(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する方法、装置、システム、電動車両、コンピュータプログラムおよび記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H02J 7/04 20060101AFI20250305BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20250305BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250305BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20250305BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250305BHJP
B60L 58/24 20190101ALI20250305BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20250305BHJP
【FI】
H02J7/04 L
H02J7/10 L
H02J7/00 B
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
B60L58/24
B60L3/00 S
(21)【出願番号】P 2022526453
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2020081472
(87)【国際公開番号】W WO2021115694
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】102019133921.9
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヤン・フィリップ
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-108063(JP,A)
【文献】特開2007-78661(JP,A)
【文献】特開2007-187638(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005141(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/018641(WO,A1)
【文献】特開2010-243481(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0307487(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0288213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/04
H02J 7/10
H02J 7/00
H01M 10/44
H01M 10/48
B60L 58/24
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギー貯蔵部のセルを充電する方法であって、
A1)セルに充電電流が供給される充電動作にセルを移行し、
B1)充電動作中に第一インピーダンス特性値(I
1)および第二インピーダンス特性値(I
2)を決定し、第一インピーダンス特性値(I
1)と第二インピーダンス特性値(I
2)は、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表し、
C1)第一インピーダンス特性値(I
1)に基づいて第一温度特性値(T
1)を決定するとともに、第二インピーダンス特性値(I
2)に基づいて第二温度特性値(T
2)を決定し、第一温度特性値(T
1)と第二温度特性値(T
2)は、いずれもセルの温度を表し、D1)第一温度特性値(T
1)の第二温度特性値(T
2)からの偏差(|ΔT|)を決定し、
E1)前記偏差(|ΔT|)が所定の温度閾値(T
TH)を超える場合に、セルへの充電電流を低減する
ステップを有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
- 第一インピーダンス特性値(I
1)は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表し、
- 第二インピーダンス特性値(I
2)は、同じ第一時刻における、第一周波数とは異なる第二周波数についての同じ第一インピーダンス指標を表し、
- 第一インピーダンス指標と第二インピーダンス指標はそれぞれ、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を有する
方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
- 第一インピーダンス特性値(I
1)は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表し、
- 第二インピーダンス特性値(I
2)は、同じ第一時刻における、同じ第一周波数についての、第一インピーダンス指標とは異なる第二インピーダンス指標を表し、
- 第一インピーダンス指標と第二インピーダンス指標はそれぞれ、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を有する
方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、
ステップB1)は、
B1-1)第一時刻において第一測定値(M
1)を検出し、第一測定値(M
1)は、セルの複素交流インピーダンスを表し、その第一測定値(M
