応して発生する応力が、3次共振周波数に対応して発生する応力に近い値になる形状を有している請求項11に記載の圧電音響部品。
【請求項13】
前記一対の外側電極のうち前記振動板に接着されないほうの前記外側電極の上には、リード線半田付け部形成用の貫通孔を備えた半田レジスト層が形成されており、
前記貫通孔の位置と大きさは、前記半田レジスト層の存在によって下がった前記1次共振周波数の音圧の低下を抑えて、しかも前記1次共振周波数における応力の上昇を抑えるように定められていることを特徴とする請求項10に記載の圧電音響部品。
【請求項14】
前記圧電素子の直径Rが13mm乃至15mmで且つ前記貫通孔の直径
rが1.5mm乃至3mmの範囲の値の場合において、前記圧電素子の中心と前記貫通孔の外周縁との間の距離をXとすると、r=1.5mmのときのXは2.3mm以上であり、r=3mmのときのXは3mm以上である請求項13に記載の圧電音響部品。
【請求項15】
前記半田レジスト層は、防湿性と絶縁性を有するレジンコートによって形成されている請求項13に記載の圧電音響部品。
【請求項16】
前記半田レジスト層の厚みは、前記1次共振周波数及び前記3次共振周波数の共振ピークのQ値を低減するように定められている請求項15に記載の圧電音響部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電発音素子が放音孔を備えたケース内に収納され、複数音階分の周波数範囲において所定以上の音圧を得ることができる圧電音響部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる非固定部が矩形状の金属製の振動板を用いた圧電音響部品は、円形や楕円形等の振動板を用いた圧電音響部品よりも、実装した場合に発生する使用できないスペース(デッドスペース)が少ないので、圧電音響部品が使用される製品では、一定の需要が見込まれる。しかしながら矩形の金属製の振動板を用いた場合には、所定の周波数範囲においてある程度大きな音圧を得ることが難しい。そこでこの問題を解消するために特許第6516935号(特許文献1)に示される圧電音響部品が提案された。この従来の圧電音響部品では、金属製の振動板及び振動板の少なくとも片面上に設けられた圧電素子からなる圧電発音素子と、圧電発音素子の振動板の外周部を全周に亘って固定し、圧電発音素子の両側に第1の空間と第2の空間を形成するように構成され、第1の空間と対向する壁部に1以上の放音孔が形成されて第1の空間の容積と1以上の放音孔により共振器を構成しているケースとを備えてなる。そしてこの従来の圧電音響部品では、振動板の外周部の内側に位置する非固定部分が、互いに対向する一対の長辺と該長辺よりも長さが短く互いに対向する一対の短辺を備え、一対の長辺中に互いに近づく方向に凸となる一対の凹部を有している。また圧電素子は、振動板の非固定部の一対の凹部の間の領域上に設けられており、振動板及び圧電素子のそれぞれの輪郭形状が、一対の短辺を二分する第1の仮想線に対して対称となり且つ一対の長辺を二分する第2の仮想線に対して対称となるように定められている。さらに長辺の長さL1と短辺の長さW1の比L1/W1が、1.25~1.75の範囲に入るように定められている。そして入力信号として矩形波信号または正弦波信号を入力したときの1次共振周波数と、3次共振周波数と、1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、それぞれ80dB以上になるように共振器が構成されている。この従来の圧電音響部品によれば、複数音階分の周波数範囲にわたって80dB以上の音圧を得ることができ、矩形状の金属製の振動板を用いた圧電発音素子を用いて、騒音が大きな場所でも可聴できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
更に可聴性を高めるためには、1次共振周波数と中間共振周波数における音圧差、中間共振周波数と3次共振周波数における音圧差を小さくすることが望ましいこと、及び80dB以上の音圧を得ることができて周波数範囲をある程度任意に変更できることが好ましいことを発明者は見いだした。しかしながら従来の構造では、この要望に応えるのが難しい。
【0005】
本発明の目的は、1次共振周波数と中間共振周波数における音圧差、中間共振周波数と3次共振周波数における音圧差を小さくすることができ、しかも80dB以上の音圧を得ることができて周波数範囲をある程度任意に変更できる圧電音響部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が対象とする圧電音響部品は、金属製の振動板及び振動板の少なくとも片面上に設けられた圧電素子からなる圧電発音素子と、圧電発音素子の振動板の外周部を全周に亘って固定し、圧電発音素子の両側に第1の空間と第2の空間を形成するように構成され、第1の空間と対向する壁部に1以上の放音孔が形成されて第1の空間の容積と1以上の放音孔により共振器を構成しているケースを備えている。