(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】複合基板、複合基板の製法及び酸化ガリウム結晶膜の製法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20250305BHJP
C30B 7/10 20060101ALI20250305BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20250305BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B7/10
H01L21/20
H01L21/368 Z
(21)【出願番号】P 2023517095
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008148
(87)【国際公開番号】W WO2022230342
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021075004
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】前田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028480(JP,A)
【文献】国際公開第2021/064803(WO,A1)
【文献】特開2021-042120(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194763(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107841785(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101993110(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 7/10
H01L 21/20
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板と、
前記下地基板上に設けられ、膜厚が10μm以上で、アルカリ金属元素の少なくとも1種の含有量が1.2×10
15atoms/cm
3以上1.0×10
18atoms/cm
3以下であるα-Ga
2O
3結晶膜と、
を備え
、
前記下地基板は、α-Cr
2
O
3
基板である、
複合基板。
【請求項2】
前記α-Ga
2O
3結晶膜は、前記下地基板との(0001)面及び(10-10)面の結晶方位差がいずれも0.4°以下である、
請求項
1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記α-Ga
2O
3結晶膜は、(006)面及び(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅がいずれも2000arcsec以下である、
請求項1
又は2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記α-Ga
2O
3結晶膜は、Cr及びNiの少なくとも一方の含有量が2.0×10
15atoms/cm
3以上1.0×10
17atoms/cm
3以下である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項5】
前記α-Ga
2O
3結晶膜は、Li、Na及びKの各々の含有量が1.2×10
15atoms/cm
3以上1.0×10
18atoms/cm
3以下である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の複合基板を製造する製法であって、
Gaイオンを含有する水溶液に下地基板を浸漬させた状態で、温度390℃以上かつ圧力22.1MPa以上の超臨界状態にすることで、前記下地基板の表面に前記α-Ga
2O
3結晶膜を生成させる、
複合基板の製法。
【請求項7】
前記水溶液は、アルカリ金属元素を含む、
請求項
6に記載の複合基板の製法。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の複合基板から前記下地基板を除去して自立した前記α-Ga
2O
3結晶膜を得る、
酸化ガリウム結晶膜の製法。
【請求項9】
請求項
6又は
7に記載の複合基板の製法で製造した複合基板から前記下地基板を除去して自立した前記α-Ga
2O
3結晶膜を得る、
酸化ガリウム結晶膜の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板、複合基板の製法及び酸化ガリウム結晶膜の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化ガリウム(Ga2O3)が半導体用材料として着目されている。酸化ガリウムはα、β、γ、δ及びεの5つの結晶形を有することが知られているが、この中で、準安定相であるα-Ga2O3はバンドギャップが5.3eVと非常に大きく、パワー半導体用材料として期待を集めている。例えば、特許文献1には、コランダム型結晶構造を有する下地基板と、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とを備えた半導体装置が開示されており、サファイア基板上に、半導体層としてα-Ga2O3膜を形成した例が記載されている。