1)に基づいて、第一インピーダンス特性値(I
1)を決定し、
B1-2)第一時刻とは異なる複数の第二時刻において少なくとも二つの第二測定値(M
2-1,M
2-2)を検出し、少なくとも二つの第二測定値(M
2-1,M
2-2)は、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表し、少なくとも二つの第二測定値(M
2-1,M
2-2)を補間することにより、少なくとも二つの第二測定値(M
2-1,M
2-2)に基づいて第一時刻に関する第二インピーダンス特性値(I
2)を決定する
ことを含む方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法であって、
充電動作は、高速充電動作または超高速充電動作として実行される
方法。
【請求項6】
電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する方法であって、
A2)セルに電流が供給されない或いはセルから電流が取り出されない休止フェーズにセルを移行し、
B2)休止フェーズ中に第一インピーダンス特性値(I
1)および第二インピーダンス特性値(I
2)を決定し、第一インピーダンス特性値(I
1)と第二インピーダンス特性値(I
2)は、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表し、
C2)
所定の境界条件に関する規格化により、前記第一インピーダンス特性値(I
1)
および前記第二インピーダンス特性値(I
2
)に基づいて、
通常のコンディションにおけるセルの複素交流インピーダンスをそれぞれ表している第一規格化インピーダンス特性値(I^
1)
および第二規格化インピーダンス特性値(I^
2)を決定し、
D2)第一規格化インピーダンス特性値(I^
1)の第二規格化インピーダンス特性値(I^
2)に対する変化量(ΔI^)を決定するとともに、この変化量(ΔI^)の、所定の経時変化インピーダンス(I
Ref)の第一インピーダンス基準値(I
Ref1)の第二インピーダンス基準値(I
Ref2)に対する変化量からの偏差(|ΔI|)を決定し、
E2)前記偏差(|ΔI|)が所定のインピーダンス閾値(I
TH)を超える場合に、セルに供給される或いはセルから取り出される電流が低減されるように充電プロファイルおよび/または放電プロファイルを調整する
ステップを有
し、
- 第一インピーダンス特性値(I
1
)は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表し、
- 第二インピーダンス特性値(I
2
)は、第一時刻とは異なる第二時刻における、同じ第一周波数についての同じ第一インピーダンス指標を表し、
- 第一インピーダンス指標(I
1
)と第二インピーダンス指標(I
2
)は、それぞれ、セルのインピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を有する
方法。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載の方法であって、
第一周波数と第二周波数は、500Hzから10000Hzの間である
方法。
【請求項8】
電気エネルギー貯蔵部(1)のセルを充電または放電する装置(3)であって、
請求項1から
7のいずれかに記載の方法を実行するように構成されている
装置(3)。
【請求項9】
請求項
8に記載の装置(3)と、少なくとも一つのセルを備えた電気エネルギー貯蔵部(1)と、前記装置(3)および前記電気エネルギー貯蔵部(1)に接続されて少なくとも一つのセルの複素交流インピーダンスを検出して測定値として前記装置(3)に提供するように制御可能に構成された測定装置(5)と
を有するシステム(10)。
【請求項10】
電気エネルギー貯蔵部(1)が電動車両(100)用のリチウムイオン電池として形成されている請求項
9に記載のシステム(10)。
【請求項11】
請求項
9または
10のいずれかに記載のシステム(10)と、電気消費部(11)と、充電インターフェース(13)とを有し、電気消費部(11)と充電インターフェース(13)は、電気エネルギー貯蔵部(1)に接続され、前記装置(3)は、電気エネルギー貯蔵部(1)に充電インターフェース(13)を介して供給される充電電流および/または電気エネルギー貯蔵部(1)から電気消費部(11)のために取り出される動作電流を制御するように構成されている電動車両(100)。
【請求項12】
電気エネルギー貯蔵部(1)のセルを充電または放電するコンピュータプログラムであって、コンピュータによる当該コンピュータプログラムの実行時に、請求項1から
7のいずれかに記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体であって、請求項
12に記載のコンピュータプログラムが内部に格納されている記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する方法、装置、システム、電動車両、コンピュータプログラムおよび記憶媒体。
【背景技術】
【0002】
電動車両をより速く充電するための急速充電機能は、昨今の開発の対象である。この場合、電動車両の一つまたは複数のバッテリーセルは、その使用限界で動作させられるが、その使用限界を超えると、それが各バッテリーセルの潜在的な損傷をもたらしかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の根幹をなす課題は、電気エネルギー貯蔵部のセルを充電する方法であって、特に、計算的な手法で充電電流制御をそれほど行わなくても(超)高速充電動作においてセルに損傷を与える充電電流強度を避けるのに役立つ、効率的であると同時に安全な方法を確立することである。また、効率的かつ安全にセルを放電する方法が提示されなければならないとともに、この方法に対応する装置、システム、電動車両、コンピュータプログラムおよびコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体が具体化されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。有利な態様は、下位請求項により特徴付けられる。