振動板の外周部に形成される固定部の内側に位置する非固定部分は、互いに対向する一対の長辺と該長辺よりも長さが短く互いに対向する一対の短辺を備えている。また圧電素子が、振動板の非固定部分の中央領域上に設けられている。さらに振動板及び圧電素子のそれぞれの輪郭形状が、一対の短辺を二分する第1の仮想線に対して対称となり且つ第1の仮想線と直交し且つ圧電素子の中心を通る第2の仮想線に対して対称となるように定められている。そして入力信号として矩形波信号を入力したときの1次共振周波数と、3次共振周波数と、1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、それぞれ80dB以上になるように共振器の構成と非固定部分の形状が定められている。特に、本発明の圧電音響部品では、非固定部分の一対の長辺には、圧電素子の外周部に沿い且つ第2の仮想線に沿って第1の仮想線から離れる方向に凸となる第1及び第2の凸部が形成されている。また非固定部分の一対の長辺には、第1及び第2の凸部に隣接し、圧電素子の中心を通り第2の仮想線との間に鋭角を成すように延びる第3の仮想線上に位置して80dB以上の周波数範囲を調整するように第1の仮想線に向かって凸となる第1及び第2の凹部が形成されている。
【0007】
このようにすると矩形波信号または正弦波信号を入力したときの1次共振周波数と、3次共振周波数と、1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、それぞれ80dB以上になるだけでなく、1次共振周波数と中間周波数の間の周波数領域の最小音圧を上げ、また中間周波数と3次共振周波数との間の周波数領域の最小音圧を上げて、1次共振主周波数から3次共振周波数の間の周波数領域全体の音圧差を小さくすることができる。なお1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、1次共振周波数の音圧及び3次共振周波数の音圧以上になるように、共振器が構成されていてもよい。
【0008】
特に、発明者は、種々の試験により、第1及び第2の凸部と第1及び第2の凹部の組み合わせにより、80dB以上の周波数範囲を調整できることを見いだした。本発明は、この知見も基礎とするものである。このような知見は、新規であり、且つ種々の試験によってのみ見いだすことができたものである。
【0009】
非固定部分の一対の長辺の一方には、一対の凸部に隣接し、第2の仮想線に対して第3の仮想線と線対称になる第4の仮想線が通る位置に第1の仮想線に向かって凸となる第3の凹部が更に形成されていてもよい。このようにすると80dB以上の周波数範囲を狭める方向に調整することができる。
【0010】
また非固定部分の一対の長辺には、一対の凸部に隣接し、第2の仮想線に対して第3の仮想線と線対称になる第4の仮想線が通る位置に第1の仮想線に向かって凸となる第3の凹部及び第4の凹部が更に形成されていてもよい。このようにすると80dB以上の周波数範囲を更に、狭める方向に調整することができる。
【0011】
第1の凹部と第3の凹部との間の距離と第2の凹部と第4の凹部との間の距離を等しくし、距離を10mm~13mmにするのが好ましい。この範囲で、距離を小さくすると、共振周波数が高くなり、音圧が高くなり、帯域幅が狭くなる傾向が現れ、距離W3を大きくすると、共振周波数が低くなり、音圧が低くなり、帯域幅が広くなる傾向が現れる。
【0012】
本発明では、振動板の非固定部分の長辺の長さL0と短辺の長さW0の比L0/W0が、2.1~2.4の範囲に入るように定められているのが好ましい。この範囲は、特許文献1の圧電音響部品における同じ寸法比を超えるものであり、この寸法比の範囲にすることが、より効果を高めることが確認されている。
【0013】
また圧電素子の中心から第1の仮想線に沿って一対の短辺の一方までの距離L21と圧電素子の中心から第1の仮想線に沿って一対の短辺の他方までの距離L22との比L21/L22が10:10~12:8の範囲にあれば、本発明の上記効果を得るための音圧を保持できる。
【0014】
圧電素子の前記輪郭形状は、対称形状であればよいが、特に円形、楕円形または多角形であっても良い。輪郭形状が円形に近いほど、80dB以上の周波数範囲を狭くすることができる。
【0015】
ケースは、振動板の前記非固定部分の輪郭形状と同一形をなす開口部を備えて、振動板の外周部を固定する発音素子ホルダを備えているのが好ましい。このような発音素子ホルダを用いると、振動板の非固定部分の輪郭形状は、開口部の形状によって決まることになる。その結果、振動板の形状としては、矩形を用いることができ、振動板の加工価格を低減できる。
【0016】
振動板の裏面に圧電素子が設けられていてもよい。このようにすると、圧電素子が破損したり、汚れることがない。
【0017】