また、特許文献2には、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含むn型半導体層と、六方晶の結晶構造を有する無機化合物を主成分とするp型半導体層と、電極とを備えた半導体装置が開示されている。この特許文献2の実施例には、c面サファイア基板上に、n型半導体層として準安定相であるコランダム構造を有するα-Ga2O3膜を、p型半導体層として六方晶の結晶構造を有するα-Rh2O3膜を形成して、ダイオードを作製することが開示されている。また、α-Ga2O3は蛍光体への応用も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-25256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、α-Ga2O3結晶膜を厚膜化しようとすると、サファイア基板などの下地基板上にα-Ga2O3結晶膜を成長させる際に下地基板との間に剥離が発生し、剥離部やその周辺でクラックが多発することがあった。このため、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離を抑制することが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Gaイオンを含有する水溶液に下地基板としてα-Cr2O3基板を浸漬させ、温度390℃以上かつ圧力22.1MPa以上の超臨界状態にすることに想到した。そして、この方法では、下地基板の表面にα-Ga2O3結晶膜が生成し、α-Ga2O3結晶膜を10μm以上などまで厚膜化させてもα-Ga2O3結晶膜と下地基板との間に剥離が生じにくいことを見出した。また、下地基板上に生成したα-Ga2O3結晶膜は、アルカリ金属元素の少なくとも1種の含有量が所定範囲内であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の複合基板は、
下地基板と、
前記下地基板上に設けられ、膜厚が10μm以上で、アルカリ金属元素の少なくとも1種の含有量が1.2×1015atoms/cm3以上1.0×1018atoms/cm3以下であるα-Ga2O3結晶膜と、
を備えたものである。
【0008】
本発明の複合基板の製法は、
上述した複合基板を製造する製法であって、
Gaイオンを含有する水溶液に下地基板を浸漬させた状態で、温度390℃以上かつ圧力22.1MPa以上の超臨界状態にすることで、前記下地基板の表面に前記α-Ga2O3結晶膜を生成させるものである。
【0009】
本発明の酸化ガリウム結晶膜の製法は、
上述した複合基板から前記下地基板を除去して自立した前記α-Ga2O3結晶膜を得るものである。なお、自立したα-Ga2O3結晶膜とは、複合基板から下地基板が除去されたものをいい、下地基板が除去されていれば別の基材上に転載されていてもよい。
【0010】
あるいは、本発明の酸化ガリウム結晶膜の製法は、
上述した複合基板の製法で製造した複合基板から前記下地基板を除去して自立した前記α-Ga2O3結晶膜を得るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合基板及び複合基板の製法では、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離が抑制された複合基板を提供できる。こうした効果が得られる理由は、例えば、α-Ga2O3結晶膜中にアルカリ金属元素の少なくとも1種が好適な濃度で含まれているためと推察される。本発明の複合基板の製法は、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離が抑制された複合基板を製造するのに適している。また、本発明の酸化ガリウム結晶膜の製法では、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離が抑制されたクラックの少ない複合基板から下地基板を除去して自立したα-Ga2O3結晶膜を得るため、クラックの少ない酸化ガリウム結晶膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】実施例1で得られた複合基板の表面SEM画像。
【
図5】実施例1で得られた複合基板の断面SEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は複合基板50の断面図、
図2は耐圧容器10の縦断面図、
図3は水熱合成システム20の概略説明図である。
【0014】
[複合基板]
複合基板50は、板状の部材であり、下地基板52と下地基板52上に設けられたα-Ga2O3結晶膜54と、を備えたものである。この複合基板50の面積は、例えば1mm2以上、好ましくは10mm2以上である。
【0015】
下地基板52は、α-Ga2O3結晶膜54の種結晶となる基板である。下地基板52は、コランダム構造を有する基板が好ましく、特にc軸及びc軸に垂直な軸(a軸やm軸など)の二軸に配向した基板(二軸配向基板)が好ましい。二軸配向基板は、多結晶やモザイク結晶(結晶方位が若干ずれた結晶の集合)であってもよいし、単結晶であってもよい。下地基板52は、基板法線方向にオフ角10°以下でc軸配向しているものとしてもよい。下地基板52は、α-Ga2O3結晶膜54が形成される面(形成面52a)とは反対側の面に、さらに別の基板が設けられていてもよい。
【0016】
