(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-04
(45)【発行日】2025-03-12
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20250305BHJP
H01J 37/147 20060101ALN20250305BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H01J37/147
(21)【出願番号】P 2024536679
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029107
(87)【国際公開番号】W WO2024024023
(87)【国際公開日】2024-02-01
【審査請求日】2024-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智宏
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157373(WO,A1)
【文献】特開2021-129452(JP,A)
【文献】特開2016-144277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H01J 37/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流電圧を入力する第1入力端子対と、
前記第1入力端子対を構成する2つの端子間に接続された第1コンデンサと、
電磁石を接続して出力電流を供給する第1出力端子対と、
前記第1コンデンサと前記第1出力端子対との間に接続された第1電力変換回路と、
前記第1コンデンサと前記第1電力変換回路とを電気的に接続する第1配線と、
を含む電力変換部と、
外部から順次供給される電流指令値にもとづいて、前記電力変換部を制御する
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記電流指令値の電流値から、連続する2つの極大値または連続する2つの極小値を検出して前記出力電流の周波数を推定し、
前記出力電流の周波数があらかじめ設定されたしきい値範囲以内の場合に、前記電力変換部の動作を停止するための第1信号を生成し、
前記しきい値範囲は、前記
第1コンデンサの静電容量および前記第1配線の寄生インダクタンスを含む共振回路の共振周波数にもとづいて設定された電源装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電流指令値の電流値のうち連続する極大値および極小値を検出して、前記出力電流のリプル幅を推定し、前記出力電流のリプル幅があらかじめ設定された第1しきい値以上の場合に前記電力変換部の動作を停止するための第2信号を生成する請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電流指令値の電流値があらかじめ設定された第2しきい値以上の場合に前記電力変換部の動作を停止するための第3信号を生成する請求項2記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1信号、前記第2信号および前記第3信号のいずれもが生成された場合に、前記電力変換部を停止させる第4信号を生成し、前記第4信号を前記電力変換部に出力する請求項3記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第4信号が所定の期間継続して生成された場合に、前記第4信号を前記電力変換部に出力する請求項4記載の電源装置。
【請求項6】
前記電力変換部は、
前記第1直流電圧とは異なる第2直流電圧を入力する第2入力端子対と、
前記第2入力端子対を構成する2つの端子間に接続された第2コンデンサと、
前記電磁石を接続して前記出力電流を供給する第2出力端子対と、
前記第2コンデンサと前記第2出力端子対との間に接続された第2電力変換回路と、
前記第2コンデンサと前記第2電力変換回路とを電気的に接続する第2配線と、
を含み、
前記第2電力変換回路は、前記第1電力変換回路と出力側で直列に接続され、
前記第1電力変換回路は、前記電流指令値に応じた前記出力電流を出力し、
前記第2電力変換回路は、前記第1電力変換回路が前記出力電流を出力している期間中、前記電磁石に一定の第3直流電圧を印加する請求項1記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子ビームの偏向走査用の電磁石の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速された荷電粒子ビームを利用するさまざまな応用装置が開発されている。このような応用装置では、荷電粒子ビームを偏向走査して対象領域に照射する。荷電粒子が電磁石を通過するときに、電磁石に流す電流を制御することによって、荷電粒子ビームを走査することができる。