振動板の非固定部分は、厚みが10μm~150μmの鉄にニッケルを配合した合金製板からなり、圧電素子は厚みが30μm~100μmのPZTセラミックが中間電極を介して積層された積層部が複数積層された積層体と該積層体の両側に配置された一対の外側電極とを備えた構造を有しており、圧電素子を振動板に接着する接着剤のショアD硬度が75~85であり且つ厚みが1μm~10μmであることが好ましい。
【0018】
一対の外側電極のうち、少なくとも振動板に接着されないほうの外側電極には、第1の仮想線上に位置し且つ外側電極の中心に向かって凸となる一対の凹部RCを備えていてもよい。このような凹部を設けると、1次共振周波数に対応して発生する応力を下げることができ、応力が局部的に大きくなることを抑制して、圧電素子の寿命を延ばすことができる。
【0019】
一対の凹部の形状は、1次共振周波数に対応して発生する応力が、3次共振周波数に対応して発生する応力に近い値になる形状を有している。このようにすると、1次共振周波数に対応して発生する応力と3次共振周波数に対応して発生する応力発生する応力の大きさのバラツキを小さくすることができ、さらに圧電素子の寿命の低下を抑制できる。
【0020】
一対の凹部の形状は、1次共振周波数に対応して発生する応力が、3次共振周波数に対応して発生する応力に近い値になる形状を有している。このようにすると、1次共振周波数に対応して発生する応力と3次共振周波数に対応して発生する応力発生する応力の大きさのバラツキを小さくすることができ、さらに圧電素子の寿命の低下を抑制できる。
一対の外側電極のうち振動板に接着されないほうの外側電極の上には、リード線半田付け部形成用の貫通孔を備えた半田レジスト層が形成されている場合には、貫通孔の位置と大きさは、半田レジスト層の存在によって下がった1次共振周波数の音圧の低下を抑えて、しかも1次共振周波数における応力の上昇を抑えるように定められているのが好ましい。このようにリード線半田付け部形成用の貫通孔の位置を定めると、半田付け部の存在によって発生する応力が、音響特性に与える影響を小さくすることができる。具体的には、圧電素子の直径Rが13mm乃至15mmで且つ貫通孔の直径rが1.5mm乃至3mmの範囲の値の場合において、圧電素子の中心と貫通孔の外周縁との間の距離をXとすると、r=1.5mmのときのXは2.3mm以上であり、r=3mmのときのXは3mm以上であるのがこのましい。
【0021】
また半田レジスト層が、防湿性と絶縁性を有するレジンコートによって形成されていれば、音響特性を長期にわたって維持することができる。この半田レジスト層の厚みを、1次共振周波数及び3次共振周波数の共振ピークのQ値を低減するように定めれば、半田レジスト層の存在によって音響特性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(A)は本実施の形態の圧電発音素子を備えた圧電音響部品の分解斜視図であり、(B)は
図1(A)の状態を下から見た分解斜視図である。
【
図2】(A)及び(B)は異なる圧電発音素子の平面図であり、(C)はアスペクト比(L0/W0)を変えた場合の周波数特性の変化を示す図である。
【
図3】
図2(A)及び(B)の圧電発音素子を用いた本実施の形態の圧電音響部品の周波数特性を示す図である。
【
図4】(A)は第1及び第2の凸部と第1及び第4の凹部並びに第3の凹部の組み合わせを有する圧電発音素子を示しており、(B)は第1及び第2の凸部と第1及び第4の凹部の組み合わせを有する他の圧電発音素子を示しており、(C)は
図4(A)及び(B)の音圧―周波数特性を示す図である。
【
図5】(A)は
図2(A)と同様に、凸部及び凹部がある圧電発音素子を示し、(B)は凸部及び凹部がない圧電発音素子を示し、(C)はこれら二つの圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示す図である。
【
図6】(A)乃至(C)は、圧電発音素子の非固定部分が4つの凹部を備えている場合で、幅方向に対向する二つの凹部間の寸法を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した3種類の圧電発音素子を示す図であり、(D)は、これら3種類の圧電発音素子の音圧―周波数特性を示す図である。
【
図7】(A)乃至(G)は、圧電発音素子の非固定部分が4つの凹部を備えている場合で、幅方向に対向する二つの凹部間の寸法を変えずに、非固定部分の長辺側の一対の凹部間の距離を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した7種類の圧電発音素子を示す図である。
【
図8】(A)は
図7(A)乃至(D)の圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示す図であり、(B)は
図7(E)乃至(G)の圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示す図である。
【
図9】(A)乃至(G)は、圧電発音素子の非固定部分が4つの凹部を備えている場合で、圧電素子の非固定部分の長手方向の位置を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した7種類の圧電発音素子を示す図である。