下地基板52は、α-Cr2O3基板である。α-Cr2O3基板は、例えば、不可避的不純物以外の成分を含まないα-Cr2O3からなるもの(α-Cr2O3高純度基板という)としてもよいし、α-Cr2O3を含み総量がCrのモル数を超えない範囲でTi、Fe、Al、Mg、Si、CaなどのCr以外の金属元素及び/又は半金属元素を含むものとしてもよい。これらの金属元素及び/又は半金属元素は、α-Cr2O3に固溶していてもよく、酸化物結晶などの結晶相(例えばα-Al2O3)としてα-Cr2O3に固溶していてもよい。こうした固溶体をα-Cr2O3固溶体とも称する。α-Cr2O3基板としては、α-Cr2O3高純度基板、Fe及びTiのうちの少なくとも一方を含むα-Cr2O3固溶体基板が特に好適である。
【0017】
α-Ga2O3結晶膜54は、下地基板52の片面(形成面52a)に10μm以上の膜厚で形成されている。α-Ga2O3結晶膜54を構成するα-Ga2O3結晶55は、コランダム構造を有する結晶である。α-Ga2O3結晶膜54は、c軸及びc軸に垂直な軸の二軸に配向(二軸配向)していることが好ましい。α-Ga2O3結晶膜54は、多結晶やモザイク結晶であってもよいし、単結晶であってもよい。α-Ga2O3結晶膜54は、基板法線方向にオフ角10°以下でc軸配向しているものとしてもよい。このα-Ga2O3結晶膜54は、アルカリ金属元素の少なくとも1種の含有量が1.2×1015~1.0×1018atoms/cm3である。アルカリ金属元素としては、Li、Na、Kなどが挙げられる。Li、Na及びKの各々の含有量が1.2×1015atoms/cm3以上1.0×1018atoms/cm3以下であってもよい。α-Ga2O3結晶膜54は、下地基板52との(0001)面及び(10-10)面の結晶方位差がいずれも0.4°以下であるものとしてもよい。α-Ga2O3結晶膜54は、(006)面及び(104)面のX線ロッキングカーブ(XRC)半値幅がいずれも2000arcsec以下であるものとしてもよい。α-Ga2O3結晶膜54は、Cr及びNiの少なくとも一方の含有量が2.0×1015~1.0×1017atoms/cm3であるものとしてもよい。α-Ga2O3結晶膜54は、Li、Na及びKの各々の含有量が1.2×1015~1.0×1018atoms/cm3であるものとしてもよい。α-Ga2O3結晶膜54はドーパントを含むものとしてもよい。ドーパントとしては、例えば炭素(C)、珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)などの14族元素が挙げられる。α-Ga2O3結晶膜54にドーパントを含有させることでα-Ga2O3結晶膜54の導電性を制御することができる。
【0018】
[複合基板の製法]
次に、複合基板50の製法について説明する。複合基板50の製法は、Gaイオンを含有する水溶液に下地基板52を浸漬させた状態で、温度390℃以上(好ましくは400℃以上)かつ圧力22.1MPa以上の超臨界状態にすることで、下地基板52の表面にα-Ga2O3結晶膜54を生成させるものである。
【0019】
Gaイオンを含有する水溶液としては、ハロゲン化ガリウム水溶液、硝酸ガリウム水溶液、硫酸ガリウム水溶液、水酸化ガリウム水溶液などが挙げられる。ハロゲン化ガリウムとしては、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウムなどが挙げられる。Gaイオンを含有する水溶液は、アルカリ金属元素(アルカリ金属イオン)を含有していてもよい。アルカリ金属元素としては、Li、Na、Kなどが挙げられる。Gaイオンを含有する水溶液は、pH調整剤で好ましくはpH9.0~11.0(より好ましくは9.5~10.5)に調整したものである。pH調整剤としては、アルカリ金属水酸化物の水溶液(例えばKOH水溶液)を用いてもよいし、アンモニウムイオンを含有する水溶液(例えばアンモニウム水)を用いてもよい。Gaイオンを含有する水溶液のGaイオン濃度は、特に限定するものではないが、例えば0.1M以上10M以下としてもよい。
【0020】
Gaイオンを含有する水溶液に浸漬させる下地基板52は、少なくとも一方の面(形成面52aになる面)において、CMP(化学機械研磨)、アニール、エッチング、RIE(反応性イオンエッチング)などによって加工変質層が除去されたものであることが好ましい。この下地基板52をGaイオンを含有する水溶液に浸漬させる際には、加工変質層が除去された面がGaイオンを含有する水溶液と接触するように配置すると、加工変質層を除去した面にα-Ga2O3結晶膜54が生成する。下地基板52をGaイオンを含有する水溶液に浸漬させる際には、Pt製の治具などに下地基板52を載置又は固定して浸漬させてもよい。
【0021】
Gaイオンを含有する水溶液を温度390℃以上且つ圧力22.1MPa以上の超臨界状態にするには、Gaイオンを含有する水溶液を耐圧容器に入れて温度390℃以上且つ圧力22.1MPa以上にすることが好ましい。圧力は、耐圧容器の内容積と耐圧容器に入れる水溶液の液量と耐圧容器内の温度及び圧力調整弁の設定によって決定される。反応時間は特に限定するものではないが、例えば0.5時間以上100時間以下としてもよい。反応終了後、耐圧容器内の温度を下げ、α-Ga2O3結晶膜54が付着した下地基板52(複合基板50)を耐圧容器から取り出す。
【0022】
ドーパントを含有したα-Ga2O3結晶膜54を生成させたい場合には、Gaイオンを含有する水溶液にドーパントに対応するイオンを含有させておけばよい。ドーパントとしては、例えば炭素(C)、珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)などの14族元素が挙げられる。α-Ga2O3結晶膜54にドーパントを含有させることでα-Ga2O3結晶膜54の導電性を制御することができる。