【0005】
第一の態様によれば、本発明は、電気的なエネルギー貯蔵部(電気エネルギー貯蔵部)のセルを充電する方法に関する。電気エネルギー貯蔵部は、特に、電動車両用のエネルギー貯蔵部、例えばリチウムイオンベースの二次電池であるとしてよい。この場合、エネルギー貯蔵部は、特に、バッテリーパック内に配設されている複数のセルまたはセル群を有することができる。以下に、個々のセルに基づいて述べる方法は、複数のセルまたはセル群にも類推的に適用可能である。
【0006】
この方法では、ステップA1)において、セルに充電電流が供給される充電動作にセルを移行する。
【0007】
次に、ステップA1)に続くステップB1)において、充電動作中に第一インピーダンス特性値および第二インピーダンス特性値を決定する。第一インピーダンス特性値と第二インピーダンス特性値は、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表している。
【0008】
第一および/または第二インピーダンス特性値を決定するために、特に、セルの複素交流インピーダンスを表す測定値をそれぞれ検出することができる。測定値は、例えば、セルに交流電圧信号を印加し、電圧データおよび電流データの時間サンプリング値を検出し、然るべき時間範囲に電圧データおよび電流データのウィンドウを設定し、ウィンドウの設定された電圧データおよび電流データに基づく高速フーリエ変換を実行することにより得られ、これにより、特定周波数における電圧と電流の大きさを特定して、そこからセルの複素交流インピーダンスを計算する。
【0009】
ステップB1)に関連する後続のステップC1)では、第一インピーダンス特性値に基づいて第一温度特性値を決定するとともに、第二インピーダンス特性値に基づいて第二温度特性値を決定する。このとき、第一温度特性値と第二温度特性値は、いずれもセルの温度を表す。
【0010】
第一および/または第二温度特性値を決定するために、特に、ルックアップテーブルを用いることができる。この種のルックアップテーブルは、例えば、各インピーダンス特性値に対してそれぞれ対応する一つの温度特性値を含んでいる。温度特性値を決定するための追加の変数として、例えば、上述の特定周波数および/またはセルの充電状態を用いてもよい。代替的または付加的に、ルックアップテーブルに格納された温度特性値に、特に、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相といったインピーダンス指標が対応付けられていてもよい。
【0011】
ステップC1)に続いて、ステップD1)では、第一温度特性値T1の第二温度特性値T2からの偏差|ΔT|=|T1-T2|を決定する。
【0012】
最後に、ステップE1)では、上記の偏差|ΔT|が所定の温度閾値TTHを超える場合に、セルへの充電電流を低減する。この温度閾値は例えば、1℃~4℃の間、特に2℃であることもある。
【0013】
本発明のこの態様は、上記の二つの温度特性値が、通常のセル使用時には同じか略同じであるという知見に基づいている。これに対して、損傷を引き起こす電流でセルが充電されると、これらの温度特性値は互いに乖離する。それは、充電動作がこの時点では既にセルを変質させてしまっていて、インピーダンスを温度に換算するモデル条件が損なわれてしまっているからである。従って、判断基準となる差を超えるときには、充電動作が完全に停止するまで電流を減らして、バッテリー貯蔵部のさらなる損傷を防ぐ。このとき、温度閾値を一時的に超えることによって引き起こされるセルの容量損失は、無視できるほど小さい。
【0014】
有利なことに、こうすることで、充電プロセスによるバッテリーセルの損傷をかなり防ぐことができ、これにより、安全であると同時に効率的な充電プロセスに役立てることができる。特に、提案された方法を用いることで、バッテリーセルの異なる経年劣化の経緯が考慮される。従って、理論的に最大限可能な充電電流と、セルがいずれも損傷を受けずにいられる計算上最大限可能な充電電流との間のマージンを減らすことができる。これにより、パラメータ化がかなり面倒でバッテリー制御装置の計算能力も必要となる複雑な制御充電方法を省くことができる。
【0015】
第一の態様による形態では、第一インピーダンス特性値は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表す。また、第二インピーダンス特性値は、同じ第一時刻における、第一周波数とは異なる第二周波数についての同じ第一インピーダンス指標を表す。ここで、第一インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を意味する。同様に、第二インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相のうちの一つを意味する。
【0016】
第一の態様による形態では、第一インピーダンス特性値は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表す。また、第二インピーダンス特性値は、同じ第一時刻における、同じ第一周波数についての、第一インピーダンス指標とは異なる第二インピーダンス指標を表す。ここで、第一インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を意味する。同様に、第二インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を意味する。