【
図10】
図9(A)乃至(G)の圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示す図である。
【
図11】(A)乃至(E)は、圧電素子の輪郭形状を円形にした場合と正多角形に変えた場合に音圧-周波数特性がどのように変化するかを確認するために用意した圧電発音素子を示す図である。
【
図12】
図11(A)乃至(E)の圧電発音素子を用いた場合の、音圧―周波数特性を示す図である。
【
図13】(A)乃至(C)は、圧電素子の輪郭形状を円形にした場合と楕円したに音圧-周波数特性がどのように変化するかを確認するために用意した圧電発音素子を示す図である。
【
図14】
図13(A)乃至(C)の圧電発音素子を用いた場合の、音圧―周波数特性を示す図である。
【
図15】(A)乃至(D)は、圧電素子の一対の外側電極のうち、少なくとも振動板に接着されないほうの外側電極に、第1の仮想線PL1上に位置し且つ外側電極の中心に向かって凸となる円弧状の一対の凹部を設けた場合の、音圧-周波数特性の影響を確認するために用意した圧電発音素子を示す図であり、(a)乃至(d)は、
図15(A)乃至(D)の対応する圧電発音素子の音圧-周波数特性と相当応力を示す図である。
【
図16】(A)は圧電素子にリード線を半田付けした構造を示す平面図であり、(B)はこの構造の分解斜視図である。
【
図17】(A)は好ましい半田付け条件における音圧と周波数の関係(周波数特性)を示しており、(B)は音響特性に悪影響を与える条件における音圧と周波数の関係(周波数特性)を示している。
【
図18】(A)は半田付け部を形成せずに音響信号を加えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図であり、(B)乃至(D)は貫通孔の位置を大きさを変えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図である。
【
図19】(A)は半田レジスト層を形成した場合と形成しなかった場合の音圧と周波数の関係(f-dB特性)を示しており、(B)は半田レジスト層を形成した場合と形成しなかった場合のインピーダンスと周波数の関係(インピーダンスカーブ)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の圧電音響部品の実施の形態について説明する。
【0024】
図1(A)は、本実施の形態の圧電発音素子を備えた圧電音響部品1の分解斜視図を示しており、
図1(B)は
図1(A)のB-B線分解斜視図である。
図2は、圧電発音素子の平面図である。なお、本実施の形態では、理解を容易にするため、一部の部品の厚み寸法を誇張して描いている。
図1(A)及び(B)に示す圧電音響部品1は、例えば自動車外のように雑音が多い環境の中で複数音階の音でアラームを発生するような用途に使用する圧電音響部品である。なお
図1においては、後述する振動板12の輪郭の四隅にはアールを付けてあるが、
図2以降の振動板12の輪郭は四隅が直角になった矩形状を有している。
【0025】
圧電音響部品1は、下側ケース半部3と上側ケース半部5との間に開口部7を有する発音素子ホルダ9を備えたケースを備えている。下側ケース半部3は、ポリプロピレン等の絶縁樹脂によって一体に成形されており、長方形状の底壁部31と底壁部31の周縁部から起立する周壁部32とを備えている。下側ケース半部3は長方形状の底壁部31と底壁部31の周縁部から起立する周壁部32とを備えている。上側ケース半部5は、ポリプロピレン等の絶縁樹脂によって一体に成形されており、長方形状の上壁部51と上壁部51の周縁部から起立する周壁部52とを備えている。上側ケース半部5は長方形状の上壁部51と上壁部51の周縁部から立ち下がる周壁部52とを備えている。上壁部51には、四隅近傍に4つの放音孔4が形成されている。
【0026】
発音素子ホルダ9は、低熱膨張で硬質の絶縁樹脂、例えばポリブチレンテフタレートにガラスが添加された等の絶縁樹脂により一体に成形されている。開口部7の周囲には、振動板12の上に圧電素子15が設けられた圧電発音素子11の振動板12が接着剤を用いて固定される。開口部7は、後に詳しく説明する圧電発音素子の振動板12の非固定部分13の輪郭形状と同一形状を呈している。本実施の形態の圧電音響部品1では、振動板12の非固定部分13は、互いに対向する一対の長辺13Aa及び13Abとこの長辺よりも長さが短く互いに対向する一対の短辺13Ba及び13Bbを備え、振動板12の非固定部分13の輪郭形状は、一対の短辺13Ba及び13Bbを二分する第1の仮想線PL1に対して対称となり且つ一対の長辺13Aa及び13Abを二分する第2の仮想線PL2に対して対称となる形状を有している。
【0027】