【0023】
耐圧容器の一例を
図2に示す。
図2の耐圧容器10は、ステンレス製であり、有底筒状の容器本体11の開口部に設けられた雌ネジに、雄ネジが設けられた突起12aの付いた蓋12がねじ込まれたものである。耐圧容器10の内容積は、50mL以上が好ましい。耐圧容器10の容器本体11には、Gaイオンを含有する水溶液14が入っている。この水溶液14は、好ましくはpH9.0~11.0(より好ましくはpH9.5~10.5)に調整されている。この水溶液14には、Pt製の箱状の治具16の底面に配置された下地基板52が浸漬されている。下地基板52は、加工変質層が除去された面が上を向くように配置されている。
【0024】
図3は水熱合成システム20の概略説明図である。この水熱合成システム20では、電気炉筐体22に耐圧容器10がセットされている。電気炉筐体22の内部には、ヒーター24及び炉内温度測定用熱電対26が取り付けられている。耐圧容器10には、耐圧容器10の内部温度を測定する耐圧容器用熱電対28が取り付けられている。ヒーター24へ供給する電力は、炉内温度測定用熱電対26によって測定される炉内温度が設定温度になるように制御される。耐圧容器10には、配管30が接続されている。配管30の一端30aは、耐圧容器10の内部に配置され、配管30の他端30bは、大気中に配置されている。配管30は、冷却水槽40内の冷却水によって冷却される。配管30のうち冷却水槽40から他端30bまでの間には、圧力計32と安全弁34と圧力調整弁36とが取り付けられている。ヒーター24により耐圧容器10の全体を加熱し、耐圧容器10の内部温度が390℃以上で且つ耐圧容器10の内部圧力が22.1MPa以上になるようにする。耐圧容器10の内部圧力は、耐圧容器10の内容積と耐圧容器10に入れる水溶液14の液量と容器内温度及び圧力調整弁36の設定によって決定される。そのため、容器内温度を390℃以上にしたときに容器内圧力が22.1MPa以上になるように、耐圧容器10に入れる水溶液14の液量を調整すればよい。この状態で所定時間保持し、その後、耐圧容器10の内部温度を室温まで冷却した後、α-Ga
2O
3結晶膜54が付着した下地基板52(複合基板50)を耐圧容器10から取り出し、純水にてリンスした後、乾燥器で乾燥させる。
【0025】
[酸化ガリウム結晶膜の製法]
続いて、酸化ガリウム結晶膜の製法について説明する。酸化ガリウム結晶膜の製法の一例は、複合基板50から下地基板52を除去して自立したα-Ga2O3結晶膜54を得るものである。複合基板50から下地基板52を除去する方法としては、研削、研磨、レーザーリフトオフ、基板部分の酸又はアルカリによるエッチング、RIE(反応性イオンエッチング)などが挙げられる。複合基板50から下地基板52を除去することで、自立したα-Ga2O3結晶膜54を得ることができる。α-Ga2O3結晶膜54は、下地基板52が除去されていれば、別の基板上に転載されていてもよい。
【0026】
以上説明した複合基板50及び複合基板50の製法では、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との間の剥離が抑制された複合基板を提供できる。こうした効果が得られる理由は、例えば、α-Ga2O3結晶膜54中にアルカリ金属元素の少なくとも1種が好適な濃度で含まれているためと推察される。また、α-Ga2O3結晶膜54中にアルカリ金属元素の少なくとも1種が好適な濃度で含まれていることにより、β-Ga2O3等の異相が抑制され、α-Ga2O3結晶が安定して生成されるという効果も期待される。複合基板50の製法は、複合基板50を製造するのに適している。酸化ガリウム結晶膜の製法では、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との間の剥離が抑制されたクラックの少ない複合基板50から下地基板52を除去するため、クラックの少ないα-Ga2O3結晶膜54が自立膜として得られる。なお、複合基板50において、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との剥離面積の割合は、例えば形成面52aの10%以下であるものとしてもよく、3%以下が好ましい。
【0027】
また、複合基板50では、α-Ga2O3結晶膜54の膜厚が10μm以上であるため、下地基板52を除去すれば、10μm以上の厚膜の自立したα-Ga2O3結晶膜54が得られる。このようなα-Ga2O3結晶膜54は、厚さ方向に電流を流す必要のある縦型構造のパワー半導体に用いるのに適している。なお、α-Ga2O3結晶膜54の膜厚は、用途に応じて適宜調整すればよいが、例えば100μm以下としてもよい。α-Ga2O3結晶膜54の膜厚は、例えば、使用するGaの量や濃度、水熱合成の時間を変えることによって調整できる。
【0028】
さらに、複合基板50において、下地基板52はα-Cr2O3基板であるため、α-Ga2O3結晶膜が好適な状態で生成されることなどにより、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との間の剥離がより抑制されたものとなる。
【0029】
さらにまた、複合基板50において、α-Ga2O3結晶膜54は、下地基板52との(0001)面及び(10-10)面の結晶方位差がいずれも0.4°以下であること、換言すれば、下地基板52と結晶方位がほぼ同一であることが好ましい。結晶方位がほぼ同一であれば、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との間にひずみが生じにくいため、両者の間の剥離がより抑制されたものとなる。なお、(0001)面及び(10-10)面の結晶方位差は、各々、0.3°以下がより好ましく、0.2°以下がさらに好ましく、0.1°以下が一層好ましい。