【0017】
第一の態様による形態では、ステップB1)は、ステップB1-1)を含み、このステップでは、第一時刻において第一側定置を検出し、第一測定値に基づいて第一インピーダンス特性値を決定する。第一測定値はここで、セルの複素交流インピーダンスを表す。
【0018】
ステップB1)は、さらにステップB1-2)を含み、このステップでは、第一時刻とは異なる複数の第二時刻において少なくとも二つの第二測定値を検出し、少なくとも二つの第二測定値を補間することにより、少なくとも二つの第二測定値に基づいて第一時刻に関する第二インピーダンス特性値を決定する。少なくとも二つの第二測定値はここで、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表す。
【0019】
これに代えて、ステップB1-2)では、第一時刻において一つの第二測定値だけを検出し、この第二測定値に基づいて第二インピーダンス特性値を決定してもよい。
【0020】
第一の態様による形態では、充電動作は、セルの高速充電動作または超高速充電動作である。高速充電動作には、例えば、Cレートが少なくとも2Cに及ぶ場合が含まれる。超高速充電動作には、例えば、Cレートが少なくとも3Cに及ぶ場合が含まれる。ただし、これは充電状態次第であるとしてよい。つまり、例えば20%の低いSOCでは大抵は問題なく3Cで充電できるものの、例えば80%といった比較的高いSOCでは、そういった充電は場合によっては損傷無くしては不可能である可能性がある。似たようなことが温度にも該当し、15℃未満の低い温度では電流を減らすことが有用であることもある。一般的にはしかし、高速充電と言えば平均的な2Cの充電速度の場合のことであるとしてよい。第一の態様に関連して行なった説明は、特に明記されていない限り、以下において同じ用語または同種の特徴についても同様に適用される。
【0021】
第二の態様によれば、本発明は、電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する方法に関する。
【0022】
この方法では、ステップA2)において、セルに電流が供給されずまたセルから電流が取り出されない休止フェーズにセルを移行する。
【0023】
次に、ステップA2)に続くステップB2)において、休止フェーズ中に第一インピーダンス特性値および第二インピーダンス特性値を決定する。第一インピーダンス特性値と第二インピーダンス特性値はここで、いずれもセルの一つの複素交流インピーダンスを表す。
【0024】
ステップB2)に関連する後続のステップC2)では、第一インピーダンス特性値に基づいて、所定の境界条件に関して規格化された第一のインピーダンス特性値(第一規格化インピーダンス特性値)を決定するとともに、第二インピーダンス特性値に基づいて、所定の境界条件に関して規格化された第二のインピーダンス特性値(第二規格化インピーダンス特性値)を決定する。
【0025】
境界条件に関する規格化とは、この箇所と以下では、上記のインピーダンス特性値を、通常のコンディション下でのセル動作時のインピーダンス特性値に換算することを意味する。つまり、セルの温度および充電状態などの、セルの複素交流インピーダンスに影響を与える重要な因子が考慮される。通常のコンディションとは、例えば25℃の温度と50%の充電状態でのセルの動作を意味するものとしてよい。充電状態は、“ステートオブチャージ(State of Charge)”(SoC)と呼ばれることもある。
【0026】
ステップC2)に続いて、ステップD2)では、第一規格化インピーダンス特性値I1の第二規格化インピーダンス特性値I2に対する変化量を決定するとともに、この変化量I1-I2の、所定の経時変化インピーダンスIRefの第一インピーダンス基準値IRef1の第二インピーダンス基準値IRef2に対する変化量IRef1-IRef2からの偏差|ΔI|=|(I1-I2)-(IRef1-IRef2)|を決定する。
【0027】
最後に、ステップE2)では、偏差|ΔI|が所定のインピーダンス閾値ITHを超える場合に、セルに供給される或いはセルから取り出される電流が低減されるように充電プロファイルおよび/または放電プロファイルを調整する。所定のインピーダンス閾値ITHは例えば、1μΩから5μΩの間、特に2.5μΩである。
【0028】
所定の経時変化インピーダンスIRefとは、特に、通常のコンディション下で動作しているセルの特定周波数に関する複素交流インピーダンスの予想される経時変化であって、特に、インピーダンス特性値に基づいた同じインピーダンス指標に関する複素交流インピーダンスの予想される径時変化を意味する。その点について、リチウムイオンベースのバッテリーセルでは、最初の100充電サイクルにおいて複素交流インピーダンスの実部の減少が観察され、その後、通常は実部が再び増加する。損傷を引き起こす動作にセルがさらされると、最初の充電サイクルにおいて実部が比較的急激に増加するか或いは若干緩やかに減少するようになることがある。
【0029】
換言すれば、本発明のこの態様は、休止フェーズにおけるセルの複素交流インピーダンスの観察から、複素交流インピーダンスの変化量を、損傷につながる動作の指標として利用できるという知見に基づいている。以下では、それにより特にセルの充電と放電に関してセルの動作限界を調整することができる。また、この場合、セルの複素交流インピーダンスが通常の動作中にも変化することも考慮されるが、損傷を引き起こす電流によるときには、その変化は、例えば比較的速くまたは符号が逆転して起きることになる。