【0003】
電磁石に流す電流を正確に制御する電源装置がある。このような電源装置は、電力変換回路により、外部から供給される電流指令値に追従するように、電磁石に電流を出力する。
【0004】
電源装置の電力変換回路は、たとえば非絶縁のチョッパ回路により構成される場合がある。このような電力変換回路では、チョッパ回路の直流入力にコンデンサを接続し、チョッパ回路のスイッチング動作によるリプル電流を吸収し、チョッパ回路に比較的安定した直流電圧を供給する。コンデンサとチョッパ回路との間の距離は十分に短く、十分に太い配線により接続されるが、配線等の寄生インダクタンスをゼロとすることは困難である。このような配線等にもとづく寄生インダクタンスは、コンデンサの静電容量と共振回路を形成し得る。
【0005】
荷電粒子の走査範囲は、走査する対象に応じてさまざまである。電源装置の負荷となる電磁石のインダクタンス値は、ほぼ一定であるため、荷電粒子の走査範囲に応じて、電源装置が出力する電流の周波数は変化する。電源装置が出力する電流の周波数が、コンデンサおよび配線等の寄生インダクタンスによる共振周波数に近くなると、電力変換回路のスイッチング素子に過大な電流が流れる場合がある。スイッチング素子に流れる電流やその電流による損失が許容値を超えると、スイッチング素子の破損等の不具合を生じ得る。
【0006】
出力すべき電流の周波数が、コンデンサと寄生インダクタンスによる共振周波数に近い場合に安全に保護できる電源装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施の形態は、上記問題点を解決するためになされたものであり、出力電流の周波数が、コンデンサの静電容量および寄生インダクタンスによる共振周波数に近い場合に安全に保護できる電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態に係る電源装置は、第1直流電圧を入力する第1入力端子対と、前記第1入力端子対を構成する2つの端子間に接続された第1コンデンサと、電磁石を接続して出力電流を供給する第1出力端子対と、前記第1コンデンサと前記第1出力端子対との間に接続された第1電力変換回路と、前記第1コンデンサと前記第1電力変換回路とを電気的に接続する第1配線と、を含む電力変換部と、外部から順次供給される電流指令値にもとづいて、前記電力変換部を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記電流指令値の電流値から、連続する2つの極大値または連続する2つの極小値を検出して前記出力電流の周波数を推定し、前記出力電流の周波数があらかじめ設定されたしきい値範囲以内の場合に、前記電力変換部の動作を停止するための第1信号を生成する。前記しきい値範囲は、前記第1コンデンサの静電容量および前記第1配線の寄生インダクタンスを含む共振回路の共振周波数にもとづいて設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施の形態によれば、出力電流の周波数が、コンデンサの静電容量および寄生インダクタンスによる共振周波数に近い場合に安全に保護できる電源装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る電源装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】実施形態の電源装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】実施形態の電源装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
【
図4】実施形態の電源装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る電源装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、実施形態の電源装置10は、電力変換部20と、制御装置50と、を備える。電力変換部20は、電源1に接続される。この例では、電源1は交流電源である。交流電源は、たとえば、三相交流電源である。電力変換部20は、出力端子21a,21bを含む。出力端子21aと出力端子21bとの間には、負荷が接続される。
【0014】