【0030】
更にまた、α-Ga2O3結晶を、高耐圧が要求されるパワー半導体等に利用する場合、結晶品質によって絶縁破壊電界特性が左右されるため、高い結晶品質が要求される。そのため、複合基板50において、α-Ga2O3結晶膜54は、(006)面及び(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅がいずれも2000arcsec以下であること、換言すれば、結晶性(結晶品質)が十分高いことが好ましい。なお、(006)面のX線ロッキングカーブ半値幅は、1600arcsec以下であることが好ましく、1000arcsec以下としてもよく、100arcsec以下としてもよい。(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅は、1900arcsec以下であることが好ましく、1000arcsec以下としてもよく、400arcsec以下としてもよい。(006)面及び(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅は、各々、50arcsec以上としてもよい。
【0031】
そしてまた、複合基板50において、α-Ga2O3結晶膜54は、Cr及びNiの少なくとも一方の含有量が2.0×1015~1.0×1017atoms/cm3であることが好ましい。こうすれば、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との間の剥離がより抑制されたものとなる。また、Cr及びNiの各々の含有量が2.0×1015~1.0×1017atoms/cm3であることが好ましい。また、Cr及びNiの含有量の総和が1.6×1017atoms/cm3以下であることが好ましく、5.0×1016atoms/cm3以下であることがより好ましい。
【0032】
そしてさらに、複合基板50において、α-Ga2O3結晶膜54は、Li、Na及びKの各々の含有量が1.2×1015~1.0×1018atoms/cm3であることが好ましい。また、Li、Na及びKの各々の含有量の総和が1.2×1015~1.2×1018atoms/cm3であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、下地基板52は、α-Cr2O3基板としたが、下地基板52は、サファイア基板や、α-Fe2O3基板、α-Ga2O3基板などとしてもよい。ただし、下地基板52の種類によっては、α-Ga2O3結晶が膜状でなく粒子状に生成したり、β-Ga2O3結晶などの異相が生成したりしやすいことがある。下地基板52がα-Cr2O3基板であれば、α-Ga2O3結晶が膜状に生成しやすく、異相も生じにくいため、好ましい。なかでも、下地基板52がα-Cr2O3固溶体基板であれば、α-Ga2O3結晶膜54の結晶性がより高く、また、α-Ga2O3結晶膜54と下地基板52との結晶方位差がより小さいため、好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0036】
[実施例1]
1.下地基板準備
α-Cr2O3高純度基板である市販のc面(オフ角無し)α-Cr2O3単結晶基板を約4mm角(□4mm)に切り出し、両面をダイヤモンドスラリーにて鏡面研磨した後、更に片面をCMP処理で仕上げた。CMP処理で仕上げた面を下地CMP面、他方の面を下地非CMP面とも称する。
【0037】
2.水熱合成
硝酸ガリウム八水和物(キシダ化学製)0.1M水溶液を作製し、pH調整剤として1M KOH水溶液を用いてpHを10.0に調整し、原料溶液を得た。続いて、
図2に示すSUS316製の耐圧容器10(内径19mm、内容積50mL)に、4mm角のc面α-Cr
2O
3単結晶基板(下地基板52)を、厚さ50μmのPt箔で作製した高さ10mm、幅10mm、奥行き10
mmの治具16内に下地CMP面を上にした状態で入れ、更に前出の原料溶液45mLを入れ、密閉した。続いて、耐圧容器10を水熱合成システム20の電気炉筐体22にセットした。なお、圧力調整弁36は予め耐圧容器10の内部圧力が30.0MPaとなるようにセットしておいた。次に、電気炉筐体22のヒーター24により耐圧容器10の全体を加熱し、耐圧容器10の内部温度を410℃とした。このとき、耐圧容器10の内部圧力は30.0MPaであった。この状態で24時間保持した。耐圧容器10の内部温度を室温まで冷却した後、得られた基板(複合基板)を耐圧容器10から取り出し、純水にてリンスした後、乾燥器で乾燥させた。この複合基板では、下地CMP面上に結晶膜が生成していた。
【0038】
3.下地基板の除去
上記2.で得られた複合基板の下地側の面(下地非CMP面)を研磨用プレートにワックスで貼りつけ、結晶膜の表面をダイヤモンドスラリーで研磨し、CMPにて平滑に仕上げた(結晶膜CMP面)。研磨用プレートから複合基板を外し、複合基板の結晶膜CMP面に、ワックスを用いてサファイア基板を接合して接合体を得た。更に、接合体のサファイア面を研磨用プレートにワックスで貼りつけ、グラインダにて#1000及び#6000の砥石を用いて下地基板(Cr2O3部分)を研削除去した。これにより、サファイア基板に転載された酸化ガリウム結晶膜が得られた。サファイア基板はワックスで酸化ガリウム結晶膜に貼り付けられているため、容易に除去できる。これにより、自立した酸化ガリウム結晶膜が得られる。