【0030】
有利なことに、それにより充電または放電プロセスに起因する一度起きたバッテリーセルの損傷を検知し、それに応じて後続の損傷を防ぐことができるので、安全であると同時に効率的な充電および放電に役立てることができる。
【0031】
第二の態様による形態では、第一インピーダンス特性値は、第一時刻における、第一周波数についての第一インピーダンス指標を表す。また、第二インピーダンス特性値は、第一時刻とは異なる第二時刻における、同じ第一周波数についての同じ第一インピーダンス指標を表す。ここで、第一インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相を意味する。同様に、第二インピーダンス指標は、セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相のうちの一つを意味する。
【0032】
第一または第二の態様による形態では、500Hzを超える第一周波数が選択される。また、500Hzを超える第一周波数が選択される。特に、第一周波数と第二周波数は、500Hzから10000Hzの間である。
【0033】
第三の態様によれば、本発明は、電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する装置に関する。この装置はこのとき、第一および/または第二の態様による方法を実行するように構成されている。この装置は、バッテリー制御装置と呼ばれることもある。
【0034】
第四の態様によれば、本発明は、第三の態様による装置と、少なくとも一つのセルを備えた電気エネルギー貯蔵部と、第三の態様による装置および電気エネルギー貯蔵部の少なくとも一つのセルに接続されて少なくとも一つのセルの複素交流インピーダンスを検出して測定値として第三の態様による装置に提供するように制御可能に構成された測定装置とを有するシステムに関する。測定装置は、例えば、個々のバッテリーセルの複素交流インピーダンスを十分な精度で決定できるICであるとしてよい。十分に正確であると見做されるのは、ここでは1μΩ~2μΩの範囲の解像度であり、再現性は、有利には特に2~5μΩの範囲になければならない。とは言え、測定の不確かさはこのとき、明らかにもっと大きくても構わない。この方法は、有利には他の変数(温度)への換算を含み、これらの特性曲線は、セル固有、従ってチップ固有に適合されるため、特性曲線そのものを介した系統的な偏差は再び消去される。
【0035】
第四の態様による形態では、電気エネルギー貯蔵部は、電動車両用のリチウムイオン電池である。
【0036】
第五の態様によれば、本発明は、第四の態様によるシステムと、電気消費部と、充電インターフェースとを有する電動車両に関する。電気消費部と充電インターフェースはここで、電気エネルギー貯蔵部に接続されている。第四の態様によるシステムが有する第三の態様による装置はまた、電気エネルギー貯蔵部に充電インターフェースを介して供給される充電電流を制御するように構成されている。代替的または付加的に、第四の態様によるシステムが有する第三の態様による装置は、電気エネルギー貯蔵部から電気消費部のために取り出される動作電流を制御するように構成されている。
【0037】
第六の態様によれば、本発明は、電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電するコンピュータプログラムであって、コンピュータによる当該コンピュータプログラムの実行時に、第一および/または第二の態様による方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラムに関する。
【0038】
第七の態様によれば、本発明は、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体であって、第七の態様によるコンピュータプログラムが内部に格納されている記憶媒体に関する。
【0039】
以下に、本発明の実施例を概略的な図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】電動車両の電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する装置を備えた電動車両を示す図である。
【
図2】電動車両の電気エネルギー貯蔵部のセルを充電する方法を示す図である。
【
図3】電動車両の電気エネルギー貯蔵部のセルを充電または放電する方法を示す図である。
【
図4】
図2および
図3による方法の試験の経過の概要を示す図である。
【
図5】
図2を参照して説明した方法による温度の推定を示す図である。
【
図6】
図3を参照して説明した方法による虚部の推移、最大値の差および最小値の差を示す図である。
【
図7】
図3を参照して説明した方法による実部の推移、最大値の差および最小値の差を示す図である。
【
図8】複数サイクルにわたるセルのインピーダンスの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
同じ構造または機能の構成要素は、図全体にわたって同じ符号が付されている。
【0042】
リチウムイオンベースの電池の急速充電は、例えば、予め決めた充電プロファイルにより実行することができる。このとき、バッテリーセルの損傷を回避するために、古さに応じて充電プロファイルの調整を行なうことができる。より手の込んだ他の方法は、モデルを使用し当該モデルの適応トラッキング(adaptive Nachfuehrung)を行なうというものである(例えば米国特許出願公開第2011/0285356号明細書)。実験室では、充電プロセスによるバッテリーセルの一度きりの損傷は、非常に正確な充電と放電により簡単に確認できるので、充電プロファイルを変更することでバッテリー貯蔵部のさらなる損傷を防ぐことができる。このとき、この一度だけ発生する容量損失は、千分の一の範囲で変動する。