負荷は、電磁石2である。電磁石2は、電磁石2に流れる電流によって、流れた電流に応じた磁界を生成する。加速器等から射出された荷電粒子は、電界中を走行する。磁界は、電界に交差するように生成される。電界および磁界中を走行する荷電粒子は、電界および磁界の方向に直交する方向に、電界および磁界の大きさに応じたローレンツ力を受ける。磁界の大きさを変化させることにより、荷電粒子は偏向され、設定された照射領域が走査される。
【0015】
制御装置50は、電力変換部20に接続されている。制御装置50は、図示しない上位制御システムに接続されている。上位制御システムは、荷電粒子の走査範囲にもとづいて設定された電流指令値Irefのデータを有している。上位制御システムは、設定された電流指令値Irefのデータを制御装置50に順次送信する。制御装置50は、受信した電流指令値Irefのデータにもとづいて、ゲート信号Vgを生成し電力変換部20にゲート信号Vgを供給する。
【0016】
制御装置50は、保護判定部60を含む。保護判定部60は、上位制御システムから時系列で順次受信した電流指令値Irefのデータにもとづいて、電力変換部20が出力すべき出力電流iOUTの周波数を判定する。保護判定部60では、共振周波数に関するしきい値範囲Δfthがあらかじめ設定されている。保護判定部60は、電力変換部20が出力する出力電流iOUTの周波数が、しきい値範囲Δfth内であるか否かを判定する。保護判定部60は、出力する出力電流iOUTの周波数が、しきい値範囲Δfth以内と判定した場合には、たとえば、制御装置50にゲートブロック(GB)要求を出力する。制御装置50は、GB要求にもとづいてGB指令を生成し、電力変換部20に供給する。電力変換部20は、GB指令により動作を停止する。電力変換部20の動作の停止により、電力変換部20は、過大な電流ストレス等から保護される。
【0017】
図2は、実施形態の電源装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図2には、制御装置50を構成する保護判定部60の構成例が示されている。
実施形態の電源装置10では、出力電流iOUTは、電流指令値Irefに追従するように出力されるので、保護判定部60は、電流指令値Irefの周波数を計算することによって、出力電流iOUTの周波数を推定する。
【0018】
図2に示すように、保護判定部60は、領域切替検出部61と周波数判定部62とを含む。領域切替検出部61は、制御装置50が時系列で取得した電流指令値Irefのデータを順次入力し、電流指令値Irefの電流値が、直前の電流値よりも大きいか、小さいかを監視することによって、電流値の極大値を検出する。領域切替検出部61は、電流指令値Irefの極大値を検出したときにアクティブとなる検出信号OUT1を出力する。領域切替検出部61は、電流指令値Irefの電流値が極大値であることを検出するたびに検出信号OUT1を出力する。
【0019】
領域切替検出部61では、電流指令値Irefの電流値が極大値であることを検出するために、現在の電流指令値Irefの電流値が直前の電流指令値Irefの電流値よりも大きいか、小さいかを監視する。領域切替検出部61では、電流指令値Irefの電流値が増大している期間において、現在の電流値が直前の電流値よりも小さくなったときに極大値を検出したものとする。なお、極大値の検出時刻は、直前の電流値よりも小さくなった現在の時刻としてもよいし、直前の時刻としてもよい。
【0020】
領域切替検出部61は、電流指令値Irefの電流値が極小値であることを検出するようにしてもよい。この場合には、領域切替検出部61では、電流指令値Irefの電流値が減少している期間において、現在の電流値が直前の電流値よりも大きくなったときに極小値を検出したものとする。
【0021】
周波数判定部62は、領域切替検出部61から検出信号OUT1が入力されるたびに、検出信号OUT1の入力時刻を記憶する。周波数判定部62は、その入力時刻およびその直前に入力され記憶された入力時刻の差分を計算して、電流指令値Irefの周期を計算する。周波数判定部62は、計算した周期の逆数を計算して周波数を算出する。
【0022】
周波数判定部62には、しきい値範囲Δfthが設定されている。周波数判定部62は、計算された電流指令値Irefの周波数がしきい値範囲Δfth以内であるか否かを判定する。周波数判定部62は、電流指令値Irefの周波数の計算値がしきい値範囲Δfth以内の場合には、出力がアクティブとなる周波数判定信号(第1信号)OUT2を出力する。
【0023】