【0039】
4.評価
(1)結晶相
上記2.で下地CMP面上に生成した結晶に対し、XRD装置(リガク製、RINT-TTR III)を用い、下記の条件にてXRDプロファイルを取得した。その結果、生成した結晶膜の主相はα-Ga2O3であると同定された。
・X線管球 Cuターゲット
・管電圧 50kV
・管電流 300mA
・2θ/θ法
・2θ範囲 10°~80°
【0040】
(2)剥離有無
上記2.で得られた複合基板に対し、下地基板とα-Ga2O3結晶膜との間の剥離有無を目視にて確認したところ、複合基板外周部にわずか(3%以下)に剥離が見られたものの、全体的な剥離は認められなかった。
【0041】
(3)微構造観察
上記2.で得られた複合基板の表面(α-Ga
2O
3結晶膜表面)を走査電子顕微鏡(SEM,日本電子製JSM-IT500)により観察した結果、
図4のような結晶膜が確認された。基板を樹脂埋めした後、マイクロカッターにて断面を作製し、クロスセクションポリッシャ(日本電子製IB-19500CP)で断面観察用試料を作製した。得られた断面の反射電子像を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、SU-5000)にて撮影した。このとき、
図5に示されるように、コントラスト差により複合基板のα-Cr
2O
3(下地基板)とα-Ga
2O
3結晶膜とを容易に見分けることができる。この断面SEM像よりα-Ga
2O
3結晶膜の膜厚を計測した。結果を表1に示す。
図4、5からわかるように、下地基板上に生成した結晶膜には、微細な孔がほとんど確認されなかった。
【0042】
(4)X線ロッキングカーブ半値幅
XRD装置(Bruker-AXS製、D8-DISCOVER)を用い、上記2.で下地CMP面上に生成した結晶の(006)面および(104)面のXRC測定を行った。具体的には2θ、ω、χ及びφを調整してα-Ga2O3の(006)面又は(104)面のピークが出るように軸立てを行った後、管電圧40kV、管電流40mA、アンチスキャッタリングスリット3mmで、(006)面測定の場合はω=20.0~20.4°の範囲、(104)面測定の場合はω=16.5~17.5°の範囲、ωステップ幅0.001°、及び計数時間0.5秒の条件を用いた。また、X線源にはGe(022)非対称反射モノクロメーターでCuKα線を平行単色光化したものを用いた。得られたα-Ga2O3のXRCプロファイルの半値幅は、XRD解析ソフトウェア(Bruker-AXS製、「LEPTOS」Ver4.03)を使用し、プロファイルのスムージングを行った後にピークサーチを行うことにより決定した。結果を表1に示す。
【0043】
(5)EBSD(後方散乱電子回折)
上記(3)で断面観察用に作製した試料を用い、EBSD(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製、Nordlys Nano)を組み合わせた走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、SU-5000)を用いて、EBSD測定を行った。得られた逆極点図方位マッピングより、α-Ga2O3結晶膜は基板法線方向にc軸配向した配向層であると共に、基板面内方向にも配向した二軸配向層であることが分かった。さらに得られた結晶方位マッピングにおいて、(0001)方位および(10-10)方位に対するα-Ga2O3、α-Cr2O3の傾斜角度分布を解析し、得られた角度分布のピークトップ位置の差を算出した。具体的には、まずα-Ga2O3膜とα-Cr2O3基板の双方を含む視野で測定した結晶方位マッピング像に対して、解析プログラムのLegendにより表示される傾斜角度分布のヒストグラムにおいて、ヒストグラムのClass widthを0.010に設定した上で、α-Ga2O3膜部分の(0001)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置が10~11度の範囲内になるように、かつα-Ga2O3膜部分の(10-10)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置が10~11度の範囲内になるように、解析プログラムのvirtual Chamberを用いて軸合わせを行った。この時のα-Ga2O3膜部分の(0001)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置の角度をc1[°](10<c1<11)、α-Ga2O3膜部分の(10-10)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置の角度をa1[°](10<a1<11)とした。続いて、軸合わせの状態を維持したままで、下地基板(α-Cr2O3)部分の(0001)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置の角度c2[°]を求め、下地基板とα-Ga2O3膜の(0001)方位差を|c1-c2|[°]で算出した。同様に、下地基板(α-Cr2O3)部分の(10-10)方位の傾斜角度分布のピークトップ位置の角度a2[°]を求め、下地基板とα-Ga2O3膜の(10-10)方位差を|a1-a2|[°]で算出した。結果を表1に示す。この結果より、実施例1では、下地基板とα-Ga2O3膜の方位差は(0001)方位で0.10度、(10-10)方位で0.13度であり、下地基板と結晶方位をほぼ同一にしたα-Ga2O3膜が得られたことがわかった。なお、上記の説明では、(0001)面の結晶方位[0001]を(0001)方位とし、(10-10)面の結晶方位[10-10]を(10-10)方位として説明した。EBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