【0043】
予め決めたプロファイルを利用するとともに、残っている残存容量などの経年劣化指標によるトラッキングを利用する場合、セルのさまざまな経年劣化の過程は、とりわけセルの内部抵抗が残存容量に一義的に逆算可能に依存しないため考慮されない。
【0044】
全ての経年劣化の過程に対して安全で損傷のない充電を保証するために、マージン(余裕)をもたせる必要がある。モデルに基づく比較的複雑で制御された充電方法には、高度なパラメータ化を行う手間が不可欠であり、バッテリー制御装置に追加の計算能力が求められる。電動車両のエネルギー貯蔵部全体の精度の高い充電と放電は、動作中は殆ど不可能であり、電動車両のユーザに強いることもできない。それは、これにより電動車両の利用の可能性若しくは利用の準備が著しく制限されるからである。
【0045】
新しいタイプの測定装置を使用すると、セルのインピーダンスを十分な精度で決定することができるので、急速充電を最適化し、劣化に関するさらなる診断を行なうことが可能になる。
【0046】
図1を参照すると、電動車両100の電気エネルギー貯蔵部1のセルを充電するための本発明による装置3並びに対応するシステム10と電動車両1が示されている。
【0047】
システム10は、装置3および一つ又は複数のセルを備えたエネルギー貯蔵部1に加えて、少なくとも一つの測定装置5を有し、エネルギー貯蔵部1の複数セルの少なくとも一つが少なくとも一つの測定装置5に対して割り当てられ、当該装置に接続されている。特に、エネルギー貯蔵部1の複数のセルが接続されて一つのセル群となり、測定装置5によって監視されることが考えられる。測定装置5はまた、装置3に接続され、この装置に、監視下の(複数)セルの複素交流インピーダンスを表す測定値を提供するように構成されている。
【0048】
電動車両100は、システム10に加えて、電気消費部11並びに充電インターフェース13を備えている。電気消費部11としては、特に、電動車両100の駆動部の一つ又は複数の電気モータが挙げられる。電気消費部11並びに充電インターフェース13は、エネルギー貯蔵部1に接続されている。
【0049】
電動車両におけるセルの複素交流インピーダンスを急速充電プロセス中、さらには休止フェーズにおいても監視することが提案される。この場合、500Hzを超える周波数領域が有用であることが判明した。複素交流インピーダンスの実部と虚部から二つのセル温度を計算することにより、通常のセルの使用では同じになる二つの温度を特定することができる。損傷を引き起こす電流でセルが充電されると、これらの温度が互いに乖離するので、
図2のフローチャートを参照して以下に詳細に説明するように、判断基準となる差を超える場合には充電を停止するか或いは電流を減らすことができる。さらに、休止フェーズにおける複素交流インピーダンスの観察から、損傷を引き起こす動作の指標として複素交流インピーダンスの変化量を利用することができるので、以下に、
図3のフローチャートを参照して詳細に述べるように、動作限界を調整できるようになる。このとき、セルのインピーダンスは、通常の動作中であっても変化し、損傷を引き起こす動作によるときにはさらに急速に或いは符号が逆転さえして変化することを考慮する。
【0050】
装置3には、これに関連してデータメモリおよびプログラムメモリが設けられており、そのメモリに、以下に
図2および
図3のフローチャートを参照して説明するプログラムの少なくとも一つが格納されている。
【0051】
図2によるプログラムは、ステップA)においてスタートし、このステップにおいて例えば変数が初期化される。次に、プログラムは、ステップA1)において継続され、このステップでは、セルが充電動作に移行され、セルに充電電流が供給される。 例えば、プログラムの開始は、この関連では、充電インターフェース13を外部エネルギー源に接続することが契機となる。
【0052】
プログラムは、続いて、ステップB1)において継続され、このステップでは、第一および第二インピーダンス特性値I
1,I
2が決定される。例えば、この目的のために、第一時刻におけるセルの複素交流インピーダンスを表す二つの測定値M
1,M
2が測定装置5により検出され、装置3に提供される。例えば、測定値M
1,M
2は、同時に測定される。
図2を参照すると、これとは違って、同時測定ができない場合が示されている。この場合には、先ず(ステップB1-1))、第一時刻において第一側定値M
1が検出され、それに基づいて第一インピーダンス特性値I
1が決定される。また(ステップB1-2))、同じくセルの複素交流インピーダンスを表す少なくとも二つのさらに他の測定値M
2-1,M
2-2が(好ましくは第一時刻の前後に)検出され、装置3に提供される。第二インピーダンス特性値I
2を決定するために、さらに他の測定値M
2-1,M
2-2が同じ時間基準(Zeitbasis)に補間されることで、共通の時刻において第一インピーダンス特性値I
1と比較できるようにしている。インピーダンス特性値I
1,I
2は、以下では、比較の基礎として、また、電流を急速充電時に減らす必要があるのかどうか判断する根拠として利用される。
【0053】
第一インピーダンス特性値I1は、第一時刻における、所定の周波数についての次のインピーダンス指標の一つを有する:セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相。
【0054】
第一実施例では、第二インピーダンス特性値I2は、第一時刻における、別の周波数についての同じインピーダンス指標を有する。
【0055】