周波数判定部62は、電流指令値Irefの周波数を計算して、アクティブな周波数判定信号OUT2を出力すると、次の電流指令値Irefの周波数の計算の結果が出力されるまで、アクティブな周波数判定信号OUT2の状態を維持する。次の電流指令値Irefの周波数の計算値がしきい値範囲Δfth以内の場合には、周波数判定部62は、アクティブな周波数判定信号OUT2の状態をさらに維持する。次の電流指令値Irefの周波数の計算値がしきい値範囲Δfth外の場合には、周波数判定部62は、周波数判定信号OUT2を非アクティブに反転させる。非アクティブな周波数判定信号OUT2の状態は、次の電流指令値Irefの周波数の計算の結果が出力されるまで維持される。
【0024】
保護判定部60は、好ましくは、リプル幅検出部63、リプル幅判定部64および振幅判定部65を含むことができる。リプル幅検出部63およびリプル幅判定部64は、入力された電流指令値Irefのリプル幅を検出し、検出されたリプル幅があらかじめ設定されたしきい値以上の場合に、出力がアクティブとなるリプル幅判定信号(第2信号)OUT4を出力する。
【0025】
より具体的には、リプル幅検出部63は、電流指令値Irefのデータを時系列データとして入力し、電流指令値Irefの電流値を監視する。たとえば、リプル幅検出部63は、電流指令値Irefの電流値が次第に小さくなる期間において、電流値が直前の電流値よりも大きくなることに転じたタイミングでそのときの電流値Irvをリプル幅判定部64に出力する。その後、リプル幅検出部63は、電流指令値Irefの電流値が大きくなる期間において、電流値が直前の電流値よりも小さくなることに転じたタイミングでそのときの電流値Irpをリプル幅判定部64に出力する。
【0026】
リプル幅判定部64は、2つの電流値Irp,Irvの差をリプル幅として計算する。リプル幅判定部64は、あからじめ設定されたしきい値(第1しきい値)Irthを有する。リプル幅判定部64は、計算されたリプル幅(Irp-Irv)がしきい値Irth以上の場合には、出力がアクティブとなるリプル幅判定信号OUT4を出力する。リプル幅判定部64は、リプル幅がしきい値Irth以上の場合に、故障可能性が高まるものとして、GB要求生成のための条件とする。
【0027】
リプル幅判定部64は、電流指令値Irefのリプル幅がしきい値Irthよりも小さい値となるまで、出力がアクティブの状態を維持する。リプル幅がしきい値Irthよりも小さい場合に、リプル幅判定部64は、リプル幅判定信号OUT4を非アクティブに反転させる。リプル幅判定部64は、出力が非アクティブの状態を、電流指令値Irefのリプル幅がしきい値Irth以上となるまで維持する。
【0028】
振幅判定部65は、電流指令値Irefの電流値をあらかじめ設定されたしきい値(第2しきい値)Iathと比較する。振幅判定部65は、電流指令値Irefの電流値がしきい値Iath以上の場合に、出力がアクティブとなる振幅判定信号(第3信号)OUT5を出力する。振幅判定部65は、電流指令値Irefの電流値がしきい値Iathよりも小さい場合には、振幅判定信号OUT5を非アクティブとする。
【0029】
振幅判定部65は、この具体例のように、電力変換部20が正負両極の出力電流iOUTを出力する場合には、電流指令値Irefのデータの大きさおよびしきい値Iathは、正側および負側で絶対値で異なる値としてもよいし、同じ値としてもよい。
【0030】
この例の保護判定部60では、これらの複数の判定回路が設けられ、論理演算回路66によって、論理演算される。この例では、論理演算回路66は、AND回路である。論理演算回路66の判定出力(第4信号)OUTは、入力がすべてアクティブの場合に、アクティブとなる。
【0031】
この例では、保護判定部60は、オンディレイ回路67をさらに含んでいる。オンディレイ回路67は、論理演算回路66からの判定出力OUTを入力する。オンディレイ回路67は、アクティブな判定出力OUTが入力され、アクティブな判定出力OUTが、あらかじめ設定された時間継続するか否かを判定する。オンディレイ回路67は、アクティブな判定出力OUTが所定のオンディレイ時間Td継続されると、制御装置50に対して、GB要求(GB request)を出力する。
【0032】
保護判定部60においては、判定結果等がアクティブの場合に、論理値“1”を出力する正論理としてもよいし、判定結果等がアクティブの場合に、論理値“0”を出力する負論理としてもよい。
【0033】
図1に戻って説明を続ける。
電力変換部20の構成について説明する。
電力変換部20は、変圧器22,25と、整流回路23,26と、チョッパユニット30,40と、を備える。
【0034】
変圧器22の1次側および変圧器25の1次側は、遮断器21を介して電源1に接続される。変圧器22の2次側には、整流回路23が接続されている。チョッパユニット30は、端子(第1入力端子対)31a,31bを含んでおり、整流回路23の出力は、端子31a,31bを介してチョッパユニット30に接続されている。