<EBSD測定条件>
・加速電圧: 15kV
・スポット強度: 70
・ワーキングディスタンス: 22.5mm
・ステップサイズ: 0.4μm
・試料傾斜角:70°
・測定プログラム: AZtec
・解析プログラム: OXFORD HKL CHANNEL5
【0044】
(6)組成分析
二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、上記2.で得られた複合基板の表面のα-Ga2O3結晶膜の組成分析(D-SIMS分析)を行った。このD-SIMS分析の諸条件は以下のとおりとした。
<D-SIMS分析条件>
・装置:CAMECA社製 IMS-7f
・一次イオン種:O2
+
・一次イオン加速電圧:8.0kV
各イオンの含有量はGa2O3標準試料を用いて「atoms/cm3」の単位に換算し、デプスプロファイルを作成、表面より1μmから2μmの深さの値の平均値として求めた。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
原料溶液を調製するにあたり、pH調整剤として1M LiOH水溶液を用い、硝酸ガリウム八水和物0.1M水溶液のpHを10.5に調整し、耐圧容器10の内部温度を400℃とした以外は実施例1と同様の方法で試料を作製、評価した。下地基板上に生成した結晶膜の主相はα-Ga2O3であった。各種評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
原料溶液を調製するにあたり、pH調整剤として1M NaOH水溶液を用い、硝酸ガリウム八水和物0.1M水溶液のpHを9.5に調整した以外は実施例1と同様の方法で試料を作製、評価した。下地基板上に生成した結晶膜の主相はα-Ga2O3であった。各種評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
α-Cr
2O
3固溶体基板である下地基板を以下のように作製した。原料粉末としてCr
2O
3粉末100重量部に、TiO
2粉末5重量部及びFe
2O
3粉末16重量部を添加し、湿式混合した混合粉末を用い、
図6に示されるAD(エアロゾルデポジション)装置120によりサファイア基板(直径50.8mm(2インチ)、厚さ1.0mm、c面、オフ角0.5°)上にAD膜を形成した。
図6に示されるAD装置120は、大気圧より低い気圧の雰囲気下で原料粉末を基板上に噴射するAD法に用いられる装置として構成されている。この成膜装置120は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部122と、原料粉末をサファイア基板121に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部130とを備えている。エアロゾル生成部122は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからのキャリアガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室123と、生成したエアロゾルを成膜部130へ供給する原料供給管124と、エアロゾル生成室123及びその中のエアロゾルに10~100Hzの振動数で振動を付与する加振器125とを備えている。成膜部130は、サファイア基板121にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ132と、成膜チャンバ132の内部に配設されサファイア基板121を固定する基板ホルダ134と、基板ホルダ134をX軸-Y軸方向に移動するX-Yステージ133とを備えている。また、成膜部130は、先端にスリット137が形成されエアロゾルをサファイア基板121へ噴射する噴射ノズル136と、成膜チャンバ132を減圧する真空ポンプ138とを備えている。
【0048】
AD成膜条件は以下のとおりとした。すなわち、キャリアガスはArとし、長辺5mm×短辺0.3mmのスリットが形成されたセラミックス製のノズルを用いた。ノズルのスキャン条件は、0.5mm/sのスキャン速度で、スリットの長辺に対して垂直かつ進む方向に55mm移動、スリットの長辺方向に5mm移動、スリットの長辺に対して垂直かつ戻る方向に55mm移動、スリットの長辺方向かつ初期位置とは反対方向に5mm移動、とのスキャンを繰り返し、スリットの長辺方向に初期位置から55mm移動した時点で、それまでとは逆方向にスキャンを行い、初期位置まで戻るサイクルを1サイクルとし、これを400サイクル繰り返した。室温での1サイクルの成膜において、搬送ガスの設定圧力を0.07MPa、流量を9L/min、チャンバ内圧力を100Pa以下に調整した。このようにして形成したAD膜は厚み約100μmであった。
【0049】