本実施の形態では、圧電素子15として、一対の外側電極を備えたPZTセラミックからなる圧電素子を用いている。一対の外部電極のうち少なくとも振動板に接着されないほうの外側電極16は、銀電極によって形成されている。外側電極16の形状は、圧電素子15の形状と相似形である。本実施の形態では、圧電素子15及び外側電極16の輪郭形状は円形である。本実施の形態では、
図1(B)に示すように振動板12の裏面に圧電素子15が配置されているため、
図1(A)では、圧電素子15の円形の輪郭15´を破線で示してある。圧電素子15は、振動板12の中央領域上に設けられており、振動板12の非固定部分13及び圧電素子15のそれぞれの輪郭形状が、一対の短辺13Ba及び13Bbを二分する第1の仮想線PL1に対して対称となり且つ一対の長辺13Aa及び13Abを二分する第2の仮想線PL2に対して対称となるように定められている。
【0028】
本実施の形態の圧電音響部品1では、
図1(A)に示すように、非固定部分13の一対の長辺13Aaおよび13Abには、円形の圧電素子15の輪郭15´の外周部に沿い且つ第2の仮想線PL2に沿って第1の仮想線PL1から離れる方向に凸となる第1及び第2の凸部14A及び14Bが形成されている。また非固定部分13の一対の長辺13Aa及び13Abには、第1及び第2の凸部14A、14Bに隣接し、圧電素子15の中心を通り第2の仮想線PL2との間に鋭角を成すように延びる第3の仮想線PL3上に位置して第1の仮想線PL1に向かって凸となる第1及び第2の凹部14Ca及び14Cdが形成されている。さらに非固定部分13の一対の長辺13Aa及び13Bbには、第1及び第2の凸部14A、14Bに隣接し、圧電素子15の中心を通り第2の仮想線PL2との間に鋭角を成すように延び且つ第2の仮想線に対して第3の仮想線PL3と線対称になる第4の仮想線PL4上に位置して第1の仮想線PL1に向かって凸となる第3及び第4の凹部14Cc及び14Cbが形成されている。
【0029】
なお下側ケース半部3と発音素子ホルダ9と上側ケース半部5は、周壁部32と周壁部52との間に発音素子ホルダ9を挟んだ状態で相互に超音波溶着により気密に接合されてケースが完成している。これによって圧電発音素子11が発音素子ホルダ9に固定された状態で、ケースの内部には圧電発音素子の両側に第1の空間S1と第2の空間S2が形成される。放音孔4は、第1の空間S1と連通している。第1の空間S1が共振器の空気室を構成している。
【0030】
発明者は、後述するように、第1及び第2の凸部14A及び14Bと第1乃至第4の凹部14Ca~14Cdの組み合わせにより、80dB以上の周波数範囲を調整できることを見いだした。本発明は、この知見を基礎とするものである。上記実施の形態では、第1及び第2の凸部14A及び14Bと第1乃至第4の凹部14Ca乃至14Cdの全ての組み合わせにより、80dB以上の周波数範囲を調整している。しかしながら基本の組み合わせは、第1及び第2の凸部14A及び14Bと第1及び第4の凹部14Ca及び14Cbまたは第2及び第3の凹部14Cd及び14Ccの組み合わせである。そして別の組み合わせとしては、第1及び第2の凸部14A及び14Bと第1及び第2の凹部14Ca及び14Cdと第4または第3の凹部14Cbまたは14Ccの組み合わせがある。いずれの組み合わせであっても、矩形波信号または正弦波信号を入力したときの1次共振周波数と、3次共振周波数と、1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、それぞれ80dB以上になるだけでなく、1次共振周波数と中間周波数の間の周波数領域の最小音圧を上げ、また中間周波数と3次共振周波数との間の周波数領域の最小音圧を上げて、1次共振周波数から3次共振周波数の間の周波数領域全体の音圧差を小さくすることができる。凹部(14Ca乃至14Cd)の数を増やすほど、80dB以上の周波数範囲を狭める方向に調整することが可能になる。
【0031】
本実施の形態では、
図2(A)及び(C)に示すように、振動板12の非固定部分13の長辺の長さL0と短辺の長さW0のアスペクト比L0/W0が、2.1~2.4の範囲に入るように定められている。この範囲は、特許文献1の圧電音響部品における同じ寸法比を超えるものであり、
図2(C)に示す比較データから判るように、この寸法比の範囲にすることで、80dB以上の周波数範囲の調整効果を高めることが確認されている。
【0032】
また1つ以上の放音孔4を設けた共振器は、入力信号として矩形波信号または正弦波信号を入力したときの1次共振周波数と3次共振周波数の間の中間周波数の音圧が、1次共振周波数の音圧及び3次共振周波数の音圧以上になるように定められている。この点は、特許文献1に示されている圧電音響部品と同じである。また放音孔4の数は任意である。
【0033】
[第1の実施の形態の周波数特性]
図3は、
図2(A)及び(B)の圧電発音素子を用いた本実施の形態の圧電音響部品の周波数特性を示している。
図2(B)の圧電発音素子は、
図2(A)の圧電発音素子と比べて、同じアスペクト比で、凹部14Cb及び14Ccの長さが、僅かに長いものである。しかし