【0035】
変圧器25の2次側には、整流回路26が接続されている。チョッパユニット40は、端子(第2入力端子対)41a,41bを含んでおり、整流回路26の出力は、端子41a,41bを介してチョッパユニット40に接続されている。
【0036】
チョッパユニット30は、端子(第1出力端子対)31c,31dを含み、チョッパユニット40は、端子(第2出力端子対)41c,41dを含んでいる。チョッパユニット30の端子31cは、出力端子21aを介して電磁石2の一方の端子3aに接続されている。電磁石2の他方の端子3bは、出力端子21bを介して、チョッパユニット40の端子41dに接続されている。チョッパユニット30の端子31dおよびチョッパユニット40の端子41cは、互いに接続されている。つまり、チョッパユニット30,40の出力は、電磁石2を介して直列に接続されている。
【0037】
チョッパユニット30は、電流指令値Irefにもとづいて、高精度な電流値を有する出力電流を出力する。チョッパユニット40は、チョッパユニット30が出力し得る電圧値よりも高い電圧値を有する直流電圧を出力する。したがって、変圧器25は、変圧器22よりも高い交流電圧を出力し、整流回路26は、整流回路23が出力する電圧よりも高い電圧値の電圧を出力する。
【0038】
チョッパユニット30は、スイッチング素子32a~32dを含む。スイッチング素子32a,32bは直列に接続され、スイッチング素子32c,32dは直列に接続されている。スイッチング素子32a,32bの直列回路およびスイッチング素子32c,32dの直列回路は、並列に接続され、電力変換回路(第1電力変換回路)を構成する。コンデンサ(第1コンデンサ)33は、配線(第1配線)34a,34bを介してスイッチング素子32a~32dからなる電力変換回路に並列に接続されている。
【0039】
チョッパユニット40は、スイッチング素子42a~42dを含む。スイッチング素子42a,42bは直列に接続され、スイッチング素子42c,42dは直列に接続されている。スイッチング素子42a,42bの直列回路およびスイッチング素子42c,42dの直列回路は、並列に接続され、電力変換回路(第2電力変換回路)を構成する。コンデンサ(第2コンデンサ)43は、配線(第2配線)44a,44bを介してスイッチング素子42a~42dからなる変換回路に並列に接続されている。
【0040】
配線34a,34bおよび配線44a,44bは、それぞれ固有の寄生インダクタンスを有する。
図1では、配線34a,34bおよび配線44a,44bは、インダクタンスを表す記号で示されている。配線34a,34bの寄生インダクタンスとコンデンサ33の静電容量にもとづいて共振周波数が決定され、配線44a,44bの寄生インダクタンスとコンデンサ43の静電容量にもとづいて共振周波数が決定される。
【0041】
なお、共振周波数を決定するインダクタンス値や静電容量値は、上述のほか、コンデンサ33,43内部の配線構造やスイッチング素子等の配線構造等も考慮され得る。したがって、これらの共振周波数は、チョッパユニット30,40ごとに実験やシミュレーション等によりあらかじめ測定等され、測定値等にもとづいて、周波数に関するしきい値範囲Δfthが設定される。
【0042】
この例では、チョッパユニット30,40は、スイッチング素子をフルブリッジ接続しており、出力電流iOUTを正負の両方向に流すことができる。たとえば、電磁石の端子3aから端子3bに向かう電流の方向が正方向であり、端子3bから端子3aに向かう電流の方向が負方向である。チョッパユニットの回路構成をフルブリッジに代えて、ハーフブリッジ構成とすることもできる。チョッパユニットをハーフブリッジ構成とした場合には、出力電流は、正または負の単一方向の出力となる。電力変換部の構成は、一例であり、電磁石2の両端に所望の直流電圧を印加し、電流指令値Irefに追従する出力電流iOUTを電磁石2に供給できれば、他の構成としてもよい。
【0043】
実施形態の電源装置10の動作について説明する。
図3は、実施形態の電源装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
図3には、電源装置10が出力し、電磁石2に供給する出力電流iOUTの時間変化の様子が示されている。出力電流iOUTの方向は、電磁石2の端子3aに流入し、端子3bから流出する方向を正方向とし、その逆を負方向とする。