これに対して第二実施例では、第二インピーダンス特性値I2は、第一時刻における、同じ所定の周波数についての別のインピーダンス指標を有する。
【0056】
こうして、いずれにしても、二つの異なるインピーダンス指標(Re(実部),Im(虚部),Abs(振幅)または位相)を扱うか或いは異なる周波数での同じインピーダンス指標を扱う。
【0057】
二つのインピーダンス特性値は例えば、3125Hzの周波数におけるインピーダンス測定の実部と虚部であるか、或いは、例えば異なる周波数における二つの虚部である。
【0058】
続いて、プログラムは、ステップC1)において継続され、このステップでは、インピーダンス特性値I1,I2に基づいて、いずれもセルの温度を表す第一および第二温度特性値T1,T2が決定される。インピーダンス値は、例えばルックアップテーブルを使用してセル温度に換算される(例えば独国特許出願公開第102013103921号明細書を参照)。
【0059】
続いて、プログラムは、ステップD1)において継続され、このステップでは、温度特性値T1,T2の偏差|ΔT|=|T1-T2|が決定される。
【0060】
続いて、プログラムは、ステップE1)において継続され、このステップでは、先ず(ステップE1-1))、決定された偏差|ΔT|が所定の温度閾値TTHを超えるかどうかがチェックされる。
【0061】
このチェックで偏差|ΔT|が所定の温度閾値TTHを超える結果になる場合、プログラムは、ステップE1-2において継続され、そうでない場合、プログラムは、ステップF1において継続される。
【0062】
ステップE1-2)では、充電電流は減らされるか或いは充電動作が中止される。続くステップF)においてこの方法を終了する。
【0063】
ステップF1)では、充電動作が変わらない充電電流で継続されるか或いは充電プロファイルに応じて場合によっては増やした充電電流で継続される。続いて、プログラムは、例えば所定の期間の経過後、引き続き充電動作を監視するために、ステップB1において継続される。
【0064】
例えば、上述のプログラムステップにより、電動車両の急速充電中にインピーダンス測定が行われ、測定されたインピーダンスと関数TRe(Re(Z))およびTIm(Im(Z))からセル内の温度がそれぞれ特定される。差TRe-TImが温度閾値TTHより大きいときは、充電プロファイルが調整される。また、機能のトラッキング(Nachfuehrung)を(例えば、電動車両100が20分間停車し続けていたなど)熱平衡のフェーズで行なうことができる。他の動作領域(例えば高速で放電)への機能の一般化も同様に考えられる。
【0065】
図3によるプログラムは、ステップA)においてスタートし、このステップにおいて例えば変数が初期化される。次に、プログラムは、ステップA2)において継続され、このステップでは、セルが休止フェーズに移行され、充電インターフェース13を介してセルに充電電流は供給されず、また、電気消費部11を動作させる動作電流は引き出されない。例えば、プログラムの開始は、この関連では、電動車両100の充電プロセスまたは動作プロセスの終了が契機となる。
【0066】
続いて、プログラムは、ステップB2)において継続され、このステップでは、第一および第二インピーダンス特性値I1,I2が決定される。例えば、この目的のために、第一時刻におけるセルの複素交流インピーダンスを表す第一側定値M1と、第二時刻におけるセルの複素交流インピーダンスを表す第二測定値M2とが測定装置5により検出され、装置3に提供される。例えば、測定値M1,M2は同時に測定される。インピーダンス特性値I1,I2は、以下では、比較の基礎として、また、電流を急速充電時に減らす必要があるのかどうか判断する根拠として利用される。
【0067】
第一インピーダンス特性値I1は、第一時刻における、所定の周波数についての次のインピーダンス指標の一つを有する:セルの複素交流インピーダンスの実部、虚部、振幅または位相。
【0068】
第二インピーダンス特性値I2は、第二時刻における、同じ周波数についての同じインピーダンス指標を有する。
【0069】
こうして、いずれにしても、異なる複数時刻における、同じ周波数での二つの同じインピーダンス指標(Re(実部)、Im(虚部)、Abs(振幅)または位相)を扱う。
【0070】
二つのインピーダンス特性値は例えば、781Hzの周波数におけるインピーダンス測定の実部または虚部である。
【0071】
続いて、プログラムは、ステップC2)において継続され、このステップでは、インピーダンス特性値I1,I2に基づいて、25℃と50%SOCの通常のコンディションにおけるセルの複素交流インピーダンスをそれぞれ表している第一および第二規格化インピーダンス特性値I^1,I^2が決定される。この換算に基づくと、車両が停止(電流=0,温度均一)時に測定値を記録することが好ましい。
【0072】
続いて、プログラムは、ステップD2)において継続され、このステップでは、先ず(ステップD2-1))、第一規格化インピーダンス特性値I^1の第二規格化インピーダンス特性値I^2に対する変化量ΔI^=I^1-I^2が決定される。次に、ステップD2-2)において、この変化量ΔI^の、予想される経時変化インピーダンスからおおよそ得られる所定の経時変化インピーダンスIRefの第一インピーダンス基準値IRef1の第二インピーダンス基準値IRef2に対する変化量からの偏差|ΔI|=|ΔI^-(IRef1-IRef2)|が決定される。
【0073】
ステップD2)では、時間の経過に伴うインピーダンス値の変化の比較、例えば実数部の比較が行なわれる。ステップD1とは対照的に、ここでは、変化量ΔI^の符号の逆転も起こり得る。通常の経時変化に反した別の傾向が現れれば、セルの損傷を結論付けることができる。ここで、通常の経時変化は、最初の100サイクルにおいて実部に関して減少を示し、その後になってから増加を示す場合がある。