図3に示すように、この相違は音圧―周波数特性には、ほとんど影響を与えないことが判る。
【0034】
図4(A)は、第1の凸部14A及び第2の凸部14Bと第1及び第2の凹部14Ca及び14Cd並びに第3の凹部14Ccの組み合わせを有する圧電発音素子を示しており、
図4(B)は第1の凸部14A及び第2の凸部14Bと第1及び第4の凹部14Ca及び14Cdの組み合わせを有する圧電発音素子を示している。
図4(C)は
図4(A)及び(B)の音圧―周波数特性を示している。
図4(C)及び
図3の比較から判るように、凹部の数が増えると、80dB以上の周波数範囲を狭める方向に調整することが可能になり、しかも音圧のフラット性を高めることができる。
【0035】
また
図5(A)は、
図2(A)と同様に、第1の凸部14A及び第2の凸部14Bと第1乃至第4の凹部14Ca及び14Cdがある圧電発音素子を示し、
図5(B)はこれらの凸部及び凹部がない圧電発音素子を示している。
図5(C)はこれら二つの圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示している。
図5(C)から判るように、凸部及び凹部がない
図5(B)の圧電発音素子では、80dB以上の周波数範囲を狭めることができない。
【0036】
図6(A)乃至(C)は、
図2(A)の実施の形態のように、圧電発音素子の非固定部分13が4つの凹部14Ca~14Cdを備えている場合で、幅方向に対向する二つの凹部間の寸法W3を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した3種類の圧電発音素子を示している。圧電発音素子の振動板12の非固定部分13は、厚みが10μm~150μmの鉄にニッケルを配合した合金製の板からなるのが好ましい。また圧電素子は厚みが30μm~100μmのPZTセラミックが中間電極を介して積層された積層部が複数積層された積層体と該積層体の両側に配置された一対の外側電極とを備えた構造を有しているのが好ましい。さらに圧電素子を振動板に接着するアクリル系の接着剤のショアD硬度が75~85であり且つ厚みが1μm~10μmであるのが好ましい。また振動板12の表面に圧電素子が設けられていてもよい。
【0037】
図6の例では、圧電素子15の直径が15mm、厚みが60μmで、金属振動板の厚みが75μmであった、W3は、10.5mm、11.6mm、12.6mmであった。
図6(D)の音圧―周波数特性からは、W3の寸法が小さくなるほど、共振周波数及び音圧は高くなり、帯域は狭くなり、またW3の寸法が大きくなるほど、共振周波数及び音圧は低くなり、帯域は広くなることが判る。
【0038】
図7(A)乃至(G)は、
図2(A)の実施の形態のように、圧電発音素子の非固定部分13が4つの凹部14Ca~14Cdを備えている場合で、幅方向に対向する二つの凹部(14Ca,14Cc)間の寸法W3を変えずに、非固定部分13の長辺側13Aa及び13Abの一対の凹部14Ca及び14Cb(または14Cc及び14Cd)間の距離L3を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した7種類の圧電発音素子を示している。なお
図7(G)の圧電発音素子は、一対の凹部14Ca及び14Cb(または14Cc及び14Cd)を最大限大きくした場合である。この場合には、振動板12の長さL2を長くして音圧―周波数特性を他の圧電発音素子に近いものとしている。
図8(A)は
図7(A)乃至(D)の圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示しており、
図8(B)は
図7(E)乃至(G)の圧電発音素子を用いた場合の音圧―周波数特性を示している。
図7(A)乃至(F)の圧電発音素子は、PZTセラミックからなる圧電素子15の直径が14mm厚みが60μmであり、金属振動板の厚みが75μmであり、W3は、12.2mm~12.7mm(可変)であり、L2は35.6mmであり、L3を、9mm、10mm、11mm、14mm、16mm、18mmであった。なお
図7(G)の圧電発音素子では、L2が39mm、L3が37mmであった。
図8(A)及び(B)の音圧―周波数特性からは、L3の寸法を小さくするとW3の寸法の可変範囲が狭くなり、1次共振周波数を高くする調整に限界が生じる。その結果、帯域が広がり音圧が低下する現象が発生する。逆にL3寸法を大きくすると、同一の帯域幅にするためにはL2寸法を大きくしなければならず、外形寸法が大きくなる。なお
図7(G)のようにL3寸法を最大37mmとした場合でも音圧-周波数特性は見劣りしない。
【0039】
図9(A)乃至(G)は、
図2の実施の形態のように、圧電発音素子の非固定部分13が4つの凹部14Ca~14Cdを備えている場合で、圧電素子15の非固定部分13の長手方向の位置(長手方向の配置比率L21:L22)を変えた場合に、音圧―周波数特性がどのように変わるのかを確認するために用意した7種類の圧電発音素子を示している。これらの圧電発音素子はPZTセラミックからなる圧電素子15の直径が14mm厚みが60μmで、金属振動板の厚みが75μmであった、W3は、12.2mm、L3は14mmであった。