図3に示すように、この例では、チョッパユニット30,40は、フルブリッジ構成の電力変換回路のため、出力電流iOUTは、正負の両方向に流れ得る。出力電流iOUTは、誘導性の電磁石2に流れるため、この例では、直線状に上昇し、直線状に下降する。フルブリッジ構成の電力変換回路では、A領域~D領域のそれぞれに応じて、オンするスイッチング素子が決定される。A領域~D領域は、電流指令値Irefおよび出力電流iOUTが負荷に流れる方向および電流値の増減によって、A領域~D領域が設定される。
図3では、A領域、B領域、C領域およびD領域は、A、B、CおよびDとそれぞれ表記されている。
【0044】
時刻t1~t2および時刻t5~t6の間がA領域である。A領域では、出力電流iOUTは、0Aからほぼ直線状に上昇する。このように、A領域では、出力電流iOUTは正方向に流れ、電流値は時間とともに増加する。
【0045】
時刻t2~t3および時刻t6~t7の間がB領域である。B領域では、出力電流iOUTは、0Aに向かってほぼ直線状に下降する。このように、B領域では、出力電流iOUTは正方向に流れ、電流値は時間とともに減少する。
【0046】
時刻t3~t4および時刻t7~t8の間がC領域である。C領域では、出力電流iOUTは、0Aからほぼ直線状に下降する。このように、C領域では、出力電流iOUTは負方向に流れ、電流値は時間とともに減少する。
【0047】
時刻t4~t5および時刻t8~t9の間がD領域である。D領域では、出力電流iOUTは、0Aに向かってほぼ直線状に上昇する。このように、D領域では、出力電流iOUTは負方向に流れ、電流値は時間とともに増加する。
【0048】
出力電流iOUTの周波数は、出力電流iOUTの1周期分の期間の逆数として求められる。出力電流iOUTの1周期は、出力電流iOUTの2つの極大値の時間間隔、または出力電流iOUTの2つの極小値の時間間隔である。
【0049】
出力電流iOUTの極大値や極小値は、出力電流iOUTが2つの領域の間を遷移する時刻における電流値である。この例では、出力電流iOUTの極大値は、出力電流iOUTがA領域からB領域に遷移するタイミングで現れる。出力電流iOUTの極小値は、出力電流iOUTがC領域からD領域に遷移するタイミングで現れる。なお、出力電流iOUTが負方向のみの場合には、A領域およびB領域は現れず、C領域およびD領域が現れるので、出力電流iOUTの極大値は、出力電流iOUTがD領域からC領域に遷移するタイミングで現れる。出力電流iOUTが正方向のみの場合には、C領域およびD領域は現れず、A領域およびB領域が現れるので、出力電流iOUTの極小値は、出力電流iOUTがB領域からA領域に遷移するタイミングで現れる。
【0050】
図3の例では、出力電流iOUTの極大値は、時刻t2および時刻t6のときにそれぞれ現れる。このときの1周期は、T1である。また、出力電流iOUTの極小値は、時刻t4および時刻t8のときにそれぞれ現れる。このときの1周期は、T2である。
【0051】
出力電流iOUTに関するA領域~D領域の定義は、電流指令値Irefに適用することができる。すなわち、電流指令値Irefのデータが正方向の電流を表しており、その電流値が時間とともに大きくなる場合に、電流指令値Irefは、A領域での電力変換回路の動作に用いられる。電流指令値Irefのデータが正方向の電流を表しており、その電流値が時間とともに小さくなる場合に、電流指令値Irefは、B領域での電力変換回路の動作に用いられる。電流指令値Irefのデータが負方向の電流を表しており、その電流値が時間とともに小さくなる場合には、電流指令値Irefは、C領域での電力変換回路の動作に用いられる。電流指令値Irefのデータが負方向の電流を表しており、その電流値が時間とともに大きくなる場合には、電流指令値Irefは、D領域での電力変換回路の動作に用いられる。
【0052】
実施形態の電源装置10では、電流指令値Irefの周波数を計算して、出力電流iOUTの周波数を推定する。電流指令値Irefの周波数の計算では、電流指令値Irefの領域間の遷移により、電流指令値Irefの電流値の極大値または極小値のいずれかを検出して、1周期を算出し、周波数を計算する。
【0053】
図2に関連して説明した保護判定部60の各ブロックに入出力する信号の時間変化を用いて、電源装置10の動作についてさらに説明する。
図4は、実施形態の電源装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
図4の最上段の図は、電流指令値Irefの電流値の時間変化の例を表している。
図4の2段目の図は、領域切替検出部61の検出信号OUT1の時間変化の例を示している。
図4の3段目の図は、周波数判定部62の周波数判定信号OUT2の時間変化の例を示している。