【0074】
続いて、プログラムは、ステップE2)において継続され、このステップでは、先ず(ステップE2-1))、決定された偏差|ΔI|が所定のインピーダンス閾値ITHを超えるかどうかがチェックされる。
【0075】
このチェックで偏差|ΔI|が所定のインピーダンス閾値ITHを超える結果になる場合、プログラムは、ステップE2-2において継続され、そうでない場合、プログラムは、ステップF2において継続される。
【0076】
ステップE2-2)では、後続の充電プロセスにおいて最大限セルに供給される電流若しくは後続の放電プロセスにおいて最大限セルから取り出される電流が低減されるように充電プロファイルおよび/または放電プロファイルが調整される。続くステップF)においてこの方法を終了する。
【0077】
ステップF2)では、充電プロファイルおよび/または放電プロファイルは変更されずに継続される。続いて、プログラムは、例えば、エネルギー貯蔵部のさらなる監視を可能にするために、電動車両の走行動作および/または充電動作が実行されていることもある所定期間の経過後、ステップA2において継続されてもよい。
【0078】
例えば、上述のプログラムステップにより、インピーダンス測定が電動車両の休止フェーズにおいて行なわれ、インピーダンスが平衡状態(開回路電圧(Leerlaufspannung)および温度)の下で測定される。また、インピーダンス(実部または虚部)の変化の速さを特定し、さらに、その変化の速さを通常の値と比較することができる。
【0079】
試験の経過の概要(
図4)には、時間tに対し、充電電圧Uの大きさが異なる或いは損傷をもたらす可能性が異なる複数の急速充電サイクル(P1-P10)[複数データ]が示されている。
【0080】
図2を参照して説明した方法による周波数f=3125Hzでの実部と虚部(
図5)からの温度推定によれば、プロファイル6,9および10は、虚部と実部から別々に決定される温度の偏差ΔT
simが大きいことを示している。このことから、推定に用いられたモデルは、他のプロファイルの場合と比較して不十分であると結論付けることができるが、これはおそらく、いわゆる“メッキ”に起因するものであろう。また、プロファイルP5とP8が、充電終了の直前に、比較的大きな偏差ΔT
simに達していることが分かる。
【0081】
図6(左)を参照すると、
図3を参照して説明した方法による、周波数f=781HzでのプロファイルP10の虚部の時間を追った変化が示されている。最大値に注目すると、プロファイルに応じてそれぞれ最大の温度Tが得られる。プロファイルP1-P10に関して、それぞれ一サイクルc内における最大値の差が右上に示されている。ここで、プロファイルP6,P9およびP10において、インピーダンスZが傾向に反して急激に変化することが分かる。
【0082】
プロファイルP1は、温度ピークにおける標準から外れた特性も示している(アーティファクト)。
【0083】
図6(左)における最小値に注目すると、プロファイルに関係なく、一定の最低温度Tが得られる。プロファイルP1-P10に関して、それぞれ一つのサイクルc内における最小値の差が右下に示されている。ここで、インダクタンスは一般に増加し(容量は減少し)、通常の時間変化は、連続した傾向に対応する。プロファイルP6,P9およびP10では、インピーダンスZは、傾向に反して急激に変化する。
【0084】
図7(左)を参照すると、
図3を参照して説明した方法による、周波数f=781HzでのプロファイルP10の実部の時間を追った変化が示されている。最大値に注目すると、プロファイルに関係なく、それぞれ一定の最低温度Tが得られる。プロファイルP1-P10に関して、それぞれ一つのサイクルc内における最大値の差が右上に示されている。ここで、実部は、複数のサイクルcにわたって減少する。プロファイルP6における虚部とは対照的に、ここでは傾向に反した変化は見られず、プロファイルP10においてようやく傾向に反した変化が特定できる。
【0085】
図7(左)における最小値に注目すると、プロファイルに応じて、それぞれ最高温度Tが得られる。プロファイルP1-P10に関して、それぞれ一つのサイクルc内における最小値の差が右下に示されている。ここで、プロファイルP6,P9およびP10に関して、一つのプロファイル内の実部は増加する。
【0086】
図8を参照すると、数回のサイクルcにわたるインピーダンスZの変化が示されている。
【0087】
充電プロファイルP1-P10は、それらの番号に応じてそれぞれ4サイクルcずつ実行されたが、合間にそれぞれ3回の通常サイクルを走らせた(
図4参照)。
【0088】
一般に、リチウムイオンセルでは、最初のサイクルcにおいて、高周波(ここでは781Hz)での実部の減少が見られ、その後(各セルに応じて、例えば100サイクルc以降)、再び実部が増加する。セルが損傷を引き起こす範囲で動作させられると、実部が最初のサイクルcにおいて比較的急激に増加するか若しくはそれほど急激には減少しない。これは、充電プロファイルP8およびP10に該当する。
【符号の説明】
【0089】
100 電動車両
1 エネルギー貯蔵部
3 装置
5 測定装置
10 システム
11 消費部
13 充電インターフェース
M1,M2,M2-1,M2-2 測定値
I1,I2 インピーダンス特性値
I^1,I^2 規格化インピーダンス特性値
T1,T2 温度特性値
T 温度
|ΔT|,ΔTsim|ΔI| 偏差
IRef1,IRef2 インピーダンス基準値
IRef 経時変化インピーダンス
ITH インピーダンス閾値
U 充電電圧
t 時間
c サイクル
Z インピーダンス
P1-P10 充電プロファイル
A-F プログラムステップ