図9(A)乃至(G)の音圧発電素子におけるL21:L22の比率は、15:5、14:6、13:7、12:8、11:9、10.5:9.5、10:10であった。
図10の音圧―周波数特性からは、この比率L21:L22が大きくなるほど、1次及び3次共振周波数及び音圧が低くなり、帯域は広くなり、またこの比率L21:L22が小さくほど、1次及び3次共振周波数及び音圧が高くなり、帯域は狭くなる。実用的には、L21:L22の比率は、12:8~10:10の範囲が好ましい。
【0040】
[圧電素子の形状]
図11(A)乃至(E)は、圧電素子15の輪郭形状を円形にした場合と正多角形に変えた場合に音圧-周波数特性がどのように変化するかを確認するために用意した圧電発音素子を示している。
図12は、これらの圧電発音素子を用いた場合の、音圧―周波数特性を示している。
【0041】
図13(A)乃至(C)は、圧電素子15の輪郭形状を円形にした場合と楕円にした場合の音圧-周波数特性がどのように変化するかを確認するために用意した圧電発音素子を示している。
図14は、これらの圧電発音素子を用いた場合の、音圧―周波数特性を示している。圧電素子が第1及び第2の仮想線(PL1、PL2)に対して対称な形状であれば、圧電素子の輪郭形状の相違による音圧-周波数特性の相違は、ほとんどないが、作り易さ及びコストの点からは、円形の圧電素子が適している。なお輪郭形状が円形に近いほど、80dB以上の周波数範囲を狭くすることができる。
【0042】
[電極形状]
図15(A)乃至(D)は、圧電素子15の一対の外側電極のうち、少なくとも振動板に接着されないほうの外側電極16に、第1の仮想線PL1上に位置し且つ外側電極16の中心に向かって凸となる円弧状の一対の凹部16Aを設けた場合の、音圧-周波数特性の影響を確認するために用意した圧電発音素子であり、
図15(a)乃至(d)は、
図15(A)乃至(D)の対応する圧電発音素子の音圧-周波数特性と相当応力を示している。
図15(B)乃至(D)に示した円弧状の一対の凹部16Aの曲率半径rは、2mm、4mm、6mmであった。このような凹部16Aを設けると、1次共振周波数に対応して発生する応力を下げることができ、応力が局部的に大きくなることを抑制して、圧電素子の寿命を延ばすことができる。
【0043】
なお凹部16Aの形状は、上記実施の形態のように半円弧状に限定されるものではなく、矩形状、三角形状等、どのような形状でもよい。凹部16Aの形状は、1次共振周波数に対応して発生する応力が、3次共振周波数に対応して発生する応力に近い値になる形状を有しているのが好ましい。このようにすると、1次共振周波数に対応して発生する応力と3次共振周波数に対応して発生する応力発生する応力の大きさのバラツキを小さくすることができ、さらに圧電素子の寿命の低下を抑制できる。
【0044】
圧電素子が両面に外側電極を有する単層構造の場合には、少なくとも非接着側の外側電極に設ければよい。また圧電素子が内部にも電極を有する多層構造の場合には、内部の電極に凹部16Aを形成すればよい。
【0045】
[共振器(ケースの放音孔)]
ケースに設ける放音孔の総開口面積が適正な範囲であれば、中間周波数の値も大きく変わらず、しかも中間周波数の音圧にも大きな差が生じない。また放音孔の総開口面積はあまり変えずに、放音孔の数を変えても1次共振周波数の音圧と3次共振周波数の音圧の差は大きくならず、かつ高音圧な周波数特性が得られる。総開口面積が変わらなければ、放音孔の数は周波数特性に影響がない。したがって、放音孔の数は、1以上であればよい。
【0046】
[振動板の非固定部分の形状]
上記実施の形態では、
図2以降の実施の形態では、振動板12として矩形状の金属板を用い、非固定部分13の四隅を直角形状に示してある。しかしながら実用的には、
図1の実施の形態のように、非固定部分13の四隅に丸み(アール)を付けたり、テーパを付けたりしておくのが好ましい。
【0047】
[リード線の半田付け構造]
図16(A)は、圧電素子15にリード線18を半田付けした構造を示す平面図であり、
図16(B)はこの構造の分解斜視図である。まず一対の外側電極のうち振動板12に接着されないほうの銀電極からなる外側電極16の上には、リード線18を半田付けするための半田付け部形成用の貫通孔17Aを備えた半田レジスト層17が形成されている。半田レジスト層17は、スクリーン印刷により、防湿性と絶縁性を有するアクリレート等のレジンコートによって形成されている。半田レジスト層17の厚みは、5~50μmである。半田レジスト層17は、外側電極16と実質的に同じ形状で、同じ大きさを有しているので、銀電極からなる外側電極16を覆ってマイグレーションの発生と銀電極の腐食を防止する機能も発揮している。
【0048】