図4の4段目の図は、振幅判定部65の振幅判定信号OUT5の時間変化の例を示している。
図4の5段目の図は、リプル幅判定部64のリプル幅判定信号OUT4の時間変化の例を示している。
図4の6段目の図は、論理演算回路66の判定出力OUTの時間変化の例を示している。
図4の最下段の図は、オンディレイ回路67の出力GB requestの時間変化の例を示している。
【0054】
電流指令値Irefのデータは、時系列データとして上位制御システムから順次送信されてくる。これをタイミングチャートで表すと、
図4の最上段の図のように、ステップ状の信号として表現することができる。
この具体例では、電流指令値Irefの電流値の極小値を検出して、周波数を計算するものとする。
この具体例では、検出信号OUT1、周波数判定信号OUT2、リプル幅判定信号OUT4、振幅判定信号OUT5および判定出力OUTは、2値の論理値をとる信号であり、正論理にしたがうものとして説明する。
【0055】
図4に示すように、時刻t0で、電流指令値Irefのデータの受信が開始される。時刻t0以降、時刻t12まで、電流指令値Irefの電流値は、時間とともに大きくなる。電流指令値Irefの電流値の極性は、正であり、したがって、時刻t0から時刻t12までの期間では、電流指令値Irefは、A領域での動作に用いられている。
【0056】
時刻t11において、電流指令値Irefの電流値が、振幅判定部65のしきい値Iath以上となる。振幅判定部65は、振幅判定信号OUT5を論理値“1”に反転させて出力する。時刻t11以降では、この例の場合には、電流指令値Irefの電流値は、しきい値Iathを超えているので、振幅判定部65の振幅判定信号OUT5は、論理値“1”の出力を維持する。
【0057】
時刻t12以降、領域切替検出部61は、電流指令値Irefの電流値が、小さくなることを検出する。つまり、時刻t12において、電力変換回路の動作は、A領域からB領域に遷移される。この例では、領域切替検出部61は、電流値の極小値を検出するため、A領域からB領域への遷移が生じた場合には、電流値の極大値を検出したとしても、論理値“0”の出力が維持される。
【0058】
時刻t12において、電流指令値Irefの電流値は、極大値となるので、リプル幅検出部63は、その値として電流値Irpを記憶する。
【0059】
時刻t13以降、領域切替検出部61は、電流指令値Irefの電流値が時間とともに大きくなることを検出する。つまり、時刻t13において、領域切替検出部61は、電力変換回路の動作が、B領域からA領域に遷移され、電流指令値Irefの電流値が減少する期間から電流が増加に転ずることを検出する。領域切替検出部61は、電流値の極小値を検出したものとして、時刻t13において、検出信号OUT1を論理値“1”に反転させる。論理値“1”とされた検出信号OUT1は、周波数判定部62に入力される。
【0060】
周波数判定部62は、論理値“1”が入力された時刻t13を記憶する。
【0061】
時刻t13では、電流指令値Irefの電流値は、極小値となるので、リプル幅検出部63は、その値として電流値Irvを記憶する。リプル幅検出部63は、時刻t12における電流値の極大値と時刻t13における電流値の極小値との差(Irp-Irv)を計算し、計算した結果をリプル幅判定部64に出力する(OUT3、
図4には図示せず)。この例では、リプル幅判定部64は、計算されたリプル幅が設定されたしきい値Irth以上であると判定し、時刻t14において、論理値“1”を出力する。この例の場合では、時刻t13以降では、リプル幅がしきい値Irthを下回ることがないので、論理値“1”が維持される。
【0062】
時刻t15において、領域切替検出部61は、再度、電力変換回路の動作が領域Bから領域Aへの遷移し、電流指令値Irefの電流値が減少する期間から電流値が増加に転ずる極小値を検出し、論理値“1”を周波数判定部62に出力する。
【0063】
周波数判定部62は、論理値“1”が入力された時刻t15を記憶する。周波数判定部62は、前回入力され、記憶された論理値“1”が入力された時刻t13および今回入力され、記憶された論理値“1”が入力された時刻t15にもとづいて、電流指令値Irefの周波数を計算する。周波数判定部62は、計算された周波数が、設定されたしきい値範囲Δfth内であるか否かを判定する。この例では、周波数判定部62は、計算された周波数がしきい値範囲Δfth以内であるとして、時刻t15において、周波数判定信号OUT2の出力を反転させて論理値“1”を出力する。
【0064】
時刻t15において、論理演算回路66には、すべて論理値“1”が入力される。そのため、AND回路である論理演算回路66は、時刻t15で判定出力OUTを反転させ、論理値“1”にして出力する。