AD膜を形成したサファイア基板をAD装置から取り出し、窒素雰囲気中で1680℃にて4時間アニールした。このようにして得た基板をセラミックスの定盤に固定し、AD膜を形成した側の面を砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化した。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。□4mmのサイズにダイサーを用いて切断した後、コロイダルシリカを用いた化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げ加工を行い、複合下地基板を得た。加工後の算術平均粗さRaは0.1nm、研削及び研磨量は50μmであり、研磨完了後の複合下地基板の厚みは1.05mmとなった。なお、AD膜を形成した側の面を「表面」と称することとする。
【0050】
電子線プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA)(日本電子株式会社製、電子線プローブマイクロアナライザー、JXA-8500F)を用いて、複合下地基板表面の組成分析をプローブサイズ30μm×30μmで実施した。FE-EPMA測定は、加速電圧15kV、照射電流50nAの測定条件で行った。その結果、Cr、O、Ti及びFeが検出された。検出された元素の定量値(Oを除く原子の原子組成百分率)は、Crが83.7at%、Tiが3.7at%、Feが12.6at%であった。
【0051】
上述のように作製した複合下地基板をAD膜(α-Cr2O3固溶体基板)側の面を上にした状態で用いた以外は、実施例1と同様の方法で試料を作製、評価した。下地基板上に生成した結晶膜の主相はα-Ga2O3であった。各種評価結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
[比較例1]
下地基板として□4mmのc面サファイア基板(オフ角無し、表面CMP処理済み)を用い、ミストCVD法にて以下のようにα-Ga2O3結晶膜を作製した。原料溶液として、ガリウムアセチルアセトナート濃度が0.08mol/Lで、36%塩酸を体積比で1.5%を含有する水溶液を用いた。この原料溶液を超音波振動子を用いて2.4MHzで振動させることによりミスト化させ、窒素ガスによって成膜室に導入した。成膜室では、予め、内部に配設されたサセプタ上に基板を配置し、室内を490℃まで昇温させておいた。ミスト化された原料溶液は、下地基板の表面でのCVD反応によって膜状に積層されるので、こうした成膜を60分行い、それを5回繰り返すことで、下地基板上に結晶膜を積層させた。下地基板上に生成した結晶膜の主相はXRDにてα-Ga2O3と確認された。比較例1では、目視にて膜の50%以上が剥離し、剥離部分の周辺でクラックが多発していたため、膜厚は一部剥離が起きていなかった部分での断面観察にて計測した。各種評価結果を表2に示す。
【0054】
[比較例2]
下地基板として実施例1と同様のα-Cr2O3基板を用い、ミストCVD法により比較例1と同様にしてα-Ga2O3結晶膜を作製した。但し、60分の成膜を10回繰り返し、計600分とした。下地基板上に生成した結晶膜の主相は、XRDにてα-Ga2O3と確認された。比較例2では、目視にて膜の40%以上が剥離し、剥離部分の周辺でクラックが多発していた。膜厚は一部剥離が起きていなかった部分での断面観察にて計測した。各種評価結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
表2に示すように、α-Ga2O3結晶膜に含まれるアルカリ金属元素の各々の含有量が全て1.2×1015atoms/cm3未満である比較例1及び比較例2では、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の広い範囲に剥離が発生した。一方で、表1に示すように、アルカリ金属元素の少なくとも1種の含有量が1.2×1015~1.0×1018atoms/cm3である実施例1~4では、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との間の剥離が抑制されており、剥離面積はいずれも3%以下であった。また、実施例1~4では、α-Ga2O3結晶膜と下地基板との(0001)面及び(10-10)面の結晶方位差がいずれも0.4°以下であり、α-Ga2O3結晶膜の(006)面及び(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅がいずれも2000arcsec以下であった。
【0057】
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0058】
本出願は、2021年4月27日に出願された日本国特許出願第2021-075004号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えばパワー半導体用材料などに利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 耐圧容器、11 容器本体、12 蓋、12a 突起、14 Gaイオンを含有する水溶液、16 治具、20 水熱合成システム、22 電気炉筐体、24 ヒーター、26 炉内温度測定用熱電対、28 耐圧容器用熱電対、30 配管、30a 一端、30b 他端、32 圧力計、34 安全弁、36 圧力調整弁、40 冷却水槽、50 複合基板、52 下地基板、52a 形成面、54 α-Ga2O3結晶膜、55 α-Ga2O3結晶、120 AD装置、121 サファイア基板、122 エアロゾル生成部、123 エアロゾル生成室、124 原料供給管、125 加振器、130 成膜部、132 成膜チャンバ、133 X-Yステージ、134 基板ホルダ、136 噴射ノズル、137 スリット、138 真空ポンプ。