本実施例では、半田付け部形成用の貫通孔17Aは、第2の仮想線PL2が貫通孔17Aと交差する位置に形成されているが、貫通孔17Aの位置と大きさは実施例に限定されるものではない。貫通孔17Aの位置と大きさは、半田レジスト層17の存在によって下がった1次共振周波数の音圧の低下を抑えて、しかも1次共振周波数における応力の上昇を抑えるように定められていればよい。具体的には、輪郭が円形の圧電素子15の直径Rが13mm乃至15mmの場合には、貫通孔17Aの直径は1.5mm乃至3mmであるのが好ましい。そして圧電素子15の中心と貫通孔17Aの外周縁との間の距離をXとすると、r=1.5mmのときのXは2.3mm以上であり、r=3mmのときのXは3mm以上になるように、貫通孔17Aの直径と位置を定めるのが好ましい。リード線18の芯線の半田付け部19の直径は、実質的に貫通孔17Aと同じである。
【0049】
図17(A)は、好ましい半田付け条件として、貫通孔17Aの位置をX=5mm、r=2mmとしたときの音圧と周波数の関係(周波数特性)を示している。また
図17(B)は、音響特性に悪影響を与える条件として、貫通孔17Aの位置をX=2.5mm、R=2mmとしたときの音圧と周波数の関係(周波数特性)を示している。
図17(A)では、1次共振周波数における音圧は少し低下して、応力のピーク値も低くなっている。これに対して
図17(B)では、1次共振周波数における音圧は少し低下して、応力のピーク値が大きくなっている。この応力の増加により、圧電素子15のPZTセラミックが破損した。
図17(A)及び(B)から、貫通孔17Aの位置(X)と大きさ(半径r)は、半田レジスト層17の存在によって下がった1次共振周波数の音圧の低下を抑えて、しかも
1次共振周波数における応力の上昇を抑えるように定められることが判る。
【0050】
図18(A)は、半田付け部を形成せずに音響信号を加えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図である。
図18(B)は、貫通孔17Aの位置をX=4mm、r=2mmとして半田付け部19を形成し音響信号を加えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図である。
図18(C)は、貫通孔17Aの位置をX=1.5mm、r=2mmとして半田付け部19を形成し音響信号を加えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図である。
図18(D)は、貫通孔17Aの位置をX=2.25mm、r=3.5mmとして半田付け部19を形成して音響信号を加えて測定したときの1次共振時と3次共振時の応力の状態を示す図である。
図18(C)及び(D)の場合には、貫通孔17Aの周囲の応力が大きくなって、半田付け部19の近傍から圧電素子のPZTセラミックの破損が発生することが確認された。
【0051】
また
図19(A)は、厚み20μmのレジンコートからなる半田レジスト層17を形成した場合と形成しなかった場合の音圧と周波数の関係(f-dB特性)を示しており、
図19(B)はレジンコートからなる半田レジスト層17を形成した場合と形成しなかった場合のインピーダンスと周波数の関係(インピーダンスカーブ)を示している。これらの結果から、レジンコートからなる半田レジスト層17を設けると、共振ピークのQ値を低減させることができ、f-dB特性がフラットになることが判る。そして所定の厚みの半田レジスト層17を設けることにより、以下の効果が得られることを確認した。
【0052】
(1)音響帯域内(2~2.9KHz)の最低音圧をキープしたまま、1次共振の音圧を下げることができ、2dBの音圧フラット化できることが確認された。
【0053】
(2)3次共振近傍にジャンプ現象(音圧が垂直に低下する現象)を起こすヒステリシス領域を低減できることが確認された。
【0054】
(3)インピーダンスカーブの共振ピークが低減することから、Q値の低下が得られることが確認された。
【0055】
以上のことから半田レジスト層17の厚みを、1次共振周波数及び3次共振周波数の共振ピークのQ値を低減するように定めれば、半田レジスト層17の存在によって音響特性を高めることが可能になることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、1次共振周波数と中間共振周波数における音圧差、中間共振周波数と3次共振周波数における音圧差を小さくすることができ、しかも80dB以上の音圧を得ることができて周波数範囲をある程度任意に変更できる圧電音響部品を提供できる。
【符号の説明】
【0057】
1 圧電音響部品
3 下側ケース半部
4 放音孔
5 上側ケース半部
7 開口部
9 発音素子ホルダ
11 圧電発音素子
12 振動板
13 非固定部分
13Aa、13Ab 長辺
13Ba、13Bb 短辺
14A,14B 凸部
14Ca~14Cd 凹部
15 圧電素子
16 外側電極
16A 凹部
PL1 第1の仮想線
PL2 第2の仮想線
PL3 第3の仮想線
PL4 第4の仮想線
S1 第1の空間
S2 第2の空間