【0065】
オンディレイ回路67は、入力された論理値“1”が設定されたオンディレイ時間Td継続したことによって、時刻t16においてGB要求を出力する。GB要求を受信した制御装置50は、GB指令を生成して、電力変換部20に供給する。
【0066】
このようにして、実施形態の電源装置10では、出力電流iOUTの周波数が、チョッパユニット30,40の配線等の寄生インダクタンスにもとづく共振周波数に近づくことによって生じる不具合を回避することができる。
【0067】
上述の具体例では、電流指令値Irefの周波数が共振周波数に関するしきい値範囲Δfth以内であるか否かのほかに、電流指令値Irefのリプル幅や振幅をGB要求の生成条件とした。これらの付随的な条件は、上述に限らず、任意に適切なものを設定することができる。たとえば、電流指令値Irefのリプル幅の超過判定と振幅の超過判定との論理和をとった後に、共振周波数に関するしきい値範囲Δfthの判定との論理積をとるようにしてもよい。あるいは、別のパラメータを条件に追加するようにしてもよい。別のパラメータとしては、たとえば、チョッパユニット内の温度等とすることができる。
【0068】
上述の具体例において、保護判定部60の構成は、一例であり、他の構成としてもよい。たとえば、電流値の極大値または極小値を検出するたびにアクティブな信号を出力する代わりに電流値の極大値または極小値を検出するたびに論理値を変更する信号を生成し、論理値の変更により極大値間または極小値間の期間を計算する等してもよい。
【0069】
保護判定部60は、ハードウェアによる論理回路により構成するほか、ソフトウェアあるいはハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで実現してもよい。保護判定部60の一部または全部は、たとえば記憶装置に格納されたプログラムを逐次実行する演算装置として実現してもよい。その場合には、保護判定部60の各構成要素の機能の一部または全部は、プログラムの1つ以上のステップにより実現され得る。
【0070】
実施形態の電源装置10の効果について説明する。
実施形態の電源装置10では、保護判定部60を含む制御装置50を備えている。保護判定部60は、出力電流iOUTの周波数を、出力電流iOUTの極大値または極小値を検出し、2つの極大値間の期間または2つの極小値間の期間を計算することにより、周波数を計算することができる。保護判定部60には、故障となり得る周波数のしきい値範囲Δfthがあらかじめ設定されているので、計算された周波数が、しきい値範囲Δfth内となった場合に、電力変換部20に保護動作をさせる条件とすることができる。
【0071】
しきい値範囲Δfthを適切に設定することによって、より安全に電力変換部20の不具合を回避することが可能になる。
【0072】
電源装置10の設置環境や運転条件等によっては、チョッパユニット30,40内の配線等で決定され得る共振周波数にもとづく動作では、スイッチング素子の故障等の不具合に至らない場合も多い。出力電流iOUTのリプル幅や、絶対的大きさ等の要素を含めた保護システムを導入することによって、電源装置10を運転可能にする条件や範囲をより広くすることができ、より適切な保護を行うことができる。
【0073】
実施形態の電源装置10では、出力電流iOUTの検出に代えて、電流指令値Irefのデータによる周波数の計算を行うこととしたので、保護判定部60のための電流検出手段を別途設けることなく、出力電流iOUTの状態を推定することができる。
【0074】
電源装置10の出力電流制御のための電流検出器の出力信号を利用可能な場合であっても、出力電流iOUTの周波数が共振周波数に近い場合に、出力電流iOUTが振動的になり、極大値や極小値の検出を適切に行えない場合がある。また、電流検出信号に重畳されるノイズを除去するために、時定数の大きなフィルタ等を用いる場合には、不具合検出時に応答遅れ等を生じ得る。実施形態の電源装置10では、電流指令値Irefにより周波数の推定等を行うので、電流の検出にともなう誤差や問題を生じにくくすることが可能になる。
【0075】
このようにして、出力電流の周波数が、コンデンサの静電容量と寄生インダクタンスによる共振周波数に近い場合に安全に保護できる電源装置が実現される。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 電源、2 負荷、10 電源装置、20 電力変換部、30,40 チョッパユニット、50 制御装置、60 保護判定部、61 領域切替検出部、62 周波数判定部、63 リプル幅検出部、64 リプル幅判定部、65 振幅判定部、66 AND回路、67 オンディレイ回路